説明

乾き度測定装置及び乾き度測定方法

【課題】
乾き度を迅速に測定可能な乾き度測定装置を提供する。
【解決手段】湿り蒸気に光を照射する発光体11と、湿り蒸気を透過した光を受光する受光素子12と、湿り蒸気の温度又は圧力を測定する環境センサ13と、湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力毎に保存する関係記憶部401と、受光素子12による光の強度の測定値と、環境センサ13による温度又は圧力の測定値と、関係と、に基づき、湿り蒸気の乾き度の値を特定する乾き度特定部301と、を備える乾き度測定装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は測定技術に係り、乾き度測定装置及び乾き度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水は沸点に達した後、水蒸気ガス(気相部分)と、水滴(液相部分)と、が混合した湿り蒸気となる。ここで、湿り蒸気に対する水蒸気ガスの重量比を、「乾き度」という。例えば、水蒸気ガスと、水滴と、が半分ずつ存在すれば、乾き度は0.5となる。また、水滴が存在せず、水蒸気ガスのみが存在する場合は、乾き度は1.0となる。熱交換器等において、湿り蒸気が保有する顕熱と、潜熱と、を有効に利用することや、水蒸気タービンにおいて、タービン翼の腐食を防止すること、等の観点から、湿り蒸気の乾き度を1.0に近い状態にすることが望まれている。そのため、乾き度を測定する様々な方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、配管に設けられた圧力調節弁の前後で全エンタルピに変化がないことを利用して、圧力調節弁の前後の湿り蒸気流量及び圧力に基づき、飽和蒸気表を用いて飽和水エンタルピと、飽和蒸気エンタルピと、を求めて、乾き度を算出する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−312908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された技術は、測定対象の湿り蒸気を二相状態から気相状態に状態変化させ、さらに測定対象を気相状態で安定化させる必要があるため、乾き度の測定に時間がかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、乾き度を高速に測定可能な乾き度測定装置及び乾き度測定方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、(a)湿り蒸気に光を照射する発光体と、(b)湿り蒸気を透過した光を受光する受光素子と、(c)湿り蒸気の温度又は圧力を測定する環境センサと、(d)湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力毎に保存する関係記憶部と、(e)受光素子による光の強度の測定値と、環境センサによる温度又は圧力の測定値と、関係と、に基づき、湿り蒸気の乾き度の値を特定する乾き度特定部と、を備える乾き度測定装置であることを要旨とする。
【0008】
本発明の他の態様は、(a)湿り蒸気に光を照射することと、(b)湿り蒸気を透過した光を受光することと、(c)湿り蒸気の温度又は圧力を測定することと、(d)湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の温度又は圧力毎における関係を用意することと、(e)湿り蒸気を透過した光の強度の測定値と、温度又は圧力の測定値と、関係と、に基づき、湿り蒸気の乾き度の値を特定することと、を含む乾き度測定方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、乾き度を高速に測定可能な乾き度測定装置及び乾き度測定方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る乾き度測定装置の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る標準大気圧における水の状態変化を示すグラフである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る水分子のクラスタの模式図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る乾き度に依存する水分子の状態を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る水分子のクラスタが有する平均水素結合数と、温度と、の関係の例を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る水分子の吸収スペクトルの例を示すグラフである。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る単独で存在する水分子の模式図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る一つの水素結合で結合している二つの水分子の模式図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る二つの水素結合で結合している三つの水分子の模式図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る湿り蒸気への加熱量と、湿り蒸気を透過した光の強度と、の関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る湿り蒸気への加熱量と、吸光度の比と、の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る乾き度測定装置は、図1に示すように、測定対象の湿り蒸気に光を照射する発光体11と、測定対象の湿り蒸気を透過した光を受光する受光素子12と、測定対象の湿り蒸気の温度又は圧力を測定する環境センサ13と、を備える。さらに、乾き度測定装置は、予め取得された、湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力毎に保存する関係記憶部401と、受光素子12による光の強度の測定値と、環境センサ13による温度又は圧力の測定値と、関係記憶部401に保存されている関係と、に基づき、測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を特定する乾き度特定部301と、を備える。ここで、光の強度とは、受光素子12による光の受光強度であっても、湿り蒸気による光の吸光度であってもよい。
【0013】
図2に示すように、標準大気圧下においては、水は沸点(100℃)に達した後、液滴としての水と、蒸気と、が混合し、共存態にある湿り蒸気となる。ここで、湿り蒸気全量に対する、蒸気の重量比を、「乾き度」という。したがって、飽和蒸気の乾き度は1となり、飽和液の乾き度は0となる。あるいは、乾き度は、潜熱の比エンタルピに対する、湿り蒸気の比エンタルピと飽和液の比エンタルピとの差の比、としても定義される。
【0014】
水は、水分子どうしが形成する水素結合の数の違いにより、相が変化する。湿り蒸気においては、水分子どうしは、水素結合を介して結合し、図3に示すように、クラスタを形成しうる。図4及び図5に示すように、乾き度が0の湿り蒸気におけるクラスタが有する平均水素結合数は、大気圧下で、例えば2.13である。クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が1に近づくにつれて減少し、単独で存在する水分子が増加する傾向にある。
【0015】
図6は、水分子が示す吸収スペクトルの一例である。図7に示すように単独で存在する水分子は、1840又は1880nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。図8に示すように一つの水素結合で結合している二分子の水分子は、1910nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。図9に示すように二つの水素結合で結合している三分子の水分子は、1950nmにピークを有する吸収スペクトルを与える。水分子が形成するクラスタに含まれる水素結合数が増えるほど、吸収スペクトルのピークの波長は長くなる傾向にある。
【0016】
図1に示す乾き度測定装置は、湿り蒸気となった冷媒等が通過するパイプ21に接続される。発光体11は、単一の波長を有する光を発する。例えば、発光体11が発する光の波長は、クラスタにおける水分子どうしが形成した水素結合の数と相関するよう、設定される。例えば、発光体11が発する光の波長は、水素結合数が0の場合の水分子の吸光ピークが表れる1880nmであってもよく、水素結合数が1の場合の水分子の吸光ピークが表れる1910nmであってもよい。ただし、発光体11が発する光の波長は、水に吸収される波長帯域内であれば、水分子の吸光ピーク波長と異なっていてもよい。例えば、発光体11が発する光の波長は、1880乃至1910nmの間であってもよい。発光体11には、発光ダイオード、スーパールミネッセントダイオード、半導体レーザ、レーザ発振器、蛍光放電管、低圧水銀灯、キセノンランプ、及び電球等が使用可能である。
【0017】
発光体11には、光導波路31が接続されている。光導波路31は、発光体11が発した光を、パイプ21の内部に伝搬する。例えば、光導波路31は、パイプ21の側壁を貫通している。あるいは、パイプ21の側壁に光透過性の窓を設け、窓に光導波路31を接続してもよい。光導波路31で伝搬された光は、光導波路31の端部からパイプ21の内部に進入する。光導波路31には、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA:Poly(methyl methacrylate))からなるプラスチック光ファイバ、及び石英ガラスからなるガラス光ファイバ等が使用可能であるが、発光体11が発した光を伝搬可能であれば、これらに限定されない。
【0018】
発光体11が、例えば、波長が1880nmの光を発した場合、パイプ21の内部において、波長が1880nmの光は、湿り蒸気に含まれる、単独で存在する水分子によって吸収される。上述したように、水分子クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が0から1に近づくにつれて減少する。したがって、パイプ21内部の湿り蒸気の乾き度が0から1に近づくにつれて、波長が1880nmの光はより多く吸収される傾向にある。
【0019】
あるいは、発光体11が、例えば、波長が1910nmの光を発した場合、パイプ21の内部において、波長が1910nmの光は、湿り蒸気に含まれる、一つの水素結合で結合している二分子の水分子によって吸収される。波長が1910nmの光は、パイプ21内部の湿り蒸気の乾き度が0から1に近づくにつれて、より少なく吸収される傾向にある。
【0020】
パイプ21には、パイプ21の内部を通過した光が進入する光導波路32が接続されている。光導波路32は、パイプ21の内部の湿り蒸気を透過した光を、受光素子12に導く。光導波路32の端部は、光導波路31の端部と対向している。また、例えば、光導波路32は、パイプ21の側壁を貫通している。あるいは、パイプ21の側壁に光透過性の窓を設け、窓に光導波路32を接続してもよい。
【0021】
なお、発光体11をパイプ21の側壁に配置し、光導波路31を省略してもよい。また、受光素子12をパイプ21の側壁に配置し、光導波路32を省略してもよい。また、図1では、発光体11と、受光素子12と、が対向しているが、発光体と、受光素子と、の両方が一体化した発光受光素子を用いてもよい。この場合、発光受光素子と対向するパイプの側壁に、反射板が配置される。発光受光素子から発せられた光は、パイプ内部を進行し、反射板で反射され、発光受光素子に受光される。受光素子12には、フォトダイオード等の光強度検出素子が使用可能である。
【0022】
図10は、発光体11から波長1904nmの光を発し、所定の温度又は圧力条件下の湿り蒸気を加熱した場合に、受光素子12で受光された光の強度の変化の実測例を示すグラフである。波長が1904nmの光は、湿り蒸気に含まれる、一つの水素結合で結合している二分子の水分子によって吸収されるため、湿り蒸気が加熱され、乾き度が0から1に近づくにつれて、湿り蒸気による吸収が低下し、受光素子12による受光強度が上昇する。したがって、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、受光素子12による受光強度と、は、相関する。換言すれば、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気による光の吸光度と、は、相関する。
【0023】
ここで、図2に示したように、水の沸点は、標準大気圧下では100℃であるが、圧力に応じて変動する。したがって、上述したように、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光の強度と、は、相関するが、相関の態様は、パイプ21の内部の湿り蒸気の温度又は圧力によって変化する。
【0024】
図1に示す環境センサ13には、任意の温度センサ又は圧力センサが使用可能である。 受光素子12及び環境センサ13には、中央演算処理装置(CPU)300が接続されている。乾き度特定部301は、CPU300に含まれている。CPU300には、関係記憶部401を含むデータ記憶装置400が接続されている。関係記憶部401は、例えば、予め取得された、受光素子12による受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力条件毎に保存する。受光強度と、乾き度と、の関係は、式として保存されてもよいし、表として保存されてもよい。
【0025】
受光素子12による受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係は、例えば、ボイラ等で湿り蒸気を加熱しながら、従来の乾き度計で湿り蒸気の乾き度を測定し、あわせて湿り蒸気を透過した光の強度を測定することによって、予め取得することが可能である。従来、種々の乾き度計があるが、関係を取得する際には、それらのいずれかを単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。
【0026】
乾き度特定部301は、例えば、受光素子12から、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の受光強度の測定値を受信する。また、乾き度特定部301は、環境センサ13から、パイプ21内部の湿り蒸気の温度又は圧力の測定値を受信する。さらに乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値に対応する温度又は圧力条件下の、受光素子12による受光強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を読み出す。
【0027】
ここで、乾き度特定部301は、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係が関係記憶部401に保存されている場合は、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係を関係記憶部401から読み出す。また、乾き度特定部301は、例えば、温度又は圧力の測定値に一致する温度又は圧力条件下の関係が関係記憶部401に保存されていない場合は、温度又は圧力の測定値に最も近似する温度又は圧力条件下の関係を関係記憶部401から読み出す。
【0028】
乾き度特定部301は、読み出した関係と、受光強度の測定値と、に基づいて、湿り蒸気の乾き度の値を特定する。例えば、関係が、受光強度を独立変数とし、乾き度を従属変数とする式で表現されている場合、乾き度特定部301は、式の受光強度の独立変数に、受光強度の測定値を代入して、パイプ21内部の測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を算出する。
【0029】
CPU300には、さらに入力装置321、出力装置322、プログラム記憶装置323、及び一時記憶装置324が接続される。入力装置321としては、スイッチ及びキーボード等が使用可能である。関係記憶部401に保存される温度又は圧力条件毎の受光強度と、乾き度と、の関係は、例えば、入力装置321を用いて入力される。出力装置322としては、光インジケータ、デジタルインジケータ、及び液晶表示装置等が使用可能である。出力装置322は、例えば、乾き度特定部301が特定したパイプ21内部の湿り蒸気の乾き度の値を表示する。プログラム記憶装置323は、CPU300に接続された装置間のデータ送受信等をCPU300に実行させるためのプログラムを保存している。一時記憶装置324は、CPU300の演算過程でのデータを一時的に保存する。
【0030】
以上説明した第1の実施の形態に係る乾き度測定装置、及び乾き度測定装置を用いる乾き度測定方法によれば、光学的手法により、湿り蒸気の相状態を変化させることなく、高い精度で高速に湿り蒸気の乾き度を測定することが可能となる。また、第1の実施の形態に係る乾き度測定装置は、配管に絞り弁や分流配管を設ける必要がない。そのため、第1の実施の形態に係る乾き度測定装置は、低いコストで設置することが可能である。
【0031】
また、従来、超音波を用いた乾き度計があるが、超音波は、湿り蒸気の気相部分と、液相部分と、の境界面における音響インピーダンスの差が大きいため、境界面においてほとんど反射する。そのため、超音波を用いた乾き度計は、乾き度を実用的に測定できる水準に至っていない。これに対し、光は、気相部分と、液相部分と、の境界面を透過可能である。そのため、第1の実施の形態に係る光学式の乾き度測定装置は、乾き度を正確に測定することが可能である。
【0032】
なお、関係記憶部401は、湿り蒸気による吸光度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を保存していてもよい。この場合、乾き度特定部301は、発光体11の発光強度と、受光素子12による受光強度と、から、測定対象の湿り蒸気による吸光度の測定値を算出し、吸光度と乾き度の関係と、吸光度の測定値と、に基づいて、測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を特定すればよい。
【0033】
また、パイプ21の内部の湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光強度と、の相関の態様は、湿り蒸気内の光透過体積によっても変化し得る。例えば、光透過体積の変化の要因としては、パイプ径や発光体の面積並びに受光素子の面積などが挙げられる。したがって、関係記憶部401は、湿り蒸気の光透過体積毎に、湿り蒸気の乾き度と、湿り蒸気を透過した光強度と、の相関を保存してもよい。この場合、乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値、並びに測定対象の湿り蒸気の光透過体積の値に対応する、受光強度と、乾き度と、の関係を読み出せばよい。
【0034】
(第2の実施の形態)
第1の実施の形態においては、図1に示す発光体11が、単一の波長を有する光を発する例を示した。これに対し、第2の実施の形態においては、発光体11は、少なくとも二つの異なる波長の光を発する。例えば、少なくとも二つの異なる波長の一つは、水素結合数が0の場合の水分子の吸光ピークが表れる1880nmであり、他の波長は、水素結合数が1の場合の水分子の吸光ピークが表れる1910nmである。このように、第2の実施の形態においては、発光体11が発する光は、複数の波長のそれぞれにおける吸光度が、クラスタにおける水分子どうしが形成した水素結合の数と相関するよう、設定される。
【0035】
発光体11は、それぞれ異なる波長の光を発する複数の発光素子を備えていてもよい。あるいは、発光体11は、広波長帯域の光を発してもよい。発光体11が広波長帯域の光を発する場合は、少なくとも二つの異なる波長のみを透過させるフィルタを受光素子12の前に配置してもよい。例えば受光素子12は、少なくとも、水素結合数が0の場合の水分子が最も吸光する1880nmの波長の光と、水素結合数が1の場合の水分子が最も吸光する1910nmの波長の光と、を受光する。
【0036】
図11は、所定の温度又は圧力条件の下、波長が1880nmの光の吸光度をI1、波長が1910nmの光の吸光度をI2、とし、下記式(1)で与えられる比Rの実測例を、湿り蒸気への加熱量に対してプロットしたグラフである。
R = I1 / I2 ・・・(1)
【0037】
吸光度の比Rは、一つの水素結合で結合している二分子の水分子からなるクラスタに対する、水素結合を形成していない単独で存在する水分子の比、と相関する。上述したように、クラスタが有する平均水素結合数は、乾き度が0から1に近づくにつれて減少し、単独で存在する水分子が増加する傾向にある。したがって、吸光度の比Rは、湿り蒸気が加熱され、乾き度が0から1に近づくにつれて大きくなる傾向にある。
【0038】
なお、波長が1760nmの光の吸光度をI0とし、下記式(2)で与えられる比Rを、湿り蒸気への加熱量に対してプロットしても、同様の結果が得られる。
R = (I1 - I0) / (I2 - I0) ・・・(2)
ここで、波長が1760nmの光の吸光度をI0は、水の分子吸光と無関係な部分であるが、捉えようとしている吸光スペクトルの増減に影響を及ぼす。したがって、式(2)において、I1とI0との差、並びにI2とI0との差、をとることにより、分光スペクトルのベースラインを一定にすることが可能となる。
【0039】
第2の実施の形態において、関係記憶部401は、例えば、上記式(1)又は式(2)で表される吸光度の比Rと、乾き度と、の予め取得された関係を、温度又は圧力条件毎に保存する。吸光度の比Rと、乾き度と、の関係は、式として保存されてもよいし、表として保存されてもよい。
【0040】
第2の実施の形態において、乾き度特定部301は、複数の波長のそれぞれにおける湿り蒸気を透過した光の強度の複数の測定値の大小関係に基づいて、湿り蒸気の乾き度を算出する。例えば、乾き度特定部301は、受光素子12から、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の強度スペクトルを受信する。さらに、乾き度特定部301は、パイプ21内部の湿り蒸気を透過する前の光の強度スペクトルと、パイプ21内部の湿り蒸気を透過した光の強度スペクトルと、に基づき、湿り蒸気による光の吸収スペクトルを算出する。またさらに、乾き度特定部301は、吸収スペクトルに基づいて、上記式(1)又は式(2)で表される吸光度の比Rの値を算出する。
【0041】
さらに、乾き度特定部301は、関係記憶部401から、湿り蒸気の温度又は圧力の測定値に対応する温度又は圧力条件下の、吸光度の比Rと、乾き度と、の関係を読み出す。乾き度特定部301は、算出された吸光度の比Rの値、並びに吸光度の比Rと、乾き度と、の関係に基づき、パイプ21内部の湿り蒸気の値を算出する。
【0042】
第2の実施の形態に係る乾き度測定装置のその他の構成要件は、第1の実施の形態と同様である。第2の実施の形態に係る乾き度測定装置によれば、複数の波長の光を用いることにより、発光体11の出力のばらつきや、ノイズの影響を抑制することが可能となる。そのため、より高い精度で測定対象の湿り蒸気の乾き度の値を特定することが可能となる。
【0043】
(その他の実施の形態)
上記のように本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、第2の実施の形態では、波長1880nmにおける吸光度と、波長1910nmにおける吸光度と、を比較する例を示した。ここで、上記式(1)及び式(2)のそれぞれの右辺の分母と分子とを置き換えてもよい。また、水素結合数0に相関する波長の吸光度と、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。あるいは水素結合数0に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。さらには、水素結合数1に相関する波長の吸光度と、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、を比較してもよいし、水素結合数1に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよいし、水素結合数2に相関する波長の吸光度と、水素結合数3に相関する波長の吸光度と、を比較してもよい。この様に、異なる水素結合数に相関する任意の複数の波長の吸光度の比に基づき、乾き度を算出してもよい。あるいは、異なる水素結合数に相関する任意の複数の波長の吸光度の差と、乾き度と、の相関を予め取得し、複数の波長の吸光度の差の測定値から乾き度の値を求めてもよい。本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の実施の形態に係る乾き度測定装置は、減圧弁による潜熱増加効果の可視化、最適ボイラ効率を得るための乾き度計測、水蒸気タービンの湿り損失計測、熱効果器の最適乾き度制御、製麺蒸し工程等の食品製造工程の制御、及び化学工程の制御等に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
11 発光体
12 受光素子
13 環境センサ
21 パイプ
31、32 光導波路
301 乾き度特定部
321 入力装置
322 出力装置
323 プログラム記憶装置
324 一時記憶装置
400 データ記憶装置
401 関係記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿り蒸気に光を照射する発光体と、
前記湿り蒸気を透過した前記光を受光する受光素子と、
前記湿り蒸気の温度又は圧力を測定する環境センサと、
湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の関係を、温度又は圧力毎に保存する関係記憶部と、
前記受光素子による前記光の強度の測定値と、前記環境センサによる前記温度又は圧力の測定値と、前記関係と、に基づき、前記湿り蒸気の乾き度の値を特定する乾き度特定部と、
を備える乾き度測定装置。
【請求項2】
前記湿り蒸気における前記光の吸光度が、クラスタにおいて水分子どうしが形成した水素結合の数と相関する、請求項1に記載の乾き度測定装置。
【請求項3】
前記関係記憶部が、前記光の強度と、前記乾き度と、の関係を、前記温度又は圧力毎、並びに前記湿り蒸気の光透過体積毎に保存する、請求項1又は2に記載の乾き度測定装置。
【請求項4】
前記乾き度特定部が、前記光の強度の測定値と、前記温度又は圧力の測定値と、前記湿り蒸気の光透過体積の値と、前記関係と、に基づき、前記湿り蒸気の乾き度の値を特定する、請求項3に記載の乾き度測定装置。
【請求項5】
前記光の強度が、前記湿り蒸気による前記光の吸光度である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の乾き度測定装置。
【請求項6】
前記湿り蒸気が冷媒である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の乾き度測定装置。
【請求項7】
前記光が単一の波長を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乾き度測定装置。
【請求項8】
前記光が複数の波長を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の乾き度測定装置。
【請求項9】
前記乾き度特定部が、前記複数の波長のそれぞれにおける前記光の強度の複数の測定値の大小関係に基づいて、前記乾き度の値を特定する、請求項8に記載の乾き度測定装置。
【請求項10】
前記乾き度特定部が、2つの波長における前記光の強度の比に基づいて、前記乾き度の値を特定する、請求項8又は9に記載の乾き度測定装置。
【請求項11】
湿り蒸気に光を照射することと、
前記湿り蒸気を透過した前記光を受光することと、
前記湿り蒸気の温度又は圧力を測定することと、
湿り蒸気を透過した光の強度と、湿り蒸気の乾き度と、の温度又は圧力毎における関係を用意することと、
前記湿り蒸気を透過した前記光の強度の測定値と、前記温度又は圧力の測定値と、前記関係と、に基づき、前記湿り蒸気の乾き度の値を特定することと、
を含む乾き度測定方法。
【請求項12】
前記湿り蒸気における前記光の吸光度が、クラスタにおいて水分子どうしが形成した水素結合の数と相関する、請求項11に記載の乾き度測定方法。
【請求項13】
前記受光強度と、前記乾き度と、の関係を、前記温度又は圧力毎、並びに前記湿り蒸気の光透過体積毎に用意する、請求項11又は12に記載の乾き度測定方法。
【請求項14】
前記光の強度の測定値と、前記温度又は圧力の測定値と、前記湿り蒸気の光透過体積の値と、前記関係と、に基づき、前記湿り蒸気の乾き度の値を特定する、請求項13に記載の乾き度測定方法。
【請求項15】
前記光の強度が、前記湿り蒸気による前記光の吸光度である、請求項11乃至14のいずれか1項に記載の乾き度測定方法。
【請求項16】
前記湿り蒸気が冷媒である、請求項11乃至15のいずれか1項に記載の乾き度測定方法。
【請求項17】
前記光が単一の波長を有する、請求項11乃至16のいずれか1項に記載の乾き度測定方法。
【請求項18】
前記光が複数の波長を有する、請求項11乃至16のいずれか1項に記載の乾き度測定方法。
【請求項19】
前記複数の波長のそれぞれにおける前記光の強度の複数の測定値の大小関係に基づいて、前記乾き度の値を特定する、請求項18に記載の乾き度測定方法。
【請求項20】
2つの波長における前記光の強度の測定値の比に基づいて、前記乾き度の値を特定する、請求項18又は19に記載の乾き度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−92457(P2013−92457A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235049(P2011−235049)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】