説明

乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および監視装置

【課題】ピストンの傾斜のみならず偏心も監視することにある。
【解決手段】内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具える乾式ガスホルダーの、前記ピストンの監視方法において、前記ピストンの中心から等距離なそのピストン上の少なくとも3箇所の位置にそれぞれピストンの上面から所定高さ突出した所定の大きさの偏心量測定テーブルを設け、前記ホルダー本体の上端部に、前記偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離を非接触で計測する距離計を設け、前記距離計で計測した当該距離計から前記少なくとも3箇所の偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式ガスホルダーに関し、特に、乾式ガスホルダー内に昇降可能に設置されたピストンを水平に維持すべく、ピストンの偏心および傾斜を監視するための方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等において高炉やコークス炉および製鋼等で発生した可燃性ガスは、加熱炉等で燃料として利用されるが、その可燃性ガスの発生量には変動がある。そこで、余った可燃性ガスの貯蔵および供給等のために、貯蔵量可変のガスホルダーが用いられている。
【0003】
ガスホルダーには通常、湿式と乾式とがあり、湿式ガスホルダーの場合は、上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置されてホルダー本体内の水等のシール液に縦長の側壁部を浸漬された伏せたカップ状のピストンとを具え、そのピストン内に貯蔵したガスの圧力によりホルダー本体内でピストンが昇降することで貯蔵量を増減させ、ピストンの縦長の側壁部がシール液に浸漬された状態で昇降することで貯蔵するガスの漏れ出しを防止している。このため、ピストンはその縦長の側壁部をホルダー本体で支持されるので構造的に傾斜しにくい。
【0004】
一方、乾式ガスホルダーの場合は、内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具え、ホルダー本体内に貯蔵したガスの圧力によりホルダー本体内でピストンが昇降することで貯蔵量を増減させ、ピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間をシール機構で気密にシールすることで貯蔵するガスの漏れ出しを防止している。
【0005】
かかる乾式ガスホルダーのピストンのシール機構にも湿式と乾式とがあり、湿式シール機構では、ピストンの周縁部に設けられてホルダー本体の内周面との間にシール液を溜めるシール液漕と、そのシール液漕の底部に液密に移動可能に配置され、ホルダー本体の内周面に押し付けられて摺接する滑り板あるいはシールゴムとを有し、ホルダー本体の上端部付近からその内周面に沿って流下されるシール液がシール液漕内に溜まり、ピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間を気密にシールしつつ、ホルダー本体の内周面と滑り板あるいはシールゴムとの僅かな隙間からホルダー本体の内周面に沿って流れ落ちて回収され、再びホルダー本体内に供給される。なお、シール液の代わりにグリスを用いるものもある。
【0006】
一方、乾式シール機構では、ピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間に周方向へ延在するゴム等の弾性体製の幕が、上下方向に十分な長さを余らせて断面U字状に張り渡されており、ピストンの昇降に伴ってその幕のU字の折り返し部が移動することで、その幕がピストンの周縁部と本体の内周面との間を気密にシールしている。
【0007】
しかしながら乾式ガスホルダーにおいては、何れのシール機構もピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間にある程度の隙間を必要とし、しかもピストンが縦長の側壁部を持たないため、ピストンの周縁部の周方向に異なる位置間でのホルダー本体の内周面との間の摩擦力の相違等に起因してピストンが傾斜する場合があり、ピストンが傾斜すると、上がった部分および下がった部分でピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間が大きくなるとともに、湿式シール機構では、周縁部の上がった部分から下がった部分へシール液が移動して上がった部分でシール液が不足し、ガス漏れが生ずる可能性があり、またシール液の代わりにグリスを用いるものでも、その隙間の大きい部分でグリスが不足してガス漏れが生ずる可能性があり、一方、乾式シール機構では、弾性体製の幕が無理な変形を強いられて部分的に損傷し、その損傷部分からガス漏れが生ずる可能性がある。そして何れのシール機構でも、周縁部の下がった部分がホルダー本体の内周面を部分的に強く押圧するため、ホルダー本体の内周面が部分的に損傷し、その損傷部分からガス漏れが生ずる可能性がある。
【0008】
そこで従来から、乾式ガスホルダーのピストンの傾斜の監視装置が種々提案されており、例えば特許文献1では、ホルダー本体の頂部に設けた3台以上のレーザー式距離計でピストンの周縁部の周方向に異なる個所までの距離を計測し、それらの計測結果からピストンの傾斜を監視して表示装置で表示している。また、例えば特許文献2では、ピストンの周縁部の周方向に異なる3個所以上でのシール液漕内のシール液の液面の高さを計測し、それらの計測結果からピストンの傾斜を監視して表示装置で表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−058205号公報
【特許文献2】特開2006−275262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら前述したような従来の装置は何れも、ピストンに傾斜が生じた際にその傾斜を表示するものであるため、場合によってはピストンの傾斜が大きくなりすぎて、その傾斜を発見してからピストンを平坦な状態に戻すまでに時間がかかり過ぎて不具合を招いてしまう可能性がある。
【0011】
それゆえ本発明は、ピストンの傾斜のみならず偏心も監視することで前記従来技術の課題を有利に解決したピストンの監視方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成する本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法は、
内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具える乾式ガスホルダーの、前記ピストンの監視方法において、
前記ピストンにその中心から等距離の少なくとも3箇所にそれぞれ位置する所定の高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルを設け、
前記ホルダー本体の上端部に、前記偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離を非接触で計測する距離計を設け、
前記距離計で計測した当該距離計から前記少なくとも3箇所の偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断することを特徴とするものである。
【0013】
また、前記目的を達成する本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置は、
内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具える乾式ガスホルダーの、前記ピストンの監視装置において、
前記ピストンにその中心から等距離の少なくとも3箇所にそれぞれ位置するように設けられた所定の高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルと、
前記ホルダー本体の上端部に設けられて前記偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離を非接触で計測する距離計と、
前記距離計で計測した当該距離計から前記少なくとも3箇所の偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断して、その判断結果を出力するピストン偏心傾斜判断手段と、
を具えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置によれば、ホルダー本体の上端部に設けられた距離計で計測した、当該距離計から、ピストンの中心から等距離の少なくとも3箇所の位置でピストンにそれぞれ設けられた所定高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断するので、ピストンの傾斜のみならず、ピストンの傾斜の原因となる可能性があるピストンの偏心の発生も監視し得て、ピストンの傾斜の発生を未然に防止することができ、また例えピストンの傾斜が発生しても不具合を招く前に速やかに対応することができる。
【0015】
なお、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置においては、前記偏心量測定テーブルはドーナツ状をなすものを含むものであると好ましい。このようにすれば、中央穴内とその穴の周囲との偏心量測定テーブルの表面の段差の存在により、距離計が中央穴内の偏心量測定テーブル表面を計測している間の穏やかな距離変化はピストンの傾斜と考えられ、距離計が中央穴内の偏心量測定テーブル表面の計測から穴の周囲の偏心量測定テーブル表面の計測に移った時の急激な距離変化はピストンの偏心と考えられるので、ピストンの傾斜と偏心とを容易かつ確実に判別することができる。ここで、距離計は、偏心量測定テーブルの中央穴内に露出するピストン表面を計測しても良い。
【0016】
また、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置においては、前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する接線方向であって互いに直角な方向へ延在する2つのものを含むものであると好ましい。このようにすれば、それら接線方向の2つのテーブルの何れで急激な距離変化があったかを識別することにより、ピストンの偏心方向を計測することができる。
【0017】
また、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置においては、前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する半径方向へ延在する1つのものを含むものであると好ましい。このようにすれば、その半径方向のテーブルで急激な距離変化があったかを識別することにより、ピストンの回転を計測することができる。
【0018】
さらに、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置においては、前記偏心量測定テーブルは、表面が階段状または斜面状をなすものを含むものであると好ましい。このようにすれば、その階段状または斜面状の表面でピストンの偏心量を段階的または連続的に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法の一実施形態の実施に用いる、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置の一実施形態を透視状態の乾式ガスホルダーとともに示す略線図である。
【図2】(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視装置に用い得る偏心量測定テーブルの一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【図3】(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視装置に用い得る偏心量測定テーブルの他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【図4】(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視装置に用い得る偏心量測定テーブルのさらに他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法の一実施形態の実施に用いる、本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置の一実施形態を透視状態の乾式ガスホルダーとともに示す略線図、また図2(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視装置に用い得る偏心量測定テーブルの一実施形態を示す斜視図および断面図であり、図中符号1は乾式ガスホルダーを示す。
【0021】
ここにおける乾式ガスホルダー1は、内部にガスGを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体2と、そのホルダー本体2内に昇降可能に配置された落し蓋状をなす円盤状のピストン3と、そのピストン3の周縁部とホルダー本体2の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構4とを具え、ホルダー本体2内に貯蔵したガスGの圧力によりホルダー本体2内でピストン3が昇降することで貯蔵量を増減させ、ピストン3の周縁部とホルダー本体2の内周面との間をシール機構4で気密にシールすることで貯蔵するガスGの漏れ出しを防止している。ここで、シール機構4は、前述した乾式シール機構および湿式シール機構の何れであってもよい。
【0022】
この乾式ガスホルダー1において、本実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置では、図1に示すように、ピストン3の中心から等距離のそのピストン3の少なくとも3箇所の位置、例えば図示例ではピストン3の周縁部に設けたシール機構4上の、周方向に互いに等間隔な3箇所の位置にそれぞれ所定高さで所定の大きさの偏心量測定テーブル5を設置する。
【0023】
また本実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置では、例えばホルダー本体2の上端に位置する天井2aの下面に、ピストン3の周縁部の互いに周方向に離間した少なくとも3点を通る基準平面が水平になりかつ、ピストン3の周縁部がホルダー本体2の内周面から水平な各方向に等距離離間し、ピストン3の垂直中心軸線周りの回転方向の向きが所定の向きとなった初期位置にピストン3がある状態で、ピストン3上の3つの偏心量測定テーブル5の真上にそれぞれ位置させて、偏心量測定テーブル5までの高さ方向距離を非接触で計測する例えばレーザー式の3台の距離計6を下向きに設置する。
【0024】
さらに本実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置では、それら3台の距離計6の出力信号を、ピストン偏心傾斜判断手段としての、例えば通常のコンピュータを有する判定装置7に入力し、その判定装置7の出力信号を、例えば通常のディスプレイパネルを持つ表示装置8に入力して、その表示装置8のディスプレイパネルに判定装置7の出力信号に基づく情報を表示させる。
【0025】
ここで、3つの偏心量測定テーブル5は例えば何れも、図2に示すように、ドーナツ状の上面5aと、その上面を上端部で支持する略円筒状の側壁部5bと、その側壁部の下端部を支持する円板状の支持板5cとを有する構成のものとすることができ、この偏心量測定テーブル5の上面5aは例えば、ピストン3の上記基準平面に平行に、かつその基準平面から300〜600mmの高さに突出して位置し、外径が400〜800mmあり、内径50〜200mmの中央穴を持っている。また支持板5cは例えば、厚さ10mmで外径が800mmとされている(乾式シール機構(ゴム等の弾性体製の膜)の場合は、偏心量許容値が比較的大きくなるため、内径が大きくなる)。
【0026】
各距離計6は、真下へ向けてレーザー光を発光し、そのレーザー光はピストン3が上記初期位置にある状態では、真下の偏心量測定テーブル5の上面5aの中央穴の中心を通り、その下の支持板5cの表面で反射されて距離計6によって受光され、各距離計6はその受光したレーザー光と距離計内部の参照光との位相差あるいは発光時と受光時との時間差等に基づき、距離計6から支持板5cまでの高さ方向距離を計測して、その距離を示す信号を判定装置7に入力する。
【0027】
しかして、ピストン3が上記初期位置から水平なまま偏心または垂直軸線周りに回転した場合には、その偏心または回転量が50mmを超えると、3つのうちの何れかの偏心量測定テーブル5で距離計6からのレーザー光が真下の偏心量測定テーブル5の上面5aで反射されて距離計6によって受光され、その距離計6が出力する高さ方向距離は距離計6から上面5aまでのものとなるため急激に変化する。
【0028】
また、ピストン3が上記初期位置から少しずつ傾斜していった場合には、3つのうちの何れかの偏心量測定テーブル5で、距離計6からのレーザー光が真下の偏心量測定テーブル5の支持板5cの表面で反射されて距離計6によって受光され、距離計6から支持板5cまでの高さ方向距離が計測された状態のまま、その高さ方向距離が穏やかに変化する。
【0029】
そこで、この実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置では、判定装置7は、この実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法に従い、上記のような3台の距離計6からの信号を入力してそれらの信号の変化状態を所定間隔、例えば10分間隔で調べ、3台の距離計6の何れかで計測した当該距離計6からその真下の偏心量測定テーブル5までの高さ方向距離に前回の測定結果から変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は上記のように計測位置が支持板5cの表面から上面5aに移ったと考えられるのでピストン3に偏心または回転が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は上記のように計測位置が支持板5cの表面に維持されていると考えられるのでピストン3に傾斜が生じたと判断する。
【0030】
そして判定装置7は、上記の判断結果および各距離計6の計測した高さ方向距離を示す信号を表示装置8に出力し、表示装置8は、その判定装置7の出力信号に基づく、ピストン3の変位が偏心または回転か傾斜かを示す判断結果と、各距離計6の計測した高さ方向距離との情報をディスプレイパネルに表示する。
【0031】
従って、この実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置によれば、ホルダー本体2の上端部に設けられた距離計6で計測した、当該距離計6から、ピストン3の中心から等距離の少なくとも3箇所の位置でピストン3にそれぞれ設けられた所定高さで所定の大きさの偏心量測定テーブル5までの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合はピストン3に偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合はピストン3に傾斜が生じたと判断するので、ピストン3の傾斜のみならず、ピストン3の傾斜の原因となる可能性があるピストン3の偏心の発生も監視し得て、シール機構4の滑り板やシールゴムをホルダー本体2の内周面に押し付ける図示しないシリンダ等の既知の手段を用いてそのピストン3の偏心をなくすことで、ピストン3の傾斜の発生を未然に防止することができ、また例えピストン3の傾斜が発生しても不具合を招く前に速やかに対応することができる。
【0032】
しかもこの実施形態の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置によれば、偏心量測定テーブル5はドーナツ状をなすものであることから、中央穴内とその穴の周囲との偏心量測定テーブルの表面5c,5aの段差の存在により、距離計6が中央穴内の偏心量測定テーブルの表面5cを計測している間の穏やかな距離変化はピストン3の傾斜と考えられ、距離計6が中央穴内の偏心量測定テーブルの表面5cの計測から穴の周囲の偏心量測定テーブル表面5aの計測に移った時の急激な距離変化はピストン3の偏心または回転と考えられるので、ピストン3の傾斜と偏心または回転とを容易かつ確実に判別することができ、ピストン3の昇降を案内する案内構造がピストン3の回転を規制している場合には、ピストン3の回転は生じないので、ピストン3の傾斜と偏心とを容易かつ確実に判別することができる。
【0033】
図3(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視方法および装置に用い得る偏心量測定テーブルの他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。ここにおける偏心量測定テーブル5は、同心円の円形階段状の上面5aと、その上面を持つ略円筒状の側壁部5bと、その側壁部の下端部を支持する円板状の支持板5cとを有する構成のものとされている。先の実施形態の偏心量測定テーブル5に代えてまたは加えて、この実施形態の偏心量測定テーブル5を用いれば、その階段状の上面5aでピストン3の偏心量を段階的に計測することができるので、ピストン3の状態をより詳細に知ることができる。なお、この偏心量測定テーブル5の上面5aは、円形階段状でなく傾斜面を持つ倒立裁頭円錐状であっても良く、この場合にはピストン3の偏心量を連続的に計測することができるので、ピストン3の状態をより詳細に知ることができる。
【0034】
図4(a)および(b)は、上記実施形態のホルダーのピストンの監視方法および装置に用い得る偏心量測定テーブルのさらに他の一実施形態を示す斜視図および断面図である。ここにおける偏心量測定テーブル5は、直線的な階段状の上面5aと、その上面を持つ略直方体状の側壁部5bと、その側壁部の下端部を支持する矩形状の支持板5cとを有する構成のものとされている。先の何れかの実施形態の偏心量測定テーブル5に代えてまたは加えて、この実施形態の偏心量測定テーブル5を用いれば、その階段状の上面5aでピストン3の偏心量を段階的に計測することができるので、ピストン3の状態をより詳細に知ることができる。なお、この偏心量測定テーブル5の上面5aは、階段状でなく傾斜面状であっても良く、この場合にはピストン3の偏心量を連続的に計測することができるので、ピストン3の状態をより詳細に知ることができる。
【0035】
そして、この偏心量測定テーブル5を2つ、上記基準位置にあるピストン3上で支持板5cがそのピストン3の周縁部の接線方向へ延在し、かつ互いに直角な水平方向へ延在するように配置すれば、ピストン3が何れかの偏心量測定テーブル5の幅方向に偏心するとその偏心量測定テーブル5の上面5aからレーザー光が外れて急激な距離変化が生ずるので、それら接線方向の2つの偏心量測定テーブル5の何れで急激な距離変化があったか、あるいは両方で急激な距離変化があったかを識別することにより、ピストン3の偏心方向を計測することができるとともに、急激な距離変化がなかった方の偏心量測定テーブル5での距離変化により、ピストン3の偏心量を計測することができる。
【0036】
また、この偏心量測定テーブル5を1つ、上記基準位置にあるピストン3上で支持板5cがそのピストン3の中心に対する半径方向へ延在し、かつ水平方向へ延在するように配置すれば、ピストン3が回転するとその半径方向の偏心量測定テーブル5の上面5aからレーザー光が外れて急激な距離変化が生ずるので、その急激な距離変化があったことを識別することにより、ピストン3の回転を計測することができる。
【0037】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限られるものでなく、所要に応じて特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであり、例えば、偏心量測定テーブル5はピストン3上に設置しても良く、その場合には支持板5cを省略してピストン3の表面に対する距離を計測するようにしても良い。また、距離計6はレーザー光の反射を用いるものでなく、超音波やマイクロ波等を偏心量測定テーブルに向けて放射し、それが反射して戻る時間を計測するものでも良い。そして、偏心量測定テーブル5の高さや大きさや配置数や配置位置等は、乾式ガスホルダー1の大きさや計測精度等に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
かくして本発明の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法および装置によれば、ホルダー本体の上端部に設けられた距離計で計測した、当該距離計から、ピストンの中心から等距離の少なくとも3箇所の位置でピストンにそれぞれ設けられた所定高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断するので、ピストンの傾斜のみならず、ピストンの傾斜の原因となる可能性があるピストンの偏心の発生も監視し得て、ピストンの傾斜の発生を未然に防止することができ、また例えピストンの傾斜が発生しても不具合を招く前に速やかに対応することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 乾式ガスホルダー
2 ホルダー本体
2a 天井
3 ピストン
4 シール機構
5 偏心量測定テーブル
5a 上面
5b 側壁部
5c 支持板
6 距離計
7 判定装置
8 表示装置
G ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具える乾式ガスホルダーの、前記ピストンの監視方法において、
前記ピストンにその中心から等距離の少なくとも3箇所にそれぞれ位置する所定の高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルを設け、
前記ホルダー本体の上端部に、前記偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離を非接触で計測する距離計を設け、
前記距離計で計測した当該距離計から前記少なくとも3箇所の偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断することを特徴とする、乾式ガスホルダーのピストンの監視方法。
【請求項2】
前記偏心量測定テーブルはドーナツ状をなすものを含むことを特徴とする、請求項1記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法。
【請求項3】
前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する接線方向であって互いに直角な方向へ延在する2つのものを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法。
【請求項4】
前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する半径方向へ延在する1つのものを含むことを特徴とする、請求項1から3までの何れか1項記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法。
【請求項5】
前記偏心量測定テーブルは、表面が階段状または斜面状をなすものを含むことを特徴とする、請求項1から4までの何れか1項記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視方法。
【請求項6】
内部にガスを収容するために上下方向へ延在する筒状のホルダー本体と、そのホルダー本体内に昇降可能に配置された落し蓋状のピストンと、そのピストンの周縁部とホルダー本体の内周面との間の隙間を気密にシールするシール機構とを具える乾式ガスホルダーの、前記ピストンの監視装置において、
前記ピストンにその中心から等距離の少なくとも3箇所にそれぞれ位置するように設けられた所定の高さで所定の大きさの偏心量測定テーブルと、
前記ホルダー本体の上端部に設けられて前記偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離を非接触で計測する距離計と、
前記距離計で計測した当該距離計から前記少なくとも3箇所の偏心量測定テーブルまでの高さ方向距離に変化が生じた場合に、その変化が急激な場合は前記ピストンに偏心が生じたと判断し、その変化が穏やかな場合は前記ピストンに傾斜が生じたと判断して、その判断結果を出力するピストン偏心傾斜判断手段と、
を具えることを特徴とする、乾式ガスホルダーのピストンの監視装置。
【請求項7】
前記偏心量測定テーブルはドーナツ状をなすものを含むことを特徴とする、請求項6記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置。
【請求項8】
前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する接線方向であって互いに直角な方向へ延在する2つのものを含むことを特徴とする、請求項6または7記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置。
【請求項9】
前記偏心量測定テーブルは、前記ピストンの中心に対する半径方向へ延在する1つのものを含むことを特徴とする、請求項6から8までの何れか1項記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置。
【請求項10】
前記偏心量測定テーブルは、表面が階段状または斜面状をなすものを含むことを特徴とする、請求項6から9までの何れか1項記載の乾式ガスホルダーのピストンの監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87928(P2013−87928A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231859(P2011−231859)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】