説明

乾式分析素子

【課題】乾式分析素子における拡散反射光の反射分布をより等方的にする。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリスチレン等の有機ポリマーシート等のプラスチックシートからなる光透過性の支持層1c上に、反応層1bを塗布または接着等により積層し、さらにこの上に展開層1aをラミネート法等により積層した乾式分析素子1において、反応層1bに散乱物質1dを含ませ、反応層1bを測定光を散乱させるための散乱層としても機能させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学検査等に用いられる乾式分析素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、測定光を測定対象物に照射し、測定対象物により散乱された拡散反射光を検出することにより、種々の検査が行われており、一例として、検体の小滴を乾式分析素子に点着供給して検体中に含まれている特定の化学成分または有形成分を定量分析する比色測定法が行われている。
【0003】
特許文献1に示すように、この比色測定法は、検体を乾式分析素子に点着した後、これをインキュベータ内で所定時間恒温保持して呈色反応(色素生成反応)させ、次いで検体中の所定の生化学物質と乾式分析素子に含まれる試薬との組み合わせにより予め選定された波長を含む測定光をこの乾式分析素子に照射し、乾式分析素子において散乱・反射した光(以下、単に拡散反射光と記載)の光学濃度を測定し、この光学濃度から、予め求めておいた光学濃度と所定の生化学物質の物質濃度との対応を表す検量線を用いて該生化学物質の濃度を求めるものである。
【0004】
このような比色測定法を行う装置では、液状の検体は検体容器(採血管等)に収容して装置にセットされるとともに、その測定に必要な乾式分析素子が装置にセットされ、乾式分析素子を搭載位置から点着部およびインキュベータへ搬送する一方、点着機構の点着ノズルによって検体を搭載位置から点着部へ供給して乾式分析素子へ点着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−019784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような装置では、拡散反射光の光学濃度測定時に、測定光がノイズ成分として混ざることにより、拡散反射光のみを精度よく検出することができないという問題があった。
【0007】
ここで、このような現象について詳細に説明する。図5は、乾式分析素子(図中の中心位置)に対して図中180°方向から測定光を照射した場合の拡散反射光の検出状態を示す図である。なお、図中の点線は呈色反応前の拡散反射光の検出状態、実線は呈色反応後の拡散反射光の検出状態を示している。図5に示すように、180°方向では拡散反射光の検出強度が高くなっているが、これは拡散反射光に加えて測定光の正反射成分まで一緒に検出されるためである。従って、測定光の影響を受けないように、通常は測定光の照射位置とは異なる位置(例えば135°や225°の位置)に検出器を配置して拡散反射光の検出を行っている。
【0008】
この場合、乾式分析素子における拡散反射光の反射分布に歪(例えば図7中の195°、165°方向等)が生じると、検出器への検出光量が減少してS/Nが低下するおそれがあり、また、角度による光量変化が大きくなると、乾式分析素子の設置誤差(乾式分析素子の位置ずれ、角度ずれ)に対して検出光量が大きく変化するので、測定精度が悪化するおそれがある。
【0009】
このような反射分布の歪は、乾式分析素子の展開層に使われている織布、多孔質膜の反射分布が等方的でないことによって生じる。具体的には、織布であれば、交互に編んだ構造によって、縦糸、横糸の市松模様のパターンにより散乱・反射強度に角度依存が生じることによる。多孔質膜であれば、多孔質の細孔の大きさ、間隔、細孔の形状(球状、楕円球状)によって、散乱・反射強度に角度依存が生じることによる。これらの反射分布の異方性は、測定光の光源としてコヒーレンシーの高いレーザー等を用いた場合、スペックルノイズや干渉パターンの形成によりさらに強調されてしまう。
【0010】
本発明はかかる点に鑑み、拡散反射光の反射分布をより等方的した乾式分析素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の乾式分析素子は、生化学検査等に用いられる乾式分析素子であって、供給された試料液を周囲に展開させるための展開層と、展開層の下方に積層され、試料液と反応して色素を生成する試薬を含む反応層と、展開層の下方に積層され、反応層の下面側から照射された測定光を散乱させる散乱物質を含む散乱層とを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、「散乱層」は、独立した層であってもよいし、反応層に散乱物質を含有させて反応層と散乱層とを一体的に形成してもよい。
【0013】
本発明の乾式分析素子において、散乱層は、反応層の上方に積層することが好ましい。
【0014】
また、散乱物質は、球状微粒子としてもよい。
【0015】
また、散乱物質は、金属ナノ粒子としてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明による乾式分析素子によれば、生化学検査等に用いられる乾式分析素子において、供給された試料液を周囲に展開させるための展開層と、展開層の下方に積層され、試料液と反応して色素を生成する試薬を含む反応層と、展開層の下方に積層され、反応層の下面側から照射された測定光を散乱させる散乱物質を含む散乱層とを備えたものとすることにより、散乱層を設けない態様と比較して反射分布を等方的にすることができるため、反射分布の歪を低減させることができる。従って、本発明の乾式分析素子を用いて測定を行うことにより、測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態における乾式分析素子を用いた生化学分析装置の概略構成図
【図2】上記乾式分析素子の概略構成図
【図3】上記乾式分析素子に対して測定光を照射した場合の拡散反射光の検出状態を示す図
【図4】その他の態様の乾式分析素子の概略構成図
【図5】従来の乾式分析素子に対して測定光を照射した場合の拡散反射光の検出状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態における乾式分析素子を用いた生化学分析装置について図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態における乾式分析素子を用いた生化学分析装置の概略構成図、図2は上記乾式分析素子の概略構成図、図3は上記乾式分析素子に対して測定光を照射した場合の拡散反射光の検出状態を示す図である。
【0019】
生化学分析装置10は、未使用の略正方形状または矩形状の乾式分析素子1を積層収容したカートリッジ20を複数個貯蔵している乾式分析素子供給装置11(サプライヤ)と、上記乾式分析素子供給装置11の側方に配設され試料液が点着された乾式分析素子1を所定時間恒温保持するインキュベータ12と、乾式分析素子供給装置11からインキュベータ12に乾式分析素子1を吸盤70により吸着しつつ搬送するフイルム搬送手段13と、例えば血清,尿等の複数の試料液を収容する試料液収容手段14(サンプラ)と、フイルム搬送手段13によってインキュベータ12に搬送するまでの間に試料液収容手段14の試料液を取り出し、ついで試料液を乾式分析素子1に点着する点着手段15と、インキュベータ12の下方に配設された測定手段16(光学的測定手段)とを備えている。
【0020】
なお、この生化学分析装置10の詳細は、本願出願人が既に開示している特開平7−35746号(EP 0 634 657A)公報等に記載されている。
【0021】
上記乾式分析素子1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリスチレン等の有機ポリマーシート等のプラスチックシートからなる光透過性の支持層1c上に、反応層1bを塗布または接着等により積層し、さらにこの上に展開層1aをラミネート法等により積層した乾式分析素子(チップ)である。
【0022】
反応層1bは、ゼラチン等の親水性ポリマバインダまたは濾紙、布、微多孔性ポリマーシートなどの多孔性層の中にアナライトに選択的に反応する検出試薬および発色反応に必要な試薬(化学分析試薬または免疫分析試薬)成分が含まれる少なくとも1つの層で構成されている。
【0023】
また、この反応層1b中には、測定光を散乱させるための散乱物質1dが含まれる。この散乱物質1dについては、等方的散乱を起こす物であれば特に制限はなく、例えば、SiOや樹脂(ポリスチレン)製の球状粒子を用いることができる。粒径についても特に制限はないが、反応層1bが数〜数十μmの厚さなので、粒径10nm〜1000nmの粒子が特に好ましい。
【0024】
また、金属ナノ粒子を用いた場合には、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用して測定光の散乱強度を増強させることができるため、生化学分析装置10におけるS/Nを向上させることができる。
【0025】
上述の通り、反応層1bには散乱物質1dが含まれるため、反応層1bは測定光を散乱させるための散乱層としても機能する。
【0026】
展開層1aは、外部との間でコスレに強い材料例えばポリエステル等の合成繊維からなる織物布地や編み物布地、天然繊維と合成繊維との混紡による織物布地、編み物布地、不織布等もしくは紙から構成されて保護層として機能するとともに、この展開層1a上に点着された試料液を反応層1b上に一様に供給し得るように展延する。
【0027】
上述の通り、点着された乾式分析素子1は、インキュベータ12によりインキュベーションが行なわれ、このインキュベータ12の下方に配設された測定手段16により測定される。この測定手段16は、乾式分析素子1と試料液との呈色反応による光学濃度を測定するための測光ヘッドを有する。この測光ヘッドは所定波長の光を含む測定光Lを光透過性の支持層を透過し反応層1bに照射して、乾式分析素子1において散乱・反射した光(以下、単に拡散反射光と記載)L´を光検出素子で検出するものであり、測光ヘッドには光源からの光が入射され、測光ヘッド内で該光が反応層1bに照射される。
【0028】
上記の拡散反射光は、反応層1b中で生成された色素量に応じた光情報(具体的には光量)を担持しており、この光情報を担持した拡散反射光L´が測光ヘッドの光検出素子に入射して光電変換され、アンプを介して不図示の物質濃度決定部に送出される。なお、光検出素子は、測定光Lの影響を受けないように、測定光Lの照射位置(図3中の180°の位置)とは異なる位置(例えば135°や225°の位置)に配置されている。
【0029】
物質濃度決定部では、入力された電気信号のレベルに基づき反応層1b中で生成された色素の光学濃度を判定し、次に、光学濃度−物質濃度(または活性)の変換関数である検量線を用い、試料液中の所定の生化学物質の物質濃度を特定するための演算処理を実施する。
【0030】
図3に示す通り、本実施の形態の乾式分析素子1は、測定光を散乱させるための散乱層として機能する層を備えているため、図5に示す従来の乾式分析素子を用いた測定と比較して、乾式分析素子における拡散反射光L´の反射分布がより等方的に改善されていることが分かる。
【0031】
従って、上記乾式分析素子1を用いて測定を行うことにより、測定精度を向上させることができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0033】
例えば、乾式分析素子1の散乱層は、上記のように反応層1bと一体的に形成されているものに限らず、図4に示すように、反応層1bとは独立した層(散乱層1e)として形成してもよい。なお、散乱層1eは、反応層1bの上方または下方のいずれ側に配置してもよいが、図4に示すように、反応層1bの上方に配置することにより、下方から入射した測定光がまず反応層1bで生成された色素によって吸収されるため、呈色反応による光学濃度の変化を強くすることができ、これにより検出感度を向上させることができる。
【0034】
また、上記以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
1,1´ 乾式分析素子
1a 展開層
1b 反応層
1c 支持層
1d 散乱物質
1e 散乱層
10 生化学分析装置
11 乾式分析素子供給装置
12 インキュベータ
13 乾式分析素子搬送手段
14 試料液収容手段
15 点着手段
16 測定手段
20 乾式分析素子を積層収容したカートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生化学検査等に用いられる乾式分析素子であって、
供給された試料液を周囲に展開させるための展開層と、
該展開層の下方に積層され、前記試料液と反応して色素を生成する試薬を含む反応層と、
前記展開層の下方に積層され、前記反応層の下面側から照射された測定光を散乱させる散乱物質を含む散乱層とを備えたことを特徴とする乾式分析素子。
【請求項2】
前記散乱層が、前記反応層の上方に積層されていることを特徴とする請求項1記載の乾式分析素子。
【請求項3】
前記散乱物質が、球状微粒子であることを特徴とする請求項1または2記載の乾式分析素子。
【請求項4】
前記散乱物質が、金属ナノ粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の乾式分析素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76614(P2013−76614A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216062(P2011−216062)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】