説明

乾式摩擦材

【課題】乾式摩擦材において、摩擦面に、成形時にガラス繊維の露出率を大きくすることなく、外周及び内周には達しない凹部を設けることによって、表面研摩によるガラス繊維の露出率を低減させて、金属製の摩擦相手材との間の錆付きを確実に防止できること。
【解決手段】複数の凹部2,2A,2Bは表面研摩されておらず、ガラス繊維の露出率が極めて小さいのに対して、それ以外の乾式摩擦材1の表面は表面研摩されているため、ガラス繊維の露出率が大きい。乾式摩擦材1においては、凹部2,2A,2Bの占める面積の合計が、摩擦面1aの総面積の40%となるようにしているため、ガラス繊維の露出率は14%となり、凹部2,2A,2Bを設けない従来の乾式摩擦材(ガラス繊維の露出率:35%)と比較して、ガラス繊維の露出率が約60%低減されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式の摩擦材、例えば、自動車等に用いられるトルクリミッター等を構成する乾式摩擦材に関し、特に、金属製の摩擦相手材との間に錆付きを発生させることがない乾式摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッチフェーシング、ダンパー、トルクリミッター等を始めとする乾式摩擦材を含むシステムにおいて、乾式摩擦材の製造方法としては、特許文献1に示されるように、基材となるガラス長繊維を束ねた繊維束(ガラスロービング)に熱硬化性樹脂を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐を形成する樹脂含浸工程と、樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させるゴム付着工程とを有し、前記含浸液の媒体は水であり、熱硬化性樹脂はメラミン配合率が30%以上80%以下の水性メラミン変性フェノール樹脂であることを特徴とする方法が知られている。この特許文献1の技術によれば、樹脂含浸工程でもゴム付着工程でも有機溶媒を使用することなしに、最終製品の乾式摩擦材(クラッチフェーシング等)の性能が低下しない摩擦材用素材を製造することができる。
【0003】
しかし、上記特許文献1に記載の技術においては、乾式摩擦材であることから、ケーシングが湿式摩擦材の場合のようには密閉されていないために、隙間から外部の泥水・雨水等が浸入して、表面研摩によって摩擦面に露出したガラス繊維に吸収され、摩擦相手材としての鋼板との間に錆付きが生じてしまうという問題点があった。そこで、対策として、乾式摩擦材の成形時に、予め摩擦面に外周及び内周には達しない凹部を設けておくことによって、かかる凹部は表面研摩時に研摩されないため、これによってガラス繊維の露出率を減少させるという手段が考えられる。
【0004】
このように摩擦材の摩擦面に外周及び内周には達しない凹部を設ける技術としては、平板状の乾式摩擦材ではないが、特許文献2及び特許文献3に記載の技術がある。特許文献2においては、電磁クラッチ・電磁ブレーキの摩擦面に磁気を遮断するための長孔形状の凹部が複数個円周方向に配列されている。特許文献3においては、バンドブレーキのフェーシング材のドラム接触面に、長孔形状に凹んだ油溜め部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−037797号公報
【特許文献2】特開昭61−175630号公報
【特許文献3】特開平03−078142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術においても特許文献3に記載の技術においても、長孔形状の凹部が円周方向を長手方向として設けられており、同様に乾式摩擦材において凹部を円周方向に沿って設けると、ガラスロービングが円周方向に沿って巻かれていることから、ガラス繊維の露出率が大きくなって、外部から浸入した泥水等の水分がガラス繊維に吸収され易くなり、摩擦相手材としての鋼板との間に錆付きが生じ易くなるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、乾式摩擦材の摩擦面に、成形時にガラス繊維の露出率を大きくすることなく、複数の凹部を設けることによって、表面研摩によるガラス繊維の露出率を低減させて、金属製の摩擦相手材との間の錆付きを確実に防止することができる乾式摩擦材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る乾式摩擦材は、円周方向に沿って巻かれたガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、摩擦相手材が金属製である平板リング形状の乾式摩擦材であって、成形時にプレス加工によって前記巻かれたガラス繊維が摩擦相手材との摩擦面とは反対方向に押し下げられ、前記摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたものである。
【0009】
ここで、「ガラス繊維含浸用合成樹脂」としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を始めとする熱硬化性樹脂等を用いることができ、特に、メラミン変性フェノール樹脂を始めとする変性フェノール樹脂を用いることができる。また、「配合ゴム」とは、乾式摩擦材を構成する材料であって、合成ゴム・天然ゴム等のゴム、カーボンブラック等の顔料、硫黄、加硫促進剤、レジンダスト・炭酸カルシウム等の充填材を含有する、ゴムを主体とする混合物である。また、「合成ゴム」としては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR,二トリルゴムとも言う)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を単独で、または混合して用いることができる。
【0010】
請求項2の発明に係る乾式摩擦材は、円周方向に沿って巻かれたガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、摩擦相手材が金属製である平板リング形状の乾式摩擦材であって、成形時にプレス加工によって前記平板リング形状の半径方向に伸び、前記摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたものである。
【0011】
請求項3の発明に係る乾式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記複数の凹部の占める面積の合計は、前記摩擦面の総面積の30%〜60%の範囲内であるものである。
【0012】
請求項4の発明に係る乾式摩擦材は、請求項2または請求項3の構成において、前記複数の凹部の長手方向の両端面と前記摩擦面の外周及び内周との間隔は、それぞれ1.5mm〜3.0mmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る乾式摩擦材は、摩擦相手材との摩擦面において成形時にプレス加工によって巻かれたガラス繊維が摩擦面とは反対方向に押し下げられ、前記摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたことから、プレス成形時において円周方向に沿って複数の凹部を設けた場合においても巻かれたガラス繊維の露出率を小さくすることができるとともに、表面研摩時に複数の凹部は研摩されないことから、ガラス繊維の露出率を大幅に低減することができるため、摩擦面内に水分が浸入してもガラス繊維に吸収されるのを確実に防止することができ、摩擦面において金属製の摩擦相手材との間に錆付きが発生するのを確実に防止することができる。
【0014】
このようにして、乾式摩擦材の摩擦面に、成形時にガラス繊維の露出率を大きくすることなく、複数の凹部を設けることによって、表面研摩によるガラス繊維の露出率を低減させて、金属製の摩擦相手材との間の錆付きを確実に防止することができる乾式摩擦材となる。
【0015】
請求項2の発明に係る乾式摩擦材は、摩擦相手材との摩擦面において平板リング形状の半径方向に伸び、摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたことから、プレス成形時において円周方向に沿って巻かれたガラス繊維の露出率を小さくすることができるとともに、表面研摩時に複数の凹部は研摩されないことから、ガラス繊維の露出率を大幅に低減することができるため、摩擦面内に水分が浸入してもガラス繊維に吸収されるのを確実に防止することができ、摩擦面において金属製の摩擦相手材との間に錆付きが発生するのを確実に防止することができる。
【0016】
請求項3の発明に係る乾式摩擦材は、複数の凹部の占める面積の合計が、摩擦面の総面積の30%〜60%の範囲内であることから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、表面研摩時におけるガラス繊維の露出率をより一層小さくすることができ、摩擦面において金属製の摩擦相手材との間に錆付きが発生するのを確実に防止することができる。
【0017】
請求項4の発明に係る乾式摩擦材は、複数の凹部の長手方向の両端面と摩擦面の外周及び内周との間隔がそれぞれ1.5mm〜3.0mmの範囲内であることから、請求項2または請求項3に係る発明の効果に加えて、摩擦面の外周及び内周から凹部内に水分が浸入するのを確実に防止できるとともに、凹部の面積の合計を極力大きくすることができ、表面研摩によるガラス繊維の露出率を低減させる効果を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材を用いたトルクリミッターの概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】図3(a)は本発明の実施の形態の実施例1に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態の実施例2に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態の実施例3に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図である。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態の実施例4に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材について、図1乃至図5を参照して説明する。まず、本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材が用いられるトルクリミッターについて、図1を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材を用いたトルクリミッターの概略構成を示す断面図である。
【0020】
図1に示されるように、本実施の形態に係る乾式摩擦材1は、外径φ220mm×内径φ190mm×厚さ2.5mmのリング状の成形体で、同じ外径とやや小さい内径を有する平板リング状の芯金2の両面に貼り付けて用いられる。本実施の形態に係るトルクリミッター10は、この乾式摩擦材1を芯金3の両面に貼り付けた乾式摩擦板4と、この乾式摩擦板4が押圧される摩擦相手材としての鋼板製のフライホイール5と、乾式摩擦板4と一体に回転する回転軸6を中心にして構成されている。
【0021】
より詳しくは、図1に示されるように、カップリングケース7の中に、鋼板製のプレッシャープレート9と皿ばね8が収納されており、この皿ばね8の付勢力によって、プレッシャープレート9が乾式摩擦板4をフライホイール5に押し付けている。これによって、エンジンからの駆動力トルクがフライホイール5から乾式摩擦板4に伝達され、更に乾式摩擦板4と一体に回転する回転軸6によって、トランスミッション側に伝達される。
【0022】
ここで、図1に示されるように、カップリングケース7とフライホイール5や回転軸6との間には隙間があるため、これらの隙間から泥水や雨水等がカップリングケース7内に浸入する。これらの浸入した水分が、露出したガラス繊維に吸収されることによって、摩擦相手材としての鋼板製のフライホイール5を錆びさせることになり、錆付きの原因となる。
【0023】
次に、本実施の形態に係る乾式摩擦材1の製造方法について、図2を参照して説明する。図2は本発明の実施の形態に係る乾式摩擦材の製造工程を示すフローチャートである。まず、樹脂含浸工程において、ガラス繊維にガラス繊維含浸用合成樹脂としてのフェノール樹脂(より詳しくはメラミン変性フェノール樹脂)を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐が形成される(ステップS10)。続いて、ゴム付着工程において、この樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させ(ステップS11)、巻取り工程において、配合ゴムが付着した樹脂含浸紐が所定の大きさに巻取られる(ステップS12)。
【0024】
ここで、「配合ゴム」としては、合成ゴム、カーボンブラック等の顔料、硫黄、加硫促進剤、レジンダスト・炭酸カルシウム等の充填材を含有するゴムを主体とする混合物を用いており、合成ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を混合して用いている。
【0025】
そして、成形工程において、巻取り品が金型に押し込まれて加熱加圧成形されるが(ステップS13)、成形工程においては、面圧15MPa、温度165℃で、数回のガス抜きを行って、2分間加熱加圧成形して、摩擦面側に複数の凹部を同時に形成する。このとき、複数の凹部は半径方向に伸びて設けられるため、円周方向に沿って巻かれたガラス繊維が複数の凹部に露出することは、殆どない。この成形体を金型から取り出して、240℃で10時間熱処理を行い(ステップS14)、その後常温まで放冷してから、表裏両面を研摩して(ステップS15)、本実施の形態に係る乾式摩擦材1が完成する。
【0026】
次に、本発明の実施の形態の実施例1に係る乾式摩擦材の構造について、図3を参照して説明する。図3(a)は本発明の実施の形態の実施例1に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。図3(a)に示されるように、本実施の形態の実施例1に係る乾式摩擦材1は、摩擦面1aに複数の凹部2,2A,2Bが設けられている。また、所定の角度ごとに、乾式摩擦材1を芯金3にリベット止めするためのリベット孔11が穿設されている。
【0027】
図3(b)に示されるように、凹部2,2A,2Bは摩擦面1aの中央に位置しており、乾式摩擦材1の幅W1=14mm,凹部2,2A,2Bの幅W2=9.4mmであり、凹部2,2A,2Bの長手方向の両端面と摩擦面1aの外周及び内周との間隔は、いずれも2.3mmとなっている。このように、当該間隔を1.5mm〜3.0mmの範囲内とすることによって、摩擦面1aの外周または内周からの水分の浸入を確実に防止できるとともに、凹部2,2A,2Bの面積を極力広くすることができる。
【0028】
なお、凹部2A,2Bの特殊な形状は、凹部の面積をできるだけ大きくするとともに、リベット孔11から十分な距離を取ることによって、乾式摩擦材1の欠けを防止するためのものである。
【0029】
上述したように、これらの複数の凹部2,2A,2Bは、研摩工程(図2のステップS15)の前に設けられているため、表面研摩されておらず、したがってガラス繊維の露出率が極めて小さい。これに対して、乾式摩擦材1の表面の凹部2,2A,2Bを除く部分は、当該研摩工程で表面研摩されているため、ガラス繊維の露出率が大きい。
【0030】
本実施の形態の実施例1に係る乾式摩擦材1においては、凹部2,2A,2Bの占める面積の合計が、摩擦面1aの総面積の40%となるようにしているため、ガラス繊維の露出率は14%となり、凹部2,2A,2Bを設けない従来の乾式摩擦材(ガラス繊維の露出率:35%)と比較して、ガラス繊維の露出率が約60%低減されている。これによって、浸入した水分の吸収を抑えることができ、乾式摩擦材1の摩擦面1aと摩擦相手材であるフライホイール7との錆付きを防止することができる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態の実施例2に係る乾式摩擦材の構造について、図4を参照して説明する。図4(a)は本発明の実施の形態の実施例2に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のB−B断面図である。図4(a)に示されるように、本実施の形態の実施例2に係る乾式摩擦材1Aには、複数の凹部2が設けられるとともに、所定の角度ごとに、凹部2A,2Bと異なる形状の凹部2Cが設けられており、凹部2Cの内部に、乾式摩擦材1Aを芯金3にリベット止めするためのリベット孔11が穿設されている。
【0032】
図4(b)に示されるように、凹部2,2Cは摩擦面の中央に位置しており、乾式摩擦材1Aの幅W1=14mm,凹部2,2Cの幅W2=9.4mmであり、凹部2,2Cの長手方向の両端面と摩擦面の外周及び内周との間隔は、いずれも2.3mmとなっている。このように、当該間隔を1.5mm〜3.0mmの範囲内とすることによって、摩擦面の外周または内周からの水分の浸入を確実に防止できるとともに、凹部2,2Cの面積を極力広くすることができる。
【0033】
上述したように、これらの複数の凹部2,2Cは、研摩工程(図2のステップS15)の前に設けられているため、表面研摩されておらず、したがってガラス繊維の露出率が極めて小さい。これに対して、実施例2に係る乾式摩擦材1Aの表面の凹部2,2Cを除く部分は、当該研摩工程で表面研摩されているため、ガラス繊維の露出率が大きい。
【0034】
本実施の形態の実施例2に係る乾式摩擦材1Aにおいては、凹部2,2Cの占める面積の合計が、摩擦面の総面積の50%となるようにしているため、ガラス繊維の露出率は10%となり、凹部2,2Cを設けない従来の乾式摩擦材(ガラス繊維の露出率:35%)と比較して、ガラス繊維の露出率が約71%低減されている。これによって、浸入した水分の吸収を抑えることができ、乾式摩擦材1Aの摩擦面と摩擦相手材であるフライホイール7との錆付きを、より確実に防止することができる。
【0035】
次に、本発明の実施の形態の実施例3に係る乾式摩擦材の構造について、図5を参照して説明する。図5は本発明の実施の形態の実施例3に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図である。図5に示されるように、本実施の形態の実施例3に係る乾式摩擦材1Bには、複数の凹部2が設けられるとともに、所定の角度ごとに、乾式摩擦材1Bを芯金3にリベット止めするためのリベット孔11が穿設されている。
【0036】
そして、図5に示されるように、凹部2は摩擦面の中央に位置しており、乾式摩擦材1Bの幅W1=14mm,凹部2の幅W2=9.4mmであり、凹部2の長手方向の両端面と摩擦面の外周及び内周との間隔は、いずれも2.3mmとなっている。このように、当該間隔を1.5mm〜3.0mmの範囲内とすることによって、摩擦面の外周または内周からの水分の浸入を確実に防止できるとともに、凹部2の面積を極力広くすることができる。
【0037】
上述したように、これらの複数の凹部2は、研摩工程(図2のステップS15)の前に設けられているため、表面研摩されておらず、したがってガラス繊維の露出率が極めて小さい。これに対して、実施例3に係る乾式摩擦材1Bの表面の凹部2を除く部分は、当該研摩工程で表面研摩されているため、ガラス繊維の露出率が大きい。
【0038】
本実施の形態の実施例3に係る乾式摩擦材1Bにおいては、凹部2の占める面積の合計が、摩擦面の総面積の45%となるようにしているため、ガラス繊維の露出率は11%となり、凹部2,2Cを設けない従来の乾式摩擦材(ガラス繊維の露出率:35%)と比較して、ガラス繊維の露出率が約69%低減されている。これによって、浸入した水分の吸収を抑えることができ、乾式摩擦材1Bの摩擦面と摩擦相手材であるフライホイール7との錆付きを、より確実に防止することができる。
【0039】
このようにして、本実施の形態に係る乾式摩擦材1,1A,1Bにおいては、成形時にガラス繊維の露出率を大きくすることなく、外周及び内周には達しない凹部を設けることによって、表面研摩によるガラス繊維の露出率を低減させて、金属製の摩擦相手材であるフライホイール7との間の錆付きを確実に防止することができる。
【0040】
本実施の形態においては、ガラス繊維含浸用合成樹脂としてメラミン変性フェノール樹脂を用いた場合について説明したが、その他の変性フェノール樹脂、エポキシ樹脂を始めとするその他の熱硬化性樹脂等を用いることもできる。特に、メラミン変性フェノール樹脂は容易に入手できるとともに耐熱性に優れているため、乾式摩擦材の材料としてのガラス繊維含浸用合成樹脂として好ましい。
【0041】
また、本実施の形態においては、複数の凹部として、半径方向に沿って伸びる凹部2,2A,2B,2Cを設けた場合について説明したが、これに限られるものではなく、巻かれたガラス繊維が摩擦相手材との摩擦面とは反対方向に押し下げられたものであれば、円周方向に沿って伸びる複数の凹部を設けても良い。
【0042】
具体的に、本発明の実施の形態の実施例4に係る乾式摩擦材の構造について、図6を参照して説明する。図6(a)は本発明の実施の形態の実施例4に係る乾式摩擦材の一部を示す部分平面図、(b)は(a)のC−C断面図である。図6に示されるように、本実施の形態の実施例4に係る乾式摩擦材1Dには、円周方向に沿って複数の凹部2Dが設けられるとともに、所定の角度ごとに、乾式摩擦材1Dを芯金3にリベット止めするためのリベット孔11が穿設されている。乾式摩擦材1Dにおいては、成形時に巻かれたガラス繊維が摩擦面とは反対方向に押し下げられているため、円周方向に沿って複数の凹部2Dを設けても、ガラス繊維の露出率を小さくすることができる。
【0043】
本発明を実施するに際しては、乾式摩擦材のその他の部分の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、本実施の形態に限定されるものではない。なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0044】
1,1A,1B,1D 乾式摩擦材
2,2A,2B,2C,2D 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に沿って巻かれたガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、摩擦相手材が金属製である平板リング形状の乾式摩擦材であって、
成形時にプレス加工によって前記巻かれたガラス繊維が摩擦相手材との摩擦面とは反対方向に押し下げられ、前記摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたことを特徴とする乾式摩擦材。
【請求項2】
円周方向に沿って巻かれたガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、摩擦相手材が金属製である平板リング形状の乾式摩擦材であって、
成形時にプレス加工によって前記平板リング形状の半径方向に伸び、前記摩擦面の外周及び内周には達しない複数の凹部を設けたことを特徴とする乾式摩擦材。
【請求項3】
前記複数の凹部の占める面積の合計は、前記摩擦面の総面積の30%〜60%の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乾式摩擦材。
【請求項4】
前記複数の凹部の長手方向の両端面と前記摩擦面の外周及び内周との間隔は、それぞれ1.5mm〜3.0mmの範囲内であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の乾式摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−196731(P2010−196731A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39816(P2009−39816)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】