説明

乾式紡糸方法

【構成】 乾式紡糸方法において、紡糸ガス温度は筒頂から排気まで順次下り、かつ紡糸筒下部の紡糸ガス温度が紡糸筒最下端より3mの位置で190〜250℃、2mで170〜250℃、1mで150〜250℃、最下端で50〜250℃にすることである。
【効果】 乾式紡糸において、巻取られる糸の物性を低下させることなく800m/min以上の巻速で紡糸することが出来る。更に、上記の紡糸ガス条件で水蒸気を紡糸ガスとして用いれば、1000m/min以上の巻速でも従来どおりの糸物性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリマーと溶剤からなる紡糸原液を紡糸口金より紡糸筒中に押し出し、高温紡糸ガスにて溶剤を蒸発し、糸条を形成せしめる乾式紡糸方法に関する。更に詳しくは糸の物性を損ねる事なく800m/min以上の紡速で紡糸することを特徴とするものである。
【0002】
【従来の技術】乾式紡糸における紡糸速度は従来300〜600m/minであり、(特公昭39−16667、特公昭39−29637号公報)、円筒形の紡糸筒の上部に円周状に紡糸口金を配置し、その上部より紡糸熱風を糸条の走行方向と平行に供給し、溶剤を蒸発させ、糸条を形成する紡糸方法で紡糸ガスとしては主として空気が用いられてきた。又、ポリウレタンエラストマー繊維製造の場合では、太デニール糸の生産や多本取りにより紡糸筒内の溶剤濃度の上昇から爆発危険性を考慮して、窒素などの不活性ガスの使用も最近報じられている。さらに、特公昭44−896号公報や、特公平2−293413号公報では、過熱水蒸気を使用する方法も提案されているが、従来の乾式紡糸方法によって紡糸速度が800m/min以上の紡糸を実現しようとすると、従来どおりの糸の物性を得ることは不可能である。すなわち伸度が低く、モジュラスの高い糸ができてしまう。特にポリウレタンエラストマー繊維の場合はその影響が著しい。これは紡速の上昇に伴い表面で受ける摩擦抵抗が増加するため、かなり分子が引き延ばされた状態で熱セットされることが原因と考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は800m/min以上の紡糸速度においても伸度やモジュラス等の糸物性を落さない方法を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、紡糸口金から紡糸原液を紡糸筒中に押し出し、溶剤を蒸発させ、糸条を形成せしめる乾式紡糸方法において、紡糸ガス温度は筒頂から順次下り、かつ紡糸ガス温度が紡糸筒下端より3mの位置で190〜250℃、好ましくは200〜240℃とし、下端より2mの位置で170〜250℃、好ましくは190〜230℃とし、1mで150〜250℃、好ましくは170〜230℃最下端では50〜250℃、好ましくは150〜230℃となる様に温度コントロールすることを特徴とする。これにより800m/min以上で紡糸することが可能となった。本発明者らは乾式紡糸方法による高速化において、糸物性の発現の研究を鋭意重ねた結果、摩擦抵抗による糸張力を軽減することが極めて効果的であることの知見を得た。張力低減の手段としては、紡糸筒の長さを短くすることや、糸近傍の紡糸ガスの流速を上げて糸との相対速度を小さくし、流体抵抗を小さくする方法などが考えられるが、前者の場合は残留溶剤といった問題が、後者の場合は糸揺れが激しくなり、単糸の他エンドへの移動や、糸斑が発生するという問題が生じる。そこで本発明者らは、従来乾式紡糸法では紡糸筒下部における紡糸ガス温度は糸中の溶剤の蒸発による潜熱や、紡糸筒外への放熱などにより低温となってしまうが、これを紡糸筒に加熱(保温)ヒーターを取付けたり、筒最下部から高温ガスを投入したりして紡糸筒下部温度にすることにより、糸張力を軽減できることを見いだした。これは紡糸筒下部における紡糸ガス温度を高温にすることによって紡糸筒下部の糸温度を高くし、糸の粘度を低くすることで糸速が筒下部で大きく増えるようになる為、巻取速度は同じでも紡糸筒内の同一地点での糸速は、従来の紡糸方法よりも低くできることにより糸の紡糸ガスとの摩擦抵抗を軽減することができるためだと考えられる。
【0005】ただし、この紡糸ガス温度を達成する場合、紡糸筒の入口から排気までの紡糸ガス温度は順次低くなっていき、かつ筒壁の温度を筒内の温度と同一に保持するか、または10℃以内の低めに保持することが好ましい。又、走行中の糸の抵抗は抵抗係数とガス密度と速度差の2乗に比例する。抵抗係数は一般に(ガス粘度)/(ガス密度)のn乗(O<n<l)に比例するため、結局抵抗を小さくする為には(粘度)×(密度)の小さい水蒸気のような不活性ガスが望ましい。しかし1000m/min以上、特に1200m/min以上の紡速の場合には、紡糸ガスとして水蒸気を用いただけでは従来通りの糸物性を得ることは難しい。すなわち伸度が低く、モジュラスの高い糸となってしまう。この場合に従来並の糸物性を得る為には本発明の温度プロフィールが必要である。
【0006】
【実施例1】スパンデックス重合体のジメチルアセトンアミド溶液を用い、1個の紡糸筒から20デニールの糸条を複数本同時に1000m/minの速度で紡糸した。紡糸ガスとしてはN2 ガスを用い、3.8Nm3 /Hv/endの速度で図2に示す如くヒーター1により加熱し、整流器3で整流した後約300℃の温度になるように投入した。筒壁ヒーター7を各々適当な温度に制御し、かつ紡糸筒最下部から下部ヒーター9で加熱されたガスを投入することにより、紡糸ガス温度を紡糸筒最下端より3mで220℃、2mで210℃、1mで190℃、最下端で170℃にした。この際紡糸筒頂から排気までの紡糸ガス温度は順次低くなっていき、かつ筒壁の温度と筒内の温度は等しくした。この紡糸方法により安定な紡糸で、かつ糸物性も良好であった。
【0007】
【実施例2】実施例1と同様に20デニールの糸条を複数本同時に1200m/minの速度で紡糸した。紡糸ガスとしては図1に示す如く、水蒸気発生装置11によりつくった水蒸気をヒーター1により加熱して用い、整流器3で整流した後約300℃の温度になるように投入した。筒壁ヒーター7を各々適当な温度に制御し、かつ紡糸筒下部から下部ヒーター9で加熱された水蒸気を投入することにより、実施例1と同等の紡糸ガス温度とした。この紡糸方法は安定でかつ糸の物性も良好であった。
【0008】
【発明の効果】本発明による乾式紡糸方法を用いれば、走行糸条の摩擦抵抗を低減することができ、従って紡糸中の糸張力も軽減でき、また紡糸筒の長さを変えずにすむために溶剤も十分に蒸発させることができるため、伸度やモジュラス等の糸物性を落とさずに高速紡糸が可能となり、生産性を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例2の概略図である。
【図2】本発明の実施例1の概略図である。
【符号の説明】
1:紡糸ガスヒーター
2:給気口
3:ガス整流器
4:紡糸口金
5:紡糸筒
6:紡糸原液導管
7:紡糸筒ヒーター
8:糸条
9:下部ガスヒーター
10:コンデンサー
11:水蒸気発生装置
12:溶剤回収設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】 紡糸口金から紡糸原液を紡糸筒中に押し出し、溶剤を蒸発させ、糸条を形成せしめる乾式紡糸方法において、紡糸ガス温度は筒頂から排気まで順次下り、かつ紡糸筒下部の紡糸ガス温度が紡糸筒下端より3mの位置で190〜250℃、下端より2mの位置で170〜250℃、1mで150〜250℃、最下端では50〜250℃、となる様に温度コントロールすることにより紡糸することを特徴とした乾式紡糸方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開平5−51808
【公開日】平成5年(1993)3月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−207635
【出願日】平成3年(1991)8月20日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)