説明

乾式蒸着法によってTiO2またはZnOの透明薄膜で被覆された石骨材から製造された、太陽光による劣化に対する高い耐性を有する石板状の物品

太陽光による劣化に対して高い耐性を有する、乾式蒸着法を用いて、TiOまたはZnOの透明の薄膜にて被覆された石骨材から製造された石板状または敷石状の物品であって、これらは、低い光触媒作用を有するか、または光触媒作用を有さないTiOおよび/またはZnOの透明の薄膜で被覆された石骨材から製造された石板状または敷石状の形態であり、上記膜は乾式蒸着法、物理気相成長法(PVD)またはプラズマ化学気相成長法(PECVD)によって蒸着されている。上記の物品は、太陽光による劣化に対して高い耐性を有している。これは、得られた材料が外部環境に適していることを意味する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、物理気相成長、すなわちPVD、またはプラズマ化学気相成長、すなわちPECVDのような乾式蒸着法によって蒸着された、低い光触媒作用を有するか、または光触媒作用を有していないTiOおよび/またはZnOの透明の薄膜で被覆された石骨材から製造された石板状の物品に関する。この物品は、太陽光による劣化に対して高い耐性を有し、これによって、得られた材料を戸外環境に適合させる。
【0002】
〔背景技術〕
不飽和オルソフタル酸ポリエステル樹脂を用いた物品は、一般的に、太陽光による劣化に対して適切な耐性を有していない。これは、UV照射によって活性化された上記樹脂におけるラジカルの分解によって、日光に直接さらされた部分が黄変する結果として明らかとなる。よって、太陽放射にさらされる戸外環境においてこれらの物質を用いるためには、この性質を改良する必要がある。
【0003】
この問題に対する1つの解決方法として、本出願と同じ発明者に属する特許文献WO2006/100321 A1に記載されるように、太陽放射に対してより高い耐性を有する結合剤として、他の樹脂を用いることが考えられる。しかし、上記特許文献に記載される幾つかの実施の形態においては、他の風合いや機械的性質が犠牲になってしまう。
【0004】
上記問題に対する別の解決方法は、本発明の目的であり、UV放射を吸収する物質の表面蒸着からなる。これにより、太陽光にさらされる物質の劣化に対する耐性を向上させる。これらの物質の中で、酸化チタン(IV)(TiO)または酸化亜鉛(II)(ZnO)の薄膜はまた、可視スペクトルにおける波長において光学的な透明性を示す。これは、基材の本来の装飾的外観を維持するために欠くことができない。
【0005】
特許出願WO97/10185 A1には、二酸化チタンをベースとした、光触媒性を有する被覆物を備えた基材が記載され、当該二酸化チタンは、粒子の形態にて上記被覆物に組み込まれ、大部分が結晶性のアナターゼ型に結晶化されている。上記特許出願には、上記基材の調製方法も記載されている。
【0006】
得られた上記基材は、自浄式の曇り防止および/または汚れ防止ガラス、特に、二重窓を構成するガラス、自動車、電車もしくは飛行機のフロントガラスや窓等の乗り物用のガラス、または陳列窓、テレビの表示部もしくは水槽のガラスの製造に用いられる。
【0007】
具体的に、この基材を得る工程は、液相による熱分解または懸濁液からのゾル−ゲル法と称される技術によって被覆物を蒸着する工程からなり、当該被覆物は、少なくとも1つの有機金属化合物および二酸化チタン粒子の分散物を含有している。上記二酸化チタン粒子は、結合剤を用いて、上記被覆物に組み込まれることが望ましい。第1の実施の形態において、上記被覆物に粒子を組み込む結合剤は、無機結合剤であってもよい。この結合剤は、例えば、珪素、チタン、錫、ジルコニウムもしくは酸化アルミニウムの非晶質もしくは部分的に結晶化した酸化物(または、酸化物の混合物)の形態にて与えられ得る。
【0008】
第2の実施形態において、上記結合剤は、さらに、少なくとも一部が有機物であってもよく、特に、高分子マトリックスの形態であってもよい。この結合剤は、二酸化チタン粒子の性質を補完する性質を有し、特に、疎水性および/または親油性を有する重合体であってもよい。
【0009】
表面に被覆物が付与される基材は、あらゆる種類の建設資材(金属、コンクリート)からガラス−セラミックスベースの基材におよぶ様々な性質のものであってよい。
【0010】
特許出願WO99/44954 A1は、光触媒性の被覆物を有する基材を取得する方法を記載している。光触媒性を有する金属Aの酸化物の粒子は、無機結合剤の助けによって上記被覆物に組み込まれている。上記結合剤は、光触媒性を有する少なくとも1つの金属Bの酸化物を含有している。この結合剤は、さらに、必要に応じて、光触媒性を欠く金属Mの酸化物および/または酸化珪素SiOのようなシリコン化合物を少なくとも1つ含有していてもよい。
【0011】
金属AおよびBの酸化物は、少なくとも、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫および酸化タングステンからなる酸化物のなかの1つから選択される。好ましい実施の形態において、AおよびBの金属は、共に、酸化チタンの形態において選択される。光触媒性を欠くM型酸化物は、例えば、酸化アルミニウムまたは酸化ジルコニウムである。上記酸化チタンは、所望の光触媒性を有するようにアナターゼ型をしている。
【0012】
これらの材料の蒸着のために、「ホット」と称される第1型の技術が用いられる。すなわち、分散液と基材とが接触している間、後者は、前駆体の熱分解を可能にするために高温である(これは、液相熱分解である)。
【0013】
用いられる第2型の技術は、「コールド」と称される。そして、分散液と基材とが接触している間、後者は、前駆体の分解を引き起こすために、大気温であるか、または少なくとも非常に低温である。これらの技術は、「液浸」または薄層状の被覆物の蒸着を伴うゾル−ゲル法である。
【0014】
特許文献EP1837319 A2は、真空下でPECVD法によって蒸着された、化学組成がSi(パラメータx、z、およびwは、用いられる工程によって変更される)である、薄膜で被覆された石骨材から製造された石板またはタイルについて記載している。上記膜が蒸着される基材は、炭酸カルシウムと樹脂との凝集物であってもよいし、または、花崗岩/石英とポリエステル樹脂との凝集物であってもよい。
【0015】
この文献は、特に、石材を得る工程を記載している。この工程は、13MHzから14MHzの周波数での照射によるプラズマ相において、必要に応じて他のガスの存在下で、50Paから0.5Paの圧力、すなわち真空下で、適切なモノマー、好ましくはヘキサメチルジオキサンの、石骨材における重合を包含している。
【0016】
特許出願WO2008/045226 A1は、基材を被覆する工程または改変する工程を記載し、この工程は、(a)少なくとも1つの表面を有する基材を供給する工程と、(b)(a)の少なくとも1つの表面の近傍にガス状の混合物を供給する工程と、(c)(b)のガス状の混合物においてプラズマを発生させる工程と、(d)(c)のプラズマが、基材の少なくとも1つの表面に固体の沈着物を形成できるようにする工程とを含んでいる。上記ガス状の混合物は、少なくとも35体積パーセントの窒素ガスと、シランもしくはシロキサンのような少なくとも1つのシリコン化合物、またはZn、Sn、AlおよびTiのような金属を含有している化合物を含有し得る、少なくとも50ppmのガス状の前駆体と、必要に応じて上記ガス状の前駆体の酸化ガスとを含有している。このPECVD工程は、20℃、且つ101kPa、すなわち大気圧、且つ大気温で行うことができる。
【0017】
本技術の状況、PECVD蒸着工程に関連する上記文献、および先に述べた被覆基材に関連する上記文献において、TiO粒子は、基材に光触媒性を付与するために、その粒子の安定した分散液から上記基材に蒸着される。本出願のためには、上記TiOは、光触媒活性を有する結晶性の形態を示していなければならない。結晶性の形態の相がアナターゼである場合は、太陽光に存在するUV放射によって活性化できるのは、高い反応性を有する半導体(3.2eVのバンドギャップ)である。385nmより短い波長を有するフォトンを備えたアナターゼ相を励起した後に、TiOの表面には電子の孔が形成される。その結果、OH・ラジカルが発生し、そして、OからO2−への還元から中間種が発生する。これらのラジカルおよび中間種は、有機物と接触すると反応性が高くなる。これによって、石骨材の表面に存在している高分子におけるフリーラジカルを基にして、分解反応が起こる。これによって、高分子の黄変が加速する。
【0018】
それゆえ、戸外環境、特に、日光がよく照る地域または国において用いられる、ポリエステル樹脂で覆われた基材、具体的には、石材や大理石基材を保護する必要性はいまだに存在する。
【0019】
提示された解決方法、すなわち本発明の目的は、まず、TiOおよびZnOの両方が、UV放射吸収性を維持したまま、非常に低い光触媒活性を有しているか、または光触媒活性を有していないことを必要とする。この目的のため、これらの材料は、非晶質または低結晶性の相として蒸着されなければならない。または、これら材料は、遷移元素(Cr、V、W、Fe、Co)またはポスト遷移元素(Al、Si)の低濃度のカチオンを用いてドープされていてもよい。一方、オフホワイト色を生じ得る光散乱を防止し、これによって本願に求められる透明性を確保するとともに、最適なUV吸収性を達成するためには、得られる層の厚さおよび微細構造の制御が不可欠である。最後に、戸外空間における用途に適切な磨耗耐性を付与する、石骨材への被覆物の恒久的な付着が模索される。
【0020】
これらの材料の蒸着方法を選択するにあたって考慮されるべき最も重要な側面は、石骨材は熱に弱いという性質である。この理由のために、全ての蒸着方法は、大気温に近い温度を要する技術によって実施されなければならない。この点に対して、これらの材料の湿式蒸着法(ゾル−ゲル法)は、基材が劣化し得る300℃より高い温度における加熱工程を行わず、本願に必要な、層の付着性、圧密性および磨耗性耐を提供しない。
【0021】
〔発明の表示〕
本発明は、真空下または大気圧での乾式蒸着法(PECVD、PVD)によって、表面に低い光触媒活性を有しているかまたは光触媒活性を有していない、厚みを制御されたTiOまたはZnOの透明の薄膜を蒸着することによって、太陽放射に対する改良された耐性を有する石骨材または大理石骨材を取得することを包含している。これらの材料が有していてもよい光触媒活性を最小限にするために、これらの材料は、非晶質相または低結晶性相として蒸着される。さらに/または、これらの材料は、遷移元素(Cr、V、W、Fe、Co)またはポスト遷移元素(Al、Si)のカチオンによってドープされる。
【0022】
太陽放射に対する高い耐性に加えて、これらの化合物は、石骨材または大理石骨材に対して、戸外空間におけるいくつかの特有の用途にとって非常に興味深い、他の性質を付与する。この性質は、例えば、敷石における静電気防止性または手に届きにくい場所に設置された装飾要素における洗浄を容易にする超親水性である。
【0023】
乾式蒸着法の本質的な利点は、この方法が、これらの材料を大気温に近い温度において蒸着することを可能にすることである。これにより、非晶質相または低結晶性相を得ることができ、さらには、石骨材が有している熱劣化のリスクを排除することができる。さらに、これらの技術は、これらの材料の、上記元素のカチオンを用いて制御されたドーピングを可能にする。これらの技術は、さらに、戸外空間(建物正面(facades)、建物等)における装飾要素としてのこれら材料の用途のために、摩耗耐性を得ることを可能にするとともに、厚さが制御された非常に均質な層を得ることを可能にし、さらには、上記層の基部の凝集物に対する優れた付着性を確保することを可能にする。
【0024】
本発明の場合、上記被覆物は、従来の工程に従って製造され、そして、他の機械的な処理によって上記被覆物を損なうことを防ぐための所望の表面仕上げを有している、石骨材または大理石骨材でできた石板に施される。
【0025】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、被覆していない石英骨材および異なる厚さを有するTiOの透明の薄膜で被覆された石英骨材における450nmで計測された全反射率値の、太陽放射への露出時間による変化を示す図である。
【0026】
図2は、被覆していない石英骨材および異なる厚さを有するTiOの透明の薄膜で被覆された石英骨材の表面のパラメータb*(db*)、すなわち比色分析の、太陽放射への露出時間による変化を示す図である。
【0027】
〔実施形態の詳細な説明〕
1.プラズマによる表面の化学的活性化(任意)
蒸着される層の結果的な付着性を向上する目的のために、蒸着工程の前に、基部基材は、プラズマを用いて5分間処理される。この処理は、反応基(イオン、ラジカル、原子)の発生によって表面を化学的に活性化させ、無機分子の結果的な付着性を向上する、非常に反応性が高い親水性の表面を形成させる。
【0028】
2.TiOまたはZnOの薄膜の蒸着
本発明によると、TiO層またはZnO層が石骨材の表面に蒸着される。本発明の目的である、真空下でのTiOまたはZnOの薄膜の乾式蒸着工程は、以下を包含している:
(a)プラズマ化学気相成長(PECVD)
純粋な酸化ガスもしくは酸化ガスと不活性ガスとの混合物のプラズマと、チタンもしくは亜鉛の任意の揮発性ガスの気相とを、真空条件下もしくは大気圧で化学反応させた後に、PECVDによるTiOまたはZnOの蒸着が行われる。高周波数(マイクロ波、無線周波数またはkHz−のような、プラズマ反応装置に用いられる別の周波数帯域)を有する電磁エネルギーの供給または直流電流によって生成された、上記酸化ガスのプラズマは、前駆体を分解する作用を有する。この結果、相互に反応しあう高い反応性を有する種が得られる。この生成物は、大気温に近い温度において、TiOまたはZnOの均一な薄膜の形態で石骨材の表面に蒸着される。
【0029】
上記手法に続いて、ポスト遷移元素(Al、Si)、または遷移元素(Cr、V、W、Fe、Co)のカチオンによってドープされたTiOまたはZnOの薄膜は、チタンまたは亜鉛の揮発性の前駆体の気体と、ドープ剤の任意の揮発性の前駆体の気体とを混合することによって、石骨材に蒸着された。ドープ剤の組成は、それに対応する前駆体の流量、つまりTiまたはZnの前駆体を通過する搬送ガスの速度を変更すること、および/または、TiまたはZnの前駆体をバブリングする系の温度によって制御される。
【0030】
得られる薄膜は、用いられた実験条件によって、その厚さが0.005μmから10μmの範囲であり、好ましくは150nmから2000nmの範囲であり、骨材の全表面を均一に覆い、且つ透明である。
【0031】
(b)物理気相成長(PVD)の工程
物理気相成長(PVD)は、真空下において、物理的な方法によって薄膜を蒸着する方法である。物理気相成長では、固体の出発物質(ターゲットと称される、TiOまたはZnO)は、熱による加熱、または化学結合を破壊し、そして分子を化学結合から乖離させるためにターゲットに向かって十分なエネルギーで加速されたエネルギーイオンまたはエネルギー電子による衝撃(この方法には、電弧、イオンビーム、電子ビーム、陰極スパッタリング等に基づく工程がある)によって蒸発される。上記出発物質の化学的な転換が上記工程で起こることなく、上記蒸発された物質は石骨材に蒸着される。
【0032】
また、同様に、TiOまたはZnOは、反応性のPVDの工程を通して蒸着される。この工程には、金属のTiもしくはZnのターゲット、またはこれら金属の亜酸化物のターゲットからの、上記手法のいずれかによる、TiおよびZn原子、またはTiOおよびZnOの準化学量論的な化学種の蒸発を含む。上記ターゲットは、酸化ガスまたは酸化ガスと不活性ガスとの混合物と反応して、石骨材の表面にTiOまたはZnOの透明の薄膜を形成し、そして蒸着させる。
【0033】
これらの技術によって、基部基材に対する高い付着性を有し、厚さが5nmから10μmであるTiOまたはZnOの薄膜が得られる。これらの膜は、10nmよりも厚さが増すと、保護係数の実質的な向上をはっきりと示す。このため、大気温に近い温度が採用される。
【0034】
PVD法を用いる場合、プラズマによる表面の活性化は、層の付着性を確保するために推奨される工程である。
【0035】
3.TiOまたはZnO薄膜で覆われた石骨材の性質
上記に記載された全ての方法によって、石骨材に蒸着されたドープされていないTiOもしくはZnOの層、または石骨材に蒸着された、最大20%の上記カチオンでドープされたTiOまたはZnOの層は、低い光触媒作用を有すると共に、高いUV放射吸収性を有する。これによって、太陽光による劣化に対する耐性を大幅に向上させることができる。
【0036】
上記の全ての場合において、ポスト遷移元素のカチオンがドープ剤(SiまたはAl)として用いられた場合でさえも、得られた層は透明で無色である。それゆえ、この層は、石骨材の本来の装飾的な特長を維持する。それにもかかわらず、蒸着されたTiOまたはZnOの化学量論が名目上の化学量論から変化した場合、または上記層が上記元素の10%より高い比率のカチオンによってドープされた場合に、得られる透明膜は特定の色を有している。この色は、いくつかの石骨材の仕上げと組み合わせられて、より好ましい美的外観を得ることを可能にする。
【0037】
同様に、これらの薄膜は、骨材の表面に対して、強い付着性および高い摩耗耐性を有する。それゆえ、これらの薄膜は、厳しい外部環境に適用できる。この点に対して、石骨材の表面が、被覆チャンバーにおいて生成されたプラズマによってTiOまたはZnOの蒸着の前に活性化された場合には、直近に述べたこれらの性質をさらに改善し得ることを指摘しておくべきである。
【0038】
さらに、全ての場合において、得られる表面は、日光にさらされた場合に、超親水性(水滴との接触角が0°付近)を有する。このことは、この材料が超親水性または洗浄の容易性をも得ることを可能にする。
【0039】
最後に、AlカチオンでドープされたTiOまたはZnOで被覆された石骨材は、その表面抵抗率が、1平方あたり1013Ω(絶縁体)から、この材料の絶縁性を小さくさせる値(10Ωから10Ω)にするため、さらに静電気防止性を有する。これは、敷石における用途として大変望ましい。よって、TiOまたはZnOによって被覆された石骨材は、1平方あたり10Ωのオーダの電気抵抗を示す。一方、ZnOが、3%のAlカチオンでドープされた場合は、上記抵抗率は、10Ωのオーダの値に低下する。
【0040】
よって、PECVD法で得られた本発明の目的の物品は、以下を含む:
非晶質あるいは低い結晶性の構造を有するTiO(xは1.5から2.5の範囲)、またはZnO(yは0.6から1.4の範囲)の薄膜の、300℃より低い温度における、真空下または大気圧での石骨材に対する蒸着。さらに、本発明の目的の物品は、同じ条件で蒸着された、厚さが5nmから10μm、好ましくは150nmから2000nmである、20%以下のAl、Si、Cr、V、W、Fe、Coのカチオンによってドープされた、これらの結晶物質または非晶質物質の薄膜を含んでいる。
【0041】
高周波数の電磁エネルギー(マイクロ波、無線周波数または−kHz−のような、プラズマ反応装置に用いられる他の周波数帯域)、直流電流、またはパルス状の直流電流を供給することによって、純粋な酸化ガスまたは不活性ガスによって希釈された酸化ガスから生成されたプラズマ。
【0042】
例えば、チタンテトライソプロポキシド、ジメチル二酢酸チタン、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、酢酸亜鉛、または、それらの混合物のような任意の適切な酸化チタンまたは酸化亜鉛の前躯体だけでなく、酸化チタンまたは酸化亜鉛のような、チタン、または、亜鉛の任意の揮発性の前駆体、またはこれらの混合物をも用いることができる。必要であれば、例えば、トリメチルシラントリクロリドのような、ドープするのに用いられたAl、Si、Cr、V、FeおよびCo元素のいずれかの前駆体も用いることができる。
【0043】
よって、乾式PVD法で得られた本発明の目的の物品は、以下を含む:
真空下で、300℃より低い温度で石骨材に蒸着された、厚さが5nmから10μm、好ましくは10nmから200nm、さらに好ましくは35nmから200nmの、非晶質であるか、またはAl、Si、Fe、Cr、V、Coのカチオンでドープされた、TiO(xは1.5から2.5の範囲)またはZnO(yは0.6から1.4の範囲)の薄膜。
【0044】
熱による加熱、または十分なエネルギーで加速された電子またはイオンを用いた衝撃によるターゲットの蒸発。
【0045】
蒸着される酸化物によって形成されたTiOまたはZnOのターゲットから行われるPVD。
【0046】
固体の金属ターゲット、またはこれらの金属の亜酸化物で形成されたターゲットから行われる反応性PVD。ターゲットから乖離した分子は、純粋な酸化ガス、または不活性なキャリアガスと混合された酸化ガスと反応する。
【0047】
ドープ剤のターゲット、または組み込まれるカチオンの比率でドープされたTiOまたはZnOからの、ドープされた薄膜の蒸着物。
【0048】
本発明は、本発明の範囲を限定しない、以下の実施例によってさらに説明される。
【0049】
〔実施例〕
実施例1:真空下におけるPECVDによる、非晶質構造と様々な厚さとを有しているTiO薄膜を用いた、300cm×150cmの大きさと20mmの厚さとを有する石英骨材の石板の被覆。
【0050】
真空下におけるPECVD法による、石英骨材の表面へのTiO透明の薄膜の蒸着工程を、以下の条件のもとで、所望の厚さに応じて蒸着時間を変更して実施した:
− 240mL/分の流量の酸化ガス(純粋なO)から生成されたプラズマ
− プラズマを用いた石英骨材の表面の活性化時間:5分
− プラズマを形成するために供給した電力:2.45GHzの周波数で400W
− 動作圧力:3mtorr
− 揮発性前駆体:40℃のサーモスタット制御された保存槽に浸漬されたTi(IV)テトライソプロポキシドの前駆体
− 上記揮発性前駆体の蒸気をプラズマに取り込ませるためのO派生物の流量:2.5mL/分
− 蒸着速度:0.9μm/時間
− 蒸着物の温度:45℃。
【0051】
基部基板の表面で起こる全体の化学反応は、以下のとおり記載することができる:
【0052】
【化1】

【0053】
上記化学反応は、プラズマ中で、異なる工程において生じ、Tiの前躯体のリガンドの完全な無機物化を必要としない。
【0054】
得られる石板を、その性質を一般的な石材と比較することを目的とする後続の研究の対象とした。
【0055】
上記石板のUV劣化に対する耐性の評価は、自然の太陽放射のスペクトルを模倣するランプにおいて、上記石板の日光に対する加速露光により実施した。TiOの蒸着された厚さによる白水晶骨材片の時間的な劣化は、例証となる実施例として、次に示す。これを受けて、450nmでの表面の全反射率の値が低下した(図1)。5%から6%の全反射率の低下が生じたときに、目に見える劣化が感知された。
【0056】
被覆していない試料の反射率が急速に低下するのに対して、被覆した断片、特に、より厚い(300nmより厚い)層を有する断片は、明らかに、より緩やかな低下を示した。よって、これらの試料を、15年間に相当する時間にわたって日光に露光した後に、被覆していない断片は、非常に劣化したように見える(完全に黄色)。そして、300nm以上の厚さで被覆した断片は、そのままである。よって、被覆した骨材の太陽放射に対する耐性は、被覆していない断片よりもずっと大きい。そして、太陽放射に対する耐性が高ければ高いほど、蒸着された薄膜の厚みは大きい。
【0057】
これらのデータによって、我々は、以下の式によって、蒸着されたTiOの厚さをもとに、石英骨材の太陽放射に対する経時的な耐性の向上係数を簡単に算出することができる:
=f×t
式中、tおよびtは、それぞれ、所定の厚さのTiOを有する被覆された石英骨材および被覆されていない石英骨材の、太陽光劣化に対する耐性の時間である。これら時間は、後に表面の劣化が視覚的に観察される、5%から6%の反射率の低下が生じるのに必要とされる時間から決定される。そして、fは、上記の蒸着された厚さを用いて達成される時間的な向上係数である。厚さによって得られる向上係数を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
観察されるように、骨材の耐性は、正弦の法則に従って、蒸着された厚さと共に向上する。よって、UV劣化に対する耐性において、非常に大きな向上を達成するためには、150nmより厚い厚さのTiO膜を蒸着する必要がある。この厚さより厚いと、600nm(26倍高い耐性が得られる)に至るまで、保護の度合いが非常に大きく向上する(300nmで20倍高い耐性が得られる)。600nmより厚い場合は、わずかに向上し(1000nmの層では28倍、2000nmの層では30倍)、その結果、向上が飽和に到達する。
【0060】
最後に、石英骨材の表面が日光にさらされたときに、蒸着の厚さに関わらず表面がTiOで被覆されている場合は、その表面に対する水滴の接触角が80°から0°に低下することが観察される。これらの結果は、得られた表面が超親水性であることを示している。これにより、得られた石英骨材は、太陽放射に対して高い耐性を有すると共に、超親水性と洗浄の容易性とを有する。
【0061】
実施例2:PECVDによる、厚さ500nmの非晶質構造を有するZnO透明の薄膜を用いた、300cm×150cm×2cmの大きさの石英塊の石板の被覆
蒸着工程を、以下の条件のもとで実施した:
− 15mL/分の流量の酸化ガス(純粋なO)から生成されたプラズマ
− プラズマを用いた石英骨材の表面の活性化時間:5分
− プラズマを形成するために供給した電力:2.45GHzの周波数で200W
− 動作圧力:1Pa
− 揮発性前駆体:ジエチル亜鉛(Zn(Et)
− 揮発性前駆体の流れ:5mL/分
− 蒸着速度:1.0μm/h
− 蒸着物の温度:25℃。
【0062】
得られた石板を、実施例1の場合と同様に評価した。この場合、得られた試料は、太陽放射に対する耐性に関して、向上係数は25であった。日光の存在下で得られた表面も、超親水性を有している。それゆえ、この石板は、戸外で用いる場合に、自浄式の表面として適用できる。
【0063】
これらの、太陽放射に対する高い耐性、および超親水性または洗浄の容易性に加えて、得られた表面は、被覆していない表面との関係において、明らかに低い値の抵抗率を有している。これにより、被覆した表面(<0.5kV(表2を参照))上を歩く際に、人の感受性の限界(2kVから3kV)よりも下に、人に蓄積された静電荷を低減させることが可能になる。この結果、金属元素に接触した際に、放電を受ける可能性を除去することを明らかに可能にする。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例3:反応性スパッタリングPVDによる、非晶質構造を有する様々な厚さのTiO透明の薄膜を用いた、300cm×150cm×2cmの大きさの石英骨材の石板の被覆。
【0066】
蒸着工程を、以下の条件のもとで実施した:
− 使用したターゲット:金属Ti
− 531Vの電位差と、0.58kHzの周波数で6.57kW/cmの電力とを印加することによって加速されたArイオンを用いた衝撃によってターゲットを蒸発
− 動作圧力:7×10−3torr
− 酸化ガス(O)の流量:1.3mL/分
− 蒸着速度:1.0μm/h
− 蒸着物の温度:70℃。
【0067】
得られた石板の太陽放射に対する耐性を、実施例1の場合と同様に評価した。この場合、石英骨材のターゲット表面の劣化を、色パラメータb(黄変)の変化によって追跡し(図2)、上記劣化を、2単位のdbの増加が起こったときに、視覚的に感知した。
【0068】
観察されるように、被覆していない試料のパラメータbは、その黄変の結果として、急速に(直線状に)増加するが、保護された試料においては、上記パラメータは非常にゆっくりと増加する。特に、試料が100nm以上の厚さを有している場合において、上記パラメータはゆっくりと増加する。
【0069】
パラメータdbが2の場合の、この方法によって蒸着した厚みに応じた端面の太陽放射に対する耐性の向上係数を、実施例1の場合と同様に計算した。得られた結果を、表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
観察されるように、耐久性が決定的要素とはならない石状物への適用に関して、10nmより大きい厚さにおいて、保護係数の実質的な向上を示す結果が得られた。
【0072】
さらに、蒸着したフィルムの厚さが35nmから100nmに増加する場合に、骨材の抵抗がどのように大幅に増加するか(係数は4.5〜>30)も観察される。これは、より厚い厚さが用いられる場合と同様の効率を有している。この厚さの範囲は、耐久性が決定的要素ではない石状物に適用可能である。
【0073】
同様に、日光の存在下で得られる表面は、超親水性も有している。これにより、最終製品もまた、戸外で用いる場合に、自浄式の表面として適用できる。
【0074】
実施例4:PECVDによる、10%のSi(IV)カチオンでドープした厚さ400nmのTiO透明の薄膜を用いた、300cm×150cm×2cmの大きさの石英骨材の石板の被覆
− 240mL/分の流量の酸化ガス(純粋なO)から生成されたプラズマ
− Oプラズマを形成するために供給した電力:2.45GHzの周波数で400W
− 動作圧力:6.5×10−1Pa
− Tiの揮発性前駆体:40℃にサーモスタット制御された保存槽に浸漬されたTi(IV)テトライソプロポキシド
− Tiの揮発性前駆体の蒸気をOのプラズマ取り込ませるためのO派生物の流量:2.5mL/分
− Siの揮発性前躯体:トリメチルシランクロリド((CH)SiCl)
− Si/Ti比率は、Siの前躯体の流率を変更することによって制御した。10%のSiでドープされたTiOの層の蒸着物に対して、0.25mL/分のSiの揮発性前駆体の流量を用いた
− 蒸着速度:0.9μm/h
− 蒸着物の温度:45℃。
【0075】
得られた石板を、実施例1の場合と同様に評価した。この場合、得られた試料は、太陽放射に対する耐性に関して、向上係数は24であった。日光の存在下において得られた表面は、超親水性も有している。それゆえ、戸外で用いる場合に、自浄式の表面として適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】被覆していない石英骨材および異なる厚さを有するTiOの透明の薄膜で被覆された石英骨材における450nmで計測された全反射率値の、太陽放射への露出時間による変化を示す図である。
【図2】被覆していない石英骨材および異なる厚さを有するTiOの透明の薄膜で被覆された石英骨材の表面のパラメータb*(db*)、すなわち比色分析の、太陽放射への露出時間による変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式蒸着法によって蒸着されたTiOおよび/またはZnOを含有している、低い光触媒作用を有するかまたは光触媒作用を有さない透明の薄膜によって表面の少なくとも一部を被覆された、凝集した石材からできた物品。
【請求項2】
上記TiOまたはZnOは、主に非晶質の構造を有していることを特徴とする、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
上記TiOまたはZnOが、遷移元素、好ましくはCr、V、W、Fe、Co、またはAlもしくはSiのようなポスト遷移元素の20%以下のカチオンを用いてドープされていることを特徴とする、請求項1に記載の物品。
【請求項4】
上記凝集した石材からできた物品は、花崗岩/石英とポリエステル樹脂との凝集物からなることを特徴とする、請求項1から3に記載の物品。
【請求項5】
上記凝集した石材からできた物品は、大理石とポリエステル樹脂との凝集物からなることを特徴とする、請求項1から3に記載の物品。
【請求項6】
チタンまたは亜鉛の揮発性の前駆体は、例えば、チタンテトライソプロポキシド、ジメチル二酢酸チタン、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、酢酸亜鉛、またはこれらの混合物といった、適切な前躯体の何れかであり得るだけでなく、酸化チタンもしくは酸化亜鉛、またはこれらの混合物であり得ることを特徴とする、請求項1から5に記載の物品。
【請求項7】
蒸着された膜が5nmから10μmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1から6に記載の物品。
【請求項8】
上記蒸着された膜は、150nmから2000nmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1から7に記載の物品。
【請求項9】
上記蒸着された膜は、10nmから200nmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1から8に記載の物品。
【請求項10】
上記蒸着された膜は、35nmから200nmの厚さを有していることを特徴とする、請求項1から9に記載の物品。
【請求項11】
上記蒸着層を有していない、または指示された厚さよりも薄い厚さを有する同じ物品と比較して、20年の日光への露出に相当する太陽のUV放射に対して、4倍から30倍大きい保護係数を有していることを特徴とする、請求項1から10に記載の物品。
【請求項12】
10Ωから10Ωの抵抗率を有していることを特徴とする、請求項1から11に記載の物品。
【請求項13】
10Ωの抵抗率を有していることを特徴とする、請求項1から12に記載の物品。
【請求項14】
請求項1から13に記載の凝集した石材からできた物品を取得する方法であって、
主に非晶質相にあるTiOまたはZnOを含有し、光触媒作用を有していない、上記凝集した石材の表面の少なくとも一部に蒸着された薄膜は、乾式蒸着法、具体的には、物理気相成長(PVD)またはプラズマ化学気相成長(PECVD)、によって蒸着されることを特徴とする方法。
【請求項15】
プラズマ化学気相成長(PECVD)工程は、真空下または大気圧にて行われ得ることを特徴とする、請求項14に記載の凝集した石材からできた物品の取得方法。
【請求項16】
プラズマによる表面の活性化のさらなる任意の工程は、PVD蒸着またはPECVD蒸着の工程の前に行われることを特徴とする、請求項14から15に記載の凝集した石材からできた物品の取得方法。
【請求項17】
請求項13から16に記載の取得方法に従って得られた、請求項1から13に記載の凝集した石材からできた物品の使用であって、
上記凝集した石材からできた物品は、例えば、建物正面、戸外の床および階段といった、戸外環境において用いられることを特徴とする使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−529804(P2011−529804A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520532(P2011−520532)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際出願番号】PCT/ES2009/000393
【国際公開番号】WO2010/012849
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(506009877)コセンティノ,ソシエダッド アノニマ (3)
【Fターム(参考)】