説明

乾式静水圧加圧成形用マンドレル

【課題】セラミックス粉末の付着を有効に防止可能なCIP成形用マンドレルを提供する。
【解決手段】本発明のCIP成形用マンドレルは、セラミックス粉末の乾式静水圧加圧成形に用いられるものである。このマンドレルは、所定形状に形成された鉄系材質からなる母材の最表面に、最大高さRmaxが1.0μm以下で且つ水に対する接触角が75°以上のダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)からなる最表面層を有している。また、このマンドレルは、有底中空形状管を成形するCIP成形装置10のマンドレル16に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式静水圧加圧成形用マンドレルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、乾式静水圧加圧成形(以下、「CIP成形」という)は、粉末充填、加圧、減圧、成形体取り出しの各工程からなり、圧力容器内に成形用のゴム型を備えたCIP成形装置を用いることによりセラミックス粉末等の成形を好適に行うことができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、図1に示すように、CIP成形装置10として、圧力容器12内において成形用のゴム型14の内周面とマンドレル16の外周面とボトムパンチ18の外表面によって形成される成形空間20を有しているものが開示されている。このCIP成形装置10では、まず、供給ノズル22によりセラミックス粉末Aを成形空間20に充填する。次いで、図2に示すように、トップパンチ24に突設されたトップゴム栓26により成形空間20を閉塞し、圧力容器12の媒体出入口28から圧力媒体を注入する。すると、圧力媒体は、中空筒状の加圧ゴムホルダ32の周壁に開けられた多数の孔32aを通過して加圧ゴムホルダ32の内側に流入し、上下両端が加圧ゴムホルダ32に固定された筒状の加圧ゴム30を外周側から圧縮する。これにより、ゴム型14も外周側から圧縮されるため、成形空間20に充填されたセラミックス粉末Aは有底中空管形状の成形体34に成形される。続いて、図3に示すように、加圧ゴム30内の圧力媒体を媒体出入口28から流出させ、ゴム型14を復元させることにより、ゴム型14を成形体34から分離させる。その後、トップパンチ24を上昇させ、ボトムパンチ18を下降させることにより、成形体34を圧力容器12から取り出す。
【特許文献1】特開2000-52098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうしたCIP成形装置10では、成形回数の増加に伴ってセラミックス粉末がマンドレル16の外周面に機械的あるいは静電的に付着する現象が発生した。このようにして付着したセラミックス粉末をそのままにしておくと、成形体34の内面がマンドレル16の表面に固着し、成形体34の内面が剥離する成形不良になることから、マンドレル16の清掃作業が必要になるが、こうした清掃作業は時間がかかるため生産効率が低下する一因となっていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、セラミックス粉末の付着を有効に防止可能なCIP成形用マンドレルを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般に、CIP成形を繰り返すうちにマンドレル表面には機械的あるいは静電的にセラミックス粉末が付着する。本発明者らは、このセラミックス粉末の付着を防止するには、マンドレルに最大高さRmaxが1.0μm以下のDLCからなる最表面層を備えることが有効であることを見いだしたが、それだけでは付着防止効果は十分とはいえなかった。そこで、更に鋭意研究を重ねた結果、その最表面層の水に対する接触角を75°以上としたときに、その付着防止効果が一段と高まることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明のCIP成形用マンドレルは、
セラミックス粉末のCIP成形に用いられるマンドレルであって、
所定形状に形成された鉄系材質からなる母材と、
該母材の最表面に形成され、最大高さRmaxが1.0μm以下で且つ水に対する接触角が75°以上のダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)からなる最表面層と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のCIP成形用マンドレルによれば、セラミックス粉末の付着を有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、母材は、所定形状に形成されている。ここで、所定形状とは、特に限定されるものではないが、例えば中実棒形状やパイプ形状などが挙げられる。また、母材は鉄系材質からなるが、鉄系材質としては、SUS材、SKD材(ダイス鋼)又はSKH材(ハイスピード鋼)が好ましい。SUS材としては、例えば鉄−クロム系のSUS410やSUS430,SUS440などが挙げられる。SKD材としては、例えばSKD11やSKD61などが挙げられる。SKH材としては、例えば、SKH2やSKH10,SKH51,SKH55などが挙げられる。このうち、SKD材が特に好ましい。
【0010】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、最表面層は、水に対する接触角が75°以上で且つ最大高さRmaxが1.0μm以下のダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)からなる。ここで、最大高さRmaxは、JIS B 0601−1982に則って測定した値である。また、水に対する接触角は、本明細書では、協和界面科学(株)製の接触角計DM100を使用して測定した値とした。DLCとは、ダイヤモンドに近い特性を持ち、主として炭化水素又は炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜である。DLCは、硬質炭素膜やアモルファスカーボン膜と呼ばれることもあり、その硬さは一般的にはナノインデンテーション法による硬度測定で10GPa以上である膜をいう。製法は、プラズマCVD法またはPVD法が一般的に用いられる。
【0011】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、最表面層の最大高さRmaxは、1.0μm以下、好ましくは0.3μm以下である。1.0μmを超えると、セラミックス粉末の付着を有効に防止できなくなるため、好ましくない。
【0012】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、最表面層の水に対する接触角は、75°以上である。75°未満だと、最大高さRmaxが1.0μm以下であってもセラミックス粉末の付着を有効に防止できないことがあるため、好ましくない。
【0013】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、母材の最大高さRmaxは、最表面層の最大高さRmaxと同等であることが好ましい。母材の最大高さRmaxは、DLCをプラズマCVD法によりDLCからなる最表面層を形成したときにはその最表面層の最大高さRmaxにほぼそのまま反映される。
【0014】
本発明のCIP成形用マンドレルは、更に、母材と最表面層との間にクロムを主成分とする中間層を備えていてもよい。こうすれば、マンドレルの金型としての寿命が長くなる。例えば、母材の表面にDLCからなる最表面層を直接形成したマンドレルを使ってセラミックス粉末のCIP成形を行うと、セラミックス粉末はゴムのように弾性変形するものではないし金属のように塑性変形をするものでもないため、セラミックス粉末がマンドレル表面に食い込んで傷を発生させることがある。こうした傷が発生すると、その後のCIP成形で得られる成形体にその傷が転写されて不良品となるため、最表面のDLC膜を剥がして再度コートする必要がある。更に、傷が母材まで達すると、マンドレル自体を使用することができず交換する必要があるため、コスト高になる。これに対して、母材と最表面層との間にクロムを主成分とする中間層を備えたマンドレルを使ってセラミックス粉末のCIP成形を行うと、母材への傷の発生を防止することができ、マンドレルの寿命が長くなる。ここで、中間層は、厚みが3μm以上であることがマンドレルの寿命を十分長くすることができるため好ましい。なお、中間層は、例えばクロムめっきとしてもよい。こうすれば、使用済みのマンドレルのクロムめっきを薬液により除去したあと再度クロムめっきを施せばマンドレルを再使用することができる。
【0015】
本発明のCIP成形用マンドレルは、焼成前成形体長さが300mm以上のセラミックス粉末からなる有底中空管形状の成形体を成形するのに用いられるものとしてもよい。この場合、マンドレルから成形体を引き抜く際に成形体とマンドレルとの摺動距離が比較的長くなり、マンドレルに傷がつきやすいことから、本発明を適用する意義が高い。
【0016】
本発明のCIP成形用マンドレルにおいて、前記セラミックス粉末を、アルミナ粉末としてもよい。このとき、前記最表面層は、ボール・オン・プレート法により直径10mmの前記セラミックス粉末と同じ材料からなるボールに200gfの加重を加えた状態で湿度20%の空気中で移動幅10mmで1000回往復動させた際に測定した摩擦係数が0.2以下であることが好ましい。なお、一般にDLCのアルミナ粉末に対する摩擦係数は0.2以下である。
【実施例】
【0017】
[実施例1]
高さ580mm、直径60mmの円柱状の母材をSKD11で作製し、母材の表面のバフ研磨を実施し、最大高さRmaxが0.3μmになるまで精密研磨を行った。具体的には、バフ研磨は、バフ研磨機(レース台)を用い、金型を垂直に押し当てて仕上げ研磨を実施した。研磨剤として、青棒(酸化クロム)を塗布したバフ布を3000rpmで回転させ、金型を3回程度研磨した。その後、母材の表面に中間層として3μmのクロム被膜を電解めっきにより形成した。具体的には、金型の脱脂・活性化を行い、金型を治具に設置した。この金型を横向きの状態でCrの薬液の中に入れ、電流を30分流し、3μmのクロム皮膜を得た。更に、1000×1000×1000mmサイズの真空容器内でDLC膜を母材の最表面に積層した。すなわち、まず、真空容器内に中間層を形成した母材をセットし、真空排気を行った。続いて、油回転ポンプ及び油拡散ポンプを順次用いることで、真空圧力を0.01Pa以下に調整した。その後、アルゴンガスを用い真空圧力1Paにおいて、プラズマ放電により中間層の表面をスパッタクリーニングした。その後、DLCとの密着を良好にすべく、テトラメチルシランガスを用いてプラズマ放電により中間層にSi元素を含んだSi含有層をコートした。Si含有層の膜厚は、0.1μmであった。次いで、メタンガスを用いて1Pa程度にてプラズマ放電により3時間コーティングを行い、1μmのDLCにより母材の最表面を被覆することにより、CIP成形用マンドレルを得た。DLC成膜中に、有機金属系ガスを同時に流し、例えばSi元素を添加してもよい。このCIP成形用マンドレルの中間層(Crめっき層)及び最表面層(DLC層)の最大高さRmaxを測定したところ、0.3μmであった。
【0018】
こうしたCIP成形用マンドレルの作製時に、このCIP成形用マンドレルと同じ材質で同じ積層構造のテストピース(30×30mm)を準備し、このテストピースを用いて摩擦係数と水に対する接触角を測定した。最表面層の摩擦係数は、測定装置としてHEIDON:TYPE−32(新東科学(株))を用いて次のようにして測定した。すなわち、ボール・オン・プレート法により直径10mmのアルミナからなるボールに200gfの加重を加えた状態で湿度20%の空気中において移動幅10mmで1000回往復動させた際の摩擦係数を測定した。その結果、摩擦係数は0.1であった。最表面層の水に対する接触角は、協和界面科学(株)製の接触角計DM100を使用して測定したところ、80°であった。ナノインデンテーション法により測定した硬度はDLCと十分に呼べる、硬度17GPaであった。測定はMTSシステムズ社製のナノインデンターXPにより実施した。
【0019】
こうしたCIP成形用マンドレルを用いて、アルミナからなる有底中空形状管を成形した。具体的には、図1〜図3に示すCIP成形装置10を用いて成形した。まず、供給ノズル22によりアルミナ粉末A(平均粒径1μm)を成形空間20に充填した(図1参照)。次いで、トップパンチ24に突設されたトップゴム栓26により成形空間20を閉塞し、圧力容器12の媒体出入口28から圧力媒体(一般作動油)を注入した。圧力媒体は加圧ゴムホルダ32の周壁に開けられた多数の孔32aを通過して加圧ゴムホルダ32の内側に流入し、上下両端が加圧ゴムホルダ32に固定された筒状の加圧ゴム30を外周側から圧縮した(図2参照)。このとき、圧力を200MPaまで上昇させ、その圧力下で10秒間保持した。これにより、ゴム型14も外周側から圧縮されるので、成形空間20に充填されたアルミナ粉末Aは有底中空管形状の成形体34に成形された。成形終了後、圧力容器12内の圧力媒体を媒体出入口28から流出させ、ゴム型14を復元させることにより、ゴム型14を成形体34から分離させた(図3参照)。その後、トップパンチ24を上昇させ、ボトムパンチ18を下降させることにより、成形体34を圧力容器12から取り出した。
【0020】
こうした有底中空形状管を60本連続成形し、その連続成形後にCIP成形用マンドレルの最表面層の全表面積に対する粉末の付着率を求めたところ、0%であった。また、金型寿命として、CIP成形用マンドレルの母材に傷が入るまでに成形できる有底中空形状管の本数を調べたところ、1000本であった。
【0021】
[実施例2〜5,比較例1〜7]
実施例1に準じて、表1に示す母材、中間層及び最表面層を持つCIP成形用マンドレルを作製し、各々について実施例1と同様にして付着率と金型寿命を調べた。その結果を表1に併せて示す。なお、比較例1では、最表面層を形成する際にメタンガスの代わりにアセチレンガスを流し、比較例7では、メタンガスとアセチレンガスとを同時に流した。また、比較例3では、最表面層にCrN膜をPVD処理によりコーティングし、比較例4では、最表面層にTiN膜をPVD処理によりコーティングした。
【0022】
表1から明らかなように、実施例1〜5のように最表面層として最大高さRmaxが1.0μm以下で水との接触角が75°以上のDLCを形成した場合には、アルミナ粉末の付着を有効に防止することができた。また、実施例1〜4のようにクロムめっきからなる中間層を形成した場合には、実施例5のようにこうした中間層を形成しなかった場合に比べて、金型寿命が格段に向上した。
【0023】
一方、比較例2,3,4のように最表面層としてクロムめっきやCrN、TiNを形成した場合や比較例1,5,6のように最表面層として最大高さRmaxが1.2μmのDLCを形成した場合には、アルミナ粉末の付着を防止することができなかった。また、比較例7のように最大高さRmaxが0.3μmであるが水との接触角が75°未満のDLCを最表面層として形成した場合も、アルミナ粉末の付着を防止することができなかった。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】CIP成形装置10の使用例を示す説明図である。
【図2】CIP成形装置10の使用例を示す説明図である。
【図3】CIP成形装置10の使用例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0025】
10 成形装置、12 圧力容器、14 ゴム型、16 マンドレル、18 ボトムパンチ、20 成形空間、22 供給ノズル、24 トップパンチ、26 トップゴム栓、28 媒体出入口、30 加圧ゴム、32 加圧ゴムホルダ、34 成形体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス粉末の乾式静水圧加圧成形に用いられるマンドレルであって、
所定形状に形成された鉄系材質からなる母材と、
該母材の最表面に形成され、最大高さRmaxが1.0μm以下で且つ水に対する接触角が75°以上のダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)からなる最表面層と、
を備えた乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項2】
前記最表面層は、最大高さRmaxが0.3μm以下である、
請求項1に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項3】
前記母材の最大高さRmaxは、前記最表面層の最大高さRmaxと同等である、
請求項1又は2に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマンドレルであって、
前記母材と前記最表面層との間にクロムを主成分とする中間層
を備えた乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項5】
前記中間層は、厚みが3μm以上である、
請求項4に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項6】
焼成前成形体長さが300mm以上のセラミックス粉末からなる有底中空管形状の成形体を成形するのに用いられる、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項7】
前記セラミックス粉末は、アルミナである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。
【請求項8】
前記最表面層は、ボール・オン・プレート法により直径10mmのアルミナからなるボールに200gfの加重を加えた状態で湿度20%の空気中で移動幅10mmで1000回往復動させた際に測定した摩擦係数が0.2以下である、
請求項7に記載の乾式静水圧加圧成形用マンドレル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−234061(P2009−234061A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83519(P2008−83519)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】