説明

乾性潤滑被膜組成物

【課題】 固体潤滑剤を樹脂中に配合してなり、密着性、摺動性、耐熱性に優れた乾性潤滑被膜組成物を提供する。
【解決手段】 耐熱性及び強度に優れたポリベンゾイミダゾール樹脂を、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種のポリマーアロイ化樹脂によりポリマーアロイ化することにより、密着性及び柔軟性を付与する。このポリベンゾイミダゾール樹脂がポリマーアロイ化されたバインダー樹脂中に固体潤滑剤を分散含有させた乾性潤滑被膜組成物は、これを有機溶剤中に分散して金属材表面に塗布することにより、密着性、摺動性、耐熱性に優れた乾性潤滑被膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材表面に塗布して乾性潤滑被膜を形成させるための組成物に関するものであり、特に固体潤滑剤をバインダー樹脂中に配合し、密着性、摺動性、耐熱性を兼ね備えた乾性潤滑被膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、OA機器、家電、自動車、産業機械などの初期なじみ対策、焼き付き性向上、オイルレス化などのために、固体潤滑剤を樹脂中に分散含有させた乾性潤滑被膜が使用されている。この乾性潤滑被膜は、固体潤滑剤と熱硬化性樹脂を含む組成物を金属部材表面に適切な膜厚で塗布し、乾燥又は加熱硬化させることにより被膜化したものである。
【0003】
金属部材表面で硬化した乾性潤滑被膜は、樹脂の接着力により金属部材表面に定着されると共に、固体潤滑剤によって潤滑性や耐摩耗性を発揮する。尚、乾性潤滑被膜組成物に使用される固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトなどが一般的である。また、熱硬化性樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などが広く使用されている。
【0004】
しかしながら、従来の乾性潤滑被膜組成物では、乾性潤滑被膜の強度、耐熱性や耐摩耗性に問題があった。更に、高温領域においては、従来の樹脂では耐熱性が劣るため、使用が困難であった。また、近年では、高出力及び高回転による摺動性部品の高性能化が著しく、一層優れた密着性、摺動性、耐熱性を兼ね備えた乾性潤滑被膜の提供が望まれている。
【0005】
このような要望に対して、例えば、特開2003−160756号公報には、エポキシ樹脂に二硫化モリブデンやグラファイトなどの固体潤滑剤を配合してなる、耐候性、耐薬品性、耐食性、潤滑性に優れたコーティング組成物が提案されている。しかしながら、このコーティング組成物は耐熱性が低いものであり、耐摩耗性においても満足すべきものとはいえなかった。特にセラミック粉のような防食顔料を含む場合には、十分な潤滑性が得られず、摩耗も増加してしまうという問題があった。
【0006】
また、特開平8−59991号公報には、ポリアミドイミド樹脂とポリイミド樹脂をバインダー樹脂とし、固体潤滑剤及び硬質フィラーを使用することにより、耐焼付性、耐摩耗性及び摩擦特性に優れた樹脂系摺動材料が記載されている。しかしながら、この樹脂系摺動材料は金属部材との密着性が不十分であった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−160756号公報
【特許文献2】特開平8−59991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、固体潤滑剤をバインダー樹脂中に配合した組成物であって、金属部材表面に塗布され、乾燥又は加熱硬化させることにより被膜化して、密着性、摺動性、耐熱性に優れた乾性潤滑被膜を形成する乾性潤滑被膜組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、耐熱性が高く且つ摺動特性に優れたポリベンゾイミダゾール樹脂を主成分とし、これに数種の樹脂を組み合わせることにより、これらの樹脂がポリマーアロイ化したものがバインダー樹脂として最適であることを見出した。このバインダー樹脂中に固体潤滑剤を分散含有した組成物は、有機溶剤中に分散して金属材表面に塗布することにより、密着性、摺動性、耐熱性に優れた乾性潤滑被膜を形成することを確認し、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明が提供する乾性潤滑被膜組成物は、ポリベンゾイミダゾール樹脂を主成分とし、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種のポリマーアロイ化樹脂を含み、該ポリマーアロイ化樹脂によりポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化したバインダー樹脂中に固体潤滑剤を分散含有していることを特徴とする。
【0011】
上記本発明の乾性潤滑被膜組成物においては、前記固体潤滑剤の含有量が組成物全体の25〜75重量%であることが好ましい。また、前記固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトから選ばれた少なくとも1種を用いることが好ましい。更に、前記バインダー樹脂100重量部中のポリマーアロイ化樹脂の割合は、3〜50重量部であることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の乾性潤滑被膜組成物のポリマーアロイ化樹脂については、前記ポリマーアロイ化樹脂100重量部中のポリアミドイミド樹脂の配合量は3〜20重量部であることが好ましい。同じく前記ポリマーアロイ化樹脂100重量部中のポリアミド樹脂の配合量は3〜30重量部であること、及びエポキシ樹脂の配合量は3〜10重量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の乾性潤滑被膜組成物によれば、ポリマーアロイ化されたポリベンゾイミダゾール樹脂中に固体潤滑剤が分散含有されているため、金属部材表面に塗布され、乾燥又は加熱硬化させることにより被膜化して、密着性、摺動性、耐熱性に優れた乾性潤滑被膜を形成することができる。従って、本発明の乾性潤滑被膜組成物を用いて、OA機器、家電、自動車、産業機械などの金属部材表面に乾性潤滑被膜を形成することによって、摺動部の潤滑性能が改善され、初期なじみ性や耐焼き付き性の向上、オイルレス化などを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明で用いるポリベンゾイミダゾール樹脂は、セラニーズコーポレーションがNASA(米国航空宇宙局)とAFSL(米空軍材料研究所)との共同開発により商品化した樹脂であって、耐摩耗性に優れると共に、耐熱性が非常に優れており、熱変形温度はプラスチックでは最高の435℃を示す。
【0015】
ポリベンゾイミダゾール樹脂は上記の優れた特徴をもつ樹脂であるが、その反面、密着性が低く、非常に剛直な性質を持つ樹脂でもある。そのため、ポリベンゾイミダゾール樹脂に固体潤滑剤を一定割合で配合し、乾性潤滑被膜の摺動特性の改良を試みたところ、摺動特性の向上は認められたものの、密着性の低下や被膜強度の低下を引き起こす結果となった。
【0016】
そこで、本発明においては、ポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化することにより、各樹脂による高度な複合特性や相反する特性を付与し、上記の欠点を補うこととした。即ち、本発明の乾性潤滑被膜組成物では、ポリベンゾイミダゾール樹脂をポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂あるいはエポキシ樹脂によりポリマーアロイ化し、そのポリマーアロイ化されたポリベンゾイミダゾール樹脂(バインダー樹脂)中に固体潤滑剤を分散して含有させている。
【0017】
尚、本発明では樹脂はコーティング用として使用するため、溶剤に可溶なポリベンゾイミダゾール樹脂を使用し、ワニス化された固有粘度が0.2以上のものが好ましい。より好ましいポリベンゾイミダゾール樹脂としては、下記化学式1で表される、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5'−ジベンゾイミダゾールを挙げることができる。
【0018】
【化1】

【0019】
上記のごとく主成分であるポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化する樹脂、即ちポリマーアロイ化樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂より選ばれた少なくとも1種を用いる。これらのポリマーアロイ化樹脂をポリベンゾイミダゾール樹脂に添加混合することにより、ポリアミドイミド樹脂とポリマーアロイ化樹脂がポリマーアロイ化して、本発明におけるバインダー樹脂となる。
【0020】
ポリベンゾイミダゾール樹脂とポリマーアロイ化樹脂からなるバインダー樹脂中のポリマーアロイ化樹脂の割合は、バインダー樹脂100重量部に対して3〜50重量部の範囲であることが好ましい。上記ポリマーアロイ化樹脂の割合が3重量部未満では、ポリベンゾイミダゾール樹脂のポリマーアロイ化が不十分となり、また50重量部を超えると被膜強度が低下するため好ましくない。
【0021】
また、ポリマーアロイ化樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂のいずれか1種、又はこれらの2種以上を組み合わせて用いることができる。その際、ポリマーアロイ化樹脂100重量部中における各樹脂の配合量としては、ポリアミドイミド樹脂は3〜20重量部、ポリアミド樹脂は3〜30重量部、及びエポキシ樹脂は3〜10重量部の範囲がそれぞれ好ましい。これらの範囲外の配合量では、乾性潤滑被膜の密着性、摺動性、耐熱性のいずれかが低下するため好ましくない。
【0022】
上記ポリマーアロイ化樹脂であるポリアミドイミド樹脂は、ポリイミド樹脂の主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、ポリイミド樹脂に次ぐ耐熱性があり、熱成形が可能で、機械的強度、耐薬品性、電気特性、摺動特性に優れていることから、成形材料や耐熱性塗料に応用されている樹脂である。本発明に用いるポリアミドイミド樹脂は、ガラス転移温度が250〜350℃のものを使用することが好ましい。
【0023】
ポリアミド樹脂は、ナイロンとも呼ばれ、アミド結合によって形成されるポリマーの総称であり、主として直鎖脂肪族ポリアミド構造をはじめとする種々のモノマーから合成されたものである。ラクタムあるいはアミノカルボン酸重合や、ジアミンとジカルボン酸の重合により得られる直鎖脂肪族ポリアミド以外にも、非晶性芳香族含有透明ポリアミドや、変性ポリオレフィンの混合物、あるいはグラフト重合ポリアミドや、ポリエーテルあるいはポリエステルをソフトセグメントとするポリアミドエラストマーなどがある。
【0024】
また、ポリアミド樹脂は、分子中にアミド基が一定間隔ごとに存在し、水素結合する結晶構造をもつ。結晶化度及び結晶の大きさによって機械的性質に及ぼす影響が大きく、結晶化度の上昇により、強度や剛直性が増大する性質を有する。本発明に用いるアミド樹脂は、柔軟性を付与することが好ましいことから、結晶化度の低いナイロン12、ナイロン6、ナイロン6−6などをもつ直鎖脂肪族ポリアミド樹脂が好ましい。
【0025】
エポキシ樹脂は末端に反応性のエポキシ基をもつ熱硬化性の樹脂であり、市販されている代表的なものにはグリシジルエーテル型エポキシ樹脂がある。特に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合反応により製造されるビスフェノールA型エポキシ樹脂が代表的であるが、ビスフェノールA型以外にもビスフェノールF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フェノールあるいはクレゾールノボラック型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、多官能型などがある。エポキシ樹脂は、金属をはじめ各種材質に対する密着性が非常によく、強靭で耐水性、耐薬品性に優れており、塗料として頻繁に利用されている樹脂である。本発明に用いるエポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル型のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0026】
固体潤滑剤は、上記のごとくポリマーアロイ化樹脂によりポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化したバインダー樹脂中に分散含有される。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトから選ばれた少なくとも1種が好ましい。また、固体潤滑剤の含有量は、組成物全体の25〜75重量%であることが好ましい。固体潤滑剤の含有量が25重量%未満では満足すべき摺動特性が得られず、逆に75重量%を超えると十分な被膜強度が得られず、耐摩耗性が低下するからである。
【0027】
上記固体潤滑剤のうちの二硫化モリブデンは、低速高荷重に適しており、荷重依存性を有している。ポリテトラフルオロエチレンは、速度や荷重による影響を受けにくく、バランスの良い潤滑性を有している。また、グラファイトは、高温時の潤滑性、低荷重時の低摩擦に優れている。使用する固体潤滑剤の平均粒径は、二硫化モリブデンでは5μm以下、ポリテトラフルオロエチレンでは10μm以下、及びグラファイトでは5μm以下のものが好ましい。
【0028】
本発明の乾性潤滑被膜組成物は、ポリベンゾイミダゾール樹脂のポリマーアロイ化により、ポリベンゾイミダゾール樹脂を主成分とした高度の複合特性を有するバインダー樹脂中に固体潤滑剤を分散したものであり、通常のごとく有機溶剤に分散混合することができる。その際使用する有機溶剤としては、ポリベンゾイミダゾール樹脂及びその他の配合樹脂を溶解し得るものであれば特に制限はないが、中でもN,N−ジメチルホルムアミドを主溶剤とするものが好ましい。尚、分散性や塗布性の向上、膜質改善などの目的により、従来と同様に、湿潤分散剤、レベリング剤、沈降防止剤などの添加剤を適量使用することができる。
【0029】
本発明の乾性潤滑被膜組成物は、そのまま若しくは上記のごとく有機溶剤に分散混合させた状態で、公知の方法により、金属部材の表面に適用することができる。即ち、乾性潤滑被膜組成物又は必要に応じて更に有機溶剤を添加した塗布液を、予め材質や用途にあわせて公知の方法で前処理を施した金属部材の表面に、スプレー、刷毛塗り、浸漬、タンブリングなどの方法により塗布した後、乾燥させ、焼成することによって、硬化した乾性潤滑被膜を形成することができる。
【0030】
塗布した被膜を硬化させる際には、80℃以上の温度で被膜中の溶剤を十分乾燥させた後、150〜380℃の温度で焼成することが好ましい。この焼成工程は複数段に分けて行うことが更に好ましく、例えば、150℃から50℃毎に昇温させながら、各温度で30分ずつ焼成する。尚、焼成条件については、目的とする乾性潤滑被膜に必要な物性に応じて、上記の範囲で焼成温度と焼成時間を任意に選定することができる。
【0031】
得られる乾性潤滑被膜は、ポリマーアロイ化されたポリベンゾイミダゾール樹脂を主成分とするバインダー樹脂中に固体潤滑剤が分散含有され、下地である金属部材との密着性が良好であると同時に、摺動性及び耐熱性に優れている。従って、この乾性潤滑被膜をOA機器、家電、自動車、産業機械などの金属部材表面に形成することによって、摺動部の潤滑性能が改善され、初期なじみ性や耐焼き付き性の向上、オイルレス化などを図ることができる。
【実施例】
【0032】
ポリベンゾイミダゾール樹脂39重量%に、ポリマーアロイ化樹脂としてポリアミドイミド樹脂1重量%と、固体潤滑剤の二硫化モリブデン60重量%を添加混合して、試料1の乾性潤滑被膜組成物を得た。この乾性潤滑被膜組成物に、通常の湿潤分散剤、レベリング剤、沈降防止剤を約3重量%添加し、更に有機溶剤としてN,N−ジメチルホルムアミドを粘度調整しながら添加して撹拌することにより、試料1の乾性潤滑被膜組成物を塗布液とした。
【0033】
この試料1の塗布液を、80℃に予備加熱した金属製テストピースの表面にスプレーコーティングし、80℃で十分乾燥させた後、焼成温度150℃で30分間、200℃で30分間、250℃で30分間の3段階で焼付けを行い、厚み10μmの乾性潤滑被膜を形成した。また、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリマーアロイ化樹脂、個体潤滑剤について、種類と配合量を種々変化させた以外は上記と同様にして、試料2〜20の乾性潤滑被膜組成物を調整した。
【0034】
これら試料1〜20の乾性潤滑被膜組成物について、組成物全体中のバインダー樹脂と固体潤滑剤の配合量、バインダー樹脂中のポリマーアロイ化樹脂の割合を、下記表1にまとめて示した。尚、表1の固体潤滑剤において、二硫化モリブデンはMoS、グラファイトはGr、ポリテトラフルオロエチレンはPTFEと表記した。また、試料1〜20について、ポリベンゾイミダゾール樹脂(PBI)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリアミド樹脂(PA)及びエポキシ樹脂(EP)の全組成物中の配合量並びに全樹脂中の割合を、下記表2に示した。
【0035】
[比較例]
比較例として、ポリベンゾイミダゾール樹脂のみからなる乾性潤滑被膜組成物を試料21とした。また、ポリベンゾイミダゾール樹脂80重量%に、二硫化モリブデン20重量%を添加したものを試料22とした。更に、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリマーアロイ化樹脂、固体潤滑剤の種類と配合量を種々変化させた以外は同様にして、試料23〜27の乾性潤滑被膜組成物を調整した。
【0036】
これら比較例である試料21〜27の乾性潤滑被膜組成物についても、上記実施例と同様の方法により、塗布液を調整し、それぞれテストピースを作製した。これらの比較例1〜7の乾性潤滑被膜組成物についても、上記実施例の場合と同様に、各成分の種類や配合量などを下記表1及び表2に併せて示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
上記実施例及び比較例で作製した試料1〜27の各テストピースについて、密着性・潤滑性評価を実施した。評価方法は、振動摩擦摩耗試験機を使用し、相手材をSUJ2として、振動摩擦摩耗試験(SRV試験)を行った。SRV試験の設定条件は、荷重200N、振幅速度50Hz、振幅距離1.5mm、温度100℃、測定時間20分とし、併用オイルとして合成ポリαオレフィンを使用した。平均動摩擦係数で潤滑性を評価し、試験後の被膜剥離状態の観察により密着性を評価した。また、試験終了後の被膜状態を表面粗さ測定装置で測定して摩耗深さを求めた。これらの測定結果を下記表3に示した。
【0040】
【表3】

【0041】
上記の結果から、本発明による試料1〜20の乾性潤滑被膜組成物では、平均動摩擦係数が低く、摩耗深さが小さく、しかも密着性に優れた乾性潤滑被膜が得られることが分る。特に本発明の試料1〜5、16と比較例の試料25を比較してみると、固体潤滑剤量は同じであるが、本発明の試料では各ポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化することにより、被膜の剥離状態を改善することができ、且つ摩耗も軽減できていることから、ポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化することによって優れた性能が得られたといえる。
【0042】
また、本発明の試料11〜15と比較例の試料21〜27を比較すると、本発明の試料11〜15は平均動摩擦係数が低く、摩耗も少なくなっており、剥離状態が改善されていることが分る。尚、本発明の試料11は摩耗が多くなっているが、これはバインダー樹脂中のポリマーアロイ化樹脂の割合が52重量部であり、主成分となるポリベンゾイミダゾール樹脂より多くなっているため、被膜強度が低下することにより、耐摩耗性が悪化したためと考えられる。以上の結果より、ポリマーアロイ化樹脂の割合はバインダー樹脂中の3〜50重量部の範囲が好ましいことが分る。
【0043】
また、本発明の試料6と比較例の試料26を比較すると、試料26では固体潤滑剤の配合量が24重量%と少ないため十分な摺動性が得られず、平均動摩擦係数は試料6よりも高くなり、被膜の剥離が多くなっている。一方、本発明の試料12と比較例の試料27を比較すると、試料27は固体潤滑剤の配合量が77重量%と多いため、平均動摩擦係数は比較的低いが、十分な密着性及び被膜強度が得られず、耐摩耗性が悪化して、摩耗及び剥離が多い結果となっている。これらの結果ら、乾性潤滑被膜組成物中の固体潤滑剤の配合量は25〜75重量%の範囲が好ましいことが分る。
【0044】
本発明の試料1と比較例の試料25を比較すると、バインダー樹脂量及び固体潤滑剤量は同量であるが、試料1はポリアミドイミド樹脂を含む点が異なる。ポリアミドイミド樹脂の添加により、密着性が改善され、剥離が軽減される結果となった。また、試料4と試料16を比較すると、両者はポリアミドイミド樹脂を除くポリマーアロイ化樹脂の配合量はほぼ同等であり、固体潤滑剤の配合量も同等である。しかし、両者の平均動摩擦係数及び剥離状態は同等であるが、試料16はポリアミドイミド樹脂の添加量が多いため、摺動時の発熱により被膜強度が低下して、摩耗が若干増加している。以上の結果から、ポリアミドイミド樹脂の添加によって摺動性及び被膜剥離状態は改善されるが、20重量部を超える添加は被膜強度の低下を招くことから、ポリアミドイミド樹脂の配合量はバインダー樹脂中の3〜20重量部の範囲が好ましいことが分る。
【0045】
本発明の試料7と試料8を比較すると、ポリアミド樹脂を除くポリマーアロイ化樹脂の配合量は同等であり、固体潤滑剤の配合量も同量であるが、試料8にはポリアミド樹脂が添加されている点が異なる。試験結果では、剥離状態については微小剥離と剥離無しで共に優れた結果が得られているが、試料8では平均動摩擦係数が減少したものの、摩耗が多少増加した。これは、ポリアミド樹脂を添加することにより柔軟性が付与された影響であり、硬質な被膜が改質された結果である。ポリアミド樹脂の添加によって被膜に柔軟性が付与され、剥離状態から摩耗状態へ形態が変化したことは乾性潤滑被膜において重要である。
【0046】
本発明の試料8〜10、13〜15と試料20を比較すると、ポリアミド樹脂以外のバインダー樹脂組成はほぼ同等であり、固体潤滑剤の配合量についても同等である。しかし、試料20は32重量部とポリアミド樹脂の配合量が多いため、柔軟性が増した結果、これらの中では摩耗が最も多い結果となった。また、ポリマーアロイ化樹脂の配合量が最も少ない試料13は、潤滑性、摩耗及び剥離状態は良好であった。以上より、ポリアミド樹脂の添加によって剥離状態を防止し、良好な結果が得られるが、30重量部を超えて添加すると強度及び硬度のバランスのとれた被膜が得にくくなるといえる。
【0047】
また、本発明の試料2と比較例の試料25を対比すると、ポリベンゾイミダゾール樹脂をポリアミド樹脂のみでポリマーアロイ化した試料2は、ポリベンゾイミダゾール樹脂のみを配合し且つポリマーアロイ化樹脂を用いていない試料25に比べて、柔軟性が付与されたことにより、剥離が軽減する結果が得られた。以上の結果から、ポリマーアロイ化樹脂であるポリアミド樹脂の配合量は、バインダー樹脂中の3〜30重量部が好ましいことが分る。
【0048】
本発明の試料3と比較例の試料25を比較すると、バインダー樹脂量及び固体潤滑剤量は同量であるが、試料25はポリマーアロイ化樹脂を添加していないのに対し、試料3はポリマーアロイ化樹脂としてエポキシ樹脂を添加しているため、密着性が改善され、摩耗及び剥離状態が軽減される結果となった。
【0049】
また、試料6と試料19を比較すると、エポキシ樹脂以外のバインダー樹脂組成はほぼ同等であり、固体潤滑剤の配合量も同等であるが、試料19は試料6よりも平均動摩擦係数が高く、摩耗が多少増加し、剥離が多くなっている。試料6はエポキシ樹脂を添加することにより被膜強度、密着性が改善され、摩耗及び剥離が改善されているが、試料19はエポキシ樹脂の添加量が11重量部と多いため、被膜硬度が増して柔軟性が減少し、強度と密着性のバランスが悪くなり、剥離が増加したものと考えられる。また、バインダー樹脂の耐熱性が低下し、摺動時の発熱により被膜強度が低下したため、摩耗及び剥離が増加したといえる。以上の結果から、エポキシ樹脂の配合量は、バインダー樹脂中の3〜10重量部が好ましいことが分る。
【0050】
本発明の試料15、17、18を比較すると、ポリマーアロイ化樹脂及び固体潤滑剤の配合量はほぼ同等であるが、用いた固体潤滑剤の種類が相違している。固体潤滑剤として二硫化モリブデンのみを用いた試料15に対して、二硫化モリブデンとグラファイトを併用した試料17は試料15とほぼ変わらない結果であったが、二硫化モリブデンとポリテトラフルオロエチレンを併用した試料18では摩耗が増加する傾向となり、また剥離状態についても微小剥離が発生した。この結果は、ポリテトラフルオロエチレンの添加により、被膜強度及び密着性がわずかながら低下したことによるものと言える。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンゾイミダゾール樹脂を主成分とし、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂から選ばれた少なくとも1種のポリマーアロイ化樹脂を含み、該ポリマーアロイ化樹脂によりポリベンゾイミダゾール樹脂をポリマーアロイ化したバインダー樹脂中に固体潤滑剤を分散含有していることを特徴とする乾性潤滑被膜組成物。
【請求項2】
前記固体潤滑剤の含有量が25〜75重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の乾性潤滑被膜組成物。
【請求項3】
前記固体潤滑剤が、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乾性潤滑被膜組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂100重量部中のポリマーアロイ化樹脂の割合が3〜50重量部であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の乾性潤滑被膜組成物。
【請求項5】
前記ポリマーアロイ化樹脂100重量部中のポリアミドイミド樹脂の配合量が3〜20重量部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾性潤滑被膜組成物。
【請求項6】
前記ポリマーアロイ化樹脂100重量部中のポリアミド樹脂の配合量が3〜30重量部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾性潤滑被膜組成物。
【請求項7】
前記ポリマーアロイ化樹脂100重量部中のエポキシ樹脂の配合量が3〜10重量部であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の乾性潤滑被膜組成物。



【公開番号】特開2007−269936(P2007−269936A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96273(P2006−96273)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】