説明

乾溜ガス化焼却処理装置

【課題】助燃に要する時間と燃料を節約することができる乾溜ガス化焼却処理装置を提供する。
【解決手段】乾溜ガス化焼却処理装置は、乾溜炉1内に収容された廃棄物Aに着火されて火床が形成されるまでの第1段階において、空気供給路13を介して空気が乾溜炉1内に供給される。そして、廃棄物Aの燃焼が持続される状態(第2段階)になると、乾溜炉1内への酸素供給が空気供給路13による空気の供給から酸素供給路15による高度濃度酸素の供給に切り替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物を収納すると共に、廃棄物の一部を燃焼させつつ燃焼熱により廃棄物の残部を乾溜して可燃性ガスを生じさせる乾溜ガス化炉に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物は、その成分が塩化ビニールなどの塩素分を多く含むものが多くなっているため、これらを焼却する焼却処理装置では、焼却の際に、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)、ダイオキシン類等の大気汚染物質が発生し得る。そのため、これらの大気汚染物質に対しては、排出量を抑制する一定の環境基準が策定されている。
【0003】
特に、廃棄物の焼却処理に伴って発生するダイオキシン類は、塩素分を含む廃棄物を250〜350℃程度の温度で燃焼させると、前記廃棄物から遊離する前記塩素と、樹脂等の不完全燃焼により生成する炭化水素とが、該廃棄物中に含まれる重金属を触媒として反応することによりダイオキシン類が生成するというものである。
【0004】
前記廃棄物の焼却処理によるダイオキシン類の排出を防止するためには、前記廃棄物を800℃以上の温度に2秒間以上滞留させて、生成したダイオキシン類を完全に熱分解させることが有効であるとされている。
【0005】
ところで、本出願人は、先にダイオキシン類の排出を防止しつつ廃タイヤ等の廃棄物を焼却処理する装置として、該廃棄物を収納すると共に、該廃棄物の一部を燃焼させつつ、その燃焼熱により該廃棄物の残部を乾溜して可燃性ガスを生ぜしめる乾溜炉と、該可燃性ガスを該乾溜炉から導入して完全燃焼させる燃焼炉とを備える乾溜ガス化焼却処理装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
前記装置では、燃焼炉内の温度を他の燃料の燃焼によりダイオキシン類の熱分解が可能とされる800℃以上に暖気した上で、廃棄物に着火して可燃性ガスを発生させ、発生した可燃性ガスを他の燃料と共に燃焼炉に燃焼させる。そして、可燃性ガスのみの燃焼で燃焼炉の温度が800℃より高温の安定温度を維持できるようになったときに他の燃料の燃焼を終了する。これにより、廃棄物の乾溜開始後、可燃性ガスが燃焼炉で自発的に安定して燃焼を継続するようになるまでの段階において、燃焼炉内の温度を800℃以上としてダイオキシン類の排出を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4005770号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記装置では、可燃性ガスが燃焼炉で自発的に安定して燃焼を継続するようになるまでは、他の燃料を燃焼炉で燃焼させる必要があるため、かかる助燃に時間が掛かるとこれに要する燃料が嵩んで装置のランニングコストが高くなるという不都合を生じ得る。
【0009】
特に、燃焼炉に導入される可燃性ガスの温度は、暖気により維持される燃焼炉の温度(800℃以上)よりも低いために、燃焼炉の温度を低下させてしまうことになり、助燃に要する時間が掛かる要因となっている。
【0010】
そこで、本発明は、かかる不都合を解消するために、助燃に要する時間と燃料を節約することができる乾溜ガス化焼却処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、廃棄物を収納すると共に、該廃棄物の一部を燃焼させつつ該燃焼熱により該廃棄物の残部を乾溜して可燃性ガスを発生させる乾溜炉と、該乾溜炉から導入される可燃性ガスを燃焼させる燃焼炉と、該燃焼炉に導入される可燃性ガスの量に応じてその燃焼に要する酸素を燃焼炉に供給する燃焼酸素供給手段と、該燃焼炉内における温度を検知する燃焼炉温度検知手段と、該燃焼炉における該可燃性ガスの燃焼が開始された後に該燃焼炉温度検知手段により検知される該燃焼炉内の温度を予め設定された設定温度に維持するように該乾溜炉への酸素供給量を調整しつつ該廃棄物の一部の燃焼に必要な酸素を該乾溜炉に供給する乾溜酸素供給手段とを備えた乾溜ガス化焼却処理装置であって、
前記乾溜酸素供給手段は、空気を供給する第1酸素供給手段と、高濃度酸素を供給する第2酸素供給手段と、前記乾溜炉への酸素の供給を該第1酸素供給手段と該第2酸素供給手段との間で切り替える供給制御手段とを有し、
前記供給制御手段は、前記廃棄物への着火から該廃棄物の燃焼が持続されるまでの第1段階において、第1酸素供給手段により空気を前記乾溜炉へ供給すると共に、該廃棄物の燃焼が持続される第2段階において、該乾溜炉への酸素供給を第1酸素供給手段から第2酸素供給手段に切り替えて、該第2酸素供給手段により該廃棄物の燃焼を持続するのに必要な高濃度酸素を該乾溜炉に供給することを特徴とする。
【0012】
第1発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、廃棄物への着火から該廃棄物の燃焼が持続されるまでの第1段階においては、第1酸素供給手段により空気が乾溜炉に供給される。これにより、乾溜炉全体に空気が行き渡り、廃棄物へ着火後の火床の形成を促進することができ、廃棄物の燃焼が持続する状態を短時間に実現することができる。
【0013】
次に、火床が形成されて、これによる廃棄物の燃焼が持続される状態となる第2段階においては、乾溜炉への酸素供給が第1酸素供給手段から第2酸素供給手段に切り替えられ、廃棄物の燃焼を持続するのに必要な高濃度酸素が乾溜炉に供給される。このため、廃棄物の燃焼と無関係な空気中の窒素成分が乾溜炉に供給されることがなく、窒素成分による乾溜炉内の雰囲気温度の低下が抑制され、乾溜炉内の温度を高温にすることができる。
【0014】
そして、乾溜炉内の温度を高温にすることで、燃焼炉に供給される可燃性ガスの温度を高温にすることができ、可燃性ガスの供給による燃焼炉の温度低下を抑制することができる。さらに、空気中の窒素成分が可燃性ガスと共に燃焼炉に供給されることがないため、窒素成分の温度を上昇させる必要もない。これにより、廃棄物の燃焼が持続された後の燃焼炉の温度低下が抑制され、助燃に要する時間を短縮することができると共に、助燃に要する燃料を節約することができる。
【0015】
このように第1発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、助燃に要する時間と燃料を節約することができる。
【0016】
第2発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、第1発明において、
前記供給制御手段は、前記廃棄物の燃焼が持続されるか否かを、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が第1所定温度以上となっていることと、該乾溜炉で発生した可燃性ガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段の検出値が所定値以下となっていることとのいずれか一方または両方に基づいて判定することを特徴とする。
【0017】
第2発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が第1所定温度以上となっていることと、乾溜炉で発生した可燃性ガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段の検出値が所定値以下となっていることとのいずれか一方または両方に基づいて、廃棄物の燃焼が持続されるか否かを判定することで、第1段階から第2段階への切り替えタイミングを確実にして、早期に高濃度酸素のみによる廃棄物の燃焼を実行することができる。これにより、第2段階による助燃時間の短縮と助燃に要する燃料の節約を図ることができる。
【0018】
第3発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、第1または第2発明において、
前記供給制御手段は、前記第2段階において、前記廃棄物の燃焼を持続するのに必要な空気に含まれる酸素量を維持するように、前記第1酸素供給手段の空気を減少させると共に前記第2酸素供給手段の高濃度酸素を増加させ、該第1酸素供給手段から該第2酸素供給手段に切り替えることを特徴とする。
【0019】
第3発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、廃棄物の燃焼を持続するのに必要な酸素量を維持しながら、第1酸素供給手段の空気を減少させると共に第2酸素供給手段の高濃度酸素を増加させることで、第1段階から第2段階への切り替えを徐々に行う。これにより、切り替えが乾溜炉内の廃棄物の燃焼の外乱となることを防止して、第2段階における高濃度酸素のよる廃棄物の燃焼を確実として、助燃時間の短縮と助燃に要する燃料の節約を図ることができる。
【0020】
第4発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、第1〜第3発明のいずれかにおいて、
前記乾溜酸素供給手段は、前記乾溜炉へ供給する酸素に水蒸気を混合する水蒸気混合手段を有し、
前記供給制御手段は、前記第2段階において、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上の場合に、前記第2酸素供給手段により乾溜炉へ供給する高濃度酸素を供給する場合に、前記水蒸気混合手段を介して該高濃度酸素に水蒸気を混合することを特徴とする。
【0021】
第4発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、第2段階において乾溜炉内の雰囲気温度を高温にすることができるため、その温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上である場合に、乾溜炉内に水蒸気を導入することで、高カロリーの気体燃料である水性ガスを発生させることができる。この水性ガスを可燃性ガスと共に燃焼炉に導入して燃焼させることで、燃焼炉における発熱量を増大させることができ、助燃に要する燃料の節約を図ることができる。
【0022】
第5発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、第1〜第3発明のいずれかにおいて、
前記第2段階において、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上の場合に、水蒸気を乾溜炉内に供給する水蒸気供給手段を備えることを特徴とする。
【0023】
第5発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、第2段階において乾溜炉内の雰囲気温度を高温にすることができるため、その温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上である場合に、(水蒸気を高濃度酸素と共に乾溜炉内に導入する代わりに)水蒸気だけを直接乾溜炉内に供給するようにしてもよい。これにより、高カロリーの気体燃料である水性ガスを発生させることができ、この水性ガスを可燃性ガスと共に燃焼炉に導入して燃焼させることで、燃焼炉における発熱量を増大させることができ、助燃に要する燃料の節約を図ることができる。
【0024】
第6発明の乾溜ガス化焼却処理装置は、第1〜第5発明のいずれかにおいて、
前記第2段階において、前記乾溜炉から発生する可燃性ガスの一部が燃料として供給される内燃機関を備えること特徴とする。
【0025】
第5発明の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、第2段階においては、空気中の窒素成分が可燃性ガスと共に燃焼炉に供給されることがないため、高濃度の可燃性ガスを燃焼炉に供給することができる。これにより、助燃に要する時間と燃料を節約することができると共に、高濃度の可燃性ガスの一部を内燃機関に導入することで、内燃機関を効率よく駆動させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の乾溜ガス化焼却処理装置の一実施形態を示すシステム構成図。
【図2】乾溜炉内の温度と燃焼炉内の温度との経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示すように、本実施形態の廃棄物の乾溜ガス化焼却処理装置は、廃紙、廃木材、廃プラスチック等を主とする各種廃棄物の混合物である廃棄物Aを収容する乾溜炉1と、該乾溜炉1にガス通路2を介して接続される燃焼炉3とを備える。乾溜炉1の上面部には、開閉自在な投入扉4を備える投入口5が形成され、投入口5から廃棄物Aを乾溜炉1内に投入可能とされている。そして、乾溜炉1はその投入扉4を閉じた状態では、その内部が実質的に外部と遮断されるようになっている。
【0028】
乾溜炉1の外周部には、その冷却構造として、乾溜炉1の内部と隔離されたウォータージャケット6が形成されている。ウォータージャケット6は、図示しない給水装置により給水され、内部の水量が所定水位に維持されるようになっている。
【0029】
乾溜炉1の下部は下方に突出した円錐台形状に形成され、その円錐台形状の下部の外周部には、乾溜炉1の内部と隔離された空室7が形成されている。この空室7は、乾溜炉1の内壁部に設けられた複数の給気ノズル8を介して、乾溜炉1の内部に連通している。
【0030】
乾溜炉1の下部の空室7には、乾溜酸素供給手段が接続されている。乾溜酸素供給手段は、空気を空室7に供給する第1酸素供給手段と、高濃度酸素を空室7に供給する第2酸素供給手段とを備える。
【0031】
第1酸素供給手段は、空気供給路13と、これを介して押込ファン等により構成された空気供給源14とを有する。空気供給路13には、制御弁13aが設けられ、制御弁13aは弁駆動器13bによりその開度が制御されるようになっている。この場合、弁駆動器13bは、CPU等を含む電子回路により構成された制御装置17により制御される。
【0032】
一方、第2酸素供給手段は、酸素供給路15と、これを介して高濃度酸素を供給可能な酸素ボンベ等により構成された高濃度酸素供給源16とを有する。酸素供給路15には、制御弁15aが設けられ、制御弁15aは弁駆動器15bによりその開度が制御されるようになっている。そして、弁駆動器15bは、制御装置17により制御される。
【0033】
なお、制御装置17および制御弁13a,15a、弁駆動器13b,15bが本実施形態の供給制御手段に相当する。
【0034】
空気供給路13および酸素供給路15は、空室7に連通する連通管18に接続されている。さらに、連通管18には、これを介して空室に供給される酸素に水蒸気を混合する水蒸気発生装置20の水蒸気供給管21が接続されている。
【0035】
水蒸気発生装置20は、例えば、コイル状の細管内にその一端側から水を供給すると共に、該細管に燃焼排気の一部である熱風を当てることにより、細管内の水を蒸発させその他端側から水蒸気を発生させる装置である。
【0036】
さらに、乾溜炉1の下側部には、制御装置17に制御されて、乾溜炉1に収容された廃棄物Aに着火するための着火装置22が取り付けられている。着火装置22は点火バーナ等により構成され、重油等の燃料が貯留されている燃料供給装置23から燃料供給路24を介して供給される燃料を燃焼させることにより、廃棄物Aに燃焼炎を供給する。
【0037】
燃焼炉3は、廃棄物Aの乾溜により生じる可燃性ガスとその完全燃焼に必要な酸素(空気)とを混合するバーナ部25と、酸素と混合された可燃性ガスを燃焼せしめる燃焼部26とからなり、燃焼部26はバーナ部25の先端側で該バーナ部25に連通している。バーナ部25の後端部には、ガス通路2が接続され、乾溜炉1における廃棄物Aの乾溜により生じた可燃性ガスがガス通路2を介してバーナ部25に導入される。
【0038】
なお、ガス通路2には、制御弁2aが設けられ、制御弁2aは弁駆動器2bによりその開度が制御されるようになっている。そして、弁駆動器2bは、制御装置17により制御される。
【0039】
また、ガス通路2には、これから分岐して可燃性ガスの一部が供給されるエンジン27(本発明の内燃機関に相当する)が設けられており、エンジン27とガス通路2とは、ガス通路2に連通する連通管28により接続されている。そして、連通管28には、制御弁28aが設けられ、制御弁28aは弁駆動器28bによりその開度が制御されるようになっている。そして、弁駆動器28bは、制御装置17により制御される。
【0040】
エンジン27は、連通管28を介して供給された可燃性ガスと、図示しない軽油等の燃料との混合燃料により駆動され、その出力軸27aには、図示しない発電機等が取り付け可能となっている。
【0041】
バーナ部25の外周部には、その内部と隔離された空室30が形成され、空室30はバーナ部25の内周部に穿設された複数のノズル孔31を介してバーナ部25の内部に連通している。空室30には、空気供給路13から分岐する燃焼酸素供給路32が接続されている。燃焼酸素供給路32には制御弁33が設けられ、制御弁33は弁駆動器34によりその開度が制御されるようになっている。そして、弁駆動器34は、制御装置17により制御される。
【0042】
バーナ部25の後端部には、制御装置17に制御されて、燃料供給装置23から燃料供給路24を介して供給される重油等の燃料を燃焼させる燃焼装置35が取り付けられている。燃焼装置35は点火バーナ等により構成され、前記燃料の供給量を段階的に調整しながら燃焼させる。なお、燃焼装置35はバーナ部25に導入された可燃性ガスに着火する場合にも用いられる。
【0043】
燃焼部26の先端部には、燃焼炉3内で燃焼された燃焼排気を冷却する冷却炉(温水ボイラ)37が取り付けられている。冷却炉37には図示しない給水装置により給水され、廃棄物の燃焼熱を利用して冷却炉37で加熱された温水を空調等に利用できるようにしている。
【0044】
冷却炉37の出口側には、冷却された後の燃焼排気を排出するダクト36aが設けられており、ダクト36aは冷却塔38の一端の端部に接続されている。
【0045】
冷却塔38は、冷却炉37からの燃焼排気に散水するスプレー38aを備えており、スプレーに冷却水を供給する図示しない給水装置および空気圧縮機とが接続されている。
【0046】
冷却塔38の他方の端部は、ダクト36bを介してバグフィルタ39の一方の端部に接続されており、冷却塔38からバグフィルタ39に送られる燃焼排気には消石灰39aおよび活性炭39bが混合され、脱硫および脱臭が行われる。
【0047】
バグフィルタ39は、図示しないフィルタ部と、フィルタ部によって排ガスから分離された灰等を回収する回収部とを備え、フィルタ部にはその清浄のための空気圧縮機が接続されている。
【0048】
バグフィルタ39の他方の端部は、ダクト36cを介して煙突40に接続されている。バグフィルタ39と煙突40との間には、燃焼炉3内の燃焼排気をダクト36a〜36cを介して煙突40に誘引する誘引ファン41が設けられており、誘引ファン41を介して煙突40から燃焼排気が大気中に排出される。誘引ファン41は、制御装置17により燃焼炉3内の燃焼排気を誘引する圧力が当該装置の運転状態に応じた所望の圧力となるように制御される。また、煙突40の出口には、図示しない塩化水素濃度と一酸化炭素濃度とを検出するセンサがそれぞれ取り付けられており、煙突40から排気される燃焼排気の塩化水素濃度と一酸化炭素濃度とが監視される。
【0049】
さらに、本実施形態の装置において、乾溜炉1の下部には乾溜炉1内の温度Tを検知する温度センサ42が取着され、燃焼炉3には燃焼炉3内の温度Tを検知する温度センサ43が、バーナ部25の先端部に臨む位置に取着されている。温度センサ42,43の検知信号は制御装置17に入力される。
【0050】
次に、本実施形態の装置による廃棄物の焼却処理方法について、図1および図2を参照しながら説明する。
【0051】
図1に示す装置において、廃棄物Aを焼却処理する際には、まず、乾溜炉1の投入扉4を開き、投入口5から廃棄物Aを乾溜炉1内に投入する。前記廃棄物Aは、廃紙、廃木材、廃プラスチック等を主とする各種廃棄物を混合して、乾溜炉1内における乾溜により発生する可燃性ガスが安定して燃焼を継続するときにその燃焼温度が800℃以上になる熱量を有するように調整されており、本実施形態ではさらに燃焼温度が850℃以上になる熱量を有するように調整されている。
【0052】
なお正確には、上記燃焼温度は、空気供給路13を介して供給される空気により、乾溜炉1での廃棄物Aの燃焼および燃焼炉3の可燃性ガスの燃焼が行われる場合に想定される燃焼温度であり、酸素供給路15を介して高濃度酸素が供給される場合に想定される燃焼温度とは異なる。
【0053】
次いで、投入扉4を閉じて乾溜炉1内を密封状態としたのち、前記廃棄物Aの着火に先立って、制御装置17により燃焼炉3の燃焼装置35を作動させることにより、前記燃料の燃焼による暖気運転を開始する。具体的には、図2に示す経時変化を示すグラフにおいて、時刻tで燃料の燃焼が開始される。
【0054】
次に、燃焼炉3内の温度Tは前記燃料の燃焼により次第に上昇し、時刻t1で温度センサ43により検知される温度Tが800℃を超えると、制御装置17により乾溜炉1の着火装置22が作動されて廃棄物Aに着火され、廃棄物Aの部分的燃焼により発生する可燃性ガスを前記燃料と共に燃焼炉3内で燃焼させる助燃運転が開始される。
【0055】
この着火時の助燃運転では、図2に示すように、乾溜炉1内の温度センサ42の検出温度に応じて制御装置17が空気供給路13の制御弁13aを段階的に開放する。このように、廃棄物Aへの着火から廃棄物Aの燃焼が持続されるまでの第1段階においては、酸素供給路15からの高濃度酸素の供給は行わず、専ら空気供給路13を介して供給される空気により、廃棄物Aに火床を形成する。
【0056】
これにより、乾溜炉1全体に空気が行き渡り、廃棄物Aへ着火後の火床の形成を促進することができ、廃棄物Aの燃焼が持続する状態を短時間に実現することができる。
【0057】
なお、この助燃運転では、燃焼炉3内の温度センサ43の検出温度が800℃以下となると、燃焼装置35を作動させて燃焼炉内の温度が800℃を上回るように維持する。このような燃焼装置35の動作により、燃焼炉3内の温度は、図2に示すように、800℃前後で細かく振れ、燃焼装置35の作動に応じてその燃料が消費される。
【0058】
次に、制御装置17は、乾溜炉1内の温度センサ42の検出温度が例えば100℃(本発明の第1所定温度に相当する)に達すると、火床が形成されて、廃棄物Aの燃焼が持続される状態となったと判定し、乾溜炉1への酸素の供給を第1酸素供給手段から第2酸素供給手段に切り替える。
【0059】
すなわち、火床が形成されて、これによる廃棄物Aの燃焼が持続される状態となる第2段階においては、乾溜炉1への酸素供給が空気供給路13による空気の供給から酸素供給路15による高度濃度酸素の供給に切り替えられる。
【0060】
この切り替えは、(1)廃棄物の燃焼を持続するのに必要な酸素量が維持されると共に、(2)空気供給路13による空気の供給量を減少させつつ、酸素供給路15による高度濃度酸素の供給量を増加させることにより徐々に変更される。
【0061】
具体的には、図2に示すように、時刻tから空気供給路13に設けられた制御弁13aを絞り、乾溜炉1に供給される空気の供給量を減少させると共に、この減少量の1/5の高濃度酸素を酸素供給路15に設けられた制御弁15aを開放することにより供給する。
【0062】
なお、空気の減少量に対して、その1/5の高濃度酸素の供給量を増加させるのは、空気中に含まれる酸素がその体積の約1/5だからである。これにより、廃棄物Aの燃焼を持続するのに必要な酸素量を維持することができる。
【0063】
このようにして、空気と高濃度酸素とを切り替えることで、切り替えが乾溜炉1内の廃棄物Aの燃焼の外乱となることを防止することができる。
【0064】
そして、廃棄物Aの燃焼を持続するのに必要な高濃度酸素が乾溜炉1に供給されると、廃棄物Aの燃焼と無関係な空気中の窒素成分が乾溜炉に供給されることがなく、窒素成分による乾溜炉1内の雰囲気温度の低下が抑制され、乾溜炉1内の温度を高温にすることができる。具体的には、図2に示すように、高濃度酸素への切り替えが進むにつれて、乾溜炉1内の温度センサ42の検出温度が急激に上昇する。
【0065】
さらに、乾溜炉1内の温度を高温にすることで、燃焼炉3に供給される可燃性ガスの温度を高温にすることができ、可燃性ガスの供給による燃焼炉3の温度低下を抑制することができる。加えて、空気中の窒素成分が可燃性ガスと共に燃焼炉3に供給されることがないため、窒素成分の温度を燃焼炉3の雰囲気温度まで上昇させる必要もない。具体的には、図2に示すように、乾溜炉1内の温度上昇に伴って、燃焼炉3内の温度センサ43の検出温度も上昇し、切り替え開始の時刻t以降、燃焼装置35の作動が不要となる。
【0066】
これに対し、図2に破線で示すように、高濃度酸素への切り替えを行わない場合には、廃棄物Aの燃焼が持続される状態となった後も(時刻t以降も)、燃焼装置35を作動させて助燃を行う必要がある。そして、燃焼炉3内の温度が可燃性ガスの自燃のみで800℃を超える状態となる時刻t´まで、このような助燃を行う必要がある。
【0067】
このように、本実施形態の装置によれば、空気から高濃度酸素への切り替えを行うことで、廃棄物Aの燃焼が持続された後の燃焼炉3の温度低下が抑制され、助燃に要する時間を時刻t´から時刻tまで短縮することができると共に、この間の助燃に要する燃料を節約することができる。
【0068】
次に、制御装置17は、時刻tで乾溜炉1内の温度センサ42の検出温度が800℃(本発明の第2温度に相当する)以上であると判定すると、水蒸気発生装置20を作動させて乾溜炉1内に供給される高濃度酸素に水蒸気を混合する。
【0069】
具体的には、図2に示すように、時刻tから水蒸気を混合した高濃度酸素を乾溜炉1内に供給する。これにより、乾溜炉1内の温度は若干低下する。これは、水蒸気から水性ガスを生成される反応が吸熱反応であることに起因する。ただし、乾溜炉1内の温度を水性ガスの反応温度である800℃以上に維持することで、水蒸気から水性ガスを持続的に発生させることができる。
【0070】
そして、乾溜炉1内で発生した水性ガスが可燃性ガスと共に燃焼炉3内に供給されることで、高カロリーの気体燃料である水性ガスにより、燃焼炉3内の温度をさらに上昇させることができる。これにより、燃焼炉における発熱量を増大させることができ、燃焼炉3内の温度が一時的に低下して助燃が必要となるような事態を回避することができる。
【0071】
次いで、燃焼炉3内の温度が1200℃前後で安定した時刻tで、ガス通路2に連通した連通管28の制御弁28aを開放すると共に、ガス通路2の制御弁2aを若干絞ることで、乾溜炉1内で発生した水性ガスおよび可燃性ガスをエンジン27内に導入し、エンジン27を、これらのガスを燃焼として駆動させることができる。
【0072】
このとき、水性ガスは、エンジン27で燃料として利用されると水蒸気となるため、これらのガスと共にエンジン27に導入されるタール分を水蒸気と共に排気することができる。これにより、例えば、エンスト等のような、タール分に起因した不具合の発生を抑制することができる。
【0073】
以上、詳しく説明したように、本実施形態の乾溜ガス化焼却処理装置によれば、火床が形成されて廃棄物Aの燃焼が持続される状態(第2段階)になると、乾溜炉1への酸素供給が第1酸素供給手段から第2酸素供給手段に切り替えられ、廃棄物Aの燃焼を持続するのに必要な高濃度酸素が乾溜炉1に供給される。そのため、廃棄物Aの燃焼と無関係な空気中の窒素成分が乾溜炉1に供給されることがなく、乾溜炉1内の温度を高温にすることができる。そして、乾溜炉1内の温度を高温にすることで、燃焼炉3に供給される可燃性ガスの温度を高温にすることができ、燃焼炉の温度低下を抑制して、助燃に要する時間と燃料とを節約することができる。
【0074】
尚、本実施形態では、高濃度酸素供給源16として酸素ボンベを用いたが、これに限定されるものではなく、既知の酸素発生装置等を用いるようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態では、乾溜炉1内の温度センサ42の検出温度が100℃となったことをトリガとして、廃棄物Aに火床が形成されたと判断したが、これに限定されるものではない。例えば、これに加えてまたは替えて、ガス通路2内に、酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段を設け、この検出値が所定値以下(例えば3%以下)である場合に、(供給した酸素が火床で消費されるだけの燃焼が持続可能な)火床が形成されたと判断するようにしてもよい。
【0076】
さらに、本実施形態では、水蒸気発生装置20から供給された水蒸気を、高濃度酸素供給源16から供給された高濃度酸素と共に、空室7から乾溜炉1内に導入されるが、水蒸気の乾溜炉1への導入方法はこれに限定されるものではない。
【0077】
例えば、空室7の一部を区切って、空気および高濃度酸素の供給経路と、水蒸気の供給経路とを別にしてもよい。この場合、水蒸気供給管21を区切られた空室7に接続することで、水蒸気発生装置20から供給される水蒸気を(高濃度酸素と混合することなく)直接乾溜炉2内に導入することができ、高濃度酸素との混合により水蒸気の一部が水に液化することを抑制して、乾溜炉1内で水性ガスを発生させることができる。
【符号の説明】
【0078】
1…乾溜炉、3…燃焼炉、13…空気供給経路(第1酸素供給手段)、14…押込みファン(第1酸素供給手段)、15…酸素供給経路(第2酸素供給手段)、16…酸素ボンベ(第2酸素供給手段)、17…制御装置(供給切替手段)、20…水蒸気発生装置、27…エンジン(内燃機関)、42…温度センサ(乾溜炉温度検知手段)、43…温度センサ(燃焼炉温度検知手段)、A…廃棄物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物を収納すると共に、該廃棄物の一部を燃焼させつつ該燃焼熱により該廃棄物の残部を乾溜して可燃性ガスを発生させる乾溜炉と、該乾溜炉から導入される可燃性ガスを燃焼させる燃焼炉と、該燃焼炉に導入される可燃性ガスの量に応じてその燃焼に要する酸素を燃焼炉に供給する燃焼酸素供給手段と、該燃焼炉内における温度を検知する燃焼炉温度検知手段と、該燃焼炉における該可燃性ガスの燃焼が開始された後に該燃焼炉温度検知手段により検知される該燃焼炉内の温度を予め設定された設定温度に維持するように該乾溜炉への酸素供給量を調整しつつ該廃棄物の一部の燃焼に必要な酸素を該乾溜炉に供給する乾溜酸素供給手段とを備えた乾溜ガス化焼却処理装置であって、
前記乾溜酸素供給手段は、空気を供給する第1酸素供給手段と、高濃度酸素を供給する第2酸素供給手段と、前記乾溜炉への酸素の供給を該第1酸素供給手段と該第2酸素供給手段との間で切り替える供給制御手段とを有し、
前記乾溜酸素供給制御手段は、前記廃棄物への着火から該廃棄物の燃焼が持続されるまでの第1段階において、第1酸素供給手段により空気を前記乾溜炉へ供給すると共に、該廃棄物の燃焼が持続される第2段階において、該乾溜炉への酸素供給を第1酸素供給手段から第2酸素供給手段に切り替えて、該第2酸素供給手段により該廃棄物の燃焼を持続するのに必要な高濃度酸素を該乾溜炉に供給することを特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の乾溜ガス化焼却処理装置において、
前記供給制御手段は、前記廃棄物の燃焼が持続されるか否かを、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が第1所定温度以上となっていることと、該乾溜炉で発生した可燃性ガスに含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度検出手段の検出値が所定値以下となっていることとのいずれか一方または両方に基づいて判定することを特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の乾溜ガス化焼却処理装置において、
前記供給制御手段は、前記第2段階において、前記廃棄物の燃焼を持続するのに必要な空気に含まれる酸素量を維持するように、前記第1酸素供給手段の空気を減少させると共に前記第2酸素供給手段の高濃度酸素を増加させ、該第1酸素供給手段から該第2酸素供給手段に切り替えることを特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の乾溜ガス化焼却処理装置において、
前記乾溜酸素供給手段は、前記乾溜炉へ供給する酸素に水蒸気を混合する水蒸気混合手段を有し、
前記乾留酸素供給制御手段は、前記第2段階において、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上の場合に、前記第2酸素供給手段により乾溜炉へ供給する高濃度酸素を供給すると共に、前記水蒸気混合手段を介して該高濃度酸素に水蒸気を混合することを特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のうちいずれか1項記載の乾溜ガス化焼却処理装置において、
前記第2段階において、前記乾溜炉に設けられた温度検出手段の検出温度が水蒸気から水性ガスへの反応温度である第2温度以上の場合に、水蒸気を乾溜炉内に供給する水蒸気供給手段を備えることを特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか1項記載の乾溜ガス化焼却処理装置において、
前記第2段階において、前記乾溜炉から発生する可燃性ガスの一部が燃料として供給される内燃機関を備えること特徴とする乾溜ガス化焼却処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−78032(P2012−78032A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224906(P2010−224906)
【出願日】平成22年10月4日(2010.10.4)
【出願人】(391060281)株式会社キンセイ産業 (17)
【Fターム(参考)】