説明

乾燥モルタル配合物のためのセルロースエーテル組成物

【課題】硬化した乾燥モルタル配合物の機械的強度およびオープンタイムを悪化させることなく乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を改良する。
【解決手段】(メタ)アクリルポリマーおよびセルロースエーテルを含み、(メタ)アクリルポリマーの量がセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%である、乾燥モルタル配合物を改変するための改変剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥モルタル配合物、特にセメント質結合タイル接着剤(CBTA)の製造に使用するためのセルロースエーテル組成物に関する。本発明は、さらに当該セルロールエーテル組成物を含む乾燥モルタル配合物に関する。さらに、本発明は、硬化した乾燥モルタル配合物の機械的強度およびオープンタイムを悪化させることなく乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤は、例えば、住居用および商業用建物の床もしくは壁上にタイルを設置するために使用される。局所的な建築技術、地域におけるニーズおよび建築における伝統に応じて、原料の選択および性能基準、並びに接着剤を試験するための基準およびガイドラインは国によって異なっている。
【0003】
言及された相違以外には、重要な性能基準は、あらゆる場合において、引張接着強さ、オープンタイムおよび耐スリップ性である。耐スリップ性は、タイル張りのためのセメントベースのタイル接着剤についての、並びに他の乾燥モルタル用途についての重要な特徴である。モルタルについての良好な耐スリップ性は、タイルを非水平な領域上に、もちろん垂直な面上に取り付ける際に必要である。
【0004】
しかし、CBTAのみが関係しているわけではない。上述の事項は、原則として、スリップが問題となる、例えば、生成物が垂直な基体上に適用される全ての乾燥モルタル配合物に当てはまる。よって、手作業または機械的に適用される石膏プラスター、セメントレンダー(cement renders)、耐水膜、ETICS(=外断熱複合材料システム)のような断熱システム用鉱物コーティングも関係している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によって取り組まれる課題は、少なくとも向上した耐スリップ性を有し、少なくとも許容可能なオープンタイムおよび/または硬化した乾燥モルタル配合物の許容可能な機械的強度、例えば、引張接着強さを有する乾燥モルタル配合物、例えば、セメント質結合タイル接着剤を提供することであった。本発明により取り組まれるさらなる課題は、標準乾燥モルタル配合物、例えば、セメント質結合タイル接着剤に添加されうる改変用組成物(すなわち、改変剤組成物)であって、標準乾燥モルタル配合物に少なくとも向上した耐スリップ性、少なくとも許容可能なオープンタイムおよび/または硬化した乾燥モルタル配合物の許容可能な機械的強度を付与する改変剤組成物を提供することであった。
【0006】
本発明者は、標準乾燥モルタル配合物に添加される場合に、セルロースエーテルと組み合わされた少なくとも特定の種類の超可塑剤、すなわち(メタ)アクリル酸ポリマーおよびその誘導体が比較的少量で、オープンタイムおよび硬化した乾燥モルタル配合物の機械的強度を悪化させることなくその乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を効果的に向上させることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の形態においては、(メタ)アクリルポリマーおよびセルロースエーテルを含み、(メタ)アクリルポリマーの量がセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%である、乾燥モルタル配合物を改変するための組成物(すなわち、改変剤組成物)が提供される。
本発明の第2の形態においては、(メタ)アクリルポリマーの量がセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%である(メタ)アクリルポリマーおよびセルロースエーテルを含む組成物の、標準乾燥モルタル配合物のための改変剤組成物としての使用が提供される。
本発明の第3の形態においては、(メタ)アクリルポリマーの量がセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%である(メタ)アクリルポリマーおよびセルロースエーテルを含む改変剤組成物と、標準乾燥モルタル配合物とを含む改変された乾燥モルタル配合物が提供される。
本発明の第4の形態においては、a)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;およびb)本発明に従った改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、本発明に従った改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程:を含む、改変された乾燥モルタル配合物を製造する方法が提供される。
本発明の第5の形態においては、a)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;b)本発明に従った改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、本発明に従った改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程;c)改変された乾燥モルタル配合物に水を混合する工程;並びに、d)水を含む改変された乾燥モルタル配合物を標準の方法で処理する工程:を含む、オープンタイムおよび/または硬化したときの乾燥モルタル配合物の引張接着強さを悪化させることなく乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を向上させる方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
超可塑化効果を有すること、すなわち、例えば、バインダー組成物に添加される場合にバインダー組成物の流動性を増大させる効果を有することが知られており、よって超可塑剤として通常使用される物質の組み込みが、比較的少量で添加される場合でも耐スリップ性を向上させることは驚くべきことである。さらに、超可塑剤の添加は乾燥モルタル配合物、特にセメント質結合タイル接着剤のオープンタイムおよび硬化後の機械的強度に対して悪影響を及ぼさず、またはさらにはよい効果をもたらすことは驚くべきことであった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
可塑剤、超可塑剤(superplasticizers)、液化剤(liquefiers)、減水剤(water reducers)または分散剤はバインダー粒子を分散させ、それらが添加されるバインダー材料(セメントもしくは石膏)の流動性を増大させる添加剤である。コンクリートのための配合物におけるそれらの使用は何年にもわたって周知であり;それらは水−セメント比を低減させ、作業性、レオロジー(ポンプ能力)およびそれが固化した後の最終生成物の圧縮強度を向上させるために使用される。超可塑剤は、その混合物の流動性を増大させ、水の使用を低減させ、よって壁板の乾燥のためのエネルギーを低減させるために壁板に対しても使用される。超可塑剤は乾燥モルタル混合物、例えば、自己平坦化下地、スクリードおよびコテ塗り化合物の成分でもあり、作業性、自由流動能力を可能にする表面の滑らかさ、並びに自己修復特性を向上させる。
【0010】
可塑剤および超可塑剤はリグノスルホナート、例えば、粉体(Na塩、Ca塩もしくはアンモニウム塩)もしくは液体、またはカゼインのような天然産物から選択されうる。それらは合成品からも選択されうる。合成的に製造された超可塑剤は、一般にスルホン化ナフタレン縮合体(スルホナートホルムアルデヒド、BNS)もしくはスルホン化メラミンホルムアルデヒド(ポリメラミン−ホルムアルデヒド−スルフィド、PMS)、またはポリカルボキシラートエーテルから製造された重縮合体の群に属する。
【0011】
本発明において改質剤組成物における化合物として使用される「超可塑剤」、すなわち(メタ)アクリル酸ポリマーは好ましくは水溶性もしくは水分散性ポリマー、コポリマーまたはターポリマーである。これらは好ましくはポリ(メタ)アクリル酸もしくはその誘導体、または少なくとも(メタ)アクリル酸モノマーと1種以上のさらなるエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーもしくはターポリマー(または、その誘導体)である。対応する塩も用語「(メタ)アクリル酸ポリマー」の範囲に含まれる。用語「(メタ)アクリル」とはアクリルもしくはメタクリルまたはその両方の混合物を意味する。
【0012】
超可塑剤は典型的には(メタ)アクリル酸コポリマー、好ましくは(メタ)アクリル酸(すなわち、アクリル酸、メタクリル酸、もしくはこれらの組み合わせ)とポリアルキレンオキシド単位を含むエチレン性不飽和モノマーの少なくとも1種とを含むコポリマーである。より好ましくは、(メタ)アクリル酸コポリマーは(メタ)アクリル酸と、ポリアルキレンオキシド単位を含むエチレン性不飽和モノマーの少なくとも1種と、任意のさらなる種類のエチレン性不飽和コモノマーとのコポリマーである。用語、(メタ)アクリル酸コポリマーとは、コポリマーの脱プロトン化および部分的脱プロトン化形態、すなわち、それらの塩、例えば、それらのナトリウム塩、カリウム塩およびアンモニウム塩を含む。
【0013】
より具体的には、(メタ)アクリル酸コポリマーは重合形態の以下のものを含む:
(a)アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上の(メタ)アクリル酸モノマー;
(b)式(I):
−Y−(R−O)−R
(式中、Rはビニル、アリル、アクリロイルもしくはメタクリロイルであり、好ましくはRは(メタ)アクリロイルであり;
YはO、S、PHもしくはNHであり、好ましくはYはOであり;
は線状もしくは分岐でありうるC〜Cアルキレンであり、各RはR−Y−(R−O)−Rの1分子内で同じかまたは異なっていてよく、好ましくはRはエチレンであり;
Xは10〜500、好ましくは100〜300の整数であり;並びに
はH、脂肪族(環式脂肪族も含む)、芳香族、もしくは脂肪族芳香族炭化水素基であり、好ましくはRはC〜C30脂肪族基、またはC〜C30芳香族基であり、より好ましくはC〜C30芳香族基、例えば、フェニルである)
に従った1種以上のエチレン性不飽和ポリアルキレンオキシドモノマー;並びに
(c)場合によって、モノマー(a)および(b)とは異なる、1種以上のエチレン性不飽和コモノマー、好ましくはスルホン酸基のような硫黄含有部分を含むエチレン性不飽和コモノマー。好適な任意のコモノマー(c)の例は(メタ)アリルスルホン酸である。
【0014】
モノマー(a)および(b)の双方はそれぞれ互いに独立して1〜99重量%、例えば、5〜95重量%の量で存在しうる。好ましくはモノマー(a)は10〜93重量%の量で存在しうる。好ましくはモノマー(b)は1.5〜30重量%の量で存在しうる。任意のモノマー(c)は0〜60重量%、好ましくは0〜30重量%の量で存在しうる。これらの量は対象となっているプロトン化モノマーおよびプロトン化コポリマーに基づいて計算される。好ましい(メタ)アクリル酸ポリマーは典型的には、DIN51757に従い200〜600g/lの嵩密度、およびDGF H−III1に従う水中5%溶液中で測定して5.5〜8.5のpHを有する。このような(メタ)アクリル酸ポリマーの商業的に入手可能な例は、マイティー(Mighty登録商標)シリーズ(花王ケミカルズ)、特にメタクリル酸もしくはその塩とアリール末端ポリエチレングリコールメタクリラートとのコポリマーを含み、このポリエチレングリコール単位が約170単位を有するマイティー21PSN、並びにマイティー21PSDのポリマーである。
【0015】
上述のように、本発明に従う改質剤組成物中に存在する(メタ)アクリル酸ポリマーの量はセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%の範囲である。(メタ)アクリル酸ポリマーの量の好ましい範囲は、セルロースエーテルの重量を基準にして0.1〜10%、より好ましくは0.3〜5%、最も好ましくは0.5〜4%である。
【0016】
本発明に従う改質剤組成物中に存在するセルロースエーテルは好ましくは、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロースもしくはアルキルヒドロキシアルキルセルロース、場合によっては2種以上の異なるアルキルおよび/もしくはヒドロキシアルキル置換基を有するそれぞれのものか、または上記セルロース誘導体の2種以上の混合物から選択される。
【0017】
選択的にもしくは追加的に、本発明に従った組成物は1種以上の水溶性もしくは少なくとも水膨潤性の多糖、例えば、ペクチン、グアーガム、グアーエーテルのようなグアー誘導体、アラビアガム、キサンタンガム、冷水可溶性デンプン、デンプンエーテルのようなデンプン誘導体、および/またはキチンを含むことができる。セルロースエーテルおよびこれらの化合物は水保持助剤としておよびレオロジー改変剤(増粘剤)として機能する。本発明に従って、イオン性多糖および非イオン性多糖またはこれらの誘導体、特に熱凝集点を有するセルロースエーテルおよび熱凝集点を有しないセルロースエーテルが使用されうる。
【0018】
以下のものは本文中、本発明と共に使用されうるセルロースエーテルの好ましい例のリストである:ヒドロキシアルキルセルロース{例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒドロキシプロピルヒドロキシエチルセルロース(HPHEC)};カルボキシ−アルキルセルロース{例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)};カルボキシアルキルヒドロキシアルキルセルロース{カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)およびカルボキシメチル−ヒドロキシプロピルセルロース(CMHPC)};スルホアルキルセルロース{例えば、スルホエチルセルロース(SEC)およびスルホプロピルセルロース(SPC)};カルボキシアルキルスルホアルキルセルロース{例えば、カルボキシメチルスルホエチルセルロース(CMSEC)およびカルボキシメチルスルホプロピルセルロース(CMSPC)}ヒドロキシアルキルスルホアルキルセルロース{例えば、ヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(HESEC)、ヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(HPSEC)およびヒドロキシエチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(HEHPSEC)};アルキルヒドロキシアルキルスルホアルキルセルロース{例えば、メチルヒドロキシエチルスルホエチルセルロース(MHESEC)、メチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(MHPSEC)およびメチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルスルホエチルセルロース(MHEHPSEC)};アルキルセルロース{例えば、メチルセルロース(MC)およびエチルセルロース(EC)};バイナリーもしくはターナリーアルキルヒドロキシアルキルセルロース{例えば、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)およびエチルヒドロキシプロピルセルロース(EHPC)};エチルメチルヒドロキシエチルセルロース(EMHEC)};エチルメチルヒドロキシプロピルセルロース(EMHPC)};アルケニルセルロース並びにイオン性および非イオン性アルケニルセルロース混合エーテル{例えば、アリルセルロース、アリルメチルセルロース、アリルエチルセルロース、およびカルボキシ−メチルアリルセルロース)};ジアルキルアミノアルキルセルロース{例えば、N,N−ジメチルアミノエチルセルロースおよびN,N−ジエチルアミノエチルセルロース};ジアルキルアミノアルキルヒドロキシアルキルセルロース{例えば、N,N−ジメチルアミノエチルヒドロキシエチルセルロース、およびN,N−ジメチルアミノエチルヒドロキシプロピルセルロース};アリール−、およびアリールアルキル−、およびアリールヒドロキシアルキルセルロース{例えば、ベンジルセルロース、メチルベンジルセルロースおよびベンジルヒドロキシエチルセルロース};並びに、C3〜C15炭素原子のアルキル残基またはC7〜C15炭素原子のアリールアルキル残基を有する、疎水性改質グリシジルエーテルと上記セルロースエーテルとの反応生成物。特に好ましい多糖もしくは多糖誘導体はセルロース誘導体であり、特に、水可溶性および/または有機物可溶性セルロースエーテル、例えば、メチルセルロースエーテル(MC)、エチルセルロースエーテル(EC)、カルボキシメチルセルロースエーテル(CMC){好ましくは、これらの塩、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロースエーテルなど}、メチルヒドロキシエチルセルロース(MHEC)、メチルヒドロキシプロピルセルロース(MHPC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、エチルヒドロキシプロピルセルロース(EHPC)、メチルヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(MHEHPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)およびヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、並びに、C2〜C18炭素原子の長鎖線状もしくは分岐アルキル基、またはC7〜C15炭素原子のアリールアルキル基を含む試薬と上記セルロースエーテルとの反応生成物などである。
【0019】
乾燥モルタル配合物を改変するための組成物は、限定された状況下で、追加的に、ポゾランの群から選択される1種以上の化合物を含む。本明細書において使用される場合、「ポゾラン」とは、それ自体がバインダーとして機能できないが、水およびライムと一緒になって、セメント様特性を有する水不溶性化合物を形成する、シリカ含有、またはシリカおよびアルミナ含有天然もしくは合成材料をいう。天然ポゾランと合成ポゾランとの間での区別がなされる。天然ポゾランには、火山由来のガラス富化灰および岩石、例えば、軽石、トラス(微粉砕凝灰岩)、サントリンアース(Santorin earth)、珪藻土、角岩(ケイ石)、チャートおよびモラーアース(moler earth)が挙げられる。合成ポゾランには、焼成、粉砕クレイ(粉砕レンガ)、石炭火力発電所からの灰のようなフライアッシュ、シリカダスト、オイル頁岩アッシュ(オイル頁岩=瀝青石灰含有頁岩)および焼成カオリン(メタカオリン)が挙げられる。使用される場合には、好ましいポゾランは、軽石、トラス、サントリンアース、珪藻土、角岩、チャート、モラーアース粉砕物、レンガ、フライアッシュ、シリカダスト、オイル頁岩アッシュ、およびメタカオリンからなる群から選択される。本発明の組成物に加えられる場合、ポゾランの量は、有効であるために、最終乾燥モルタル中にポゾランが乾燥モルタル基準で少なくとも0.5重量%の量で存在するような用量であるべきである。
【0020】
乾燥モルタル配合物を改変するための組成物はポリアクリルアミド(PAA)および/またはデンプンエーテルのような天然および/または合成増粘剤を追加的に含むこともできる。本発明の組成物に添加される場合には、PAAのような合成増粘剤の量はセルロースエーテルの重量を基準にして0.01〜10%の範囲であることができる。天然増粘剤としてのデンプンエーテルの場合には、その量はセルロースエーテルの重量を基準にして10〜50%の範囲であることができる。
【0021】
本発明に従った組成物は追加的に水に再分散可能な1種以上のポリマー粉体を含むことができる。乾燥混合モルタル中でのこのような水に再分散可能なポリマー粉体の使用は一般的であり、種類および添加割合に応じて、いくつかの特性のうちで二、三のみを挙げると、あらゆる種類の基体上での接着性、モルタルの変形性、曲げ強度および耐摩耗性を向上させることが知られている。ポリマー粉体は、非分岐もしくは分岐のC〜C15アルキルカルボン酸のビニルエステル、C〜C15アルコールの(メタ)アクリルエステル、ビニル芳香族、オレフィン、ジエンおよびハロゲン化ビニルの群から選択される1種以上のモノマーのホモポリマーおよび/またはコポリマーおよび/またはターポリマーから選択される1種以上の化合物を含むことができる。水に再分散可能なポリマー粉体は、例えば、上記ホモポリマーおよび/またはコポリマーに基づく水ベースの分散物の噴霧乾燥技術によって製造される。水に再分散可能なポリマー粉体は保護コロイドおよび抗ブロッキング(antiblocking)剤から選択される1種以上の化合物を含むことができる。欧州特許出願公開第1498446A1号はこのような水に再分散可能なポリマー粉体を製造する方法および例を開示する。本発明の組成物に添加される場合には、水に再分散可能なポリマー粉体の量はセルロースエーテルの重量を基準にして50%以下であることができる。本発明の組成物に添加される場合には、再分散可能なポリマー粉体の量は、有効であるためには、再分散可能なポリマー粉体が最終乾燥モルタルにおいて、乾燥モルタルを基準にして少なくとも0.5〜25重量%の量で存在するような用量にされるべきである。改質剤組成物に関して再計算される場合、これは、改質剤組成物中の再分散可能なポリマー粉体の量がセルロースエーテルに対して100〜1000重量%の範囲であることができることを意味する。
【0022】
本発明に従った添加剤組成物の化合物は「別の粒子状化合物として」組成物中に含まれることが好ましい。このことは、必須のおよび好ましくは上述の任意の追加の化合物も任意の順にブレンドされて、当該化合物を含む粒子ブレンドを生じさせることを意味する。好ましくは、化合物はブレンドの前に別々の形態で提供される。しかし、化合物は純粋な形態で提供されることは必須ではなく、各化合物は追加の任意成分を含む組成物として提供されてもよい。用語「別の粒子状化合物として」の理解のための決め手となるのは、複数の化合物がブレンド前に互いに反応しておらず、かつ水の非存在下互いに反応しないであろうことである。いずれの化合物も他の化合物の1つのマトリックス(ポリマー)に埋め込まれていないことも意味する。
【0023】
本発明に従った改変剤組成物は乾燥モルタル配合物、例えば、手作業または機械的に適用される石膏プラスター、セメントレンダー、耐水膜、ETICSのような断熱システム用鉱物コーティングに使用されることが特に意図される。組成物は乾燥モルタル配合物を製造する際に乾燥モルタル配合物の成分に混合されうる。あるいは、本発明に従った組成物は、本発明に従った改変剤組成物を最初に含まない標準乾燥モルタル配合物に後で添加されうる。よって、本発明の内容は、単一包装ユニットで包装される場合における、乾燥モルタル配合物を改変するための組成物でもある。このような単一包装ユニットは標準乾燥モルタル配合物とは別に販売されることができる。
【0024】
本発明の別の実施形態においては、組成物からの少なくとも1種の化合物は第1の包装ユニットに別個に包装され、一方、この組成物からの残りの化合物は第2の包装ユニットに包装される。これは、少なくとも2種の異なる化合物もしくは組成物がそれぞれ少なくとも1つの包装ユニットに包装され、複数の包装ユニットに包装される化合物もしくは組成物をあわせたものが上述のような本発明の改変剤組成物に対応する、少なくとも2種の異なる化合物もしくは組成物を含むキットである。この2以上の包装ユニットは標準乾燥モルタル配合物とは別個に販売されることができる。例えば、このキットの1実施形態は以下のものであり得る:包装ユニットの少なくとも1つにセルロースエーテルが包装され、セルロースエーテルを含まない包装ユニットの少なくとも1つに(メタ)アクリル酸ポリマーが包装される。
【0025】
本発明のさらなる内容は標準乾燥モルタル配合物のための改変剤組成物としての組成物の使用である。本発明の改変剤組成物が添加されうる標準乾燥モルタル配合物は少なくともセメントを含む。意図される用途に応じかつ当業者に知られている様に、さらなる成分が添加されうる。
【0026】
すでに上述したように、本発明に従った改変された乾燥モルタル配合物は標準乾燥モルタル配合物および上で詳細に特定された改変剤組成物を含む。好ましくは、改変剤組成物は、改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして0.05〜15%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.2〜1%の量で存在する。
【0027】
本発明は、改変された乾燥モルタル配合物を製造する方法も提供する。この製造方法はa)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;およびb)上記詳細に特定された改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、上記詳細に特定された改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程:を含む。好ましくは、改変剤組成物は、改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして0.05〜15%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.2〜1%の量で存在する。
【0028】
本発明に従って改変された乾燥モルタル配合物を製造する際に、改変剤組成物中の必須のおよび任意の化合物の相対量は、最終的な改変された乾燥モルタル配合物に必要とされる全量に合わせられるべきである。標準乾燥モルタル配合物中にすでに存在する化合物の量を踏まえると、好適な量の必須のおよび任意の化合物を含む改変剤組成物を調製することは当業者の知識の範囲内のことである。例えば、標準乾燥モルタル配合物がポゾランをすでに含む場合には、追加の量のポゾランが本発明に従った改変剤組成物に必ず添加される必要があるわけではない。最終的な改変された乾燥モルタル配合物中の様々な化合物の合計量は、当業者の知識およびルーチン試験に基づいて当業者によって特定されうる好適な範囲内であるべきである。例えば、本発明に従って水に再分散可能なポリマー粉体が改変剤組成物に添加される場合には、改変剤化合物中の全ての化合物の量および標準乾燥モルタル配合物に添加される改変剤組成物の量は、最終的な改変された乾燥モルタル配合物中の水に再分散可能なポリマー粉体の量が少なくとも0.5重量%であるように調節されるべきであるというのは、乾燥モルタル配合物中の水に再分散可能なポリマー粉体のさらに少ない量は、通常、効果的でないからである。
【0029】
最終的には、上述のように、本発明は、オープンタイムおよび/または硬化の際の乾燥モルタル配合物の引張接着強さを悪化させることなく、乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を向上させる方法を提供する。耐スリップ性を向上させる方法は、a)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;b)上で詳細に特定された改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、上で詳細に特定された改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程;c)改変された乾燥モルタル配合物に水を混合する工程;並びに、d)水を含む改変された乾燥モルタル配合物を標準の方法で処理する工程:を含む。好ましくは、改変剤組成物は、改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして0.05〜15%、好ましくは0.1〜10%、より好ましくは0.2〜1%の量で存在する。
【0030】
好ましくは、上で言及された方法の双方の工程b)において、改変剤組成物の化合物はあらかじめ準備された組成物の形態で組み合わせて混合され、このあらかじめの準備は任意の順に乾燥粒子状化合物をブレンドする工程を含む。
【0031】
以下の実施例においては、ある標準のおよび本発明に従って改変された乾燥モルタル配合物が、その特性のいくつかについて、すなわち、その耐スリップ性、引張接着強さおよびオープンタイムに関して試験された。この文脈中で、以下の背景情報が与えられる:
【0032】
欧州標準DIN EN12004およびDIN EN12002(国際標準ISO13007)は、タイルのための接着剤についての様々な性能基準を定義する。標準EN12004は全てのセラミックタイル接着剤、すなわち、セメント質(C)、分散物(D)および反応樹脂(R)接着剤についての性能要求の値を特定する。それぞれの種類は標準(タイプ1)もしくは改良(タイプ2)特性を有する2つのクラスに分けられうる。標準DIN EN12002はセメント質モルタルおよびグラウトの変形性を特定する。
【0033】
セメント質タイル接着剤(C)は引張接着強さ(DIN EN12004)および変形性(DIN EN12002)の観点から評定され分類される。引張接着強さは4つの異なる貯蔵条件について試験される。要件に応じて、セメント質タイル接着剤は、それぞれ、0.5N/mmの最小値を達成するC1として、または少なくとも1.0N/mmの接着強さのC2として分類される。この分類は以下の追加の特性を伴う:F=促進した硬化を伴うモルタル、T=低減したスリップを伴うモルタル、E=延長したオープンタイムを伴うモルタル、およびS=変形性(S1)または高度に変形性(S2)の接着剤。
【0034】
欧州標準EN12004およびEN12002の導入は、耐スリップ性、接着強さ、オープンタイムおよび横断変形(クラスS1およびS2)についてのクラスC1およびC2のセメントベースのタイル接着剤についての品質カテゴリーをもたらした。EN12004およびEN12002に従って特定されるセメント質タイル接着剤についての技術的要求は表1に概略的に示される。
【0035】
様々な貯蔵条件の後での高い接着強さは別にして、オープンタイムは重要な要因であり、適用された接着剤にタイルが埋め込まれることができ、特定の引張接着強さ要求を満たすことができる適用後の最大時間間隔として、試験標準EN1346において定義される。モルタルの最大オープンタイムは、最終的な接着強さにおける主たる損失なしにタイルが貼られうる最も遅い時点をいう。28日後に、標準接着剤について20分以上の埋め込み時間の後での0.5N/mm;速硬化性モルタルについて10分以上の埋め込み時間の後での少なくとも0.5N/mm;および高品質タイル接着剤についての30分以上の埋め込み時間の後での少なくとも0.5N/mmの最小要求で、引き剥がし(pull off)強さが決定される。EN−標準に従って、延長したオープンタイムについての最小要求は標準オープンタイムについて20分後に0.5N/mmから延長オープンタイムを有する接着剤について30分まで上昇させられる。
【0036】
【表1】

【0037】
1)EN12004に従う貯蔵条件は以下の通りである:標準=28日間、23℃;水=7日間23℃+21日間水浸漬;加熱=14日間23℃+14日間70℃+1日間23℃;霜=7日間23℃+21日間水浸漬+25回の霜−霜融解サイクル、EN1348に従う;4種の貯蔵条件(場合によって、加熱および霜−霜融解コンディショニング;「NPD=性能決定されなかった」として表示)。
2)EN12002に従う。
【実施例】
【0038】
本発明に従うセメント質タイル接着剤の性能は、セルロースエーテルの部分を(メタ)アクリルベースのポリマーで置き換えた配合物と、置き換えていない配合物とを比較することにより検討された。
表1において、参照としておよび本発明に従って試験された配合物がまとめられる。
【0039】
配合物はベース組成物として、35重量%の通常のポルトランドセメントCEMI52.5R(ミルケ、ドイツ)、31.05重量%のシリカ砂F32(Quarzwerke Frechen、ドイツ)、31.10重量%のシリカ砂F36(Quarzwerke Frechen、ドイツ)、2.0重量%の再分散可能な粉体(DLP2000、DWC、ドイツ)および0.4重量%のArbocel BWW40(セルロース繊維、リターンメイアー、ドイツ)を含む。
【0040】
さらに、配合物は、表2に示されるように、0.45重量%のセルロースエーテル(Walocel MKX6000PPV、ダウヴォルフセルロジクス(Dow Wolff Cellulosics)、ドイツ)、またはセルロースエーテル(WalocelMKX6000PPV)および(メタ)アクリルポリマー(メタクリル酸もしくはその塩とアリール末端ポリエチレングリコールメタクリラートとのコポリマーを含み、このポリエチレングリコール単位は約170単位を有する(マイティー21PSN、花王、日本国))からなるセルロースエーテル組成物を含む。
【0041】
配合物についての水/固形分割合は一貫性があるように固定されている。水/固形分割合および粘度(Brookfield RVT、スピンドル96、5rpm、23℃)の詳細については表1を参照。
【0042】
この試験は標準EN12004に従って、オープンタイムについてのサブ標準としてEN1346、および接着強さについてのサブ標準としてEN1348を用いて行われた。
【0043】
結果は、(メタ)アクリルポリマーの使用は、オープンタイムおよび接着強さのような他の鍵となる特性を悪化させることなく、またはさらにはこれらを改良しつつ、改良された耐スリップ性の観点から要求される性能を達成するためにセルロースエーテルの一部分についての置換物として好適に使用されることができることを明らかに示す。
【0044】
【表2】

【0045】
1.「セルロースエーテル組成物」は表中に特定されるように1種以上の以下の成分からなる:Walocelはメチルセルロース(Walocel MKX6000PPV、ダウヴォルフセルロジクス)であり、Mighty(マイティー)21PSNはメタクリル酸もしくはその塩とアリール末端ポリエチレングリコールメタクリラートとのコポリマーであり、このポリエチレングリコール単位は約170単位を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥モルタル配合物を改変するための組成物であって、(メタ)アクリルポリマーおよびセルロースエーテルを含み、(メタ)アクリルポリマーの量がセルロースエーテルの重量を基準にして0.05〜20%である組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリルポリマーの量が0.1〜10%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸ポリマーが、ポリアルキレンオキシド単位を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマーと(メタ)アクリル酸とを含むコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸コポリマーが、
(a)アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上の(メタ)アクリル酸モノマー;
(b)式(I):
−Y−(R−O)−R
(式中、Rはビニル、アリル、アクリロイルもしくはメタクリロイルであり;
YはO、S、PHもしくはNHであり;
は線状もしくは分岐でありうるC〜Cアルキレンであり、各RはR−Y−(R−O)−Rの1分子内で同じかまたは異なっていてよく;
Xは10〜500の整数であり;並びに
はH、脂肪族、芳香族、もしくは脂肪族芳香族炭化水素基である)
に従った1種以上のエチレン性不飽和ポリアルキレンオキシドモノマー;並びに
(c)場合によって、モノマー(a)および(b)とは異なる、1種以上のエチレン性不飽和コモノマー;
を重合した形態で含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸コポリマーが、
(a)アクリル酸およびメタクリル酸から選択される1種以上の(メタ)アクリル酸モノマー;
(b)式(I):
−Y−(R−O)−R
(式中、Rはメタクリロイルであり;
YはOであり;
はエチレンであり;
Xは100〜300の整数であり;並びに
はC〜C30脂肪族基またはC〜C30芳香族基である)
に従った1種以上のエチレン性不飽和ポリアルキレンオキシドモノマー;並びに
(c)場合によって、モノマー(a)および(b)とは異なる、1種以上のエチレン性不飽和コモノマー;
を重合した形態で含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
セルロースエーテルがアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロースもしくは前記セルロース誘導体の2種以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
標準乾燥モルタル配合物のための改変剤組成物としての、請求項1に記載の組成物の使用。
【請求項8】
改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして好ましくは0.05〜15%の量の請求項1に記載の組成物と、標準乾燥モルタル配合物とを含む改変された乾燥モルタル配合物。
【請求項9】
a)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;および
b)請求項1に記載の改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして好ましくは0.05〜15%の量の請求項1に記載の改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程:
を含む、改変された乾燥モルタル配合物を製造する方法。
【請求項10】
a)標準乾燥モルタル配合物を提供する工程;
b)請求項1に記載の改変剤組成物の化合物が個々にもしくは組み合わせて標準乾燥モルタル配合物に混合されうる、改変された乾燥モルタル配合物の重量を基準にして好ましくは0.05〜15%の量の請求項1に記載の改変剤組成物を標準乾燥モルタル配合物に混合する工程;
c)改変された乾燥モルタル配合物に水を混合する工程;並びに、
d)水を含む改変された乾燥モルタル配合物を標準の方法で処理する工程:
を含む、オープンタイムおよび/または硬化したときの乾燥モルタル配合物の引張接着強さを悪化させることなく乾燥モルタル配合物の耐スリップ性を向上させる方法。

【公開番号】特開2011−241393(P2011−241393A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−98845(P2011−98845)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(590000020)ザ ダウ ケミカル カンパニー (24)
【氏名又は名称原語表記】THE DOW CHEMICAL COMPANY
【Fターム(参考)】