説明

乾燥リンゴの製造方法及び乾燥リンゴ

【課題】白化し易く且つ硬い食感を呈し、非酵素的褐変が惹起されるおそれがある従来の乾燥リンゴの製造方法の課題を解決する。
【解決手段】トレハロースを溶解したトレハロース溶液にリンゴを浸漬したリンゴ含有溶液を減圧下で保持して、前記リンゴ内にトレハロース溶液を含浸し、次いで、前記リンゴ含有溶液を加熱処理して、前記リンゴに含有されている褐変酵素を失活させた後、前記リンゴ含有溶液を減圧下で加熱して水分を蒸発する蒸発処理を施しつつ、トレハロース溶液をリンゴ内に浸透せしめ、その後、トレハロースを含浸したリンゴに乾燥処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乾燥リンゴの製造方法及び乾燥リンゴに関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴの加工品として、乾燥リンゴが市販されているが、従来の乾燥リンゴは、生リンゴを砂糖含有溶液中に煮た砂糖煮を乾燥して得たものである。このため、乾燥リンゴは、褐色で硬く、且つ現在人にとって甘過ぎるものである。
この様な、従来の乾燥リンゴに対し、下記特許文献1では、甘味料として砂糖に代えてスクラロースを用いた乾燥リンゴが提案されている。
かかる乾燥リンゴは、スクラロースと水飴とを含有するシロップ中に生リンゴの切り身を入れて大気中で煮込んだ後、リンゴ含有のシロップを密閉容器内に密閉して冷蔵庫に15〜16時間保存し、次いで、シロップを切ったリンゴを乾燥させることによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−99679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1で得られた乾燥リンゴは、従来の市販されている乾燥リンゴに比較して、リンゴの風味を呈するものである。
しかし、リンゴ含有シロップを煮込んだ後、冷蔵庫で保管してリンゴ内にシロップを含浸させても、多孔質状のリンゴでは、シロップのリンゴ内への浸透が充分にできず、リンゴ内に空気が残留する。このため、空気が内部に残留するシロップ含有するリンゴを乾燥しても、白化した乾燥リンゴとなる。
また、スクラロースは、その甘味度が砂糖の600倍であるため、得られる乾燥リンゴの甘味を考慮すると、シロップ中のスクラロースの濃度を低濃度とせざるを得ない。このため、リンゴ含有シロップを煮込んだ後、冷蔵庫で保管してリンゴ内にシロップを含浸させても、スクラロースのリンゴ内への充分な浸透は期待できない。
しかも、砂糖を使用せず且つスクラロースのリンゴ内への浸透量が少ないため、乾燥リンゴの防腐性等の観点から乾燥程度を向上しなければならず、得られた乾燥リンゴは硬い食感を呈するものとなる。
更に、シロップ中に水飴が存在するため、乾燥等の際に、シロップ含有のリンゴに熱を加えるとメーラード反応による非酵素的褐変が惹起されるおそれがある。このため、シロップ含有のリンゴの乾燥を、メーラード反応が惹起されない低温度下で施すことを要し、乾燥に長時間を必要とする。
そこで、本発明は、白化し易く且つ硬い食感を呈し、非酵素的褐変が惹起されるおそれがある従来の乾燥リンゴの製造方法及び乾燥リンゴの課題を解決し、蜜色状で且つ柔らかな食感を呈し、非酵素的褐変が惹起されるおそれのない乾燥リンゴの製造方法及び乾燥リンゴを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記課題を解決すべく検討した結果、甘味料としてのトレハロースを溶解したトレハロース溶液にリンゴを浸漬して、減圧下で保持することによって、リンゴ内部にトレハロース溶液を浸透できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、トレハロースを溶解したトレハロース溶液にリンゴを浸漬したリンゴ含有溶液を減圧下で保持して、前記リンゴ内にトレハロース溶液を含浸し、次いで、前記リンゴ含有溶液を加熱処理して、前記リンゴに含有されている褐変酵素を失活させた後、前記リンゴ含有溶液を減圧下で加熱して水分を蒸発する蒸発処理を施しつつ、トレハロース溶液をリンゴ内に浸透せしめ、その後、トレハロースを含浸したリンゴに乾燥処理を施すことを特徴とする乾燥リンゴの製造方法にある。
また、本発明は、蜜色状で且つリンゴの風味を呈する乾燥リンゴであって、前記乾燥リンゴの全体に甘味料としてのトレハロースが含浸されていることを特徴とする乾燥リンゴでもある。
【0006】
かかる本発明において、トレハロース溶液として、甘味料としてはトレハロースのみが溶解されているトレハロース溶液を用いることによって、リンゴ内にトレハロースのみを甘味料として含有することができ、非酵素的褐変を効果的に防止できる。
また、加熱処理の際に、リンゴの中心温度を95℃以上とすることによって、リンゴに含有されている酵素を失活でき、リンゴの酵素的褐変を防止できる。
かかるリンゴ含有溶液の加熱処理及び蒸発処理を、リンゴ含有溶液が貯留される容器の外周面に設けられた、熱媒が導入されるジャケットと、前記容器の開口部を開閉する蓋と、前記容器内を減圧状態とする真空ポンプとを具備する減圧加熱調理装置を用いることによって、容易に行うことができる。
更に、乾燥処理として、減圧乾燥処理を採用することによって、乾燥を迅速に行うことができ、且つリンゴの風味を損なうことを防止できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、トレハロースを溶解したトレハロース溶液にリンゴを浸漬したリンゴ含有溶液を減圧下で保持する。かかる減圧下では、褐変酵素が働かず、褐変防止を図りつつ、多孔質のリンゴ内にトレハロース溶液を充分に含浸できる。
また、リンゴ含有溶液を加熱処理して、リンゴに含有されている褐変酵素を失活して、酵素的褐変を防止できる。
更に、加熱処理を施したリンゴ含有溶液を、減圧下で加熱して水分を蒸発する蒸発処理を施しつつ、トレハロース溶液をリンゴ内に更に浸透する。この様に、減圧下での加熱によって低温で水分を蒸発させることができ、リンゴを煮崩すことなくトレハロース溶液をリンゴ内に浸透させることができる。
その後、トレハロースを含浸したリンゴに乾燥処理を施すことによって、内部に充分にトレハロースが含有された蜜色状の乾燥リンゴを得ることができる。
【0008】
得られた乾燥リンゴ内に含まれている甘味料としてトレハロースは、甘味が砂糖の約45%程度であるため、リンゴ内に充分なトレハロースを含有させるべく、砂糖と同等程度量用いたとしても、乾燥リンゴが呈する甘味を抑制できる。
また、トレハロースには、メーラード反応を抑制する機能を有し、メーラード反応の因るリンゴの非酵素的褐変を防止でき、加熱処理による褐変酵素の失活と相俟って、効果的にリンゴの褐変を防止でき、蜜色状の乾燥リンゴを得ることができる。
更に、トレハロースの保水機能によって、乾燥リンゴ内に適度の水分を保有でき、乾燥リンゴに柔らかな食感を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で用いる減圧加熱調理装置の一例を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるリンゴとしては、リンゴの種類は問わないが、腐敗や押し傷等が存在しないリンゴを用いる。リンゴは、剥皮してカットした切り身状のリンゴを好適に用いることができる。切り身状のリンゴは、褐変防止のために、0.1%程度のビタミンCが溶解されているビタミンC溶液に浸漬することが好ましい。
このリンゴを浸漬するトレハロース溶液としては、トレハロースのみがリンゴに対して5〜30wt%溶解されたトレハロース溶液を用いることが好ましい。
かかるトレハロース溶液にリンゴを浸漬したリンゴ含有溶液を減圧下で保持することによって、多孔質のリンゴ内にトレハロース溶液を充分に含浸できる。減圧下での保持によって、リンゴ内の空気が吸い出されて、トレハロース溶液が容易に浸透できるためである。リンゴ含有液の保持条件としては、65〜75cmHgの減圧下で30分〜2時間保持することが好ましい。
【0011】
更に、リンゴ含有溶液を加熱処理して、リンゴに含有されている褐変酵素を失活する。かかる加熱処理によって酵素的褐変を防止できる。この加熱処理では、リンゴの中心温度を95℃以上となるように加熱処理することによって、リンゴに含有されている褐変酵素を充分に失活できる。かかる加熱処理は、微生物の増殖等も抑制できる。
この様に、リンゴ含有溶液を加熱処理しても、リンゴは加熱による型崩れは発生しない。かかる加熱処理を、トレハロースが含浸されていないリンゴに施したところ、型崩れが発生した。従って、加熱処理を施してもリンゴに型崩れが発生しない原因は、トレハロースの煮崩れ防止機能によるものと考えられる。
かかる加熱処理は、急速加熱処理を採用することが、リンゴの褐変を効果的に防止できる。この急速加熱処理としては、ジャケット付の容器にリンゴ含有溶液を貯留して、ジャケット内に水蒸気等の熱媒を導入し、大気圧下でリンゴ含有溶液を加熱処理することによって容易に行うことができる。
【0012】
加熱処理を施したリンゴ含有溶液に対しては、減圧下で加熱して水分を蒸発する蒸発処理を施しつつ、トレハロース溶液をリンゴ内に浸透させる。かかる蒸発処理では、50〜65℃の温度で水分が蒸発できる程度の減圧度に調整して30分〜2時間保持する。かかる蒸発処理によって、トレハロース溶液の殆どがリンゴ内に浸透される。
この様に、リンゴ含有溶液に急速加熱処理を施した後、減圧下で蒸発処理を施すには、図1に示す減圧加熱調理装置を好適に用いることができる。
図1に示す減圧加熱調理装置には、リンゴ含有溶液が貯留される容器の外周面に設けられた、水蒸気等の熱媒が導入されるジャケット12と、容器10の開口部を開閉する蓋14と、容器10内を減圧状態とする真空ポンプ16とが設けられている。
【0013】
図1に示す減圧加熱調理装置を用いて乾燥リンゴを製造する際には、リンゴ含有溶液が貯留された容器10の蓋14を閉じて、真空ポンプ16を駆動し、容器10内を減圧状態にして所定時間保持する。
更に、蓋14を解放状態として、ジャケット12に水蒸気を導入し、容器10内のリンゴ含有溶液に急速加熱を施すことができる。ジャケット12に導入された水蒸気が凝縮したドレンは、ドレントラップ18から排出される。かかる急速加熱は、容器10の蓋14が解放されて施されているため、リンゴ含有溶液が100℃以上に昇温されることを防止できる。
リンゴ含有溶液に急速加熱を施した後、再度、蓋14を閉じて真空ポンプを駆動すると共に、リンゴ含有溶液の温度が50〜65℃で水分が蒸発できる程度の減圧度となるように、バルブ18,20の開度を調整して、蒸発処理を施す。
蒸発処理を施したトレハロースを含浸したリンゴは、容器10から取り出して乾燥処理を施す。
【0014】
トレハロースを含浸したリンゴの乾燥処理は、減圧乾燥を好適に採用できる。かかる減圧乾燥としては、500mmHO程度の減圧下で40〜50℃の温度に維持しつつ、12〜20時間乾燥する減圧乾燥を採用できる。この様な減圧乾燥によって、リンゴの風味を維持して乾燥できる。
このようして得られた乾燥リンゴは、蜜色状で且つリンゴの風味を呈する乾燥リンゴであって、従来の砂糖を用いて得た乾燥リンゴに比較して、含有水分量が多いために、柔らかな食感を呈することができ、且つ適度な甘味を呈することができる。
尚、以上の説明では、甘味料としてトレハロースのみが溶解されたトレハロース溶液を用いていたが、低カロリーであって、耐熱性に優れ、リンゴ等の果実を加熱しても褐変を防止できる他の甘味料、例えば糖アルコールをトレハロースに対して50%以下の少量を添加してもよい。
【実施例1】
【0015】
原料リンゴとして、品種ふじを用いた。この原料リンゴを、自動皮むき機によって皮を剥いて4〜8割とした。このリンゴを、0.1%のビタミンC溶液に浸漬した後、トレハロースがリンゴに対して10wt%溶解したトレハロース溶液に浸漬してリンゴ含有溶液とした。
このリンゴ含有溶液を、図1に示す容器10に入れ、蓋14を閉じて、真空ポンプ16を駆動し、容器10内を65〜75cmHgの減圧下で1時間保持した。
更に、蓋14を解放した状態で、ジャケット12に水蒸気を導入して、リンゴの中心温度が95℃以上となるようにリンゴ含有溶液を急速加熱した。
次いで、蓋14を再度閉じて、真空ポンプ16を駆動すると共に、リンゴ含有溶液の温度が50〜65℃で水分が蒸発できる程度の減圧度となるように、バルブ18,20の開度を調整して、1時間の蒸発処理を施した。容器10内のトレハロース溶液は、全量リンゴ内に吸収されており、容器10に残留したトレハロース溶液の廃液処理は必要なかった。このため、前掲の特許文献1の如く、リンゴと分離したシロップの廃液処理及びそのコストについては全く問題なかった。
その後、トレハロースを含浸したリンゴを容器10から取り出して、気熱式減圧乾燥機を用いて、500mmHO程度の減圧下で40〜50℃の温度に維持しつつ、18時間乾燥を施した。
得られた乾燥リンゴは、蜜色状であって、柔らかな食感と適度な甘味とを呈するものであった。この乾燥リンゴを、袋に入れて室内に3月間放置しておいたが、色調や食感等について何等変化はなかった。
他方、市販されている砂糖を用いた乾燥リンゴは、褐色であって、硬い食感と過剰な甘味とを呈するものであった。
得られた乾燥リンゴと市販されている乾燥リンゴとの水分と色調とを測定した結果を、下記表1に示す。
【0016】
【表1】

表1からも明らかな様に、本実施例で得られた乾燥リンゴは、市販品の乾燥リンゴに比較して含有水分量が多く、食感に柔らかさを与えている。
また、本実施例で得られた乾燥リンゴは、明るい黄色を呈しているものであり、蜜色状のものである。これに対し、市販品の乾燥リンゴは、褐色を呈しているものである。
【実施例2】
【0017】
実施例1において、トレハロース溶液として、原料リンゴに対して15wt%のトレハロースと5wt%の糖アルコール(ソルビトール)とを溶解したトレハロース溶液を用いた他は、実施例1と同様にして乾燥リンゴを得た。
得られた乾燥リンゴは、実施例1の乾燥リンゴと略同程度の色調であったが、食感が実施例1の乾燥リンゴよりも低下した。しかし、本実施例で得た乾燥リンゴの食感は、市販品の乾燥リンゴよりは良好であった。
【符号の説明】
【0018】
10 容器
12 ジャケット
14 蓋
16 真空ポンプ
18 ドレントラップ
18,20 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースを溶解したトレハロース溶液にリンゴを浸漬したリンゴ含有溶液を減圧下で保持して、前記リンゴ内にトレハロース溶液を含浸し、
次いで、前記リンゴ含有溶液を加熱処理して、前記リンゴに含有されている褐変酵素を失活させた後、前記リンゴ含有溶液を減圧下で加熱して水分を蒸発する蒸発処理を施しつつ、トレハロース溶液をリンゴ内に浸透せしめ、
その後、トレハロースを含浸したリンゴに乾燥処理を施すことを特徴とする乾燥リンゴの製造方法。
【請求項2】
トレハロース溶液として、甘味料としてはトレハロースのみが含有されているトレハロース溶液を用いる請求項1記載の乾燥リンゴの製造方法。
【請求項3】
加熱処理の際に、リンゴの中心温度を95℃以上とする請求項1又は請求項2記載の乾燥リンゴの製造方法。
【請求項4】
リンゴ含有溶液の加熱処理及び蒸発処理を、リンゴ含有溶液が貯留される容器の外周面に設けられた、熱媒が導入されるジャケットと、前記容器の開口部を開閉する蓋と、前記容器内を減圧状態とする真空ポンプとを具備する減圧加熱調理装置を用いて行う請求項1〜3のいずれか一項記載の乾燥リンゴの製造方法。
【請求項5】
乾燥処理として、減圧乾燥処理を採用する請求項1〜4のいずれか一項記載の乾燥リンゴの製造方法。
【請求項6】
蜜色状で且つリンゴの風味を呈する乾燥リンゴであって、前記乾燥リンゴの全体に甘味料としてのトレハロースが含浸されていることを特徴とする乾燥リンゴ。

【図1】
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