説明

乾燥性有機コーティング組成物の金属基材への密着性を改善する組成物およびプロセス

【課題】乾燥性有機コーティング組成物の金属基材への密着性を改善する組成物およびそのプロセスを提供すること。
【解決手段】本発明の組成物は、乾燥性有機コーティングの金属表面への密着性を改善することに有用である。この組成物は、通常液体キャリアと、少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である少なくとも1つのホウ酸塩組成物と、少なくとも1つの有機カルボン酸を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機コーティング組成物の金属表面への密着性を改善することに有用な組成物に関する。より詳細には、本発明は、塗料の金属基材への密着性を改善する組成物およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属の仕上げ技術において、アルミニウム、鉄、スチール、亜鉛めっきした金属および亜鉛表面等の金属表面が、当該表面に水性のリン酸塩処理溶液を接触させることにより、無機リン酸塩でコーティングされ得ることは周知である。リン酸塩コーティングは、腐食に対して限られた範囲で金属表面を保護し、オイル、ワックス、塗料、ラッカー、ワニス、プライマー、合成樹脂、エナメル等の腐食防止組成物および乾燥性有機コーティング組成物に対する優れたベースとして主に機能する。
【0003】
無機リン酸塩コーティングは、通常、リン酸塩イオン、および必要に応じてナトリウム、マンガン、亜鉛、カドミウム、銅、鉛およびアンチモンイオン等の金属イオンを含む補助的なイオンを含む水性の溶液を用いる方法により金属表面に形成される。これらの水性の溶液は、アンモニウム、塩化物、臭化物、フッ化物、硝酸塩、硫酸塩、およびホウ酸塩イオン等の非金属イオンをさらに含み得る。これらの補助的なイオンは、金属表面との反応に影響を及ぼし、リン酸塩コーティングの性質を変え、それを様々な用途へ適応させる。酸化剤、着色剤および金属洗浄剤などの他の補助的な物質が、リン酸塩処理溶液に組み込まれ得る。
【0004】
このようなリン酸塩処理溶液は、当該技術分野において周知であり、塗料の金属表面への密着性を改善するに効果的である。乾燥性(siccative)有機コーティングの金属表面への密着性は、リン酸塩コーティングにより改善されるが、例えば、第1鉄類、亜鉛めっきした第1鉄類またはリン酸塩処理した第1鉄類の金属部品は、ラッカーまたはエナメルの乾燥性のトップコートが設けられる。この様なトップコートは、例えば、取り扱い、成形または組立て操作において、擦り傷または引掻き傷がつき、金属基材は、腐食およびアンダーカッティング(undercutting)と称される現象の焦点となる。アンダーカッティング、あるいはトップコートおよび擦り傷または引掻き傷に隣接した範囲の損失は、影響をうけた範囲からトップコートの剥離を進行させる問題を生じる。アンダーカッティングは、所望とされる耐食性をさらに減少させる。
【0005】
加えて、リン酸塩処理溶液は、必然的に高い酸性であるので、特別な取り扱いおよび適切な設備が必要となる。リン酸塩処理浴におけるスラッジの形成もまた問題となり得、使用済みのリン酸塩処理溶液および洗浄水は、廃液中のリン酸塩に関する厳しい州および地域の規則に適合させるために、廃棄に先立ち処理する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾燥性有機コーティング組成物の金属表面への密着性を改善することに有用な組成物が記載される。この金属表面は、リン酸塩処理された金属表面またはリン酸塩処理されていない金属表面であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの実施形態においては、本発明の組成物は、
(a)液体キャリア、
(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および
(c)1つ以上の有機カルボン酸を含む。
【0008】
別の実施形態においては、本発明は、乾燥性有機コーティング組成物の金属表面への密着性を改善するプロセスに関し、このプロセスは、
(1)(a)液体キャリア、
(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および、
(c)少なくとも1つの有機カルボン酸を含む処理組成物を用いて金属表面を処理すること;および、
(2)処理した金属表面を乾燥することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の組成物は、1つの実施形態においては、金属表面をコーティングするに有用であり、以下の混合物を含む:
(a)液体キャリア、
(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および
(c)少なくとも1つの有機カルボン酸を含む。
【0010】
本発明の組成物において用いられる液体キャリアは、有機液体(溶媒)、水、またはこれらの混合物を含み得る。1つの実施形態においては、本発明の組成物に用いられる液体キャリアは、水、または水と1つ以上のアルコールとの混合物であり得る。有用なアルコールの具体例としては、低級アルコール(1〜6またはそれ以上の炭素原子を含む)が挙げられ、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール等が例示できる。1つの実施形態においては、液体キャリアは、ホウ酸塩および有機カルボン酸を含む溶液を提供するよう選択される。
【0011】
本発明の組成物において有用なホウ酸塩組成物は、一般的には、少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物を含む。有用なホウ酸塩組成物は、ホウ酸アミド(boramides)またはアミンホウ酸塩と称される。1つの実施形態においては、本発明において有用なホウ酸塩組成物の調製において有用であるアミノアルコールは、アルカノールアミンまたはアルカノールエーテルアミンであり得る。種々のアミノアルコールが用いられ得、1つの実施形態においては、アミノアルコールは1〜約6またはそれ以上の炭素原子を含む。この様なアルカノールアミンの具体例としては、メタノールアミン、2−ヒドロキシエチルアミン(モノエタノールアミン)、3−ヒドロキシプロピルアミン(モノイソプロパノールアミン)、2−ヒドロキシプロピルアミン、4−ヒドロキシブチルアミン、2−アミノ−2メチル−プロパノール、5−ヒドロキシペンチルアミン、および6−ヒドロキシへキシルアミン等のモノアルカノールアミンが挙げられる。ジアルカノールアミンの例としては、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、およびジイソプロパノールアミンが挙げられる。トリアルカノールアミンの例としては、トリエタノールアミンが挙げられる。
【0012】
1つの実施形態においては、本発明において有用なアルカノールエーテルアミンは、下記式で表され得る。
【化1】

Rは水素あるいは低級アルキル基、R′は低級アルキレン基、nは1〜約5の整数、mは1、2または3、zは3−m、および、R″は水素あるいは低級アルキル基である。1つの実施形態においては、mは2でありzは1である。別の実施形態においては、mは1でありzは2である。式(II)においてmが2であるアルカノールエーテルアミンの例としては、ジアルカノールエーテルアミンが挙げられる。
【0013】
別の実施形態においては、ホウ酸塩組成物の調製において用いられるアミノアルコールは、モノアルカノールエーテルアミンであり、下記式で表され得る。
【化2】

Rは水素あるいは低級アルキル基、R′は低級アルキレン基、および、nは1〜約5の整数である。1つの実施形態においては、Rは水素またはメチル基であり、nは1または2である。
【0014】
本明細書において、用語「低級アルキル」とは、単独で用いる場合または他の基と組み合わせる場合において、1〜約6個の炭素原子を含むアルキル基である。用語「低級アルキル」は、直鎖状アルキル基および分枝鎖状のアルキル基を含む。低級アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、sec−ブチル、ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル等が挙げられる。1つの実施形態においては、低級アルキル基は、1〜約3個の炭素原子を含む。
【0015】
用語「低級アルキレン」とは、1〜約6個の炭素原子を含むアルキレン基をいう。この用語は、直鎖および枝分かれしたアルキレン鎖を含む。アルキレン基の具体例としては、−CH−、−CH−CH−、−(CH−、−CH(CH)CH−、−CH−C(H)(CH)−CH−等が挙げられる。特に、1つの実施形態においては、アルキレン基は1〜3個の炭素原子を含む。
【0016】
式(I)によって表されるアルコールエーテルアミンの具体例としては、ジグリコールアミン、トリグリコールアミン、2−(2−アミノエトキシ)−エタノール、および2−(3−アミノプロポキシ)エタノールが挙げられる。
【0017】
本発明の組成物において用いられるホウ酸塩組成物は、上記の少なくとも1つのアミノアルコールと、ホウ酸(HBO)、またはHBO、HおよびBのうちのいずれか1つの類似体との反応により調製され得る。反応物質は、実質的に等しいモル比または反応物質のいずれかが過剰な状態で存在し得る。一般的に、成分のいずれかが過剰に用いられる場合、アミノアルコールが過剰に用いられる。1つの実施形態においては、過剰なモル濃度またはそれ以上のアミノアルコールを用いることができる。アミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との間の反応は、約100〜180℃のような穏やかな温度の下で行われ得る。反応温度は幅広い範囲で選択されるが、1つの実施形態においては、約130℃〜約165℃の温度範囲が用いられる。縮合反応により生成する水は、望ましくは反応の進行とともに除去され、例えば、外部コレクターを備え還流冷却器を有する密閉容器内を加熱することにより除去される。必要に応じて、残留する水を溶媒抽出により除去することができる。
【0018】
上記方法によって調製したホウ酸塩化合物は、水に溶けやすく、さらに、実質的に全ての有機溶媒に溶ける。したがって、ホウ酸塩組成物は、種々の目的のための種々の液体キャリアに組み込むことが可能である。
【0019】
液体キャリアに存在するホウ酸塩組成物の量は、ホウ酸塩組成物および液体キャリアの総重量に対して約0.01重量%〜約10重量%の範囲であり得る。別の実施形態においては、ホウ酸塩組成物の濃度は、ホウ酸塩組成物および液体キャリアの総重量に対して約0.05重量%〜約4重量%の範囲であり得、さらに別の実施形態においては、濃度は約0.08重量%〜約2重量%の範囲であり得る。1つの実施形態においては、組成物は少なくとも2つのホウ酸塩組成物を含む。
【0020】
本発明において用いられるホウ酸塩組成物は市販されており、文献にも記載されている。例えば、米国特許第3,764,593号;第3,969,236号;第4,022,713号;および第4,675,125号は、アルカノールアミドホウ酸塩の例を多数含み、および、ホウ酸とアルカノールアミンからそれらを調製する記載を含む。米国特許第5,055,231号は、多くのアルカノールエーテルアミンホウ酸塩および、ホウ酸とアルカノールエーテルアミンからこのようなホウ酸塩を調製する方法を記載している。これらの特許の開示は、本明細書に参考として援用される。
【0021】
有用なアミドホウ酸塩は、例えばMona Industries,Inc.から市販されている。市販材料の一例としては、Monacor(商標)BEであり、これは、モノエタノールアミンホウ酸塩とモノイソプロパノールアミンホウ酸塩を等量含むと考えられている。有用なアミンホウ酸塩は、Keil Chemical Division of Ferro
Corpからも入手することができる。具体例としては、ジエタノールアミンホウ酸塩であるSynkad202、およびトリエタノールアミンホウ酸塩であるSynkad204が挙げられる。
【0022】
本発明の組成物は、少なくとも1つの有機カルボン酸をさらに含む。モノカルボン酸およびポリカルボン酸が用いられ得、別の実施形態においては、モノカルボン酸および/またはポリカルボン酸は脂肪族カルボン酸である。カルボン酸は、飽和または不飽和の脂肪族カルボン酸であり得る。本発明において有用なモノカルボン酸の例としては、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、イソノナン酸、ドデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。本発明において有用なポリカルボン酸の一例としては、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、アジピン酸、トリメリット酸、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。本発明においては、モノカルボン酸に対応する無水物(例えば、無水酢酸)およびポリカルボン酸に対応する無水物(例えば、無水コハク酸)を用いてもよい。1つの実施形態においては、少なくとも1つのモノカルボン酸と少なくとも1つのポリカルボン酸の混合物が用いられる。1つの実施形態においては、本発明において用いられる有機カルボン酸は、1〜約20個の炭素原子を含み、別の実施形態においては、1〜約10個の炭素原子を含む。
【0023】
有機カルボン酸は、組成物の総重量に対して約0.01重量%〜約10重量%の範囲の量で本発明の組成物中に存在する。別の実施形態においては、組成物中に含まれるカルボン酸の量は、組成物の総重量に対して0.03重量%〜約5重量%の範囲であり、さらに別の実施形態においては、約0.05重量%〜約2重量%の範囲である。
【0024】
本発明の組成物は、液体キャリア中で少なくとも1つのホウ酸塩化合物と少なくとも1つの有機カルボン酸とを混合することにより容易に調製される。混合の順序は重要ではない。成分の濃縮物が調製され、次いで、さらなる液体キャリアで希釈され得る。液体キャリアが水、または水とメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールとの混合物である場合に、水性溶液が得られる。
【0025】
1つの実施形態においては、本発明の組成物は、トリエタノールアミン;トリエタノールアミンオクトエート(triethanolamine octoate);ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドポリマー等のポリアルキレンオキサイド;アルキルベンゾエート;スルホンアミドカルボン酸;エトキシレート脂肪族アルコールまたはアルキルフェノール;オキサエタンカルボン酸;および脂肪酸のアルカノールアミン塩等の添加成分を含まない。
【0026】
以下の実施例は、本発明の組成物の調製について説明する。実施例あるいは明細書および特許請求の範囲の別の箇所において別段の定めが無い限り、部およびパーセントは全て重量基準であり、温度は摂氏(度)であり、圧力は大気圧または大気圧付近である。実施例1−6、8−11および13−17の組成物は、室温付近で混合したままの溶液である。2%水酸化ナトリウム水溶液を5滴および10滴を、組成物7および12にそれぞれ加え、成分の水への可溶化を完遂している。
【0027】
【表1】

【0028】
1つの実施形態においては、本発明の組成物は、乾燥性有機コーティング組成物の金属表面への密着性を改善することにおいて有用である。したがって、1つの実施形態においては、本発明は、
(1)(a)液体キャリア、
(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物;および、
(c)少なくとも1つの有機カルボン酸を含む処理組成物を用いて、金属表面を処理すること、
(2)処理した金属表面を乾燥することを含む、乾燥性有機コーティング組成物の金属表面への密着性を改善するプロセスに関する。
【0029】
本発明によって処理することができる金属表面としては、アルミニウム表面、鉄表面、スチール表面、マグネシウム表面、マグネシウム合金表面、亜鉛めっき鉄表面および亜鉛表面が挙げられる。無機リン酸塩コーティングを有する金属表面(一般的には、リン酸塩処理した金属表面と称される)もまた、本発明のプロセスによって処理され、乾燥性有機コーティング組成物のリン酸塩処理した金属表面への密着性を改善し得ることが観察されている。
【0030】
別の実施形態においては、乾燥性有機コーティング組成物の、リン酸塩コーティングが行われていない金属表面への改善された密着性が、本発明の処理組成物を用いて得られ得ることが見出されている。
【0031】
リン酸塩処理技術の大規模な商業開発、およびリン酸塩処理溶液の調製および適用について記載した多くの出版物および特許を考慮すると、金属のリン酸塩コーティングの適用が達成され得る様々な方法を詳細にわたり記載することにより本明細書の説明を過度に長くする必要はないと考えられる。一般的に用いられるリン酸塩処理技術(例えば、噴霧、ブラッシング、浸漬、ローラーコーティングまたはフローコーティング)のいずれもが用いられ得ること、ならびに、水性のリン酸塩処理溶液の温度は広範囲(例えば、室温から約100℃)に変化し得ることを示せば充分であろう。一般的に、水性のリン酸塩処理溶液を約65℃〜約100℃の範囲内で用いる場合に、所望の結果が得られる。金属表面へ無機リン酸塩コーティングを堆積するための水性のリン酸塩溶液を調製することおよび用いることは、金属仕上げの技術分野において周知であり、米国特許第3,104,177号;第3,307,979号;第3,364,081号;および第3,458,364号に記載されている。無機リン酸塩コーティングおよびこれらのコーティングを用いる方法に関するこれらの特許の開示は、本明細書に参考として援用される。
【0032】
上記の本発明の処理組成物は金属表面(リン酸塩処理された金属表面を含む)に、浸漬、ブラッシング、噴霧、ローラーコーティングまたはフローコーティングにより適用され得る。噴霧または浸漬が一般的に用いられるプロセスである。
【0033】
1つの実施形態においては、金属表面は、まず、物理的および/または化学的な方法により洗浄され、処理溶液を金属表面に適用する前に、金属表面に存在し得るグリース、汚れ、または酸化物を除去する。洗浄液は当該技術分野で公知であり、一般的には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アルカリ金属ケイ酸塩、アルカリ金属ホウ酸塩、水軟化剤、リン酸塩、および表面活性剤を1つ以上含む水性の溶液である。酸化物の除去は、硫酸、塩酸および/またはリン酸等の無機酸洗い液(mineral acid pickles)に浸漬することで達成され得る。
【0034】
洗浄に続いて、一般的には、水ですすぎ、次いで金属表面を上記ホウ酸塩組成物を含む本発明の処理溶液に接触させる。金属表面を処理するために必要な時間は、温度、用いる溶液の種類、処理溶液を適用する具体的な技術、および所望のコーティング重量に応じて変化し得る。1つの実施形態においては、処理溶液の温度は室温である。多くの場合、所望の結果を得るために要求される時間は、約1秒〜約1分またはそれ以上の範囲であり得る。
【0035】
金属表面と処理組成物との間で所望の接触が所望の時間行われた後、処理されたパネルを、空気中または乾燥オーブン内で乾燥する。
【0036】
別の実施形態においては、本発明は、乾燥性有機コーティングの金属表面への密着性を改善するプロセスに関し、
(1)金属表面を、1つ以上の水性で酸性またはアルカリ性の洗浄液を用いて洗浄すること;
(2)液体キャリア、少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物であるホウ酸塩組成物、および、必要に応じて少なくとも1つの有機カルボン酸を含む処理組成物を用いて金属表面を処理すること;
(3)処理した金属表面を乾燥すること;および、
(4)処理および乾燥した金属表面に乾燥性有機コーティング組成物を堆積するプロセスを含む。前記のように、処理溶液は2つ以上の有機カルボン酸と、少なくとも2つのホウ酸塩組成物との混合物を含み得る。
【0037】
様々な乾燥性有機コーティング組成物が、本発明の処理された金属基材上に堆積され得る。堆積することができる乾燥性有機コーティングの例としては、塗料、ラッカー、ワニス、合成樹脂、エナメルまたは静電的に堆積された粉末コーティングが挙げられる。用いられ得る乾燥性有機コーティングの例としては、アクリル系、アルキル、アルキド、エポキシ、フェノール性、メラミンおよびビニルの樹脂ならびに塗料が挙げられる。
【0038】
乾燥性有機コーティング組成物の適用は、ブラッシング、噴霧、浸漬、ローラーコーティング、フローコーティング、あるいは静電的または電着プロセスなどの一般的な技術により行うことができる。乾燥性コーティングされた物品は、採用された乾燥性コーティング組成物にとって最適な方法、例えば、室温または高温での自然乾燥、オーブンでのベーキング、UV硬化、あるいは赤外線ランプによるベーキングにより乾燥される。多くの場合、乾燥性有機コーティング組成物の乾燥フィルムの厚みは、約0.1〜約10milであり得、より好ましくは、0.3〜約5milの間である。
【0039】
前述のように、上記の様な処理組成物を用いて処理された金属表面は、乾燥性有機コーティング組成物の金属への密着性を改善することが発見されている。
【0040】
本発明の組成物を用いて処理されている金属表面への乾燥性有機コーティング組成物の密着性が改善されることを証明するために、以下の手順が行われる。スチールパネル(10cm×10cm)を、バイオレメディエーション(bioremediation)のために微生物を利用している弱アルカリ性の洗浄剤であるUniclean(商標)BIOを利用して洗浄する。この製品は、South Carolina、RockhillのAtotech USA , Inc.から入手できる。テストパネルをUniclean(商標)BIO(10%溶液)にて5分間洗浄し、水道水で15秒間すすぎ、蒸留水で15秒間すすぎ、その後、本発明の組成物に室温で、実施例1〜17に説明されるように30秒間浸漬し、水切り乾燥させ、その後乾燥オーブンにて約165℃〜約185℃の温度で乾燥させる。
【0041】
乾燥性有機コーティング組成物は、Georgia、EllavilleのTClから入手できる商品名がOyster White 19275という粉末コーティングを利用して、処理および乾燥したパネルに静電的に適用される。同一の研磨されていないスチールパネルがこれらのテストに用いられる。Michigan、HillsdaleのACT Laboratoriesから購入したリン酸塩処理された鉄パネルも含まれる。これらのパネルはACT Cold Roll Steel 04X06X032 B1000 No
Percolene DIW とラベルされており、研磨されていない。これらの各スチールパネルを2つずつテストに用い、塗料の厚みを測定し記録する。
【0042】
塗装し、乾燥したパネルを標準的な塩水噴霧腐食テストに供する。テストの手順およびこのテストに用いる装置は、ASTMテスト手順B17に記載されている。このテストにおいて、処理および塗装されたパネルに2回けがきし、パネル上に×を形成し、各けがきが6〜7cmとなるようにする。けがきしたパネルを、塩水噴霧テストに供する。テストはチャンバーを利用し、チャンバー内で、5%の塩化ナトリウム水の噴霧のミストを、テストパネルに168時間35℃で継続して接触させる。テストチャンバーからパネルを取り除き、パネルを乾燥し、けがきに約70psiの圧力で空気を吹き付け、塩水噴霧の結果密着性が消失した塗料を除く。塗料損失の幅をミリメーター(mm)で測定した。
【0043】
塗装の前に本発明の処理組成物を用いて処理したスチールパネルで実施した塩水噴霧テストの結果を、以下の表IIにまとめる。
【0044】
【表2】

【0045】
本発明の処理組成物を用いて得られる改善点は、以下の表IIIに記載される。コントロール−1においては、市販のリン酸鉄パネルを水で洗浄し、上記のように静電的に塗装し塩水噴霧腐食テストに供する。実施例Rにおいては、同一のリン酸鉄パネルを脱イオン水中ですすぎ、実施例4の組成物を用いて(30秒間浸漬することにより)処理し、乾燥および上記のように静電的に塗装する。コントロール−2においては、スチールパネルをUniclean(商標)BIOを用いて洗浄し、脱イオン水を用いてすすぎ、上記のように静電的に塗装する。実施例Sにおいては、同様のスチールパネルをUniclean(商標)BIOを用いて洗浄し、脱イオン水を用いてすすぎ、実施例4の組成物に30秒間浸漬して処理し、乾燥および静電的に塗装する。4つの塗装されたパネル(2つずつ)は、塩水噴霧腐食テストに供され、その結果を表IIIにまとめる。
【0046】
【表3】

【0047】
結果から分かるように、本発明の処理組成物を用いるリン酸鉄パネルの処理は、実施例Rの結果とコントロール−1で得られた結果とを比較することからも明らかなように塗料のリン酸塩処理されたパネルへの密着性を改善する。同様に、リン酸塩処理されていないスチールパネルの本発明の処理組成物を用いた処理およびそれに続く塗装によれば、実施例Sの結果とコントロール−2で得られた結果とを比較すると明らかなように塗料のスチールパネルへの密着性は改善されている。
【0048】
本発明を、種々の実施形態に関して説明してきたが、本明細書を読めばその改変が当業者にとって明らかになることが理解されるべきである。したがって、本明細書に開示される本発明は、このような改変例を添付の特許請求の範囲内にあるものとしてカバーすることが意図されていると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)液体キャリア、(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および(c)少なくとも1つの有機脂肪族モノカルボン酸および少なくとも1つの有機脂肪族ポリカルボン酸を含む、組成物。
【請求項2】
前記液体キャリアが水性キャリアである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記水性キャリアが、水または、水と1〜約6個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルコールとの混合物を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記アミノアルコールが、アルカノールアミンまたはアルカノールエーテルアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記アミノアルコールが、1〜約6個の炭素原子を含むアルカノールアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記アミノアルコールが、下記式で表されるアルカノールエーテルアミンである、請求項1に記載の組成物:
【化1】

Rは水素あるいは低級アルキル基、R′は低級アルキレン基、nは1〜約5、mは1、2または3、zは3−m、および、R″は水素あるいは低級アルキル基である。
【請求項7】
前記アミノアルコールが、下記式で表されるアルカノールエーテルアミンである、請求項1に記載の組成物:
【化2】

Rは水素あるいは低級アルキル基、R′は低級アルキレン基、および、nは1〜約5である。
【請求項8】
前記R′が、−(CH2)2−、−(CH2)−または−CH(CH3)−CH2−から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記アミノアルコールが、1〜約6個の炭素原子を含む第1級アルカノールアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記アミノアルコールが、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノ−n−プロパノールアミン、1−イソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−プロパノールおよびこれらの混合物から選択される第1級アルカノールアミンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
(a)水性キャリア、(b)アルカノールアミンおよびアルカノールエーテルアミンから選択される少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、約0.01重量%〜約10重量%の少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および(c)少なくとも一つの有機脂肪族モノカルボン酸および少なくとも1つの有機脂肪族ポリカルボン酸を含む、乾燥性有機コーティングの金属表面への密着性を改善する組成物。
【請求項12】
前記アミノアルコールが、1〜約6個の炭素原子を含むアルカノールアミンである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記ホウ酸塩組成物を2つ以上含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項14】
前記ホウ酸塩組成物を約0.05重量%〜約4重量%含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
前記カルボン酸を約0.01重量%〜約10重量%含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
(1)(a)液体キャリア、(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および(c)少なくとも1つの有機脂肪族モノカルボン酸および少なくとも1つの有機脂肪族ポリカルボン酸を含む処理組成物を用いて、金属表面を処理すること;
(2)処理した金属表面を乾燥すること;および、
(3)処理および乾燥した金属表面に乾燥性有機コーティング組成物を堆積することを含む、乾燥性有機コーティングの金属表面への密着性を改善するプロセス。
【請求項17】
前記処理組成物を用いて前記金属表面を処理する前に、水性で酸性またはアルカリ性の洗浄液を用い該金属を洗浄する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記金属表面が、アルミニウム、鉄、スチール、亜鉛めっき鉄、マグネシウム、マグネシウム合金、および亜鉛表面から選択される、請求項16に記載のプロセス。
【請求項19】
(1)(a)液体キャリア、(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および(c)少なくとも1つの有機脂肪族モノカルボン酸および少なくとも1つの有機脂肪族ポリカルボン酸を含む処理組成物を用いて、リン酸塩処理した金属表面を処理すること;および、
(2)処理した金属表面を乾燥することを含む、乾燥性有機コーティング組成物のリン酸塩処理した金属表面への密着性を改善するプロセス。
【請求項20】
前記リン酸塩処理した金属表面が、水性で酸性の亜鉛、鉛、鉄、カドミウム、またはカルシウム−亜鉛リン酸化溶液を用い金属表面をリン酸塩処理して得られる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記液体キャリアが水性キャリアである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項22】
前記水性キャリアが、水、または水と1〜約6個の炭素原子を含む少なくとも1つのアルコールとの混合物を含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記アミノアルコールが、アルカノールアミンまたはアルカノールエーテルアミンである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項24】
前記アミノアルコールが、1〜約6個の炭素原子を含むアルカノールアミンである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項25】
前記アミノアルコールが、下記式で表されるアルカノールエーテルアミンである、請求項16に記載のプロセス:
【化3】

Rは水素あるいは低級アルキル基、R′は低級アルキレン基、および、nは1〜約5である。
【請求項26】
前記R′が、−(CH2)2−、−(CH2)−または−CH(CH3)−CH2−から選択される、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記アミノアルコールが、1〜約6個の炭素原子を含む第1級アルカノールアミンである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項28】
前記アミノアルコールが、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノ−n−プロパノールアミン、1−イソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−プロパノール、およびこれらの混合物から選択される第1級アルカノールアミンである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項29】
前記処理組成物が、2つ以上のホウ酸塩組成物を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項30】
前記処理組成物が、約0.01重量%〜約10重量%のホウ酸塩組成物を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項31】
前記処理組成物が、約0.01重量%〜約10重量%の1つ以上のカルボン酸を含む、請求項16に記載のプロセス。
【請求項32】
(1)金属表面を、1つ以上の水性で酸性またはアルカリ性の洗浄液を用いて洗浄すること;
(2)(a)液体キャリア、(b)少なくとも1つのアミノアルコールとホウ酸またはホウ酸類似体との反応生成物である、少なくとも1つのホウ酸塩組成物、および(c)少なくとも1つの有機脂肪族モノカルボン酸および少なくとも1つの有機脂肪族ポリカルボン酸を含む処理組成物を用いて、該金属表面を処理すること;
(3)処理した金属表面を乾燥すること;および、
(4)処理および乾燥した金属表面に乾燥性有機コーティング組成物を堆積することを含む、乾燥性有機コーティングの金属表面への密着性を改善するプロセス。
【請求項33】
前記金属表面が、アルミニウム、鉄、スチール、マグネシウム、マグネシウム合金、亜鉛めっき鉄および亜鉛表面から選択される、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記金属表面が、リン酸塩処理した金属表面である、請求項32に記載のプロセス。
【請求項35】
前記リン酸塩処理した金属表面が、水性で酸性の亜鉛、鉛、鉄、カドミウム、またはカルシウム−亜鉛リン酸化溶液を用い金属表面をリン酸塩処理して得られる、請求項34に記載のプロセス。
【請求項36】
前記液体キャリアが水性キャリアを含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項37】
前記処理組成物が、少なくとも2つのホウ酸塩組成物を含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項38】
請求項16に記載のプロセスにより処理された、金属表面。
【請求項39】
請求項32のプロセスにより調製される、乾燥性有機コーティングされた金属表面。


【公表番号】特表2007−504361(P2007−504361A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525313(P2006−525313)
【出願日】平成16年4月20日(2004.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/012257
【国際公開番号】WO2005/021835
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(503037583)アトテック・ドイチュラント・ゲーエムベーハー (55)
【氏名又は名称原語表記】ATOTECH DEUTSCHLAND GMBH
【Fターム(参考)】