説明

乾燥成型具材の製造方法及び乾燥成型具材

【課題】保存性が良く、お湯や水を添加することで容易に復元することができる野菜又は果実類を主原料とする乾燥成型具材であって、非常にコンパクトで、壊れにくい乾燥成型具材の製造方法を提供する。
【解決手段】野菜又は果実類を原料とし、これをブランチング処理した後(ブランチング工程)、糖質又は食塩を吸着させる(水分活性低減工程)。次いで、水分含量が6〜60%になるまで一次乾燥し(一次乾燥工程)、一次乾燥したものに、糖質の溶液、好ましくは澱粉、増粘多糖類等の溶液を吸着させ(糖質添加工程)、圧縮成型する(圧縮工程)。圧縮成型後、水分含量が10%以下になるまで二次乾燥する(二次乾燥工程)。乾燥方法としては、いずれの乾燥も主に熱風乾燥法を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタント食品に用いられる野菜類又は果実類を主原料とする乾燥成型具材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
即席麺やインスタントスープ等の乾燥具材(かやく)には、熱風乾燥したものや凍結乾燥したものが多く用いられている。この場合、複数種類かつ多数の具材がバラバラな状態で小袋に充填されて商品に添付されているか、又は、商品の容器内にバラバラな状態で直に充填されているものが多い。しかし、複数種類の具材をバラバラな状態で小袋や容器内に充填する場合、充填精度が悪いと商品ごとの重量に大きな違いが生じたり、充填されている具材の種類が偏ってしまうという課題があった。
【0003】
このような課題に鑑み、具材原料と共に糊料となる澱粉や増粘類の溶液を加えて型枠に充填し、これを凍結乾燥することにより乾燥具材を製造する技術が提案されている(例えば特許文献1)。この方法によれば、乾燥具材は一食分ずつ、一塊りのブロック状に成型されているため、具材の重量や種類が一食分毎に大きく異なることがなく、容器への充填も容易であり、従来必要であった小袋を省略することも可能となる。
【0004】
また、この種の乾燥具材の製造方法として、例えばグリセリンを含有した調味処理を具材原料に添加して乾燥させることにより乾燥具材に柔軟性をもたせ、この乾燥具材を圧縮成形してコンパクト化する方法も考えられている(例えば特許文献2)。他にも、具材を圧縮してかさを減らす製造方法としては種々の製造方法が提案されている(例えば特許文献3〜5)。
【特許文献1】特開昭57−39733号公報
【特許文献2】特開平2−312575号公報
【特許文献3】特開昭56−5046号公報
【特許文献4】特開昭62−36161号公報
【特許文献5】特開平3−172152号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に係る製造方法は、凍結乾燥法を用いて原料具材を乾燥させるため製造コストがかり、また、この凍結乾燥法では、具材形状そのままで乾燥が進められるのが一般的であるため、製品(乾燥成型具材)の容積が大きくかさ張り易く、しかも脆く壊れやすいという問題がある。これに対し、特許文献2に係る製造方法によれば、熱風乾燥法を用いて原料具材を乾燥させるため製造コストが安価で、また、乾燥具材に柔軟性を持たせて圧縮するためコンパクトな乾燥具材を製造することができる反面、具材同士がバラバラになり易く保型性が悪いという欠点がある。つまり、非常にコンパクトで壊れにくく、かつ保型性が良く、好ましくは安価な乾燥具材を提供することが望まれているが、特許文献1〜5等に係る製造方法はこれらの条件を満足し得るものではなかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、第1の目的は、非常にコンパクトで壊れにくく、かつ保型性の良い乾燥成型具材を製造できるようにすること、好ましくは乾燥成型具材をより安価に製造できるようにすることを目的とする。また、第2の目的は、コンパクトで壊れにくく、かつ保型性の良い反面、復元性の良い乾燥成型具材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために開発された乾燥成型具材の製造方法であって、ブランチング処理を施した野菜及び又は果実類を原料として、当該原料に糖質及び又は食塩を添加することにより原料の水分活性を低下させる水分活性低減化工程と、原料を乾燥させる一次乾燥工程と、糖質を含有する溶液を原料に吸着させる糖質添加工程と、原料を圧縮する圧縮工程と、原料を乾燥させる二次乾燥工程と、を順に実施するようにしたものである。
【0008】
この製造方法では、糖質を含む溶液を原料に吸着させた後、当該原料を圧縮、乾燥させることにより(糖質添加工程、圧縮工程、二次乾燥工程)乾燥具材を製造するが、上記の通り、糖質添加工程前に一旦原料を乾燥させることで柔軟性と吸水性を持たせ(一次乾燥工程)、この乾燥原料に前記溶液を吸着させることで、乾燥した原料の有する吸液作用により前記溶液を原料全体にムラなく浸透させることができるとともに、この浸透によりさらに充分な柔軟性をもたせることができる。そのため、圧縮工程では、破損を伴うことなくコンパクトに原料を圧縮、成型することができるとともに、糖質による結着作用が原料全体に亘って効果的に発揮されて当該圧縮状態が良好に保持され、再度乾燥処理(二次乾燥工程)を施した最終的な乾燥具材は、上記圧縮状態を保った非常に保型性の良いものとなる。
【0009】
なお、本発明において「糖質」又は単に「糖」と言う記載は、単糖類から多糖類までを含む概念で、単糖類、少糖類、オリゴ糖類、糖アルコール、デキストリン、澱粉類、各種増粘多糖類等を含むものとする。
【0010】
この製造方法において、前記一次、二次乾燥工程では、原料を凍結乾燥させるようにしてもよいが、熱風乾燥等、含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法の方が設備費用やランニングコストが安価であり、また製品もコンパクトで壊れ難いため、熱風乾燥等の乾燥方法を採用するのが好適である。なお、含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法とは、要するに、固体から直接気体に気化させる昇華による乾燥以外の乾燥方法であり、熱風乾燥が好適であるが、その他、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、低温での送風乾燥、天日乾燥等各種の乾燥方法およびこれらの組み合わせも適用可能である。
【0011】
なお、上記の製造方法において、一次乾燥工程では、水分含量が6〜60%(w/w)になるまで原料を乾燥させるのが好適である。すなわち、原料を乾燥し過ぎると原料が破損し易くなり、逆に乾燥が不十分であると、次工程である糖質添加工程での溶液(糖質)の浸透、吸着が不十分となる傾向があり、原料の圧縮が困難でかさも減り難いが、一次乾燥工程後の水分含量が上記の範囲内であれば、そのような不都合を伴い難くなる。
【0012】
また、原料全体に満遍なく前記溶液を浸透させつつ、その後の圧縮工程における原料の取扱い性(作業性)を確保し、さらに二次乾燥工程における乾燥負荷を軽減する上では、前記糖質添加工程において、原料が一次乾燥工程後の原料重量に対して40〜100%(w/w)増加するように溶液を吸着させるのが好適であり、より好ましくは20〜70%(w/w)増加するように溶液を吸着させるのがよい。
【0013】
また、上記の製造方法において、糖質添加工程で原料に吸着させる溶液は、上記糖質として澱粉及び又は増粘多糖類を含み、かつ当該糖質の濃度が0.1〜3%(w/v)であるのが好適である。すなわち、澱粉類や、増粘多糖類は、低濃度で充分な保型性を付与でき、味に与える影響も少ないため、これらのものを用いることが好ましい。また、このように澱粉類、増粘多糖類を選択する場合、好ましい濃度としては、選択される物質によって異なるが、一般には、濃度が薄すぎると、保型性が悪くなって製品がバラけ、壊れやすい場合があり、また、濃すぎると製品の復元性が悪くなり、べた付いて成型品が隣り同士でくっ付いて作業性が悪くなる恐れがある。なお、単糖類やオリゴ糖類等分子量の小さい糖や、アラビアガム等粘度の低い増粘多糖類を用いる場合、最大40%(w/v)程度の濃度まで使用可能なものもある。
【0014】
また、糖質添加工程では、糖質、好ましくは、澱粉及び又は増粘多糖類をできるだけ満遍なく吸着させるが、この場合、糖質の種類によって多少異なるが、乾燥具材中の糖質の含有量が概ね0.05〜5%(w/w)となるように溶液の吸着量と濃度を調整して糖質添加工程の処理を行うのが好ましい。これによれば保型性と取扱い性に優れ、かつ、熱湯を注加するとすぐに結着が解けて分散し、湯戻り性に優れた乾燥具材を得ることが可能となる。
【0015】
また、水分活性低減化工程では、糖質として単糖類、少糖類、オリゴ糖類及び糖アルコールの少なくとも一種の糖質を添加するのが好適である。これらの糖質によると、野菜等の原料組織中への糖質の浸透が良好であるため、水分活性低減化の処理を効果的に、かつ速やかに進めることが可能となり、また、具材の歩留まり(ここでは、原料具材の体積に対する製品具材の体積の割合を指す)を適度に高めて、製品具材が萎み過ぎるのを防止し、食感を改善することが可能となる。
【0016】
また、二次乾燥工程では、水分含有量が10%以下(w/w)になるまで原料を乾燥させるのが好適である。このようにすれば製品(乾燥成型具材)として保存性、保型性の良好な製品となる。
【0017】
また、前記圧縮工程では、前記原料を型枠に投入して当該原料を押圧するのが好適である。これによれば、略一定形状で、一定重量の乾燥成型具材を得ることができる。形状としては、復元性を良くする目的から、薄いシート状、又は薄板状に成型するのが好ましい。
【0018】
また、上記方法においては、種類(生物種や品種を意味する)又は及び大きさの異なる複数の原料に対し、前記水分活性低減化工程から前記糖質添加工程までの処理を前記原料毎に個別に行い、前記圧縮工程において前記各原料を混合して圧縮することもできる。
【0019】
このように種類や大きさの異なる複数の原料を圧縮工程に至るまで別々に処理することで、原料の種類や大きさによる乾燥速度(一次乾燥)の違いに起因する乾燥不良や、製品中における各原料の含有比率の違いを少なくすることができる。
【0020】
一方、本発明に係る乾燥成型具材は、野菜及び又は果実類を原料として上記の製造方法により製造される乾燥成型具材であって、糖質の含有量が0.05〜5%(w/w)であることを特徴とするものである。
【0021】
この乾燥成型具材によれば、保型性と取扱い性に優れ、かつ、熱湯を注加するとすぐに結着が解けて分散し、湯戻り性に優れた乾燥具材となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の乾燥成型具材の製造方法によれば、水分活性低減化工程の後、一旦原料を乾燥させて原料に柔軟性と吸水性を持たせ(一次乾燥工程)、この乾燥原料に、糖質を含有する溶液を原料に吸着させることにより、原料全体にムラなく当該溶液を浸透させることともに原料全体にさらに柔軟性をもたせ(糖質添加工程)、その後、原料を圧縮(圧縮工程)、乾燥させる(二次乾燥工程)ようにしたので、非常にコンパクトで壊れにくく、かつ保型性の良い乾燥成型具材を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、製造工程に順じて本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
本発明に係る乾燥成型具材の製造方法は、主に、以下に詳述するブランチング工程〜二次乾燥工程からなる。なお、以下の説明において、「%」は特に説明のあるものを除き重量%(w/w)である。
【0025】
本発明に用いられる主原料は、生の野菜類、果実類であり、これを乾燥可能なように細片等適宜サイズにスライス、カットして用いる。ただし、もやしやスプラウト類のようにカットしなくとも乾燥可能なサイズのものについては、そのままカットせずに原料とすることもできる。原料のうち野菜類しては、葉菜類、果菜類、根菜類、スプラウト等いずれもが使用でき、果実類としては、りんご、ぶどう、なつめ等各種のものが使用できる。原料は単品でもよいが、目的とする最終製品の態様に合わせて、複数種類の野菜類や果実類を組み合わせて混合し、これを原料としてもよい。また、野菜、果実類の主原料だけでなく、該主原料にわかめ等海藻類や、きのこ、かまぼこ、ミンチ肉等副原料を添加することもできる。
【0026】
ただし、複数種の野菜や果実を組み合わせる場合や副原料を添加する場合、あるいは単品目であっても大きさの異なる原料を組み合わせた乾燥成型具材とする場合等は、種類や大きさに応じて、後述する圧縮工程までの処理を特定の原料毎に別々に行い、圧縮工程時に、それぞれ別々に処理された原料同士を一つに合わせて成型するのが好ましい。このように特定の原料を別々に処理することで、品目(具材)等の乾燥速度の違いに起因した乾燥不良の発生を起きにくくし、また、製品中における品目毎の含有比率の違いを少なくすることができる。これは、後の工程である圧縮工程までは、それぞれの原料がある程度流動性を有した状態であり、隣り合う原料同士が結着しない状態が維持されるために、混合や分散の処理が、圧縮工程に至るまでのいずれの段階でも可能なためである。
【0027】
〈 ブランチング工程 〉
前記原料(カットした野菜類、果実類を主原料とする単品又は混合品)をブランチング処理する。ブランチング処理は主として野菜、果実中の酵素を失活させるための操作であるが、色調変化の防止や、殺菌、調理等の目的を有する場合もある。
【0028】
ブランチング処理は、一般に80℃以上の熱水に数10秒から数分間浸漬、または煮沸することによって行われる場合が多く、本発明においてもこのような処理が用いられる。しかし、例えばネギ等の場合、高温の熱風に数分間さらす等の方法も可能である。
【0029】
なお、熱水によるブランチング処理を行った後は、水冷するのが好ましく、この場合にはさらに水切りを行う。
【0030】
〈 水分活性低減化工程 〉
次いで、ブランチング処理後の野菜、果実類に、糖質及び又は食塩を混合して、これらが吸収されるように処理する(全量が吸収される必要はない)。すなわち、原料に対して糖質や食塩を高濃度で添加することにより水分活性を低下させ、これにより微生物の増殖を抑制して食品の保存性を高めるとともに、糖質等と水分との置換により乾燥後の具材の歩留まり(ここでは、原料具材の体積に対する製品具材の体積の割合を指す)を適度に高めて製品具材が萎み過ぎるのを防止し、さらに保型性を向上させるとともに野菜らしい「シャキシャキ」とした食感を付与する。
【0031】
ここで使用する糖質としては、単糖類、少糖類、オリゴ糖類、糖アルコールから選択される一種以上の糖類であることが好ましい。特に、糖アルコールを使用する場合は、微生物資化性が低いため細菌等の繁殖が少なく、また甘みが少ないので、食味に与える影響も少ない。一方、澱粉類や増粘多糖類等の多糖類は、粘度が低いものや、溶解度の高いものであれば使用可能なものもあるが、本工程で使用するものとしてはあまり適切ではない。また、これらのものは、分子量が大きく植物組織内に入りにくく、場合によっては粘度が出過ぎて後述する一次乾燥時に原料(具材)同士が結着することが考えられるためである。
【0032】
糖質及び又は食塩を吸収させる方法としては、糖や食塩を溶解させた溶液や原液(糖アルコール等の場合)に原料を浸漬する、又は該液を噴霧する、あるいは粉末状態の糖や食塩をまぶす方法等が可能である。これによって、ブランチング処理後の原料に、糖質や食塩を吸収させるとともに脱水を促進させる。なお、前述したような糖質、食塩添加による効果を充分に得るためには、原料の周りにこれら糖質、食塩が多く存在する必要があり、溶液で処理する場合には、濃度の高い溶液を用いるのが好ましい。処理する原料の種類や大きさにもよるが、例えば、もやしに還元水あめを用いる場合、水切りしたもやしの重量に対し、還元水あめの原液を30重量%程度添加して静置するのがよい。糖質は、前記各種のものを単独でも、複数混合して使用しても、食塩と併用しても良い。また、併せて、調味料等を添加して、これを吸収させて味付けを行うこともできる。
【0033】
ブランチング処理後、溶液状で糖質、食塩を吸収させた場合には水切りし、一方、粉末の糖質、食塩をまぶした場合には表面の粉末を払い落とすか、又は水が出た場合には液切りして、その後、以下の一次乾燥処理を行う。
【0034】
〈 一次乾燥工程 〉
一次乾燥処理では、水分が6〜60%になるまで原料を乾燥させる。ここで、6〜60%としているのは、6%未満まで乾燥させると、次工程への移行時に原料が破損し易くなり、また、無駄なエネルギーの使用となる。一方、60%以上水分を含む状態では、原料のかさが減らず、原料が持つ野菜本来の硬さが強く残り、後の圧縮工程での作業が困難になるばかりか、後工程で吸着させる後記吸着糖質液が原料に吸収、吸着され難くなり、製品の保型性も悪く壊れやすいものとなる。さらに、水分活性が高くなることで作業中の微生物増殖の問題もある。これらの理由から、一次乾燥工程では、一次乾燥後の原料中の水分含量が6〜60%、好ましくは10〜35%程度、より好ましくは15〜20%程度になるように原料を乾燥させるのがよい。
【0035】
一次乾燥工程の乾燥方法としては、好ましくは含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法、例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、低温での送風乾燥等各種の乾燥方法が使用でき、これらの乾燥方法を組み合わせて用いることもできる。ただし、スピード、製造コストの点を考えると、一般的な熱風乾燥または、これにマイクロ波等を組み合わせた方法を用いるのが好適であり、その場合には、40℃〜80℃程度の熱風で原料を乾燥させるのが良い。
【0036】
なお、一次乾燥工程では、原料中の水分の分布が均一になるように乾燥させるのが好ましい。このように均一に乾燥させることで、次工程で該原料が吸収する液量にムラが生じ難くなり、また、原料表面に部分的な乾燥割れが生じる等して食感が損なわれるのを防止することができる。熱風乾燥により原料を均一に乾燥させるには、当初は高温で、途中から温度を下げて乾燥する、あるいは途中から乾燥庫内の湿度を上げる等の処置を行うようにすればよい。
【0037】
なお、一次乾燥工程における原料の乾燥方法として凍結乾燥法を使用することも可能であるが、凍結乾燥法では、原料形状が維持されたままで乾燥が進むため、原料のかさ(体積)を減らすことが難しく、また製造コストがかかる。また、上記のように水分含有量が6〜60%となる範囲で原料を乾燥させようとすると、凍結乾燥処理を途中で止める必要があり、この場合には、原料内の水分含量(水分分布)に差が生じて原料を均一に乾燥させることが難しい。従って、一次乾燥工程では、上記の通り含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法、特に熱風乾燥を主体的に用いて原料を乾燥させるのが好適である。
【0038】
一次乾燥にかかる乾燥時間は、乾燥方法、原料の種類やサイズ、量によって異なるが、例えばもやしを熱風乾燥する場合、庫内温度65℃で20分程度乾燥処理を行った後、庫内温度を45℃に下げて50分程度乾燥処理を行うことによって、水分含量約15%の均一に乾燥したもやしを得ることができる。
【0039】
〈 糖質添加工程 〉
一次乾燥処理後、糖質を含有する溶液を原料に吸着させ(以下、この溶液を「吸着糖質液」という)、一次乾燥処理後の重量に対して20〜180%程度重量(処理した吸着糖質液が液状に付着しているような場合については、これを水切りした後の重量)が増加するように処理する。
【0040】
前記吸着糖質液を原料に吸着させる方法としては、吸着糖質液を原料に噴霧又は添加して混合する方法、あるいは吸着糖質液に原料を浸漬する方法等が適用可能である。この場合、上記のように一旦乾燥させた原料(一次乾燥処理後の原料)に対して吸着糖質液を噴霧等することによって、吸着糖質液は、乾燥原料の有する吸液作用により原料全体にムラなく速やかに、かつ充分に浸透することとなる。
【0041】
このように当該工程では吸着糖質液を原料に吸着させるが、当該工程において、ブランチング処理前の水分含量を超えることは通常無いので、吸着後の水分含量としては概ね90%を越えることは無い。当該工程直後の原料の好ましい水分含量(処理した液が液状に付着している場合はこれを水切りした状態の水分含量)は、原料にもよるが、後述する圧縮工程の作業性(取扱い性)、二次乾燥工程の乾燥負荷を低減する観点等から30〜70%程度であるのが特に好ましい。
【0042】
なお、吸着糖質液に含有する糖質としては、単糖類から多糖類まで広く使用可能であるが、低濃度でも製品の保型性が良い点、味に影響を与えにくい点等から、分子量の大きい澱粉類や増粘多糖類が好ましい。澱粉類としては馬鈴薯澱粉が好ましいが、小麦澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉やこれらのα化澱粉、加工澱粉等、あるいはデキストリン類等も使用可能である。増粘多糖類としては、グアガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸等各種のものが使用可能であり、また、これらを適宜混合したものを使用することも可能である。
【0043】
該吸着糖質液の濃度は、澱粉類、増粘多糖類を使用する場合、その種類によって異なるが、澱粉類の場合は0.1〜10%(w/v)、好ましくは0.3〜3%程度であればよい。一方、グアガム、キサンタンガム等、増粘効果を使用目的とする一般的な増粘多等類の場合は0.1〜10%(w/v)、好ましくは0.1〜3%程度(ただし、アラビアガム等の粘性の低い増粘類の場合は大きく異なる)であればよい。単糖類や、少糖類、オリゴ糖類、あるいはアラビアガム等の粘度の低い増粘多糖類を用いる場合の吸着糖質液の濃度も、やはり使用する糖質の種類によって異なるが、1〜最大40%(w/v)程度まで使用可能である。なお、吸着糖質液に、味付けのための調味料等を混合させて吸着させることも可能であり、例えば食塩、醤油、スパイス、食酢、味噌等を添加することが可能である。
【0044】
なお、この糖質添加工程では、上記のような条件に基づいて吸着糖質液を原料に吸着させるが、その理由は次の通りである。すなわち、吸着糖質液を吸着させすぎたり、その濃度が濃すぎると、製品がべた付いて取扱いにくく、製品が湯戻りしにくかったり、製品の品質にばらつきが生じ、場合によっては次工程への移行が不可能になるためである。また逆に、吸着糖質液が不足して満遍なく吸着されなかったり、その濃度が薄すぎると、成型できなかったり、最終製品が壊れやすくなり、定形のものを製造しにくくなるためである。
【0045】
また、この糖質添加工程では、原料に対する吸着糖質液の吸着量の幅が広い(20〜180%の重量増加)が、これは一次乾燥の度合いによって吸着させる液の量が異なってくるためである。ただし、上記20〜180%の重量増加は、一次乾燥後の水分含量が最も適切な状態、すなわち、一次乾燥後の水分含量が15〜20%程度になるように原料を乾燥させた場合であれば、使用する糖質の濃度を調整することによって、充分に商品化に耐え得る製品を製造可能な、吸着糖質液の吸着量である。このようにして吸着させた吸着糖質液中の糖質は、最終製品中にそのまま存在することになるが、当該糖質添加工程では、糖質として澱粉又は増粘多糖類を用いる場合、最終製品(後記二次乾燥終了後)における該糖質の含有量が概ね0.05〜5%、特に澱粉においては0.2〜3%程度となるように、吸着糖質液の量と濃度を調整するのが好ましい。すなわち、この範囲内で糖質を含む製品によれば、後述する実験例等に示す通り、製品の復元時の湯戻り性に特に優れ、熱湯を注加するだけで容易に分散して急速に復元できるからである。
【0046】
〈 圧縮工程 〉
一次乾燥によって容量を大幅に減らし、次いで吸着糖質液を吸着させた原料は、続いて成型のための圧縮を行う。この場合、定形の成型具材とするには、定形の型枠内に上述の吸着糖質液を吸着させた原料を等量ずつ充填して押圧するかのが好ましいが、他にも、吸着糖質液を吸着させた原料を平面上に均一に拡げ、これを押圧してシート状とした後に定形に切断する方法や、シート状に押圧したものを二次乾燥後に定形に切断する方法等も採用できる。また、湯戻りしやすいように、空隙のある薄板状、又はシート状に押圧するのが望ましく、この場合には、押圧装置や指によって圧縮、成型することができる。
【0047】
なお、圧縮される原料には上記の通り糖質添加工程において吸着糖質液がムラなく充分に浸透しており、また、原料全体が適度な柔軟性をもっている。そのため、この圧縮工程において、原料は、破損等を伴うことなくコンパクトに圧縮、成型され、さらに圧縮後は、当該吸着糖質液(糖質)のもつ結着作用が原料全体にムラ無く効果的に発揮され、その結果、当該圧縮(成型)状態が良好に保持されることとなる。
【0048】
なお、多品目の原料を混合した成型具材とする場合、前述したように、圧縮工程において品目毎、あるいはサイズ毎にそれぞれ別に製造された各種原料を混合し、圧縮に掛けることもできる。例えば、別々にブランチング工程から糖質添加工程までの処理を行ったもやしと、にんじん小切片と、にんじん大切片をこの時点で併せて圧縮し、一塊りの成型具材とすることもできる。また、この時に、野菜、果実類以外の副原料(野菜、果実類同様乾燥させてあるものが好ましい)、例えば、わかめ、きのこ、かまぼこ、ひき肉等を加えて併せて圧縮しても良い。
【0049】
〈 二次乾燥工程 〉
圧縮工程において、原料を圧縮してその容積を減らし、かつ個々の細片の原料を一塊りに結着させて成型した後、再度原料を乾燥させる。すなわち、原料の水分含量を減らして保存性を高めるとともに、成型された具材の保型性を高め、さらに製品のべた付きをなくしてハンドリング性を向上される。これにより最終製品(乾燥成型具材)が完成する。
【0050】
ここで、製品に充分な保存性を付与するためには、二次乾後の水分含量が10%以下、好ましくは1〜6%程度になるように乾燥させる。二次乾燥工程の乾燥方法は、一次乾燥工程の方法と同様に、含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法、例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥、真空乾燥、低温での送風乾燥等各種の乾燥方法が好ましく使用でき、これらの乾燥方法を組み合わせて用いることもできる。ただし、スピード、製造コストの点を考えると、一般的な熱風乾燥または、これにマイクロ波等を組み合わせた方法を用いるのが好適であり、その場合には、40℃〜80℃程度の熱風で原料を乾燥させるのが良い。
【0051】
このように二次乾燥処理を施した最終製品は(乾燥成型具材)、適度に柔軟性があり、衝撃や充填作業時に破損するようなことはほとんどなく、また、上記の通り圧縮されたコンパクトな状態が良好に保持されることとなる。そして、即席麺の具、即席味噌汁やスープ等の具材(かやく)として好適に使用でき、長期間の保存が可能で、熱水によって容易に復元するものとなる。
【0052】
なお、二次乾燥工程の乾燥方法として凍結乾燥法を適用することも可能であるが、望ましくない。その理由は、凍結乾燥法を用いて乾燥すると、製品が柔軟性に乏しく壊れやすいものとなってしまい、また、コスト的、施設的にも負荷が大きくなるためである。
【0053】
以上説明した本発明に係る乾燥成型具材の製造方法によれば、吸着糖質液を原料に吸着させた後、当該原料を圧縮、乾燥させることにより(糖質添加工程、圧縮工程、二次乾燥工程)、乾燥成型具材を製造するが、上記の通り、糖質添加工程前に一旦原料を乾燥させて原料に柔軟性と吸水性を付与し(一次乾燥工程)、この乾燥原料の有する吸液作用を利用して原料全体に吸着糖質液をムラなく速やかに浸透させ、さらにこの浸透により原料全体に充分な柔軟性をもたせた上で、原料を圧縮するようにしているので、破損を伴うことなく非常にコンパクトに原料を圧縮、成型することができ、しかもこの圧縮後は、糖質による結着作用が原料全体に亘って効果的に発揮されて当該圧縮(成型)状態が良好に保持されることとなる。そしてその後、再度乾燥処理(二次乾燥工程)を施すため、製造された乾燥成型具材は上記圧縮(成型)状態を保った非常にコンパクトで壊れにくく、かつ保型性の良いものとなる。
【0054】
しかも、一次および二次乾燥工程において、上記の通り、熱風乾燥等、含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法によって原料を乾燥させる方法を採れば、凍結乾燥法を用いる場合のように設備費用やランニングコストが嵩むことがなく、かさ張らずに壊れ難い乾燥成型具材を安価に製造することができる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実験例、実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実験例、実施例の開示に基づいて限定的に解釈されるべきでない。
【0056】
まず、実験例について説明する。
【0057】
<実験例1>(糖質添加工程における(一次乾燥後の)吸着糖質液の検討)
緑豆もやし1kgを10L、100℃の沸騰水に投入し、2分間ブランチング処理した後、1分間水冷し、5分間よく水切りした。このブランチング処理、水切り後の重量は約910gであった。次いで、この水切り後のもやし100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を30重量部添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、15分間液切りした。この処理後の重量は750gであった。糖を処理したもやしを、箱型の棚型乾燥機の棚に30×60cmに広げて時々攪拌しながら、45℃で風速約0.5m/s、80分間一次乾燥した。
【0058】
一次乾燥後のもやし重量、水分含量は、ロットによって若干異なるが、重量150g〜170g(平均160g)、水分含量は13〜20%(平均16%)程度であった。当該サンプルに、各種濃度の馬鈴薯澱粉、エーテル化澱粉(タピオカ由来)、小麦澱粉、コーンスターチ、グアガム、アラビアガム、マルトースの各溶液を各量(一次乾燥後のもやし100重量部に対し10〜200重量部)添加して混合し、吸着させた。なお、澱粉の場合は、水に該澱粉を混合しながら加熱していき、到達温度90℃で10分間保持して充分にα化したものを用いた。一方、増粘多糖類とマルトースは充分に混合して溶解させ、使用した。次いで、各溶液を吸着させた一次乾燥済みもやしを、それぞれ5cm×5cmの型枠に18g投入し、上から指で圧縮して成型し、成型可能なものについては、これを棚型の乾燥機に入れて60℃、風速約0.5m/sで水分が7%以下に達するように8時間熱風乾燥(二次乾燥)し、シート状の乾燥成型具材とした。このようにして完成させた乾燥成型具材に熱湯を注加して1分後の状況(復元性の状況)を確認した。
【0059】
以下、表1〜4において、0.5〜10%(w/v)の各種濃度の馬鈴薯澱粉溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。なお、馬鈴薯澱粉20%溶液も作成したが、20%ではゲル状となり、処理が不可能であった。以下の各表(表1〜4以降も含む)において、評価欄は、5人のパネラーによって判断した総合評価の結果を記載したものであり、保型性が良く壊れにくく、湯戻し時にはほぐれ、復元性が良好で、高品質なものを◎、充分に商品化が可能なレベルのものを○、何とか商品化が可能なレベルのものを△、成型ができなかったり、吸着糖質液が吸着されずに残る等、商品化できないもの又はそのレベルに達しないと判断されたものを×とした。また、表中(表1〜21)の「含有%」の記載は、一次乾燥後に吸着させた各糖質について、最終製品の乾燥成型具材中における該糖質の重量%の概算値を記載したものである。また、表中「復元性良好」とは、熱湯を注加して1分以内にほぐれて分散し、湯戻りしたものを良好とし、分散していないが、箸を使ってほぐすことができ、湯戻りする程度のものを「復元性やや難」とした。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
次に、表5〜7において、1〜10%(w/v)の各種濃度のタピオカ由来エーテル化澱粉(商品名「NATHIONAL7」日本エヌエヌシー社製)溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。
【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
次に、表8、9において1%と10%(w/v)濃度の小麦澱粉溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。
【0069】
【表8】

【0070】
【表9】

【0071】
次に、表10、11において1%と10%(w/v)の濃度のコーンスターチ溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。なお、コーンスターチ20%溶液も作成したが、20%ではゲル状となり、処理が不可能であった。
【0072】
【表10】

【0073】
【表11】

【0074】
次に、表12〜15において0.1〜3%(w/v)の濃度のグアガム溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。なお、グアガム5%溶液も作成したが、グアガムの場合5%ではゲル状となり、処理が不可能であった。
【0075】
【表12】

【0076】
【表13】

【0077】
【表14】

【0078】
【表15】

【0079】
次に、表16〜18において1〜40%(w/v)のアラビアガム(商品名「アラビックコールSS」伊那食品工業社製)溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。なお、アラビアガム50%溶液も作成したが、アラビアガムの場合50%ではゲル状となり、処理が不可能であった。
【0080】
【表16】

【0081】
【表17】

【0082】
【表18】

【0083】
次に、表19〜21において1〜20%(w/v)のマルトース溶液を各量添加(一次乾燥後のもやし100重量(g)に対する添加量)した時の、評価結果を記載する。
【0084】
【表19】

【0085】
【表20】

【0086】
【表21】

【0087】
上記、実験例1の各実験結果から、一次乾燥後の水分を最も作業性の良い乾燥条件(水分約16%)に乾燥させた場合で、澱粉の場合、一次乾燥後のもやし100重量部に対して20〜180重量部の澱粉溶液を吸着させることで成型可能であり、馬鈴薯澱粉の場合では40〜140重量部吸着させることで、作業性、品質共に特に優れた乾燥成型具材を製造できた。一方、増粘多糖類及びマルトースについては、一次乾燥後のもやし100重量部に対して20〜160重量部を吸着させることで成型可能であり、グアガムの場合は、40〜140重量部の澱粉溶液を吸着させることで、特に優れた乾燥成型具材を製造できる。ただし、溶液の吸着量を多くすると、二次乾燥にかかる時間、コストが上がるため、いずれの場合でも一次乾燥品に対して40〜100重量部程度吸着させるのが好ましいと考察できる。
【0088】
また、溶液濃度については、澱粉溶液の濃度としては、10%(w/v)程度以下、好ましくは0.3〜3%(w/v)程度でいずれも乾燥成型具材が製造可能で、増粘多糖類の場合、種類によって大きく異なるが、グアガムで0.1〜3%(w/v)、一方、アラビアガムでは1〜40%(w/v)程度が好ましく製造できる。さらに、最終製品の乾燥成型具材における一次乾燥後に吸着させた糖質の量としては、アラビアガム、マルトース等の高濃度でも粘度の低いものを除いて、グアガムの場合で0.05〜5%、澱粉類で0.2〜3%程度で、この範囲において、熱湯注加時における具材の分散性、復元性が最も良好であった。
【0089】
<実験例2>(一次乾燥工程における水分の検討)
緑豆もやし1kgを10L、100℃の沸騰水に投入し、2分間ブランチング処理した後、1分間水冷し、5分間よく水切りした。このブランチング処理、水切り後の重量は約910gであった。次いで、この水切り後のもやし100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を30重量部添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、15分間液切りした。この糖処理後の重量は750gであった。糖を処理したもやしを、箱型の乾燥機の棚に30×60cmに広げて、時々攪拌しながら、45℃、風速約1m/sで乾燥時間を変えて一次乾燥した。
【0090】
当該サンプルに、濃度1%(w/v)の馬鈴薯澱粉の溶液を、一次乾燥後のもやし100重量部に対し50重量部添加して混合し、吸着させた。なお、澱粉溶液は、水に該澱粉を混合しながら加熱していき、到達温度90℃で10分間保持して充分にα化したものを用いた。次いで、馬鈴薯澱粉溶液を吸着させたもやしを、それぞれ直径7cmの円形の型枠に20g投入し、上から指で圧縮して成型し、これを箱型の乾燥機に入れて60℃、風速約0.5m/sで水分7%以下になるまで6時間熱風乾燥(二次乾燥)して、シート状の乾燥成型具材とした。このようにして完成させた乾燥成型具材に熱湯を注加して1分後の状況(復元性の状況)を確認した。
【0091】
以下、表22に、一次乾燥工程の乾燥時間を変えて乾燥させた時の、水分、水分活性(AW)、評価を記載した。
【0092】
【表22】

【0093】
上記実験例2の結果から、一次乾燥後の水分が約60%以下の状態から、乾燥成型具材の製造が可能であるが、作業性、品質共に適切な範囲としては、10〜35%程度であった。
【0094】
<実験例3> (一次乾燥の度合いと吸着糖質液の濃度及び量の変更試験1)
豆苗1kgを98℃の熱水に投入し30秒間ブランチング処理した後、水冷し、30分間静置して水切りした。水切り後ラクトースを約75g添加して混合、時々かき混ぜながら30分間静置して、よく水切りした。このように糖を処理した原料を箱型の送風乾燥機の棚に広げて、75℃で送風して時々撹拌しながら、それぞれ300g、400g、500g、600gになるまで乾燥した(原料重量に対する歩留まりとして30%、40%、50%、60%)。
【0095】
当該各サンプルに、吸着糖質液として濃度1〜3%の馬鈴薯澱粉の溶液(水に澱粉を加えながら加熱し、90℃で10分保持して充分α化させたもの)を、前記一次乾燥後の重量に対して、それぞれ20〜60%重量が増加するように加えよくかき混ぜながら吸着させた後、直径3cmの円形の型枠に約3g投入し、上から指で圧縮して成型し、これをさらに箱型の送風乾燥機の棚に広げて、75℃で送風乾燥し、最終水分含量が約7%になるまで乾燥し、シート状の乾燥成型具剤とした。このようにして完成させた乾燥成型具材に熱湯を注加して1分後の状況を確認した。
【0096】
以下、表23に、「成型性」、「復元性」および「評価」の結果を示す。なお、同表中、「成型性」の欄は、製品が衝撃等で割れたりせず、充分な保型性を有するものを○、強固に保型性を有するものを◎、衝撃等軽い力で壊れたり、分割してしまうものを×とした。また、「復元性」は、熱湯を注加して1分以内にほぐれて分散し、湯戻りしたものを◎とし、分散していないが、箸を使ってほぐすことができ、湯戻りする程度のものを△とした。「評価」の方法は実験例1と同様である。
【0097】
【表23】

【0098】
<実験例4> (一次乾燥の度合いと吸着糖質液の濃度及び量の変更試験2)
ニンジンをトリミングして細い短冊状に切り、その1kgを98℃の熱水に投入し90秒間ブランチング処理した後、水冷し、30分間静置して水切りした。水切り後ラクトースを75g添加して混合、時々かき混ぜながら30分間静置して、よく水切りした。このように糖を処理した原料を箱型の送風乾燥機の棚に広げて、75℃で送風して時々撹拌しながら、重量が、それぞれ71g、118g、235gになるまで乾燥した(原料重量に対する歩留まりとして7.1%、12%、24%)。
【0099】
当該各サンプルに、吸着糖質液として濃度0.1〜3%の馬鈴薯澱粉の溶液(水に澱粉を加えながら加熱し、90℃で10分保持して充分α化させたもの)を、前記一次乾燥後の重量に対して、それぞれ20〜180%重量が増加するように加えよくかき混ぜながら吸着させた後、直径5cmの円形の型枠に約6g投入し、上から指で圧縮して成型し、これをさらに箱型の送風乾燥機の棚に広げて、75℃で送風乾燥し、最終水分含量が約7%になるまで乾燥し、シート状の乾燥成型具剤とした。このようにして完成させた乾燥成型具材に熱湯を注加して1分後の状況を確認した。
【0100】
以下、表24に、「成型性」、「復元性」および「評価」の結果を示す。なお、同表中の結果は実験例3と同様に評価した。
【0101】
【表24】

【0102】
これら実験例3,4(表23,24)の結果から、一次乾燥後に吸着させる吸着糖質液に馬鈴薯澱粉の溶液を用いた場合、一次乾燥時の歩留まりが7〜60%(原料重量に対する歩留まりであって水分含量では無いことに注意:水分含量としては約6〜60%程度)のいずれの乾燥条件においても、吸着糖質液の濃度、液量を調整することで、目的とする高品質の成型乾燥具材の製造が可能であった。吸着糖質液の濃度としては、一次乾燥時の水分含量の高い状態で、最大3%(w/v)以下、一次乾燥時の水分含量が低い状態では、最低0.1%(w/v)以上で、総合評価がまずまずの品質の製品となった。一方、吸着糖質液の液量としては、一次乾燥後の重量に対して、一次乾燥時の水分含量が高い状態で、最低20%以上、一次乾燥時の水分含量が低い状態で、最大180%以下で、総合評価の高い品質の製品が得られた。
【0103】
次に、実施例について説明する。
【0104】
<実施例1> (水分活性低減化工程の処理にマルトースを用いたもの)
緑豆もやし1kgを10L、100℃の沸騰水に投入し、2分間ブランチング処理した後、1分間水冷し、5分間よく水切りした。このブランチング処理、水切り後の重量は約950gであった。次いで、この水切り後のもやし100重量部に対し、マルトースを粉末で30重量部添加して混合し、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、15分間液切りした。このマルトース処理後の重量は700gであった。マルトースを処理したもやしを、箱型の乾燥機の棚に30×60cmに広げて、時々攪拌しながら、45℃、風速約0.5m/sで80分間一次乾燥した。乾燥後の重量は150gであった。
【0105】
当該サンプルに、濃度1%(w/v)の馬鈴薯澱粉の溶液を、一次乾燥後のもやし100重量部に対し50重量部添加して混合し、吸着させた。なお、澱粉溶液は、水に該澱粉を混合しながら加熱していき、到達温度90℃で10分間保持して充分にα化したものを用いた。次いで、馬鈴薯澱粉溶液を吸着させたもやしを、それぞれ直径5×5cmの型枠に18g投入し、上から指で圧縮して成型し、これを箱型の乾燥機に入れて80℃、風速約0.5m/sで水分5%以下になるまで5時間熱風乾燥(二次乾燥)して、シート状の乾燥成型具材10.5gを得た。該製品は保型性等に問題はなく、熱湯を注加して1分後の状況を確認したところ、容易にほぐれて復元した。
【0106】
<実施例2>(水分活性低減化工程の処理に食塩を用いたもの)
緑豆もやし1kgを10L、100℃の沸騰水に投入し、2分間ブランチング処理した後、1分間水冷し、5分間よく水切りした。このブランチング処理、水切り後の重量は約97gであった。次いで、この水切り後のもやし100重量部に対し、食塩を5重量部添加して混合し、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、15分間液切りした。この食塩処理後の重量は810gであった。食塩を処理したもやしを、箱型の乾燥機の棚に30×60cmに広げて、時々攪拌しながら、45℃、風速約0.5m/sで90分間一次乾燥した。乾燥後の重量は155gであった。
【0107】
当該サンプルに、濃度1%(w/v)の馬鈴薯澱粉の溶液を、一次乾燥後のもやし100重量部に対し50重量部添加して混合し、吸着させた。なお、澱粉溶液は、水に該澱粉を混合しながら加熱していき、到達温度90℃で10分間保持して充分にα化したものを用いた。次いで、馬鈴薯澱粉溶液を吸着させたもやしを、それぞれ直径5×5cmの型枠に18g投入し、上から指で圧縮して成型し、これを箱型の乾燥機に入れて60℃、風速約0.5m/sで水分7%以下になるまで6時間熱風乾燥(二次乾燥)して、シート状の乾燥成型具材約11gを得た。該製品は保型性等に問題はなく、熱湯を注加して1分後の状況を確認したところ、容易にほぐれて復元した。なお、塩味は調整可能な範囲で、塩味が強すぎるということはなかった。
【0108】
<実施例3>(もやし、ニンジン、豆苗の混合具材の作成例)
緑豆もやし6.7kgを洗浄し、95℃の熱水に投入し、90秒間ブランチング処理した後、水冷、水切りした。この水切り後のもやし100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を27重量部とこれに3重量部の食塩を混合した溶液を添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、液切りした。この糖液(糖+食塩)処理後の重量は3.72kgであった。糖液を処理したもやしを、箱型の熱風乾燥機の棚に2〜3cm程度の厚さに広げて、65℃で20分、続いて45℃で50分一次乾燥した。一次乾燥後のもやし重量は0.8kgであった。この一次乾燥後のもやしに、馬鈴薯澱粉を加熱してα化した溶液1%(w/v)を、該もやし100部に対して50部添加してよく混合し、吸着させた。
【0109】
上記もやしとは別に、ニンジン0.4kgを洗浄し、ピーリング、2×2×30mmにカットし、95℃の熱水に投入し、90秒間ブランチング処理した後、水冷、水切りした。この水切り後のニンジン100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を27重量部とこれに4重量部の食塩を混合した溶液を添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、液切りした。この糖液(糖+食塩)処理後の重量は0.27kgであった。糖液を処理したニンジンを、箱型の熱風乾燥機の棚に2〜3cm程度の厚さに広げて、65℃で20分、続いて45℃で40分一次乾燥した。一次乾燥後のニンジン重量は0.07kgであった。この一次乾燥後のニンジンに、馬鈴薯澱粉を加熱してα化した溶液1%(w/v)を、該ニンジン100部に対して50部添加してよく混合し、吸着させた。
【0110】
上記もやし、ニンジンとはさらに別に、豆苗6.4kgを洗浄し、95℃の熱水に投入し、60秒間ブランチング処理した後、水冷、水切りした。この水切り後の豆苗100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を27重量部とこれに5重量部の食塩を混合した溶液を添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、液切りした。この糖液(糖+食塩)処理後の重量は3.2kgであった。糖液を処理した豆苗を、箱型の熱風乾燥機に2〜3cm程度の厚さに広げて、65℃で20分、続いて45℃で35分一次乾燥した。一次乾燥後の豆苗重量は0.8kgであった。この一次乾燥後のもやしに、馬鈴薯澱粉を加熱してα化した溶液1%(w/v)を、該豆苗100部に対して50部添加してよく混合し、吸着させた。
【0111】
上記のように製造したもやし、ニンジン、豆苗の各澱粉吸着具材をそれぞれ、12g、2g、4gづつ7cm×7cmの成型型枠に入れ、指先で拡げながら圧縮し、成型した。該圧縮して混合した3種混合具材をトンネル型の乾燥機入れて60℃6時間熱風乾燥して、シート状の乾燥成型具材とした。完成したシート状の乾燥成型具材は11g、水分含量は6.3%で、およそ65×65mm、厚さ4mmであった。該完成した乾燥成型具材に熱湯を注加したところ、すぐに分散し、1分程度でほぼ均一に復元した。これを喫食したところ、野菜らしい「シャキシャキ」とした食感で、即席麺やスープの具材として好ましいものであった。
【0112】
<実施例4>(保存試験)
緑豆もやし6.7kgを洗浄し、95℃の熱水に投入し、90秒間ブランチング処理した後、水冷、水切りした。この水切り後のもやし100重量部に対し、還元水あめの原液(商品名「アマミン500N」協和発酵社製)を27重量部とこれに3重量部の食塩を混合した溶液を添加して混合、以降10分おきに混合、攪拌を繰り返しながら30分間静置して、液切りした。この糖液(糖+食塩)処理後の重量は3.72kgであった。糖液を処理したもやしを、箱型の熱風乾燥機の棚に2〜3cm程度の厚さに広げて、65℃で20分、続いて45℃で50分一次乾燥した。一次乾燥後のもやし重量は0.8kgであった。この一次乾燥後のもやしに、馬鈴薯澱粉を加熱して溶解した溶液1%(w/v)を、該もやし100部に対して50部添加してよく混合し、吸着させた。
【0113】
上記のように製造したもやしの澱粉溶液吸着具材を、18.5gずつ8cm×8cmの網状成型型枠に入れ、指先で拡げながら圧縮し、成型した。該型枠ごとトンネル式の乾燥機に投入し60℃で1時間乾燥後、型枠をはずしてさらに5時間乾燥して、シート状の乾燥成型具材とした。完成したシート状の乾燥成型具材は約11.5g、水分含量は5%であった。
【0114】
該完成した乾燥成型具材を、通気性のあるポリエチレン製の包材に密封して、恒温器で夏期6ヶ月の保存条件に相当する加速試験を行った。このように加速試験に掛けたものに対して、冷蔵して保存したものを用意し、熟練したパネラー5人で、冷蔵して保存したものと比較して、外観、匂いを確認後、熱湯を注加して1分間で復元させ、喫食して官能評価を行った。その結果、加速試験に掛けたものは、色調について若干の褐変があり、匂いもわずかに糖が焼けたような匂いがしたが、品質的に問題はなく、熱湯による復元性もよく、喫食しても充分に食べられる品質であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥成型具材の製造方法であって、
ブランチング処理を施した野菜及び又は果実類を原料として、当該原料に糖質及び又は食塩を添加することにより原料の水分活性を低下させる水分活性低減化工程と、
原料を乾燥させる一次乾燥工程と、
糖質を含有する溶液を原料に吸着させる糖質添加工程と、
原料を圧縮する圧縮工程と、
原料を乾燥させる二次乾燥工程と、を順に実施することを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記一次乾燥および二次乾燥工程では、含有水分を液体から気体に気化させる乾燥方法により前記原料を乾燥させることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記一次乾燥工程では、水分含量が6〜60%(w/w)になるまで原料を乾燥させることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記糖質添加工程では、原料が一次乾燥工程後の原料重量に対して40〜100%(w/w)増加するように溶液を吸着させることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記糖質添加工程において原料に吸着させる溶液は、前記糖質として澱粉及び又は増粘多糖類を含み、かつ当該糖質の濃度が0.1〜3%(w/v)であることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記糖質添加工程では、二次乾燥工程後の原料における糖質の含有量が0.05〜5%(w/w)となるように前記溶液を原料に吸着させることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記水分活性低減化工程では、糖質として単糖類、少糖類、オリゴ糖類及び糖アルコールの少なくとも一種の糖質を添加することを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記二次乾燥工程では、水分含有量が10%(w/w)以下になるまで原料を乾燥させることを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
前記圧縮工程では、前記原料を型枠に投入して当該原料を押圧することを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか一項に記載の乾燥成型具材の製造方法において、
種類又は及び大きさの異なる複数の原料に対し、前記水分活性低減化工程から前記糖質添加工程までの処理を前記原料毎に個別に行い、前記圧縮工程において前記各原料を混合して圧縮することを特徴とする乾燥成型具材の製造方法。
【請求項11】
野菜及び又は果実類を原料として請求項1に係る乾燥成型具材の製造方法により製造される乾燥成型具材であって、
糖質の含有量が0.05〜5%(w/w)であることを特徴とする乾燥成型具材。

【公開番号】特開2007−209331(P2007−209331A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328303(P2006−328303)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000226976)日清食品株式会社 (127)
【Fターム(参考)】