説明

乾燥粉末フィブリンシーラント

本発明は、手術、外傷及び他の創傷又は損傷で使用されるための、フィブリノーゲンとトロンビンとの混合物を含む乾燥粉末フィブリンシーラントに関する。本発明は、更に、双書の処置又は外科的処置又は局所止血剤として使用するための、前述の乾燥粉末フィブリンシーラントを含む新規な製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術、外傷及び他の創傷及び損傷で使用されるための乾燥粉末フィブリンシーラントに関する。更に創傷又損傷の治療で使用されるための、特に局所止血組成物として使用するための前述の乾燥粉末フィブリンシーラントを含む新規の製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
WO第97/44015号は、フィブリノーゲンとトロンビンの微小粒子に基づく乾燥粉末フィブリンシーラントを記載している。更に、これら微小粒子組成物の最適化された製剤が、参照により本明細書に組み込まれる、同時係属中の非仮出願US第12/636,718号に記載されている。本願の実施例では、フィブリノーゲンをトレハロースで、並びにトロンビンをトレハロースでスプレー乾燥することによって、構成成分が調製される。各生成物は、直径で50μmまでの主な粒子サイズを有する。フィブリンシーラント、すなわちこれら成分の配合物は、使用が簡単であり、安定で、並びに効果的な止血剤であることが立証された。この製品は、再調製することなく即時に使用され得る。血液などの水性流体に接触する際に、曝露された及び/又は溶解された活性トロンビンが、曝露された及び/又は溶解されたフィブリノーゲンを不溶性フィブリンポリマーへと変換する。
【0003】
出血並びに出血及び/又は出血制御のための新しい技術、装置、及び薬剤は、開発が続けられている。全ての技術が現在使用可能であるにもかかわらず、出血及び出血制御は、緊急医療処置において未だに主要な未解決問題である。入院の最初の48時間における全ての死亡のほぼ50%が、出血を適切に抑制できないことに関連する。最初の24時間以内での出血の停止の失敗は、特に複数の外傷部位が含まれる場合、致命的である。
【0004】
戦闘領域における前衛医療のための止血製品は、出血を迅速に制御し、使用が容易であり、適用が簡単であらねばならず、約2年間の有効期限を有し、並びに細菌又はウィルス感染を防止せねばならないことが一般的に認められている。製品の止血作用は、軍事と民間の要求の双方に適合するために、速度が重要である。
【0005】
創傷治療の体外法として研究されている又は今日使用されている器具は、血液凝固剤を含有するパッド、圧迫包帯、ガーゼ、四肢のための止血帯、及び身体への創傷のためのトラウマキットなどに及ぶ。
【0006】
組成及び成分が異なる体外出血を停止させるよう設計された薬剤は、適用部位にての凝血塊の迅速な形成を支援するよう設計されている。血液凝固製品は、ヒトフィブリノーゲン、トロンビン、カルシウム、XIII因子及び/又は抗−線維素溶解剤などのような物質の高濃度を概ね含有する。フィブリンに加えて、微多孔性多糖類マクロビーズ、ミネラル及び合成ゼオライト、並びにキトサン(ポリ−N−アセチルグルコサミン)もまた、止血剤として使用可能である。例えばチトサン(脱アセチル化ポリ−N−アセチルグルコサミンベース、HemCon Inc.,Tigard,Oreg.)を使用する包帯製品などのような、多くの新しい止血製品が、損傷外傷の処置に使用可能である。しかしながら、それは18か月の有効期限を有し、並びにコスト高である。Z−Medica Corporation,Wallingford,Conn.は、米国軍隊によって使用される圧迫包帯製品(QuikClot)を販売している。この製品は、液体を吸収しかつ血液凝固を促進することによって止血するために、顆粒状の合成ミネラルゼオライトを使用している。しかし、QuikClotは、包帯が正確に適用されない場合に、火傷を引き起こす熱を発生する。
【0007】
ActSys Medical Inc.,Westlake Village,Calif.は、止血ガーゼ製品を提供していて、これは化学的に処理されたセルロースから作成されたコラーゲン様天然物質である。これは、血液と接触する際に、元のサイズの3〜4倍に膨張し、これによって、損傷した血管を封じ込めて、血液凝固を補助する。
【0008】
Medafor Inc.,Minneapolis,Minn.は、TraumaDEXと呼ばれる、ジャガイモから合成される生体不活性な微多孔性多糖類マクロビーズ製品を販売している。この粉末化微多孔性ポリマー製品は、創傷部位にて膨張しかつ血液を脱水することによって止血し、この際、本体は48時間以内に物質を吸収する。
【0009】
別の非包帯的アプローチは、親水性ポリマーとカリウム塩を含有する非ゼオライト性局所粉末(Quick Relief,Sarasota,Fla.)を採用し、これは粉末が血液と接触しかつ僅かな圧力が加えられる場合、投与後に、創傷部位を覆う柔軟な保護的スクラブを産生する。
【0010】
過剰出血を治療するための完全な溶液は、現在存在しない。薬剤の1つの型に関する熱発生が主な問題である。深部の創傷又は不規則形状の創傷に適用される場合、効果的に接着するための包帯剤の能力が、別の主な制限を生み出す。それが動脈出血からの処置及び圧迫出血の制御であるために、過剰出血に対処するための能力が別の弱点である。
【0011】
手術創及び外傷創が、創傷治療領域で解決される創傷の最も一般的なタイプである。現行の包帯は、ガーゼから作られ、弾性包帯と併用して頻繁に適用される。これらは創傷が呼吸することを可能にするが、後続の汚染に対して不良なバリアーである。これら包帯は、重篤な出血を止めることができず、動脈出血の場合、圧力の適用を必要とする。従来の創傷シーラントは、血液凝固の速度、圧迫出血条件下での効果、及び外傷部位の必要性に応じて経時的に動的である凝血塊の最適化された組み合わせを呈することができない。典型的な創傷シーラントは、通常は別個の創傷包帯剤と関連付けて使用される。明らかに、手術外傷は、清浄な環境において鋭利な物体によって生じる。しかしながら、制御環境では生じない外傷創傷は、大抵は中間サイズで、広範囲であり、並びに相当な組織損傷を伴う汚染された創傷が、交通事故又は戦場で認められる。
【0012】
表皮剥離が、皮膚の外部層の削り落ちによって一般的に生じ、裂傷はギザギザになっていて、皮膚の不規則な切断又は断裂があり;穿刺は、皮膚を貫通し、小さな穴を作り出す物体によって生じ;切開口は、ナイフ又は他の鋭利な物体によって通常生じる切断であること;及び火傷が深さ、寸法及び重篤度が非常に大きい可能性がある損傷を引き起こす。銃器による創傷は深い可能性があり、実質的に組織破壊を伴い得る。外傷による四肢切断は、切断された四肢からの失血を即時に処置する必要がある。
【0013】
液体包帯製剤は、処方箋なし(OTC)の所費者市場で利用可能である。液体包帯製剤は、小さい裂傷及び表皮剥離、摩擦水泡及び紙による裂傷を覆い、保護するために頻繁に使用される。皮膚に塗布される場合、溶液が蒸発して、保護膜を塗布領域上を覆い、治癒を促進する。覆っているポリマー化膜は、湿った創傷治癒環境を作り出し、従来の包帯と比較して創傷治癒を増大させる。ほとんどの液体包帯が、軽症の出血を止めて、創傷の上部に保護的シールを作り出し、並びに水、汚れ及び病原菌を締め出すことを主張している。これら製剤は、一般的な微生物及び汚染の他の形態に対して機械的バリアーとして概ね作用する。液体包帯製品は、多くの市販源から使用可能であり、New Skin Liquid Bandage、Nexcare Bandage Spray Liquid Bandage、J&JによるLiquid Bandage、Skin Shield Liquid Bandage Curad Spray Bandageなどが挙げられる。粉末ベースの止血剤もまた、QuikClot(Z−Medica)、Urgent QR and Nosebleed QR(BIOLIFE)、TraumaDEX and Bleed−X(Medafor)、Celox(MEDTRADE Biopolymers)、ActCel(ActSys Medical)、及びQuick Reliefなどのような製品で、広範囲に使用可能なOTCである。
【0014】
特許出願公開WO第96/17633号は、フィブリン包帯を含む組織シーラントを記載している。このWO特許出願公開で記載された包帯を生成するために使用された方法では、密封基材によって支持されている別個の層で、活性成分が凍結乾燥される。したがって、活性成分は包帯全体に均一に混合されていない。
【0015】
欧州特許第1073485号(Zymogenetics社)は、完全組換体組織シーラント組成物を記載しているが、乾燥粉末形状との参照はされていない。
【発明の概要】
【0016】
本発明によるフィブリンシーラントは、WO第97/44105号に記載されている一般的型のフィブリンシーラントであり、更に、参照により本明細書に組み込まれる、同時係属中の出願US第12/636,718号に記載されているこれら微小粒子組成物の最適化製剤である。これら微小粒子製剤は、必要に応じて、生体適合性、水吸収性、水膨潤性添加剤材料、若しくは水溶性添加剤材料又は生体適合性、水吸収性、シリカ添加剤材料を更に含んでよい。添加剤材料は、担体又は希釈剤として作用し得、粉末フロー及び湿潤性を増強してもよく並びに出血創傷の流体の吸収を増加させる効果を有してもよく、これによって、局所的組織流体を低減し、かくして創傷内の凝血因子の相対的な濃度を増大させる。これによって、フィブリンシーラントの効果が増大される。本発明はまた、低フィブリノーゲン濃度にて効果を有するフィブリンシーラント製品を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の肝臓スカラップ状損傷モデルを示す図である。図1Aは、作成された損傷を示し、図1Bは投与されたセファデックス配合Fibrocaps(商標)を示し、図1Cはガーゼによる30秒間の圧迫の適用後の粉末を覆うバイクリルシートを示している。
【図2】本発明のブタパンチ生検モデルにおける、止血までの時間(TTH)に及ぼす種々の止血剤の効果を示す図である。
【図3】本発明のFibrocapが、サージセルに比較して失血量を減少させることを示す図である。
【図4】本発明のFibrocap+サージセルが、ブタの脾臓、パンチ生検モデルにおいて、Surgicel単独と比較してTHHを減少させることを示す図である。
【図5】本発明の本発明のFibrocap+サージセルが、ブタの脾臓、パンチ生検モデルにおいて、サージセル単独と比較して血液損失量を減少させることを示す図である。
【図6】本発明のFibrocaps+アビテンが、アビテン又はサージセル単独と比較してTHHを減少させることを示す図である。
【図7】本発明のFibrocap及びアビテンが、ウサギ肝臓モデルにおける血液損失を減少させることを示す図である。
【図8】本発明のブタ肝臓パンチ生検モデルにおける同様な出血率を示す図である。
【図9】本発明のFibrocaps又はトロンビン+スポンゴスタンが、スポンゴスタン単独と比較してTHHを短縮させることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の組成物は、良好な流動性の達成、増強された湿潤性、活性部位への効果的な送達、及び送達システム内ではなくその部位にてのみの溶解という第一の目的に適合し得る。
【0019】
フィブリノーゲン及びトロンビンは、ヒトドナーからの血液から単離され得、より好ましくは、培養された細胞若しくは遺伝子組み換え動物又は植物における組換体DNA技術によって生成され得る。
【0020】
フィブリノーゲン又はトロンビンは、完全長で、野生型(フィブリノーゲンについては625又は621個のアミノ酸)又はそれらの活性断片であり得る。これら断片は既知である(Collerら著、J.Clin.Invest.89:546−555頁(1992年)参照)。変異体型もまた使用されてもよい。フィブリノーゲンの特に好適な変異体型としては、いわゆるガンマプライム(γの変異体)及びα−ext Fib又はFib420変異体などのような選択的スプライシングの結果として生じる変異体が挙げられる。フィブリノーゲン原料は凍結した溶液であってもよいが、スプレー乾燥に先立って再調製が必要である凍結乾燥粉末が使用されてもよい。
【0021】
微小粒子中に含有されるフィブリノーゲンの含量は、約0.1〜50重量%、好ましくは約0.5〜20重量%、並びに5〜10重量%、若しくは約6.5重量%であってよい。微小粒子中のトロンビン含量は、約10〜20,000IU/g、好ましくは約25〜1000IU/g、又は100〜500IU/g、若しくは約270IU/gであってよい。
【0022】
活性成分含有微小粒子及び/又は添加剤材料は、マイクロカプセルの場合のような固体又は中空品であってもよい。フィブリノーゲン又はトロンビンを含む微小粒子は、例えば、WO第92/18164号、WO第96/09814号、WO第96/18388号又はWO第97/44015号などに記載されているような、当該技術分野で既知の方法によって調製され得る。これらスプレー乾燥及び関連する粒子操作プロセスは、画定されたサイズ分布、例えば直径で50マイクロメートルまで、を備えた可溶性蛋白質マイクロカプセルの生成を可能にする。例えば、これら文献に記載されているように、微小粒子は、再現可能に生成され得、例えばサイズ30μmまで、例えば10〜20μmでは90%又はそれ以上(体積%)である。これら粒子の容易に流動する凝集体は、当業者に理解されるであろう、スプレー乾燥機内の空気流構成を逆流に調節することによって、又は複数の噴霧装置を「強制主要凝塊形成」設定へと配置させることによって、インサイチュウで作成され得る。このような凝集体は、直径で50〜1000ミクロン又は100〜500ミクロン、若しくは125〜250ミクロンであり得る。それぞれのフィブリノーゲン含有及びトロンビン含有の可溶性微小粒子は、WO第03/037303号に記載されているような、複数ノズル噴霧装置の使用によって、スプレー乾燥装置内で一緒に製剤化及び配合され得る。
【0023】
乾燥粉末製剤の調製の好適な方法としてはスプレー乾燥が挙げられるが、乾燥粉末製剤を調製するために、他の乾燥技術が使用されてもよい。好適な方法は当該技術分野で既知であり、後続する微粉砕手段を伴う、又はスプレー凍結乾燥を経る、流動床乾燥及び凍結乾燥が挙げられる。必要な場合又は所望の場合、当該技術分野で既知の技術を使用して、微小粒子が滅菌されてもよい。
【0024】
本発明の微小粒子は、スプレー乾燥によって調製されることが好ましい。典型的には、微粒化プロセス中に圧縮空気を使用する二流体ノズルが使用され、この結果、中空の微小粒子が生じる。Niro Mobile Minorスプレー乾燥機において、この微粒子化システムを使用して製造され得る微小粒子の最大粒子サイズ(X50、Sympatecによって測定されたような)は、30μmまでである。本発明の微小粒子についての好適なX50値は、5〜50ミクロンであり、最も好ましくは10〜20ミクロンである。
【0025】
次いで、個体又は中空のフィブリノーゲン含有微小粒子が最初に、個体又は中空のトロンビン含有微小粒子と配合され、次いで必要に応じて、本明細書に記載されたような添加剤材料と配合され、その逆も可であり、又はどんな順序でも配合され、これによって、均一な配合物を生成する。このような配合操作は、低剪断又は高剪断配合を使用して、又は当業者に既知である任意の他の技術を使用して実行され得る。
【0026】
本発明の微小粒子は、ラクトース、マンニトール及びトレハロースを含む単糖類又は二糖類、若しくはデキストランのような多糖類などの糖類のみと共に活性成分の溶液をスプレー乾燥することによって調製され得る。別の方法では、フィブリノーゲン又はトロンビン及び別の壁形成物質が製剤化されかつスプレー乾燥されて、活性成分が粒子内に組み込まれている微小粒子を得るような、コスプレー乾燥法を含む。
【0027】
適切な他の蛋白質は、天然存在蛋白質、若しくは培養された細胞又は遺伝子組み換え動物あるいは植物における組換体DNA技術によって生成された蛋白質であり得る。これらは、種々の実施例が提示されているWO第92/18164号に記載されているような、「壁形成物質」として作用する。好適な物質はHSA(ヒト血清アルブミン)である。例えば、フィブリノーゲンが単独で、又はHSA(例えば、1:1、1:3、3:1のフィブリノーゲン:HSA比で)及びトレハロースなどのような賦形剤の量が変化する中でスプレー乾燥される。HSAについての他の好適な代替え品としては、Tween20、Tween80、Poloxamer407又はPoloxamer188などの界面活性剤が挙げられる。カルシウムイオン、例えば塩化カルシウムなどが、トロンビン供給原料中に組み込まれてもよい。或いは、塩化カルシウムが、処理加工後に微小粒子に添加されてもよい。
【0028】
本発明の一実施形態では、添加剤材料がまた存在し得る。本発明で使用される添加剤材料は、典型的には、10nm〜1mm又は約10ミクロン〜1000μmの粒子サイズを有する。添加剤が担体として作用するよう選択される場合、粒子サイズは10〜1000μm、又は100〜500μm、又は125〜250μm若しくは可能であれば例えば10〜40μmであり得る。それらは、1つの材料又は混合物を含む。
【0029】
添加剤材料は、組成物の重量で約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%であり、又はこれらのいかなる範囲で含まれる。
【0030】
流動及び湿潤性を増強させるための生体適合性、水吸収性、水膨潤性添加剤材料として使用されるために、種々の物質が好適である。好ましくは、材料は不溶性又は極めてゆっくりとした可溶性である。このような材料としては、異なる粒子サイズで入手可能なセファデックスのようなデキストランポリマー、デンプン、プルラン誘導体、ヒアルロン酸エステル、微結晶セルロース(アビセル領域)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、極微細セルロース又はヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース製品、又は架橋結合ポリビニルピロリドン(PVP)などの他の材料が挙げられて、単独で或いは混合物で使用されてもよい。更に、担体として作用する適切な添加剤材料としては、好ましくは約1000の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、好ましくは約50,000の平均分子量を有するポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(アクリル酸)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ(メチルビニルエーテルコマレイン酸無水物)、ポリ(エチレンオキシド)、及び典型的には約40,000の平均分子量を有するデキストランなどが挙げられる。本発明の微小粒子は、必要な場合又は所望に応じて、滅菌されてもよい。滅菌処理加工としては、電子ビーム放射、γ−放射及び酸化エチレンなどが、好適な技術の例である。
【0031】
本発明で使用される追加の粒子(本明細書では「担体粒子」として記載)は、典型的には、10〜1000μm、例えば10〜40μmの粒子サイズを有する。それらは1つの材料又は混合物を含んでもよい。
【0032】
流動及び湿潤性などを増強させるために、フィブリンシーラントの大きな担体物質として、種々の材料が好適である。これらは、ラクトース、マンニトール及びトレハロースを含む単糖類及び二糖類、若しくは例えば異なる粒子サイズで入手可能である、セファデックスのようなデキストラン及びデキストランポリマーなどの糖類が挙げられる。
【0033】
微結晶セルロース(アビセル領域)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、極微細セルロース又はヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース製品、及び架橋結合ポリビニルピロリドン(PVP)のような他の材料が、単独又は混合物として使用される。更に好適な担体としては、好ましくは約1000の分子量を有するポリエチレングリコール(PEG)、好ましくは約50,000の平均分子量を有するポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ(アクリル酸)、PVA、ポリ(メチルビニルエーテルコマレイン酸無水物)、ポリ(エチレンオキシド)、及び約40,000の平均分子量を典型的に有するデキストランなどが挙げられる。
【0034】
錠剤崩壊剤が含有され得る。これら材料は、創傷から水分を吸収し、急速に膨張し、これによって粉末配合物の止血成分の湿潤性を増強させ、これら崩壊剤は、35〜55μmの範囲の平均粒子サイズを有するグリコール酸ナトリウムデンプン(Explotab又はPrimojel)で、グルコース単位の約25%がカルボキシメチル化されているもの、架橋結合されたポリビニルピロリドン(ポリプラスドン)、アルギン酸塩及びアルギン酸、架橋結合されたカルボキシメチルセルロースナトリウム(Ac−Di−Sol)である。
【0035】
使用され得るガム及びゲル化剤としては、例えば、トラガカント、カラヤガム、可溶性デンプン、ゼラチン、ペクチン、グアガム及びゲランガムが挙げられる。特に好適な添加剤はエミデックス、すなわち、デキストレート(少量のデンプンオリゴを含有する糖スプレー結晶化デキストロース)の水和化形である。これは、190〜220μmの粒子サイズ中央値を備えた、白色の自由流動性のスプレー結晶化された微小多孔性球体からなる高度に精製された製品である。
【0036】
別の好適な添加剤はNON−PAREIL SEEDS(登録商標):(Sugar Spheres)である。これらは、含量均一性、一貫性並びに薬剤放出制御及び高薬剤安定性を改善するために複数の薬剤中で使用され、粒子サイズは200〜2000mmの範囲である。
【0037】
最も好適な担体添加剤は、PARTECK SI及びPARTECK M(Merck KGaA,Darmstadt,Germany)の商品名で販売されているような、高度に多孔性かつ高度に可溶性の織り交ぜられたフィラメント状結晶型のソルビトール又はマンニトールである。これらグレードは、高い吸着能力を有し、このために本発明の乾燥粉末フィブリンシーラント粉末組成物と配合させるために好適であり、これによって、適用された粉末床を経て血液を浸透させて、このように粉末境界面だけで凝血してしまうことを回避させることによって、乾燥粉末フィブリンシーラントの散粉を低減し、湿潤性、可溶化及び性能を増強させる新規な粉末を生成することができる。
【0038】
別の実施形態において、担体粒子は、発泡性対を含んでもよい。発泡性反応の後に発生したガスが、フィブリンシーラントを「泡沫体」へと膨張させ得及び/又はフィブリンシーラントを含有する粉末の湿潤性を増加させ得る。粉末が創傷へ投与されると同時に、発泡性成分が溶解、反応し、例えば二酸化炭素を放出し、これによって、止血成分の湿潤性を増大させて、すなわち、凝血塊形成までの時間が強化される。フィブリンシーラントは、一旦反応すると安定な泡沫体として現れ、凝血塊が形成されている。
【0039】
発泡性対は、典型的には、クエン酸又はクエン酸水素ナトリウム及び重炭酸ナトリウムを含むが、他の生理学的に許容し得る酸/アルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩混合物、例えば、酒石酸、アジピン酸、フマル酸又はリンゴ酸、並びにナトリウム、カリウム又はカルシウム(重)炭酸塩又は炭酸グリセリンナトリウムなどが使用され得る。一般的に、酸性成分の分子等価物の塩基性成分に対する比として表現された、化学的分子等価物ベースへの発泡性対の成分の相対的比率が4:3〜1:3、より好ましくは2:3の範囲である場合に、好ましい味覚特性が示される。クエン酸と重炭酸ナトリウムの好適な組み合わせに関して、これら値は、重量ベースで、酸性成分の塩基性成分に対する比として表現された1:1〜0.3:1、好ましくは0.5:1の範囲を示す。
【0040】
別の好ましい添加剤材料はシリカであり、親水性であるシリカが好ましい。このようなシリカは、コロイド状シリカ、融合シリカ、粉砕シリカ、沈降シリカ、又はそれらの混合物であり得る。融合シリカの例としては、限定されるものではないが、Aerosil(登録商標)90、130、150、200、300、380、R202、R805、R812、R972、R974(Degussa Corporation,Ridgefield Park,N.J.)及びCAB−O−SIL(登録商標)TS−720及びM−5(Cabot Corporation,Tuscola,III.)が挙げられる。一般的にAerosil.200、Aerosil.R974、CAB−O−SIL.TS−720及び融合シリカの他の製造者からの他の概ね等価の製品が好ましい。親水性AEROSIL(登録商標)コロイド状シリカは、錠剤崩壊の速度と活性成分放出の速度を増加させることが知られている。コロイド状シリカは、例えば消化液からの水分を錠剤内部に引き込む「灯心」として作用する。更には、親水性AEROSIL200コロイド状シリカで「コーティングされた」錠剤成分は、より容易に湿潤され、より速く膨潤され(崩壊剤)、又はより速く溶解される(活性成分)。このような特質が、本発明の粉末化フィブリンシーラントの湿潤性及び溶解を増強させる。更には、このようなシリカは滑剤として作用することが知られていて、したがって、このような粘着性微粒子の流動性、充填性及び送達を増強させる。また、このようなコロイド状シリカは、血液凝固のための活性化物質として知られていて、したがって、フィブリノーゲンとトロンビン成分と共に相乗的に作用する(Margolis著「The Effect of Colloidal Silica on Blood Coagulation」,Aust.J.Exp.Biol.,39、249−258頁(1961年)を参照)。この組成物は、0.001〜5重量%、又は約0.01〜2重量%、又は約0.1〜0.5重量%のシリカを含む。シリカは、フィブリノーゲン含有成分と、次いでそれに添加されたトロンビン含有成分と単純に配合され、更に混合され、逆もまた可である。最も好ましくは、最終工程として、シリカは全配合された粉末化成分と配合される。好適な配合処理装置は当業者には既知であろうし、シリカは、本明細書で定義されたような担体添加剤粒子と混合された状態で存在してもよい。
【0041】
添加剤材料は、単独成分として又は混合された成分として本発明の組成物中に存在してもよく、供給原料中に存在してもよく又は一緒に配合される前にスプレー乾燥されたトロンビン又はフィブリノーゲン成分のいずれかに添加されてもよく、若しくは最終配合品に添加されて、更に配合処理されてもよい。このような配合処理は、低剪断又は高剪断配合処理、メカノケミカル結合、ハイブリダイゼーション又は当業者に既知の任意の他の技術を使用して実行され得る。
【0042】
本発明のフィブリンシーラント中の微小粒子の成分は水溶性であることが好ましく、並びに微小粒子は適切な溶液をスプレー乾燥することによって得られることが好ましいが、生成され得る微小粒子は自由流動性、離散性であり、並びに残存水分含量が好ましくは8重量%以下、最も好ましくは5又は3重量%以下で、実質的に乾燥状態又は無水であり得る。これは、本発明によるフィブリンシーラントの成分が、それらが湿潤されるまで、例えば、創傷部位にて液体と接触されるまで、活性化されないことを意味する。したがって、異なる微小粒子の別個の適用も想定されるとはいえ、活性成分は、乾燥混合物として送達される。活性成分含有微小粒子は、捕えた蛋白質を安定化させるため並びに急速溶解状態で活性成分を存在させるために、室温で(例えば25℃)アモルファス又はガラスの形態であることが好ましい。好ましくは、組成物は、示差走査熱量計又は変調示差走査熱量計によって測定されるような、約25℃以上の、又は約30℃以上、又は約40℃以上、又は約50℃以上のガラス転移温度を示す。添加剤材料もまた、急速溶解状態であるために、室温(例えば25℃)でアモルファス又はガラスの形態であり得る。好ましくは、組成物は、示差走査熱量計又は変調示差走査熱量計によって測定されるような、約25℃以上の、又は約30℃以上、又は約40℃以上、又は約50℃以上のガラス転移温度を示す。このようなガラス状組成物は、周囲温度又は室温、例えば25℃で、例えば3か月以上又は6か月以上の長期間にわたって、著しい損失がなく、組成物が保存されることを可能にする。著しい損失とは、元の能力の約5%又は10%若しくは20%以上の活性での損失として定義される。
【0043】
添加剤材料はまた、結晶状態またはアモルファス状態であってもよいが、残存する水分含量が好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下で、自由流動性、離散性かつ実質的に無水であり得る。
【0044】
それぞれのフィブリノーゲン含有及びトロンビン含有可溶性微小粒子は、安定で乾燥した形状で製剤化され及び一緒に配合され、フィブリンシーラント組成物を生成する。この製剤は、所望により続いて活性化され、創傷治療及び外科的修復で有用であるフィブリンシーラントを得る。
【0045】
本発明の一態様では、フィブリンシーラント粉末組成物は、軽症の表皮剥離、切断、掻把、擦傷、火傷、日焼け、潰瘍、及び手術後の出血などのような他の皮膚損傷及び刺激、並びに外傷及び/又は戦場での創傷からの制御不能な内部及び外部出血のために、保護的又は予防的被覆又は包帯剤を形成するよう適合されている。
【0046】
別の実施形態では、乾燥粉末組成物は、出血を止めるための局所止血剤として使用され得る。本状況において、出血を停止するために要する時間を止血までの時間(TTH)と呼ぶ。圧迫シートが使用される場合、TTHの測定は、典型的には、圧迫シートが出血部位に塗布される時に開始され、包帯を目で確認することによる出血の停止及び/又は包帯を通過して又はその周囲で出血が観察されないことによって出血の停止まで行われる。
【0047】
本発明の一態様において、本発明の乾燥粉末組成物は、約10分又はそれ以下、約5分又はそれ以下、又は約3分又はそれ以下のTTHをもたらす。
【0048】
本発明の別の目的は、軽度から中等度の出血の治療のための本明細書に記載されたような乾燥粉末組成物の使用である。経度出血は、典型的には、約5g/分未満の血液流を示す出血であり、一方中等度の出血は、場合によっては10分未満のTTHを伴って、しばしば>20g/分の血液流である。
【0049】
本発明の別の目的は、非表層組織上にシールを形成するよう又は軽症の表皮剥離、切断、掻把、擦傷、火傷、日焼け、潰瘍、及び他の皮膚損傷及び刺激を超える開いた組織を閉鎖するように適合されている粉末又は流体フィブリンシーラント組成物を提供することである。治療可能な創傷としては、局所創傷、より深部の創傷、手術切開、重篤な創傷、戦場での創傷及び外傷、並びに救急治療室での過剰出血などが挙げられる。したがって、創傷シーラントの種々の用途としては、応急処置及び手術及び医療処置のトリアージ用途が挙げられる。
【0050】
本発明の粉末組成物は、出血が起こっている創傷、縫合部、切開部及び他の開口部に直接投与され得る。創傷は、生体の任意の組織への損傷を含む。生物学的組織としては、結合組織、内皮組織、神経組織、筋肉組織及び臓器が挙げられる。好適な生物学的組織は、骨、皮膚、軟骨、脾臓、筋肉、リンパ管、腎臓、肝臓、血管、肺、硬膜、腸管及び消化組織からなる群から選択される。組織は内部組織(例えば臓器)又は外部組織(例えば目、皮膚など)であり得、並びに硬組織(例えば骨)又は軟組織(例えば肝臓、脾臓など)であり得る。創傷は、感染、外科的処置、火傷又は外傷を含むいかなる事象によっても起こり得るものである。外傷は、例えば自動車事故、銃撃及び火傷による結果を含む物理的力によって引き起こされた損傷として定義される。
【0051】
本発明の別の態様では、本発明の乾燥粉末フィブリンシーラント組成物は、例えば食道、胃、小腸、大腸、腸管、直腸などの胃腸管系での外科的処置、肝臓、膵臓、脾臓、肺、腎臓、副腎、リンパ腺及び甲状腺などの実質性器官への外科的処置;歯科手術、鼻出血を含む、耳、鼻及び喉領域(ENT)での外科的処置、頚動脈血管内膜切除、大腿膝窩動脈バイパス又は冠状動脈バイパス移植(CABG)のような心血管手術;美容外科手術、椎体後方固定、顕微鏡的ヘルニア摘出術、開頭術などのような脊髄外科手術、神経外科手術;リンパ管、胆管、及び脳脊(CSF)髄瘻、胸部及び肺手術中の空気漏れ、気管、気管支及び肺の手術を含む胸部手術、膝又は股関節置換手術のような整形手術;帝王切開、子宮切除、子宮筋腫手術などのような婦人科的手術処置;シャントのような血管手術;泌尿器、骨(例えば海綿体部切除術)、及び緊急外科手術などの外科的処置のために使用され得る。特に好適な外科的処置としては、整形外科手術、肝臓切除、軟組織損傷又は手術及び血管手術が挙げられる。
【0052】
本発明の乾燥粉末フィブリンシーラント組成物は、フィブリノーゲンとトロンビンを含む現行の液体システムを超える利点を立証し、これは、先行技術製品が再調製を必要として、一旦再調製されてからは短い有効期限を有し、液体状態における不適合性のために二重筒注射器を使用して送達されねばならないからである。更には、このような液体最終製品は、創傷又は臓器の扱い難い又は複雑な表面に適用するのが困難であり、流れ出し、空洞中にプールする傾向もある。本明細書に記載された乾燥粉末フィブリンシーラント組成物及び製剤は、これら欠点を克服するものである。
【0053】
本発明の他の態様では、本発明の組成物は、手術中又は手術後に投与される。本発明の組成物は、ヒト、哺乳類及び他の獣医学的用途を含む被験体の創傷又は創傷部に投与され得る。
【0054】
本発明は、本明細書に記載された乾燥粉末組成物の止血的に有効な量を含む組成物を適用することによって、出血部位にての出血を低減させるための方法を更に含む。
【0055】
本発明の他の態様では、粉末組成物は、創傷部位への単独送達用途のための非無菌又は無菌調製物として、又は複数使用調製物のいずれかとして製剤化される。製剤は、包装され得、乾燥粉末、乾燥接着性コーティング、エアゾール、乾燥エアゾール、ポンプスプレー、医療用圧迫包帯;フィルム;被覆プラスター;医療用スポンジ又は外科用パッチ(Tachosil参照);止血フリース(Tachocomb参照);ガーゼ;膏薬、セミゲル、ゲル、泡沫剤、ペースト、懸濁液、軟膏剤、乳化剤、成形可能泡沫剤、鼻栓、外科用包帯、創部充填、包帯、綿棒、カテーテル、光ファイバ、注射器、ペッサリー、坐薬、又は液体中又は非水性液体中の懸濁液などを含むいくつかの優先的製剤形態で供給され得る。製剤は、創傷部位に局所的に適用される。あるいは又はこれに加えて、より深部の裂傷、動脈創傷部、又は手術処置中の場合、製剤は組織内部的に創傷部位に導入され得る。
【0056】
本発明の別の態様は、軽症の表皮剥離、切断、掻把、擦傷、火傷、日焼け、潰瘍、内静脈出血、外静脈出血、及び外科的外傷への局所的送達のために、懸濁液としてフィブリンシーラント粉末を含む液体止血組成物を提供する。
【0057】
本発明の別の好適な実施形態は、損傷の部位の上部に薄膜バリアーを形成するための非水性液体中にフィブリンシーラント粉末組成物を含む前述の組成物を使用して、軽症の表皮剥離、切断部、掻把、擦傷、火傷、日焼け、潰瘍、内静脈出血、外静脈出血、及び外科的外傷に局所的送達するための液体止血組成物を提供する。この製剤は、適用量を変化させて、創傷部位に容易に適用され得、これによって、迅速に出血を止める。
【0058】
本発明はまた、粘性水溶性フィブリンシーラントペースト、膏薬、軟膏剤又は懸濁液組成物を調製するためのプロセスを含み、このプロセスは、本発明のフィブリンシーラント粉末組成物と、約200〜6000の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールとを混合する工程を含む。好ましくは、種々の分子量のPEGの配合物が使用される。好ましくは、PEGは、PEG300 MW及びPEG1500 MWの配合比が1:1、又は1:2又は1:3又は1:5又は1:9のような、500〜1,000の範囲の平均分子量を有する配合物である。より低いグレードのPEGの使用は、より軽量で、低い粘度の懸濁液を生成し、これは充填され、ポンプスプレーを介して送達され得る。このような懸濁液は、フロック形成を防止するために、界面活性剤又は他の好適な懸濁化剤を必要に応じて含んでもよい。このような構成の調製物及び製剤は、当業者に既知である。
【0059】
ペースト、膏薬、軟膏剤又は懸濁液組成物はまた、例えばゼラチンスポンジ、ガーゼ又はコラーゲン材料などと併用して、基材としてのこれら材料をこの組成物でコーティングし、それを出血部位に適用することによって、又は最初にその組成物を出血部位に適用し、次いでゼラチンスポンジ、ガーゼ又はコラーゲンを組成物の上部に配置し、それらに圧力を加えることのいずれかによって、使用され得る。本発明の軟膏剤、膏薬又はペーストは、手袋を装着した指をペーストに浸し、ペーストを出血部位に配置させることによって、外科医による止血に有効な使用をもたらすために十分に高い粘度及び効力を有する。本態様で使用されるポリエチレングリコールは、約500〜1000の範囲の、又はより好ましくは約900の平均分子量を有する。ポリエチレングリコールのグレードは、特徴的な性質を生み出すために、互いに組み合わせることができる。例えば、室温で固体であるが、室温では液体PEG300中で溶解しないPEG1500は、一緒に組み合わされて、より高温で融解するグリコール(すなわちPEG1500)の融点より高い温度に加熱され、溶液を形成する。例えば、液体であるPEG300が、43℃で融解する固体であるPEG1500の同一重量と混合されて、更に均一の溶液に液化するように、PEG1500の融点又はそれ以上の温度で2つが一緒に加熱され、更にこの溶液が室温に冷却される場合、滑らかで柔らかいペーストを形成する。このペーストは水溶性であり、組織または皮膚に容易に広がるように十分に柔軟である。
【0060】
本発明は、ポリエチレングリコールを含む基材内の本発明の乾燥粉末フィブリンシーラント組成物の止血に有効な量を含むペースト組成物を、被験者の出血部位に投与することによって出血部位の出血量を減少させるための方法を更に含む。このペーストは、繊維状ガーゼと併用して適用されてもよく、又はそれ自体ペースト形状で出血部位に投与されてもよい。
【0061】
本発明の他の実施形態では、フィブリンシーラント粉末組成物は、推進剤と混合されて、必要に応じてPVPのようなポリマーと共にエアゾール容器内に充填される(US第4,752,466号を参照)。したがって、これは、乾燥粉末化トロンビンを創傷に直接的に送達させる、又は本明細書に記載されたような止血剤又は支持材料に直接的に送達させるための通常の方法を提供する。それぞれで使用されるフィブリンシーラント粉末組成物の量は、所望の効力に従って異なり得るが、典型的には、0.5〜1.0gのオーダーであり得る。次いで、液化型の推進剤が、それが液化型で存在しているタンクから弁を通してエアゾール容器中に充填される。使用される推進剤の量は、典型的には10gのオーダーであり得る。エアゾール容器に充填する他の方法は周知であり、所望により使用されてもよい。エアゾール容器の内部では、合成ポリマー、例えばPVPが推進剤中に完全に溶解されている。フィブリンシーラント粉末組成物は溶解しないが、非常に微細な状態で存在し、すなわち、それは推進剤中に懸濁され、そこでは微小分割された乳状懸濁液として存在する。エアゾール容器から物質を噴霧するために弁が押される際に、フィブリンシーラント粉末組成物、推進剤及び必要に応じてPVPの混合物が放出される。フィブリンシーラント粉末組成物は、乾燥白色粉末として現れる。推進剤は急速に蒸発し、消失する。粉末スプレーを分配供給するために設計されたエアゾール容器及びその組成物は市販されていて、本発明で使用され得る。「Handbook of Aerosol Technology」Paul Sanders著(Van Nostrand,Reinhold Company,N.Y.1979年、第2版、「Aerosol Suspensions(Powders)」と題された第21章)では、有益な基礎的情報を与えている。好適な推進剤としては、HFAシリーズの推進剤が挙げられる。
【0062】
本発明のエアゾールパッケージは、噴霧される場合にその内容物が無菌であるような方法で調製かつ取り扱われるべきである。細菌フィルター及び無菌処理加工技術の使用は、無菌製品をもたらす。
【0063】
本発明のエアゾールは、室温で保存されるよう設計されている。この形状では、フィブリンシーラント粉末組成物のガラス状特性のために、エアゾールは少なくとも6か月間、比較的安定である。
【0064】
本発明の最も好ましい実施形態では、フィブリンシーラント粉末組成物は、参照により本明細書に組み込まれる、同時係属中出願WO第2010/070333号の粉末供給装置(Fibrospray(商標))を使用して適用され、これは、胃腸管系、例えば食道、胃、小腸、大腸、腸管、直腸など、肝臓、膵臓、脾臓、肺、腎臓、副腎、リンパ腺及び甲状腺などの実質性器官での外科的処置;歯科手術、鼻出血を含む耳、鼻及び喉領域(ENT)における外科的処置、頚動脈血管内膜切除、大腿膝窩動脈バイパス又は冠状動脈バイパス移植(CABG)のような心血管手術;美容外科手術、椎体後方固定、顕微鏡的ヘルニア摘出術、開頭術などのような脊髄外科手術、神経外科手術;リンパ管、胆管、及び脳脊(CSF)髄瘻、胸部及び肺手術中の空気漏れ、気管、気管支及び肺の手術を含む胸部手術、膝又は股関節置換手術のような整形手術;帝王切開、子宮切除、子宮筋腫手術などのような婦人科的手術処置;シャントのような血管手術;泌尿器、骨(例えば海綿体部切除術)、及び緊急外科手術などの外科的処置で使用され得る。特に好適な外科的処置としては、整形外科手術、肝臓切除、軟組織損傷又は手術及び血管手術が挙げられる。
【0065】
ガーゼ、スポンジ、包帯などのような支持材料を含む、本発明の好適な実施形態では、支持材料上に、20%、40%、60%又は80%、若しくは任意の他の好適な強度のような所定の強度で、フィブリンシーラント粉末組成物をスプレー又は他の方法で埋め込み或いは塗布し、支持材料に適用されたフィブリンシーラント粉末の強度を識別することが、本明細書で提案されている。フィブリンシーラント粉末組成物、又はフィブリンシーラント粉末組成物と他の材料との組み合わせを、処理された支持体中に適用する方法は、当業者には周知である。この処理された支持体のマーキングは、処理された支持体の表面(片面又は両面)上に、又はその1つの層のすぐ下に、例えば20%、40%又は60%などのパーセンテージ強度をプリントする形を取ることができる。パーセンテージマーキングは、任意の他の好適な数字、所望により、例えば25%、50%及び75%、又は更に1、2、3、4、5であってもよい。マーキングが実施された後に、処理済み支持体は、所望により滅菌にかけられる。
【0066】
乾燥粉末フィブリンシーラント又は局所止血剤のこのような新規提示は、創傷と乾燥粉末フィブリンシーラントが埋め込まれた及び/又はコーティングされた器具との境界における凝血塊形成を促進することによって、粉末の単独適用と比較して、相乗効果及び/又はより大きな有効性を示している。現存の含侵支持体及びスポンジなどは、凝血が生じる前に血液が滲出してしまう可能性がある。
【0067】
本発明の他の好適な方法は、外科的処置中に、切開口、穿孔部、及び/又は生物学的組織内の液体又はガスの漏出を封止するために有用であり、フィブリンシーラント粉末組成物の有効量と組織を接触させることを含み、これによって、切開口、穿孔部、又は液体又はガスの漏出を封止する。
実施例
実施例1
【0068】
乾燥粉末フィブリンシーラントが、同時係属中出願US第61/122,063号に記載されたように調製された。簡単に言うと、フィブリノーゲン(ZLB、Marburg,Germany)及びトレハロース(Pfanstiehl,Waukegan,IL,USA)中空球体粒子が、この出願で記載されたように調製された。粒子中のフィブリノーゲンの濃度は12重量%である。トロンビン(SNBTS,Glasgow、Scotland)及びトレハロースをスプレー乾燥し、中空粒子を得た。トロンビンは、粒子1g当たり1000IUの濃度で存在していた。これら粒子を1:1の比で配合し、生成した粉末は、6重量%のフィブリノーゲンの濃度及び500IU/粉末1gを有する。この配合物を、本明細書ではFibrocapsと呼ぶ。本発明の他の実施形態の混合物を調製するために、上記Fibrocaps粉末を、液体吸収粒子(セファデックスG200超微細、GE Healthcare,Uppsala,Sweden)と1:1の重量比で更に混合した。セファデックスG200超微細は乾燥ビーズ径が10〜40μmである。明確にするために、生成した粉末は、フィブリノーゲン3重量%、トロンビン250IU/g及びセファデックスG200粒子50重量%からなる。
有効性試験
【0069】
外傷出血が、高圧力による動脈損傷から塊状の漏出にまで及ぶ異なる形状でそれ自体が存在しているために、利用可能な局所止血剤の有効性を試験するための汎用の動物モデルがない。大きな動物モデル(ブタ)のみが、ヒトの状態を表現するモデルである(Pusateriら著(2003年)I,Trauma 55(3),518−526頁)。選択された動物モデルにおいて、セファデックスが配合されたFibrocaps製品が、市販されている又は開発中の外傷用途で使用されることが可能である他の製品と比較される。外傷性損傷をシミュレートし、制御不能な重篤な出血を誘導するために、幅4×5cm及び深さ1.5〜2cmの片を肝臓(n=2)から一対の外科用ハサミで切除することによって、スカロップ状の損傷をブタの肝臓に負わせた。この処置中に切断された静脈又は動脈はいずれも結わえず、並びに損傷が作られる前に、動物にヘパリンの標準投与量を15分間投与した。
【0070】
Fibrocaps材料6gを損傷部に注ぎ、1枚のパラフィルムで覆い、その後圧力を30秒間加える「標準」プロトコルを使用して、1つの損傷部が処置された。パラフィルムの除去中に、粉末の相当な部分が同様に除去されたので、追加の1.5〜2gの粉末が創傷に投与され、標準外科用ガーゼで圧力が加えられた。出血は2〜3分以内に著しく減速したが、完全な止血に至るまでには5分までを要した。二番目のスカロップ状損傷を、増大した吸収能力を有するが、フィブリノーゲンとトロンビンの半分量を含有するセファデックス配合Fibrocapsの6gで処置した。次いで、粉末を1枚の生体分解性バイクリルシート(Ethicon)で覆い、ガーゼを使用して圧力を30秒間加えた。ガーゼは、容易に取り外すことができて、Fibrocaps栓を妨害することを防止するために、バイクリルが創傷上に残された。出血は全く認められず、完全止血が、1〜1.5分で達成された(図1A〜Cを参照)。この時間が、止血までの時間(TTH)と呼ばれる。セファデックス単独では、動物における重篤な出血を停止させることができなかった。
【0071】
この実験は、セファデックス配合FibrocapsのFibrocapsを超える利点を明確に立証している。重篤な出血する創傷へのこれら粉末の等量の投与は、1.5分以内のセファデックス配合Fibrocapsについて完全止血をもたらし、一方Fibrocapsは5分で出血を止めることができたが、これは追加の粉末を添加した後だけであった。セファデックス配合Fibrocapsは、Fibrocapsと比較して、フィブリノーゲン及びトロンビンの半分の濃度を含有するのみであるために、これは驚くべきことである。フィブリノーゲン及びトロンビンの低濃度もまた、Fibrocapsと比較してセファデックス配合Fibrocapsのコストでの著しい低減を示唆している。
実施例2
【0072】
増強された流動及び止血作用を備えた珪化組成物を調製するために、実施例1のFibrocaps粉末を、Turbula低剪断配合機内で、0.5重量%のAerosil 200 Pharma(Evonik)と10分間更に混合し、自由流動粉末を生成した。
実施例3
【0073】
実施例1のFibrocaps粉末を、開かれたエアゾール缶又は瓶中に配置し、弁棒及び頂部をその上に配置し、定位置でクリンプした。フィブリンシーラント粉末組成物の量は、約1.5gである。次いで、液化形状の推進剤を、それが液化形状で存在しているタンクから弁を通してエアゾール容器中に充填した。次に、エアゾール缶の内容物を放出するように弁を作動させることで、エアゾールを創傷に投与し、その結果、急速な止血をもたらした。
実施例4
【0074】
実施例1のFibrocaps粉末を、PEG200及び0.5%のTween80と1:1比で混合し、軽量な液体懸濁液を生成し、瓶中に詰め込み、次いでそれを創傷に投与して、その結果、急速な止血をもたらした。
実施例5
【0075】
実施例1のFibrocaps粉末を、PEG800と1:1の比で混合し、ペーストを生成して、チューブ内に詰め込み、次いで、これを創傷に投与した結果、急速な止血をもたらした。
実施例6
【0076】
本実施例は、Fibrocaps(実施例1からの)が単独又は種々の圧迫シート(例えば、ゼラチンUSP、コラーゲン、及び酸化セルロース)と組み合わされた場合のいずれかが、止血を促進し並びに血液損失を減少させるかどうかを評価するいくつかの薬理学研究の概要を詳細に述べている。薬理学的モデルとしては、軟組織内(肝臓及び脾臓)に作られた創傷及び血管モデル(AVグラフト)が挙げられる。モデルは、少量の出血(<5g/分)から中等度の出血(>20g/分)を含む。これら研究のいくつかはまた、ガーゼ又は他の「機械的」止血制御を包含し、並びにFibrocapsに対して比較するためのヒトトロンビン及びFloSealのような「活性」局所止血剤を包含する。
【0077】
全体として、これら研究は、Fibrocapsが薬理学的に活性であり、Fibrocaps単独又はゼラチン、コラーゲン、及び酸化セルロースのような圧迫シートと組み合わされた場合のいずれかで減少されたTTH及び血液損失によって測定されたように、止血を促進することが可能であることを立証している。更に、Fibrocapsは、他の市販されている局所止血剤に匹敵する止血活性を立証した。推奨されるFibrocapsの表面当たりの投与量は、1.5g/100cmである。
止血のブタ脾臓のパンチ生検モデルの展開
【0078】
本研究では、2匹の動物を手術前に絶食させて、適切に麻酔をかけた。平均動脈圧(MAP)を、大腿動脈中に挿入されたカテーテルを介して5分間毎に測定した。血圧が20分間安定な状態になったら、正中線開腹を行い、脾臓を摘出した。脾臓の未処置領域を、生理食塩水に浸漬したラップスポンジで覆うことによって、湿った状態に維持した。6mmの直径の生検パンチを使用して、創傷が深さ3mmに作られた。生検をハサミによる切除によって取り出した。それぞれの創傷は、注意深い評価のために十分に間隔を置いて離された。
【0079】
実施例1からのFibrocaps粉末を、WO第2010/070333に記載されたFibrosprayを使用する乾燥粉末(0.25g)のように、それぞれの創傷部位に投与した。生理食塩水で前湿潤させたAvitene(アビテン)Ultrafoam(コラーゲン)、Surgicel(サージセル)材料、及び非粘着表面ガーゼパッド(Dukal)を使用して軽く手による圧力を加え、Fibrocapsを創傷層に接触させた。製造元の推薦を使用して対照物品が投与された。処置された創傷は、最初の1分間に加えられた軽い手による圧力を受け、続いて30秒の止血評価が行われた。出血が続いている場合には、止血が起こるまで或いはトライヤル試験が10分に達するまで、更に30秒間のタンポナーデ/30秒間の止血評価が実行され、処置が失敗として記録した。評価段階において、それぞれの処置について4〜13個の創傷が作られた。圧迫シートが出血部位に適用された時間から、包帯剤を目で見ることによって確認された出血の停止及び/又は包帯剤を通して又はその周囲で出血が観察されない出血が停止した時間までで、止血までの時間が測定された。
【0080】
第1番目のブタにおける創傷の異なる型/寸法の評価後に、3mmの深さでの6mmパンチ生検が、全群及び全動物間で一貫した出血率をもたらすことが観察された。このアプローチ、正確に実行されたモデル、及び創傷を作り出した生検を使用して、約1.5〜2g/分の血液損失をもたらした。創傷形成又は止血処置の適用後に、MAPでの変化は示されなかった。
【表1】

表1は、第2番目のブタにおいて、TTHを短縮しかつ血液損失を低減させるそれらの能力について評価された処置を表示している。アビテンと併用されたFibrocapsは、平均TTH=2.52分を有し、これはサージセル(Nuknit)(平均TTH=6.27分)及びSurgicel Original止血剤(平均TTH=9.88分)よりも著しく短かった。TTHでの同様な減少が、非粘着性ガーゼパッドDukalと併用されたFibrocapsで、Sugicel Original止血剤と比較して観察された。Gelfoamで適用された組換体ヒトトロンビン(平均TTH=1.25分)と比較した場合、Fibrocapsは、より長い時間を要したが、止血を達成するためにそれほど顕著に長い時間を要したわけではない。このデータのカプランマイヤープレゼンテーションが図2に示されている。更に、サージセルで処置された6部位の4つを除いて、全ての試験部位及び対照部位が止血を達成した。これら部位は、10分間の評価期間時間後に追加の止血剤の投与が必要とされ、止血失敗として記録されたものである。実験中の血液損失の量は、Fibrocaps又は組換体ヒトトロンビンで処置された2つの群よりもサージセル処置群の方がより多かった(図3)。
【0081】
本研究の結果は、ブタ脾臓における6×3mmパンチ生検創傷の生成は、一貫した軽度の出血を生じることを立証した。これら結果は、Fibrocaps(圧力を加えるためのAvitene Ultrafoam又はDukal Padのいずれかの併用で使用された)は、止血の達成及び血液損失の体積の制御において、Surgicel Original及びSurgicel NuKnit(図示せず)よりも常に良好に動作することを立証した。Avitene Ultrafoam又はDukal Padのいずれかを加えたFibrocapsによるTTHでの減少は、トロンビン+Gelfoamによるものと同様であった。
ブタ脾臓パンチ生検におけるFibrocaps薬理学
【0082】
これら2つの研究が、ブタ脾臓、6×3mmのパンチ生検を使用するパンチ生検モデルの使用、先に記載されたような及び種々の止血剤の単独又は併用でのTTH及び血液損失測定に及ぼす効果の評価にまで拡大された(表2)。
【表2】

先の研究のように、軽度出血率は処置群全体で同様であった。約2g/分の低出血率で、生理食塩水で前浸潤されたゼラチンスポンジは、出血を制御することが可能であり、約2.5分以内に止血を促進し得た。したがって、Fibrocapsの添加で、TTHでの著しい改善はなされなかった。この結果は、ゼラチンスポンジが、軽度外科的出血の制御で使用するための米国および欧州連合販売許可を有していることを考慮すると、予期せぬことではない。先の研究のように、本研究では、サージセルは出血を制御することはできなかった。しかし、サージセルと併用されたFibrocapsは、急速な止血を促進することが可能で、サージセル単独と比較して、TTHでの低減をもたらした(図4)。同様な低減が、血液損失でも観察された(図5)。予想されたように、単独又はFibrocapsと併用された両ゼラチンスポンジ(Gelfoam及びSurgifoam)は、このブタ脾臓モデルで単独で使用された場合、止血を促進しかつ血液損失を低減することが可能であった。サージセル単独は、ガーゼと同様に効果がなかった。しかし、Fibrocapsがサージセルに添加された場合、止血が達成され、更に血液損失も低減された。これら結果は、Fibrocapsが、他の承認された止血剤と共に使用される場合、軽度出血においても有益であり得ることを示している。
ウサギ肝臓切除モデルにおけるFibrocapsの効果
【0083】
本研究では、8匹の動物の肝臓が摘出され、直径が約1cmの肝臓のほぼ円形部分を切除することによって、創傷が作成された。ほとんどの場合、種々の肝臓葉全体にわたり1匹の動物当たり4つの病巣が作成された。それぞれの創傷からの切除された肝臓部分を重量測定し、モデルの一貫性を評価した。各創傷から30秒間、血液を回収し、創傷から創傷への出血における一貫性を評価するために出血率を決定した。次いで、無作為化様式で、処置をこれら部位に適用した(表3)。
【表3】

FibrocapsをFibrospray装置で投与し、創傷全体を覆った。この装置に、それぞれの創傷について0.25gのFibrocapsを充填した。装置が創傷に移動され、コラーゲンフリースで軽く手による圧力を加え、Fibrocaps粉末を創傷層に接触させた。乾燥ガーゼ包帯剤を処置部位全体に塗布し、ガーゼ処置を通して浸透するいかなる血液も回収した。出血率及び肝臓から切除した断片の重量は、より低い出血率を有したサージセル群(図示せず)を除いては、評価された処置群全体で同様であった。図6に示されたように、アビテンと併用されたFibrocapsは、アビテン単独及びサージセル単独と比較して、TTHを低減することができた。サージセルは、最終観察時間(t=300秒)で、6個の創傷のうちの3個のみで止血を達成した。各処置群で、血液損失もまた測定された。図7に示されたように、アビテンと併用されたFibrocapsとアビテン単独の双方で、サージセルと比較して血液損失を低減することができた。Fibrocapsは、アビテン又はサージセル単独と比較して、TTHの低減において有効であって、併用して使用される場合、アビテンのタンポナーデ有益性を超える添加剤止血効果を立証した。
ブタ肝臓パンチ生検モデルにおけるFibrocaps+ゼラチンスポンジの薬理学
【0084】
このモデルは、ブタ脾臓モデル及びウサギ肝臓モデルで観測された出血率よりも典型的には5倍を超える出血率をもたらすという利点を有する。このより強く出血するモデルは、「中等度」出血状況下でFibrocapsによるTTHを評価することを可能にした。別の目的は、Fibrospray装置のより洗練された変型を評価することであった。ブタ肝臓出血モデルは、Fibrocapsの止血性並びに他の止血剤を研究するために広範囲に使用された。
【0085】
表4に処置群が表示されている。簡単に言うと、無菌条件下において、肝臓葉を単離し、各肝臓葉で10mmパンチ生検によって、非重複生検を作成し、はさみと鉗子を使用して完全に切除し、約4mmの深さにした。血液を1分間回収し、ベースライン出血率を決定した。正常生理食塩水に浸漬したガーゼを使用して、肝臓を湿潤環境に維持した。
【表4】

出血率は中等度であり、処置群間で同様であると考えられた(図8)。予想したように、観測された出血率は、ブタ脾臓モデル又はウサギ肝臓モデルで観測された出血率よりも平均で約5〜10倍高かった。図9に示されたように、スポンゴスタンと併用されたFibrocapsは、スポンゴスタン単独と比較して、TTHを天元下。更に、スポンゴスタンと併用されたFibrocapsは、スポンゴスタンと併用されたヒト血漿由来トロンビンと同様にTTHを低減することができた。これらデータは、ゼラチン圧迫シートと併用されるFibrocapsが、出血のより頑強なモデルにおいて、ヒト血漿トロンビン場合と同様に止血を促進することが可能であることを立証している。
ブタ肝臓外科的生検におけるFibrocaps
【0086】
本研究では、22匹のブタを手術前に一夜絶食させて、内部標準手順に従って麻酔をかけた。正中線開腹を実施し、肝臓にアクセスした。解剖用メスを使用して、肝臓の左内側(部位1及び部位2)及び外側(部位3及び4)葉のダイアフラグム側に、4つの被膜下標準化病変(約3mmの深さを備えた10mm×10mm)を作成した。その後、各病変を、所定の無作為化スケジュールに従って、止血処置の1つで処置し、これによって、表6中の4つの処置のそれぞれが、それぞれの肝臓の4つの外科的出血創傷のうちの1つに適用された。
【表5】

本研究において、処置1及び2については、Fibrocaps粉末は、アビテン又はGelfoamのそれぞれの40×30mmの片を使用して、中程度の手による圧力を用いて、30秒間創傷上に押し付けられた。対照群に関しては、Fibrocapsの不在中で、同一の時間及び圧力が使用された。出血が1分以内に止まらない場合は、圧力が30秒間再度加えられた。止血が達成されるまで、これが1分間隔で繰り返された。圧力が解放された後に、3分間出血が観察されなければ、止血が達成されたと考えられた。処置及び対照群をその場に放置した。
【0087】
TTH及び血液損失に加えて、以下の安全性評価が、各処置について記録され、これらは、局所膨潤、創傷部位への接着、二次的剥離、色及び任意の他の重要な所見である。前処置血液損失は、全群で同様であり(表参照)、創傷が同様な出血の誘発を示した。全ての4つの処置(処置毎にn=22)は、1分未満で止血を達成した(表6及び7)。Avitene単独に対するAviteneと併用されたFibrocapsの止血性能は、統計的に有意な差はなかった。Gelfoamと併用されたFibrocapsの止血性能は、Gelfoam単独と比較した場合、統計的により速いTTHをもたらした(p=0.004)。
【表6】

【表7】

本研究の条件下では、局所的膨潤/厚さ、創傷部位に対する接着及び二次的剥離などのような二次的特性は、同等であると考えられた(データ表示せず)。コラーゲンまたはゼラチンスポンジと併用されるFibrocapsは、ウサギ肝臓外科的生検モデルにおいて、安全で、忍容性に優れ、かつ有効であることが示された。
ヒツジPTFE血管グラフトモデルにおけるFibrocapsの予備的研究
【0088】
本予備的研究では、1匹のヒツジを一夜絶食させて水を与えず、イソフルラン吸入麻酔(酸素中1〜3.5%のイソフルラン)を使用して麻酔した。非侵襲性加圧帯モニターを使用して、麻酔中のバイタルサイン、すなわち心拍数、酸素飽和度、及び呼吸数を監視した(使用される場合は、ベンチレーターで制御された)。鈍的及び鋭的切開を使用して、左側及び右側頸動脈と左右の外頸静脈の双方を単離した。ヘパリン(150U/kg、静脈注射)を、動脈クランピングの5分前に投与した。次いで、シリコン血管閉塞ループで動脈を閉塞させて、ランニングポリプロピレン縫合(5−0 Mersilene)でPTFEグラフトを吻合した。最初の2つの吻合(左側頸動脈から右外頸静脈)について、Fibrospray装置を使用して、Fibrocaps(0.25g/吻合端)を単回投与で、動脈及び静脈吻合部位に直接噴霧し、閉塞ループを取り外した。動脈部位から軽度の出血があったが、0.25gのFibrocapsの第二回目の投与によって、2分未満で完全に止められた。右側頸動脈−左外頸静脈グラフトは、Fibrocaps投与前に確立された血流を有した。0.25gの2回投与は、それぞれ血流を著しく低減させたが、生理食塩水で湿潤されたGelfoamスポンジがFibrocapsの頂部に適用されるまで、完全には血流を停止させなかった。表8に概要が示されているように、合計で4つの部位が処置された。
【表8】

Fibrocapsの投与によって提供された封止は、外科医がグラフトの一端を持ち上げて、吻合部位に向かって軽く引いた際に、出血が起こらなかったことで立証されたように、比較的強かった。
【0089】
吻合部位に加えて、グラフトの両側の吻合部位にて止血が達成された後に、25ゲージの注射針で、最初のePTFEグラフト中に3つの大きな針穴が作成された。いずれかの圧迫シートが不在中でのFibrocapsの2回の連続投与は、これら穿孔部位からの出血を止めることに失敗した。Fibrocapsの頂部に生理食塩水で湿潤されたGelfoamを併用した連続投与では、出血は即時停止した。単一の針穿孔を第二番目のグラフト中に作成し、Fibrocapsの単回投与によって出血が止められた。
【0090】
血管外科医は、血管それ自体によって部分的に覆われた管状創傷領域なども備えた吻合部位にFibrocapsを投与するためにスプレー装置を使用することによる問題は、全く認められなかった。
【0091】
Fibrocapsは、合成ePTFTグラフトに接着することが可能であり、Fibrocaps投与の前又は後に閉塞ループが除去されたかどうかに関係なく、動脈及び静脈吻合部位(n=4)において、中等度の出血については2分以内にヒツジ血管グラフトモデルでの出血を止めることが可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の局所的処置における止血剤として使用するための医薬用乾燥粉末組成物であり、医薬用乾燥粉末組成物が、フィブリノーゲンを含む第一微小粒子と、トロンビンを含む第二微小粒子との混合物を含み、前記創傷が、軽症の表皮剥離、切断、掻把、擦傷、火傷、日焼け、潰瘍、内静脈出血、外静脈出血、並びに胃腸管系を含む外科的処置、実質性器官での外科的処置;耳、鼻及び喉領域(ENT)における外科的処置、心血管手術、美容外科手術、脊髄外科手術、神経外科手術;リンパ管、胆管、及び脳脊(CSF)髄瘻、胸部及び肺手術中の空気漏れ、胸部手術、整形外科手術;婦人科的手術処置;血管手術及び緊急外科手術などから選択される外科的処置から選択される、医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項2】
前記外科的処置が、整形外科手術、肝臓切除術、軟組織損傷又は手術及び血管手術から選択される、請求項1に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項3】
前記使用が、手術中又は手術後の局所投与によって特徴づけられる、請求項1又は2に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項4】
前記組成物が、乾燥接着コーティング、エアゾール、乾燥エアゾール、ポンプスプレー、医療用圧迫ガーゼ;フィルム;被覆プラスター;薬用スポンジ又は外科用パッチ止血フリース;ガーゼ;膏薬、セミゲル、ゲル、泡沫剤、ペースト、懸濁液、軟膏剤、乳化剤、成形可能剤、外科用包帯剤、創部充填、綿棒、カテーテル、光ファイバ、注射器、ペッサリー、坐薬、又は液体中又は非水性液体中の懸濁液として製剤化される、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項5】
前記第一微小粒子が、0.5〜20重量%のフィブリノーゲンを含有する、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項6】
前記第二微小粒子が、25〜1000IU/gのトロンビンを含む、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項7】
0.01〜95重量%の添加剤材料を更に含む、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項8】
前記フィビリノーゲン及び/又はトロンビンが組換体である、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項9】
前記組換体フィブリノーゲンが、HMW fib又はアルファ延長fibである、請求項8に記載の医薬用乾燥粉末組成物。
【請求項10】
創傷を処置する方法であり、方法は、請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載されたような医薬用乾燥粉末組成物を創傷に投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記処置が、投与後に10分以下の止血までの時間をもたらす、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記処置が、投与後に5分以下の止血までの時間をもたらす、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記処置が、投与後に3分以下の止血までの時間をもたらす、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2013−516444(P2013−516444A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547517(P2012−547517)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050192
【国際公開番号】WO2011/083154
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(511006214)プロフィブリックス ビーブイ (3)
【Fターム(参考)】