説明

乾燥粉末細胞および細胞培養試薬ならびにこれらの生成方法

【課題】乾燥粉末細胞および細胞培養試薬ならびにこれらの生成方法などの提供。
【解決手段】栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤処方物、詳細には、粉末栄養培地、培地補充物および培地サブグループ処方物、特に細胞培養培地補充物(粉末ウシ胎仔血清(FBS)のような粉末血清を含む)、培地サブグループ処方物および細胞培養培地(これはインビボでの細胞培養を促進する必要な栄養因子の全てを含む)、ならびに溶媒で再構成する際に特定のイオン性およびpH条件を生じる粉末緩衝剤処方物、さらに、これらの培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤処方物の生成方法、そしてまた、原核生物細胞および真核生物細胞(特に、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞(ヒト細胞を含む))を、これらの乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤処方物を用いて培養するためのキットおよび方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に細胞、栄養培地、培地補充物、培地サブグループ(subgroup)および緩衝剤処方物に関する。詳細には、本発明は、乾燥粉末栄養培地処方物、特に細胞培地処方物(これはインビトロでの細胞培養を容易にするのに必須な栄養因子の全てを含む)、ならびにこれらの培地処方物の生成方法を提供する。本発明はまた、乾燥粉末培地補充物、例えば、乾燥粉末血清(例えばウシ胎仔血清)の生成方法に関する。本発明はまた、再水和すると特定のイオン条件およびpH条件を生じる乾燥粉末緩衝剤処方物に関する。本発明はまた、原核生物細胞(例えば細菌)および真核生物細胞(例えば、真菌(特に酵母)、動物(特に哺乳動物)および植物細胞)などの乾燥粉末細胞を生成する方法に関する。本発明はまた、滅菌乾燥粉末栄養培地、培地補充物(特に乾燥粉末血清)、培地サブグループおよび緩衝剤処方物の生成方法に関する。本発明はまた、これらの方法によって調製される乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、緩衝剤処方物および細胞に関する。本発明はまた、これらの乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤処方物を用いる、原核生物細胞および真核生物細胞の培養のためのキットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(細胞培養培地)
細胞培養培地は、制御された人工およびインビトロの環境で細胞を維持および増殖させるために必要な栄養を提供する。細胞培養培地の特徴および組成は特に細胞の必要条件に依存して変化する。重要なパラメータには、重量オスモル濃度、pH、および栄養処方物が挙げられる。
【0003】
培地処方物は、動物細胞、植物細胞および細菌細胞を含む多数の細胞型を培養するために使用されている。培養培地中で培養される細胞は、利用可能な栄養を代謝し、そしてモノクローナル抗体、ホルモン、増殖因子、ウイルスなどのような有用な生物学的物質を産生する。このような産物は治療的適用を有し、そして組換えDNA技術の出現によって、細胞を操作して、これらの産物は大量に生成され得る。従って、細胞をインビトロで培養する能力は、細胞生理学の研究について重要であるだけでなく、他の場合では費用的に効率的な手段では得られ得ない有用な物質の生産のためにも必要である。
【0004】
細胞培養培地処方物は文献で詳しく示されており、そして多数の培地が市販されている。初期の細胞培養の研究では、培地処方物は血液の化学的組成および物理化学的性質(例えば、重量オスモル濃度、pHなど)に基づいており、そしてこれらは「生理溶液」と呼ばれた(Ringer, S., J. Physiol. 3:380−393(1880)(非特許文献1); Waymouth, C., Cells and Tissues in Culture, Vol.1, Academic Press, London, 99−142頁(1965)(非特許文献2)、; Waymouth, C., In Vitro 6:109−127(1970)(非特許文献3))。しかし、哺乳動物身体の異なる組織の細胞は、酸素/二酸化炭素分圧ならびに栄養素、ビタミン、および微量元素の濃度に関して、異なる微小環境に曝されている。従って、異なる細胞型をインビトロでうまく培養するには、しばしば異なる培地処方物の使用が要求される。代表的な細胞培養培地の成分は、アミノ酸、有機および無機塩類、ビタミン、微量金属、糖、脂質および核酸を包含し、これらの型および量は所定の細胞または組織型の個々の必要条件に依存して変化し得る。特に複合培地組成物中では安定性の問題の結果、毒性産物がしばしば生じ、および/または必須栄養素の有効濃度がより低くなり、それによって培養培地の機能的寿命が制限される。例えば、グルタミンは、哺乳動物細胞をインビトロで培養する場合に使用されるほとんど全ての培地の構成要素である。グルタミンは、ピロリドンカルボン酸およびアンモニアへと自然に分解する。分解速度はpHおよびイオン条件によって影響され得るが、多くの場合、細胞培養培地中ではこれらの分解産物の形成は避けられ得ない(Tritschら、Exp. Cell Res. 28:360−364(1962)(非特許文献4))。
【0005】
Wangら(In Vitro 14(8):715−722(1978)(非特許文献5))は、細胞に対して致死的な過酸化水素のような光産物が、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で生成されることを示した。光に曝されている間の過酸化水素の形成のためには、リボフラビンおよびトリプトファンまたはチロシンは必要な成分である。ほとんどの哺乳動物培養培地はリボフラビン、チロシンおよびトリプトファンを含んでいるので、毒性の光産物はほとんどの細胞培養培地で生成される可能性がある。
【0006】
これらの問題を回避するために、研究者は「必要に応じて」を基本(” as needed ” basis)として培地を作製し、培養培地の長期保存を回避する。代表的には乾燥粉末形態の市販の培地は、培地を最初から作製すること(すなわち、各栄養素を個々に加えること)に代わる便利な代替として役立ち、そしてまた、液体培地に関連するいくつかの安定性の問題を回避する。しかし、入手できる市販の培養培地の数は(製造業者によって供給される特別注文の処方物以外は)、限られている。
【0007】
乾燥粉末培地処方物はいくつかの培地の保存期間を増加し得るが、乾燥粉末培地に関連する多数の問題が、特に大規模な適用において存在する。大量の培地の生成は、栄養成分を混合および計量するために必要な専門の培地キッチンはいうまでもなく、乾燥粉末培地の貯蔵設備を必要とする。乾燥粉末培地の腐食性の性質に起因して、混合用タンクは定期的に交換されなければならない。
【0008】
代表的には、細胞培養培地処方物は一連の添加物で補充され、これにはウシ胎仔血清(FBS)(10〜20% v/v)または動物の胎仔、器官または腺由来の抽出物(0.5〜10% v/v)のような未規定の成分が含まれる。FBSは、動物細胞培養培地中に最も一般的に適用される補充物であるが、他の血清供給源もまた日常的に使用され、これには新生児の仔ウシ、ウマ、およびヒトが包含される。培養培地の補充物のための抽出物の調製に使用されている器官または腺は、顎下腺(Cohen, S., J. Biol. Chem. 237:1555−1565(1961)(非特許文献6))、下垂体(Peehl, D.M., およびHam, R.G., In Vitro 16:516−525(1980)(非特許文献7); 米国特許第4,673,649号(特許文献1))、視床下部(Maciag, T.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:5674−5678(1979)(非特許文献8); Gilchrest, B.A.ら、J.Cell. Physiol. 120:377−383(1984)(非特許文献9))、眼の網膜(Barretault, D.ら、Differentiation 18:29−42(1981)(非特許文献10))および脳(Maciag, T.ら、Science 211:1452−1454(1981)(非特許文献11))を含む。これらの型の化学的に未規定の補充物は、細胞培養培地中でいくつかの有用な機能を供する(Lambert, K.J.ら、Animal Cell Biotechnology, Vol.1、Spier, R.E.ら編、Academic Press New York, 85−122頁(1985)(非特許文献12))。例えば、これらの補充物は、不安定な栄養素または水に難溶性の栄養素のためのキャリアまたはキレーターを提供する;結合してそして毒性部分を中和する;ホルモンおよび増殖因子、プロテアーゼインヒビターおよび、必須であり、しばしば未同定または未規定の、低分子量の栄養素を提供する;そして、細胞を物理的なストレスおよび損傷から保護する。従って、血清または器官/腺抽出物は、動物細胞の培養のために最適な培養培地を提供するための比較的低コストの補充物として、一般的に使用される。
【0009】
(培養培地の生成方法)
培養培地は代表的には液体形態あるいは粉末形態で生成される。これらの形態の各々は、特有の利点および欠点を有する。
【0010】
例えば、液体培養培地は(栄養素または他の成分での補充が必要とされない限り)既製品(ready−to−use)として提供され、そしてこの処方物は特定の細胞型に対して最適化されているという利点を有する。しかし液体培地は、細胞培養における最適な性能のために補充物(例えばL−グルタミン、血清、抽出物、サイトカイン、脂質など)の追加を頻繁に必要とするという欠点を有する。さらに、液体培地は経済的に滅菌することが困難であることが多い。なぜなら、成分の多くが熱不安定性であり(それゆえ、例えばオートクレーブの使用を避ける)、そして大量の液体はγ線照射または紫外線照射のような透過滅菌方法が特に行われやすいわけではない。そのため、液体培養培地は濾過によって滅菌されることが最も多く、これは時間がかかる高価なプロセスになり得る。さらに、大量のバッチサイズ(例えば、1000リットル以上)の液体培養培地の製造および貯蔵は非実用的であり、そして液体培養培地の成分は比較的短い貯蔵寿命を有することが多い。
【0011】
これらの欠点のうちのいくつかを克服するために、液体培養培地は濃縮形態で処方され得る;次いで、これらの培地成分は使用前に作業濃度に希釈され得る。このアプローチは、標準的な培養培地よりも大量かつ種々のバッチサイズを作製する能力を提供し、そして濃縮培地処方物またはその成分は、より長い貯蔵寿命を有することが多い(米国特許第5,474,931号(特許文献2)を参照のこと、これは培養培地濃縮技術に関する)。しかしこれらの利点にもかかわらず、濃縮液体培地もなお、追加の補充物(例えば、FBS、L−グルタミンまたは器官/腺抽出物)についての必要性という欠点を有し、そして経済的に滅菌が困難であり得る。
【0012】
液体培地の代替物として、粉末培養培地がしばしば使用される。粉末培地は代表的には、培養培地の乾燥成分を混合プロセス(例えば、ボールミル法、または予備作製された液倍培養培地の凍結乾燥)によって混合することによって製造される。本アプローチは、さらに大量のバッチサイズでさえ生成され得ること、粉末培地は代表的には液体培地より長い貯蔵寿命を有すること、そして培地が処方後に照射滅菌(例えば、γ線照射または紫外線照射)あるいはエチレンオキシド浸透滅菌され得るという利点を有する。しかし、粉末培地はいくつかの独特な欠点を有する。例えば、粉末培地の成分のいくつかは、凍結乾燥すると難溶性、または凝集体となり、そのため再可溶化が困難または不可能となる。さらに、代表的に、粉末培地は微細な粉末状の粒子を含み、この粒子は、材料を損失することなく再構成されることが特に困難であり得、そしてこのことから、GMP/GLP、USPまたはISO9000の設定の下に操作されている多くのバイオテクノロジー生成設備での使用がさらに非実用的になり得る。加えて、培養培地で使用される補充物(例えばL−グルタミンおよびFBS)の多くは、その濃縮時の不安定性または凝集傾向のために、あるいはボールミル法のようなプロセスによる剪断に対するその感受性のために、凍結乾燥またはボールミル法の前に培養培地に添加し得ない。最終的に、これらの補充物の多く、特にFBSのような血清補充物は、凍結乾燥のようなプロセスによって粉末補充物を生成する試みが行われた場合、活性の実質的な損失を示すか、あるいは完全に不活性にされる。
【特許文献1】米国特許第4,673,649号
【特許文献2】米国特許第5,474,931号
【非特許文献1】Ringer, S., J. Physiol. 3:380−393(1880)
【非特許文献2】Waymouth, C., Cells and Tissues in Culture, Vol.1, Academic Press, London, 99−142頁(1965)
【非特許文献3】Waymouth, C., In Vitro 6:109−127(1970)
【非特許文献4】Tritschら、Exp. Cell Res. 28:360−364(1962)
【非特許文献5】Wangら、In Vitro 14(8):715−722(1978)
【非特許文献6】Cohen, S., J. Biol. Chem. 237:1555−1565(1961)
【非特許文献7】Peehl, D.M., およびHam, R.G., In Vitro 16:516−525(1980)
【非特許文献8】Maciag, T.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:5674−5678(1979)
【非特許文献9】Gilchrest, B.A.ら、J.Cell. Physiol. 120:377−383(1984)
【非特許文献10】Barretault, D.ら、Differentiation 18:29−42(1981)
【非特許文献11】Maciag, T.ら、Science 211:1452−1454(1981)
【非特許文献12】Lambert, K.J.ら、Animal Cell Biotechnology, Vol.1、Spier, R.E.ら編、Academic Press New York, 85−122頁(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、迅速に溶解する栄養的に複合的な安定乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤であって、種々のバルク量で調製でき、そして特に電離放射線または紫外線照射による滅菌になじみやすいものに対する、現在の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤粉末の生成方法を提供し、この方法は、乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を溶媒で凝集する工程を包含する。本発明はまた、粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、および緩衝剤の生成方法に関し、この方法は、液体の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を、それらの乾燥粉末対応物の生成に十分な条件下で噴霧乾燥する工程を、包含する。このような条件には、例えば、粉末の培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤が形成されるまで、加熱および湿度を制御することが含まれ得る。本発明によれば、この方法はさらに、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤粉末を滅菌する工程を包含し、これは粉末のパッケージングの前または後に達成され得る。特に好ましい方法では、滅菌は粉末のパッケージング後に、パッケージされた粉末にγ線を照射することによって達成される。
【0015】
本発明に従って生成され得る特に好ましい栄養培地粉末は、細菌細胞培養培地粉末、酵母細胞培養培地粉末、植物細胞培養培地粉末および動物細胞培養培地粉末からなる群から選択される培養培地粉末を包含する。
【0016】
本発明の方法によって生成され得る特に好ましい培地補充物は:ウシ血清(例えば、ウシ胎仔、ウシ新生仔または正常仔ウシ血清)、ヒト血清、ウマ血清、ブタ血清、有尾猿血清、無尾猿血清、ラット血清、マウス血清、ウサギ血清、ヒツジ血清などのような、粉末動物血清;サイトカイン(増殖因子(例えば、EGF、aFGF、bFGF、HGF、IGF−1、IGF−2、NGFなど)、インターロイキン、コロニー刺激因子、およびインターフェロンを含む);接着因子または細胞外マトリックス成分(例えば、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなど);脂質(例えば、リン脂質、コレステロール、ウシコレステロール濃縮物、脂肪酸、スフィンゴ脂質など);および動物組織、器官または腺からの抽出物(例えば、ウシ下垂体抽出物、ウシ脳抽出物、ニワトリ胚抽出物、ウシ胎仔抽出物、ニワトリ肉抽出物、アキレス腱およびその抽出物)など、を包含する。本発明の方法で生成され得る他の培地補充物は、種々のタンパク質(例えば、血清アルブミン、特にウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミン;免疫グロブリンおよびそのフラグメントまたは複合体;アプロチニン;ヘモグロビン;ヘミン(haemin)またはヘマチン(haematin);酵素(例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、パンクレアチニンまたはディスパーゼ(dispase));リポタンパク質;フェリチン;など)(これらは天然または組換えであり得る);ビタミン;アミノ酸およびその改変体(L−グルタミンおよびシスチンを包含するがこれらに限定されない)、酵素補因子およびインビトロでの細胞培養に有用な他の成分を包含し、これらは当業者によく知られている。
【0017】
本発明で調製される栄養培地および培地補充物はまた、血清(好ましくは上記のもの)、L−グルタミン、インスリン、トランスフェリン、1つ以上の脂質(好ましくは1つ以上のリン脂質、スフィンゴ脂質、脂肪酸またはコレステロール)、1つ以上のサイトカイン(好ましくは上記のもの)、1つ以上の神経伝達物質、1つ以上の動物組織抽出物、器官抽出物または腺抽出物(好ましくは上記のもの)、1つ以上のタンパク質(好ましくは上記のもの)または1つ以上の緩衝剤(好ましくは炭酸水素ナトリウム)、あるいはそれらの任意の組み合わせのようなサブグループを含み得る。
【0018】
本発明の方法に従う調製に特に適した緩衝剤粉末は、緩衝化生理食塩水粉末を包含し、最も詳細には、リン酸緩衝化生理食塩水粉末またはTris緩衝化生理食塩水粉末を包含する。
【0019】
本発明はまた、これらの方法に従って調製される栄養培地粉末、培地補充物粉末(上記補充物の粉末を含む)および緩衝剤粉末を提供する。
【0020】
本発明はまた、原核生物細胞(例えば、細菌)ならびに真核生物細胞(例えば、真菌(特に酵母)、動物細胞(特に、ヒトを含む哺乳動物)および植物)を包含する乾燥細胞の調製方法に関し、この方法は、乾燥される細胞を得る工程、この細胞を1つ以上の安定剤(例えば、トレハロースのような多糖類)と接触させる工程、細胞を含む水性懸濁液を形成する工程、そしてこの細胞懸濁液を乾燥粉末の生成に好都合な条件下で噴霧乾燥する工程を包含する。本発明はまた、これらの方法によって生成される乾燥細胞粉末に関する。
【0021】
本発明はさらに、滅菌の粉末培養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の調製方法に関する。1つのこのような方法は、上記粉末培養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤をγ線照射に曝露し、その結果、この粉末中に生存し得る細菌、真菌、胞子およびウイルスを複製不能にさせる工程を包含する。好ましいこのような方法では、粉末培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、総線量約10〜100キログレイ(kGy)、好ましくは総線量約15〜75kGy、15〜50kGy、15〜40kGy、または20〜40kGy、より好ましくは総線量約20〜30kGy、そして最も好ましくは総線量約25kGyで、約1時間から約7日間の間、好ましくは約1時間から約5日間の間、より好ましくは約1時間から約3日間の間、約1時間から約24時間の間、または約1〜5時間の間、そして最も好ましくは約1〜3時間の間、γ線を照射される。本発明はまた、これらの方法によって生成される滅菌粉末培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤に関する。
【0022】
本発明はさらに細胞の培養方法を提供し、この方法は、本発明の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を溶媒(これは好ましくは血清または水を含む)で再構成する工程、および細胞を再構成された栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤と、細胞の培養に好都合な条件下で接触させる工程を包含する。任意の細胞(特に、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞または動物細胞)が本発明の方法に従って培養され得る。本発明の方法による培養に対して好ましい動物細胞には、昆虫細胞(最も好ましくはDrosophila細胞、Spodoptera細胞、およびTrichoplusa細胞)、線虫細胞(最も好ましくは、C. elegans細胞)、および哺乳動物細胞(最も好ましくはCHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE−1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、ハイブリドーマ細胞またはヒト細胞)が挙げられる。本発明のこの局面に従って培養される細胞は、正常細胞、疾患細胞、形質転換細胞、変異細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、前駆細胞または胚細胞であり得、これらのいずれもが樹立された細胞株または天然の供給源から得られた細胞であり得る。
【0023】
本発明はさらに、細胞の培養に使用するためのキットに関する。本発明によるキットは1つ以上の本発明の栄養培地粉末、培地補充物粉末、培地サブグループ粉末または緩衝剤粉末、あるいはそれらの任意の組み合わせを含む、1つ以上の容器を含み得る。キットはまた1つ以上の細胞または細胞型(これは本発明の乾燥細胞粉末を含む)を含み得る。
【0024】
本発明の他の好ましい実施態様は、以下の図面および発明の説明ならびに請求の範囲を考慮すると、当業者に明らかである。
【0025】
本発明によれば、以下が提供される:
(1)栄養培地粉末の生成方法であって、該方法が乾燥粉末培地を溶媒で凝集させる工程を包含する、方法。
(2)栄養培地補充物粉末の生成方法であって、該方法が乾燥粉末栄養培地補充物を溶媒で凝集させる工程を包含する、方法。
(3)栄養培地サブグループ粉末の生成方法であって、該方法が乾燥粉末栄養培地サブグループを溶媒で凝集させる工程を包含する、方法。
(4)緩衝剤粉末を製造する方法であって、該方法が乾燥粉末緩衝剤を溶媒で凝集させる工程を包含する、方法。
(5)栄養培地粉末の生成方法であって、該方法が液体栄養培地を噴霧乾燥する工程を包含する、方法。
(6)栄養培地補充物粉末の生成方法であって、該方法が液体栄養培地補充物を噴霧乾燥する工程を包含する、方法。
(7)栄養培地サブグループ粉末の生成方法であって、該方法が液体栄養培地サブグループを噴霧乾燥する工程を包含する、方法。
(8)緩衝剤粉末を製造する方法であって、該方法が液体緩衝溶液を噴霧乾燥する工程を包含する、方法。
(9)上記粉末を溶媒で凝集させる工程をさらに包含する、項目(5)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(10)上記噴霧乾燥が、制御された温度および湿度の条件下で行われる、項目(5)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(11)上記粉末を包装する工程をさらに包含する、項目(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(12)上記粉末を滅菌する工程をさらに包含する、項目(1)〜(8)のいずれか一項に記載の方法。
(13)上記滅菌が上記粉末の包装の後に行われる、項目(12)に記載の方法。
(14)上記滅菌が、上記粉末にγ線を該粉末が実質的に無菌化されるまで照射することによって達成される、項目(12)に記載の方法。
(15)少なくとも1つの培地補充物を、上記凝集した栄養培地に、該補充物を該凝集した培地上に噴霧乾燥することによって添加する工程をさらに包含する、項目(1)または(5)に記載の方法。
(16)酸または塩基を栄養培地中に凝集させることによって、該酸または塩基を該栄養培地に添加する工程をさらに包含する、項目(1)または(5)に記載の方法。
(17)上記栄養培地粉末が、細菌細胞培養培地粉末、酵母細胞培養培地粉末、植物細胞培養培地粉末および動物細胞培養培地粉末からなる群から選択される細胞培養培地粉末である、項目(1)または(5)に記載の方法。
(18)上記栄養培地が、血清、L−グルタミン、インスリン、トランスフェリン、脂質、サイトカイン、神経伝達物質および緩衝剤からなる群から選択される1つ以上の成分を含む、項目(1)または(5)に記載の方法。
(19)上記栄養培地補充物が血清である、項目(2)に記載の方法。
(20)上記栄養培地補充物が血清である、項目(3)に記載の方法。
(21)上記栄養培地補充物が血清である、項目(15)に記載の方法。
(22)上記血清がウシ血清またはヒト血清である、項目(19)〜(21)のいずれか一項に記載の方法。
(23)上記ウシ血清が、ウシ胎仔血清または仔ウシ血清である、項目(22)に記載の方法。
(24)上記緩衝剤が炭酸水素ナトリウムである、項目(18)に記載の方法。
(25)上記緩衝剤粉末が緩衝化生理食塩水粉末である、項目(4)または(8)に記載の方法。
(26)上記緩衝化生理食塩水粉末がリン酸緩衝化生理食塩水粉末またはTris緩衝化生理食塩水粉末である、項目(25)に記載の方法。
(27)項目(1)に記載の方法に従って調製される栄養培地粉末。
(28)項目(5)に記載の方法に従って調製される栄養培地粉末。
(29)項目(9)に記載の方法に従って調製される栄養培地粉末。
(30)項目(16)に記載の方法に従って調製される栄養培地粉末。
(31)自動的にpHが調整される栄養培地粉末。
(32)上記粉末が少なくとも1つの緩衝塩を含む、項目(31)に記載の栄養培地粉末。
(33)上記緩衝塩が炭酸水素ナトリウムである、項目(32)に記載の栄養培地粉末。
(34)上記栄養培地粉末が少なくとも1つの緩衝塩を含む、項目(27)〜(31)のいずれか一項に記載の栄養培地粉末。
(35)上記緩衝塩が炭酸水素ナトリウムである、項目(34)に記載の栄養培地粉末。
(36)上記栄養培地が該培地を溶媒で再構成したときに7.1〜7.5の間のpHを有する、項目(27)〜(31)のいずれか一項に記載の栄養培地粉末。
(37)項目(2)に記載の方法に従って調製される栄養培地補充物粉末。
(38)項目(3)に記載の方法に従って調製される栄養培地補充物粉末。
(39)項目(3)に記載の方法に従って調製される栄養培地サブグループ粉末。
(40)項目(7)に記載の方法に従って調製される栄養培地サブグループ粉末。
(41)項目(9)に記載の方法に従って調製される栄養培地サブグループ粉末。
(42)項目(4)に記載の方法に従って調製される緩衝剤粉末。
(43)項目(8)に記載の方法に従って調製される緩衝剤粉末。
(44)上記栄養培地補充物が血清である、項目(37)または(38)に記載の栄養培地補充物粉末。
(45)上記血清がウシ血清またはヒト血清である、項目(44)に記載の栄養培地補充物粉末。
(46)上記ウシ血清がウシ胎仔血清または仔ウシ血清である、項目(45)に記載の栄養培地補充物粉末。
(47)上記栄養培地補充物粉末が1つ以上の栄養培地成分を含む、項目(37)または(38)に記載の栄養培地補充物粉末。
(48)細胞を培養する方法であって、項目(27)〜(31)のいずれか一項に記載の栄養培地粉末を溶媒で再構成して液体溶液を形成する工程、および該細胞の培養に都合の良い条件下で該細胞を該液体溶液に接触させる工程を包含する、方法。
(49)上記溶媒が血清または水を含む、項目(48)に記載の方法。
(50)上記細胞が細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞からなる群から選択される、項目(48)に記載の方法。
(51)上記動物細胞が昆虫細胞、線虫細胞、または哺乳動物細胞である、項目(50)に記載の方法。
(52)上記哺乳動物細胞が、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE−1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、ハイブリドーマ細胞およびヒト細胞からなる群から選択される、項目(51)に記載の方法。
(53)上記細胞が足場依存性細胞である、項目(48)に記載の方法。
(54)上記細胞が足場非依存性細胞である、項目(48)に記載の方法。
(55)上記細胞が、正常細胞、疾患細胞、形質転換細胞、変異細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、前駆細胞および胚細胞からなる群から選択される、項目(48)に記載の方法。
(56)滅菌栄養培地補充物粉末を製造する方法であって:
(a)滅菌されるべき栄養培地補充物粉末を得る工程;および
(b)該粉末を、該粉末が無菌化されるまで該粉末にγ線を照射することによって滅菌する工程、
を包含する、方法。
(57)上記栄養培地補充物粉末が液体栄養培地補充物を凍結乾燥することによって調製される、項目(56)に記載の方法。
(58)上記栄養培地補充物粉末が液体栄養培地補充物を噴霧乾燥することによって調製される、項目(56)に記載の方法。
(59)上記栄養培地補充物粉末が粉末栄養培地補充物を凝集することによって調製される、項目(56)に記載の方法。
(60)項目(56)に記載の方法に従って調製される、滅菌栄養培地補充物粉末。
(61)上記粉末が、血清粉末、サイトカイン粉末、インスリン粉末、脂質粉末、動物器官抽出物粉末、動物腺抽出物粉末、動物組織抽出物粉末、酵素粉末およびトランスフェリン粉末からなる群から選択される、項目(60)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(62)上記粉末が血清粉末である、項目(60)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(63)上記血清粉末がウシ血清粉末またはヒト血清粉末である、項目(61)または(62)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(64)上記ウシ血清粉末がウシ胎仔血清粉末または仔ウシ血清粉末である、項目(63)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(65)上記サイトカイン粉末が増殖因子粉末、インターロイキン粉末、コロニー刺激因子粉末またはインターフェロン粉末である、項目(61)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(66)上記脂質粉末がリン脂質粉末、スフィンゴ脂質粉末、脂肪酸粉末またはコレステロール粉末である、項目(61)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(67)上記動物腺抽出物粉末がウシ下垂体抽出物粉末である、項目(61)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(68)上記酵素粉末が、トリプシン粉末、コラゲナーゼ粉末、パンクレアチニン粉末またはディスパーゼ粉末である、項目(61)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(69)上記粉末がトランスフェリン粉末である、項目(60)に記載の滅菌栄養培地補充物粉末。
(70)細胞の培養に使用するキットであって、該キットが1つ以上の容器を含み、ここで第一の容器が項目(27)〜(31)、(37)〜(43)または(60)のいずれか一項に記載の粉末を含む、キット。
(71)1つ以上の細胞を含む1つ以上のさらなる容器をさらに含む、項目(70)に記載のキット。
(72)1つ以上の溶媒を含む1つ以上のさらなる容器をさらに含む、項目(70)に記載のキット。
(73)少なくとも1つの細胞を含む乾燥細胞粉末の生成方法であって、該方法が:
(a)乾燥される細胞を得る工程;
(b)該細胞を水溶液中に懸濁することによって細胞懸濁液を形成する工程;および
(c)該細胞懸濁液を噴霧乾燥することによって粉末を生成する工程
を包含する、方法。
(74)上記細胞を少なくとも1つの安定化化合物または保護化合物と接触させる工程をさらに包含する、項目(73)に記載の方法。
(75)上記安定化化合物または保護化合物が多糖類である、項目(74)に記載の方法。
(76)上記多糖類がトレハロースである、項目(75)に記載の方法。
(77)上記安定化化合物または保護化合物を上記乾燥細胞粉末上に噴霧乾燥または凝集することによって、該細胞が該化合物と接触される、項目(74)に記載の方法。
(78)上記水溶液が、緩衝剤、塩、栄養培地成分および栄養培地補充物からなる群から選択される1つ以上の成分を含む、項目(73)に記載の方法。
(79)上記乾燥細胞粉末を溶媒で凝集させる工程をさらに包含する、項目(73)に記載の方法。
(80)上記溶媒が、緩衝溶液、塩溶液、栄養培地補充物溶液、栄養培地溶液、およびそれらの組み合わせである、項目(79)に記載の方法。
(81)上記栄養培地補充物が血清である、項目(78)または(80)に記載の方法。
(82)上記血清がウシ血清またはヒト血清である項目(81)に記載の方法。
(83)上記ウシ血清がウシ胎仔血清または仔ウシ血清である、項目(82)に記載の方法。
(84)上記細胞が、細菌細胞、酵母細胞、動物細胞または植物細胞である、項目(73)に記載の方法。
(85)上記動物細胞が、昆虫細胞、線虫細胞または哺乳動物細胞である、項目(84)に記載の方法。
(86)上記哺乳動物細胞がヒト細胞である、項目(85)に記載の方法。
(87)上記哺乳動物細胞が非ヒト細胞である、項目(85)に記載の方法。
(88)上記細胞が、正常細胞、疾患細胞、形質転換細胞、変異細胞、体細胞、生殖細胞、幹細胞、前駆細胞および胚細胞からなる群から選択される、項目(73)に記載の方法。
(89)上記細胞が足場依存性細胞である、項目(73)に記載の方法。
(90)上記細胞が足場非依存性細胞である、項目(73)に記載の方法。
(91)項目(73)に記載の方法に従って調製される、乾燥細胞粉末。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
(定義)
以下の説明中、細胞培養培地の分野で慣習的に使用される多くの用語が、広範囲に利用される。明細書および請求項、ならびにこのような用語で与えられる範囲の明瞭かつ一貫した理解を提供するために、以下の定義が提供される。
【0027】
用語「粉末」は本明細書において使用される限り、顆粒形態で存在する組成物を言い、これは水または血清のような溶媒で複合体化、または凝集されても、されなくてもよい。用語「乾燥粉末」は、用語「粉末」と交換可能に使用され得るが、しかし「乾燥粉末」は本明細書において使用される限り、単に顆粒物質の全体の様子をいい、他に示されない限り、その物質が複合または凝集した溶媒を全く含まないことを意味することを意図しない。
【0028】
用語「成分(ingredient)」は、細胞培養培地で細胞の増殖の増加を維持または促進するために使用され得る、化学的または生物学的起源のいずれであれ任意の化合物をいいう。用語「成分(component)」、「栄養」および「成分(ingredient)」は交換可能に使用され得、そしてこれらは全てそのような化合物について言及することを意味する。細胞培養培地で使用される代表的な成分は、アミノ酸、塩、金属、糖、脂質、核酸、ホルモン、ビタミン、脂肪酸、タンパク質などを包含する。エキソビボでの細胞の培養を促進または維持する他の成分は、特定の必要性に応じて当業者によって選択され得る。
【0029】
用語「サイトカイン」は、細胞において生理学的応答、例えば増殖、分化、老化、アポトーシス、細胞毒性または抗体分泌を誘導する化合物をいう。この「サイトカイン」の定義には、増殖因子、インターロイキン、コロニー刺激因子、インターフェロンおよびリンホカインが包含される。
【0030】
「細胞培養」または「培養」は人工の(例えばインビトロの)環境中で細胞を維持することを意味する。しかし、用語「細胞培養」は包括的な用語であり、そして個別の原核生物(例えば、細菌)または真核生物(例えば、動物、植物および真菌)細胞の培養のみならず、組織、器官、器官系または生物全体の培養をも包含し、これらには用語「組織培養」、「器官培養」、「器官系培養」または「器官型培養」がときどき用語「細胞培養」と相互交換可能に使用され得る。
【0031】
「培養」は細胞を人工環境中、細胞の増殖、分化または連続的な生存に好都合な条件下で、活性状態または静止状態で維持することを意味する。従って「培養」は「細胞培養」または上記の同義語のいずれとも相互交換可能に使用され得る。
【0032】
「培養容器」は、細胞培養のための無菌的環境を提供するガラス、プラスチック、または金属容器を意味する。
【0033】
語句「細胞培養培地(cell culture medium)」、「培養培地(culture medium)」(各場合において複数形は”media”)および「培地処方物」は、細胞の培養および/または増殖を支持する栄養性溶液をいう。これらの語句は交換可能に使用され得る。
【0034】
「抽出物」は、物質のサブグループの濃縮調製物を含む組成物を意味し、代表的には、その物質を機械的(例えば、圧縮処理)または化学的(例えば、蒸留、沈殿、酵素作用または高塩処理)に処理することによって形成される。
【0035】
「酵素消化物」は、特別のタイプの抽出物を含む組成物、すなわち、抽出される物質(例えば、植物成分または酵母細胞)をこの物質の成分をより単純な形態に(例えば、単糖類または二糖類および/またはモノ−、ジ−またはトリペプチドを含む調製物に)分解し得る少なくとも1種の酵素で処理することによって調製されるものを意味する。この文脈において、ならびに本発明の目的について、用語「加水分解物」は「酵素消化物」と交換可能に使用され得る。
【0036】
用語「接触させる」は、培養される細胞を、その中で細胞が培養される培地と共に培養容器中に置くことをいう。用語「接触させる」は、細胞を培地と混合すること、培養容器中の細胞上の培地のピペッティング、および細胞を培養培地中に浸すことを包含する。
【0037】
用途「合わせる」は、成分を細胞培養培地処方物中で混合(mixing)または混合(admixing)することをいう。
【0038】
細胞培養培地は多くの成分から構成され、そしてこれらの成分は培養培地ごとに異なる。「1×処方物」は、細胞培養培地中に見いだされるいくつかのまたは全ての成分を作業濃度で含む任意の水溶液をいう。「1×溶液」は、例えば、細胞培養培地のこと、あるいはこの培地の成分の任意のサブグループのことを意味し得る。1×溶液中の成分の濃度は、インビトロで細胞を維持または培養するために使用される細胞培養処方物中に見いだされるこれらの成分の濃度とおよそ同じである。細胞のインビトロ培養のために使用される細胞培養培地は、定義から1×処方物である。多くの成分が存在する場合、1×処方物中の各成分は細胞培養培地中のこれらの成分の濃度と大体等しい。例えば、RPMI−1640培養培地は、成分のなかでもとりわけ、0.2g/LのL−アルギニン、0.05g/LのL−アスパラギン、および0.02g/LのL−アスパラギン酸を含む。これらのアミノ酸の「1×処方物」は、溶液中のこれらの成分と大体同じ濃度で含む。従って、「1×処方物」という場合、これは溶液中の各成分が、記載されている細胞培養培地中に見いだされる濃度と同じかまたは大体同じ濃度を有することを意図する。細胞培養培地の1×処方物中の成分の濃度は当業者に周知である。Methods For Preparation of Media, Supplements and Substrate For Serum−Free Animal Cell Culture Allen R.Liss, N.Y.(1984)を参照のこと。これは本明細書中にその全体が参考として援用される。しかし、重量オスモル濃度および/またはpHは、特に1×処方物中により少ない成分が含まれている場合には、1×処方物中で培養培地と比べて異なる得る。
【0039】
「10×処方物」は、その溶液中の各成分が、細胞培養培地中の同じ成分の約10倍の濃度である溶液を示すことを意味する。例えば、RPMI−1640培養培地の10×処方物は、成分の中でもとりわけ、2.0g/LのL−アルギニン、0.5g/LのL−アスパラギン、および0.2g/LのL−アスパラギン酸を(上記の1×処方物と比較して)含む。「10×処方物」は、1×培養培地中で見いだされる濃度の約10倍の濃度で多くの追加成分を含み得る。容易に明らかなように、「20×処方物」、「25×処方物」、「50×処方物」および「100×処方物」は、1×細胞培養培地に比べてそれぞれ、約20倍、25倍、50倍、または100倍の濃度成分を含む溶液を示す。これもまた、培地処方物および濃縮溶液の重量オスモル濃度およびpHは変化し得る。米国特許第5,474,931号を参照のこと。これは培養培地濃縮技術に関する。
【0040】
(概要)
本発明は、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を製造する方法に関する。本発明の方法で製造される栄養培地、培地補充物および培地サブグループは、細胞の増殖を支持するために使用され得る任意の培地、培地補充物または培地サブグループ(無血清、または血清含有)であり、この細胞は細菌細胞、真菌細胞(特に酵母細胞)、植物細胞または動物細胞(特に、昆虫細胞、線虫細胞、または哺乳動物細胞、最も好ましくはヒト細胞)であり得、これらのいずれもが、体細胞、生殖細胞、正常細胞、疾患細胞、形質転換細胞、変異細胞、幹細胞、前駆細胞または胚細胞であり得る。好ましいこのような栄養培地は、細胞培養培地、最も好ましくは、細菌細胞培養培地、植物細胞培養培地、または動物細胞培養培地を包含するが、これらに限定されない。好ましい培地補充物は、未規定の補充物、例えば、細菌、動物または植物細胞、腺、組織または器官の抽出物(特に、ウシ下垂体抽出物、ウシ脳抽出物、およびニワトリ胚抽出物);および生物学的液体(特に、動物血清、および最も好ましくはウシ血清(特に、ウシ胎仔、新生仔ウシまたは正常ウシ血清)、ウマ血清、ブタ血清、ラット血清、ネズミ血清、ウサギ血清、サル血清、類人猿血清、またはヒト血清であり、これらのいずれも胎仔性血清であり得る)およびそれらの抽出物(より好ましくは血清アルブミン、および最も好ましくはウシ血清アルブミンまたはヒト血清アルブミン)を包含するが、これらに限定されない。培地補充物はまた規定された代替物、例えば、LipoMAX(R)、OptiMAb(R)、Knock−OutTMSR(それぞれ、Life Technologies, Inc., Rockville, Marylandから入手可能)などを包含し得、これらは上記の未規定の培地補充物の代用として使用され得る。このような補充物はまた規定成分を含み得、これは、ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質、脂質、接着因子、タンパク質などを包含するがこれらに限定されない。
【0041】
栄養培地はまた、種々のサブグループに分割され得(米国特許第5,474,931号を参照のこと)、これらは本発明の方法により調製され得、そして本発明の方法に従い使用され得る。このようなサブグループを合わせて、本発明の栄養培地が製造され得る。
【0042】
本発明の方法によって、任意の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤が製造され得、そして生物学的活性および生化学的活性を顕著に損失することなしに長期間保存され得る。「生物学的活性および生化学的活性を顕著に損失することなしに」とは、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の生物学的活性または生化学的活性が、新たに作製した同じ処方の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤と比べた場合、約30%未満、好ましくは約25%未満、より好ましくは約20%未満、さらになお好ましくは約15%未満、および最も好ましくは約10%未満減少することを意味する。「長期間」は、ボールミルのような伝統的な方法で調製された場合に栄養培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤が貯蔵される期間より長い期間を意味する。本明細書で使用される限り、従って「長期間」は所定の貯蔵期条件下での約1〜36ヶ月、約2〜30ヶ月、約3〜24ヶ月、約6〜24ヶ月、約9〜18ヶ月、または約4〜12ヶ月を意味し、所定の貯蔵条件下では、約−70℃から約25℃、−20℃〜約25℃、約0℃〜約25℃、約4℃〜約25℃、約10℃から約25℃、または約20℃から約25℃での貯蔵を包含し得る。栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の生物学的活性または生化学的活性を決定するアッセイは当業者に周知であり、そして当該分野において精通されている。
【0043】
(培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の処方物)
任意の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、本発明の方法により調製され得る。本発明に従って調製され得る特に好ましい栄養培地、培地補充物および培地サブグループには、動物細胞、植物細胞、細菌細胞または酵母細胞の増殖を支持する細胞培養培地、培地補充物および培地サブグループが挙げられる。本発明に従って調製され得る特に好ましい緩衝剤には、動物細胞、植物細胞、細菌細胞または酵母細胞に対して等張性である、平衡化塩類溶液が挙げられる。
【0044】
本発明に従って調製され得る動物細胞培養培地の例には、DMEM、RPMI−1640、MCDB 131、MCDB 153、MDEM、IMDM、MEM、M199、McCoy’s 5A、ウィリアムス(Williams)培地E、ライボビッツ(Leibovitz’s)L−15培地、グレース昆虫培地、IPL−41昆虫培地、TC−100昆虫培地、シュナイダー(Schneider)Drosophila培地、Wolf & Quimby両生類培養培地、細胞特異的無血清培地(SMF)(例えば、ケラチノサイト、内皮細胞、肝細胞、メラノサイトなどの培養を支持するために設計されたような培地)、F10栄養混合物およびF12栄養混合物が挙げられるが、それらに限定されない。本発明により調製するのに適切な、その他の培地、培地補充物および培地サブグループは、市販されている(例えば、Life Technologies, Inc.; Rockville, MarylandおよびSigma; St. Louis, Missouriより)。これらの培地、培地補充物および培地サブグループならびに多くの他の一般的に用いられている動物細胞培養培地、培地補充物および培地サブグループについての処方物は、当該分野で周知であり、例えば、GIBCO/BRL Catalogue and Reference Guide(Life Technologies, Inc.; Rockville, Maryland)ならびにSigma Animal Cell Catalogue(Sigma; St. Louis, Missouri)に見出され得る。
【0045】
本発明に従って調製され得る植物細胞培養培地の例には、アンダーソン植物培養培地、CLC基本培地、ガンボーグ(Gamborg)培地、ジラード(Guillard)海洋植物培養培地、プロパゾリ(Provasoli)海洋培地、カオ(Kao)およびミハイルク(Michayluk)培地、ムラシゲおよびスクーグ培地、マクカーン(McCown)木本培地、ナドソン(Knudson)ラン(orchid)培地、リンダマン(Lindemann)ラン培地、およびベイシン(Vacin)およびウェント(Went)培地が挙げられるが、これらに限定されない。市販されるこれらの培地ならびに多くの他の一般的に用いられる植物細胞培養培地のための処方物は、当該分野で周知であり、例えば、Sigma Plant Cell Culture Catalogue(Sigma; St. Louis, Missouri)に見出され得る。
【0046】
本発明に従って調製され得る細菌細胞培養培地の例には、トリプティケース(Trypticase)ダイズ培地、ブレインハートインフュージョン培地、酵母抽出物培地、ペプトン酵母抽出物培地、ビーフインフュージョン培地、チオグリコレート培地、インドール硝酸培地、MR−VP培地、シモンズクエン酸培地、CTA培地、胆汁エスクリン培地、ボルデー−ジャングー培地、褐色酵母抽出物(CYE)培地、マンニトール−塩類培地、マッコンキー培地、エオシン−メチレンブルー(EMB)培地、セア−マーチン培地、Salmonella−Shigella培地、およびウレアーゼ培地を含むが、これらに限定されない。市販されるこれらの培地ならびに通常用いられる多くのその他の細菌細胞培養培地のための処方物は、当該分野で周知であり、例えば、DIFCOマニュアル(DIFCO; Norwood, Massachusetts)およびManual of Clinical Microbiology(American Society for Microbiology, Washington, DC)に見出され得る。
【0047】
本発明に従って調製され得る真菌類細胞培養培地、特に酵母細胞培養培地の例には、サブロー(Sabouraud)培地および酵母形態培地(YMA)が挙げられ得るがそれらに限定されない。市販されるこれらの培地ならびに多くのその他の通常用いられる酵母細胞培養培地のための処方物は、当該分野で周知であり、例えば、DIFCO Manual(DIFCO; Norwood, Massachusetts)およびManual of Clinical Microbiology(American Society for Microbiology, Washington, DC)に見出され得る。
【0048】
当業者に理解されるように、本発明の上記の培地のいずれも、指示因子または選択因子(例えば、染料、抗生物質、アミノ酸、酵素、基質など)、フィルター(例えば、木炭)、塩類、多糖類、イオン、界面活性剤、安定化剤などのような、1つ以上のさらなる成分を含み得る。
【0049】
本発明の特定の好ましい実施態様において、上記の培養培地は、1つ以上の緩衝剤塩類、好ましくは炭酸水素ナトリウムを、培養培地に最適な緩衝化能力を提供するに十分な濃度で含み得る。本発明の1つの局面によれば、炭酸水素ナトリウムのような緩衝剤塩類は、培地の凝集の前、その間、またはその後に粉末化された培地に粉末化形態で添加され得る。本発明のこの局面の1例において、炭酸水素ナトリウムは、適切な溶媒(例えば、水、血清または酸(1M〜5Mの濃度で、好ましくは1Mの濃度でのHCl)もしくは塩基(例えば、1M〜5Mの濃度で、好ましくは1Mの濃度でのNaOH)のようなpH調整剤)と共に、凝集培地の再構成の際に、培養培地が種々の細胞型の培養に最適なpHまたは実質的に最適なpHにあるように、凝集の前、その間、またはその後に培養培地に添加され得る。例えば、本発明の方法によって調製される細菌細胞培養培地は、再構成の際に、好ましくは約4〜10のpH、より好ましくは、約5〜9のpHまたは約6〜8.5のpHを有する;本発明の方法によって調製される真菌類(例えば、酵母)細胞培養培地は、再構成の際、好ましくは、約3〜8のpH、より好ましくは、約4〜8のpHまたは約4〜7.5のpHを有する;本発明の方法によって調製される動物細胞培養培地は、再構成の際に、好ましくは、約6〜8のpHまたは7〜8のpH、より好ましくは、約7〜7.5のpHまたは約7.2〜7.4のpHを有する;および本発明の方法によって調製される植物細胞培養培地は、再構成の際に、好ましくは、約4〜8のpH、好ましくは4.5〜7のpH、5〜6のpH、または5.5〜6のpHを有する。当然のように、特定の細胞型に使用されるべき所定の培養培地についての最適pHはまた、当該分野で公知の方法を用いて、当業者により経験的に決定され得る。
【0050】
別の例には、1つ以上の緩衝剤塩類(例えば、炭酸水素ナトリウム)は、流動床装置を用いて培地中に緩衝剤を凝集することによって、または乾燥されたかもしくは凝集された粉末化培地上で(下記のような噴霧乾燥装置を用いて)緩衝剤を噴霧乾燥することによって粉末化栄養培地に直接添加され得る。関連した局面では、酸(例えば、HCl)または塩基(例えば、NaOH)のようなpH調整剤は、流動床装置で粉末化栄養培地にpH調整剤を凝集することによって、粉末化されたかもしくは凝集された栄養培地上にpH調整剤を噴霧乾燥することによって、またはその組合せによって、粉末化栄養培地に添加され得、これは、1つ以上の緩衝剤塩類(例えば、炭酸水素ナトリウム)を含み得る;このアプローチは、粉末化培地の再構成後に続いてpH調整剤を添加することを排除する。従って、本発明は、溶媒(例えば、水または血清)で再構成する際に、液体培地のpHを調整する必要なしに細胞培養または増殖を支持するための最適なpHを有する、インビトロでの細胞の培養または増殖に有用な粉末化栄養培養培地を提供する。それゆえ、本明細書中で「自動的にpH調整する培地」として定義されるこの型の培地は、再構成後に培地に緩衝剤を添加する工程、および緩衝剤の溶解後に培地のpHを調整する工程という時間の浪費および誤りを生じがちな工程を排除する。例えば、これらの方法に従って調製される哺乳動物細胞培養培地は、再構成の際に、約7.1〜約7.5のpH、より好ましくは、約7.1〜約7.4のpH、そして最も好ましくは、約7.2〜約7.4のpHまたは約7.2〜約7.3のpHを有する。このような自動的にpH調整する培養培地の1例の調製は、以下の実施例3および6でより詳細に示される。
【0051】
本発明の方法によって粉末として調製され得る培地補充物の例には、以下が挙げられるがそれらに限定されない:動物血清(例えば、ウシ血清(例えば、ウシ胎仔血清、ウシ新生仔血清、および仔ウシ血清)、ヒト血清、ウマ血清、ブタ血清、尾長サル(monkey)血清、尾なしサル(ape)血清、ラット血清、マウス血清、ウサギ血清、ヒツジ血清など)、LipoMAX(R)、OptiMAb(R)、Knock−OutTMSR(各々、Life Technologies,Inc.,Rockville,Marylandより入手可能)のような規定された置換物、ホルモン(コルチコステロイド、エストロゲン、アンドロゲン(例えば、テストステロン)のようなステロイドホルモンを含む)およびインスリンのようなペプチドホルモン、サイトカイン(成長因子(例えば、EGF、aFGF、bFGF、HGF、IGF−1、IGF−2、NGFなど)を含む)、インターロイキン、コロニー刺激因子、インターフェロンなど)、神経伝達物質、脂質(リン脂質、スフィンゴ脂質、脂肪酸、コレステロールなどを含む)、付着因子(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどのような細胞外マトリクス成分を含む)、および動物組織、器官または腺抽出物(例えば、ウシ下垂体抽出物、ウシ脳抽出物、ニワトリ胚抽出物、ウシ胚抽出物、トリ肉抽出物(アキレス腱およびその抽出物)など)。本発明の方法によって産生され得るその他の培地補充物には、種々のタンパク質(例えば、血清アルブミン(特にウシまたはヒト血清アルブミン);免疫グロブリンおよびそのフラグメントまたは複合体;アプロチニン;ヘモグロビン;ヘミンまたはヘマチン(haematin);酵素(例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、パンクレアチニンまたはディスパーゼ);リポタンパク質;フェチュイン;フェリチンなど)(これらは、天然または組換えであり得る)、ビタミン;アミノ酸およびその改変体(L−グルタミンおよびシスチンが挙げられるがそれらに限定されない)、酵素補因子;多糖類;塩類またはイオン(モリブデン、バナジウム、コバルト、マンガン、セレンなどの塩類またはイオンのような微量元素を含む);ならびに当業者が精通している、インビトロでの細胞を培養するに有用なその他の補充物および組成物が挙げられる。これらの血清および他の培地補充物は、市販されている(例えば、Life Technologies Inc., Rockville, MarylandおよびSigma Cell Culture, St.Louis, Missouriから);あるいは、上記の血清および他の培地補充物は、それらの天然の供給源から単離され得るかまたは当業者に日常的な公知の方法によって組換え的に産生され得る(Freshney, R.I. Culture of Animal Cells, New York: Alan R. Liss, Inc., 74−78頁(1983)を参照のこと、およびそこに引用される参照文献;Harlow, E.およびLane, D., Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York:Cold Spring Harbor Laboratory, 116−120頁(1988)もまた参照のこと)。
【0052】
本発明に従って調製され得る緩衝剤の例には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)処方物、トリス緩衝化生理食塩水(TBS)処方物、HEPES緩衝化生理食塩水(HBS)処方物、ハンクス平衡化塩類溶液(HBSS)、ダルベッコPBS(DPBS)、アール平衡化塩類溶液、パック生理食塩水溶液、ムラシゲおよびスクーグ植物基礎塩類(basal solt)溶液、ケラー(Keller’s)海洋植物基礎塩類溶液、プロパゾリ(Provasoli)海洋植物基礎塩類溶液、ならびにカオ(Kao)およびミハイルク(Michayluk)基礎塩類溶液が挙げられるが、それらに限定されない。市販されるこれらの緩衝剤ならびに多くの他の一般的に用いられる緩衝剤のための処方物は、当該分野において周知であり、そして例えば、GIBCO/BRL Catalogue and Reference Guide(Life Technologies, Inc., Roclville, Maryland)、DIFCO Manual(DIFCO; Norwood, Massachusetts)、ならびにSigma Cell Culture Catalogue for animal and plant cell culture(Sigma; St. Louis, Missouri)に見出され得る。
【0053】
(粉末化培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の調製)
本発明の方法は、上記の粉末化栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の調製を提供する。これらの粉末化培地、補充物、サブグループおよび緩衝剤は、好ましくは、流動床技術(すなわち、「凝集」)を用いて、および/または噴霧乾燥を介して調製される。
【0054】
本発明の1つの局面において、粉末化栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の溶液を凝集するために流動床技術を用いて調製する。それによって乾燥粉末化形態を生じる。流動床技術は、開始物質由来の特徴(例えば、特に溶解性)を改変した凝集粉末を産生するプロセスである。一般的にこの技術の適用において、粉末は、同時に制御されかつ規定された量の液体が、湿らせた状態の粉末を生じさせるために粉末の流れに注入される間、空気が上方に動いているカラムに懸濁される;次いで、温和な加熱により、材料を乾燥させ、凝集した粉末を産生する。
【0055】
流動床技術により粒子物質を生成および/または処理する装置は、(例えば、Niro,Inc./Aeromatic−Fielder;Columbia,Marylandから)市販されており、そして例えば、米国特許第3,771,237号;同第4,885,848号;同第5,133,137号;同第5,357,688号;および同第5,392,531号;ならびにWO95/13867に記載されている。前記の特許および出願の全開示は、その全体が本明細書中に参考として援用される。このような装置は、乳汁の乳漿(米国特許第5,006,204号)、酸性化肉エマルジョン(米国特許第4,511,592号)、プロテアーゼ(米国特許第4,689,297)号および他のタンパク質(DK 167090 B1)および炭酸水素ナトリウム(米国特許第5,325,606号)を含む種々の物質の塊状化粉末を調製するために使用されている。
【0056】
本発明のこの局面によれば、流動床技術を使用して、大量の凝集した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を調製し得る。本発明のこの局面の実施において、乾燥粉末化した栄養培地、培地補充物または緩衝剤を流動床装置に入れ、そしてこの中で凝集させる。粉末化栄養培地(特に、粉末化細胞培養培地)、粉末化培地補充物(特に、粉末化動物血清)および粉末化緩衝剤(特に、粉末化緩衝化生理食塩水)は、商業的供給源(例えば、Life Technologies, Inc.; Rockville, Maryland)から作製前に入手され得る。あるいは、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を、上記の処方に従って個々の成分または一連の成分を混合することにより作製し得る。このような処方物は、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤処方物中には、不安定であるために通常は存在しない成分(例えば、血清、L−グルタミン、シスチン、インスリン、トランスフェリン、脂質(特に、リン脂質、スフィンゴ脂質、脂肪酸およびコレステロール)、サイトカイン(特に、成長因子、インターロイキン、コロニー刺激因子およびインターフェロン)、神経伝達物質および緩衝剤(特に、炭酸水素ナトリウム)を含み得る。L−グルタミンを処方物に添加する場合、L−グルタミンは、カルシウムまたはマグネシウムのような二価の陽イオンとの複合体の形態であり得る(米国特許第5,474,931号を参照のこと)。別の例では、二種以上の粉末化成分を混合し、次いで凝集させて複合培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を生成し得る。例えば、粉末化栄養培地を、約0.1%、0.2%、0.5%、1%、2%、2.5%、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、50%またはそれより高い(粉末化培地の百分率としてのw/w)の血清濃度で、FBSのような粉末化血清(例えば、下記の通りに噴霧乾燥により製造される)と混合し得る。次いで、得られる粉末化培地血清混合物を凝集させて、凝集培地血清複合体を生成し得る。この凝集培地血清複合体は、再構成溶媒に容易に溶解し、従ってさらなる補充を行わなくてもすぐに使用され得る。
【0057】
粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤(またはそれらの混合物)をいったん流動床装置に入れると、これらをガス、好ましくは、大気または窒素のような不活性ガスが上方に移動するカラム内で懸濁化し、そして一種以上の粒子フィルターに通過させる。ほとんどの乾燥粉末、凝集していない栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、比較的小さな粒子サイズのものであるため、本発明で使用されるフィルターは、空気は通すが、粉末は保持するメッシュのスクリーン(例えば、約1〜100メッシュ、好ましくは約2〜50メッシュ、より好ましくは約2.5〜35メッシュ、さらにより好ましくは約3〜20メッシュまたは約3.5〜15メッシュ、そして最も好ましくは約4〜6メッシュのフィルター)にすべきである。
【0058】
流動床チャンバー内に入れた後、次いで、乾燥粉末栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤(またはそれらの混合物)を、好ましくは、流動床装置上で噴霧ノズルを使用し、規定され、そして制御された量の溶媒を粉末に注入することにより凝集に供して、湿らせた粉末を生成する。本発明で使用される好ましい溶媒は、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の処方物と適合性である、任意の溶媒である。「適合性である」とは、溶媒が、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の物理的特性または性能特性において不可逆的で有害な変化(例えば、栄養培地の栄養成分の分解もしくは凝集または緩衝剤のイオン特性の変化)を誘導しないことを意味する。本発明での使用のために特に好ましい溶媒は、水(最も詳細には、蒸留および/または脱イオン水)、血清(詳細には、ウシまたはヒトの血清、そして最も詳細には、ウシ胎仔血清または仔ウシ血清)、有機溶媒(詳細には、ジメチルスルホキシド、アセトン、エタノールなど)であり、これらはいずれも一種以上のさらなる成分(例えば、塩、多糖類、イオン、界面活性剤、安定化剤など)を含有し得る。
【0059】
本発明のある局面では、最終製品において必要な成分の濃度のため、ボールミルのような他の方法によっては製品に最適に取り込ませることができない一種以上の成分を溶媒中に含有することが望ましいか、または有益であり得る。このような一局面において、成分を、溶媒に所望の濃度で溶解、懸濁、コロイド化、さもなければ導入した後、本発明の粉末化培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の凝集において溶媒を使用し得る。本発明のこの局面に従って、溶媒に有利に取り込ませ得る成分としては、一種以上の上記の血清、ホルモン、サイトカイン、神経伝達物質、脂質、付着因子、タンパク質、アミノ酸、ビタミン、酵素補助因子、多糖類、塩、イオン、緩衝剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
溶媒は、凝集させる粉末化培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の質量に依存した容量で乾燥粉末に導入されるべきである。500gの栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤当りの好ましい溶媒容量は、約5〜100ml、より好ましくは約10〜50ml、さらにより好ましくは約25〜50ml、そして最も好ましくは約35mlである。500gの栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤当りの好ましい溶媒導入速度は、約1〜10ml/分、好ましくは約2〜8ml/分、より好ましくは約4〜8ml/分、そして最も好ましくは約6ml/分の速度である。ある状況では、約1分間溶媒を添加し、次いで約1分間、溶媒を添加しない(装置チャンバー内で粉末を乾燥させる)のを繰り返して、凝集の間に粉末が塊になるのを防ぐことが所望され得る。
【0061】
最初の凝集していない粉末より大きな粒子サイズおよび凝集粉末中に微粉な塵粒子がないことから証明されるように、粉末の凝集がいったん完了すると、粉末は、装置内で徹底的に乾燥される。凝集粉末の乾燥に好ましい装置温度は、約50〜80℃、より好ましくは約55〜75℃、そして最も好ましくは約60〜65℃である。粉末は、好ましくは、装置内で、粉末500g当り、約3〜10分間、そして最も好ましくは約5〜7分間乾燥される。
【0062】
本発明の別の局面において、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、噴霧乾燥により調製され得る。本発明のこの局面では、液体形態の栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、噴霧乾燥装置に入れられる。次いで、これらの液体は、制御した温度および湿度下のような、粉末の生成に適した条件下で、溶液を、粉末が形成されるまで装置内のチャンバーに噴霧することにより、対応する粉末に変換される。ある状況では、二種以上の上記の培地、培地補充物、培地サブグループおよび/または緩衝剤の複合混合物を噴霧乾燥するのが望ましいか、または有益であり得る。例えば、所望濃度の動物血清を含む液体栄養培地、または所望の濃度の栄養培地成分を含む液体動物血清を混合し、次いで本発明の方法に従って、噴霧乾燥粉末として調製し得る。
【0063】
代表的な噴霧乾燥のアプローチにおいて、液体の栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を装置内に吸引し、回転型またはノズル型噴霧器でスプレーに霧状化する。次いで、得られた霧状化液体スプレーをガス(例えば、窒素または、より好ましくは空気)と混合し、そして粉末化生成物の生成を促進するのに十分な条件下で乾燥チャンバーに噴霧する。本発明の好ましい局面において、これらの条件は、生成物の最終乾燥が促進されるような、チャンバー内の温度および湿度の電子制御を含み得る。これらの条件下で、液体中の溶媒は、制御された様式で蒸発し、これにより、本発明の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の自由流動粒子(すなわち、粉末)を形成する。次いで、粉末を乾燥チャンバーから排出し、一種以上のフィルター(例えば、流動床調製について上記で記載したメッシュスクリーン)を通し、そしてさらなる処理(例えば、包装、滅菌など)のために収集する。いくつかの適用では、特に、栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の熱感受性処方物から粉末を生成する場合、噴霧乾燥装置を、乾燥チャンバー内に組み込まれた流動床装置と組み合わせ、上記の溶媒のような凝集溶媒を噴霧乾燥粉末に導入するのを可能にして、凝集噴霧乾燥粉末化栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を生成し得る。
【0064】
(組込まれた流動床技術を有するかまたは有さない)噴霧乾燥により液体物質から粒子物質を生成するための装置は、市販されており(例えば、Niro,Inc./Aeromatic−Fielder;Columbia,Marylandから)、そして例えば、Niro,Inc./Aeromatic−Fielderの「噴霧乾燥」「噴霧乾燥による粉末化医薬品」および「乾燥における新しい選択」技術的パンフレット(これらの開示は、その全体が本明細書において参考として援用される)に記載されている。この製造業者に従ってこのような装置を使用して、酪農製品、鎮痛剤、抗生物質、ワクチン、ビタミン、酵母、植物性タンパク質、卵、化学物質、食品調味料などを含む種々の物質の粉末を調製してきた。本発明において、噴霧乾燥は、血清、特に上記の血清、最も詳細にはヒトおよびウシの血清(例えば、ウシ胎仔血清および仔ウシ血清)のような粉末化培地補充物の調製について特に有用であることが見出されている。
【0065】
本発明のこの局面の実施において、液体の栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、緩衝剤またはpH調整剤は、噴霧器により約25〜100g/分の噴霧速度、好ましくは約30〜90g/分、35〜85g/分、40〜80g/分、45〜75g/分、50〜75g/分、55〜70g/分または60〜65g/分、そしてより好ましくは約65g/分の噴霧速度でチャンバーに噴霧されるべきである。噴霧器における入口空気温度は、約50〜100℃、より好ましくは約60〜80℃、そして最も好ましくは約70℃の出口温度にて、好ましくは約100〜300℃、より好ましくは約150〜250℃、そして最も好ましくは約200℃に設定される。噴霧器における気流は、約1〜5バール、より好ましくは約2〜3バール、そして最も好ましくは約2.0バールのノズル圧にて、好ましくは約50〜100kg/時、より好ましくは約75〜90kg/時、そして最も好ましくは約80.0kg/時に設定される。これらの条件および設定は、噴霧乾燥による様々な栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤粉末の生成、特に、上記の粉末化血清の生成に好ましいことが本発明において見出された。乾燥後、噴霧乾燥して粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を、一種以上のフィルター、好ましくは流動床技術について上記に記載したようなフィルターを通して乾燥チャンバー内で収集し得る。
【0066】
この調製後、上記の流動床法または噴霧乾燥法により調製される本発明の粉末は、出発粉末、または対応する液体を凍結乾燥することにより調製される粉末化した培地、補充物、サブグループおよび緩衝剤とは異なる物理的特徴を有する。例えば、未処理粉末または凍結乾燥粉末は、使用される場合にかなりの粉塵をしばしば生成し、そして種々の溶媒にはほとんど溶解しないか、または徐々にしか溶解しないのに対して、凝集粉末または噴霧乾燥粉末は、実質的に粉塵がなく、そして/または迅速に溶解する。代表的には、本発明の粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、散布の減少、およびボールミルのような標準的技術により調製される粉末化対応物より迅速な溶解の両方を示す。粉塵は実質的にないが、溶解の増強を示さないかもしれないいくつかの粉末では、粉末の迅速な機械的溶媒和による(例えば、機械的インペラーを使用することによる)か、または粉末上に溶媒ミストをまず供給することにより(例えば、噴霧溶媒和による)、粉末は迅速に溶解され得る。
【0067】
本発明の別の局面において、上記の噴霧乾燥および凝集アプローチが、凝集噴霧乾燥した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤粉末を生成するために組み合わされ得る。この局面では、次いで、噴霧乾燥により調製された粉末の培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤は、得られる培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤の性能および物理学的特性をさらに改善するために、噴霧乾燥後に、溶媒(例えば上記の溶媒)で凝集され得る。例えば、上記の液体動物血清を噴霧乾燥することにより動物血清粉末を調製し、次いでこの噴霧乾燥血清粉末を乾燥粉末栄養培地(噴霧乾燥またはボールミルなどの標準的技術により調製されたもの)に混合し得る。次に、この混合粉末を上記のように凝集させ得る。あるいは、噴霧乾燥した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤粉末は、粉末の溶解特性を改善するために、上記のように凝集され得る。このアプローチは、液体動物血清のような低(約1〜10%)固形含有量の液体を噴霧乾燥する場合、特に有益であり得る。当業者が理解するように、これらのアプローチは、粉末化した培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤に所望濃度で添加するためのストックとして使用される大量回分の一種以上の成分(例えば、血清またはその他の培地補充物)の調製を容易にすると同時に、上記の凝集の利益もまた獲得する。さらに、このアプローチは、特定の培地補充物(特に、動物血清)に関して問題となり得るロット間変動を減少させ得る。
【0068】
次に、上記のように調製した凝集または噴霧乾燥した粉末化栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、下記のように、滅菌前または滅菌後に、例えば、バイアル、管、瓶、バッグ、ポーチ、箱、カートン、ドラムなどのような容器に包装され得る。本発明のこのような一局面では、粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、「ブリックパック」として当該分野で公知の型のようなコンパクトな真空パック型に包装され得る。この場合、粉末は、脱気しながら密封される可撓性の容器(例えばバックまたはポーチ)に包装される。このような包装は、有利には、溶媒(例えば、水、血清、培地、あるいはその他の水性または有機の溶媒または溶液)を直接包装容器に導入し、粉末の急速溶解を助ける一つ以上のアクセスポート(例えば、バルブ、ルアーロックポートなど)を含み得る。関連した局面では、包装は、二つ以上の隣接コンパートメントを含み得、これらの一つ以上が、一つ以上の本発明の乾燥粉末培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を含み得、そして他方の一つ以上は、滅菌性であり得る一つ以上の水性または有機溶媒を含有し得る。この局面では、次に、乾燥粉末は、単にコンパートメント間のバリヤを、理想的には滅菌性を損なうことなく単に除くかまたは壊し、粉末および溶媒を、粉末が溶解し、所望濃度の滅菌性の栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を生成するように混合させることにより溶解し得る。
【0069】
本発明の包装した培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、好ましくは、使用時まで、上記の温度で長時間、典型的には約30℃未満の温度、より好ましくは約20〜25℃未満の温度で約1〜24ヶ月間貯蔵される。従来の粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤とは異なり、低温(例えば、0〜4℃)での貯蔵は、この方法により調製された培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の性能特性の維持には必要でない。もちろん、本発明のこれらの局面に他の貯蔵温度が必要とされ得る。この場合、包装は、同様に、一つ以上の溶媒を含む個別のコンパートメントを含む。これらの場合、至適貯蔵条件は、当業者に公知の溶媒の貯蔵必要条件で決まる。
【0070】
(滅菌および包装)
本発明はまた、本発明の栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を滅菌する方法、ならびにボールミルまたは凍結乾燥のような標準的な方法により調製された粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を滅菌する方法を提供する。栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、通常、大容量溶液で調製され、非耐熱性(heat labile)成分を含むことがよくあるため、照射または加熱による滅菌を受けにくい。従って、栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は通常ろ過のような汚染物除去法により滅菌され、このような培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の製造に必要な経費および時間は有意に増加する。
【0071】
しかし、本発明の方法(例えば、液体の培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の噴霧乾燥によるか、あるいは粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の凝集による)に従って、またはボールミル(粉末成分の)または凍結乾燥(液体形態の培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤の)のような標準的方法により調製された粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、低経費のより効率的な方法により滅菌され得る。例えば、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤(培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤の液体型を噴霧乾燥または凍結乾燥させることによるか、または培地、補充物、サブグループまたは緩衝剤の粉末型を凝集させることにより上記のように調製)は、これらの粉末の滅菌に好都合な条件下で照射され得る。好ましくは、この照射は、バルク(すなわち、栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の包装後)で行われ、そして最も好ましくは、この照射
は、粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤に常在し得る細菌、真菌、胞子またはウイルスが不活化(すなわち、複製を防止)される条件下における、γ線源への本発明のバルク包装した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の暴露により行われる。あるいは、照射は、包装前の、粉末化した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤をγ線源または紫外光源の暴露によって行われ得る。本発明の培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、熱処理(栄養培地のサブグループ、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤が熱安定性である場合)、例えば、急速低温殺菌またはオートクレーブ処理により択一的に滅菌され得る。当業者により理解されるように、滅菌に必要な照射または加熱の線量および暴露時間は、滅菌される物質のバルクに依存する。
【0072】
本発明の特に好ましい局面において、バルクの粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、γ照射源に約10〜100キログレイ(kGy)の総供与量、好ましくは約15〜75kGy、15〜50kGy、15〜40kGyまたは20〜40kGyの総供与量、より好ましくは約20〜30kGyの総供与量、および最も好ましくは約25kGyの総供与量で、約1時間〜約7日間、より好ましくは約1時間〜約5日間、1時間〜約3日間、約1〜24時間または約1〜5時間、および最も好ましくは約1〜3時間暴露される(「ノーマルな線量率」)。あるいは、本発明のバルク粉末は、総供与量約25〜100kGyで約1〜5日間の「スローな線量率」で滅菌され得る。照射中に、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、好ましくは、約−70℃〜室温付近(約20〜25℃)、最も好ましくは約−70℃の温度で貯蔵される。もちろん、当業者は、照射線量および暴露時間が、照射される物質のバルクおよび/または量に応じて調整され得ることを理解する。照射または加熱処理によりバルク粉末化物質の滅菌に必要とされる典型的な至適照射線量、暴露時間および貯蔵温度は、当該分野において周知である。
【0073】
滅菌後、未包装の栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、滅菌条件下で、例えば、滅菌性の管、バイアル、瓶、バッグ、ポーチ、箱、カートン、ドラムなどのような容器に培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤を包装するか、あるいは上記の真空包装または一体化した粉末/溶媒包装で包装され得る。滅菌包装した培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、次いで、上記のように長期間貯蔵され得る。
【0074】
(栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の使用)
このように、本発明は、水和溶媒中に容易に可溶性であり、かつ実質的に粉塵のない、粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤を提供する。使用時、凝集または噴霧乾燥した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、溶媒和した培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の特定の使用に必要な所望の栄養素、電解質、イオンおよびpH条件を生成するのに十分な溶媒容量で水和(または「再構成」)され得る。この再構成は、本発明において特に容易にされ得る。何故なら、この培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、速やかに溶液になり、凍結乾燥またはボールミルによる栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤とは違い、たとえあったにしても粉塵または不溶性物質をごく少量しか生成しないからである。
【0075】
本発明の粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤の再構成に使用するための好ましい溶媒には、水(最も特定すれば、蒸留および/または脱イオン水)、血清(特に、ウシまたはヒト血清、最も特定すれば、ウシ胎仔血清または子ウシ血清)、有機溶媒(特に、ジメチルスルホキシド、アセトン、エタノールなど)またはこれらの任意の組み合わせ(これらはいずれも一種以上の付加的成分(例えば、塩、多糖類、イオン、洗浄剤、安定化剤など)を含有し得る)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、粉末化した培地補充物(例えば、動物血清)および緩衝剤は、貯蔵溶液の調製または貯蔵のために、1×最終濃度でまたは必要に応じてより高い濃度(例えば、2×、2.5×、5×、10×、20×、25×、50×、100×、500×、1000×など)に好ましくは再構成される。あるいは、粉末化した培養培地は、培地補充物が水中にv/vで、例えば、0.5%、1%、2%、2.5%、5%、7.5%、10%、15%、20%、25%、50%またはこれ以上の濃度で存在するこれらの溶液のような、培地補充物(例えば、FBSのような血清)の水溶液中に再構成され得る。
【0076】
粉末化した栄養培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の再構成は、好ましくは、滅菌条件下で行われ、再構成された培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤の滅菌性を維持する。しかしながら、再構築された培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤は、あるいは、再水和後に、好ましくはろ過または当該分野で周知の他の滅菌法により、滅菌され得る。これらの再構成後、培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、使用時まで約10℃以下の温度、好ましくは約0〜4℃の温度で貯蔵すべきである。
【0077】
再構成された栄養培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝剤は、当業者に周知の標準的細胞培養技術に従って細胞を培養するために使用され得る。このような技術では、培養される細胞が本発明の再構成された培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤と細胞の培養に好都合な条件下(例えば、制御した温度、湿度、照明および大気条件)と接触させられる。このような方法により特に培養しやすい細胞には、細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。このような細菌細胞、酵母細胞、植物細胞および動物細胞は、公知の培養寄託機関、例えば、アメリカン タイプ カルチャー コレクション(Rockville,Maryland)、Invitrogen(La Jolla,California)および当業者が熟知している他の所から商業的に入手可能である。これらの方法による培養に好ましい動物細胞には、昆虫細胞(最も好ましくはDrosophila細胞、Spodoptera細胞およびTrichoplusa細胞)、線虫細胞(最も好ましくはC.elegans細胞)および哺乳動物細胞(CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、BHK細胞、AE−1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、ハイブリドーマ細胞を含むがこれらに限定されず、最も好ましくは、293細胞、PER−C6細胞およびHeLa細胞のようなヒト細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのいずれもが、体細胞、生殖細胞、正常細胞、疾患細胞、形質転換細胞、変異体細胞、幹細胞、前駆細胞または胚胎細胞であり得、そしてこれらのいずれもが、足場依存性または足場非依存性(すなわち、「懸濁」)細胞であり得る。
【0078】
(細胞)
別の局面では、本発明は、1つ以上の細胞を含む乾燥細胞粉末組成物を生成するための方法、およびこれらの方法により生成される乾燥細胞粉末に関する。従って、これらの方法は細胞含有組成物を生成し、ここで、この細胞は保存され、そして使用するまで長期間保存され得る。このようにして、本発明の方法は、細胞保存の伝統的な方法(例えば、冷凍)の幾つかの欠点(例えば、細胞保存装置の必要性、および細胞に毒性であり得る特定の凍結保存剤(cryopreservatives)の使用)を克服する。
【0079】
本発明のこの局面による方法は、1つ以上の工程を含み得る。例えば、このような方法の1つは、乾燥される1つ以上の細胞を入手する工程、水溶液中で1つ以上の細胞を懸濁することにより水性細胞懸濁液を生成する工程、および乾燥粉末の生成に好都合な条件下で細胞懸濁液を噴霧乾燥(spray−drying)する工程を包含し得る。これらの方法は、1つ以上の安定化化合物または保護化合物(例えば、多糖類(トレハロースを含むがこれに限定されない))と1つ以上の細胞を接触させる工程をさらに含み得る。細胞懸濁物を形成するために使用される水溶液は、好ましくは1つ以上の成分(例えば、上記に記載の1つ以上の栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、塩または緩衝剤)を含む。好ましくは、細胞懸濁物を形成するために使用される水溶液は、乾燥される細胞型について最適な、または実質的に最適な張性および重量モル浸透圧濃度に調整される。水溶液は、1つ以上のさらなる化合物(例えば、1つ以上の多糖類、イオン、界面活性剤、安定化化合物または保護化合物(トレハロースを含む)など)を必要に応じて含み得る。本発明の局面(ここで、1つ以上の細胞は、1つ以上の安定化化合物または保護化合物と接触される)において、安定化化合物または保護化合物は、水性細胞懸濁物を形成するために使用される水溶液に取り込まれ得る。あるいは、安定化化合物または保護化合物は、粉末の形成後に乾燥細胞粉末に噴霧され得るか、または凝集され得る。
【0080】
一旦乾燥細胞粉末が上記に記載の方法により形成されると、必要に応じて粉末は、乾燥粉末の凝集のため上記の方法に従って、溶媒と凝集され得る。乾燥される細胞型に適合する任意の溶媒は、乾燥細胞粉末を凝集させるために使用され得、以下を含むがこれらに限定されない:水、栄養培地溶液、栄養培地補充溶液(血清、特にウシ血清(最も詳細には、ウシ胎仔血清、および子ウシ血清)ならびにヒト血清を含む)、緩衝溶液、塩溶液、およびそれらの組合せ。
【0081】
種々の細胞が、本発明の方法に従って乾燥され得、原核生物(例えば、細菌)細胞および真核生物(例えば、真菌(特に酵母)、動物(特に、ヒトを含む哺乳動物)および植物)細胞、詳細には上記に記載のそれらの細胞、組織、器官、器官系、および生物を含む。一旦乾燥細胞が生成されると、これらは無菌的にパッケージされ得、そして好ましくは、使用するまで、およそ0〜30℃、4〜25℃、10〜25℃、または20〜25℃(すなわち、「室温」)の温度で長期間保存される(例えば、数カ月〜数年)。生存可能な細胞の培養物の調製における使用のために、乾燥細胞粉末は、水性溶媒(例えば、滅菌水、緩衝溶液、培地補充物、培養培地、またはそれらの組合せ)と1つ以上の生存可能な細胞を含む細胞懸濁物中で無菌的に再構成され得、そして標準的な当該分野で公知のプロトコルに従って培養される。あるいは、乾燥細胞粉末は、例えば動物の免疫化について使用される免疫原の調製には、細胞生存度が必須ではない細胞懸濁液中で再構成され得る。このような場合では、乾燥細胞粉末は、標準的な免疫化プロトコルに適合する任意の溶媒(例えば、1つ以上の界面活性剤、アジュバントなどを含み得る水性溶媒または有機性溶媒)と再構成され得る。
【0082】
(キット)
本発明により提供される乾燥粉末培地、培地補充物、培地サブグループ、緩衝剤および細胞は、理想的には、キットの調製物について適している。このようなキットは、1つ以上の容器(例えば、バイアル、試験管、ボトル、パッケージ、小袋、円筒形容器など)を含み得る。それぞれの容器は、1つ以上の上記に記載された本発明の栄養培地、培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝剤、もしくそれらの組合せ)を含み得る。このような栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、もしくは緩衝剤は水和され得るか、または脱水され得るが、代表的には本発明の方法により生成される脱水調製物である。このような調製物は、本発明に従って滅菌的であり得る。
【0083】
例えば、第一の容器は、本発明の栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、もしくは緩衝剤、またはそれらの任意の成分もしくはそのサブグループ(例えば、上記に記載される任意の本発明のそれらの栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤)を含み得る。さらなる栄養培地、緩衝剤、抽出物、補充物、成分またはサブグループが本発明のキットのさらなる容器に含まれ得る。このキットはまた、1つ以上のさらなる容器の中に、1つ以上の細胞(例えば上記に記載の細菌細胞、酵母細胞、植物細胞、または動物細胞)を含み得る。このような細胞は、凍結乾燥、乾燥、凍結され得、もしくはさもなくば保存され得、または本発明の方法に従って噴霧乾燥され得る。さらに、本発明のキットは、例えば、必要に応じて1つ以上の二価の陽イオンを複合体化したL−グルタミンを含む、1つ以上のさらなる容器をさらに含み得る(米国特許第5,474,931号を参照のこと)。このキットは、乾燥粉末の栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、および/または緩衝剤を再構成において使用する溶媒を含む、1つ以上のさらなる容量をさらに含み得;このような溶媒は、水性(緩衝溶液、滅菌水溶液、栄養培地溶液、栄養培地補充溶液(血清(例えば、ウシ血清(詳細にはウシ胎仔血清または仔ウシ血清))またはヒト血清を含む)またはそれらの組合せを含む)または有機物であり得る。本発明の栄養培地、緩衝剤、抽出物、補充物、化合物、またはサブグループの混合物に適合しない他の成分は、不適合性成分の混合を避けるために1つ以上のさらなる容器に含まれ得る。
【0084】
栄養培地、培地補充物、培地の培地サブグループまたは緩衝剤を作製するための所定のキットに含まれる容器の数と型は、調製される培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤の型に依存して変動し得る。代表的には、キットは、特定の培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤を作製するために必要とされる成分または補充物を含むそれぞれの容器を含む。しかし、さらなる容器は、異なる培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤が、異なる培地、培地補充物、培地サブグループまたは緩衝処方物を作製するために異なる量の種々の成分、補充物、サブグループ、緩衝剤、溶媒などを混合することにより調製され得るように、本発明のキット中に含まれ得る。
【0085】
(利点)
予想外に、本発明は、栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、緩衝剤および細胞について安価に提供する。このコスト減少はいくつかの因子に起因する。例えば、本発明の培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝処方物は、1×処方物について要求される大型撹拌タンクが必要とされないので、極めて小型の生成施設で生成され得る。さらに、本発明の培地、培地補充物、培地サブグループ、および緩衝処方物は、在庫、保存、および人件費を減少させる「カンバン方式(just in time)」生産技術を使用して必要に応じることに基づき調製され得る。調製および出荷に必要とされる時間、培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝処方物のは、6〜8週からたった1日にまで短縮され得る。本発明の自動的にpHを調節する培地もまた、有意な価格節約および時間的節約を提供し、そして従来の乾燥粉末または大量の液体培地を使用する標準的方法に従うpH調節プロセスに間に起こり得る、再構成培地への汚染を導入する傾向を減少させる。本発明はまた、極めて大量の1×培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤(例えば、100.000リットル以上の)を調製するために使用され得る栄養培地、培地補充物、培地サブグループ、または緩衝剤の成分の調製を可能にし、これらは他の通常使用される技術に従って生成される複数のバッチについての複数の品質管理試験と比較すると、たった一回の品質管理試験を必要とするにすぎない。重要なことに、本発明の培地、培地補充物、培地サブグループおよび緩衝処方物は、個々の成分がより安定であるので、バッチ培養物間でより一致している。本発明の乾燥細胞はまた、細胞が、低容量で、長期間にわたって、実験室で代表的に利用可能なものを超える特別な装置をほとんど必要とせずに保存され得るので、技術的および経済的に有利である。さらに、本発明の方法により調製される細胞は、細胞に対して毒性であり得る凍結保存剤に曝すことなく保存される。
【0086】
本明細書に記載される方法および適用が明白であり、そして本発明または任意のそれらの実施態様の範囲から逸脱することなくなされ得ることが当業者によって容易に理解される。ここで本発明の詳細に説明したので、同様のことは、以下の実施例を参照すればさらに明確に理解される。本実施例は、例示のみの目的のために本明細書に含まれ、そして本発明の制限は意図されない。
【実施例】
【0087】
(実施例1:特定の乾燥粉末培地(DPM)の凝集)
1.天蓋付き(benchtop)研究室用流動床装置(Stera−1;Niro、Inc./Aeromatic−Fielder;Columbia,Maryland)を使用して:100〜500gのDPMをチャンバー内に置く。装置の上に置き、そしてレバーを使用してこのユニットを封鎖する。
2.通気を開始し、DPMを流動させる(浮揚させる)。元のDPMが比較的細い粒子サイズであるので4〜6のセッティングを必要とする。吸引装置を作動させ、適切なDPM粒子を捕獲し、上部フィルターを通す。流動化した粉末が、網状スクリーン下部およびフィルター上部に対してチャンバー内のほぼ中央部分にあることを確認する。
3.まず、圧縮空気管を閉栓し、次いで水供給源に接続されたポンプを作動させることにより注入装置(噴霧装置)を作動させる。目標は約6ml水/分を許容することである(RPMに依存した任意の所定のポンプについての流速および管の直径は既知でなければならない)。DPMの凝集を防止するために、代わりに約1分間水を加え、次いで約1分間止め、チャンバー内の乾燥が起こることを可能にさせる。
4.作動中、フィルターがDPMで覆われて逆吹出が粉末を排除しない場合、全てのフィルターがきれいに吹かれるまで、ファンのスピードをセッティング2〜3に落とす。次いで、ファンのスピードを以前のレベルまで上昇させる。
5.凝集は、0〜35mlの水をそれぞれ500gのDPMに加えた時に完了する。この容量はDPM調製物に依存して変化する。相対的に大きな凝集顆粒の下向きの流動は、作動終了に近づくとチャンバー(底部)で見られる。可視的に大きな粒子および微細な粉塵がないことは、この工程が完全であることを示す。
6.凝集DPMを5〜7分間徹底的に乾燥させる。
7.作動終了時、フィルターを4回吹き払う。
8.装置を停止させ、水管を取り外しそして凝集DPMを密閉容器に回収する。
【0088】
これらのアプローチは、プロセス規模または生産規模の流動床装置の使用で適合されるべきである。例えば、MP−1(Niro,Inc./Aeromatic−Fielder;Columbia,Maryland)装置を使用する場合、以下のプロトコルが満足のいく結果を得られている:
1.ユニットを密封する(ガスケットを膨張させる)
2.予備加熱のためにファンを作動する。
3.注入口の空気の温度が設定温度と同じになったらファンを停止する。
4.ガスケットを収縮させ、試料を装填し、ガスケットを膨張させる。
工程5〜8全てが、1分以内で達成されなければならない。
5.バッチを開始する。
6.ファンを作動させ、そしてフィルター洗浄を開始する。
7.ノズルを、真露化空気圧割合の排出量にセットする(吸引についてノズルを確認する)
8.液体供給管を接続する。
9.スクリーン上およびポンプにおいてポンプを作動させる。
10.バッチ時間をリセットする。
11.設定速度(26g/min)で、液体を全て噴霧する。2kgの粉末につき約250mlの水を使用する。
12.全ての液体を加えたらポンプにおいて、かつスクリーン上でポンプを停止させる。
13.通気を乾燥値(例えば、100から60まで)に減少させる。
14.生成物が所望の温度(約40℃)に達したら、「初期セットアップ」スクリーンへ行き、そして「バッチ時間」で示されるよりも2〜3分多い値で「バッチ期間」をセットする。
15.バッチを停止させる。
16.ガスケットを収縮させる。
【0089】
代表的な装置の設定(実験机スケール、プロセススケールおよび生産スケールの装置):
乾燥温度:60〜65℃
出口空気温度:約33℃
吹出圧:5バール
噴霧圧:1.5〜2.0バール
逆流の小休止:噴霧後1回、噴霧間に2回
ファンの能力:作動開始では5、凝集が明らかになった後に6
Magnahelics:フィルター耐性は150〜250、貫通型コントロールプレートの耐性は約50、空気容量:50未満。
【0090】
(実施例2.DPMの内蔵部分としての炭酸水素ナトリウムの添加)
上記に記載のように、炭酸水素ナトリウムは、ボールミルまたは凍結乾燥による製造ではDPMに代表的には添加されない。これは粉末培地の保管において直面される潜在的なガス発生不足および緩衝能力の複雑化に起因する。従って、この標準的な産生プロセスは、培地の再構成において炭酸水素ナトリウムの添加、およびpH調節を必要とする。しかし、本方法では、これらのさらなる工程は、生成中において粉末培地に直接的に炭酸水素ナトリウム(または任意の緩衝塩)を添加することにより除外され得る。
【0091】
DPM内に炭酸水素ナトリウム(または任意の緩衝塩)を含ませる方法が2つある:(a)注射デバイスを介して、および(b)DPMの一部分として。
(a)注射デバイス
炭酸水素ナトリウムの溶解度および代表的な哺乳動物細胞培養培地に添加されるのに一般に必要な量のために、かなり大容量の(上記で言及された35mlの水よりも有意に多い)液体が粉末中に注入されることを必要とする。これはなおも可能であり、そして実際に、例えば、血清の場合のようにDPMに添加されるのに、比較的大容量の液体を同様に必要とする別の成分を添加する場合に好ましくあり得る。この場合では、連続的に液体を添加することおよび乾燥させることなど、DPMがデバイス内で塊状にならないのを保証するために何度も注意しなければならない。6ml/分、約1分間を使用して、次いで、さらに2分間乾燥させることがほぼ適切である。
【0092】
添加する液体の量を以下のように決定する:炭酸水素ナトリウムを水中で75g/Lに調製する。例:チャンバー内に250gのDPMを凝集させる。10.0gのDPMは1Lの1×液体培地を必要とすると仮定する。従って、250gは25Lの1×液体培地を表す。1L毎の液体について、(例えば)2gの炭酸水素ナトリウムを必要とすると仮定する。これは50gの炭酸水素塩が必要であることを意味する。今度は、炭酸水素塩溶液が75g/Lであるので、0.67Lの炭酸水素塩溶液を250gのDPMに加えなければならない。
【0093】
炭酸水素ナトリウム溶液を、培地成分を分解し得る炭酸水素ナトリウム溶液のpHが約8.00であるので、サイクル間の長い乾燥時間を必要とすることを除いて、上記「代表的なDPMの凝集」についてのプロセスと同様に加える。粉末が、サイクル間の炭酸水素塩の粉末の完全な乾燥に十分な時間を許容することなく、炭酸水素塩溶液の迅速すぎる添加により決して「浸漬」しないことが重要である。より長い流動体の乾燥時間もまた、湿気が、粉末が箔の束の中にある場合の緩衝能力および「枕」処方物の損失を生じる二酸化炭素ガスの遊離を生じるので、可能な限り低い最終湿度含有量を有することが重要であることから、必要とされる。
(b)DPMの一部分として
炭酸水素ナトリウムを、他の培地成分と同様な様式で、流動床処置に先だってDPM中で粉砕し得る。しかし、粉砕化プロセスにおいて、炭酸水素塩を、最終成分として添加するべきである。全ての他の培地成分は、通常通りに粉砕されるべきであり、次いで粉砕器を止め、最後に適切なサイズの粒子に達するまでさらに粉砕しながら炭酸水素塩を添加する。全ての粉化後処理(容器への配置など)を、作動可能に可能な限り低く設定される湿度調節環境(約20〜40%)で実行する。次いで、流動床処理を粉砕後出来るだけ早く実施するべきである。(同じ日に処理しない場合、DPMは二重に包装されなければならず、そして吸湿剤入りの密閉容器の内部に入れなければならない)。
【0094】
流動床プロセス自身を、水注入(約6ml/分)後の乾燥時間を再度延長すべきこと(1分間水注入および2分間の乾燥周期)を除いて、所定の上記の実施例(500gのDPMあたり35mlを使用して)と同様に実行する。DPMの色がフェノールレッドの存在に起因して濃赤〜薄紫色になることが注目される。DPMは実質的に水含物を有さないので、これは分解的状況を示さず、そして流動床処理は必須である理由である。
【0095】
(実施例3:緩衝塩(例:炭酸水素ナトリウム)を含み、再構成(1×)培地のpHがユーザーの努力なしに自動的に所望のpHとなるように処方されているDPM)
前記のように、全ての市販の哺乳動物細胞培養の粉末化培地は、1×液体で調製される場合、1またはそれ以上の緩衝塩(例:炭酸水素ナトリウム)の添加を必要とし、次いでその溶液が適切なpHとなるようにpHの調整を必要とする。しかし、本方法は、炭酸水素ナトリウムの添加(上記実施例2に記載したように)、およびpH調整の必要性を共に除外するために使用され得る。本発明のこの局面において、1またはそれ以上の緩衝塩を含む乾燥粉末培地に、酸または塩基(必要性に依存して)を導入するために流動床技術が使用される。本発明のこの局面に従って、いずれの緩衝塩またはその組み合わせ、およびいずれの酸または塩基が、最終的に再構成される細胞培養培地において所望されるpHおよび緩衝化能に依存して使用され得る。
【0096】
炭酸水素ナトリウムを粉末としてDPMに直接添加する場合、エンドユーザーが単に水を添加し、混合して、炭酸水素塩(上記参照)を既に含み、そして適切なpHである溶液を作製することが可能である。まず第一にどのくらいのpH調整物が必要であるかを決定することが必要である。(1)ビーカーに1Lの水を入れる。この液体にDPMを添加して混合する。(1Lあたりの添加量は、その粉末の仕様により与えられる(例えば、10g/L、13g/L))。この場合、1リットルあたりいくら添加するかの決定において、炭酸水素ナトリウムの重量もまた考慮しなければならない。(2)粉末の溶解後、溶液を所望のpHに調整するために、5N HClを添加する。その量を記録する。(3)この数値を1N HClの量に換算する。集塊すべき総粉末の調整に必要な1N HClの量を計算する。(例:1Lの1×培地Aを未調整のpH7.9からpH7.2に調整するためには、5mlの1N HClが必要である。その1Lの1×培地は、例えば、13.0gのDPMを表す。従って、13.0gのDPMごとに、5mlの1N HCLが必要である。250gのDPMのpHを調整しようとする場合、自動的にpH調整を行うためには、250÷13.0=19.2×5mlすなわち96mlの1N HClを粉末に添加する必要がある。
【0097】
この1N HClをここでDPMに添加しなければならない。そのための最良の方法は、射出デバイスを使用して、水の代わりに1N HClを添加することである。一般的には、このプロトコルは、以下の例外を持つ以外は上記と同様である:(1)1N HClは、炭酸水素ナトリウムを含む培地にゆるやかに添加しなければならない。添加が速すぎると、二酸化炭素が発生して、その結果、至適未満の緩衝化能力が生じる。一般的に必要とされる1N HClの容量のために、1分間のオン、2分間のオフサイクルが数回必要である。DPMが液体プロセスの特徴を有するが、実際には乾燥粉末である動力学系が存在するように、各サイクルの終わりに乾燥粉末状態が得られなければならない。(驚くべきことには、HClを粉末に添加すると、たとえ、システム内における持続的なエバポレーションのために粉末が常時本質的に乾燥状態のままであっても、バルクの色が濃赤紫から淡黄色−橙色に変化する)。本質的中性pHを生じるHClの総量が計算されているので、流動床が正しく調整されている限り、粉末は決して実際には「酸」条件に曝されない(上記参照;操作の間のチャンバー内での粉末粒子の位置)。全ての粉末がシステムを通って移動していること(すなわち、連続的に、浮揚し、集塊し、そして沈殿していること)、およびチャンバー内に「デッドゾーン」がないことを確認することが重要である。
【0098】
このランの後、粉末が回収されると、適切な「乾燥」パッケージングおよび場所に保存される限り、これは、いつでも水に添加されて再構成され得る。pH調整を必要としない。従って、本発明は、乾燥粉末化培地を再構成することにより作製される液体培地のpHが、pHの調整を必要としない、自動pH調整乾燥粉末化培地を提供する。
【0099】
(実施例4:DPM自体への、血清、アルブミン、ハイ−ソイ(Hy−Soy)などのような高分子量補充物の含有)
これまで、血清を含む乾燥粉末培地は市販されていなかった。本方法を使用して(流動床および噴霧乾燥技術を介して)、発明者らは、機能性(細胞培養)が維持される様式で、粉末に血清を添加することに成功した。
【0100】
流動床装置の射出デバイスは、血清および濃縮アルブミンを含む霧を形成することが可能である。発明者らは、この様式でDPMに添加されそして乾燥された血清が機能的であるかどうかの確認を試みた。
【0101】
血清添加の手順:(1)集塊する標準DPMの量を決定する。(2)この量から、特定の粉末についてのg/Lに基づいて、そのg量の粉末から調製される1×培地の容量を計算する。(3)所定の%レベルの補充に必要とされる血清の容量を計算する(例えば、10g/Lで使用される100gの粉末は、10Lに相当する粉末を生じる)。5%血清の補充では、500mlの血清が、射出デバイスにより添加されることが要求される。
【0102】
血清添加のためのプロトコル:血清およびアルブミンは非常に粘性である。ノズルスプレーパターンは、小滴サイズおよびパターンについて検査されなければならない。粉末に添加される溶液においてサンプルチューブを用いて、ボール紙またはその他の背景に対して試験的にスプレーする。均一性と小滴サイズの小ささを検査する。「霧」でない場合は、噴霧圧を0.5バール増加させて再び試験する。十分な圧力が細かい霧パターンを生じるまでこれを繰り返す。
【0103】
細胞培養適用における使用のためには、1Lの1×培地あたりに使用する血清−DPMの重量/mlを知ることが必要である。このためには、乾燥の間に血清を収容するバイアルまたは試験管を正確に秤量する。各々のバイアルに一定量(既知量)の血清を入れる。次いで、バイアルをSpeed Vacまたは凍結乾燥機に配置する。乾燥するまで水分を除去する。その後、バイアルを再び秤量する(このとき、バイアルは凍結乾燥血清を含む)。血清の重量を計算し、元の容量1mlあたりで表現する。1Lあたりに使用する血清を含む集塊したDPMの重量が、標準DPM「使用」重量+所定レベルの血清重量となる。
【0104】
例えば、培地A(DPM)を10g/lで使用すると仮定する。血清補充を5%容量/容量とする。これは、標準DPMの重量に加えて、1Lの培地あたりに添加する血清の重量が5%=50mlに等しいことを意味する。血清粉末が0.06g/mlであると仮定する。このとき、粉末化血清の重量=50×0.06g/L=3gである。したがって、1Lの水に添加される血清含有DPMの重量は、1Lあたり、血清粉末の重量(3g)+標準DPM重量(10g)=13g/Lとなる。
【0105】
(実施例5:DPM製造時の製粉技術の削減または省略(成分をミクロンサイズ粒子にまで破壊する高エネルギー入力システム)
前述のように、乾燥粉末化培地は、代表的には、製粉プロセスを経て製造される。製粉プロセスは作業に手間を要し、多数の問題を含む。本発明の方法は、このような労働作業上および技術的制約を克服する流動床技術を使用する乾燥粉末化培地の生産を提供する。
【0106】
A.外部デバイスでまずブレンドして、その後流動床処理をする
通常、製粉したDPMを、炭酸水素ナトリウムとブレンドする(供給業者から購入したままで直接に使用し、さらにボールミルを行う必要はない)[炭酸水素ナトリウムを2g/L当量含むRPM 1640]。この混合物を20分間ブレンドする。次いで、粉末を、流動床チャンバー内に入れ、上記のように炭酸水素塩含有培地または自動pH制御を備える炭酸水素塩含有培地のために流動化する。
【0107】
B.流動床チャンパーにおいて直接ブレンドし、次いで集塊化
炭酸水素ナトリウムを、直接、製粉化DPMと共にチャンバーに入れ、短期間ブレンド(混合)し、続いて集塊化する。これにより別個のユニット内でのブレンドが省略される。
【0108】
C.ボールミルプロセスの完全省略
DPMの化学物質を全て、流動床チャンバーに直接添加し、予備的にブレンドし、続いて集塊化を行うか、もしくは高い可能性で、より粗い、「より粘り気のある」などの化学物質の一部に、ロータリーグラインダーにおいて手短な粉砕処理を行い、その後これをブレンドおよび最終的な集塊化のために流動床に配置するかのいずれかを行う。
【0109】
(実施例6:この同じDPMにおいて上記全ての特性を有するための方法)
発明者らは、「市販」の炭酸水素ナトリウムの添加を、製粉化DPMおよび自動pH制
御と組み合わせた。発明者らはまた、血清をDPMと組み合わせた。
【0110】
自動pH制御を備える炭酸水素ナトリウムを含むDPMを、血清と組み合わせるための1つのプロトコルは:
1.炭酸水素ナトリウム(粉末、供給業者より)をDPM(製粉化または粉砕化したもの)に添加する。
2.成分をブレンドする(混合、外部ユニットまたは流動床のいずれか)。
3.別の容器で、1LのDPM(炭酸水素塩を含む)を水(1×)を用いて再構成し、溶液のpHを7.5に調整するために必要な1N HClまたは1N NaOHの量を決定する。リットル基準の集塊する粉末の質量(従って1L当量)が分かっているので、上記で計算した量の集塊する総粉末について1N HClまたは1N NaOH量を計算する。この量を流動床デバイス(射出ノズル)を介して添加する。(DPMは「液体」ではないが、水分がプロセスに関与するので、粉末を可能な限り中性に近く、血清を添加するとき炭酸水素塩が遊離するような酸性pHにならないようにすることが重要である。pH7.6またはそれ以上では、炭酸水素ナトリウムの濃縮溶液は、COガスを発しないが、より低いpHではガスが発生する。)
4.補充割合および集塊するgに基づいて血清を添加する(拡大された集塊化)。
5.上記(3)からの同じ1Lの1×液体を使用して、pHを所望のpH(例えば7.2)に調整するために必要である1N HClまたは1N NaOHの量を決定する。この情報を使用して、血清で集塊化した粉末の重量(意図したg/L仕様)ついて使用される量を計算する。この量を流体デバイス(射出ノズル)を介して添加する。
6.γ線照射を使用して粉末化培地を滅菌する。
同様な方法で、血清含有DPMは、所定量のDPMを所定量の粉末化血清(例えば、下記の実施例8において記載するような噴霧乾燥により調製される)と組み合わせ、その後混合物を集塊化することによって産生され得る。例えば、10%粉末化FBSを含む培地の調製のために、55.5gの粉末化FBSを500gの粉末化培養培地に添加し、そして撹拌により粉末を十分に混合する。次いで、この混合物は、上記のように水で集塊化され得、再構成の際に、自動pH調整され得る10%FBS含培養培地を生成する。
【0111】
(実施例7:流動床処理工程(噴霧乾燥法を活発化するため)による100%血清粉末の生成法)
(方法論)
1)本発明者らは、ベンチトップ(benchtop)実験室用流動床装置(Strea−1)を使用した。粉末化血清の生成のためには、チャンバー内には何も置かない。レバーを、ユニットを密封するために使用する。
2)血清を注入デバイス(スプレーユニット)を通過させて添加した。血清をチャンバー中に添加した時、水分の蒸発が生起され、血清が十分に乾燥し、その結果チャンバー内に瞬時に粉末が形成されるのに十分な程、空気の流量を増加し、そして血清の流量をゆるやかにした。チャンバー内のどこにも水分または液体の被覆は存在しなかった。
3)ポンプ速度をチャンバー内に約1ml/分の余裕を持つようにセットした。
4)空気流速度を約8〜9の設定に設定した。
5)間欠的にフィルターを清浄するために、ファン速度を約2〜3に減速した。これを5〜10分毎に規定通りに行った。(この8〜9の空気流設定は高速であるためにフィルターは粉末を吹き出すことなく、自浄する)
6)1ラウンドのフィルター吹き出し後、ファン速度を前のレベルまで増加して、ポンプを始動した(これらのパラメータを一旦セットすると、示されるようにポンプはフィルターの清浄時を除いて持続的に運転した)。
7)血清液の全量をアグロメレーター(agglomerator)に添加後、5分にわたって最終乾燥を行った。
8)次いで、フィルターの吹き出しを行って、出来るだけ多量の粉末を回収し、そして機械を停止して生産物を除去した。粉末化血清を気密容器に入れて光線から保護した。
【0112】
(代表的な機器設定)
乾燥温度:60−65℃
出口気温:約33℃
吹き出し圧:5バール
噴霧圧:2.0〜2.5バール
吹き戻し停止:2(スプレーの間)
ファン容量:行程中8〜9
マグナヘリックス:フィルター抵抗−150〜250、穿孔コントロール板の抵抗−約50、空気容量−50未満
FBSの凝集作用がタンパク質構造または分布に影響するかどうかを測定するために、凝集化FBSおよび液体FBSの試料をSDS−PAGEに作動させ、タンパクを染色し、密度的にスキャンした。図1に示すように、本発明の方法に従って調製した凝集化FBS(図1A)は、液体FBSに観測されるプロフィールとほとんど同一なタンパク質プロフィールを表示した(図1B)。これらの結果は、本発明の方法による乾燥粉末化FBSの制御生成が、血清の主要成分の構造または分布に本質的には影響しないことを示す。
【0113】
FBSの凝集が細胞増殖および継代を支持する能力に影響するかどうかを測定するために、SP2/0細胞を、2%凝集化(「乾燥」)FBSまたは2%液体FBSのいずれかを含むDMEM中にプレートして、増殖率および継代回収を試験した。図2Aに示すように、凝集化FBSを含む培地内にプレートした細胞は、液体FBSを含む培地中にプレートした細胞と同様な増殖動態を示した。同様に、凝集化FBSを含む培地中の細胞は、液体FBSを含む培地中の細胞と実質的に同一の増殖率で継代から回収した(図2B)。ともに、これらの結果は、本発明の凝集化FBSが、培養細胞の増殖および継代を支持する点において、液体FBSとほぼ等価に行うことを示す。
【0114】
(実施例8:噴霧乾燥法による100%血清粉末の生成)
流動床処理行程に替わる方法として、噴霧乾燥法技術による乾燥粉末化血清生成法の可能性を試験した。3フィート直径の実験室用スプレー乾燥機(Mobile Minor Spray Drier;NIRO、Columbia、Maryland)を使用して、粉末化血清を調製した。液体FBSをスプレー乾燥機中に吸引して、空気ディスペンサーの真ん中に位置するSchilick 940ノズルを通して噴霧して、乾燥空気を、装置の上部空気ディスペンサーを通して噴霧器内に導入した。噴霧乾燥法は以下の条件下で行った:入口気温=200℃;出口気温=70℃、ノズルの噴霧気圧=2.0バール、空気流量=80.0kg/時間;スプレー率=65g/分。これらの方法の開発中、当初は出口気温として60℃を使用した;しかし、この温度は低すぎることが認識され、至適温度と確認された約70℃の出口気温を達成するためにスプレー率を1レベル戻して調整した。噴霧乾燥に続いて、粉末化血清を装置のサイクロンに回収し、処理空気を装置内を再循環する前に排気フィルターで濾過した。
【0115】
生成に続いて、同一原料ロットからの液体FBSと比較して粉末化血清の物理的特性を特徴づけた。生成ロットの異なる段階から得た試料(試料「A」および「B」)をエンドトキシンを含まない蒸留水(Life Technologies, Inc.)中で60.44g/Lの濃度に再構成して、Limulus Amoebocyte Lysate試験(Life Technologies,Inc.)を使用してエンドトキシンレベル、ヘモグロビンレベル(525nmにおける吸光度の分光光度計測定による)、およびUV/可視分光測定法を試験した。結果を表1、および図3Aおよび3Bに示す。
【0116】
表1.粉末化血清の物理的特性
【0117】
【表1】

表1に見られるように、粉末化FBSは、粉末化FBS生成の供給源物質として提供された液体FBSと同様のエンドトキシンおよびヘモグロビンレベルを示した。さらに、生成プロセスの異なる段階で得られた試料は、ほぼ同一のエンドトキシンおよびヘモグロビンレベルを示し、これは、本発明の方法が生成ロットを通してほぼ均一な物理的一貫性を持つ物質を生成することを示す。粉末化および液体FBSの試料をUV/可視分光測定法により試験した場合(図3)、粉末化FBS(図3A)について観測される痕跡は、供給源液体FBS(図3B)について得られるものと識別不可能であった。ともに、これらの結果は、本発明の噴霧乾燥法により調製される血清粉末が、粉末を調製する液体血清とほぼ同一の物理的特性を持つことを示す。上記の実施例7(例えば図1を参照のこと)の結果と合わせて、これらの結果は、本発明により提供される方法が、その供給源液体血清と相違することのない物理的特性を備えた粉末血清を生成することを実証する。
【0118】
(実施例9:自動pH調整粉末化培養培地の生成)
炭酸水素ナトリウムが粉末化培地に決して含有されない1つの理由は、どんな水分でも、それが空気中の湿度でさえ、COガスの遊離を生じるポーチ(pouch)内において酸性条件を生じることである。このポーチは膨張して「ピロー(pilllow)」と呼ばれているものを生成する。流動床プロセスを用いて、装置内の湿度をプロセス終了前に本質的に無視可能であるレベルまで減少する。本発明者らは、炭酸水素ナトリウムを含有するが、「ピロー」形成の形跡が認められないRPMA−1640粉末化培地を作製した。
【0119】
pH調整した粉末化培地を作製するためには、水への添加の際に、pHが7.0〜7.4になるように、pH調整用化学物質(通常ではHClまたはNaOH)を粉末に添加することが必要である。一旦炭酸水素ナトリウムを培地に添加すると、多くの粉末化培地は、水中で中性の塩基性側に再構成するために、HClの付加を必要とする。炭酸水素ナトリウムを含む粉末へのHClの添加は問題の原因となることが予測される。しかし、添加液体(この場合は、5N HCl)は、流動床装置内部において決して湿気を帯びたりまたは「液体」状態を生じないので、炭酸水素ナトリウムはCOガスを発生することがなく、その緩衝能を完全に保持する。このことを、本研究においてpH滴定濃度実験により試験した:2つの個別の実験において(図4Aおよび4B)、等量の酸が、再構成時に液体に添加した炭酸水素ナトリウムを含む標準培地に添加されるpH調整のための酸と同一量で、凝集化培地および自動pH調整した凝集化培地のpHを減少することが発見された。これらの結果は、pHの調整が、後続する凝集、および凝集プロセス中にpH調整が行われる凝集は、有意な緩衝能を有する粉末化培養培地を生成するために等しく充分に機能することを示す。
【0120】
(実施例10:培養培地の溶解比率における凝集効果)
培地の溶解比率における培養培地の凝集効果を試験するために、Opti−MEMTMまたはDMEMの試料を、水またはFBS(Opti−MEM Iでは2%のみ;DMEMは2%または10%)を加えて凝集させた。水中での凝集化培地の再構成において、凝集化Opti−MEM Iの時間溶解は、標準粉末化Opti−MEM Iより極めて迅速に生じた(図5A);結果は水凝集化Opti−MEM IおよびFBS凝集化Opti−MEM Iにおいて同一であった。しかし、興味深いことには、水凝集化DMEMは標準粉末化DMEMよりも極めて迅速に溶解するが、FBS−凝集化DMEMは溶解しなかった(図5B)。
【0121】
凝集化粉末化培地の開放構造のために(従来の粉末化培地と相反して)、毛管作用が全ての粉末粒子の近接に水分を送達する。このことは、より長い溶解時間の原因となる粉末「ボール」(ほとんどの標準粉末化培地の再構成時に観察される複雑化)の出現を防止する。より迅速な溶解に加えて、凝集化培地はダスト(塵)もまた減少することを実証した。これらの結果は、水凝集化培養培地およびいくつかのFBS凝集化培養培地が、伝統的な粉末化培養培地より迅速に溶解し、ダストの生起がより少ないことを示す。
【0122】
(実施例11:再構成した凝集化培養培地における細胞増殖および継代培養)
培養培地の多くの使用は、血清またはアルブミンのような高分子量タンパク質の添加を必要とする。これらの分子は、溶液の形態、またはアルブミンの場合は粉末の形態でさえあり得る。しかし、粉末化培地の均一性を保証するためには、これらのタンパク質は通常は、バルクの粉末化培地を液体培地に再構成後に、粉末としてではなく液体として添加される。これは、例えば、血清をその性能を長期間維持するためには冷凍庫内に貯蔵しなければならないため、いくつかの不都合を呈示する。このことは、血清を培地に無菌的に添加しなければならず、汚染の機会が増加するために、費用と不便さが加算される。濾過を血清の添加後に行う場合は、別の処理工程を必要とする。それゆえ、血清を粉末化培地の統合部分として供給可能であることが利点である。
【0123】
それゆえ、培養培地を水またはFBSの様々な濃度で凝集化した。FBSは、一般的には上記に概説するように、高い蒸発比率で空気懸濁した乾燥粉末化培地内に注入することにより粉末培地に添加する。血清補充物レベルは、Opti−MEM I培地では2%、およびDMEMでは2%または10%であった。次いで、様々な細胞株のこれらの培地における増殖および継代結果を評価した。
【0124】
図6に示すように、SP2/0細胞は、従来の培養条件(水−再構成化粉末化培地に添加した液体血清)下で増殖させた細胞と比較して、水またはFBSのいずれかで凝集したOpti−MEM I中で増殖させる場合、同様の増殖率を示した(図6A)。同様の結果が、2% FBS(図6B)を補充した水−およびFBS−凝集DMEM中で培養したSP2/0細胞、および10%FBSを補充した水−およびFBS−凝集DMEM中で培養したSP2/0細胞(図7A)、AE−1細胞(図7B)、およびL5.1細胞(図7C)で観測された。さらに、2%FBSを補充した水−または凝集Opti−MEM IおよびDMEM中で培養した場合、10%FBSを補充した水−およびFBS−凝集DMEM中で培養したSP2/0細胞、AE−1細胞、およびL5.1細胞(各々、図9A、9B、および9C)、ならびに5%FBSを補充した水−凝集DMEM中で培養したSP2/0細胞(図10)とほぼ同様に、SP2/0細胞は継代からの回収率を示した(各々、図8Aおよび8B)。さらに、SP2/0細胞は、大きなバッチおよび炭酸水素ナトリウムを含む自動pH調整化粉末化DMEMにおける水−凝集培地中で、5%FBSを補充した標準液体DMEMの場合(図10)と同一の継代特性を示した。
【0125】
総合して、これらの結果は、動物血清(例えば、FBS)のような培養培地補充物が直接培養培地中に凝集され得、そしてこの様式での凝集プロセスの間培養培地の補充が種々の培養細胞の増殖および継代の最適な支持を提供する培養培地を生成することを示す。さらに、これらの結果は、炭酸水素ナトリウムを含む本発明の自動pH調整培地を含む、本培養培地粉末が、大きなバッチで首尾良く産生され得ることを示す。
【0126】
(実施例12:噴霧乾燥した血清粉末を補充した培養培地での細胞増殖)
実施例7に表示の実験に対して当然の結果として、AE−1細胞およびSP2/0細胞を、実施例8に説明するように調製した2%もしくは10%噴霧乾燥したFBSを含むかまたは2%もしくは10%の液体FBSを含むDMEMにプレートし、細胞の増殖率および継代回収を試験した。細胞を、10mlの培地中1x10細胞/mlの密度で、3連の25cmフラスコ中に播種した。生存細胞密度を3〜7日に測定して、各々の細胞株を2度試験した。結果を図11〜13に示す。
【0127】
図11に示すように、粉末化FBSを含む培地中で培養したAE−1細胞は、標準液体FBSを含む培地中で培養した細胞と同様の増殖動態を示した。期待したように、細胞は、2%FBSを含む培地中よりも10%FBSを含む培養培地中で、高密度までのより迅速な増殖を示し、そして約4日目までに増殖ピークを示した。別々に行った2つの実験においても同様な動態が観測され(図11Aと11B)、これらの結果が再現可能であることを示した。類似の結果が、SP2/0細胞の増殖率を粉末化または液体FBSを含む培地中で測定した2つの実験で得られた(図12Aと12B)。さらに、5%粉末化FBSを含む培地中で培養したAE−1細胞は、液体FBSを含む培地中の細胞と同一の増殖率を有して継代から回収された(図13)。
【0128】
これらの結果は、本発明の噴霧乾燥法により調製される粉末化FBSは、培養細胞の増殖および継代の援助において液体FBSとほぼ等価に作用することを示す。実施例7および8からの結果と総合して、これらの結果は、本発明の方法を用いて、流動床(bed)または噴霧乾燥技術により、液体FBSとほぼ同一の物理学的および作用特性を示す粉末化FBSを生成し得ることを示す。
【0129】
(実施例13:凝集培地の作用における照射効果)
最近では、特にバイオテクノロジー産業における生物生産のために使用される培地および培地成分(補充物を含む)の生物学的純度についての関心が高まっている。γ照射は、加熱または毒ガス曝露による滅菌に特に応じない特定の液体および粉末に良く使用されることが知られている滅菌工程である。従って、水−またはFBS−凝集培養培地の試料は、25kGyで数日間にわたってコバルト源でγ照射され、そして種々の細胞型の増殖率が試験された。
【0130】
実験の1セットでは、SP2/0細胞を、1x10細胞/mlで様々な培地に播種して、37℃で培養した。異なった時間間隔で、試料を無菌的に採取して、そしてコールターカウンターにより細胞数を決定し、そして生存度をトリパンブルー排除により決定した。培地を、1Lの水中に1×溶液となるように十分に粉末化培地を溶解することにより調製し、撹拌し、そして0.22μmフィルターを通過させることにより濾過した。結果は図14のグラフに示す。グラフに「pwdr FBS」と表記するグラフ上の条件は、標準粉末化培地または凝集培地(照射または非照射)から調製された再構成1×培地に粉末化FBS(前述の実施例7または8のように調製された)を添加することを言及する。「Irradia. agglom. DMEM+FBS」と表記するグラフ上の条件は、FBS−凝集培地を作製するために粉末化培地(標準または凝集)中にFBSをスプレーすることにより、凝集培地を作製するために流動床を使用することをいう。
【0131】
図14に示すように、標準粉末化基本培地および凝集基本培地のγ照射は、SP2/0細胞増殖を支持するこれらの培地の能力に有害な影響を与えなかった。さらに、照射が粉末化FBSを含む粉末化培地および粉末化FBS自体に負の影響を与えなかった場合、この効果は血清濃度の増加を伴って減少した。
【0132】
これらのγ照射効果をより広範囲に試験するために、VERO細胞の試料を、従来の再構成されたまたは上記のように凝集したVP−SFMTMに播種した。しかし、凝集チャンバー内の粉末化培地に、上皮成長因子(EGF)およびクエン酸第二鉄キレート、従来のこの培地の補充物を、凝集工程の間、スプレーノズルにより添加した。次いで培地を、直接使用したかまたは上記のようにγ照射した。3x10細胞/フラスコの細胞をT−25フラスコに播種して、37℃でインキュベートした。細胞数および生存度を上記のように行い、この結果を図15に示す。
【0133】
図15に見られるように、VERO細胞は、γ照射を受けた凝集培地で培養すると、γ
照射を受けなかった凝集培地とほぼ等価な増殖および継代結果を示した。さらに、培地の
照射は低レベル培養補充物EGFおよび培地中に存在するクエン酸第二鉄キレートに影響
を及ぼさなかった。
【0134】
これらの結果は、γ照射法が、本方法により、血清、EGFまたはその他の補充物を含む多数の大容量凝集培養培地の調製における滅菌技術として使用され得ることを示す。
【0135】
(実施例14:粉末化培地補充物の性能における照射法の効果)
滅菌培地の補充物の生産における本方法の効果を示すために、凍結乾燥ヒト ホロ−トランスフェリン(holo−transferrin)を,約3日間、−70℃または室温で、25kGyでコバルトγ供給源への曝露により照射した。次いで293細胞を、照射トランスフェリン、または照射されていないコントロールトランスフェリン(−70℃または室温で保存した)で補充した培地中で培養し、細胞増殖を標準トランスフェリン含有培養培地またはトランスフェリンを含まない培地と比較した。
【0136】
血清を含まない293培地(293 SFM)中で増殖した中間対数期にある293細胞を収集して、5分間200xgで一度洗浄し、そして計数および生存度決定のためにトランスフェリンを含まない293 SFM内に再懸濁した。細胞を三連の125mlエーレンマイヤーフラスコ中に、3x10細胞/mlの密度で、20mlの容量の293 SFM(ポジティブコントロール)、トランスフェリンを含まない293 SFM(ネガティブコントロール)、−70℃または室温で保存した非照射トランスフェリンを含む293 SFM、または上記のように調製した照射トランスフェリンを含む293 SFM中にプレートした。フラスコをロータリーシェーカーに配置し、約125rpmで8%CO/92%空気の雰囲気で平衡にした37℃インキュベーターに設置した。コールター粒子カウンターを使用して毎日細胞数を測定し、生存度を標準的な手順に従ってトリパンブルー排除により決定した。細胞がフラスコあたり約1.2から1.7x10の密度に達した時、各々の試料のフラスコのうちの1つの内容物を収集して、遠心分離して、新鮮培地に再懸濁し、3つの新しいフラスコに継代した。先代および次代の細胞計数および生存度を、次いで、上記のように行った。上記の条件下でインキュベートした細胞の4代に渡る連続継代を試験した。
【0137】
図16A〜16Dに示すように、−70℃または室温でγ照射したトランスフェリンを含む培地中で培養した細胞は、第一継代(図16A)、第二継代(図16B)、第三継代(図16C)および第四継代(図16D)においては、標準293 SFMまたはγ照射されなかったトランスフェリンを含む293 SFMで培養した細胞とほぼ同一の増殖動態および生存度を示した。しかし、トランスフェリンを含まない培地で培養した細胞は、第一継代(図16A)の間は生存したが、継代培養においては増殖を停止し、そして生存性を有意に欠如した(図16B)。
【0138】
これらの結果は、本発明による方法において、γ照射が、トランスフェリンのような大容量の粉末化培養培地補充物の調製における滅菌技術として使用され得ることを示す。さらに、これらのデータは、トランスフェリンのような培養培地補充物が、活性を有意に失うことなく室温においてγ照射し得ることを示す。
【0139】
(実施例15:粉末血清の生化学的特性における照射法の効果)
血清におけるγ照射の影響をさらに決定するために、噴霧乾燥した粉末FBSの試料を、−70℃または室温(RT)で、25kGyで照射して、血清中の様々な生化学的成分の濃度を商業的に分析した。コントロールとして、非照射噴霧乾燥したFBSおよび液体FBSの試料もまた分析した。結果を表2に示す。
【0140】
表2.噴霧乾燥したFBSの化学分析
【0141】
【表2−1】

【0142】
【表2−2】

これらの結果は、γ照射プロセスがFBSの生化学的成分のほとんどの濃度に有意には影響を及ぼさなかったことを示す。これらの結果はまた、噴霧乾燥法においては、FBS成分のいくつかは(アルカリホスファアターゼ、AST、およびLD、およびおそらくグルコース)は、その開始液体FBSの濃度と比較して有意に減少を受けることを示す。
【0143】
(実施例16:粉末化血清の性能における照射の効果)
乾燥粉末血清の細胞増殖援助におけるγ照射の影響を試験するために、様々な条件下で照射を受けた噴霧乾燥したFBSの試料を培養培地を補充するために使用し、接着細胞および懸濁細胞を、これらの培地中で三継代まで増殖させた。モデル懸濁細胞としては、ハイブリドーマ株SP2/0およびAE−1を使用し、一方VEROおよびBHK培養物を代表的な接着細胞として使用した。細胞を、試験血清またはコントロール血清(噴霧乾燥であるが照射されていない)を含む培地中で、上記の実施例14において概説する一般的な方法に従って三継代まで培養した。各々の継代時点において、細胞を収集し、継代培養し、一方アリコートを上記のように生存細胞/mlとして計数した。各々の時点における結果を、液体FBSを補充した培地で得られる生存細胞数のパーセントとして表示して、図17A、17B、17Cおよび17Dに示す。
【0144】
これらの研究結果から、いくつかの結論が導かれ得る。第一に、FBSのγ照射は、噴霧乾燥したFBSの懸濁および接着細胞の増殖援助能力を減少するようには思われない(各々の図において、照射データセットを非照射データセットと比較する)。事実、BHK細胞(図17D)は、非照射血清と比較して−70℃で照射を受けた粉末化FBSを含む培地において実際により増殖した。第二に、−70℃で照射を受けた血清は、室温で照射を受けた血清よりも、おそらくVERO細胞(図17C)を除いては、細胞増殖援助能力において、良好に作用するように思われる。最後に、これらの研究結果は極めて細胞型−特異的であった:懸濁細胞(図17Aおよび17B)は、噴霧乾燥されたFBS(照射および非照射)において接着細胞(図17Cおよび17D)よりも良好に増殖し;接着細胞の中では、BHL細胞(図17D)がVERO細胞(図17C)よりも噴霧乾燥されたFBSにおいて良好に増殖した。
【0145】
これらの結果は、γ照射法が、本発明による方法においてFBSのような大容量粉末化血清の調製における滅菌技術として使用され得ることを証明する。さらに、前記の実施例14のトランスフェリンに関する報告とは異なり、これらのデータは、血清が細胞増殖を援助する能力を維持するためには、血清の照射に最適な温度は室温より下であるようであることを示す。
【0146】
ここで、理解を明確にする目的のための例示および実施例により、本発明を詳細に十分に記載したが、当業者には、本発明の範囲または任意の特定の実施態様に影響を与えることなく、条件、処方、および他のパラメータの広範囲かつ等価範囲内で、本発明を改変または変更することにより、同様なことが行われ得、そのような改変または変更が添付の請求の範囲の範囲内に含まれることは明らかである。
【0147】
本明細書中で言及する全ての刊行物、特許、および特許出願は、本発明が関係する分野における当業者の技術レベルを示すものであり、各々個々の刊行物、特許、または特許出願が特におよび個別に参考として援用されることを示すと同様に、本明細書中で参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】図1は、本発明の方法(図1A)により粉末形態で調製された胎仔血清(FBS)および従来の液体FBS(図1B)の試料のSDS−PAGEの濃度精密測定比重走査のヒストグラムを示す。
【図2】図2は、本発明の凝集方法で粉末形態に調製された2%(w/v)FBSで補充されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中のSP2/0細胞の増殖(図2A)および継代成功(図2B)の線グラフの複合である。
【図3−1】図3Aは、本発明の方法に従う噴霧乾燥によって調製された粉末ウシ胎仔血清(FBS)(λ=200−350nm)のヒストグラムの複合である。
【図3−2】図3Bは、本発明の方法に従う噴霧乾燥によって調製された標準的な液体FBS(図3B)の分光光度的スキャン(λ=200−350nm)のヒストグラムの複合である。
【図4】図4は、炭酸水素ナトリウム添加または無添加で、本発明の方法またはボールミルで調製された種々の乾燥粉末培地(DPM)の、2つの異なる日(図4Aおよび4B)におけるpH滴定(緩衝能)を示す線グラフの複合である。
【図5】図5は、Opti−MEM ITM(図5A)またはDMEM(図5B)の解離速度(水中)に対する凝集の影響を示すヒストグラムの複合である。培地は表示したように水またはFBSで凝集された。
【図6】図6は、両方とも2%FBSを含む、凝集したOpti−MEM ITM(図6A)またはDMEM(図6B)中でのSP2/0細胞の7日間にわたる増殖を示す線グラフの複合である。
【図7】図7は、10%FBSを含む凝集したDMEM中のSP2/0細胞(図7A)、AE−1細胞(図7B)およびL5.1細胞(図7C)の7日間にわたる増殖を示す線グラフの複合である。
【図8】図8は、水またはFBSで凝集し、2%FBSを補充したOpti−MEM ITM(図8A)またはDMEM(図8B)中のSP2/0細胞の継代成功を示す線グラフの複合である。
【図9−1】図9は、FBSおよび炭酸水素ナトリウムで凝集し、10%FBSを補充したDMEM中のSP2/0細胞(図9A)、AE−1細胞(図9B)の継代成功を示す線グラフの複合である。
【図9−2】図9は、FBSおよび炭酸水素ナトリウムで凝集し、10%FBSを補充したDMEM中のL5.1細胞(図9C)の継代成功を示す線グラフの複合である。
【図10】図10は、標準的な水で再構築される粉末培養培地(対象培地)中で、あるいは本発明に従って大規模な量で調製された凝集粉末培養培地中で4代にわたり継代されたSP2/0細胞の増殖を示す線グラフである。結果は、対象培地(□)、本発明の水凝集粉末培養培地(黒ひし形)および本発明の水凝集自動pH調製粉末培養培地(炭酸水素ナトリウムを含む)(黒四角)で示す。
【図11−1】図11は、2%(黒三角)または10%(黒ひし形)の液体ウシ胎仔血清(FBS)、または本発明の噴霧乾燥方法で調製された2%(×)または10%(黒四角)の粉末FBSを含む培地中で6日間にわたって培養されたAE−1細胞の線グラフである(図11A)。
【図11−2】図11は、2%(黒三角)または10%(黒ひし形)の液体ウシ胎仔血清(FBS)、または本発明の噴霧乾燥方法で調製された2%(×)または10%(黒四角)の粉末FBSを含む培地中で7日間にわたって培養されたAE−1細胞の線グラフである(図11B)。
【図12−1】図12は、2%(黒三角)または10%(黒ひし形)の液体FBS、または本発明の噴霧乾燥方法で調製された2%(×)または10%(黒四角)の粉末FBSを含む培地中で7日間にわたって培養されたSP2/0細胞の線グラフである。二組の実験を図12Aおよび12Bに示す。
【図12−2】図12は、2%(黒三角)または10%(黒ひし形)の液体FBS、または本発明の噴霧乾燥方法で調製された2%(×)または10%(黒四角)の粉末FBSを含む培地中で7日間にわたって培養されたSP2/0細胞の線グラフである。二組の実験を図12Aおよび12Bに示す。
【図13】図13は、5%の液体FBS(黒ひし形)または本発明の噴霧乾燥方法で調製された5%の粉末FBS(黒四角)を含む培地中で4代にわたって継代されたAE−1細胞増殖の線グラフである。
【図14】図14は、5日間にわたるSP2/0細胞の増殖に対するγ線照射および凝集の影響を示す線グラフである。
【図15】図15は、凝集培養培地中のVERO細胞の増殖に対するγ線照射の影響を示すヒストグラムである。
【図16−1】図16は、4継代にわたる293細胞の増殖を支持するトランスフェリンの能力に対するγ線照射の影響を示す一連の線グラフである。各グラフにおいて、細胞は標準の無血清293培地中(黒ひし形)、トランスフェリン無しの培地中(黒四角)、−70℃(黒三角)または室温(*)でγ線照射された粉末トランスフェリンを含む培地中、あるいはγ線照射されていないが−70℃(×)または室温(黒丸)で貯蔵された粉末トランスフェリンを含む培地中で培養された。各データ点についての結果は二つ組フラスコの平均値である。 図16A:第1継代細胞; 図16B:第2継代細胞。
【図16−2】図16は、4継代にわたる293細胞の増殖を支持するトランスフェリンの能力に対するγ線照射の影響を示す一連の線グラフである。各グラフにおいて、細胞は標準の無血清293培地中(黒ひし形)、トランスフェリン無しの培地中(黒四角)、−70℃(黒三角)または室温(*)でγ線照射された粉末トランスフェリンを含む培地中、あるいはγ線照射されていないが−70℃(×)または室温(黒丸)で貯蔵された粉末トランスフェリンを含む培地中で培養された。各データ点についての結果は二つ組フラスコの平均値である。 図16C:第3継代細胞; 図16D:第4継代細胞。
【図17−1】図17は、異なる照射条件下、FBSが足場非依存性細胞(図17A)の増殖を第1(Px1)、第2(Px2)および第3(Px3)継代で支持する能力に対するγ線照射の影響を示す一連の棒グラフである。 図17A:SP2/0細胞。
【図17−2】図17は、異なる照射条件下、FBSが足場非依存性細胞(図17B)の増殖を第1(Px1)、第2(Px2)および第3(Px3)継代で支持する能力に対するγ線照射の影響を示す一連の棒グラフである。 図17B:AE−1細胞。
【図17−3】図17は、異なる照射条件下、FBSが足場依存性細胞(図17C)の増殖を第1(Px1)、第2(Px2)および第3(Px3)継代で支持する能力に対するγ線照射の影響を示す一連の棒グラフである。 図17C:VERO細胞。
【図17−4】図17は、異なる照射条件下、FBSが足場依存性細胞(図17D)の増殖を第1(Px1)、第2(Px2)および第3(Px3)継代で支持する能力に対するγ線照射の影響を示す一連の棒グラフである。 図17D:BHK細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養培地粉末の生成方法であって、該方法が乾燥粉末培地を溶媒で凝集させる工程を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図10】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図12−1】
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【図12−2】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16−1】
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【図16−2】
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【図17−1】
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【図17−2】
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【図17−3】
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【図17−4】
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【公開番号】特開2008−43343(P2008−43343A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275837(P2007−275837)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【分割の表示】特願2007−35545(P2007−35545)の分割
【原出願日】平成10年2月17日(1998.2.17)
【出願人】(502221282)インヴィトロジェン コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】