説明

乾燥酵母を復水して用いる果実酒発酵における発酵管理方法

【課題】 乾燥酵母が正常に復水され、発酵可能となっているかどうかを発酵初期の段階で知ることは従来不可能であった。温度管理や、糖度管理をしても発酵初期は、これらの指標に変化が現れにくいという問題があった。
【解決手段】 乾燥酵母を復水して用いる果実酒製造において、復水された酵母の発酵初期の細胞径又はその増加率を、発酵状況が正常であるか異常であるかを早期に判定する指標として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ワインなど、果実酒製造の技術分野に関する。より具体的には、本願発明は、乾燥酵母を復水して発酵に用いる果実酒製造の技術分野に属する。更に具体的には、乾燥酵母を復水して発酵に用いる果実酒製造の発酵初期の発酵管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワインなどの果実酒の製造では、古くは、果実由来又は醸造所に定着した天然酵母による自然発酵に任されていたが、最近の大規模ワイナリーでは、乾燥酵母を復水して発酵に使用している。天然酵母などの生細胞を使用した発酵では、果汁に酵母を添加直後から発酵可能であるが、乾燥酵母を使用する場合は、乾燥酵母を復水して酵母を発酵可能とすることが必要である (非特許文献1)。
【0003】
ワインなどの果実酒製造は、酵母が好気的条件下で増殖した後、嫌気性下でエタノール発酵する。発酵に伴い熱が発生するが、温度が高すぎると酵母が死滅したり、発酵が停止したりするので、温度の管理が必要となる。また、発酵が開始すると、糖が消費されエタノールが産生されるので、糖の濃度により、発酵が進行しているかどうかは、確認できる。
【0004】
そこで、ワイン中の発酵管理方法としては、糖度(密度)、温度を測定して管理する方法が最も一般的で、多くのワイナリーでは糖度、温度が発酵中毎日測定されている(非特許文献1) (非特許文献2)。
【0005】
【非特許文献1】横塚 弘毅 日本醸造協会誌、94(12),956-965(1999)
【非特許文献2】Roger B. Boulton, Vernon L. Singleton, Linda F. Bisson and Ralph E. Kunkee “Principles and Practices of Winemaking” (1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾燥酵母が正常に復水され、発酵可能となっているかどうかを発酵初期の段階で知ることは従来不可能であった。温度管理や、糖度管理をしても発酵初期は、これらの指標に変化が現れにくい。例えば、糖度(密度)については、酵母を添加して発酵開始した後、数日経過して初めて減少する。糖度に変化が現れない限り、発酵に問題があるかどうかは不明であった。
【0007】
他方、発酵初期の糖度に変化のない期間の果汁は好気的条件下にあり、酵母の細胞数も少なく、微生物的に最も危険な状態である。この時期にブドウ中からもたらされる酢酸菌などが増殖すると、代表的オフフレーバーである揮発酸が増加し、商品価値を著しく損なう可能性がある。また、乾燥酵母の復水が十分でない場合には、酵母数が増殖しないこともある。
【0008】
そこで、本願発明は、糖度変化の少ない発酵初期の発酵状態を判定する方法の提供を第1の課題とする。又、本願発明は、乾燥酵母を復水して発酵に使用する果実酒製造において、簡便に発酵初期の発酵状態を判定できる方法を提供することを第2の課題とする。更に、当該判定結果に基づいて、発酵管理をする方法を提供することを第3の課題とする。又、果実酒製造における乾燥酵母の適切な復水条件を提供することを第4の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、乾燥酵母を復水して用いる果実酒製造において、発酵初期に起きる種々の発酵状態の変化及び酵母細胞の変化を検討することにより、復水された酵母の発酵初期の細胞径又はその増加率が、発酵状態が正常であるか異常であるかを早期に判定するのに極めて優れた指標であることを見出した。更に、発酵初期の発酵状態と復水条件、特に復水温度と酵母の細胞内pHに強い相関関係があることを見出した。
そこで、本願発明は、発酵初期に酵母の細胞径又はその増加率を測定することによる、発酵状態判定方法を提供する。更に、本願発明は、酵母の細胞径に加えて復水温度及び/又は酵母の細胞内pHを測定した復水酵母を用いる果実酒製造における、発酵状態判定方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、乾燥酵母を復水して用いる果実酒製造における発酵初期の管理が容易に可能となった。本方法は、これまで用いていた糖度及び細胞数による管理より、早い段階での管理が可能であり、またサンプリングによるばらつきも少ない。本願発明は、どのようなワイナリーでも実施することが可能で、果実酒製造の工程管理に役立つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.はじめに
本願発明者らは、まず乾燥酵母を用いた通常のワイン醸造における乾燥酵母の細胞数、細胞形態、及び発酵液中の糖度の減少などの挙動を調べた。その結果、乾燥酵母を用いた通常のワイン醸造では、乾燥酵母を復水して、果汁に添加すると、まず細胞径の増大が見られ、その後、細胞数が増加し、発酵液中の糖度が減少することを見出した。通常、果汁へ復水した酵母を添加した直後から細胞径は増加するが、復水した酵母を添加しても細胞径の増大が見られない場合は、その後の発酵でも糖度が低下せず、発酵が失敗であることが分かる。本願発明者は、従来発酵が正常か否かを調べる手段がなかった果実酒の発酵初期においても、細胞径を測定することにより、発酵が正常になされているか否かを判定できることを見出して、本願発明を完成させたものである。
【0012】
2.細胞径の測定により発酵状態を判定することを特徴とする乾燥酵母を利用した果実酒の製造又は製造管理方法
本願発明は、乾燥酵母を復水した復水酵母を果汁に添加することを含む果実酒の製造方法において、細胞径を測定することにより、発酵状態の良否を判定することを特徴とする果実酒の製造方法を包含する。
【0013】
本願発明の果実酒製造方法は、ワインに限定されず、オレンジ酒、リンゴ酒、桃酒(ピーチワイン)、チェリーワイン、イチゴ酒、杏酒など、乾燥酵母を復水して使用する限り、種々の果実を発酵させて製造する果実酒の製造に適用することができる。
【0014】
本発明の果実酒製造方法に使用される乾燥酵母としては、特に限定されず、入手できるいずれの乾燥酵母でも使用でき、例えば、UVAFERM CM、 CEG、CS2及びBC、並びにLANVIN K1、EC1118、CY3079, Rhone2226, DV10及び71Bなどを挙げることができる。
【0015】
本願発明の果実酒製造方法において、発酵条件としては、例えば、ワイン発酵では、果汁に亜硫酸を添加して用いてもよい。又、発酵槽の規模などには影響されず、小規模な発酵槽であっても、大規模な発酵槽であっても、攪拌装置、冷却装置の有無などに関わらず、同様に発酵状態を管理して、果実酒を製造することができる。
【0016】
2−1.酵母細胞径の測定による発酵状態判定法
細胞径の測定による発酵状態判定は、具体的には、例えば、復水酵母を果汁に添加後の発酵初期の段階で、酵母の細胞径を測定し、細胞径の増加が見られる場合には、発酵が正常であると判定し、細胞径の増大が見られない場合には、発酵が異常であると判定することによることができる。なお、本願明細書中においては、細胞径の測定は、細胞径の増加率を算出又は測定することをも包含する。
【0017】
本願発明で、発酵初期とは、復水した酵母を果汁に添加してから数時間から3日、好適には、約24時間を意味する。細胞径の測定手段としては、任意の測定手段を用いることができるが、例えば、例えば顕微鏡により直接測定しても良いが、細胞計数分析装置、自動細胞解析装置、血球測定用の装置などを使用することもできる。具体的には、例えば、シスメックス社のCDA500などを用いることができる。
【0018】
また、細胞径が増加したか否かの判断は、発酵初期の一定時間あたりの細胞径の増加率を測定することによりなし得る。
【0019】
細胞径及び細胞径増加率は、酵母株ごとに、復水温度により、異なるが、例えば、酵母株ごとに、予め、特定の復水温度に復水した場合の正常な発酵による発酵初期一定時間内の細胞径の増加率を計測し、試料の発酵初期の同じ時間の細胞径の増加率を計測して、比較することにより発酵の状態を判定することができる。
【0020】
正常な発酵による発酵初期一定時間内の細胞径の増加率、及び異常な発酵による発酵初期一定時間内の細胞径の増加率をそれぞれ計測し、発酵状態を示す指標となる細胞径の増加率を決定することができる。例えば、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3時間から24時間経過までのいずれかの時点の細胞径との比率を測定し、この指標と比較することにより、発酵状態を判定することもできる。
【0021】
具体的には、例えば、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3時間から24時間経過までのいずれかの時点の細胞径との比率を測定し、細胞径の増加率が4%以上の場合には、発酵状態が正常であると発酵状態を判定することもできる。
【0022】
また、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と24時間経過後の細胞径との比率を測定し、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と24時間経過後の細胞径との比率が1以下(つまり、増加率0%未満)であれば、発酵状態が異常と判断することもできる。
【0023】
更に、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3時間経過後の細胞径との増加率が4%以上であれば、発酵が正常であると判断することもできる。また、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と24時間経過後の細胞径との比率が、好適には10%以上、少なくとも9%以上であれば、発酵が正常であると判断することもできる。あるいは、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3時間経過後の細胞径との比率が4%以上で、且つ、24時間経過後の細胞径との比率が9%以上であれば、発酵が正常であると判断することもできる。更に、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3時間から24時間経過までのいずれかの時点の細胞径との比率を測定し、細胞径の増加率が4〜9%以上の場合には、発酵状態が正常であると発酵状態を判定することもできる。
【0024】
更に、特に好適な発酵状態を判定するためには、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と24時間経過後の細胞径との比率を15%以上と選別することもできる。
【0025】
また、より具体的にいえば、EC1118株については、細胞径の増加が見られるとは、乾燥酵母を38℃復水して果汁に添加した時点から、24時間で、約20%程度、増大していれば発酵状態は良いと判断できる。
【0026】
2-2.復水条件の検討
本願発明者は、乾燥酵母を復水させる条件が、発酵状態の良否に影響を与えていることに気づいた。具体的には、乾燥酵母を復水させる場合に、温度を好適には、20℃から38℃で復水させることにより、発酵初期の細胞径の増大が正常で、その後のアルコール発酵も正常に進行させることができる。なお、乾燥酵母の種類によっては、例えば、CY3079株のように、復水温度が5℃でも、その後のアルコール発酵が正常なものもある。必要があれば、乾燥酵母ごとに、復水温度を変えて、復水後の発酵初期の細胞径の増大の程度、及びその後のアルコール発酵を確認して、適切な復水温度を検定することもできる。復水時間は、通常10分から1時間の間で選定できるが、20分程度が好ましい。
【0027】
また、復水後の細胞内pHが、5以上であると、発酵初期の細胞径の増大が正常で、その後のアルコール発酵も正常に進行する。したがって、復水後の酵母細胞内pHが5以上と成る復水酵母を選択することが好ましい。なお、細胞内のpHは、蛍光法(Nature Vol.325,pp447-450)及びICP法(J.Am.Soc.Brew.Chem.52(I):5-3,(1994); 第11回酵母合同シンポジウム「酵母研究のフロントラインー生命科学・医学・産業へのインパクト」(1994);Proc.Master Brew assoc Am.Anaheim(1993) 参照)で測定することができる。
【0028】
総合的に見ると、乾燥酵母を復水温度5〜38℃で復水した後の細胞内pHが5以上である復水酵母を用いることが好ましい。
【0029】
2-3.発酵状態の判定後の管理
上記2-1.の酵母細胞径の測定による発酵状態判定法により、発酵状態が異常であると判断される場合は、例えば、タンクを交換する、直ちに追加の復水酵母を添加する、又は温度を上げるなどの対処をすることにより、異常発酵が生じる前に、再度正常に発酵させることができる。これにより、従来よりも早く対処でき、品質を損なう可能性が低くなり、果汁の浪費を防ぐことができ、更に、香味改善、発酵期間短縮による効率の改善なども可能となる。
【実施例】
【0030】
以下の実施例では、細胞径及び細胞数並びに糖度は次のように測定した。
(1) 細胞径及び細胞数の測定
発酵液から、試料を採取し、1mL程度を測定に供した。測定前に十分な攪拌が必要となる。攪拌したサンプルをシスメックス社製セルパック(緩衝液)で500倍希釈し、シスメックス社CDA500で細胞径及び細胞数を測定する。
(2)糖度の測定
糖度は、アントンパール社の振動式密度計DMA35Nを使用して測定した。
【0031】
なお、以下の実施例で、発酵日数という場合は、復水した酵母を果汁に添加した日を発酵日数1日として表記し、図面に示されている。つまり、発酵日数2日とは、発酵開始日の翌日である。
【0032】
[実施例1]
乾燥酵母を用いたワイン醸造での乾燥酵母の挙動
乾燥酵母を用いたワイン醸造における、Brix(糖度)、細胞数、細胞径の変化を測定した。まず、乾燥酵母を38℃の水に溶解し、20分静置して復水した。発酵温度は、13度とした。正常な発酵の場合は、図1に示されるように、最初に細胞径の増大が見られ、その後、細胞数の増加、糖度の減少が見られる。他方、通常、細胞径は添加直後から増大するが、発酵6日目でも増大しなかったタンクでは、他の管理項目である細胞数、Brixの変化も見られなかった(図2参照)。このことから細胞径の変化がみられなかったタンクは、発酵不良ないしは発酵停止であることが分かる。
【0033】
なお、図2に示される場合は、発酵7日目に他のタンクと置換し、発酵不良を回避した。
【0034】
[実施例2]
乾燥酵母の復水温度と、細胞径、糖度及び細胞数との関係
5、20、38又は50℃の蒸留水50mLで20分間、乾燥酵母5gを復水した。2.5mLの復水酵母溶解液を1Lブドウ果汁(シャルドネ濃縮果汁を蒸留水でBrix23に希釈したもの)に添加し、15度で発酵した。復水温度と、細胞径、糖度、細胞数及び復水直後の生存率となどこれまで用いられてきた指標との比較を行った。酵母株としては、EC1118株、CY3079株及びRHONE2226株(いずれもラルバン社)を用いた。
【0035】
(1)細胞径は、初発の大きさは株ごとに異なるが、どの復水温度でもほぼ一定であった。その後、細胞径の増率は、復水温度によって異なった。復水温度38℃の時に最もその増加率は大きく、次に20℃が大きかった。CY3079株については、復水温度5℃の場合も20℃の細胞径の増加率はほぼ同一であった。他の株については、復水温度5℃、50℃とも細胞径の増加率は小さかった。(図3〜5)
増加率の小さい復水温度5℃と増率の大きい復水温度38℃の細胞径は、添加後3時間で既に異なっていた。 (図6)
また、復水温度5℃と増率の大きい復水温度38℃の細胞径についての、直後、3時間後(復水酵母を果汁に添加直後)、及び24時間後の測定結果を以下にも示す。
【0036】
【表1】

【0037】
以上より、細胞径は、酵母添加から早い時期、すなわち発酵初期において、発酵状態を示す良い指標となることが明確となった。例えば、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と3〜24時間経過後の細胞径との増加率が4%以上であれば発酵状態が正常であること、また、復水した酵母を果汁に添加直後の細胞径と24時間経過後の細胞径との比率が1以下(つまり、増加率0%未満)であれば、発酵状態が異常であることが分かった。
【0038】
(2)図7〜9より、糖度減少は、発酵開始後4日目ごろから確認できることが分かる。細胞径の増率が大きい復水温度38℃と20℃による酵母を用いた場合、発酵開始後の糖度の減少率も大きく、正常に発酵した。また、CY3079株については復水温度5℃の糖度の減少率が大きいが、細胞径の増率も大きい(図4)ので正常な発酵状態であると考えられる。他方、EC1118株、CY3079株及びRHONE2226株の50℃で復水した場合、並びにEC1118株及びRHONE2226株を5℃で復水した場合は、発酵が遅延しており、異常発酵を起こしていることが分かる。図3〜5及び図7〜9を比較することで、発酵初期の細胞径の増加率とその後の糖度の減少率に関連性があること、つまり発酵初期の細胞径の増加率と発酵状態とが関連していることがわかった。また、正常な発酵の場合、細胞径の増加は、発酵開始2日目(発酵開始後24時間) で既に増加が確認できるが、糖度の減少は発酵開始4日目になるまで、確認できないことが分かった。
【0039】
(3)細胞数は、同一株内では初発細胞数はほぼ同一で、初期の細胞径の増率が大きな復水温度20℃、38℃の場合は、どの株においても初期の細胞数の増加率が大きい。(図10〜12)
【0040】
(4)復水直後の生菌率を図13に示す。生菌率は発酵直後に測定できるものの、糖消費が良い20℃でも必ずしも生菌率は良くない、生菌率は糖消費(発酵)の良否と関連が少なく発酵良否の指標としては、不十分であることが分かった。
【0041】
[実施例3]
乾燥酵母の復水後の細胞内のpHとの比較
実施例2と同様に、5、20、38又は50℃で20分復水した酵母を用い、復水温度と、細胞内pHとの比較を行った。酵母株としては、EC1118株、CY3079株及びRHONE2226株(いずれもラルバン社)を用いた。細胞内pHは、蛍光光度計を用いて、カルボキシフルオレセインを使用し、測定波長として441nm及び488nmを用いるICP法により測定した。
【0042】
図14に示されるように、細胞径の増率が大きい復水温度20℃、及び38℃において、復水直後の細胞内pHは高く、細胞内pHが高い場合、酵母の活性が高いことから、細胞径の増率が大きい場合、復水直後の酵母活性が高いことが示唆された。
【0043】
[実施例4]
様々なタンク容量で糖度、細胞数、細胞径の比較
実製造を行なっているワイナリーにおいて、様々なタンク容量で糖度、細胞数、細胞径を調査した。
タンク容量としては、6915ガロン(図面中6915 Gallon tank)、8529ガロン(図面中8529 Gallon tank)、10690ガロン(図面中10690 Gallon tank)、及び21999ガロン(図面中21999Gallon tank)を用いた。酵母菌株としては、CY3079、 DV10及び VL2を用いた。結果を図15から図26に示す。
その結果、細胞数、細胞径、糖度の間に関連性があり、細胞数が増加する前、糖度が減少する前に細胞径の増加が見られ、発酵初期の管理指標として細胞径が有効であることが示唆された。また、グラフの各点にばらつきを表示したが、細胞数管理のばらつきよりも、細胞径管理のばらつきは少ないことも明らかになった。
【0044】
[実施例5]
乾燥酵母を用いたオレンジ果実酒醸造での乾燥酵母の挙動
実施例1と同様の条件で、オレンジ果実を用いて、オレンジ果実酒を製造した。ワインと同様に、オレンジ果汁の発酵でも、細胞径の増大の後に、細胞数の増加、糖度の減少が見られた(図27)。オレンジ果汁でも、細胞径を計測することにより、発酵初期に発酵の良否を判断できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明は、ワイナリーなど果実酒製造産業において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】通常のワイン醸造における、Brix(糖度)、細胞数、及び細胞径の変化を示す。
【図2】細胞径の増大が見られなかったタンクのBrix、細胞数、細胞径の変化を示す。なお、発酵7日目に他のタンクと置換し、発酵不良を回避したものである。
【図3】復水温度を変えた時のEC1118株の細胞径変化を示す。
【図4】復水温度を変えた時のCY3079株の細胞径変化を示す。
【図5】復水温度を変えた時のRHONE2226株の細胞径変化を示す。
【図6】添加3時間後の細胞径(X軸上段:復水温度、下段:酵母株)を示す。
【図7】復水温度を変えた時のEC1118株の糖度変化を示す。
【図8】復水温度を変えたときのCY3079株の糖度変化を示す。
【図9】復水温度を変えたときのRHONE2226株の糖度変化を示す。
【図10】復水温度を変えたときのEC1118株の細胞数変化を示す。
【図11】復水温度を変えたときのCY3079株の細胞数変化を示す。
【図12】復水温度を変えたときのRHONE2226株の細胞数変化を示す。
【図13】復水温度を変えたときの生菌率の変化(EC1118、RHONE2226、CY3079はワイン酵母、W34はビール酵母)
【図14】復水温度を変えたときのEC1118株、CY3079株、RHONE2226株の細胞内pHを示す。
【図15】10690 Gallon tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10は酵母株名)を示す。
【図16】10690 Gallon tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10は酵母株名)を示す。
【図17】10690 Gallon tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10は酵母株名)を示す。
【図18】6915 Gallon tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10は酵母株名) を示す。
【図19】6915 Gallon tankにおける細胞数の変化(CY3079, DV10は酵母株名)を示す。
【図20】6915 Gallon tankにおける細胞径の変化(CY3079, DV10は酵母株名)を示す。
【図21】21999 Gallon Tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10は酵母株名) を示す。
【図22】21999 Gallon Tankにおける細胞数の変化(CY3079, DV10は酵母株名) を示す。
【図23】21999 Gallon Tankにおける細胞径の変化(CY3079, DV10は酵母株名) を示す。
【図24】8529 Gallon Tankにおける糖度の変化(CY3079, DV10, VL2は酵母株名) を示す。
【図25】8529 Gallon Tankにおける細胞数の変化(CY3079, DV10, VL2は酵母株名) を示す。
【図26】8529 Gallon Tankにおける細胞径の変化(CY3079, DV10, VL2は酵母株名) を示す。
【図27】オレンジ果汁におけるBrix(糖度)、細胞数、細胞径の変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥酵母を復水した酵母を用いる果実酒製造のための発酵の初期において、酵母の細胞径若しくは細胞径の増加率又は細胞内pHを測定することにより、発酵状態の良否を判定する方法。
【請求項2】
発酵初期に酵母細胞径の測定を一定時間間隔で行い、細胞径の増加率を算出することを更に含む請求項1記載の発酵状態の良否を判定する方法。
【請求項3】
復水した酵母を果汁に添加した直後及び添加後24時間後に細胞径を測定し、測定した細胞径の増加率が負の場合に発酵状態が異常であると判定する、請求項2記載の発酵状態の良否を判定する方法。
【請求項4】
復水した酵母を果汁に添加した直後及び添加後3〜24時間後に細胞径を測定し、測定した細胞径の増加率が、4%以上の場合は発酵状態が正常であると判定する、請求項2記載の発酵状態の良否を判定する方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の発酵状態の良否を判定する方法を用いることを特徴とする果実酒の製造方法。
【請求項6】
乾燥酵母を5℃〜38℃の溶液で復水する請求項5記載の果実酒の製造方法。
【請求項7】
乾燥酵母を復水した後の細胞内pHが5以上である酵母を用いる請求項5又は6項記載の果実酒の製造方法。
【請求項8】
果実酒がワインである請求項5〜7のいずれか1項記載の果実酒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2008−67651(P2008−67651A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−250127(P2006−250127)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)
【Fターム(参考)】