説明

乾燥食品

【課題】 野菜が本来有する風味や色調が自然に近く、栄養成分や特性を損なうことなく、直接又は間接に摂取可能で嗜好性の高い乾燥食品を得る。
【解決手段】 甜菜の葉及び/又は茎部を原料とし、乾燥処理することにより得られる、青臭さや苦味がなく、摂取が容易な嗜好性に優れた乾燥食品。更に、乾燥処理として凍結乾燥を用いた、野菜が本来有する風味や色調も自然に近く、栄養成分や特性が保持された、直製又は間接に摂取が可能な嗜好性の高い乾燥食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥食品に関し、詳しくは嗜好食品、栄養補助食品等やトッピング材料として幅広く利用可能な、甜菜の葉及び/又は茎部を原料とする乾燥食品に関する。
【背景技術】
【0002】
人が健康を保持し、増進するためには、日頃から炭水化物、脂肪、蛋白質、ビタミン及びミネラルの栄養素を、バランスよく食事から摂取することが基本であり、さらにこれらの栄養素に加えて、食物繊維を摂取することの重要性が叫ばれている。また近年では、オリゴ糖が疾病予防等の機能面から特に注目されている。オリゴ糖の一種であるラフィノースには、整腸作用、免疫賦活作用、肝機能改善作用やアトピー性皮膚炎改善作用が確認されており(例えば、特許文献1、非特許文献1、2参照)、特に整腸作用では特定保健用食品素材として認められている。しかし我国においては、食生活の欧米化に伴い、動物性食品の摂取が増大し、主食としての穀類や野菜などのグリーン食材の摂取が減少している。このような野菜類の摂取減少は、ビタミン、ミネラルと、更に食物繊維の摂取不足をもたらしている。加えて穀類はその消費量が減少しつつある上に、食味向上をねらって精製度を上げていることもあって、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の摂取量がさらに減少する傾向にある。健康で活力ある社会作りを目指す「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」では、生活習慣病予防の観点から、1日350〜400gの野菜摂取を目標としているのに対し、平成15年の国民健康・栄養調査の結果では、成人の1日の平均野菜摂取量は293gであり、100gほど摂取量が不足している。この不足分を補う方策としては、食物繊維、ビタミン、ミネラル等の成分を強化した食品の摂取が考えられるが、基本的には通常の野菜(天然素材)として摂取することが望ましいとされている。しかし、食物繊維等の栄養成分が豊富で、嗜好性にも優れた天然素材は見い出されていなかった。
【0003】
従来、インスタント食品に利用することを目的として、野菜類を乾燥させることが試みられている(例えば、特許文献2、3参照)。乾燥の方法としては、一般に原料を自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥等の乾燥処理が挙げられるが、自然乾燥は、安価である一方、乾燥に時間を要すること、乾燥中に褐変、黒変等の変色が進み易いこと、熱風乾燥は、加熱のため品質が低下する等の欠点を伴っていた。また、野菜類を野菜チップ等のスナック食品として利用する場合、野菜類を油揚げする方法が知られている。しかし、この方法では、常圧での油揚げの場合、野菜類が100℃以上の温度にされされることになり、野菜が有する自然感を維持することができない。減圧下での低温の油揚げにおいては、風味を損なうことは少なくなるものの、野菜類を多く摂取しようとすると、必然的に油脂類も多量に摂取することになり、健康食品として野菜類を摂取するには好ましいものではなかった。
【0004】
ビートオリゴ糖の原料である甜菜は、原料として使用される根部以外の葉や茎部は、家畜の飼料として一部利用される他は、その固さのため、食品としての利用が十分に図られていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平11−255656号公報、第3頁右欄3〜20行目
【特許文献2】特開平6−233651号公報
【特許文献3】特開平8−210号公報
【非特許文献1】歯学,1998年,第85巻,第4号,p.551−558
【非特許文献2】アレルギーの臨床,1998年,第18巻,p.1092−1095
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情において、野菜が本来有する風味や色調も自然に近く、栄養成分や特性を損なうことなく、且つ嗜好性の健康食品素材が望まれていた。即ち、本発明の目的とするところは、野菜が本来有する特性を損なうことなく嗜好性に優れ、且つ栄養素や機能性成分を豊富に含有する乾燥食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、甜菜の葉及び/又は茎部を利用した乾燥食品が、青臭さや苦味がなく嗜好性に優れ、且つ栄養素や機能性成分を豊富に含有することを見出し、本願発明を完成させた。即ち、本願第1の発明は、甜菜の葉及び/又は茎部を原料とし、乾燥処理することを特徴とする乾燥食品にある。また、本願第2の発明は、甜菜が無農薬で栽培されたものであることを特徴とする上記乾燥食品にあり、第3の発明は、乾燥処理が、凍結乾燥処理であることを特徴とする上記乾燥食品にある。更に本願第4の発明は、上記乾燥食品を、成人1日当たり0.5g〜10g摂取させることを特徴とする野菜の摂取方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、甜菜の葉及び茎部を有効利用した、嗜好性にも栄養的にも優れた乾燥食品が提供できる。更に凍結乾燥という加工処理により、色調も自然に近く、風味や食感等の嗜好性の面、栄養素や機能性成分の有効利用という面からも、特に優れた乾燥食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。甜菜(てんさい、Beta vulgaris var. rapa)は、サトウダイコン又はビートとも呼ばれるアカザ科の植物で、ヨーロッパ原産の野生種から改良されたもので、日本では本州北部、北海道等で栽培される多年草である。草丈60〜90cmで、根は白〜黄白色、肉質で紡錘形に肥大する。根際から長い柄のある長卵形の葉が群生し、葉質は厚い。根はショ糖を15〜18%含み、甜菜糖(ビートオリゴ糖)の原料となる。本願乾燥食品の原料となる葉や茎部にもビートオリゴ糖や食物繊維、ビタミン、ミネラル等の栄養素や機能性成分が含まれている。特に、ビートオリゴ糖中には機能性成分であるラフィノースが含まれており、栄養的に特に優れている。甜菜の葉、茎部の成分分析の結果を、他の野菜類の成分(五訂日本食品標準成分表より抜粋)と合わせて表1に示す。
【0010】
【表1】

【0011】
表1の比較から判るように、甜菜の葉、茎部では、糖質と食物繊維の合計量である炭水化物、特に糖質が多く、その他マグネシウムやビタミンB6等の栄養素が多く含まれており、特徴的な組成となっている。特に糖質が多いため、甘みがあり、そのまま摂取した時に嗜好性が優れたものとなる。
【0012】
本願の乾燥食品は、甜菜の葉及び/又は茎部を原料とし、乾燥処理したものであり、使用される葉や茎部は、農薬を使用した一般的な栽培方法による甜菜から得られるものを使用すればよいが、無農薬で栽培された甜菜であれば、葉や茎部に残留するおそれのある農薬による影響を心配する必要がなくなるので、本願発明では好ましく使用される。乾燥処理に用いられる一般的な方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥等の方法が挙げられるが、凍結乾燥法を用いると、熱による変質がなく、野菜が本来有する風味や色調も自然に近く、栄養成分や特性を損なうことなく、嗜好性に特に優れたものが得られるため好ましい。
【0013】
本願の乾燥食品は、その形態が微小固形状以上の大きさを有することが好ましい。この大きさよりも小さい、微細固形状や粉末状の形態だと、十分な食感が得られず、また見た目にも劣り、食品素材としての適用方法としては、水等の液体の懸濁させて摂取したり、他の賦形成分と合わせて製剤化させる等する必要があり、本願乾燥食品が有する優れた風味を十分に生かすことができない。具体的な大きさとしては、乾燥状態で、目の開きが3mmの篩を通過しない大きさを有することが好ましい。大きさの上限としては明確な規定はないが、最大の厚みとして5cm以下でないと、食品として摂取するのが難しくなる。好ましくは1.5cm以下とすると、摂取が容易で、サクサクとした食感が得られ、新たな食品素材として多様な用途に適用が可能となる。
【0014】
前記特定形態の乾燥食品を得るには、甜菜の葉及び茎部を原料の段階で好ましい大きさに細断し、それを乾燥処理するか、或いは、葉及び茎部のまま若しくは適当な大きさにカットしたものを乾燥処理し、乾燥品をカッター等を用いて好ましい大きさまで細断する方法が挙げられる。乾燥させてから細断する方法を用いた場合、微細末や微小粉末等が生じることがあるので、必要に応じて篩処理等によりこれらのものを除去することが好ましい。
【0015】
本発明の乾燥食品を製造する方法としては、風味、食感等の嗜好性や品質保持の点等から、甜菜の葉及び/又は茎部を細断した後、凍結乾燥処理するという方法が特に好ましい
方法として採用される。具体的には、まず甜菜の葉及び茎部を収穫した後、泥等を洗い落とすために、水洗いする洗浄工程を行う。この洗浄工程は25℃以下の水で行うと好適である。洗浄水としては、一般の飲用に適した水道水や井戸水であれば良いが、アルカリイオン水を用いると、甜菜の葉及び茎部の風味がさらに改善され、甜菜中のクロロフィルが安定なクロロフィリンに変換され、甜菜の鮮緑色を保持することが可能となるため好ましい。
【0016】
洗浄後、カッターやスライサー等を用いて、適当な大きさ、例えば5cm以下、好ましくは1.5cm以下の大きさに細断する工程を行う。
【0017】
また、必要に応じてブランチング処理を行っても良い。ブランチング処理は、例えば約80〜100℃の熱水に30秒〜60秒さらす方法により、殺菌と酵素の失活処理を行い、以後の工程において、酵素による褐変反応を防止するための処理である。このブランチングに供する熱水に塩類を加えることにより、甜菜の細胞組織を凍結乾燥後も良好に保持させることが可能である。但し、塩類が凍結乾燥後も残ることから、健康に特に留意する場合は特に行う必要はない。
【0018】
細断工程が終了したら、なるべく時間を置かずに、−20℃以下に設定された雰囲気下、例えば−20℃以下に設定された公知の冷凍庫で凍結する工程を行う。この凍結工程は、氷晶が生じないように、−30℃以下に設定された雰囲気下で、さらに好ましくは−40℃以下に設定された雰囲気下で、急速凍結すると好適である。凍結後、真空乾燥により凍結乾燥する。凍結乾燥は、一般的な凍結乾燥の条件であれば実施可能であるが、例えば真空度としては、1.0〜0.01mmHgの範囲とするのが好ましい。
【0019】
本願発明の乾燥食品は、乾燥処理を施しているため、元の食品素材に比べて、味覚的にも風味が増強され、新たな食感も得られる。本願発明の乾燥食品は、そのまま食しても十分に美味であり、野菜の摂取不足を補う補助健康食品として、そのまま摂取しても、味付け若しくは風味付け処理を施して更に嗜好性を高め、おつまみやスナック食品として摂取することも可能である。また、トッピング剤、ふりかけ、お茶漬けの具等として、その風味を生かして他の食品と共に摂取することも可能である。更に麺類、スープ等のインスタント食品の具材としても適用が可能である。
【0020】
本願発明の乾燥食品は、嗜好性に優れているために日常的に継続して摂取することが可能であり、野菜の摂取不足を補う補助食品、健康食品として摂取させることができる。摂取量としては、個人の好みに応じて適当量を摂取すれば良いが、目安としては、成人で1日当たり本願乾燥食品として0.5g〜10g、又は原料である甜菜の葉及び/又は茎部の湿重量として5g〜100gに相当する量を、1回又は複数回に分けて摂取させるのが好ましい。この範囲であれば、無理なく摂取が可能であり、野菜類の摂取不足を効果的に補うことが可能であり、栄養的にも優れ、健康の維持・増進に優れた効果を発揮させることができる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
収穫した甜菜の葉及び茎部を、水洗いして水切りを行い、長さ1.5cmに切り揃えた。切り揃えた甜菜を−40℃に設定されたフリーザーに入れ、凍結工程を行った。そして1.0mmHgの条件下で真空乾燥を行い、凍結乾燥品を得た。
【0023】
比較例1〜5
実施例1と同様にして、ニンジン、ほうれん草、小松菜、ニガウリ、セロリを原料としてそれぞれ凍結乾燥品を調製し、比較例1〜5とした。
【0024】
以下の評価方法に従って、実施例1及び比較例1〜5の凍結乾燥品の官能評価を行った。
【0025】
(評価方法)
実施例1及び比較例1〜5の凍結乾燥品を、20名のパネラーに食してもらい、食感、嗜好性に係る5つの評価項目について、表2の評価基準に従って評価してもらった。20名のパネラーの評点の平均点をそれぞれの項目における評価点とした。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例1及び比較例1〜5の凍結乾燥品の、各評価項目についての評価点を表3に示す。表3から明らかなように、本願発明品である甜菜の葉及び茎部の凍結乾燥品は、他の野菜素材と比較して、サクサクとして食感に優れ、嗜好性に関しても全ての項目において優れていることが分かった。また、実施例1の本願発明品は、ざらつき感等の口に残る違和感も感じられなかった。
【0028】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明により、従来利用されていなかった甜菜の葉や茎部を用いて、青臭さや苦味がなく嗜好性に優れ、野菜が本来有する風味や色調も自然に近く、栄養成分や特性を損なうことなく摂取可能で、その有用な栄養成分を有効に利用することができる有用な乾燥食品が提供でき、該乾燥食品を日常的摂取することで、不足しがちな野菜類の摂取を補うことが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甜菜の葉及び/又は茎部を原料とし、乾燥処理することを特徴とする乾燥食品。
【請求項2】
甜菜が無農薬で栽培されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の乾燥食品。
【請求項3】
乾燥処理が、凍結乾燥処理であるであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乾燥食品。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の乾燥食品を、成人1日当たり0.5g〜10g摂取させることを特徴とする野菜の摂取方法。

【公開番号】特開2007−28931(P2007−28931A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213518(P2005−213518)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】