説明

乾癬治療の方法

薬学的に有効な量の組成Dunaliella粉末の対象への経口投与を含む、乾癬に罹患した患者における、乾癬治療のための方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は乾癬治療の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾癬は、世界人口の約2〜3%が発症する慢性皮膚疾患である。現在、乾癬は根治せず、患者個人の生活の質への影響は破壊的である。人々はしばしば、生涯を通じて炎症と寛解を経験する。新しい生物学‐免疫学的療法が開発されてきているが、全身的に乾癬を治療する主な方法は、メトトレキサート、シクロスポリンおよび経口レチノイドを含む。それぞれの治療は利点および欠点があり、ある患者に有効であるものが、別の患者には有効でない場合がある。
【0003】
1930年代以来、ビタミンA欠乏は皮膚の角化症(フリノデルマ:phrynoderma)を引き起こすことが知られており、早くも1960年代より、合成ビタミンAが、毒性に対する有効性の比率が低いにも関わらず、乾癬治療のために使用されてきた。さらなる研究の結果として、レチノイドの第二世代であるモノ芳香族レチノイドである、エトレチナートおよびその代謝物であるアシトレチンが開発された。エトレチナートおよびアシトレチンは、乾癬と角化異常および皮膚ループスに対して高い全身性の治療効果がある。しかしながら、レチノイド療法の臨床的な成功が示されたにもかかわらず、この療法は重大な潜在毒性、特に肝機能亢進およびトリグリセリドならびにLDL-コレステロール上昇を有しており、閉鎖実験室管理を要する。さらに、レチノイドの第一の副作用である奇形発生は、大きな懸念のままである。
【0004】
乾癬にはいくつかの形態があり、存在している乾癬がどの型およびどの複数の型であるかを皮膚科医が視覚的に同定できる固有の特徴を、各形態が有している。時々、診断を確認するために皮膚生検が実施され得る。乾癬の主要な型は以下を含む。
・プラーク乾癬(数インチの発赤部位が、銀色の鱗屑に覆われている)
・膿疱性乾癬(発赤した皮膚上の非感染性の膿の水疱)
・関節性乾癬
・滴状乾癬(皮膚上の小さな赤い斑)
・逆または曲げ乾癬(鼠蹊部、腋下、乳房下などの摩擦部位における光沢のある赤いパッチ)
・乾癬性紅皮症(皮膚の大部分の発赤及び鱗屑)
【0005】
治療は、乾癬の重篤度及び型による。いくつかの乾癬は軽度であるので、ヒトはその状態に気づかない。少数は、病変が身体の大部分を覆い、入院が必要であるような非常に重篤な乾癬を発症する。これらは極端なものを示している。乾癬は多くの場合、中間のどこかに収まる。
乾癬治療は3つの分類に収まる。
・局所的(皮膚への塗布)-軽度から中程度の乾癬
・光線療法(光、通常は紫外線を皮膚に当てる)-中程度から重度の乾癬
・全身性(経口または注射もしくは注入による摂取)-中程度、重度、身体障害性乾癬
【0006】
Bollag, W.およびOtt, F.は、Dermatology 199:308-312(1999)において、経口9-シス-レチノイン酸での慢性的な手の湿疹の治療を記載している。当該論文は、「乾癬は、耐容性が良好な用量の経口9-シス-レチノイン酸には奏功しない」と述べている。
【0007】
Perter C.M.およびvan de Kerkhofは、Dermic Therapy 19:252-263(2006)において、乾癬治療のための、アシトレチン(SSORIATANE(登録商標)、Roche Pharmaceuticals)第二世代経口全身性レチノイドの使用を記載している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bollag, W.およびOtt, F.(1999)Dermatology 199:308-312
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の態様において、本願発明は、薬学的に有効な量の粗製(crude)Dunaliella粉末の対象への経口投与を含む、対象の乾癬治療の方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願発明に従った活性成分は、実質的に粗製のDunaliella藻類調製物、具体的には乾燥Dunaliella藻類である。「粗製」という用語は、Dunaliella藻類から得た、抽出物または精製された化合物を除くことである。Dunaliella藻類は、好ましくはDunaliella bardawilである。その他の種は、D.salina、D.viridis、D.peircei、D.parva、D.media、D.euchlora、D.mimuta、D.tertiolecta、、D.primolecta、D.acidophila、D. quartolectaおよびD.polymorphaを含む。
【0011】
好ましい実施態様においては、実質的に粗製のDunaliella藻類調製物が、β-カロテン(BC)9-シス異性体の、all-トランス異性体に対する比が約1:1、または、BCの9-シス異性体のall-トランス異性体に対する比が1:1より大きいBCを含む。
【0012】
本願明細書における「治療すること」または「治療」という用語は、疾患の病理学的な症状の改善、および、場合によっては疾患の治癒をもたらすものとして理解されるべきである。対象の、乾癬の治療的処置の効果は、治療前、治療中、治療後のあらゆる時点において以下の一つまたは複数によって評価され得る:乾癬部位および重篤度指標(PASI);皮膚を覆う乾癬部位の割合(%);皮膚科学的生活水準指標(Dermatology Life Quality Index;DLQI);患者による乾癬活性の全体的評価(Patient Global Assessment of Psoriasis Activity;PGA)および医師による乾癬の全体的評価(Physician Psoriasis Global Assessment;PGA)。疾患の重篤度は、病理学的技術などの様々な従来の方法によって決定され得る。
【0013】
「有効な量」とは、望ましい治療的な効果、すなわち示された疾患の治療を達成する、活性成分の量または用量として理解されるべきである。有効量は、疾患の重篤度、投与計画(例えば、調製物は単回投与か、一定期間にわたる数回投与か)、対象の身体的状態;その他、を含む様々な要因に依存する。当業者は、困難なく最小限の実験で各症例の有効量を決定するべきである。本願発明のある実施態様において、予測用量は一日当たり1から6カプセルで、カプセルあたりのDunaliella粉末は300mgであり得る。
【0014】
粗製Dunaliella粉末は、好ましくは経口、例えばカプセル化された形態で投与される。しかしながら、その他の全身性の非局所的な投与の形態、例えば、許容可能な賦形剤と共に調合された静脈内、筋肉内、腹腔内または皮下への投与用のDunaliella粉末が考慮される。
【0015】
本願発明の第二の態様においては、粗製Dunaliella粉末を含む、対象における乾癬治療用の医薬組成物が提供される。
【0016】
本願発明の第三の態様においては、対象における乾癬治療用医薬組成物の調製のための、薬学的に有効な量の粗製Dunaliella粉末の使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本願発明を理解するため、および、実際にはどのように実施され得るのか理解するため、添付の図面を参照にして、実施例のみに限定しない方法で、実施態様を記述する:
【図1】図1は、Dunaliella治療の6および12週後の治療群ならびに対照群における乾癬の部位および重篤度指標(Psoriasis Area of Severity Index;PASI)平均の減少を示す棒グラフである;
【図2】図2は、Dunaliella治療の12週後の治療群ならびに対照群における、PASI50%およびPASI75%に到達した患者の割合(%)を示す表である;
【図3】図3は、Dunaliella治療の6および12週後の治療群ならびに対照群における、皮膚科学的生活水準指標(Dermatology Life Quality Index;DLQI)の平均の減少を示す棒グラフである。
【実施例】
【0018】
<実施例の詳細な記述>
以下に記述したヒトにおけるすべての調査は、以下の通り調製した乾燥Dunaliella粉末を含むカプセルを使用した。
【0019】
Dunaliella bardawil(以下Dbとする)は、大きな50000平方メートルの広い海水池において成長、栽培され、9-シスおよびall-トランスβ-カロテン(以下BCとする)異性体の重量比率が約1:1である、または、9-シスとall-トランスBC異性体が約1:1より大きい重量比で、約8重量%のBCを含む藻が得られた。藻を遠心分離することによって凝縮したペーストとして採取した。ペーストを洗って塩を除いて滅菌し、その後、スプレー乾燥させて、約8%のBCと5%未満の水分を含むDb粉末を得た。粉末は、藻のすべての天然成分と共に15〜20mgのBCを含む250〜300mgの藻としてカプセル内に包装された。BCのカプセルは、元の異性体比率を保っている。カプセルは真空でブリスター包装され、三年間までの保存期間を有する。
【0020】
〈実施例1〉
〈患者と方法〉
調査は、無作為調査、二重盲検調査およびビヒクルコントロール調査であった。適する患者は18歳以上で、安定的で活性のあるプラーク乾癬に、体表面(Body surface area:BSA)の10%以下が侵されていた。除外基準は:重篤もしくは不安定な医学的もしくは生理学的状態、活性な肝臓もしくは腎臓疾患、喫煙、過去一年以内のアルコールまたは薬物乱用歴、妊娠、または妊娠する予定がある、ことであった。乾癬に対する局所治療、光療法または全身性療法は、皮膚軟化剤を除き、前記調査を通じて禁止された。患者、調査者およびすべての調査スタッフは、治療の割り当てを知らなかった。
【0021】
患者は無作為に、二つの群に分けられた:22人の対象はDunaliellaカプセルで治療され、11人の対象(対照)は、プラセボとしてスターチ粉末を含むカプセルで治療された。治療用量は、4錠のalga D.bardawil(日建総本社、岐阜、日本)で、朝食後2錠、夕食後2錠である。各カプセルには、9-シスβ-カロテンのall-トランスβ-カロテンに対する比率が約1:1である、β-カロテン15〜20mgが含まれた。
【0022】
施設内治験審査委員会および倫理委員会は、調査プロトコールを承認した。書面によるインフォームド・コンセントは、関連する手続きの開始前に患者から得られた。
【0023】
<臨床的効果の評価>
臨床的応答の測定の際、PASI(Psoriasis Area and Severity Index)値は、治療割り当てを知らない調査者により、ベースライン、6週後および調査終了時(12週後)に与えられた。炎症の指標として、急性期タンパクC反応性タンパク(C-reactive protein:CRP)を市販のキット用いて、自動分析装(オリンパス)によって測定した。同様のスケジュールで、炎症のデジタル写真撮影を実施した。皮膚科学的生活水準指標(Dermatology Life Quality Index;DLQI)アンケートを用いて、0、6、12週後の患者の生活水準を評価した。
【0024】
<安全性および耐容性評価>
調査前訪問時、病歴を記録し、バイタルパラメータ(例えば、血圧、心拍数、体重および体温)を含む生理学検査を完了した。血液サンプルでは、全血球計算、肝臓および腎臓機能、空腹時脂質分析、9-シスβ-カロテンおよびall-トランスβ-カロテンの分析を、ベースラインおよび6ならびに12週後において行った。
【0025】
〈栄養評価〉
患者の食事摂取は、臨床栄養士の指導の下、経験豊かな看護師による24時間思い出し法で、12週間週3日ずつ、2日は週の中間に、1日は週末に行い、評価した。イスラエルのBeer-ShebaのBen-Gurion大学におけるInternational Center of Health and Nutritionの栄養データシステムによって、データの栄養内容を評価した。
【0026】
〈統計分析〉
対応のあるt検定またはウイルコクソンの符号付き検定をノンパラメトリック変数に対して用い、Dunaliella投与前後のヒト群の結果を比較した。ピアソンの相関検定を用い、変数間の関連性を検出した。統計検定はすべて両側で行った。P<0.05は統計的に有意であるとして受け入れられた。
【0027】
〈結果〉
〈有効性〉
33人の患者が集められた。7人の患者は、定期的には治療セッションに参加しなかった、または、調査必要条件に適合せず、評価から除外された。26人の患者が調査を完了した;彼らの中で、15人がDunaliellaで、11人が対照のプラセボ錠剤で治療を受けた。2つの患者群の特徴を表1に示す。これら治療群は、デモグラフィックおよび疾患の特徴がベースラインで類似していた。試験を完了したすべての患者は、患者インタビューおよび錠剤数によって求めたところ、少なくとも85%治療計画に従っていた。結果を図1および2にまとめる。
【0028】
【表1】

【0029】
1日2回の治療の6週後、Dunaliella治療群の患者においては、PASI値がベースラインから有意に減少したが、一方対照群では有意には至らなかった(各々、P=0.04対P=0.6)。類似の結果は、12週間の治療後でも得られた(各々、P=0.004対P=0.07)。12週の治療後、PASI50%に到達した患者数は、Dunaliella治療群では80%であり、対照群では45%であった。12週間の治療後、PASI75%に到達した患者数は、Dunaliella治療群では40%であり、対照群では27%であった。患者の生活水準へのDunalielaの効果を評価するため、DLQIアッセイを実施した。結果を図3にまとめた。ベースラインから6および12週後までの平均的変化は、Dunaliella治療群では各々12および27.6であった(12週後でP=0.009)。対照群では、平均的変化は各5.9および-21.9であった(12週後でP=0.93)。
【0030】
炎症の代用マーカーとして、CRPレベルをベースラインおよび6ならびに12週後で分析した。CRPの有意な減少は、Dunaliella治療群で見いだされたが、対照群では見いだされなかった。
【0031】
従って、Dunaliellaでの治療は、乾癬患者において、有意な改善となる結果であった。
【0032】
〈安全性〉
調査全体において、治療関連の有害な現象は起こらなかった。Dunaliella治療群において、一人の患者が経皮経管的冠動脈血管形成手術中に心筋梗塞を起こし、緊急冠動脈バイパス手術を行った。対照群においては、一人の患者が原因不明で気絶した。Dunaliella治療群の二人の患者が、髪の伸長が加速したことおよび髪色が濃くなったことを報告した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に有効な量の粗製Dunaliella粉末の対象への経口投与を含む、乾癬に罹患している対象における乾癬治療の方法。
【請求項2】
粗製Dunaliella粉末が、β-カロテン(BC)の9-シスおよびall-トランス異性体を約1:1の重量比、または、BCの9-シスおよびall-トランス異性体を約1:1より大きい重量比で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Dunaliella粉末がカプセル化されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
Dunaliellaが、Dunaliella.bardawil、D.salina、D.viridis、D.peircei、D.parva、D.media、D.euchlora、D.minuta、D.tertiolecta、D.primolecta、D.acidophila、D.quartolectaまたはD.polymorphaから成る群より選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
粗製Dunaliella粉末を含む、対象における乾癬治療のための医薬組成物。
【請求項6】
粗製Dunaliella粉末が、β-カロテン(BC)の9-シスおよびall-トランス異性体を約1:1の重量比、または、BCの9-シスおよびall-トランス異性体を約1:1より大きい重量比で含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
Dunaliella粉末がカプセル化されている、経口投与のための請求項5または請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
Dunaliellaが、Dunaliella.bardawil、D.salina、D.viridis、D.peircei、D.parva、D.media、D.euchlora、D.minuta、D.tertiolecta、D.primolecta、D.acidophila、D.quartolectamaまたはD.polymorphaから成る群より選択される、請求項5から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
対象における乾癬治療のための医薬組成物を調製するための、薬学的に有効な量の粗製Dunaliella粉末の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−513599(P2013−513599A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542685(P2012−542685)
【出願日】平成22年12月5日(2010.12.5)
【国際出願番号】PCT/IL2010/001026
【国際公開番号】WO2011/070568
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(399127603)株式会社日健総本社 (19)
【出願人】(504277012)テル・ハシヨメル・メデイカル・リサーチ・インフラストラクチヤー・アンド・サービシズ・リミテツド (4)
【Fターム(参考)】