説明

予後および治療標的として卵巣癌で調節される遺伝子

本発明は、組織または血液試料から患者における卵巣癌の存在を検出するためのゲノム解析の使用およびこの測定を実施するためのキットに関するものである。さらに本発明は、卵巣癌患者の処置方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に属し、ゲノム解析の使用による卵巣癌の評価および処置に関するものである。特に、本発明は、遺伝子発現パターンの測定による患者組織における卵巣癌の存在の決定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
卵巣癌は、合衆国における女性が罹患する癌の最も多いタイプの一つであり、生涯発癌リスクは1/70である。Whittemore、Gynecol.Oncol.、第55巻、3号、2部、S15−S19頁(1994)参照。卵巣癌は通常発見が遅れがちな、急速に死に至る病気であり、依然として良い予防方法は無い。卵巣癌にとっての最大の危険因子は、病気の家族歴であることから、遺伝的性質の影響が強いと思われる。Schildkrautおよび Thompson、Am.J.Epidemiol.、128巻、3号、456−466頁(1988)参照。他の因子、例えば人口統計学、生活様式および生殖因子もまた、卵巣癌のリスクの一因であることが示されている。
【0003】
卵巣生検およびセルラインの幾つかのマイクロアレイ発現解析を実施することにより、卵巣癌において特異的に過剰発現される遺伝子が同定された。Schummer et al.、Gene、238巻、2号、375−385頁(1999)参照。他の試験も試みることにより、遺伝子発現レベルと特異的腫瘍型との相関関係が明らかにされた。Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98巻、3号、1176−1181頁(2001)、および Ono et al.、Cancer Res.、60巻、18号、5007−5011頁(2000)参照。
【0004】
これらの種類の試験は、腫瘍発生の分子機構に関する我々の理解を深め、場合によっては腫瘍の分類を改善することを目的としたもので、解析間でのオーバーラップがほとんど無い遺伝子のリストを提供している。技術的な差異の中には、試料の品質、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)の増幅および異なるマイクロアレイプラットホームといった試験間における一貫性の見かけ上の欠如または低い再現性を部分的に説明し得るものもある。しかしながら、腫瘍の異質性は、試験間、特に少しの腫瘍しか分析されていない試験間で観察される差異の一因となる重要因子であると思われる。さらに、マイクロアレイ実験における遺伝子発現レベルの比較は、歴史的にはシグナル強度の比率(比率変化)を用いて行なわれてきたが、統計学的方法の使用は限られ、追加試料による確認は欠如している。
【0005】
しかしながら、見かけ上高レベルで発現されるか、または発現の変化が最大である遺伝子が、必ずしも最も関連性があるとは限らないものであり得る。発現レベルが低いときでも、遺伝子の非常に堅固な調節の小さな崩壊が劇的な結果をもたらし得ることも考えられる。
【0006】
すなわち、発現速度が卵巣癌において一貫性および信頼性のある形で改変されている遺伝子の同定が要望されている。かかるリストであれば、卵巣腫瘍発生および進行についての新たな考察を提供し、可能性のある新規薬剤標的、および病気の診断、モニターおよび処置を目的とするバイオマーカーを示唆できるはずである。
【発明の開示】
【0007】
本発明においては、統計学的試験および最近報告された1点除外(leave-one-out)法[van't Veer et al.、Nature、415巻、6871号、530−536頁(2002)参照]の組合わせを適用することにより、腫瘍および正常卵巣組織の発現プロファイルが分析され、これらのパターンについても、限定するわけではないが、血液および血清を含む様々な体液における遺伝子発現産物で測定され得る。van't Veer et al.、前出参照。
【0008】
2つの独立した試料セット、すなわち試験セットおよび確認セットの試験により、卵巣腫瘍発生に伴う幾つかの既知遺伝子の関与が確認されるだけでなく、新規遺伝子が同定される。これらの発見は、卵巣腫瘍発生および進行についての新たな考察をもたらすもので、可能性のある新たな薬剤標的、および病気の診断および監視を目的とするバイオマーカーが示唆される。
【0009】
一実施態様において、本発明は、患者が卵巣癌に罹患しているか否かの測定方法であって、
a)患者から試料を得、
b)患者からの試料において表9に列挙した遺伝子の2個またはそれ以上の遺伝子発現レベルを測定し、
c)(b)で測定した2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベルを表1に列挙した同遺伝子のレベルと比較し、
d)(c)で測定した2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベル間における類似度(DOS)を測定し、そして
e)2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベル間におけるDOSから、試料が患者における卵巣癌の存在の証拠を示す確率を測定する
ことを含む方法を提供する。
【0010】
好ましい実施態様において、本発明は、表9における遺伝子番号1〜28を含む表9に列挙した遺伝子のサブセットについて遺伝子発現レベルを測定する方法を提供する。
【0011】
別の実施態様では、本発明は、患者から得た細胞を含む試料を用いる。これらは、患者における固体腫瘍から取出した細胞であり得るか、または好ましい実施態様では、試料は患者から抜取った血液細胞および血清を含む。最も好ましい実施態様において、試料は患者から抜取った体液を含む。
【0012】
好ましい実施態様において、本発明は、患者からの試料におけるタンパク質発現産物のレベルの測定を含む遺伝子発現レベルの測定方法を用いる。これは、限定するわけではないが、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いたタンパク質発現産物の存在およびレベルの検出を含む様々な方法で行われ得、この場合、試薬は、抗体、抗体誘導体および抗体フラグメントから成る群から選択され得る。
【0013】
別の実施態様において、本発明は、表9における2個またはそれ以上の遺伝子の転写ポリヌクレオチドの試料中におけるレベルを測定することにより、試料における発現レベルを評価する方法を提供する。これらの転写ポリヌクレオチドは、mRNAまたは相補的DNA(cDNA)であり得る。
【0014】
好ましい実施態様において、この方法は、さらに転写されたポリヌクレオチドの増幅段階を含む。
【0015】
別の実施態様において、本発明は、卵巣癌に罹患した対象の処置方法であって、表8に示した発現が卵巣癌でアップレギュレーションされる遺伝子の1個またはそれ以上と相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを対象の細胞に供給することを含む方法を含む。
【0016】
さらに、本発明は、卵巣癌発症の危険性がある対象における卵巣癌の阻止方法であって、卵巣癌でアップレギュレーションされる表8に示した遺伝子の1個またはそれ以上の発現を阻害することを含む方法を提供する。
【0017】
本発明はまた、卵巣癌の疑いがある患者についての治療戦略の決定に使用されるキットであって、
a)表9における遺伝子の2個またはそれ以上のポリペプチド発現産物を認識し、それに結合し得る多数(例えば、2個またはそれ以上)の抗体、
b)抗体および個体からの体液試料を含むのに適したもので、表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子が存在する場合、抗体をそれらにより発現されたポリペプチドと接触させ得る容器、
c)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子により発現されたポリペプチドと抗体の組合わせを検出する手段、および
d)使用およびキットの結果の解釈についての説明書
を含むキットを提供する。
【0018】
別の実施態様において、本発明は、患者における卵巣癌の存在または非存在の決定に使用されるキットであって、
a)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子のmRNA発現産物を認識し、それに結合し得る多数(2個またはそれ以上)のポリヌクレオチド、
b)ポリヌクレオチドおよび個体からの体液試料を含むのに適したもので、mRNAが存在する場合、ポリヌクレオチドをそれと接触させ得る容器、
c)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子からのmRNAとポリヌクレオチドの組合わせのレベルを検出する手段、および
d)使用およびキットの結果の解釈についての説明書
を含むキットを提供する。
【0019】
図面の簡単な説明
図1(A)。プローブセットの増加数を用いた試料の再分類。
【0020】
図1(B)。分類遺伝子の最適数決定に関するプローブセットの数の関数としての誤差のプロット。上限6から上限55(A)または全900(B)までの個々のプローブセットの増加数による計算値。矢印は、誤分類を最小限にするプローブセットの最小数(N=28)を示す。
【0021】
図2。卵巣状態の分類についての閾値CC値の測定。
【0022】
図3。異なるサイズのプローブセットに関する試験および確認生検プロファイルと平均正常プロファイルの相関関係。NまたはTは、それぞれ正常または腫瘍状態を表す。「r」は、平均正常プロファイルをもつ対応する生検試料(1群)のプローブセットプロファイルのPCC値である。試料を最高CCから最低まで順序づけている。
【0023】
図4。異なるサイズのプローブセットについての全正常プロファイルの平均と生検プロファイルの相関関係。NまたはTは、それぞれ正常または腫瘍状態を表す。「r」は、全正常試料の平均プロファイルをもつ対応する生検試料のプローブセットプロファイルのPCC値である。試料を最高CCから最低まで順序づけている。
【0024】
発明の実施方法
本発明は、限定するわけではないが、患者からの生検組織または血液、血清または他の体液を含む患者からの試料が、患者における卵巣癌の存在の証拠を含むか否かを測定する方法を提供する。
【0025】
本発明は、一部には、正常組織との比較による、卵巣癌からの組織で特異発現される約900遺伝子の発見に基いている。この本発明方法は、正常組織との比較による、卵巣癌で特異発現されることが示されている約900またはそれより少ない遺伝子の活性の測定を含む。
【0026】
好ましい実施態様においては、900遺伝子のうちの小さなフラクションのみを測定する。様々な実施態様で、これらの測定は、生検などからの組織自体におけるものであり得、または好ましい実施態様においては、限定するわけではないが、血液または他の体液を含む様々な組織におけるcRNAまたはポリペプチド発現産物を含む遺伝子発現のさらに間接的な測定として実施され得る。
【0027】
次いで、組織状態が未知である個体から得たこれら900遺伝子の2個またはそれ以上の発現割合の直接的または間接的測定結果は、卵巣癌組織または正常組織で測定された同じ2個またはそれ以上の遺伝子についての発現値と比較され得る。
【0028】
次いで、癌組織対正常組織に対して未知の2個またはそれ以上の遺伝子発現値の「類似度」(DOS)を測定する。
【0029】
このDOSは、得られる値が、2群の数、すなわち卵巣癌状態が未知であり、測定されるべき個体からの組織における2個またはそれ以上の遺伝子について測定した遺伝子発現値および組織が卵巣癌を含むことが判明している個体および組織が卵巣癌を含まないことが判明している個体からの同じ2個またはそれ以上の遺伝子について測定した遺伝子発現値の間におけるDOSの既知関数であるという結果をもたらす手順により測定され得る。
【0030】
本明細書で使用されている「DOS」の語は、直接的または間接的方法により決定された遺伝子発現値の比較により測定される、遺伝子発現値のパターンが同様であるかまたは数値的に類似している程度をいう。
【0031】
好ましい実施態様では、DOSは、相関係数(CC)をもたらす数学的計算により決定される。特に好ましい実施態様では、ピアソン相関係数(PCC)を決定するが、得られる値が2群の数の間におけるDOSの既知関数であるという結果を生じるものであれば他の数学的手順でも使用され得る。
【0032】
次いで、かくして算出されたDOS(PCC)の値は、組織試料が、卵巣癌に罹患している場合または罹患していない場合の患者からのものである確率と直接関連付けられ得る。すなわち、患者のDOS(CCまたはPCC)が、卵巣癌に罹患していない患者からの遺伝子発現値と比べて高いとき、またはDOS(CCまたはPCC)が、卵巣癌ではない患者からの遺伝子発現値と比べて高いとき、患者が卵巣癌に罹患していない場合または罹患している場合の確率はそれぞれ大きくなる。
【0033】
すなわち、所定の症例において、DOSの値を用いることにより、卵巣癌の存在確率が決定され得る。当業者であれば、各患者についての臨床環境によりカットオフとして使用されるかまたは特異的患者に関して臨床的決定を下す助けとなるDOS(PCC)の値が決定されることは理解できるはずである。例えば、一実施態様では、最適な精度で卵巣癌患者の一群の数を測定することが望ましい。これは、偽陽性(卵巣癌有りとして誤分類された卵巣癌無し)を最小限にすると同時に偽陰性(卵巣癌無しとして誤分類された卵巣癌有り)を最小限にすることを意味する。
【0034】
本発明の好ましい一実施態様では、これは、28予測プローブセット(下記)を用いて、図3に示されている通りの結果を生じ、遺伝子発現プロファイルがCC≦0.920で平均正常(卵巣癌無し)プロファイルと相関関係を示す場合、組織試料は、CC>0.920の場合より63倍高い確率[オッズ比(OR)=63、95%信頼区間(CI):3.3−1194.7]で卵巣癌を含むと思われる。
【0035】
本発明の一実施態様でこの閾値を使用するため、遺伝子発現プロファイルが、平均非卵巣癌発現プロファイルとの比較時に>0.920のPCCに達する患者は、非卵巣癌群に分類され、卵巣癌に罹患していないと推測され、発現プロファイルが≦0.920のPCCであった患者は、卵巣癌群に分類され、高い確率で卵巣癌に罹患していると推測される。
【0036】
さらなる好ましい実施態様において、PCCは最適感度を生じるように設定され得る。すなわち、偽陰性(卵巣癌無しと誤分類された卵巣癌有り)となり得る数を最小限に抑える。かかる最適感度設定は、卵巣癌発現の可能性を達成可能な最大の確実性でもって排除しなければならない状況で指示される。この実施態様において、閾値は、PCCを>0.955に設定することにより決定される。この場合、与えられた例において、表9に示した28予測プローブ(表9に示したプローブセット1〜28)を用いると、非卵巣癌群と比べてCCが>0.955である患者の100%は卵巣癌に罹患しておらず、非卵巣癌群と比べてCCが<0.870である患者の100%は卵巣癌に罹患していた。
【0037】
実施例で示したところによると、当業者であれば、感度を最大にするかまたは特異性を最大にするかまたは偽陽性または偽陰性の率を望ましいものにするPCCを選択できるはずである。当業者であれば、容易に臨床的状況に合わせてPCCの選択を調節することにより、最大の恩恵および安全性を患者に提供できるはずである。
【0038】
本発明の別の側面は、卵巣癌の処置方法である。これらの方法は、卵巣癌でアップレギュレーションされることが見出された遺伝子の過剰な遺伝子発現を抑制する様々な努力により構成される。これらの遺伝子は表8に示されている。これらの遺伝子の過剰な発現を減少させる方法には、限定するわけではないが、アンチセンスDNA、siRNAの使用およびこれらの過剰発現遺伝子のタンパク質発現産物を複合させ不活化する方法がある。
【0039】
測定方法
本発明の実施態様の中には、900遺伝子の選択された群の遺伝子発現を、下記の通り組織試料からのmRNAレベルを測定することにより決定する場合もある。
【0040】
実施態様の中には、限定するわけではないが、腫瘍および血液組織を含む組織においてポリペプチド遺伝子発現産物を測定することにより、遺伝子発現をより間接的に測定し得るものもある。
【0041】
実施態様の中には、表9に列挙した遺伝子の一つによりコード化される1種またはそれ以上のタンパク質の存在または量を同定することにより、遺伝子発現を測定する場合もある。
【0042】
本発明はまた、興味の対象である2種またはそれ以上のマーカー、例えば表2からの2種またはそれ以上のマーカーを検出するシステムを提供する。例えば、特定マーカーの限られたセットが関連性のある情報を提供すると決定されている場合、限られたセットのマーカーを検出する検出システムが提供される。例えば、一般的なマイクロアレイにより組織で発現される全遺伝子を検出するのとは反対に、特定されたマイクロアレイまたは他の検出技術を用いることにより、生物学的状態、例えば卵巣癌の存在または非存在などを特定する複数、例えば28、42などのマーカーを検出する。
【0043】
本発明が、遺伝子発現バイオマーカーが検出または測定される方法により制限されることは無い。実施態様によっては、mRNA、cDNAまたはタンパク質を、組織試料、例えば生検試料で検出する場合もある。他の実施態様では、mRNA、cDNAまたはタンパク質を、体液、例えば血清、血漿、尿または唾液で検出する。本発明の好ましい実施態様によると、本発明方法はエクスビボで実施される。さらに本発明は、これら関連性のある遺伝子発現バイオマーカーを検出するためのキットを提供する。
【0044】
好ましい実施態様の中には、タンパク質またはポリペプチド発現産物を検出するものもある。タンパク質発現は、適切な方法により検出され得る。実施態様によっては、タンパク質に特異的な抗体の結合によりタンパク質を検出する場合もある。例えば、実施態様によっては、限定するわけではないが、ラジオイムノアッセイ、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)、「サンドイッチ」免疫検定法、免疫放射線検定法、ゲル拡散沈澱反応、免疫拡散検定法、例えばコロイド状金、酵素または放射性同位元素標識を用いる、in situ免疫検定法、例えばウエスタンブロット、沈澱反応、凝集検定法、例えばゲル凝集検定法、血球凝集反応検定法など、補体固定検定法、免疫蛍光検定法、プロテインA検定法、免疫電気泳動検定法およびプロテオーム検定法、例えばゲル電気泳動結合質量分析法の使用による試料中の多タンパク質の同定を含む適切な技術を用いて抗体結合を検出する場合もある。
【0045】
一実施態様において、一次抗体における標識を検出することにより、抗体結合を検出する。別の実施態様では、一次抗体への二次抗体または試薬の結合を検出することにより、一次抗体を検出する。さらなる実施態様では、二次抗体を標識する。免疫検定法において結合を検出するための多くの方法が当業界では知られており、本発明の範囲内に包含される。
【0046】
実施態様の中には、自動式検出検定法を使用する場合もある。免疫検定法の自動式方法には、限定されるわけではないが、米国特許第5885530号、同第4981785号、同第6159750号および同第5358691号に記載されたものがあり、これらの各々については、出典明示により援用する。実施態様の中には、結果の分析および提示についても自動化されている場合がある。例えば、実施態様によっては、マーカーに対応する一連のタンパク質の存在または非存在に基いて診断および/または予後を下すソフトウェアを使用する場合もある。
【0047】
他の実施態様では、米国特許第5599677号および同第5672480号(各々、出典明示により援用する)に記載された免疫検定法を使用する。他の実施態様では、タンパク質を免疫組織化学により検出する。さらに他の実施態様では、cDNAまたはRNAレベルでマーカーを検出する。
【0048】
本明細書で使用されている「遺伝子発現バイオマーカー」の語は、特異的遺伝子の遺伝子発現の割合または程度を示し得る生物学的マーカー、例えば限定されるわけではないが、特異的遺伝子のmRNA、cDNAまたはポリペプチド発現産物を全て包含するものとする。
【0049】
本発明の実施態様の中には、PCRに基く検定法を用いて遺伝子発現バイオマーカーを検出するものもある。さらに他の実施態様では、逆転写酵素PCR(RT−PCR)を用いてRNAの発現を検出する。RT−PCRでは、逆転写酵素を用いてRNAを酵素的にcDNAに変換する。次いで、cDNAをPCR反応についての鋳型として使用する。PCR産物は、限定されるわけではないが、ゲル電気泳動およびDNA特異的染料による染色または標識プローブへのハイブリダイゼーションを含む適切な方法により検出され得る。
【0050】
実施態様の中には、米国特許第5639606号、同第5643765号および同第5876978号(各々、出典明示により援用する)に記載された競合的鋳型方法の標準化混合法による定量的RT−PCRを使用する場合もある。
【0051】
本発明の好ましい実施態様では、ハイブリダイゼーション検定法を用いて遺伝子発現バイオマーカーを検出する。ハイブリダイゼーション検定法では、試料からの核酸が相補的核酸分子、例えばオリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイゼーションする能力に基いて、マーカーの存在または非存在を測定する。様々なハイブリダイゼーション検定法が利用可能である。
【0052】
実施態様によっては、興味の対象である配列へのプローブのハイブリダイゼーションを、結合プローブの視覚化、例えばノーザンまたはサザーン検定法により直接検出する場合もある。例えば、Ausabel et al.編、Current Protocols in Molecular Biology、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ、ニューヨーク(1991)参照。これらの検定法では、DNA(サザーン)またはRNA(ノーザン)を単離する。次いで、DNAまたはRNAを、ゲノムで開裂することが稀であり、検定されているマーカーのいずれにも近くない一連の制限酵素により開裂する。次いで、DNAまたはRNAを例えばアガロースゲルにおいて分離し、膜に移す。例えば放射性標識ヌクレオチドの組込みによる一標識プローブまたは複数標識プローブを、低度、中度または高度ストリンジェンシー条件下で膜と接触させる。未結合プローブを除去し、標識プローブの視覚化により結合の存在を検出する。
【0053】
実施態様によっては、DNAチップ検定法はジーンチップ(GeneChip、アフィメトリックス、サンタクララ、カリフォルニア)である。例えば、米国特許第6045996号、同第5925525号および同第5858659号(各々、出典明示により援用する)参照。ジーンチップ技術は、「チップ」に固定したオリゴヌクレオチドプローブの縮小型高密度アレイを使用する。プローブアレイは、固相化学合成法を半導体業界で使用されるフォトリソグラフィー製作技術と組合わせた、アフィメトリックスの光指向型化学合成方法により製造される。一連のフォトリソグラフィーマスクを用いてチップ暴露部位を特定した後、特異的化学合成工程を実施することによる製法で、アレイにおける予め特定された位置に各プローブを配置した、オリゴヌクレオチドの高密度アレイを構築する。多プローブアレイを大きなガラスウエハーにおいて同時に合成する。次いで、ウエハーを方形に切り、個々のプローブアレイを、環境からそれらを保護し、ハイブリダイゼーション用のチャンバーとしての役割を果たす射出成形したプラスチックカートリッジにパッケージする。
【0054】
分析すべき核酸を単離し、PCRにより増幅し、蛍光リポーター基で標識する。次いで、フルーイディックスステーションを用いて、標識DNAをアレイとインキュベーションする。次いで、アレイをスキャナーに挿入すると、ハイブリダイゼーションのパターンが検出される。プローブアレイに結合している、既に標的に組込まれていた蛍光リポーター基から放出された光として、ハイブリダイゼーションデータを集める。標的と完全にマッチするプローブは、一般的に誤対合を有するものより強いシグナルを発する。アレイにおける各プローブの配列および位置は既知であるため、相補性により、プローブアレイに適用された標的核酸の同一性が測定され得る。
【0055】
他の実施態様では、電子捕捉プローブを含むDNAマイクロチップ(ナノジェン、サンディエゴ、カリフォルニア)を使用する。例えば、米国特許第6017696号、同第6068818号、および同第6051380号(各々、出典明示により援用する)参照。超小型電子技術の使用を通じて、ナノジェンの技術は、その半導体マイクロチップ上の指定された試験部位へ行き交う荷電分子の活発な運動および集中を可能にする。所定の遺伝子発現バイオマーカーに特有なDNA捕捉プローブを、マイクロチップ上の特定部位に電子的に配置または「指向」させる。核酸分子は強い負電荷を有するため、それらを正電荷領域へ電子的に移動させ得る。
【0056】
さらなる実施態様では、表面張力の差異による平らな表面(チップ)上での流体の分離に基いたアレイ技術(プロトジーン、パロアルト、カリフォルニア)を使用する。例えば、米国特許第6001311号、同第5985551号、および同第5474796号(各々、出典明示により援用する)参照。プロトジーンの技術は、流体が、化学的コーティングにより付与された表面張力の差異により平らな表面上で分離され得るという事実に基づいている。一旦分離させると、オリゴヌクレオチドプローブを、試薬のインクジェット式印刷によりチップ上で直接合成する。
【0057】
さらに別の実施態様では、「ビーズアレイ」を遺伝子発現バイオマーカーの検出に使用する(イルミナ、サンディエゴ、カリフォルニア)。例えば、PCT公開WO99/67641号および同WO00/39587号(各々、出典明示により援用する)参照。イルミナは、光ファイバー束およびアレイへ自己集合するビーズを組合わせたビーズアレイ技術を使用する。各光ファイバー束は、束の直径によって何千から何百万の個々のファイバーを含む。ビーズを、所定のマーカーの検出に特異的なオリゴヌクレオチドでコーティングする。ビーズのバッチを合わせて、アレイに特異的なプールを形成させる。検定を実施するため、ビーズアレイを調製した試料と接触させる。ハイブリダイゼーションは、適切な方法を用いて検出される。
【0058】
本発明の好ましい実施態様の中には、特異的構造の酵素開裂によりハイブリダイゼーションを検出する場合もある、例えばインベーダー(INVADER、登録商標)検定法、サード・ウェーブ・テクノロジーズ。例えば、米国特許第5846717号、同第6090543号、同第6001567号、同第5985557号、および同第5994069号(各々、出典明示により援用する)参照。実施態様の中には、結合プローブのハイブリダイゼーションを、TaqMan検定法(PEバイオシステムズ、フォスターシティー、カリフォルニア)を用いて検出する場合もある。例えば、米国特許第5962233号および同第5538848号(各々、出典明示により援用する)参照。PCR反応中に検定を実施する。TaqMan検定法は、DNAポリメラーゼ、例えばAMPLITAQ DNAポリメラーゼの5'−3'エキソヌクレアーゼ活性を活用する。所定のマーカーに特異的なプローブをPCR反応に含ませる。プローブは、5'−リポーター染料、例えば蛍光染料および3'−クエンチャー染料を伴うオリゴヌクレオチドにより構成される。PCR中に、プローブがその標的に結合した場合、AMPLITAQポリメラーゼの5'−3'核酸分解(nucleolytic)活性により、リポーターおよびクエンチャー染料間でプローブが開裂される。クエンチャー染料からのリポーター染料の分離により、蛍光が増加する。シグナルは、各サイクルのPCRにより蓄積し、蛍光計でモニターされ得る。
【0059】
本発明のシステムおよび方法を用いて製造および使用される追加の検出検定法には、限定するわけではないが、酵素誤対合開裂方法、例えばバリアジェニクス(米国特許第6110684号、同第5958692号および同第5851770号参照、これらについては出典明示により援用する)、分岐ハイブリダイゼーション方法、例えばケイローン(米国特許第5849481号、同第5710264号、同第5124246号、および同第5624802号参照、これらについては出典明示により援用する)、ローリングサークル複製(例えば、米国特許第6210884号および同第6183960号参照、これらについては出典明示により援用する)、NASBA(例えば、米国特許第5409818号参照、これについては出典明示により援用する)、分子ビーコン技術(例えば、米国特許第6150097号参照、これについては出典明示により援用する)、E−センサー技術(Motorola、米国特許第6248229号、同第6221583号、同第6013170号、および同第6063573号参照、これらについては出典明示により援用する)、サイクリングプローブ技術(例えば、米国特許第5403711号、同第5011769号、および同第5660988号参照、これらについては出典明示により援用する)、リガーゼ連鎖反応[Barnay、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第88巻、189−93頁(1991)参照]、およびサンドイッチハイブリダイゼーション方法(例えば、米国特許第5288609号参照、これについては出典明示により援用する)がある。
【0060】
実施態様によっては、質量分析法を用いて、遺伝子発現バイオマーカーを検出する場合もある。例えば、実施態様の中には、MASSARRAY(登録商標)システム(シーケノム、サンディエゴ、カリフォルニア)を用いて、遺伝子発現バイオマーカーを検出するものもある。例えば、米国特許第6043031号、同第5777324号および同第5605798号参照、これらについては各々出典明示により援用する。
【0061】
幾つかの実施態様において、本発明は、遺伝子発現バイオマーカーの同定、特性確認および定量用のキットを提供する。実施態様の中には、キットが、検出試薬および緩衝液に加えて、遺伝子発現バイオマーカーに特異的な抗体を含む場合もある。他の実施態様では、キットは、核酸の検出に特異的な試薬、例えばオリゴヌクレオチドプローブまたはプライマーを含む。好ましい実施態様において、キットは、制御装置、検定法実施についての説明書および結果の分析および提示に必要なソフトウェアを全て含め、検出検定法の遂行に必要な成分を全部含む。実施態様によっては、キットが、インビトロ診断検定法および/または医薬品または食品の標識についての環境保護局または米国食品医薬品局(FDA)による要請に応じた目的用途の陳述書を含む説明書を含む場合もある。
【0062】
表9に表された結果と、生物体の遺伝子発現パターンを比較することにより、生物体が卵巣癌を含むか含まないかを示し得る遺伝子発現プロファイルを生物体が有するか否かが示される。
【0063】
別の実施態様では、本発明は、卵巣癌特有の遺伝子発現の変化を阻害、遅延、打消しまたは模倣する能力について試験化合物をスクリーニングする方法である。この実施態様の典型例では、まず卵巣癌に罹患していることが判明している試験哺乳類を試験化合物で処置し、次いで卵巣癌に応答して発現が変化している遺伝子または配列の発現レベルについて哺乳類の代表的組織を分析する。好ましくは、組織は腫瘍からの生検材料であるか、または好ましい実施態様では、容易に得られる組織、例えば血液または血清である。
【0064】
次いで、卵巣癌を有することが判明しているが試験化合物を投与されていない対照哺乳類と組織の分析結果を比較することにより、卵巣癌無しのパターンに向かって発現を改変させるように哺乳類試料において遺伝子発現バイオマーカー配列の発現を修飾し得る試験化合物を同定する。
【0065】
本発明の別の実施態様では、卵巣癌無しの状態を模倣するための治療について表2に開示した遺伝子の配列を使用する。一般に、卵巣癌では発現低下するものとして本発明で同定された遺伝子については遺伝子発現の増幅を、および卵巣癌で過剰発現されるものとして本発明で同定された遺伝子についてはその発現の低減化を試みる。例えば、卵巣癌で増加するものとして表2に示された遺伝子または配列についてはその発現の減少を、または卵巣癌で低減化されることが見出された遺伝子の発現についてはその増加を試み得る。
【0066】
発現を増加および減少させる方法は当業者には公知である。発現を補充する例としては、生物体への遺伝子の追加コピーの供給がある。発現を減少させる好ましい例には、RNAアンチセンス技術または医薬介入がある。表2に開示された遺伝子は、適切な薬剤開発標的となる。表2に列挙した遺伝子またはこれらの遺伝子によりコード化されるタンパク質の活性を模倣または阻害する現存の医薬化合物を使用するかまたは新たに開発することによる薬剤開発を目的として本願で提示された情報が使用される。従って、本発明で開示されている遺伝子発現バイオマーカーまたは遺伝子は、分子レベルでの卵巣癌に特有な変化の抑制を目標とした医薬開発および遺伝子治療またはRNAアンチセンス療法についての標的を代表するものである。これらの遺伝子発現改変はまた、卵巣癌の根底にある様々な機構を理解する上である一定の役割を演じ得る。さらに、これらの遺伝子は、診断目的に使用され得る卵巣癌のバイオマーカーを代表するものである。
【0067】
本発明が発現プロファイルの形態により限定されることはない。実施態様によっては、発現プロファイルをコンピューターソフトウェアで維持することもある。実施態様によっては、発現プロファイルが書面にしたデータである場合もある。本発明が、発現プロファイルで提供または表示されたマーカーの数により限定されることはない。例えば、発現プロファイルは、試料の生物学的状態を示す、表2に示した2個またはそれ以上のマーカーを含み得る。
【0068】
さらに本発明は、発現情報、例えば1個またはそれ以上の試料から得た表2からの1個またはそれ以上のマーカーを含む発現プロファイルを含むデータベースを提供する。実施態様によっては、限定されるわけではないが、一つまたはそれ以上の公的または私的情報データベース、例えばOMIM、GenBank、BLAST、モレキュラー・モデリング・データベース、Medline、ゲノムデータベースなどとのマーカーの比較を含むデータ分析にデータベースを使用する場合もある。上記実施態様の中には、自動化方法を実施することにより、本発明方法を用いて得られたデータから得られた情報を一つまたはそれ以上の公的または私的データベースにおける情報へ自動的に関連付ける場合もある。関連付けは、例えば表現型、例えば病気の状態との相関関係を表すのに使用される。
【0069】
我々はまた、本発明が表9に列挙したマウス遺伝子の哺乳類相同体を包含するものと解釈している。当業者であれば、表9に列挙した遺伝子と充分に高い相同性をもつ特定遺伝子を同定することにより、他の哺乳類種における相同体を容易に調べることができるはずである。「高い相同性」とは、相同性がヌクレオチドまたはアミノ酸レベルで少なくとも全部で50%(遺伝子またはタンパク質内で)であることを意味する。
略語のリスト
A 非存在の
AvgDiff 平均差異(アフィメトリックスアレイにおけるプローブセットの全体的 強度)
CHTN 協同ヒト組織ネットワーク
CI 信頼区間
FIGO 産婦人科学会
GAPDH グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ
GNF ゲノミクス・インスティテュート・オブ・ザ・ノヴァリティス・リサー チ・ファンデーション
mg ミリグラム
NCBI 全米バイオテクノロジー情報センター
Neg 陰性
nM ナノメートル
OMIM オンライン・メンデリアン・インヘリタンス・イン・マン
OR オッズ比
ORF 読み枠
P 存在(する)
PG 薬理遺伝学
Pos 陽性
QC 品質管理
RNA リボ核酸
【実施例1】
【0070】
好ましい方法
【0071】
卵巣腫瘍の発生および進行に関与する遺伝子を同定するため、我々は、一連の正常および腫瘍卵巣生検の遺伝子発現プロファイルを比較した。12000を越える遺伝子についての遺伝子発現データを各試料から作成した。正常および癌卵巣生検間で最も特異的に発現されていることを我々が観察した900プローブセットのうち、98%は腫瘍生検でダウンレギュレーションされていた。8正常および10腫瘍試料を用いて、我々は、「正常」および「腫瘍」として生検を分類するのに使用され得る最少数のプローブセット(28)を同定した。この発見は、別の実験室で以前にプロファイリングされていた生検の第二セット(4「正常」および14「腫瘍」)で確認された。他の卵巣生検と比較するための対照標準として使用され得る平均正常卵巣プロファイルが確立された。「正常」および「腫瘍」卵巣生検間における最も特異発現された遺伝子の同定により、卵巣腫瘍の発生および進行の分子機構に対する新たな洞察がもたらされ得る。この試験で同定された遺伝子の中には卵巣癌に関与することが知られているものもあるが、大部分は、病気および処置の診断または監視を目的とする薬剤標的および分子バイオマーカーについての新規候補を示す。
【0072】
(材料及び方法)
(試料)
急速冷凍卵巣生検は、アステランド(デトロイト、ミシガン)から入手されたもので、10「腫瘍」試料および10近接「正常」組織により構成されていた。また、4つの追加試料について全RNAをアンビオン(オースティン、テキサス)およびストラタジーン(ラジョラ、カリフォルニア)から購入した。確認段階で使用される試料からの遺伝子発現プロファイルを予めGNFで作成し、記録しておいた。Welsh et al.(2001)前出、参照。
【0073】
分析した腫瘍のほとんどは、悪性表面上皮漿液性腫瘍、例えば乳頭嚢胞癌、乳頭嚢胞腺癌または乳頭嚢胞癌であった。他には粘液性嚢胞癌、類内膜腺癌および成熟奇形腫があった。
【0074】
試料情報の要約を下記表1に示す。
【表1】

【表2】

注:同一患者から得た一対の試料(正常および腫瘍近接組織)を一緒に囲んでいる。FIGO段階システムを用いて卵巣癌の段階を示している。
【0075】
(RNA発現プロファイリング)
全RNAを各生検から抽出し、前記要領で処理した。RNA抽出技術については、当業者には充分に知られている。プロファイリングした試料を全て、アフィメトリックスにより推奨された要領(GeneChip Expression Analysis Technical Manual、改訂版1、2001年7月)でアフィメトリックスのジーンチップ(登録商標)システムを用いて処理した。試料を1:50に希釈した後、ベックマン‐コールターDU650分光光度計を用いて、260nMおよび280nM波長で試料を測定することにより、濃縮および総量のRNAおよびcRNAを評価した(表2参照)。この試験に使用したアレイのタイプは、ヒトゲノムU95Av2であった(http://www.affymetrix.com/products/arrays/specific/hgu95.affx)。
【0076】
(分析戦略)
下記の幾つかの段階で、発現プロファイルの分析を実施した。
【0077】
(最高品質のマイクロアレイデータの選択)
我々は、スケーリング係数が6より低く、30%を越える割合のプローブセットがアフィメトリックスMAS4.0アルゴリズムによりいわゆる「存在する」であるマイクロアレイのみ我々の分析用に使用した。
【0078】
(プローブセットのサブセットの選択)
発現データを、データベースからジーン・スプリング(登録商標)プログラム(シリコン・ジェネティクス、レッドウッドシティー、カリフォルニア)へ直接インポートした。少数の試料でしか発現されない遺伝子については除外した。マイクロアレイにおける12627のプローブセットのうち、試料の10%またはそれ以上においてAvgDiffが少なくとも100であるもののみをさらなる分析に使用した。クラスタリング実験を実施することにより、正常および腫瘍生検の種々の遺伝子発現プロファイルを視覚化した。
【0079】
両群の試料(群1:正常生検、群2:腫瘍生検)において低品質またはシグナル強度が非常に低いプローブセットを排除することにより、さらなるフィルタリングを達成した。2群のうちの一方における試料の少なくとも75%においていわゆる「存在する」(P)ではないプローブセットについては、それ以上分析には使用しなかった。さらに、20より低いAvgDiff値を全て20の値に変換した。
【0080】
(最も特異的に発現された遺伝子への集中)
2群の試料間で特異発現された遺伝子の選択を2段階で実施した:
1.各プローブセットのAvgDiffを、SAS8.2を用いたノンパラメトリック一方向ANOVA検定により2群の試料間で比較した。
2.次いで、p<0.05である各プローブセットのAvgDiffと、試料の群(正常または腫瘍)との相関関係を明らかにした。最高絶対PCCから最低までプローブセットをランク付けした(マイクロソフト・エクセルで算出)。
【0081】
(試料の再分類)
我々は、前述の「1点除外法」分析戦略を用いることにより、正常卵巣組織と卵巣腫瘍を区別するプローブセットの最適数を決定した。van't Veer et al.(2002)、前出参照。
【0082】
除外されたどの試料についても、我々は、各群(群1および2)の試料における各プローブセットの平均AvgDiffを測定した。除外された試料の発現プロファイルおよび各群の平均プロファイル間のPCCを各プローブセットについて計算した。正常卵巣組織からの腫瘍の区別における各プローブセットの有効性を、2つのCCの高いほうに基いて「正常」または「腫瘍」として各試料を再分類することにより評価した。
【0083】
我々は、遺伝子のセット(5から出発)を増加させて用いたときに誤分類された試料の数を測定した。本明細書で使用されている「偽Neg」は、正常卵巣組織として不正確に分類された腫瘍として定義され、逆に「偽Pos」は、腫瘍として不正確に分類された正常組織として定義される。
【0084】
次いで、正常卵巣組織と腫瘍を最も有効に識別したプローブセットを、GNFで作製された卵巣組織(「正常」および「腫瘍」)の異なるセットの遺伝子発現プロファイルを分類する能力について試験した(表1参照)。
【0085】
(ORの統計的測定)
所望の閾値相関値を用いて、「正常」または「腫瘍」として正確および不正確に識別された生検の数を示す、2×2表を構築した。ORを95%CIと一緒に、SASバージョン8.2を用いて計算した。0.05のp値カットオフによるフィッシャーの正確確率検定を用いて、統計的有意性を測定した。
(遺伝子)
【0086】
プローブセット名およびGenBank受入番号間のリンクは、アフィメトリックスにより短い遺伝子記載と一緒に提供されている。我々は、NCBIデータベース、主としてLocusLink(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/LocusLink/index.html)、OMIM(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim/searchomim.html)およびPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi)の検索によりこの記載を補完および更新した。
【0087】
(結果)
(RNA発現プロファイリング)
20の生検のうち18から、試料をさらに処理するのに必要な5mgを越える精製全RNAが得られた(表2参照)。得られた精製全RNAが1mgに満たない試料p6175は、最小の試料であった(38mg)。1%アガロースゲルでの電気泳動により、RNAの品質を評価した。28Sおよび18SリボソームRNAの両バンドの欠如が、試料p6169およびp6180について観察され、ある程度のRNAの分解を示していた。マクロアレイハイブリダイゼーションについては、最大15mgのcRNAを利用可能なときに使用したが、12mg未満ということは無かった。充分なcRNAが21試料について利用可能であった(表2参照)。
【0088】
(品質評価)
PG(この試験)でハイブリダイゼーションした21アレイおよびGNFで以前にハイブリダイゼーションした18アレイからのデータを、品質についてチェックした(表3参照)。Welsh et al.(2001)、前出参照。3つ(p6169、p6180およびp6185)を除く全てのものは、6より低いスケーリング係数の我々の基準に合格しており、30%を越えるプローブセットは「P」とみなされた(表3参照)。36の残りの発現プロファイルを2セット:8正常および10腫瘍生検からのデータから成るPGで作成された18プロファイルの試験セット、および4正常および14腫瘍生検からGNFで以前に作成された18プロファイルの確認セットに分けた。Welsh et al.(2001)、前出参照。
【0089】
(分析)
(クラスタリング分析)
試験セットの18試料の発現データを、GENESPRING(登録商標)ソフトウェアへインポートした。アフィメトリックスU95Aマイクロアレイにおける12627プローブセットのうち、2174は、これら18試料の2つまたはそれ以上において少なくとも100のAvgDiffを有しており、クラスタリング分析に使用された。得られた試料およびプローブセットのクラスタリングツリーを図1に示す。興味深いことに、実験の系統樹は、2群の試料、すなわち正常(上方)および腫瘍(下方)生検に対応する2本の主たる分枝を含む。調べられた遺伝子の大多数(>90%)は、正常卵巣組織において全般的な高い発現性を有する。プローブセットの系統樹は、腫瘍組織で高い発現性をもつ遺伝子については小さなクラスターのみを示す(左部分)。
【0090】
(最も特異発現した遺伝子の選択)
2174プローブセットのうち、多数の「A」または「わずかな」コールを与えることから(両群で>75%)217がさらなる分析から排除された。
【0091】
残り1957プローブセットについてのデータを、正常群および腫瘍群間におけるノンパラメトリック一方向ANOVA検定についてのSASバージョン8.2へエクスポートした。合計900のプローブセットは、2群間において顕著に異なるAvgDiff値を有していた(p<0.05)。これらの遺伝子を表9に列挙する。
【0092】
次いで、これら900プローブセットのAvgDiffと2群の試料(群1:正常、群2:腫瘍)との相関関係を明らかにした。絶対PCC(R)−値は、0.042〜0.877の範囲で変動し、694のプローブセット(77%)のR値が0.5より高かった。最高の絶対PCCから最低までの範囲で変動する900プローブセットのAvgDiffデータは、付表1において入手可能である。
【0093】
(1点除外法および試料の再分類)
前述の「1点除外」分析戦略を、900選択プローブセットの発現について18卵巣試料に適用した。van't Veer et al.(2002)、前出参照。
【0094】
最初の5プローブセットを使用した時に誤分類された試料の数は6であった(2つの偽Posおよび4つの偽Nes)。増大する遺伝子のセットを使用した。誤分類の数は2と7の間で変動しており、最初の28プローブセットを用いたとき最小に達した(図1)。これらの最初の28プローブセットは、1つの偽Posおよび1つの偽Negを表示しただけであった。興味深いことに、正常生検の完全な分類(偽Posが0)は、最初の32プローブセットにより達成され(2つの偽Negも検出した)、腫瘍生検の完全な分類(偽Negが0)は全く見られなかった。
【0095】
(最適な分類セットおよび相関関係の閾値)
我々は、未知または疑わしい状態の生検の分析を目的とする対照標準として使用される、分類プローブセットについて平均正常(腫瘍無し)生検プロファイルを決定した。我々は、腫瘍の不均質性故に、対照標準「腫瘍」プロファイルが決定され得ないと予測した。我々は、最初の28プローブセットの分類値を、8つの正常生検プロファイル全てを用いて計算された平均正常プロファイルと18試料の各々に関するそれらの発現を比較することにより調べた。次いで、試料を最高から最低までの相関値によりランク付けをし、誤差割合を閾値相関関係が引き出される関数として測定した。結果は図2に表示されている。不正確に割当てられた試料の最少数は2であった[1つの偽Pos(p6177)および1つの偽Neg(p6168)]。対応するCC値は0.920と0.921の間であった。正常または腫瘍であると正確および不正確に予測された試料の数に基いて、ORおよびフィッシャーの正確検定を実施した。観察された生検状態および予測生検状態間の差異は有意であった:OR=63;95%CI:3.3〜1194.7、p=0.0029。28予測プローブセットの発現プロファイルが、CC≦0.920で平均正常プロファイルと相関関係を示す場合、ORは、試験セットの卵巣生検が、卵巣腫瘍からのものである可能性がほぼ63倍であることを示している(表4参照)。我々の試験セットにおいて、CC>0.955であるプロファイルの100%は、正常生検に対応し、CC<0.870であるプロファイルの100%は腫瘍生検に対応する(図3参照)。
【0096】
(平均正常プロファイルの確認)
我々は、1点除外法により選択された28プローブセットにより、一連の18卵巣試料において腫瘍卵巣生検と正常なものとを区別することができた。次いで、我々は、独立した卵巣生検が、それらの発現プロファイルを28分類プローブセットの同平均正常プロファイルと比較することにより正確に分類され得るか否かを試験した。
【0097】
図3は、28プローブセットの相関関係に基いた全卵巣生検の分類を要約している。注目すべきことに、確認セットの正常および腫瘍試料のプロファイルは、互いに明白に区別された(図3参照)。この試験セットでは、CC<0.870であるプロファイルの100%は腫瘍生検に対応する。興味深いことに、正常プロファイルは試験セットの場合よりも低いCCを有しており、確認セットにおいて正常および腫瘍生検を明白に区別する閾値相関値は、0.762と0.876の間である。
【0098】
我々は、試験セットの平均正常プロファイルおよび確認セットの平均正常プロファイル間においてノンパラメトリックt−試験を実施した。同様に、我々は、両セットの平均腫瘍プロファイルを比較した。統計的差異は全く観察されなかったため(それぞれ、p=0.373およびp=0.110)、我々は、両セットを合わせることにより、28プローブセットの分類値を増加させた。我々は、12の全正常生検プロファイル(試験セットから8および確認試験から4)を用いて計算された平均正常プロファイルと全試料についての発現を比較した。結果は、相関値により正常生検と腫瘍生検プロファイルが非常に顕著に区別されることを確認している(図4および表5参照)。以前に判明したところによると、腫瘍試料(p6168)のプロファイルは平均正常プロファイルと高い相関関係を有していた。
【0099】
(個々の遺伝子発現および生検状態間の相関関係)
卵巣生検分類についてのプローブセットの選択は、当初は18試験試料のプロファイルに基いて為された。同一プローブセットで36の正常および腫瘍試料が全て明白に区別されたことから(図4参照)、我々の方法により選択された遺伝子は多くの他の卵巣腫瘍において特異発現されることが示唆された。しかしながら、腫瘍の不均質性故に、個々の遺伝子発現における差異は、分析された試料により変動すると思われる。我々は、18試験試料において特異発現された900プローブセットが、36の全生検を分析したときにも特異発現される程度を評価した。
【0100】
まず試験セットからの18試料を、次いで試験セットおよび確認セットの両方からの全36試料を用いることにより、プローブセットを最高絶対PCCから最低までランク付けした。選択された900プローブセットから、694および473は、それぞれ18および36試料により0.5よりも高い絶対CCを有していた。412プローブセットは、両場合とも0.5よりも高い係数を有していた。興味深いことに、生検分類のために当初選択された28プローブセットから、19が上位100にランクされ、他の9プローブセットは、0.359〜0.703の範囲にわたる相関値を有していた。
【0101】
(正常および腫瘍卵巣生検間で特異発現された遺伝子)
(卵巣腫瘍でアップレギュレーションされる遺伝子)
正常および腫瘍卵巣生検間で特異発現された遺伝子の中で、我々は、卵巣腫瘍でアップレギュレーションされることが既に知られている数個の遺伝子、例えばクローディン4、トポイソメラーゼIIアルファ、カリクレイン8、オステオポンチンをコーディングする遺伝子、および卵巣癌の潜在的新規マーカーを検出した(表6参照)。
【0102】
接着結合の一成分であるクローディン4は、膜貫通型受容体のこのファミリーの別の構成員、クローディン3と一緒に卵巣腫瘍でアップレギュレーションされることが示されている。Hough et al.、Cancer Res.、第60巻、22号、6281−6287頁(2000)参照。Costaおよび同僚らは、トポイソメラーゼIIアルファのレベルが、卵巣表面上皮新生物の予後の悪さと相関関係を示すことを報告している。カリクレイン8は、正常卵巣組織ではなく癌での免疫組織化学により検出されたことから、卵巣癌の予後マーカーであると示唆された。Underwood et al.、Cancer Res.、第59巻、17号、4435−4439頁(1999)、および Magklara et al.、Clin.Cancer Res.、第7巻、4号、806−811頁(2001)参照。オステオポンチンもまた、卵巣癌についての診断マーカーとして以前に提案されている。Kim et al.、JAMA、287巻、13号、1671−1679頁(2002)参照。別の遺伝子、C20ORF1は、正常肺組織では発現されないが、肺癌セルラインで発現されることが示された。Manda et al.、Genomics、61巻、1号、5−14頁(1999)参照。腫瘍のタイプ、病気の段階または他の腫瘍特異性故に生検の一部でしか過剰発現されなかった可能性のある他の遺伝子は、我々の分析法では検出されなかった。
【0103】
(卵巣腫瘍でダウンレギュレーションされる遺伝子)
さらに我々は、プロファイリングされた卵巣腫瘍生検においてダウンレギュレーションされる多数の遺伝子を調べた。分析目的のため、我々は、28プローブセットおよび上位100のダウンレギュレーション遺伝子をそれらの産物の既知または推測される機能に基いた8カテゴリーにおいて分類した(表7および8参照)。興味深いことに、これら100遺伝子のほぼ30%の機能は依然として未知である。他の遺伝子のほとんどは、ある一定の役割を演じているか、または転写調節(16遺伝子)、細胞周期調節、増殖分化、細胞死または腫瘍抑制(12遺伝子)およびシグナル伝達(6遺伝子)に関与しているのではないかと既に推測されている。このリストは、可能性のある幾つかの腫瘍サプレッサー:トランスフォーミング成長因子ベータ受容体III(TGFβR3)をコーディングする遺伝子、血小板由来増殖因子受容体様遺伝子(PDGFRL)、腫瘍形成抑制(ST13)遺伝子、カザールモチーフをもつ復帰突然変異誘導性高システインタンパク質をコーディングする遺伝子(RECK)および父系発現3(PEG3)遺伝子を含む。
【0104】
この観察結果は、まだ識別されていない機能をもつ遺伝子が、細胞周期調節、増殖分化、シグナル伝達または転写調節に関与すると思われることを示している。それらの中には腫瘍サプレッサーとして作用し得るものもある。卵巣腫瘍またはセルラインにおけるダウンレギュレーションは、これらの遺伝子の一つだけ、すなわち我々の試験で2つの別々のプローブセットにより検出されたIGFBP5について報告されている(表8参照)。Welsh et al.(2001)、前出参照。
【0105】
細胞外マトリックスのタンパク質をコーディングする6遺伝子のみがラミニンアルファ2(LAMα2)を含めて認められた。Yangおよび同僚らは、前悪性腫瘍上皮の基底膜におけるLAMα2の一時的喪失およびそれに続くDab2の不活化は、卵巣表面上皮の腫瘍形成に伴う一般的な初期事象であると報告している。Yang et al.、Cancer、94巻、9号、2380−2392頁(2002)参照。興味深いことに、Dab2のダウンレギュレーション(プローブセット479)もまた、0.49のCC値で我々の試験において観察された。
【0106】
これらの結果を考え合わせると、卵巣生検において発現性が統計的に有意に減少した遺伝子のほとんどは、事実、細胞集団または組織構成における変化、例えば結合組織および脂肪細胞の喪失故に検出されたのではなく、腫瘍の発生または進行に関与していることが判明した。
【0107】
(検討)
我々が本発明で使用しているフィルタリングおよび分析方法により、正常および腫瘍卵巣試料間で特異的に発現される遺伝子のリストが提供された。我々は、卵巣生検をそれらの発現プロファイルに基いて「正常」または「腫瘍」として正確に分類するのに小さなサブセット(28〜42プローブセット)で充分であることを示した。この発現サインの確認は、独立した研究室でプロファイリングされた異なる生検において為されたもので、正常または腫瘍試料間で観察された発現の差異が、研究室または分析誤差ではなく生物学的過程を反映していることを確認している。
【0108】
本発明では調べていない特異発現遺伝子の検出に影響し得る幾つかの因子には、試験セットにおける試料の数、および試験試料の不均質性がある。事実、生検および特に腫瘍生検は、かなりのレベルの不均質性:腫瘍細胞の腫瘍型、等級、パーセンテージ、結合および脂肪組織の存在などを有することが予測される。我々は、様々な等級の異なるタイプの卵巣腫瘍を試験することにより(表1参照)、以前に報告されたある種の腫瘍タイプにより特異的に関与する遺伝子ではなく、腫瘍発生および進行の一般的経路に関与する遺伝子について検索した。Ono et al.(2000)、前出、および Welsh et al.(2001)前出参照。
【0109】
我々の生検発現プロファイルのクラスタリング分析は、正常および腫瘍試料を区別する圧倒的多数の遺伝子が腫瘍においてダウンレギュレーションされることを明らかにした。事実、最も特異発現された900プローブを、36の全生検におけるそれらの発現および正常および腫瘍状態間におけるCCに基いてランク付けしたとき、上位220プローブ(0.865−0.644のR)は腫瘍でダウンレギュレーションされていた。我々は、上位100遺伝子(0.865〜0.72のR)、および腫瘍で過剰発現された上位10遺伝子(0.643〜0.443のR)の機能をより密接に調べた。最も特異発現された遺伝子の中で、我々は、卵巣腫瘍においてアップレギュレーションされることが既に知られている幾つかの遺伝子、並びに卵巣癌の潜在的新規マーカーを検出した。しかしながら、我々は、由来が異なり、等級が異なり、そして腫瘍細胞含有率が異なる様々なタイプの後期段階腫瘍を試験したため、遺伝子のほとんどはダウンレギュレーションされていた。転写調節、細胞周期調節、増殖分化、シグナル伝達、細胞死または腫瘍抑制にこれらの遺伝子の多くが関与していることから、卵巣癌におけるそれらの役割をさらに評価する必要性が強調される。機能が依然として未知である他の遺伝子のリストは、腫瘍発生および進行において新規のある一定の役割を演じる可能性のあるものを示すことになる。
【0110】
(RNA存在量または活性の修飾方法)
RNA存在量および活性の修飾方法は、現行では3種:リボザイム、アンチセンス種およびRNAアプタマーに分類される。Good et al.、Gene Ther.、4巻、1号、45−54頁(1997)参照。これらの物質に細胞を制御可能な形で適用または曝露することにより、RNA存在量の制御可能な摂動が誘発される。
【0111】
(リボザイム)
リボザイムは、RNA開裂反応を触媒し得るRNAである。Cech、Science、236巻、1532−1539頁(1987);PCT国際公開WO90/11364号(1990);Sarver et al.、Science、247巻、1222−1225頁(1990)参照。「ヘアピン」および「ハンマーヘッド」RNAリボザイムは、特定標的mRNAを特異的に開裂するよう設計され得る。高度に配列特異的な方法で他のRNA分子を開裂させ得、事実上全種のRNAにターゲッティングされ得る、リボザイム活性をもつ短いRNA分子の設計については規則が確立されている。Haseloff et al.、Nature、334巻、585−591頁(1988);Koizumi et al.、FEBS Lett.、228巻、228−230頁(1988);および Koizumi et al.、FEBS Lett.、239巻、285−288頁(1988)参照。リボザイム方法は、上記の小RNAリボザイム分子に細胞を曝露し、細胞においてその発現を誘導することなどを含む。Grassiおよび Marini、Annals of Med.、28巻、6号、499−510頁(1996)、および Gibson、Cancer Meta.Rev.、15巻、287−299頁(1996)参照。
【0112】
リボザイムは、mRNAの開裂、およびそれによる細胞におけるmRNA存在量の修飾に触媒的に有効とするのに充分な数で常用手順によりインビボで発現され得る。Cotton et al.、EMBO J.、第8巻、3861−3866頁(1989)参照。特に、リボザイムコーディングDNA配列は、前記規則に従って設計され、例えば標準的ホスホルアミダイト化学により合成されるものであり、tRNAをコード化する遺伝子のアンチコドンステムおよびループにおける制限酵素部位へライゲーションされ得、次いで当業界における常用方法により興味の対象である細胞へ形質転換され、そこで発現され得る。好ましくは、誘導性プロモーター、例えばグルココルチコイドまたはテトラサイクリン応答(esponse)エレメントもまた、リボザイム発現が選択的に制御され得るようにこの構築物へ導入される。使用に際し充分満足できる形にするため、高度および構成的活性プロモーターが使用され得る。tDNA遺伝子、すなわちtRNAをコード化する遺伝子は、小さなサイズ、高速転写および異なる種類の組織における偏在的発現性故に、この適用においては有用である。従って、リボザイムは、事実上いかなるmRNA配列であっても開裂するように常用手順で設計され得、細胞は、上記リボザイム配列をコーディングするDNAにより常用手順で形質転換されることにより、制御可能で触媒的に有効な量のリボザイムを発現させ得る。従って、事実上細胞におけるいかなるRNA種であっても、その存在量は修飾または摂動され得る。
【0113】
(アンチセンス分子)
別の実施態様において、標的RNA(好ましくはmRNA)種の活性、具体的にはその翻訳速度は、アンチセンス核酸の制御可能な適用により制御可能な形で阻害され得る。高レベルでの適用により、充分な阻害が達成され得る。本明細書で使用されている「アンチセンス」核酸は、コーディングおよび/または非コーディング領域と相補的な配列により、標的RNAの配列特異的、例えば非ポリA部分、例えばその翻訳開始領域とハイブリダイゼーションし得る核酸をいう。本発明のアンチセンス核酸は、2本鎖または1本鎖のRNAまたはDNAまたはその修飾または誘導体であるオリゴヌクレオチドであり得、細胞へ制御可能な方法で直接投与され得るかまたは標的RNAの翻訳を摂動するのに充分な制御可能量での外因性導入配列の転写により細胞内で製造され得る。
【0114】
好ましくは、アンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチドを有し、好ましくは6オリゴヌクレオチドから約200オリゴヌクレオチドの範囲に及ぶオリゴヌクレオチドである。具体的な面では、オリゴヌクレオチドは少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチドまたは少なくとも200ヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、1本鎖または2本鎖のDNAまたはRNAまたはそれらのキメラ混合物または誘導体または修飾体であり得る。オリゴヌクレオチドは、塩基部分、糖部分またはリン酸バックボーンが修飾され得る。オリゴヌクレオチドは、他の追加基、例えばペプチド、または細胞膜を通る輸送の促進剤[例、Letsinger et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、86巻、6553−6556頁(1989);Lemaitre et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、84巻、648−652頁(1987);およびPCT公開WO88/09810号(1988)参照]、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤[例、Krol et al.、Bio Techniques、6巻、958−976頁(1988)参照]またはインターカレーション剤[例、Zon,Pharm.Res.、5巻、9号、539−549頁(1988)参照]を含み得る。
【0115】
本発明の好ましい側面において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは1本鎖DNAとして提供される。オリゴヌクレオチドは、その構造におけるいかなる位置でも当業界で公知の構成成分により修飾され得る。
【0116】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、限定するわけではないが、5−フルオロウラシル、5−ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルケオシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノメチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルケオシン、5'−メトキシカルボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデニン、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン、プソイドウラシル、ケオシン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシル−5−オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル−5−オキシ酢酸(v)、5−メチル−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウラシル、(acp3)wおよび2,6−ジアミノプリンを含む群から選択される少なくとも1個の修飾塩基部分を含み得る。
【0117】
別の実施態様において、オリゴヌクレオチドは、限定するわけではないが、アラビノース、2−フルオロアラビノース、キシルロースおよびヘキソースを含む群から選択される少なくとも1個の修飾糖部分を含む。
【0118】
さらに別の実施態様において、オリゴヌクレオチドは、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホルアミドチオエート、ホスホルアミデート、ホスホルジアミデート、メチルホスホネート、アルキルホスホトリエステルおよびホルムアセタールまたはそれらの類似体から成る群から選択される少なくとも1個の修飾リン酸バックボーンを含む。
【0119】
さらに別の実施態様において、オリゴヌクレオチドは、2−a−アノマーオリゴヌクレオチドである。a−アノマーオリゴヌクレオチドは、通常のBユニットとは対照的に、鎖が互いに平行である相補的RNAとの特異的な2本鎖ハイブリッドを形成する。Gautier et al.、Nucl.Acids Res.、15巻、6625−6641頁(1987)参照。
【0120】
オリゴヌクレオチドは、別の分子、例えばペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤などにコンジュゲートされ得る。
【0121】
本発明のアンチセンス核酸は、標的RNA種の少なくとも一部分に相補的な配列を含む。しかしながら、絶対的相補性は、好ましいが、要求されるわけではない。本明細書でいう「RNAの少なくとも一部分に相補的な」配列とは、RNAとハイブリダイゼーションし得るだけの充分な相補性を有することにより安定したデュプレックスを形成する配列を意味する。2本鎖アンチセンス核酸の場合、デュプレックスDNAの1本鎖がかくして試験され得るかまたはトリプレックス形成が検定され得る。ハイブリダイゼーション能力は、相補性の程度およびアンチセンス核酸の長さの両方により異なる。一般的に、ハイブリダイゼーションする核酸が長いとき、それが含み、依然として安定したデュプレックス(場合によってはトリプレックス)を形成し得る標的RNAとの塩基誤対合は多くなる。当業者であれば、ハイブリダイゼーションした複合体の融解点を測定する標準手順の使用により誤対合の許容できる程度を確認できるはずである。標的RNAの翻訳の阻害に有効となるアンチセンス核酸の量は、標準的検定技術により決定され得る。
【0122】
本発明オリゴヌクレオチドは、当業界で公知の標準的方法により、例えば自動式DNA合成装置、例えばバイオサーチ、アプライド・バイオシステムズなどから市販されているものの使用により合成され得る。例として、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドは、Stein et al.、Nucl.Acid Res.、16巻、3209頁(1988)の方法により合成され得、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、制御型多孔質ガラスポリマー支持体などの使用により製造され得る。Sarin et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、85巻、7448−7451頁(1988)参照。別の実施態様において、オリゴヌクレオチドは、2'−O-メチルリボヌクレオチド[Inoue et al.、Nucl.Acid Res.、15巻、6131−6148頁(1987)参照]またはキメラRNA−DNA類似体[Inoue et al.、FEBS Lett.、215巻、327−330頁(1987)参照]である。
【0123】
次いで、合成されたアンチセンスオリゴヌクレオチドは、制御されているかまたは充分に満足すべき方法で細胞に投与され得る。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、それらが細胞により取込まれ得る制御レベルでの細胞の成長環境に置かれ得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドの取込は、当業界でよく知られた方法の使用により促され得る。
【0124】
(細胞内発現されたアンチセンス分子)
別の実施態様において、本発明のアンチセンス核酸は、外性配列からの転写により制御可能な形で細胞内発現される。発現が高レベルであるように制御されている場合、充分に満足できる摂動または修飾が誘発される。例えば、ベクターは、それが細胞により取込まれるようにインビボで導入され得、その細胞内で、ベクターまたはその一部分が転写されて、本発明のアンチセンス核酸(RNA)を製造する。かかるベクターは、アンチセンス核酸をコード化する配列を含む。かかるベクターは、それが転写されて所望のアンチセンスRNAを製造し得る限り、エピソームのままであるかまたは染色体に組込まれ得る。上記ベクターは、当業界において標準的な組換えDNA技法により構築され得る。ベクターは、プラスミド、ウイルスまたはその他当業界で公知のものであり得、哺乳類細胞での複製および発現に使用され得る。アンチセンスRNAをコード化する配列の発現は、興味の対象である細胞で作用することが当業界で知られているプロモーターによるものであり得る。上記プロモーターは、誘導性または構成的であり得る。最も好ましくは、プロモーターは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの発現制御を達成するように外来部分の投与により制御可能または誘導可能なものである。上記の制御可能プロモーターにはTetプロモーターがある。哺乳類細胞についての他の使用可能なプロモーターには、限定されるわけではないが、SV40初期プロモーター領域[Bernoist および Chambon、Nature、290巻、304−310頁(1981)参照]、ラウス肉腫ウイルスの3'長末端反復に含まれるプロモーター[Yamamoto et al.、Cell、22巻、787−797頁(1980)参照]、ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター[Wagner et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、78巻、1441−1445頁(1981)参照]、メタロチオネイン遺伝子の調節配列など[Brinster et al.、Nature、296巻、39−42頁(1982)参照]がある。
【0125】
従って、アンチセンス核酸は、事実上いかなるmRNA配列でもターゲッティングできるように常用手順で設計され得、細胞は、有効で制御可能または充分に満足できる量のアンチセンス核酸が発現されるように上記アンチセンス配列についてコードする核酸により常用手順で形質転換されるかまたはそれらに曝露され得る。従って、細胞における事実上いかなるRNA種であってもその翻訳は修飾または摂動され得る。
【0126】
(RNAアプタマー)
最後に、さらなる実施態様において、RNAアプタマーは、細胞へ導入されるかまたはそこで発現され得る。RNAアプタマーは、タンパク質、例えばTatおよびRev RNA[Good et al.(1997)、前出参照]に特異的であり、それらの翻訳を特異的に阻害し得るRNAリガンドである。
【0127】
(タンパク質存在量の修飾方法)
タンパク質存在量の修飾方法には、特に、タンパク質分解速度を改変する方法および天然標的タンパク質種の活性の存在量に影響を及ぼすタンパク質に結合する抗体を使用する方法がある。タンパク質種の分解速度を増加(または減少)させると、その種の存在量は減少(または増加)する。高温および/または特定薬剤への曝露に応答して標的タンパク質の分解速度を増加させる方法は、当業界では公知であり、本発明でも使用され得る。例えば、上記一方法では熱誘導性または薬物誘導性N−末端デグロンを使用するが、これは高温、例えば37℃では分解シグナルを露出して急速なタンパク質分解を促し、低温、例えば23℃では隠された状態であるため急速な分解を阻止するN−末端タンパク質フラグメントである。Dohmen et al.、Science、263巻、1273−1276頁(1994)参照。かかるデグロンの一例は、Arg−DHFRts、すなわちN−末端ValがArgにより置換され、66位のProがLeuにより置換されているマウスジヒドロ葉酸レダクターゼの変異型ある。この方法によると、例えば標的タンパク質Pについての遺伝子は、当業界で公知の標準遺伝子ターゲッティング方法により[Lodish et al.、Molecular Biology of the Cell、W.H.Freemenアンド・カンパニー、ニューヨーク、特に8章(1995)参照]融合タンパク質Ub−Arg−DHFRts−P(「Ub」はユビキチンを表す)をコードする遺伝子と置換される。N−末端ユビキチンは、翻訳後急速に開裂されてN−末端デグロンを露出する。低温では、Arg−DHFRtsに対し内側のリシンは露出されず、融合タンパク質のユビキチン化は起こらず、分解は緩慢であり、活性標的タンパク質レベルは高い。高温(メトトレキセートの非存在下)では、Arg−DHFRtsに対して内側のリシンが露出され、融合タンパク質のユビキチン化が起こり、分解は急速であり、活性標的タンパク質レベルは低い。分解の加熱活性化はメトトレキセート暴露により制御可能な形で遮断されるため、この技術はまた分解速度の制御可能な修飾を可能にする。この方法は、他の誘導因子、例えば薬剤および温度変化に応答性を示す他のN−末端デグロンに適用可能である。
【0128】
(抗体でタンパク質活性を修飾)
標的タンパク質活性はまた、(中和性)抗体により低減化され得る。上記抗体への暴露を制御されているかまたは充分満足できる状態にすることにより、タンパク質存在量/活性は、制御されているかまたは充分に満足できる形で修飾または摂動され得る。例えば、タンパク質表面における適切なエピトープに対する抗体は、野生型非凝集野生型形態の場合と比べて活性が劣るかまたは極小である複合体へ活性形態を凝集させることにより標的タンパク質の野生型活性形態の存在量を減少させ、それによって間接的にその活性を減少させ得る。別法として、抗体は、例えば活性部位と直接相互作用するかまたは活性部位への基質の接近を遮断することにより、直接的にタンパク質活性を減少させ得る。逆に、ある種の場合、(活性化)抗体はまた、タンパク質およびそれらの活性部位と相互作用することにより生じる活性を増加させ得る。いずれの場合にしても、(記載されている様々なタイプの)抗体は、(記載されている方法により)特異的タンパク質種に対して産生され、それらの効果はスクリーニングされ得る。抗体の効果が検定され、標的タンパク質種濃度および/または活性を上昇または低下させる適切な抗体が選択され得る。上記検定法では、抗体を細胞へ導入し(下記参照)、当業界で公知の標準的手段、例えば免疫検定法により、標的タンパク質の野生型量または活性の濃度を検定する。野生型形態の正味の活性は、標的タンパク質の既知活性に適切な検定手段により検定され得る。
【0129】
抗体は、例えば細胞への抗体の顕微注入[Morgan et al.、Immunol.Today、9巻、84−86頁(1988)参照]または細胞への所望の抗体をコード化するハイブリドーマmRNAの形質転換[Burke et al.、Cell、36巻、847−858頁(1984)参照]を含む、多数の方法で細胞へ導入され得る。さらなる技術では、組換え抗体は改変され、広く多様な非リンパ系細胞型で異所発現させることにより、標的タンパク質と結合させ、そして標的タンパク質活性を遮断させ得る。Biocca et al.、Trends Cell Biol.、5巻、248−252頁(1995)参照。抗体の発現は、好ましくは制御可能なプロモーター、例えばTetプロモーター、または構成的活性プロモーターの制御下で行なわれる(充分に満足できる摂動を生じさせるため)。第一段階は、標的タンパク質に対して適切な特異性をもつ特定モノクローナル抗体の選択である(下記参照)。次いで、選択された抗体の可変域をコード化する配列は、例えば全抗体、Fabフラグメント、Fvフラグメント、1本鎖Fv(ScFv)フラグメント(ペプチドリンカーにより結合されたVおよびV領域)、二重特異性抗体(特異性が異なる2つのScFvフラグメントが会合したもの)などを含む、様々な改変抗体形態へクローン化され得る。Hayden et al.、Curr.Opin.Immunol.、9巻、210−212頁(1997)参照。様々な形態の細胞内発現抗体は、様々な既知細胞内先導配列との融合体としてそれらを発現させることにより、細胞区画、例えば細胞質、核、ミトコンドリアなどへターゲッティングされ得る。Bradbury et al.、Antibody Engineering、Borrebaeck、編集者、2巻、295−361頁、IRLプレス(1995)参照。特に、SvFv形態は、細胞質ターゲッティングに特に適切であると思われる。
【0130】
抗体型には、限定されるわけではないが、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、1本鎖、FabフラグメントおよびFab発現ライブラリーがある。当業界で知られている様々な手順が、標的タンパク質に対するポリクローナル抗体の生産に使用され得る。抗体の生産については、様々な宿主動物が標的タンパク質での注射により免疫化され得、それらの宿主動物には、限定されるわけではないが、ウサギ、マウス、ラットなどがある。宿主の種によって、免疫学的応答を高めるのに様々なアジュバントが使用され得、例えば、限定されるわけではないが、フロイントアジュバント(完全および不完全)、鉱質ゲル、例えば水酸化アルミニウム、表面活性物質、例えばリソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、ジニトロフェノール、および潜在的に有用なヒトアジュバント、例えばバシラス・カルメッテ‐グエリン(BCG)およびコリネバクテリウム・パルブム(corynebacterium parbum)が挙げられる。
【0131】
標的タンパク質に指向されたモノクローナル抗体の製造については、培養中の連続セルラインにより抗体分子を生産させるものであれば、いかなる技術でも使用され得る。上記技術には、限定されるわけではないが、KohlerおよびMilstein、Nature、256巻、495−497頁(1975)により最初に開発されたハイブリドーマ技術、トリオーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術[Kozbor et al.、Immunol.Today、4巻、72頁(1983)参照]およびEBVハイブリドーマ技術によるヒトモノクローナル抗体の製造[Cole et al.、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Lissインコーポレイテッド、77−96頁(1985)参照]がある。本発明の追加的実施態様において、モノクローナル抗体は、最新の技術を用いて無菌動物において製造され得る。PCT/US90/02545参照。本発明によると、ヒト抗体が使用され得、ヒトハイブリドーマを用いるか[Cote et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、80巻、2026−2030頁(1983)参照]またはインビトロでEBVウイルスによりヒトB細胞を形質転換する[Cole et al.(1985)前出参照]ことにより得られる。事実、本発明によると、適切な生物学的活性のヒト抗体分子からの遺伝子と一緒に標的タンパク質に特異的なマウス抗体分子からの遺伝子をスプライシングすることによる「キメラ抗体」製造のために開発された技術[Morrison et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、81巻、6851−6855頁(1984);Neuberger et al.、Nature、312巻、604−608頁(1984);Takeda et al.、Nature、314巻、452−454頁(1985)参照]が使用され得る。上記抗体も本発明の範囲内に含まれる。
【0132】
さらに、モノクローナル抗体が有利な場合、それらは、別法としてファージディスプレー技術を用いて大きな抗体ライブラリーから選択され得る。Marks et al.、J.Biol.Chem.、267巻、16007−16010頁(1992)参照。この技術を用いることにより、1012以下の異なる抗体のライブラリーがfd繊維状ファージの表面で発現され、モノクローナル抗体の選択に利用可能な抗体の「シングル・ポット」インビトロ免疫系が作製された。Griffiths et al.、EMBO J.、13巻、3245−3260頁(1994)参照。上記ライブラリーからの抗体の選択は、固定化標的タンパク質にファージを接触させ、標的に結合したファージを選択およびクローニングし、抗体可変域をコード化する配列を、所望の抗体形態を発現する適切なベクターへサブクローニングすることを含む、当業界で公知の技術により実施され得る。
【0133】
本発明によると、1本鎖抗体製造について報告された技術(米国特許第4946778号参照)は、標的タンパク質に特異的な1本鎖抗体の製造に適合化され得る。本発明の追加的実施態様では、Fab発現ライブラリーの構築について報告された技術[Huse et al.、Science、246巻、1275−1281頁(1989)参照]を使用することにより、標的タンパク質について所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速で容易な同定が可能となる。
【0134】
標的タンパク質のイディオタイプを含む抗体フラグメントは、当業界で公知の技術により生成され得る。例えば、上記フラグメントには、限定されるわけではないが、抗体分子のペプシン消化により製造され得るF(ab')フラグメント、F(ab')フラグメントのジスルフィド架橋を還元することにより生成され得るFab'フラグメント、パパインおよび還元剤で抗体分子を処理することにより生成され得るFabフラグメントおよびFvフラグメントがある。
【0135】
抗体の製造において、所望の抗体についてのスクリーニングは、当業界で公知の技術、例えばELISAにより実施され得る。標的タンパク質に特異的な抗体を選択するため、標的タンパク質に結合する抗体について生成されたハイブリドーマまたはファージディスプレー抗体ライブラリーが検定され得る。
【0136】
(タンパク質活性の修飾方法)
タンパク質活性を直接修飾する方法には、上記で検討されている通り、特に、優性抑制型突然変異、特異的薬剤または化学部分および抗体の使用がある。
【0137】
優性抑制型突然変異は、細胞での発現時にターゲッティングされたタンパク質種の活性を破壊する内在性遺伝子または突然変異体内在性遺伝子への突然変異である。ターゲッティングされたタンパク質の構造および活性により、その標的の活性を破壊する優性抑制型突然変異の構築に適切な戦略の選択を導く一般的規則が存在する。Hershkowith、Nature、329巻、219−222頁(1987)参照。活性モノマー形態の場合、不活性形態の過剰発現により、標的タンパク質の正味の活性を著しく縮小するのに充分な天然基質またはリガンドについての競合が誘発され得る。上記の過剰発現は、例えば突然変異体遺伝子と活性が増強されたプロモーター、好ましくは制御可能または誘導可能なプロモーター、または構成的に発現されるプロモーターを会合させることにより達成され得る。別法として、標的リガンドと事実上不可逆的な会合が行われるように活性部位残基へ変化がなされ得る。上記変化は、ある種のチロシンキナーゼでの活性部位セリン残基の注意深い置換により達成され得る。Perlmutter et al.、Curr.Opin.Immunol.、8巻、285−290頁(1996)参照。
【0138】
活性マルチマー形態の場合、幾つかの戦略により、優性抑制型突然変異体の選択が誘導され得る。マルチマー活性は、マルチマー会合ドメインに結合し、マルチマー形成を阻止する外性タンパク質フラグメントをコードする遺伝子の発現により制御されているかまたは充分に満足できる形で低減化され得る。別法として、特定タイプの不活性タンパク質ユニットの制御可能であるかまたは充分満足できる形の過剰発現により、不活性マルチマーにおける野生型活性ユニットが拘束され、それによってマルチマー活性が低減化され得る。Nocka et al.、EMBO J.、9巻、1805−1813頁(1990)参照。例えば、二量体DNA結合性タンパク質の場合、DNA結合ドメインがDNA結合ユニットから欠失されるか、または活性化ドメインが活性化ユニットから欠失され得る。また、この場合、DNA結合ドメインユニットは、活性化ユニットとの会合を誘発するドメインを伴わずに発現され得る。それによって、発現活性化の可能性は全く存在しない状態でDNA結合部位は拘束される。通常、特定タイプのユニットが活性中における立体配座変化を被る場合、堅固なユニットの発現により生成された複合体は不活化され得る。さらなる例について、細胞機構、例えば細胞運動、有糸分裂過程、細胞構造などに関与するタンパク質は、典型的には少数タイプの多くのサブユニットの会合により構成される。これらの構造は、構造上の欠陥を伴う少数のモノマーユニットを含ませることによる崩壊に高い感受性を示す場合が多い。上記突然変異体モノマーは、関連性のあるタンパク質活性を破壊するもので、制御されているかまたは充分に満足できる形で細胞において発現され得る。
【0139】
優性抑制型突然変異に加えて、温度(または他の外因性因子)に感受性を示す突然変異体標的タンパク質は、当業界でよく知られている突然変異誘発およびスクリーニング手順により見出され得る。
【0140】
また、当業者であれば、標的タンパク質に結合し、阻害する抗体の発現は、別の優性抑制型戦略として使用され得ることは容易に理解できるはずである。
【0141】
(小分子薬剤によるタンパク質の修飾)
最後に、ある種の標的タンパク質の活性は、外因性薬剤またはリガンドへの曝露により制御されているかまたは充分に満足できる形で修飾または摂動され得る。本発明方法は癌治療における様々な薬剤の有用性の試験または確認に適用されることが多いため、薬剤曝露は、mRNAおよび発現されたタンパク質の両方である、細胞成分の重要な修飾/摂動方法である。好ましい実施態様において、投入された細胞成分は、薬剤曝露または遺伝子操作、例えば遺伝子欠失またはノックアウトにより摂動され、系の応答は遺伝子発現技術、例えば遺伝子転写物アレイとのハイブリダイゼーションにより測定される(以下に記載)。
【0142】
好ましい場合では、細胞における唯一の標的タンパク質と相互作用し、その一標的タンパク質のみの活性を改変する、すなわち活性を増強または減少させる薬剤が知られている。変動量の上記薬剤に対し徐々に変化をつけて細胞を曝露することにより、インプットとしてその標的タンパク質を有するネットワークモデルの徐々に変化する摂動が誘発される。充分に満足できる程度の曝露により、充分に満足できる修飾/摂動が誘発される。例えば、シクロスポリンAは、シクロフィリンとの複合体を介して作用する、カルシニューリンタンパク質の非常に特異的な調節物質である。従って、シクロスポリンAの一連の滴定を用いることにより、カルシニューリンタンパク質の所望の阻害量が生成され得る。別法として、シクロスポリンAへ充分満足できる程度曝露することによりカルシニューリンタンパク質は最大限に阻害される。
【0143】
(測定方法)
本発明の実験方法は、細胞成分の測定に依存するものである。測定された細胞成分は、細胞の生物学的状態のいずれかの側面に由来するものであり得る。それらは、RNA存在量が測定される転写状態、タンパク質存在量が測定される翻訳状態、タンパク質活性が測定される活性状態からのものであり得る。細胞特性はまた、例えば1種またはそれ以上のタンパク質の活性が、他の細胞成分のRNA存在量(遺伝子発現)と一緒に測定される場合といった混合側面に由来するものであり得る。この項は、薬剤または経路応答における細胞成分の典型的な測定方法について記載している。本発明は、上記測定の他の方法にも適合化され得る。
【0144】
好ましくは、本発明では他の細胞成分の転写状態を測定する。転写状態は、次の小項に記載されている、核酸または核酸模擬プローブのアレイとのハイブリダイゼーション技術により、または後続の小項に記載されている、他の遺伝子発現技術により測定され得る。しかしながら、測定された結果は、mRNA存在量および/または割合を表す値を含むデータであり、それらは通常(RNA分解速度の差異が存在しない場合における)DNA発現割合を反映している。
【0145】
本発明の様々な別の実施態様においては、転写状態以外の生物学的状態、例えば翻訳状態、活性状態の側面または混合側面が測定され得る。
【0146】
全実施態様において、細胞成分の測定は、いつ測定が行われるかとは比較的無関係な方法で実施されるべきである。
【0147】
(転写状態測定)
好ましくは、転写状態の測定は、この小項で記載されている、転写物アレイとのハイブリダイゼーションにより行われる。ある種の他の転写状態測定方法については、この小項で後述されている。
【0148】
(転写物アレイ概説)
好ましい実施態様において、本発明は、本明細書において「マイクロアレイ」とも称する「転写物アレイ」を使用する。転写物アレイは、細胞における転写状態の分析、および特に癌細胞の転写状態の測定に使用され得る。
【0149】
一実施態様において、転写物アレイは、細胞に存在するmRNA転写物を表す検出可能標識ポリヌクレオチド、例えば全細胞mRNAから合成された蛍光標識cDNAをマイクロアレイとハイブリダイゼーションさせることにより製造される。マイクロアレイは、細胞または生物体のゲノムにおける遺伝子の多く、好ましくは遺伝子の大部分またはほぼ全部の産物についての結合、例えばハイブリダイゼーション部位のアレイが配列された表面である。マイクロアレイは、多くの方法で製造され得、その幾つかについては後述する。しかしながら、製造されたマイクロアレイはある種の特徴を共有している。アレイは再現性があるため、所定のアレイの多数のコピーが製造され、互いに容易に比較され得る。好ましくは、マイクロアレイは小さく、通常5cmより小さいものであり、それらは結合、例えば核酸ハイブリダイゼーション条件下で安定している材料から製造される。マイクロアレイにおける所定の結合部位または結合部位の特有なセットは、細胞における単一遺伝子の産物と特異的に結合する。一特異的mRNAにつき複数の物理的結合部位(以後「部位」)が存在し得るが、明快にするため、以下の考察では単一部位が存在するものと仮定する。一実施態様では、各位置に既知配列の固定された核酸を含む位置的にアドレス可能なアレイが使用される。
【0150】
細胞のRNAに相補的なcDNAが製造され、適切なハイブリダイゼーション条件下でマイクロアレイとハイブリダイゼーションしたとき、特定遺伝子に対応するアレイにおける部位へのハイブリダイゼーションレベルは、その遺伝子から転写されたmRNAの細胞における優勢さを反映することは容易に理解できるはずである。例を挙げると、例えば発蛍光団により検出可能に標識された、全細胞mRNAに相補的なcDNAが、マイクロアレイとハイブリダイゼーションしたとき、細胞では転写されない遺伝子に対応する、すなわち遺伝子産物と特異的に結合し得るアレイ上の部位はほとんどまたは全くシグナル、例えば蛍光シグナルを生じず、コード化されたmRNAが優勢である遺伝子は比較的強いシグナルを発する。
【0151】
(マイクロアレイの製造)
マイクロアレイは、当業界では公知であり、遺伝子産物、例えばcDNA、mRNA、cRNA、ポリペプチドおよびそれらのフラグメントに配列が対応するプローブが既知の位置で特異的にハイブリダイゼーションまたは結合され得る表面により構成される。一実施態様において、マイクロアレイは、各位置が遺伝子によりコード化された産物、例えばタンパク質またはRNAについての別々の結合部位を表し、結合部位が生物体のゲノムにおける遺伝子の大部分またはほぼ全部の産物について存在するアレイ、すなわちマトリックスである。好ましい実施態様において、以後「部位」と称す「結合部位」は、特定の同族体cDNAが特異的にハイブリダイゼーションし得る核酸または核酸類似体である。結合部位の核酸または類似体は、例えば合成オリゴマー、完全長cDNA、完全長より短いcDNAまたは遺伝子フラグメントであり得る。
【0152】
好ましい実施態様において、マイクロアレイは、標的生物体ゲノムにおける全部またはほぼ全部の遺伝子の産物についての結合部位を含むが、全部またはほぼ全部を包括することが、必ずしも要求されるわけではない。通常、マイクロアレイは、ゲノムにおける遺伝子の少なくとも約50%、多くの場合少なくとも約75%、さらに多くは少なくとも約85%、さらに多くは少なくとも約90%より大、そして最も多くは少なくとも約99%に対応する結合部位を有する。好ましくは、マイクロアレイは、興味の対象である生物学的ネットワークモデルを試験および確認するのに直接関連した遺伝子についての結合部位を有する。「遺伝子」は、mRNAが、生物体、例えば単細胞または多細胞生物体における細胞で転写される好ましくは少なくとも50、75または99のアミノ酸の読み枠(ORF)として同定される。ゲノムにおける遺伝子の数は、生物体により発現されたmRNAの数から、またはゲノムの充分に特性確認された部分からの外挿により推定され得る。興味の対象である生物体のゲノムを配列決定したとき、ORFの数が測定され、mRNAコーディング領域がDNA配列解析により同定される。例えば、サッカロマイシス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)ゲノムは、完全に配列決定されており、99アミノ酸より長いORFを約6275有すると報告されている。これらのORFの解析は、タンパク質産物を特定すると思われる5885のORFが存在することを示している。Goffeau et al.、Science、274巻、546−567頁(1996)参照(出典明示により援用する)。対照的に、ヒトゲノムは、約10の遺伝子を含むと推定される。
【0153】
(マイクロアレイ用の核酸の製造)
上記で示した通り、特定同族体cDNAが特異的にハイブリダイゼーションする「結合部位」は、その結合部位で結合された通常核酸または核酸類似体である。一実施態様において、マイクロアレイの結合部位は、生物体ゲノムにおける各遺伝子の少なくとも一部分に対応するDNAポリヌクレオチドである。これらのDNAは、例えばゲノムDNA、cDNAからの遺伝子セグメントのPCR増幅、例えばRT−PCR、またはクローン化配列により得られる。PCRプライマーは、遺伝子またはcDNAの既知配列に基いて選択され、特有のフラグメント、すなわちマイクロアレイ上の他のフラグメントと共有する連続的同一配列が10塩基を越えないフラグメントの増幅をもたらす。コンピュータープログラムは、要求される特異性および最適な増幅特性を有するプライマーの設計に有用である。例えば、Oligo plバージョン5.0、ナショナル・バイオサイエンシーズ、参照。非常に長い遺伝子に対応する結合部位の場合、オリゴ−dTプライマーcDNAプローブがマイクロアレイとハイブリダイゼーションしたときに完全長に満たないプローブでも有効に結合するように遺伝子の3'末端付近のセグメントを増幅することが望ましい場合もある。典型的には、マイクロアレイ上の各遺伝子フラグメントは、約50bpと約2000bpの間、さらに典型的には約100bpと約1000bpの間、そして通常は約300bpと約800bpの間の長さである。PCR方法は公知であり、例えばInnis et al.編、PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications、アカデミック・プレス・インコーポレイテッド、サンディエゴ、カリフォルニア(1990)(出典明示により援用する)に記載されている。コンピューター制御式ロボットシステムが核酸の分離および増幅に有用であることは容易に理解できるはずである。
【0154】
マイクロアレイ用核酸の別の生成手段は、例えばN−ホスホネートまたはホスホルアミダイト化学を用いることによる、合成ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの合成によるものである。Froehler et al.、Nucleic Acid Res.、14巻、5399−5407頁(1986);および McBride et al.、Tetrahedron Lett.、24巻、245−248頁(1983)参照。合成配列は、長さが約15塩基と約500塩基の間、典型的には約20塩基と約50塩基の間の長さである。実施態様によっては、合成核酸が非天然塩基、例えばイノシンを含む場合もある。上記で示した通り、核酸類似体は、ハイブリダイゼーションの結合部位として使用され得る。適切な核酸類似体の一例は、ペプチド核酸である。例えば、Egholm et al.、Nature、365巻、566−568頁(1983);および米国特許第5539083号も参照。
【0155】
別の実施態様において、結合(ハイブリダイゼーション)部位は、遺伝子、cDNA、例えば発現された配列標識、またはそれからの挿入体のプラスミドまたはファージクローンから製造される。Nguyen et al.、Genomics、29巻、207−209頁(1995)参照。さらに別の実施態様において、結合部位のポリヌクレオチドはRNAである。
【0156】
(固体表面への核酸の結合)
核酸または類似体は、ガラス、プラスチック、例えばポリプロピレンおよびナイロン、ポリアクリルアミド、ニトロセルロースまたは他の材料で製造され得る固体支持体に結合される。表面への核酸の好ましい結合方法は、Schena et al.、Science、270巻、467−470頁(1995)により概括的に報告されている通り、ガラスプレートでの印刷によるものである。この方法は、cDNAのマイクロアレイの製造に特に有用である。また、DeRisi etal.、Nat.Genet.、14巻、457−460頁(1996);Shalon et al.、Genome Res.、6巻、639−645頁(1996);および Schena et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻、10539−11286頁(1995)も参照。上述の文献については、各々出典明示により援用する。
【0157】
マイクロアレイの第2の好ましい製造方法は、高密度オリゴヌクレオチドアレイの製造によるものである。in situ 合成についてのフォトリソグラフィー技術[Fodor et al.、Science、251巻、767−773頁(1991);Pease et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91巻、11号、5022−5026頁(1994);Lockhart et al.、Nat.Biotechnol.、14巻、1675頁(1996);および米国特許第5578832号、同第5556752号および同第5510270号参照、各々出典明示により援用する]または特定されたオリゴヌクレオチドの他の迅速な合成および沈積方法[Blanchard et al.、Biosens.Bioelectron.、11巻、687−690頁(1996)参照]を用いることによる表面上の特定位置に、特定された配列と相補的な数千のオリゴヌクレオチドを含むアレイの製造技術については公知である。これらの方法を使用するとき、既知配列のオリゴヌクレオチド、例えば20量体は、表面、例えば誘導体化ガラススライド上で直接合成される。通常、製造されたアレイは重複しており、一つのRNAにつき幾つかのオリゴヌクレオチド分子を伴う。オリゴヌクレオチドプローブは、オルターナティブスプライシングされたmRNAを検出するために選択され得る。
【0158】
例えばマスキングによる、マイクロアレイの他の製造方法も使用され得る。MaskosおよびSouthern、Nucleic Acids Res.、20巻、1679−1684頁(1992)参照。原則として、例えばナイロンハイブリダイゼーション膜上のドットブロットといった、いかなるタイプのアレイでも[Sambrook et al.、Molecular Cloning-- A Laboratory Manual、第2版、1〜3巻、コールドスプリングハーバー・ラボラトリー、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1989)参照、これについては出典明示により援用する]使用され得るが、当業者であれば、ハイブリダイゼーション体積が小さくなるため、非常に小さいアレイが好ましいことは容易に理解できるはずである。
【0159】
(標識プローブの生成)
全体およびポリ(A)RNAの製造方法は、よく知られており、Sambrook et al.、前出(1989)に概括的に記載されている。一実施態様において、RNAは、グアニジニウムチオシアネート溶解、次いでCsCl遠心分離を用いることにより、本発明において興味の対象である様々なタイプの細胞から抽出される。Chirgwin et al.、Biochemistry、18巻、5249−5299頁(1979)参照。ポリ(A)RNAは、オリゴ−dTセルロースでの選択により選別される。Sambrook et al.、前出(1989)参照。興味の対象である細胞には、野生型細胞、薬剤曝露野生型細胞、修飾/摂動細胞成分(複数も可)をもつ細胞、および修飾/摂動細胞成分(複数も可)をもつ薬剤曝露細胞がある。
【0160】
標識cDNAは、オリゴdT−プライマーまたはランダムプライマー逆転写によりmRNAから製造され、両方法とも当業界ではよく知られている。例えば、Klug およびBerger、Methods Enzymol.、152巻、316−325頁(1987)参照。逆転写は、検出可能な標識にコンジュゲートされたdNTP、最も好ましくは蛍光標識dNTPの存在下で実施され得る。別法として、分離されたmRNAは、標識dNTPの存在下における2本鎖cDNAのインビトロ転写により合成された標識アンチセンスRNAに変換され得る。Lockhart et al.、前出(1996)参照(これについては出典明示により援用する)。別の実施態様において、cDNAまたはRNAプローブは、検出可能標識の非存在下で合成され得、それに続いて例えばビオチニル化dNTPまたはrNTPを組込むか、または類似手段、例えばビオチンのプソラレン誘導体をRNAに光架橋させ、次いで標識ストレプトアビジン、例えばフィコエリスリンコンジュゲートストレプトアビジンまたは均等内容物を付加することにより標識され得る。
【0161】
蛍光標識プローブを使用する場合には、フルオレセイン、リッサミン、フィコエリスリン、ローダミン(パーキン・エルマー・シータス)、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、蛍光体X(アマシャム)などを含む、多くの適切な発蛍光団が知られている。例えば、Kricka、Nonisotopic DNA Probe Techniques、アカデミック・プレス、サンディエゴ、カリフォルニア(1992)参照。発蛍光団の対は、それらが容易に区別され得るように互いに異なる放射スペクトルを有するものが選択されるものとする。
【0162】
別の実施態様では、蛍光標識以外の標識が使用される。例えば、放射性標識、または一対の異なる放射スペクトルを有する放射性標識が使用され得る。Zhao et al.、Gene、156巻、207頁(1995);および Pietu et al.、Genome Res.、6巻、492頁(1996)参照。しかしながら、放射性粒子が散乱することから、広く間隔をあけた結合部位が必要とされるため、放射性同位元素の使用はそれほど好ましくはない実施態様である。
【0163】
一実施態様において、0.5mMのdGTP、dATPおよびdCTP+0.1mMのdTTP+蛍光デオキシリボヌクレオチド、例えば0.1mMのローダミン110UTP(パーキン・エルマー・シータス)または0.1mMのCy3 dUTP(アマシャム)を含む混合物を、逆転写酵素、例えばSuperScript.TM.II(LTIインコーポレイテッド)と42℃で60分間インキュベーションすることにより、標識cDNAを合成する。
【0164】
(マイクロアレイへのハイブリダイゼーション)
核酸ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、プローブが特異的アレイ部位と「特異的に結合」または「特異的にハイブリダイゼーション」するように、すなわちプローブが、相補的核酸配列をもつ配列アレイ部位とはハイブリダイゼーション、デュプレックス形成または結合するが、非相補的核酸配列をもつ部位とはハイブリダイゼーションしないように選択される。本明細書で使用されているところによると、ポリヌクレオチドの短い方が25塩基以下である場合、標準的塩基対合規則の使用による誤対合は全く存在せず、またはポリヌクレオチドの短い方が25塩基より長い場合に誤対合が多くても5%に過ぎないとき、一ポリヌクレオチド配列は、もう一方と相補的であると考えられる。好ましくは、ポリヌクレオチドは完全に相補的(誤対合無し)である。特異的ハイブリダイゼーション条件下で、陰性対照を含むハイブリダイゼーション検定法を実施することにより、特異的ハイブリダイゼーションが行なわれることは容易に立証され得る。例、Shalon et al.(1996)前出;および Chee et al.前出参照。
【0165】
最適なハイブリダイゼーション条件は、標識プローブおよび固定化ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの長さ、例えばオリゴマー対ポリヌクレオチド>200塩基、およびタイプ、例えばRNA、DNAおよびPNAにより異なる。核酸について特異的、すなわちストリンジェントなハイブリダイゼーション条件についての一般的パラメーターは、Sambrook et al.(1996)前出、および Ausubel et al.、Current Protocols in Molecular Biology、グリーン・パブリッシングおよびワイリー‐インターサイエンス、ニューヨーク(1987)に記載されている(出典明示により援用する)。Schena et al.のcDNAマイクロアレイを使用するとき、典型的ハイブリダイゼーション条件は、65℃で4時間5×SSC+0.2%SDSにおけるハイブリダイゼーション、次いで低ストリンジェンシー洗浄緩衝液(1×SSC+0.2%SDS)中25℃、次いで高ストリンジェンシー洗浄緩衝液(0.1×SSC+0.2%SDS)中25℃で10分間の洗浄である。Shena et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻、10614頁(1996)参照。有用なハイブリダイゼーション条件もまた提供されている。例えば、Tijessen、Hybridization With Nucleic Acid Probes、エルスヴィア・サイエンス・パブリッシャーズB.V.(1993);および Kricka(1992)前出参照。
【0166】
(シグナル検出およびデータ分析)
蛍光標識プローブを使用するとき、転写物アレイの各部位における蛍光放射は、好ましくは走査型共焦レーザー顕微鏡により検出され得る。一実施態様では、適切な励起線を用いる別々の走査を、使用されている2種の発蛍光団の各々について実施する。別法として、2種の発蛍光団に特異的な波長での同時試料照明を可能にするレーザーが使用され得、2種の発蛍光団からの放射線が同時に分析され得る。Shalon et al.(1996)前出参照、出典明示により援用する。好ましい実施態様において、コンピューター制御型X−Yステージおよび顕微鏡対物レンズを備えたレーザー蛍光スキャナーでアレイを走査する。2種の発蛍光団の連続励起は、マルチライン混合ガスレーザーにより達成され、放射された光線は波長により分離され、2本の光電子増倍管で検出される。蛍光レーザー走査装置は、Schena et al.(1996)前出、および本明細書で引用されている他の参考文献に記載されている。別法として、Ferguson et al.、Nat.Biotechnol.、14巻、1681−1684頁(1996)により報告された光ファイバー束を用いることにより、多数の部位におけるmRNA存在量レベルが同時にモニターされ得る。
【0167】
シグナルを記録し、そして好ましい実施態様では、例えば12ビットアナログ‐ディジタルボードを用いるコンピューターにより分析する。一実施態様では、グラフィックスプログラム、例えばHijaakグラフィックス・スイートを用いて、走査画像からスペックルを除去し、次いで各部位における各波長での平均ハイブリダイゼーションのスプレッドシートを作製する画像グリッドプログラムを用いて分析する。必要ならば、2種の発蛍光団についてチャンネル間における「クロストーク」(またはオーバーラップ)に関する実験的に決定された補正が行われ得る。転写物アレイにおける特定ハイブリダイゼーション部位について、好ましくは2種の発蛍光団の放射割合を計算する。この割合は、同族体遺伝子の絶対発現レベルとは無関係であるが、発現が薬剤投与、遺伝子欠失または他の試験事象により顕著にモジュレーションされる遺伝子については有用である。
【0168】
好ましくは、陽性または陰性として摂動を識別するのに加えて、摂動の大きさを測定することが有利である。これは、当業者には容易に理解できる方法により実施され得る。
【0169】
(他の転写状態測定方法)
細胞の転写状態は、当業界で公知の他の遺伝子発現技術により測定され得る。幾つかの上記技術は、電気泳動分析に関するコンプレキシティーが制限された制限フラグメントのプールを製造するもので、例えばフェージングプライマーと二重制限酵素消化を組合わせる方法[例えば、欧州特許第0534858A1号(1992)、Zabeau et al.参照]または特定されたmRNA末端に最も近い部位をもつ制限フラグメントを選択する方法[例えば、Prashar et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻、659−663頁(1996)参照]がある。他の方法は、例えば多数のcDNAの各々における充分な長さの塩基、例えば20〜50塩基を配列決定することにより各cDNAを同定するか、または特定されたmRNA末端経路パターンに対して既知の位置で生成されている、短い標識、例えば9〜10塩基を配列決定することによりcDNAプールを統計的にサンプリングする。例えば、Velculescu、Science、270巻、484−487頁(1995)参照。
【0170】
(他側面の測定)
本発明の様々な実施態様において、転写状態以外の生物学的状態、例えば翻訳状態、活性状態の側面または混合側面を測定することにより、薬剤および経路応答が得られる。これらの実施態様の詳細はこの項で記載されている。
【0171】
(翻訳状態測定)
翻訳状態の測定は、幾つかの方法に従って実施され得る。例えば、タンパク質の全ゲノムモニタリング、すなわち「プロテオーム」[Goffeau et al.(1996)、前出参照]は、結合部位が、細胞ゲノムによりコード化された複数のタンパク質種に特異的である、固定化された好ましくはモノクローナルの抗体を含むマイクロアレイを構築することにより実施され得る。好ましくは、抗体は、コード化されたタンパク質の実質的フラクション、または少なくとも興味の対象である生物学的ネットワークモデルを試験または確認するのに直接関連したタンパク質について存在する。モノクローナル抗体の作製方法はよく知られている。例えば、Harlowおよび Lane、Antibodies: A Laboratory Manual、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク(1988)参照、これについては出典明示により援用する。好ましい実施態様では、細胞のゲノム配列に基いて設計された合成ペプチドフラグメントに対してモノクローナル抗体を産生させる。上記抗体アレイにより、細胞からのタンパク質をアレイと接触させ、それらの結合を当業界で公知の検定法により検定する。
【0172】
別法として、タンパク質は、二次元ゲル電気泳動システムにより分離され得る。二次元ゲル電気泳動は、当業界ではよく知られており、典型的には一次元目に等電点電気泳動、次いで二次元目にSDS−PAGE電気泳動を行う。例えば、Hames et al.、Gel Electrophoresis of Proteins: A Practical Approach、IRLプレス、ニューヨーク(1990);Shevchenko et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93巻、1440−1445頁(1996);Sagliocco et al.、Yeast、12巻、1519−1533頁(1996);Lander、Science、274巻、536−539頁(1996)参照。得られた電気泳動図は、質量分析技術、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を用いるウエスタン・ブロッティングおよび免疫ブロット分析、および内部およびN−末端マイクロシーケンシングを含む、多様な技術により分析され得る。これらの技術を用いることにより、薬剤に曝露された細胞、例えば酵母または例えば特異的遺伝子の欠失または過剰発現により修飾された細胞における場合を含む、所定の生理学的条件下で製造された全タンパク質の実質的フラクションを同定することが可能である。
【0173】
(生物学的状態の他の側面に基いた実施態様)
mRNA存在量以外の細胞成分をモニタリングすると、mRNAのモニタリングでは遭遇しなかったある種の技術的困難が現時点では露呈されるが、本発明方法の使用により細胞機能の特性確認に関連したタンパク質の活性が測定され得、本発明の実施態様が上記測定結果に基づき得ることは当業者には容易に理解できるはずである。活性の測定は、特性確認されている特定の活性に適切な機能的、生化学的または物理的手段により実施され得る。活性が化学的形質転換を伴う場合、細胞性タンパク質を天然基質と接触させることにより、形質転換割合が測定され得る。活性が多量体単位での会合、例えばDNAとの活性化DNA結合複合体の会合を伴う場合、会合したタンパク質の量または会合の二次的結果、例えば転写されたmRNAの量が測定され得る。また、例えば細胞周期制御における場合のように、一機能的活性のみが判明している場合、機能の目的達成能が観察され得る。既知であり、また測定されてはいるが、タンパク質活性の変化は、前述の本発明方法により分析される応答データを形成している。
【0174】
別の非限定的実施態様において、応答データは、細胞の生物学的状態の混合側面により形成され得る。応答データは、例えばある種のmRNA存在量における変化、ある種のタンパク質存在量の変化、およびある種のタンパク質活性の変化から構築され得る。
【0175】
(コンピューター・インプリメンテーション)
好ましい実施態様において、以前の方法のコンピューター操作段階は、生物学系のモデルを形成および試験するのに強力で好都合な設備を提供できるように一コンピューターシステムまたは一つまたはそれ以上のネットワーク化コンピューターシステムでインプリメンテーション(実装)されている。コンピューターシステムは、内蔵コンポーネントを含み、外付けコンポーネントに連結されている単一ハードウェアプラットホームであり得る。このコンピューターシステムの内蔵コンポーネントは、メイン・メモリと相互連結したプロセッサエレメントを含む。例えば、コンピューターシステムは、200Mhzまたはそれより大きいクロック速度および32MBまたはそれより大きいメイン・メモリのインテル・ペンティアムベースのプロセッサーであり得る。
【0176】
外付けコンポーネントは、大容量データ記憶システムを含む。この大容量記憶システムは、一つまたはそれ以上のハードディスクであり得、それらは典型的にはプロセッサおよびメモリと一緒にパッケージされている。典型的には、上記ハードディスクは、少なくとも1GBのストレージを提供する。他の外付けコンポーネントは、「マウス」または他のグラフィックインプット装置であり得るポインティングデバイスと一緒に、モニターおよびキーボードであり得るユーザーインターフェースデバイスを含む。典型的には、コンピューターシステムはまた、他のローカルコンピューターシステム、リモートコンピューターシステム、または広域通信ネットワーク、例えばインターネットとリンクされている。このネットワークリンクにより、コンピューターシステムは、他のコンピューターシステムとデータおよびプロセッシングタスクを共有できる。
【0177】
このシステムのオペレーション中にメモリへローディングされるのは、幾つかのソフトウェアコンポーネントであり、それらは当業界では標準的であると同時に本発明にとって特殊なものである。これらのソフトウェアコンポーネントは、本発明方法に従ってコンピューターシステムを集合的に機能させる。これらのソフトウェアコンポーネントは、典型的には大容量記憶システムで記憶される。別法として、ソフトウェアコンポーネントは、リムーバブル媒体、例えばフロッピーディスクまたはCD−ROM(説明せず)で記憶され得る。ソフトウェアコンポーネントは、コンピューターシステムおよびそのネットワーク相互連結の管理を担うオペレーティングシステムを代表する。このオペレーティングシステムは、例えばマイクロソフトのWindowsファミリーのもの、例えばWindows 95、Windows 98またはWindows NTまたはUnixオペレーティングシステム、例えばSun Solarisであり得る。ソフトウェアは、このシステムに好都合に存在する共通言語および機能を含むもので、本発明に特異的な方法をインプリメンテーションするプログラムを支援する。本発明の分析方法をプログラムするのに使用され得る言語には、C、C++または、それほど好ましくはないがJAVAがある。最も好ましくは、本発明方法は、等式の記号エントリーおよび高レベル仕様の処理、例えば使用すべきアルゴリズムを可能にする数学的ソフトウェアパッケージでプログラムされ、それによってユーザーは、個々の等式またはアルゴリズムを手順からプログラムする必要性から解放される。上記パッケージには、例えばマスワークス(ナティック、マサチューセッツ)によるMatlab、ウォルフラム・リサーチ(シャンペイン、イリノイ)によるMathematicaおよびマスソフト(ケンブリッジ、マサチューセッツ)によるMathCADがある。
【0178】
好ましい実施態様において、解析ソフトェアコンポーネントは、実際に互いに相互作用する独立したソフトウェアコンポーネントを含む。解析ソフトェアは、システムのオペレーションに必要な全データを含むデータベースを表す。上記データは、必ずしも限定されるわけではないが、先行実験の結果、ゲノムデータ、実験手順および費用および当業者にとっては明白である他の情報を一般的に含む。解析ソフトェアは、本発明の分析方法を実行する一つまたはそれ以上のプログラムを含むデータリダクションおよびコンピューター操作コンポーネントを含む。
【0179】
解析ソフトェアはまた、コンピューターシステムのユーザーが試験ネットワークモデルおよび所望により実験データをコントロールおよびインプットするためのユーザーインターフェースを含む。ユーザーインターフェースは、システムに対し条件を指定するためのドラッグ‐アンド‐ドロップインターフェースを含み得る。ユーザーインターフェースはまた、大容量記憶システムコンポーネント、例えばハードドライブから、リムーバブル媒体、例えばフロッピーディスクまたはCD−ROMから、またはネットワーク、例えばローカルエリアネットワーク、または広域通信ネットワーク、例えばインターネットを通して現システムと通信する異なるコンピューターシステムからの実験データをローディングする手段を含み得る。
【0180】
本発明の解析方法をインプリメンテーションするための代替的システムおよび方法は、当業者にとっては明白なものであり、それらも本発明の請求の範囲内に包含されるものとする。特に、本発明の請求の範囲は、当業者であれば容易に理解できる本発明方法をインプリメンテーションするための代替的プログラム構造を包含するものとする。
表2.精製全RNAおよびcRNAの定量化
【表3】

【0181】
表3.実験QCの要約
【表4】

【0182】
表4.28プローブセット発現プロファイルによる18卵巣試験試料の予測対観察状態の比較
【表5】

注:観察数は各試料群について示されており、ランダム関連付け下で予測される値を括弧内に示す。
「r」=平均正常プロファイルをもつ生検試料の28プローブセットプロファイルのPCC値
OR=63(95%CI:3.3−1194.7)、p=0.0029
【0183】
表5.28、32または42プローブセット発現プロファイルによる36卵巣試料の予測対観察状態の比較
【表6】

【0184】
表6.卵巣腫瘍でアップレギュレーションされる遺伝子のリスト
18試験試料のみ(R1)または全36試料(R2)で分析された発現レベルについての絶対CC値を示す。
【表7】

【0185】
表7.卵巣癌において最も特異的に発現される遺伝子の機能的カテゴリー
【表8】

*5遺伝子(GPRK5、IGFBP5、IRS1、ITPR1およびRBPMS)については、2種の異なるプローブセットにより類似した結果が得られた。
【0186】
表8.卵巣腫瘍機能的カテゴリーにおいてダウンレギュレーションされる遺伝子のリスト
【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

注:肉太の遺伝子記号は、2つの独立したプローブセットにより検出される遺伝子を示した。絶対CC値は、全36試料(R1)および18試験試料のみ(R2)で分析された発現レベルについて示されている。各機能性カテゴリーでは、R1値を下げることによりプローブセットを列挙している。
*は、100最高R1値内にはランク付けされていない28分類セットからの遺伝子を示す。
【0187】
表9.卵巣癌で特異的な影響を受ける900遺伝子の完全セット
【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【表24】

【表25】

【表26】

【表27】

【表28】

【表29】

【表30】

【表31】

【表32】

【表33】

【表34】

【表35】

【表36】

【表37】

【表38】

【0188】
表10.PCC値に基いた上位100プローブセットのランク付け
【表39】

【表40】

【表41】

【表42】

【表43】

【表44】

【表45】

【表46】

【表47】

注:絶対CC値は、全36試料(R1)および18試験試料のみ(R2)で分析された発現レベルについて示されている。
CC≧0.5は、イタリック体で下線が施されている。
【0189】
(引用されている参考文献)
本明細書で引用されている参考文献については全て、個々の各出版物または特許または特許出願が具体的で個々に全目的に適う完全な形で引用されて説明の一部となっているのと全く同程度に全目的にかなう完全なものとして出典明示により援用されているものとする。本明細書の参考文献の検討内容は、著者らによる主張を要約しているに過ぎないものとし、参考文献の内容が先行技術を構成するということを認証しているものではない。出願者は、引用されている参考文献の正確さおよび適切さに異議を申し立てる権利を留保している。
【0190】
さらに、本明細書で引用されている全てのGenBank受入番号、Unigene Cluster番号およびタンパク質受入番号は、それらの各番号が具体的で個々に全目的に適う完全な形で引用されて説明の一部となっているのと全く同程度に全目的に適う完全なものとして出典明示により援用されているものとする。
【0191】
本発明は、本明細書に記載されている特定の実施態様に関して限定されているわけではなく、それらは本発明の個々の側面の単なる説明に過ぎないものとする。当業者であれば容易に理解できるように、本発明の多くの修飾および変形がその精神および範囲から逸脱することなく加えられ得る。本明細書で列挙されているものに加えて、本発明の範囲内における機能的に均等内容の方法および装置は、上記の記載および添付の図面から当業者であれば容易に想到できるものである。上記修飾および変形も、本発明の請求の範囲内に含まれるものとする。本発明は、本明細書に添付された請求の範囲により認められる完全な均等内容範囲と一緒に、かかる請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1A】図1(A)。プローブセットの増加数を用いた試料の再分類。
【0193】
【図1B】図1(B)。分類遺伝子の最適数決定に関するプローブセットの数の関数としての誤差のプロット。上限6から上限55(A)または全900(B)までの個々のプローブセットの増加数による計算値。矢印は、誤分類を最小限にするプローブセットの最小数(N=28)を示す。
【0194】
【図2】図2。卵巣状態の分類についての閾値CC値の測定。
【0195】
【図3】図3。異なるサイズのプローブセットに関する試験および確認生検プロファイルと平均正常プロファイルの相関関係。NまたはTは、それぞれ正常または腫瘍状態を表す。「r」は、平均正常プロファイルをもつ対応する生検試料(1群)のプローブセットプロファイルのPCC値である。試料を最高CCから最低まで順序づけている。
【0196】
【図4】図4。異なるサイズのプローブセットについての全正常プロファイルの平均と生検プロファイルの相関関係。NまたはTは、それぞれ正常または腫瘍状態を表す。「r」は、全正常試料の平均プロファイルをもつ対応する生検試料のプローブセットプロファイルのPCC値である。試料を最高CCから最低まで順序づけている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者が卵巣癌に罹患しているか否かの測定方法であって、
a)患者から試料を得、
b)患者からの試料において表9に列挙した遺伝子の2個またはそれ以上の遺伝子発現レベルを測定し、
c)(b)で測定した2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベルを表1に列挙した同遺伝子のレベルと比較し、
d)(c)で測定した2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベル間における類似度(DOS)を測定し、そして
e)2個またはそれ以上の遺伝子の遺伝子発現レベル間におけるDOSから、試料が患者における卵巣癌の存在の証拠を示す確率を測定する
段階を含む方法。
【請求項2】
遺伝子発現レベルを、表9における遺伝子番号1〜28を含む表に列挙した遺伝子のサブセットについて測定する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
試料が患者から得た細胞を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
試料が、患者における固体腫瘍から取出した細胞を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
試料が、患者から抜取った血液細胞および血清を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
試料が、患者から抜取った体液を含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現レベルの測定方法が、患者からの試料におけるタンパク質発現産物レベルの測定を含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
タンパク質発現産物の存在およびレベルが、タンパク質と特異的に結合する試薬を用いて検出される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
試薬が、抗体、抗体誘導体および抗体フラグメントから成る群から選択される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
表9における2個またはそれ以上の遺伝子の転写ポリヌクレオチドの試料におけるレベルを測定することにより、試料における発現レベルを評価する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
転写されたポリヌクレオチドがmRNAである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
転写されたポリヌクレオチドがcDNAである、請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
検出段階がさらに転写ポリヌクレオチドの増幅を含む、請求項10〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
方法をエクスビボで実施する、請求項1〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
卵巣癌に罹患した対象の処置方法であって、対象の細胞に、表6に示されている発現が卵巣癌でアップレギュレーションされる遺伝子の1個またはそれ以上と相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを供給することを含む方法。
【請求項16】
卵巣癌発症の危険性がある対象における卵巣癌の阻止方法であって、卵巣癌でアップレギュレーションされる表6に示した遺伝子の1個またはそれ以上の発現を阻止することを含む方法。
【請求項17】
卵巣癌の疑いがある患者についての処置戦略の決定に使用されるキットであって、
a)表9における遺伝子の2個またはそれ以上のポリペプチド発現産物を認識し、それに結合し得る2個またはそれ以上の抗体、
b)抗体および個体からの体液試料を含むのに適したもので、表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子が存在する場合、抗体をそれらにより発現されたポリペプチドと接触させ得る容器、
c)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子により発現されたポリペプチドと抗体の組合わせを検出する手段、および
d)使用およびキットの結果の解釈についての説明書
を含むキット。
【請求項18】
患者における卵巣癌の存在または非存在の決定に使用されるキットであって、
a)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子のmRNA発現産物を認識し、それに結合し得る2個またはそれ以上のポリペプチド、
b)ポリヌクレオチドおよび個体からの体液試料を含むのに適したもので、mRNAが存在する場合、ポリヌクレオチドをそれと接触させ得る容器、
c)表9に示した2個またはそれ以上の遺伝子からのmRNAとポリヌクレオチドの組合わせのレベルを検出する手段、および
d)使用およびキットの結果の解釈についての説明書
を含むキット。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2007−526749(P2007−526749A)
【公表日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518084(P2006−518084)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007167
【国際公開番号】WO2005/005661
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
2.UNIX
3.JAVA
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】