説明

予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法

【課題】本発明は石油精製プラントにおけるデソルターを通った後、加熱炉に入る前の予熱交換器や加熱炉において、汚れ付着を有効に防止することができる、汚れ防止方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原油中に加えた洗浄水を分離するためのデソルター4と、該デソルター4で洗浄水を分離された洗浄水除去油を蒸留塔9へ送る前に加熱するための予熱交換器5、7及び加熱炉8を備えた石油精製前処理装置の、予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法であり、デソルター4の上流側(A、B又はC地点)で汚れ防止剤を該原油に添加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プラントにおける予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を精製するための石油精製プラントの蒸留工程では、予熱交換器や加熱炉で原油が加熱された後、蒸留塔に送られ蒸留操作が行われる。予熱交換器内や加熱炉内では原油が熱履歴を受け、多量の汚れが付着する。汚れの成分のうち、無機成分は多くの場合シリカであり、この他各種金属塩等も含まれている。また、無機成分の他には、アスファルテンと呼ばれる有機系高分子成分とが混合した形態で汚れとして付着する。これらの汚れ付着は、予熱交換器や加熱炉の熱交換率の低下を引き起こし、出口温度を維持するための燃料使用量を増大させる結果となっていた。
【0003】
特に、加熱炉の前に設置されるデソルターを通った後、加熱炉に入る前の予熱交換器や加熱炉においては、特に原油中の無機成分やアスファルテンによる汚れが付着しやすく、定期的に装置を停止し高圧水洗浄等の物理的な汚れ除去を行わなければならなかった。デソルターとは、原油に含まれている水分、塩分、鉄分、泥などの不純物を除くために加えられた洗浄水を分離するための装置であり、デソルター内部に設置された電極に高電圧を付与し、静電作用でエマルションを凝集させて水を分離するものである。
【0004】
このような付着物質を除去するために、定期的に軽油等を装置や配管の内部に注入して原油を系外に押し出して置換した後、高圧水洗浄等の物理的な洗浄により汚染物を除去している。しかし、このような方法では、多くの労力を要するとともに、予熱交換器の運転を停止しなければならず、生産性を著しく低下させる。また、汚れの付着により加熱炉での出口温度を維持するための燃料費の増加は膨大なものとなっている。
【0005】
このため、従来より、原油に汚れ防止剤を添加し、汚れの付着を防止することが提案されている(例えば特許文献1〜4)。また、汚れ防止剤として分散剤、連鎖停止剤、金属不活性化剤、脱酸素剤等の、複数種類の薬剤との併用処理においても各種提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭46−23504号公報
【特許文献2】特開昭54−69106号公報
【特許文献3】特開昭55−129490号公報
【特許文献4】特開昭59−232170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の汚れ防止剤では、ある程度汚れの付着を防止することができるものの、デソルターを通った後、加熱炉に入る前の熱交換が行われる箇所や加熱炉における汚れ付着については、未だその汚れ付着の防止効果は充分ではなかった。本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、デソルターを通った後、加熱炉に入る前の予熱交換器や加熱炉において、汚れ付着を有効に防止することができる、汚れ防止方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、デソルターを通った後、加熱炉に入る前の予熱交換器や加熱炉における汚れ付着について、徹底した検討を行った。デソルターに入る前の原油は、通常、チャージポンプによって予熱交換器に送られ、110〜140°Cまで予熱される。従来、原油を洗浄するための洗浄水は、原油と洗浄水とを混合するためのミキシングバルブの手前で、原油の3〜5容量%注入され、デソルターにおいて塩水分が除去される。そして、デソルターから出た後、更に加熱されてプレフラッシュ塔(無い場合も有り)や加熱炉へと送られ、常圧蒸留塔にてナフサ、ガソリン、灯油、軽油、重油などの各製品に分留される。原油予熱交換器での汚れ発生箇所は多岐にわたるものの、一般的にはプレフラッシュ塔(以下プレフラ塔と言う)塔底部以降の200°C以上での高温域で発生する汚れが問題になる場合が多い。汚れの主成分は、アスファルテンと呼ばれる有機系物質と土砂等の無機成分が主体であり、高温下で効果を発揮する分散剤(界面活性剤)が主に使用されている。従来の汚れ防止剤は、デソルターにおいて分離された洗浄水に分配されて損失することを避けるため、デソルターの下流側であって、汚れ問題が発生する予熱交換器の手前で注入されていた。
【0009】
しかし、発明者らが鋭意研究を行った結果、予熱交換器や加熱炉での汚れは、アスファルテン単独ではなく、原油中の成分が酸化劣化や重合などによりポリマーを生成し、これが核となり汚れを助長することがわかった。こうした酸化劣化物や重合物は、原油の貯蔵タンクからデソルターの手前の低温域においても発生しており、これを防止することで分散剤が更に効果的に作用することを見出した。このため、デソルターの上流側で汚れ防止剤を添加したところ、驚くべきことに、デソルターの下流側で汚れ防止剤を添加した場合よりも、汚れ防止効果が優れているという、これまでの技術常識を覆す結果を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法は、原油中に加えた洗浄水を分離するためのデソルターと、該デソルターで該洗浄水が分離された洗浄水除去油を蒸留塔へ送る前に加熱するための予熱交換器及び加熱炉と、を備えた石油精製前処理装置の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法において、前記デソルターの上流側で汚れ防止剤を前記原油に添加することを特徴とする。
【0011】
汚れ防止剤を原油に添加する箇所については、デソルターの上流側であれば特に限定はないが、例えば原油タンク、デソルター手前の原油配管、洗浄水ラインなど、低温域で添加することが好ましい。
【0012】
本発明において対象となる原油としては、国内に輸入されている全ての原油(アラビアンライトに代表される中東系原油、南方系原油、国内に産する原油等、全ての原油が対象となる。
【0013】
本発明において用いられる汚れ防止剤としては特に限定はなく、油溶性・水溶性のどちらでもよい。例えば分散剤、酸化防止剤や重合防止剤や過酸化物分解剤等の連鎖停止剤(これらは「ラジカル捕捉剤」とも言われている)、金属不活性化剤及び脱酸素剤等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの汚れ防止剤を複数種類添加する場合において、これらの混合液を混合したものを添加してもよく、別々に添加しても良い。また、添加方法は、連続的に添加してもよく間欠的に添加してもよい。これら汚れ防止剤の添加量は、原油の種類や汚れ防止剤の種類に応じて適宜決定すればよいが、一般的には原油に対して1〜100ppmであることが好ましい。1ppm未満では汚れ防止効果が小さく、100ppmを超えるような多量の添加は、コスト高を招来する。
【0014】
分散剤としては特に限定はされないが、一般に潤滑油の添加剤として使用されるポリイソブテニルコハク酸エステル等のカルボン酸エステル類、ポリイソブテニルコハク酸イミド等のイミド類、ポリイソブテニルチオリン酸エステル等のチオリン酸エステル類、リン酸エステル類等が挙げられる。
【0015】
また、連鎖停止剤としては、下記構造式に示されるジフェニルアミン誘導体(下記一般式(1))、フェニレンジアミン誘導体(下記一般式(2))などのアミン系酸化防止剤やフェノール系酸化防止剤(下記一般式(3))、その他重合防止剤や過酸化物分解剤等が挙げられる。下記一般式(1)〜(3)において、R〜RはH、アルキル基、OH基等が挙げられる。具体的な連鎖停止剤としては、フェニル−ナフチルアミン、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、N−オクチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、2−tert−ブチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、ハイドロキノン、4−tert−ブチルカテコール、tert−ブチル−p−クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチル−フェノール、フェノチアジン、ジエチルヒドロキシルアミン、4−ヒドロキシ−2,6−ジ−tert−ブチルピペリジニルオキシ、ジラウリルチオジプロピネート、ジステアリルチオジプロピネート、3,3’−チオプロピオン酸、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、1−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛等が挙げられる。
【化1】

【0016】
さらに、金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、N,N’-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン、2,5−ジアルキルメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。
【0017】
また、脱酸素剤としてはジエチルヒドロキシルアミン、亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、エリソルビン酸、カルボヒドラジド等が挙げられる。
【0018】
また、デソルターの上流側において、原油中に汚れ防止剤を添加するときの原油は140°C以下とされていることが好ましく、さらに好ましいのは120°C以下とされていることである。汚れの原因となる、原油中の成分の酸化劣化物や重合物は、140°Cを超えると急速に増加すると考えられ、このような汚れ原因物質が少ないうちに汚れ防止剤を添加することにより、デソルターを出た後、加熱炉に入る前の予熱交換器や加熱炉における汚れ付着を特に効果的に防止できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】石油精製前処理装置のブロック図である。
【図2】オートクレーブ装置の模式図である。
【図3】ファウリング試験に用いた加熱管の断面図である。
【図4】加熱管を加熱管保持器に挿入した状態の断面図である。
【図5】ファウリング試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法が適用される、代表的な石油精製前処理装置を図1に示す。この石油精製プラントでは、図示しない原油貯留タンクから供給された原油が予熱交換器1で110〜140°Cに加熱され、さらに洗浄水供給管2から洗浄水が供給され、ミキシングバルブ3で混合された後、デソルター4に入る。そしてデソルター4内に存在する、図示しない電極間に高電圧を付与してエマルジョンを破壊し、油水分離をした後、油分を予熱交換器5で150〜180°Cに加熱した後、プレフラ塔6で低沸点ガス分が分離される。そしてさらに油分が予熱交換器7によって240〜280°Cに加熱され、加熱炉8で350〜380°Cに加熱された後、常圧蒸留塔9に送られる。
【0021】
本発明の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法では、汚れ防止剤をデソルター4の上流側で添加する。添加箇所としてはデソルター4の上流側であれば特に限定はないが、ミックバルブ3の上流側であれば、ミキシングバルブ3で汚れ防止剤がよく混合されるため好ましい。具体的には、例えば予熱交換器1の上流側のA地点、予熱交換器1と洗浄水供給管2との間のB地点、洗浄水供給管2とミキシングバルブ3との間のC地点が挙げられる。これらの地点から、汚れ防止剤を継続的に、あるいは間歇的に汚れ防止剤を供給することにより、予熱交換器5や予熱交換器7や加熱炉8内の汚れ付着を効果的に防止することが出来る。
【0022】
本発明の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法の効果を検証するため、以下に示す原油に対し、模擬デソルター試験としてオートクレーブ処理を行なった後、後述するファウリング試験を行なった。
【0023】
<模擬デソルター試験>
以下に示すように、原油に水を添加し、デソルターを模したオートクレーブによる処理を行なった。
(実施例1)
実施例1では、実際の石油精製プラントにおける原油への洗浄水の添加及びデソルターにおける油水分離を想定し、図2に示すオートクレーブ装置10を用いて原油と洗浄水との混合を行なった。このオートクレーブ装置10は、容量500mlのオートクレーブ容器11と、撹拌器12が付属した蓋13とを備えており、蓋13には窒素注入用バルブ14と、排気用バルブ15とが接続されている。また、オートクレーブ容器11はマントルヒータ16に収容されており、蓋13には熱電対17が取付けられている。熱電対17はマントルヒータ16の温度を制御する制御装置18に接続されている。
【0024】
このオートクレーブ装置10を用いて原油と洗浄水との混合を行なった。すなわち、オートクレーブ容器11に原油500mlと、油と汚れ防止剤としてのポリイソブテニルコハク酸イミド(以下「PIBコハク酸イミド」ともいう)と、洗浄水とを入れ、窒素注入用バルブ14から加圧窒素を注入して加圧し、撹拌器12を駆動しながら所定時間加温した。汚れ防止剤のポリイソブテニルコハク酸イミドは、分散剤としての役割を果たすものである。詳細な条件を以下に示す。
原油:アラビアンエクストラライト(AEL)79容量%、
クエート原油(KW)13容量%、アラビアンヘビー(AH)3容量%
水 :5容量%
汚れ防止剤(分散剤):ポリイソブテニルコハク酸イミド・・・10ppm
圧力:1.0MPa
加熱温度:120°C
撹拌時間:30分
【0025】
<ファウリング試験>
上記模擬デソルター試験を行なった後、以下に示すファウリング試験を行なった。
ファウリング試験とは、石油精製用汚れ防止剤の汚れ防止効果を調べたりするための試験であり、汚れを付着させるための試験部材として、図3に示す加熱管21を用い、加熱管を油に接触させて、その汚れの付着状況を測定することにより行うものである。この加熱管21は、JIS K2276に規定された熱安定度試験器に使用されるものであり、軟鋼製で端部21a、21bが大径とされ、中間部21cが小径とされた、くびれた管形状をなしており、下端は閉じられている。この加熱管21を図4に示す管形状の加熱管保持器22の中へ挿入する。加熱管保持器22の上部及び下部には流入管23aと流出管23bとが接続されており、加熱管21の中央部には熱電対24が挿入されており、図示しない温度調節器により、熱電対24によって感知される温度が所定の温度となるように、加熱管21の両部21a、21bから電流を流すことが可能とされている。
【0026】
ファウリング試験装置は、図5に示すように、上述の加熱管21と同じ構造の加熱管31、32を内蔵する加熱管保持器33、34を配管35で直列につなぎ、配管35をラインヒータ36で加熱可能とされている。そして、加熱管31は原油貯留槽37に接続されており、ポンプ38及び窒素加圧によって原油貯留槽37の中の原油39が加熱管保持器33、34へ輸送可能とされている。
以上のように構成されたファウリング試験装置を用い、上記模擬デソルター試験を経て分離された油分を原油貯留層37に入れて、3時間のファウリング試験を行なった。ここで、加熱管31、32の温度、圧力、流量及び試験時間は以下のとおりである。
加熱管31の温度:160°C
加熱管32の温度:300°C
圧力 :各4.4MPa
流量 :各1.0ml/min
試験時間:各3hrs
【0027】
(実施例2)
実施例2では、実施例1において汚れ防止剤として用いたポリイソブテニルコハク酸イミドの他、重合の連鎖反応を停止させる連鎖停止剤N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンを10ppmの濃度で用いた。その他は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0028】
(比較例1)
比較例1では、汚れ防止剤を何も添加しなかった。その他は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0029】
(比較例2)
比較例2では、汚れ防止剤としてのポリイソブテニルコハク酸イミドを、オートクレーブ処理及び油水分離を行なった後に添加した。その他は実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0030】
(比較例3)
比較例3では、汚れ防止剤としてのポリイソブテニルコハク酸イミド及び重合の連鎖反応を停止させる連鎖停止剤N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンの添加を、オートクレーブ処理及び油水分離を行なった後に行なった。その他は実施例2と同様であり、説明を省略する。
【0031】
<評 価>
実施例1、2及び比較例1〜3の結果を表1に示す。この結果から、油水分離前に汚れ防止剤を添加した実施例1、2は、油水分離後に汚れ防止剤を添加した比較例2、3と比べた場合、遥かに汚れ付着量が少ないことが分かる。そして、このことから、汚れ防止剤をデソルターの上流側で添加したほうが、優れた汚れ防止効果を奏することが分かった。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例3)
実施例3では、汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミド(濃度10ppmとなるように添加)と、ジエチルヒドロキシルアミン(濃度10ppmとなるように添加)とを用いた。ポリイソブテニルコハク酸イミドは分散剤としての役割を果たし、ジエチルヒドロキシルアミンは連鎖停止剤の一種である重合防止剤及び脱酸素剤としての役割を果たすものである。その他については実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0034】
(実施例4)
実施例4では、汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミド(濃度10ppmとなるように添加)と、亜硫酸ナトリウム(濃度10ppmとなるように添加)とを用いた。亜硫酸ナトリウムは脱酸素剤としての役割を果たすものである。その他については実施例1と同様であり、説明を省略する。
【0035】
(比較例4)
比較例4では、汚れ防止剤を何も添加せず、加熱管31の温度を120°Cとした。その他は実施例3と同様であり、説明を省略する。
【0036】
(比較例5)
比較例5では、汚れ防止剤を何も添加せず、加熱管31の温度を160°Cとした。その他は実施例3と同様であり、説明を省略する。
【0037】
(比較例6)
比較例6では、汚れ防止剤を何も添加せず、加熱管31の温度を200°Cとした。その他は試験例3と同様であり、説明を省略する。
【0038】
(比較例7)
比較例7では、汚れ防止剤を何も添加せず、加熱管31の温度を240°Cとした。その他は実施例3と同様であり、説明を省略する。
【0039】
<評 価>
実施例3、4及び比較例4〜7の結果を表2に示す。この結果から、油水分離前に汚れ防止剤を添加した実施例3、4は、汚れ防止剤を何も入れなかった比較例4〜7と比べて、遥かに汚れ付着量が少ないことが分かる。なお、汚れ防止剤を何も入れない場合において、加熱管31の温度が高いほうが、加熱管31の汚れ付着量が多かった。
【0040】
【表2】

【0041】
<汚れ防止剤を添加するときの原油の温度の影響>
汚れ防止剤を添加するときの原油の温度の影響を調べるため、以下に示す試験例1〜20を行なった。
【0042】
(試験例1)
実施例1で用いた原油に、汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを濃度20ppmとなるように添加し、洗浄水の添加及びオートクレーブによる処理を行なうことなく、そのままファウリング試験を行なった。ファウリング試験の条件は、加熱管31の温度を140°Cとしたこと以外は、実施例1と同じであり、説明を省略する。
【0043】
(試験例2)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸エステルを濃度20ppmとなるように添加した。汚れ防止剤のポリイソブテニルコハク酸エステルは、分散剤としての役割を果たすものである。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0044】
(試験例3)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルチオリン酸エステルを濃度20ppmとなるように添加した。汚れ防止剤のポリイソブテニルチオリン酸エステルは、分散剤としての役割を果たすものである。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0045】
(試験例4)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを10ppm、tert−ブチルカテコールを10ppmとなるように添加した。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0046】
(試験例5)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを10ppm、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンを10ppmとなるように添加した。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0047】
(試験例6)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸エステルを10ppm、NN´−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンを10ppmとなるように添加した。汚れ防止剤のNN´−ジサリチリデン−1,2−ジアミノプロパンは、金属不活性化剤としての役割を果たすものである。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0048】
(試験例7)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを10ppm、p−フェニレンジアミンを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を80°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0049】
(試験例8)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを10ppm、ジエチルヒドロキシルアミンを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を80°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0050】
(試験例9)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを15ppm、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンを5ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を80°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0051】
(試験例10)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを5ppm、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンを15ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を80°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0052】
(試験例11)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸イミドを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0053】
(試験例12)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸エステルを15ppm、4−ヒドロキシ−2,6−ジ−tert−ブチルピペリジニルオキシを5ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を80°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0054】
(試験例13)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸エステルを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0055】
(試験例14)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルチオリン酸エステルを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0056】
(試験例15)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルチオリン酸エステルを10ppm、tert−ブチルカテコールを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0057】
(試験例16)
汚れ防止剤としてポリイソブテニルコハク酸エステルを10ppm、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミンを10ppmとなるように添加した。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0058】
(試験例17)
汚れ防止剤を添加しなかった。また、加熱管31の温度を120°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0059】
(試験例18)
汚れ防止剤を添加しなかった。また、加熱管31の温度を160°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0060】
(試験例19)
汚れ防止剤を添加しなかった。また、加熱管31の温度を200°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0061】
(試験例20)
汚れ防止剤を添加しなかった。また、加熱管31の温度を240°Cとした。その他の条件は試験例1と同じであり、説明を省略する。
【0062】
<評 価>
試験例1〜20の結果を表3に示す。試験例17〜20の結果から、汚れの付着や生成は温度が高いほど顕著となることが分かる。また汚れ防止剤を160°C以上の温度域で添加した試験例11及び試験例13〜16の場合には、300°Cにおける汚れ付着量は、汚れ防止剤を添加しなかった試験例17〜20とそれほど変わらないのに対し、140°C以下の低温域から汚れ防止剤を添加した試験例1〜10及び試験例12では、汚れ防止剤の種類や組み合わせに関わらず、300°Cにおける汚れ付着量は大幅に減少し、汚れ防止剤を添加するときの原油の温度が低いほど、高温での汚れ防止効果が高いことが確認された。
【0063】
【表3】

表3中の汚れ防止剤の略号は以下の物質を表す。
分散剤A:ポリイソブテニルコハク酸イミド
分散剤B:ポリイソブテニルコハク酸エステル
分散剤C:ポリイソブテニルチオリン酸エステル
連鎖停止剤D:tertブチルカテコール
連鎖停止剤E:N,N’−ジ−sec−ブチル−p-フェニレンジアミン
金属不活性化剤F:N,N’-ジサリチリデン-1,2-ジアミノプロパン
連鎖停止剤G:ジエチルヒドロキシルアミン
脱酸素剤H:亜硫酸ナトリウム
連鎖停止剤I: 4−ヒドロキシ−2,6−ジ−tert−ブチルピペリジニルオキシ
【0064】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、石油精製原油予熱交換器や加熱炉の汚れ付着防止に利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
4…デソルター
9…蒸留塔
5,7…予熱交換機
8…加熱炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油中に加えた洗浄水を分離するためのデソルターと、該デソルターで該洗浄水が分離された洗浄水除去油を蒸留塔へ送る前に加熱するための予熱交換器及び加熱炉とを備えた石油精製前処理装置の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法において、
前記デソルターの上流側で汚れ防止剤を前記原油中に添加することを特徴とする予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法。
【請求項2】
前記汚れ防止剤は分散剤、連鎖停止剤、金属不活性化剤、及び脱酸素剤の少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項1記載の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法。
【請求項3】
前記汚れ防止剤は少なくとも分散剤を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法。
【請求項4】
前記原油中に汚れ防止剤を添加するときの該原油は140°C以下とされていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の予熱交換器及び加熱炉の汚れ防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−163539(P2010−163539A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7147(P2009−7147)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)