説明

予防保全装置および配管内面の予防保全方法

【課題】水で満たされた配管内面に対する予防保全作業を容易に実施できる予防保全装置を提供する。
【解決手段】予防保全装置1は移動体2およびウォータジェットピーニング装置(WJP装置)3を備える。移動体2は、ベースボディー62に、推進用の噴射ノズル22及び浮力体25,26,27,28,29,30を設置する。原子炉圧力容器66内の冷却水72中に吊り降ろされた移動体2は、高圧ポンプ17からの高圧水を噴射ノズル22から噴射して冷却水72中で前進し、原子炉圧力容器67に接続されて冷却水72で満たされた配管67内に挿入される。浮力体25,26,27,28,29,30の浮力調節により配管67内での移動体2の姿勢が制御され、曲り管部69等の通過が容易になる。高圧ポンプ17からの高圧水がWJP装置3の噴射ノズル4A,4Bから噴射され、垂直管部70内面にWJPが施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予防保全装置および配管内面の予防保全方法に係り、特に、原子力プラントの原子炉圧力容器に接続された配管内の予防保全に適用するのに好適な予防保全装置および配管内面の予防保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントの原子炉圧力容器に接続された配管内の点検および予防保全について、幾つかの案が提案されている。
【0003】
特開平8−5773号公報は、沸騰水型原子炉において、原子炉圧力容器を貫通して原子炉圧力容器内に達しているライザー管の内面の除染、洗浄および内面改質を行う予防保全装置及び予防保全方法を記載している。この予防保全装置は、原子炉圧力容器内で上方よりライザー管内の所定の位置まで吊り降ろされ、予防保全装置に設けられた固定脚をライザー管内面に押し付けてライザー管内に保持される。予防保全装置としては、内面加工装置、内面洗浄装置、内面改質装置および内面検査装置が用いられる。これらの装置を固定脚によりライザー管内に保持し、ライザー管内面の加工、洗浄、改質および検査が行われる。
【0004】
ヘッド部、ヘッド回転駆動部、屈曲駆動ユニット及び走行駆動ユニットを備えた配管内作業装置が、特開2008−14447号公報に記載されている。ヘッド回転駆動部のボディーにアームが回転可能に取り付けられ、屈曲駆動ユニットの一端部がアームに回転可能に取り付けられる。走行駆動ユニットの一端部が屈曲駆動ユニットの他端部に回転可能に取り付けられる。ヘッド部がヘッド回転駆動部のボディーの前面に取り付けられる。配管内作業装置が原子炉圧力容器内に設けられたライザー管内に上端から挿入される。ヘッド部に取り付けられたウォータジェットピーニング用の噴射ノズルを取り付け、ライザー管内面のウォータジェットピーニングを行う。
【0005】
特開2001−264482号公報は、配管の内面検査装置を記載している。この内面検査装置は、原子炉圧力容器内に設けられて原子炉圧力容器を貫通するライザー管内に原子炉格納容器の外から挿入され、ライザー管内を下方から上方に向かって移動させる。内面検査装置には、蛍光浸透探傷ヘッドが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−5773号公報
【特許文献2】特開2008−14447号公報
【特許文献3】特開2001−264482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平8−5773号公報および特開2008−14447号公報には、予防保全装置を、原子炉圧力容器の軸方向に沿って配置されて原子炉圧力容器に設けられた配管の上端に形成された開口から配管内に挿入し、配管内を上方から下方に向かって移動させることを記載している。しかしながら、それらの公開公報に記載された技術は、配管の上端部側から予防保全装置を配管内の所定の位置に移動させる方法であり、配管上端部側からのアクセスが不可能な場合、その予防保全装置を配管下端部側から配管内にアクセスさせることが困難である。
【0008】
また、特開2001−264482号公報に記載された技術は、内面検査装置を配管下端部側から配管内にアクセスする方法であるが、この方法は配管下端部側が気中に存在する場合での方法であり、配管下端部側が水中に存在する場合で内面検査装置を配管内にアクセスさせるには困難である。
【0009】
本発明の目的は、水で満たされた配管内面に対する予防保全作業を容易に実施することができる予防保全装置および配管内面の予防保全方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、ベースボディーと、ベースボディーに設置されてベースボディーを前進させる推進装置と、ベースボディーに設置されたウォータジェットピーニング装置と、ベースボディーの先端部及び後部にそれぞれ設置された複数の浮力体と、ベースボディーに設置され、配管内でベースボディーを保持するときに配管の内面に接触する複数のクランプ装置と、ベースボディーに設置されたカメラとを備えたことにある。
【0011】
ベースボディーの先端部及び後部にそれぞれ設置された複数の浮力体を有するので、推進装置、ウォータジェットピーニング装置、複数の浮力体、複数のクランプ装置、及びカメラを設置したベースボディーを、水で満たされた原子炉圧力容器に接続されて内部が水で満たされた配管内に、原子炉圧力容器内に開放された、その配管の開口部を通して容易に挿入することができ、曲り管部及びこれにつながる垂直管部を有するその配管の垂直管部内に下部よりそのベースボディーを挿入することができる。このため、そのベースボディーを上部よりその配管内に挿入することができない場合であっても、配管内面に対して予防保全作業、すなわち、ウォータジェットピーニングを容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水が満たされた原子炉圧力容器に接続されて内部に水が満たされる配管内面への予防保全作業を容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施例である予防保全装置の構成図である。
【図2】図1に示す予防保全装置の移動体の拡大図である。
【図3】図2に示す移動体に設けられたウォータジェットピーニング装置及び移動装置の詳細構成図である。
【図4】図1に示すカメラユニットの拡大正面図である。
【図5】図2に示す移動体に設けられた浮力体への空気供給装置の詳細構成図である。
【図6】図2に示す移動体に設けられたクランプ装置の詳細構成図である。
【図7】図2に示す移動体が配管内面にクランプされたときにおける図6に示すクランプ装置の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0015】
本発明の好適な一実施例である予防保全装置を、図1および図2を用いて説明する。
【0016】
本実施例の予防保全装置1は、移動体2およびウォータジェットピーニング装置3を備えている。移動体2は、推進装置21、浮力体25,26,27,28,29,30、クランプ装置48A,48B、ベースボディー62およびカメラユニット63A,63Bを有する。さらに、ウォータジェットピーニング装置3は、噴射ノズル4A,4B、キャビテーション発生器(ウォータジェットピーニング気泡生成装置)4、モータ(ノズル旋回装置)7(図3参照)、高圧ポンプ(加圧水供給装置)17及びノズル移動装置13(図4参照)を有する。推進装置21、7個の浮力体(図1、図2および図5では、7個の浮力体のうち、6個の浮力体25,26,27,28,29,30を図示)、3個のクランプ装置(図1および図2では、3個のクランプ装置のうち、2個のクランプ装置48A,48Bを図示)、キャビテーション発生器4、モータ7及びノズル移動装置13は、内部に空間が形成される、ベースボディー62に設置される。ベースボディー62は、例えば円筒状の側壁を有し、この側壁の両端が封鎖されて内部に空間が形成される。
【0017】
キャビテーション発生器4が、後述するように、回転可能にベースボディー62の先端部に取り付けられる。浮力体25がキャビテーション発生器4の先端面に取り付けられ、浮力体30が連結部材(例えば、鎖)31によって浮力体25の前面に連結される。浮力体28及び29がベースボディー62の後面に取り付けられる。浮力体26および27を含む3個の浮力体が、ベースボディー62の円筒状側壁の外面に周方向において等間隔に取り付けられる。クランプ装置48A,48Bを含む3個のクランプ装置は、ベースボディー62の円筒状側壁の外面に、この外面に取り付けられた浮力体の相互間に配置されて周方向において等間隔に設置される。
【0018】
ウォータジェットピーニング装置3を、図1及び図4を用いて具体的に説明する。キャビテーション発生器4の後面に設けられた回転軸5が、ベースボディー62の前面からベースボディー62内に挿入され、ベースボディー62内に配置されたモータ7の回転軸に連結されている。ベースボディー62の、回転軸5の貫通部は、シールにより水封構造になっている。ベースボディー62内に配置されたスライド板11が、ベースボディー62の内面に固定された支持部材(図示せず)に、ベースボディー62の軸方向に移動可能に取り付けられる。モータ7はスライド板11に固定される。
【0019】
ベースボディー62内に配置されるノズル移動装置13が、モータ14、ボールネジ15及びナット16を有する。ナット保持部材12がスライド板11に取り付けられ、ナット16がナット保持部材12に取り付けられる。モータ14がベースボディー62の内面に取り付けられ、モータ14の回転軸がボールネジ15の一端に連結される。ボールネジ15はナット16と噛み合い、ボールネジ15の他端部がベースボディー62の内面に設置される軸受(図示せず)にて保持される。
【0020】
180°反対方向に配置された噴射ノズル4Aと噴射ノズル4Bが、キャビテーション発生器4に設置される。ウォータジェットピーニング装置3の噴射ノズルは、1個でもよく、また3個以上設けてもよい。水供給通路9が回転軸5内に形成され、この水供給通路9がキャビテーション発生器4内を経て水供給通路10A,10Bに分岐される。水供給通路10Aが噴射ノズル4Aに接続され、水供給通路10Bが噴射ノズル4Bに接続される。環状のチャンバー8が、回転軸5を取り囲んで回転軸5に取り付けられる。チャンバー8内の領域が、回転軸5に形成された複数の開口部6により回転軸5内の水供給通路9に連絡される。チャンバー8がスライド板11に固定される。
【0021】
高圧ポンプ17に接続される高圧ホース18が、浮力体28と浮力体29の間を通ってベースボディー62に取り付けられてベースボディー62内に達する。弁20を取り付けた配管19A及び弁24を取り付けた配管23が、高圧ホース18に接続され、ベースボディー62内に設置される。可撓性の高圧ホース19Bが、配管19Aに接続され、チャンバー8に取り付けられてチャンバー8内の領域に連絡される。
【0022】
推進装置21が、噴射ノズル22、配管23及び弁24を有する。噴射ノズル22は、浮力体28と浮力体29の間に配置されてベースボディー62の後面に取り付けられる。配管23が噴射ノズル22に接続される。
【0023】
弁20及び24は、高圧ポンプ17から吐出された高圧水の噴射ノズル22への供給及びこの高圧水のキャビテーション発生器4及び噴射ノズル4A,4Bへの供給を切り替える切り替え装置である。
【0024】
カメラユニット63A,63Bが、180°反対方向に配置されてキャビテーション発生器4に取り付けられる。カメラユニット63Aが噴射ノズル4A付近に配置され、カメラユニット63Bが噴射ノズル4B付近に配置される。カメラユニット63A,63Bは、図4に示すように、カメラ64およびカメラ64の側に配置された一対の照明65A,65Bを有する。
【0025】
各浮力体に空気を供給する空気供給装置71を、図1及び図5を用いて説明する。空気供給装置71は、配管32,33,34,35および36、ブロワ44およびエアホース37,45を有する。配管32,33,34,35および36が、ベースボディー62内に配置されてベースボディー62の内面に設置される。ブロワ44に接続されたエアホース45が、浮力体28と浮力体29の間を通ってベースボディー62に取り付けられてベースボディー62内に達する。弁38を取り付けた配管32が、エアホース45に接続され、さらに、浮力体25に接続される。弁39を取り付けた配管33が、配管32に接続されて浮力体28に接続される。弁40を取り付けた配管34が、配管32に接続されて浮力体29に接続される。弁41を取り付けた配管35が、配管32に接続されて浮力体26に接続される。弁42を取り付けた配管36が、配管32に接続されて浮力体27に接続される。弁47が設けられたエアホース46がエアホース45に接続される。図5に図示されていないが、ベースボディー62の円筒状側壁の外面に設置された残りの1個の浮力体も、弁を設けた配管によって配管32に接続される。
【0026】
ベースボディー62の円筒状側壁の外面に設置された3個のクランプ装置について説明する。これらのクランプ装置は同じ構造であるので、クランプ装置48Aを例に挙げて説明する。クランプ装置48Aは、図6に示すように、押し付け部材49、リンク50A,50B,51、スライド板52および駆動装置54を有する。スライド板52が、ベースボディー62の外面に固定されてこの外面と平行に配置された支持板(図示せず)に、ベースボディー62の軸方向に移動可能に取り付けられる。リンク50Aとリンク50Bは間をおいて互いに平行に配置され、リンク50A,50Bのそれぞれの一端部がスライド板52に回転可能にそれぞれ取り付けられる。リンク50A,50Bのそれぞれの他端部が押し付け部材49に回転可能にそれぞれ取り付けられる。リンク51の一端部がリンク50Bの長手方向の真ん中でリンク50Bに回転可能に取り付けられる。リンク51の他端部は、ベースボディー62の外面に取り付けられてキャビテーション発生器4の側面に沿って伸びている支持部材53に回転可能に取り付けられる。
【0027】
駆動装置54は、シリンダ55、ピストン56、ピストンロッド57及び連結部材58を有する。ピストン56が内部に配置されたシリンダ55がベースボディー62の外面に取り付けられる。連結部材58は、ピストン56に取り付けられたピストンロッド57に連結され、さらにスライド板52に取り付けられる。連結部材58はピストンロッド57に対して直角に配置される。ブロワ59に接続されたエアホース60が、ベースボディー62に取り付けられてベースボディー62内に配置され、シリンダ55に接続される。
【0028】
図示されていないが、モータ7,14に電力を供給するケーブル、および制御盤61からの制御指令をベースボディー62内に設けられた弁またはモータに伝えるケーブルが、ベースボディー62に接続されている。
【0029】
予防保全装置1を用いた配管内面の予防保全方法の一例を、図1を用いて以下に説明する。本実施例における保全方法は、原子炉圧力容器66に接続されて、水平管部68、曲がり管部69および垂直管部70を有する配管67を、予防保全対象物としている。
【0030】
配管内面の予防保全方法は、原子力プラントの定期検査の期間中に行われる。或る運転サイクルでの運転が終了した原子力プラントは停止され、運転停止の状態で原子力プラントの定期検査が実施される。原子炉圧力容器66の上蓋が取り外され、冷却水72が原子炉圧力容器66内及び原子炉圧力容器66の上方に形成されたプール内に充填される。高圧ポンプ17、ブロワ44,59および制御盤61が、冷却水72で満たされたプールの上方に位置する床面に設置される。冷却水72が、配管67の水平管部68、曲がり管部69および垂直管部70内にも満たされている。
【0031】
制御盤61からの制御指令により、弁39〜42およびベースボディー62の円筒状側壁の外面に設置された残りの1個の浮力体に接続された配管に設けられた弁を開いてブロワ44を駆動する。このとき、弁38,43および47は閉じている。移動体2は上記の床面上に置かれており、ブロワ44で加圧された空気が、エアホース45を通してベースボディー62内に導かれ、配管32内に達する。さらに、この空気は、配管33により浮力体28内に、配管34により浮力体29内に、配管35により浮力体26内に、配管36により浮力体27内に、さらに、上記の残りの浮力体内にそれぞれ供給される。空気の供給により浮力体26〜29が膨らみ、これらの浮力体が所定の大きさになったとき、制御盤61からの制御指令により弁39〜42が全閉にされ、ブロワ44が停止される。空気が供給されない浮力体25,30は膨んでいない。
【0032】
4つの浮力体が膨らんでいる移動体2は、原子炉圧力容器66が設置される原子力建屋(図示せず)の天井クレーン(図示せず)に吊り下げられて原子炉圧力容器66内に降ろされる。吊り降ろされる移動体2が、予防保全の対象である配管67が原子炉圧力容器66に開口している開口部の高さまで下降したとき、移動体2の下降が停止される。制御盤61からの制御指令により弁38,43が開いてブロワ44が駆動され、ブロワ44から吐出された空気が、エアホース45および配管32を通して浮力体25内に、さらに配管37を通して浮力体30に供給される。このとき、弁47は全閉状態になっている。浮力体25,30内のそれぞれの圧力が所定圧力になって所定の大きさになったとき、制御盤61からの制御指令により弁38,43が全閉にされ、ブロワ44が停止される。浮力体25,30が膨らむことによって、移動体2の前面部が持ち上げられて移動体2がほぼ水平な状態になる(図1の(A)の状態)。浮力体25,30内のそれぞれの圧力は、各浮力体に設けられた圧力センサ(図示せず)によって計測され、圧力計測値は信号線により制御盤61に伝えられる。浮力体26〜29のそれぞれにも、内部の圧力を計測する圧力センサがそれぞれ設けられる。
【0033】
移動体2の水平状態の姿勢を保つために浮力体25〜30内のそれぞれの圧力を調節する必要がある場合には、各浮力体に設けられた圧力センサからの圧力測定値に基づいて、該当する浮力体に接続された配管に設けられた弁、およびエアホース46に設けられた弁46の開閉、およびブロワ46の駆動、停止を行うことにより、その浮力体の圧力を調節する。例えば、浮力体25内の圧力が低くて移動体2の前面部が下がっている場合には、弁38を開いてブロワ44が駆動され、移動体2の前面部が持ち上げられるまで浮力体25内に空気が供給される。このとき、弁39〜43および47は全閉されている。移動体2の前面部が持ち上げられて移動体2が水平状態になったとき、ブロワ44が停止され、弁38が全閉になる。逆に、浮力体25内の圧力が高くなって移動体2の前面部が上を向いている場合には、ブロワ44を停止状態にして弁39〜43および47が全閉状態にし、弁38を開いて弁47を開く。浮力体25内の空気が配管32、エアホース45および46を通って外部に放出される。このため、浮力体25内の圧力が低下して移動体2の前面部が下降し、移動体2が水平状態を保つようになる。移動体2が水平状態になったとき、弁38,47が全閉される。浮力体25以外の各浮力体内の圧力を調節する場合にも、上記した弁の開閉操作等を行う。弁38〜43および47、さらにベースボディー62の円筒状側壁の外面に設置された残りの1個の浮力体に対応して設けられた弁は、浮力体25〜30およびベースボディー62の円筒状側壁の外面に設置された残りの1個の浮力体のそれぞれの内部の空気圧を調節して移動体2に作用する浮力を調節する浮力調節装置である。
【0034】
制御盤61から出力された制御指令により高圧ポンプ17が駆動され、高圧ポンプ17に供給される水が、高圧ポンプ17で昇圧されて高圧水として、高圧ホース18に吐出される。高圧ポンプ17への水の供給は、水タンク(図示せず)から行われる。高圧水は、高圧ホース18を通してベースボディー62内に導かれ、配管23内に達する。制御盤61からの制御指令により弁24が開いている。このとき、弁20は全閉状態になっている。配管23内に達した高圧水は、噴射ノズル22から噴射される。噴射ノズル22から原子炉圧力容器66内の冷却水中に噴射された高圧水は、移動体2に推進力を与える。このため、移動体2は、高圧水の噴射方向とは逆方向に前進する。移動体2に設けられた照明63A,63Bが点灯され、カメラ64で撮影が行われる。カメラ64で撮影した映像は、ケーブルを通して上記の床面に設置したモニタ(図示せず)に伝送され、このモニタに表示される。
【0035】
やがて、移動体2の先頭部、例えば、浮力体30,25およびベースボディー62の先頭部が、配管67の水平部68内に入り込む(図1の(B)の状態)。移動体2は噴射ノズル22からの高圧水の噴射により水平部68内を進み、曲がり管部69に達する。ここで、制御盤61からの制御指令により弁38,43を開いてブロワ44を駆動し、ブロワ44から吐出される空気が浮力体25,30内に供給される。浮力体25,30のそれぞれの浮力が高められ、移動体2の先頭部が浮力体25,30により上方に持ち上げられる。浮力体25,30の浮力を高めた後、ブロワ44が停止されて弁38,43が閉じられる。制御盤61からの制御指令により弁39,40,47が開いて浮力体28,29内の空気が外部に放出される。このため、噴射ノズル22から高圧水を噴射している移動体2は、曲がり管部69内を容易に通過することができる(図1の(C)の状態)。浮力体25,30の浮力が高められた移動体2は、高圧水を噴射しながら垂直管部70内を上昇する。移動体2が曲がり管部69を通過したとき、浮力体25,30に空気を供給して移動体2に作用する浮力を高める。カメラ64で撮影された映像をモニタで確認し、移動体2が垂直管部70内の予防保全施工位置の近くに到達したとき、制御盤61からの制御指令により高圧ポンプ17が停止される。制御盤61からの制御指令により弁38,39,40,43,47のそれぞれの開度を制御して浮力体25,28,29,30内のそれぞれの圧力を調節する。これにより、浮力体25,28,29,30による浮力が調節され、垂直管部70内を上昇する移動体2が予防保全施工位置に到達したとき、移動体2の上昇が停止される。その後、移動体2がクランプ装置48Aおよび48Bによって垂直管部70の内面に保持される。クランプ装置48Aおよび48Bによる移動体2の保持を、詳細に説明する。
【0036】
制御盤61からの制御指令によりブロワ59が駆動され、ブロワ59で加圧された空気が、エアホース60を通って3個のクランプ装置のそれぞれの押し付け部材49を移動する各駆動装置54のシリンダ55内のピストン56よりも後部側の領域に供給される。加圧空気の作用によりピストンが移動してピストンロッド57がシリンダ54から浮力体25側に押し出され、連結部材58が浮力体25に向かって移動する。スライド板52も連結部材58の移動とともに同じ方向に移動する。スライド板52の浮力体25側への移動に伴って、リンク50A,50B、さらにはリンク51が立ち上がり(図7参照)、リンク50A,50Bによって押し付け部材49が垂直管部70の内面に押し付けられる。クランプ装置48Aおよび48Bのそれぞれの押し付け部材49が垂直管部70の内面に押し付けられ、移動体2が垂直管部70の内面に保持される。移動体2が垂直管部70の内面に保持されたとき、ブロワ59の駆動が停止される。垂直管部70内の移動体2は、3個のクランプ装置によって垂直管部70の内面に保持される。
【0037】
そして、ウォータジェットピーニング装置3による垂直管部70の内面に対する予防保全作業、すなわち、残留応力改善作業が実施される。
【0038】
制御盤61からの制御指令により弁24が閉じられて弁20が開き、高圧ポンプ17が駆動される。高圧ポンプ17から吐出された高圧水が、高圧ホース18、配管19Aおよび高圧ホース19Bを通ってチャンバー8内に導かれる。高圧水は、さらに、回転軸5に形成された複数の開口部6を通って回転軸5内の水供給通路9に流入し、キャビテーション発生器4内に供給される。キャビテーション発生器4において高圧水にキャビテーション気泡が生成される。キャビテーション気泡を含む高圧水が、水供給通路10Aにより噴射ノズル4Aに供給され、水供給通路10Bにより噴射ノズル4Bに供給される。噴射ノズル4A,4Bのそれぞれから噴射されたキャビテーション気泡を含む高圧水が、垂直管部70の内面における予防保全施工位置に向かって噴射される。高圧水を噴射している噴射ノズル4A,4Bがキャビテーション発生器4の回転によってベースボディー62の中心軸を中心に旋回する。
【0039】
キャビテーション発生器4の回転について説明する。制御盤61からの制御指令によりモータ7が回転されて回転軸5が回転し、これに伴ってキャビテーション発生器4が回転される。噴射ノズル4A,4Bが垂直管部70の内面に沿って旋回する。回転軸5がチャンバー8内で回転するため、回転軸6が回転している間でも、チャンバー8内に供給された高圧水が各開口部6を通って回転軸6内に流入する。このため、噴射ノズル4A,4Bが旋回しながらキャビテーション気泡を含む高圧水を垂直管部70の内面に向かって噴射するので、垂直管部70の内面において周方向の全面に対してウォータジェットピーニングが施される。この結果、垂直管部70の内面における周方向全面に残留圧縮応力が付与される。
【0040】
噴射ノズル4A,4Bから高圧水が噴射されて垂直管部70の内面に対してウォータジェットピーニングを施工している間、カメラユニット63A,63Bのそれぞれにおいて、照明65A,65Bが付けられ、カメラ64により噴射ノズル4A,4Bからのキャビテーション気泡を含む高圧水の噴射状況を撮影する。各カメラユニットのそれぞれで撮影された高圧水の噴射状況の映像が、前述のモニタに表示され、高圧水の噴射状況を監視することができる。
【0041】
制御盤61からの制御指令によりノズル移動装置13のモータ14が駆動される。モータ14の駆動によってボールネジ15が回転し、ボールネジ15に噛み合うナット12が、ベースボディー62の軸方向に移動する。この結果、スライド板11もベースボディー62の軸方向に移動され、高圧水を噴射して旋回している噴射ノズル4A,4Bがベースボディー62の軸方向に移動される。モータ14の回転によって、移動体2を垂直管部70の内面に保持した状態で垂直管部70の軸方向に或る幅を持って垂直管部70の内面の全周に亘って残留圧縮応力を付与することができる。
【0042】
垂直管部70の他の位置に対して残留圧縮応力を付与する予防保全作業を行う必要がある場合には、制御盤61からの制御指令によりブロワ59が駆動され、3個のクランプ装置のそれぞれの押し付け部材49を移動する各駆動装置54のシリンダ55内のピストン56よりも浮力体25側の領域に供給される。ピストン56がベースボディー62の後部側に移動し、連結部材58がシリンダ55側に移動される。この結果、リンク50A,50Bが寝かされ(図6参照)、押し付け部材49が垂直管部70の内面から離される。浮力体25,28,29,30内に加圧空気がブロワ44から供給され、浮力が増大する。移動体2が垂直管部70内を上昇し、他の予防保全施工位置まで上昇する。移動体2がこの予防保全施工位置に到達したとき、前述したように、浮力体25,28,29,30における浮力が調節され、移動体2の上昇が停止される。その後、移動体2はクランプ装置48Aおよび48Bによって前述したように垂直管部70の内面に保持される。噴射ノズル4A,4Bからキャビテーション気泡を含む高圧水が噴射され、その位置で垂直管部70の内面の全周に亘ってウォータジェットピーニングが施される。
【0043】
垂直管部70の内面に対する予防保全作業が終了した後、浮力体25,28,29,30内の空気をエアホース46から外部に放出して、浮力体25,28,29,30による浮力を低減させ、移動体2を垂直管部70内で下降させる。移動体2の下降中において、予防保全作業を施した垂直管部70の内面をカメラ64で撮影し、映像を前述のモニタに表示する。モニタに表示された映像を見て予防保全作業の施工面でのその施工状態を点検することができる。作業員が前述の床面上で高圧ホース18、エアホース45,60及びケーブルを引っ張り、移動体2を、曲がり管部69を経て水平管部68まで移動させる。水平管部68から原子炉圧力容器66内に引き出されたときに移動体2が浮き上がるように、水平管部68内において、浮力体25,28,29,30内に加圧空気を供給して移動体2の浮力を高める。高圧ホース18、エアホース45,60及びケーブルがさらに引っ張られることにより、移動体2が水平管部68から原子炉圧力容器66内の冷却水72に引き出される。引き出された移動体2は、各浮力体による浮力により冷却水72の液面に向かって上昇する。冷却水72の液面に浮上した移動体2は、冷却水72中より回収される。
【0044】
以上により、原子炉圧力容器66に接続されて内部に冷却水72が満たされた、水平管部68、曲がり管部69および垂直管部70を有する配管67の内面への予防保全作業が終了する。
【0045】
本実施例によれば、予防保全装置1の移動体2が浮力体25,26,27,28,29および30等の複数の浮力体を有しているので、冷却水72が満たされた原子炉圧力容器66に接続された、水平管部68、曲がり管部69および垂直管部70を有する配管67内面に対する予防保全作業を容易に施工することができる。特に、配管67は、下端部が原子力圧力容器66に接続されて移動体2を上部から配管67内に挿入することができない状態にある場合でも、移動体2に複数の浮力体が設けられているため、配管67の下端部に形成されて原子炉圧力容器66に解放された開口部を通して配管67内に移動体2を容易に挿入することができる。この結果、その配管67内面に対する予防保全作業を実施することができる。
【0046】
本実施例は浮力調節装置を備えているので、浮力体25,26,27,28,29,30のそれぞれの内部の空気圧力を調節することができ、移動体2の配管67内での移動を容易に制御することができる。特に、移動体2が曲り管部69に挿入されるときに浮力調節装置により浮力体25,30内の空気圧力を高めて移動体2の先端部に作用する浮力を増大させるため、移動体2の曲り管部69への挿入および曲り管部69内での移動を円滑に行うことができる。また、移動体2が垂直管部70内を上昇しているときに浮力調節装置により浮力体25,28,29,30内の空気圧を調節するので、垂直管部70内での移動体2の上昇速度を調節することができ、移動体2を垂直管部70内で予防保全施工位置に停止させることができる。
【0047】
モータ(ノズル旋回装置)7が移動体2に設置されているので、配管67内で噴射ノズル4A,4Bを配管67の内面に沿って旋回させることができ、その内面の全周に亘って残留圧縮応力を付与することができる。
【0048】
弁20及び24の開閉を切り替えることにより、高圧ポンプ17から吐出された高圧水を移動体2の推進時に噴射ノズル22に、配管67の内面へのウォータジェットピーニングの施工時に噴射ノズル4A,4Bに供給することができる。高圧ポンプ17をウォータジェットピーニング装置3と推進装置21で共用することができるため、予防保全装置1の構成を単純化することができる。
【0049】
また、キャビテーション発生器7に替えて、超音波探傷用ヘッドまたは渦電流探傷用ヘッドをベースボディー62に取付けることにより、予防保全装置1は配管67の内面への非破壊検査を行う非破壊検査装置として使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…予防保全装置、2…移動体、3…ウォータジェットピーニング装置、4A,4B,22…噴射ノズル、4…キャビテーション発生器、5…回転軸、7,14…モータ、13…ノズル移動装置、17…高圧ポンプ、21…推進装置、25,26,27,28,29,30…浮力体、38,39,40,41,412,43,47…弁、44,59…ブロワ、48A,48B…クランプ装置、61…制御盤、62…ベースボディー、63A,63B…カメラユニット、66…原子炉圧力容器、67…配管、68…水平管部、69…曲がり管部、70…垂直管部、71…空気供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースボディーと、前記ベースボディーに設置されて前記ベースボディーを前進させる推進装置と、前記ベースボディーに設置されたウォータジェットピーニング装置と、前記ベースボディーの先端部及び後部にそれぞれ設置された複数の第1浮力体と、前記ベースボディーに設置され、配管内で前記ベースボディーを保持するときに前記配管の内面に接触する複数のクランプ装置と、前記ベースボディーに設置されたカメラとを備えたことを特徴とする予防保全装置。
【請求項2】
前記ベースボディーに設けられて前記複数の第1浮力体に空気を供給する空気供給装置と、前記空気供給装置に設けられた前記複数の第1浮力体内のそれぞれの空気圧力を調節する浮力調節装置とを備えた請求項1に記載の予防保全装置。
【請求項3】
前記推進装置が前記ベースボディーの後部に設置されて加圧された水を噴射する第1噴射ノズルを有し、前記ウォータジェットピーニング装置が、加圧された水中にウォータジェットピーニング気泡を生成するウォータジェットピーニング気泡生成装置、および前記ウォータジェットピーニング気泡を含む加圧された水を噴射する第2噴射ノズルを有する請求項1または2に記載の予防保全装置。
【請求項4】
加圧水供給装置、および前記加圧水供給装置に接続されて、前記加圧水供給装置から吐出された加圧水を、前記第1噴射ノズルおよび前記ウォータジェットピーニング気泡生成装置に供給する加圧水供給管路を備え、前記加圧水の前記第1噴射ノズルへの供給と前記加圧水の前記ウォータジェットピーニング気泡生成装置への供給を切り替える切り替え装置を、前記加圧水供給管路に設けた請求項3に記載の予防保全装置。
【請求項5】
前記第2噴射ノズルが前記ウォータジェットピーニング気泡生成装置に取り付けられ、前記ウォータジェットピーニング気泡生成装置を回転させるノズル旋回装置を前記ベースボディーに設けた請求項4に記載の予防保全装置。
【請求項6】
第2浮力体が前記ベースボディーの先端部に設置された前記第1浮力体に可撓性を有する連結部材で結合され、前記空気供給装置が前記第2浮力体にも空気を供給する空気供給装置であり、前記浮力調節装置が前記第2浮力体内の空気圧力も調節する浮力調節装置である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の予防保全装置。
【請求項7】
ベースボディーと、前記ベースボディーに設置されて前記ベースボディーを前進させる推進装置と、前記ベースボディーに設置されたウォータジェットピーニング装置と、前記ベースボディーの先端部及び後部にそれぞれ設置された複数の第1浮力体と、前記ベースボディーに設置され、配管内で前記ベースボディーを保持するときに前記配管の内面に接触する複数のクランプ装置と、前記ベースボディーに設置されたカメラとを備えた予防保全装置を、原子炉圧力容器内の水中に降下させ、その後、前記予防保全装置を、前記原子炉圧力容器に接続されて内部が水で満たされた配管内に、原子炉圧力容器内に開放された、前記配管の開口部を通して挿入し、前記予防保全装置を、前記複数のクランプ装置を前記配管の内面に押しつけて前記配管内で保持し、前記ウォータジェットピーニング装置を用いて前記配管の内面への予防保全作業を実施することを特徴とする配管内面の予防保全方法。
【請求項8】
前記予防保全作業が、前記配管の垂直管部の内面に対して行われる請求項7に記載の配管内面の予防保全方法。
【請求項9】
前記ベースボディーに設けられた空気供給装置によりそれぞれの前記第1浮力体内に空気を供給し、前記空気供給装置に設けられた浮力調整装置により前記第1浮力体内のそれぞれの空気圧力を調節する請求項7または8に記載の配管内面の予防保全方法。
【請求項10】
前記推進装置に含まれて前記ベースボディーの後部に設置された第1噴射ノズルノズルへの加圧水供給装置からの加圧水の供給、および前記ウォータジェットピーニング装置の第2噴射ノズルへの前記加圧水供給装置からの前記加圧水の供給を切り替える請求項7ないし9のいずれか1項に記載の配管内面の予防保全方法。
【請求項11】
前記ベースボディーの先端部に設置された前記第1浮力体に可撓性を有する連結部材で結合された第2浮力体に、前記空気供給装置により空気を供給し、前記第2浮力体内の空気圧力を前記浮力調節装置により調節する請求項7ないし10のいずれか1項に記載の配管内面の予防保全方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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