説明

事務機器用塗装金属板

【課題】 長期にわたって優れた潤滑性能を呈し、帯電に起因する用紙の汚れや事務機器の故障等がない事務機器用塗装金属板を提供する。
【解決手段】 下地金属板1に直接,或いは下塗り塗膜3を介して設けられる表層塗膜2に潤滑剤粒子4,導電材料5を分散させている。比較的大粒径の潤滑剤粒子4を使用すると、表層塗膜2の表面から突出した潤滑剤粒子4が給排時の用紙と接触し、塗膜表面と用紙との直接接触が避けられ、美麗な表面状態が維持される。また、導電材料5の分散によって導電性が付与されているので、帯電に起因するトラブルもない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コピー機,プリンター,ファクシミリ機器等、複数の用紙が一枚ごとに送り込み送り出される用紙給排機構の部材として好適な事務機器用塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
事務機器等の内部部材には、クロメート皮膜を設けた亜鉛めっき鋼板を樹脂被覆した塗装鋼板が多用されている。しかし、樹脂被覆塗装鋼板を所定形状に加工して用紙給排機構の一部に使用すると、通過する用紙の摺擦によって樹脂塗膜が摩耗し、下地の亜鉛めっき鋼板が露出しやすい。下地露出部は白錆発生起点となり、用紙給排機構,ひいては事務機器の耐久性を低下させる。また、用紙通過の際に静電気が発生するが、樹脂塗膜が絶縁性であるため静電気が溜まりやすく、ゴミ,異物等の付着を促進させる。静電気は、電波障害の原因にもなる。
【0003】
下地鋼板の露出は、樹脂塗膜の耐磨耗性,潤滑性を改善することにより抑制できる。たとえば、クロメート皮膜にシリカを含ませることにより基材の耐食性,樹脂塗膜の密着性を向上させ、微細な有機質潤滑剤粒子を分散させた樹脂塗膜をクロメート膜に積層した樹脂被覆鋼板がある(特許文献1)。当該樹脂被覆鋼板は、樹脂塗膜が薄いため導電性に優れ、塗膜表面の潤滑性が有機質潤滑剤粒子で改善されている。球状Niフィラー,インナーワックスを樹脂塗膜に分散させることにより導電性,摺動性を改善した塗装アルミニウム合金板も知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平11-157000号公報
【特許文献2】特開2005-1171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の塗装金属板を用紙給排機構の部材に長期使用すると、潤滑剤粒子が塗膜から脱落し、初期性能を発揮しなくなることが懸念される。脱落した潤滑剤粒子が事務機器の内部に溜まると、紙詰まり,汚れ等のトラブルが発生しやすくなる。
用紙の摺擦による樹脂塗膜の摩耗は、樹脂塗膜に配合された潤滑剤粒子の配合形態に大きな影響を受け、樹脂塗膜から突出した潤滑剤粒子が耐磨耗性の向上に有効である。静電気に起因する汚れ,異物等の付着や紙詰りは、導電剤を添加して樹脂塗膜に帯電防止能を付与することによって改善される。
【0005】
本発明は、かかる知見をベースに完成されたものであり、耐磨耗性,帯電防止能に優れ、各種事務機器の用紙給排機構の部材として好適で、事務機器の耐久性,長期安定性の改善に適した塗装金属板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の事務機器用塗装金属板は、有機質潤滑剤粒子が分散した樹脂塗膜で鋼板表面を覆っている。潤滑剤粒子は樹脂塗膜の表面から突出しており、塗膜内には導電材料が分散している。潤滑剤粒子を分散させた表層塗膜は、鋼板表面に直接、或いは下塗り塗膜を介して設けられる。下塗り塗膜を備えた塗装金属板では、導電材料の分散によって下塗り塗膜にも導電性を付与できる。
【0007】
樹脂塗膜は、フッ素樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,エポキシ変性ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂等の一種又は二種以上をベース樹脂とする塗料から成膜される。潤滑剤粒子には、アクリル,ナイロン,ポリアクリロニトリル,ポリテトラフルオロエチレン,ポリエチレン,ポリウレタン,ポリプロピレン等の樹脂ビーズが使用される。導電材料には、カーボン粉末,金属粉末,金属酸化物フィラー等がある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従った塗装金属板は、下地の金属板1に樹脂塗膜(表層塗膜)2を直接,或いは下塗り塗膜3を介して設けており、樹脂塗膜2には潤滑剤粒子4及び金属粉末5a,カーボン粉末5b等の導電材料5が配合されている。潤滑剤粒子4は樹脂塗膜2の表層から突出しており、突出部が用紙に直接接触するため優れた潤滑作用が発現する。しかも、用紙との接触個所は潤滑剤粒子4の突出部に限られ、樹脂塗膜2に対する用紙の直接接触がない。そのため、樹脂塗膜2が疵付き難く、疵が付いたとしても目に付きやすい連続した疵にならないので、美麗な外観が維持される。
【0009】
樹脂塗膜2には、導電材料5の分散によって導電性が付与されている。そのため、比較的厚い樹脂塗膜2であっても、塗膜内部から静電気が塗膜外部に放出され帯電が防止される。導電材料5は、表層塗膜2だけでなく、下塗り塗膜3にも添加できる。導電材料5の添加で導電性が付与された下塗り塗膜3を介して表層塗膜2から下地鋼板1に至る導通路が形成されるので、帯電防止能が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔塗装原板〕
塗装原板には、溶融亜鉛めっき鋼板,合金化溶融亜鉛めっき鋼板,5%Al-Znや6%Al-3%Mg-Zn等の亜鉛合金めっき鋼板,55%Al-Zn,Zn-5%Al等のZn-Al合金めっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板,アルミニウム合金板等がある。
塗装原板には、必要に応じアルカリ脱脂,表面調整,化成処理等の塗装前処理が施される。アルカリ脱脂,表面調整には、プレコート鋼板や塗装アルミニウム板の製造で常用されている方法を採用できる。化成処理には、クロメート処理,リン酸塩処理,クロムフリー処理等がある。
【0011】
〔下塗り塗膜〕
下塗り塗膜を設ける場合、ポリエステル,高分子ポリエステル,エポキシ,エポキシ変性ポリエステル,エポキシ変性高分子ポリエステル等の下塗り塗料を使用する。下塗り塗料は、塗装金属板の用途に応じて分子量,ガラス転移温度が調整された樹脂をベースにし、防錆顔料,体質顔料を初めとする各種添加材が必要に応じて添加される。
【0012】
下塗り塗料には、クロム系,非クロム系の防錆顔料や酸化チタン,炭酸カルシウム,シリカ等の顔料及び各種添加材が必要に応じ添加される。導電性のある下塗り塗膜を形成する場合、表装用塗膜に分散している導電材料と同様な導電材料を下塗り塗料に配合する。導電性材料の配合量は、塗装性低下等の悪影響を抑えながら必要な導電性を下塗り塗膜に付与するため1〜40質量%(好ましくは、20質量%以下)の範囲で選定される。
【0013】
下塗り塗料は、連続塗装設備で使用されているロールコート,スプレー等、適宜の方法で塗装原板に塗布・焼き付けられ、通常の塗装鋼板と同様に乾燥膜厚:1〜15μmの下塗り塗膜が形成される。乾燥膜厚:1μm以上で下塗り塗膜を設けたことによる塗膜密着性,耐食性,導電性等の改善効果がみられるが、15μmを超える厚膜ではプレコート金属板として必要な加工性が低下しやすい。
【0014】
〔表層塗膜〕
表層塗膜は、フッ素樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,エポキシ変性ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂等の一種又は二種以上をベース樹脂とし、樹脂ビーズ(潤滑剤粒子),導電性材料を配合した塗料から成膜される。金属や樹脂部品等との接触では樹脂ビーズに加えられる摺動時の応力を表層塗膜の延びで吸収して樹脂ビーズの脱落を低減できるが、給排機構で用紙と接触する系では塗膜表面に加わる荷重(応力)が小さいので塗膜伸び:50%未満でも樹脂ビーズの脱落を十分防止できる。
【0015】
潤滑剤粒子には、アクリル,ナイロン,ポリアクリロニトリル,ポリテトラフルオロエチレン,ポリエチレン,ポリウレタン,ポリプロピレン等の一種又は二種以上の樹脂ビーズが使用される。樹脂ビーズの配合量は、好ましくは樹脂固形分の2〜20質量%の範囲で選定される。樹脂ビーズが不足すると十分な潤滑特性が得られないが、多すぎる配合量では塗装性低下等の悪影響が現れやすくなる。
【0016】
十分な摺動・潤滑性を得る上で、表層塗膜の膜厚をTとするとき(0.6〜2.5)×Tの平均粒径をもつ樹脂ビーズが好ましい。0.6T未満の平均粒径では、塗膜表面から突出する樹脂ビーズが少なく、十分な潤滑性改善効果が得られない。しかし、大きすぎる平均粒径では、塗膜表面から突出する部分が多くなって樹脂ビーズが脱落しやすくなるので、上限を2.5Tとした。また、塗膜の樹脂成分に対する密着性が高い樹脂ビーズほど脱落し難いので、必要に応じ粗面化,コロナ放電,プラズマ処理,コーティング等の表面処理で樹脂ビーズの密着性を改善する。
【0017】
導電材料には、カーボンブラック,グラファイト等のカーボン粉末,Ni,Cu,Ag,Al,ステンレス鋼等の金属粉末,リン鉄等の酸化物フィラーがあり、一種又は二種以上が複合して使用される。ニーズに合った色調を付与する場合には、平均粒径:3〜5μmのNi粉のように調色に与える影響が少ない材料を選択使用する。導電性材料の配合量は、好ましくは樹脂固形分の1〜40質量%の範囲で選定される。1質量%未満では十分な導電性が得られないが、40質量%を超える配合量は塗装性低下,コストアップ等の原因となる。
カーボンブラック,グラファイト等は吸油量が大きく塗料粘度が増大しやすいので、1〜10質量%程度、金属粉末,酸化物フィラー等は1〜40質量%添加し、二種類以上併用添加する場合には合計で1〜40質量%添加する。導電性材料としての金属粉末や酸化物フィラーには平均粒径:0.5×T以上のものが通常使用されるが、更に細かな粒径の金属粉末,酸化物フィラーも使用可能である。
【0018】
樹脂ビーズ,導電性材料以外に、体質顔料,着色顔料,骨材等の各種添加材を上塗り塗料に配合できる。また,加工性等の目標性能に応じて適宜の硬化剤が選択される。
上塗り塗料は、常法に従って塗装原板に直接、或いは下塗り後の塗装原板に塗布し焼き付けられる。塗料塗布量は、好ましくは乾燥膜厚:5〜30μmの表層塗膜が形成される割合に調節される。
【0019】
〔裏面塗膜〕
表層塗膜と反対側の裏面にサービスコート等の塗膜が設けられるが、必要に応じて裏面アース取りできるように導電性を付与した裏面塗膜としても良い。この場合、同様な導電性材料を配合した塗料から乾燥膜厚:1〜7μm程度の裏面塗膜を形成する。導電性材料を含まない裏面塗膜の場合には、1μm未満の薄膜型塗膜でも良い。
【実施例】
【0020】
板厚:0.3mmの溶融亜鉛めっき鋼板を塗装原板に用いた。塗装原板を表面調整した後、塗布型クロメート処理を施し、クロメート皮膜を形成した。
クロメート処理された塗装原板に下塗り塗料を塗布し、210℃×30秒の焼付けで乾燥膜厚:5μmの下塗り塗膜を形成した。下塗り塗料には、ポリエステル樹脂プライマ(P195:日本ペイント株式会社製)と、同じプライマに15質量%のNi粉を配合した塗料の二種類を用いた。
更に、上塗り塗料を塗布し、230℃×40秒の焼付けで乾燥膜厚:10〜25μmの表層塗膜を形成した。上塗り塗料の組成を表1に示す。
【0021】

【0022】
製造された各塗装金属板をプレス成形し、レーザプリンタの紙送り部材を作製した。
紙送りを10万回繰返した後、紙送り部材の摺擦部表面を観察して樹脂ビーズの残存状況を調べ、試験当初と比較した樹脂ビーズの残存率が95%以上を◎,95〜80%を○,80〜50%を△,50%未満を×と評価した。
また、目視観察で擦り疵の発生状況,通過した用紙の汚れ,紙詰りの有無を調査した。擦り疵が検出されず、用紙の汚れや紙詰りのなかった材料を○,僅かに疵ついた材料又は用紙が若干汚れた材料を△,顕著な擦り疵がついた材料,用紙が甚だしく汚れた材料又は一度でも紙詰りが発生した材料を×として紙摺動特性を評価した。
【0023】
表2の調査結果にみられるように、擦り疵が多量に発生した材料ほど樹脂ビーズや導電性材料が表層塗膜から脱落しており、擦り疵のない材料では樹脂ビーズの脱落がほとんど検出されなかった。
樹脂ビーズを含まない比較例11の塗膜は、摩耗による塗膜の疵付きや用紙の汚れ,紙詰りが発生していた。導電性材料を含まない比較例12の塗膜は、静電気により汚れが吸着し塗膜や用紙が汚れ、用紙の吸着により滑りが悪化して紙詰りが発生した。平均粒径が小さすぎて樹脂ビーズが表層塗膜から突出していない比較例13や平均粒径が大きすぎる比較例14では、潤滑不足、或いは樹脂ビーズの脱落に起因する潤滑性低下のため紙詰りや汚れが生じていた。
【0024】
導電材料を含まない下塗り塗膜に表層塗膜を積層した場合、塗料組成によっては樹脂ビーズの僅かな脱落が検出されたが、何れの場合も樹脂ビーズの脱落は支障のないレベルであった。他方、下塗り塗膜が導電材料を含む場合、何れの塗料組成でも樹脂ビーズの脱落がほとんど検出されなかった。
更に、動摩擦計(東洋精機株式会社製)を用いJIS K7125に準じ動摩擦係数を測定した。表2の測定結果にみられるように、樹脂ビーズを分散させた表層塗膜は優れた動摩擦係数を示し、部材表面に擦り疵が検出されず、検出された場合でも極僅かに留まっていた。
【0025】

【産業上の利用可能性】
【0026】
以上に説明したように、本発明の事務機器用塗装鋼板は、導電性が付与された塗膜の表面から樹脂ビーズが突出した塗膜構造をもっているので、突出した樹脂ビーズが給排機構を移動する用紙と接触して優れた潤滑性能を発揮すると共に、発生した静電気を下地金属板や周辺機器に放出するので帯電することもない。そのため、長期にわたり美麗な印刷、印字が可能で事務機器をトラブルなく使用するのに適した塗装金属板として重宝される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】事務機器用塗装鋼板の塗膜構造を示す模式図
【符号の説明】
【0028】
1:下地金属板 2:樹脂塗膜(表層塗膜) 3:下塗り塗膜 4:潤滑剤粒子 5:導電材料 5a:金属粉末 5b:カーボン粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地金属板に直接又は下塗り塗膜を介して設けた表層塗膜に有機質潤滑剤粒子,導電性材料が分散しており、有機質潤滑剤粒子は表層塗膜の表面から突出する平均粒径をもっていることを特徴とする事務機器用塗装金属板。
【請求項2】
表層塗膜のベース樹脂がフッ素樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂,エポキシ変性ポリエステル樹脂,ウレタン樹脂,塩化ビニル樹脂の一種又は二種以上である請求項1記載の事務機器用塗装金属板。
【請求項3】
有機質潤滑剤粒子がアクリルビーズ,ナイロンビーズ,ポリアクリロニトリルビーズ,ポリテトラフルオロエチレンビーズ,ポリエチレンビーズ,ポリウレタンビーズ,ポリプロピレンビーズから選ばれた一種又は二種以上である請求項1記載の事務機器用塗装金属板。
【請求項4】
表層塗膜の膜厚をTとするとき、有機質潤滑剤粒子の平均粒径が(0.6〜2.5)×Tの範囲にある請求項1又は2記載の事務機器用塗装金属板。
【請求項5】
カーボンブラック,グラファイト,金属粉末,金属酸化物フィラーから選ばれた一種又は二種以上を導電性材料とする請求項1記載の事務機器用塗装金属板。
【請求項6】
カーボンブラック,グラファイト,金属粉末,金属酸化物フィラーから選ばれた一種又は二種以上を導電性材料が下塗り塗膜にも添加されている請求項1記載の事務機器用塗装金属板。

【図1】
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【公開番号】特開2006−7758(P2006−7758A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150399(P2005−150399)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】