説明

事故波及防止プラグ差込接続装置及びその使用方法

【課題】従来の電線路における電気設備を変更することなく、地絡事故が起きても、他の電線路に影響を与えることのない、極めて簡易な事故波及防止プラグ差込接続装置及びその使用方法。
【解決手段】既存の電源コンセントに差し込む差込プラグ1と、電気機器の電源コードのプラグを差し込むタップ2との間の線路3に絶縁トランス4を設けたものである。そして、前記タップ2から接地線5を導出し、当該接地線5と、前記絶縁トランス4とタップ2の間の線路3の各線とを結ぶ接続線6にインピーダンス素子7を夫々設け、また、前記接続線6と前記タップ2との間の線路3の各線にELCB8を夫々設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気技術に精通しない人が電気機器を使用し、地絡事故を起こした場合であっても電線路の広範囲の遮断器を遮断したりする等の悪影響を及ぼすことがない、事故波及防止プラグ差込接続装置及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電線路で地絡が発生すると、地絡事故が起きた箇所に一番近いELCB(漏電遮断器)が動作するのが望ましい。しかし、図7で示すように、一つの部屋Rのリニューアル工事等で完全地絡をした場合、大きな地絡電流のため対地電圧が変化し、トランスのB種接地から線路に地絡電流が流れ込み、別の系統のELCBが動作することがある。図7の動力回路は、線路が長い場合等線路中の静電容量が大きい場合に地絡電流が線路に流れ込むことがあり、その時に動作電流の小さいELCBが誤作動することがある。また、パソコン等の接地相のフィルタ用コンデンサに電流が流れて幹線のELCBを誤作動させてしまうことがある。
【0003】
この様な場合、電線路は一時的な停電を余儀なくされ、使用している電気機器が止まってしまう。ELCBが確実に協調動作するのは微地絡の時である。上述のように、一つの部屋のリニューアル工事の場合には建物の他の箇所は通常通り電気を使用しているため、絶対に停電をさせられない。そこで、工事用電源を使う場合に、ドラム式の、ELCBが付いているコンセントリールでは、地絡事故が起きた場合、直近のELCBが動作してくれればよいが、他のELCBを動作させてしまう可能性があることが問題であった。
【0004】
これは、電気工事に限った問題ではなく、日常行われる電気機器を使った清掃作業や、学校等で行われる電気実験の場合においても、これらの作業者は電気技術に精通していないことが多く、同様な地絡事故は発生する恐れがあり、その場合前述のように、他の電線路のELCBを動作させてしまい、停電を発生させてしまう。
【0005】
しかし、この様な場合においても停電を回避しなければならない箇所があり、その対策として、特許文献1に示すように、変圧器で回路を絶縁する。B種接地を分ける。特許文献2に示すように、漏電遮断機能を設けず、ELR(漏電警報)にする等を実施している。
【0006】
【特許文献1】特開2003−234171号公報
【特許文献2】実開平5−71996号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記対策は、ビル等の既存の電気設備を電気工事により変更しなければならず、費用や時間がかかる。
【0008】
そこで、この発明はこれらの従来技術を改善すべく、従来の電線路における電気設備を変更することなく、地絡事故が起きても、他の電線路に影響を与えることのない、極めて簡易な事故波及防止コンセントないしプラグ差込接続装置を提供するとともに当該プラグ差込接続装置の使用方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、既存の電源コンセントに差し込むプラグと、電気機器の電源コードのプラグを差し込むタップとの間の線路に絶縁トランスを設けた事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記タップから接地線を導出し、当該接地線と、前記絶縁トランスとタップ間の線路とを結ぶ接続線にインピーダンス素子を設け、当該インピーダンス素子を介して地絡電流を流して地絡を検出、又は電圧を監視する機能を有する事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0011】
また、請求項3の発明は、前記請求項2の発明において、前記絶縁トランスとタップ間の線路に遮断器を設け、前記電流又は電圧が一定値を超えた場合に当該遮断器で線路を遮断する構成とした事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項2又は3の発明において、前記インピーダンス素子が、抵抗器、コンデンサ又は抵抗器とコンデンサを相互に並列接続したもののいずれかである、事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項2の発明において、前記インピーダンス素子がコンデンサであり、当該コンデンサと前記線路の間に遮断器を設け、熱動リレーで前記遮断器を開く構成とした、事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれかの事故波及防止プラグ差込接続装置のプラグを、建屋に備わった電源コンセントに差込み、当該プラグ差込接続装置のタップに、使用する電気機器の電源コードのブラグを差し込んで電気機器を使用する方法とした。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜5の発明の事故波及防止プラグ差込接続装置の差込プラグを、建屋の電源コンセントに取付け、当該プラグ差込接続装置のタップに電気機器の電源コードのプラグを差し込んで、電気機器を使用すると、当該電気機器で地絡が発生した場合であっても、当該プラグ差込接続装置内の絶縁トランスで当該プラグ差込接続装置より上流の電線路と遮断されているため、当該プラグ差込接続装置より上流の電線路に地絡電流が流れず、当該電線路に設けたELCBが作動しない。従って、当該電線路での停電が起こらず、他の電気機器の運転をむやみに止める恐れがない。
【0016】
従って、電気技術に精通していない作業者が多い、清掃作業、電気実験等の際、当該プラグ差込接続装置を建屋の電源コンセントに接続し、当該プラグ差込接続装置のタップに電気機器のコード先端のプラグを差し込んで電気機器を操作すれば、例え地絡事故があっても、他の電線路に波及することがない。しかも、当該プラグ差込接続装置は小型で可搬式であり、どこにでも持ち運ぶことができ、電気機器の使用に当たって、建屋等の電源コンセントに容易に取付け使用することができ、極めて便利である。
【0017】
また、請求項2の発明によれば、この発明の事故波及防止プラグ差込接続装置に接続した電気機器で地絡が発生した場合、接地線を介してインピーダンス素子で調整された地絡電流が流れ、変流器や電圧計により、地絡電流を検出することができ、前記使用した電気機器の絶縁劣化等の異常が直ちに分かる。また、あえて地絡を検出することにより、地絡発生している前記電気機器を継続して使用することがなく、安全である。また、絶縁劣化の注意喚起を促すためELCB8が動作した際の絶縁不良の点検の必要性が分かるように、パイロットランプ(図示省略)を設けて、これを点灯させても良い。さらにこの場合、点検終了後にこのパイロットランプを消灯させるスイッチを設けることもできる。
【0018】
また、請求項3の発明によれば、この発明の事故波及防止プラグ差込接続装置に接続した電気機器で地絡が発生した場合、前記接地線を介してインピーダンス素子に地絡電流が流れ、その際の電流又は電圧を測定し、電流値又は電圧値が一定値以上の場合、遮断器を動作させる。この様に様々な方法で地絡を検出できるため安全性も高まる。
【0019】
また、請求項5発明によれば、この発明の事故波及防止プラグ差込接続装置を接続した電気機器が高周波負荷(インバータ負荷)である場合、前記コンデンサに高周波成分が流入し、加熱するおそれがあるが、熱動リレーで回路を遮断し、コンデンサの熱破壊を防ぐことができる。
【0020】
また、請求項6の発明によれば、電気工事、清掃工事、電気実験等の作業において、作業者が誤って地絡させたり、使用する電気機器が絶縁劣化等により地絡した場合でも、当該プラグ差込接続装置内の絶縁トランスで当該プラグ差込接続装置より上流の電線路と遮断されているため、当該プラグ差込接続装置より上流の電線路に地絡電流が流れず、当該電線路に設けたELCBが作動しない。従って、当該電線路での停電が起こらず、他の電気機器の運転を思わぬ事故で止める恐れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明は、既存の電源コンセントに差し込み自在な差込プラグとタップとの間の線路に絶縁トランスを設けた事故波及防止プラグ差込接続装置とした。
【0022】
これにより、当該事故波及防止プラグ差込接続装置の差込プラグを、建屋の電源コンセントに取付け、当該プラグ差込接続装置のタップに電気機器の電源コードのプラグを差し込んで、電気機器を使用すると、当該電気機器で地絡が発生した場合であっても、当該プラグ差込接続装置より上流の電線路に地絡電流が流れず、当該電線路に設けたELCBが作動しない。従って、他の電線路に悪影響を及ぼさない。
【実施例1】
【0023】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明のプラグ差込接続装置の回路構成図、図2はこの発明のプラグ差込接続装置の回路構成におけるインピーダンス素子の具体例を示す回路構成図、図3はこの発明のプラグ差込接続装置の回路構成におけるインピーダンス素子の他の具体例を示す回路構成図、図4はこの発明のプラグ差込接続装置の回路構成におけるインピーダンス素子のさらに他の具体例を示す回路構成図である。
【0024】
図1に示すように、この発明の事故波及防止プラグ差込接続装置Aは、既存の電源コンセントに差し込み自在な差込プラグ1とタップ2との間の単相の線路3に絶縁トランス4を設けたものである。そして、前記タップ2から接地線5を導出し、当該接地線5と、前記絶縁トランス4とタップ2の間の線路3の各線とを結ぶ接続線6にインピーダンス素子7を夫々設け、また、前記接続線6と前記タップ2との間の線路3の各線にELCB8を夫々設けた。
【0025】
この事故波及防止プラグ差込接続装置Aを建屋の電源コンセント(図示省略)に取付け、当該プラグ差込接続装置Aのタップ2に電気機器の電源コードのプラグ(図示省略)を差し込んで、電気機器を使用すると、当該電気機器で地絡が発生した場合であっても、当該プラグ差込接続装置A内の絶縁トランス4で当該プラグ差込接続装置Aより上流の電線路と遮断されているため、当該プラグ差込接続装置Aより上流の電線路に地絡電流が流れず、それらの電線路に設けたELCBが作動しない。
【0026】
また、この場合、タップ2から接地線5を通り、接続線6から線路3への回路が構成され、前記インピーダンス素子7に地絡電流が流れ、前記線路3の往きと還りの電流に差が生じ、これによりELCB8内のZCT8a(零相検出器)が地絡を検出するものである。
【0027】
このインピーダンス素子7による接地は、高抵抗でも良く、地絡回路が形成されて地絡電流を形成できるものであれば接地系は何でもよい。そして例えば、地絡電流を10m〜20mAにするように接地系を構成するシステムとする。この地絡電電流の値は、地絡が仮に人体に流れても影響が無い値であり、且つ、市販のELCBが動作する電流である。ただし、この地絡電流の値に限定されるものではなく、さらに地絡電流値を小さくし、検出器側(この場合、ZCT8a)が対応するものであれば良い。また、地絡検出方法としてインピーダンス素子の端子電圧でも地絡検出が可能であり、検出動作をELBCと連動させても良い。
【0028】
地絡電流を減流するための接地種類としては、コンデンサと抵抗を用いた接地、コンデンサ接地、抵抗接地のいずれでもよい。図2はコンデンサと抵抗を用いた接地の例を示すものである。この場合、コンデンサCと抵抗器Rを相互に並列に接続線6に設けたものであり、抵抗成分でコンデンサCに電流が通過するため熱の発生が少ないこと、直流分の放電が可能であることの利点がある。
【0029】
また、コンデンサと抵抗を用いた接地の場合は、地絡電流を10m〜20mAと設定した場合、抵抗値の設定を10k〜20kΩとするとコンデンサの容量の設定は1.2μ〜6.4μFとなる(50Hzと60Hzを比較するとコンデンサの容量は60Hzの方が小さくてすむ)。また、以下の式1より地絡電流とコンデンサCの容量を求めることができる。
【0030】
【数1】

【0031】
図3は、コンデンサ接地の例を示すものである。この場合、地絡電流に直流分が含まれている場合、当該コンデンサCで充電してしまうことを考慮する必要がある。また、地絡電流を10m〜20mAと設定するとコンデンサ容量の設定は0.8μ〜2.2μFとなる(50Hzと60Hzを比較するとコンデンサの容量は60Hzの方が小さくてすむ)。また、以下の式2より地絡電流とコンデンサCの容量を求めることができる。
【0032】
【数2】

【0033】
図4は、抵抗接地の例を示す。この場合、地絡時に熱を発生する場合があるので、耐熱容量を考慮する必要がある。また、地絡電流を10m〜20mAと設定すると抵抗器の設定は、3k〜8kΩである。
【0034】
また、前記実施例1の図2又は図3の場合、コンデンサCと線路3との間に遮断器を設け、当該プラグ差込接続装置Aに接続した電気機器が高周波負荷(インバータ負荷)の場合、コンデンサCに高周波成分が流入し、加熱する場合があるので、図5に示すように、熱動リレーで前記遮断器12を動作させ、回路を遮断し、これにより地絡電流がながれず、コンデンサCの熱破壊を防ぐこともできる。
【実施例2】
【0035】
図6はこの発明の事故波及防止プラグ差込接続装置の実施例2を示す。前記実施例1では線路3にELCB8のZCT8aを設けて地絡電流を検出しているが、この実施例2では地絡事故時の電圧検出を行い、検出すると直ちに線路3を遮断するものである。
【0036】
図6では、前記インピーダンス素子7と接地線5との間の接続線6にコンデンサC´を設け、当該コンデンサC´に並列にトランス9を設け、当該トランス9の二次側に電圧計10を設けたものである。対地電圧の分圧比により、電圧を測定し、一定電圧以上の電圧値の際、前記線路の遮断器11を遮断する構成としている。このように別の方法で地絡を検出しても良い。
【0037】
なお、上記実施例1及び2ではELCB8は地絡事故の場合に遮断する構成としたが、使用するELCB8は地絡電流だけでなく、短絡にも対応するため、短絡事故も防止できる。また、この発明のプラグ差込接続装置は可搬式のコンセントを含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明の実施例1の回路構成図である。
【図2】この発明の実施例1の回路構成におけるインピーダンス素子の具体例を示す回路構成図である。
【図3】この発明の実施例1の回路構成におけるインピーダンス素子の他の具体例を示す回路構成図である。
【図4】この発明の実施例1の回路構成におけるインピーダンス素子のさらに他の具体例を示す回路構成図である。
【図5】この発明の実施例1の回路構成におけるインピーダンス素子のコンデンサの熱破壊防止機能を有する回路構成図である。
【図6】この発明の実施例2の電圧検出の回路構成図である。
【図7】従来の配電線路における地絡時の動作を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0039】
1 差込プラグ 2 タップ
3 線路 4 絶縁トランス
5 接地線 6 接続線
7 インピーダンス素子 8 ELCB
8a ZCT 9 トランス
10 電圧計 11 遮断器
12 遮断機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の電源コンセントに差し込むプラグと、電気機器の電源コードのプラグを差し込むタップとの間の線路に絶縁トランスを設けたことを特徴とする、事故波及防止プラグ差込接続装置。
【請求項2】
前記タップから接地線を導出し、当該接地線と、前記絶縁トランスとタップ間の線路とを結ぶ接続線にインピーダンス素子を設け、当該インピーダンス素子を介して地絡電流を流して地絡を検出、又は電圧を監視する機能を有することを特徴とする、請求項1に記載の事故波及防止プラグ差込接続装置。
【請求項3】
前記絶縁トランスとタップ間の線路に遮断器を設け、前記電流又は電圧が一定値を超えた場合に当該遮断器で線路を遮断する構成としたことを特徴とする、請求項2に記載の事故波及防止プラグ差込接続装置。
【請求項4】
前記インピーダンス素子が、抵抗器、コンデンサ又は抵抗器とコンデンサを相互に並列接続したもののいずれかであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の事故波及防止プラグ差込接続装置。
【請求項5】
前記インピーダンス素子がコンデンサであり、当該コンデンサと前記線路の間に遮断器を設け、熱動リレーで前記遮断器を開く構成としたことを特徴とする、請求項2に記載の事故波及防止プラグ差込接続装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの事故波及防止プラグ差込接続装置のプラグを、建屋に備わった電源コンセントに差込み、当該プラグ差込接続装置のタップに使用する電気機器の電源コードのプラグを差し込んで、電気機器を使用することを特徴とする、プラグ差込接続装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−209063(P2012−209063A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72596(P2011−72596)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000141060)株式会社関電工 (115)
【Fターム(参考)】