説明

二光子吸収性材料及びその用途

【課題】可能な限り短波長の吸収帯を有し、かつ優れた二光子吸収特性を有する二光子吸収性材料を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料。


[式中、mは1または2を示し、nは1または2を示し、R〜R、R〜R10はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いは、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びRが一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよく、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びR10が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機非線形光学材料である、ジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料に関する。より詳しくは、本発明は、三次元光記録材料、光制限材料、光造形用途に用いられる光硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途に用いることができる、新規な有機非線形光学材料である、ジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
非線形光学効果は、光を用いた情報処理において重要な役割を有している。非線形光学効果とは、光電界強度により誘起される分極において、二次、三次、更に高次の項から生じる効果の総称である。この中でも、四次以上の効果は感受率などが非常に小さく応用面での有効な現象を観測することが困難であるため、主に二次及び三次の非線形光学効果に関して多くの研究が行われている。
【0003】
二次の非線形光学効果としては、光第二次高調波発生(SHG:Second harmonic generation)、電気光学効果(ポッケルス効果)、フォトリフラクティブ効果などが知られている。そのため、二次の非線形光学効果を有する非線形光学材料は、波長制御、位相制御などを利用する光通信などへの展開が検討されている。一方、三次の非線形光学効果としては、光第三次高調波発生(THG:Third Harmonic Generation)、電気光学効果(カー効果)、光カー効果、光誘起屈折率変化、縮退四波混合、光双安定性現象、二光子吸収現象などが知られている。そのため、三次元の非線形光学効果を有する非線形光学材料は、光による屈折率変化、吸収係数変化などを利用した光スイッチなどへの展開が期待されている。
【0004】
従来、非線形光学材料については、有機化合物材料の前記に述べた非線形光学特性自体が優れているが、耐久性・信頼性が劣るという問題があった。そのため、有機化合物材料は無機材料を凌駕できず、無機材料が、一般的に用いられてきた。しかしながら近年においては、無機材料に比べて遥かに大きな非線形光学定数を有する有機化合物材料の優れた特性及び高速応答性などが見直されつつある。そのため、これらの優れた特性を有し、かつ耐久性・信頼性に優れた、有機非線形光学材料の開発が求められている。
【0005】
有機化合物材料において非線形光学特性を向上させる一般的な方法としては、適切な電子供与性・吸引性置換基を選択して、共役系を更に拡大させる方法が挙げられる。しかしながらこの方法は、深色効果を伴う為、分子(有機化合物材料)自身の耐光性低下や、非線形光学特性を誘起する光及び発生した高調波領域に対する吸収係数の増大を促進するという問題があった。
【0006】
この様な問題点を改善する取り組みとして、例えば特許文献1では、二次非線形光学材料として分子構造内に浅色効果を誘起する置換基を導入することで、優れた非線形性を示し第二次高調波を効率的に発生し得る有機非線形光学材料を提案している。
【0007】
光スイッチなどの応用が期待されている三次の非線形光学材料においては、非線形光学特性を向上させる手段として、一般的に、共役系を拡大する手法がとられている。例えば特許文献2、3、4、5においては、スチリル系、ケトン系、アリールアミン系、ポルフィリン系化合物に関して、改良が行われている。
【0008】
特許文献6では、(a)重合性化合物、(b)ジチオカルバメート基含有高分子化合物及び(c)二光子吸収化合物を含有する二光子吸収重合性組成物を開示している。この組成物は高感度であり、高出力のレーザー光源を必要せず、高分解能で高精度な造形物を得ることができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−196976号公報
【特許文献2】米国特許 6267913号明細書
【特許文献3】特開2003−183213号公報
【特許文献4】特開2007−241168号公報
【特許文献5】特開2005−263738号公報
【特許文献6】特開2010−065083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記文献には、二光子吸収特性を向上させるために共役系が拡大された構造を有する有機化合物が記載されている。しかしながら、共役系を拡大することによって、二光子吸収特性は向上する一方で、二光子吸収を誘起する励起波長域をも長波長域にシフトしてしまう。そのためこの手法においては、二光子吸収を誘起する励起光源の選択幅を狭めてしまう恐れがあり、改善の余地があった。そこで、可能な限り短波長の吸収帯を有し、かつ優れた二光子吸収特性を有する二光子吸収性材料が望まれている。
【0011】
二光子吸収特性を有するケトン誘導体に対して、共役系を拡張し二光子吸収特性を向上させることは特許文献3に報告されている。しかし、この特性向上には著しい深色効果が伴う欠点が存在する。従って本発明はこれらの問題を解決することを目的とする。より詳しくは、本発明は、吸収波長の深色化を抑制しつつ二光子吸収特性を高めた、ジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料、及びこの二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物、を提供することにある。この二光子吸収性材料は、三次元光記録材料、光制限材料、光造形用途に用いられる光硬化材料、光化学療法用材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途に応用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、二光子吸収性材料としてスルホン誘導体に着目した。そして、スルホン誘導体に対してスチリル基を付与し共役系を拡張したところ、吸収波長の深色効果を抑制しつつ、置換基の効果により二光子吸収特性を向上させることができることを見出し、これにより本発明を完成するに至った。
従って、本発明は以下の二光子吸性材料を提供する。
【0013】
下記式(1)
【化1】


[式中、mは1または2を示し、nは1または2を示し、
〜R、R〜R10はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いは、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びRが一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよく、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びR10が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよい。]
で表わされるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸性材料である。
【0014】
上記式(1)で表されるジフェニルスルホン誘導体の置換基R及びRの少なくとも1つが、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)から選ばれる電子供与性置換基であることが好ましく、R及びRが共に同一の上記電子供与性置換基であることが更に好ましい。また、R及びRの少なくとも1つがジアルキルアミノ基であることが好ましく、R及びRが共にジアルキルアミノ基であることが更に好ましい。
【0015】
また、上記式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体の250−800nmにおける極大波長のモル吸光係数が55000mol−1dmcm−1以上である二光子吸収性材料がより好ましい。
【0016】
並びに本発明の光硬化性樹脂組成物は、式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物である。
【0017】
並びに本発明の発光材料は、式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料を含有する発光材料である。
【0018】
並びに本発明の光記録材料は、式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料を含有する光記録材料である。
【0019】
並びに本発明の顕微鏡用蛍光色素材料は、式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料を含有する顕微鏡用蛍光色素材料である。
【0020】
並びに本発明の光制限材料は、式(1)で示されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料を含有する光制限材料である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の二光子吸収性材料は、スチリル基を有するジェニルスルホン誘導体を含有する。この二光子吸収性材料は、無色〜黄色であり、高効率二光子吸収性を有するという特徴がある。更にこの二光子吸収性材料は、吸収波長の深色化が抑制されているため、短波長の吸収帯において二光子吸収が生じるという優れた特性を有する。本発明の二光子吸収性材料は、例えば、光硬化性樹脂組成物、発光材料、光記録材料、顕微鏡用蛍光色素材料、光制限材料などに含有させることができる。例えば、本発明の二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物を用いることにより、超高密度光記録、光硬化性樹脂微細加工によるMEMS或いはフォトニック結晶作成、蛍光プローブ、光制限材料などの分野に有用である、光による空間選択性或いは制御性の高い感光性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明で用いられる二光子蛍光測定システムの概略図と励起レーザー光路である。
【図2】本発明で用いられる二光子蛍光測定システムの概略図と蛍光検出光路である。
【図3】本発明で用いられる二光子重合システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
二光子吸収性材料
本発明の二光子吸収性材料は、下記式(1)
【化2】


[式中、mは1または2を示し、nは1または2を示し、
〜R、R〜R10はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いは、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びRが一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよく、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びR10が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよい。]
で表わされるジフェニルスルホン誘導体を含有する。
【0024】
上記式(1)中、R〜R10が表わす置換基としては、以下のような置換基を挙げることができる。
【0025】
ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0026】
アルキル基として、炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、及び炭素数3〜18の脂環式アルキル基が挙げられる。アルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましい。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、neo−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0027】
アルコキシル基として、炭素数1〜18であるアルコキシル基が挙げられる。アルコキシル基は炭素数1〜10であるアルコキシル基であるのがより好ましい。アルコキシル基の具体例として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、neo−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0028】
モノアルキルアミノ基として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を1つ有するアミノ基が挙げられる。モノアルキルアミノ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。モノアルキルアミノ基の具体例として、例えば、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノ−n−プロピルアミノ基、モノ−i−プロピルアミノ基、モノ−n−ブチルアミノ基、モノ−sec−ブチルアミノ基、モノ−t−ブチルアミノ基、モノ−n−ペンチルアミノ基、モノ−neo−ペンチルアミノ基、モノ−n−ヘキシルアミノ基、モノ−n−ヘプチルアミノ基、モノ−n−オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0029】
ジアルキルアミノ基として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を2つ有するアミノ基が挙げられる。ジアルキルアミノ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。ジアルキルアミノ基の具体例として、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−i−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−t−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−neo−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−ヘプチルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0030】
アルキルチオ基として、炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を有するチオ基が挙げられる。アルキルチオ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。アルキルチオ基の具体例として、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、neo−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0031】
−NHCOR基において、R’はアルキル基を示す。アルキル基R’として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基が挙げられる。ここでアルキル基R’は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。
【0032】
また、R〜R、R〜R10は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。より具体的には、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びRが一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよく、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びR10が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよい。5〜7員環の縮合環として、例えばフェニル、ピロリル、オキサゾリル、チオフェニル、ピリジニル、ピリミジニルなどの縮合環が挙げられる。
【0033】
上述したこれらのヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)、及び縮合環は、必要に応じて置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、フェネチル基等のアリール基;ベンジル基、α、α−ジメチルベンジル基等のアラルキル基;アミノ基;炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基を有するモノアルキルアミノ基;炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基を2つ有するジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0034】
上記式(1)で表わされるジフェニルスルホン誘導体が有するR〜R、R〜R10において、R及びRのうち少なくとも1つが、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)から選ばれる電子供与性置換基であるであるのがより好ましい。R及びRのうち少なくとも1つが上記電子供与性置換基であることによって、パラ位における電子供与性効果により、より良好な二光子吸収特性効果を得ることができるという利点がある。なお、R及びRが共に同一のアルキル基、アルコキシル基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基から選ばれる電子供与性置換基である態様がより好ましい。なおアルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)の具体例は上述と同様である。
【0035】
また、R及びRの少なくとも1つがジアルキルアミノ基であるのがより好ましく、R及びRが共にジアルキルアミノ基であるのが更に好ましい。また、ジアルキルアミノ基として、炭素数2〜6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基がより好ましい。
【0036】
また、R、R、R、R及びR、R、R、R10が水素であるのがより好ましい。R、R、R、R及びR、R、R、R10は、オルト位またはメタ位に相当する。これらが水素であることによって、より良好な二光子吸収特性効果を得ることができる。
【0037】
このジフェニルスルホン誘導体として、例えば下記式(2)〜(5)で示される化合物を挙げることができる。
【0038】
【化3】


[式中、R11〜R15、R16〜R20はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いはR11〜R15、R16〜R20は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。]
【0039】
【化4】


[式中、R21〜R25、R26〜R30はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いはR21〜R25、R26〜R30は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。]
【0040】
【化5】


[式中、R31〜R35、R36〜R40はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いはR31〜R35、R36〜R40は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。]
【0041】
【化6】


[式中、R41〜R45、R46〜R50はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いはR41〜R45、R46〜R50は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。]
【0042】
上記式(2)〜(5)中、R11〜R20、R21〜R30、R31〜R40、R41〜R50が表わす置換基としては、以下のような置換基を挙げることができる。
【0043】
ハロゲン原子として、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
【0044】
アルキル基として、炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、及び炭素数3〜18の脂環式アルキル基が挙げられる。アルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましい。アルキル基の具体例として、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、neo−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、ラウリル基、ステアリル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0045】
アルコキシル基として、炭素数1〜18であるアルコキシル基が挙げられる。アルコキシル基は炭素数1〜10であるアルコキシル基であるのがより好ましい。アルコキシル基の具体例として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、neo−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基等が挙げられる。
【0046】
モノアルキルアミノ基として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を1つ有するアミノ基が挙げられる。モノアルキルアミノ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。モノアルキルアミノ基の具体例として、例えば、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノ−n−プロピルアミノ基、モノ−i−プロピルアミノ基、モノ−n−ブチルアミノ基、モノ−sec−ブチルアミノ基、モノ−t−ブチルアミノ基、モノ−n−ペンチルアミノ基、モノ−neo−ペンチルアミノ基、モノ−n−ヘキシルアミノ基、モノ−n−ヘプチルアミノ基、モノ−n−オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0047】
ジアルキルアミノ基として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を2つ有するアミノ基が挙げられる。ジアルキルアミノ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。ジアルキルアミノ基の具体例として、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ−n−プロピルアミノ基、ジ−i−プロピルアミノ基、ジ−n−ブチルアミノ基、ジ−sec−ブチルアミノ基、ジ−t−ブチルアミノ基、ジ−n−ペンチルアミノ基、ジ−neo−ペンチルアミノ基、ジ−n−ヘキシルアミノ基、ジ−n−ヘプチルアミノ基、ジ−n−オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0048】
アルキルチオ基として、炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基を有するチオ基が挙げられる。アルキルチオ基を構成するアルキル基は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。アルキルチオ基の具体例として、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、i−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、i−ブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、neo−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。
【0049】
−NHCOR基において、R’はアルキル基を示す。アルキル基R’として、上述の炭素数1〜18の直鎖状または分枝状のアルキル基、または炭素数3〜18の脂環式アルキル基が挙げられる。ここでアルキル基R’は、炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖状または分枝状のアルキル基であるのが更に好ましい。
【0050】
また、R11〜R15、R16〜R20は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよく、R21〜R25、R26〜R30は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよく、R31〜R35、R36〜R40は、隣接する2つの基が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してもよい。5〜7員環の縮合環として、例えばフェニル、ピロリル、オキサゾリル、チオフェニル、ピリジニル、ピリミジニルなどの縮合環が挙げられる。
【0051】
上述したこれらのヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)、及び縮合環は、必要に応じて置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、F、Cl、Br、I等のハロゲン基;ニトロ基;シアノ基;ヒドロキシル基;メルカプト基;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−オクチルオキシ基等の炭素数1〜10のアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基、フェネチル基等のアリール基;ベンジル基、α、α−ジメチルベンジル基等のアラルキル基;アミノ基;炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基を有するモノアルキルアミノ基;炭素数1〜10の直鎖状または分枝状のアルキル基を2つ有するジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0052】
なお、R11〜R20、R21〜R30、R31〜R40における好ましい態様は、上記R〜R10の場合と同様である。
【0053】
上記ジフェニルスルホン誘導体の合成方法の1つとして、例えば下記式で示すように、ジ(p−トリル)スルホン(6)と、ベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)との縮合反応により合成することができる。この合成方法は、ベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)が同一の構造である場合に、より好ましい方法である。
【0054】
【化7】

上記式中、R〜R10は上記と同様の基を示し、及びn、mは上記と同様の数を示し、及びl、pは0または1を示す。
【0055】
上記合成方法を具体的に例示すると、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)を、溶解または懸濁させ、加熱することによりジフェニルスルホン誘導体を合成する反応である。この加熱において、必要に応じて塩基を用いてもよい。なお、この方法で用いるベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)は、例えばアニリンとベンズアルデヒド誘導体を混合し、必要であれば加熱するといった、当業者における通常の手法により容易に調製することができる。
【0056】
上記合成方法で用いられる各成分の量は、ジ(p−トリル)スルホン(6)1molに対してベンジリデンアニリン誘導体(7)及び(8)が0.8〜1.2molであるのが好ましい。
【0057】
上記合成方法で用いることのできる溶媒としては、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)を、溶解または懸濁させるこができ、これらの基質と反応を起こさないものであれば特に限定されない。このような溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、n−プロピルベンゼン、クメン等のアルキルベンゼン類;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルプロピレンウレア等の含窒素系溶媒;テトラハイドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、1,4−ジオキサン、モノグライム、ダイグライム、トリグライム等のエーテル類等が挙げられる。
【0058】
本反応では、適当な塩基を用いて、反応を促進させてもよい。塩基としては、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)(8)が有する基に影響を与えないものであれば、特に限定されることはない。必要に応じて用いることができる塩基として、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムt−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムt−ブトキシド等のアルカリ金属のアルコキシド化合物等が挙げられる。
【0059】
本反応の反応温度は、例えば10〜40℃といった室温であることが好ましい。また本反応の反応時間として、例えば0.5〜12時間であるのが好ましい。
【0060】
上記縮合反応が終了した後、得られた反応混合物を、水、好ましくは氷水中に滴下し、次いで塩酸等でpHを4以下にしてジフェニルスルホン誘導体を得ることが好ましい。こうして得られたジフェニルスルホン誘導体は、当業者において通常用いられる手法により精製してもよい。例えば、カラムクロマトグラフィー等の精製手段または再結晶などの当業者における通常の手法を用いて、生成物であるジフェニルスルホン誘導体を精製することができる。なお、精製手段はこれらに限定されるものではない。
【0061】
また、本発明の二光子吸収性材料が含有するジフェニルスルホン誘導体の合成方法の他の1つとして、例えば下記式で示すように、まずジ(p−トリル)スルホン(6)とベンジリデンアニリン誘導体(7)とを縮合反応させ、次いで得られた生成物とベンジリデンアニリン誘導体(8)とを縮合反応させることにより合成することができる。
【0062】
【化8】

【0063】
上記式中、R〜R10は上記と同様の基を示し、及びn、mは上記と同様の数を示し、及びl、pは0または1を示す。
【0064】
上記合成方法を具体的に例示すると、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)を、溶解または懸濁させ、加熱することにより中間体Aを合成する。次いで、得られた中間体A及びベンジリデンアニリン誘導体(8)、溶解または懸濁させ、加熱することによりジフェニルスルホン誘導体を合成する反応である。この合成方法は、ベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)がそれぞれ異なる構造である場合に、より好ましい方法である。
【0065】
上記合成方法で用いられる各成分の量は、ジ(p−トリル)スルホン(6)1molに対してベンジリデンアニリン誘導体(7)1〜1.05molであるのが好ましい。また、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)の反応物1molに対して、ベンジリデンアニリン誘導体(8)を1.0〜1.2mol用いるのが好ましい
【0066】
上記合成方法で用いることのできる溶媒、ベンジリデンアニリン誘導体(7)、(8)、必要に応じて用いることができる塩基、反応時間及び精製手段などは、上記と同様である。反応温度については、上記と同様に室温であってもよいが、反応が進行しない場合、例えば50〜100℃に加熱して行ってもよい。
【0067】
また、必要に応じて、ジ(p−トリル)スルホン(6)及びベンジリデンアニリン誘導体(7)を反応させて得られた中間体Aを、ベンジリデンアニリン誘導体(8)と反応させる前に、上記精製手段により精製してもよい。
【0068】
上記の合成方法によって、ジフェニルスルホン誘導体を合成することができる。また、必要に応じて、上記方法によって得られたジフェニルスルホン誘導体が有する置換基を、当業者に知られた通常の手法を用いて、他の置換基に置換してもよい。このような置換方法として、例えば、ヒドロキシル基に、ハロゲン化アルキルを反応させてアルキル基を導入する方法などが挙げられる。
【0069】
本発明の二光子吸収性材料に用いることのできるジフェニルスルホン誘導体の具体例を以下に示す。なお、本発明の二光子吸収性材料に用いることのできるジフェニルスルホン誘導体はこれらに何ら限定されるものではない。以下の表中、Meはメチル基を表し、Etはエチル基を表し、Buはn−ブチル基を表し、t−Bu及びBu−tはt−ブチル基を表し、Ocはオクチル基を表し、Phはフェニル基を表す。
【0070】
【化9】

【0071】
【表1】



【0072】
【化10】

【0073】
【表2】



【0074】
【化11】

【0075】
【表3】



【0076】
【化12】

【0077】
【表4】



【0078】
本発明における、二光子吸収性材料であるジフェニルスルホン誘導体は、4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン誘導体を基本構造とする。上述の4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン誘導体は、吸収波長の深色化を伴うことなく、優れた二光子吸収特性を有するという特徴がある。従来の二光子吸収性材料においては、共役系の拡大に伴い、二光子吸収を誘起する励起波長域も長波長域にシフトするという深色化が生じていた。このような深色化は、レーザー光源に対する二光子吸収性材料の一光子吸収をもたらす恐れがある。二光子吸収用途に用いられるレーザー光源は一般に、極めて高出力である。そのため、このような二光子吸収性材料がレーザー光源に対して一光子吸収を生じた場合は、二光子吸収性材料が破壊されてしまうおそれがある。
【0079】
本発明の二光子吸収性材料は、4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン誘導体を基本構造としているため、二光子吸収における吸収波長の深色化が有効に抑制されている。そして本発明の二光子吸収性材料は、このように深色化が抑制されているにもかかわらず、良好な二光子吸収特性を有するという特徴がある。
【0080】
本発明の二光子吸収性材料は、一光子吸収波長が500nm以下であるのが好ましい。本発明の二光子吸収性材料は、一光子吸収波長が500nm以下であることによって、二光子吸収を誘起させるために用いられるフェムト秒チタンサファイアレーザーの波長領域660〜1100nmから十分に離れており、望まぬ一光子吸収を防ぐことが出来る。
【0081】
本発明の二光子吸収性材料においては、上記式(1)におけるR及び/またはRが電子供与性置換基である、4位置換誘導体であるのがより好ましい。これらは、4位(パラ位)における電子供与性効果によって、より良好な二光子吸収特性効果を達成することができるという利点がある。
【0082】
上記式(1)で表わされるジフェニルスルホン誘導体が有するR〜R、R〜R10において、R及びRのうち少なくとも1つが、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)から選ばれる電子供与性置換基であるであるのがより好ましい。また、R及びRの少なくとも1つがジアルキルアミノ基であるのがより好ましく、R及びRが共にジアルキルアミノ基であるのが更に好ましい。また、ジアルキルアミノ基として、炭素数2〜6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基がより好ましい。
【0083】
また、本発明の二光子吸収性材料に含有されるジフェニルスルホン誘導体は、250〜800nmにおける極大波長のモル吸光係数が55000mol−1dmcm−1以上であることが好ましい。このモル吸光係数は、250〜800nmの波長域での一光子吸収が最も高い極大波長に対し、単位モル濃度、単位光路長にて規格化した吸光度の比例係数に相当する。
【0084】
本発明の二光子吸収性材料は、例えば、光硬化性樹脂組成物、発光材料、光記録材料、顕微鏡用蛍光色素材料、光制限材料などに含有させることができる。例えば、本発明の二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物を用いることにより、光による空間選択性或いは制御性の高い感光性材料を提供することができる。この感光性材料は、超高密度光記録、光硬化性樹脂微細加工によるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)或いはフォトニック結晶作成、蛍光プローブ、光制限材料などの分野で有用である。
【0085】
二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物
上記二光子吸収性材料は、光硬化性樹脂組成物に含めて用いることができる。二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物は、一般に、(A)二光子吸収性材料、(B)光重合性成分、(C)光重合開始剤を含む。光硬化性樹脂組成物は更に、(D)バインダー樹脂及びその他の添加成分を含んでもよい。
【0086】
二光子吸収性材料(A)として、上述の二光子吸収性材料が用いられる。光重合性成分(B)として、例えば、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和基を有する単官能モノマー、多官能モノマー、単官能オリゴマー、多官能オリゴマーなどの重合性成分が挙げられる。
単官能オリゴマー及び多官能オリゴマーの具体例として、例えば、ジ、トリ、テトラまたはポリ・アルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオールの(メタ)アクリレート、ポリオールのアルキレンオキシドの(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、及びフォスファゼン(メタ)アクリレートなどのアクリレート樹脂等が挙げられる。
【0087】
これらの単官能オリゴマー及び多官能オリゴマーは、当業者における通常の手法で調製することができる。例えばポリエステル(メタ)アクリレートは、多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、或いは、多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂またはノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーも用いることができる。
ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールとポリイソシアナートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
ポリオール(メタ)アクリレート系オリゴマーは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。
【0088】
単官能モノマー及び多官能モノマーとして、各種の単官能(メタ)アクリル系モノマー、2官能(メタ)アクリル系モノマー及び3官能以上の(メタ)アクリレート系のモノマーを用いることができる。
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシトリエチレングリコールアクリレート、テトラヒドロフルフリルモノアクリレート、イソオクチルモノアクリレート等の(メタ)アクリレート類、及びジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロイルモルホリン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類等が挙げられる。
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとして、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリエトキシアクリレート、ペンタエリスリトールポリプロポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ペンタエリスリトールポリアクリレート等が挙げられる。
なお本明細書において、「(メタ)アクリル」の用語は「アクリル」及び「メタクリル」の総称を意味し、同様に「(メタ)アクリレート」の用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の総称を意味する。
【0089】
光重合開始剤(C)は、必要に応じて、当業者において通常用いられる開始剤を用いることができる。このような光重合開始剤として、例えば、カンファキノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メチルベンゾフェノン、ジアセチル、エオシン、チオニン、ミヒラーズケトン、アセトフェノン、2−クロロチオキサントン、アンスラキノン、クロロアンスラキノン、2−メチルアンスラキノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α,α'−ジクロル−4−フェノキシアセトフェノン、1−ヒドロキシ−1−シクロヘキシルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、メチルベンゾインフォルメイト、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロベン、ジクロルチオキサントン、ジイソプロピルチオキサントン、フェニルジスルフィド−2−ニトロソフルオレン、ブチロイン、アニソインエチルエーテル、アゾビスイソブチロニトリル、テトラメチルチウラムジスルフィド、また、特開平6−95378号公報、特開平8−36261号公報などに記載されている公知の光重合開始剤である、過硫酸アンモニウム、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミン)ヒドロクロリド、2,2'−アゾビス(2−アミノジプロパン)ヒドロクロリド、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2'−アゾビス{2−メチル−N[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2'−アゾビス(2−メルカプトプロピオンアミジン)等のラジカル重合開始剤、及びトリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン酸塩等の硫黄系開始剤、ジフェニルヨードニウム六フッ化アンチモン酸塩等のヨウ素系開始剤に代表されるオニウム塩などのカチオン重合開始剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの光重合開始剤(C)は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また光重合開始剤(C)は用いなくてもよい。
【0090】
光硬化性樹脂組成物に含まれる二光子吸収性材料(A)の量は、組成物の用途に応じた濃度に設定することができる。例えば、二光子吸収性材料(A)は、上記光重合性成分(B)100質量部に対して0.001〜5質量部であるのが好ましく、0.01〜4質量部であるのがより好ましく、0.01〜3質量部であるのが更に好ましい。
【0091】
光重合開始剤(C)を用いる場合は、上記光重合性成分(B)100質量部に対して0.1〜5質量部であるのが好ましく、0.2〜4質量部であるのがより好ましく、0.5〜3質量部であるのが更に好ましい。光重合開始剤(C)の含有量が5質量部を超える場合は、経済的不利益が生じ、更に残存する光重合開始剤(C)が硬化樹脂の物性を悪化させるおそれがある。
【0092】
光硬化性樹脂組成物は、必要に応じてバインダー樹脂(D)を含んでもよい。バインダー樹脂(D)を用いることによって、重合前の組成物の成膜性、膜厚の均一性、保存時安定性などを向上させることができる。バインダー樹脂(D)は、当業者において通常用いられる成分を用いることができる。バインダー樹脂(D)の具体例として、例えば、(メタ)アクリル樹脂、(メタ)アクリル共重合体、ポリビニルエステル、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。
【0093】
光硬化性樹脂組成物を、下記に詳述する光記録材料の記録層の作製に用いる場合は、光硬化性樹脂組成物がバインダー樹脂(D)を含み、かつ、バインダー樹脂(D)の屈折率の値と、光重合性成分(B)の重合物の屈折率の値とが異なる態様が好ましい。光記録材料の記録層に、光照射(露光)を行うと、二光子吸収により起こる光重合が開始され、それに伴い光重合性成分(B)の濃度勾配ができ、光が弱い部分から強い部分に光重合性成分(B)の拡散移動が起こると考えられる。そしてこの拡散移動の結果、記録光の強弱に応じて、光重合性成分(B)が密に存在する領域とバインダー樹脂(D)が主成分として存在する領域とが形成され、それら領域の屈折率の差が生じるからと考えられる。これにより、レーザー光照射された部分(レーザー焦点部)と未照射部(非焦点部)にて、光重合性成分(B)の重合物とバインダー樹脂(D)との組成比の不均一化が起こり、大きな屈折率変調を起こすことができ、記録感度を高めることができる。形成される屈折率変調は0.005より大きいことが好ましく、0.01より大きいことがより好ましく、0.05より大きいことが更に好ましい。光重合性成分(B)の重合物とバインダー樹脂(D)の屈折率の違いは、光重合性成分(B)の重合物の屈折率が、バインダー樹脂(D)の屈折率より大きくてもよく、またバインダー樹脂(D)の屈折率が光重合性成分(B)の重合物の屈折率より大きくてもよい。記録感度の点からは、光重合性成分(B)の重合物の屈折率が、バインダー樹脂(D)の屈折率より大きい態様がより好ましい。
【0094】
光硬化性樹脂組成物を、光記録材料の記録層の作製に用いる場合は、光硬化性樹脂組成物に含まれるバインダー樹脂(D)の量は、光重合性成分(B)100質量部に対して80〜500質量部であるのが好ましい。
【0095】
光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて光重合促進剤を含んでもよい。光重合促進剤を含むことによって、光重合開始剤による硬化反応を促進させることができる。光重合促進剤の具体例として、例えば、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール等の第3級アミン類、トリフェニルフォスフィンで代表されるアルキルフォスフィン類、β−チオグリコールで代表されるチオール類等を挙げることができる。
光重合促進剤が含まれる場合は、上記光重合性成分(B)100質量部に対して0.1〜5質量部であるのが好ましく、0.2〜4質量部であるのがより好ましく、0.5〜3質量部であるのが更に好ましい。
【0096】
光硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、連鎖移動剤、熱安定剤、可塑剤、有機溶媒などの当業者において通常用いられる添加剤または添加成分を含んでもよい。
【0097】
二光子吸収性材料を含有する発光材料
本発明の二光子吸収性材料を用いた発光材料は、二光子吸収により生成した励起分子が、その励起状態の輻射失活過程において発する発光を利用する材料を意味する。このような発光現象は、例えば、情報記録材料、蛍光顕微鏡用色素、光制限剤等に利用することができる。
【0098】
二光子吸収現象は、上述の通り、三次の非線形光学効果の一種であって、分子が二つのフォトンを同時に吸収して、基底状態から励起状態へ遷移する現象である。また二光子吸収性材料は、非共鳴領域の波長において分子を励起することが可能な材料であって、二光子を吸収することにより、励起に用いた光子の約2倍のエネルギー準位における励起状態となる材料である。このような二光子同時吸収の遷移効率は、一光子吸収と比べて極めて低く、極めて大きなパワー密度の光子を必要とする。そのため、一般的なレーザー光強度では、二光子吸収はほとんど生じない。例えばピーク光強度(最大発光波長における光強度)が高いモード同期レーザーのようなフェムト秒程度の極超短パルスレーザーを用いることによって、二光子吸収を観察することができる。
【0099】
また、二光子吸収の遷移効率は、印加する光電場の二乗に比例する(二光子吸収の二乗特性)。そのため、極超短パルスレーザーなどのレーザーを照射した場合、レーザースポット中心部の電界強度の高い位置でのみ二光子の吸収が起こる。一方で、周辺部の電界強度の弱い部分では二光子の吸収は全く起こらない。例えば三次元空間においては、レーザー光をレンズで集光した焦点の電界強度の大きな領域でのみ二光子吸収が生じる。一方で焦点から外れた領域では、電界強度が弱いために二光子吸収が生じない。
【0100】
これに対して、一光子の線形吸収においては、印加された光電場の強度に比例してすべての位置で励起が生じる。そのため、二光子吸収は、二乗特性に由来して空間内部のピンポイントのみで励起が生じるという、一光子線形吸収にはない、三次元空間選択性能を有している。そして二光子吸収は、この性能により、空間分解能が著しく向上するという特徴を有する。例えば、二光子吸収を利用した記録材料においては、一光子吸収を利用した記録材料と比較して、スポットサイズをより小さくすることができる。そのため、二光子吸収性能を情報記録材料において用いることによって、超解像記録が可能となる。
【0101】
二光子吸収性材料は更に、二乗特性に由来する高い空間分解能の特性を生かして、光制限材料、光造形用途に用いられる光硬化材料、二光子蛍光顕微鏡用蛍光色素材料などの用途に用いることができる。
【0102】
二光子吸収性材料は更に、生体組織の二光子造影及び二光子フォトダイナミックセラピー(PDT)などの光化学療法においても用いることができる。二光子吸収の誘起においては、化合物の線形吸収帯が存在する波長領域よりも長波長であり、かつ生体組織による吸収が生じない、つまり生体組織の線形吸収帯が存在しない、近赤外領域の短パルスレーザーを用いることができる。これにより、生体組織における使用であっても、生体組織による吸収及び散乱を受けることなく、励起光を試料内部まで到達させることができる。更に、上述の二光子吸収の二乗特性に基づく三次元空間選択性能により、試料内部のピンポイントを高い空間分解能で励起できる利点もある。
【0103】
また、二光子吸収及び二光子発光においては、入射した光子のエネルギーよりも高いエネルギーの光子を取り出せるため、波長変換デバイスという観点からアップコンバージョンレージングにも使用できる。
【0104】
このような、二光子吸収性材料を含有する発光材料として、例えば、上記二光子吸収性材料、または二光子吸収性材料を含む光硬化性樹脂組成物などを用いることができる。
【0105】
二光子吸収性材料を用いた光記録材料への応用
インターネット等のネットワーク環境及びハイビジョンTVの普及に従い、民生用途(consumer use)においても、例えば50GB以上、好ましくは100GB以上の画像情報を安価かつ簡便に記録することができる大容量記録媒体の要求が高まっている。また、コンピューターバックアップ用途、放送バックアップ用途等の業務用途においては、1TB程度或いはそれ以上の大容量の情報を高速かつ安価に記録することができる光記録材料が求められている。
【0106】
CD、DVDのような従来の二次元光記録材料においては、記録再生波長を短波長化することによって、記録の大容量化を図ることができる。しかしながら、このような従来の二次元光記録材料においては、このような短波長化技術を用いても、物理原理上、せいぜい25GB程度までしか記録容量を向上させることができない。そのため、従来の二次元光記録材料は、将来の要求に対応できる十分な記録容量を確保できるということはできない。
【0107】
そして次世代の高密度・高容量記録媒体として、本発明のような二光子吸収性材料を用いた三次元光記録材料が注目されつつある。三次元光記録材料においては、三次元(膜厚)方向に、何十、何百層もの記録を重ねることにより、従来の二次元記録媒体と比較して、何十、何百倍もの超高密度・超高容量記録が可能となると考えられている。このような三次元光記録材料では、三次元(膜厚)方向に対して任意の場所へアクセスできること及び書き込みできることが必要とされる。そしてこのような三次元(膜厚)方向に対する手段として、本発明の二光子吸収性材料を用いることができる。
【0108】
このように二光子吸収性材料を用いる三次元光記録材料では、上記で説明した物理原理に基づいて、従来の二次元光記録材料と比較して、何十、何百倍にも相当する、高容量記録を可能とすることができる。そのため二光子吸収性材料を用いる三次元光記録材料は、次世代の高密度・高容量光記録材料を達成する有効な1手段として考えられている。
【0109】
二光子吸収性材料を用いる三次元光記録材料においては、例えば、非共鳴二光子吸収により得た励起エネルギーを用いて硬化反応を生じさせる態様が考えられている。その結果、レーザー焦点(記録)部と非焦点(非記録)部で光を照射した際の発光、反射強度等を書き換えできない方式で変調することができれば、三次元空間の任意の場所にきわめて高い空間分解能で発光、反射強度変調を起こすことができる。これにより、極めて高密度・高容量記録が可能である三次元光記録が達成できる。このような三次元光記録材料はまた、非破壊読み出しが可能であって、かつ不可逆材料であるため、良好な記録保存性も期待できる。そのため極めて高い実用性を有する。
【0110】
本発明の二光子吸収化合物を含む光記録材料は、二光子吸収断面積が大きい二光子吸収化合物を少なくとも有し、二光子吸収化合物の二光子吸収を利用して書き換えできない方式で記録を行った後、光を記録材料に照射してその発光、反射強度等の違いを検出することにより再生することを特徴とする、記録再生が可能な二光子吸収光記録材料である。
【0111】
二光子吸収光記録材料は、三次元多層光記録層を有している。そして光記録/再生において、三次元多層光記録層の任意の層に焦点を合わせて、記録/再生を実施することにより、三次元記録媒体として機能する。また、層間を保護層(中間層)で区切っていなくとも、二光子吸収性材料特性に基づいた、任意の深さ方向における三次元記録が可能であるという利点がある。
【0112】
本発明の二光子吸収光記録材料は、例えば、平らな支持体基板に、本発明の二光子吸収性材料からなる記録層と中間層保護層とを、交互に50層程積層させることによって、調製することができる。記録層の厚さは例えば0.01〜0.5μmであるのが好ましい。また中間層の厚さは例えば0.1〜5μmが好ましい。本発明の二光子吸収光記録材料は、このような構造により、CD、DVDのような従来の二次元光記録材料と同じサイズであっても、テラバイト級の大容量の光記録材料を実現することができる。
【0113】
情報の三次元的な記録は、光源から発生した光を記録層中の所望の箇所に焦点を結ばせることで行われる。光源として単一ビームを一般に用いることができる。この場合、光源として、フェムト秒オーダーの超短パルス光、または汎用のレーザー励起装置などを用いることができる。ビット単位、深さ方向単位の記録方法以外に、面光源を利用する並行記録方法も、高転送レートを実現することから好ましい。また、記録媒体において中間層の存在しないバルク状の記録媒体を作製し、ホログラム記録のようにページデータを一括記録することで、高転送レートを実現することも可能である。
【0114】
基板としては、柔軟性または剛性フィルム、シートまたは板の形状を有する、任意の天然または合成支持体を用いることができる。具体例として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、樹脂下塗り型ポリエチレンテレフタレート、または静電気放電処理されたポリエチレンテレフタレート、セルロースアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ガラス等が挙げられる。これらの基板には、予めトラッキング用の案内溝またはアドレス情報を設けてもよい。
【0115】
記録層は、例えば、上記光硬化性樹脂組成物を、スピンコーター、ロールコーターまたはバーコーター等を用いて、基板上に直接塗布することによって形成することができる。塗布時に必要に応じて用いた溶媒は、乾燥時に蒸発除去することができる。蒸発除去手段として、加熱または減圧を用いてもよい。これにより、記録層をより良好に形成することができる。
【0116】
中間層を形成することによって、酸素遮断性を高めたり、層間クロストーク防止性能を向上させたりすることができる。中間層の例として、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレートまたはセロファンフィルムなどのプラスチック製のフィルムまたは板等が挙げられる。中間層は、静電的な密着、押出し機を利用した貼合せ等の方法により記録層と積層させて設けることができる。或いは、記録層を形成する光硬化性樹脂組成物を中間層に塗布してもよい。また、必要に応じて、保護層と記録層の間及び/または基材と記録層の間に、粘着剤層または液状物質層を設けて、気密性を高めてもよい。更に感光膜間の保護層(中間層)にもあらかじめ、トラッキング用の案内溝またはアドレス情報を設けてもよい。
【0117】
光記録材料における記録の再生は、記録時よりも強度の弱いレーザー光を記録層に照射し、それらの発光及び/または反射強度の違いを検出器で検出することによって行われる。記録再生に用いられるレーザー光は、記録時において用いられるビームとは異なる波長であってもよく、または低出力である同波長の光であってもよい。
【0118】
なお、本発明に従って同様に形成される光記録材料の形態としては、既存の二次元光記録材料の形態に限定されるものではなく、例えばカード状、プレート状、テープ状、ドラム状等であってもよい。
【0119】
二光子吸収性材料を含有する顕微鏡用蛍光色素材料
本発明の二光子吸収性材料は、二光子励起レーザー走査顕微鏡用の顕微鏡用蛍光色素材料として好適に用いることができる。ここで二光子励起レーザー走査顕微鏡とは、近赤外パルスレーザーを標本面上に集光し走査させて、そこでの二光子吸収により励起されて発生する蛍光を検出することにより像を得る顕微鏡である。
【0120】
二光子励起レーザー走査顕微鏡は、近赤外域波長のサブピコ秒の単色コヒーレント光パルスを発するレーザー光源と、レーザー光源からの光束を所望の大きさに変える光束変換光学系と、光束変換光学系で変換された光束を対物レンズの像面に集光し走査させる走査光学系と、集光された上記変換光束を標本面上に投影する対物レンズ系と、光検出器と、を備えている。
【0121】
パルスレーザー光を、ダイクロイックミラーを経て、光束変換光学系、対物レンズ系により集光して、標本面で焦点を結ばせることにより、標本内にある顕微鏡用蛍光色素材料に二光子吸収により誘起された蛍光を生じさせる。標本面をレーザービームで走査し、各場所での蛍光強度を光検出器などの光検出装置で検出して、得られた位置情報に基づいて、コンピュータでプロットすることにより、三次元蛍光像が得られる。走査機構としては、例えば、ガルバノミラーなどの可動ミラーを用いてレーザービームを走査してもよく、或いはステージ上に置かれた二光子吸収性材料を含む標本を移動させてもよい。
【0122】
このような構成により、二光子吸収そのものの非線形効果を利用して、光軸方向の高分解能を得ることができる。加えて、共焦点ピンホール板を用いることによって、さらなる高分解能(面内、光軸方向共)を得ることができる。
【0123】
本発明の二光子吸収性材料は、二光子励起レーザー走査顕微鏡用の顕微鏡用蛍光色素材料として好適に用いることができる。本発明の二光子吸収性材料は、従来の顕微鏡用蛍光色素材料と比較して、より大きな二光子吸収断面積を有しているため、低濃度であっても高い二光子吸収特性を発揮させることができる。従って、本発明によれば、高感度である顕微鏡用蛍光色素材料を得ることができる。更に、材料に照射する光の強度を強くする必要がなくなり、材料の劣化、破壊を抑制することができ、材料中の他成分の特性に対する悪影響も低下させることができる。
【0124】
二光子吸収性材料を含有する光制限材料
光通信・光情報処理の分野において、情報等の信号を光で搬送するためには、変調、スイッチング等の光制御が必要になる。この種の光制御には、電気信号を用いた電気−光制御方法が従来から用いられている。しかしながらこの電気−光制御方法は、電気回路のようなCR時定数による帯域制限され、または素子自体の応答速度または電気信号と光信号との間の速度の不釣り合いにより処理速度が制限されるなどの制約がある。そのため、光の利点である広帯域性または高速性を十分に生かすためには、光信号によって光制御を行う光−光制御技術が非常に重要になってくる。
【0125】
本発明の二光子吸収性材料は、光制限材料として用いることができる。本発明の二光子吸収性材料を含有する光制限材料は、光を照射することによって、透過率、屈折率、吸収係数などの光学的性質を変化させることができる。これにより、電子回路技術を用いることなく、光の強度または周波数を変調することが可能となる。このような光制限材料は、光通信、光交換、光コンピュータ、光インターコネクション等における光スイッチなどに応用することが可能である。このような光制限材料として、上述の二光子吸収性材料をそのまま用いてもよく、また上述の光硬化性樹脂組成物を用いてもよい。
【0126】
本発明における光制限材料は、通常の半導体材料により形成される光制限素子や、一光子励起による光制限素子と比べて、優れた応答速度を有しているという利点がある。本発明における光制限材料は更に、感度が高いために、S/N比の高い信号特性に優れた光制限素子を提供することができる。
【実施例】
【0127】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論本発明はこれら具体例のみに限定されるものではない。実施例中、「部」及び「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0128】
ベンジリデンアニリンの合成は、既報L.A.Bigelow,H.Eatough,Org.Synth.,I,80(1941)に従い、当業者において通常用いられる手順により合成した。
ビススチリルジフェニルスルホンの合成は、既報H−.D.Becker,J.Org.Chem.,29,2891(1964)に従い、当業者において通常用いられる手順により合成した。
【0129】
ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の製造
(製造例1)化合物例A1の製造
ベンズアルデヒド53g(0.5mol)、アニリン46.5g(0.5mol)を混合、15分反応させ、ベンジリデンアニリンを47.9g(52.8%)得た。
【0130】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン10.0g(40.6mmol)(東京化成社製)、ベンジリデンアニリン14.72g(81.2mmol)をジメチルホルムアミド200ml中、カリウムt−ブトキシド4.87g(89.32mmol)存在下3時間反応させ、4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン粗精製物を15.8g(83.2%)得た。
【0131】
得られた4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン粗精製物1.0gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲル薄層クロマトグラフィーにて精製し、下記式で示される4,4'−ビススチリルジフェニルスルホン0.1gを得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:79.27%(79.59%)、H:5.39%(5.25%)
【0132】
【化13】

【0133】
(製造例2)化合物例A2の製造
4−t−ブチルベンズアルデヒド10.0g(61.6mmol)、アニリン6.03g(64.7mmol)を混合、3時間加熱還流させ、4−t−ブチルベンジリデンアニリンを13.6g(92.8%)得た。
【0134】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−t−ブチルベンジリデンアニリン4.06g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(17.05mmol)存在下室温にて3時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し、塩酸を加えてpH<4に調整し析出物をろ取、洗浄、乾燥し黄色粉末を3.41g得た。得られた黄色粉末を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付して4,4'−ビス(4−t−ブチルスチリル)ジフェニルスルホン粗精製物1.9g(43.8%)を得た。
【0135】
得られた粗精製物0.1gをクロロホルム4mlに溶解し、孔径0.50μmの疎水性PTFEにてろ過後、メタノール2mlを加え析出物をろ取し、下記式で示される4,4'−ビス(4−t−ブチルスチリル)ジフェニルスルホン0.067gを得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:80.21%(80.86%)、H:7.32%(7.16%)
【0136】
【化14】

【0137】
(製造例3)化合物例A3の製造
4−メトキシベンズアルデヒド10.0g(73.4mmol)、アニリン7.18g(77.1mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−メトキシベンジリデンアニリンを12.1g(77.9%)得た。
【0138】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン1.0g(4.06mmol)(東京化成社製)、4−メトキシベンジリデンアニリン1.72g(8.12mmol)をジメチルホルムアミド20ml中、カリウムt−ブトキシド0.91g(8.12mmol)存在下室温で2時間反応させた。反応溶液を氷水300mlに滴下した後、塩酸を加えpH<4に調製、0.5h撹拌した。析出物をろ取、洗浄、乾燥後、テトラヒドロフラン50mlで洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−メトキシスチリル)ジフェニルスルホンを1.58g(80.6%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:74.57%(74.66%)、H:5.56%(5.43%)
【0139】
【化15】

【0140】
(製造例4)化合物例A5の製造
4−ブトキシベンズアルデヒド10.0g(56.1mmol)、アニリン5.49g(58.9mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−ブトキシベンジリデンアニリンを12.2g(85.9%)得た。
【0141】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ブトキシベンジリデンアニリン4.33g(8.53mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下室温で1.5時間反応させた。反応溶液を氷水300mlに滴下した後、塩酸を加えpH<4に調製、0.5h撹拌した。析出物をろ取、洗浄、乾燥後、クロロホルム50mlに溶解、メタノール20mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−ブトキシスチリル)ジフェニルスルホンを2.21g(48.0%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0142】
元素分析値(計算値);C:76.42%(76.29%)、H:7.04%(6.76%)
【0143】
【化16】

【0144】
(製造例5)化合物例A6の製造
【0145】
4−オクチルオキシベンズアルデヒド10.0g(42.7mmol)、アニリン4.17g(44.84mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−オクチルオキシベンジリデンアニリンを12.0g(90.9%)得た。
【0146】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−オクチルオキシベンジリデンアニリン5.29g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.5時間反応させた。ジメチルホルムアミド20mlを加えた後、氷水400mlに滴下、塩酸を加えpH<4に調製し0.5時間撹拌した。析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム150mlに溶解、メタノール150mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−オクチルオキシスチリル)ジフェニルスルホンを4.04g(73.3%)得た。
【0147】
元素分析値(計算値);C:78.20%(77.84%)、H:8.34%(8.02%)
【0148】
【化17】

【0149】
(製造例6)化合物例A8の製造例
4−ジエチルアミノベンズアルデヒド10.0g(56.4mmol)、アニリン5.78g(62.04mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−ジエチルアミノベンジリデンアニリンを9.6g(67.7%)得た。
【0150】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ジエチルアミノベンジリデンアニリン4.32g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて2.0時間、60℃にて1.0時間反応させた。反応溶液を氷水300mlに滴下、塩酸を加えpH<4に調整し、析出物をろ取、洗浄、乾燥し黄色粉末を得た。得られた黄色粉末を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、メタノール30mlで洗浄、乾燥し4,4'−ビス(4−ジエチルアミノスチリル)ジフェニルスルホン粗精製物を1.31g(28.5%)得た。
【0151】
得られた粗精製物0.1gをクロロホルム4mlに溶解し、孔径0.50μmの疎水性PTFEにてろ過後、メタノール3mlを加え析出物をろ取し、下記式で示される4,4'−ビス(4−ジエチルアミノスチリル)ジフェニルスルホン0.088gを黄色粉末として得た。元素分析値は以下の通りである。
【0152】
元素分析値(計算値);C:75.60%(76.56%)、H:7.25%(7.14%)、N;4.92%(4.96%)
【0153】
【化18】

【0154】
(製造例7)化合物例A11の製造
4−メチルチオベンズアルデヒド10.0g(65.7mmol)、アニリン6.42g(68.99mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−メチルチオベンジリデンアニリンを12.7g(85.1%)得た。
【0155】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−メチルチオベンジリデンアニリン3.89g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.5時間反応させた。反応溶液を氷水300ml中に滴下し、塩酸を加えpH<4に調整後、析出物をろ過、洗浄、乾燥し淡黄色粉末を2.7g得た。ジメチルホルムアミド30ml、クロロホルム30mlで洗浄し、下記式で示される4,4'−ビス(4−メチルチオスチリル)ジフェニルスルホンを2.01g(48.1%)得た。
元素分析値(計算値);C:69.86%(70.00%)、H:4.89%(5.09%)
【0156】
【化19】

【0157】
(製造例8)化合物例A15の製造
4−フェニルベンズアルデヒド10.0g(54.9mmol)、アニリン5.36g(57.65mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−フェニルベンジリデンアニリンを14.0g(99.0%)得た。
【0158】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−フェニルベンジリデンアニリン4.39g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド80ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(32.48mmol)存在下、室温にて1.5時間反応させた。ジメチルホルムアミド50mlを加えた後、氷水500ml中に滴下、塩酸にてpH<4に調整したのち、ろ取、洗浄、乾燥し、白色固体を4.2g得た。
【0159】
得られた白色固体3.0gを、抽出溶媒をテトラヒドロフランにて55時間ソックスレー洗浄精製し、下記式で示される4,4'−ビス(4−フェニルスチリル)ジフェニルスルホンを2.6g(77.9%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:83.54%(83.59%)、H:5.27%(5.26%)
【0160】
【化20】

【0161】
(製造例9)化合物D7の製造
4−ジメチルアミノシンナムアルデヒド10.0g(57.1mmol)、アニリン5.58g(59.96mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−ジメチルアミノシンナミリデンアニリンを11.1g(77.7%)得た。
【0162】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ジメチルアミノシンナミリデンアニリン4.28g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.0時間反応させた。ジメチルホルムアミド40mlを加えた後、氷水500mlにあけ、塩酸を加えて、pH<4に調整後、析出物をろ取、洗浄、乾燥し2.0gの黄土色粉末を得た。得られた黄土色粉末を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。溶媒を留去後、20%メタノールのクロロホルム溶液40mlに分散、不溶物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−ジメチルアミノシンナミル)ジフェニルスルホンを0.040g(0.88%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0163】
元素分析値(計算値);C:76.27%(77.11%)、H:6.69%(6.47%)、N;4.98%(5.00%)
【0164】
【化21】

【0165】
(製造例10)化合物例A22の製造
4−フルオロベンズアルデヒド10.0g(80.6mmol)、アニリン7.88g(84.63mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、4−フルオロベンジリデンアニリンを9.3g(57.9%)得た。
【0166】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−フルオロベンジリデンアニリン3.41g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.0時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し4.1gの黄色粉末を得た。得られた黄色粉末を展開溶媒としてクロロホルム・ヘキサン混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルム10mlに溶解、20mlのメタノールを加え析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−フルオロスチリル)ジフェニルスルホンを0.40g(10.8%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0167】
元素分析値(計算値);C:73.10%(73.43%)、H:4.13%(4.40%)
【0168】
【化22】

【0169】
(製造例11)化合物A23の製造
2−トリフルオロメチルベンズアルデヒド10.0g(57.4mmol)、アニリン6.03g(60.27mmol)をメタノール100ml中混合、3時間加熱還流させ、2−トリフルオロメチルベンジリデンアニリンを12.3g(86.0%)得た。
【0170】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2−トリフルオロメチルベンジリデンアニリン4.26g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.0時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルム5mlに溶解、10mlのメタノールを加え析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(2−トリフルオロメチルスチリル)ジフェニルスルホンを0.95g(20.9%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:64.8%(64.51%)、H:3.50%(3.61%)
【0171】
【化23】

【0172】
(製造例12)化合物例A16の製造
2,4−ジメトキシベンズアルデヒド10.0g(60.2mmol)、アニリン5.89g(63.21mmol)をメタノール80ml中混合、3時間加熱還流させ、2,4−ジメトキシベンジリデンアニリンを13.4g(92.2%)得た。
【0173】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2,4−ジメトキシベンジリデンアニリン4.12g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて2.0時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体4.4gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、ジメチルホルムアミド5mlに溶解、100mlの水にあけ析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(2,4−ジメトキシスチリル)ジフェニルスルホンを1.30g(29.5%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0174】
元素分析値(計算値);C:70.96%(70.83%)、H:5.72%(5.57%)
【0175】
【化24】

【0176】
(製造例13)化合物例A17の製造
3,4,5−トリメトキシベンズアルデヒド10.0g(51.0mmol)、アニリン4.98g(53.55mmol)をメタノール70ml中混合、3時間加熱還流させ、3,4,5−トリメトキシベンジリデンアニリンを11.9g(86.2%)得た。
【0177】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、3,4,5−トリメトキシベンジリデンアニリン4.64g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1.5時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体4.9gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、ジメチルホルムアミド5mlに溶解、100mlの水にあけ析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(3,4,5−トリメトキシスチリル)ジフェニルスルホンを0.78g(16.0%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:67.47%(67.76%)、H:5.94%(5.69%)
【0178】
【化25】

【0179】
(製造例14)化合物例A18の製造
2,3,4−トリメトキシベンズアルデヒド10.0g(51.0mmol)、アニリン4.98g(53.55mmol)をメタノール60ml中混合、3時間加熱還流させ、2,3,4−トリメトキシベンジリデンアニリンを8.63g(62.3%)得た。
【0180】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2,3,4−トリメトキシベンジリデンアニリン4.64g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体4.9gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルム10mlに溶解、30mlのメタノールを加え析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(2,3,4−トリメトキシスチリル)ジフェニルスルホンを1.70g(34.8%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:67.68%(67.76%)、H:5.70%(5.69%)
【0181】
【化26】

【0182】
(製造例15)化合物例A19の製造
2,5−ジメトキシベンズアルデヒド10.0g(60.2mmol)、アニリン4.98g(63.21mmol)、硫酸マグネシウム1.0gを混合、室温にて3時間撹拌した。反応液をクロロホルム30mlにあけ、ろ過により硫酸マグネシウムを除去、水で有機層を洗浄、硫酸マグネシウムにて脱水後、溶媒留去、次いで乾燥し、2,5−ジメトキシベンジリデンアニリンを13.0g(89.7%)得た。
【0183】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2,5−ジメトキシベンジリデンアニリン4.12g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体5.0gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、ジメチルホルムアミド5mlに溶解、50mlの水に滴下し析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(2,5−ジメトキシスチリル)ジフェニルスルホンを0.3g(6.8%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:71.07%(70.83%)、H:5.49%(5.57%)
【0184】
【化27】

【0185】
(製造例16)化合物例A25の製造
2−ナフトアルデヒド10.0g(64.0mmol)、アニリン6.26g(67.20mmol)をメタノール100ml中混合し、3時間加熱還流した。反応溶液に水50mlを滴下し、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、2−ナフトエテニルアニリンを13.5g(91.2%)得た。
【0186】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2−ナフトエテニルアニリン3.96g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体4.6gを60mlのジメチルホルムアミドから2回再結晶し、下記式で示される4,4'−ビス(2−ナフトエテニル)ジフェニルスルホンを0.82g(19.3%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:82.72%(82.73%)、H:4.77%(5.01%)
【0187】
【化28】

【0188】
(製造例17)化合物例A20の製造
3,4−ジエトキシベンズアルデヒド10.0g(51.5mmol)、アニリン5.04g(54.08mmol)、硫酸マグネシウム2.0gを混合、室温にて4時間撹拌した。反応液をクロロホルム30mlにあけ、ろ過により硫酸マグネシウムを除去、水で有機層を洗浄、硫酸マグネシウムにて脱水後、溶媒留去、乾燥したのち、10%メタノール水溶液100mlに投入、5時間撹拌後、ろ過、洗浄、乾燥し3,4−ジエトキシベンジリデンアニリンを9.35g(67.4%)得た。
【0189】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、3,4−ジエトキシベンジリデンアニリン4.82g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体4.9gを展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルム10mlに溶解、20mlのメタノールを加えたのち析出物をろ取、洗浄、乾燥し,下記式で示される4,4'−ビス(3,4−ジエトキシスチリル)ジフェニルスルホンを1.25g(25.7%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:70.72%(72.21%)、H:6.46%(6.40%)
【0190】
【化29】

【0191】
(製造例18)化合物例A7の製造
4−ジメチルアミノベンズアルデヒド14.9g(100mmol)、アニリン9.31g(105mmol)をメタノール70ml中混合し、3時間加熱還流した。反応溶液にメタノール30ml、水30mlを加え撹拌後、析出物をろ取、洗浄、乾燥し黄色固体を得た。更に、100mlの熱メタノールに溶解しろ過後、析出した結晶をろ取し、4−ジメチルアミノベンジリデンアニリンを12.2g(54.5%)得た。
【0192】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ジメチルアミノベンジリデンアニリン3.84g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、クロロホルムで洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−ジメチルアミノスチリル)ジフェニルスルホンを0.15g(3.6%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0193】
元素分析値(計算値);C:74.29%(75.56%)、H:6.15%(6.34%)、N:4.80%(5.51%)
【0194】
【化30】

【0195】
(製造例19)化合物例A9の製造
4−ジブチルアミノベンズアルデヒド5.0g(21.4mmol)、アニリン2.09g(22.47mmol)をメタノール30ml中混合し、3時間加熱還流した。メタノールを減圧留去後、クロロホルム30mlを加え、水で有機層を洗浄、硫酸マグネシウムにて脱水後、溶媒留去し褐色液体を得た。1H NMRの積分値から目的物の純度は約60%であったため、得られた褐色液体に更にアニリンと硫酸マグネシウムを加え反応し、4−ジブチルアミノベンジリデンアニリンを純度約90%で12.2g(54.5%)得た。
【0196】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン1.5g(6.09mmol)(東京化成社製)、4−ジブチルアミノベンジリデンアニリン4.40g(12.79mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.37g(12.18mmol)存在下、室温にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をクロロホルム150mlにて抽出、水300mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで脱水、溶媒留去し3.6gの茶色液体を得た。得られた液体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、熱エタノールから再結晶を行い、下記式で示される4,4'−ビス(4−ジブチルアミノスチリル)ジフェニルスルホンを0.40g(9.7%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:78.08%(78.06%)、H:8.79%(8.34%)、N:3.89%(4.14%)
【0197】
【化31】

【0198】
(製造例20)化合物例A21の製造
2−t−ブチルチオベンズアルデヒド9.0g(46.3mmol)、アニリン4.53g(48.62mmol)、硫酸マグネシウム1.0gを混合し3h加熱撹拌した。反応混合物にクロロホルムを加えろ過したのち、クロロホルムを減圧留去した。得られた固体に10%メタノール水溶液100mlを加えたのち、氷浴上にて2h攪拌し、析出物をろ取、洗浄、乾燥し2−t−ブチルチオベンジリデンアニリンを9.71g(77.9%)得た。
【0199】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、2−t−ブチルチオベンジリデンアニリン4.61g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて0.5時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し5.7gの茶色固体を得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルム/ヘキサンの混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、メタノール100mlで洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(2−t−ブチルチオスチリル)ジフェニルスルホンを2.85g(58.6%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:72.02%(72.20%)、H:6.27%(6.40%)
【0200】
【化32】

【0201】
(製造例21)化合物例A12の製造
【0202】
4−エチルチオベンズアルデヒド10.0g(60.2mmol)、アニリン5.89g(63.21mmol)をメタノール50ml中混合し、3時間加熱還流した。反応溶液にメタノール20ml、水20mlを加え撹拌後、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、4−エチルチオベンジリデンアニリンを13.20g(90.8%)得た。
【0203】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−エチルチオベンジリデンアニリン4.13g(17.05mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド1.82g(16.24mmol)存在下、室温にて0.5時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し4.7gの黄色固体を得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルム/ヘキサンの混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルム50mlで洗浄、乾燥し、下記式で示される4,4'−ビス(4−エチルチオスチリル)ジフェニルスルホンを0.04g(0.9%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:69.78%(70.81%)、H:5.45%(5.57%)
【0204】
【化33】

【0205】
ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の製造
(製造例22)化合物例A26の製造
【0206】
4−ヒドロキシベンズアルデヒド20.0g(164mmol)、アニリン5.78g(172mmol)をメタノール200ml中混合、3時間加熱還流させ、4−ヒドロキシベンジリデンアニリンを得た。
【0207】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ヒドロキシベンジリデンアニリン3.37g(17.09mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド3.64g(32.48mmol)存在下、室温にて1.0時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体を展開溶媒としてテトラヒドロフラン/ヘキサンの混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルムで洗浄、乾燥し、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホンを得た。
【0208】
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン2.0g(5.71mmol)、1−ブロモブタン1.56g(11.42mmol)をジメチルホルムアミド30ml中、炭酸カリウム1.57g(11.42mmol)存在下、室温にて15時間反応させた。水100mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム20mlに溶解、メタノール80mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ブトキシスチリル)−4'−メチルジフェニルスルホンを1.89g(81.5%)得た。
【0209】
窒素雰囲気下、4−(4−ブトキシスチリル)−4’−(メチル)ジフェニルスルホン1.54g(3.80mmol)、4−ジエチルアミノベンジリデンアニリン1.05g(4.18mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド2.25g(19.00mmol)存在下、90℃にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し、再度クロロホルム20mlに溶解、メタノール30mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、0.55gの黄色粉体を得た。得られた粉体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ブトキシスチリル)−4'−(4−ジエチルアミノスチリル)ジフェニルスルホンを55mg(2.6%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0210】
元素分析値(計算値);C:76.29%(76.42%)、H:7.12%(6.95%)、N:2.11%(2.48%)、S:6.09%(5.67%)
【0211】
【化34】

【0212】
(製造例23)化合物例A27の製造
【0213】
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン6.0g(17.12mmol)、1−ブロモオクタン6.60g(34.16mmol)をジメチルホルムアミド40ml中、炭酸カリウム5.73g(41.46mmol)存在下、室温にて15時間、50℃にて3時間反応させた。水150mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム40mlに溶解、メタノール60mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、4−(4−オクチルオキシスチリル)−4'−メチルジフェニルスルホンを6.67g(84.3%)得た。
【0214】
窒素雰囲気下、4−(4−オクチルオキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン2.31g(5.00mmol)、4−ジメチルアミノベンジリデンアニリン1.35g(6.00mmol)をジメチルホルムアミド80ml中、カリウムt−ブトキシド1.24g(11.00mmol)存在下、30℃にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し、2.9gの黄色固体を得た。得られた固体をジメチルホルムアミド100mlに投入し0.5時間撹拌後、ろ過、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−オクチルオキシスチリル)−4'−(4−ジメチルアミノスチリル)ジフェニルスルホンを1.61g(54.2%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0215】
元素分析値(計算値);C:77.28%(76.86%)、H:7.28%(7.30%)、N:2.55%(2.36%)
【0216】
【化35】

【0217】
(製造例24)化合物例A28の製造
【0218】
窒素雰囲気下、4−(4−オクチルオキシスチリル)−4’−(メチル)ジフェニルスルホン2.00g(4.32mmol)、2−トリフルオロメチルベンジリデンアニリン1.18g(4.73mmol)をジメチルホルムアミド80ml中、カリウムt−ブトキシド0.97g(8.46mmol)存在下、30℃にて1時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し、2.3gの黄色固体を得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、再度クロロホルム15mlに溶解、メタノール30mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、0.6gの乳白色固体を得た。得られた固体をクロロホルムに10mlに溶解後、エタノール200mlで抽出、溶媒を留去し、下記式で示される4−(4−オクチルオキシスチリル)−4'−(2−トリフルオロメチルスチリル)ジフェニルスルホンを30mg(1.1%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0219】
元素分析値(計算値);C:70.98%(71.82%)、H:6.24%(6.03%)
【0220】
【化36】

【0221】
(製造例25)化合物例A29の製造
【0222】
バニリン76.08g(0.50mol)、アニリン48.89g(0.525mol)をメタノール400ml中混合、4時間加熱還流させ、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジリデンアニリンを107.2g(94.3%)得た。
【0223】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.46g(10.00mmol)(東京化成社製)、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジリデンアニリン2.27g(10.00mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド2.24g(20.00mmol)存在下、70℃にて1.5時間反応させた。反応溶液を氷水60ml中に滴下し、塩酸を加えpH<4に調整後、析出物をろ過、洗浄、乾燥し黄土色固体を3.2g得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、メタノール20mlで洗浄、乾燥し、4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4’−(メチル)ジフェニルスルホンを0.29g(7.6%)得た
【0224】
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン1.00g(2.63mmol)、4−ジエチルアミノベンジリデンアニリン1.05g(2.63mmol)をジメチルホルムアミド30ml中、カリウムt−ブトキシド2.70g(23.67mmol)存在下、90℃にて4時間撹拌した。反応溶液を氷水200mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し、1.7gの黄土色固体を得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4'−(4−ジエチルアミノスチリル)ジフェニルスルホンを0.16g(11.3%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0225】
元素分析値(計算値);C:72.51%(73.44%)、H:6.34%(6.16%)、N:2.60%(2.60%)、S:5.95%(5.94%)
【0226】
【化37】

【0227】
(製造例26)化合物例A30の製造
【0228】
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン1.35g(3.56mmol)、4−ブトキシベンジリデンアニリン1.08g(4.27mmol)をジメチルホルムアミド20ml中、カリウムt−ブトキシド2.80g(24.95mmol)存在下、室温にて1時間、50℃にて4時間撹拌した。反応溶液を氷水200mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥し、1.9gの黄土色固体を得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム15mlに溶解、メタノール25mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4'−(4−ブトキシスチリル)ジフェニルスルホンを0.96g(50.0%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0229】
元素分析値(計算値);C:73.57%(73.31%)、H:6.17%(5.97%)、S:5.92%(5.93%)
【0230】
【化38】

【0231】
(製造例27)化合物例A31の製造
【0232】
4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4'−(4−ブトキシスチリル)ジフェニルスルホンを0.15g(0.277mmol)、1−ブロモオクタン0.107g(0.554mmol)をジメチルホルムアミド5ml中、炭酸カリウム0.077g(0.554mmol)存在下、室温にて0.5時間、50℃にて5.5時間反応させた。水20mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−オクチルオキシスチリル)−4'−(4−ブトキシスチリル)ジフェニルスルホンを0.17g(95.0%)得た。元素分析値は以下の通りである。
【0233】
元素分析値(計算値);C:75.17%(75.43%)、H:7.76%(7.41%)、S;5.27%(4.91%)
【0234】
【化39】

【0235】
屈折率測定
測定試料の屈折率はアッベ屈折計(アタゴ社製、DR−A1)にて室温24℃にて測定した。それぞれの溶液の屈折率は、クロロホルム、1.0N硫酸溶液、0.1N水酸化ナトリウム溶液等溶媒のみの屈折率で近似した。各試料について3度測定しその平均値を屈折率として用いた。
【0236】
吸光度測定
一光子吸収スペクトルは、島津製作所製紫外可視分光光度計UV−1700を用いて測定した。ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子吸収波長及びモル吸光係数の結果を表5、ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子吸収波長及びモル吸光係数の結果を表6、また、本発明の対象外のヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体を比較化合物として一光子吸収波長及びモル吸光係数の結果を表7に示した。
【0237】
(ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子吸収波長及びモル吸光係数)
【0238】
【表5】

【0239】
(ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子吸収波長及びモル吸光係数)
【0240】

【表6】

【0241】
ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体(比較化合物)の製造
測定に用いた比較化合物の構造と製造方法は、以下のとおりである。
【0242】
比較化合物1
4−ヒドロキシベンズアルデヒド20.0g(164mmol)、アニリン5.78g(172mmol)をメタノール200ml中混合し、3時間加熱還流させ、4−ヒドロキシベンジリデンアニリンを30.4g(94.1%)得た。
【0243】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.0g(8.12mmol)(東京化成社製)、4−ヒドロキシベンジリデンアニリン3.37g(17.09mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド3.64g(32.48mmol)存在下、室温にて1.0時間撹拌した。反応溶液を氷水300mlに滴下し塩酸にてpH<4に調整した。析出物をろ取、洗浄、乾燥した。得られた固体を展開溶媒としてテトラヒドロフラン/ヘキサンの混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、クロロホルムで洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホンを0.10g(3.5%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:71.88%(71.98%)、H:5.36%(5.18%)、S:9.37%(9.15%)
【0244】
【化40】

【0245】
比較化合物2
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン2.0g(5.71mmol)、1−ブロモブタン1.56g(11.42mmol)をジメチルホルムアミド30ml中、炭酸カリウム1.57g(11.42mmol)存在下、室温にて15時間反応させた。水100mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム20mlに溶解、メタノール80mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ブトキシスチリル)−4'−メチルジフェニルスルホンを1.89g(81.5%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:73.92%(73.86%)、H:6.36%(6.45%)
【0246】
【化41】

【0247】
比較化合物3
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン6.0g(17.12mmol)、1−ブロモオクタン6.60g(34.16mmol)をジメチルホルムアミド40ml中、炭酸カリウム5.73g(41.46mmol)存在下、室温にて15時間、50℃にて3時間反応させた。水150mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム40mlに溶解、メタノール60mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−オクチルオキシスチリル)−4'−メチルジフェニルスルホンを6.67g(84.3%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:75.01%(75.29%)、H:7.66%(7.41%)、N;7.39%(6.93%)
【0248】
【化42】

【0249】
比較化合物4
窒素雰囲気下、4−(4−ヒドロキシスチリル)−4’−メチルジフェニルスルホン3.30g(9.42mmol)、1−ブロモ−2−エチルヘキサン3.64g(18.84mmol)をジメチルホルムアミド30ml中、炭酸カリウム3.90g(28.26mmol)存在下、室温にて15時間、60℃にて6時間反応させた。水150mlを加えた後、析出物をろ取、洗浄、乾燥後、再度クロロホルム20mlに溶解、メタノール40mlを加え、析出物をろ取、洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−(2−エチルヘキシロキシ)スチリル)−4'−メチルジフェニルスルホンを3.31g(71.3%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:75.04%(75.29%)、H:7.26%(7.41%)
【0250】
【化43】

【0251】
比較化合物5
バニリン76.08g(0.50mol)、アニリン48.89g(0.525mol)をメタノール400ml中混合、4時間加熱還流させ、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジリデンアニリンを107.2g(94.3%)得た。
【0252】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン2.46g(10.00mmol)(東京化成社製)、4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジリデンアニリン2.27g(10.00mmol)をジメチルホルムアミド60ml中、カリウムt−ブトキシド2.24g(20.00mmol)存在下、70℃にて1.5時間反応させた。反応溶液を氷水60ml中に滴下し、塩酸を加えpH<4に調整後、析出物をろ過、洗浄、乾燥し黄土色固体を3.2g得た。得られた固体を展開溶媒としてクロロホルムを用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、メタノール20mlで洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチリル)−4’−(メチル)ジフェニルスルホンを0.29g(7.6%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:69.63%(69.45%)、H:5.34%(5.30%)、S:8.72%(8.43%)
【0253】
【化44】

【0254】
比較化合物6
3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)ベンズアルデヒド5.00g(22.51mmol)、アニリン2.20g(23.62mmol)、硫酸マグネシウム1.0gを混合、3時間加熱撹拌した。反応液をヘキサン20mlにあけ、ろ過により硫酸マグネシウムを除去、水で有機層を洗浄、硫酸マグネシウムにて脱水後、溶媒留去し3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)ベンジリデンアニリンを5.50g(82.2%)得た。
【0255】
窒素雰囲気下、p−トリルスルホン1.20g(4.87mmol)(東京化成社製)、3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)ベンジリデンアニリン3.04g(10.23mmol)をジメチルホルムアミド30ml中、カリウムt−ブトキシド6.60g(58.82mmol)存在下、50℃にて2時間、100℃にて2時間反応させた。反応溶液を氷水60ml中に滴下し、塩酸を加えpH<4に調整後、析出物をろ過、洗浄後、クロロホルム100mlに溶解、希塩酸で有機層を洗浄、硫酸マグネシウムにて脱水後、溶媒留去し茶色液体を得た。得られた液体を展開溶媒としてクロロホルム/ヘキサン混合溶媒を用い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに付した。目的物を分取し溶媒を留去後、メタノールで洗浄、乾燥し、下記式で示される4−(3−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)スチリル)−4’−(メチル)ジフェニルスルホンを90mg(4.1%)得た。元素分析値は以下の通りである。
元素分析値(計算値);C:61.26%(61.33%)、H:3.82%(4.03%)
【0256】
【化45】

【0257】
(ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子吸収波長及びモル吸光係数)
【0258】
【表7】

【0259】
蛍光スペクトル及び蛍光量子収率測定
一光子蛍光スペクトルは、島津製作所製蛍光分光光度計RF5300−PCを用いて測定した。蛍光標準物質としては、W.H.Melhuish,J.Opt.Soc.Am.,1964,54,183.記載の、希薄溶液における励起波長313nm及び366nmでの量子収率が0.55である硫酸キニーネの1.0N硫酸溶液を用いた。蛍光スペクトルは分光器の補正関数を用いることで補正し、得られた補正スペクトルを用いて、相対蛍光量子収率を算出した。全ての試料溶液は空気飽和状態で用いた。結果を表8に示した。
【0260】
(ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子蛍光波長及び量子収率)
【0261】
【表8】

【0262】
(ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子蛍光波長及び量子収率)
【0263】
【表9】

【0264】
(ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体の一光子蛍光波長及び量子収率)
【0265】
【表10】

【0266】
二光子吸収断面積の評価
本発明の二光子吸収化合物の二光子吸収断面積の評価は、蛍光法を用いて行った。
【0267】
二光子吸収断面積の蛍光法による評価は、M.A.Albota et al.,Appl.Opt.1998,37,7352.記載の方法を参考に行った。この測定法は、非共鳴二光子吸収が起こることにより誘起された励起状態からの発光の強度を、基準物質と被測定物質との間で比較する方法である。この測定方法は、二光子発光を起こす化合物でなければ測定できないが、他の方法に比べて簡便であり、かつ比較的正確な値が得られるという特徴を有する。
二光子吸収断面積測定用の光源として、Ti:sapphire パルスレーザー(パルス幅:<100fs、繰り返し周波数:80MHz±1MHz)を用いて、690nmから960nmの波長範囲で二光子吸収断面積を測定した。励起光強度は1/2波長板及び偏光ビームスプリッターにて調節し、対物レンズ及びブランク溶液を透過したビームを集光しパワーメーターにて測定した。測定に用いたキュベットは光路長1mmの蛍光用石英セル、集光レンズはN.A.=0.45の対物レンズを用いた。
試料から発生した蛍光は全方向に放射されるが、対物レンズに入射した前面蛍光を45°コールドミラーを用いることで励起光と分離した後、分光器と接続した光ファイバ端にレンズにて集光することでスペクトルを得た。蛍光強度の励起光強度2乗依存性は5〜30mWの範囲内で確認した。分光器の分光感度補正は測定試料位置から色温度3000Kのタングステンハロゲン光を対物レンズに入射させ、レンズ・ミラー・光ファイバを含む蛍光観測光学系全体で行った。二光子吸収断面積の評価は、フルオレセインを標準物質として用いて測定した。フルオレセインの二光子吸収断面積に文献記載の値を適用し、フルオレセインと各化合物の二光子蛍光強度の比較により算出した。二光子吸収断面積の算出には屈折率、蛍光量子収率の値も用いた。
二光子吸収測定用の試料には、0.5〜1×10-4Mの濃度でクロロホルムに化合物を溶かした溶液を用いた。フルオレセインの二光子吸収断面積測定は、0.0145mMの濃度で0.1N水酸化ナトリウム溶液に溶かした溶液を用いた。
【0268】
下記式を用いて、二光子吸収断面積を算出した。
【0269】
【数1】

η:蛍光量子収率
σ(λ):二光子吸収断面積
φst:標準物質の蛍光捕集効率
ηst:標準物質の蛍光量子収率
σst(λ):標準物質の二光子吸収断面積
Cst:標準物質の濃度
<Pst>:標準物質の平均レーザーパワー
<F>:平均蛍光強度
nst:標準物質の屈折率
φ:蛍光捕集効率
C:濃度
<P>:平均レーザーパワー
<Fst>:標準物質の平均蛍光強度
【0270】
(ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積)
【0271】
【表11】

【0272】
(ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積)
【0273】
【表12】

【0274】
(ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積)
【0275】
【表13】

【0276】
二光子重合閾値の評価
単官能モノマーと二光子吸収性材料のみを用いた二光子重合の例を示す。
【0277】
実施例1
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
ジメチルアクリルアミド 100質量部
化合物例A8 0.1質量部
【0278】
上記光硬化性樹脂組成物はディスポーサブルフィルター(アドバンテック社製 DISMIC PTFE 孔径0.5μm)にてろ過したものを評価用樹脂組成物とした。重合用試料は上記樹脂組成物を特開2010−065083号公報記載の方法にてスライドガラスーカバーガラス間に注入した。ポリイミドフィルムの厚さは25μmのものを用いた。
【0279】
二光子重合装置は、特開2010−065083号公報の記載に従い、類似光学装置を作製した。オリンパス社製落射蛍光投光管BX−RFA背面からレーザー光(700nmまたは800nm)を入射させ、ダイクロイックミラーにてレーザー光を45°反射させたのち、対物レンズPlanFl100X(倍率100倍、開口数NA=0.95)より重合用試料に向け照射される。重合用試料はレーザーの集光点を調節するため、XYZ3軸駆動の自動ステージ上に固定され、ステージの走査により任意の3次元的硬化物を得ることができる。また、ダイクロイックミラーに対して重合用試料と反対側には二光子励起により得られる蛍光を観測するため、ショートパスフィルタ及びCCDカメラを、重合用試料-ダイクロイックミラー-CCDカメラが一直線に並ぶよう設置した。樹脂硬化物の有無はオリンパス製対物レンズUPlanSApo20Xを用いて判断した。試料に照射するレーザー光の強度は、対物レンズ直前の光強度を参考値とした。対物レンズの透過率は、波長700nmでは85%であり、波長800nmでは55%であった。対物レンズ直前の光強度とモニター位置での光強度は波長分散性が異なるが、予め両者の関係を調べ補正した。樹脂に対する焦点位置の移動速度は視認性のよい硬化物が得られるよう適宜調節した。
【0280】
比較例1
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
ジメチルアクリルアミド 100質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0281】
実施例2
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
アクリロイルモルホリン 100質量部
化合物例A2 0.05質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0282】
比較例2
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
アクリロイルモルホリン 100質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0283】
単官能モノマー、多官能モノマー及び二光子吸収性材料を用いた二光子重合の例を示す。
【0284】
実施例3
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
ジメチルアクリルアミド 20質量部
イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート 80質量部
化合物例A8 0.1質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0285】
比較例3
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
ジメチルアクリルアミド 20質量部
イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレート 80質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0286】
実施例4
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
アクリロイルモルホリン 80質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 20質量部
化合物例A2 0.04質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0287】
比較例4
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
アクリロイルモルホリン 80質量部
ペンタエリスリトールテトラアクリレート 20質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0288】
実施例5
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
n−ブチルアクリレート 60質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 40質量部
化合物例A5 0.04質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0289】
比較例5
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
n−ブチルアクリレート 60質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 40質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0290】
実施例6
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
テトラヒドロフルフリルアクリレート 60質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 40質量部
化合物例A22 0.1質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0291】
比較例6
光硬化性樹脂組成物を下記にて調製した。
テトラヒドロフルフリルアクリレート 60質量部
トリメチロールプロパントリアクリレート 40質量部
この組成物を実施例1と同様の操作を行い、二光子重合を行った。
【0292】
二光子重合測定
調製した光硬化性樹脂組成物を2枚のガラス間に注入し、レーザーの焦点を組成物に当てながら試料ステージを操作することで、光硬化性樹脂組成物の内部に樹脂硬化物を作製した。樹脂硬化物の生成の有無は、20倍の対物レンズ越しに目視にて判定した。結果を以下の表に示す。
【0293】
【表14】

【0294】
屈折率測定
クロロホルム溶液は1.443、0.1N水酸化ナトリウム溶液は1.334、1.0N硫酸溶液は1.339であった。
【0295】
吸光度測定
アルキルアミノ基を有する化合物例A7、化合物例A8、化合物例A9については、吸収極大波長が約400nmであった。無置換の、またはアルキル基、アルコキシ基またはアルキルチオ基を有する、化合物例A1、化合物例A2、化合物例A3、化合物例A5、化合物例A6、化合物例A16、化合物例A19、化合物例A20、化合物例A17、化合物例A18、化合物例A11、化合物例A12、化合物例A21については、吸収極大波長が約360nm以下であった。
【0296】
蛍光スペクトル及び蛍光量子収率測定
ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の蛍光スペクトル及び蛍光量子収率測定の結果を表8に示し、ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の蛍光スペクトル及び蛍光量子収率測定の結果を表9に示し、ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体の蛍光スペクトル及び蛍光量子収率測定の結果を表10に示した。
【0297】
二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積
ジアルキルアミノ基を有する化合物例A7、化合物例A8、化合物例A9については、レーザー波長領域にて二光子吸収性材料を二光子励起することで二光子吸収極大波長を見積もることが出来た。これらの二光子吸収断面積は、標準物質であるフルオレセインの二光子吸収極大波長での二光子吸収断面積よりも十分大きな値であった。
【0298】
無置換の、またはアルキル基、アルコキシ基またはアルキルチオ基を有する、化合物例A1、化合物例A2、化合物例A3、化合物例A5、化合物例A6、化合物例A16、化合物例A19、化合物例A20、化合物例A18、化合物例A17、化合物例A11、化合物例A12、化合物例A21については、一光子吸収帯が短波長にあるため励起レーザー波長領域にて二光子吸収極大波長を見積もることはできなかった。しかし、700nm近傍の二光子吸収断面積でフルオレセインの二光子吸収極大波長での二光子吸収断面積と同等以上であった。
【0299】
また、ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積の結果を11、ヘテロ二置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積の結果を表12、ヘテロ一置換ジフェニルスルホン誘導体の二光子励起極大波長及び二光子吸収断面積の結果を表13に示した。
【0300】
ホモ二置換ジフェニルスルホン誘導体において、ジアルキルアミノ基の付与した化合物では、炭素数がC1よりもC2以上の置換基の方が、二光子吸収断面積が大きかった。アルコキシ基の付与した化合物では、C1よりもC4の方が、二光子吸収断面積が大きかったが、C8ではC1と同程度となった。アルキルチオ基では、C1よりC2のほうが小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0301】
本発明による二光子吸収性材料は、高い二光子吸収断面積を有しているため、光硬化性樹脂組成物、発光材料、光記録材料、顕微鏡用蛍光色素材料、光制限材料等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジフェニルスルホン誘導体を含有する二光子吸収性材料。
【化1】


[式中、mは1または2を示し、nは1または2を示し、
〜R、R〜R10はそれぞれ、同一または異なっていてもよく、水素、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)を示すか、或いは、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びRが一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよく、R及びR、R及びR、R及びR、またはR及びR10が一緒になって5〜7員環の縮合環を形成してよい。]
【請求項2】
前記置換基R及びRのうち少なくとも1つが、アルキル基、アルコキシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基、−NHCOR(但しR’はアルキル基を示す)から選ばれる電子供与性置換基である、請求項1記載の二光子吸収性材料。
【請求項3】
前記置換基R及びRが、同一の、アルキル基、アルコキシル基、ジアルキルアミノ基、アルキルチオ基、フェニル基から選ばれる電子供与性置換基である、請求項1または2記載の二光子吸収性材料。
【請求項4】
前記置換基R及びRの少なくとも1つがジアルキルアミノ基である、請求項1〜3のいずれかに記載の二光子吸収性材料。
【請求項5】
前記置換基R及びRが共にジアルキルアミノ基である、請求項1〜4のいずれかに記載の二光子吸収性材料。
【請求項6】
前記モノアルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基を構成するアルキル基が炭素数2〜6のアルキル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の二光子吸収性材料。
【請求項7】
前記置換基R、R、R、R及びR、R、R、R10が水素である、請求項1〜6のいずれかに記載の二光子吸収性材料。
【請求項8】
前記ジフェニルスルホン誘導体の250−800nmにおける極大波長のモル吸光係数が55000mol−1dmcm−1以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の二光子吸収性材料。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の二光子吸収性材料を含有する光硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の二光子吸収性材料を含有する発光材料。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の二光子吸収性材料を含有する光記録材料。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の二光子吸収性材料を含有する顕微鏡用蛍光色素材料。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載の二光子吸収性材料を含有する光制限材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−137549(P2012−137549A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288580(P2010−288580)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000103895)オリヱント化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】