二分子層
二分子層を生成するための方法であって、この方法は:(a)疎水性媒体中に浸漬された水和支持体および親水性体を提供するステップであって;ここで両親媒性分子の第一の単分子層が疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成され、両親媒性分子の第二の単分子層が、疎水性媒体と水和した支持体との間の界面上で形成されるステップと;(b)この第一の単分子層と第二の単分子層と接触させて両親媒性分子の二分子層を形成するステップであって、ここで細胞膜構成要素を含む細胞膜の少なくとも一部が、水和支持体の中もしくは上に、および/または親水性体中に提供され、その結果、この細胞膜の構成要素がこの二分子層形成の間または後にこの二分子層に組み込まれるステップと、を包含する。本発明の方法によって生成される二分子層および二分子層の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二分子層、例えば、脂質二分子層に、二分子層を生成する方法に、および二分子層の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的な平面の脂質二分子層は、生物学的な膜の単純化されたモデルとして役立ち、イオンチャネルおよびタンパク質細孔の電気的な特徴づけのために広範に用いられる(ミューラー・ピー(Mueller,P.)ら、ネイチャー(Nature)1962年19A、p979−980;ホワイト・エス・エイチ(White,S.H.)1986年.編集、ミラー・シー(Miller,C.)プレナム・プレス(Plenum Press):ニュー・ヨーク(New York)。
【0003】
パッチクランプもまた、生物学的な膜を研究するために用いられ、例えば、パッチクランプはシングルチャネルレコーディング(single channel recording)(SCR)に用いられる場合が多い(ザクマン・ビー(Sakmann,B.)およびネーアー・イー(Neher,E.)、アニュアル・レビュー・オブ・フィジオロジー(Annual Review of Physiology)1984年 46,p455〜472)。用いられる他の方法としては、切り取りパッチ(excised−patch)、チップ・ディップ(tip−dip)およびオンチップ(on−chip)の方法が挙げられる。
【0004】
細胞全体(ホールセル)のパッチクランプは、チャネルを検査する多用途で、かつ鋭敏な手段であるが、極めて時間浪費的でかつ困難であり、細胞膜の異種の性質によって煩雑になる場合が多い。対照的に、人工的な平面の脂質二分子層は、この系の構成要素を制御し、かつ精製されたタンパク質を研究するために用いられ得る。
【0005】
平面の脂質二分子層は通常、有機溶媒中の脂質の溶液が2つの水性区画を隔てる開口に直接加えられるペインティングによって(ミューラー・ピー(Mueller,P.)ら、ネイチャー(Nature)1962年19A、p979−980;ホワイト・エス・エイチ(White,S.H.)1986年.編集、ミラー・シー(Miller,C.)プレナム・プレス(Plenum Press):ニュー・ヨーク(New York))、または2つの空気/水の単層が開口を過ぎて隆起されるLangmuir−Blodgett技術の変法(モンタル・エム(Montal,M.)およびミューラー・ピー(Mueller,P.)、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)1972年 69,p3561−3566)によって形成される。広範に用いられるが、平面の脂質二分子層は、調製することが困難であり、それらの寿命が短いせいで、多くの状況において、それらの使用は妨げられる。
【0006】
二分子層を形成するための別のエマルジョンベースのアプローチもまた提唱されており(ソフィーナ・エル・エム(Tsofina,L.M.)ら、ネイチャー(Nature)1966年 212,p681−683)、ここでは二分子層を、油中の脂質の溶液に浸漬した水面の間で作製する。非混和性の脂質/油の溶液中に浸漬される場合、水面は自発的に脂質単分子層を自己アセンブリし(セベク・ジー(Cevc,G.)、ホスホリピッド・ハンドブック(Phospholipids handbook)1993年、編集、セベク・ジー(Cevc,G.),マルセル・デッカー(Marcel Dekker),ニューヨーク(New York);セダン・ジェイ・エム(Seddon,J.M.)およびテンプラー・アール・エイチ(Templer,R.H.)1995年、編集、リポウスキー・アール(Lipowsky,R.)およびサックマン・イー(Sackmann,E.),エスゼビア(Elsevier),アムステルダム(Amsterdam),オックスフォード(Oxford))、そして2つの水性成分由来の単分子層が接触される場合、それらは、一緒に「ジップ(zip)」して、脂質二分子層を形成することができる(チーエン・エイチ・ティー(Tien,H.T.)1974年.エム・デッカー(M.Dekker)、ニューヨーク(New York);フジワラ・エイチ(Fujiwara,H.)ら、ザ・ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジクス(The Journal of Chemical Physics)2003年 119,p6768−6775)。近年の研究では、微小流体の流れ(マルムシュタット・エヌ(Malmstadt,N.)ら、ナノ・レターズ(Nano Letters)2006年 6,p1961−1965;フナコシ・ケー(Funakoshi,K.)ら、アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)2006年 78,p8169−8174)および液滴(フナコシ・ケー(Funakoshi,K.)ら、アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)2006年 78,p8169−8174;ホールデン・エム・エー(Holden,M.A.)ら、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)2007年 p8650−5)を脂質/油の溶液中に接触させて、例えば、シングルチャネルレコーディング実験中で、適切な二分子層を作製し得ることが示された。
【0007】
さらに近年では、以前の特許出願、すなわち、国際公開第WO2009024775号パンフレットは、水和支持体(例えば、ヒドロゲル)および親水性体(例えば、水滴)を、油中脂質型(lipid−in−oil)溶液中に浸漬して、水和支持体と親水性体との間の安定な人工二分子層の形成を生じることによる、人工的な脂質二分子層の形成を記載している。このような二分子層は、二分子層に挿入された界面活性剤可溶化タンパク質の研究のために用いられ得る。しかし、このせいで、首尾よく研究され得る種々のタンパク質は限定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、二分子層における膜構成要素の分析および研究を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の局面によれば、二分子層を生成するための方法が提供され、この方法は以下:
(a)疎水性媒体に浸漬された水和された支持体(水和支持体)および親水性体を提供するステップであって;
両親媒性分子の第一の単分子層が、疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成され、両親媒性分子の第二の単分子層が疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成される、ステップと;
(b)第一の単分子層を第二の単分子層と接触させて、両親媒性分子の二分子層を形成するステップであって、
細胞膜構成要素を含む、細胞膜の少なくとも一部が、水和支持体の中、および/または上で、ならびに/あるいは親水性体中で提供され、
その結果細胞膜の構成要素が、二分子層形成の間または後に二分子層に組み込まれるステップと、を包含する。
【0010】
驚くべきことに、水性の構成要素(水和支持体および/または疎水性体)を細胞膜に組み込むことによって、細胞膜の構成要素の少なくともいくつかを組み込んでいる二分子層が得られる。従って、任意の膜、または目的の膜タンパク質は、細胞膜のフラグメント由来もしくは全体的なインタクトな細胞膜由来、または精製された真核生物膜構成要素由来の二分子層に容易に再構成され得る。これによって、このような膜タンパク質の、例えば、電気的レコーディングまたは蛍光顕微鏡による、直接的なインビトロの特徴づけが可能になる。これは、細胞膜から直接ではなく、既存の二分子層に対する精製された膜タンパク質またはタンパクリポソームの組み込みに一般的に関与する、先行技術の技術とは対照的である。
【0011】
従って、本発明の方法は、両親媒性分子の二分子層を自発的に形成するだけでなく、水和支持体および/または親水性体由来の細胞膜構成要素も自発的に組み込む。
【0012】
本発明は、膜構成要素が研究のために二分子層に容易に組み込まれ、かつ必要なサンプルの準備は最小であるという利点を提供する。例えば、任意の膜タンパク質を、本発明の方法を用いて二分子層に再構成してもよい。詳細には、この技術によって、膜調製物由来の真核生物膜タンパク質が二分子層に再構成されることが可能になる。
【0013】
今まで、真核生物細胞膜構成要素は、人工の二分子層に組み込まれている。しかし、これらの実験は、標的タンパク質の長期にわたる界面活性剤に基づく精製およびタンパクリポソーム中への再構成、および/または二分子層とのタンパクリポソームの融合を必要とする。これらのステップの各々は困難である。従って、この方法は、このような真核生物膜が人工的な二分子層に容易に組み込まれることを可能にすることが特に有益である。真核生物膜タンパク質および他の膜構成要素の直接的な再構成によって、真核生物の膜タンパク質機能のインビトロ研究、および先行技術では以前には不可能であった、タンパク質以外の膜構成要素の研究が可能になる。
【0014】
使用の容易さによって、細胞膜タンパク質および他の膜構成要素を研究するための従来の方法よりもハイスループット(高処理能力)のかなり大きい能力が得られる。
【0015】
この方法の別の利点は、極めて効率的な再構成に起因して、極めてわずかな細胞物質しか必要としない、例えば、1つの二分子層あたり1つ未満の細胞を要し得るということである。発現が低レベルである膜タンパク質を用いて、目的の膜タンパク質を安定に発現するための十分に開発された細胞株の必要性を回避してもよい(例えば、細胞全体(ホールセル)パッチクランプにおいてのように)。さらに、生きた細胞を必要とせず、将来の使用のための膜タンパク質サンプル(膜物質)の長期貯蔵が可能になる。
【0016】
本発明は、直接的な単一分子測定または天然の細胞膜構成要素のバルク測定の利点を提供し、これによって目的の分子が結合する機構的洞察が可能になる。
【0017】
有利には、細胞膜構成要素を、それらの天然の脂質環境以外のサーファクタントまたは界面活性剤中で研究のために調製する必要はない。例えば、膜タンパク質再構成のための規定のタンパクリポソーム(タンパク質含有の脂質小胞)の事前の調製は必要としない。
【0018】
有利には、本発明は、細胞膜構成要素、例えば、膜タンパク質の研究を可能にし、ここではこのタンパク質の機能的な発現、真核生物の発現系における翻訳後修飾、および界面活性剤精製の必要性がないことによって、タンパク質機能の維持が可能になる。
【0019】
二分子層への目的の膜タンパク質の再構成は、活性の変化を生じないと考えられる。膜タンパク質のサイトゾル(細胞質)タンパク質ドメインは、強調された再構成手順を通じて水性環境で維持される。
【0020】
さらに、タンパク質は、界面活性剤精製のプロトコールとは対照的に、その天然の脂質包埋環境から除去されることはなく、ここでは天然の挙動は、疎水性膜貫通ドメインまたは親水性ドメインのいずれかのタンパク質変性に起因して失われる場合がある。
【0021】
膜タンパク質のような目的の膜構成要素を含む、真核生物膜または膜フラグメントの直接の再構成によって、細菌中の異種タンパク質発現が、発現系から人工的な脂質二分子層への移動のために十分な量のタンパク質を必要とするという認識されることの多い概念は、回避される。真核生物細胞株における発現によって、例えば、真核生物膜タンパク質の正確な折り畳み、オリゴマー化および機能についての要件であることが示されている、翻訳後修飾を行うことが可能になる。
【0022】
二分子層を形成するための両親媒性分子の単分子層の接触に関連して本明細書で用いる「接触」または「接触する」という用語は、別々の両親媒性分子の単分子層から両親媒性分子の二分子層のアセンブリを可能にする、現実的な物理的接触および/または十分な近接性を意味することが理解される。
【0023】
「浸漬された」または「浸漬する」について言及する場合、この浸漬とは、部分的な浸漬であってもまたは完全な浸漬であってもよい。
【0024】
「膜タンパク質」について言及する場合、この用語は、膜貫通タンパク質、内在性膜タンパク質、および末梢膜タンパク質、ならびに、膜結合タンパク質または膜固着タンパク質を包含する。この膜タンパク質は、任意の生物体由来および任意の膜由来であってもよい。
【0025】
細胞膜構成要素は、細胞膜、例としては、細胞内膜、例えば、細胞下のオルガネラおよびウイルス膜などの上でまたは中で典型的には見いだされる、脂質、ペプチド、タンパク質および糖のような任意の構成要素を含んでもよい。
【0026】
「精製された膜構成要素」とは、界面活性剤または人工脂質を用いて精製された膜結合タンパク質を包含し得る。
【0027】
ステップ(a)では、疎水性媒体に浸漬された、水和支持体および親水性体が提供されるべきであり、ここでは、両親媒性分子の第一の単分子層が、疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成され、かつ両親媒性分子の第二の単分子層が、疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される。
【0028】
両親媒性分子の第一の単分子層は、親水性体上および/または疎水性媒体中の両親媒性分子の供給に起因して疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成される場合がある。
【0029】
両親媒性分子の第二の単分子層は、水和支持体上および/または疎水性媒体中での両親媒性分子の提供に起因して疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される場合がある。
【0030】
一実施形態では、両親媒性分子が、疎水性媒体中で提供される。
【0031】
両親媒性分子の第一および第二の単分子層は、水和支持体および親水性体上で、各々が両親媒性分子を含む疎水性媒体中に置かれる場合、連続的に自己アセンブルし得る。
【0032】
別の実施形態では、両親媒性分子が、親水性体上におよび/または水和支持体上に提供される。
【0033】
両親媒性分子の第一および第二の単分子層は、水和支持体および親水性体上から、各々が疎水性媒体中に置かれる場合、連続的に自己アセンブルし得る。
【0034】
両親媒性分子の提供は、疎水性媒体中に水和支持体および/または親水性体を浸漬する前であっても後であってもよい。
【0035】
例えば、水和支持体および親水性体は、両親媒性分子が疎水性媒体上に添加される前に疎水性媒体に添加されてもまたは後に疎水性媒体に添加されてもよい。好ましい実施形態では、両親媒性分子を、水和支持体および親水性体が疎水性媒体中に浸漬される前に疎水性媒体に添加する。
【0036】
水和支持体および親水性体は、疎水性媒体に任意の順序で浸漬されてもよい。好ましい実施形態では、水和支持体は、親水性体が疎水性媒体に浸漬される前に疎水性媒体中に浸漬される。別の実施形態では、水和支持体を、親水性体が疎水性媒体に浸漬されるのと同時に疎水性媒体中に浸漬する。1つの実施形態では、水和支持体を、親水性体が疎水性媒体中に浸漬された後に疎水性媒体中に浸漬する。
【0037】
細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層が形成された後に、水和支持体中に提供されるか、および/または親水性体中に提供される場合がある。あるいは、またはさらに、細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層を形成する前に、水和支持体中にもしくは上に、および/または親水性体の中に提供され得る。従って、この二分子層が最初に形成され、次いで細胞膜と接触させられてもよい。あるいは、細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層の形成と同じ時点で組み込まれてもよい。
【0038】
細胞膜は、疎水性媒体の添加の前に水和支持体の上部に細胞膜を積層することによって提供され得る。細胞膜は、別のオプションとしてまたは添加において、親水性体中に、この親水性体が形成される時に組み込まれてもよいし、または親水性体中に、これが形成された後に注入されてもよい。細胞膜は、別のオプションとしてまたは添加において、水和支持体中に、この支持体が形成される場合組み込まれてもよいし、または水和支持体中に、これが形成された後に注入されてもよい。例えば、水和支持体がヒドロゲルを含む実施形態では、細胞膜は、凝固の前にヒドロゲル中に混合されてもよく、または細胞膜は、凝固後にヒドロゲルの上部に積層されてもよい。水和支持体がガラスまたは同様の固体基質である実施形態では、細胞膜を、ガラスまたは同様の固体基質の上面においてもよい。
【0039】
細胞膜に対する本明細書における全ての言及は、細胞膜構成要素を含む細胞膜を指す。
【0040】
一実施形態では、ステップ(a)は以下を包含する:
・水和支持体を提供するステップと;
・水和支持体の上に細胞膜を積層することによって、あるいは細胞膜が水和支持体中に混合される形態中で水和支持体を提供することによって、細胞膜を提供するステップと;次いで
・両親媒性分子を含む疎水性媒体中に支持体を浸漬して、疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される両親媒性分子の単分子層を生じるステップと;次いで
・疎水性媒体中に親水性体を浸漬し、結果として疎水性媒体と親水性体との間の界面上で両親媒性分子の単分子層を形成するステップと。
【0041】
この実施形態では、水和支持体は好ましくは、アガロースのようなヒドロゲルを含む。親水性体は好ましくは、水滴であり、これは疎水性媒体中にピペッティングされてもよい。疎水性媒体は好ましくは油である。両親媒性分子は好ましくは、油中脂質型溶液として疎水性媒体中で提供される脂質である。細胞膜は好ましくは、ヒドロゲルと混合されてもよいし、または水和支持体上にピペッティングされてもよい水溶液中で提供される、細胞膜フラグメントまたはインタクトな細胞である。
【0042】
細胞膜構成要素は、細胞全体(ホールセル)の細胞の膜として提供されても、または細胞膜のフラグメントとして提供されても、または細胞内の膜調製物として提供されても、またはインタクトもしくは断片化された細胞内オルガネラとして提供されてもよい。細胞膜フラグメントは、細胞の原形質膜由来であっても、または細胞内区画由来であってもよい。細胞膜またはそれらのフラグメントは、粗抽出物として生成されてもよいし、またはそれらは精製されてもよい。
【0043】
細胞膜構成要素は、細胞膜フラグメント由来のリポソームの形態であってもよい。細胞膜構成要素はまた、精製された構成要素由来のリポソームとして提供されてもよく、例えば、界面活性剤可溶化タンパク質および合成脂質が二分子層への組み込みのためにさらに提供されてもよい。
【0044】
外側細胞膜に加えて、またはそれとは別に、細胞内の構造の膜またはオルガネラ、例えば、ミトコンドリア膜および小胞体が、二分子層に組み込まれてもよい。
【0045】
細胞膜は、有益な実施形態では、真核生物性である。上記で注記したとおり、真核生物の膜が、容易かつ直接的に人工の二分子層に組み込まれるということは以前にはなかった。驚くべきことに、本発明は、これを達成する方法を提供する。
【0046】
本発明においては、真核生物の細胞膜は、二分子層に組み込まれ得ることも可能である。本発明では、ウイルスのエンベロープタンパク質のようなウイルスの構成要素が二分子層に組み込まれ得ることも可能である。
【0047】
細胞膜は、初代細胞の直接調製に由来してもよい。細胞膜は、真核生物から回収される組織、例えば臨床に由来する哺乳動物の組織(例えば、心臓組織、脳組織、神経組織、肝臓組織、腎臓組織、血球)由来であってもよい。この組織は、健康な組織または疾患に関与する病理学的な組織(例えば、癌組織、損傷した心組織、血球)を含んでもよい。
【0048】
膜タンパク質、例えば、真核生物膜タンパク質、例としては、オリゴマータンパク質および単一ポリペプチドタンパク質、例えば、イオンチャネル;レセプター;細孔;抗原;酵素;およびトランスポーターを、細胞膜の組み込みを介して二分子層に組み込んでもよい。膜タンパク質は、膜に対して末梢であってもよく、すなわち、ある程度の脂質二分子層のみを浸透してもよいし、または二分子層を貫通して包埋されてもよく、これは、脂質二分子層のモノトピック(monotopic)またはポリトピック(polytopic)な浸透を意味し得る。
【0049】
細胞膜構成要素を含む細胞膜は、膜タンパク質のようなタンパク質を含んでもよい。細胞膜構成要素を含む細胞膜は、1つ以上のイオンチャネルを含んでもよい。哺乳動物細胞などの真核生物由来の細胞膜は、内因性に発現される膜タンパク質および/または組み換え手段によって細胞で発現されるタンパク質、またはウイルス核酸から発現されるタンパク質を含んでもよい。目的のタンパク質は、細胞の原形質膜または細胞内の膜またはオルガネラの膜中で過剰発現され得る。
【0050】
原核生物由来の細胞膜は、組み換え手段によって発現される内因性膜タンパク質または外因性の膜タンパク質、例えば、真核生物膜タンパク質を含んでもよい。
【0051】
ウイルスエンベロープのようなウイルス構成要素由来の細胞膜は、ウイルスタンパク質、あるいはウイルスの宿主細胞由来のタンパク質、または宿主もしくはウイルスのいずれか由来の他の膜構成要素を含んでもよい。
【0052】
細胞膜は、内因性に発現されるか、または組み換え手段によって発現される任意の真核生物細胞株、例えば、任意の哺乳動物細胞株、例えば、HEK293、SupT1、CHO、Jurkat細胞または昆虫細胞、例えば、Sf9、ならびに単一細胞真核生物、例えば、酵母細胞(S.cerevisiaeなど)由来の膜タンパク質を含んでもよい。
【0053】
内因性膜タンパク質の発現レベルは、細胞膜中のタンパク質の量または濃度を上方制御または下方制御するように調節され得る。タンパク質の発現は、特定の増殖条件下で細胞培養物を調製することによって、または遺伝子発現レベルを調節する因子の添加を通じて調節され得る。タンパク質の発現は、細胞環境、例えば、温度または環境のガスもしくは化学物質の濃度の操作によって調節され得る。
【0054】
細胞膜構成要素は、インタクトな細胞全体(ホールセル)の膜から直接組み込まれ得る。
【0055】
細胞膜構成要素は、細胞膜フラグメントから組み込まれ得る。細胞膜フラグメントは、任意の以下の周知の方法によって作製されてもよい:
1.低浸透圧性溶解
2.凍結−融解
3.超音波処理
4.軽度−界面活性剤
5.膜の酵素消化
6.膜の機械的破壊
7.膜フラグメントの生物学的生成
【0056】
これらの技術は下にさらに詳細に記載される。
【0057】
本発明の方法のステップ(a)で形成される単分子層では、両親媒性分子が、親水性体および水和支持体の表面上に、水の界面から離れて、水の界面およびそれらの疎水性基(または「テール」)に向かって、それらの親水性基(または「ヘッド」)と配列される。単分子層中の両親媒性分子の方向は、単分子層が接触されるとき二分子層が形成されることを意味する。
【0058】
本発明で用いられる両親媒性分子は、脂質分子であってもよく、詳細には、サーファクタント分子が用いられ得る。この脂質分子は、脂肪アシル類、グリセロ脂質類、グリセロリン脂質類、スフィンゴ脂質類、ステロール類、プレノール脂質類、ポリケチド類、リン脂質類および糖脂質類からなる群より選択され得る。脂質は、細胞膜由来であってもよい。
【0059】
脂質とは、以下を含む任意の基を包含し得るモノオレイン;1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC);1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン;および1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物。
【0060】
蛍光または非蛍光のプローブを疎水性または親水性媒体中に組み込んでもよい。例えば、親油性蛍光電位差測定色素、例えば、ジ−8−ANEPPSを、小胞を介し、水性の親水性体および/または水和支持体を介して二分子層に組み込んでもよい。
【0061】
単分子層中の両親媒性分子は、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。例えば、二分子層の各々の単分子層は、産生された二分子層が非対称であるように異なる種類の両親媒性分子を含んでもよい。
【0062】
あるいは、各々の単分子層は、同じ種類の両親媒性分子を含んでもまたは両親媒性分子の種類の混合物を含んでもよい。
【0063】
疎水性化合物が、疎水性媒体または水和支持体または親水性体、例としては、例えば、膜タンパク質機能調節のための親油性のアゴニストおよびアンタゴニストに添加されてもよい。
【0064】
水和支持体は、固体または半固体の基質を含んでもよい。本明細書において用いる場合、「固体」および「半固体」という用語は、当業者にとってそれらの通常の意味を有することが理解される。本質的に、「固体」という用語は、剛性であってかつ変形に対して耐性である基質を指し、「半固体」とは、固体と液体との間の特性を有する基質を指す。好ましくは、半固体基質は、ある程度の可塑性を有するが、容器に入れられた場合その形状を維持するのに十分剛直であり、容器の形状に対して直ちに従うことはない。半固体基質の例はゲルである。
【0065】
水和支持体は、親水性であってもよい。水和支持体は、油中脂質型の溶液下で水の層を維持し得る任意の親水性基質を含んでもよい。あるいは、水和支持体は、親水性でなくてもよく、脂質単分子層は、表面に対する脂質分子の付着によって形成されてもよく、例えば、支持体の表面は、修飾された脂質が表面と反応し、結合して単分子層を形成するような表面であってもよい。
【0066】
水和支持体は、親水性ゲルを含んでもよい。好ましくは、両親媒性分子の単分子層は、疎水性媒体中で両親媒性分子の存在下に置かれた場合、水和した支持体の表面上で自己アセンブルする。この水和した支持体は、多孔性であっても多孔性でなくてもよい。好ましくは、この水和した支持体は多孔性である。この水和支持体はヒドロゲルであってもよい。このヒドロゲルは、化学的架橋されても光架橋されてもよい。水和支持体は、部分的に透明であってもまたは実質的に透明であってもよい。あるいは、この水和支持体は、ほとんどが不透明であってもよい。
【0067】
水和支持体とは、タンパク質または検体の分離ゲル、例えば、電気泳動ゲルであってもよい。分離ゲルは、タンパク質、DNAまたは他のサンプル(例えば、それらの大きさ、分子量もしくはイオン特性に基づいて分離された)を含んでもよい。
【0068】
水和支持体は、任意の厚み、好ましくは約1nm〜約10cm、さらに好ましくは約1μm〜約1cm、最も好ましくは約100μm〜約1cmの基質を含んでもよい。
【0069】
水和支持体は、未処理寒天、キトサン、ゼラチン、アガロース、ポリアクリルアミド、架橋したポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク(anodisc)材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(NaphionR)材料、メソ多孔質シリカ、水およびガラス、またはそれらの組み合わせから成る群から選択されてもよい。
【0070】
親水性体は、液体であっても、固体であっても、もしくは半固体であっても、またはそれらの混合物であってもよい。好ましくは親水性体は、水などの水溶液の液滴を含む。親水性体が水溶液の液滴である場合、これは好ましくは、約5nm〜10cm以上、好ましくは1μm〜1mmの直径を有する。一実施形態では、液滴は約100μmの直径である。親水性体は、水和された固体または半−固体支持体/基質を含んでもよい。この親水性体は、ヒドロゲル、例えば、水和されたアガロースを含んでもよい。この親水性体は、水性の細胞膜リポソームを含んでもよい。
【0071】
親水性体および/または水和支持体の組成物は、電流が保持されることを可能にする妥当な塩を含むように管理されてもよく、例えば、NaCl、KCl、MgCl2および/または他の塩が含まれてもよい。親水性体はまた、pHを制御するための一般的な緩衝化剤、例えば、Bis−tris、Tris、Hepes、リン酸ナトリウムおよび/またはリン酸カリウムを含んでもよい。塩はまた、他の理由のために、例えば、タンパク質を安定化するために、静電相互作用を制御するため、二分子層を横切る浸透勾配を制御するため、および/または蛍光プローブを活性化するために含まれてもよい。
【0072】
親水性体および/または水和支持体は、種々の量の他の構成要素、例えば、膜タンパク質機能のアゴニストもしくはアンタゴニスト、またはタンパク質補因子、糖、例えば、スクロースまたはポリマー(これを用いて浸透圧を安定化し得る)、アミノ酸、ペプチド、核酸、蛍光または非蛍光プローブ、化合物/薬物、色素、マイクロスフェアまたはビーズを含んでもよい。親水性体はまた、尿素またはグアニジンHClなどの変性剤を含んでもよい。他の/追加の成分を二分子層形成および/または細胞膜取り込みの前または後に添加してもよい。
【0073】
親水性体および/または水和支持体は、水と混合された、微量の有機溶媒、例えば、水とエタノール、メタノール、DMSO、DMFまたはクロロホルムとの混合物中に低溶解性の低分子化合物を含んでもよい。
【0074】
疎水性媒体は、油であってもよい。油は、炭化水素であってもよく、これは分岐されても、非分岐であってもよく、かつ置換されてもまたは非置換であってもよい。例えば、炭化水素は、5〜20個の炭素原子、より好ましくは10〜17個の炭素原子を有してもよい。適切な油としては、アルカン類またはアルケン類、例えば、ヘキサデカン、デカン、ペンタンもしくはスクアレン、またはフッ素化油、またはシリコーンベースの油、または四塩化炭素が挙げられる。一実施形態では、この油はn−アルカンである。
【0075】
疎水性媒体は、油中脂質型溶液であってもよく、すなわち、両親媒性脂質分子が、油中に提供される。好ましくは、油中脂質型溶液は、油中に約1mg/mL〜約30mg/mLの脂質を含む。好ましくは、油中脂質型溶液は、約5mg/mLの脂質を含む。
【0076】
好ましくは、脂質/油の溶液は、リン脂質、例えば、ホスホコリン脂質、例えば、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を、C10〜C17n−アルカンのようなn−アルカン、例えば、n−ヘキサデカン(C16)中に含む。
【0077】
第三相は、フッ素化された油、または疎水性かつ油分をはじく脂質などのような疎水性かつ油分をはじく両方である分子の供給によって提供され得る。
【0078】
追加のタンパク質が、細胞膜によって提供される任意のタンパク質に加えて二分子層に挿入されてもよい。このタンパク質は、公知の膜タンパク質であっても、あるいは水溶性タンパク質であってもよい。追加のタンパク質は、精製されていてもよい。追加のタンパク質は、前の国際特許公開番号WO2009024775号に開示される方法に従って挿入され得る。
【0079】
二分子層を用いて、この二分子層中の両親媒性分子と、またはこの二分子層中の膜結合タンパク質と相互作用する化合物/検体を検出してもよい。タンパク質または両親媒性分子との相互作用は、二分子層を横切る検体/化合物の特異的または非特異的な位置変化によってもよく、これは、タンパク質または糖などのような他の膜構成要素によって、または両親媒性分子によって媒介されてもよい。あるいは、化合物/検体は、タンパク質とまたは二分子層と相互作用して、物理的、光学的、電気的または生化学的な変化を生じ得る。このような相互作用は、多くの異なる方法、例としては、限定するものではないが、視覚変化、特定のキャパシタンスにおける変化によって、または二分子層の中または付近の蛍光標識分子の活性化によって検出され得る。
【0080】
組み込まれた膜構成要素を有する二分子層は、この二分子層に、またはその中に、またはそれにまたがって生じるプロセスを研究するために用いられ得る。この二分子層は、膜構成要素の挙動を研究するために用いられ得る。この二分子層を用いて、二分子層中に再構成される膜構成要素と相互作用するタンパク質または分子を検出してもよい。
【0081】
二分子層を用いて、細胞膜タンパク質を調査および/またはスクリーニングしてもよいし;再構成された膜と相互作用する検体について調査および/またはスクリーニングしてもよいし;および/または異なる細胞種由来の再構成された膜を有する二分子層と相互作用する化合物について調査および/またはスクリーニングしてもよい。
【0082】
この二分子層を用いて、二分子層中の膜結合タンパク質が膜全体にわたって分子を輸送する能力を研究してもよい。例えば、タンパク質を通じて、または二分子層を横切る単純に非媒介性の輸送を通じて、膜全体にわたって輸送されている分子の量は、電圧研究、質量分析、酵素的技術、例えば、ELISAを用いることによって決定されてもよいし、または蛍光もしくは放射活性で標識した基質を用いることによって決定されてもよい。
【0083】
二分子層を用いて、この二分子層中のタンパク質上で、またはこの二分子層自体の上で二分子層の機械的変化の効果を研究してもよい。研究され得る機械的変化としては、例えば、膜湾曲、横力、表面張力などの変化が挙げられる。
【0084】
試験されるか、研究されるかおよび/またはスクリーニングで用いられる化合物/検体は、これを親水性体に、および/または水和支持体に、および/または疎水性媒体に置くことによって二分子層に導入され得る。親水性体の中に包含される場合、この化合物/検体は、親水性体が形成されるとき、またはこれが、後に、例えば、形成された親水性体中への注入によって添加され得るときに組み込まれ得る。同様に、この化合物/検体が水和支持体中である場合、これはこの水和支持体が形成されるか後に添加されるとき組み込まれ得る。
【0085】
一実施形態では、水和支持体は、分析のためのタンパク質(検体/化合物)を含むタンパク質分離ゲルまたは膜であってもよい。例えば、サンプルは、サイズに基づいて分離されたタンパク質を含むポリアクリルアミドゲルであってもよい。この実施形態では、この検体/化合物は、水和支持体を介して二分子層に導入される。
【0086】
この検体/化合物は、精製されたタンパク質であっても、または粗タンパク質抽出物であってもよい。
【0087】
試験されるべき検体/化合物は、サンプル中にあってもよい。このサンプルとは、例えば、血液、尿、血清、唾液、細胞または組織のサンプルであってもよい。このサンプルは、細胞増殖培地由来の液体であってもよい。
【0088】
二分子層は、光学的手段によって水和支持体を通じて、例えば、倒立顕微鏡で、またはある環境では、裸眼によってさえ可視化され得る。脂質二分子層の可視化は、二分子層の形成、位置、サイズまたは他の特性を追跡するために用いられ得る。二分子層の可視化によって、標識された検体/タンパク質/化合物/細胞膜を、その二分子層でまたは中で視認および研究することが可能になる。
【0089】
1つ以上の検出手段を用いて、両親媒性分子の二分子層の、または二分子層に挿入された膜結合タンパク質の、化学的、生化学的、電気的、光学的、物理的および/または環境的な特性を検出してもよい。詳細には、1つ以上の検出手段を用いて、化合物/検体によって導入される二分子層にまたは二分子層での変化を検出してもよい。
【0090】
この検出手段は、電極を備えてもよく、この電極は、二分子層中のタンパク質チャネルを通じて通過するイオン性電流の変化、または水和支持体、親水性体もしくは二分子層中の分子の電気化学的な特性を検出するために用いられ得る。電流は、標準的なパッチ−クランプ増幅器または他の低ノイズ電気増幅システムを用いて記録され得る。
【0091】
化学的または生化学的な変化は、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを用いて検出され得る。あるいは、特定の条件下で活性化される、標識された、例えば、放射性または蛍光的に標識されたタンパク質の使用を用いて、二分子層で変化をモニターしてもよい。反応の際の光吸収における変化に応答する比色法もまた、用いて二分子層中の変化を検出してもよく、具体的にはこの方法を用いて二分子層のサイズの変化を検出してもよい。
【0092】
この検出手段は、二分子層の特性またはそこでの変化を一貫してまたは間欠的に検出できる場合がある。
【0093】
膜結合タンパク質、検体および他の化合物などの検出試薬を、親水性体および/もしくは水和支持体への組み込み、親水性体および/もしくは水和支持体へ直接の注入、ならびに/または疎水性媒体中への組み込みもしくはそこへの添加によって、二分子層に送達してもよい。親水性体および/または水和支持体への注入は、マイクロピペットを用いて達成され得る。
【0094】
膜容量中における変化が研究されている実施形態では、電極を検出手段として用いてもよい。この電極とは、Ag/AgClであってもよく、このような電極は、約10ミクロン〜1mmの直径であってもよい。第一の電極は、親水性体と電気的に接触されてもよく、第二の電極は、水和支持体と電気的に接触されてもよい。二分子層の比キャパシタンスなどの二分子層の電気的特性は、電極を用いて決定され得る。
【0095】
蛍光画像化および強度測定を用いて、二分子層包埋の膜タンパク質の特性を測定してもよい。例えば、電位差測定の色素(例えば、ジ−8−ANEPPS)の封入を用いて、イオンチャネル、細孔または輸送体および/または他の膜タンパク質、および/またはそれらの機能モジュレーターの存在下で二層を横切る(transbilayer)電圧を測定してもよい。
【0096】
二分子層中の膜タンパク質機能は、赤外線分光法、ラマン分光法、表面プラズモン共鳴、原子間力顕微鏡法、SAXSおよび中性子散乱、示差走査熱量測定法、等温滴定熱量計、円偏光二色性分光法、電子顕微鏡および質量分析法、またはそれらの組み合わせから選択される任意の群の使用によって検討され得る。
【0097】
光学的および/または電気的な特徴付けによって、有利には、極めて多数の膜タンパク質または化合物の迅速なスクリーニングが可能になる。光学的および/または電気的な特徴付けによってまた、有利には、極めて多数の二分子層の迅速なスクリーニングが可能になる。
【0098】
二分子層の物理的、化学的または電気的な環境を、二分子層および/または親水性体および/または水和支持体に対してまたはそれらから、試薬、検体、化合物および/またはタンパク質を導入、除去または封鎖することによって制御してもよく、例えば、二分子層周囲の環境のpHは、親水性の水性本体および/または水和支持体に対する緩衝液の添加によって制御され得る。
【0099】
一旦形成されれば、本発明によって作製される二分子層は、水和支持体の表面全体にわたって位置変化または移動され得る。好ましくは、これは、水和支持体の表面全体にわたって親水性体を移動することによって達成される。好ましくは、二分子層内に組み込まれた膜タンパク質は、この二分子層が、水和支持体の表面全体にわたって位置変化されるとき、二分子層から解離しない。
【0100】
水和支持体の表面を横切る二分子層の位置変化は、親水性体または水和支持体と接触した部材を移動することによって達成され得る。この部材とは電極であってもよい。水和支持体の表面を横切る二分子層の位置変化は、微小流体をポンピングして、親水性体、従って水和支持体を横切る二分子層の位置変化を果たすことによって達成され得る。
【0101】
二分子層の位置変化を用いて、この二分子層中のタンパク質に対して力を加えて、例えば、機械感覚性のタンパク質チャネルを研究するか、または二分子層自体の特性に対するこのような力の効果を研究してもよい。
【0102】
二分子層の位置変化を用いて、水和支持体の表面全体にわたってスキャンして、二分子層および/または二分子層の中の膜結合タンパク質の特性を変化する、水和支持体中の検体/化合物を特定してもよい。
【0103】
二分子層が水和支持体の表面全体にわたって位置変化する驚くべき能力によって、検体/化合物、例えば、同じ水和支持体の異なる領域に位置するタンパク質および/または試薬または基質を検出するために、二分子層を有する水和支持体全体にわたってスキャンできるという利点が得られる。これは、各々のサンプリング領域の間で二分子層を分解する必要性なく行うことができることが有利である。
【0104】
この二分子層は、異なる化合物のアレイまたはライブラリーを含む水和支持体全体にわたって位置変化され得る。異なる化合物を、所定の位置で支持体上にスポットしてもよい。あるいは、この水和支持体は、タンパク質またはDNAまたは低分子などの化合物(それらのサイズまたはイオン特性に基づいて分離された)を含む、分離ゲルまたは膜を含んでもよい。
【0105】
1つ以上の二分子層の位置変化によって、細胞膜中の1つ以上の特定の膜結合タンパク質を含む二分子層を、水和支持体中の化合物のライブラリーに対して迅速にスクリーニングすることが可能になり得る。このスクリーニングによって、膜結合タンパク質と相互作用し、二分子層において特性の検出可能な変化を生じる、ライブラリー中の化合物が検出されることが可能になり得る。ライブラリー中の化合物は、タンパク質、DNAまたは他の低分子であってもよい。この検出可能な変化とは、例えば、コンダクタンスの変化または蛍光もしくは他のマーカーパターンの変化であってもよい。
【0106】
二分子層は、ピペットチップのような移動性デバイス中に懸濁された水和支持体上で形成されてもよく、これが次に細胞の表面にまたがってスキャンされてもよい。あるいは、移動性のデバイスを用いて、種々の溶液、例えば、種々の生物学的サンプルを探査してもよい。
【0107】
一旦形成されれば、本発明によって作製される二分子層は、サイズが増大されても、または減少されてもよい。二分子層のサイズの増大または減少は、水和支持体へ向かって、またはそれから離れて親水性体の中心を移動させることによって達成され得る。
【0108】
複数の別々の二分子層を複数の別々の親水性体と1つ以上の水和支持体との間で形成してもよい。この親水性体は、2または3次元のアレイに配列され得る。同じ水和支持体上の2つ以上の別々の親水性体は、同じもしくは異なる検出手段および/または異なる試薬、および/または同じ細胞種類もしくは異なる細胞種類由来の細胞膜を含んでもよい。水滴のアレイは、検体/化合物が検出されるとき、例えば、親水性体の蛍光または記録されたコンダクタンスの変化によって、水和支持体中の検体/化合物の位置を検出するために、水和支持体表面上に沈着されてもよい。
【0109】
二分子層は、微小流体のチャネル中で形成され得る。微小流体のチャネルは、水性の液体を含んでもよく、これが少なくとも部分的には親水性体を提供し得る。この微小流体のチャネルはさらに、疎水性媒体を含んでもよい。微小流体のチャネルの少なくとも1つの壁/床は、水和支持体を備える。
【0110】
別の局面によれば、本発明は、疎水性媒体中に浸漬された親水性体と水和支持体とを含む二分子層製品を、二分子層が細胞膜の少なくとも一部を組み込んでいるという点で特徴付けられる、親水性体と水和支持体との間の両親媒性分子を含む二分子層に提供する。
【0111】
二分子層に存在する細胞膜は、細胞丸ごと由来であっても、および/または細胞膜フラグメント由来であってもよい。
【0112】
親水性体、水和支持体、両親媒性分子および再構成された細胞膜について好ましい実施形態は、上記で考察されるとおりである。
【0113】
二分子層は、本発明の方法によって形成され得る。
【0114】
本発明の別の局面によれば、本発明による二分子層製品を蛍光顕微鏡と組み合わせた使用が提供される。
【0115】
水和支持体の性質によって好ましくは、二分子層を、顕微鏡を用いて可視化することができる。従って、本発明のこの局面では、水和支持体は、約2mm厚以下の層であってもよい。この水和支持体は、約1nm〜約2mm厚、あるいは約100nm〜約1mm厚であってもよく、あるいはこの水和支持体は、約100nm〜約400nm厚であってもよい。
【0116】
観察すべき分子は、フルオロフォアで蛍光標識してもよい。
【0117】
親水性の液滴および/または水和した支持体中のフルオロフォアは、全反射照明蛍光顕微鏡または他の広視野蛍光顕微鏡の技術を用いて観察され得る。全反射照明蛍光顕微鏡は、対物の種類またはプリズムベースの幾何形状のいずれかによって、促進され得る。全反射照明蛍光顕微鏡を用いる観察は、電気的測定と組み合わせて用いられ得る。全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いて、二分子層のバルク特性として、または個々の分子のレベルに至るまで適切な検出で、二分子層に存在する実体から蛍光を観察し得る。TIRF技術は、他の分析技術と組み合わせて、例えば、電気的データの取得と組み合わせて用いられ得る。
【0118】
フルオロフォアを観察するために全反射照明蛍光を用いる利点とは、二分子層の約200nm内のフルオロフォアのみが照射され、従って観察されるが、細胞膜二分子層に近くない他のフルオロフォアは、照射されず、観察されないということである。全反射照明蛍光の測定を電気的な測定と組み合わせて用いることは、タンパク質−タンパク質の相互作用が研究できる、例えば、蛍光基質の結合に対するイオンチャネルの電気的な応答が研究できるという利点を有する。
【0119】
本発明のなおさらなる態様によれば、細胞から再構成された膜構成要素を含む両親媒性分子の二分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)本発明による二分子層製品を提供するステップと;
ii)上記親水性体を位置変化させることによって、上記二分子層を上記水和支持体の表面全体にわたって位置変化させるステップと、
iii)上記二分子層と上記水和支持体および/または親水性体中の化合物との相互作用を検出するステップと、
を含む方法、が提供される。
【0120】
この細胞膜構成要素は、本明細書に記載されるとおり、例えば、人工の二分子層中に再構成されたインタクトな細胞膜または細胞膜のフラグメントであってもよい。
【0121】
水和支持体および/または親水性体は、試験されるべき化合物のライブラリーを含んでもよい。
【0122】
二分子層の位置変化は、親水性体と、この親水性体を動かすように配列された微調整装置(マイクロマニピュレーター)との直接または間接的な接触によって達成され得る。この親水性体は、水和支持体全体にわたって二分子層が位置変化するように移動され得る、電極と接触され得る。
【0123】
スクリーニングの方法は、ハイスループットのスクリーニングが行われることを可能にするように自動化され得る。
【0124】
本発明の別の局面によれば、細胞膜由来の膜結合タンパク質および/または二分子層に位置する他の膜構成要素と相互作用し得る物質を特定するための、本発明による二分子層製品の使用が提供される。
【0125】
二分子層は、調合薬の開発において、または初代細胞のスクリーニングのための医学的診断において用いてもよい。例えば、標的化合物または物質を、親水性体または水和支持体のいずれかに組み込んでもよく、二分子層中のタンパク質上でのこのような化合物または物質の機能的な効果を探査してもよい。
【0126】
相互作用または効果とは、物質または標的の化合物によるタンパク質機能の阻害または活性化のような、この物質または標的化合物の位置変化、調節であってもよい。相互作用または効果は、タンパク質(単数または複数)における高次構造の変化であってもよい。
【0127】
本発明のわずかないくつかの局面に関して考察される本発明の全ての任意のおよび/または好ましい特徴は、本発明の全ての局面に対して適用され得ることが理解される。
【0128】
本発明の実施形態/局面は、添付の図面を参照してほんの一例としてここに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、水和支持体二分子層上の液滴(droplet−on−hydrated−support bilayer)(DHB)として本明細書に言及される、水和支持体二分子層上の水滴(親水性体)を図示する;図1Aは、水和支持体二分子層上の液滴の略図である。脂質単分子層は自発的に、各々が疎水性油中の脂質の溶液中に浸漬された時、水性(水)液滴および水和支持体(ヒドロゲル)の水面上で形成する。2つの構成要素の単分子層が接触されるとき、それらは脂質二分子層を形成する;図1Bは、倒立顕微鏡で下から可視化された液滴二分子層(DHB)を示す−この画像は、ヒドロゲル表面上に指示される、電極なしの液滴を示す。液滴の中心の単一の連続二分子層領域は、その界面での屈折率の大きな変化に起因して容易にみられる。
【図2】図2は、本発明による二分子層中の細胞膜の組み込みの模式図を示す。
【図3】図3は、二分子層に組み込まれたHEK293細胞膜中のhERGチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図4】図4は、二分子層中に組み込まれた3T3細胞膜中のNMDAチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図5】図5は、二分子層中に組み込まれたMin6細胞膜中のKATPチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図6】図6は、二分子層中に組み込まれたSupT1細胞膜中のKvチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図7】図7は、図6に考察されるSupT1細胞からのKvチャネルI−V曲線を示す。
【図8】図8は、開確率に対する図6および図7で考察したKvチャネルの電圧依存を示す。
【図9】図9は、ヒト赤血球由来細胞膜二分子層のシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図10】図10は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの使用を図示しており、ここでは交流で外部から加えられる電位差が、付随する蛍光強度の変化を駆動する。
【図11】図11は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの別の使用を図示する。
【図12】図12は、(A)マイクロピペットまたは(B)マルチボア(multi bore)キャピラリーを有するマイクロピペットからの注入によって水滴中に試薬が導入され得る方法の図を示す。
【図13】図13は、水和支持体二分子層上の液滴上の全反射照明蛍光顕微鏡を図示する。
【図14】図14は、二分子層のアレイを生じるためのデバイスを示す。
【図15】図15は、実験的なスクリーニングに用いた、六角形のPDMSスタンプで形成された二分子層のアレイを示す。150mm直径のウェルを製造し、結果として1cm2あたり360の二分子層という二分子層密度を生じる。
【図16】図16は、KcsA−ChiIVでのカリオトキシン(KTX)の滴定の際の電流ブロッキングの結果を示す。
【図17】図17は、E.coli宿主膜から直接的に二分子層中に再構成された細菌由来のKcsA−ChiIVのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図18】図18は、ミトコンドリアチャネルの陽電位および陰電位でのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図19】図19は、ホスホリパーゼCでのSupT1細胞の膜の酵素的消化の結果を示す。A:DMEM中のSupT1細胞 B:ホスホリパーゼCでのDMEM中のSupT1 C:ホスホリパーゼC、超音波処理(2分)でのDMEM中のSupT1 D:ホスホリパーゼC、超音波処理(2分)、凍結−融解(3×)でのDMEM中のSupT1。
【図20】図20は、本発明による脂質の二分子層への真核生物イオンチャネルを組み込むために用いられる再構成システムを模式的に図示する。(1)細胞は、機械的に分裂され、膜が単離される(2)。細胞膜フラグメントは、ヒドロゲルコーティングされたカバースリップ上に沈着されるか、またはヒドロゲル(3)中に組み込まれる。油中脂質型溶液を添加して、脂質単分子層は、界面で形成する(4)。脂質単分子層を有する水滴を、油中に添加する(5)。両方の脂質単分子層は、一緒になって脂質二分子層を形成し;脂質二分子層中の細胞膜フラグメント中のイオンチャネルの再構成が、このプロセスの間に生じる。電極を水滴中に導入して、二分子層を横切るイオン流束を測定する(6)。
【図21】図21は、細胞株において過剰発現されたイオンチャネルのシングルチャネルレコーディング(SCR−上部パネル)およびバルクイオン電流を示す(下部パネル)。(a)ポーリンなしのE.coli株PC2889で発現されるKcsAのSCR(150mMのKCl、10mMのコハク酸、pH4の中で+50mV)。棒グラフは、150mMのBa2+の有無におけるバルク電流レコーディングを示す(エラーバーは、5つの実験からの標準偏差である)(b)HEK293細胞中で発現されるhERGチャネルのSCR(350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5中で+100mV)。棒グラフは、ブロッカーE−4031の有無におけるバルク電流レコーディングを示す。(c)3T3細胞における過剰発現からのNMDAレセプターのSCR(液滴中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.5、およびアガロース中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、10μMグリシン、10μMグルタミン酸塩、pH7.5、+50mV)。棒グラフは、グルタミン酸塩の有無におけるバルク電流を示す。(d)Min6細胞で発現されるKATPチャネルのSCR(140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5、+50mV)。棒グラフは、グリベンクラミド(GBC)の有無におけるKATPチャネルのバルク電流を示す。
【図22】図22は、リンパ球膜における電圧ゲートカリウムチャネルを示す。(a)液滴脂質二分子層中に再構成されたリンパ球膜からのK+チャネルのシングルチャネルレコーディング(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5,+25mV)。(b)リンパ球膜から得られるK+チャネルの電流−電圧曲線。(c)全ポイントの電流ヒストグラムであって、チャネル開確率の電圧依存を示している。(d)4−APを用いるリンパ球膜からのカリウムチャネルのバルク電流ブロック。4−APの存在下では、イオン流束は、ブロッカーの非存在下における測定に比較して96%まで低下される。(e)カリオトキシン(Kaliotoxin)(KTX)によるリンパ球膜からのK+チャネルのバルク電流ブロック。KTXの存在下では、イオン流束は、KTXの非存在下におけるイオン流束(左)に比較して99.4%(右)に低下される。エラーバーは、5つの実験からの標準偏差として決定される。
【図23】図23は、初代細胞およびオルガネラにおける電流レコーディングを示す。(a)5mMのCa2+の有無において記録した赤血球細胞膜からの正規化されたバルク電流(150mMのKCl、Hepes、pH7、+50mV)。エラーバーは、5つの実験からの標準誤差として決定される。(b)ミトコンドリア膜におけるカリウム導電性チャネルのシングルチャネルレコーディング(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5,+50mV)(c)種々の陽イオン(Na+、K+、Ca2+)のコンダクタンスを試験する再構成された鎌状赤血球膜のバルク電流レコーディング。鎌状赤血球膜は、全ての陽イオンに対して高度に導電性であるが、一方では健常な固体からのコントロールの膜はコンダクタンスを示さない。(d)ナトリウムを伝導する、HbSS遺伝子型を有する赤血球のサンプルのシングルチャネルレコーディング(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.4、+125mV)。底部:(d)の拡大断面。
【発明を実施するための形態】
【0130】
「水和支持体二分子層上の液滴(droplet−on−hydrated−support bilayer)」(またはDHB)または「液滴脂質二分子層」とは、特定の実施例で言及される場合、前に考察されたように、「両親媒性分子の二分子層」と同じである。特定の実施例中で言及される水性本体とは、前に考察されるような親水性体と等価である。
【0131】
方法
材料
1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(Avanti Polar Lipids)、ヘキサデカン(Sigma−Aldrich)を、さらに精製することなく用いた。
【0132】
水和支持体二分子層上の液滴の作製
ヘキサデカン(C16)中の10mMの1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を、全ての実験において脂質/油溶液として用いた。この溶液に浸漬した水性の容積は、DPhPC単分子層を自発的に自己アセンブルして、2つの構成要素の単分子層が接触させられる時、それらは自発的に脂質二分子層を形成する(Tsofina,L.M.ら、1966.Nature 212,681−683;Malmstadt,N.ら、2006.Nano Letters 6,1961−1965;Funakoshi,K.ら、2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174;Holden,M.A.ら、2007.Journal of the American Chemical Society−印刷中)。水和支持体二分子層上の液滴は、水滴をヒドロゲルのような多孔性の水和支持体と接触させることによって形成される(図1A)。融合を防ぐためには単分子層を接触させる前に少なくとも5分の安定化期間が必要であった。この期間後、二分子層形成は、水滴と水和支持体との接触の2〜3秒〜1分内にほとんど100%の効率で観察された。水和支持体二分子層上の液滴は、倒立顕微鏡で可視化され(図1B)、この技術を用いて、実験の間に脂質二分子層の位置を追跡した。
【0133】
脂質二分子層は、極微操作装置(マイクロマニピュレーター)を用いて液滴中(図1A)に100μmの直径のAg/AgClワイヤ電極を挿入することによって電気的にアクセスされた。水和支持体中の対応するAg/AgCl接地電極を用いて、脂質二分子層を横切る電気的測定を行った。電流を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments)で記録し、種々の周波数でデジタル化した(National Instruments Ni−DAQ)。電気的なトレースを、獲得後にフィルターにかけて(100Hzの低域通過Gaussianフィルター)、WinEDRを用いて分析した。脂質二分子層は典型的には、過剰の100GΩ中でシールを保持しながら、ほぼ300mVまで電圧に抵抗できた。電気的ノイズレベルは典型的には、100kHzの記録帯域幅で±01.0pA r.m.sの大きさであった。これは、この装置の限界を反映しており、水和支持体二分子層上の液滴中の固有のノイズではない。
【0134】
蛍光のための水和支持体二分子層上の液滴
薄い水和支持体上に横たえられた水和支持体二分子層上の液滴は、全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)顕微鏡を用いて蛍光的に試験できる。
【0135】
図13は、水和支持体二分子層上の液滴に対する全反射照明蛍光顕微鏡を図示しており、薄層のアガロースから構成される支持基質が、ガラスのカバースリップ上で形成される。この薄型基質は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロチャネルデバイスを水性アガロースで充填することによって再水和される。このデバイスウェルは、油中脂質型溶液で充填される。水滴は、ヒドロゲルの頂部、油の下部に置かれる。脂質二分子層は、2つの水性相の間の界面で形成される。エバネセント場は、脂質二分子層中でフルオロフォアを照射する、水和支持体二分子層上の液滴中に伝播する。
【0136】
脂質二分子層中に膜タンパク質を組み込むための方法
1.アガロースのようなヒドロゲルは、平面の固体支持体、例えば、ガラススライド上に沈着される。
2.細胞膜フラグメントまたはインタクトな細胞を含む溶液を、ヒドロゲル上にピペッティングする。
3.ヒドロゲルを油中脂質型溶液の中に浸漬する。
4.水滴を、油中脂質型溶液中にピペッティングして、ヒドロゲルとの接触の際、膜タンパク質を含む二分子層を形成する。
【0137】
別の実施形態では、細胞膜はまた、下にあるヒドロゲルではなく水滴中に存在するフラグメントまたは細胞から組み込まれてもよい。
【0138】
液滴脂質二分子層のギガオームの電気的シールに起因して、シングル−チャネル分解電気測定が可能であり、あるいはホールセル(細胞丸ごとの)電気的レコーディングと同様のバルク電流測定を行ってもよい。平面のヒドロゲル基質によってまた、二分子層内のタンパク質の挙動を探査する手段としてこの二分子層の高感度の光学画像化が可能になる。
【0139】
インタクトな細胞全体(ホールセル)に由来する膜タンパク質の直接組み込み
細胞膜構成要素を、膜をなんら破壊することなく、インタクトな細胞全体の直接的な組み込みによって二分子層に組み込む。インタクト/丸ごとの細胞を、等張性の培地中に置いて、ヒドロゲル(水和支持体)または水滴(親水性体)のいずれかの水相に組み込む。
【0140】
細胞膜フラグメントの調製
タンパク質含有膜フラグメントを、以下の任意の手段によって作製する:
【0141】
1.低浸透圧性溶解
細胞を、低浸透圧性の水性培地、例えば、蒸留水または低浸透圧性緩衝液(約140mM未満の総オスモライト)に入れ、ここでこの細胞の内側から及ぼされる浸透圧は、細胞を膨張させて、自然な膜の崩壊をもたらし、細胞膜フラグメントを形成する。次いで、全ての細胞質成分を含む細胞成分を、大きい膜フラグメントに加えて、懸濁培地中に自由に拡散させる。
【0142】
2.凍結−融解
細胞を、その細胞と等張性の、水性/緩衝化培地に入れ、ここで次にこれらを、繰り返して少なくとも0℃までゆっくり凍結させて、氷を作製し引き続いて融解する。氷の結晶を融解する作用は、細胞膜を剪断して細胞の崩壊をもたらすことであり、さらに繰り返せば、細胞膜フラグメントを形成し、膜フラグメントを漸進的に縮小する。フラグメントの大きさ、従って二分子層への再構成のための細胞膜タンパク質の量を希釈により制御するために、この過程を仕立てて(すなわち、繰り返しの回数)もよい。
【0143】
3.超音波処理
凍結−融解と同様に、水性/等張性緩衝化培地中の細胞を、超音波浴または超音波プローブの使用によって剪断する。浴中の加えたパワーの増大(プローブの周波数がより高い、または振動の距離)は、インキュベーション時間の増大で生じるように、細胞膜フラグメントの大きさを減少させる。細胞膜フラグメントの大きさ、従って二分子層中への再構成のための細胞膜タンパク質の量を希釈により制御するために、この過程を仕立ててもよい。
【0144】
4.温和な界面活性剤
温和な親油性の界面活性剤(例えば、CHAPS、DM、OG)を用いて、細胞膜を分散させる。一旦分散されれば、残りのタンパク質含有細胞膜フラグメントを希釈して、DHB中に再構成されるタンパク質の量を制御してもよい。
【0145】
5.膜の酵素的消化
リン脂質消化性酵素、例えば、ホスホリパーゼは、インタクトな細胞膜を消化して、より小さいタンパク質含有細胞膜フラグメント(タンパクリポソーム)を生じ得る。生成されるフラグメントの大きさは、酵素濃度およびインキュベーション期間の注意深い制御、従ってDHB中に再構成されるタンパク質の量に影響することを通じて制御される。例えば、図19は、ホスホリパーゼCでのSupT1細胞の膜の酵素的消化の結果を示す。A:DMEM中のSupT1細胞 B:ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1 C:超音波処理した(2分)ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1 D:超音波処理(2分)、(凍結−融解)(3×)した、ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1。
【0146】
6.膜の機械的破壊
ホモジナイザーおよび「フレンチ・プレス」のような圧力駆動デバイスを使用して、それらから生成した膜およびフラグメントを破断して圧縮してもよい。例えば、ノズルのような、細胞を破断するために剪断力を利用する他のこのようなデバイスを用いて、細胞膜を破断してもよい。ノズルまたはフィルターを通じた押し出し(公知の寸法を有する)を用いて、精密にサイズ化された膜フラグメントを調製してもよい。
【0147】
7.膜フラグメントの生物学的生成
細孔形成剤(ペプチド、タンパク質、ポリマー)を用いて、細胞の浸透圧バランスを動揺させ、自発的な細胞の崩壊を生じ、その後すぐ、細孔形成剤の除去後、目的の膜タンパク質を含む膜フラグメントがDHB中に再構成される。さらに、タンパク質を同時発現してもよく、これが膜小胞形成、または細胞膜崩壊を誘導し、原形質膜からの既定のタンパク脂質小胞の出芽または膜の崩壊のいずれかをもたらす。
【0148】
膜フラグメントの大きさの操作について上記される全ての方法は、そのフラグメントの要件に依存して、任意の組み合わせでまたは個々に行われてもよく、すなわち標的の膜中のタンパク質発現の密度が高いほど、膜フラグメントの正確な希釈のため低レベルの標的タンパク質発現についてよりも大きい膜剪断が必要であり得る。従って、これによって、DHB中に再構成されるタンパク質のレベルを正確に制御することが容易になる。この調製方法は、任意の組み合わせで、および任意の順序で行ってもよい。
【0149】
膜フラグメントを、ミセルまたは小胞のいずれかのような、溶解された脂質を含む任意の水媒体と混合してもよい。この手順は、膜フラグメントの大きさを操作するために上記の方法の前に行ってもよい。
【0150】
細胞の細胞質構成要素を含む、細胞膜の得られたフラグメントを、遠心分離または透析などの標準的な生化学的技術によって分離して回収してもよい(容積を減らすため、および/または細胞質構成要素を取り除くため)。細胞膜フラグメントの得られた調製物を、緩衝化して、DHBの各々の側の上のいずれかの水相(水和支持体または親水性体)中に組み込むことによってDHB中に組み込んでもよい。これらの技術によって調製した膜フラグメントは、このフラグメント調製物からDHB中に担持される包埋されたイオンチャネルの電気的活性をモニターすることによって決定されるように、脂質二分子層中に自然に組み込まれる。
【0151】
目的の標的膜タンパク質を含む細胞膜画分の調製
例として、哺乳動物細胞培養由来の細胞株、例えば、HEK293細胞を、培養培地から、剥離することまたはトリプシン(プロテアーゼ)処理で増殖容器からそれらを引き離すことによって回収する。この細胞を等張性緩衝液中で洗浄して、過剰の緩衝液中で細胞を懸濁することおよび細胞を低速で遠心分離することによって培養培地を取り除く(100×gで10分間)。このプロセスを繰り返して、残りの細胞培養培地をサンプル中で希釈する。
【0152】
インタクトな細胞から膜画分を調製するために、それらを最初に上記のとおりペレット化する。細胞は、浸透圧に起因して膨張して破裂し、結果として大きい原形質膜フラグメントが生成される。細胞の細胞質構成要素は培地中に放出される。次いで、遠心分離後の培地を低浸透圧培地によって置き換えて、再遠心分離して、フラグメントをより高いg力、例えば25,000×gで30分間保持する。
【0153】
濃密な膜画分および細胞内オルガネラを、高速の遠心分離(例えば、25,000×g)の間に上清を繰り返し交換することによって培地から分離する。スクロース勾配を調製して、細胞内区画を、高速遠心分離の間にそれらの異なる沈殿特性を生かすことによって分離してもよい。濃密でない種(すなわち、ミトコンドリア)は、このアプローチを用いて、より大きい小胞体および原形質膜から分離される。
【0154】
膜フラグメントの遠心分離調製の手順の間、緩衝化条件を変更して、培地を、任意の所望の塩濃度、pH、オスモライト含量、リガンドおよびタンパク質補因子、目的のアゴニストおよびアンタゴニストで置き換えられてもよい。
【0155】
次いでサンプルを、ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴(droplet−on−hydrogel lipid bilayer)(DHB)システム中に組み込むために準備する。
【0156】
ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴(DHB)水性および疎水性媒体の調製
標的タンパク質を、DHBの親水性基質側面から挿入することが必要な場合、上記の膜フラグメント調製物を、DHB基質調製の前に温かい(直ちに約50℃まで冷却)溶融アガロースへの直接添加によって組み込む。このようなアガロースは、所望の緩衝液中でアガロース粉末を溶融することによって調製する(最も一般的には、電解質、例えば、KClまたはNaClおよび緩衝化化合物を含み、そのpHは、酸または塩基で所望の値に、最も多くの場合は中性のpHに滴定する)。低容積の温かいアガロース(約50℃)を、等容積の膜フラグメント調製物の所望の希釈物に添加するとすぐ引き続いて急速な冷却が生じる。水性アガロース膜フラグメント混合物を、DHB基質調製物について表面(好ましくは、画像化のための光学的に透明な表面)にわたって広げる。
【0157】
DHBデバイスの調製
基質の水性アガロース層をここで、n−デカン(例えば、ヘキサデカンC16)であって、5〜10mMのホスホコリン脂質がその中に溶解されている(例えば、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)n−デカンの油中脂質型溶液下での浸漬のために準備する。プラスチックの保持デバイスを、電解質含有水性アガロースおよび油中脂質型溶液のリザーバーを備えるDHB基質の上に置く。次いでこのデバイスを用いて、水滴と基質の親水性の水性アガロースとを接触させる。
【0158】
液滴の調製
水滴を、DHBデバイスの調製のために用いられる同一の油中脂質型溶液、あるいは非対称性の二分子層のための異なる油中脂質型溶液のいずれかの中にピペッティングする(または、微小流体のデバイスによって生成してもよい)。最も一般的には非対称性二分子層が必要であり、ここでは両方の二分子層の小葉が同一の脂質を含む。これらの油中脂質型溶液中の短期間の平衡後、脂質の単分子層が、水滴と疎水性の油中脂質型溶液との間の界面で形成する。典型的には、これに要するのは5分未満であるが、平衡化の時間の長さは、水浴溶液中の脂質濃度によって影響され得る。
【0159】
脂質−平衡化水滴と脂質−平衡化親水性アガロース基質との接触
液滴を、基質の近傍にピペッティングすることによって(あるいは、微小流体のポンピング、重力沈降または直接注入によって)、調製された脂質平衡化DHB基質アガロース上に導入する。水媒体(液滴および基質)の間の界面で脂質二分子層が形成されるために必要なのは短期間、例えば、約1分であってもよい。
【0160】
タンパク質再構成の確認
ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴中へのタンパク質再構成は、自律的に生じる。なぜなら目的の標的タンパク質を含む膜のフラグメントは、脂質二分子層形成の間または後の任意の段階で脂質二分子層に自然に組み込まれるからである。このプロセスは、DHB中に存在するイオンチャネル電流の電気生理学的なレコーディングによって、またはタンパク質と会合する蛍光特性の直接の画像化によって確認される。
【0161】
実験
脂質二分子層形成および目的の標的膜タンパク質を含む細胞膜フラグメントの再構成の際、任意の電気生理学的なプロトコールを行って、再構成されたイオンチャネルの機能を探査してもよい。条件は、このシステムの化学的構成要素によって規定され得る。脂質二分子層を横切る外部から印加された電圧は、二分子層のいずれかの側で電解質含有の水媒体へ電極を組み込むことによって提供され得る。組み込まれたタンパク質の特性は、電位差測定色素または他のフルオロフォアのいずれかを用いて蛍光的に画像化され得る。例えば、表面プラズモン共鳴、円偏光二色性分光法、ラマン分光法などの光学的な技術によって、再構成された膜タンパク質機能を探査するために他の生物物理学的実験を行うことが可能であるということはこの分野に習熟した当業者には明白である。
【0162】
安定なDHBの確立の際、別々の化学的構成要素を、例えば、膜タンパク質のリガンドなどをシステムに、すなわち、アゴニスト、アンタゴニスト、または他の化学的種を、液滴への直接注入によってまたは液滴注入によって脂質二分子層のいずれかの側の水性区画へ組み込んでもよい。例えば、これは、ブロッカーの添加の前にイオンチャネルの挙動をモニターするために用いてもよく、ここではタンパク質機能がアゴニストまたはアンタゴニストの添加の前後にモニターされ得る。
【0163】
以下の実施例は、シングルチャネルによって決定されるとおり、イオンチャネルを含む広範な種々の細胞膜二分子層の組み込みを実証する。
【0164】
HEK293細胞中のhERGチャネル
図3は、HEK293細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるhERGチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。HEK293細胞膜を、350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5(4℃でペレット化した)の中で洗浄した。1:40000希釈を、基質アガロース(5uL)と混合した後に、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。印加した電圧(示したトレース):+100mV。緩衝液:350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。
【0165】
3T3細胞中のNMDAチャネル
図4は、3T3細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるNMDAチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。1細胞あたり約10,000個のレセプターを有するNMDA発現性の3T3細胞を、140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.25(3×)中でペレット化することによって洗浄した。次いで細胞を、3回の凍結−融解のサイクルに供し(室温(RTP)〜−80℃)、その後に4℃で3分間水浴中で超音波処理した。サンプルを、基質アガロース層(5uL)について1:25000希釈までアガロースと混合した後、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。
【0166】
印加した電圧(示したトレース):+50mV。緩衝液:液滴中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.5。緩衝液:アガロース中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、10uMのグリシン、10uMのグルタミン酸塩、pH7.5。
【0167】
Min6細胞中のKATPチャネル
図5は、Min6細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるKATPチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。Min6細胞を、140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5の中で洗浄して、ペレット化して5分間超音波処理した。1:10000希釈を、基質アガロース(5uL)と混合した後に、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。緩衝液:140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。印加した電圧(示したトレース):+50mV。
【0168】
SupT1細胞中のKvチャネル
図6は、SupT1細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるKvチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。SupT1懸濁細胞を、DMEM中で増殖し、次いで20uL中に100,000個の細胞を有する溶液を−80℃で凍結した。この細胞を、室温へ4回の凍結−融解に供し、次いで1:80,000希釈して、ガラスのカバースリップ上に広げた5uLの基質アガロース層上にピペッティングした。印加した電圧(示したトレース):+10mV。緩衝液:150mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。
【0169】
図7は、上記の実験によるSupT1細胞からのKvチャネルI−V曲線を示す。図8は、開確率に対する上記のようなKvチャネルの電圧依存を示す。チャネルは、電圧の増大とともに増大した特徴的な開確率を示す。
【0170】
ヒト赤血球
図9は、ヒト赤血球由来細胞膜二分子層の電気レコーディングの結果を示す。ヒト赤血球は、140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5中で繰り返し洗浄して、白血球を含めて血清を除去した。続いて、低浸透圧緩衝液中で5分間超音波処理した。1:100000希釈を基質アガロース(5uL)と混合した後にデバイスを組み立てて(アセンブルし)、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中のDPhPC)に浸漬した。緩衝液:2MのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。印加された電圧(示されたトレース):+100mV。
【0171】
KcsA−ChiIVのチャネルレコーディング
図16は、KcsA−ChiIVでのカリオトキシン(KTX)の滴定の際の電流ブロックの結果を示し、図17は、E.coli宿主膜から直接二分子層に再構成された細菌からのKcsA−ChiIVのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【0172】
ミトコンドリアチャネルレコーディング
図18は、ミトコンドリアのチャネルの陽電位および陰電位でのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【0173】
二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの使用
図10を参照して、電位差測定色素(ジ−8−ANEPPS)を、油中脂質型溶液に組み込む。これは、脂質と平行な両方の小葉中の脂質二分子層の平面に対して垂直にある。色素からの蛍光は、脂質二分子層を横切る電位差によって変化する。ここで、外部から印加された交流の正弦波電位差は、+/−150mVの間でDHB全体にわたって与えられる。色素は、DHBを横切る電位差を明確に示す報告であり得る。なぜなら正弦波は交流であって、加えられた波で正確な時間的相関関係を示すからである。
【0174】
図11は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの別の使用を示す。ここで、電位差測定色素を用いて、二分子層中の細菌の細孔形成毒素α溶血素の存在を検出する。二分子層中に膜タンパク質が存在するとき、蛍光強度の顕著な増大がある。
【0175】
蛍光についての水和支持体二分子層上の液滴
薄い水和支持体上に沈着した水和支持体二分子層上の液滴は、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いて蛍光的に検査できる。
【0176】
図13は、水和支持体二分子層上の液滴に対する全反射照明蛍光顕微鏡を図示しており、アガロースの薄層から構成される支持基質が、ガラスのカバースリップ上で形成される。この薄い基質は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロチャネルデバイスを水性アガロースで充填することによって再水和される。このデバイスウェルを、油中脂質の溶液で充填する。水滴は、油の下のヒドロゲルの頂部に置く。脂質二分子層は、2つの水相の間の界面で形成する。エバネセント場は、水和支持体二分子層上の液滴中で増幅し、これが、脂質二分子層およびフルオロフォアを液滴中で照射する。
【0177】
TIRF技術はまた、他の分析技術と組み合わせて、例えば、電気的データ獲得と組み合わせて用いてもよい。データの組み合わせによって、タンパク質機能に対する情報の改善が得られ得る。
【0178】
二分子層形成の間の細胞膜タンパク質の導入のさらなる実施例
本発明の方法の実現可能性をさらに実証するために、多数の代表的なリガンドゲートおよび電圧ゲートのイオンチャネルを研究した。ある範囲の異なる条件(これは、原核生物タンパク質から哺乳動物由来の初代組織サンプルにおよぶ)を研究した。イオンチャネル活性をバルク中で、およびシングルチャネルから記録した。電流は、NMDAレセプター、hERGおよびKATPを含めて多数の過剰発現される真核生物タンパク質から記録した。内因性に発現されるチャネルも研究した。鎌状細胞およびミトコンドリアを含めて、それらの大きさまたは形状に起因してパッチクランプが現在困難である、細胞からのイオン電流のシングルチャネルレコーディングを得た。
【0179】
上記で記載されるとおり、細胞膜フラグメントを、二分子層形成に対して脂質二分子層に導入した。
【0180】
方法
細胞株、タンパク質、膜の調製、および電気的レコーディング
KcsAは、ポーリンなしのE.coli株PC2889を用いてpQE60(Qiagen,Germany)中で過剰発現された。細胞を、圧力に基づく細胞ホモジナイザー(TC5−612,Stansted Fluid Power,UK)を用いて分解して、膜を水中の遠心分離によって単離した後に液体窒素中で凍結した。沈降した膜を、150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5中に再懸濁した。膜調製物は、それぞれ、バルクおよびシングルのチャネルレコーディングについて、1:106(全ての場合について、希釈は、別段言及しない限り容積:容積として報告する)および1:108に希釈した。バルクおよびシングルのチャネルレコーディングは、150mMのKCl、10mMのコハク酸、pH4の中で行った。ブロッキング実験は、150mMのBaCl2、10mMのHepes、pH7.5(+50mV、n=5)を含む液滴を用いて行った。
【0181】
hERG。−80℃で保管したKCNH2遺伝子を過剰発現する増殖停止したHEK293細胞(Invitrgen,UK)を超音波処理した(Sonorex,Bandelin,Germany,320W,4℃,3分)。次いで、膜を遠心分離によって単離し、緩衝液(350mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で洗浄した。最終的に、膜を同じ緩衝液中に1:104希釈した。次いで膜を冷却している低融点アガロース(Sigma,総容積10μL,1:10サンプル:アガロース,1.5%,<60℃)中に組み込み、デバイスアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。電圧依存性の電流応答は、メタンスルホンアニリド薬物E−4031 (1mMのE−4031,n=5,Invitrogen,UK)の有無で測定し、ここでは+100mVの電圧を印加した。シングルチャネルのレコーディングのために、本発明者らは、細胞膜調製物をさらに希釈する(1:20)。
【0182】
NMDAレセプター。ヒトNR1−1a/NR2Aレセプターサブユニットは、接着したマウス線維芽3T3細胞株中で発現された。培養フラスコから細胞を機械的に剥離した後、細胞を等張性緩衝液で洗浄し(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5で3回)、次いで細胞を30秒の超音波(Sonorex,Bandelin,Germany,320W)および4回の凍結−融解サイクルによって機械的に破壊した。上記の緩衝液中での遠心分離および洗浄によって膜を単離した後、サンプルを同じ緩衝液中に希釈した(1:103)。次いで、膜を含むアガロースを、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に配置した。次いで、膜を、それぞれバルク電流レコーディングについては1:5000およびシングルチャネルレベルについては1:500000の総希釈で凝固の前に、冷却しているアガロース(1.5%)中に組み込んだ。140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5の中の10μMグルタミン酸塩および10μMグリシンの添加によって、膜の脱分極後にレセプターの活性化が生じた(+50mVの電圧を印加した,n=5)。膜調製物(1:100)のさらなる希釈の際に、シングルチャネルが記録され得る(+50mVの電圧を印加)。
【0183】
KATP。KATPチャネルに関しては、Kir6.2およびSUR1(スルホニル尿素レセプター)がMin6細胞で同時発現された。凍結された細胞を、3回の凍結−融解サイクルに供した後に、それらを1分間超音波処理した(4℃,Sonorex,Bandelin,Germany,320W)。遠心分離による膜の単離後、膜を、等張性緩衝液(140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で洗浄して、1:5000希釈した。膜を、冷却しているアガロース(1.5%)と混合することによって(1:10のv:v)、アガロース中に組み込んで、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。シングルチャネルレコーディングのために、サンプルをさらに10倍に希釈した。電気的なレコーディングを、140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5中で、液滴およびアガロース支持体の両方の中で行った。バルク電流のブロックは、グリベンクラミド(1mM、+50mV、n=5)を用いて得た。
【0184】
リンパ球。SupT1細胞を、懸濁培養物として増殖して、緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で4回洗浄した。次いで、細胞を低浸透圧性ショックによって溶解し、膜を遠心分離および等張性緩衝液(140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中での洗浄によって単離した。膜を1:104希釈して、この溶液の1μLをアガロースコーティングしたカバースリップ(1.5%)の上に沈着した。バルク電流ブロッキングのために、4−アミノピリジン(非特異的なK+チャネルブロッカー)を用いた(5mM,+50mV)。特異的なブロッキングのためには、カリオトキシン(Kaliotoxin)(特異的なKv−チャネルブロッカー)を用いた(50μM,+50mV)。
【0185】
赤血球。以前に公開されたプロトコール(Gibsonら,J Physiol:511(PtI),225−234(1998))に従って、赤血球を、鎌形赤血球または健常な個体の全血から、遠心分離とPBS緩衝液(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのリン酸水素二ナトリウム、2mMの一塩基性リン酸カリウム、pH7.4、1%グルコース含有)中での4回の洗浄と、残りの血液構成要素を吸引によって除去することによって単離した。細胞を低塩緩衝液(15mMのNaCl、10mMのEDTA、10mMのHepes、pH7)中での低浸透圧性ショックによって溶解した。次いで、膜を遠心分離によって沈降させ、低塩緩衝液中で4回洗浄した後に、等張性緩衝液(150mMのNaClまたはKClまたはCaCl2、10mMのHepes、pH7.4)中に再懸濁した。Gardosチャネル実験のために、膜を、150mMのKCl、10mMのHepes、pH7を含有する等張性緩衝液中に再懸濁した。Ca2+の有無の液滴(150mMのKCl、+/−5mMのCaCl2、+/−5mMのKCl、10mMのHepes、pH7、+50mV、n=5)を用いてCa2+依存性のK+流を観察した。鎌形赤血球およびコントロールの膜の電気的なレコーディングのために、膜調製物を、等張性緩衝液(150mMのNaClまたはKClまたはCaCl2、10mMのHepes、pH7.4)中に1:105希釈して、アガロース(1.5%,v/v 1:10希釈)中に組み込み、次にこれをデバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。シングルチャネルレコーディングのためにはさらに1:20の希釈が必要であった。
【0186】
ミトコンドリア。以前に公開されたプロトコール(Basoahら、FEB Lett:579,6511−6517(2005))に従って、ブタ肝臓細胞を、モーター式攪拌器によって駆動されるTeflonガラスホモジナイザーを用いて、氷上で溶解した(Heidolph,Germany)。インタクトな細胞を含む大きい砕片を、4℃で10分間1,100gで遠心分離することによって除去した。ミトコンドリアは最初に、4℃で10分間11,000gでスピンすることによってペレット化し、次いで5mLのPBSで1回洗浄した後に、11,000gで5分間スピンして、最終のミトコンドリアペレットを得た。ミトコンドリアペレットを氷冷の酸素消費緩衝液(0.25Mのスクロース、5mMのMOPS、5mMのKH2PO4および5mMのMgCl2、pH7.4)中に再懸濁し、−80℃で保管した。融解後、ミトコンドリアを等張性のカリウム緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で2回洗浄し、5分間超音波処理し(Sonorex,Bandelin,Germany,320W)、緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)の中に1:104希釈した。次いで、膜を冷却アガロース(Sigma、総容積10μL,1.5%)中に1:10希釈して、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着させた。
【0187】
液滴二分子層デバイスの再構成およびアセンブリ
1mLあたり5×106個の細胞という出発濃度から1:104〜1:107という膜フラグメントの希釈の変化によって、二分子層中のチャネルの数をコントロールすることができる。チャネル取り込みは、冷却しているが凝固してない1〜1.5%のアガロース支持体に対して細胞フラグメントを1:10の比(総容積10μL)で添加することによって、またはヒドロゲル支持体の頂部でこの膜をピペッティングすることによって達成され得る。マイクロチャネルデバイスを、前に記載のとおり、ポリ(メチルメタクリレート)から微細加工した(Thompsonら、Nano Lett:7,3875−3878(2007))。このデバイスを、スライドの頂部においた後に、アガロース支持体層を、ヘキサデカン−DPhPC溶液(無水ヘキサデカン中に10mMの1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン,Sigma)中に浸漬する。液滴を含む緩衝液を最初に、別の油中脂質型溶液中にピペッティングして、これによって、液滴周囲の単分子層の形成を可能にする。これらの油中脂質型溶液(2−15分)中での短期間の平衡後に、脂質の単分子層は、水相と疎水性の油中脂質型溶液との間の界面でアセンブルされる。次いで、液滴を、ピペッティングによって、調製された脂質−平衡化アガロース基質上に導入する。ヒドロゲルの表面上の脂質単分子層との接触の際、二分子層が形成される。液滴二分子層は、倒立顕微鏡(Ti−Eclipse;Nikon Instruments)を用いて画像化された。
【0188】
電気的レコーディング。バルクおよびシングルチャネルのレコーディングは、本発明者らの以前に記載した方法を用いて行った(Heronら、J Am Chem Soc:129,16042−16047(2007))。マイクロマニュピュレーターを用いて、電極を、液滴(100μmの直径、Ag/AgCl,Nashege,Japan.図1A)中に挿入した。電流を、この電極と対応するAg/AgCl接地電極(アガロース支持体中)との間で測定する。電流を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments)を用いて記録した。このシグナルは、NI−DAQ(National Instruments,UK)を用いてデジタル化した。電気的トレースは、獲得後にフィルターにかけて(100HzのローパスGaussianフィルター)、WinEDR(University of Strathclyde,Institute of Pharmacy and Biomedical Sciences)を用いて分析した。脂質二分子層は典型的には、150mVの電圧に抵抗できたが、シールは100GΩの過剰で維持されていた。電気的なノイズレベルは典型的には、±01.0pArms程度の大きさ(100kHzの記録帯域幅)であった。
【0189】
バルク電流ブロッキング。それぞれの細胞株の再構成後、ブロッカーの有無において液滴のバルク電流を測定して、平均値および標準偏差を決定した(全ての場合にブロッカーが有無の両方でn=5)。
【0190】
組み換え過剰発現細胞からのイオンチャネルの電気的レコーディング
細菌のカリウムチャネルKcsAを過剰発現するポーリンなしのE.coli株から単離された膜を、本発明の方法によって二分子層中に組み込んだ。膜調製物を、等張性緩衝液中に希釈した後、アガロース支持体中に組み込む。Ba2+の添加によって、電流中の93%ブロックが生じた(図21a)。膜調製物のさらなる希釈の際、シングルチャネルが低い開確率および62+/−2.6pSというコンダクタンス(図21a)で観察された。形質転換なしのE.coli細胞を用いるコントロールの実験では、イオン電流は示されなかった。
【0191】
液滴二分子層への真核生物イオンチャネル再構成
液滴二分子層への真核生物イオンチャネルの再構成に必要なステップを図20に示しており、ここでは(1)真核生物細胞が破裂され;(2)細胞膜が単離および希釈され;(3)膜がヒドロゲル中に組み込まれ;(4)油中リン脂質の混合物が次に加えられ、単分子層は、ヒドロゲル−油の界面で自己アセンブルする;(5)ナノリットルの水性液滴を導入し、ここでまた第二の脂質単分子層が得られる;(6)二分子層は、両方の単分子層が接触されるときに形成する。イオンチャネルの自発的な挿入が、二分子層形成の間に生じる。
【0192】
真核生物のイオンチャネルの再構成のためのこの方法は、種々のサンプルおよび条件に適合され得る。本明細書に含まれるこの実施例では、細胞は組織(図23b)、血液(図23a、c、d)または細胞培養物(図21b−d,22)由来;懸濁物(図22)または接着性の細胞株(図21b−d)由来であった。細胞の破壊は、超音波(図21)、凍結−融解,(図21)、低浸透圧性ショック(図23a、c、d)または押し出しを用いて達成した。ヒドロゲル支持体への膜の組み込みは、支持体作製の間に細胞フラグメントを添加すること、または膜溶液をヒドロゲル支持体上にピペッティングすることによって達成された。膜フラグメントの希釈を変化することによって、二分子層中のチャネルの数を制御することも可能であった。
【0193】
本発明のこの方法の普遍性を試験するため、ある範囲の代表的な真核生物イオンチャネルを選択した。最初に、電圧ゲートのカリウムチャネルKv11.1(遺伝子KCNH2)を過剰発現する細胞由来の膜にまたがるイオン流束を測定した。Kv11.1(またはhERG)チャネルは、心筋活動電位の間の再分極に対して重要である18。hERGを過剰発現する増殖停止したHEK293細胞を、超音波処理によって機械的に破壊して、膜を遠心分離によって単離して、洗浄した。最終的に、膜を緩衝液(350mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中に再懸濁し、希釈した後にアガロース層に組み込んだ。電圧依存性のバルク電流応答が観察され、イオン電流は、hERGブロッカー,E−4031によってブロックされた(97% 図21b)19。細胞膜調製物のさらなる希釈の際、シングルチャネルトレースを、前に報告された値と同様の8+/−0.21pSという平均コンダクタンスで記録した(図21b)。
【0194】
リガンドゲートのイオンチャネル型のN−メチル−D−アスパラギン酸塩(NMDA)レセプターも研究した。組み換えヒトNMDAレセプターを発現するマウスの線維芽細胞(ltk−)細胞を、等張性緩衝液中で洗浄した後に、機械的破壊、膜の単離および希釈(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5)をした。次いで、二分子層形成の前に膜をアガロース層中に組み込んだ。グルタミン酸塩(10μM)およびグリシン(10μM)の添加によって、レセプターの活性化と一致してイオン流束の98%増大が示された(図21c)。細胞調製物をさらに、希釈したとき、シングルチャネルが観察され、これによって、NMDAレセプターに典型的な緩徐な開口と閉鎖の事象が示された。47.3pS(+/−3.2)での観察されたコンダクタンスレベル、および36.2pS(+/−3.55)というサブ−コンダクタンスレベルは、文献中で以前に報告された値に相当する。
【0195】
KATPを過剰発現するMin6細胞由来の膜を横切るイオン流束を測定した。これらのチャネルは、4つのKir6.2および4つのスルホニル尿素レセプターサブユニットからなり、これが膜上でアセンブルして活性な複合体を形成する。バルク電流は、グリベンクラミド(1mM)(特異的なKATPチャネルブロッカー)によってブロックされた(91%;図21d)25。細胞調製物のさらなる希釈によって、シングルチャネル(図21d)が卵母細胞中での以前の観察と同様に50+/−3.1pSというコンダクタンスで明らかになった。
【0196】
初代細胞およびミトコンドリアからのイオンチャネルの電気的レコーディング
シングルチャネル電流および初代リンパ球中の内因的に発現される電圧ゲートのカリウムチャネルからのバルク電流の電圧依存を記録した(図22a)。リンパ球カリウムチャネルは、免疫応答の間のシグナル伝達に重要であり、T細胞の膜電位およびカルシウムシグナル伝達を調節する。SupT1細胞の懸濁物を、低浸透圧性ショックによって溶解して、膜を遠心分離によって単離して、等張性緩衝液中で洗浄した。次いで、膜を希釈した後に、アガロース−コーティングしたカバースリップ上に沈着した。Kv1.3に典型的な電圧ゲートの挙動が観察され、ここではより高電圧で開確率が増大した(図22b)。Kv1.3の同一性は、非特異的な(5mMの4−アミノピリジン,96%ブロック、図22D)K+および特異的なKv−チャネルブロッカー(50μM カリオトキシン、99%ブロック、図22E)を用いて確認した。この薬理学的なプロフィールおよび電流電圧挙動(図22B)から、チャネルをKv1.3と特定した。
【0197】
本発明の方法の1つの利点は、従来のパッチクランプを用いてアクセスが極めて困難である膜からイオン電流を測定することができるということである。これは、赤血球およびミトコンドリアの膜の両方を用いて検査した。
【0198】
それらのサイズに起因して、赤血球は、パッチクランプによってアクセス可能な最小かつ最も困難な細胞の1つである。全血からの赤血球の単離後、細胞を低浸透圧性ショックによって溶解し、膜を等張性緩衝液中に再懸濁する。Ca2+(5mM)の有無で実験を行うことによって、Ca2+誘導性のK+流束が観察され、これは、Gardosチャネル由来の電流と一致してカルシウムの存在下で7倍に増大した(図23a)。Gardos K+イオンチャネルは、赤血球の膜において最も普遍的なチャネルである。
【0199】
赤血球の膜を、健常な個体および鎌状赤血球貧血に罹患した個体の両方から再構成した。鎌状化は、赤血球細胞膜の陽イオン透過性の変化を介して生じることが公知であり、細胞の脱水をもたらす;しかしこの初めの段階の分子基礎は、依然として議論の対象である。
【0200】
赤血球膜を、ヒドロゲル中に組み込んで、本発明の方法で研究した。健常な個体から再構成した膜は、コンダクタンスをほとんど示さないかまたは全く示さず、鎌形赤血球由来の膜は、Na+、K+およびCa2+について極めて伝導性であって、本質的にオーム応答であった(図23c)。サンプル調製物(1:20)のさらなる希釈の際、シングルチャネルレコーディングを、健常な個体の膜には存在しない鎌形赤血球由来の膜から得た(図23c)。明らかにこの実験単独では、このチャネル活性が特定のチャネルに帰することはできないが、このことは、赤血球膜内に存在するイオンチャネルがこの手順を用いて研究できる容易さを強調するように機能する。
【0201】
赤血球よりも小さいオルガネラおよび細胞を、従来のパッチクランプで検討するのは極めて困難である。本発明の方法は、研究される細胞の大きさで制限されないので、ブタの肝臓から単離されたミトコンドリア膜を、本発明による二分子層で再構成した。単離されたミトコンドリアの機械的な破壊後、膜を分離して、等張性緩衝液中で洗浄した後、液滴二分子層中に再構成した。シングルチャネルおよびバルク電流の両方が、カリウム塩またはカルシウム塩のいずれかを用いて決定された(図23b)。
【0202】
考察および適用
本明細書に示されるデータは、広範な種々のイオンチャネル型およびサンプル条件からの膜タンパク質の首尾よい再構成を示す。これらの実験には、鋭敏な電流増幅器以外に専門的な装置を必要とせず、膜タンパク質再構成は、全ての場合に信頼性があり、再現可能である。
【0203】
本発明の方法を用いて、真核生物膜含有のDHBの調製は迅速、直接的であり、かつDHBアレイにおける大規模平行測定に容易に拡大できる。DHBアレイに存在する個々の二分子層由来のイオン電流および蛍光シグナルをモニターすることができる(1cm2あたり約1012個の二分子層)。真核生物の膜タンパク質を含むDHBアレイによって、電気的および化学的な刺激に対する種々の膜タンパク質の応答を測定することが可能になる。
【0204】
本発明の方法の重要な特徴は、界面活性剤精製の必要なしに合成の脂質二分子層中の細胞膜から直接のイオンチャネルの取り込みである。界面活性剤なしの再構成プロトコールは、1970年から報告されているが、これらのアプローチは、信頼できず、かなりのサンプル調製を必要とする。この領域において近年の研究がないことはおそらく、この方法を用いて効率的なタンパク質取り込みを達成するのが困難なことを示す。
【0205】
原核生物および真核生物の両方のチャネルを二分子層に組み込むことが比較的容易であることで、多くの実験に関して、本発明の方法はパッチクランプに対する有用な代替であることが示される。赤血球およびミトコンドリアからのイオンチャネルの再構成はまた、本発明の方法が他の小さい細胞および細胞区画(最も習熟したパッチクランパー以外は現在アクセス不能である)の研究において適用を有することを示す。今のところ、より小さい対象は、巨大プロテオリポソームの使用によって、または膜ウイルス構成要素の非定型的に大きい改変体を研究することによって、パッチピペットのナノスケールの制御を通じてのみパッチされ得る。本発明の方法を用いて、シングルチャネルのレコーディングは、比較的直接的なサンプル調製によって、およびパッチピペットの顕微鏡的位置決めの必要性なしに達成され得る。
【0206】
イオンチャネルは、大部分はチャネル機能のハイスループットの問い合わせ(interrogation)ができる技術がないせいで、開発中の目標クラスのままである。多数の液滴二分子層を、本発明の方法を用いて生成することが容易であるので、そこでは現在、過剰発現される標的および初代細胞の両方を用いて、イオンチャネルのハイスループットのスクリーニングの見込みのあるツールがある。
【0207】
例えば、数百のクローニングされたイオンチャネルに対する結合親和性について薬物ライブラリーを平行してスクリーニングすることが可能であり得、ここでは細胞全体(ホールセル)のパッチクランプ電気生理学のものよりも解明度が大きい。このアプローチによって、薬物開発の間の潜在的な望ましくない副作用についての情報を得ることができる。
【0208】
現在の方法におけるよりもかなり多数の膜タンパク質を迅速にスクリーニングする能力に起因して、安全性トライアルもまた、患者での一般的な薬物試験において通常は見出されない膜タンパク質の異なるアイソフォームおよび変異体のクローンで行ってもよい(すなわちここでは変異体が集団の小画分に存在する)。初代組織サンプルからタンパク質を再構成することが可能であるので、ここではごくわずかな細胞しか必要としない。薬物は、送達の時点で患者組織に対する副作用についてスクリーニングされ得る。
【0209】
この再構成方法に必要な少量の材料(1測定あたり1個未満の細胞)、電気的コントロール、および二分子層の両側に対するアクセスは、この技術の特に利点である。二分子層を画像化する能力によってまた、膜タンパク質応答の広範な光学的測定が開発される。イオンチャネルと同様に、本発明の方法はレセプターキナーゼ、Gタンパク質カップリングレセプターおよびトランスポーターを含む膜タンパク質の他のクラスを問い合わせる(interrogate)ために用いられ得る。
【0210】
薬物安全性およびQT延長スクリーニング。
心電図のQT間隔とは、心室再分極を測定するものである。この間隔は、特定の薬物とイオンチャネルとの相互作用によって有害に延長され得る。QT間隔の延長は、頻脈性不整脈および心室性不整脈をもたらし得、もしこれが心疾患または他の心臓疾患と合併して生じれば、突然死が生じる場合がある。hERG(Kv11.1)イオンチャネルの阻害は、QT間隔延長の最も一般的な原因である。
【0211】
この遅延した心室再分極は特定のFDAの認可した薬物によって誘導され得るという発見のために、薬物のライセンシングを管理するいくつかの国家機関は、hERG規制要件に対する新規な化合物のスクリーニングを行った。hERGイオン電流における有害な変化についての新規な化合物のスクリーニングは、製薬会社にとって主要な課題である。hERGチャネルについて低コストのハイスループットスクリーニングアッセイの必要性は、現在製薬産業において不可欠である。
【0212】
現在のインビトロスクリーニング方法は、電圧−クランプ、蛍光または結合のアッセイを包含する。このような方法のうち、電圧−クランプ電流レコーディングのみが、現在、hERG阻害を決定するのにおける「究極の基準(gold standard)」をもたらす。
【0213】
予備実験によって、DHBのプロトタイプのアレイは、数百程度の二分子層として1cm2あたり1012個という二分子層密度で作製され得ることが示された。各々の個々の二分子層からのシングル−チャネルまたはバルクの電気レコーディングを記録してもよい。各々の二分子層からの電流応答は、蛍光顕微鏡を用いて画像化され得る。
【0214】
図12によって、試薬が、マイクロピペット619またはマルチボアキャピラリー621を有するマイクロピペットからの注入によって水滴609中に導入され得ることが図示される。これによって、既存の液滴へ化合物を導入する簡易な方法が得られる。
【0215】
二分子層のアレイを生成するためのデバイス
図14は、二分子層のアレイを生じるために用いられ得るデバイスを示す。このデバイスは、ベース842およびリッド841を備える。このベース840は、下部チャネル中にアガロースを充填され、次いで脂質/油溶液を充填されて、平衡にされ、その結果単分子層がアガロース基質を形成する。細胞膜フラグメントまたは細胞全体(ホールセル)を、二分子層への組み込みのためにアガロース上にピペッティングしてもよい。リッド841は、バルク水溶液に浸漬され、リッドを作製するために用いられるプラスチックとの親水性相互作用を通じて、小滴がリッド上に残る。次いで、リッドをベースの中で低くして、その結果液滴は、油中に平衡するまで保持され、次いでその後にリッドが低くされて、さらに液滴が下にあるアガロースと接触される。次いで二分子層のアレイが自然に形成され、ここで液滴がアガロース表面と接触する。このリッドを通じた液滴の各々に対して接続された電極を用いること、およびアガロース中の共通の電極によって、アレイ中の各々の二分子層は個々に、電気的測定のためにアクセス可能である。デバイスのこの性質によって、個々の二分子層844を顕微鏡で下から画像化することが可能になる。
【0216】
図15に示されるとおり、二分子層のアレイは、実験的スクリーニングに用いられる、六角形のPDMSスタンプで形成され得る。150mm直径のウェルを製造し、結果として、1cm2あたり360個の二分子層という二分子層密度を生じた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、二分子層、例えば、脂質二分子層に、二分子層を生成する方法に、および二分子層の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人工的な平面の脂質二分子層は、生物学的な膜の単純化されたモデルとして役立ち、イオンチャネルおよびタンパク質細孔の電気的な特徴づけのために広範に用いられる(ミューラー・ピー(Mueller,P.)ら、ネイチャー(Nature)1962年19A、p979−980;ホワイト・エス・エイチ(White,S.H.)1986年.編集、ミラー・シー(Miller,C.)プレナム・プレス(Plenum Press):ニュー・ヨーク(New York)。
【0003】
パッチクランプもまた、生物学的な膜を研究するために用いられ、例えば、パッチクランプはシングルチャネルレコーディング(single channel recording)(SCR)に用いられる場合が多い(ザクマン・ビー(Sakmann,B.)およびネーアー・イー(Neher,E.)、アニュアル・レビュー・オブ・フィジオロジー(Annual Review of Physiology)1984年 46,p455〜472)。用いられる他の方法としては、切り取りパッチ(excised−patch)、チップ・ディップ(tip−dip)およびオンチップ(on−chip)の方法が挙げられる。
【0004】
細胞全体(ホールセル)のパッチクランプは、チャネルを検査する多用途で、かつ鋭敏な手段であるが、極めて時間浪費的でかつ困難であり、細胞膜の異種の性質によって煩雑になる場合が多い。対照的に、人工的な平面の脂質二分子層は、この系の構成要素を制御し、かつ精製されたタンパク質を研究するために用いられ得る。
【0005】
平面の脂質二分子層は通常、有機溶媒中の脂質の溶液が2つの水性区画を隔てる開口に直接加えられるペインティングによって(ミューラー・ピー(Mueller,P.)ら、ネイチャー(Nature)1962年19A、p979−980;ホワイト・エス・エイチ(White,S.H.)1986年.編集、ミラー・シー(Miller,C.)プレナム・プレス(Plenum Press):ニュー・ヨーク(New York))、または2つの空気/水の単層が開口を過ぎて隆起されるLangmuir−Blodgett技術の変法(モンタル・エム(Montal,M.)およびミューラー・ピー(Mueller,P.)、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)1972年 69,p3561−3566)によって形成される。広範に用いられるが、平面の脂質二分子層は、調製することが困難であり、それらの寿命が短いせいで、多くの状況において、それらの使用は妨げられる。
【0006】
二分子層を形成するための別のエマルジョンベースのアプローチもまた提唱されており(ソフィーナ・エル・エム(Tsofina,L.M.)ら、ネイチャー(Nature)1966年 212,p681−683)、ここでは二分子層を、油中の脂質の溶液に浸漬した水面の間で作製する。非混和性の脂質/油の溶液中に浸漬される場合、水面は自発的に脂質単分子層を自己アセンブリし(セベク・ジー(Cevc,G.)、ホスホリピッド・ハンドブック(Phospholipids handbook)1993年、編集、セベク・ジー(Cevc,G.),マルセル・デッカー(Marcel Dekker),ニューヨーク(New York);セダン・ジェイ・エム(Seddon,J.M.)およびテンプラー・アール・エイチ(Templer,R.H.)1995年、編集、リポウスキー・アール(Lipowsky,R.)およびサックマン・イー(Sackmann,E.),エスゼビア(Elsevier),アムステルダム(Amsterdam),オックスフォード(Oxford))、そして2つの水性成分由来の単分子層が接触される場合、それらは、一緒に「ジップ(zip)」して、脂質二分子層を形成することができる(チーエン・エイチ・ティー(Tien,H.T.)1974年.エム・デッカー(M.Dekker)、ニューヨーク(New York);フジワラ・エイチ(Fujiwara,H.)ら、ザ・ジャーナル・オブ・ケミカル・フィジクス(The Journal of Chemical Physics)2003年 119,p6768−6775)。近年の研究では、微小流体の流れ(マルムシュタット・エヌ(Malmstadt,N.)ら、ナノ・レターズ(Nano Letters)2006年 6,p1961−1965;フナコシ・ケー(Funakoshi,K.)ら、アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)2006年 78,p8169−8174)および液滴(フナコシ・ケー(Funakoshi,K.)ら、アナリティカル・ケミストリー(Analytical Chemistry)2006年 78,p8169−8174;ホールデン・エム・エー(Holden,M.A.)ら、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティー(Journal of the American Chemical Society)2007年 p8650−5)を脂質/油の溶液中に接触させて、例えば、シングルチャネルレコーディング実験中で、適切な二分子層を作製し得ることが示された。
【0007】
さらに近年では、以前の特許出願、すなわち、国際公開第WO2009024775号パンフレットは、水和支持体(例えば、ヒドロゲル)および親水性体(例えば、水滴)を、油中脂質型(lipid−in−oil)溶液中に浸漬して、水和支持体と親水性体との間の安定な人工二分子層の形成を生じることによる、人工的な脂質二分子層の形成を記載している。このような二分子層は、二分子層に挿入された界面活性剤可溶化タンパク質の研究のために用いられ得る。しかし、このせいで、首尾よく研究され得る種々のタンパク質は限定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、二分子層における膜構成要素の分析および研究を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の局面によれば、二分子層を生成するための方法が提供され、この方法は以下:
(a)疎水性媒体に浸漬された水和された支持体(水和支持体)および親水性体を提供するステップであって;
両親媒性分子の第一の単分子層が、疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成され、両親媒性分子の第二の単分子層が疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成される、ステップと;
(b)第一の単分子層を第二の単分子層と接触させて、両親媒性分子の二分子層を形成するステップであって、
細胞膜構成要素を含む、細胞膜の少なくとも一部が、水和支持体の中、および/または上で、ならびに/あるいは親水性体中で提供され、
その結果細胞膜の構成要素が、二分子層形成の間または後に二分子層に組み込まれるステップと、を包含する。
【0010】
驚くべきことに、水性の構成要素(水和支持体および/または疎水性体)を細胞膜に組み込むことによって、細胞膜の構成要素の少なくともいくつかを組み込んでいる二分子層が得られる。従って、任意の膜、または目的の膜タンパク質は、細胞膜のフラグメント由来もしくは全体的なインタクトな細胞膜由来、または精製された真核生物膜構成要素由来の二分子層に容易に再構成され得る。これによって、このような膜タンパク質の、例えば、電気的レコーディングまたは蛍光顕微鏡による、直接的なインビトロの特徴づけが可能になる。これは、細胞膜から直接ではなく、既存の二分子層に対する精製された膜タンパク質またはタンパクリポソームの組み込みに一般的に関与する、先行技術の技術とは対照的である。
【0011】
従って、本発明の方法は、両親媒性分子の二分子層を自発的に形成するだけでなく、水和支持体および/または親水性体由来の細胞膜構成要素も自発的に組み込む。
【0012】
本発明は、膜構成要素が研究のために二分子層に容易に組み込まれ、かつ必要なサンプルの準備は最小であるという利点を提供する。例えば、任意の膜タンパク質を、本発明の方法を用いて二分子層に再構成してもよい。詳細には、この技術によって、膜調製物由来の真核生物膜タンパク質が二分子層に再構成されることが可能になる。
【0013】
今まで、真核生物細胞膜構成要素は、人工の二分子層に組み込まれている。しかし、これらの実験は、標的タンパク質の長期にわたる界面活性剤に基づく精製およびタンパクリポソーム中への再構成、および/または二分子層とのタンパクリポソームの融合を必要とする。これらのステップの各々は困難である。従って、この方法は、このような真核生物膜が人工的な二分子層に容易に組み込まれることを可能にすることが特に有益である。真核生物膜タンパク質および他の膜構成要素の直接的な再構成によって、真核生物の膜タンパク質機能のインビトロ研究、および先行技術では以前には不可能であった、タンパク質以外の膜構成要素の研究が可能になる。
【0014】
使用の容易さによって、細胞膜タンパク質および他の膜構成要素を研究するための従来の方法よりもハイスループット(高処理能力)のかなり大きい能力が得られる。
【0015】
この方法の別の利点は、極めて効率的な再構成に起因して、極めてわずかな細胞物質しか必要としない、例えば、1つの二分子層あたり1つ未満の細胞を要し得るということである。発現が低レベルである膜タンパク質を用いて、目的の膜タンパク質を安定に発現するための十分に開発された細胞株の必要性を回避してもよい(例えば、細胞全体(ホールセル)パッチクランプにおいてのように)。さらに、生きた細胞を必要とせず、将来の使用のための膜タンパク質サンプル(膜物質)の長期貯蔵が可能になる。
【0016】
本発明は、直接的な単一分子測定または天然の細胞膜構成要素のバルク測定の利点を提供し、これによって目的の分子が結合する機構的洞察が可能になる。
【0017】
有利には、細胞膜構成要素を、それらの天然の脂質環境以外のサーファクタントまたは界面活性剤中で研究のために調製する必要はない。例えば、膜タンパク質再構成のための規定のタンパクリポソーム(タンパク質含有の脂質小胞)の事前の調製は必要としない。
【0018】
有利には、本発明は、細胞膜構成要素、例えば、膜タンパク質の研究を可能にし、ここではこのタンパク質の機能的な発現、真核生物の発現系における翻訳後修飾、および界面活性剤精製の必要性がないことによって、タンパク質機能の維持が可能になる。
【0019】
二分子層への目的の膜タンパク質の再構成は、活性の変化を生じないと考えられる。膜タンパク質のサイトゾル(細胞質)タンパク質ドメインは、強調された再構成手順を通じて水性環境で維持される。
【0020】
さらに、タンパク質は、界面活性剤精製のプロトコールとは対照的に、その天然の脂質包埋環境から除去されることはなく、ここでは天然の挙動は、疎水性膜貫通ドメインまたは親水性ドメインのいずれかのタンパク質変性に起因して失われる場合がある。
【0021】
膜タンパク質のような目的の膜構成要素を含む、真核生物膜または膜フラグメントの直接の再構成によって、細菌中の異種タンパク質発現が、発現系から人工的な脂質二分子層への移動のために十分な量のタンパク質を必要とするという認識されることの多い概念は、回避される。真核生物細胞株における発現によって、例えば、真核生物膜タンパク質の正確な折り畳み、オリゴマー化および機能についての要件であることが示されている、翻訳後修飾を行うことが可能になる。
【0022】
二分子層を形成するための両親媒性分子の単分子層の接触に関連して本明細書で用いる「接触」または「接触する」という用語は、別々の両親媒性分子の単分子層から両親媒性分子の二分子層のアセンブリを可能にする、現実的な物理的接触および/または十分な近接性を意味することが理解される。
【0023】
「浸漬された」または「浸漬する」について言及する場合、この浸漬とは、部分的な浸漬であってもまたは完全な浸漬であってもよい。
【0024】
「膜タンパク質」について言及する場合、この用語は、膜貫通タンパク質、内在性膜タンパク質、および末梢膜タンパク質、ならびに、膜結合タンパク質または膜固着タンパク質を包含する。この膜タンパク質は、任意の生物体由来および任意の膜由来であってもよい。
【0025】
細胞膜構成要素は、細胞膜、例としては、細胞内膜、例えば、細胞下のオルガネラおよびウイルス膜などの上でまたは中で典型的には見いだされる、脂質、ペプチド、タンパク質および糖のような任意の構成要素を含んでもよい。
【0026】
「精製された膜構成要素」とは、界面活性剤または人工脂質を用いて精製された膜結合タンパク質を包含し得る。
【0027】
ステップ(a)では、疎水性媒体に浸漬された、水和支持体および親水性体が提供されるべきであり、ここでは、両親媒性分子の第一の単分子層が、疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成され、かつ両親媒性分子の第二の単分子層が、疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される。
【0028】
両親媒性分子の第一の単分子層は、親水性体上および/または疎水性媒体中の両親媒性分子の供給に起因して疎水性媒体と親水性体との間の界面上で形成される場合がある。
【0029】
両親媒性分子の第二の単分子層は、水和支持体上および/または疎水性媒体中での両親媒性分子の提供に起因して疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される場合がある。
【0030】
一実施形態では、両親媒性分子が、疎水性媒体中で提供される。
【0031】
両親媒性分子の第一および第二の単分子層は、水和支持体および親水性体上で、各々が両親媒性分子を含む疎水性媒体中に置かれる場合、連続的に自己アセンブルし得る。
【0032】
別の実施形態では、両親媒性分子が、親水性体上におよび/または水和支持体上に提供される。
【0033】
両親媒性分子の第一および第二の単分子層は、水和支持体および親水性体上から、各々が疎水性媒体中に置かれる場合、連続的に自己アセンブルし得る。
【0034】
両親媒性分子の提供は、疎水性媒体中に水和支持体および/または親水性体を浸漬する前であっても後であってもよい。
【0035】
例えば、水和支持体および親水性体は、両親媒性分子が疎水性媒体上に添加される前に疎水性媒体に添加されてもまたは後に疎水性媒体に添加されてもよい。好ましい実施形態では、両親媒性分子を、水和支持体および親水性体が疎水性媒体中に浸漬される前に疎水性媒体に添加する。
【0036】
水和支持体および親水性体は、疎水性媒体に任意の順序で浸漬されてもよい。好ましい実施形態では、水和支持体は、親水性体が疎水性媒体に浸漬される前に疎水性媒体中に浸漬される。別の実施形態では、水和支持体を、親水性体が疎水性媒体に浸漬されるのと同時に疎水性媒体中に浸漬する。1つの実施形態では、水和支持体を、親水性体が疎水性媒体中に浸漬された後に疎水性媒体中に浸漬する。
【0037】
細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層が形成された後に、水和支持体中に提供されるか、および/または親水性体中に提供される場合がある。あるいは、またはさらに、細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層を形成する前に、水和支持体中にもしくは上に、および/または親水性体の中に提供され得る。従って、この二分子層が最初に形成され、次いで細胞膜と接触させられてもよい。あるいは、細胞膜構成要素を含む細胞膜は、二分子層の形成と同じ時点で組み込まれてもよい。
【0038】
細胞膜は、疎水性媒体の添加の前に水和支持体の上部に細胞膜を積層することによって提供され得る。細胞膜は、別のオプションとしてまたは添加において、親水性体中に、この親水性体が形成される時に組み込まれてもよいし、または親水性体中に、これが形成された後に注入されてもよい。細胞膜は、別のオプションとしてまたは添加において、水和支持体中に、この支持体が形成される場合組み込まれてもよいし、または水和支持体中に、これが形成された後に注入されてもよい。例えば、水和支持体がヒドロゲルを含む実施形態では、細胞膜は、凝固の前にヒドロゲル中に混合されてもよく、または細胞膜は、凝固後にヒドロゲルの上部に積層されてもよい。水和支持体がガラスまたは同様の固体基質である実施形態では、細胞膜を、ガラスまたは同様の固体基質の上面においてもよい。
【0039】
細胞膜に対する本明細書における全ての言及は、細胞膜構成要素を含む細胞膜を指す。
【0040】
一実施形態では、ステップ(a)は以下を包含する:
・水和支持体を提供するステップと;
・水和支持体の上に細胞膜を積層することによって、あるいは細胞膜が水和支持体中に混合される形態中で水和支持体を提供することによって、細胞膜を提供するステップと;次いで
・両親媒性分子を含む疎水性媒体中に支持体を浸漬して、疎水性媒体と水和支持体との間の界面上で形成される両親媒性分子の単分子層を生じるステップと;次いで
・疎水性媒体中に親水性体を浸漬し、結果として疎水性媒体と親水性体との間の界面上で両親媒性分子の単分子層を形成するステップと。
【0041】
この実施形態では、水和支持体は好ましくは、アガロースのようなヒドロゲルを含む。親水性体は好ましくは、水滴であり、これは疎水性媒体中にピペッティングされてもよい。疎水性媒体は好ましくは油である。両親媒性分子は好ましくは、油中脂質型溶液として疎水性媒体中で提供される脂質である。細胞膜は好ましくは、ヒドロゲルと混合されてもよいし、または水和支持体上にピペッティングされてもよい水溶液中で提供される、細胞膜フラグメントまたはインタクトな細胞である。
【0042】
細胞膜構成要素は、細胞全体(ホールセル)の細胞の膜として提供されても、または細胞膜のフラグメントとして提供されても、または細胞内の膜調製物として提供されても、またはインタクトもしくは断片化された細胞内オルガネラとして提供されてもよい。細胞膜フラグメントは、細胞の原形質膜由来であっても、または細胞内区画由来であってもよい。細胞膜またはそれらのフラグメントは、粗抽出物として生成されてもよいし、またはそれらは精製されてもよい。
【0043】
細胞膜構成要素は、細胞膜フラグメント由来のリポソームの形態であってもよい。細胞膜構成要素はまた、精製された構成要素由来のリポソームとして提供されてもよく、例えば、界面活性剤可溶化タンパク質および合成脂質が二分子層への組み込みのためにさらに提供されてもよい。
【0044】
外側細胞膜に加えて、またはそれとは別に、細胞内の構造の膜またはオルガネラ、例えば、ミトコンドリア膜および小胞体が、二分子層に組み込まれてもよい。
【0045】
細胞膜は、有益な実施形態では、真核生物性である。上記で注記したとおり、真核生物の膜が、容易かつ直接的に人工の二分子層に組み込まれるということは以前にはなかった。驚くべきことに、本発明は、これを達成する方法を提供する。
【0046】
本発明においては、真核生物の細胞膜は、二分子層に組み込まれ得ることも可能である。本発明では、ウイルスのエンベロープタンパク質のようなウイルスの構成要素が二分子層に組み込まれ得ることも可能である。
【0047】
細胞膜は、初代細胞の直接調製に由来してもよい。細胞膜は、真核生物から回収される組織、例えば臨床に由来する哺乳動物の組織(例えば、心臓組織、脳組織、神経組織、肝臓組織、腎臓組織、血球)由来であってもよい。この組織は、健康な組織または疾患に関与する病理学的な組織(例えば、癌組織、損傷した心組織、血球)を含んでもよい。
【0048】
膜タンパク質、例えば、真核生物膜タンパク質、例としては、オリゴマータンパク質および単一ポリペプチドタンパク質、例えば、イオンチャネル;レセプター;細孔;抗原;酵素;およびトランスポーターを、細胞膜の組み込みを介して二分子層に組み込んでもよい。膜タンパク質は、膜に対して末梢であってもよく、すなわち、ある程度の脂質二分子層のみを浸透してもよいし、または二分子層を貫通して包埋されてもよく、これは、脂質二分子層のモノトピック(monotopic)またはポリトピック(polytopic)な浸透を意味し得る。
【0049】
細胞膜構成要素を含む細胞膜は、膜タンパク質のようなタンパク質を含んでもよい。細胞膜構成要素を含む細胞膜は、1つ以上のイオンチャネルを含んでもよい。哺乳動物細胞などの真核生物由来の細胞膜は、内因性に発現される膜タンパク質および/または組み換え手段によって細胞で発現されるタンパク質、またはウイルス核酸から発現されるタンパク質を含んでもよい。目的のタンパク質は、細胞の原形質膜または細胞内の膜またはオルガネラの膜中で過剰発現され得る。
【0050】
原核生物由来の細胞膜は、組み換え手段によって発現される内因性膜タンパク質または外因性の膜タンパク質、例えば、真核生物膜タンパク質を含んでもよい。
【0051】
ウイルスエンベロープのようなウイルス構成要素由来の細胞膜は、ウイルスタンパク質、あるいはウイルスの宿主細胞由来のタンパク質、または宿主もしくはウイルスのいずれか由来の他の膜構成要素を含んでもよい。
【0052】
細胞膜は、内因性に発現されるか、または組み換え手段によって発現される任意の真核生物細胞株、例えば、任意の哺乳動物細胞株、例えば、HEK293、SupT1、CHO、Jurkat細胞または昆虫細胞、例えば、Sf9、ならびに単一細胞真核生物、例えば、酵母細胞(S.cerevisiaeなど)由来の膜タンパク質を含んでもよい。
【0053】
内因性膜タンパク質の発現レベルは、細胞膜中のタンパク質の量または濃度を上方制御または下方制御するように調節され得る。タンパク質の発現は、特定の増殖条件下で細胞培養物を調製することによって、または遺伝子発現レベルを調節する因子の添加を通じて調節され得る。タンパク質の発現は、細胞環境、例えば、温度または環境のガスもしくは化学物質の濃度の操作によって調節され得る。
【0054】
細胞膜構成要素は、インタクトな細胞全体(ホールセル)の膜から直接組み込まれ得る。
【0055】
細胞膜構成要素は、細胞膜フラグメントから組み込まれ得る。細胞膜フラグメントは、任意の以下の周知の方法によって作製されてもよい:
1.低浸透圧性溶解
2.凍結−融解
3.超音波処理
4.軽度−界面活性剤
5.膜の酵素消化
6.膜の機械的破壊
7.膜フラグメントの生物学的生成
【0056】
これらの技術は下にさらに詳細に記載される。
【0057】
本発明の方法のステップ(a)で形成される単分子層では、両親媒性分子が、親水性体および水和支持体の表面上に、水の界面から離れて、水の界面およびそれらの疎水性基(または「テール」)に向かって、それらの親水性基(または「ヘッド」)と配列される。単分子層中の両親媒性分子の方向は、単分子層が接触されるとき二分子層が形成されることを意味する。
【0058】
本発明で用いられる両親媒性分子は、脂質分子であってもよく、詳細には、サーファクタント分子が用いられ得る。この脂質分子は、脂肪アシル類、グリセロ脂質類、グリセロリン脂質類、スフィンゴ脂質類、ステロール類、プレノール脂質類、ポリケチド類、リン脂質類および糖脂質類からなる群より選択され得る。脂質は、細胞膜由来であってもよい。
【0059】
脂質とは、以下を含む任意の基を包含し得るモノオレイン;1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DOPC);1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1−パルミトイル−2−オレオイル−ホスファチジルエタノールアミン;および1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物。
【0060】
蛍光または非蛍光のプローブを疎水性または親水性媒体中に組み込んでもよい。例えば、親油性蛍光電位差測定色素、例えば、ジ−8−ANEPPSを、小胞を介し、水性の親水性体および/または水和支持体を介して二分子層に組み込んでもよい。
【0061】
単分子層中の両親媒性分子は、同じ種類のものであっても異なる種類のものであってもよい。例えば、二分子層の各々の単分子層は、産生された二分子層が非対称であるように異なる種類の両親媒性分子を含んでもよい。
【0062】
あるいは、各々の単分子層は、同じ種類の両親媒性分子を含んでもまたは両親媒性分子の種類の混合物を含んでもよい。
【0063】
疎水性化合物が、疎水性媒体または水和支持体または親水性体、例としては、例えば、膜タンパク質機能調節のための親油性のアゴニストおよびアンタゴニストに添加されてもよい。
【0064】
水和支持体は、固体または半固体の基質を含んでもよい。本明細書において用いる場合、「固体」および「半固体」という用語は、当業者にとってそれらの通常の意味を有することが理解される。本質的に、「固体」という用語は、剛性であってかつ変形に対して耐性である基質を指し、「半固体」とは、固体と液体との間の特性を有する基質を指す。好ましくは、半固体基質は、ある程度の可塑性を有するが、容器に入れられた場合その形状を維持するのに十分剛直であり、容器の形状に対して直ちに従うことはない。半固体基質の例はゲルである。
【0065】
水和支持体は、親水性であってもよい。水和支持体は、油中脂質型の溶液下で水の層を維持し得る任意の親水性基質を含んでもよい。あるいは、水和支持体は、親水性でなくてもよく、脂質単分子層は、表面に対する脂質分子の付着によって形成されてもよく、例えば、支持体の表面は、修飾された脂質が表面と反応し、結合して単分子層を形成するような表面であってもよい。
【0066】
水和支持体は、親水性ゲルを含んでもよい。好ましくは、両親媒性分子の単分子層は、疎水性媒体中で両親媒性分子の存在下に置かれた場合、水和した支持体の表面上で自己アセンブルする。この水和した支持体は、多孔性であっても多孔性でなくてもよい。好ましくは、この水和した支持体は多孔性である。この水和支持体はヒドロゲルであってもよい。このヒドロゲルは、化学的架橋されても光架橋されてもよい。水和支持体は、部分的に透明であってもまたは実質的に透明であってもよい。あるいは、この水和支持体は、ほとんどが不透明であってもよい。
【0067】
水和支持体とは、タンパク質または検体の分離ゲル、例えば、電気泳動ゲルであってもよい。分離ゲルは、タンパク質、DNAまたは他のサンプル(例えば、それらの大きさ、分子量もしくはイオン特性に基づいて分離された)を含んでもよい。
【0068】
水和支持体は、任意の厚み、好ましくは約1nm〜約10cm、さらに好ましくは約1μm〜約1cm、最も好ましくは約100μm〜約1cmの基質を含んでもよい。
【0069】
水和支持体は、未処理寒天、キトサン、ゼラチン、アガロース、ポリアクリルアミド、架橋したポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク(anodisc)材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(NaphionR)材料、メソ多孔質シリカ、水およびガラス、またはそれらの組み合わせから成る群から選択されてもよい。
【0070】
親水性体は、液体であっても、固体であっても、もしくは半固体であっても、またはそれらの混合物であってもよい。好ましくは親水性体は、水などの水溶液の液滴を含む。親水性体が水溶液の液滴である場合、これは好ましくは、約5nm〜10cm以上、好ましくは1μm〜1mmの直径を有する。一実施形態では、液滴は約100μmの直径である。親水性体は、水和された固体または半−固体支持体/基質を含んでもよい。この親水性体は、ヒドロゲル、例えば、水和されたアガロースを含んでもよい。この親水性体は、水性の細胞膜リポソームを含んでもよい。
【0071】
親水性体および/または水和支持体の組成物は、電流が保持されることを可能にする妥当な塩を含むように管理されてもよく、例えば、NaCl、KCl、MgCl2および/または他の塩が含まれてもよい。親水性体はまた、pHを制御するための一般的な緩衝化剤、例えば、Bis−tris、Tris、Hepes、リン酸ナトリウムおよび/またはリン酸カリウムを含んでもよい。塩はまた、他の理由のために、例えば、タンパク質を安定化するために、静電相互作用を制御するため、二分子層を横切る浸透勾配を制御するため、および/または蛍光プローブを活性化するために含まれてもよい。
【0072】
親水性体および/または水和支持体は、種々の量の他の構成要素、例えば、膜タンパク質機能のアゴニストもしくはアンタゴニスト、またはタンパク質補因子、糖、例えば、スクロースまたはポリマー(これを用いて浸透圧を安定化し得る)、アミノ酸、ペプチド、核酸、蛍光または非蛍光プローブ、化合物/薬物、色素、マイクロスフェアまたはビーズを含んでもよい。親水性体はまた、尿素またはグアニジンHClなどの変性剤を含んでもよい。他の/追加の成分を二分子層形成および/または細胞膜取り込みの前または後に添加してもよい。
【0073】
親水性体および/または水和支持体は、水と混合された、微量の有機溶媒、例えば、水とエタノール、メタノール、DMSO、DMFまたはクロロホルムとの混合物中に低溶解性の低分子化合物を含んでもよい。
【0074】
疎水性媒体は、油であってもよい。油は、炭化水素であってもよく、これは分岐されても、非分岐であってもよく、かつ置換されてもまたは非置換であってもよい。例えば、炭化水素は、5〜20個の炭素原子、より好ましくは10〜17個の炭素原子を有してもよい。適切な油としては、アルカン類またはアルケン類、例えば、ヘキサデカン、デカン、ペンタンもしくはスクアレン、またはフッ素化油、またはシリコーンベースの油、または四塩化炭素が挙げられる。一実施形態では、この油はn−アルカンである。
【0075】
疎水性媒体は、油中脂質型溶液であってもよく、すなわち、両親媒性脂質分子が、油中に提供される。好ましくは、油中脂質型溶液は、油中に約1mg/mL〜約30mg/mLの脂質を含む。好ましくは、油中脂質型溶液は、約5mg/mLの脂質を含む。
【0076】
好ましくは、脂質/油の溶液は、リン脂質、例えば、ホスホコリン脂質、例えば、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を、C10〜C17n−アルカンのようなn−アルカン、例えば、n−ヘキサデカン(C16)中に含む。
【0077】
第三相は、フッ素化された油、または疎水性かつ油分をはじく脂質などのような疎水性かつ油分をはじく両方である分子の供給によって提供され得る。
【0078】
追加のタンパク質が、細胞膜によって提供される任意のタンパク質に加えて二分子層に挿入されてもよい。このタンパク質は、公知の膜タンパク質であっても、あるいは水溶性タンパク質であってもよい。追加のタンパク質は、精製されていてもよい。追加のタンパク質は、前の国際特許公開番号WO2009024775号に開示される方法に従って挿入され得る。
【0079】
二分子層を用いて、この二分子層中の両親媒性分子と、またはこの二分子層中の膜結合タンパク質と相互作用する化合物/検体を検出してもよい。タンパク質または両親媒性分子との相互作用は、二分子層を横切る検体/化合物の特異的または非特異的な位置変化によってもよく、これは、タンパク質または糖などのような他の膜構成要素によって、または両親媒性分子によって媒介されてもよい。あるいは、化合物/検体は、タンパク質とまたは二分子層と相互作用して、物理的、光学的、電気的または生化学的な変化を生じ得る。このような相互作用は、多くの異なる方法、例としては、限定するものではないが、視覚変化、特定のキャパシタンスにおける変化によって、または二分子層の中または付近の蛍光標識分子の活性化によって検出され得る。
【0080】
組み込まれた膜構成要素を有する二分子層は、この二分子層に、またはその中に、またはそれにまたがって生じるプロセスを研究するために用いられ得る。この二分子層は、膜構成要素の挙動を研究するために用いられ得る。この二分子層を用いて、二分子層中に再構成される膜構成要素と相互作用するタンパク質または分子を検出してもよい。
【0081】
二分子層を用いて、細胞膜タンパク質を調査および/またはスクリーニングしてもよいし;再構成された膜と相互作用する検体について調査および/またはスクリーニングしてもよいし;および/または異なる細胞種由来の再構成された膜を有する二分子層と相互作用する化合物について調査および/またはスクリーニングしてもよい。
【0082】
この二分子層を用いて、二分子層中の膜結合タンパク質が膜全体にわたって分子を輸送する能力を研究してもよい。例えば、タンパク質を通じて、または二分子層を横切る単純に非媒介性の輸送を通じて、膜全体にわたって輸送されている分子の量は、電圧研究、質量分析、酵素的技術、例えば、ELISAを用いることによって決定されてもよいし、または蛍光もしくは放射活性で標識した基質を用いることによって決定されてもよい。
【0083】
二分子層を用いて、この二分子層中のタンパク質上で、またはこの二分子層自体の上で二分子層の機械的変化の効果を研究してもよい。研究され得る機械的変化としては、例えば、膜湾曲、横力、表面張力などの変化が挙げられる。
【0084】
試験されるか、研究されるかおよび/またはスクリーニングで用いられる化合物/検体は、これを親水性体に、および/または水和支持体に、および/または疎水性媒体に置くことによって二分子層に導入され得る。親水性体の中に包含される場合、この化合物/検体は、親水性体が形成されるとき、またはこれが、後に、例えば、形成された親水性体中への注入によって添加され得るときに組み込まれ得る。同様に、この化合物/検体が水和支持体中である場合、これはこの水和支持体が形成されるか後に添加されるとき組み込まれ得る。
【0085】
一実施形態では、水和支持体は、分析のためのタンパク質(検体/化合物)を含むタンパク質分離ゲルまたは膜であってもよい。例えば、サンプルは、サイズに基づいて分離されたタンパク質を含むポリアクリルアミドゲルであってもよい。この実施形態では、この検体/化合物は、水和支持体を介して二分子層に導入される。
【0086】
この検体/化合物は、精製されたタンパク質であっても、または粗タンパク質抽出物であってもよい。
【0087】
試験されるべき検体/化合物は、サンプル中にあってもよい。このサンプルとは、例えば、血液、尿、血清、唾液、細胞または組織のサンプルであってもよい。このサンプルは、細胞増殖培地由来の液体であってもよい。
【0088】
二分子層は、光学的手段によって水和支持体を通じて、例えば、倒立顕微鏡で、またはある環境では、裸眼によってさえ可視化され得る。脂質二分子層の可視化は、二分子層の形成、位置、サイズまたは他の特性を追跡するために用いられ得る。二分子層の可視化によって、標識された検体/タンパク質/化合物/細胞膜を、その二分子層でまたは中で視認および研究することが可能になる。
【0089】
1つ以上の検出手段を用いて、両親媒性分子の二分子層の、または二分子層に挿入された膜結合タンパク質の、化学的、生化学的、電気的、光学的、物理的および/または環境的な特性を検出してもよい。詳細には、1つ以上の検出手段を用いて、化合物/検体によって導入される二分子層にまたは二分子層での変化を検出してもよい。
【0090】
この検出手段は、電極を備えてもよく、この電極は、二分子層中のタンパク質チャネルを通じて通過するイオン性電流の変化、または水和支持体、親水性体もしくは二分子層中の分子の電気化学的な特性を検出するために用いられ得る。電流は、標準的なパッチ−クランプ増幅器または他の低ノイズ電気増幅システムを用いて記録され得る。
【0091】
化学的または生化学的な変化は、酵素的アッセイまたはイムノアッセイを用いて検出され得る。あるいは、特定の条件下で活性化される、標識された、例えば、放射性または蛍光的に標識されたタンパク質の使用を用いて、二分子層で変化をモニターしてもよい。反応の際の光吸収における変化に応答する比色法もまた、用いて二分子層中の変化を検出してもよく、具体的にはこの方法を用いて二分子層のサイズの変化を検出してもよい。
【0092】
この検出手段は、二分子層の特性またはそこでの変化を一貫してまたは間欠的に検出できる場合がある。
【0093】
膜結合タンパク質、検体および他の化合物などの検出試薬を、親水性体および/もしくは水和支持体への組み込み、親水性体および/もしくは水和支持体へ直接の注入、ならびに/または疎水性媒体中への組み込みもしくはそこへの添加によって、二分子層に送達してもよい。親水性体および/または水和支持体への注入は、マイクロピペットを用いて達成され得る。
【0094】
膜容量中における変化が研究されている実施形態では、電極を検出手段として用いてもよい。この電極とは、Ag/AgClであってもよく、このような電極は、約10ミクロン〜1mmの直径であってもよい。第一の電極は、親水性体と電気的に接触されてもよく、第二の電極は、水和支持体と電気的に接触されてもよい。二分子層の比キャパシタンスなどの二分子層の電気的特性は、電極を用いて決定され得る。
【0095】
蛍光画像化および強度測定を用いて、二分子層包埋の膜タンパク質の特性を測定してもよい。例えば、電位差測定の色素(例えば、ジ−8−ANEPPS)の封入を用いて、イオンチャネル、細孔または輸送体および/または他の膜タンパク質、および/またはそれらの機能モジュレーターの存在下で二層を横切る(transbilayer)電圧を測定してもよい。
【0096】
二分子層中の膜タンパク質機能は、赤外線分光法、ラマン分光法、表面プラズモン共鳴、原子間力顕微鏡法、SAXSおよび中性子散乱、示差走査熱量測定法、等温滴定熱量計、円偏光二色性分光法、電子顕微鏡および質量分析法、またはそれらの組み合わせから選択される任意の群の使用によって検討され得る。
【0097】
光学的および/または電気的な特徴付けによって、有利には、極めて多数の膜タンパク質または化合物の迅速なスクリーニングが可能になる。光学的および/または電気的な特徴付けによってまた、有利には、極めて多数の二分子層の迅速なスクリーニングが可能になる。
【0098】
二分子層の物理的、化学的または電気的な環境を、二分子層および/または親水性体および/または水和支持体に対してまたはそれらから、試薬、検体、化合物および/またはタンパク質を導入、除去または封鎖することによって制御してもよく、例えば、二分子層周囲の環境のpHは、親水性の水性本体および/または水和支持体に対する緩衝液の添加によって制御され得る。
【0099】
一旦形成されれば、本発明によって作製される二分子層は、水和支持体の表面全体にわたって位置変化または移動され得る。好ましくは、これは、水和支持体の表面全体にわたって親水性体を移動することによって達成される。好ましくは、二分子層内に組み込まれた膜タンパク質は、この二分子層が、水和支持体の表面全体にわたって位置変化されるとき、二分子層から解離しない。
【0100】
水和支持体の表面を横切る二分子層の位置変化は、親水性体または水和支持体と接触した部材を移動することによって達成され得る。この部材とは電極であってもよい。水和支持体の表面を横切る二分子層の位置変化は、微小流体をポンピングして、親水性体、従って水和支持体を横切る二分子層の位置変化を果たすことによって達成され得る。
【0101】
二分子層の位置変化を用いて、この二分子層中のタンパク質に対して力を加えて、例えば、機械感覚性のタンパク質チャネルを研究するか、または二分子層自体の特性に対するこのような力の効果を研究してもよい。
【0102】
二分子層の位置変化を用いて、水和支持体の表面全体にわたってスキャンして、二分子層および/または二分子層の中の膜結合タンパク質の特性を変化する、水和支持体中の検体/化合物を特定してもよい。
【0103】
二分子層が水和支持体の表面全体にわたって位置変化する驚くべき能力によって、検体/化合物、例えば、同じ水和支持体の異なる領域に位置するタンパク質および/または試薬または基質を検出するために、二分子層を有する水和支持体全体にわたってスキャンできるという利点が得られる。これは、各々のサンプリング領域の間で二分子層を分解する必要性なく行うことができることが有利である。
【0104】
この二分子層は、異なる化合物のアレイまたはライブラリーを含む水和支持体全体にわたって位置変化され得る。異なる化合物を、所定の位置で支持体上にスポットしてもよい。あるいは、この水和支持体は、タンパク質またはDNAまたは低分子などの化合物(それらのサイズまたはイオン特性に基づいて分離された)を含む、分離ゲルまたは膜を含んでもよい。
【0105】
1つ以上の二分子層の位置変化によって、細胞膜中の1つ以上の特定の膜結合タンパク質を含む二分子層を、水和支持体中の化合物のライブラリーに対して迅速にスクリーニングすることが可能になり得る。このスクリーニングによって、膜結合タンパク質と相互作用し、二分子層において特性の検出可能な変化を生じる、ライブラリー中の化合物が検出されることが可能になり得る。ライブラリー中の化合物は、タンパク質、DNAまたは他の低分子であってもよい。この検出可能な変化とは、例えば、コンダクタンスの変化または蛍光もしくは他のマーカーパターンの変化であってもよい。
【0106】
二分子層は、ピペットチップのような移動性デバイス中に懸濁された水和支持体上で形成されてもよく、これが次に細胞の表面にまたがってスキャンされてもよい。あるいは、移動性のデバイスを用いて、種々の溶液、例えば、種々の生物学的サンプルを探査してもよい。
【0107】
一旦形成されれば、本発明によって作製される二分子層は、サイズが増大されても、または減少されてもよい。二分子層のサイズの増大または減少は、水和支持体へ向かって、またはそれから離れて親水性体の中心を移動させることによって達成され得る。
【0108】
複数の別々の二分子層を複数の別々の親水性体と1つ以上の水和支持体との間で形成してもよい。この親水性体は、2または3次元のアレイに配列され得る。同じ水和支持体上の2つ以上の別々の親水性体は、同じもしくは異なる検出手段および/または異なる試薬、および/または同じ細胞種類もしくは異なる細胞種類由来の細胞膜を含んでもよい。水滴のアレイは、検体/化合物が検出されるとき、例えば、親水性体の蛍光または記録されたコンダクタンスの変化によって、水和支持体中の検体/化合物の位置を検出するために、水和支持体表面上に沈着されてもよい。
【0109】
二分子層は、微小流体のチャネル中で形成され得る。微小流体のチャネルは、水性の液体を含んでもよく、これが少なくとも部分的には親水性体を提供し得る。この微小流体のチャネルはさらに、疎水性媒体を含んでもよい。微小流体のチャネルの少なくとも1つの壁/床は、水和支持体を備える。
【0110】
別の局面によれば、本発明は、疎水性媒体中に浸漬された親水性体と水和支持体とを含む二分子層製品を、二分子層が細胞膜の少なくとも一部を組み込んでいるという点で特徴付けられる、親水性体と水和支持体との間の両親媒性分子を含む二分子層に提供する。
【0111】
二分子層に存在する細胞膜は、細胞丸ごと由来であっても、および/または細胞膜フラグメント由来であってもよい。
【0112】
親水性体、水和支持体、両親媒性分子および再構成された細胞膜について好ましい実施形態は、上記で考察されるとおりである。
【0113】
二分子層は、本発明の方法によって形成され得る。
【0114】
本発明の別の局面によれば、本発明による二分子層製品を蛍光顕微鏡と組み合わせた使用が提供される。
【0115】
水和支持体の性質によって好ましくは、二分子層を、顕微鏡を用いて可視化することができる。従って、本発明のこの局面では、水和支持体は、約2mm厚以下の層であってもよい。この水和支持体は、約1nm〜約2mm厚、あるいは約100nm〜約1mm厚であってもよく、あるいはこの水和支持体は、約100nm〜約400nm厚であってもよい。
【0116】
観察すべき分子は、フルオロフォアで蛍光標識してもよい。
【0117】
親水性の液滴および/または水和した支持体中のフルオロフォアは、全反射照明蛍光顕微鏡または他の広視野蛍光顕微鏡の技術を用いて観察され得る。全反射照明蛍光顕微鏡は、対物の種類またはプリズムベースの幾何形状のいずれかによって、促進され得る。全反射照明蛍光顕微鏡を用いる観察は、電気的測定と組み合わせて用いられ得る。全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いて、二分子層のバルク特性として、または個々の分子のレベルに至るまで適切な検出で、二分子層に存在する実体から蛍光を観察し得る。TIRF技術は、他の分析技術と組み合わせて、例えば、電気的データの取得と組み合わせて用いられ得る。
【0118】
フルオロフォアを観察するために全反射照明蛍光を用いる利点とは、二分子層の約200nm内のフルオロフォアのみが照射され、従って観察されるが、細胞膜二分子層に近くない他のフルオロフォアは、照射されず、観察されないということである。全反射照明蛍光の測定を電気的な測定と組み合わせて用いることは、タンパク質−タンパク質の相互作用が研究できる、例えば、蛍光基質の結合に対するイオンチャネルの電気的な応答が研究できるという利点を有する。
【0119】
本発明のなおさらなる態様によれば、細胞から再構成された膜構成要素を含む両親媒性分子の二分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)本発明による二分子層製品を提供するステップと;
ii)上記親水性体を位置変化させることによって、上記二分子層を上記水和支持体の表面全体にわたって位置変化させるステップと、
iii)上記二分子層と上記水和支持体および/または親水性体中の化合物との相互作用を検出するステップと、
を含む方法、が提供される。
【0120】
この細胞膜構成要素は、本明細書に記載されるとおり、例えば、人工の二分子層中に再構成されたインタクトな細胞膜または細胞膜のフラグメントであってもよい。
【0121】
水和支持体および/または親水性体は、試験されるべき化合物のライブラリーを含んでもよい。
【0122】
二分子層の位置変化は、親水性体と、この親水性体を動かすように配列された微調整装置(マイクロマニピュレーター)との直接または間接的な接触によって達成され得る。この親水性体は、水和支持体全体にわたって二分子層が位置変化するように移動され得る、電極と接触され得る。
【0123】
スクリーニングの方法は、ハイスループットのスクリーニングが行われることを可能にするように自動化され得る。
【0124】
本発明の別の局面によれば、細胞膜由来の膜結合タンパク質および/または二分子層に位置する他の膜構成要素と相互作用し得る物質を特定するための、本発明による二分子層製品の使用が提供される。
【0125】
二分子層は、調合薬の開発において、または初代細胞のスクリーニングのための医学的診断において用いてもよい。例えば、標的化合物または物質を、親水性体または水和支持体のいずれかに組み込んでもよく、二分子層中のタンパク質上でのこのような化合物または物質の機能的な効果を探査してもよい。
【0126】
相互作用または効果とは、物質または標的の化合物によるタンパク質機能の阻害または活性化のような、この物質または標的化合物の位置変化、調節であってもよい。相互作用または効果は、タンパク質(単数または複数)における高次構造の変化であってもよい。
【0127】
本発明のわずかないくつかの局面に関して考察される本発明の全ての任意のおよび/または好ましい特徴は、本発明の全ての局面に対して適用され得ることが理解される。
【0128】
本発明の実施形態/局面は、添付の図面を参照してほんの一例としてここに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】図1は、水和支持体二分子層上の液滴(droplet−on−hydrated−support bilayer)(DHB)として本明細書に言及される、水和支持体二分子層上の水滴(親水性体)を図示する;図1Aは、水和支持体二分子層上の液滴の略図である。脂質単分子層は自発的に、各々が疎水性油中の脂質の溶液中に浸漬された時、水性(水)液滴および水和支持体(ヒドロゲル)の水面上で形成する。2つの構成要素の単分子層が接触されるとき、それらは脂質二分子層を形成する;図1Bは、倒立顕微鏡で下から可視化された液滴二分子層(DHB)を示す−この画像は、ヒドロゲル表面上に指示される、電極なしの液滴を示す。液滴の中心の単一の連続二分子層領域は、その界面での屈折率の大きな変化に起因して容易にみられる。
【図2】図2は、本発明による二分子層中の細胞膜の組み込みの模式図を示す。
【図3】図3は、二分子層に組み込まれたHEK293細胞膜中のhERGチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図4】図4は、二分子層中に組み込まれた3T3細胞膜中のNMDAチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図5】図5は、二分子層中に組み込まれたMin6細胞膜中のKATPチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図6】図6は、二分子層中に組み込まれたSupT1細胞膜中のKvチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図7】図7は、図6に考察されるSupT1細胞からのKvチャネルI−V曲線を示す。
【図8】図8は、開確率に対する図6および図7で考察したKvチャネルの電圧依存を示す。
【図9】図9は、ヒト赤血球由来細胞膜二分子層のシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図10】図10は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの使用を図示しており、ここでは交流で外部から加えられる電位差が、付随する蛍光強度の変化を駆動する。
【図11】図11は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの別の使用を図示する。
【図12】図12は、(A)マイクロピペットまたは(B)マルチボア(multi bore)キャピラリーを有するマイクロピペットからの注入によって水滴中に試薬が導入され得る方法の図を示す。
【図13】図13は、水和支持体二分子層上の液滴上の全反射照明蛍光顕微鏡を図示する。
【図14】図14は、二分子層のアレイを生じるためのデバイスを示す。
【図15】図15は、実験的なスクリーニングに用いた、六角形のPDMSスタンプで形成された二分子層のアレイを示す。150mm直径のウェルを製造し、結果として1cm2あたり360の二分子層という二分子層密度を生じる。
【図16】図16は、KcsA−ChiIVでのカリオトキシン(KTX)の滴定の際の電流ブロッキングの結果を示す。
【図17】図17は、E.coli宿主膜から直接的に二分子層中に再構成された細菌由来のKcsA−ChiIVのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図18】図18は、ミトコンドリアチャネルの陽電位および陰電位でのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【図19】図19は、ホスホリパーゼCでのSupT1細胞の膜の酵素的消化の結果を示す。A:DMEM中のSupT1細胞 B:ホスホリパーゼCでのDMEM中のSupT1 C:ホスホリパーゼC、超音波処理(2分)でのDMEM中のSupT1 D:ホスホリパーゼC、超音波処理(2分)、凍結−融解(3×)でのDMEM中のSupT1。
【図20】図20は、本発明による脂質の二分子層への真核生物イオンチャネルを組み込むために用いられる再構成システムを模式的に図示する。(1)細胞は、機械的に分裂され、膜が単離される(2)。細胞膜フラグメントは、ヒドロゲルコーティングされたカバースリップ上に沈着されるか、またはヒドロゲル(3)中に組み込まれる。油中脂質型溶液を添加して、脂質単分子層は、界面で形成する(4)。脂質単分子層を有する水滴を、油中に添加する(5)。両方の脂質単分子層は、一緒になって脂質二分子層を形成し;脂質二分子層中の細胞膜フラグメント中のイオンチャネルの再構成が、このプロセスの間に生じる。電極を水滴中に導入して、二分子層を横切るイオン流束を測定する(6)。
【図21】図21は、細胞株において過剰発現されたイオンチャネルのシングルチャネルレコーディング(SCR−上部パネル)およびバルクイオン電流を示す(下部パネル)。(a)ポーリンなしのE.coli株PC2889で発現されるKcsAのSCR(150mMのKCl、10mMのコハク酸、pH4の中で+50mV)。棒グラフは、150mMのBa2+の有無におけるバルク電流レコーディングを示す(エラーバーは、5つの実験からの標準偏差である)(b)HEK293細胞中で発現されるhERGチャネルのSCR(350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5中で+100mV)。棒グラフは、ブロッカーE−4031の有無におけるバルク電流レコーディングを示す。(c)3T3細胞における過剰発現からのNMDAレセプターのSCR(液滴中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.5、およびアガロース中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、10μMグリシン、10μMグルタミン酸塩、pH7.5、+50mV)。棒グラフは、グルタミン酸塩の有無におけるバルク電流を示す。(d)Min6細胞で発現されるKATPチャネルのSCR(140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5、+50mV)。棒グラフは、グリベンクラミド(GBC)の有無におけるKATPチャネルのバルク電流を示す。
【図22】図22は、リンパ球膜における電圧ゲートカリウムチャネルを示す。(a)液滴脂質二分子層中に再構成されたリンパ球膜からのK+チャネルのシングルチャネルレコーディング(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5,+25mV)。(b)リンパ球膜から得られるK+チャネルの電流−電圧曲線。(c)全ポイントの電流ヒストグラムであって、チャネル開確率の電圧依存を示している。(d)4−APを用いるリンパ球膜からのカリウムチャネルのバルク電流ブロック。4−APの存在下では、イオン流束は、ブロッカーの非存在下における測定に比較して96%まで低下される。(e)カリオトキシン(Kaliotoxin)(KTX)によるリンパ球膜からのK+チャネルのバルク電流ブロック。KTXの存在下では、イオン流束は、KTXの非存在下におけるイオン流束(左)に比較して99.4%(右)に低下される。エラーバーは、5つの実験からの標準偏差として決定される。
【図23】図23は、初代細胞およびオルガネラにおける電流レコーディングを示す。(a)5mMのCa2+の有無において記録した赤血球細胞膜からの正規化されたバルク電流(150mMのKCl、Hepes、pH7、+50mV)。エラーバーは、5つの実験からの標準誤差として決定される。(b)ミトコンドリア膜におけるカリウム導電性チャネルのシングルチャネルレコーディング(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5,+50mV)(c)種々の陽イオン(Na+、K+、Ca2+)のコンダクタンスを試験する再構成された鎌状赤血球膜のバルク電流レコーディング。鎌状赤血球膜は、全ての陽イオンに対して高度に導電性であるが、一方では健常な固体からのコントロールの膜はコンダクタンスを示さない。(d)ナトリウムを伝導する、HbSS遺伝子型を有する赤血球のサンプルのシングルチャネルレコーディング(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.4、+125mV)。底部:(d)の拡大断面。
【発明を実施するための形態】
【0130】
「水和支持体二分子層上の液滴(droplet−on−hydrated−support bilayer)」(またはDHB)または「液滴脂質二分子層」とは、特定の実施例で言及される場合、前に考察されたように、「両親媒性分子の二分子層」と同じである。特定の実施例中で言及される水性本体とは、前に考察されるような親水性体と等価である。
【0131】
方法
材料
1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(Avanti Polar Lipids)、ヘキサデカン(Sigma−Aldrich)を、さらに精製することなく用いた。
【0132】
水和支持体二分子層上の液滴の作製
ヘキサデカン(C16)中の10mMの1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPhPC)を、全ての実験において脂質/油溶液として用いた。この溶液に浸漬した水性の容積は、DPhPC単分子層を自発的に自己アセンブルして、2つの構成要素の単分子層が接触させられる時、それらは自発的に脂質二分子層を形成する(Tsofina,L.M.ら、1966.Nature 212,681−683;Malmstadt,N.ら、2006.Nano Letters 6,1961−1965;Funakoshi,K.ら、2006.Analytical Chemistry 78,8169−8174;Holden,M.A.ら、2007.Journal of the American Chemical Society−印刷中)。水和支持体二分子層上の液滴は、水滴をヒドロゲルのような多孔性の水和支持体と接触させることによって形成される(図1A)。融合を防ぐためには単分子層を接触させる前に少なくとも5分の安定化期間が必要であった。この期間後、二分子層形成は、水滴と水和支持体との接触の2〜3秒〜1分内にほとんど100%の効率で観察された。水和支持体二分子層上の液滴は、倒立顕微鏡で可視化され(図1B)、この技術を用いて、実験の間に脂質二分子層の位置を追跡した。
【0133】
脂質二分子層は、極微操作装置(マイクロマニピュレーター)を用いて液滴中(図1A)に100μmの直径のAg/AgClワイヤ電極を挿入することによって電気的にアクセスされた。水和支持体中の対応するAg/AgCl接地電極を用いて、脂質二分子層を横切る電気的測定を行った。電流を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments)で記録し、種々の周波数でデジタル化した(National Instruments Ni−DAQ)。電気的なトレースを、獲得後にフィルターにかけて(100Hzの低域通過Gaussianフィルター)、WinEDRを用いて分析した。脂質二分子層は典型的には、過剰の100GΩ中でシールを保持しながら、ほぼ300mVまで電圧に抵抗できた。電気的ノイズレベルは典型的には、100kHzの記録帯域幅で±01.0pA r.m.sの大きさであった。これは、この装置の限界を反映しており、水和支持体二分子層上の液滴中の固有のノイズではない。
【0134】
蛍光のための水和支持体二分子層上の液滴
薄い水和支持体上に横たえられた水和支持体二分子層上の液滴は、全反射照明蛍光顕微鏡(TIRF)顕微鏡を用いて蛍光的に試験できる。
【0135】
図13は、水和支持体二分子層上の液滴に対する全反射照明蛍光顕微鏡を図示しており、薄層のアガロースから構成される支持基質が、ガラスのカバースリップ上で形成される。この薄型基質は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロチャネルデバイスを水性アガロースで充填することによって再水和される。このデバイスウェルは、油中脂質型溶液で充填される。水滴は、ヒドロゲルの頂部、油の下部に置かれる。脂質二分子層は、2つの水性相の間の界面で形成される。エバネセント場は、脂質二分子層中でフルオロフォアを照射する、水和支持体二分子層上の液滴中に伝播する。
【0136】
脂質二分子層中に膜タンパク質を組み込むための方法
1.アガロースのようなヒドロゲルは、平面の固体支持体、例えば、ガラススライド上に沈着される。
2.細胞膜フラグメントまたはインタクトな細胞を含む溶液を、ヒドロゲル上にピペッティングする。
3.ヒドロゲルを油中脂質型溶液の中に浸漬する。
4.水滴を、油中脂質型溶液中にピペッティングして、ヒドロゲルとの接触の際、膜タンパク質を含む二分子層を形成する。
【0137】
別の実施形態では、細胞膜はまた、下にあるヒドロゲルではなく水滴中に存在するフラグメントまたは細胞から組み込まれてもよい。
【0138】
液滴脂質二分子層のギガオームの電気的シールに起因して、シングル−チャネル分解電気測定が可能であり、あるいはホールセル(細胞丸ごとの)電気的レコーディングと同様のバルク電流測定を行ってもよい。平面のヒドロゲル基質によってまた、二分子層内のタンパク質の挙動を探査する手段としてこの二分子層の高感度の光学画像化が可能になる。
【0139】
インタクトな細胞全体(ホールセル)に由来する膜タンパク質の直接組み込み
細胞膜構成要素を、膜をなんら破壊することなく、インタクトな細胞全体の直接的な組み込みによって二分子層に組み込む。インタクト/丸ごとの細胞を、等張性の培地中に置いて、ヒドロゲル(水和支持体)または水滴(親水性体)のいずれかの水相に組み込む。
【0140】
細胞膜フラグメントの調製
タンパク質含有膜フラグメントを、以下の任意の手段によって作製する:
【0141】
1.低浸透圧性溶解
細胞を、低浸透圧性の水性培地、例えば、蒸留水または低浸透圧性緩衝液(約140mM未満の総オスモライト)に入れ、ここでこの細胞の内側から及ぼされる浸透圧は、細胞を膨張させて、自然な膜の崩壊をもたらし、細胞膜フラグメントを形成する。次いで、全ての細胞質成分を含む細胞成分を、大きい膜フラグメントに加えて、懸濁培地中に自由に拡散させる。
【0142】
2.凍結−融解
細胞を、その細胞と等張性の、水性/緩衝化培地に入れ、ここで次にこれらを、繰り返して少なくとも0℃までゆっくり凍結させて、氷を作製し引き続いて融解する。氷の結晶を融解する作用は、細胞膜を剪断して細胞の崩壊をもたらすことであり、さらに繰り返せば、細胞膜フラグメントを形成し、膜フラグメントを漸進的に縮小する。フラグメントの大きさ、従って二分子層への再構成のための細胞膜タンパク質の量を希釈により制御するために、この過程を仕立てて(すなわち、繰り返しの回数)もよい。
【0143】
3.超音波処理
凍結−融解と同様に、水性/等張性緩衝化培地中の細胞を、超音波浴または超音波プローブの使用によって剪断する。浴中の加えたパワーの増大(プローブの周波数がより高い、または振動の距離)は、インキュベーション時間の増大で生じるように、細胞膜フラグメントの大きさを減少させる。細胞膜フラグメントの大きさ、従って二分子層中への再構成のための細胞膜タンパク質の量を希釈により制御するために、この過程を仕立ててもよい。
【0144】
4.温和な界面活性剤
温和な親油性の界面活性剤(例えば、CHAPS、DM、OG)を用いて、細胞膜を分散させる。一旦分散されれば、残りのタンパク質含有細胞膜フラグメントを希釈して、DHB中に再構成されるタンパク質の量を制御してもよい。
【0145】
5.膜の酵素的消化
リン脂質消化性酵素、例えば、ホスホリパーゼは、インタクトな細胞膜を消化して、より小さいタンパク質含有細胞膜フラグメント(タンパクリポソーム)を生じ得る。生成されるフラグメントの大きさは、酵素濃度およびインキュベーション期間の注意深い制御、従ってDHB中に再構成されるタンパク質の量に影響することを通じて制御される。例えば、図19は、ホスホリパーゼCでのSupT1細胞の膜の酵素的消化の結果を示す。A:DMEM中のSupT1細胞 B:ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1 C:超音波処理した(2分)ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1 D:超音波処理(2分)、(凍結−融解)(3×)した、ホスホリパーゼCを含むDMEM中のSupT1。
【0146】
6.膜の機械的破壊
ホモジナイザーおよび「フレンチ・プレス」のような圧力駆動デバイスを使用して、それらから生成した膜およびフラグメントを破断して圧縮してもよい。例えば、ノズルのような、細胞を破断するために剪断力を利用する他のこのようなデバイスを用いて、細胞膜を破断してもよい。ノズルまたはフィルターを通じた押し出し(公知の寸法を有する)を用いて、精密にサイズ化された膜フラグメントを調製してもよい。
【0147】
7.膜フラグメントの生物学的生成
細孔形成剤(ペプチド、タンパク質、ポリマー)を用いて、細胞の浸透圧バランスを動揺させ、自発的な細胞の崩壊を生じ、その後すぐ、細孔形成剤の除去後、目的の膜タンパク質を含む膜フラグメントがDHB中に再構成される。さらに、タンパク質を同時発現してもよく、これが膜小胞形成、または細胞膜崩壊を誘導し、原形質膜からの既定のタンパク脂質小胞の出芽または膜の崩壊のいずれかをもたらす。
【0148】
膜フラグメントの大きさの操作について上記される全ての方法は、そのフラグメントの要件に依存して、任意の組み合わせでまたは個々に行われてもよく、すなわち標的の膜中のタンパク質発現の密度が高いほど、膜フラグメントの正確な希釈のため低レベルの標的タンパク質発現についてよりも大きい膜剪断が必要であり得る。従って、これによって、DHB中に再構成されるタンパク質のレベルを正確に制御することが容易になる。この調製方法は、任意の組み合わせで、および任意の順序で行ってもよい。
【0149】
膜フラグメントを、ミセルまたは小胞のいずれかのような、溶解された脂質を含む任意の水媒体と混合してもよい。この手順は、膜フラグメントの大きさを操作するために上記の方法の前に行ってもよい。
【0150】
細胞の細胞質構成要素を含む、細胞膜の得られたフラグメントを、遠心分離または透析などの標準的な生化学的技術によって分離して回収してもよい(容積を減らすため、および/または細胞質構成要素を取り除くため)。細胞膜フラグメントの得られた調製物を、緩衝化して、DHBの各々の側の上のいずれかの水相(水和支持体または親水性体)中に組み込むことによってDHB中に組み込んでもよい。これらの技術によって調製した膜フラグメントは、このフラグメント調製物からDHB中に担持される包埋されたイオンチャネルの電気的活性をモニターすることによって決定されるように、脂質二分子層中に自然に組み込まれる。
【0151】
目的の標的膜タンパク質を含む細胞膜画分の調製
例として、哺乳動物細胞培養由来の細胞株、例えば、HEK293細胞を、培養培地から、剥離することまたはトリプシン(プロテアーゼ)処理で増殖容器からそれらを引き離すことによって回収する。この細胞を等張性緩衝液中で洗浄して、過剰の緩衝液中で細胞を懸濁することおよび細胞を低速で遠心分離することによって培養培地を取り除く(100×gで10分間)。このプロセスを繰り返して、残りの細胞培養培地をサンプル中で希釈する。
【0152】
インタクトな細胞から膜画分を調製するために、それらを最初に上記のとおりペレット化する。細胞は、浸透圧に起因して膨張して破裂し、結果として大きい原形質膜フラグメントが生成される。細胞の細胞質構成要素は培地中に放出される。次いで、遠心分離後の培地を低浸透圧培地によって置き換えて、再遠心分離して、フラグメントをより高いg力、例えば25,000×gで30分間保持する。
【0153】
濃密な膜画分および細胞内オルガネラを、高速の遠心分離(例えば、25,000×g)の間に上清を繰り返し交換することによって培地から分離する。スクロース勾配を調製して、細胞内区画を、高速遠心分離の間にそれらの異なる沈殿特性を生かすことによって分離してもよい。濃密でない種(すなわち、ミトコンドリア)は、このアプローチを用いて、より大きい小胞体および原形質膜から分離される。
【0154】
膜フラグメントの遠心分離調製の手順の間、緩衝化条件を変更して、培地を、任意の所望の塩濃度、pH、オスモライト含量、リガンドおよびタンパク質補因子、目的のアゴニストおよびアンタゴニストで置き換えられてもよい。
【0155】
次いでサンプルを、ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴(droplet−on−hydrogel lipid bilayer)(DHB)システム中に組み込むために準備する。
【0156】
ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴(DHB)水性および疎水性媒体の調製
標的タンパク質を、DHBの親水性基質側面から挿入することが必要な場合、上記の膜フラグメント調製物を、DHB基質調製の前に温かい(直ちに約50℃まで冷却)溶融アガロースへの直接添加によって組み込む。このようなアガロースは、所望の緩衝液中でアガロース粉末を溶融することによって調製する(最も一般的には、電解質、例えば、KClまたはNaClおよび緩衝化化合物を含み、そのpHは、酸または塩基で所望の値に、最も多くの場合は中性のpHに滴定する)。低容積の温かいアガロース(約50℃)を、等容積の膜フラグメント調製物の所望の希釈物に添加するとすぐ引き続いて急速な冷却が生じる。水性アガロース膜フラグメント混合物を、DHB基質調製物について表面(好ましくは、画像化のための光学的に透明な表面)にわたって広げる。
【0157】
DHBデバイスの調製
基質の水性アガロース層をここで、n−デカン(例えば、ヘキサデカンC16)であって、5〜10mMのホスホコリン脂質がその中に溶解されている(例えば、1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)n−デカンの油中脂質型溶液下での浸漬のために準備する。プラスチックの保持デバイスを、電解質含有水性アガロースおよび油中脂質型溶液のリザーバーを備えるDHB基質の上に置く。次いでこのデバイスを用いて、水滴と基質の親水性の水性アガロースとを接触させる。
【0158】
液滴の調製
水滴を、DHBデバイスの調製のために用いられる同一の油中脂質型溶液、あるいは非対称性の二分子層のための異なる油中脂質型溶液のいずれかの中にピペッティングする(または、微小流体のデバイスによって生成してもよい)。最も一般的には非対称性二分子層が必要であり、ここでは両方の二分子層の小葉が同一の脂質を含む。これらの油中脂質型溶液中の短期間の平衡後、脂質の単分子層が、水滴と疎水性の油中脂質型溶液との間の界面で形成する。典型的には、これに要するのは5分未満であるが、平衡化の時間の長さは、水浴溶液中の脂質濃度によって影響され得る。
【0159】
脂質−平衡化水滴と脂質−平衡化親水性アガロース基質との接触
液滴を、基質の近傍にピペッティングすることによって(あるいは、微小流体のポンピング、重力沈降または直接注入によって)、調製された脂質平衡化DHB基質アガロース上に導入する。水媒体(液滴および基質)の間の界面で脂質二分子層が形成されるために必要なのは短期間、例えば、約1分であってもよい。
【0160】
タンパク質再構成の確認
ヒドロゲル脂質二分子層上の液滴中へのタンパク質再構成は、自律的に生じる。なぜなら目的の標的タンパク質を含む膜のフラグメントは、脂質二分子層形成の間または後の任意の段階で脂質二分子層に自然に組み込まれるからである。このプロセスは、DHB中に存在するイオンチャネル電流の電気生理学的なレコーディングによって、またはタンパク質と会合する蛍光特性の直接の画像化によって確認される。
【0161】
実験
脂質二分子層形成および目的の標的膜タンパク質を含む細胞膜フラグメントの再構成の際、任意の電気生理学的なプロトコールを行って、再構成されたイオンチャネルの機能を探査してもよい。条件は、このシステムの化学的構成要素によって規定され得る。脂質二分子層を横切る外部から印加された電圧は、二分子層のいずれかの側で電解質含有の水媒体へ電極を組み込むことによって提供され得る。組み込まれたタンパク質の特性は、電位差測定色素または他のフルオロフォアのいずれかを用いて蛍光的に画像化され得る。例えば、表面プラズモン共鳴、円偏光二色性分光法、ラマン分光法などの光学的な技術によって、再構成された膜タンパク質機能を探査するために他の生物物理学的実験を行うことが可能であるということはこの分野に習熟した当業者には明白である。
【0162】
安定なDHBの確立の際、別々の化学的構成要素を、例えば、膜タンパク質のリガンドなどをシステムに、すなわち、アゴニスト、アンタゴニスト、または他の化学的種を、液滴への直接注入によってまたは液滴注入によって脂質二分子層のいずれかの側の水性区画へ組み込んでもよい。例えば、これは、ブロッカーの添加の前にイオンチャネルの挙動をモニターするために用いてもよく、ここではタンパク質機能がアゴニストまたはアンタゴニストの添加の前後にモニターされ得る。
【0163】
以下の実施例は、シングルチャネルによって決定されるとおり、イオンチャネルを含む広範な種々の細胞膜二分子層の組み込みを実証する。
【0164】
HEK293細胞中のhERGチャネル
図3は、HEK293細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるhERGチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。HEK293細胞膜を、350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5(4℃でペレット化した)の中で洗浄した。1:40000希釈を、基質アガロース(5uL)と混合した後に、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。印加した電圧(示したトレース):+100mV。緩衝液:350mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。
【0165】
3T3細胞中のNMDAチャネル
図4は、3T3細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるNMDAチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。1細胞あたり約10,000個のレセプターを有するNMDA発現性の3T3細胞を、140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.25(3×)中でペレット化することによって洗浄した。次いで細胞を、3回の凍結−融解のサイクルに供し(室温(RTP)〜−80℃)、その後に4℃で3分間水浴中で超音波処理した。サンプルを、基質アガロース層(5uL)について1:25000希釈までアガロースと混合した後、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。
【0166】
印加した電圧(示したトレース):+50mV。緩衝液:液滴中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、pH7.5。緩衝液:アガロース中で140mMのNaCl、10mMのHEPES、10uMのグリシン、10uMのグルタミン酸塩、pH7.5。
【0167】
Min6細胞中のKATPチャネル
図5は、Min6細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるKATPチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。Min6細胞を、140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5の中で洗浄して、ペレット化して5分間超音波処理した。1:10000希釈を、基質アガロース(5uL)と混合した後に、デバイスをアセンブルして、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中にDPhPC)に浸漬した。緩衝液:140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。印加した電圧(示したトレース):+50mV。
【0168】
SupT1細胞中のKvチャネル
図6は、SupT1細胞で過剰発現され、二分子層に組み込まれるKvチャネルのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。SupT1懸濁細胞を、DMEM中で増殖し、次いで20uL中に100,000個の細胞を有する溶液を−80℃で凍結した。この細胞を、室温へ4回の凍結−融解に供し、次いで1:80,000希釈して、ガラスのカバースリップ上に広げた5uLの基質アガロース層上にピペッティングした。印加した電圧(示したトレース):+10mV。緩衝液:150mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。
【0169】
図7は、上記の実験によるSupT1細胞からのKvチャネルI−V曲線を示す。図8は、開確率に対する上記のようなKvチャネルの電圧依存を示す。チャネルは、電圧の増大とともに増大した特徴的な開確率を示す。
【0170】
ヒト赤血球
図9は、ヒト赤血球由来細胞膜二分子層の電気レコーディングの結果を示す。ヒト赤血球は、140mMのKCl、10mMのHEPES、pH7.5中で繰り返し洗浄して、白血球を含めて血清を除去した。続いて、低浸透圧緩衝液中で5分間超音波処理した。1:100000希釈を基質アガロース(5uL)と混合した後にデバイスを組み立てて(アセンブルし)、油中脂質型溶液(ヘキサデカン中のDPhPC)に浸漬した。緩衝液:2MのKCl、10mMのHEPES、pH7.5。印加された電圧(示されたトレース):+100mV。
【0171】
KcsA−ChiIVのチャネルレコーディング
図16は、KcsA−ChiIVでのカリオトキシン(KTX)の滴定の際の電流ブロックの結果を示し、図17は、E.coli宿主膜から直接二分子層に再構成された細菌からのKcsA−ChiIVのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【0172】
ミトコンドリアチャネルレコーディング
図18は、ミトコンドリアのチャネルの陽電位および陰電位でのシングルチャネルレコーディングの結果を示す。
【0173】
二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの使用
図10を参照して、電位差測定色素(ジ−8−ANEPPS)を、油中脂質型溶液に組み込む。これは、脂質と平行な両方の小葉中の脂質二分子層の平面に対して垂直にある。色素からの蛍光は、脂質二分子層を横切る電位差によって変化する。ここで、外部から印加された交流の正弦波電位差は、+/−150mVの間でDHB全体にわたって与えられる。色素は、DHBを横切る電位差を明確に示す報告であり得る。なぜなら正弦波は交流であって、加えられた波で正確な時間的相関関係を示すからである。
【0174】
図11は、二分子層中の蛍光性の膜電位差測定プローブの別の使用を示す。ここで、電位差測定色素を用いて、二分子層中の細菌の細孔形成毒素α溶血素の存在を検出する。二分子層中に膜タンパク質が存在するとき、蛍光強度の顕著な増大がある。
【0175】
蛍光についての水和支持体二分子層上の液滴
薄い水和支持体上に沈着した水和支持体二分子層上の液滴は、全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を用いて蛍光的に検査できる。
【0176】
図13は、水和支持体二分子層上の液滴に対する全反射照明蛍光顕微鏡を図示しており、アガロースの薄層から構成される支持基質が、ガラスのカバースリップ上で形成される。この薄い基質は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)マイクロチャネルデバイスを水性アガロースで充填することによって再水和される。このデバイスウェルを、油中脂質の溶液で充填する。水滴は、油の下のヒドロゲルの頂部に置く。脂質二分子層は、2つの水相の間の界面で形成する。エバネセント場は、水和支持体二分子層上の液滴中で増幅し、これが、脂質二分子層およびフルオロフォアを液滴中で照射する。
【0177】
TIRF技術はまた、他の分析技術と組み合わせて、例えば、電気的データ獲得と組み合わせて用いてもよい。データの組み合わせによって、タンパク質機能に対する情報の改善が得られ得る。
【0178】
二分子層形成の間の細胞膜タンパク質の導入のさらなる実施例
本発明の方法の実現可能性をさらに実証するために、多数の代表的なリガンドゲートおよび電圧ゲートのイオンチャネルを研究した。ある範囲の異なる条件(これは、原核生物タンパク質から哺乳動物由来の初代組織サンプルにおよぶ)を研究した。イオンチャネル活性をバルク中で、およびシングルチャネルから記録した。電流は、NMDAレセプター、hERGおよびKATPを含めて多数の過剰発現される真核生物タンパク質から記録した。内因性に発現されるチャネルも研究した。鎌状細胞およびミトコンドリアを含めて、それらの大きさまたは形状に起因してパッチクランプが現在困難である、細胞からのイオン電流のシングルチャネルレコーディングを得た。
【0179】
上記で記載されるとおり、細胞膜フラグメントを、二分子層形成に対して脂質二分子層に導入した。
【0180】
方法
細胞株、タンパク質、膜の調製、および電気的レコーディング
KcsAは、ポーリンなしのE.coli株PC2889を用いてpQE60(Qiagen,Germany)中で過剰発現された。細胞を、圧力に基づく細胞ホモジナイザー(TC5−612,Stansted Fluid Power,UK)を用いて分解して、膜を水中の遠心分離によって単離した後に液体窒素中で凍結した。沈降した膜を、150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5中に再懸濁した。膜調製物は、それぞれ、バルクおよびシングルのチャネルレコーディングについて、1:106(全ての場合について、希釈は、別段言及しない限り容積:容積として報告する)および1:108に希釈した。バルクおよびシングルのチャネルレコーディングは、150mMのKCl、10mMのコハク酸、pH4の中で行った。ブロッキング実験は、150mMのBaCl2、10mMのHepes、pH7.5(+50mV、n=5)を含む液滴を用いて行った。
【0181】
hERG。−80℃で保管したKCNH2遺伝子を過剰発現する増殖停止したHEK293細胞(Invitrgen,UK)を超音波処理した(Sonorex,Bandelin,Germany,320W,4℃,3分)。次いで、膜を遠心分離によって単離し、緩衝液(350mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で洗浄した。最終的に、膜を同じ緩衝液中に1:104希釈した。次いで膜を冷却している低融点アガロース(Sigma,総容積10μL,1:10サンプル:アガロース,1.5%,<60℃)中に組み込み、デバイスアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。電圧依存性の電流応答は、メタンスルホンアニリド薬物E−4031 (1mMのE−4031,n=5,Invitrogen,UK)の有無で測定し、ここでは+100mVの電圧を印加した。シングルチャネルのレコーディングのために、本発明者らは、細胞膜調製物をさらに希釈する(1:20)。
【0182】
NMDAレセプター。ヒトNR1−1a/NR2Aレセプターサブユニットは、接着したマウス線維芽3T3細胞株中で発現された。培養フラスコから細胞を機械的に剥離した後、細胞を等張性緩衝液で洗浄し(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5で3回)、次いで細胞を30秒の超音波(Sonorex,Bandelin,Germany,320W)および4回の凍結−融解サイクルによって機械的に破壊した。上記の緩衝液中での遠心分離および洗浄によって膜を単離した後、サンプルを同じ緩衝液中に希釈した(1:103)。次いで、膜を含むアガロースを、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に配置した。次いで、膜を、それぞれバルク電流レコーディングについては1:5000およびシングルチャネルレベルについては1:500000の総希釈で凝固の前に、冷却しているアガロース(1.5%)中に組み込んだ。140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5の中の10μMグルタミン酸塩および10μMグリシンの添加によって、膜の脱分極後にレセプターの活性化が生じた(+50mVの電圧を印加した,n=5)。膜調製物(1:100)のさらなる希釈の際に、シングルチャネルが記録され得る(+50mVの電圧を印加)。
【0183】
KATP。KATPチャネルに関しては、Kir6.2およびSUR1(スルホニル尿素レセプター)がMin6細胞で同時発現された。凍結された細胞を、3回の凍結−融解サイクルに供した後に、それらを1分間超音波処理した(4℃,Sonorex,Bandelin,Germany,320W)。遠心分離による膜の単離後、膜を、等張性緩衝液(140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で洗浄して、1:5000希釈した。膜を、冷却しているアガロース(1.5%)と混合することによって(1:10のv:v)、アガロース中に組み込んで、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。シングルチャネルレコーディングのために、サンプルをさらに10倍に希釈した。電気的なレコーディングを、140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5中で、液滴およびアガロース支持体の両方の中で行った。バルク電流のブロックは、グリベンクラミド(1mM、+50mV、n=5)を用いて得た。
【0184】
リンパ球。SupT1細胞を、懸濁培養物として増殖して、緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で4回洗浄した。次いで、細胞を低浸透圧性ショックによって溶解し、膜を遠心分離および等張性緩衝液(140mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中での洗浄によって単離した。膜を1:104希釈して、この溶液の1μLをアガロースコーティングしたカバースリップ(1.5%)の上に沈着した。バルク電流ブロッキングのために、4−アミノピリジン(非特異的なK+チャネルブロッカー)を用いた(5mM,+50mV)。特異的なブロッキングのためには、カリオトキシン(Kaliotoxin)(特異的なKv−チャネルブロッカー)を用いた(50μM,+50mV)。
【0185】
赤血球。以前に公開されたプロトコール(Gibsonら,J Physiol:511(PtI),225−234(1998))に従って、赤血球を、鎌形赤血球または健常な個体の全血から、遠心分離とPBS緩衝液(137mMのNaCl、2.7mMのKCl、10mMのリン酸水素二ナトリウム、2mMの一塩基性リン酸カリウム、pH7.4、1%グルコース含有)中での4回の洗浄と、残りの血液構成要素を吸引によって除去することによって単離した。細胞を低塩緩衝液(15mMのNaCl、10mMのEDTA、10mMのHepes、pH7)中での低浸透圧性ショックによって溶解した。次いで、膜を遠心分離によって沈降させ、低塩緩衝液中で4回洗浄した後に、等張性緩衝液(150mMのNaClまたはKClまたはCaCl2、10mMのHepes、pH7.4)中に再懸濁した。Gardosチャネル実験のために、膜を、150mMのKCl、10mMのHepes、pH7を含有する等張性緩衝液中に再懸濁した。Ca2+の有無の液滴(150mMのKCl、+/−5mMのCaCl2、+/−5mMのKCl、10mMのHepes、pH7、+50mV、n=5)を用いてCa2+依存性のK+流を観察した。鎌形赤血球およびコントロールの膜の電気的なレコーディングのために、膜調製物を、等張性緩衝液(150mMのNaClまたはKClまたはCaCl2、10mMのHepes、pH7.4)中に1:105希釈して、アガロース(1.5%,v/v 1:10希釈)中に組み込み、次にこれをデバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着した。シングルチャネルレコーディングのためにはさらに1:20の希釈が必要であった。
【0186】
ミトコンドリア。以前に公開されたプロトコール(Basoahら、FEB Lett:579,6511−6517(2005))に従って、ブタ肝臓細胞を、モーター式攪拌器によって駆動されるTeflonガラスホモジナイザーを用いて、氷上で溶解した(Heidolph,Germany)。インタクトな細胞を含む大きい砕片を、4℃で10分間1,100gで遠心分離することによって除去した。ミトコンドリアは最初に、4℃で10分間11,000gでスピンすることによってペレット化し、次いで5mLのPBSで1回洗浄した後に、11,000gで5分間スピンして、最終のミトコンドリアペレットを得た。ミトコンドリアペレットを氷冷の酸素消費緩衝液(0.25Mのスクロース、5mMのMOPS、5mMのKH2PO4および5mMのMgCl2、pH7.4)中に再懸濁し、−80℃で保管した。融解後、ミトコンドリアを等張性のカリウム緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中で2回洗浄し、5分間超音波処理し(Sonorex,Bandelin,Germany,320W)、緩衝液(150mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)の中に1:104希釈した。次いで、膜を冷却アガロース(Sigma、総容積10μL,1.5%)中に1:10希釈して、デバイスのアセンブリの前にカバースリップ上に沈着させた。
【0187】
液滴二分子層デバイスの再構成およびアセンブリ
1mLあたり5×106個の細胞という出発濃度から1:104〜1:107という膜フラグメントの希釈の変化によって、二分子層中のチャネルの数をコントロールすることができる。チャネル取り込みは、冷却しているが凝固してない1〜1.5%のアガロース支持体に対して細胞フラグメントを1:10の比(総容積10μL)で添加することによって、またはヒドロゲル支持体の頂部でこの膜をピペッティングすることによって達成され得る。マイクロチャネルデバイスを、前に記載のとおり、ポリ(メチルメタクリレート)から微細加工した(Thompsonら、Nano Lett:7,3875−3878(2007))。このデバイスを、スライドの頂部においた後に、アガロース支持体層を、ヘキサデカン−DPhPC溶液(無水ヘキサデカン中に10mMの1,2−ジフィタノイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン,Sigma)中に浸漬する。液滴を含む緩衝液を最初に、別の油中脂質型溶液中にピペッティングして、これによって、液滴周囲の単分子層の形成を可能にする。これらの油中脂質型溶液(2−15分)中での短期間の平衡後に、脂質の単分子層は、水相と疎水性の油中脂質型溶液との間の界面でアセンブルされる。次いで、液滴を、ピペッティングによって、調製された脂質−平衡化アガロース基質上に導入する。ヒドロゲルの表面上の脂質単分子層との接触の際、二分子層が形成される。液滴二分子層は、倒立顕微鏡(Ti−Eclipse;Nikon Instruments)を用いて画像化された。
【0188】
電気的レコーディング。バルクおよびシングルチャネルのレコーディングは、本発明者らの以前に記載した方法を用いて行った(Heronら、J Am Chem Soc:129,16042−16047(2007))。マイクロマニュピュレーターを用いて、電極を、液滴(100μmの直径、Ag/AgCl,Nashege,Japan.図1A)中に挿入した。電流を、この電極と対応するAg/AgCl接地電極(アガロース支持体中)との間で測定する。電流を、パッチクランプ増幅器(Axopatch 200B;Axon Instruments)を用いて記録した。このシグナルは、NI−DAQ(National Instruments,UK)を用いてデジタル化した。電気的トレースは、獲得後にフィルターにかけて(100HzのローパスGaussianフィルター)、WinEDR(University of Strathclyde,Institute of Pharmacy and Biomedical Sciences)を用いて分析した。脂質二分子層は典型的には、150mVの電圧に抵抗できたが、シールは100GΩの過剰で維持されていた。電気的なノイズレベルは典型的には、±01.0pArms程度の大きさ(100kHzの記録帯域幅)であった。
【0189】
バルク電流ブロッキング。それぞれの細胞株の再構成後、ブロッカーの有無において液滴のバルク電流を測定して、平均値および標準偏差を決定した(全ての場合にブロッカーが有無の両方でn=5)。
【0190】
組み換え過剰発現細胞からのイオンチャネルの電気的レコーディング
細菌のカリウムチャネルKcsAを過剰発現するポーリンなしのE.coli株から単離された膜を、本発明の方法によって二分子層中に組み込んだ。膜調製物を、等張性緩衝液中に希釈した後、アガロース支持体中に組み込む。Ba2+の添加によって、電流中の93%ブロックが生じた(図21a)。膜調製物のさらなる希釈の際、シングルチャネルが低い開確率および62+/−2.6pSというコンダクタンス(図21a)で観察された。形質転換なしのE.coli細胞を用いるコントロールの実験では、イオン電流は示されなかった。
【0191】
液滴二分子層への真核生物イオンチャネル再構成
液滴二分子層への真核生物イオンチャネルの再構成に必要なステップを図20に示しており、ここでは(1)真核生物細胞が破裂され;(2)細胞膜が単離および希釈され;(3)膜がヒドロゲル中に組み込まれ;(4)油中リン脂質の混合物が次に加えられ、単分子層は、ヒドロゲル−油の界面で自己アセンブルする;(5)ナノリットルの水性液滴を導入し、ここでまた第二の脂質単分子層が得られる;(6)二分子層は、両方の単分子層が接触されるときに形成する。イオンチャネルの自発的な挿入が、二分子層形成の間に生じる。
【0192】
真核生物のイオンチャネルの再構成のためのこの方法は、種々のサンプルおよび条件に適合され得る。本明細書に含まれるこの実施例では、細胞は組織(図23b)、血液(図23a、c、d)または細胞培養物(図21b−d,22)由来;懸濁物(図22)または接着性の細胞株(図21b−d)由来であった。細胞の破壊は、超音波(図21)、凍結−融解,(図21)、低浸透圧性ショック(図23a、c、d)または押し出しを用いて達成した。ヒドロゲル支持体への膜の組み込みは、支持体作製の間に細胞フラグメントを添加すること、または膜溶液をヒドロゲル支持体上にピペッティングすることによって達成された。膜フラグメントの希釈を変化することによって、二分子層中のチャネルの数を制御することも可能であった。
【0193】
本発明のこの方法の普遍性を試験するため、ある範囲の代表的な真核生物イオンチャネルを選択した。最初に、電圧ゲートのカリウムチャネルKv11.1(遺伝子KCNH2)を過剰発現する細胞由来の膜にまたがるイオン流束を測定した。Kv11.1(またはhERG)チャネルは、心筋活動電位の間の再分極に対して重要である18。hERGを過剰発現する増殖停止したHEK293細胞を、超音波処理によって機械的に破壊して、膜を遠心分離によって単離して、洗浄した。最終的に、膜を緩衝液(350mMのKCl、10mMのHepes、pH7.5)中に再懸濁し、希釈した後にアガロース層に組み込んだ。電圧依存性のバルク電流応答が観察され、イオン電流は、hERGブロッカー,E−4031によってブロックされた(97% 図21b)19。細胞膜調製物のさらなる希釈の際、シングルチャネルトレースを、前に報告された値と同様の8+/−0.21pSという平均コンダクタンスで記録した(図21b)。
【0194】
リガンドゲートのイオンチャネル型のN−メチル−D−アスパラギン酸塩(NMDA)レセプターも研究した。組み換えヒトNMDAレセプターを発現するマウスの線維芽細胞(ltk−)細胞を、等張性緩衝液中で洗浄した後に、機械的破壊、膜の単離および希釈(140mMのNaCl、10mMのHepes、pH7.5)をした。次いで、二分子層形成の前に膜をアガロース層中に組み込んだ。グルタミン酸塩(10μM)およびグリシン(10μM)の添加によって、レセプターの活性化と一致してイオン流束の98%増大が示された(図21c)。細胞調製物をさらに、希釈したとき、シングルチャネルが観察され、これによって、NMDAレセプターに典型的な緩徐な開口と閉鎖の事象が示された。47.3pS(+/−3.2)での観察されたコンダクタンスレベル、および36.2pS(+/−3.55)というサブ−コンダクタンスレベルは、文献中で以前に報告された値に相当する。
【0195】
KATPを過剰発現するMin6細胞由来の膜を横切るイオン流束を測定した。これらのチャネルは、4つのKir6.2および4つのスルホニル尿素レセプターサブユニットからなり、これが膜上でアセンブルして活性な複合体を形成する。バルク電流は、グリベンクラミド(1mM)(特異的なKATPチャネルブロッカー)によってブロックされた(91%;図21d)25。細胞調製物のさらなる希釈によって、シングルチャネル(図21d)が卵母細胞中での以前の観察と同様に50+/−3.1pSというコンダクタンスで明らかになった。
【0196】
初代細胞およびミトコンドリアからのイオンチャネルの電気的レコーディング
シングルチャネル電流および初代リンパ球中の内因的に発現される電圧ゲートのカリウムチャネルからのバルク電流の電圧依存を記録した(図22a)。リンパ球カリウムチャネルは、免疫応答の間のシグナル伝達に重要であり、T細胞の膜電位およびカルシウムシグナル伝達を調節する。SupT1細胞の懸濁物を、低浸透圧性ショックによって溶解して、膜を遠心分離によって単離して、等張性緩衝液中で洗浄した。次いで、膜を希釈した後に、アガロース−コーティングしたカバースリップ上に沈着した。Kv1.3に典型的な電圧ゲートの挙動が観察され、ここではより高電圧で開確率が増大した(図22b)。Kv1.3の同一性は、非特異的な(5mMの4−アミノピリジン,96%ブロック、図22D)K+および特異的なKv−チャネルブロッカー(50μM カリオトキシン、99%ブロック、図22E)を用いて確認した。この薬理学的なプロフィールおよび電流電圧挙動(図22B)から、チャネルをKv1.3と特定した。
【0197】
本発明の方法の1つの利点は、従来のパッチクランプを用いてアクセスが極めて困難である膜からイオン電流を測定することができるということである。これは、赤血球およびミトコンドリアの膜の両方を用いて検査した。
【0198】
それらのサイズに起因して、赤血球は、パッチクランプによってアクセス可能な最小かつ最も困難な細胞の1つである。全血からの赤血球の単離後、細胞を低浸透圧性ショックによって溶解し、膜を等張性緩衝液中に再懸濁する。Ca2+(5mM)の有無で実験を行うことによって、Ca2+誘導性のK+流束が観察され、これは、Gardosチャネル由来の電流と一致してカルシウムの存在下で7倍に増大した(図23a)。Gardos K+イオンチャネルは、赤血球の膜において最も普遍的なチャネルである。
【0199】
赤血球の膜を、健常な個体および鎌状赤血球貧血に罹患した個体の両方から再構成した。鎌状化は、赤血球細胞膜の陽イオン透過性の変化を介して生じることが公知であり、細胞の脱水をもたらす;しかしこの初めの段階の分子基礎は、依然として議論の対象である。
【0200】
赤血球膜を、ヒドロゲル中に組み込んで、本発明の方法で研究した。健常な個体から再構成した膜は、コンダクタンスをほとんど示さないかまたは全く示さず、鎌形赤血球由来の膜は、Na+、K+およびCa2+について極めて伝導性であって、本質的にオーム応答であった(図23c)。サンプル調製物(1:20)のさらなる希釈の際、シングルチャネルレコーディングを、健常な個体の膜には存在しない鎌形赤血球由来の膜から得た(図23c)。明らかにこの実験単独では、このチャネル活性が特定のチャネルに帰することはできないが、このことは、赤血球膜内に存在するイオンチャネルがこの手順を用いて研究できる容易さを強調するように機能する。
【0201】
赤血球よりも小さいオルガネラおよび細胞を、従来のパッチクランプで検討するのは極めて困難である。本発明の方法は、研究される細胞の大きさで制限されないので、ブタの肝臓から単離されたミトコンドリア膜を、本発明による二分子層で再構成した。単離されたミトコンドリアの機械的な破壊後、膜を分離して、等張性緩衝液中で洗浄した後、液滴二分子層中に再構成した。シングルチャネルおよびバルク電流の両方が、カリウム塩またはカルシウム塩のいずれかを用いて決定された(図23b)。
【0202】
考察および適用
本明細書に示されるデータは、広範な種々のイオンチャネル型およびサンプル条件からの膜タンパク質の首尾よい再構成を示す。これらの実験には、鋭敏な電流増幅器以外に専門的な装置を必要とせず、膜タンパク質再構成は、全ての場合に信頼性があり、再現可能である。
【0203】
本発明の方法を用いて、真核生物膜含有のDHBの調製は迅速、直接的であり、かつDHBアレイにおける大規模平行測定に容易に拡大できる。DHBアレイに存在する個々の二分子層由来のイオン電流および蛍光シグナルをモニターすることができる(1cm2あたり約1012個の二分子層)。真核生物の膜タンパク質を含むDHBアレイによって、電気的および化学的な刺激に対する種々の膜タンパク質の応答を測定することが可能になる。
【0204】
本発明の方法の重要な特徴は、界面活性剤精製の必要なしに合成の脂質二分子層中の細胞膜から直接のイオンチャネルの取り込みである。界面活性剤なしの再構成プロトコールは、1970年から報告されているが、これらのアプローチは、信頼できず、かなりのサンプル調製を必要とする。この領域において近年の研究がないことはおそらく、この方法を用いて効率的なタンパク質取り込みを達成するのが困難なことを示す。
【0205】
原核生物および真核生物の両方のチャネルを二分子層に組み込むことが比較的容易であることで、多くの実験に関して、本発明の方法はパッチクランプに対する有用な代替であることが示される。赤血球およびミトコンドリアからのイオンチャネルの再構成はまた、本発明の方法が他の小さい細胞および細胞区画(最も習熟したパッチクランパー以外は現在アクセス不能である)の研究において適用を有することを示す。今のところ、より小さい対象は、巨大プロテオリポソームの使用によって、または膜ウイルス構成要素の非定型的に大きい改変体を研究することによって、パッチピペットのナノスケールの制御を通じてのみパッチされ得る。本発明の方法を用いて、シングルチャネルのレコーディングは、比較的直接的なサンプル調製によって、およびパッチピペットの顕微鏡的位置決めの必要性なしに達成され得る。
【0206】
イオンチャネルは、大部分はチャネル機能のハイスループットの問い合わせ(interrogation)ができる技術がないせいで、開発中の目標クラスのままである。多数の液滴二分子層を、本発明の方法を用いて生成することが容易であるので、そこでは現在、過剰発現される標的および初代細胞の両方を用いて、イオンチャネルのハイスループットのスクリーニングの見込みのあるツールがある。
【0207】
例えば、数百のクローニングされたイオンチャネルに対する結合親和性について薬物ライブラリーを平行してスクリーニングすることが可能であり得、ここでは細胞全体(ホールセル)のパッチクランプ電気生理学のものよりも解明度が大きい。このアプローチによって、薬物開発の間の潜在的な望ましくない副作用についての情報を得ることができる。
【0208】
現在の方法におけるよりもかなり多数の膜タンパク質を迅速にスクリーニングする能力に起因して、安全性トライアルもまた、患者での一般的な薬物試験において通常は見出されない膜タンパク質の異なるアイソフォームおよび変異体のクローンで行ってもよい(すなわちここでは変異体が集団の小画分に存在する)。初代組織サンプルからタンパク質を再構成することが可能であるので、ここではごくわずかな細胞しか必要としない。薬物は、送達の時点で患者組織に対する副作用についてスクリーニングされ得る。
【0209】
この再構成方法に必要な少量の材料(1測定あたり1個未満の細胞)、電気的コントロール、および二分子層の両側に対するアクセスは、この技術の特に利点である。二分子層を画像化する能力によってまた、膜タンパク質応答の広範な光学的測定が開発される。イオンチャネルと同様に、本発明の方法はレセプターキナーゼ、Gタンパク質カップリングレセプターおよびトランスポーターを含む膜タンパク質の他のクラスを問い合わせる(interrogate)ために用いられ得る。
【0210】
薬物安全性およびQT延長スクリーニング。
心電図のQT間隔とは、心室再分極を測定するものである。この間隔は、特定の薬物とイオンチャネルとの相互作用によって有害に延長され得る。QT間隔の延長は、頻脈性不整脈および心室性不整脈をもたらし得、もしこれが心疾患または他の心臓疾患と合併して生じれば、突然死が生じる場合がある。hERG(Kv11.1)イオンチャネルの阻害は、QT間隔延長の最も一般的な原因である。
【0211】
この遅延した心室再分極は特定のFDAの認可した薬物によって誘導され得るという発見のために、薬物のライセンシングを管理するいくつかの国家機関は、hERG規制要件に対する新規な化合物のスクリーニングを行った。hERGイオン電流における有害な変化についての新規な化合物のスクリーニングは、製薬会社にとって主要な課題である。hERGチャネルについて低コストのハイスループットスクリーニングアッセイの必要性は、現在製薬産業において不可欠である。
【0212】
現在のインビトロスクリーニング方法は、電圧−クランプ、蛍光または結合のアッセイを包含する。このような方法のうち、電圧−クランプ電流レコーディングのみが、現在、hERG阻害を決定するのにおける「究極の基準(gold standard)」をもたらす。
【0213】
予備実験によって、DHBのプロトタイプのアレイは、数百程度の二分子層として1cm2あたり1012個という二分子層密度で作製され得ることが示された。各々の個々の二分子層からのシングル−チャネルまたはバルクの電気レコーディングを記録してもよい。各々の二分子層からの電流応答は、蛍光顕微鏡を用いて画像化され得る。
【0214】
図12によって、試薬が、マイクロピペット619またはマルチボアキャピラリー621を有するマイクロピペットからの注入によって水滴609中に導入され得ることが図示される。これによって、既存の液滴へ化合物を導入する簡易な方法が得られる。
【0215】
二分子層のアレイを生成するためのデバイス
図14は、二分子層のアレイを生じるために用いられ得るデバイスを示す。このデバイスは、ベース842およびリッド841を備える。このベース840は、下部チャネル中にアガロースを充填され、次いで脂質/油溶液を充填されて、平衡にされ、その結果単分子層がアガロース基質を形成する。細胞膜フラグメントまたは細胞全体(ホールセル)を、二分子層への組み込みのためにアガロース上にピペッティングしてもよい。リッド841は、バルク水溶液に浸漬され、リッドを作製するために用いられるプラスチックとの親水性相互作用を通じて、小滴がリッド上に残る。次いで、リッドをベースの中で低くして、その結果液滴は、油中に平衡するまで保持され、次いでその後にリッドが低くされて、さらに液滴が下にあるアガロースと接触される。次いで二分子層のアレイが自然に形成され、ここで液滴がアガロース表面と接触する。このリッドを通じた液滴の各々に対して接続された電極を用いること、およびアガロース中の共通の電極によって、アレイ中の各々の二分子層は個々に、電気的測定のためにアクセス可能である。デバイスのこの性質によって、個々の二分子層844を顕微鏡で下から画像化することが可能になる。
【0216】
図15に示されるとおり、二分子層のアレイは、実験的スクリーニングに用いられる、六角形のPDMSスタンプで形成され得る。150mm直径のウェルを製造し、結果として、1cm2あたり360個の二分子層という二分子層密度を生じた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)疎水性媒体中に浸漬した水和支持体および親水性体を提供する工程;および
(b)該第一の単分子層を該第二の単分子層に接触させて、両親媒性分子の二分子層を形成する工程
を含むことを特徴とする二分子層の製造方法であって、
両親媒性分子の第一の単分子層が、該疎水性媒体および該親水性体の界面上に形成され、両親媒性分子の第二の単分子層が、該疎水性媒体と該水和支持体の界面上に形成され、
細胞膜構成要素を含む細胞膜の少なくとも一部が、該水和支持体の中または上、および/または該親水性体中に提供され、
該細胞膜の構成要素が、該二分子層形成中または形成後の該二分子層に導入されることを特徴とする二分子層の製造方法。
【請求項2】
両親媒性分子が、前記疎水性媒体中に提供される請求項1記載の方法。
【請求項3】
両親媒性分子が、前記親水性体中および前記水和支持体上に提供される請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記二分子層が形成された後、前記細胞膜が、前記水和支持体中および/または前記親水性体中に提供される請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記二分子層の形成前に、前記細胞膜が、前記水和支持体の中および/または上、および/または前記親水性体中に提供される請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記細胞膜が、二分子層の形成と同時に導入される請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記工程(a)が、
水和支持体を提供する工程、
細胞膜を該水和支持体の上部に積層することによって、または細胞膜を該水和支持体中に混合する形で該水和支持体を提供することによって、細胞膜を提供する工程、
両親媒性分子を含有する疎水性媒体中に、該支持体を浸漬して、結果として、両親媒性分子の単分子層が、該疎水性媒体および該親水性体の界面上に形成される工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって製造された両親媒性分子の二分子層。
【請求項9】
細胞膜の少なくとも一部が二分子層に組み込まれている、親水性体と水和支持体の間の両親媒性分子の二分子層。
【請求項10】
前記細胞膜の構成要素が、細胞膜全体または細胞膜のフラグメントとして、亜細胞膜の形成として、亜細胞小器官をそのまま、または断片化されたものとして、細胞膜のフラグメント由来のリポソームまたは精製された成分由来のリポソームの形態で、或いは細胞の形質膜由来の細胞膜のフラグメントの形態で、或いは細胞内コンパートメントの形態で提供される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項11】
前記細胞膜が、真核細胞であるか、または原核細胞であるか、または前記膜がウィルスである、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項12】
前記両親媒性分子が、脂質分子である請求項1〜11のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項13】
前記脂質分子が、脂肪酸アシル類、グリセロ脂質類、グリセロリン脂質類、スフィンゴ脂質類、ステロール類、プレノール脂質類、ポリケタイド類、リン脂質類および糖脂質類から成る群から選択される請求項12に記載の方法または二分子層。
【請求項14】
前記脂質が、モノオレイン;1,2‐ジオレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DOPC);1,2‐ジフィタノイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC);1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐ホスファチジルエタノールアミン;および1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物から成る群から選択される請求項12に記載の方法または二分子層。
【請求項15】
1つ以上の単分子層および/または二分子層における両親媒性分子が、同じタイプまたは異なるタイプである請求項1〜14のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項16】
前記水和支持体が、固体または半固体の基質を備える請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項17】
前記水和支持体が親水性である請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項18】
前記水和支持体が多孔性または非多孔性である請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項19】
前記水和支持体が、未処理寒天、キトサンまたはゼラチン、アガロース、ポリアクリルアミド、架橋したポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(NaphionR)材料、メソ多孔質シリカ、水およびガラス、またはその組み合わせから成る群から選択される請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項20】
前記水和支持体がタンパク質または検体分離ゲルである請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項21】
前記親水性体が、液体、固体、または半固体あるいはそれらの混合物である請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項22】
前記親水性体が、水溶液の液滴を含む請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項23】
前記液滴が直径5nm〜10cmである請求項22に記載の方法または二分子層。
【請求項24】
前記親水性体が、水和固体または半固体支持体/基質を含む請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項25】
前記疎水性媒体が油である請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項26】
前記油が炭化水素であることを特徴とする請求項25に記載の方法または二分子層。
【請求項27】
前記油が、アルカン、アルケン、フッ素化油、シリコーン系オイルおよび四塩化炭素から成る群から選択される請求項25に記載の方法または二分子層。
【請求項28】
前記両親媒性分子の二分子層の領域が、形成された後に調整可能である請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項29】
前記二分子層に1つ以上の膜結合タンパク質を含む請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項30】
前記二分子層中の両親媒性分子とのまたは前記二分子層中の膜結合タンパク質との相互作用可能な化合物/検体を検出するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項31】
前記二分子層中で再構成される前記膜の構成要素と相互作用するタンパク質または分子を検出するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項32】
細胞膜タンパク質を調査および/またはスクリーニングするための;再構成された膜と相互作用する検体用に調査および/またはスクリーニングするための;異なる細胞タイプ由来の再構成された膜を有する二分子層と相互作用可能な化合物用に調査および/またはスクリーニングするための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項33】
二分子層中の膜結合タンパク質の分子を膜全体にわたって輸送する能力を研究するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項34】
前記二分子層の機械的変化の二分子層中のタンパク質または二分子層自体への影響を研究するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項35】
スクリーニングにおいて試験、研究および/または使用される化合物/検体を、親水性体中および/または水和支持体中および/または疎水性媒体中に配置することによって、二分子層中に導入することを特徴とする請求項30〜34のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項36】
前記化合物/検体が、環境試料または生物試料から得られる、または環境試料または生物試料に含まれることを特徴とする請求項30〜34のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項37】
1つ以上の検出手段が、両親媒性分子の二分子層または該二分子層中に挿入された膜結合タンパク質の化学特性、生化学特性、電気特性、光学特性、物理特性および/または環境特性を検出するのに用いられることを特徴とする請求項30〜36のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項38】
前記検出手段が、二分子層中のタンパク質チャネルを通過するイオン電流の変化或いは水和支持体、親水性体または二分子層中の分子の電気化学特性の変化を検出するための電極;酵素測定;免疫測定;蛍光または放射能標識;外見上の明らかな変化;分光分析を含むことを特徴とする請求項37に記載の使用法。
【請求項39】
請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層中の膜結合タンパク質の濃度を増加させる方法であって、
(i)水和支持体と親水性体との間に二分子層を提供するステップと、
(ii)前記二分子層中に膜結合タンパク質を導入するステップと、
(iii)前記二分子層の領域を縮小して、前記二分子層中のタンパク質を凝縮させるステップと、
を含む方法。
【請求項40】
二分子層を維持しながら前記二分子層を第1の位置から第2の位置に移動させる方法であって、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層を提供するステップと、その後で前記二分子層を維持しながら前記二分子層を第1の位置から第2の位置に移動させるステップとを含む方法。
【請求項41】
前記二分子層を移動させる際、前記親水性体および前記水和支持体の間の接触を維持することにより前記二分子層を維持することを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
水和支持体に対して親水性体を移動させることにより、または親水性体に対して水和支持体を移動させることにより、またはその組み合わせにより、前記二分子層が移動されることを特徴とする請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
前記二分子層中の1つ以上の膜結合タンパク質が、位置移動されたときに前記二分子層中に留まることを特徴とする請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1の位置で前記二分子層が第1の試験試料に接触し、前記第2の位置で前記二分子層が第2の試験試料に接触することを特徴とする請求項40〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記親水性体を水和支持体全体にわたって移動させることにより前記二分子層が移動され、前記水和支持体が、2つ以上の試験される検体/化合物を備えることを特徴とする請求項40〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記水和支持体が、タンパク質またはDNA分離ゲルであることを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項8〜29のいずれか1項に記載の2つ以上の二分子層の配列であって、前記2つ以上の二分子層が、2つ以上の親水性体と1つ以上の水和支持体との間で、または1つ以上の親水性体と2つ以上の水和支持体との間で形成されることを特徴とする配列。
【請求項48】
細胞から再構成された膜構成要素を含む両親媒性分子の二分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層を提供するステップであって、前記水和支持体が試験される化合物のライブラリを備えたステップと、
ii)前記親水性体を位置変化させることによって、前記二分子層を前記水和支持体の表面全体にわたって位置変化させるステップと、
iii)前記二分子層と前記水和支持体および/または親水性体中の化合物との相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項49】
前記二分子層中に配置された細胞膜由来膜結合タンパク質および/または他の膜構成要素と相互作用可能な物質を同定するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層製品の使用法。
【請求項50】
医薬品の開発または初代細胞スクリーニングのための医療診断における、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層製品の使用法。
【請求項51】
親水性体と水和支持体の間の両親媒性分子を含む二分子層と共に、親水性体および疎水性媒体中に浸漬した水和支持体を含み、細胞膜の少なくとも一部が二分子層に組み込まれていることを特徴とする、二分子層製品。
【請求項52】
本願明細書中または実施例に関連して実質的に記載される、二分子層を製造する方法または二分子層の使用法または二分子層または二分子層生成物。
【請求項1】
(a)疎水性媒体中に浸漬した水和支持体および親水性体を提供する工程;および
(b)該第一の単分子層を該第二の単分子層に接触させて、両親媒性分子の二分子層を形成する工程
を含むことを特徴とする二分子層の製造方法であって、
両親媒性分子の第一の単分子層が、該疎水性媒体および該親水性体の界面上に形成され、両親媒性分子の第二の単分子層が、該疎水性媒体と該水和支持体の界面上に形成され、
細胞膜構成要素を含む細胞膜の少なくとも一部が、該水和支持体の中または上、および/または該親水性体中に提供され、
該細胞膜の構成要素が、該二分子層形成中または形成後の該二分子層に導入されることを特徴とする二分子層の製造方法。
【請求項2】
両親媒性分子が、前記疎水性媒体中に提供される請求項1記載の方法。
【請求項3】
両親媒性分子が、前記親水性体中および前記水和支持体上に提供される請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記二分子層が形成された後、前記細胞膜が、前記水和支持体中および/または前記親水性体中に提供される請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記二分子層の形成前に、前記細胞膜が、前記水和支持体の中および/または上、および/または前記親水性体中に提供される請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記細胞膜が、二分子層の形成と同時に導入される請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記工程(a)が、
水和支持体を提供する工程、
細胞膜を該水和支持体の上部に積層することによって、または細胞膜を該水和支持体中に混合する形で該水和支持体を提供することによって、細胞膜を提供する工程、
両親媒性分子を含有する疎水性媒体中に、該支持体を浸漬して、結果として、両親媒性分子の単分子層が、該疎水性媒体および該親水性体の界面上に形成される工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法によって製造された両親媒性分子の二分子層。
【請求項9】
細胞膜の少なくとも一部が二分子層に組み込まれている、親水性体と水和支持体の間の両親媒性分子の二分子層。
【請求項10】
前記細胞膜の構成要素が、細胞膜全体または細胞膜のフラグメントとして、亜細胞膜の形成として、亜細胞小器官をそのまま、または断片化されたものとして、細胞膜のフラグメント由来のリポソームまたは精製された成分由来のリポソームの形態で、或いは細胞の形質膜由来の細胞膜のフラグメントの形態で、或いは細胞内コンパートメントの形態で提供される、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項11】
前記細胞膜が、真核細胞であるか、または原核細胞であるか、または前記膜がウィルスである、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項12】
前記両親媒性分子が、脂質分子である請求項1〜11のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項13】
前記脂質分子が、脂肪酸アシル類、グリセロ脂質類、グリセロリン脂質類、スフィンゴ脂質類、ステロール類、プレノール脂質類、ポリケタイド類、リン脂質類および糖脂質類から成る群から選択される請求項12に記載の方法または二分子層。
【請求項14】
前記脂質が、モノオレイン;1,2‐ジオレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DOPC);1,2‐ジフィタノイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスファチジルコリン(DPhPC);パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC);1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐ホスファチジルエタノールアミン(POPE);1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐ホスファチジルエタノールアミン;および1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルグリセロール(POPE/POPG)混合物;またはそれらの混合物から成る群から選択される請求項12に記載の方法または二分子層。
【請求項15】
1つ以上の単分子層および/または二分子層における両親媒性分子が、同じタイプまたは異なるタイプである請求項1〜14のいずれか1項記載の方法または二分子層。
【請求項16】
前記水和支持体が、固体または半固体の基質を備える請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項17】
前記水和支持体が親水性である請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項18】
前記水和支持体が多孔性または非多孔性である請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項19】
前記水和支持体が、未処理寒天、キトサンまたはゼラチン、アガロース、ポリアクリルアミド、架橋したポリエチレングリコール、ニトロセルロース、ポリカーボネート、アノディスク材料、ポリエーテルスルホン、酢酸セルロース、ナイロン、ナフィオン(NaphionR)材料、メソ多孔質シリカ、水およびガラス、またはその組み合わせから成る群から選択される請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項20】
前記水和支持体がタンパク質または検体分離ゲルである請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項21】
前記親水性体が、液体、固体、または半固体あるいはそれらの混合物である請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項22】
前記親水性体が、水溶液の液滴を含む請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項23】
前記液滴が直径5nm〜10cmである請求項22に記載の方法または二分子層。
【請求項24】
前記親水性体が、水和固体または半固体支持体/基質を含む請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項25】
前記疎水性媒体が油である請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項26】
前記油が炭化水素であることを特徴とする請求項25に記載の方法または二分子層。
【請求項27】
前記油が、アルカン、アルケン、フッ素化油、シリコーン系オイルおよび四塩化炭素から成る群から選択される請求項25に記載の方法または二分子層。
【請求項28】
前記両親媒性分子の二分子層の領域が、形成された後に調整可能である請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項29】
前記二分子層に1つ以上の膜結合タンパク質を含む請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法または二分子層。
【請求項30】
前記二分子層中の両親媒性分子とのまたは前記二分子層中の膜結合タンパク質との相互作用可能な化合物/検体を検出するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項31】
前記二分子層中で再構成される前記膜の構成要素と相互作用するタンパク質または分子を検出するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項32】
細胞膜タンパク質を調査および/またはスクリーニングするための;再構成された膜と相互作用する検体用に調査および/またはスクリーニングするための;異なる細胞タイプ由来の再構成された膜を有する二分子層と相互作用可能な化合物用に調査および/またはスクリーニングするための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項33】
二分子層中の膜結合タンパク質の分子を膜全体にわたって輸送する能力を研究するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項34】
前記二分子層の機械的変化の二分子層中のタンパク質または二分子層自体への影響を研究するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層の使用法。
【請求項35】
スクリーニングにおいて試験、研究および/または使用される化合物/検体を、親水性体中および/または水和支持体中および/または疎水性媒体中に配置することによって、二分子層中に導入することを特徴とする請求項30〜34のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項36】
前記化合物/検体が、環境試料または生物試料から得られる、または環境試料または生物試料に含まれることを特徴とする請求項30〜34のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項37】
1つ以上の検出手段が、両親媒性分子の二分子層または該二分子層中に挿入された膜結合タンパク質の化学特性、生化学特性、電気特性、光学特性、物理特性および/または環境特性を検出するのに用いられることを特徴とする請求項30〜36のいずれか1項に記載の使用法。
【請求項38】
前記検出手段が、二分子層中のタンパク質チャネルを通過するイオン電流の変化或いは水和支持体、親水性体または二分子層中の分子の電気化学特性の変化を検出するための電極;酵素測定;免疫測定;蛍光または放射能標識;外見上の明らかな変化;分光分析を含むことを特徴とする請求項37に記載の使用法。
【請求項39】
請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層中の膜結合タンパク質の濃度を増加させる方法であって、
(i)水和支持体と親水性体との間に二分子層を提供するステップと、
(ii)前記二分子層中に膜結合タンパク質を導入するステップと、
(iii)前記二分子層の領域を縮小して、前記二分子層中のタンパク質を凝縮させるステップと、
を含む方法。
【請求項40】
二分子層を維持しながら前記二分子層を第1の位置から第2の位置に移動させる方法であって、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層を提供するステップと、その後で前記二分子層を維持しながら前記二分子層を第1の位置から第2の位置に移動させるステップとを含む方法。
【請求項41】
前記二分子層を移動させる際、前記親水性体および前記水和支持体の間の接触を維持することにより前記二分子層を維持することを特徴とする請求項40に記載の方法。
【請求項42】
水和支持体に対して親水性体を移動させることにより、または親水性体に対して水和支持体を移動させることにより、またはその組み合わせにより、前記二分子層が移動されることを特徴とする請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
前記二分子層中の1つ以上の膜結合タンパク質が、位置移動されたときに前記二分子層中に留まることを特徴とする請求項40〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記第1の位置で前記二分子層が第1の試験試料に接触し、前記第2の位置で前記二分子層が第2の試験試料に接触することを特徴とする請求項40〜43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記親水性体を水和支持体全体にわたって移動させることにより前記二分子層が移動され、前記水和支持体が、2つ以上の試験される検体/化合物を備えることを特徴とする請求項40〜44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記水和支持体が、タンパク質またはDNA分離ゲルであることを特徴とする請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項8〜29のいずれか1項に記載の2つ以上の二分子層の配列であって、前記2つ以上の二分子層が、2つ以上の親水性体と1つ以上の水和支持体との間で、または1つ以上の親水性体と2つ以上の水和支持体との間で形成されることを特徴とする配列。
【請求項48】
細胞から再構成された膜構成要素を含む両親媒性分子の二分子層とライブラリ中の1つ以上の化合物との間の相互作用のためのスクリーニング方法であって、
i)請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層を提供するステップであって、前記水和支持体が試験される化合物のライブラリを備えたステップと、
ii)前記親水性体を位置変化させることによって、前記二分子層を前記水和支持体の表面全体にわたって位置変化させるステップと、
iii)前記二分子層と前記水和支持体および/または親水性体中の化合物との相互作用を検出するステップと、
を含む方法。
【請求項49】
前記二分子層中に配置された細胞膜由来膜結合タンパク質および/または他の膜構成要素と相互作用可能な物質を同定するための、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層製品の使用法。
【請求項50】
医薬品の開発または初代細胞スクリーニングのための医療診断における、請求項8〜29のいずれか1項に記載の二分子層製品の使用法。
【請求項51】
親水性体と水和支持体の間の両親媒性分子を含む二分子層と共に、親水性体および疎水性媒体中に浸漬した水和支持体を含み、細胞膜の少なくとも一部が二分子層に組み込まれていることを特徴とする、二分子層製品。
【請求項52】
本願明細書中または実施例に関連して実質的に記載される、二分子層を製造する方法または二分子層の使用法または二分子層または二分子層生成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2013−500858(P2013−500858A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523392(P2012−523392)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051290
【国際公開番号】WO2011/015870
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(500056231)アイシス・イノベーション・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】ISIS INNOVATION LIMITED
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【国際出願番号】PCT/GB2010/051290
【国際公開番号】WO2011/015870
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
【出願人】(500056231)アイシス・イノベーション・リミテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】ISIS INNOVATION LIMITED
【Fターム(参考)】
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