説明

二層構造紡績糸及び織編物

【課題】 生分解を有し、アイロンの熱によるポリ乳酸系繊維の溶融を抑制しうる二層構造紡績糸、及び該二層構造紡績糸を用いて、寸法安定性及び張り・腰感などに加え、保温性及びソフト感などの特性をも併せ持つ織編物を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】 第一に、断面が芯鞘型の二層構造紡績糸であって、芯部にポリ乳酸系短繊維が配され、鞘部に獣毛繊維が配されてなることを特徴とする二層構造紡績糸を要旨とするものである。第二に、その二層構造紡績糸が用いられてなることを特徴とする織編物を要旨とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二層構造紡績糸及び織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステル繊維と羊毛繊維とを混合した紡績糸が知られている。代表的なものとして、ポリエステル繊維と羊毛繊維との混紡糸が知られている。この混紡糸を用いた織編物は、衣料の他、インテリア、寝装製品などにも広く使用されている。
【0003】
しかしながら、この織編物は、廃棄されてもポリエステル繊維が長時間に渡って分解しない。そのため、地下地盤を汚染してしまうという問題がある。そこで、地球環境保護の点から、その改善が求められていた。
【0004】
そこで、特許文献1において、ポリ乳酸系繊維と羊毛繊維との混紡糸が提案されている。この混紡糸は、生分解を有するため、この混紡糸を用いて環境への負荷が少ない織編物が提供できる。
【特許文献1】特開2002−069796号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の混紡糸においては、ポリ乳酸系繊維が混紡糸表面の一部に露出している。そのため、この混紡糸を用いた織編物には、アイロンを掛けると、ポリ乳酸系繊維が溶融し、風合いが損なわれるという問題がある。さらに、ポリ乳酸系繊維に基づく寸法安定性及び張り・腰感などの特性を有するが、保温性及びソフト感など羊毛繊維に基づく特性が不十分であるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解消するものであり、生分解を有し、アイロンの熱によるポリ乳酸系繊維の溶融を抑制しうる二層構造紡績糸、及び該二層構造紡績糸を用いて、寸法安定性及び張り・腰感などに加え、保温性及びソフト感などの特性をも併せ持つ織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究の結果、ポリ乳酸系短繊維を獣毛繊維で被覆すれば、アイロンの熱によるポリ乳酸系短繊維の溶融を抑制でき、さらに、保温性、ソフト感など獣毛繊維に基づく特性を一段と織編物に反映させることができることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、第一に、断面が芯鞘型の二層構造紡績糸であって、芯部にポリ乳酸系短繊維が配され、鞘部に獣毛繊維が配されてなることを特徴とする二層構造紡績糸を要旨とするものである。第二に、その二層構造紡績糸が用いられてなることを特徴とする織編物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二層構造紡績糸は、生分解を有するものである。また、織編物に用いて、アイロンの熱によるポリ乳酸系短繊維の溶融を抑制できる実用的な織編物を作製しうるものである。
【0010】
また、本発明の織編物は、寸法安定性及び張り・腰感などに加え、保温性及びソフト感などの特性をも有するものである。したがって、本発明の織編物は、ユニフォーム衣料や下着衣料などに好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の二層構造紡績糸は、断面が芯鞘型であり、芯部にポリ乳酸系短繊維が配される。
【0013】
本発明に用いるポリ乳酸系短繊維としては、乳酸の構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、もしくはポリD−乳酸とポリ−L乳酸との混合体であるポリ乳酸ステレオコンプレックス、さらにはD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体などのポリ乳酸系ポリマーで形成されたポリ乳酸系短繊維を用いることができる。
【0014】
ここで、前記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシカプリル酸などがあげられる。
【0015】
ポリ乳酸系短繊維を形成するポリ乳酸系ポリマーの数平均分子量としては、2万〜15万であることが好ましい。融点としては、アイロンの熱による溶融を抑制する点から、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0016】
また、ポリ乳酸系短繊維の形態が短繊維であることで、織編物の吸水性や軽量感などを向上させることができ、下着用途などへの適用が可能となる。ポリ乳酸系短繊維は、フラット状でも捲縮を有していてもよい。
【0017】
ポリ乳酸系短繊維の断面形状としては、特に限定されるものではなく、必要に応じて丸断面、中空断面、異形断面などを適宜選定すればよい。
【0018】
ポリ乳酸系短繊維の平均繊度としては、特に限定されるものではないが、0.6〜10dtexが好ましく、1.5〜6.0dtexがより好ましい。平均繊度が0.6dtex未満であると、織編物の張り・腰感が低減する傾向にあるので好ましくない。一方、10dtexを超えると、織編物の風合いが硬化する傾向にあるので好ましくない。ここで、平均繊度とは、JIS L1015.8.5.1B法(簡便法)に準じて測定された値のことをいう。
【0019】
また、ポリ乳酸系短繊維の平均繊維長としては、64〜102mmが好ましく、75〜85mmがより好ましい。平均繊維長が64mm未満であると、二層構造紡績糸の均斉度が低下する傾向にあるので好ましくない。一方、102mmを超えると、紡績工程中に糸切れが多発する傾向にあるので好ましくない。ここで、平均繊維長とは、JIS L1015.8.4.1A法(ステープルダイアグラム法)に準じて測定された値のことをいう。
【0020】
一方、本発明の二層構造紡績糸においては、鞘部に獣毛繊維が配される。
【0021】
本発明に用いる獣毛繊維としては、特に限定されるものではないが、例えば、羊、ヤギ、ウサギ、アルパカ又はラマあるいはこれらに類似する動物から採取される天然ケラチン繊維を用いることができる。また、獣毛繊維として、塩素化によってスケールが除去されたもの、あるいは、酸化処理された後ポリアミド系樹脂でスケールが被覆されたものなどを採用すると、織編物に防縮性を付与することができる。
【0022】
獣毛繊維の平均繊維直径としては、特に限定されるものではないが、15〜30μmが好ましく、18〜22μmがより好ましい。平均繊維直径が15μm未満であると、織編物の張り・腰感が低減する傾向にあるので好ましくない。一方、30μmを超えると、織編物の風合いが硬化する傾向にあるので好ましくない。ここで、平均繊維直径とは、JIS L1081.7.1.4D法(オプティカルアナライザによる方法)に準じて測定された値のことをいう。
【0023】
また、獣毛繊維の平均繊維長としては、64〜102mmが好ましく、70〜85mmがより好ましい。平均繊維長が64mm未満であると、二層構造紡績糸の均斉度が低下する傾向にあるので好ましくない。一方、102mmを超えると、紡績工程中に糸切れが多発する傾向にあるので好ましくない。ここで、平均繊維長とは、JIS L1081.7.2.3C法(エレクトロニックマシンによる方法)に準じて測定された値のことをいう。
【0024】
本発明の二層構造紡績糸において、芯/鞘の質量比は、0.25〜1.50であることが好ましい。芯/鞘の質量比が0.25未満であると、製造時において芯部の繊維群に鞘部の繊維群が巻きつき難くなる。一方、1.50を超えると、鞘部の繊維群が芯部の繊維群を被覆することができなくなり、芯部のポリ乳酸系短繊維が露出する。
【0025】
本発明の二層構造紡績糸は、このように芯部に配されたポリ乳酸系短繊維が実質的に表面に露出することなく、鞘部に配された獣毛繊維によって覆われている。そのため、アイロンの熱によるポリ乳酸系短繊維の溶融を抑制する効果が高い。
【0026】
さらに、本発明の二層構造紡績糸の撚数は、特に限定されるものではないが、下記式(1)で表される撚係数Kを70〜90の範囲にすることが好ましい。
【0027】
【数1】

【0028】
また、本発明の二層構造紡績糸を用いた織編物(以下、「本発明の織編物」という)においては、二層構造紡績糸における芯部に配されたポリ乳酸系短繊維が、織編物に対し寸法安定性及び張り・腰感などを付与することができ、鞘部に配された獣毛繊維が、織編物に対し保温性及びソフト感などを付与することができる。本発明の織編物は、その少なくとも一部に上記した本発明の二層構造紡績糸が用いられてなるものであるが、発明の効果をより高めるためには、構成糸条の40質量%以上に本発明の二層構造紡績糸が用いられていることが好ましい。
【0029】
なお、本発明の二層構造紡績糸以外の糸条を併用する場合、併用するための方法としては特に限定されるものではなく、例えば、引き揃え、合撚、混繊など糸条同士を複合する方法、あるいは、交編織、配列など製織編の際に複合する方法などが採用できる。
【0030】
次に、本発明の二層構造紡績糸を製造する方法について説明する。
【0031】
本発明の二層構造紡績糸を製造するには、まず、ポリ乳酸系短繊維からなるスライバー(以下、「ポリ乳酸スライバー」という)と獣毛繊維からなるスライバー(以下、「獣毛スライバー」という)とを用意する。ポリ乳酸スライバーの作製方法としては、まず、ポリ乳酸系ポリマーを溶融紡糸後、数十万dtexのトウにして延伸し、所定長に切断して繊維塊とする。次いでこの繊維塊をカーディングすることでポリ乳酸スライバーを得る方法が採用できる。また、獣毛スライバーの作製方法としては、通常の梳毛紡績法、すなわち洗毛、カーディング、コーミングを経て獣毛スライバーを得る方法が採用できる。
【0032】
用意された両スライバーは、前紡工程に投入され粗糸となる。前紡工程とは、ダブリングとドラフトとを繰り返してスライバーの太さを細くし、均斉度の高い粗糸を作製するためのものである。前紡工程においては、まず、それぞれのスライバーに3〜5回程度のギリングを施し、均斉化されたポリ乳酸スライバー(以下、「ポリ乳酸繊維束」という)と均斉化された獣毛スライバー(以下、「獣毛繊維束」という)とを作製する。次に、獣毛繊維束のみ再度ギリングし、紡出された獣毛繊維束(以下、「獣毛ギル繊維束」という)をギル機の出口付近で上記ポリ乳酸繊維束と合体させて、二層構造繊維束を作製する。そして、ボビナーを使用して、該二層構造繊維束に12〜14倍のドラフトを与えることで粗糸を得ることができる。
【0033】
前紡工程において、ポリ乳酸繊維束と獣毛ギル繊維束とを合体させる際に用いる合糸装置としては、例えば、図1に示すような装置を用いることができる。この合糸装置は、ギル機の後段に取り付て用いるものである。フロントローラー1から紡出された2本の獣毛ギル繊維束8は、その一方がガイドローラー6を介すことで最上位に位置するスライバーガイド3Aに供給され、もう一方が、最下位に位置するスライバーガイド3Cに供給される。ポリ乳酸繊維束7は、ガイドローラー2A、2Bを介して合糸装置に導入され、中央に位置するスライバーガイド3Bに供給される。スライバーガイドを通過した3本の繊維束は、ガイドバー4により、2本の獣毛ギル繊維束8がポリ乳酸繊維束7を挟み込むような形に配置される。そして、これらの3本の繊維束は、コイラー5を通過する過程で合体して二層構造繊維束となり、ケンスに収められる。
【0034】
二層構造繊維束は、その後ドラフトを与えられて粗糸となり、この粗糸を精紡することで本発明の二層構造紡績糸を得ることができる。精紡に使用する精紡機としては、生産性の点からリング精紡機が好ましい。
【0035】
なお、得られた二層構造紡績糸を製織編工程に投入しやすくするためには、精紡により巻き取られた二層構造紡績糸を所定質量のパッケージになるよう巻返すか、あるいは枷取りするのが好ましい。また、二層構造紡績糸に毛羽焼きやワックス加工などを施すと、二層構造紡績糸の商品価値を高めることができる。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
ポリ乳酸スライバーとして、1質量%のD−乳酸と99質量%のL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸(融点170℃、数平均分子量85000)をポリ乳酸系ポリマーとして用いた平均繊度3.0dtex、平均繊維長80mmのポリ乳酸系短繊維からなる太さ20.0g/mのポリ乳酸スライバーを用意した。また、獣毛スライバーとして、平均繊維直径21.7μm、平均繊維長80mmのメリノウールからなる太さ25.0g/mの獣毛スライバーを別途用意した。
【0038】
前紡工程において、まず、上記ポリ乳酸スライバーにギリングを4回施し、太さ2.0g/mのポリ乳酸繊維束を得た。同様に上記獣毛スライバーにギリングを3回施し、太さ12.0g/mの獣毛繊維束を得た。次に、得られた獣毛繊維束を2本同時に8倍のドラフトを与えながらギリングし、フロントローラーから1.5g/mの獣毛ギル繊維束を紡出しつつ、上記ポリ乳酸繊維束を図1に示すような合糸装置に導入した。そして、2本の獣毛ギル繊維束で該ポリ乳酸繊維束を挟み込み、コイラーを通過する過程で合体させて二層構造繊維束となし、ケンスに収めた。次に、得られた二層構造繊維束をケンスから引き出し、ボビナーを使用して13倍のドラフトを与え、太さ0.4g/mの粗糸を得た。
【0039】
そして、得られた粗糸を精紡機に供給し、16倍のドラフトを与え、撚係数70の加撚を施し、芯/鞘の質量比が0.67である40番手(メートル番手)の本発明の二層構造紡績糸を得た。
【0040】
次に、この二層構造紡績糸を用いて、釜径76cm、針密度16ゲージの丸編機を使用して、フライス組織の生機を編成した。そして、この生機に染色仕上げ加工を施して、本発明の織編物を得た。
【0041】
得られた織編物は、生分解性を有し、アイロンの熱によるポリ乳酸系短繊維の溶融を抑制できる実用的な織編物であるだけでなく、寸法安定性及び張り・腰感と共に保温性及びソフト感にも優れる織編物であった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の二層構造紡績糸の製造に用いうる合糸装置の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0043】
1 フロントローラー
2A、2B、6 ガイドローラー
3A、3B、3C スライバーガイド
4 ガイドバー
5 コイラー
7 ポリ乳酸繊維束
8 獣毛ギル繊維束


【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が芯鞘型の二層構造紡績糸であって、芯部にポリ乳酸系短繊維が配され、鞘部に獣毛繊維が配されてなることを特徴とする二層構造紡績糸。
【請求項2】
請求項1記載の二層構造紡績糸が用いられてなることを特徴とする織編物。


【図1】
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【公開番号】特開2006−265780(P2006−265780A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86300(P2005−86300)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(599089332)ユニチカテキスタイル株式会社 (53)
【Fターム(参考)】