説明

二成分導電性延伸ポリエステル繊維およびその製造方法

本発明は、複数成分の導電性繊維(図1)およびそれを製造する方法(図2)に関する。繊維は、第1および第2ポリエステルの間で10℃の融解温度の差を有する、2つのポリエステル成分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維、より特には、二成分導電性延伸ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦は、合成繊維(例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等)において、また、羊毛のような幾つかの天然繊維においても、静電気を生じさせる。このことは、特に合成繊維が、静電気の放電(独特なショック)が重大な結果を有し得る用途において使用される場合には、そのような繊維の不利な点である。例えば、静電気の放電は、コンピュータおよび他の電子機器に、ダメージを与え得る。ある場合には(例えば、可燃性の雰囲気においては)、静電気の放電は、火事または爆発をもたらし得る。静電気の蓄積および放電はまた、編成または織成のような繊維加工方法の効率および生産性に影響を及ぼし得る。
【0003】
ある種の繊維は電荷を生じる(または消散させない)傾向を有するために、また、繊維は静電気が望ましくない多くの環境(例えば、コンピュータルームのカーペット、クリーンルームの衣服、ユニフォーム等)において、広く普及しているために、静電気の発生の問題を扱うための提案が数多くなされてきた。一般に、これらの方法は、繊維それ自体に導電性を付与すること、1または複数の個々の導電性繊維を物品に組み込むことにより、繊維から成る物品に導電性を付与すること、または帯電防止表面処理剤で繊維もしくは繊維から成る物品を処理することに関連している。表面処理剤は、一般に望ましくない。
【0004】
Asherらの米国特許第5,698,148号明細書および第5,776,608号明細書は、カーペットのような繊維製品または布地に組み込むための、鞘/芯構造を有する導電性繊維を説明している。導電性カーボンブラックが、合成熱可塑性繊維を形成するポリエステルに混合されて、導電性の鞘を形成する。非導電性の芯は、導電性の鞘で使用される、合成熱可塑性繊維を形成する同じポリエステルから成る。押し出された繊維は、延伸され、それからポリエステルのガラス転移温度より高く、その溶融または軟化温度よりも低い温度にて、緩和させられる。
【0005】
Breznakらの米国特許第5,916,506号明細書および第6,242,094号明細書は、非導電性の第1成分が第1のポリマーから成り、導電性第2成分が導電性物質を含む第2のポリマーから成る、二成分導電性繊維を説明している。成分は、鞘/芯繊維に押し出され、それは、その最初の長さの約4倍に延伸されて、引張強度を増す。そのような延伸は、導電性の損失を招き、それは、熱処理により回復させられ得る。Breznakによれば、2つのポリマー間の融点の違いは、熱処理により芯のポリマーが溶融しないように、少なくとも20℃であることが好ましい。このアプローチの欠点は、ポリマーの溶融温度が相当異なることを説明する(または補償する)ために、ポリマーの一方が、紡糸口金にて加熱又は冷却される必要があるということである。これは、望ましくないプロセスの中断、および紡糸口金におけるモノマーまたはオリゴマーの放出を招き得る。
【0006】
導電性の二成分繊維は、一般に、延伸の際に、導電性の損失を示す。この導電性の損失は、常套的には、導電性のこの低下を最小限にするために(しかし、まれに逆になる)、延伸段階を巧みに操作することにより、または延伸後処理により、是正されてきた。延伸の際に、導電率の損失を実質的に示さない、二成分の導電性繊維を開発することが望ましい。そのような繊維は、延伸された繊維の導電性を向上させることを目的とする、延伸後処理または他の手段の必要を無くすことにより、より効率的に製造することができるであろう。
【発明の開示】
【0007】
発明の要旨
本発明の一つの要旨によれば、複数成分の導電性繊維(または導電性複合繊維)は、導電性物質がその中に分散している第1のポリエステルを含む第1成分、および第1のポリエステルと同じでない第2のポリエステルを含む第2成分を有する。第1および第2のポリエステルの融解温度(または融点)の違いは、約10℃以下であり、好ましくは2つの融解温度(または融点)は、互いの約2℃以内にある。第1のポリエステルは、一般には、繊維の紡糸に先立って実施される、乾燥および/または結晶化工程の前において、第2のポリエステルよりも、より非晶質である。
【0008】
本発明の別の要旨によれば、延伸された複数成分の導電性繊維を製造する方法が提供される。当該方法は、導電性物質がその中に分散している第1のポリエステルを含む第1成分、および第1のポリエステルと同じでない第2のポリエステルを含む第2成分を、共押出しすることを含む。繊維は、その後、熱を加えながら、延伸されて、延伸繊維を形成する。
【0009】
本発明の好ましい形態において、延伸繊維は、さらに処理を施さなくても、未延伸繊維の導電性よりも実質的に小さくない(または少なくない)導電性を有する。ある場合には、延伸繊維の導電性は、驚くべきことに、未延伸繊維のそれよりも大きい。導電性を向上させるための別の延伸後処理が必要とされることを避けることによって、製造効率および費用対効果を向上させる可能性が存在する。
【0010】
本発明の対象、特徴および利点は、本発明の実施形態についての下記のより詳細な説明から明らかであり、また、添付する図面において示される。
【0011】
本発明の詳細な説明
本発明の複数成分の繊維は、第1のポリエステルおよび第1のポリエステルと同じでない第2のポリエステルから製造される。「同じでない」ことによって、第2のポリエステルが、第1のポリエステルを製造するのに用いられるモノマーとは異なる組み合わせのモノマーから製造されることを意味している。市販のポリエステルは、第1および第2のポリエステルの各々のために、用いることができる。あるいは、適当なポリエステルは、当業者によって、容易に製造され得る。「複数成分」という用語は、ここでは、1つよりも多いポリマー成分を有する合成繊維を指し、特に、二成分繊維を含む。
【0012】
本発明の複数成分の繊維は、布地、工業用布帛、およびカーペットのような幅広い用途において有用である。複数成分の繊維は、不織布、およびさらにカットされ又は加工されると、場合によっては、接着剤、中間層等のような他の用途においても有用であり得ることが予期される。繊維はまた、例えば、繊維が紡糸され、延伸され、捲縮させられ、小さな不連続な長さにカットされる場合には、ステープル繊維として有用であり、当該ステープル繊維は、他のステープル繊維と混合することができ、またはカーディングされて、それ自体、糸として紡がれることができる。
【0013】
第1のポリエステルは、一般に、複数成分の繊維の第1成分において、導電性物質の担体として機能する。第1のポリエステルは、好ましくは、第2のポリエステルよりも非晶質であり、そのことは、カーボンの混合(または配合)を改良し、また、得られる繊維の引張強さ(またはテナシティ)を向上させるのに役立ち得る。第1のポリエステルは好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)をベースとするコポリマーである。ポリエステルは、必要に応じて、融解温度が第2のポリエステルのそれに比較的近づく(可能な場合にはそれと同じである)ように、改質して(または変性させて)よい。第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの融解温度の差は、約10℃未満であり、好ましくは約5℃未満であり、さらにより好ましくは約2℃もしくはそれ未満である。
【0014】
一般に、ポリアルキレンテレフタレートまたはナフタレートポリエステルは、テレフタル酸またはその低級アルキルエステルと、脂肪族または脂環式のC2−C10のジオールとの重縮合反応により、製造され得る。例えば、ポリエチレンテレフタレートは、ジメチルテレフタレート(DMT)とエチレングリコールとの重縮合およびその後のエステル交換により、製造され得る。
【0015】
ポリエステルの結晶性の度合い及び/又は融解温度を低下させる、幾つかの公知の方法がある。例えば、多くのポリエステルは、ジオールまたは二酸のいずれかである(もしくは反応性が二酸性である)、第3のモノマーを用いて製造される。一例は、グリコールで改質されたPETであり、これは、PETGとして市販されている。グリコールで改質されたポリシクロテレフタレート(PCT)は、PCTGとして市販されており、酸で改質されたPCT変種(またはバージョン)は、PCTAとして市販されている。酸改質剤は、しばしば、ジメチルテレフタレートまたはジメチルイソフタレートのような、二官能性のテレフタレートである。他の二官能性の酸、例えばアジピン酸、マレイン酸、フタル酸の種々の異性体、および類似の材料を、使用することができる。種々の二酸のジエチルエステル変種(またはバージョン)は、二酸それ自身よりも好ましい場合がある。ジオールまたはグリコール改質剤の非制限的な例として、エチレン−、ジエチレン−、プロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、および他の二官能性アルコールが挙げられる。ポリエステルにおけるコモノマーのレベル(または割合)は、広い範囲にわたって変化してよいが、一般的には、約30モル%またはそれ未満であり、通常、約1〜約20モル%であり、しばしば、約5〜約10モル%である。
【0016】
一つの好ましいPETをベースとするポリエステルは、Americhemから、カタログno. 19420である、導電性カーボンブラックと予め混合されたものとして入手でき、それは、約225℃の融点を有する。他のポリエステルの例として、テレフタル酸(TA)またはジメチルテレフタレート(DMT)、エチレングリコール(EOH)、およびシクロヘキサンジメタノール(CHDM)のコポリマー(例えば、Eastman PETG製品の一つ)が挙げられる。ポリエステルの他の非制限的な例として、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)をベースとするポリマー、およびポリブチレンテレフタレート(PBT)をベースとするポリマーが挙げられる。ポリエステルをベースとするカーボンが配合された多くの他の材料が、市販されており、例えば、Americhemから、カタログno. 16131および16222として市販されている。RTP Companyもまた、カーボンブラックを含有する一連のポリエステル製品を有し、それらは、具体的には、PermaStat(登録商標)の名称の下で、静電気制御用途のために販売されている。そのような材料は、適当なカーボン添加量を有する帯電防止繊維を製造するのに有用であり得る。一般に、カーボンブラックを含有するポリマーで導電性を得るには、ポリマー中のカーボンブラックの量は、それ自体で繊維を形成するのに使用することができないような量である。ここで説明する二成分繊維は、第2のポリマーをフィラメントにおける支持基体として使用することによって、多くカーボンが添加されたポリマーを、繊維で使用することを可能にしている。
【0017】
第2のポリエステルは、一般に、非導電性であり、例えば、鞘/芯タイプの繊維において、芯を形成するために使用してよい。第2成分のための一つの好ましいポリエステルは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)であり、それは、2つの主たるモノマーである、テレフタル酸(TA)(またはジメチルテレフタレート(DMT))およびブタンジオール(BDO)から得られる。Wiley-VCH、2002年、Fakirov編、「熱可塑性ポリマー・ハンドブック(Handbook of Thermoplastic Polymers)」を参照されたい。PBTは、約223℃の融点を有する。あるいは、他のポリエステル、例えば、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、PTTもしくはPETをベースとするコポリマー、PETGもしくはPCTのようなコポリマー、または当業者に公知の単一成分繊維を形成するのに有用な他のポリエステルを、第2成分にて使用することができる。
【0018】
導電性物質は、導電性カーボンブラックまたは他の導電性物質、例えば導電性金属であってよい。好ましくは、カーボンブラックが、第1のポリエステルに分散している。第1成分における導電性物質の添加量は、広い範囲にわたって変化し得るが、ほとんどの場合、約10重量%〜約50重量%であり、より一般的には、約20重量%〜約30重量%である。
【0019】
本発明の複数成分の繊維は、好ましくは、延伸後に、導電性が実質的に減少しない。好ましい繊維は、延伸後、線形抵抗の減少を100〜1000倍程度示す。例えば、PBTを非導電性ポリエステルとして使用し、Americhem 19420をカーボンを含有するポリエステル(カーボン添加量25%)として使用する場合、二成分繊維は、延伸後、10〜10Ω/cmから10〜10Ω/cmへの、線形抵抗の減少を、一貫して示した。これは、静電荷を減少させる効力である、導電性が、約100倍向上したことを意味する。
【0020】
繊維は、図1に示すように、長手方向のストライプとして、非導電性の第2成分上に置かれた導電性の第1成分を約11〜13%使用して、紡糸される。別法として、複数成分の繊維の第1および第2成分は、鞘/芯、または現在公知のもしくは今後開発される、複数成分の繊維用の他の適当な構成として、配置してよい。第1および第2成分の特定の配列は、本発明の一部を構成しない。二成分繊維は、一般に、約1000〜2000m/分(mpm)、ほとんどの場合、1400mpmにて、紡糸される。図2は、本発明の二成分繊維を製造するために使用することができる、一般的な繊維紡糸プロセスの模式図である。
【0021】
紡糸繊維は、任意の適当な装置、例えば、4ロール式エルドマン延伸台(Erdamann drawstand)を使用して延伸することができる。ロール温度は好ましくは、ポリエステルのガラス転移温度よりも高い温度に設定される。一般的な延伸温度は、約100℃〜約190℃の範囲内にある。一つの好ましい形態において、第1および第4のロールは、90℃に設定され、残りの2つの「延伸」ロールは、150℃に設定される。第4のロールは、通常、緩和(または弛緩)ロールと呼ばれ、一般的には、一方または両方のポリマーのガラス転移温度(T)またはそれよりも高い温度に設定される。導電性の維持および/または向上が、Tよりも高い及び低い温度の両方で、広い範囲の緩和温度で観察された。
【0022】
第1のポリエステルおよび第2のポリエステルの融解温度の差が比較的低いことにより得られる、一つの潜在的な利点は、繊維が、紡糸パックにて、共通の温度で製造され得るということである。換言すれば、融解温度が近似しているために、いずれのポリエステルも、紡糸口金にて、温度の上昇または低下に付する必要がない。これは、紡糸口金において、モノマーまたはオリゴマーがより少ない量で放出されることに起因して、加工がよりスムーズになるということ、およびプロセスの中断の発生度合いがより低くなるということであると、解されるべきである。
【0023】
下記の例が、例示の目的のためだけに提供される。これらの例は、本発明を制限するものであるとみなされるべきではない。
【実施例】
【0024】
実施例1
この例は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が非導電性の第2成分に使用され、PETをベースとするポリエステルである、Americhem 19420(カーボン添加量 25%)が導電性の第1成分に使用された、二成分繊維の製造を説明する。押出条件を、下記の表にまとめる。
【0025】
【表1−1】

【0026】
二成分繊維は、PBTポリマー上に、長手方向のストライプとして、11〜13%のカーボン担持ポリエステルを配置して、紡糸した。繊維は、1400mpmで紡糸されて、約1.3〜1.5g/デニールの引張強さを有する、約45デニールの繊維を与えた。下記の表は、紡糸条件をまとめている。
【0027】
【表1−2】

【0028】
未延伸繊維の線形抵抗を測定し、それは約108〜109Ω/cmであることがわかった。線形抵抗は、この実施例および他の実施例において、Keithley 614 電位計またはKeithley 6517 電位計/高抵抗計を使用して、測定した。繊維サンプルは、長さ7.5cmであった。5回または10回の測定を実施し、平均値および標準偏差を計算した。繊維繊度(またはデニール)は、公知の円周のリールを用いて測定し、繊度は、グラム/9000メートルとして算出した。繊維の引張強さは、Instron 8100 引張試験測定装置を用いて、InstronのMerlinソフトウェアを用いて測定し、デニールで除した破断強度として算出した。
【0029】
紡糸した繊維は、4ロール式エルドマン延伸台(Erdmann drawstand)で延伸した。当該延伸台の第1および第4ロールは、90℃に設定され、他の2つの延伸ロールは、150℃に設定された。延伸条件は、下記の表にまとめられている。
【0030】
【表1−3】

【0031】
延伸繊維の線形抵抗を測定し、それは約106〜107Ω/cmであることがわかった。繊維の引張強さを測定し、それは約2g/デニールであることがわかった。
【0032】
比較例1
この例は、PBTがカーボン担持成分および非導電性の第2成分の両方に使用された、二成分繊維の製造を説明する。カーボン担持成分は、25%の導電性カーボンブラックを担持していた。繊維は紡糸され、その後、実質的に実施例1で説明したように延伸した。引張強度および導電性の結果は、このポリマーの組み合わせを使用して、カーボン成分の量、紡糸速度、および延伸温度を変化させながら、製造した数百の品目によく見られるようなものであった。
【0033】
実施例2
この実施例は、PETをベースとするポリエステルであるAmerichem 19420(カーボン含有量25%)をカーボン担持成分に使用し、非導電性の第2成分がPTTである、二成分繊維の製造を説明する。すべての他の詳細は、実質的に、実施例1において前述したとおりである。
【0034】
実施例3
この実施例は、25%のカーボンブラックを含有するPBTをカーボン担持成分に使用し、非導電性の第2成分がPTTである、二成分繊維の製造を説明する。すべての他の詳細は、実質的に、実施例1において前述したとおりである。
【0035】
下記の表1は、実施例1、比較例1、実施例2および実施例3の繊維の線形抵抗および引張強さをまとめたものである。延伸線形抵抗対紡糸線形抵抗の比は、導電性が変化しなかった(比=1.0)、導電性が向上した(比<1.0)、または導電性が減少した(比>1.0)のいずれであるかを示す。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例1の繊維は、同じ加工条件、速度等の下で、同じポリマー加工温度でもって、製造した比較例1の繊維よりも、約35%、延伸後の引張強さが大きかった。このように、実施例1の繊維は、二成分繊維の2つのポリマーが、それらの融解温度が類似するために、同じ温度にて加工されることを許容するにもかかわらず、比較例1の繊維よりも向上した引張強さを与えた。さらに、実施例1の繊維は、比較例1の繊維、または実施例2、3のように、異なる組み合わせのポリエステルを使用して、(融解温度が同じである場合には)他の条件を同じにして、または異なる融点を有するポリマーの特定の融解特性を反映させるように他の条件を変化させて、製造した繊維と比較して、延伸後に、より良好な導電性を有していた。
【0038】
実施例4
下記の表2は、PBTの種々のグレードを、非導電性材料として使用して作製した、他の試験品目を、種々の導電性材料および2つのナイロンをベースとする導電性繊維と比較して、まとめている。「19420」は、Americhem 19420(カーボン含有量25%)を指している。これらの結果は、他のポリマーの組み合わせに対し、適切に選択したポリマーの組は、特性を優れて保持することを示している。この表の実施例は、導電性材料が、繊維の長手方向に沿ったストライプとして現われる繊維断面を用いて作製した。「%ストライプ」は、フィラメント中の導電性ポリマーの重量パーセントである(各々の場合において、導電性ポリマーの重量の約25%が、カーボンブラックである)。「平均Ω/cm」を示す2つの列は、(1)紡糸(またはSp)された、および(2)延伸(またはDr)された繊維の線形抵抗をΩ/cmで示す。最後の列は、延伸対紡糸線形抵抗の比を示し、ここで、延伸対紡糸線形抵抗の比は、導電性が変化しなかった(比=1.0)、導電性が向上した(比<1.0)、または導電性が減少した(比>1.0)のいずれかを示す。
【0039】
【表2】

【0040】
実施例5−16
下記の例は、PBT/co−PET(Americhem 19420)ポリマー系であり、これについての延伸の相対量は、エルドマン4ロール式延伸−巻取り装置において、ロールの組の間で動かした。結果を、表3に示す。他の実施例におけるように、延伸対紡糸線形抵抗の比は、導電性が変化しなかった(比=1.0)、導電性が向上した(比<1.0)、または導電性が減少した(比>1.0)のいずれかを示す。
【0041】
【表3】

【0042】
実施例17−40
最終製品のための延伸方法は、先の実施例で示すように、複数の延伸ゾーンをふくんでよい。しかしながら、ここで要求される特性は、単一工程の延伸機(例えば、2つのロールの間のスピードの差が、開始時の紡糸デニールから、最終製品のデニールまでの延伸を与える、延伸−巻取りプロセス)を用いて得ることができる。この方法においては、複数のロールによる延伸−巻取り装置により提供される、いわゆる「緩和ゾーン」が、存在しない。
【0043】
表5は、工場的な運転において生じた品目の特性の結果をまとめたものである。この例において、紡糸繊維は、先に説明したように、PBT/co−PBTポリマー系を使用して作製した。両方の紡糸品目について、引取速度は、1420mpmであった。他の例のように、延伸対紡糸線形抵抗の比は、導電性が変化しなかった(比=1.0)、導電性が向上した(比<1.0)、または導電性が減少した(比>1.0)のいずれかを示す。紡糸品目117を使用した作製した試験品目は、各繊維中、導電性カーボンポリマーを9.5重量%有していた。紡糸品目122を用いて作製した品目は、14.5%有していた。第1の延伸ロール温度は、下記に示す、すべての運転について、100℃に設定した。ここに示す「延伸比」は、2つのロールの間の速度比であり、第2のロールはすべての品目について1020mpmに設定された。装置の設定を、表6に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
実施例41−44
この方法を使用して作製した繊維はまた、ステープル繊維の用途にも有用である。ステープル繊維の用途において、ここで説明した二成分繊維は、紡糸され、延伸され、捲縮が付与され、また、小さな不連続な長さにカットされて、他のステープル繊維と混合され、またはカーディングされて、それ自体で糸として紡がれる。一例として、単一のストライプである導電性カーボン含有のco−PET、および非導電性の「芯」であるPBTのポリマーを、下記に示す条件にて、紡糸した。この繊維は、それから、紡糸した糸の複数の端部を繋いで、一つの大きな束にすることによって、トウにされ、このトウを延伸し、捲縮加工に付し、ステープルにカットした。ステープルは、帯電防止布帛の用途に適した抵抗を有することがわかった。さらに、延伸ロール温度および延伸比の適当な組み合わせを選択することによって、最終的なステープル製品は、その測定された表面抵抗が、紡糸繊維のそれよりも低くなるように(即ち、延伸抵抗/紡糸抵抗<0)、形成され得ることがわかった。表7は、同じ紡糸原料を用いて作製した、幾つかのステープル品目についての抵抗の結果をまとめたものである。
【0047】
【表7】

【0048】
他の実施例のように、延伸対紡糸抵抗の比は、導電性が変化しなかった(比=1.0)、導電性が向上した(比<1.0)、または導電性が減少した(比>1.0)のいずれかを示す。線形抵抗は先に説明したように測定した(単位Ω/cm)。表面抵抗は、僅かな繊維の見本または収集物、フィブリル、または平滑な表面を測定するのに、より適している(上述の結果は、Ωで示している)。それは、繊維または布のサンプルを取り、それを適当な時間の間、制御した温度および湿度環境中にて整えることにより、測定される。適当な量のサンプルが、電極に提示するために準備される。外部電源を100Vに設定し、表示が、数秒の間、安定することができるようになってから、印加された電圧でのサンプルの抵抗率を測定する。
【0049】
ここで使用されるテスト・プローブは、Electro-Tech Systems(グレンサイド、ペンシルベニア州)のEOS/EDS標準11.11表面抵抗プローブ モデル803Bであり、これは2つの同心の軟質ゴム電極から成る。電極の寸法は、Ω/□で示される表面抵抗が、測定される抵抗(Ω)の10倍となるようなものである。表示は、Electro-Techのモデル872A広範囲抵抗計、またはKeithley 6517抵抗計を用いてなされる。
【0050】
本発明を特定の形態に関して説明したが、上記説明および実施例は、説明のためのものであり、本発明の範囲を制限するものではないことが理解されよう。他の要旨、利点、および改変は、本発明が関係する当業者には明らかであり、これらの要旨および改変は、添付の請求の範囲によってのみ制限される本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の好ましい形態の、PBTの中心とPETをベースとする導電性成分とを有する、二成分の導電性繊維の断面図である。
【図2】図2は、本発明に従って、二成分繊維を製造する一般的な紡糸プロセスの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性物質がその中に分散している第1のポリエステルを含み、第1のポリエステルが第1融解温度を有する、第1成分
第1のポリエステルと同じでない第2のポリエステルを含み、第2のポリエステルが第2融解温度を有する、第2成分
を含み、
第1融解温度と第2融解温度の差が、約10℃以下である、
複数成分の導電性繊維。
【請求項2】
第1のポリエステルが、テレフタル酸またはその低級アルキルエステル、脂肪族または脂環式のC2−C10のジオール、ならびに、ジオール、二酸、およびジエステルから成る群から選択される1または複数の改質剤のコポリマーである、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項3】
1または複数の改質剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、アジピン酸、マレイン酸、およびフタル酸から成る群から選択される、請求項3に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項4】
第1のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)をベースとするポリマーである、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項5】
第1のポリエステルが、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)をベースとするポリマーである、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項6】
第2のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)である、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項7】
第2のポリエステルが、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)である、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項8】
導電性物質がカーボンブラックを含む、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項9】
複数成分の延伸導電性繊維を製造する方法であって、
導電性物質がその中に分散している第1のポリエステルを含む第1成分、および第1のポリエステルと同じでない第2のポリエステルを含む第2成分であって、第1のポリエステルが第1融解温度を有し、第2のポリエステルが第2融解温度を有し、第1融解温度および第2融解温度の差が約10℃を越えない、第1および第2成分を、共押出しすることにより、未延伸繊維を作製すること、および
熱を加えながら、未延伸繊維を延伸して、延伸繊維を形成すること
を含む、方法。
【請求項10】
延伸繊維が、未延伸繊維の導電性よりも小さくない導電性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
第1のポリエステルが、第2のポリエステルよりも非晶質である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
延伸繊維の導電性が、未延伸繊維の導電性よりも大きい、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
第1のポリエステルが、テレフタル酸またはその低級アルキルエステル、脂肪族または脂環式のC2−C10のジオール、ならびに、ジオール、二酸、およびジエステルから成る群から選択される1または複数の改質剤のコポリマーである、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
1または複数の改質剤が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、アジピン酸、マレイン酸、およびフタル酸から成る群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
第1のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)をベースとするポリマーである、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
第1のポリエステルが、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)をベースとするポリマーである、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
第2のポリエステルが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)である、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
第2のポリエステルが、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)である、請求項1に記載の複数成分の導電性繊維。
【請求項19】
導電性物質がカーボンブラックを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
二成分の延伸導電性繊維を製造する方法であって、
(i)テレフタル酸またはその低級アルキルエステル、
脂肪族または脂環式のC2−C10のジオール、ならびに、
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、アジピン酸、マレイン酸、およびフタル酸から成る群から選択される、1または複数の改質剤
のコポリマーであって、導電性物質が分散しているコポリマーを含む、導電性の第1成分、および
(ii)ポリブチレンテレフタレートを含む非導電性の第2成分
を共押出しすることにより、未延伸繊維を作製すること、ならびに
未延伸繊維を、約80℃〜約190℃の温度にて、延伸して延伸繊維を形成すること
を含み、
延伸繊維が、未延伸繊維の導電性よりも小さくない導電性を有する、
方法。
【請求項21】
延伸繊維が、未延伸繊維の導電性よりも大きい導電性を有する、請求項20に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−530803(P2007−530803A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505014(P2007−505014)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/008794
【国際公開番号】WO2005/100651
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(503316891)ソルティア・インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】