説明

二成分現像剤の製造方法、二成分現像剤

【課題】オンデマンド印刷の様に現像装置内で絶えずストレスを受ける画像形成環境下でも、樹脂コート層が剥離せず、安定したトナー帯電が行える樹脂コートキャリアを含有する二成分現像剤を提供する。
【解決手段】磁性芯材粒子表面に樹脂粒子と一般式(1)で表されるケイ素錯体化合物を静電的に付着させ、前記付着を行った磁性芯材粒子に加熱下で機械的衝撃力を加えてケイ素錯体化合物と樹脂粒子を固着させて樹脂コートキャリアを作製する二成分現像剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性芯材粒子表面に樹脂を被覆してなる樹脂コートキャリアとトナーより構成される二成分現像剤の製造方法と該製造方法により作製される二成分現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機やプリンタ等の画像形成装置に使用される現像剤には、トナーのみから構成される一成分現像剤と、キャリアと呼ばれる磁性粉体とトナーより構成される二成分現像剤がある。二成分現像剤による画像形成は、キャリアの存在により迅速なトナー帯電が行えることから高速のプリント作成を行う上で有利な方式である。
【0003】
二成分現像剤で使用されるキャリアは、前述した様にトナーを帯電するもので、トナー帯電に繰り返し使用されても長期にわたり安定した帯電付与性能を有することが求められる。キャリアは、芯材(コア)と呼ばれる磁性粒子より構成され、芯材をそのままキャリアに用いる形態の他、芯材表面を熱可塑性樹脂で被覆した構造の樹脂コートキャリアと呼ばれる形態がある。
【0004】
樹脂コートキャリアは、芯材粒子表面が樹脂で被覆された構造を有することから良好な耐久性と安定した摩擦帯電性を有し、また、有機溶媒を使用せずに樹脂の被覆が行える技術も確立されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に開示の製造方法は、回転羽根の回転による撹拌作用で樹脂粒子の芯材粒子表面への均一かつ強固な固着を実現するもので、均一な厚みの樹脂層を形成して、耐久性と摩擦帯電付与性能を有する樹脂コートキャリアの提供を可能にしている。
【0005】
ところで、所定量の電荷をトナーへ迅速かつ安定的に付与する方法の1つに荷電制御剤を用いる技術がある。荷電制御剤を用いてトナーの帯電量や帯電速度を安定化させる技術は、主にトナー粒子中に荷電制御剤を含有させる方法が採られるが、摩擦帯電により荷電制御剤がトナーより脱落することもあり、安定した帯電付与の実施が困難なものであった。そこで、荷電制御剤をキャリアや現像スリーブ、ブレード等の電荷付与部材表面に含有させ、当該電荷付与部材にトナーを接触させることにより、安定した帯電を行える様にする技術が検討されていた(たとえば、特許文献2〜4参照)。
【0006】
上記特許文献のうち、特許文献2は荷電制御剤として第4級アンモニウム塩等の化合物を2種類以上用いるものであった。また、特許文献3と4は荷電制御剤としてケイ素錯体化合物を用いるものであった。
【0007】
特許文献3と4には、ケイ素錯体カチオンと硫酸エステル系アニオン等で構成される正帯電性のケイ素錯体化合物をキャリアへ含有させることが記載され、当該キャリアの摩擦帯電によりトナーに負の電荷を付与して帯電特性や帯電安定性を向上させている。これら文献には、キャリア粒子中へケイ素錯体化合物を含有させる方法として、親水性または疎水性の有機溶剤にケイ素錯体化合物を分散させた分散液中にキャリア粉末を浸漬させ、続いて乾燥処理することが記載されている。また、ケイ素錯体化合物の分散液をキャリア粉末に噴霧処理や刷毛塗り処理し、乾燥することにより、キャリア粒子中にケイ素錯体化合物を含有させる方法も開示されている。
【0008】
この様に、上記特許文献にはケイ素錯体化合物をキャリア粒子へ含有させる方法が開示されていたが、作製したキャリアの帯電付与性能についての具体的な内容までは記載されていなかった。そこで、本発明者は、上記特許文献3や4に開示された方法でケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアを作製し、実際に帯電付与性能を評価したところ、初期段階や少量のプリント作成では良好な結果が得られることを確認した。
【0009】
ところで、電子写真方式の画像形成分野におかれては、短波長半導体レーザ露光技術やトナーの小径化技術の進展に伴い、従来は印刷分野でしか対応できなかったグラビア写真等の高解像度の画質が求められるプリント物の作成も行える様になってきた。そして、電子写真方式の画像形成方法では、版を起こす手間をかけずに数百枚から数千枚レベルのプリント物を迅速に作成することができるので、最近ではオンデマンド印刷と呼ばれる新たな印刷市場を形成する様にもなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−222134号公報
【特許文献2】特開2004−341456号公報
【特許文献3】特開2007−41564号公報
【特許文献4】特開2007−298966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
オンデマンド印刷対応の画像形成装置では、数百枚から数千枚レベルのプリント物を迅速に作成することが求められていることから、キャリアには所定量の電荷を短時間でトナーへ付与する性能が必要になってくる。また、迅速なトナー帯電を実現させるために、いきおい現像装置内での撹拌もハードになり、キャリアは撹拌によるストレスを受け続けても、劣化、破損することのない耐久性が要求される様になってきた。
【0012】
本発明者は、特許文献3と4に記載の方法で作製したケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアを用いてオンデマンド印刷レベルの連続プリント作成を行ってみたところ、撹拌の影響で樹脂コート層が磁性芯材粒子より剥離し易いことに気がついた。この様に、樹脂コート層が磁性芯材粒子より剥離してキャリアが破損すると、帯電付与性能が低下し、帯電不良のトナーによるカブリや高濃度領域の画像濃度低下等の画像不良の発生やトナー飛散に起因する機内汚染も発生もみられる様になった。
【0013】
したがって、ケイ素錯体化合物を樹脂層中に含有させた樹脂コートキャリアを用いた二成分現像剤は、オンデマンド印刷に代表される数百枚から数千枚レベルのプリント物の連続作成をスムーズに行えないものであった。本発明は、オンデマンド印刷の様に現像装置内で絶えずストレスを受け続ける場合でも、樹脂コート層が剥離せず、安定したトナー帯電が行えるケイ素錯体化合物含有樹脂コートキャリアを含有する二成分現像剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記課題が以下に記載のいずれかの構成により解消されるものであることを見出した。すなわち、請求項1に記載の発明は、
『少なくとも、磁性芯材粒子及び樹脂粒子を乾式で混合して製造した樹脂コートキャリアとトナーからなる二成分現像剤の製造方法であって、
前記樹脂コートキャリアは、少なくとも、
前記磁性芯材粒子、前記樹脂粒子、及び、下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を室温下で撹拌して、前記磁性芯材粒子表面に前記樹脂粒子と下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を静電的に付着させる工程と、
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表し、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたアリール基、〔A〕は硫酸エステル系アニオンを表す。〕
前記樹脂粒子と前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を付着させた磁性芯材粒子に加熱を行いながら機械的衝撃力を加えて、前記磁性芯材粒子表面に前記ケイ素錯体化合物を含有する前記樹脂粒子を固着させる工程を経て作製されるものであることを特徴とする二成分現像剤の製造方法。』というものである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、
『前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物は、
構造中のRが炭素原子数1以上8以下のアルキル基であり、
構造中のRがイソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、t−オクチル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルコキシ基が置換されたアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の二成分現像剤の製造方法。』というものである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、
『少なくとも、樹脂と着色剤を含有するトナーと、磁性芯材粒子表面に樹脂コート層を被覆してなる樹脂コートキャリアを有する二成分現像剤であって、
前記樹脂コートキャリアは、
少なくとも、下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を前記樹脂コート層に含有するものであることを特徴とする二成分現像剤。
【0019】
【化2】

【0020】
〔式中、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表し、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたアリール基、〔A〕は硫酸エステル系アニオンを表す。〕』というものである。
【0021】
請求項4に記載の発明は、
『前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物は、
構造中のRが炭素原子数1以上8以下のアルキル基であり、
構造中のRがイソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、t−オクチル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルコキシ基が置換されたアリール基であることを特徴とする請求項3に記載の二成分現像剤。』というものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、樹脂被覆層にケイ素錯体化合物を含有させた樹脂コートキャリアを、撹拌によるストレスが絶えず加わる画像形成環境下に用いても、樹脂被覆層は剥離せず安定したトナー帯電が行える耐久性に優れた樹脂コートキャリアの提供を可能にした。したがって、数百枚から数千枚レベルのプリント物を連続作成するオンデマンド印刷を行っても、安定したトナー帯電が行え、所定濃度を有し、かつ、カブリ等の画像欠陥のない良好な仕上がりのプリント物を安定的に作成することが可能になった。また、画像形成装置内でのトナー飛散の問題もなく、快適な作業環境でのプリント作成を可能にしている。
【0023】
さらに、樹脂コートキャリアを作製する際、ケイ素錯体化合物と樹脂粒子を磁性芯材粒子表面へ直接添加して樹脂被覆層を形成するので、従来技術では必須であった有機溶剤の処理を不要にする樹脂コートキャリアの製造方法の提供を可能にしている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】磁性芯材粒子と樹脂粒子を用いて樹脂コートキャリアを作製するキャリア製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、磁性芯材粒子表面に樹脂を被覆してなる樹脂コートキャリアとトナーより構成される二成分現像剤に関するもので、特に、樹脂被覆層中に特定構造のケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアを有する二成分現像剤に関する。
【0026】
本発明は、磁性芯材粒子表面にケイ素錯体化合物と樹脂粒子を静電的に付着させた後、加熱下で当該磁性芯材粒子に機械的衝撃力を付与してケイ素錯体化合物と樹脂粒子を固着させて樹脂コートキャリアを作製するものである。そして、この様な工程を経て樹脂コートキャリアを作製することにより、オンデマンド印刷の様なストレスの多いプリント作成環境下でもケイ素錯体化合物を含有する樹脂被覆層が磁性芯材粒子表面より剥離せず、安定したトナー帯電が行えることを見出した。
【0027】
本発明者は、樹脂コート層にケイ素錯体化合物を含有させたキャリアを用いて大量プリント作成を行ったときに樹脂コート層が剥離する原因を検討し、ケイ素錯体化合物粒子を有機溶剤に分散させた分散液を用いて樹脂被覆層を形成している点に注目した。すなわち、ケイ素錯体化合物粒子は分散こそしているものの有機溶剤に対する親和性が低いため、分散液中ではケイ素錯体化合物粒子同士が凝集しているものと考えられた。そして、樹脂コートキャリアとして作製されても、ケイ素錯体化合物が凝集体の形態で添加されている樹脂被覆層は機械的強度が低く、画像形成時の撹拌によるストレスで凝集物は解砕され、解砕により樹脂被覆層が剥離するものと推測した。
【0028】
本発明者は、ケイ素錯体化合物粒子が凝集体を形成しない状態で磁性芯材粒子表面へ添加する方法を検討し、凝集体形成の直接的な原因とされる有機溶剤を使用せずに磁性芯材粒子表面へ樹脂とともに均一に添加可能な方法として本発明を見出したのである。この様に、本発明では一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物粒子を樹脂粒子とともに磁性芯材粒子表面へ静電的に付着させ、樹脂が溶融する加熱下で機械的衝撃力を付与して固着することで、優れた耐久性を有する樹脂コートキャリアが得られることを見出した。
【0029】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0030】
最初に、本発明で作製される樹脂コートキャリアに含有されるケイ素錯体化合物について説明する。本発明で作製される二成分現像剤を構成する樹脂コートキャリアは、磁性芯材粒子表面に形成される樹脂コート層に、少なくとも、下記一般式(1)で表される構造のケイ素錯体化合物の1つである前述の一般式(2)で表される化合物を含有するものである。
【0031】
【化3】

【0032】
なお、上記一般式(1)で表される構造のケイ素錯体化合物は、式中のRとRが同一または異なる基であり、具体的には以下のものが挙げられる。すなわち、水素原子、水酸基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、ホルミル基、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基が挙げられる。また、置換基を有してもよいアリサイクリック基や置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基であってもよい。
【0033】
また、上記一般式(1)中のRは、水素原子と結合した炭素原子、または置換基と結合した炭素原子を表すものである。さらに、式中の〔A〕は、硫酸エステル系アニオンを表し、具体的には、硫酸エステル系アニオン性有機化合物より得られる硫酸エステル系アニオンを表すものである。
【0034】
本発明では、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物はキャリアを構成する樹脂コート層に均一分散し易い性質を有することが求められ、下記一般式(2)で表される構造のものはこの性質を発現するケイ素化合物である。
【0035】
【化4】

【0036】
上記一般式(2)で表される構造中の化合物中のRは、炭素原子数が1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表す。また、Rは炭素原子数が1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、無置換もしくは炭素原子数が1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたアリール基を表すものである。また、式中の〔A〕は、前述した様に硫酸エステル系アニオンを表すものである。
【0037】
上記Rで表される基の具体例としては、先ず、炭素原子数1以上8以下のアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、t−オクチル基がある。また、炭素原子数が1以上8以下のアルケニル基には、ビニル基、−CHCH=CHで表される基、−C(CH)=CHで表される基がある。また、炭素原子数が1以上8以下のアルコキシ基には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基がある。
【0038】
本発明では、上記Rで表される基の中でも、炭素原子数が1以上8以下のアルキル基がより好ましく、その中でも、イソプロピル基、t−ブチル基、t−オクチル基が特に好ましい。
【0039】
上記Rで表される基の具体例としては、炭素原子数が1以上8以下のアルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、t−オクチル基がある。また、炭素原子数が1以上8以下のアルケニル基には、ビニル基、−CHCH=CHで表される基、−C(CH)=CHで表される基がある。また、前述のアリール基には、無置換もしくは炭素原子数が1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたフェニル基、トルイル基、ナフチル基がある。本発明では、上記Rで表される基の中でも、イソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、t−オクチル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルコキシ基が置換されたアリール基がより好ましい。
【0040】
次に、前記一般式(1)あるいは前記一般式(2)で表される構造のケイ素錯体化合物を構成する硫酸エステル系アニオン〔A〕について説明する。上記ケイ素錯体化合物を構成する硫酸エステル系アニオン〔A〕は、前述した様に、硫酸エステル系アニオン性有機化合物より形成されるものである。
【0041】
硫酸エステル系アニオン〔A〕を形成するのに好ましく使用される硫酸エステル系アニオン性有機化合物としては、たとえば、以下のものがある。すなわち、
アルキル硫酸エステルもしくはその塩、第2級アルコール硫酸エステルもしくはその塩、オレフィン硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸エチレングリコリド硫酸エステルもしくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルもしくはその塩、
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸多価アルコール硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸アルキル硫酸エステルもしくはその塩、
脂肪酸アミド硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸アニリド硫酸エステルもしくはその塩、脂肪酸モノアルカノールアミド硫酸エステルもしくはその塩、硫酸化油
これらの中でも、アルキル硫酸エステルもしくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルもしくはその塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルもしくはその塩がより好ましい。
【0042】
上記アルキル硫酸エステルやその塩は、たとえば、下記一般式(3)で表されるものである。すなわち、
一般式(3);R−O−SO−M
上記一般式(3)中のRはアルキル基で、本発明では炭素原子数が8以上18以下のものが好ましく、特に炭素原子数が12のドデシル基が好ましいものである。また、Mは水素原子(H)、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アンモニウム(NH)、アルカノールアミン、アルカノールアンモニウムで表されるものである。
【0043】
また、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルもしくはその塩は、たとえば、下記一般式(4)で表されるものである。すなわち、
一般式(4);R−O−(CHCHO)n1−SO−M
上記一般式(4)中のRはアルキル基で、本発明では炭素原子数が8以上18以下のものが好ましく、特に炭素原子数が12のドデシル基が好ましいものである。また、n1は2以上の整数を表し、Mは水素原子(H)、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アンモニウム(NH)、アルカノールアミン、アルカノールアンモニウムで表されるものである。
【0044】
また、上記ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルもしくはその塩は、たとえば、下記一般式(5)で表されるものである。すなわち、
【0045】
【化5】

【0046】
上記一般式(5)中のRはアルキル基で、本発明では炭素原子数が8以上18以下のものが好ましく、特に炭素原子数が9のノニル基が好ましいものである。また、n2は2以上の整数を表し、Mは水素原子(H)、ナトリウム(Na)やカリウム(K)等のアルカリ金属、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属、アンモニウム(NH)、アルカノールアミン、アルカノールアンモニウムで表されるものである。
【0047】
本発明で用いられる一般式(1)や(2)で表されるケイ素錯体化合物は、ケイ素錯体カチオンと硫酸エステル系アニオンより形成されるもので、たとえば、以下の工程を経て形成することが可能である。
【0048】
先ず、第1工程として、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素やテトラエトキシシラン等のケイ素化合物にヒドロキシル基とカルボニル基を有する下記一般式(6)で表される化合物を反応させる。すなわち、
【0049】
【化6】

【0050】
なお、上記一般式(6)中のR、R、Rは前述した一般式(1)を構成するR、R、Rと同じものである。
【0051】
前述のケイ素化合物と上記一般式(6)で表される化合物を反応させると、ケイ素化合物に由来するケイ素原子が中心原子となり、それにヒドロキシル基由来の酸素原子が共有結合し、かつ、カルボニル基が配位結合する。この様にして、下記一般式(7)で表されるケイ素錯体中間体が形成される。すなわち、
【0052】
【化7】

【0053】
上記一般式(7)中のR、R、Rは前述した一般式(1)を構成するR、R、Rと同じものであり、〔E〕は前記ケイ素化合物に由来するアニオンである。前記一般式(7)で表されるケイ素錯体中間体を形成する際、ケイ素化合物としては四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素を使用することが好ましい。そして、ハロゲン化ケイ素を用いて形成されたケイ素錯体中間体では、前述のアニオン〔E〕はハロゲンアニオン〔X〕となる。すなわち、一般式(7)で表されるケイ素錯体中間体は下記に示す一般式(8)で表される構造のものとなる。
【0054】
【化8】

【0055】
次に、第2工程では、たとえば、下記反応式に示す様に、一般式(8)で表されるケイ素錯体中間体に硫酸エステル系アニオン性化合物D−O−SO−Mを反応させて、一般式(9)で表されるケイ素錯体化合物を形成する。この反応は、ケイ素錯体中間体中のアニオン〔E〕(たとえばハロゲン〔X〕)を硫酸エステル系アニオン〔D−OSOにイオン変換してケイ素錯体化合物を形成するものである。
【0056】
【化9】

【0057】
なお、上記一般式(9)で表されるケイ素錯体化合物中の〔D−OSOは、前述の一般式(1)で表されるケイ素錯体化合物中の硫酸エステル系アニオン〔A〕と同じものである。同様に、一般式(9)中のR、R、Rも一般式(1)を構成するR、R、Rと同じものである。
【0058】
本発明で好ましく使用されるケイ素錯体化合物の形成反応例を以下に示す。すなわち、
【0059】
【化10】

【0060】
上記反応式は、対イオンがハロゲンアニオン〔X〕である一般式(10)のジケトンケイ素錯体中間体を、対イオンが硫酸エステル系アニオン〔A〕である一般式(2)のジケトンケイ素錯体化合物へイオン変換する例を示すものである。
【0061】
次に、本発明で用いられるケイ素錯体化合物の具体例を以下に示すが、本発明で使用可能なケイ素錯体化合物は以下のものに限定されるものではない。なお、下記化合物中のt−Cはターシャリーブチル基、i−Cはイソプロピル基、t−C17はターシャリーオクチル基を表す。また、下記化合物17〜20の硫酸エステル系アニオン中のR、R11、R14、R15はC1225を主成分とする基を表し、n3、n5、n8、n9は2以上の整数を表すものである。
【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
【化13】

【0065】
【化14】

【0066】
【化15】

【0067】
【化16】

【0068】
さらに、下記化合物21〜24の硫酸エステル系アニオン中のR10、R12、R13、R16はC19を主成分とする基を表し、n4、n6、n7、n10は2以上の整数を表すものである。
【0069】
【化17】

【0070】
本発明では、前記一般式(2)で表される化合物のうち、単一の化合物を含有するものであっても、また、複数種類の化合物を含有するものであってもよい。
【0071】
次に、本発明で作製される樹脂コートキャリアの製造方法について説明する。
【0072】
次に、本発明で作製される二成分現像剤を構成する樹脂コートキャリアについて説明する。前述した様に、本発明で作製される二成分現像剤で使用されるキャリアは、芯材(コア)と呼ばれる磁性粒子表面を熱可塑性樹脂で被覆した構造を有する樹脂コートキャリアと呼ばれるものである。
【0073】
本発明で用いられる樹脂コートキャリアは、たとえば、芯材粒子と樹脂粒子が供給される混合槽内部に回転羽根に代表される撹拌手段が設けられた装置を用いて作製することが可能である。また、本発明で用いられるキャリアは、少なくとも、芯材粒子と樹脂粒子を撹拌して芯材粒子表面に樹脂粒子を静電的に付着させる工程と、樹脂粒子が静電付着した芯材粒子にストレスを加えて芯材粒子表面に樹脂粒子を固着させる工程を経て作製されるものである。
【0074】
本発明で用いられる樹脂コートキャリアは、たとえば、図1に示すキャリア製造装置を用いて作製することが可能である。図1に示すキャリア製造装置1は、混合槽である容器本体10を有し、容器本体10の周面には、ほぼ3/4の高さまで加熱手段である調温用ジャケット17が配置されている。容器本体10の底部(容器底部ともいう)10aには、撹拌手段である回転羽根18、作製した樹脂コートキャリアを取り出す製品取出口20を有し、製品取出口20には排出弁21が配置されている。また、容器本体10の上面には本体上蓋11が設けられ、本体上蓋11には投入弁13が設置された原料投入口12、フィルタ14、点検口15が設けられ、フィルタ14と容器上蓋11の間には排出弁24が配置され、フィルタ14の先に容器内排出口が設けられている。
【0075】
樹脂コートキャリアを作製する際の原料である芯材粒子と樹脂粒子は、上記原料投入口12より容器本体10内部に供給される。なお、樹脂コートキャリア作製を実際に行う容器本体10内部をチャンバーといい、チャンバーの温度を測定する温度計16が容器本体10の周面に配置されている。
【0076】
前述の回転羽根18は、駆動手段であるモータ22により回転し、芯材粒子と樹脂粒子を撹拌するもので、回転羽根18の中心部18dには互いに120°の角度間隔で撹拌羽根18a、18b及び18cが結合している。これら撹拌羽根は、底部10aの面に対して傾斜させて取り付けられており、撹拌羽根18a、18b及び18cを高速回転させると前述の芯材粒子や樹脂粒子といった原料は上方へ掻き上げられ、本体容器10の上部内壁に衝突して落下する。
【0077】
撹拌手段である回転羽根18を回転させるモータ22は、コンピュータに代表される制御手段40に接続し、制御手段40は記憶されているプログラムによりモータ22の作動を制御する。
【0078】
図1のキャリア製造装置1は、前述した回転羽根18等の作動を制御することで、たとえば、芯材粒子表面への樹脂粒子の静電付着を行う操作と、静電付着した樹脂粒子を芯材粒子表面に強く固着させる操作を段階的に行うことができる。すなわち、図1のキャリア製造装置は、少なくとも、下記工程を経て樹脂コートキャリアを作製することができる。
(1)芯材粒子と樹脂粒子を室温下で撹拌、混合して、静電気の作用で芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程
(2)樹脂粒子のガラス転移温度以上にチャンバーを加熱しながら機械的衝撃力を加え、心材粒子表面に樹脂粒子を延展、被覆させて樹脂コート層を形成する工程
(3)チャンバーを室温まで冷却する工程
上記(1)〜(3)の工程を少なくとも経ることにより、芯材粒子表面を樹脂でコートした構造の樹脂コートキャリアを作製することができる。また、上記(1)〜(3)の工程は、必要に応じて複数回繰り返すことも可能である。このうち、上記(1)の工程は以下の様な手順で行われる。
【0079】
上記(1)の芯材粒子表面に樹脂粒子を静電的に付着させる工程は、粉体技術分野で一般に「オーダードミクスチャ(Ordered Mixture;OM)」と呼ばれる方法で、芯材粒子表面に樹脂粒子を静電引力等の作用により付着させるものである。芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる工程では、供給された樹脂粒子同士が撹拌により擦れ合い、この擦れ合いにより樹脂粒子は摩擦帯電し、摩擦帯電した樹脂粒子は静電引力の作用で芯材粒子表面に付着し易くなるものと考えられる。したがって、摩擦帯電した樹脂粒子近くに芯材粒子が存在すれば、樹脂粒子は芯材粒子表面に付着することになる。
【0080】
また、この工程では、回転羽根18の回転により撹拌を行うが、撹拌により樹脂粒子や芯材粒子が衝突して発生する摩擦熱の作用で容器本体10内部の温度が上昇しない程度に撹拌を行うことが好ましい。また、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17に冷水を通過させた状態で撹拌を行うこともチャンバーの温度を室温に維持する上で好ましい。
【0081】
次に上記(2)の樹脂粒子のガラス転移温度以上にチャンバーを加熱しながら機械的衝撃力を加え、心材粒子表面に樹脂粒子を延展、被覆させて樹脂コート層を形成する工程について説明する。この工程は、芯材粒子表面に付着させた樹脂粒子に機械的衝撃力を付与して芯材粒子表面に樹脂を層状に被覆させるもので、メカノフュージョンと呼ばれる方法の1つである。図1のキャリア製造装置1は、芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させる(1)の工程を経た後、樹脂粒子のガラス転移温度以上にチャンバーを加熱し、同時に回転羽根18を作動させて樹脂粒子を付着させた芯材粒子を撹拌して機械的衝撃力を付与する。
【0082】
すなわち、回転羽根18の作動による撹拌で樹脂粒子を付着させた芯材粒子同士が衝突し、衝突により発生する摩擦熱の作用で容器本体10内部の温度を上昇させることができる。これに加えて、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17により加熱の調整が可能で、これらの作用で容器本体内部(チャンバー)は樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度環境になり、芯材粒子表面の樹脂粒子は衝撃を受けて変形、延展し易い状態におかれている。なお、調温用ジャケット17は、熱水を通過させることにより容器本体10内部の加熱促進が可能で、また、撹拌が強くなり発生する摩擦熱が大きくなる場合には冷水を通過させて容器本体10内部の温度上昇を抑制することも可能である。
【0083】
回転羽根18がモータ22の駆動力により回転すると、容器底部10a付近の樹脂粒子を付着した芯材粒子は容器本体10上方に掻き上げられ、掻き上げられた芯材粒子は本体容器10の上部内壁に衝突する。芯材粒子表面の樹脂粒子は、衝突による衝撃で変形して芯材粒子表面に沿って延展していく。また、容器本体10上方に掻き上げられた芯材粒子は上部内壁に衝突後、重力の作用で落下して容器底部10aに衝突する。そして、容器底部10aに衝突したときにも樹脂粒子が延展し芯材粒子表面の被覆が進行する。
【0084】
この様に、容器本体10内部(チャンバー)では、掻き上げによる上部内壁への衝突と落下による容器底部10aへの衝突が繰り返され、芯材粒子表面に付着した樹脂粒子の延展が継続され、芯材粒子表面への樹脂の被覆が行われる。
【0085】
この工程では、容器本体内部の温度環境を樹脂粒子のガラス転移温度以上にしているが、具体的には、樹脂のガラス転移温度に対して5℃から20℃高い温度範囲とすることが好ましい。なお、容器本体10内部の温度は前述の温度計16により測定が可能である。
【0086】
また、回転羽根18による機械的衝撃力の大きさは、芯材粒子と樹脂被覆層との間に良好な密着性を得る観点から、撹拌羽根18a、18b及び18cの周速が3m/秒から20m/秒となる強度が好ましく、6m/秒から10m/秒となる強度がより好ましい。すなわち、上記範囲の周速による撹拌で樹脂粒子を付着させた芯材粒子同士が衝突して適度な摩擦熱が得られる様になり、樹脂粒子の軟化と延展を促進させて芯材粒子と樹脂被覆層との間に良好な密着性を確保し易くなる。良好な密着性が確保されることにより、形成されたキャリアは、画像形成時に衝撃を受けても芯材粒子が破壊せず、芯材粒子の破壊に起因する芯材粒子破片の樹脂被覆層表面への付着によるキャリアの帯電付与性能低下を起こすおそれがない。また、上記範囲の周速で撹拌することにより、ブロッキングの発生や形成した樹脂コート層を破壊するおそれがない。また、樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度環境下で回転羽根18による機械的衝撃力を付与する時間は、特に限定されるものではないが、5分から40分が好ましい。
【0087】
以上の様に、混合槽である容器本体10内部の温度環境及び撹拌手段である回転羽根18の作動条件を制御して、樹脂粒子を付着させた芯材粒子の撹拌を行って機械的衝撃力を付与することにより、芯材粒子表面に樹脂を延展、被覆させることができる。すなわち、上記工程では、少なくとも混合槽の内部を樹脂粒子のガラス転移温度以上に加熱するとともに撹拌手段を作動させ、樹脂粒子を芯材粒子表面に延展、被覆させて樹脂コート層を形成している。
【0088】
次に、上記(3)の容器本体内部(チャンバー)を冷却する工程について説明する。樹脂粒子を付着させた芯材粒子は、前述した様に、樹脂粒子のガラス転移温度以上にした温度環境下で機械的衝撃力を受けることにより、樹脂が延展して被覆される。芯材粒子表面に樹脂コート層が形成された後、容器本体10内部(チャンバー)は室温まで冷却される。容器本体10内部の冷却は、たとえば、容器本体10の周面ほぼ3/4の高さまで覆っている調温用ジャケット17に冷却水の通過により実現することが可能である。また、調温用ジャケット17への冷水通過による冷却を行っているときに、撹拌羽根18を摩擦熱が発生しない程度にゆっくり回転させると冷却効果をより向上させることが可能である。
【0089】
以上の方法で樹脂コート層が形成された芯材粒子は室温まで冷却され、作製された樹脂コートキャリアは、排出弁21を開放して製品取出口20より取り出される。
【0090】
以上の様に、図1に示すキャリア製造装置1により、また、前述した手順により、芯材粒子表面に樹脂を被覆した構造の樹脂コートキャリアを作製することが可能である。そして、上記手順により芯材粒子表面に形成される樹脂コート層の厚さは0.5μm以上とすることが好ましく、0.5μm以上3.5μm以下とすることがより好ましい。
【0091】
なお、樹脂コート層の厚さは、たとえば、以下の方法により求めることが可能である。
(1)集束イオンビーム試料作製装置「SMI2050」(エスアイアイナノテクノロジー(株)製)を用いてキャリア粒子の中心を通る面でキャリア粒子を切断して測定試料を作製する。
(2)作製した測定試料を透過型電子顕微鏡「JEM−2010F」(日本電子(株)製)にて5000倍の視野で観察し、その視野における最大膜厚となる部分と最小膜厚となる部分の平均値を「樹脂コート層の厚さ」とする。
(3)なお、測定数は50個とし、写真1視野で足りない場合には、測定数50になるまで視野数を増加させるものとする。
【0092】
前述した様に、本発明では、混合槽内部で芯材粒子と樹脂粒子を室温環境下で撹拌して芯材粒子表面に樹脂粒子を付着させ、次に、芯材粒子表面に付着させた樹脂粒子を加熱環境下で延展することにより樹脂コート層の形成を行っている。この様に、芯材粒子表面を被覆する樹脂は、たとえば、100nmから1000nm程度の粒子の形態でキャリア製造装置に供給され、芯材粒子表面の被覆に使用されている。
【0093】
本発明で使用される樹脂粒子の作製方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、重合性単量体を水系媒体中で分散させて油滴状態にし、油滴状態に分散させた重合性単量体を重合反応することにより粒子形状の樹脂を作製する方法等がある。
【0094】
具体的には、界面活性剤を臨界ミセル濃度以下に溶解させた水系媒体中に重合性単量体を添加し、機械的エネルギーを利用して重合性単量体を油滴分散させた分散液を調製する。そして、得られた分散液に水溶性重合開始剤を添加して油滴内でラジカル重合による重合反応を行うことで樹脂粒子を作製することが可能である。なお、この重合反応の場合、重合性単量体の溶液中に油溶性のラジカル重合開始剤を添加してもよい。
【0095】
前述の機械的エネルギーを付与して油滴分散を行う分散装置には、特に限定されるものではないが、たとえば、「クレアミックス(CLEARMIX)」(エム・テクニック社製)の様な高速回転用のローターを有する撹拌装置がある。その他に、超音波分散機、機械式ホモジナイザー、マントンゴーリン及び圧力式ホモジナイザー等がある。この様な分散処理により粒子径が100nmから1000nm程度の油滴が形成される。なお、油滴の粒径は、前述の100nmから1000nmが好ましく、150nmから1000nmがより好ましく、200nmから800nmがさらに好ましい。
【0096】
上記の油滴分散処理を経て樹脂粒子を作製する方法は、たとえば、以下の工程を含むものである。すなわち、
(1)界面活性剤を含有する水系媒体中に重合性単量体を添加し、当該重合性単量体を機械的に分散させて重合性単量体の油滴分散液を調製する工程
(2)油滴状態に分散させた重合性単量体を重合して樹脂粒子を作製する工程
(3)樹脂粒子の分散液を冷却する工程
(4)冷却した樹脂粒子の分散液より樹脂粒子を固液分離するとともに洗浄処理を行い、樹脂粒子より界面活性剤等を除去する工程
(5)洗浄処理した樹脂粒子を乾燥する工程。
【0097】
また、上記の油滴分散処理を経て作製される樹脂粒子のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、良好な製膜性を有し緻密な樹脂コート層を形成する観点から、たとえば、60℃から150℃の範囲が好ましい。さらに、樹脂粒子の重量平均分子量は、たとえば、50,000から1,000,000が好ましく、400,000から600,000がより好ましい。
【0098】
樹脂粒子の形成に使用可能な重合性単量体は、特に限定されるものではなく、たとえば、ビニル系樹脂を形成するビニル系モノマーがその代表的なもので、他にポリエステル樹脂の形成が可能な多価カルボン酸化合物と多価アルコール化合物等がある。ビニル系モノマーには、たとえば、以下に示すスチレン系単量体、メタクリル酸系単量体、アクリル酸系単量体の他に、オレフィン系単量体やビニルエステル系単量体等がある。
【0099】
以下、上記ビニル系モノマーの具体例を示すが、樹脂コート層を形成する樹脂の作製が可能なビニル系モノマーは以下のものに限定されるものではない。
(1)スチレン系単量体
スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等
(2)メタクリル酸系単量体
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシル等
(3)アクリル酸系単量体
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル等
(4)その他ビニル系モノマー
(a)オレフィン系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(b)ビニルエステル系単量体;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(c)ビニルエーテル系単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(d)ビニルケトン系単量体;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(e)N−ビニル化合物系単量体;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等
(f)その他ビニル化合物系単量体;ビニルナフタレン、ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等
これらビニル系モノマーは単独あるいは組み合わせて使用することが可能である。
【0100】
上記ビニル系単量体を用いて形成される樹脂の中でも、メタクリル酸シクロヘキシルを用いて形成した共重合体樹脂が好ましく、共重合体を構成するメタクリル酸シクロヘキシルのモノマー比率が40%以上のものが好ましい。また、トナーへの電荷付与性能の観点から、前述のメタクリル酸シクロヘキシルとともにメタクリル酸メチルを用いた共重合体樹脂がより好ましい。
【0101】
次に、本発明で使用可能な芯材粒子は、磁場の存在によりその方向に強く磁化する物質(磁性体)で、たとえば、鉄、ニッケル、コバルト等の強磁性金属、マグネタイトやフェライト、これらを含む合金や化合物、これらを樹脂中に分散させたもの等がある。
【0102】
フェライトは、式:MO・Feで示されるもので、また、マグネタイトは、式:MFeで示されるものである。式中のMは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、リチウム(Li)等の2価あるいは1価の金属原子で、これらを単独または複数種類組み合わせて使用可能である。
【0103】
これら磁性体の中でも、比重が鉄やニッケル等の金属より小さいマグネタイトやフェライトが好ましい。そして、フェライトの中でもMが銅、亜鉛、ニッケル、マンガン等の重金属を含有するフェライトや、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを含有する軽金属フェライトがより好ましい。さらには、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれかを含有する軽金属フェライトが特に好ましい。軽金属フェライトは、廃棄物や環境に与える負荷が他のものに比べて少ないことに加えて、キャリア自体をより軽量化することが可能で画像形成時にトナーに与えるストレスを軽減させるメリットを有している。
【0104】
また、強磁性金属を含有しないものの適度な熱処理により強磁性を示すマンガン−銅−アルミニウムやマンガン−銅−スズ等のホイスラー合金と呼ばれる合金、二酸化クロム等も芯材粒子として使用することが可能である。
【0105】
さらに、バインダ樹脂中に磁性粉を分散させた樹脂分散型コアを使用することも可能であり、磁性粉としては、たとえば、粒径が0.1〜3.0μm程度の鉄、フェライト、マグネタイト等が用いられる。また、バインダ樹脂としては、たとえば、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系樹脂等が用いられる。
【0106】
芯材粒子の径は、体積平均粒径で10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。また、芯材粒子自体が有する磁化特性は、飽和磁化で2.5×10−5〜10.0×10−5Wb・m/kgが好ましい。なお、芯材粒子の体積平均粒径は、湿式分散器を備えたレーザ回折式粒度分布測定装置「HELOS」(シンパテック社製)により体積基準の平均粒径として測定が可能である。また、飽和磁化は、「直流磁化特性自動記録装置3257−35」(横河電機株式会社製)により測定が可能である。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明の実施態様を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
1.ケイ素錯体化合物の作製
下記手順により、本発明で規定する構成を満たすケイ素錯体化合物18種類と比較用ケイ素錯体化合物4種類を作製した。
【0109】
1−1.「化合物1」の作製
市販の1−(4−tert−ブチルフェニル)−4,4−ジメチルペンタン−1,3−ジオン160質量部を酢酸エチル800mlに溶解させ、これに四塩化ケイ素34.8質量部を室温で滴下した。次に、2時間加熱還流処理を行い、処理後、放冷して結晶を析出させ、析出した当該結晶をろ過処理した。続いて、ろ過物を酢酸エチル600ml及び水2000mlで洗浄処理し、80℃で24時間乾燥処理することにより、下記化学式で表される「ケイ素錯体中間体1」を作製した。
【0110】
【化18】

【0111】
なお、「ケイ素錯体中間体1」が上記構造を有するものであることは、市販の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」により確認できた。
【0112】
上記「ケイ素錯体中間体1」84質量部を水:メタノール=1:1の混合溶媒1000ml中に分散させ、これに市販の硫酸エステル系アニオン性化合物「モノゲンY−500(第一工業製薬(株)製)」57質量部を添加して室温下で24時間撹拌処理した。なお、上記「モノゲンY−500」は、C1225−SO−で表される構造を有する硫酸エステル系アニオン性化合物である。前記撹拌処理を行った後、得られた反応液をろ過し、ろ液の電気伝導度が5μS/cmになるまで水洗処理を行い、水洗処理後、80℃で乾燥処理して、前述の「化合物1」のケイ素錯体化合物を形成した。
【0113】
なお、上記手順により作製されたものが「化合物1」であることは、市販の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0114】
1−2.「化合物2〜7、9〜16、17、20、21、23」の作製
(1)「化合物2」の作製
前記「化合物1」の作製で、前記「ケイ素錯体中間体1」を形成する前述の1,3−ジオン化合物に代えて下記式で表される「ケイ素錯体中間体2」を作製する1,3−ジオン化合物を用いた他は「化合物1」の作製と同じ手順を採り「化合物2」を作製した。作製した化合物が「化合物2」であることは、前述の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0115】
【化19】

【0116】
(2)「化合物3〜7、9〜16」の作製
前記「化合物1」の作製で、前記「ケイ素錯体中間体1」を形成する前述の1,3−ジオン化合物を下記式で表される「ケイ素錯体中間体3〜7、9〜16」を作製する1,3−ジオン化合物にそれぞれ変更した。その他は「化合物1」の作製と同じ手順を採ることにより「化合物3〜7、9〜16」を作製した。作製した各化合物が「化合物3〜7、9〜16」であることは、前述の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0117】
【化20】

【0118】
【化21】

【0119】
【化22】

【0120】
(3)「化合物17と20」の作製
前記「化合物1」の作製に示す手順で「ケイ素錯体中間体1」を作製した。次に、前記「ケイ素錯体中間体1」84質量部を水:メタノール=1:1の混合溶媒1000ml中に分散させたものへC1225−O−(CHCHO)−SO−で表される構造を有する硫酸エステル系アニオン性化合物57質量部を添加した。その他は「化合物1」を作製するときと同じ手順を採り下記式で表される「化合物17」を作製した。
【0121】
また、前述の「化合物3〜7、9〜16」の1つである「化合物12」を作製するときと同様の手順で「ケイ素錯体中間体12」を作製した。次に、前記「ケイ素錯体中間体12」84質量部を水:メタノール=1:1の混合溶媒1000ml中に分散させたものへC1225−O−(CHCHO)−SO−で表される構造を有する硫酸エステル系アニオン性化合物57質量部を添加した。その他は「化合物12」を作製するときと同じ手順を採ることにより、下記式で表される「化合物20」を作製した。
【0122】
上記手順で作製した各化合物が「化合物17」及び「化合物20」であることは、前述の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0123】
【化23】

【0124】
(4)「化合物21と23」の作製
前記「化合物1」の作製に示す手順で「ケイ素錯体中間体1」を作製した。次に、前記「ケイ素錯体中間体1」84質量部を水:メタノール=1:1の混合溶媒1000ml中に分散させたものへC19−(p)C−O−(CHCHO)−SO−で表される構造を有する硫酸エステル系アニオン性化合物57質量部を添加した。その他は「化合物1」を作製するときと同じ手順を採り下記式で表される「化合物21」を作製した。なお、上記構造中の−(p)C−の(p)はパラ位結合であることを意味するものである。
【0125】
また、前記「化合物3〜7、9〜16」の1つである「化合物3」を作製するときと同様の手順で「ケイ素錯体中間体3」を作製した。次に、前記「ケイ素錯体中間体3」84質量部を水:メタノール=1:1の混合溶媒1000ml中に分散させたものへC19−(p)C−O−(CHCHO)−SO−で表される構造を有する硫酸エステル系アニオン性化合物57質量部を添加した。その他は「化合物3」を作製するときと同じ手順を採り下記式で表される「化合物23」を作製した。なお、上記構造中の−(p)C−の(p)はパラ位結合であることを意味するものである。
【0126】
上記手順で作製した各化合物が「化合物21」及び「化合物23」であることは、前述の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0127】
【化24】

【0128】
1−3.「化合物a〜d」の作製
前記「化合物1」の作製で前述の1,3−ジオン化合物に代えて下記に示す「ケイ素錯体中間体a〜d」を作製する1,3−ジオン化合物を用いた他は「化合物1」の作製と同じ手順を採り、下記に示す「化合物a〜d」を作製した。作製した化合物が下記に示す構造を有するものであることは、前述の液体クロマトグラフィ質量分析(LC/MS)装置「M−8000型LC/3DQMシステム(日立製作所社製)」による測定と公知のCHNS元素分析の結果より確認した。
【0129】
【化25】

【0130】
【化26】

【0131】
2.「樹脂コートキャリア1〜25」の作製
2−1.「樹脂コートキャリア1」の作製
(1)「樹脂粒子1」の作製
撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.4質量部をイオン交換水500質量部に溶解させた界面活性剤溶液(水系媒体)を用意した。次に、
スチレン 20質量部
メタクリル酸メチル 80質量部
よりなる重合性単量体混合液を前記界面活性剤溶液中に添加して、「クレアミックス(エム・テクニック社製)」を用いて15000rpmで撹拌処理を行い、体積基準メディアン径が200nmの単量体粒子(油滴)を分散させた乳化液を調整した。ここで、単量体粒子の体積平均粒径は動的光散乱式粒度分析計「マイクロトラックUPA150」(日機装(株)製)を用いて測定した。
【0132】
次に、この乳化液に重合開始剤(過硫酸カリウム:KPS)0.4質量部をイオン交換水40質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を80℃で3時間加熱、撹拌して重合反応を行い、重合反応後室温まで冷却した。この様にして、共重合比がスチレン/メタクリル酸メチル=2/8のスチレン/メタクリル酸メチル共重合体樹脂より構成される「樹脂粒子1」の分散液を作製した。「樹脂粒子1」の体積基準メディアン径を前述の動的光散乱式粒度分析計「マイクロトラックUPA150」(日機装(株)製)を用いて測定したところ200nmであった。作製した「樹脂粒子1」の分散液は、固液分離、水洗処理を行った後、スプレードライヤで乾燥処理した。
【0133】
(2)「樹脂コートキャリア1」の作製
図1に示すキャリア製造装置に、
体積平均粒径35μmのMn−Mgフェライト粒子 100質量部
「樹脂粒子1」 3.5質量部
「化合物1」 1質量部
を投入した。なお、上記Mn−Mgフェライト粒子は飽和磁化が10.7×10−5Wb・m/kg、形状係数SF−1が130のものであった。なお、上記「化合物1」は体積基準メディアン径が100nmのもので、公知の方法で前記体積基準メディアン径となる様に調整した。
【0134】
次に、チャンバーの温度を25℃に設定し、チャンバーの温度を上昇させないレベルの撹拌を行うため、回転羽根の回転数を200rpm(周速1m/sに相当)、回転羽根の作動時間を10分間に設定した。この設定条件の下で磁性芯材粒子である上記Mn−Mgフェライト粒子表面へ「樹脂粒子1」と「化合物1」粒子を静電的に付着させるオーダードミクスチャ処理を行った。そして、「樹脂粒子1」と「化合物1」粒子を静電付着した上記磁性芯材粒子をチャンバー底部に移動させ、オーダードミクスチャ処理(静電付着操作)を完了させた。
【0135】
次に、ジャケットに熱水を供給しながら、回転羽根の回転数を1000rpm(周速8m/sに相当)に設定して25分間作動させ、チャンバーの温度を120℃に上昇させた。次に、チャンバーの温度を120℃に維持させながら、引き続き、前記回転数で回転羽根を60分間作動させて撹拌を継続し、機械的衝撃力の作用で樹脂粒子1を軟化、延展させることにより、上記磁性芯材粒子表面に樹脂コート層を形成した。
【0136】
その後、回転羽根の回転数を400rpm(周速約3m/s)にして、撹拌を行いながら冷却処理を行い、チャンバーの温度を25℃に戻した。以上の手順を経ることにより、樹脂コート層中に上記「化合物1」を含有する「樹脂コートキャリア1」を作製した。「樹脂コートキャリア1」の樹脂コート層の厚さを前述の方法で測定したところ1.0μmであった。
【0137】
2−2.「樹脂コートキャリア2〜19」の作製
前記「樹脂コートキャリア1」の作製で、前述のキャリア製造装置へ投入する「化合物1」を前述の「化合物2〜7、9〜17、20、21、23」に変更した他は同じ手順を採り、「樹脂コートキャリア2〜19」を作製した。
【0138】
2−3.「樹脂コートキャリア20、21」の作製
前記「樹脂コートキャリア1」の作製で、前述のキャリア製造装置へ「化合物1」を投入せず、その他は同じ手順を採ることにより、ケイ素錯体化合物を含有していない「樹脂コートキャリア23」を作製した。また、前記「樹脂コートキャリア1」の作製で、前述のキャリア製造装置へ投入する「化合物1」を「ケイ素錯体中間体1」に変更した他は同じ手順を採ることにより「樹脂コートキャリア20」を作製した。
【0139】
2−4.「樹脂コートキャリア22〜25」の作製
前記「樹脂コートキャリア1」の作製で、前述のキャリア製造装置へ投入する「化合物1」を前述の「化合物a〜d」に変更した他は同じ手順を採ることにより「樹脂コートキャリア22〜25」を作製した。
【0140】
2−5.「樹脂コートキャリア26」の作製
流動層撹拌装置を用いて体積平均粒径35μmのMn−Mgフェライト粒子100質量部を撹拌しながら、当該フェライト粒子へトルエン7質量部に「樹脂粒子1」3.5質量部溶解させ、かつ、「化合物1」を分散させた液をスプレーコートにより塗布した。この様にして、湿式塗布法による「樹脂コートキャリア26」を作製した。
【0141】
以上の手順で作製した「樹脂コートキャリア1〜26」で使用したケイ素錯体化合物等を下記表1に示す。すなわち、
【0142】
【表1】

【0143】
3.トナーの作製
下記の手順でコアシェル構造のトナーを作製した。
【0144】
3−1.コア用樹脂粒子の作製
(1)第1段重合
撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、下記化合物を投入、混合して混合液を作製した。
【0145】
スチレン 111質量部
n−ブチルアクリレート 53質量部
メタクリル酸 12質量部
上記混合液に、
パラフィンワックス「HNP−57」(日本精鑞社製) 94質量部
を添加した後、80℃に加温して溶解させ、重合性単量体溶液を調製した。
【0146】
一方、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム3質量部をイオン交換水1340質量部に溶解させた界面活性剤溶液を調製した。この界面活性剤溶液を80℃に加熱後、上記重合性単量体溶液を投入し、循環経路を有する機械式分散機「クレアミクス(エム・テクニック社製)」により上記重合性単量体溶液を2時間混合分散させ、平均粒径245nmの乳化粒子(油滴)分散液を調製した。
【0147】
次いで、上記分散液にイオン交換水1460質量部を添加した後、過硫酸カリウム6質量部をイオン交換水142質量部に溶解させた開始剤溶液とn−オクチルメルカプタン1.8質量部を添加し、温度を80℃にした。この系を80℃にて3時間にわたり加熱撹拌して重合反応(第1段重合)を行い、「樹脂粒子C」を作製した。
【0148】
(2)第2段重合(外層の形成)
前記「樹脂粒子C」の分散液中に、過硫酸カリウム5.1質量部をイオン交換水197質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、80℃の温度条件下で、下記化合物を混合した単量体混合液を1時間かけて滴下した。単量体混合液は、
スチレン 282質量部
n−ブチルアクリレート 134質量部
メタクリル酸 31質量部
n−オクチルメルカプタン 5質量部
を含有するもので、前記単量体混合液の滴下終了後、2時間にわたり加熱撹拌して重合反応(第2段重合)を行った。その後、28℃まで冷却し、「コア用樹脂粒子」を作製した。「コア用樹脂粒子」の重量平均分子量は21,300、質量平均粒径180nm、ガラス転移温度(Tg)39℃であった。
【0149】
3−2.シェル用樹脂粒子の作製
撹拌装置、温度センサ、冷却管、窒素導入装置を取り付けた反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム2質量部をイオン交換水3000質量部に溶解させた界面活性剤溶液を調製し、窒素気流下230rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。
【0150】
この界面活性剤溶液に、過硫酸カリウム10質量部をイオン交換水200質量部に溶解させた開始剤溶液を添加し、下記化合物を混合した重合性単量体混合液を3時間かけて滴下した。なお、重合性単量体混合液は、
スチレン 528質量部
n−ブチルアクリレート 176質量部
メタクリル酸 120質量部
n−オクチルメルカプタン 22質量部
を含有するもので、前記重合性単量体混合液を滴下後、この系を80℃にして1時間にわたり加熱撹拌して重合反応を行い、「シェル用樹脂粒子」を作製した。「シェル用樹脂粒子」の重量平均分子量は12,000、質量平均粒径120nm、ガラス転移温度(Tg)53℃であった。
【0151】
3−3.着色剤分散液の作製
ドデシル硫酸ナトリウム10質量%水溶液900質量部を撹拌しながら、市販の着色剤(カーボンブラック;「リーガル330R(キャボット社製)」)100質量部を徐々に添加した。次いで、撹拌装置「クレアミックス(エム・テクニック社製)」を用いて分散処理することにより着色剤分散液を調製した。前記着色剤分散液中の着色剤粒子の平均分散径を市販の動的光散乱式粒度分布測定装置「マイクロトラックUPA150(マイクロトラック社製)」で測定したところ150nmであった。
【0152】
3−4.トナー粒子の作製
(1)凝集、融着工程
温度センサ、冷却管、窒素導入装置、撹拌装置を取り付けた反応容器内に、
コア用樹脂粒子 421質量部(固形分換算)
イオン交換水 900質量部
着色剤分散液 200質量部(固形分換算)
を投入して撹拌した。容器内の温度を30℃に調整した後、5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを9に調整した。
【0153】
次いで、塩化マグネシウム・6水和物2質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を、撹拌下、30℃にて10分間かけて添加した。3分間放置した後に昇温を開始し、この系を60分間かけて65℃まで昇温した。この状態で「コールターマルチサイザー3(ベックマン・コールター社製)」にて凝集粒子の粒径を測定し、体積基準メディアン径(D50)が5.5μmになった時点で、塩化ナトリウム40質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を添加して粒径成長を停止させた。さらに、熟成処理として液温度70℃にて1時間にわたり加熱撹拌することにより融着を継続させ、「コア部」を形成した。「コア部」の平均円形度を「FPIA2100(シスメックス社製)」で測定したところ0.930であった。
【0154】
(2)シェルの形成
次いで、65℃において「シェル用樹脂粒子」50質量部(固形分換算)を添加し、さらに塩化マグネシウム・6水和物2質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を10分間かけて添加した。添加後、70℃(シェル化温度)まで昇温させ、撹拌を1時間継続して「コア部」表面に「シェル用樹脂粒子」を融着させた後、塩化ナトリウム40質量部をイオン交換水1000質量部に溶解した水溶液を添加してシェルの形成を停止させた。さらに、75℃で20分間熟成処理を行った後、8℃/分の速度で30℃まで冷却して、トナー粒子の分散液を作製した。
【0155】
3−5.洗浄、乾燥工程
上記工程を経て作製したトナー粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40(松本機械(株)製)」で固液分離し、着色粒子のウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機でろ液の電気伝導度が5μS/cmになるまでイオン交換水で洗浄した後「フラッシュジェットドライヤ(セイシン企業(株)製)」に移し、水分量が0.5質量%になるまで乾燥処理を行って「着色粒子」を作製した。上記手順で作製したトナー粒子は、コアシェル構造を有するもので、体積基準メディアン径は6.0μm、ガラス転移温度が39.5℃であった。
【0156】
3−6.トナーの外添剤処理
作製した「トナー粒子」100質量部に対し、数平均一次粒径が80nmの疎水性シリカ微粒子を3.5質量%、数平均一次粒径が10nmの疎水性チタニア微粒子を0.6質量%になる様に添加した。そして、ヘンシェルミキサ(三井三池鉱業社製)を用いて周速35m/sで25秒間混合処理することによりトナーを作製した。なお、作製したトナーのガラス転移温度は外添剤処理前のトナー粒子と同じ39.5℃であった。
【0157】
4.「現像剤1〜26」の作製
前述した「樹脂コートキャリア1〜26」と上記「トナー」を下記の様に配合して二成分の「現像剤1〜26」を作製した。現像剤の作製は、配合比をキャリア100質量部に対してトナー8質量部とし、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)環境下で、Vブレンダを用いてトナーとキャリアを混合することにより行った。Vブレンダの回転数を20rpm、撹拌時間を20分にして処理を行い、さらに、混合物を目開き125μmのメッシュで篩い分けて作製した。
【0158】
5.評価実験
5−1.評価条件
市販のデジタルカラー複合機「bizhub PRO C6500(コニカミノルタビジネステクノロジーズ(株)製)」に、露光用光源に波長780nm、ドット径600dpiの半導体レーザを搭載した機器を用いて下記評価を行った。評価は、温度30℃、相対湿度80%RHの環境下で、前記「現像剤1〜26」1種類につき1万枚の連続プリントを行って、感光体上における放電生成物と水結合物の形成に伴う表面電位変動と画質変化について行った。プリント画像は、相対反射濃度0.4のハーフトーン画像、6ドット格子画像、白地画像、相対反射濃度1.3のベタ画像を、A4サイズの中性紙上に4等分に出力したものである。
【0159】
ここで、本発明で規定する構成を有するケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアを含有する「現像剤1〜19」の評価を「実施例1〜19」とし、本発明で規定する構成を有するケイ素錯体化合物を含有しない「現像剤20〜26」の評価を「比較例1〜7」とした。
【0160】
5−2.評価項目
1万枚の連続プリント開始時と終了時にそれぞれ作成した上記A4サイズのプリント上に形成されたベタ画像、ハーフトーン画像、細線格子画像、白地画像を用いて以下の評価を行った。
【0161】
〈ベタ画像濃度評価〉
マクベス社製反射濃度計「RD−918」を用い、プリント作成に使用したA4サイズ中性紙白地部分の反射濃度を「0」として、連続プリント開始時と終了時に形成されたベタ画像の相対反射濃度を測定した。測定は作成試料上より任意の12点を測定し、その平均値で評価した。連続プリント終了後もベタ画像濃度が1.0以上のものを合格とし、その中でも1.2以上が維持されたものを特に優れているものと評価した。
【0162】
〈ハーフトーン画像評価〉
連続プリント開始時と終了時に形成されたハーフトーン画像を目視観察し、濃度ムラ発生の有無を評価する尺度として、帯状の低濃度領域の発生の有無を評価した。帯状の低濃度領域が発生したものについては、マクベス社製反射濃度計「RD−918」で濃度測定を行い、低濃度領域と周辺領域の濃度差が0.05未満のものを合格(表中では若干と表示)とした。また、帯状の低濃度領域が発生しなかったものは特に優れているものと評価した。
【0163】
〈細線格子画像評価〉
連続プリント開始時と終了時に形成された細線格子画像の細線部を市販のルーペで目視観察し、線の欠損や線幅変化(極端に細いあるいは太いもの)のないものを合格とした。
【0164】
〈カブリ濃度評価〉
マクベス社製反射濃度計「RD−918」を用いて、プリント作成に使用したA4サイズ中性紙上の任意20個所における反射濃度を測定しその平均値を白紙濃度とした。次に、連続プリント終了時に形成された白地画像上の任意10個所における反射濃度を測定し、その平均濃度より前記白紙濃度を引いた値をカブリ濃度として評価した。カブリ濃度が0.010未満となるものを合格とした。
【0165】
以上の結果を下記表2に示す。
【0166】
【表2】

【0167】
表2に示す様に、本発明で規定する構成を有するケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアを用いた「実施例1〜19」は、5万枚の連続プリント開始前後でベタ画像濃度が変動せず、カブリ発生について問題ない結果が得られた。これらの結果から、本発明で規定する構成のキャリアは5万枚レベルの連続プリントを実施しても破損せず、安定した帯電付与性能を発現することができると判定できる。また、ハーフトーン画像や細線格子画像の様に微細なドットや細線を用いて形成される画像も安定して作成され、この様な画像をデジタルで形成する機会の多いオンデマンド印刷にも良好なものであることが確認された。一方、「比較例1〜7」では、本発明で規定する構成を満たさないケイ素錯体化合物を含有する樹脂コートキャリアの劣化進行により、上記「実施例1〜19」で得られた様な結果は得られなかった。
【符号の説明】
【0168】
1 キャリア製造装置
10 容器本体(混合槽)(チャンバー)
11 容器上蓋
12 原料投入口
13 投入弁
14 フィルタ
17 調温用ジャケット(加熱手段)
18 回転羽根(撹拌手段)
18a、18b、18c 撹拌羽根
20 製品取出口
22 モータ(駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、磁性芯材粒子及び樹脂粒子を乾式で混合して製造した樹脂コートキャリアとトナーからなる二成分現像剤の製造方法であって、
前記樹脂コートキャリアは、少なくとも、
前記磁性芯材粒子、前記樹脂粒子、及び、下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を室温下で撹拌して、前記磁性芯材粒子表面に前記樹脂粒子と下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を静電的に付着させる工程と、
【化1】

〔式中、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表し、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたアリール基、〔A〕は硫酸エステル系アニオンを表す。〕
前記樹脂粒子と前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を付着させた磁性芯材粒子に加熱を行いながら機械的衝撃力を加えて、前記磁性芯材粒子表面に前記ケイ素錯体化合物を含有する前記樹脂粒子を固着させる工程を経て作製されるものであることを特徴とする二成分現像剤の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物は、
構造中のRが炭素原子数1以上8以下のアルキル基であり、
構造中のRがイソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、t−オクチル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルコキシ基が置換されたアリール基であることを特徴とする請求項1に記載の二成分現像剤の製造方法。
【請求項3】
少なくとも、樹脂と着色剤を含有するトナーと、磁性芯材粒子表面に樹脂コート層を被覆してなる樹脂コートキャリアを有する二成分現像剤であって、
前記樹脂コートキャリアは、
少なくとも、下記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物を前記樹脂コート層に含有するものであることを特徴とする二成分現像剤。
【化2】

〔式中、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基を表し、Rは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基が置換されたアリール基、〔A〕は硫酸エステル系アニオンを表す。〕
【請求項4】
前記一般式(2)で表されるケイ素錯体化合物は、
構造中のRが炭素原子数1以上8以下のアルキル基であり、
構造中のRがイソプロピル基、t−ブチル基、イソブチル基、t−オクチル基、無置換もしくは炭素原子数1以上8以下のアルキル基、アルコキシ基が置換されたアリール基であることを特徴とする請求項3に記載の二成分現像剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212020(P2012−212020A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77557(P2011−77557)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】