説明

二方向プレテンション部材の製造方法

【課題】二方向プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、作業効率を維持した上で、所期の品質および作業の安全性を確保する。
【解決手段】横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定された製作ベッドを用いて、複数個の二方向プレテンション部材100を製造する。その際、縦方向の複数箇所の各々において、複数本の補助PC鋼材60を、一方の側壁10Bに対して該側壁10Bを横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材60に予めプレストレスを導入しておき、複数本の横方向PC鋼材104の一端部の側壁10Bへの定着を、各横方向PC鋼材104の一端部と各補助PC鋼材60における側壁10Bの内側面からの突出部60aとを連結することにより行う。これにより、各横方向PC鋼材104が緊張解除により縮む部分の長さL2を短くして、コンクリート部材106の変位量D2を十分小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、二方向プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二方向プレテンション部材は、縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材と、これら縦方向PC鋼材と交差するようにして横方向に延びる複数本の横方向PC鋼材とが、コンクリート部材内に配置された構成となっている。
【0003】
「特許文献1」の図4には、このような二方向プレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造する方法が記載されている。
【0004】
すなわち、この「特許文献1」の図4に記載された製造方法においては、複数のコンクリート部材の打設位置を縦方向に直列に配置するとともに、これら複数箇所の打設位置の周囲の地盤に複数の反力装置を設置した状態で、各打設位置の横方向両側に位置する反力装置に複数の横方向PC鋼材を定着し、ジャッキを用いてこれら横方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、各コンクリート部材に対して横方向のプレストレスを導入するとともに、複数箇所の打設位置の縦方向両端部に位置する反力装置に複数の縦方向PC鋼材を定着して、ジャッキを用いてこれら縦方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、複数のコンクリート部材に対して縦方向のプレストレスを導入するようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−47233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記「特許文献1」に記載された製造方法において、各横方向PC鋼材の緊張および緊張解除は、各コンクリート部材毎に一括して行われるようになっているが、その際、複数のコンクリート部材のうちの一部のコンクリート部材についてのみ横方向PC鋼材の緊張解除を行うと、緊張解除が行われたコンクリート部材は横方向に変位するのに対して緊張解除が行われなかったコンクリート部材は変位せずに元の位置に残るので、これら両コンクリート部材間に位置する縦方向PC鋼材は縦方向に対して斜め方向に変形してしまうこととなる。このため、コンクリート部材は、その縦方向端部における縦方向PC鋼材の周辺領域が損傷してしまい、二方向プレテンション部材として所期の品質を確保することができなくなってしまう、という問題がある。また、このようにした場合には、緊張解除に伴うコンクリート部材の変位により、作業員に危険が及んでしまうおそれがある、という問題もある。
【0007】
このような問題の発生を回避するためには、横方向PC鋼材の緊張解除を複数のコンクリート部材に対して同時にかつ徐々に行う必要があるが、このようにした場合には作業効率が非常に悪いものとなってしまう、という問題がある。
【0008】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、二方向プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、作業効率を維持した上で、所期の品質および作業の安全性を確保することができる二方向プレテンション部材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、横方向のプレストレス導入を、所定の補助PC鋼材を用いて行うようにすることにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0010】
すなわち、本願発明に係る二方向プレテンション部材の製造方法は、
縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材と、これら縦方向PC鋼材と交差するようにして横方向に延びる複数本の横方向PC鋼材とが、コンクリート部材内に配置されてなる二方向プレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造する方法において、
横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定された製作ベッドを用い、
上記製作ベッドにおける一方の側壁に上記各横方向PC鋼材の一端部を定着した状態で、上記製作ベッドにおける他方の側壁に設置したジャッキを用いて上記各横方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、上記両側壁間において打設される各コンクリート部材に横方向のプレストレスを導入するようにし、
その際、上記複数箇所の各々において、複数本の補助PC鋼材を、上記一方の側壁に対して該側壁を横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材に予めプレストレスを導入しておき、上記複数本の横方向PC鋼材の一端部の上記一方の側壁への定着を、これら複数本の横方向PC鋼材の一端部と上記複数本の補助PC鋼材における該側壁の内側面からの突出部とを連結することにより行う、ことを特徴とするものである。
【0011】
上記「製作ベッド」は、その横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定されたものであれば、その縦方向の鉛直断面形状については特に限定されるものではない。
【0012】
上記複数箇所の各々における上記「複数本の横方向PC鋼材」と上記「複数本の補助PC鋼材」との具体的な連結方法は特に限定されるものではなく、その際、これら各「横方向PC鋼材」と各「補助PC鋼材」とを1対1で連結するようにしてもよいし、このようにしなくてもよい。
【0013】
上記各「補助PC鋼材」に予め導入するプレストレスは、プレテンションによるものであってもよいし、ポストテンションによるものであってもよい。
【0014】
上記各「補助PC鋼材」に予め導入するプレストレスの大きさは、各横方向PC鋼材に導入するプレストレスと同等以上の大きさであれば、その具体的な値は特に限定されるものではないが、各横方向PC鋼材に導入するプレストレスよりもある程度大きい値に設定しておくことが、各横方向PC鋼材の緊張および緊張解除の繰り返しに対する各補助PC鋼材の耐久性を高める上で好ましい。
【発明の効果】
【0015】
上記構成に示すように、本願発明に係る二方向プレテンション部材の製造方法は、複数本の縦方向PC鋼材と複数本の横方向PC鋼材とがコンクリート部材内に配置されてなる二方向プレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造するようになっているが、その際、横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定された製作ベッドを用い、この製作ベッドにおける一方の側壁に各横方向PC鋼材の一端部を定着した状態で、その他方の側壁に設置したジャッキを用いて各横方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、両側壁間において打設される各コンクリート部材に横方向のプレストレスを導入するようになっているので、安価な製造設備で横方向のプレストレス導入を行うことができ、また、横方向PC鋼材の緊張力の管理が容易となり、これにより所期のプレストレス導入を行うことが容易に可能となる。
【0016】
しかも本願発明においては、上記複数箇所の各々において、複数本の補助PC鋼材を、一方の側壁に対して該側壁を横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材に予めプレストレスを導入しておき、そして、複数本の横方向PC鋼材の一端部の上記一方の側壁への定着を、これら複数本の横方向PC鋼材の一端部と複数本の補助PC鋼材における該側壁の内側面からの突出部とを連結することにより行うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、仮に補助PC鋼材が存在しないとすると、複数本の横方向PC鋼材の一端部の上記一方の側壁への定着は、該側壁に形成された複数の挿通孔に複数本の横方向PC鋼材の各々を挿通させた状態で、該側壁の外側面において行われることとなる。このため、これら各横方向PC鋼材におけるコンクリート部材の側端面から定着位置までの部分の長さはかなり長いものとなり、この部分が緊張により伸びて緊張解除により縮むので、その緊張解除時のコンクリート部材の変位量はかなり大きなものとなる。
【0018】
これに対し、本願発明のように、複数本の補助PC鋼材を予めプレストレスが導入された状態で上記一方の側壁に配置しておき、複数本の横方向PC鋼材の一端部の該側壁への定着を、複数本の横方向PC鋼材の一端部と複数本の補助PC鋼材における該側壁の内側面からの突出部とを連結することにより行うようにすれば、緊張解除により縮むのは、各横方向PC鋼材におけるコンクリート部材の側端面から各補助PC鋼材との連結位置までの部分と各補助PC鋼材の突出部との合計部分となり、その長さを側壁の肉厚分だけ短縮することができるので、緊張解除に伴うコンクリート部材の変位量を十分小さくすることができる。
【0019】
そしてこれにより、コンクリート部材の縦方向端部における各縦方向PC鋼材の周辺領域が損傷してしまうおそれをなくすことができ、かつ作業員に危険が及んでしまうおそれをなくすことができる。またこれにより、上記複数箇所において打設されたコンクリート部材の各々に対する複数本の横方向PC鋼材の緊張解除を、各箇所相互間において任意の手順でかつ迅速に行うことができる。
【0020】
このように本願発明によれば、二方向プレテンション部材を直列配置で複数個同時に製造する場合において、作業効率を維持した上で、所期の品質および作業の安全性を確保することができる。
【0021】
上記構成において、複数本の横方向PC鋼材と複数本の補助PC鋼材との連結を、これら各横方向PC鋼材および各補助PC鋼材毎にカプラを用いて行うようにすれば、簡素な構成でかつ簡単な作業で両PC鋼材の連結を行うことができる。
【0022】
上記構成において、各補助PC鋼材に対するプレストレス導入を、上記一方の側壁の内側に該側壁の内側面と所定間隔をおいて定着用鋼材を配置するとともにこの定着用鋼材に各補助PC鋼材の突出部を定着した状態で行い、そして、複数本の横方向PC鋼材と複数本の補助PC鋼材との連結を、各横方向PC鋼材を定着用鋼材に定着することにより行うようにすれば、極めて簡単な作業で両PC鋼材の連結を行うことができる。また、このような連結構造を採用することにより、緊張解除により縮む部分を、横方向PC鋼材におけるコンクリート部材の側端面から定着用鋼材への定着位置までの部分のみとすることができ、その長さを上記所定間隔分だけさらに短縮することができるので、緊張解除に伴うコンクリート部材の変位量をさらに小さくすることができる。
【0023】
上記構成において、製作ベッドとして、横方向の鉛直断面形状が2連の略U字形に設定された2連式の製作ベッドを用い、その縦方向の複数箇所において二方向プレテンション部材を1対ずつ製造するようにし、その際、上記複数箇所の各々において、複数本の補助PC鋼材を、製作ベッドの横方向中央に位置する中央側壁に対して該中央側壁を横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材に予めプレストレスを導入しておき、これら複数本の補助PC鋼材を、中央側壁の両側に配置された1対のコンクリート部材の各々に対して横方向のプレストレス導入を行う際に共用するようにすれば、二方向プレテンション部材の製造効率を高めることができ、また補助PC鋼材の有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0025】
図1は、本願発明の一実施形態に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッド10を、所定の付属装置が装着された状態で示す図であって、同図(a)が平面図、同図(b)が側断面図である。
【0026】
同図に示すように、この製作ベッド10は、鉄筋コンクリート製であって、平面視において細長矩形状の外形形状を有しており、その縦方向(長尺方向)の長さは100m程度、その横方向の長さは13m程度の値に設定されている。この製作ベッド10は、自碇式の製作ベッドとして構成されており、平坦な地盤2に設置された状態で使用されるようになっている。なお、本実施形態においては、地盤2が軟弱地盤であり、この地盤2に対して所定量(具体的には0.8m程度)沈み込むようにして製作ベッド10が設置された状態を示している。
【0027】
この製作ベッド10は、底面壁10Aと、この底面壁10Aの横方向の両端縁部において上方へ立ち上がる1対の側壁10B、10Cと、底面壁10Aの縦方向の両端縁部において上方へ立ち上がる1対の端部壁10D、10Eとで構成されており、その縦方向および横方向の鉛直断面形状はいずれも略U字形に設定されている。その際、この製作ベッド10は、その両端部壁10D、10Eと両側壁10B、10Cとが連続的に形成された箱形の製作ベッドとして構成されており、その内側に縦長矩形状の作業用空間が形成されるようになっている。
【0028】
本実施形態において製造の対象となる二方向プレテンション部材100は、縦方向に延びる38本(19本ずつ上下2段)の縦方向PC鋼材102と、これら縦方向PC鋼材と交差するようにして横方向に延びる22本の横方向PC鋼材104とが、コンクリート部材106内に配置されてなる横長矩形状のコンクリートスラブであって、製作ベッド10の作業用空間内における縦方向の21箇所で、21個同時に製造されるようになっている。
【0029】
これら21個の二方向プレテンション部材100を製造する工程において、これら各二方向プレテンション部材100に対して、横方向のプレストレスと縦方向のプレストレスとが導入されるようになっている。これら二方向のプレストレス導入は、次のようにして行われるようになっている。
【0030】
すなわち、一方の側壁10Bに各横方向PC鋼材104の一端部を定着した状態で、他方の側壁10Cに設置した各1対のジャッキ50を用いて、22本の横方向PC鋼材104の緊張および緊張解除を行うことにより、両側壁10B、10C間において打設される各コンクリート部材106に対して、横方向のプレストレスが導入されるようになっている。
【0031】
また、一方の端部壁10Dに、各縦方向PC鋼材102の一端部を定着した状態で、他方の端部壁10Eに設置した各1対のジャッキ30を用いて38本の縦方向PC鋼材102の緊張および緊張解除を行うことにより、両端部壁10D、10E間において打設される21個のコンクリート部材106に対して、縦方向のプレストレスが一括して導入されるようになっている。
【0032】
図2、3、4および5は、図1のII部詳細図、III 部詳細図、IV部詳細図およびV部詳細図である。また、図6は、図1のVI-VI 線断面詳細図である。
【0033】
これらの図にも示すように、この製作ベッド10の底面壁10Aは、その壁厚が1.2m程度の値に設定されており、この底面壁10Aの下面は、その全域にわたって平面状に形成されている。
【0034】
そして、この製作ベッド10の各側壁10B、10Cは、その壁厚が1.2m程度の値に設定されており、その高さは、底面壁10Aの下面から2.2m程度の値に設定されている。これら各側壁10B、10Cの内側面には、その下端部に傾斜角45°程度のハンチ部10Ba、10Caが形成されている。
【0035】
また、この製作ベッド10の各端部壁10D、10Eは、その壁厚が該端部壁10D、10Eの上端面において2.2m程度の値に設定されており、その高さは、各側壁10B、10Cの高さと同じ値に設定されている。これら各端部壁10D、10Eの内側面は、傾斜角45°程度の傾斜面10Da、10Eaとして形成されている。
【0036】
その際、一方の端部壁10Dには、38本の縦方向PC鋼材102を挿通させるための38本の挿通孔(図示せず)が、横方向に所定間隔をおいて上下2段配置で縦方向に貫通するようにして形成されている。
【0037】
また、他方の端部壁10Eには、プレテンション導入装置20が装着されている。このプレテンション導入装置20は、端部壁10Eの内側近傍に配置された定着用ブロック22と、端部壁10Eの外側近傍に配置された受け梁24と、これら定着用ブロック22、端部壁10Eおよび受け梁24を縦方向に貫通するようにして上下2段で配置され、両端部が定着用ブロック22および受け梁24に各々ナット28で固定された2対のテンションロッド26と、端部壁10Eと受け梁24との間に設置された1対のジャッキ30とを備えた構成となっている。その際、定着用ブロック22には、38本の縦方向PC鋼材102を挿通させるための38本の挿通孔(図示せず)が、横方向に所定間隔をおいて上下2段配置で縦方向に貫通するようにして形成されている。
【0038】
図7は、図6のVII 部詳細図である。
【0039】
同図にも示すように、一方の側壁10Bに対する各横方向PC鋼材104の一端部の定着は、補助PC鋼材60を介して行われるようになっている。
【0040】
すなわち、この側壁10Bには、上記21箇所の各々に対応する位置に、22本の補助PC鋼材60を挿通させるための22本の挿通孔(図示せず)が、縦方向に、横方向PC鋼材104の配置間隔と同じ間隔をおいて、該側壁10Bを横方向に貫通するようにして形成されている。そして、この側壁10Bには、22本の補助PC鋼材60が、該側壁10Bを横方向に貫通するとともに、予めプレストレスが導入された状態で配置されている。その際、これら各補助PC鋼材60に対するプレストレスの導入はポストテンションにより行われており、そのプレストレスは、各横方向PC鋼材104に対して導入されるプレストレスよりもある程度大きい値に設定されている。
【0041】
この側壁10Bの両側面には、各補助PC鋼材60を定着するための定着具62が装着されている。そして、これら各補助PC鋼材60は、側壁10Bの内側面側の突出部60aが、該突出部60aに装着された定着具62から幾分突出するように配置されており、この突出部60aにおいて各横方向PC鋼材104の一端部と連結されるようになっている。この連結は、カプラ64を用いて行われるようになっている。
【0042】
また、同図2、3および6に示すように、他方の側壁10Cには、縦方向に等間隔をおいて21箇所にプレテンション導入装置40が装着されている。このプレテンション導入装置40は、側壁10Cの内側近傍に配置された定着用ブロック42と、側壁10Cの外側近傍に配置された受け梁44と、これら定着用ブロック42、側壁10Cおよび受け梁44を横方向に貫通するように配置され、両端部が定着用ブロック42および受け梁44に各々ナット48で固定された2対のテンションロッド46と、側壁10Cと受け梁44との間に設置された1対のジャッキ50とを備えた構成となっている。その際、各定着用ブロック42には、22本の横方向PC鋼材104を挿通させるための22本の挿通孔(図示せず)が、縦方向に所定間隔をおいて横方向に貫通するようにして形成されている。
【0043】
次に、二方向プレテンション部材100の製造工程について説明する。
【0044】
まず、製作ベッド10における縦長の作業用空間の21箇所に、コンクリート部材106の形状に対応する型枠(図示せず)を設置し、38本の縦方向PC鋼材102を上下2段で横方向に等間隔をおいて配置するとともに、各箇所において22本の横方向PC鋼材104を、上段に位置する縦方向PC鋼材102の上方近傍において縦方向に等間隔をおいて配置する。
【0045】
各縦方向PC鋼材102は、その一端部を、一方の端部壁10Dに形成された挿通孔に挿通させた状態で、該端部壁10Dの外面において定着具32で定着するとともに、その他端部を、定着用ブロック22に形成された挿通孔に挿通させた状態で、該定着用ブロック22における縦方向外側の端面において定着具32で定着する。そして、他方の端部壁10Eと受け梁24との間に設置された1対のジャッキ30により、受け梁24を縦方向外側へ移動させ、これに伴い、テンションロッド26を介して定着用ブロック22を縦方向外側へ移動させ、これにより38本の縦方向PC鋼材102を一括して緊張する。
【0046】
一方、各横方向PC鋼材104は、その一端部を、一方の側壁10Bに配置された各補助PC鋼材60の突出部60aに連結するとともに、その他端部を、定着用ブロック42に形成された挿通孔に挿通させた状態で、該定着用ブロック42における横方向外側の端面において定着具52で定着する。そして、他方の側壁10Cと受け梁44との間に設置された1対のジャッキ50により、受け梁44を横方向外側へ移動させ、これに伴い、テンションロッド46を介して定着用ブロック42を横方向外側へ移動させ、これにより各二方向プレテンション部材100用の22本の横方向PC鋼材104を一括して緊張する。この作業は、21箇所のプレテンション導入装置40毎に個別に行う。
【0047】
次に、上記21箇所の各々に設置された型枠内にコンクリートを打設し、所定時間養生する。
【0048】
その後、各プレテンション導入装置40において、その1対のジャッキ50による22本の横方向PC鋼材104の緊張を一括して解除する。そして、この緊張解除が完了した後、プレテンション導入装置20において、その1対のジャッキ30による38本の縦方向PC鋼材102の緊張を一括して解除する。
【0049】
最後に、各縦方向PC鋼材102および各横方向PC鋼材104における各型枠からの突出部分を切り落とした後、これら各型枠から二方向プレテンション部材100を取り出す。
【0050】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0051】
本実施形態においては、38本の縦方向PC鋼材102と22本の横方向PC鋼材104とがコンクリート部材106内に配置されてなる二方向プレテンション部材100を、縦方向の21箇所で21個同時に製造するようになっているが、その際、縦方向および横方向の鉛直断面形状がいずれも略U字形に設定された縦長の製作ベッド10を用い、この製作ベッド10における一方の側壁10Bに各横方向PC鋼材104の一端部を定着した状態で、該製作ベッド10における他方の側壁10Cに設置したジャッキ50を用いて各横方向PC鋼材104の緊張および緊張解除を行うことにより、両側壁10B、10C間において打設される各コンクリート部材106に対して横方向のプレストレスを導入するとともに、製作ベッド10における一方の端部壁10Dに各縦方向PC鋼材102の一端部を定着した状態で、該製作ベッド10における他方の端部壁10Eに設置したジャッキ30を用いて各縦方向PC鋼材102の緊張および緊張解除を行うことにより、両端部壁10D、10E間において打設される21個のコンクリート部材106に対して縦方向のプレストレスを一括して導入するようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0052】
すなわち、自碇式の製作ベッド10を用いて二方向のプレストレス導入を行うようになっているので、従来のような長尺の水平反力アンカを備えた反力装置が不要となり、このため二方向プレテンション部材100の製造設備のコスト低減を図ることができ、また、各縦方向PC鋼材102および各横方向PC鋼材104の緊張力の管理が容易となるので、所期のプレストレス導入を行うことが容易に可能となる。
【0053】
しかも本実施形態においては、上記21箇所の各々において、22本の補助PC鋼材60を、一方の側壁10Bに対して該側壁10Bを横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材60に予めプレストレスを導入しておき、そして、22本の横方向PC鋼材104の一端部の側壁10Bへの定着を、これら22本の横方向PC鋼材104の一端部と22本の補助PC鋼材60における側壁10Bの内側面からの突出部60aとを連結することにより行うようになっているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0054】
すなわち、図8(a)に示すように、仮に補助PC鋼材60が存在しないとすると、22本の横方向PC鋼材104の一端部の側壁10Bへの定着は、該側壁10Bに形成された22本の挿通孔に22本の横方向PC鋼材104の各々を挿通させた状態で、該側壁10Bの外側面において行われることとなる。このため、これら各横方向PC鋼材104におけるコンクリート部材106の側端面から定着位置までの部分の長さL1はかなり長いものとなり、この部分が緊張により伸びて緊張解除により縮むので、その緊張解除時のコンクリート部材106の変位量D1はかなり大きなものとなる。
【0055】
このため、緊張解除が行われたコンクリート部材106とその縦方向両側に位置する緊張解除が行われていないコンクリート部材106との間に位置する縦方向PC鋼材102は、縦方向に対して斜め方向に大きく変形してしまうこととなる。そしてこれにより、緊張解除が行われたコンクリート部材106の縦方向端部における各縦方向PC鋼材102の周辺領域が損傷してしまうおそれがあり、また、作業員に危険が及んでしまうおそれもある。
【0056】
これに対し、本実施形態においては、同図(b)に示すように、22本の補助PC鋼材60を予めプレストレスが導入された状態で側壁10Bに配置しておき、22本の横方向PC鋼材104の一端部の側壁10Bへの定着を、22本の横方向PC鋼材104の一端部と22本の補助PC鋼材60における該側壁10Bの内側面からの突出部60aとを連結することにより行うようになっているので、緊張解除により縮むのは、各横方向PC鋼材60におけるコンクリート部材106の側端面から各補助PC鋼材60との連結位置までの部分と各補助PC鋼材60の突出部60aとの合計部分の長さL2となり、その長さを側壁10Bの肉厚分だけ短縮することができるので、緊張解除に伴うコンクリート部材106の変位量D2を十分小さくすることができる。
【0057】
このため、緊張解除が行われたコンクリート部材106とその縦方向両側に位置する緊張解除が行われていないコンクリート部材106との間に位置する縦方向PC鋼材102は、縦方向に対して斜め方向に僅かに変形するのみである。そしてこれにより、コンクリート部材106の縦方向端部における各縦方向PC鋼材102の周辺領域が損傷してしまうおそれをなくすことができ、かつ作業員に危険が及んでしまうおそれをなくすことができる。またこれにより、上記21箇所において打設されたコンクリート部材106の各々に対する22本の横方向PC鋼材104の緊張解除を、各箇所相互間において任意の手順でかつ迅速に行うことができる。
【0058】
このように本実施形態によれば、二方向プレテンション部材100を直列配置で複数個同時に製造する場合において、作業効率を維持した上で、所期の品質および作業の安全性を確保することができる。
【0059】
特に本実施形態においては、22本の横方向PC鋼材104と22本の補助PC鋼材60との連結を、これら各横方向PC鋼材104および各補助PC鋼材60毎にカプラ64を用いて行うようになっているので、簡素な構成でかつ簡単な作業で両PC鋼材104、60の連結を行うことができる。
【0060】
なお本実施形態においては、製作ベッド10として、その両端部壁10D、10Eと両側壁10B、10Cとが連続的に形成された箱形の製作ベッドを用いるようになっているので、これら各端部壁10D、10Eおよび各側壁10B、10Cの壁厚が比較的薄く形成されているにもかかわらず、各縦方向PC鋼材102および各横方向PC鋼材104を緊張する際の反力を受けるようにすることができる。
【0061】
ところで、上記実施形態においては、製作ベッド10として鉄筋コンクリート製の製作ベッドを用いるようにしたが、PC鋼材で適宜補強された鉄筋コンクリート製の製作ベッド等を用いるようにしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、その製造対象となる二方向プレテンション部材100が横長矩形状のコンクリートスラブであるものとして説明したが、これ以外の形状を有する部材である場合においても、上記実施形態の製造方法を採用することにより上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0063】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0064】
まず、上記実施形態の第1変形例について説明する。
【0065】
図9は、本変形例に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッドおよびその付属装置の要部を示す、図7と同様の図である。また、図10は、図9のX-X 線断面図である。
【0066】
これらの図に示すように、本変形例においては、上記21箇所の各々に、22本の横方向PC鋼材104よりも1本多い23本の補助PC鋼材60を配置し、これら23本の補助PC鋼材60と22本の横方向PC鋼材104とを、次のようにして連結するようになっている。
【0067】
すなわち、本変形例においては、各補助PC鋼材60に対するプレストレス導入を、一方の側壁10Bの内側に該側壁10Bの内側面と所定間隔をおいて帯板状の定着用鋼材70を配置するとともに、この定着用鋼材70に各補助PC鋼材60の突出部60aを定着具62で定着した状態で行い、そして、22本の横方向PC鋼材104と23本の補助PC鋼材60との連結を、各横方向PC鋼材104を定着用鋼材70に定着具52で定着することにより行うようになっている。
【0068】
その際、定着用鋼材70には、22本の横方向PC鋼材104を挿通させるための22個のU字溝70aが、縦方向に所定間隔で形成されており、また、これら22個のU字溝70aの各中間位置およびその縦方向両側には、23本の補助PC鋼材60を挿通させるための23個の挿通孔70bが形成されている。そして、この定着用鋼材70は、側壁10Bの内側面に沿って縦方向に延びるように配置された帯板状の支持鋼板72に、23個の筒状鋼材74を介して連結固定されている。この支持鋼板72には、23本の補助PC鋼材60を挿通させるための23個の挿通孔72aが、23個の挿通孔70bと対向する位置に形成されている。また、各筒状鋼材74は、各挿通孔72aと各挿通孔70bとを結ぶ直線を囲むようにして配置されている。
【0069】
本変形例の連結構造を採用することにより、各横方向PC鋼材104において緊張解除により縮む部分を、該横方向PC鋼材104におけるコンクリート部材106の側端面から定着用鋼材70への定着位置までの部分のみの長さL3とすることができる。そしてこれにより、緊張解除により縮む部分の長さを、側壁10Bの内側面と定着用鋼材70との間隔分だけ上記実施形態の場合よりもさらに短縮することができるので、緊張解除に伴うコンクリート部材106の変位量についても、上記実施形態の場合よりもさらに小さくすることができる。
【0070】
しかも本変形例においては、定着用鋼材70に形成された各U字溝70aに対する各横方向PC鋼材104の挿通を、定着具52が装着されたままの状態にある横方向PC鋼材104をU字溝70aに対してその上方側から挿入することにより行うことができるので、これら各横方向PC鋼材104の定着用鋼材70に対する定着作業を容易に行うことができる。
【0071】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0072】
図11は、本変形例に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッド110およびその付属装置を示す、図6と同様の図である。また、図12は、図11のXII 部詳細図である。
【0073】
これらの図に示すように、本変形例においては、製作ベッド110として、横方向の鉛直断面形状が2連の略U字形に設定された2連式の製作ベッドを用い、その縦方向の複数箇所において二方向プレテンション部材100を1対ずつ製造するようになっている。
【0074】
すなわち、本変形例においては、上記21箇所の各々において、22本の補助PC鋼材60を、製作ベッド110の横方向中央に位置する中央側壁10Fに対して該中央側壁10Fを横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材60に予めプレストレスを導入しておき、これら22本の補助PC鋼材60を、中央側壁10Fの両側に配置された1対のコンクリート部材106の各々に対して横方向のプレストレス導入を行う際に共用するようになっている。なお、中央側壁10Fの壁厚は、上記実施形態の側壁10Bの壁厚よりもやや大きい値(具体的には2m程度)に設定されている。
【0075】
本変形例において用いられる製作ベッド110は、2連式の製作ベッドとして構成されているが、その各部の構成は上記実施形態の製作ベッド10の構成と同様である。また、中央側壁10Fの両側における22本の横方向PC鋼材104と22本の補助PC鋼材60との連結方法については、上記実施形態の場合と同様、各横方向PC鋼材104および各補助PC鋼材60毎にカプラ64を用いて行うようになっている。
【0076】
本変形例の製造方法を採用することにより、二方向プレテンション部材100の製造効率を高めることができ、また補助PC鋼材60の有効利用を図ることができる。
【0077】
本変形例において、中央側壁10Fの両側における22本の横方向PC鋼材104と22本の補助PC鋼材60との連結を、上記実施形態のようにカプラ64を用いて行う代わりに、上記第1変形例のように定着用鋼材70を用いて行うようにすることも可能である。
【0078】
なお、上記実施形態および各変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本願発明の一実施形態に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッドを、所定の付属装置が装着された状態で示す図であって、同図(a)が平面図、同図(b)が側断面図
【図2】図1のII部詳細図
【図3】図1のIII 部詳細図
【図4】図1のIV部詳細図
【図5】図1のV部詳細図
【図6】図1のVI-VI 線断面詳細図
【図7】図6のVII 詳細図
【図8】上記実施形態の作用を説明するための図であって、図1の要部詳細図
【図9】上記実施形態の第1変形例に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッドおよびその付属装置の要部を示す、図7と同様の図
【図10】図9のX-X 線断面図
【図11】上記実施形態の第2変形例に係る二方向プレテンション部材の製造方法に用いられる製作ベッドおよびその付属装置を示す、図6と同様の図
【図12】図11のXII 部詳細図
【符号の説明】
【0080】
2 地盤
10、110 製作ベッド
10A 底面壁
10B、10C 側壁
10Ba、10Ca ハンチ部
10D、10E 端部壁
10Da、10Ea 傾斜面
10F 中央側壁
20、40 プレテンション導入装置
22、42 定着用ブロック
24、44 受け梁
26、46 テンションロッド
28、48 ナット
30、50 ジャッキ
32、52、62 定着具
60 補助PC鋼材
60a 突出部
64 カプラ
70 定着用鋼材
70a U字溝
70b、72a 挿通孔
72 支持鋼板
74 筒状鋼材
100 二方向プレテンション部材
102 縦方向PC鋼材
104 横方向PC鋼材
106 コンクリート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に延びる複数本の縦方向PC鋼材と、これら縦方向PC鋼材と交差するようにして横方向に延びる複数本の横方向PC鋼材とが、コンクリート部材内に配置されてなる二方向プレテンション部材を、縦方向の複数箇所で複数個同時に製造する方法において、
横方向の鉛直断面形状が略U字形に設定された製作ベッドを用い、
上記製作ベッドにおける一方の側壁に上記各横方向PC鋼材の一端部を定着した状態で、上記製作ベッドにおける他方の側壁に設置したジャッキを用いて上記各横方向PC鋼材の緊張および緊張解除を行うことにより、上記両側壁間において打設される各コンクリート部材に横方向のプレストレスを導入するようにし、
その際、上記複数箇所の各々において、複数本の補助PC鋼材を、上記一方の側壁に対して該側壁を横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材に予めプレストレスを導入しておき、上記複数本の横方向PC鋼材の一端部の上記一方の側壁への定着を、これら複数本の横方向PC鋼材の一端部と上記複数本の補助PC鋼材における該側壁の内側面からの突出部とを連結することにより行う、ことを特徴とする二方向プレテンション部材の製造方法。
【請求項2】
上記複数本の横方向PC鋼材と上記複数本の補助PC鋼材との連結を、上記各横方向PC鋼材および上記各補助PC鋼材毎にカプラを用いて行う、ことを特徴とする請求項1記載の二方向プレテンション部材の製造方法。
【請求項3】
上記各補助PC鋼材に対するプレストレス導入を、上記一方の側壁の内側に該側壁の内側面と所定間隔をおいて定着用鋼材を配置するとともにこの定着用鋼材に上記各補助PC鋼材の突出部を定着した状態で行い、
上記複数本の横方向PC鋼材と上記複数本の補助PC鋼材との連結を、上記各横方向PC鋼材を上記定着用鋼材に定着することにより行う、ことを特徴とする請求項1記載の二方向プレテンション部材の製造方法。
【請求項4】
上記製作ベッドとして、横方向の鉛直断面形状が2連の略U字形に設定された2連式の製作ベッドを用い、この製作ベッドの縦方向の複数箇所において上記二方向プレテンション部材を1対ずつ製造するようにし、
その際、上記複数箇所の各々において、上記複数本の補助PC鋼材を、上記製作ベッドの横方向中央に位置する中央側壁に対して該中央側壁を横方向に貫通させるようにして配置するとともに、これら各補助PC鋼材に予めプレストレスを導入しておき、これら複数本の補助PC鋼材を、上記中央側壁の両側に配置された1対のコンクリート部材の各々に対して横方向のプレストレス導入を行う際に共用する、ことを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の二方向プレテンション部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−245507(P2007−245507A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71419(P2006−71419)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】