説明

二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備える光化学電池

【課題】 本発明の課題は、高い吸光係数を有する、電子移動に優れた二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備えた、光電変換効率が高い光化学電池を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、下記一般式(2)
【化1】


(式中、Arはアリール基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基を示す。なお、R及びRは、結合して環を形成していても良い。)
で示されるアリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備える光化学電池によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い吸光係数を有する、電子移動に優れた二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を含む光電変換素子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備える光化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はクリーンな再生型エネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池やテルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物からなる太陽電池の実用化をめざした研究がなされている。しかし、家庭用電源として普及させるためには、いずれの電池も製造コストが高いことや原材料の確保が困難なことやリサイクルの問題、また大面積化が困難であるなど克服しなければならない多くの問題を抱えている。そこで、大面積化や低価格化を目指し有機材料を用いた太陽電池が提案されてきたが、いずれも変換効率が1%程度と実用化にはほど遠いものであった。
【0003】
こうした状況の中、1991年にグレッツェルらによりNatureに色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこの太陽電池の作製に必要な材料および製造技術が開示された。(例えば、Nature、第353巻、737頁、1991年(非特許文献1)、特開平1−220380号公報(特許文献1)など)。この電池はルテニウム色素によって増感された多孔質チタニア薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この太陽電池の利点は、安価な材料を高純度に精製する必要がなく用いられるため、安価な光電変換素子として提供できること、さらに用いられる色素の吸収がブロードであり、広い可視光の波長域にわたって太陽光を電気に変換できることである。しかしながら実用化のためにはさらなる変換効率の向上が必要であり、より高い吸光係数を有し、より高波長域まで光を吸収する色素の開発が望まれている。
【0004】
本出願人による特開2003−261536号公報(特許文献2)には、光電変換素子として有用な金属錯体色素であるジピリジル配位子含有金属単核錯体が開示されている。
【0005】
また、色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)(非特許文献2)には、多核β−ジケトナート錯体色素が開示されている。
【0006】
また、特開2004−359677号公報(特許文献3)には、光などの活性光線のエネルギーを受けて電子を取り出す光電変換機能の優れた新規な複核錯体として、複数の金属と複数の配位子を有し、その複数の金属に配位する橋かけ配位子(BL)が複素共役環を有する配位構造と複素共役環を有しない配位構造を有する複核錯体が開示されている。
【0007】
さらに、WO2006/038587(特許文献4)には、高い光電変換効率を有する光電変換素子が得られる金属錯体色素として、複素共役環を有する配位構造を有する二核金属錯体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2003−261536号公報
【特許文献3】特開2004−359677号公報
【特許文献4】国際公開第2006/038587号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nature、第353巻、737頁、1991年
【非特許文献2】色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、高い吸光係数を有する、電子移動に優れた二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備えた、光電変換効率が高い光化学電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の事項に関する。
1. 下記一般式(1)で示される二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、下記一般式(2)で示されるアリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備える光化学電池。
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、XN−は、対イオンであるN価のアニオン(但し、Nは1又は2である。)、
【0014】
【化2】

【0015】
は、カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子、
【0016】
【化3】

【0017】
は、含窒素四座配位子、
【0018】
【化4】

【0019】
は、含窒素二座配位子を示す。nは、0〜2の整数を示す。pは、錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。なお、カルボキシル基(COOH)は、脱プロトン(H)化されてカルボキシイオン(COO)となっていても良い。)
【0020】
2. XN−が、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン又はヨウ化物イオンである上記1記載の光化学電池。
【0021】
3. 含窒素二座配位子が、2,2’−ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジメチル)ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジ−t−ブチル)ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジ−n−ノニル)ビピリジン又は1,10−フェナントロリンである上記1記載の光化学電池。
【0022】
4. カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子が、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である上記1記載の光化学電池。
【0023】
5. 含窒素四座配位子が、2,2’−ビイミダゾール又は2,2’−ビベンズイミダゾールである上記1記載の光化学電池。
【0024】
6. 半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、又はそれらの混合物である上記1記載の光化学電池。
【0025】
7. 下記一般式(2)で示されるアリールアミン化合物が、アニリン、ジメチルアニリン、ジn−ブチルアニリン、ジn−ヘキシルアニリン、ジn−オクチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記1記載の光化学電池。
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、Arはアリール基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基を示す。なお、R及びRは、結合して環を形成していても良い。)
【0028】
8. 電解質溶液が、レドックス対を含む上記1記載の光化学電池。
【0029】
9. 前記二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を電極上に固定したものである光電変換素子と対極とを有し、その間に前記アリールアミン化合物を含有する電解質溶液の層を有する上記1記載の光化学電池。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、高い吸光係数を有する、電子移動に優れた二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備えた、光電変換効率が高い光化学電池を提供することができる。この光化学電池は、アリールアミン化合物を含まないものと比べて、高い光電変換効率が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子は、前記の二核ルテニウム錯体と半導体微粒子を接触させることによって得られる。
【0032】
本発明において使用する二核ルテニウム錯体は、前記一般式(1)で示されるものである。
その一般式(1)において、XN−は、対イオンであるN価のアニオン(但し、Nは1又は2である。)を示す。Xとしては、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、チオシアン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン等が挙げられるが、好ましくはヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ハロゲン化物イオンであり、更に好ましくはヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン、ヨウ化物イオンである。又、X2−としては、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン等が挙げられ、好ましくは硫酸イオンが挙げられる。
【0033】
又、
【0034】
【化6】

【0035】
は、カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子を示す。カルボキシル基(COOH)は、脱プロトン(H)化されてカルボキシイオン(COO)となっていても良い。このカルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子は、錯体内にふたつ含まれているが、それらは同一でも異なっていてもよい。
このカルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子としては、下式(1−A)で表される配位子が挙げられる。
【0036】
【化7】

【0037】
式中、−COOHのHは脱離していてもよく、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成している。
アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0038】
また、RとR、RとR、RとRが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0039】
〜Rは全て水素原子であるか、RとRが水素原子であり、RとR、RとRが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環を形成していることが好ましく、R〜Rが全て水素原子であることが特に好ましい。
【0040】
カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸、1,10−フェナントロリン−4,7−ジカルボン酸、2−(2−(4−カルボキシピリジル))−4−カルボキシキノリン、2,2’−ビキノリン−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられるが、好ましくは2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である。なお、これらの配位子中のカルボキシル基(COOH)は、脱プロトン(H)化されてカルボキシイオン(COO)となっていても良い。
【0041】
更に、
【0042】
【化8】

【0043】
は、含窒素四座配位子を示す。
この含窒素四座配位子としては、下式(1−B1)で表される配位子が挙げられる。
【0044】
【化9】

【0045】
式中、R31、R32及びR33は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成しており、R34、R35及びR36は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成している。
【0046】
アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0047】
また、R31〜R36の隣接する二つが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0048】
31〜R36は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R31〜R36が全て水素原子であることが特に好ましい。
また、含窒素四座配位子としては、下式(1−B2)で表される配位子も挙げられる。
【0049】
【化10】

【0050】
式中、R41及びR42は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成しており、R43及びR44は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成している。
【0051】
アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0052】
また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0053】
41〜R44は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R41〜R44が全て水素原子であることが特に好ましい。また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成していることも特に好ましく、例えば下式(1−B3)で表される配位子であることが好ましい。
【0054】
【化11】

【0055】
式中、R51、R52、R53及びR54は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表し、R55、R56、R57及びR58は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。
【0056】
アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0057】
51〜R58は水素原子またはメチル基であることが好ましく、R51〜R58が全て水素原子であるか、R52、R53、R56及びR57がメチル基であり、R51、R54、R55及びR58が水素原子であることが特に好ましく、R51〜R58が全て水素原子であることがさらに好ましい。
含窒素四座配位子としては、例えば、2,2’−ビピリミジン、2,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビベンズイミダゾール等が挙げられるが、好ましくは2,2’−ビイミダゾール、2,2’−ビベンズイミダゾールであり、更に好ましくは2,2’−ビベンズイミダゾールである。
【0058】
【化12】

【0059】
は、含窒素二座配位子を示す。この含窒素二座配位子は、錯体内にふたつ含まれているが、それらは同一でも異なっていてもよい。
この含窒素二座配位子としては、下式(1−C)で表される配位子が挙げられる。
【0060】
【化13】

【0061】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は、それぞれ独立に、水素原子または置換もしくは無置換の直鎖もしくは分岐アルキル基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環を形成している。
【0062】
アルキル基としては、炭素数18以下のものが好ましく、メチル基、t−ブチル基、ノニル基がより好ましい。
【0063】
また、R11〜R18の隣接する二つ、またはR11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、t−ブチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0064】
11〜R18は水素原子またはメチル基、t−ブチル基、ノニル基であることが好ましく、R11〜R18が全て水素原子であるか、R12及びR17がメチル基、t−ブチル基、ノニル基であり、R11、R13〜R16及びR18が水素原子であることが特に好ましい。また、R11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成しており、R12〜R17は水素原子またはメチル基、t−ブチル基、ノニル基、より好ましくは水素原子であることも特に好ましい。さらに、R13とR14、R15とR16が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成しており、R11、R12、R17及びR18は水素原子またはメチル基、t−ブチル基、ノニル基、より好ましくは水素原子であることも特に好ましい。
【0065】
含窒素二座配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジメチル−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジ−t−ブチル−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジノニル−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジニル)キノリン、2,2’−ビキノリン等が挙げられるが、好ましくは2,2’−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジメチル−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジ−t−ブチル−ビピリジン、2,2’−4,4’−ジノニル−ビピリジン、1,10−フェナントロリンである。
【0066】
なお、nはカチオンの価数を表し、通常0〜2の整数であり、好ましくは1又は2、更に好ましくは1である。又、pは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。
【0067】
上記のような本発明において使用する二核ルテニウム錯体の具体的な化合物としては、例えば、以下の(D−1)から(D−17)の化合物が挙げられるが、好ましくは(D−4)、(D−5)、(D−9)、(D−10)、(D−11)、(D−13)、(D−16)及び(D−17)が使用される。なお、式(D−1)〜(D−17)中の−COOHのHは脱離していてもよい。
【0068】
【化14】

【0069】
【化15】

【0070】
【化16】

【0071】
【化17】

【0072】
【化18】

【0073】
なお、これらの二核ルテニウム錯体は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。 これらの二核ルテニウム錯体は、公知の方法によって合成することができる(例えば、国際公開第2006/038587号参照)。
【0074】
本発明において使用する半導体微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウム等の金属酸化物類;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム等の複合酸化物類;硫化カドミウム、硫化ビスマス等の金属硫化物;セレン化カドミウム等の金属セレン化物;テルル化カドミウム等の金属テルル化物;リン化ガリウム等の金属リン化物;ヒ素化ガリウム等の金属ヒ素化物が挙げられるが、好ましくは金属酸化物、更に好ましくは酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズが使用される。なお、半導体微粒子の一次粒子径は特に制限されないが、好ましくは1〜5000nm、更に好ましくは2〜500nm、特に好ましくは3〜300nmのものが使用される。これらの半導体微粒子は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0075】
半導体微粒子に二核金属錯体色素を吸着させる方法としては、導電性支持体上に半導体微粒子を含む半導体層(半導体微粒子膜)を形成した後、これを二核金属錯体色素を含む溶液に浸漬する方法が挙げられる(例えば、国際公開第2006/038587号参照)。半導体層は、導電性支持体上に半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成して形成することができる。そして、色素溶液に浸漬後、この半導体層が形成された導電性支持体を洗浄、乾燥する。
【0076】
色素溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられるが、好ましくはイソプロピルアルコールやt−ブタノール、アセトニトリルが用いられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
溶液中の色素の濃度は適宜決めることができるが、短時間で色素を吸着させることができるので高濃度の方が好ましく、飽和溶液であることが好ましい。
【0078】
色素を吸着させる際の温度は、通常、0〜80℃とすればよく、好ましくは20〜40℃である。色素を吸着させる時間(色素溶液に浸漬する時間)は適宜決めることができ、例えば1〜40時間、好ましくは5〜20時間程度である。吸着時間がこれより長くなってくると、色素の吸着量は余り変わらなくなる一方で、光電変換効率が低下してくることがある。
【0079】
本発明の光電変換素子は、二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を含むものであり、具体的には、例えば、当該ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を電極上に固定したものである。
【0080】
前記電極は、導電性電極であり、好ましくは透明基板上に形成された透明電極である。導電剤としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム等の金属、スズをドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)に代表される酸化スズ系化合物、酸化亜鉛系化合物などが挙げられる。
【0081】
本発明の光化学電池は、先述した二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を用いて製造することができる。
【0082】
本発明の光化学電池は、具体的には、電極として上記の本発明の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質溶液層を有するものである。なお、本発明の光電変換素子に用いた電極と対極の少なくとも片方は透明電極である。
【0083】
対極は、光電変換素子と組み合わせて光化学電池としたときに正極として作用するものである。対極としては、上記導電性電極と同様に導電層を有する基板を用いることもできるが、金属板そのものを使用すれば、基板は必ずしも必要ではない。対極に用いる導電剤としては、例えば、白金等の金属、炭素、フッ素をドープした酸化スズ等の導電性金属酸化物が好適に使用される。
【0084】
本発明では、光化学電池の電解質として、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液を使用する。この電解質溶液は、アリールアミン化合物とレドックス対(酸化還元対)を含むものである。アリールアミン化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0085】
本発明において用いるアリールアミン化合物は、下記式(E)で示されるアニリン化合物が好適に使用される。
【0086】
【化19】

【0087】
但し、式(E)におけるR及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基を示す。なお、R及びRは、結合して環を形成していても良い。
【0088】
本発明において用いるアニリン化合物の電解質溶液中の濃度は、0.001mol/lから5mol/lの範囲が好ましく、0.5mol/lから1mol/lの範囲がより好ましく、0.5mol/lが特に好ましい。
【0089】
また、アニリン化合物としては、下記式(E−1a)、(E−1b)、(E−1c)、(E−1d)、(E−1e)で示されるアニリン、ジメチルアニリン、ジn−ブチルアニリン、ジn−ヘキシルアニリン、ジn−オクチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ジn−ヘキシルアニリンが特に好ましい。
【0090】
【化20】

【0091】
本発明の電解質溶液は、レドックス対(酸化還元対)を含んでいることが望ましい。使用するレドックス対は特に限定されないが、例えば、
(1)ヨウ素とヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物;ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム、ヨウ化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物のヨウ化物)の組み合わせ、
(2)臭素と臭化物(例えば、臭化リチウム、臭化カリウム等の金属臭化物;臭化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化ピリジニウム、臭化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物の臭化物)の組み合わせ、
(3)塩素と塩化物(例えば、塩化リチウム、塩化カリウム等の金属塩化物;塩化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化ピリジニウム、塩化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物の塩化物)の組み合わせ、
(4)アルキルビオローゲンとその還元体の組み合わせ、
(5)キノン/ハイドロキノン、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン、マンガン(II)イオン/マンガン(III)イオン、コバルトイオン(II)/コバルトイオン(III))等の遷移金属イオン対、
(6)フェロシアン/フェリシアン、四塩化コバルト(II)/四塩化コバルト(III)、四臭化コバルト(II)/四臭化コバルト(III)、六塩化イリジウム(II)/六塩化イリジウム(III)、六シアノ化ルテニウム(II)/六シアノ化ルテニウム(III)、六塩化ロジウム(II)/六塩化ロジウム(III)、六塩化レニウム(III)/六塩化レニウム(IV)、六塩化レニウム(IV)/六塩化レニウム(V)、六塩化オスミウム(III)/六塩化オスミウム(IV)、六塩化オスミウム(IV)/六塩化オスミウム(V)等の錯イオンの組み合わせ、
(7)コバルト、鉄、ルテニウム、マンガン、ニッケル、レニウム等の遷移金属と、ビピリジンやその誘導体、ターピリジンやその誘導体、フェナントロリンやその誘導体等の複素共役環及びその誘導体で形成されている錯体類、
(8)フェロセン/フェロセニウムイオン、コバルトセン/コバルトセニウムイオン、ルテノセン/ルテノセウムイオン等のシクロペンタジエン及びその誘導体と金属の錯体類、
(9)ポルフィリン系化合物類
が挙げられるが、好ましくは前記(1)で挙げたレドックス対が使用される。なお、これらのレドックス対は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。これらのレドックス対の使用量は、適宜決めることができる。
【0092】
本発明の光化学電池は、従来から適用されている方法によって製造することができ、例えば、
(1)透明電極上に酸化物等の半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成して半導体微粒子の薄膜を作製する。
(2)次いで、半導体微粒子の薄膜がチタニアの場合、温度400〜550℃で0.5〜1時間焼成する。
(3)得られた薄膜の付いた透明電極を色素溶液に浸漬し、二核ルテニウム色素を担持して光電変換素子を作製する。
(4)得られた光電変換素子と対極として白金又は炭素を蒸着した透明電極を合わせ、その間に電解質溶液を入れる。
という操作を行うことにより、本発明の光化学電池を製造することが出来る。
【実施例】
【0093】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、光化学電池の光電変換効率は、ソーラーシュミレーター(英弘精機株式会社製)の擬似太陽光を照射して測定した。また、二核ルテニウム錯体色素は、国際公開第2006/038587号を参照して合成した。
【0094】
実施例1
(多孔質チタニア電極の作製)
チタニアペーストPST−18NR(日揮触媒化成株式会社製)を透明層に、PST−400C(日揮触媒化成株式会社製)を拡散層に用い、透明導電性ガラス電極(旭硝子株式会社製)の上に、スクリーン印刷機を用いて塗布した。得られた膜を25℃、相対湿度60%の雰囲気下で5分間エージングし、このエージングした膜を440〜460℃で30分間焼成した。この操作を繰り返すことで、16mmの多孔質チタニア電極を作製した。
【0095】
(色素を吸着した多孔質チタニア電極の作製)
t−ブタノール/アセトニトリル(=1:1(容量比))の混合溶媒に、二核ルテニウム錯体色素(D−4)を加えて当該ルテニウム錯体色素の飽和色素溶液を調製した。次いで、多孔質チタニア電極を、前記飽和色素溶液に、内温30℃の恒温器中で20時間浸漬し、色素を吸着した多孔質チタニア電極を作製した。
【0096】
(光化学電池の作製)
以上のようにして得られた色素吸着多孔質チタニア電極と白金板(対極)を重ね合わせた。次に、電解質溶液(3−メトキシプロピオニトリルにヨウ化リチウム、ヨウ素、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド、およびジメチルアニリンをそれぞれ0.1、0.05、0.6、および0.3mol/lとなるように溶解したもの)を両電極の隙間に毛細管現象を利用して染み込ませることにより光化学電池を作製した。
【0097】
(光電変換効率の測定)
得られた光化学電池の光電変換効率を英弘精機株式会社製のソーラーシュミレーターを用い、100mW/cmの擬似太陽光を照射し測定した。
【0098】
実施例2〜8、比較例1〜7
電解質溶液中の添加物の種類や濃度を変えたこと以外は実施例1と同様に光化学電池を作製し、光電変換効率を測定した。その結果を表1として示した。なお、4−t−ブチルピリジンは最も良好な結果を与える添加物として知られている化合物である。
【0099】
【表1】

【0100】
以上の結果より、電解液の添加物としてアリールアミン化合物を使用することにより、無添加やヘテロアリール化合物を添加した場合に比べ、格段に光電変換効率が向上することが判明した。又、最も良好な結果を与える添加物として知られている4−t−ブチルピリジンの添加効果と同程度又はそれ以上の効果を与えることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、高い吸光係数を有する、電子移動に優れた二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、アリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備えた、光電変換効率が高い光化学電池を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、XN−は、対イオンであるN価のアニオン(但し、Nは1又は2である。)、
【化2】

は、カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子、
【化3】

は、含窒素四座配位子、
【化4】

は、含窒素二座配位子を示す。nは、0〜2の整数を示す。pは、錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。なお、カルボキシル基(COOH)は、脱プロトン(H)化されてカルボキシイオン(COO)となっていても良い。)
で示される二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子と、下記一般式(2)
【化5】

(式中、Arはアリール基を示し、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、水素原子又はアルキル基を示す。なお、R及びRは、結合して環を形成していても良い。)
で示されるアリールアミン化合物を含有する電解質溶液とを備える光化学電池。
【請求項2】
N−が、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオン又はヨウ化物イオンである請求項1記載の光化学電池。
【請求項3】
含窒素二座配位子が、2,2’−ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジメチル)ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジ−t−ブチル)ビピリジン、2,2’−(4,4’−ジ−n−ノニル)ビピリジン又は1,10−フェナントロリンである請求項1記載の光化学電池。
【請求項4】
カルボキシル基をふたつ有する含窒素二座配位子が、2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸である請求項1記載の光化学電池。
【請求項5】
含窒素四座配位子が、2,2’−ビイミダゾール又は2,2’−ビベンズイミダゾールである請求項1記載の光化学電池。
【請求項6】
半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、又はそれらの混合物である請求項1記載の光化学電池。
【請求項7】
アリールアミン化合物が、アニリン、ジメチルアニリン、ジn−ブチルアニリン、ジn−ヘキシルアニリン及びジn−オクチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の光化学電池。
【請求項8】
電解質溶液が、レドックス対を含む請求項1記載の光化学電池。
【請求項9】
前記二核ルテニウム錯体色素により増感された半導体微粒子を電極上に固定したものである光電変換素子と対極とを有し、その間にアリールアミン化合物を含有する電解質溶液の層を有する請求項1乃至8のいずれかに記載の光化学電池。

【公開番号】特開2011−60589(P2011−60589A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209190(P2009−209190)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】