二次イオン質量分析方法
【課題】アルカリ金属イオンの一次イオンビームを用いる二次イオン質量分析において、試料上面へのアルカリ金属化合物の堆積を抑止する。
【解決手段】スパイラル状の走査線21に沿ってスパイラルの最外周を含む第1の走査線分21a上を一次イオンビーム7が走査するときに、二次イオン引出し電極6に対し試料10電位が正電位になるように制御し、第1の走査線分21aよりスパイラルの内側に位置し、かつスパイラルの最内端に至る第2の走査線分21b上を一次イオンビーム7が走査するときに、試料10電位が負電位になるように制御する。
【解決手段】スパイラル状の走査線21に沿ってスパイラルの最外周を含む第1の走査線分21a上を一次イオンビーム7が走査するときに、二次イオン引出し電極6に対し試料10電位が正電位になるように制御し、第1の走査線分21aよりスパイラルの内側に位置し、かつスパイラルの最内端に至る第2の走査線分21b上を一次イオンビーム7が走査するときに、試料10電位が負電位になるように制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)は、試料表面に一次イオンビームを照射し、試料表面から放出される二次イオンの質量分析をする元素分析法であり、試料表面の元素濃度を二次イオン強度として検出する。この二次イオン質量分析法では、一次イオンビームの照射により試料表面がミリングされて照射時間の経過とともに削除されるため、試料表面の深さ方向の元素濃度分布を知ることができる。
【0003】
一次イオンビームに照射された試料表面は、ミリングされて平坦な底面を有する凹部が形成される。深さ方向の元素濃度の分析は、この凹部底面から放出される二次イオンを検出することでなされる。しかし、一次イオンビームを急峻なビームに収束することは難しく、ビームのイオン強度分布は拡散している。その結果、凹部の周縁部はなだらかな傾斜面に形成される。この傾斜面には深さの異なる層が露出するので、これら深さが異なる層から放出される二次イオンが、凹部底面から放出される二次イオンと混じって観測され、深さ方向の分素濃度分布を不鮮明にするエッジ効果を生ずる。このようなエッジ効果は、不純物分布の深さ方向の分解能を劣化させる。
【0004】
かかるエッジ効果を回避する方法として、一次イオンビームを試料表面に設定された走査線に沿って走査し、一次イオンビームが凹部の中央部を走査する時に放射される二次イオンを選択的に検出する方法が知られている。例えば、一次イオンビームが凹部中央部を走査する時間に同期して、引き出し電極と試料間にパルス電圧を印加し、この時間のみ二次イオンを質量分析器に取り込むエレクトリックゲート法がある。この方法では、一次イオンビームが凹部周縁部を照射する間は二次イオンを検出しないので、凹部周縁部から放出される二次イオンの混入が回避され、エッジ効果を防止することができる。
【0005】
さらに、エッジ効果を回避する方法として、凹部周縁部に予め溝を形成し、凹部中央部をメサ状に残すメサ法が使用される。このメサ法では、一次イオンビームが凹部中央部から凹部周縁部にはみ出て走査しても、深い溝が形成された凹部周縁部からの二次イオンの放出は抑制されるので、エッジ効果は抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−232838号公報
【特許文献2】特開2010−054456号公報
【特許文献3】特開2008−215847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した二次イオン質量分析法では、感度を向上するために、一次イオンビームとして反応性の高い原子のイオンビーム、例えばセシウム又はリチウム等のアルカリ金属イオンのビームあるいは酸素イオンのビームがしばしば用いられる。
【0008】
しかし、これら反応性の高い原子は、試料の組成原子と容易に反応して、試料表面に試料の組成原子との化合物を形成する。化合物が形成されると試料の仕事関数が変化して試料表面から放出される二次イオン強度が変動する。このため、二次イオンの検出感度が大きく変動し、元素濃度分布の精密な測定が困難になる。とくに、アルカリ金属イオンは広い組成範囲の化合物を形成するから、化合物組成に応じて仕事関数も大きく変わり、検出される二次イオン量の変動幅も大きくなる。なお、酸素イオンを一次イオンとして用いた場合、化合物の酸素組成比はほぼ一定に、例えばシリコンの酸化物ではSiO2の組成比に保たれるので、このような組成比の変動に起因する二次イオンの検出感度の変化は小さく通常の測定では問題にならない。
【0009】
かかる化合物は、一次イオンの照射領域、即ち凹部の内部の他、照射領域の外側、とくに凹部周縁部に多く形成される。このうち、一次イオンビームにより走査される凹部底面では、一次イオンビームから供給される一次イオン量と試料表面から放出される一次イオン量とが平衡して、化合物の組成は一定の組成比に保持される。従って、凹部底面の化合物の生成は、検出感度の変動に影響しない。
【0010】
しかし、凹部の周縁部外側に形成される化合物は、一次イオンビームによる走査がなされないため一次イオンが累積し、化合物の一次イオンの組成比は時間とともに上昇する。この化合物の生成量および組成変化を定量的に把握することは難しく、その結果、二次イオンの検出感度が不安定になる。
【0011】
メサ法においては、エッチングにより一次イオンの照射領域周辺に溝が形成されるため、エッジ効果の抑制と同時に、照射領域の周縁部外側への一次イオン化合物の形成を防止することができる。これは、一次イオン原子が、溝を超えて拡散することが妨げられるからである。
【0012】
しかし、メサ法における溝を一次イオンビームを用いて形成したのでは、溝の形成の際に、溝の外側、即ち凹部の形成が予定される領域の周縁部外側へ一次イオンが飛散し、一次イオン化合物が形成されてしまう。かかる化合物の形成を防ぐため、溝は一次イオンビームを用いないエッチング法、例えば化学的エッチングまたは不活性ガスのイオンビームを用いたイオンミリングにより形成される。
【0013】
このため、二次イオン質量分析装置に試料を搬入する以前に、化学的エッチング等を用いて試料に予め溝を形成しておく必要がある。または、二次イオン質量分析装置に試料を搬入した後、不活性ガスのイオンビームによるエッチングを行う必要がある。しかし、ホトリソグラフィ等を用いる化学的エッチングにより予め溝を形成するのは、試料の取り扱いが面倒なものになる。また、不活性ガスのイオンビームによるエッチングでは、二次イオン質量分析装置にさらに加工用のイオンビームガンを設けねばならず、装置が複雑かつ高価なものになる。
【0014】
本発明は、アルカリ金属を一次イオンビームとして用いる二次イオン質量分析方法において、試料に予め溝を形成したりあるいは溝加工用のイオンビームガンを用いることなく、一次イオンビームの走査領域の外側に形成される一次イオン原子の化合物の生成を防止して、精密な深さ方向の元素濃度の分析をすることができる二次イオン質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、その一観点によれば、アルカリ金属イオンの一次イオンビームを、試料の表面に設定された走査線に沿って前記試料表面を走査し、前記試料表面から放出される二次イオンの質量分析を行う二次イオン質量分析方法において、スパイラル状の前記走査線に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む第1の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が正電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、前記第1の走査線分より前記スパイラルの内側に位置し、かつ前記スパイラルの最内端に至る第2の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が負電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、を有することを特徴とする二次イオン質量分析方法として提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルカリ金属を一次イオンビームとして用いる二次イオン質量分析方法において、試料に予め溝を形成しあるいは溝加工用のイオンビームガンを用いることなく、一次イオンビームの走査領域の外側への一次イオン原子の化合物の生成を防止することができるので、精密な深さ方向の元素濃度の分析をすることができる二次イオン質量分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態で用いた二次イオン質量分析装置の断面図
【図2】一次イオンビームの電流密度分布図
【図3】一次イオンビームにより加工された試料断面図
【図4】本発明の第1実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す平面図
【図5】本発明の第1実施形態の試料の断面図
【図6】二次イオンの質量分析結果を表す図
【図7】一次イオンの質量分析結果を表す図
【図8】試料電位と一次イオンおよび二次イオンの検出量との関係を表す図
【図9】本発明の第1実施形態の試料上面のレーザー顕微鏡像
【図10】比較例の試料上面のレーザ顕微鏡像
【図11】本発明の第1実施形態の試料上面のオージェ分析結果を表す図
【図12】比較例の試料上面のオージェ分析結果を表す図
【図13】他の走査方法を表す図
【図14】本発明の第2実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態は、一次イオンビームがスパイラル状の走査線の外周部分を巻回する間に試料に正電位を印加し、スパイラルの内側部分を巻回する間に試料に負電位を印加する二次イオン質量分析方法に関する。
【0019】
図1は本発明の第1実施形態で用いた二次イオン質量分析装置の断面図であり、二次イオン質量分析装置の主要な機器構成を表している。
【0020】
図1を参照して、本実施形態で使用した二次イオン質量分析装置100は、排気口1aから真空排気される真空チャンバ1内に、試料10を載置し保持する試料保持台5、一次イオンビーム7を発生するイオンガン2、試料10上面から放出される二次イオン9を取り込み質量分析する質量分析器3、およびコントローラ30を備える。
【0021】
真空チャンバ1内には、さらに、試料10と質量分析器3との間に、開口6aを有する引き出し電極6が設けられる。引き出し電極6と試料保持台5とには、電源4からそれぞれ所与の電位V1、V2が供給される。試料10上面から放出されるイオンは、引き出し電極6と試料保持台5に印加された電位差(電圧)に応じて加速または反発される。加速されたイオンは、開口6aを通り質量分析器3の入射口3aから質量分析器3に取り込まれる。
【0022】
イオンガン2は、アルカリ金属、例えばセシウム又はリチウムをイオン化し、集束された一次イオンビーム7を生成する。この一次イオンビーム7は、試料保持台5上に載置された試料10上面に照射され、試料10の上面を走査するように偏向操作がなされる。
【0023】
コントローラ30は、一次イオンビーム7を予め設定された走査線に沿って走査するように一次イオンビーム7の偏向方向および偏向量を制御する。同時に、一次イオンビーム7の走査に同期して、質量分析器3および電源4の動作を制御する。
【0024】
図2は、一次イオンビームの電流密度分布図であり、イオンガン2により生成された一次イオンビーム7の試料10上面におけるビーム断面方向の電流密度分布を表している。図2の横軸はビーム中心軸からの距離xを、縦軸はビームの電流密度Iを表している。
【0025】
一次イオンビーム7は、試料10上面に集束される。図2を参照して、一次イオンビーム7は、試料上面においてガウス分布様の電流密度分布を有する。かかる一次イオンビーム7の直径Wは、例えば50μm〜100μm程度に集束される。
【0026】
本発明の第1実施形態を説明する前に、従来の二次イオン質量分析方法の問題点について説明する。
【0027】
図3は、一次イオンビームにより加工された試料断面図であり、ガウス分布様の電流密度分布を有する一次イオンビーム7によりミリング加工された試料110の表面形状を表している。なお、図3(a)は一次イオンビーム7を紙面左右方向に試料110上面内で走査した後の断面を、図3(b)は一次イオンビーム7を用いて一次イオンビーム7の照射領域110a(一次イオンビーム7により走査される領域。)の周囲に溝103を形成した試料110の断面を表している。
【0028】
図3(a)を参照して、一次イオンビーム7を試料110上面で紙面の左右方向に走査すると、試料110上面に直線溝状の凹部101が形成される。この凹部101の左右両端101aは、一次イオンビーム7の電流密度分布に対応する緩やかな湾曲面に形成される。この凹部101両端101aの湾曲面からは、試料10上面からの深さが異なる層に含まれる元素が放出されるため、二次イオン質量分析における深さ方向の分解能が劣化する。
【0029】
また、一次イオンビーム7としてアルカリ金属イオンビームを用いる場合、一次イオンビーム7により照射される照射領域110aに接してその外側に表出する試料110上面(非照射領域110b)上には、照射領域110aから反跳またはスパッタされて飛散する一次イオンが付着し、一次イオンの化合物が形成される。
【0030】
一方メサ法では、図3(b)を参照して、試料10上面の一次イオンビーム7に照射される照射領域110aの周囲に、予め溝103を形成し、照射領域110aをメサ102に加工する。このメサ法では、一次イオンビーム7は、溝103の内側に形成されたメサ102の上面を走査する。このため、図3(a)を参照して説明した凹部両端101aの湾曲面からの二次イオンの放出が防止され、深さ方向の分解能の劣化が防止される。
【0031】
このメサ法では、一次イオンビーム7としてアルカリ金属イオンビームを用いた場合でも、幅の広い溝103が照射領域110aと非照射領域110bとの間に介在するため、照射領域110aからの一次イオンの飛散が抑制され、非照射領域110b上への一次イオン化合物の形成が防止される。
【0032】
しかし、溝103を形成するためにアルカリ金属イオンビームを用いた場合、図3(b)を参照して、溝103の形成の際、溝103の外側の試料110上面(非照射領域110b)に、アルカリ金属化合物が付着し堆積してしまう。
【0033】
これら堆積したアルカリ金属化合物の組成は照射時間の経過とともに変動し、試料110表面の仕事関数を変化させる。その結果、試料110表面(上面)から放出される二次イオンの放出量(イオン化率)が変動して、精密な定量分析が妨げられる。本発明は照射領域の外側への、かかるアルカリ金属化合物の堆積を防止し、精密な定量分析を実現するために考案された。
【0034】
図4は本発明の第1実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す平面図であり、試料面内の走査線の形状を表している。
【0035】
図4を参照して、本発明の第1実施形態では、予め試料10の上面に走査線21が設定される。この走査線21は、コントローラ30のシーケンスとして仮想的に想定された線であり、試料10表面に実際に描かれたものではない。具体的には、この走査線21の設定は、一次イオンビーム7がこの走査線21に沿って試料10面内を走査するように、コントローラ30が一次イオンビーム7の偏向を操作することでなされる。なお、一次イオンビーム7の中心がこの走査線21上をなぞり走査するように設定される。従って、一次イオンビーム7の走査では、一次イオンビーム7の中心がこの走査線21上を走査線21に沿って移動する。
【0036】
走査線21は、試料10上面にスパイラル状に設定される。この走査線21は、スパイラルの最外周の一端をなす点P1から、スパイラルの中心側の一端をなす点P4の間を、外周から内周に渦巻き様に巻き込むように設定される。スパイラルの形状は、後述するように一次イオンビーム7により走査された照射領域が平坦にミリング加工される形状であればよく、とくに形状は制限されない。例えば、図4に示すように、走査線21が直角に屈折されて形成された矩形様のスパイラルとすることができる。また、走査線21が蚊とり線香様に円形に形成されたスパイラルでも、さらに多角形でも差し支えない。
【0037】
走査線21は、隣接する走査線21が一定の間隔を有する平行線となるように設定することが望ましい。例えは、図4の紙面内を縦又は横に延在する走査線21は、縦横それぞれの部分が平行線となるように設定される。このように平行線にすることで、後述するように、一次イオンビーム7により走査される試料10の表面が平坦にミリング加工され、二次イオン質量分析の深さ方向の分解能の劣化が少なくなる。
【0038】
図4を参照して、本第1実施形態の走査線21は、点P1から図4の紙面右方向に延在し、スパイラルの右辺で直角に紙面下方に屈折する。さらに、スパイラルの下辺で直角に屈折して左方に延在方向を変えた後、スパイラルの左辺で直角に上方に屈折する。そして、点P1から右方に延在する走査線21に当接する手前で、直角に右方に屈折して右方に延在する。以下、点P4に至るまで、同様の直角の屈折と直線状の延在を繰り返し、矩形様のスパイラルを形成する。なお、図4にはほぼ7回巻回された走査線21が図示されているが、巻回数はスパイラルの外形の大きさおよび隣接する走査線21間の距離により定まり、これらが異なると巻回数も異なる。
【0039】
スパイラル状の走査線21の外形は、例えば辺長が数十μm〜数百μmの正方形に設定することができる。この走査線21が設定された領域は、一次イオンビーム7により照射される照射領域10aを画定する。
【0040】
図5は本発明の第1実施形態の試料の断面図であり、図4のA−A’断面を表している。
【0041】
図4および図5を参照して、一次イオンビーム7により照射され走査された試料10の上面には、走査線21に沿って互いに平行する溝22−1〜22−7が形成される。なお溝22−1は、スパイラル状の走査線21の最外周(1回目の巻回線)を構成する走査線21−1に対応する溝を表し、溝22−2は、2回目の巻回線を構成する走査線21−2に対応する溝を表している。以下同様に、溝22−n(nは正の整数)は、n回目の巻回線を構成する走査線21−nに対応する溝を表す。
【0042】
スパイラルの1回目〜7回目の巻回線に相当する走査線21−1〜21−7は、互いに一次イオンビーム7の一部が重畳する間隔で、平行に設けられる。この間隔は、一次イオンビーム7の照射により形成される凹部22の底面が平坦になるように、一次イオンビーム7の電流密度分布およびビーム径に合わせて、適切に定められる。例えば、半値幅Wが50μmの一次イオンビーム7を用いた場合、走査線21−1〜21−7の間隔を30μm〜60μm間隔とすることが好ましい。このように一次イオンビーム7の一部が重畳するように走査することで、照射領域10aに形成される凹部22の底面を平坦にすることができる。
【0043】
即ち、溝22−1〜22−7のそれぞれは、一次イオンビーム7の電流密度分布に応じた碗状の断面形状に形成される。しかし、1回目(最外周)の巻回線に相当する走査線21−1を除き、他の走査線21−2〜21−7の位置に形成される溝22−2〜22−7は、互いに隣接する溝22−2〜22−7の側面の一部が互いに重なるように形成される。このため、溝22−2〜22−7が連なりその底面は平坦になる。このように、照射領域10aには、溝22−2〜22−7が連なって形成された底面が平坦な凹部22が形成される。
【0044】
なお、最外周の走査線21−1に対応する溝22−1は、照射領域10aに形成される凹部22の外周縁を画定し、一次イオンビーム7の電流密度分布に起因する緩やかな斜面(湾曲面)に形成される。また、照射領域10aの外側は、一次イオンビーム7が照射されることがない非照射領域10bとして、当初の試料10上面がそのまま残される。
【0045】
次に、本第1実施形態における、一次イオンビームの走査方法と試料電位との関係を説明する。
【0046】
再び図4を参照して、一次イオンビーム7は、スパイラルの最外周の一端、点P1からスパイラルの中心側の一端、点P4に至る走査線21に沿って試料10上面を走査する。このとき、始点を点P1として、スパイラルの外周からスパイラル中心に向けて走査してもよく、逆にスパイラルの中心の一端、点P4を始点として、スパイラルの中心からスパイラルの外周の一端、点P1に向けて走査してよい。また、走査は、繰り返し行われる。即ち、始点を点P1とするときは、走査の終点は点P4となり、走査終了後、一次イオンビーム7は点P4から点P1に戻され、点P1から次の走査が開始される。始点を点P4、終点を点P1とするときは、走査終了後、一次イオンビーム7は点P1から点4に戻され、点P4から次の走査が開始される。
【0047】
本第1実施形態では、上述した走査線21は、第1〜第3の走査線分21a〜21cからなる3つの線分に区分される。第1の走査線分21aは、図4中に走査線21の一部として太い実線で描かれている線分を参照して、走査線21に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む線分からなる。即ち、走査線21の最外周上の一端、点P1から、スパイラル状の走査線21に沿って1回以上巻回された走査線21上の点P2に至る線分である。
【0048】
第2の走査線分21bは、図4中に走査線21の一部として太い破線で描かれている線分を参照して、スパイラルの中心側の一端、即ち走査線21の中央側の端点である点P4から、点P2と点P4との間にある走査線21上の点P3に至る線分である。この点P3は、第2の走査線分21b上を走査する一次イオンビーム7が、試料10上面に観測すべき領域として設定された観測領域10c内を余す所なく照射し得る位置に設定される。言い換えれば、観測領域10cは、第2の走査線分21bにより画定される。
【0049】
第3の走査線分21cは、図4中に走査線21の一部として細い実線で描かれている線分を参照して、点P2から走査線21に沿って点P3に至る線分である。
【0050】
本第1実施形態の二次イオン質量分析方法では、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査している間、試料10に、引き出し電極6を基準電位とする正電位(一定電位)が印加される。具体的には、図1を参照して、コントローラ30が、引き出し電極6と試料保持台5間に電圧を供給する電源4を操作して、試料保持台5の電位が引き出し電極6の電位より正電位になるように制御する。この電源4の電圧制御は、一次イオンビーム7の走査の制御と同期してなされる。この試料10に印加される正電位は、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査する間は一定の電位に保持される。なお、試料10は通常、試料保持台5と同電位に保持される。説明を簡潔にするため、以下、本明細書では、試料10の電位を試料保持台5の電位と同じとして説明する。
【0051】
また、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間、試料10に、引き出し電極6を基準電位とする負電位(一定電位)が印加される。即ち、図1を参照して、電源4により引き出し電極6と試料保持台5間に印加される電圧を、試料保持台5の電位が引き出し電極6の電位より負電位になるように制御する。この試料10に印加される負電位は、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査する間は一定の電位に保持される。
【0052】
さらに、一次イオンビーム7が第3の走査線分21c上を走査している間、試料10には、任意の電位を印加することができる。例えば、試料保持台5を接地電位とすることもできる。また、第1または第2の走査線分21a,21b上の走査時に印加される正または負の電位、あるいはその間の電位とすることもできる。
【0053】
再度図1を参照して、本第1実施形態の二次イオン質量分析方法では、試料10上面から放出される二次イオン9は、質量分析器3に入射され、質量分析がなされる。この質量分析器3は、少なくとも一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間は、二次イオン9の検出および計数動作を継続するようにコントローラ30により制御される。
【0054】
なお、第1および第2の走査線分21a、21b上を走査する間は、二次イオン9の検出および計数動を必要に応じて中断することも継続することもできる。一次イオンビーム7が観測領域10c以外を走査する間、二次イオン9の検出および計数動作を中断することで、観測領域10c以外の領域から放出される二次イオン9の混入を回避することができる。また、検出器および計数器の無用な飽和が回避され、検出感度の低下を回避することができる。この検出および計数動作の停止は、例えば質量分析器3の検出器、例えばファラデーカップ、エレクトロンマルチプライヤあるいはチャンネルトロンへの印加電圧を低下することでなされる。
【0055】
次に、本第1実施形態の二次イオン質量分析方法における試料10の電位と試料10上面のへの一次イオン化合物の付着との関係を説明する。
【0056】
図6は二次イオンの質量分析結果を表す図であり、Si基板を試料10とする二次イオン質量分析において検出された30Si- イオンのイオン強度の時間変化を表している。図7は一次イオンの質量分析結果を表す図であり、Si基板を試料10とする二次イオン質量分析において検出された一次イオンビーム7の構成元素である133 Cs+ のイオン強度の時間変化を表している。なお、図6および図7とも、一次イオンビーム7として4keVに加速されたセシウムイオンビームを試料10上面に入射角20°(試料10上面となす角)で入射し、試料10上面からほぼ垂直に放射された30Si- イオンおよび133 Cs+ イオンを計測した結果である。また、図6および図7とも試料10の電位をパラメータとした。
【0057】
図6を参照して、試料10上面から放出される30Si- イオンのイオン強度は、一次イオン照射量とともに変化し、一次イオン照射量が4×1015イオン/cm2 を超えるとほぼ一定値に安定する。ここで、一次イオン照射量は、照射時間を照射量に換算した値である。二次イオン、即ち30Si- イオンのイオン強度は、試料10の電位により変化する。なお、30Si- イオンのイオン強度の測定は、試料10の電位を、引き出し電極6を基準として0V〜+30Vの間の異なる電位に保持した状態でなされた。
【0058】
図7を参照して、試料10上面から放出される133 Cs+ のイオン強度も、一次イオン照射量とともに変化し、 一次イオン照射量が4×1015イオン/cm2 を超えると一定値に安定する。この133 Cs+ のイオン強度も、試料10の電位により変化する。ここで、図7に示す133 Cs+ イオンのイオン強度の測定は、試料10の電位を、引き出し電極6の電位を基準として+2V〜−25Vの間の異なる電位に保持した状態でなされた。
【0059】
図8は試料電位と一次イオンおよび二次イオンの検出量との関係を表す図であり、図6および図7中の一次イオン照射量が6×1015イオン/cm2 のときに検出された30Si- イオンおよび133 Cs+ イオンのイオン強度を表している。なお、試料10電位は、引き出し電極6の電位を0Vとしたときの試料保持台5の電位を表している。
【0060】
図8中の曲線Aを参照して、試料10上面にセシウムイオンビームからなる一次イオンビーム7を照射したとき、質量分析器3により検出される133 Cs+ イオン強度は、試料10電位を+25Vから電位を下げる(負電位方向に変化する。)につれて増加し、試料10電位が+6Vで極大となる。さらに試料10電位を下げると、133 Cs+ イオン強度は減少し、+2Vでは極大値の1/4程度まで減少する。
【0061】
試料10はSi基板であり、セシウムは含まれていない。従って、この質量分析器3により検出される133 Cs+ イオンは全て、一次イオンビーム7の照射によりSi基板(試料10)上面に供給されたセシウム原子に由来している。なお、一次イオンビーム7は、Si基板(試料10)上面にセシウム原子を供給すると同時に、Si基板上面からセシウム原子を放出する。検出されたセシウムイオンは、Si基板上面で反跳した一次イオンおよびSi基板上面からスパッタされ放出されたセシウムイオンである。
【0062】
試料10を正電位に保持したとき、質量分析器3によりセシウムイオンが多く検出されるという図8の結果は、試料10電位を正電位にすることで、試料10上面から放出された正電荷を有する一次イオン(一次イオンビーム7の構成イオン)を引き出し電極6側に引きつけることを意味する。これは、試料10上面から放出された一次イオンの試料10上面への再付着が抑制されることを示唆する。本第1実施形態では、一次イオンビーム7が走査線21の外周部分をなす第1の走査線分21a上を照射するとき、試料10の電位が正電位に保持される。このため、照射領域10の外側近傍の非照射領域10b上への、セシウムの飛散および付着が抑制される。
【0063】
図8中の曲線Aを参照して、非照射領域10bへのセシウムの飛散を防止するには、試料10電位を、検出されるセシウムイオン強度が極大となる電位の近傍、例えば+6V±1Vとすることが好ましい。これにより、試料10上面から反跳又は放出されたセシウムイオンの多くが、試料10上面に再付着することが妨げられ、非照射領域10b上へのセシウム化合物の形成が効果的に抑制される。さらに、試料10電位を、検出されるイオン強度が極大値のほぼ1/5以内にとどまる電位、例えば+3V〜+10Vとすることで、十分なセシウム化合物の再付着防止効果が得られた。
【0064】
他方、図8中の曲線Bを参照して、試料10上面にセシウムイオンビームからなる一次イオンビーム7を照射したとき、質量分析器3により検出される30Si- イオン強度は、試料10電位を−30Vから電位を上げる(正電位方向に変化する。)につれて増加し、試料10電位が+3Vで極大となる。さらに試料10電位を下げると、30Si- イオン強度は減少し、0Vでは極大値の1/3程度まで減少する。
【0065】
従って、二次イオン質量分析の感度を高めるには、検出対象とされる二次イオンの30Si- イオンの強度が極大となる電位の近傍、例えば−3V±1Vに試料10電位を保持することが好ましい。さらに、試料10電位が−3V〜−10Vの範囲で、高感度に30Si- イオンの検出がなされた。
【0066】
半導体装置を含む電子デバイス分野では、Si、As、P、等の負電荷を有する二次イオンとして観測される原子の深さ方向の濃度分布の測定がしばしば行われる。これらの原子は、試料10電位が−3V〜−10Vの範囲に検出感度(検出されるイオン強度)の極大を有する。従って、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査するときの試料10電位を−3V〜−10Vとすることで、電子デバイス分野で測定が必要とされる原子(負の二次イオンとして観測される原子)の多くを高感度で検出することができる。
【0067】
図9は本発明の第1実施形態の試料上面のレーザー顕微鏡像であり、二次イオン質量分析終了後の試料上面に付着したセシウムイオン化合物の分布を表している。図10は比較例の試料上面のレーザ顕微鏡像であり、比較例における二次イオン質量分析終了後の試料上面に付着したセシウム化合物の分布を表している。図中に白抜きの破線で照射領域10aを示し、その外側は非照射領域10bを示している。なお、比較例の二次イオン質量分析は、試料10電位を−3Vに保持したことを除き、他は、一次イオンビーム7、走査線21および試料10の材質を含め第1実施形態と同一条件下でなされた。
【0068】
図9を参照して、本発明の第1実施形態の試料10では、照射領域10a上および照射領域10aの外側に延在する非照射領域10b上にセシウム化合物は観測されなかった。これに比べて、図10を参照して、比較例では、照射領域10a内にはセシウム化合物は観測されなかったものの、照射領域10aの外周を取り巻くように非照射領域10b上に付着したセシウム化合物が観測された。
【0069】
図11は本発明の第1実施形態の試料上面のオージェ分析結果を表す図であり、図11(b)は照射領域10aと非照射領域10bとの境界近傍のオージェ像を、図11(a)は図11(b)中に矢印で示す境界に垂直な直線L1〜L3に沿って測定されたオージェ電子強度を表している。図12は比較例の試料上面のオージェ分析結果を表す図であり、図12(b)は照射領域10aと非照射領域10bとの境界近傍のオージェ像を、図12(a)は図12(b)中に矢印で示す境界に垂直な直線L1〜L3に沿って観測されたオージェ電子強度を表している。
【0070】
図11(a)を参照して、本第1実施形態の試料10では、セシウム化合物として検出されるオージェ電子強度は、照射領域10a内でほぼ一定の値をなし、非照射領域10bでは急激に減少している。
【0071】
この非照射領域10bでの減少は、本第1実施形態では非照射領域10b上にセシウム化合物がほとんど形成されないことを示している。一方、照射領域10a内で一定値をとることは、照射領域10a内では一次イオンビーム7により供給されるセシウムと、試料上面から放出されるセシウムとが平衡状態になり、一定組成の化合物が形成されていることを示している。
【0072】
図12(a)を参照して、比較例の試料10では、セシウム化合物として検出されるオージェ電子強度は、照射領域10a内では第1実施形態と同様の一定値をとる一方で、非照射領域10bで急激に増加する。
【0073】
この事実は、照射領域10a内では第1実施形態と同様に、平衡状態の一定組成の化合物が形成されるのに対して、非照射領域10bにはセシウムを高濃度に含むセシウム化合物が形成されたことを明らかにしている。
【0074】
上述したように、本第1実施形態では走査線21の外周部分である第1の走査線分21a上を一次イオンビーム7が走査する間、試料10電位を正電位に保持することで、非照射領域10b上へのセシウム化合物の形成が抑制されている。このため、試料10上面へ付着するセシウム化合物に起因する仕事関数の変動が少なく、測定中の二次イオン化率の変化が小さいので、精密な二次イオン質量分析が実現される。なお、照射領域10a内のセシウム濃度は従来の二次イオン質量分析方法と同様に、一定値に保持される。このため、仕事関数は一定にたもたれるので、分析精度へ及ぼす悪影響は小さい。
【0075】
さらに本第1実施形態では、第1の走査線分21a上を走査する間、試料10電位が正電位に保持されることで、この間の負の二次イオンの検出が抑制される。このため、照射領域10aに形成される凹部22周縁の傾斜面から放出される二次イオンの検出は抑制され、エッジ効果による深さ方向の分解能の劣化が回避される。とくに、第2の走査線分21b上の走査時のみ試料10電位を負電位とすることで、観測領域10c内から放出される負の二次イオンを選択的に検出することができる。この場合、第1の走査線分21aおよび第3の走査線分21cが延在する観測領域10cと照射領域10aを合わせた広い幅の領域から放出される二次イオンの検出が抑制される。このため、エッジ効果はより効果的に抑制される。
【0076】
なお、試料10電位が正電位に保持される走査領域、例えば第1の走査線分21aが延在する領域の幅が広いほど、その内側の領域から放出される一次イオンの非照射領域21b上への飛散、付着を効果的に抑止することができる。従って、一次イオン化合物の形成防止の観点からは、第1の走査線分21aの巻回数を多くすることが好ましい。しかし、第1の走査線分21aの巻回数が多いと、広い観測領域10cをとることができないので、必要に応じて適切に巻回数を設定しなければならない。
【0077】
同様の一次イオンの飛散抑制の効果は、第3の走査線分21cを走査する間、試料10電位を正電位に保持することでも達成できる。この場合、後述する第2実施形態と同様の実施形態となる。
【0078】
図4を参照して、本第1実施形態では、走査線21をスパイラル状に設定した。この走査線21をラスタスキャンとすることも考えられる。しかし、照射領域10aをラスタスキャンして本第1実施形態のように照射領域10aの周辺部の走査時に試料10電位を正電位とするには、各スキャンごとに走査線の両端部で試料10電位が正電位になるようにスキャンと同期して電源4を制御しなければならず、制御が複雑になるので好ましくない。
【0079】
また、照射領域10a内の中央部分、即ち第2および第3の走査線分21b、21cが延在する領域のみをラスタスキャンすることも考えられる。
【0080】
図13は他の走査方法を表す図であり、図13(a)は照射領域10の中央部分をラスタスキャンする走査線を、図13(b)は図13(b)は図13(a)のA−A’断面の試料10の形状を表している。
【0081】
図13(a)を参照して、この他の走査方法では、スパイラルの外周部分を構成する点P1からP2に至る第1の走査線分21aを、第1実施形態の第1の走査線分21aと同じとした。そして、点P2から点P4に至る領域をラスタスキャンすると仮定した。
【0082】
図13(b)を参照して、この場合、第1の走査線分21a上の一次イオンビーム7の走査により形成される溝22−1、22−2に、ラスタスキャンにより形成される溝22xが垂直に当接する。従って、溝22xが溝22−1、22−2の手前で終端すると、凹部22の底面に突起23が形成される。また、溝22−1、22−2に重なって終端すると、凹部22の底面に窪みが形成される。かかる突起23および窪みは凹部22底面の平坦度を損ない、分析精度の劣化の要因となるので好ましくない。これら突起23および窪みの形成を防ぐには、ラスタスキャンにより形成される溝22xの両端位置を精密に制御しなければならず、一次イオンビーム7の走査の制御が難しい。従って、走査線21はスパイラル状に設定されることが望ましい。
【0083】
本発明の第2実施形態は、走査線が第1の走査線と第2の走査線から構成される二次イオン質量分析方法に関する。
【0084】
図14は本発明の第2実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す図であり、試料面内の走査線の形状を表している。
【0085】
図14を参照して、本第2実施形態の走査線21は、図4に示す第1実施形態の走査線21と同一形状を有する。しかし、走査線21が第1の走査線分21aと第2の走査線分21bから構成される点で第1実施形態と異なる。
【0086】
第2実施形態では、第1の走査線分21aは、点P1から、スパイラルの最外周、即ちスパイラルの外周を1回巻回した点P2に至る走査線21として構成される。なお、この第1の走査線分21aを、図4に示す第1実施形態と同様に複数回巻回する第1の走査線分21aとすることもできる。
【0087】
第2実施形態では、第1の走査線分21aに続けて、第2の走査線分21bが直接接続される。即ち、第1実施形態における第3の走査線分21cが除かれている。即ち、第1の走査線分21aの端の点P2と、第2の走査線分21bの端の点P3とが一致する。その結果、照射領域10aの外周と観測領域10cの外周との間(以下、「観測領域外縁部10d」という。)を、第1の走査線分21aが観測領域10cの外周外側を一周するように設定される。。
【0088】
試料10電位は、第1実施形態と同様、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査している間は引き出し電極6に対して正電位に保持され、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間は負電位に保持される。
【0089】
従って、二次イオン質量分析は、第2の走査線分21bが延在する観測領域10c内でなされる。他方、第1の走査線分21aが延在する観測領域外縁部10d内では、二次イオン質量分析はなされず、一次イオンの試料10上面への飛散と付着が抑制される。
【0090】
本第実施形態では、試料10電位を2つの電位に制御すれば足りるので、第1実施形態に比べてコントローラ30の設定が簡易である。また、第3の走査線分21cを設けないので、観測領域10cを広く設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明を負の二次イオンを検出する二次イオン質量分析方法に適用することで、試料表面への一次イオン化合物の付着を少なく精密な元素濃度の分析がなされ、かつ深さ方向の分解能が高い二次イオン質量分析方法が実現される。
【符号の説明】
【0092】
1 真空チャンバ
2 イオンガン
3 質量分析器
4 電源
5 試料保持台
6 引き出し電極
6a 開口
7 一次イオンビーム
8 一次イオン
9 二次イオン
10、110 試料
10a、110a 照射領域
10b、110b 非照射領域
10c 観測領域
10d 観測領域外縁部
21 走査線
21a 第1の走査線分
21b 第2の走査線分
21c 第3の走査線分
22、101 凹部
22−1〜22−7、22x 溝
23 突起
30 コントローラ
100 二次イオン質量分析装置
102 メサ
103 溝
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次イオン質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)は、試料表面に一次イオンビームを照射し、試料表面から放出される二次イオンの質量分析をする元素分析法であり、試料表面の元素濃度を二次イオン強度として検出する。この二次イオン質量分析法では、一次イオンビームの照射により試料表面がミリングされて照射時間の経過とともに削除されるため、試料表面の深さ方向の元素濃度分布を知ることができる。
【0003】
一次イオンビームに照射された試料表面は、ミリングされて平坦な底面を有する凹部が形成される。深さ方向の元素濃度の分析は、この凹部底面から放出される二次イオンを検出することでなされる。しかし、一次イオンビームを急峻なビームに収束することは難しく、ビームのイオン強度分布は拡散している。その結果、凹部の周縁部はなだらかな傾斜面に形成される。この傾斜面には深さの異なる層が露出するので、これら深さが異なる層から放出される二次イオンが、凹部底面から放出される二次イオンと混じって観測され、深さ方向の分素濃度分布を不鮮明にするエッジ効果を生ずる。このようなエッジ効果は、不純物分布の深さ方向の分解能を劣化させる。
【0004】
かかるエッジ効果を回避する方法として、一次イオンビームを試料表面に設定された走査線に沿って走査し、一次イオンビームが凹部の中央部を走査する時に放射される二次イオンを選択的に検出する方法が知られている。例えば、一次イオンビームが凹部中央部を走査する時間に同期して、引き出し電極と試料間にパルス電圧を印加し、この時間のみ二次イオンを質量分析器に取り込むエレクトリックゲート法がある。この方法では、一次イオンビームが凹部周縁部を照射する間は二次イオンを検出しないので、凹部周縁部から放出される二次イオンの混入が回避され、エッジ効果を防止することができる。
【0005】
さらに、エッジ効果を回避する方法として、凹部周縁部に予め溝を形成し、凹部中央部をメサ状に残すメサ法が使用される。このメサ法では、一次イオンビームが凹部中央部から凹部周縁部にはみ出て走査しても、深い溝が形成された凹部周縁部からの二次イオンの放出は抑制されるので、エッジ効果は抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−232838号公報
【特許文献2】特開2010−054456号公報
【特許文献3】特開2008−215847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した二次イオン質量分析法では、感度を向上するために、一次イオンビームとして反応性の高い原子のイオンビーム、例えばセシウム又はリチウム等のアルカリ金属イオンのビームあるいは酸素イオンのビームがしばしば用いられる。
【0008】
しかし、これら反応性の高い原子は、試料の組成原子と容易に反応して、試料表面に試料の組成原子との化合物を形成する。化合物が形成されると試料の仕事関数が変化して試料表面から放出される二次イオン強度が変動する。このため、二次イオンの検出感度が大きく変動し、元素濃度分布の精密な測定が困難になる。とくに、アルカリ金属イオンは広い組成範囲の化合物を形成するから、化合物組成に応じて仕事関数も大きく変わり、検出される二次イオン量の変動幅も大きくなる。なお、酸素イオンを一次イオンとして用いた場合、化合物の酸素組成比はほぼ一定に、例えばシリコンの酸化物ではSiO2の組成比に保たれるので、このような組成比の変動に起因する二次イオンの検出感度の変化は小さく通常の測定では問題にならない。
【0009】
かかる化合物は、一次イオンの照射領域、即ち凹部の内部の他、照射領域の外側、とくに凹部周縁部に多く形成される。このうち、一次イオンビームにより走査される凹部底面では、一次イオンビームから供給される一次イオン量と試料表面から放出される一次イオン量とが平衡して、化合物の組成は一定の組成比に保持される。従って、凹部底面の化合物の生成は、検出感度の変動に影響しない。
【0010】
しかし、凹部の周縁部外側に形成される化合物は、一次イオンビームによる走査がなされないため一次イオンが累積し、化合物の一次イオンの組成比は時間とともに上昇する。この化合物の生成量および組成変化を定量的に把握することは難しく、その結果、二次イオンの検出感度が不安定になる。
【0011】
メサ法においては、エッチングにより一次イオンの照射領域周辺に溝が形成されるため、エッジ効果の抑制と同時に、照射領域の周縁部外側への一次イオン化合物の形成を防止することができる。これは、一次イオン原子が、溝を超えて拡散することが妨げられるからである。
【0012】
しかし、メサ法における溝を一次イオンビームを用いて形成したのでは、溝の形成の際に、溝の外側、即ち凹部の形成が予定される領域の周縁部外側へ一次イオンが飛散し、一次イオン化合物が形成されてしまう。かかる化合物の形成を防ぐため、溝は一次イオンビームを用いないエッチング法、例えば化学的エッチングまたは不活性ガスのイオンビームを用いたイオンミリングにより形成される。
【0013】
このため、二次イオン質量分析装置に試料を搬入する以前に、化学的エッチング等を用いて試料に予め溝を形成しておく必要がある。または、二次イオン質量分析装置に試料を搬入した後、不活性ガスのイオンビームによるエッチングを行う必要がある。しかし、ホトリソグラフィ等を用いる化学的エッチングにより予め溝を形成するのは、試料の取り扱いが面倒なものになる。また、不活性ガスのイオンビームによるエッチングでは、二次イオン質量分析装置にさらに加工用のイオンビームガンを設けねばならず、装置が複雑かつ高価なものになる。
【0014】
本発明は、アルカリ金属を一次イオンビームとして用いる二次イオン質量分析方法において、試料に予め溝を形成したりあるいは溝加工用のイオンビームガンを用いることなく、一次イオンビームの走査領域の外側に形成される一次イオン原子の化合物の生成を防止して、精密な深さ方向の元素濃度の分析をすることができる二次イオン質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、その一観点によれば、アルカリ金属イオンの一次イオンビームを、試料の表面に設定された走査線に沿って前記試料表面を走査し、前記試料表面から放出される二次イオンの質量分析を行う二次イオン質量分析方法において、スパイラル状の前記走査線に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む第1の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が正電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、前記第1の走査線分より前記スパイラルの内側に位置し、かつ前記スパイラルの最内端に至る第2の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が負電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、を有することを特徴とする二次イオン質量分析方法として提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルカリ金属を一次イオンビームとして用いる二次イオン質量分析方法において、試料に予め溝を形成しあるいは溝加工用のイオンビームガンを用いることなく、一次イオンビームの走査領域の外側への一次イオン原子の化合物の生成を防止することができるので、精密な深さ方向の元素濃度の分析をすることができる二次イオン質量分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態で用いた二次イオン質量分析装置の断面図
【図2】一次イオンビームの電流密度分布図
【図3】一次イオンビームにより加工された試料断面図
【図4】本発明の第1実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す平面図
【図5】本発明の第1実施形態の試料の断面図
【図6】二次イオンの質量分析結果を表す図
【図7】一次イオンの質量分析結果を表す図
【図8】試料電位と一次イオンおよび二次イオンの検出量との関係を表す図
【図9】本発明の第1実施形態の試料上面のレーザー顕微鏡像
【図10】比較例の試料上面のレーザ顕微鏡像
【図11】本発明の第1実施形態の試料上面のオージェ分析結果を表す図
【図12】比較例の試料上面のオージェ分析結果を表す図
【図13】他の走査方法を表す図
【図14】本発明の第2実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態は、一次イオンビームがスパイラル状の走査線の外周部分を巻回する間に試料に正電位を印加し、スパイラルの内側部分を巻回する間に試料に負電位を印加する二次イオン質量分析方法に関する。
【0019】
図1は本発明の第1実施形態で用いた二次イオン質量分析装置の断面図であり、二次イオン質量分析装置の主要な機器構成を表している。
【0020】
図1を参照して、本実施形態で使用した二次イオン質量分析装置100は、排気口1aから真空排気される真空チャンバ1内に、試料10を載置し保持する試料保持台5、一次イオンビーム7を発生するイオンガン2、試料10上面から放出される二次イオン9を取り込み質量分析する質量分析器3、およびコントローラ30を備える。
【0021】
真空チャンバ1内には、さらに、試料10と質量分析器3との間に、開口6aを有する引き出し電極6が設けられる。引き出し電極6と試料保持台5とには、電源4からそれぞれ所与の電位V1、V2が供給される。試料10上面から放出されるイオンは、引き出し電極6と試料保持台5に印加された電位差(電圧)に応じて加速または反発される。加速されたイオンは、開口6aを通り質量分析器3の入射口3aから質量分析器3に取り込まれる。
【0022】
イオンガン2は、アルカリ金属、例えばセシウム又はリチウムをイオン化し、集束された一次イオンビーム7を生成する。この一次イオンビーム7は、試料保持台5上に載置された試料10上面に照射され、試料10の上面を走査するように偏向操作がなされる。
【0023】
コントローラ30は、一次イオンビーム7を予め設定された走査線に沿って走査するように一次イオンビーム7の偏向方向および偏向量を制御する。同時に、一次イオンビーム7の走査に同期して、質量分析器3および電源4の動作を制御する。
【0024】
図2は、一次イオンビームの電流密度分布図であり、イオンガン2により生成された一次イオンビーム7の試料10上面におけるビーム断面方向の電流密度分布を表している。図2の横軸はビーム中心軸からの距離xを、縦軸はビームの電流密度Iを表している。
【0025】
一次イオンビーム7は、試料10上面に集束される。図2を参照して、一次イオンビーム7は、試料上面においてガウス分布様の電流密度分布を有する。かかる一次イオンビーム7の直径Wは、例えば50μm〜100μm程度に集束される。
【0026】
本発明の第1実施形態を説明する前に、従来の二次イオン質量分析方法の問題点について説明する。
【0027】
図3は、一次イオンビームにより加工された試料断面図であり、ガウス分布様の電流密度分布を有する一次イオンビーム7によりミリング加工された試料110の表面形状を表している。なお、図3(a)は一次イオンビーム7を紙面左右方向に試料110上面内で走査した後の断面を、図3(b)は一次イオンビーム7を用いて一次イオンビーム7の照射領域110a(一次イオンビーム7により走査される領域。)の周囲に溝103を形成した試料110の断面を表している。
【0028】
図3(a)を参照して、一次イオンビーム7を試料110上面で紙面の左右方向に走査すると、試料110上面に直線溝状の凹部101が形成される。この凹部101の左右両端101aは、一次イオンビーム7の電流密度分布に対応する緩やかな湾曲面に形成される。この凹部101両端101aの湾曲面からは、試料10上面からの深さが異なる層に含まれる元素が放出されるため、二次イオン質量分析における深さ方向の分解能が劣化する。
【0029】
また、一次イオンビーム7としてアルカリ金属イオンビームを用いる場合、一次イオンビーム7により照射される照射領域110aに接してその外側に表出する試料110上面(非照射領域110b)上には、照射領域110aから反跳またはスパッタされて飛散する一次イオンが付着し、一次イオンの化合物が形成される。
【0030】
一方メサ法では、図3(b)を参照して、試料10上面の一次イオンビーム7に照射される照射領域110aの周囲に、予め溝103を形成し、照射領域110aをメサ102に加工する。このメサ法では、一次イオンビーム7は、溝103の内側に形成されたメサ102の上面を走査する。このため、図3(a)を参照して説明した凹部両端101aの湾曲面からの二次イオンの放出が防止され、深さ方向の分解能の劣化が防止される。
【0031】
このメサ法では、一次イオンビーム7としてアルカリ金属イオンビームを用いた場合でも、幅の広い溝103が照射領域110aと非照射領域110bとの間に介在するため、照射領域110aからの一次イオンの飛散が抑制され、非照射領域110b上への一次イオン化合物の形成が防止される。
【0032】
しかし、溝103を形成するためにアルカリ金属イオンビームを用いた場合、図3(b)を参照して、溝103の形成の際、溝103の外側の試料110上面(非照射領域110b)に、アルカリ金属化合物が付着し堆積してしまう。
【0033】
これら堆積したアルカリ金属化合物の組成は照射時間の経過とともに変動し、試料110表面の仕事関数を変化させる。その結果、試料110表面(上面)から放出される二次イオンの放出量(イオン化率)が変動して、精密な定量分析が妨げられる。本発明は照射領域の外側への、かかるアルカリ金属化合物の堆積を防止し、精密な定量分析を実現するために考案された。
【0034】
図4は本発明の第1実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す平面図であり、試料面内の走査線の形状を表している。
【0035】
図4を参照して、本発明の第1実施形態では、予め試料10の上面に走査線21が設定される。この走査線21は、コントローラ30のシーケンスとして仮想的に想定された線であり、試料10表面に実際に描かれたものではない。具体的には、この走査線21の設定は、一次イオンビーム7がこの走査線21に沿って試料10面内を走査するように、コントローラ30が一次イオンビーム7の偏向を操作することでなされる。なお、一次イオンビーム7の中心がこの走査線21上をなぞり走査するように設定される。従って、一次イオンビーム7の走査では、一次イオンビーム7の中心がこの走査線21上を走査線21に沿って移動する。
【0036】
走査線21は、試料10上面にスパイラル状に設定される。この走査線21は、スパイラルの最外周の一端をなす点P1から、スパイラルの中心側の一端をなす点P4の間を、外周から内周に渦巻き様に巻き込むように設定される。スパイラルの形状は、後述するように一次イオンビーム7により走査された照射領域が平坦にミリング加工される形状であればよく、とくに形状は制限されない。例えば、図4に示すように、走査線21が直角に屈折されて形成された矩形様のスパイラルとすることができる。また、走査線21が蚊とり線香様に円形に形成されたスパイラルでも、さらに多角形でも差し支えない。
【0037】
走査線21は、隣接する走査線21が一定の間隔を有する平行線となるように設定することが望ましい。例えは、図4の紙面内を縦又は横に延在する走査線21は、縦横それぞれの部分が平行線となるように設定される。このように平行線にすることで、後述するように、一次イオンビーム7により走査される試料10の表面が平坦にミリング加工され、二次イオン質量分析の深さ方向の分解能の劣化が少なくなる。
【0038】
図4を参照して、本第1実施形態の走査線21は、点P1から図4の紙面右方向に延在し、スパイラルの右辺で直角に紙面下方に屈折する。さらに、スパイラルの下辺で直角に屈折して左方に延在方向を変えた後、スパイラルの左辺で直角に上方に屈折する。そして、点P1から右方に延在する走査線21に当接する手前で、直角に右方に屈折して右方に延在する。以下、点P4に至るまで、同様の直角の屈折と直線状の延在を繰り返し、矩形様のスパイラルを形成する。なお、図4にはほぼ7回巻回された走査線21が図示されているが、巻回数はスパイラルの外形の大きさおよび隣接する走査線21間の距離により定まり、これらが異なると巻回数も異なる。
【0039】
スパイラル状の走査線21の外形は、例えば辺長が数十μm〜数百μmの正方形に設定することができる。この走査線21が設定された領域は、一次イオンビーム7により照射される照射領域10aを画定する。
【0040】
図5は本発明の第1実施形態の試料の断面図であり、図4のA−A’断面を表している。
【0041】
図4および図5を参照して、一次イオンビーム7により照射され走査された試料10の上面には、走査線21に沿って互いに平行する溝22−1〜22−7が形成される。なお溝22−1は、スパイラル状の走査線21の最外周(1回目の巻回線)を構成する走査線21−1に対応する溝を表し、溝22−2は、2回目の巻回線を構成する走査線21−2に対応する溝を表している。以下同様に、溝22−n(nは正の整数)は、n回目の巻回線を構成する走査線21−nに対応する溝を表す。
【0042】
スパイラルの1回目〜7回目の巻回線に相当する走査線21−1〜21−7は、互いに一次イオンビーム7の一部が重畳する間隔で、平行に設けられる。この間隔は、一次イオンビーム7の照射により形成される凹部22の底面が平坦になるように、一次イオンビーム7の電流密度分布およびビーム径に合わせて、適切に定められる。例えば、半値幅Wが50μmの一次イオンビーム7を用いた場合、走査線21−1〜21−7の間隔を30μm〜60μm間隔とすることが好ましい。このように一次イオンビーム7の一部が重畳するように走査することで、照射領域10aに形成される凹部22の底面を平坦にすることができる。
【0043】
即ち、溝22−1〜22−7のそれぞれは、一次イオンビーム7の電流密度分布に応じた碗状の断面形状に形成される。しかし、1回目(最外周)の巻回線に相当する走査線21−1を除き、他の走査線21−2〜21−7の位置に形成される溝22−2〜22−7は、互いに隣接する溝22−2〜22−7の側面の一部が互いに重なるように形成される。このため、溝22−2〜22−7が連なりその底面は平坦になる。このように、照射領域10aには、溝22−2〜22−7が連なって形成された底面が平坦な凹部22が形成される。
【0044】
なお、最外周の走査線21−1に対応する溝22−1は、照射領域10aに形成される凹部22の外周縁を画定し、一次イオンビーム7の電流密度分布に起因する緩やかな斜面(湾曲面)に形成される。また、照射領域10aの外側は、一次イオンビーム7が照射されることがない非照射領域10bとして、当初の試料10上面がそのまま残される。
【0045】
次に、本第1実施形態における、一次イオンビームの走査方法と試料電位との関係を説明する。
【0046】
再び図4を参照して、一次イオンビーム7は、スパイラルの最外周の一端、点P1からスパイラルの中心側の一端、点P4に至る走査線21に沿って試料10上面を走査する。このとき、始点を点P1として、スパイラルの外周からスパイラル中心に向けて走査してもよく、逆にスパイラルの中心の一端、点P4を始点として、スパイラルの中心からスパイラルの外周の一端、点P1に向けて走査してよい。また、走査は、繰り返し行われる。即ち、始点を点P1とするときは、走査の終点は点P4となり、走査終了後、一次イオンビーム7は点P4から点P1に戻され、点P1から次の走査が開始される。始点を点P4、終点を点P1とするときは、走査終了後、一次イオンビーム7は点P1から点4に戻され、点P4から次の走査が開始される。
【0047】
本第1実施形態では、上述した走査線21は、第1〜第3の走査線分21a〜21cからなる3つの線分に区分される。第1の走査線分21aは、図4中に走査線21の一部として太い実線で描かれている線分を参照して、走査線21に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む線分からなる。即ち、走査線21の最外周上の一端、点P1から、スパイラル状の走査線21に沿って1回以上巻回された走査線21上の点P2に至る線分である。
【0048】
第2の走査線分21bは、図4中に走査線21の一部として太い破線で描かれている線分を参照して、スパイラルの中心側の一端、即ち走査線21の中央側の端点である点P4から、点P2と点P4との間にある走査線21上の点P3に至る線分である。この点P3は、第2の走査線分21b上を走査する一次イオンビーム7が、試料10上面に観測すべき領域として設定された観測領域10c内を余す所なく照射し得る位置に設定される。言い換えれば、観測領域10cは、第2の走査線分21bにより画定される。
【0049】
第3の走査線分21cは、図4中に走査線21の一部として細い実線で描かれている線分を参照して、点P2から走査線21に沿って点P3に至る線分である。
【0050】
本第1実施形態の二次イオン質量分析方法では、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査している間、試料10に、引き出し電極6を基準電位とする正電位(一定電位)が印加される。具体的には、図1を参照して、コントローラ30が、引き出し電極6と試料保持台5間に電圧を供給する電源4を操作して、試料保持台5の電位が引き出し電極6の電位より正電位になるように制御する。この電源4の電圧制御は、一次イオンビーム7の走査の制御と同期してなされる。この試料10に印加される正電位は、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査する間は一定の電位に保持される。なお、試料10は通常、試料保持台5と同電位に保持される。説明を簡潔にするため、以下、本明細書では、試料10の電位を試料保持台5の電位と同じとして説明する。
【0051】
また、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間、試料10に、引き出し電極6を基準電位とする負電位(一定電位)が印加される。即ち、図1を参照して、電源4により引き出し電極6と試料保持台5間に印加される電圧を、試料保持台5の電位が引き出し電極6の電位より負電位になるように制御する。この試料10に印加される負電位は、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査する間は一定の電位に保持される。
【0052】
さらに、一次イオンビーム7が第3の走査線分21c上を走査している間、試料10には、任意の電位を印加することができる。例えば、試料保持台5を接地電位とすることもできる。また、第1または第2の走査線分21a,21b上の走査時に印加される正または負の電位、あるいはその間の電位とすることもできる。
【0053】
再度図1を参照して、本第1実施形態の二次イオン質量分析方法では、試料10上面から放出される二次イオン9は、質量分析器3に入射され、質量分析がなされる。この質量分析器3は、少なくとも一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間は、二次イオン9の検出および計数動作を継続するようにコントローラ30により制御される。
【0054】
なお、第1および第2の走査線分21a、21b上を走査する間は、二次イオン9の検出および計数動を必要に応じて中断することも継続することもできる。一次イオンビーム7が観測領域10c以外を走査する間、二次イオン9の検出および計数動作を中断することで、観測領域10c以外の領域から放出される二次イオン9の混入を回避することができる。また、検出器および計数器の無用な飽和が回避され、検出感度の低下を回避することができる。この検出および計数動作の停止は、例えば質量分析器3の検出器、例えばファラデーカップ、エレクトロンマルチプライヤあるいはチャンネルトロンへの印加電圧を低下することでなされる。
【0055】
次に、本第1実施形態の二次イオン質量分析方法における試料10の電位と試料10上面のへの一次イオン化合物の付着との関係を説明する。
【0056】
図6は二次イオンの質量分析結果を表す図であり、Si基板を試料10とする二次イオン質量分析において検出された30Si- イオンのイオン強度の時間変化を表している。図7は一次イオンの質量分析結果を表す図であり、Si基板を試料10とする二次イオン質量分析において検出された一次イオンビーム7の構成元素である133 Cs+ のイオン強度の時間変化を表している。なお、図6および図7とも、一次イオンビーム7として4keVに加速されたセシウムイオンビームを試料10上面に入射角20°(試料10上面となす角)で入射し、試料10上面からほぼ垂直に放射された30Si- イオンおよび133 Cs+ イオンを計測した結果である。また、図6および図7とも試料10の電位をパラメータとした。
【0057】
図6を参照して、試料10上面から放出される30Si- イオンのイオン強度は、一次イオン照射量とともに変化し、一次イオン照射量が4×1015イオン/cm2 を超えるとほぼ一定値に安定する。ここで、一次イオン照射量は、照射時間を照射量に換算した値である。二次イオン、即ち30Si- イオンのイオン強度は、試料10の電位により変化する。なお、30Si- イオンのイオン強度の測定は、試料10の電位を、引き出し電極6を基準として0V〜+30Vの間の異なる電位に保持した状態でなされた。
【0058】
図7を参照して、試料10上面から放出される133 Cs+ のイオン強度も、一次イオン照射量とともに変化し、 一次イオン照射量が4×1015イオン/cm2 を超えると一定値に安定する。この133 Cs+ のイオン強度も、試料10の電位により変化する。ここで、図7に示す133 Cs+ イオンのイオン強度の測定は、試料10の電位を、引き出し電極6の電位を基準として+2V〜−25Vの間の異なる電位に保持した状態でなされた。
【0059】
図8は試料電位と一次イオンおよび二次イオンの検出量との関係を表す図であり、図6および図7中の一次イオン照射量が6×1015イオン/cm2 のときに検出された30Si- イオンおよび133 Cs+ イオンのイオン強度を表している。なお、試料10電位は、引き出し電極6の電位を0Vとしたときの試料保持台5の電位を表している。
【0060】
図8中の曲線Aを参照して、試料10上面にセシウムイオンビームからなる一次イオンビーム7を照射したとき、質量分析器3により検出される133 Cs+ イオン強度は、試料10電位を+25Vから電位を下げる(負電位方向に変化する。)につれて増加し、試料10電位が+6Vで極大となる。さらに試料10電位を下げると、133 Cs+ イオン強度は減少し、+2Vでは極大値の1/4程度まで減少する。
【0061】
試料10はSi基板であり、セシウムは含まれていない。従って、この質量分析器3により検出される133 Cs+ イオンは全て、一次イオンビーム7の照射によりSi基板(試料10)上面に供給されたセシウム原子に由来している。なお、一次イオンビーム7は、Si基板(試料10)上面にセシウム原子を供給すると同時に、Si基板上面からセシウム原子を放出する。検出されたセシウムイオンは、Si基板上面で反跳した一次イオンおよびSi基板上面からスパッタされ放出されたセシウムイオンである。
【0062】
試料10を正電位に保持したとき、質量分析器3によりセシウムイオンが多く検出されるという図8の結果は、試料10電位を正電位にすることで、試料10上面から放出された正電荷を有する一次イオン(一次イオンビーム7の構成イオン)を引き出し電極6側に引きつけることを意味する。これは、試料10上面から放出された一次イオンの試料10上面への再付着が抑制されることを示唆する。本第1実施形態では、一次イオンビーム7が走査線21の外周部分をなす第1の走査線分21a上を照射するとき、試料10の電位が正電位に保持される。このため、照射領域10の外側近傍の非照射領域10b上への、セシウムの飛散および付着が抑制される。
【0063】
図8中の曲線Aを参照して、非照射領域10bへのセシウムの飛散を防止するには、試料10電位を、検出されるセシウムイオン強度が極大となる電位の近傍、例えば+6V±1Vとすることが好ましい。これにより、試料10上面から反跳又は放出されたセシウムイオンの多くが、試料10上面に再付着することが妨げられ、非照射領域10b上へのセシウム化合物の形成が効果的に抑制される。さらに、試料10電位を、検出されるイオン強度が極大値のほぼ1/5以内にとどまる電位、例えば+3V〜+10Vとすることで、十分なセシウム化合物の再付着防止効果が得られた。
【0064】
他方、図8中の曲線Bを参照して、試料10上面にセシウムイオンビームからなる一次イオンビーム7を照射したとき、質量分析器3により検出される30Si- イオン強度は、試料10電位を−30Vから電位を上げる(正電位方向に変化する。)につれて増加し、試料10電位が+3Vで極大となる。さらに試料10電位を下げると、30Si- イオン強度は減少し、0Vでは極大値の1/3程度まで減少する。
【0065】
従って、二次イオン質量分析の感度を高めるには、検出対象とされる二次イオンの30Si- イオンの強度が極大となる電位の近傍、例えば−3V±1Vに試料10電位を保持することが好ましい。さらに、試料10電位が−3V〜−10Vの範囲で、高感度に30Si- イオンの検出がなされた。
【0066】
半導体装置を含む電子デバイス分野では、Si、As、P、等の負電荷を有する二次イオンとして観測される原子の深さ方向の濃度分布の測定がしばしば行われる。これらの原子は、試料10電位が−3V〜−10Vの範囲に検出感度(検出されるイオン強度)の極大を有する。従って、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査するときの試料10電位を−3V〜−10Vとすることで、電子デバイス分野で測定が必要とされる原子(負の二次イオンとして観測される原子)の多くを高感度で検出することができる。
【0067】
図9は本発明の第1実施形態の試料上面のレーザー顕微鏡像であり、二次イオン質量分析終了後の試料上面に付着したセシウムイオン化合物の分布を表している。図10は比較例の試料上面のレーザ顕微鏡像であり、比較例における二次イオン質量分析終了後の試料上面に付着したセシウム化合物の分布を表している。図中に白抜きの破線で照射領域10aを示し、その外側は非照射領域10bを示している。なお、比較例の二次イオン質量分析は、試料10電位を−3Vに保持したことを除き、他は、一次イオンビーム7、走査線21および試料10の材質を含め第1実施形態と同一条件下でなされた。
【0068】
図9を参照して、本発明の第1実施形態の試料10では、照射領域10a上および照射領域10aの外側に延在する非照射領域10b上にセシウム化合物は観測されなかった。これに比べて、図10を参照して、比較例では、照射領域10a内にはセシウム化合物は観測されなかったものの、照射領域10aの外周を取り巻くように非照射領域10b上に付着したセシウム化合物が観測された。
【0069】
図11は本発明の第1実施形態の試料上面のオージェ分析結果を表す図であり、図11(b)は照射領域10aと非照射領域10bとの境界近傍のオージェ像を、図11(a)は図11(b)中に矢印で示す境界に垂直な直線L1〜L3に沿って測定されたオージェ電子強度を表している。図12は比較例の試料上面のオージェ分析結果を表す図であり、図12(b)は照射領域10aと非照射領域10bとの境界近傍のオージェ像を、図12(a)は図12(b)中に矢印で示す境界に垂直な直線L1〜L3に沿って観測されたオージェ電子強度を表している。
【0070】
図11(a)を参照して、本第1実施形態の試料10では、セシウム化合物として検出されるオージェ電子強度は、照射領域10a内でほぼ一定の値をなし、非照射領域10bでは急激に減少している。
【0071】
この非照射領域10bでの減少は、本第1実施形態では非照射領域10b上にセシウム化合物がほとんど形成されないことを示している。一方、照射領域10a内で一定値をとることは、照射領域10a内では一次イオンビーム7により供給されるセシウムと、試料上面から放出されるセシウムとが平衡状態になり、一定組成の化合物が形成されていることを示している。
【0072】
図12(a)を参照して、比較例の試料10では、セシウム化合物として検出されるオージェ電子強度は、照射領域10a内では第1実施形態と同様の一定値をとる一方で、非照射領域10bで急激に増加する。
【0073】
この事実は、照射領域10a内では第1実施形態と同様に、平衡状態の一定組成の化合物が形成されるのに対して、非照射領域10bにはセシウムを高濃度に含むセシウム化合物が形成されたことを明らかにしている。
【0074】
上述したように、本第1実施形態では走査線21の外周部分である第1の走査線分21a上を一次イオンビーム7が走査する間、試料10電位を正電位に保持することで、非照射領域10b上へのセシウム化合物の形成が抑制されている。このため、試料10上面へ付着するセシウム化合物に起因する仕事関数の変動が少なく、測定中の二次イオン化率の変化が小さいので、精密な二次イオン質量分析が実現される。なお、照射領域10a内のセシウム濃度は従来の二次イオン質量分析方法と同様に、一定値に保持される。このため、仕事関数は一定にたもたれるので、分析精度へ及ぼす悪影響は小さい。
【0075】
さらに本第1実施形態では、第1の走査線分21a上を走査する間、試料10電位が正電位に保持されることで、この間の負の二次イオンの検出が抑制される。このため、照射領域10aに形成される凹部22周縁の傾斜面から放出される二次イオンの検出は抑制され、エッジ効果による深さ方向の分解能の劣化が回避される。とくに、第2の走査線分21b上の走査時のみ試料10電位を負電位とすることで、観測領域10c内から放出される負の二次イオンを選択的に検出することができる。この場合、第1の走査線分21aおよび第3の走査線分21cが延在する観測領域10cと照射領域10aを合わせた広い幅の領域から放出される二次イオンの検出が抑制される。このため、エッジ効果はより効果的に抑制される。
【0076】
なお、試料10電位が正電位に保持される走査領域、例えば第1の走査線分21aが延在する領域の幅が広いほど、その内側の領域から放出される一次イオンの非照射領域21b上への飛散、付着を効果的に抑止することができる。従って、一次イオン化合物の形成防止の観点からは、第1の走査線分21aの巻回数を多くすることが好ましい。しかし、第1の走査線分21aの巻回数が多いと、広い観測領域10cをとることができないので、必要に応じて適切に巻回数を設定しなければならない。
【0077】
同様の一次イオンの飛散抑制の効果は、第3の走査線分21cを走査する間、試料10電位を正電位に保持することでも達成できる。この場合、後述する第2実施形態と同様の実施形態となる。
【0078】
図4を参照して、本第1実施形態では、走査線21をスパイラル状に設定した。この走査線21をラスタスキャンとすることも考えられる。しかし、照射領域10aをラスタスキャンして本第1実施形態のように照射領域10aの周辺部の走査時に試料10電位を正電位とするには、各スキャンごとに走査線の両端部で試料10電位が正電位になるようにスキャンと同期して電源4を制御しなければならず、制御が複雑になるので好ましくない。
【0079】
また、照射領域10a内の中央部分、即ち第2および第3の走査線分21b、21cが延在する領域のみをラスタスキャンすることも考えられる。
【0080】
図13は他の走査方法を表す図であり、図13(a)は照射領域10の中央部分をラスタスキャンする走査線を、図13(b)は図13(b)は図13(a)のA−A’断面の試料10の形状を表している。
【0081】
図13(a)を参照して、この他の走査方法では、スパイラルの外周部分を構成する点P1からP2に至る第1の走査線分21aを、第1実施形態の第1の走査線分21aと同じとした。そして、点P2から点P4に至る領域をラスタスキャンすると仮定した。
【0082】
図13(b)を参照して、この場合、第1の走査線分21a上の一次イオンビーム7の走査により形成される溝22−1、22−2に、ラスタスキャンにより形成される溝22xが垂直に当接する。従って、溝22xが溝22−1、22−2の手前で終端すると、凹部22の底面に突起23が形成される。また、溝22−1、22−2に重なって終端すると、凹部22の底面に窪みが形成される。かかる突起23および窪みは凹部22底面の平坦度を損ない、分析精度の劣化の要因となるので好ましくない。これら突起23および窪みの形成を防ぐには、ラスタスキャンにより形成される溝22xの両端位置を精密に制御しなければならず、一次イオンビーム7の走査の制御が難しい。従って、走査線21はスパイラル状に設定されることが望ましい。
【0083】
本発明の第2実施形態は、走査線が第1の走査線と第2の走査線から構成される二次イオン質量分析方法に関する。
【0084】
図14は本発明の第2実施形態の一次イオンビームの走査方法を表す図であり、試料面内の走査線の形状を表している。
【0085】
図14を参照して、本第2実施形態の走査線21は、図4に示す第1実施形態の走査線21と同一形状を有する。しかし、走査線21が第1の走査線分21aと第2の走査線分21bから構成される点で第1実施形態と異なる。
【0086】
第2実施形態では、第1の走査線分21aは、点P1から、スパイラルの最外周、即ちスパイラルの外周を1回巻回した点P2に至る走査線21として構成される。なお、この第1の走査線分21aを、図4に示す第1実施形態と同様に複数回巻回する第1の走査線分21aとすることもできる。
【0087】
第2実施形態では、第1の走査線分21aに続けて、第2の走査線分21bが直接接続される。即ち、第1実施形態における第3の走査線分21cが除かれている。即ち、第1の走査線分21aの端の点P2と、第2の走査線分21bの端の点P3とが一致する。その結果、照射領域10aの外周と観測領域10cの外周との間(以下、「観測領域外縁部10d」という。)を、第1の走査線分21aが観測領域10cの外周外側を一周するように設定される。。
【0088】
試料10電位は、第1実施形態と同様、一次イオンビーム7が第1の走査線分21a上を走査している間は引き出し電極6に対して正電位に保持され、一次イオンビーム7が第2の走査線分21b上を走査している間は負電位に保持される。
【0089】
従って、二次イオン質量分析は、第2の走査線分21bが延在する観測領域10c内でなされる。他方、第1の走査線分21aが延在する観測領域外縁部10d内では、二次イオン質量分析はなされず、一次イオンの試料10上面への飛散と付着が抑制される。
【0090】
本第実施形態では、試料10電位を2つの電位に制御すれば足りるので、第1実施形態に比べてコントローラ30の設定が簡易である。また、第3の走査線分21cを設けないので、観測領域10cを広く設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明を負の二次イオンを検出する二次イオン質量分析方法に適用することで、試料表面への一次イオン化合物の付着を少なく精密な元素濃度の分析がなされ、かつ深さ方向の分解能が高い二次イオン質量分析方法が実現される。
【符号の説明】
【0092】
1 真空チャンバ
2 イオンガン
3 質量分析器
4 電源
5 試料保持台
6 引き出し電極
6a 開口
7 一次イオンビーム
8 一次イオン
9 二次イオン
10、110 試料
10a、110a 照射領域
10b、110b 非照射領域
10c 観測領域
10d 観測領域外縁部
21 走査線
21a 第1の走査線分
21b 第2の走査線分
21c 第3の走査線分
22、101 凹部
22−1〜22−7、22x 溝
23 突起
30 コントローラ
100 二次イオン質量分析装置
102 メサ
103 溝
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンの一次イオンビームを、試料の表面に設定された走査線に沿って前記試料表面を走査し、前記試料表面から放出される二次イオンの質量分析を行う二次イオン質量分析方法において、
スパイラル状の前記走査線に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む第1の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が正電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、
前記第1の走査線分より前記スパイラルの内側に位置し、かつ前記スパイラルの最内端に至る第2の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が負電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、
を有することを特徴とする二次イオン質量分析方法。
【請求項2】
前記第1の走査線分は、前記スパイラルの最外周であることを特徴とする請求項1記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項3】
前記一次イオンビームが前記第2の走査線分の外側を走査する間、前記試料表面から放出される二次イオンの検出又は計数動作を停止することを特徴とする請求項1または2記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項4】
前記一次イオンビームが、Cs+ イオンビームであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項5】
前記負電位が、−3V〜−10Vであり、
前記正電位が、+3V〜+10Vであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項1】
アルカリ金属イオンの一次イオンビームを、試料の表面に設定された走査線に沿って前記試料表面を走査し、前記試料表面から放出される二次イオンの質量分析を行う二次イオン質量分析方法において、
スパイラル状の前記走査線に沿って1回以上巻回され、かつ前記スパイラルの最外周を含む第1の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が正電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、
前記第1の走査線分より前記スパイラルの内側に位置し、かつ前記スパイラルの最内端に至る第2の走査線分上を前記一次イオンビームが走査するときに、二次イオン引出し電極に対する前記試料の電位が負電位になるように、前記引出し電極および前記試料の電位を制御する工程と、
を有することを特徴とする二次イオン質量分析方法。
【請求項2】
前記第1の走査線分は、前記スパイラルの最外周であることを特徴とする請求項1記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項3】
前記一次イオンビームが前記第2の走査線分の外側を走査する間、前記試料表面から放出される二次イオンの検出又は計数動作を停止することを特徴とする請求項1または2記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項4】
前記一次イオンビームが、Cs+ イオンビームであることを特徴とする請求項1、2又は3記載の二次イオン質量分析方法。
【請求項5】
前記負電位が、−3V〜−10Vであり、
前記正電位が、+3V〜+10Vであることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の二次イオン質量分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図13】
【図14】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−44563(P2013−44563A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180711(P2011−180711)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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