説明

二次イオン質量分析装置

【課題】試料から汚染成分を除去するための高温熱処理等の処理を要することなく、簡便且つ迅速に正確な試料分析を行なう。
【解決手段】ホルダー板12の表面のうち、試料1から散乱したイオン等が衝突し易い、試料1との対向面を絶縁性薄膜13で被覆する。この絶縁性薄膜13により、その被覆部分が帯電して試料と異なる電位となり、所謂チャージアップ現象により絶縁性薄膜13の部分からの二次イオンの放出が抑止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に一次イオンを照射する一次イオン照射手段と、一次イオンの照射により試料から発生した二次イオンを検出する二次イオン検出手段とを含み、試料の深さ方向の元素分析を行う二次イオン質量分析装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置においては、ウェル領域やチャネルドープ領域等における不純物濃度及びその分布がデバイス特性に大きな影響を与える。近年では、半導体装置の微細化、薄層化の進展に伴って半導体基板や堆積させた薄膜の表面から浅い領域における不純物濃度分布を精度良く形成することが求められている。
【0003】
このような要請に応えるためには、測定対象領域における不純物濃度分布を高精度に把握することが必要である。そのため、半導体基板や堆積させた薄膜の表面から深さ方向の不純物等の元素分布を測定するための代表的手段として、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)が主に用いられている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−45463号公報
【特許文献2】特開昭62−126335号公報
【特許文献3】特開平4−10685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SIMSは、極めて高感度な分析手法であり、微量元素の深さ方向分析に頻繁に使われている。しかしながら、SIMSにより、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)等の大気に含まれる元素の分析を行なおうとするとき、真空チャンバー内が超高真空状態とされた場合であっても、試料や試料ホルダーから発生する汚染成分の影響でバックグラウンドが高くなり、検出限界が悪くなる。即ち、検出対象でない汚染成分が何らかの形で二次的にイオン化されたものが検出されてしまう。
【0006】
従来では、分析開始前に、予備排気室又は真空チャンバー内において、試料を載置固定した状態で試料ホルダーごと100℃以上の高温で焼き出し、試料ホルダーの表面から汚染成分を放出させた後に分析を行なっていた。しかしながらこの方法では、長大な時間と多大な労力を要するのみならず、高温熱処理により試料が変質を来たす危険性がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、試料から汚染成分を除去するための高温熱処理等の処理を要することなく、簡便且つ迅速に正確な試料分析を行なうことを実現する二次イオン質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の二次イオン質量分析装置は、真空チャンバーと、前記真空チャンバー内において、試料を載置固定する試料ホルダーと、前記試料ホルダーに設置された前記試料に一次イオンを照射する一次イオン照射手段と、前記一次イオンの照射により前記試料から発生した二次イオンを検出する二次イオン検出手段とを含み、前記試料ホルダーは、前記試料との対向面を覆うように絶縁性薄膜が形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の二次イオン質量分析装置によれば、試料から汚染成分を除去するための高温熱処理等の処理を要することなく、簡便且つ迅速に正確な試料分析を行なうことが実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
−本発明の基本骨子−
本発明者は、測定にバックグラウンドを上昇させてしまう上記の汚染成分が、主に試料室(真空チャンバー)中の残量ガスと、試料が載置固定される試料ホルダーに付着した大気汚染物とであり、特にこの試料ホルダーに付着した大気汚染物の影響が強いことに鑑み、試料からの二次イオンの測定中に試料ホルダーからの大気汚染物の放出を抑止すべく鋭意検討した結果、本発明に想到した。
【0011】
本発明では、試料ホルダーの表面のうち、少なくとも試料との対向面、好ましくは当該対向面から側面にかけて覆うように絶縁性薄膜を設ける。
通常、二次イオン質量分析装置に用いる試料ホルダーは導電性のものであり、当該試料ホルダーにより試料との電気的導通を確保し、所定の電位に調節して放出する二次イオンを制御している。試料ホルダーから発生する大気汚染物は、主に、試料から散乱したイオン等が試料ホルダーに衝突し、この衝突に起因して試料ホルダー内から放出されるものであると考えられる。そこで本発明では、試料ホルダーの表面のうち、少なくとも、当該衝突が生じ易い試料との対向面を絶縁性薄膜で被覆する。この絶縁性薄膜により、その被覆部分が帯電して試料と異なる電位となり、所謂チャージアップ現象により絶縁性薄膜の部分からの二次イオンの放出が抑止される。これにより、試料から放出される二次イオンのみをカウントすることができ、測定時のバックグラウンドを大幅に低減させることが可能となる。
【0012】
この場合、試料ホルダーの露出部分は上記の対向面及び側面であるため、試料ホルダーからの大気汚染物の発生をより確実に抑えるべく、当該対向面から側面にかけて覆うように絶縁性薄膜を形成することが好ましい。
【0013】
絶縁性薄膜は、その膜厚が10nmより薄いと十分な電気的絶縁を確保することが困難となる。一方、その膜厚が1μmより厚いと設置された試料の高さへの影響が無視できなくなる。従って、試料ホルダーにおける試料の高さの変化を懸念することなく十分な電気的絶縁を確保することを考慮して、絶縁性薄膜の膜厚は、10nm以上1μm以下の範囲内の値が適正値となる。
【0014】
ところで、特許文献1には、SIMSにおける多重イオンによる妨害情報を低減するために、試料の表面に炭素膜を堆積して質量分析を行なう技術が記載されている。また、特許文献2には、試料に成膜条件を変えて窒化シリコン膜を形成し、炭素の単原子イオンと分子イオンの二種類のイオン強度に着目して二次イオン質量分析を行なうことにより炭素濃度を比較する技術が記載されている。また、特許文献3には、サンプルホルダーのホルダー板の裏側に梁を設けて歪みを抑え、安定したイオン強度を得る技術が記載されている。しかしながら、特許文献1,2では試料に対する成膜加工を主旨とし、特許文献3ではホルダー板の歪みを抑える目的から試料ホルダーの裏面の補強加工を主旨としており、これら何れの発明も本発明とは目的は勿論、その構成も全く異なるものである。
【0015】
−本発明を適用した好適な諸実施形態−
以下、本発明を適用した好適な諸実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による二次イオン質量分析装置(以下、SIMS装置と記す)の概略構成を示す模式図である。
このSIMS装置は、真空排気口10aが設けられ、内部が所定の真空状態(真空度)に調節自在とされた真空チャンバー10と、真空チャンバー10内に設けられ、測定対象となる試料1を固定保持するとともに、X,Y,Z方向への移動と傾斜及び回転が可能な試料ホルダー2と、試料1に対して一次イオンを照射するイオン銃3と、一次イオンの照射により試料から発生した二次イオンを選択、加速して質量分析器5に導入する引き出し電極4と、導入された二次イオンを質量分析する質量分析器(例えば、四重極型質量分析器)5と、一次イオンの照射による試料1の帯電状態を適宜補正する中和電子銃6とを備えている。
【0017】
ここで、引き出し電極4及び質量分析器5を含み二次イオン検出器8が構成されており、二次イオン検出器8にゴム製等のリング状の絶縁体7が設けられ、この絶縁体7で電気的に遮断された二次イオン検出器8の先端部分が引き出し電極4となる。一次イオンとしては、酸素(O2)やセシウム(Cs)等のイオンが用いられる。
【0018】
試料1は、例えばSi基板等であり、本実施形態では、分析対象が炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)等の大気成分である場合に適用して、特に好適である。
【0019】
試料ホルダー2は、図2に示すように、試料1が直接的に載置固定される導電性の試料載置部である固定ピン11と、固定ピン11を支持する導電性の支持部であるホルダー板12とを備えて構成されている。
固定ピン11は、試料1を保持固定する載置部11aと、ホルダー板12に保持される突起部11bとが一体形成され、縦断面形状が例えば略T字状とされて構成されている。
【0020】
本実施形態では、ホルダー板12の表面のうち、試料1との対向面となる部分(但し、凹部12a内を除く。)を覆うように、絶縁性薄膜13が形成されている。
絶縁性薄膜13は、SiO2、Si34、MgO、Ta25及びTiO2から選ばれた少なくとも1種からなるものであり、膜厚が10nm以上1μm以下の範囲内の値とされている。ここで、絶縁性薄膜13の膜厚が10nmより薄いと十分な電気的絶縁を確保することが困難となる。一方、膜厚が1μmより厚いと設置された試料1の高さへの影響が無視できなくなる。従って、試料ホルダー2における試料1の高さの変化を懸念することなく十分な電気的絶縁を確保することを考慮して、絶縁性薄膜13の膜厚は、10nm以上1μm以下の範囲内の値が適正値であり、例えば100nm程度に形成される。
【0021】
本実施形態では、ホルダー板12の表面のうち、試料1から散乱したイオン等が衝突し易い、試料1との対向面を絶縁性薄膜13で被覆する。この絶縁性薄膜13により、その被覆部分が帯電して試料と異なる電位となり、所謂チャージアップ現象により絶縁性薄膜13の部分からの二次イオンの放出が抑止される。これにより、試料1から放出される二次イオンのみをカウントすることができ、測定時のバックグラウンドを大幅に低減させることが可能となる。
【0022】
ホルダー板12には、固定ピン11の突起部11bが嵌合固定される凹部12aが形成されている。突起部11bが凹部12aに嵌合することにより、突起部11bを介して載置部11a上に保持固定された試料1とホルダー板12とが電気的に導通するように構成されている。このように試料1が試料ホルダー2に固定された状態では、ホルダー板12の試料1の対向面の露出部位はほぼ完全に絶縁性薄膜13で覆われた形となる。
【0023】
ここで、試料1と固定ピン11の載置部11aとの間、及び突起部11bとホルダー板12との間をそれぞれ強固に固定し、試料1とホルダー板12との電気的導通を確実にすべく、試料1と固定ピン11の載置部11aとの間、及び突起部11bとホルダー板12との間を、所定の導電性接着剤(導電性ペースト)を用いて接着固定するようにしても良い。
【0024】
上記のように構成されたSIMS装置を用いて、試料1をSi基板として、Si中のCについて基板深さ方向の分析を行なった結果を図3に示す。ここでは、ホルダー板12に絶縁性薄膜13の形成された試料ホルダー2を用いた場合(本発明)について、ホルダー板12に絶縁性薄膜13を設けない従来の試料ホルダーを用いた場合(従来)との比較に基づいて調べた。一次イオンとしてCs+を用い、加速エネルギーを500eVとした。図示のように、本発明では、従来に比してバックグラウンドが約1桁低減していることが判る。
【0025】
以上説明したように、本実施形態のSIMS装置によれば、試料から汚染成分を除去するための高温熱処理等の処理を要することなく、簡便且つ迅速に正確な試料分析を行なうことができる。
【0026】
(第2の実施形態)
本実施形態では、第1の実施形態と同様にSIMS装置を開示するが、試料ホルダー2の構成が若干異なる点で相違する。なお、第1の実施形態と同様の構成部材等については、同符号を付して詳しい説明を省略する。
【0027】
本実施形態では、図4に示すように、試料ホルダー2のホルダー板12の表面のうち、試料1との対向面のみならず、当該対向面から側面にかけて覆うように絶縁性薄膜13が形成されている。ホルダー板12の露出部分は試料1との対向面及び側面であるため、当該露出部分を絶縁性薄膜13によりほぼ完全に覆うことにより、ホルダー板12からの大気汚染物の発生をより確実に抑えることができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態のSIMS装置によれば、試料から汚染成分を除去するための高温熱処理等の処理を要することなく、簡便且つ迅速に、より正確な試料分析を行なうことができる。
【0029】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0030】
(付記1)真空チャンバーと、
前記真空チャンバー内において、試料を載置固定する試料ホルダーと、
前記試料ホルダーに設置された前記試料に一次イオンを照射する一次イオン照射手段と、
前記一次イオンの照射により前記試料から発生した二次イオンを検出する二次イオン検出手段と
を含み、
前記試料ホルダーは、その表面のうち少なくとも前記試料との対向面を覆うように絶縁性薄膜が形成されていることを特徴とする二次イオン質量分析装置。
【0031】
(付記2)前記絶縁性薄膜は、前記試料ホルダーの前記対向面から側面にかけて被覆されていることを特徴とする付記1に記載の二次イオン質量分析装置。
【0032】
(付記3)前記試料ホルダーは、前記試料が直接的に載置固定される導電性の試料載置部と、前記試料載置部を支持する導電性の支持部とを有し、前記支持部に前記絶縁性薄膜が設けられており、
前記試料が載置固定された状態で、前記試料と前記支持部とが前記試料載置部を介して電気的に導通するとともに、前記支持部の露出部分である前記対向面に前記絶縁性薄膜が存することを特徴とする付記1に記載の二次イオン質量分析装置。
【0033】
(付記4)前記試料ホルダーは、前記試料が直接的に載置固定される導電性の試料載置部と、前記試料載置部を支持する導電性の支持部とを有し、前記支持部に前記絶縁性薄膜が設けられており、
前記試料が載置固定された状態で、前記試料と前記支持部とが前記試料載置部を介して電気的に導通するとともに、前記支持部の露出部分である前記対向面及び前記側面に前記絶縁性薄膜が存することを特徴とする付記2に記載の二次イオン質量分析装置。
【0034】
(付記5)前記試料載置部と前記支持部とが導電性接着剤で固定されてなることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。
【0035】
(付記6)前記試料載置部は、前記試料と導電性接着剤により固定されてなることを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。
【0036】
(付記7)前記絶縁性薄膜は、膜厚が10nm以上1μm以下の範囲内の値とされていることを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。
【0037】
(付記8)前記絶縁性薄膜は、SiO2、Si34、MgO、Ta25及びTiO2から選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする付記1〜7のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。
【0038】
(付記9)前記試料中の分析対象が大気成分であることを特徴とする付記1〜8のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1の実施形態によるSIMS装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】第1の実施形態によるSIMS装置の試料ホルダーの概略構成を示す断面図である。
【図3】第1の実施形態によるSIMS装置を用いて、Si中のCについて基板深さ方向の分析を行なった結果を示す特性図である。
【図4】第2の実施形態によるSIMS装置の試料ホルダーの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 試料
2 試料ホルダー
3 イオン銃
4 引き出し電極
5 質量分析器
6 中和電子銃
7 絶縁体
8 二次イオン検出器
10 真空チャンバー
11 固定ピン
12 ホルダー板
13 絶縁性薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバーと、
前記真空チャンバー内において、試料を載置固定する試料ホルダーと、
前記試料ホルダーに設置された前記試料に一次イオンを照射する一次イオン照射手段と、
前記一次イオンの照射により前記試料から発生した二次イオンを検出する二次イオン検出手段と
を含み、
前記試料ホルダーは、その表面のうち少なくとも前記試料との対向面を覆うように絶縁性薄膜が形成されていることを特徴とする二次イオン質量分析装置。
【請求項2】
前記絶縁性薄膜は、前記試料ホルダーの前記対向面から側面にかけて被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項3】
前記試料ホルダーは、前記試料が直接的に載置固定される導電性の試料載置部と、前記試料載置部を支持する導電性の支持部とを有し、前記支持部に前記絶縁性薄膜が設けられており、
前記試料が載置固定された状態で、前記試料と前記支持部とが前記試料載置部を介して電気的に導通するとともに、前記支持部の露出部分である前記対向面に前記絶縁性薄膜が存することを特徴とする請求項1に記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項4】
前記試料ホルダーは、前記試料が直接的に載置固定される導電性の試料載置部と、前記試料載置部を支持する導電性の支持部とを有し、前記支持部に前記絶縁性薄膜が設けられており、
前記試料が載置固定された状態で、前記試料と前記支持部とが前記試料載置部を介して電気的に導通するとともに、前記支持部の露出部分である前記対向面及び前記側面に前記絶縁性薄膜が存することを特徴とする請求項2に記載の二次イオン質量分析装置。
【請求項5】
前記絶縁性薄膜は、膜厚が10nm以上1μm以下の範囲内の値とされていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の二次イオン質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−209315(P2008−209315A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47813(P2007−47813)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】