説明

二次元状の四極イオントラップ

【課題】リニアイオントラップで生じる軸方向電界の不均一性を最小にすること
【解決手段】四極ロッドの構造上の完全性を維持しながら、生じ得る軸方向電界の不均一性を最小にするように最適にされたリニアイオントラップで使用するためのアパーチャー構造を提供する。一般に、本発明はイオンをトラップし、次にイオンを放出するためのリニアイオントラップを提供するものである。このリニアイオントラップは、長手方向に延びる軸線を有する内部トラッピング容積部を構成する複数のロッドを含む。ロッドの1つ以上は、アパーチャーを含み、このアパーチャーはロッドを通過するようにラジアル方向かつロッドに沿って長手方向に延びる。このアパーチャーは、内部トラッピング容積部からアパーチャーを通って内部トラッピング容積部の外側の領域までイオンが通過できるように構成されている。アパーチャーに少なくとも1つのリセスが隣接しており、このリセスは、ロッドに沿って長手方向に延びると共に、トラッピング領域に向いているが、このリセスはロッドをラジアル方向には貫通しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の開示する実施形態は、一般的には二次元状のイオントラップに関する。
【背景技術】
【0002】
四極イオントラップとは、複数の電極またはロッド構造体にRF(高周波)電圧、DC電圧またはその組み合わせを印加することによって生じる、実質的に四極の静電位により、複数の電極またはロッド構造体から形成されたトラッピング容積部内にイオンを導入し、または形成し、ここに閉じ込めるデバイスのことである。実質的に四極の電位を形成するために、ロッド形状は一般に双曲形状となっている。
【0003】
二次元状またはリニアなイオントラップは一般に2対の電極またはロッドを含み、これら電極またはロッドは、第3の次元内に非四極DCトラッピング電界を使用しながら、2つの次元内でRF四極トラッピング電位を利用することにより、イオンを閉じ込めるようになっている。四極構造体の端部にある単純なプレートレンズによりDCトラッピング電界を発生できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リニアイオントラップ内の質量選択的不安定性スキャンを使用すると、トラップから放射方向に最も効率的にイオンが放出される。一部の研究者は、電極ロッドのうちの2つの電極の間でイオンを放出した。しかしながら、高い電界勾配に起因し、イオンの損失量はかなりである。効率を高めるために、ロッド内にアパーチャーを開けることにより、ロッドを通してイオンを放出する。リニアイオントラップでは、アパーチャーの開口は、ロッドの長さ方向に沿って行われる。デバイスからイオンを放出できるように、リニアイオントラップ電極の1つ以上にアパーチャーをカットすると、理論的な四極電位からの電位が劣化し、よってこのようなアパーチャーが存在することによっていくつかの重要な性能上のファクターに影響が及ぶ。従って、このアパーチャーの特性が重要である。
【0005】
リニアイオントラップ内にアパーチャーを導入すると、理論的な四極電位が劣化し得るだけでなく、ロッド自体の構造上の完全性も劣化し、よって軸方向の機械的な偏差が生じ、最終的に性能上の特性、例えばかかるイオントラップ質量スペクトルメータによって得られる分解能に影響が及ぶ。
【0006】
かかる二次元のイオントラップの性能は、三次元状のイオントラップよりも機械的な誤差をより受けやすい。三次元状のイオントラップでは、すべてのイオンはイオントラップの中心にある球状または楕円状の空間、一般には約1mm径のイオンクラウドを占める。しかしながら、二次元状イオントラップ内のイオンは、数センチメートル以上に及ぶ軸方向の、イオントラップの全長のかなりの部分に沿って広がる。従って、幾何学的な欠陥、ロッドの不整合またはロッドの誤った形状は、二次元状のイオントラップの性能にかなり影響し得る。例えば四極ロッドがロッドのかなりの長さにわたって平行でない場合、イオントラップ内の異なる軸方向位置にあるイオンは、若干異なる電界強度を受ける。このような電界強度の変化により、次に質量分析中のイオンの放出時間は、軸方向位置に依存することになる。同じm/zのイオンクラウドに対する純粋な結果として、全ピーク幅が広くなり、分解能が大きく低下する。
【0007】
電界を軸方向に不均一にする機械的な誤差の外に、電極の端部だけでなく、ロッド内にカットされたスロットの端部によっても生じるフリンジ電界も、デバイスの長さ方向に沿ったラジアル四極電界の強度の大きな偏差を生じさせ得る。電界を理想的に均一に維持するためには、放出アパーチャーはロッドの全長に沿って延びるが、このことは、構造上の課題を多数生じさせる。これら課題を解消するために、放出スロットは、一般に全イオントラップ長さの中心領域のある部分(例えば60%)に沿ってしか位置しない。しかしながら、このことによって、ロッドの端部における効果の他に、スロットの端部の近くにおけるラジアル四極電位の変化生じる。これら領域内にあるイオンは、デバイスの中心により多く存在するイオンとは異なる時間で放出されることになるので、この結果、質量分解能が低下する。
【0008】
図1には、均一な電界を発生するための1つの方法が示されており、図1は、双曲ロッド105、110、115および120を有する二次元状の四極構造体100を示し、各ロッド105、110、115、120は、3つの軸方向部分、すなわち前方部分(a)と、中心部分(b)と、後方部分(c)とにカットされている。各々が別々のDCレベルを有するこれら3つの部分によって、イオントラップの中心部分(b)における軸線に沿って、イオンを閉じ込めることが可能となっている。米国特許第5,420,425号には、この構造体に関する詳細が示されている。ロッドをセグメント化したリニアイオントラップを使用することによって、ロッドの端部に向かう電界の軸方向の変化を最小にし、よって性能に対する影響を最小にするための1つの方法が得られる。このようなアーキテクチャにより、トラップの中心部分内にイオンを閉じ込める領域内に極めて均一なラジアルトラッピング電位が形成される。
【0009】
米国特許第5,420,425号に記載されている二次元状リニアイオントラップ構造では、前方部分および後方部分に印加される12Vの電圧は、軸方向のトラッピング電位を生じさせるが、このトラッピング電位は、(軸方向のエネルギーが1eVより低く留まる場合、)四極構造体100の中心部の25mmに(中心から±12.5mmに)イオンを閉じ込めることができる。アパーチャー125は、約29mmの長さを有するので、イオンクラウド全体を含む領域内のラジアル四極電位の高レベルの軸方向の均一性を維持しながら、効率的にイオンを放出できる。このことは図2に示されており、曲線205は、軸方向位置に応じた軸方向の電位を示す。
【0010】
かかる3つに分割された二次元状の四極構造体100を作動させるのに必要な電圧は、(軸方向のトラッピング電界を発生するために、各ロッドの別々の部分に印加されるDC電圧と、ラジアル方向のトラッピング電界を発生するためにロッドのペアに印加されるRF電圧と、イオンをアイソレートし、活性化し、放出するために、1つのペアのロッドの間に印加されるAC電圧を含む)12本の電極に印加される電圧の9つの別々の組み合わせに等しい。このようにするには、かなり巧妙なRF/AC/DCシステムの構造が必要である。
【0011】
リニアイオントラップのためのより簡単な構造は、図3に示されるように、エンドレンズ310に印加されるDC電圧だけによって得られる軸方向トラッピングと共に、単一のロッド部分305を使用している。これによって、別々の電圧の数を9つから3つに減少させることができ、電子システムの複雑性を大幅に簡略化できる。この構造の大きな欠点は、軸方向のトラッピング電界がイオントラップの内部に良好に進入せず、イオンがトラップの中心から更に移動できることである。このことは、図2に示されており、曲線210は、エンドレンズに200Vを印加したときに、1eVの軸方向電圧を有するイオンが広がり、約40mm(中心から±20mm)をカバーすることを示している。これによって、イオンはロッドの端部にあるフリンジ電界および放出アパーチャーの有限長さに起因する軸方向電界の、より不均一性を受けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかるイオントラップを内蔵する改良されたリニアイオントラップおよび質量スペクトルメータを提供するものである。
【0013】
本発明は、四極ロッドの構造上の完全性を維持しながら、生じ得る軸方向電界の不均一性を最小にするように最適にされたリニアイオントラップで使用するためのアパーチャー構造を提供するものである。一般に1つの特徴によれば、本発明はイオンをトラップし、次にイオンを放出するためのリニアイオントラップを提供するものである。このリニアイオントラップは、長手方向に延びる軸線を有する内部トラッピング容積部を構成する複数のロッドを含む。ロッドの1つ以上は、アパーチャーを含み、このアパーチャーはロッドを通過するようにラジアル方向かつロッドに沿って長手方向に延びる。このアパーチャーは、内部トラッピング容積部からアパーチャーを通って内部トラッピング容積部の外側の領域までイオンが通過できるように構成されている。アパーチャーに少なくとも1つのリセスが隣接しており、このリセスは、ロッドに沿って長手方向に延びると共に、トラッピング領域に向いているが、このリセスはロッドをラジアル方向には貫通しない。
【0014】
特定の構成は、次の特徴事項のうちの1つ以上を含むことができる。複数のロッドは、内部トラッピング領域内に実質的に四極の電位を形成するような形状の多極ロッドを含むことができ、アパーチャーにリセスを直接結合でき、リセスは2つのリセスを含むことができる。このリセスは、ロッド内にラジアル方向に延びる深さを有することができ、このリセスの深さは、リセスの幅よりも大きくなっている。リセスは、リセスの幅の3倍より大きい深さを有することができ、アパーチャーは、内部トラッピング容積部から内部トラッピング容積部の外部の領域まで外側方向に開口できる。このリセスは、ロッド内部から内側トラッピング容積部に向かう方向に外側に開口できる。アパーチャーは、2つの端部を有する細長いスロットとすることができる。このリセスは、かかるスロットの両端または一端を越えて長手方向に延びることができる。少なくとも1つのリセスは2つのリセスを含むことができ、細長いスロットの各端部に1つのリセスが配置される。この細長いスロットの幅は、このスロットの幅と実質的に同じでよい。
【0015】
本発明は、次の利点のうちの1つ以上が得られるように実施できる。本発明に従い、電極構造体と共にアパーチャーを利用すると、リニアイオントラップを作動させるのに必要な電子システムの複雑さを簡単にできる。本発明にかかわるアパーチャーを利用することにより、イオンは、電界の軸方向のより小さい不均一性に影響され得る。本発明にかかわるアパーチャーが存在することにより、ラジアル方向の四極電位の歪みを低減または最小にし、軸方向の磁界の均一性を高めることができる。本発明にかかわるアパーチャーを利用することにより、四極ロッドの構造上の完全性を維持しながら、生じ得るフリンジ効果を最小にできる。この結果、本発明にかかわるリニアイオントラップを内蔵する質量スペクトルメータの性能は、分解能および質量の精度を改善できる。本発明にかかわる単一のセグメント化されたイオントラップは、セグメント化されたロッドアーキテクチャを有するイオントラップと同様な質量分解能を提供できる。
【0016】
次の詳細な説明、図面および特許請求の範囲から、本発明の上記以外の特徴および利点が明らかとなろう。
本発明の特徴および目的をより良好に理解するために、添付図面と共に次の詳細な説明を参照する。
いくつかの図にわたり、同様な参照番号は対応する部品を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図4A、4B、4Cおよび4Dには、本発明の特徴が示されている。図4Aには、複数の電極またはロッド、このような特殊なケースでは、2つのペアの対向するロッド、すなわち第1ペアのロッド405、410と第2ペアのロッド415、420とを含む、二次元状の実質的に四極の構造体400が示されている。この図では、ロッドのペアはx軸およびy軸に整合し、従って、第1ペアのロッド405、410をXロッドのペアとして表示し、第2ペアのロッド415、420をYロッドのペアとして表示することとする。ロッド405、410、415、420は、構造体内に望まれる四極RF電位の等電位輪郭に実質的に一致するような双曲線状のプロフィルを有する。軸方向のDCトラッピング電界を形成するように、四極構造体400の端部にプレートレンズの1ペア(図示せず)を追加することにより、イオントラップを形成している。2つのエンドプレート(図示せず)により内部トラッピング容積部425が構成されており、2つのエンドプレートのうちの少なくとも1つはアパーチャーを有し、適当な電圧によって内部トラッピング容積部425、例えば40mm長さの大きさの容積部内にイオンを維持するようにしている。イオントラップに向かう矢印430の方向に、イオンをゲート制御するように、入口エンドプレートを使用できる。イオンをトラップするようにトラッピング容積部内に軸方向の電位井戸を形成するよう、2つのエンドプレートの電位はトラッピング容積部の電位とは異なっている。例えば前に述べたように、イオントラップの中心40mm内のトラッピング容積部へイオンを閉じ込めために、200Vの軸方向のトラッピング電位で十分である。しかしながら、この構造では、イオンは、ロッドの端部で生じるフリンジ電界、更にロッド内のアパーチャーの切頭に起因し(上記のように)3分割イオントラップ内でイオンが一般に受ける不均一性よりも大きい軸方向の電界の不均一性を受ける。電極構造体415、420内の細長いアパーチャー435によって、トラップされているイオンを、矢印440の方向、すなわち四極構造体400の中心軸線445に直交する方向に(質量選択的不安定性スキャンモードで)質量選択的に放出することが可能となる。中心軸線445は、ロッドに対して平行に長手方向に延びており、放出されたイオンが質量対電荷比の情報を与えるように、適当な検出器の上に達することを条件に、四極構造体400をイオントラップ質量スペクトルメータとして使用することが可能となる。
【0018】
本発明のこの特定の特徴によれば、双曲形状ロッドにより、二次元状の実質的に四極の電位が生じる。しかしながら、ロッド405、410、415、420を直線状または他のカーブしたロッド形状にしてもよい。同様に、アパーチャー435の幾何学的形状は、一部は細長いロッド構造体の形状および曲率に応じて決まる。
【0019】
イオン注入中、リニア四極構造体400内に軸方向にイオンを注入する。これらイオンは、XおよびYロッドの組405、410および415、420にそれぞれ印加されているRF四極トラッピング電位により、径方向に閉じ込められる。次に、これらイオンは、エンドプレートレンジにトラッピング電位を印加することにより、軸方向にトラップされている。短時間の蓄積時間後、質量対電荷比の大きさで、トラップされたイオンが不安定となるようにトラッピングパラメータを変える。これを行うには、双曲AC共振放出電圧が検出方向にロッドの両端に印加された状態で、RF電圧がリニアにランプ関数に従い、より大きい振幅となるようにRF電圧の振幅を変えなければならない。これら不安定なイオンは、イオントラップ構造体の境界部を越えるような軌跡を生じ、ロッド構造体415、420内のアパーチャー435または一連のアパーチャーを通って電界から離間する。これらイオンは検出器内に収集され、その後、最初にトラップされたイオンの質量スペクトルをユーザーに示す。ほぼ1×10−3トールの圧力のヘリウム(He)または水素(H2)のようなダンピングガスを使って、放出されたイオンの運動エネルギーを下げることを助け、よってリニアイオントラップのトラッピングおよび蓄積効率を高める。イオンが注入された後に、このような衝突による冷却が続き、イオンクラウドのサイズおよびエネルギーの広がりを小さくし、このことは、検出サイクル中の分解能および感度を高める。
【0020】
イオンを処理し、蓄積し、関連するタンデム質量分析器、例えばフーリエ変化園質量分析器、RF四極分析器、タイムオブフライト分析器、三次元状のイオントラップ分析器または静電分析器に、後に軸方向に注入できるよう、上記リニアイオントラップを使用することもできる。
【0021】
リニアイオントラップの重要な特徴部は、細長いアパーチャー435であり、このアパーチャーによりイオンは四極構造体400から出て検出できるようになっている。本発明の第1の特徴は、リニアイオントラップのロッドの1つ以上を貫通するようにアパーチャー(単数または複数)435が径方向にカットされていることである。一般に、アパーチャー435が存在することにより、ラジアル方向の四極電位および軸方向の電界の均一性を歪ませる電界の障害が生じ、このような歪みは、検討しない場合、質量スペクトルメータの性能を劣化させ、分解能および質量の精度を低下させる。このような歪みは、長さが短く、幅の狭い、できるだけ小さいアパーチャー435を使用することによって最小にすることができる。しかしながら、アパーチャー435の長さおよび幅は、トラップから実際にどれだけ多くのイオンクラウドが放出され、検出器に到達するかを決定するので、これら寸法は感度を決定する上で重要である。放出効率を最適にするには、アパーチャーを少なくともイオンクラウドの軸方向の長さと同じ長さにしなければならない。アパーチャーの軸方向長さとイオンクラウドの長さが同じである場合、アパーチャーの端部近くに位置するイオンは、アパーチャーを含むロッド部分およびアパーチャーを含まないロッド部分からの電界の影響を受ける。従って、この領域では、ラジアル方向の電界強度の変化が生じる。上記のように、このことは、トラッピング容積部の中心に、より近いイオンよりも若干異なる時間で同じ質量のイオンが放出されることになり、この結果生じる質量スペクトルの分解能も劣化する。
【0022】
図4Cは、本発明の特徴にかかわるYロッド415、420の横断面図を示し、ここでは四極ロッド415、420の構造上の完全性を維持しながら、生じ得るフリンジ効果を防止するように、アパーチャー435が最適にされている。この例では、リニア四極構造体400は、4mmのroを有する双曲ロッドプロフィルを有する。この双曲ロッドは、作動時に中心軸445を有するトラッピング容積部425を構成する。トラッピング容積部425内に実質的に四極の電位を形成することにより、二次元状リニアトラップ内に径方向にイオンを閉じ込めできる。各々が別々のDCレベルを有するエンドプレート(図示せず)により、イオントラップ400の軸方向領域内にイオンを閉じ込めることが可能となっている。
【0023】
図示するようなアパーチャー435は、ロッド415および420を径方向に貫通する細長いスロットとなっている。トラッピング容積部425とは反対の、ロッド面にあるアパーチャー435の開口部は、2つの端部450、455を有する。このアパーチャー435は、内部トラッピング容積部425からこのアパーチャー435を通って内部トラッピング容積部425の外側の領域にイオンが移動できるように構成されており、内側トラッピング容積部425の外側の領域は、4本のロッド405、410、415および420の閉じ込め部の外側にある。アパーチャー435には、リセス460が隣接しており、このリセスは、ロッド415に沿って長手方向に延び、内側のトラッピング容積部425に開口している。このリセス460は、アパーチャー435とは異なり、ロッド415を通って径方向には延びていない。リセス460のベース465は、アパーチャー435から離間し、長手方向に延びる長さ470(6mm)およびロッド415の厚みを完全には貫通しない深さ475を有する。リセス460の深さ475は、後に説明する理由から、リセス480の幅よりも2倍または3倍大きくなっている。理想的にはこのリセス460の長さ470は、ロッド415、420の端部まで延びることができるが、アパーチャー435の長さを越えて延びることが好ましい。このような特殊なケースにおける2つのリセス460が示されており、細長いスロット435の各端部450、455の各々に1つのリセスが設けられている。更に、アパーチャー435に直接結合し、大きい容積部を形成するリセス460も示されている。
【0024】
図示するように、細長いスロットは実質的に平行な壁を有するように構成されており、従って、内側トラッピング容積部425の外側に向いたロッド表面におけるアパーチャー435の長さは、内側長さ485、すなわちリセス460のベース465におけるアパーチャー435の内側長さと同じである。リセス460の幅480は、アパーチャー435と実質的に同じ幅495を有する。
【0025】
本発明のこの特徴によれば、四極ロッドの構造上の完全性を維持しながら、生じ得るフリンジ効果を最小にするように、アパーチャーが最適にされた、リニアイオントラップのためのアパーチャー構造が提供される。イオン自身の見地から、トラッピング容積部425内では、アパーチャー435への開口部は、組み合わされた長さ490、この特殊な場合では41mmとなるように見え、これによってイオンは例えば29mmのスロットよりも小さい、軸方向の電界の不均一性を受ける。420のうちのロッド415に完全には進入しない2つのリセス460と、420のうちのロッド415に完全に進入するアパーチャー435との組み合わせは、イオンに対して組み合わされた長さ490のアパーチャーのように見える。リセス460の深さ475が、幅480よりも一般に数倍深くなっていることにより、スロットまたはロッド415、420に完全に進入するアパーチャーと等価的な電界が形成されている。実際に、ロッド415、420に完全に進入する長さが41mmである場合、かかる41mmの細長いスロットを形成するのに必要な材料を過剰に除去することにより、ロッド415、420の構造全体の完全性が低下し、四極ロッド自身を形成する間、これらロッドは、それらの長手方向に沿って、より屈曲しやすくなる。リセス460のベース465におけるアパーチャー435の内側長さ485および内側トラッピング容積部425と反対に向いたロッド面にあるアパーチャー435の長さの双方は、本例ではいずれも29mmであり、この長さは組み合わされた長さ490(41mmの開口部)、すなわち2つのリセス460の長さとアパーチャー435の長さ485との組み合わせよりも短く、機械的に強い構造体を提供し、かつ必要な機能も提供できる。
【0026】
図5は、種々のリニアイオントラップ設計におけるラジアル方向の電界の軸方向の均一性を示す。曲線510は、図1に示されるような3つのセグメントに分割された四極ロッド構造に対する電界を示し、アパーチャーは本明細書に説明したようなリセスを有せず、長さが29mmの領域内にある。ロッドセグメントの間のギャップに起因し、約18mmにて、電界が大きく低下していることが理解できよう。幸運なことに、イオンは軸方向の中心から約12mmしか移動せず、よってこの不均一性に影響されない。
【0027】
曲線520は、29mmのアパーチャーを有する(軸方向のセグメントがない)図3に示されるようなリニアイオントラップにおける軸方向の不均一性を示す。この電界は、まず約12mm変位したところで弱くなり、次に約17mmにて、強力となる。ロッドの軸方向のセグメントがないことにより、トラップの中心から約20mmまで変位することが可能となり、従って、イオンはこれら電界の不均一性を受ける。この結果、最終的にイオントラップの分解能が不良となり得る。
【0028】
曲線530は、図4Aに示されているようなリニアイオントラップにおける軸方向の不均一性を示し、この場合、ロッド415、420の(内側トラッピング容積部425)に向いた内側表面上の組み合わせ長さ(アパーチャーとリセスの長さ)は41mmであり、ロッド415、420の(内側トラッピング容積部425と反対の)外側表面上のアパーチャー長さは29mmとなっている。この特定のケースでは、軸方向の電界はエンドレンズからのフリンジ電界に起因し、軸方向の大きい変位部にて低下している。イオンによって占められることが予想される領域である、約40mmの中心領域にわたり、電界の均一性は図1に示されたリニアトラップの均一性(曲線510)と同じであり、これによってイオントラップの質量分解能は、セグメント化されたロッドを有するイオントラップの質量分解能と同じようになる。
【0029】
図6A〜6Dは、二対の対向する電極を含む別の実質的に四極の構造体600を示す。4つのロッドすべては、理解できるように双曲プロフィルを有するが、電極のうちの一対、すなわちXロッド605、610は、従来のロッド材料の他に、絶縁材料695を使用している。この例では、アパーチャー635にはテーパが付いており、このアパーチャーは、内側トラッピング容積部から内側トラッピング容積部625の外側の領域まで、外側に向いた方向に開口している。前に説明したように、イオンの中心における3つの大きな寸法は、リセス660のベースにおけるアパーチャー635の内側長さ685と、ロッド415、420の(内側トラッピング容積部625に向いた)内側表面上の組み合わされたアパーチャー635と、リセスの長さ670と、リセス660の深さ675である。図4Cに示されるようなケースでは、内側トラッピング容積部625と反対側のロッド側にあるアパーチャー長さは、アパーチャー635の内側長さ685よりも長くできる。この特定の例では、アパーチャー635が内側トラッピング容積部625から、内側トラッピング容積部625の外側の領域までの方向に外側に向いて開口している。このような構造は、傾斜するか、または面取りされた壁を利用し、(図6Aから分かるような)アパーチャー635を形成することによって形成できる。
【0030】
アパーチャー635は、上記のようにテーパをつけることのできる単なる特徴部ではない。リセス660は、ロッドの内部から内側トラッピング容積部625に向かう外側方向にも開口してよい。別の構成では、アパーチャー635は、1つ以上の別々のステップにて、トラッピング容積部625に対して外側の領域に向けて拡大するような、カウンタボア構造を含むことができる。
【0031】
いくつかの理由から、リニアイオントラップ内で利用されるアパーチャーの数を変えることができる。まずアパーチャー自身によって生じる電界の障害のタイプを決定または定めるのを助けるために数を変えることができる。例えば上記のように、1本のロッド内に1つのアパーチャーしか使用しない場合、双極および六極電位のような大きい奇数次(odd-ordered)の電位が生じる。一方、対向するロッドで同じサイズの2つのアパーチャーを使用する場合、偶数次(even-ordered)の電位、例えば四極および八極の電位が生じる。これら異なるタイプは、質量の精度および分解能に関して性能を高めたり、下げたりすることが分かっている。従って、このデバイスにおけるアパーチャーの数および寸法を使用することによって、これら異なる電位タイプの各々の大きさに合わせることができる。
【0032】
以上で、本発明を説明するために特定の実施形態を参照して本発明について説明した。しかしながら、これまでの説明は、発明を網羅するものでもなければ、発明を開示したものと同じ形態に制限するものではない。上記内容を検討すれば、多くの変形および変更が可能である。本発明の原理およびその実際の応用例を最良に説明し、当業者が本発明および特定の用途に適すように種々変更した種々の実施形態を最良に利用できるように、実施形態を選択し、これらについて説明した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】中心部分と2つのエンド部分とを備えたセグメント化された四極リニアイオントラップの等角図である。
【図2】種々のイオントラップ構造における軸方向のトラッピング電位と軸方向の位置の関係を示すグラフである。
【図3】共振励起電界も示す、軸方向のトラッピングのためのエンドプレートを有する単一部分のリニアイオントラップの略図である。
【図4A】単一部分の二次元状の、実質的に四極のイオントラップを示す、本発明の特徴の等角図である。
【図4B】C−Cに沿った図4Aに示された、本発明の特徴の横断面図である。
【図4C】B−Bに沿った図4Bに示された、本発明の特徴の横断面図である。
【図4D】内側トラッピング容積部内から、アパーチャーを見た、図4Cの図である。
【図5】種々のイオントラップ構造におけるラジアル電界の軸方向の均一性を示すグラフである。
【図6A】単一部分の二次元状の、実質的に四極のイオントラップを示す、本発明の特徴の等角図である。
【図6B】C−Cに沿った図6Aに示された、本発明の特徴の横断面図である。
【図6C】B−Bに沿った図6Bに示された、本発明の特徴の横断面図である。
【図6D】内側トラッピング容積部内から、アパーチャーを見た、図6Cの図である。
【符号の説明】
【0034】
400 四極構造体
405、410 第1ペアのロッド
415、410 第2ペアのロッド
425 トラッピング容積部
435 アパーチャー
460 リセス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる軸線を有する内側トラッピング容積部を構成する複数のロッドを備え、これら1つ以上のロッドは、ロッドを径方向に貫通するアパーチャーを含み、イオンが内側トラッピング容積部からこのアパーチャーを通って、前記内側トラッピング容積部の外部の領域まで移動できるように、前記アパーチャーは構成されており、
更に前記1つ以上のロッド内で形成され、前記アパーチャーに隣接し、前記ロッドに沿って長手方向に延び、前記内側トラッピング容積部に開口し、前記ロッドを径方向には貫通しない少なくとも1つのリセスを備えた、イオンをトラップし、次にイオンを放出するためのリニアイオントラップ。
【請求項2】
前記複数のロッドは、前記内側トラッピング容積部内に実質的に四極の電位を生じるような形状の多極ロッドとなっている、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項3】
前記リセスは、前記アパーチャーに直接接続されている、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのリセスが少なくとも2つのリセスとなっている、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項5】
前記リセスは、ロッド内に径方向に延びる深さを有し、この深さはリセスの幅よりも広くなっている、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項6】
前記リセスの深さは、前記リセスの幅よりも少なくとも3倍大きくなっている、請求項5記載のリニアイオントラップ。
【請求項7】
前記アパーチャーは、前記内側トラッピング容積部から、この内側トラッピング容積部の外側の領域まで、外側方向に開口している、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項8】
前記リセスは、前記ロッド内部から前記内側トラッピング容積部に向かう方向に外側に開口する、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項9】
前記開口部は、2つの端部を有する細長いスロットである、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項10】
前記リセスは、前記スロットの一端を越えて長手方向に延びている、請求項1記載のリニアイオントラップ。
【請求項11】
前記リセスは、前記スロットの2つの端部のうちの一方に配置されている、請求項9記載のリニアイオントラップ。
【請求項12】
前記少なくとも1つのリセスが2つのリセスとなっており、前記細長いスロットの各端部に1つのリセスが配置されている、請求項9記載のリニアイオントラップ。
【請求項13】
前記細長いスロットは、ある幅を有し、前記リセスの幅は、前記細長いスロットの幅と実質的に同じである、請求項9記載のリニアイオントラップ。

【図1】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図2】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−503803(P2009−503803A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−525219(P2008−525219)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2006/030405
【国際公開番号】WO2007/019293
【国際公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】