説明

二次元電気泳動による蛋白質の分離方法

【課題】 多量の夾雑物が混入している場合であっても複数種類の蛋白質から目的の蛋白質を所要の分解能で分離することができる二次元電気泳動による蛋白質の分離方法を提供する。
【解決手段】 一次電気泳動たる等電点電気泳動にあっては、従来の如く定電圧を印加する前に、50V以上300V以下の適宜の値の第1定電圧を適宜時間印加してストリップゲル内に導入した各蛋白質の分子量より低い分子量の低分子夾雑物を除去した(ステップS31)後、400V以上700V以下の適宜の値の定電圧を少なくとも3時間印加して高分子夾雑物を除去する(ステップS32)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元電気泳動を用いて複数種類の蛋白質を各々の蛋白質に分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主要な生命現象を担っている蛋白質発現又は翻訳後修飾等を解析する技術としてプロテオミクスが注目されている。例えば、生命現象を司るシグナル伝達系にどのような遺伝子が関わっているかを明らかにするためにcDNAマイクロアレイを用いた解析方法が開発されている。
【0003】
しかしながら、このような解析方法では、例えば転写因子というように細胞小器官に存在し、極微量の発現で機能的に働く蛋白質を検出することができないため、かかる微量の蛋白質を検出するための技術として二次元電気泳動が開発されている。
【0004】
二次元電気泳動は、適宜の方法により調製した試料溶液中に混在する複数種類の蛋白質について、pH勾配等電点電気泳動用のストリップゲルを用いて各蛋白質が有する等電点の位置へ移動させることによって一次元目の分解を行った後、SDS−PAGE用の平板ゲルを用いて前記一次元の移動方向と直交する方向へ各蛋白質を、その分子量に応じてそれぞれ移動させることによって二次元目の分解を行うものである。かかる二次元電気泳動を用いることによって、試料中に混在する複数種類の蛋白質を各々高精度に分離することができる。
【0005】
しかし、調節因子というように対象細胞内に極微量しか存在しない蛋白質を従来の方法によって分離する場合、前処理を行って調製した試料溶液であっても、当該試料溶液中に多量の夾雑物が混入しているため、その夾雑物によって前述した一次元目の分解が阻害され、結果として二次元目の電気泳動を行っても目的の蛋白質を分離できないという問題があった。なお、二次元電気泳動は、一次元目及び二次元目の電気泳動を行った後に蛋白質を染色して可視化するという操作手順で実施するので、夾雑物によって一次元目の分解が阻害されていたとしても二次元目の電気泳動を実施しなければならず、時間的な損害及び両電気泳動操作に要する資材の損害が甚大である。
【0006】
そのため、例えば後記する特許文献1には次のような方法が開示されている。
すなわち、前述した一次元目に用いるストリップゲルの濃度を2%Tまでの低濃度範囲になすとともに、当該ストリップゲルをナイロン系糸状体で一体的に支持させておく。そして、このゲルを用いて等電点電気泳動を行うのである。
【0007】
このように低濃度範囲に調製されたストリップゲルを用いて一次元目の電気泳動を行った場合、試料溶液中の蛋白質のみならず夾雑物についても当該ストリップゲル中での移動が改善されるため、当該夾雑物による蛋白質の移動阻害も改善されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−84047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した方法にあっては、試料溶液中に混入した夾雑物のストリップゲル中での移動を改善することによって相対的に夾雑物による蛋白質の移動阻害を改善するだけであるので、混入した夾雑物が多量に存在する場合は当該夾雑物による蛋白質の移動阻害を十分に改善することはできない。また、ストリップゲルの濃度は至適な分解能を得るために、分析対象の各蛋白質の分子量を考慮した適宜の値に定める必要があるので、従来方法のように2%Tまでの低濃度範囲になしたストリップゲルを用いた場合、至適な分解能を得ることができない場合があるという問題もあった。
【0010】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであって、多量の夾雑物が混入している場合であっても複数種類の蛋白質から目的の蛋白質を所要の分解能で分離することができる二次元電気泳動による蛋白質の分離方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法は、ストリップゲル内に複数種類の蛋白質を導入する蛋白質導入工程と、各蛋白質が導入されたストリップゲルに予め定めた定電圧を印加する定電圧印加ステップを行った後に、印加電圧を漸次上昇させてストリップゲル内の各蛋白質を泳動させる一次電気泳動工程と、前記ストリップゲルを平板ゲルの所定位置に配置し、当該平板ゲル及びストリップゲルに適宜の電力を与えてストリップゲル内の各蛋白質を平板ゲル内で泳動させる二次電気泳動工程とをこの順に行う二次元電気泳動を実施して前記各蛋白質から所要の蛋白質を分離する場合、前記一次電気泳動工程において、前記定電圧印加ステップの前に、前記定電圧より低い値の第1定電圧を印加して、前記各蛋白質の分子量より低い分子量の低分子夾雑物を前記ストリップゲルから排出させる第1電圧印加ステップを行うことを特徴とする。
【0012】
本発明の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法にあっては、ストリップゲル内に複数種類の蛋白質を導入する蛋白質導入工程を行い、次いで当該ストリップゲル内の各蛋白質を泳動させる一次電気泳動工程と、前記ストリップゲルを平板ゲルの所定位置に配置し、当該平板ゲル及びストリップゲルに適宜の電力を与えてストリップゲル内の各蛋白質を平板ゲル内で泳動させる二次電気泳動工程とをこの順に行う二次元電気泳動を実施して前記各蛋白質から所要の蛋白質を分離する。
【0013】
このとき、一次電気泳動工程において、予め定めた定電圧をストリップゲルに印加する定電圧印加ステップを行う前に第1電圧印加ステップを行う。この第1電圧印加ステップにあっては、定電圧印加ステップで印加する定電圧より低い値の第1定電圧をストリップゲルに印加して、ストリップゲルに導入された各蛋白質の分子量より低い分子量の低分子夾雑物を当該ストリップゲルから排出させる。なお、第1定電圧をストリップゲルに印加する時間は2時間以上に設定するとよい。
【0014】
本発明者が鋭意検討した結果、このように比較的低い第1電圧をストリップゲルに印加することによって、例えば塩類というように分子量が蛋白質の分子量より低い低分子夾雑物を移動させることができ、蛋白質に影響を及ぼすことなくストリップゲルから当該低分子夾雑物を排出・除去できることが判明した。そこで、各蛋白質を含む試料を比較的多量にストリップゲル内に吸収させることによって多量の夾雑物が混入している場合であっても、第1電圧印加ステップを行うことによって、ストリップゲル内の蛋白質に影響を及ぼす事無く夾雑物の量を低減することができ、従って試料溶液に含まれる各蛋白質を比較的高い分解能で分離することができる。
【0015】
(2)本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法は、前記第1定電圧は50V以上300V以下の適宜の値であることを特徴とする。
【0016】
本発明の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法にあっては、第1定電圧は50V以上300V以下の適宜の値に設定する。第1電圧が50V未満である場合は、低分子量の夾雑物を十分に除去することができず、また当該電圧が300Vを超えた場合は、低分子量の夾雑物に加えて比較的高い分子量の夾雑物も一緒に移動してしまうため、同時に多量の夾雑物が移動することとなり、ストリップゲル内に夾雑物による塊が生じて等電点電気泳動に支障を来す虞がある。一方、第1電圧が50V以上300V以下である場合、低分子夾雑物を選択的に移動させることができるので、塊を生じさせることなくスムーズに移動除去させることができる。
【0017】
(3)本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法は、前記定電圧印加ステップにおいてストリップゲルに少なくとも3時間、前記定電圧を印加して、前記低分子夾雑物の分子量より高い分子量の高分子夾雑物を前記ストリップゲルから排出させることを特徴とする。
【0018】
本発明の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法にあっては、一次電気泳動工程の定電圧印加ステップにおいて、ストリップゲルに少なくとも3時間、前記定電圧を印加して、前記低分子夾雑物の分子量より高い分子量の高分子夾雑物を前記ストリップゲルから排出させる。
【0019】
更に本発明者が検討した結果、前記定電圧印加ステップでストリップゲルに少なくとも3時間、前記定電圧を印加することによって、例えば核酸又は不溶性蛋白質というように、目的とする蛋白質の分子量より高い分子量の高分子夾雑物を、蛋白質の電気泳動に悪影響を及ぼさない程度まで十分に排出させ得ることが判明した。そこで、予め第1定電圧をストリップゲルに印加して低分子夾雑物を排出・除去しておくことによって、高分子夾雑物と低分子夾雑物とが絡み合って夾雑物の排出を妨げるといった不都合が生じることを防止しておき、その後、前記定電圧をストリップゲルに少なくとも3時間印加することによって、高分子夾雑物を移動させて当該高分子夾雑物をストリップゲルから排出・除去する。
【0020】
これによって、多量の夾雑物が混入している場合であっても、ストリップゲル内の蛋白質に影響を及ぼす事無く夾雑物の量を更に低減することができ、従って試料溶液に含まれる各蛋白質をより高い分解能で分離することができる。
【0021】
このとき、印加する定電圧は400V以上700V以下の適宜の値に設定する。定電圧が400V未満である場合は、高分子夾雑物を十分に排出・除去することができず、また当該定電圧が700Vを超えた場合は、ストリップゲル内に導入された蛋白質の泳動に悪影響を及ぼす虞がある。一方、印加する電圧が400V以上700V以下である場合は、ストリップゲル内の蛋白質の泳動に悪影響を及ぼすことなく、高分子夾雑物を十分に移動除去することができる。
【0022】
(4)本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法は、前記蛋白質導入工程は、複数種類の蛋白質を含む試料溶液に乾燥状態のストリップゲルを接触させて試料溶液をストリップゲルに吸収させ、次いで該ストリップゲルの周囲に適宜の緩衝液を供給した後、前記ストリップゲルに所定の定電圧を印加することによって行うことを特徴とする。
【0023】
本発明の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法にあっては、前述した蛋白質導入工程は、複数種類の蛋白質を含む試料溶液に乾燥状態のストリップゲルを接触させて試料溶液をストリップゲルに吸収させ、次いでこのストリップゲルの周囲に適宜の緩衝液を供給した後、前記ストリップゲルに所定の定電圧を印加することによって行うのである。
【0024】
複数種類の蛋白質を含む試料溶液に乾燥状態のストリップゲルを接触させると、当該ストリップゲルは試料溶液の水分を吸収して膨潤するが、これにともなって試料溶液中の各蛋白質がストリップゲル内へ導入されて行く。しかし、当該蛋白質はストリップゲルの表面又は表面近傍に極在する状態になっている。そこで、試料溶液をストリップゲルに十分吸収させた後、ストリップゲルの周囲に適宜の緩衝液を供給して当該ストリップゲルを膨潤させるとともに、ストリップゲルに比較的低い所定の電圧を印加することによって、表面近傍に極在する蛋白質をストリップゲルの内部へ電気的に導入・拡散させる。
【0025】
これによって、試料溶液中の各蛋白質の略全量をその分子量に拘わらずストリップゲル内へ導入させることができるため、極微量の蛋白質であっても確実にストリップゲル内に導入され、当該ストリップゲルによる分離、ひいては二次元電気泳動による分離が可能となる。
【0026】
(5)本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法は、前記定電圧は50V以上120V以下の適宜の値であることを特徴とする。
【0027】
本発明の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法にあっては、前述した定電圧印加ステップにおいてストリップゲルに印加する定電圧は50V以上120V以下の適宜の値に設定する。
【0028】
定電圧印加ステップにおいてストリップゲルに印加する定電圧が50V未満である場合は、比較的分子量が大きい蛋白質をストリップゲル内へ導入し辛くなり、当該定電圧が120Vを超えた場合は、蛋白質がストリップゲル内へ急激に導入されることにより一次電気泳動に支障を来す虞がある。一方、前記定電圧が50V以上120V以下である場合は、試料溶液に含まれる略全ての蛋白質をストリップゲル内へ適当な速度で導入することができるため、試料溶液に含まれる蛋白質を漏れなく、高分解能で二次元電気泳動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法を時系列的に説明するフローチャートである。
【図2】図1に示した蛋白質の導入手順を説明するフローチャートである。
【図3】図1に示した一次電気泳動の手順を説明するフローチャートである。
【図4】本発明に係る方法で行った二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【図5】本発明に係る方法で行った二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【図6】一次電気泳動における定電圧の印加間を本発明に係る印加時間になした場合の二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【図7】本発明に係る方法で行った二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【図8】従来の方法で行った二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【図9】一次電気泳動における定電圧の印加間を従来の印加時間になした場合の二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法について詳述する。
図1は本発明方法を時系列的に説明するフローチャートである。
図1に示した如く、一次元目である一次電気泳動に供するための試料溶液を調製する(ステップS1)。
【0031】
試料溶液の調製は目的とする蛋白質を可溶化することによって行う。目的とする蛋白質及びその蛋白質を含む対象細胞の種類によって可溶化までの処理は異なるが、基本的には対象細胞を採取し、得られた細胞を適宜緩衝液中で物理的及び/又は化学的に破壊することによって目的の蛋白質を可溶化させる。なお、必要に応じて採取した対象細胞を適当な培養基中で培養し、対象細胞の数を増大させてから破壊してもよい。また、緩衝液には蛋白質の抽出率を向上させるために、SDS、Triton X−100といった界面活性剤、及び/又は蛋白質分解酵素、リン酸分解酵素といった目的蛋白質を分解する酵素の阻害剤等を必要に応じて添加しておく。
【0032】
このようにして得られた溶液中には細胞残渣、核酸、糖類及び塩類等の夾雑物が含まれているため、遠心分離又は濾過等によって細胞残渣といった沈殿物を除去する操作、溶媒沈殿又は塩析によって蛋白質を沈殿回収する操作、脱塩操作等を適宜行う前処理を必要に応じて実施して試料溶液を得る。
【0033】
次に、図1に示したように一次電気泳動たる等電点電気泳動に供すべく、前述した如く調製した試料溶液中の蛋白質をストリップゲル内に導入させる(ステップS2)。なお、ストリップゲルは適宜市販のものを用いることができるが、後述する二次元目の電気泳動に使用するゲルの幅に対応した長さのものを用いる。
【0034】
図2は図1に示した蛋白質の導入手順を説明するフローチャートである。
試料溶液中の蛋白質をストリップゲル内に導入させるには例えば次のようにして行う。すなわち、等電点電気泳動を行う泳動槽にストリップゲルを配設すべく設けられた溝内に前記試料溶液を適宜量注入しておき、該溝内に乾燥状態のストリップゲルを気泡が混入しないように挿入する。試料溶液に接触されたストリップゲルは試料溶液の水分を吸収して膨潤するが、これにともなって試料溶液中の蛋白質がストリップゲル内へ吸収されて行く(ステップS21)。
【0035】
次いで、前記泳動槽に適宜の緩衝液を供給して(ステップS22)、ストリップゲルを平衡状態になるまで膨潤させるが、緩衝液の供給後、ストリップゲルの両端部間に50V以上120V以下、好ましくは90V以上110V以下の適宜の値の定電圧を印加する(ステップS23)ことによって、試料溶液中の蛋白質を電気的にストリップゲル内へ導入させる。
【0036】
なお、定電圧を印加する時間はストリップゲルの長さに応じて適宜設定すればよいが、例えばストリップゲルの長さが7cmである場合は12時間程度であり、ストリップゲルの長さが24cmである場合は18時間程度である。
【0037】
このようにストリップゲルを膨潤させる操作の間、ストリップゲルの両端部間に前述した如き比較的低い電圧を印加することによって、試料溶液中の蛋白質の略全量をその分子量に拘わらずストリップゲル内へ導入させることができ、これによって極微量の蛋白質であっても確実にストリップゲル内に導入されるため、当該ストリップゲルによる分離、ひいては二次元電気泳動による分離が可能となる。
【0038】
ここで、前述したストリップゲルの両端部間に印加する電圧が50V未満である場合は、比較的分子量が大きい蛋白質をストリップゲル内へ導入し辛くなり、当該電圧が120Vを超えた場合は、蛋白質がストリップゲル内へ急激に導入されることにより等電点電気泳動に支障を来す虞がある。一方、ストリップゲルの両端部間に印加する電圧が50V以上120V以下である場合は、試料溶液に含まれる略全ての蛋白質をストリップゲル内へ適当な速度で導入することができるため、試料溶液に含まれる蛋白質を漏れなく、高分解能で等電点電気泳動することができる。更に、当該電圧が90V以上110V以下である場合、比較的分子量が大きい蛋白質であってもストリップゲルの膨潤時間内で無理なく十分に当該ストリップゲル内へ導入することができるため、等電点電気泳動に悪影響を及ぼす事無く、かかる蛋白質の検出感度をより向上させることができる。
【0039】
このようにしてストリップゲルの膨潤及びストリップゲル内への蛋白質の導入が終了すると、一次電気泳動たる等電点電気泳動を次のようなプロトコルに従って実施する(ステップS3)。なお、ストリップゲルの膨潤及びストリップゲル内への蛋白質の導入が終了した後、長時間に亘る等電点電気泳動中にストリップゲルが乾燥するのを防止するために、当該ストリップゲルの表面をカバーオイル(例えば、Immobilized Cover Fluid:GE Healthcare UK Ltd.社製)で被覆しておく。また、等電点電気泳動中にストリップゲルの端部が乾燥することがあるが、これを防止するために、ストリップゲルの端部と電極との間に濾紙を介装させてもよい。
【0040】
図3は、図1に示した一次電気泳動の手順を説明するフローチャートである。
ところで、従来の等電点電気泳動の操作手順は、500Vの定電圧を30分間から1時間程度印加した後、電圧を直線的に上昇させて1時間後に1000Vになし、更に電圧を直線的に上昇させて3時後に8000Vになし、その電圧で2時間から4時間程度印加するというものであった。
【0041】
これに対して本発明に係る等電点電気泳動にあっては、従来の如く定電圧を印加する前に、50V以上300V以下、好ましくは80V以上200V以下の適宜の値の第1定電圧を適宜時間印加してストリップゲル内に導入した各蛋白質の分子量より低い分子量の低分子夾雑物を除去する(ステップS31)。
【0042】
本発明者が鋭意検討した結果、このように比較的低い電圧をストリップゲルに印加することによって、例えば塩類というように分子量が蛋白質より小さい低分子夾雑物を移動させることができるということが判明した。そのため、前述した比較的低い電圧をストリップゲルに印加することによって、ストリップゲル中の低分子夾雑物を移動させて当該低分子夾雑物をストリップゲルから排出・除去させる。なお、かかる除去操作の時間は適宜に設定すればよいが、2時間以上に設定するとよい。
【0043】
ここで、前述した第1定電圧が50V未満である場合は、低分子量の夾雑物を十分に除去することができず、また第1定電圧が300Vを超えた場合は、低分子量の夾雑物に加えて比較的高い分子量の夾雑物も一緒に移動してしまうため、同時に多量の夾雑物が移動することとなり、ストリップゲル内に夾雑物による塊が生じて等電点電気泳動に支障を来す虞がある。一方、前述した如く第1定電圧が50V以上300V以下である場合、分子量が比較的小さい夾雑物を選択的に移動させることができるので、塊を生じさせることなくスムーズに移動除去させることができる。更に、第1定電圧が80V以上200V以下である場合、比較的短時間で高分子量の夾雑物を巻き込むことなく低分子量の夾雑物を移動除去することができるので好適である。
【0044】
このようにして低分子夾雑物を除去した後、400V以上700V以下、好ましくは450V以上600V以下の適宜の値の定電圧を少なくとも3時間印加して比較的に高い分子量の夾雑物を除去する(ステップS32)。
【0045】
本発明者が鋭意検討した結果、前述した電圧より少し高い電圧をストリップゲルに少なくとも3時間印加することによって、例えば核酸又は不溶性蛋白質というように、比較的高い分子量の高分子夾雑物をストリップゲルから、蛋白質の電気泳動に悪影響を及ぼさない程度の量まで十分に排出させ得ることが判明した。そのため、前述した定電圧をストリップゲルに少なくとも3時間印加することによって、ストリップゲル中の高分子夾雑物を移動させて当該高分子夾雑物をストリップゲルから排出・除去する。
【0046】
ここで、定電圧を印加する時間が3時間未満である場合は、高分子夾雑物を蛋白質の電気泳動に悪影響を及ぼさない程度の量まで十分にストリップゲルから排出させることができない。一方、定電圧を印加する時間が3時間以上である場合は、高分子夾雑物を十分にストリップゲルから排出除去することができる。
【0047】
なお、かかる印加時間は印加する定電圧の値に応じて定められ、印加する定電圧の値が相対的に大きい場合は短く、逆に印加する定電圧の値が相対的に小さい場合は長くする。例えば、印加する定電圧が500Vである場合、印加時間は4時間程度にするとよい。また、かかる定電圧の最長印加時間は、ストリップゲル内の各蛋白質への影響及び一次電気泳動の操作効率によって定めればよく、例えば印加する定電圧が500Vである場合、8時間程度である。
【0048】
一方、印加する定電圧が400V未満である場合は、高分子夾雑物を十分に除去することができず、また定電圧が700Vを超えた場合は、ストリップゲル内に導入された蛋白質の泳動に悪影響を及ぼす虞がある。一方、印加する定電圧が400V以上700V以下である場合は、ストリップゲル内の蛋白質の泳動に悪影響を及ぼすことなく、高分子夾雑物を十分に排出除去することができる。更に、定電圧が450V以上600V以下の場合は、比較的短い時間内にストリップゲル内の蛋白質の泳動に悪影響を及ぼすことなく高分子夾雑物を排出除去することができるので好適である。
【0049】
次に、前同様、電圧を漸次上昇させる操作を2段階に分けて実施する(ステップS33,S34)が、本発明に係る等電点電気泳動にあっては、電圧を1000V程度まで漸次上昇させる1段目に要する時間を5時間以上15時間以下、好ましくは7時間以上10時間以下に設定する。これによって、蛋白質の電気泳動初期段階の泳動速度を相対的に遅くすることができるため、等電点が異なり分子量が大きい蛋白質同士、又は分子量が大きい蛋白質と等電点が異なり分子量が小さい蛋白質とが互いに絡み合うことなく、自己が有する等電点に従って移動することができる。
【0050】
ここで、微量蛋白質を分離すべく可及的に多量の蛋白質をストリップゲル内に導入するが、電圧を1000V程度まで漸次上昇させるために要する時間を5時間未満に設定した場合は、電圧の上昇率が大きいため、等電点が異なり分子量が大きい蛋白質同士、又は分子量が大きい蛋白質と等電点が異なり分子量が小さい蛋白質とが互いに絡み合うことがあり、ストリップゲル内の複数種類の蛋白質の泳動に支障を来す虞がある。また、電圧を1000V程度まで漸次上昇させるために要する時間を15時間を超える値に設定した場合は、1段目の電気泳動に長時間を要し、等電点電気泳動の作業効率を著しく低下させる。一方、電圧を1000V程度まで漸次上昇させるために要する時間を5時間以上15時間以下に設定した場合は、電圧の上昇率が比較的小さいため、蛋白質の電気泳動初期段階の泳動速度を相対的に遅くすることができ、前述した如きストリップゲル内で蛋白質同士が絡み合うというような現象が可及的に防止される。また、1段目の電気泳動に要する時間を必要な時間内にすることができ、等電点電気泳動の作業効率の低下を可及的に抑制することができる。更に、前記時間を7時間以上10時間以下に設定した場合、等電点電気泳動の作業効率の低下をより至適に抑制しつつ、複数種類の蛋白質を自己が有する等電点に従って個々に泳動させることができる。
【0051】
このようにして、蛋白質の等電点電気泳動の1段階目が終了すると、更に電圧を漸次上昇させて3時程度の後に8000V程度になす。前述した如く、蛋白質の電気泳動初期段階において等電点が異なる複数種類の蛋白質が互いに絡み合うことなくストリップゲル内を移動し始めているので、2段目に電圧を漸次上昇させるに要する時間は従来と同じ程度に設定した場合であっても、各蛋白質は互いに絡み合うことなく自己が有する等電点に従って移動することができる。
【0052】
そして、8000V程度の定電圧で3時間以上9時間以下程度印加することによって、電気泳動させた各蛋白質を自己が有する等電点に対応する位置に集中させる(ステップS35)。
【0053】
このようにして、等電点電気泳動が終了すると、ストリップゲルを泳動槽から取り出し、SDS−PAGE(SDS−polyacrylamide gel electrophoresis)用の平板ゲルを用いて次のようにして二次元目である二次電気泳動を実施する(ステップS4)。
【0054】
すなわち、適宜濃度のSDSを含むSDS平衡化緩衝液にストリップゲルを浸漬させることによって、当該ストリップゲル内の蛋白質にSDSを結合させる平衡化処理を実施する。一方、市販又は自製によってSDS−PAGE用の平板ゲルを予め調製しておき、該平板ゲルの所定辺に前記ストリップゲルを載置する。この状態で平板ゲルを予め陽極液を注入しておいた泳動槽の所定位置に配設し、陰極液を注入してから両極間に適宜の電力となるように通電して電気泳動を開始する。そして、予め定めた時間に達したタイミング、又は平板ゲル適宜位置に載せたBPBが当該平板ゲルの先端まで移動したタイミング等、適宜のタイミングで電気泳動を終了する。
【0055】
このようなSDS−PAGEを実施することによって、等電点電気泳動によって分離した各蛋白質を等電点電気泳動の泳動方向と直交する方向へ、それぞれ分子量の大きさに従って分離する。このようにして二次元電気泳動が終了すると、例えば染色することによって分離した各蛋白質を可視化する(ステップS5)。SDS−PAGEされた平板ゲル内には可視化によって複数のスポットが生じるが、所要スポットを含む位置のゲル片を切り取り、得られたゲル片から蛋白質を抽出することによって目的とする蛋白質を得る(ステップS6)。
【0056】
このように本発明方法にあっては、一次電気泳動において比較的低い第1電圧をストリップゲルに印加することによって、蛋白質に影響を及ぼすことなく塩類というような低分子夾雑物をストリップゲルから排出・除去できるため、目的蛋白質を含む試料を比較的多量にストリップゲル内に吸収させることによって多量の夾雑物が混入している場合であっても、目的蛋白質を比較的高い分解能で分離することができる。
【0057】
また、定電圧印加ステップでストリップゲルに少なくとも3時間、定電圧を印加することによって、例えば核酸又は不溶性蛋白質というような高分子夾雑物を、蛋白質の電気泳動に悪影響を及ぼさない程度まで十分にストリップゲルから排出させ得るため、ストリップゲル内の蛋白質に影響を及ぼす事無く夾雑物の量を更に低減することができ、従って試料溶液に含まれる各蛋白質をより高い分解能で分離することができる。このとき、予め第1定電圧をストリップゲルに印加して低分子夾雑物を排出・除去しておくことによって、高分子夾雑物と低分子夾雑物とが絡み合って夾雑物の排出を妨げるといった不都合が生じることが防止される。
【0058】
更に、試料溶液をストリップゲルに十分吸収させた後、ストリップゲルの周囲に適宜の緩衝液を供給して当該ストリップゲルを膨潤させるとともに、ストリップゲルに比較的低い所定の電圧を印加することによって、表面近傍に極在する蛋白質をストリップゲルの内部へ電気的に導入・拡散させることができる。これによって、試料溶液中の各蛋白質の略全量をその分子量に拘わらずストリップゲル内へ導入させることができるため、極微量の蛋白質であっても確実にストリップゲル内に導入され、当該ストリップゲルによる分離、ひいては二次元電気泳動による分離が可能となる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
次に、本発明に係る二次元電気泳動による蛋白質の分離方法を用いて、オルガネラ蛋白質である核蛋白質を分離した結果について説明する。
【0060】
(試料溶液の調製)
発生14.5日目のICR系のマウス胎仔の終脳から神経上皮細胞を単離し、FGF2(Fibroblast Growth Factor 2)存在下で5日間培養して神経幹細胞を得た。なお、培地には10ng/mlのヒト組み換えbFGF(PeproTech,Inc.社製)を含有するN2−DMEM/F12培地(Life Technologies Inc.社製)を用いた。なお、培養皿にはポリオルニチン(Sigma Aidric社製)及びフィブロネクチン(Life Technologies Inc.社製)を予め塗布しておいた。
【0061】
このようにして得た神経幹細胞をピペッティング操作によって培養皿から剥離し、培地を除去することによって神経幹細胞を得、得られた神経幹細胞から核蛋白質を核蛋白質抽出キット(Thermo Scientific Pierce社製)を用いて抽出した。この抽出液に対して2D−クリーンアップキット(GE Healthcare UK Ltd.社製)を用いて沈殿操作を施して核蛋白質を含む沈殿物を生成させ、生成した沈殿物を回収し、それを溶解液に溶解させて試料溶液とした。なお、溶解液には、8Mの尿素、4質量/容量%のCHAPS(GE Healthcare UK Ltd.社製)の組成の溶液を用いた。
【0062】
なお、本実施例にあっては、前述した培地に蛍光色素(例えば、CyDye DIGE Fluor Cy2:GE Healthcare UK Ltd.社製)を予め添加することによって、前記試料溶液中の蛋白質を蛍光色素で標識した。
【0063】
(ストリップゲルへの蛋白質導入工程及び一次電気泳動工程)
ストリップゲルはpH3−11,NL(GE Healthcare UK Ltd.社製)であって全長が7cmのものを用いた。また、等電点電気泳動装置はEttan IPG phor 3 Isoelectric Focusing Unit(GE Healthcare UK Ltd.社製)を用いた。また、緩衝液としては8Mの尿素、4質量/容量%のCHAPS、2質量/容量%のIPG(Immobilized pH gradient)緩衝液、1.2質量/容量%のストリーキング軽減溶液(Destreak solution)(GE Healthcare UK Ltd.社製)の組成の溶液を用いた。
【0064】
等電点電気泳動の泳動槽にはストリップゲルを挿入させるための溝が形成されており、該溝内に前記試料溶液を総蛋白質量が適宜量になるように注入した後、この溝内にストリップゲルを挿入させて試料溶液をストリップゲルに接触させる。なお、ストリップゲルに導入させる蛋白質の総量は使用するストリップゲルの長さによって定められ、本実施例では7cmのストリップゲルに30μgの蛋白質を導入させた。なお、ストリップゲルが24cmの場合は100μg〜150μg程度の蛋白質を導入させるとよい。
【0065】
乾燥状態のストリップゲルに接触された試料溶液が当該ストリップゲルに吸収されるのにともなって試料溶液中の蛋白質もストリップゲル内へ導入されるものの、当該蛋白質はストリップゲルの表面又は表面近傍に極在する状態になっている。そこで、試料溶液がストリップゲルに十分吸収される時間が経過した後、前記緩衝液を泳動槽内へ充填させてストリップゲルを膨潤させるとともに、泳動槽の両電極間に100Vの電圧を12時間印加することによって、表面近傍に極在する蛋白質をストリップゲルの内部へ電気的に導入・拡散させて蛋白質導入工程とした。
【0066】
以降は定法に従って一次電気泳動工程を行った。すなわち、泳動槽の両電極間に300Vの電圧を4時間印加した後、300Vから1000Vへ直線的に昇圧させ、続いて1000Vから5000Vへ直線的に昇圧させた。なお、一段目の昇圧に要した時間は30分間であり、二段目の昇圧に要した時間は1時間20分である。そして、泳動槽の両電極間に5000Vの電圧を30分間印加して一次電気泳動である等電点電気泳動を終了した。なお、試料溶液のストリップゲルへの導入及び一次電気泳動の操作中、ストリップゲルに通流される電流が50μAを超えないように調整した。
【0067】
(二次電気泳動工程)
このようにして一次電気泳動したストリップゲルを泳動槽から取り出して二次電気泳動であるSDS−PAGEに供した。SDS−PAGEは次のようにして行った。
【0068】
まず、SDS−PAGEに先立って、一次電気泳動したストリップゲルをSDS平衡化緩衝液に浸漬させることによって、当該ストリップゲル内の蛋白質にSDSを結合させる平衡化処理を実施した。ここでSDS平衡化緩衝液は、基礎緩衝液に10mg/mlとなるようにDTT(dithiothreitol)を添加した第1SDS平衡化緩衝液にストリップゲルを30分間浸漬させた後、前記基礎緩衝液に25mg/mlとなるようにヨードアセトアミドを添加した第2SDS平衡化緩衝液にストリップゲルを15分間浸漬させることによって行った。なお、基礎緩衝液の組成は、50mMトリス塩酸(pH8.8)、6M尿素、30質量/容量%グリセロール、4質量/容量%SDSであり、これにマーカー色素としてブロモフェノールブルー(BPB)を0.002質量/容量%となるように添加した。
【0069】
SDS−PAGE用の平板ゲルには、Perfect NT Gel D(ディー・アール・シー株式会社製)を用い、SDS−PAGEを実施する装置はEttan DALTsix Electrophoresis system(GE Healthcare UK Ltd.社製)を用いた。なお、本実施例にあっては7cm×7cmの平板ゲルを用いた。この平板ゲルを予め陽極液を注入しておいた前記装置の泳動槽に配設し、この平板ゲルの上辺に前述した如く平衡化したストリップゲルを載置する。そして、2W/gelの電力でマーカー色素が平板ゲルの先端近傍に達するまで電気泳動した。
【0070】
このようにして一次電気泳動の泳動方向と直交する方向へ二次電気泳動を行って二次元電気泳動が完了すると、前述したように本実施例では蛋白質を蛍光色素で標識してあるため、平板ゲル内の蛋白質をレーザースキャナ(Typhoon 9400:GE Healthcare UK Ltd.社製)にて可視化した。
【0071】
可視化した結果を本発明例1として図4に示す。なお、比較のため、ストリップゲルを膨潤させる際に電圧を印加しない以外は前同様に操作した結果を比較例1として図8に示す。また、本発明例1と比較例1についてそれぞれ、蛋白質導入工程及び一次電気泳動工程におけるストリップゲルへの印加電圧の値を次表に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
図4から明らかな如く、本発明例1にあっては、蛋白質導入工程において100Vの電圧を12時間印加したことによって、蛋白質のスポットが比較的良好に分離されている。これに対して図8から明らかな如く、比較例1にあっては、12時間の蛋白質導入工程において電圧を印加していないので、蛋白質のスポットの総量が少ないのに加え、各スポットが相互に分離されずに連続的になっている。
【0074】
(実施例2)
次に、蛋白質導入工程における電圧の印加時間を18時間にした場合について説明する。なお、本実施例にあっては、蛋白質導入工程における電圧の印加時間を18時間にした以外は前述した実施例1と同様の操作を行った。なお、ストリップゲルの長さは7cmであり、平板ゲルの寸法は7cm×7cmである。
【0075】
二次電気泳動後に可視化した結果を本発明例2として図5に示す。
図5から明らかな如く、本発明例2にあっては、蛋白質導入工程において電圧を印加する時間を18時間になしても、蛋白質のスポットは図4に示した本発明例1と同程度に分離されていた。
【0076】
(実施例3)
次に、一次電気泳動における定電圧の印加間を本発明に係る印加時間になした場合と本発明より短い従来の印加時間になした場合とを比較した結果について説明する。
【0077】
図6は一次電気泳動における定電圧の印加間を本発明に係る印加時間になした場合の二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真であり、図9は一次電気泳動における定電圧の印加間を従来の印加時間になした場合の二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。前者を本発明例3とし、後者を比較例3として、両者の蛋白質導入工程及び一次電気泳動工程におけるストリップゲルへの印加電圧の値及び時間を次表に示す。なお、ストリップゲルへの印加電圧の値を次表に示したように設定した以外は、両者とも実施例1と同様の操作を行った。なお、ストリップゲルの長さは240mmであり、平板ゲルの寸法は幅257mm×高さ200mmである。
【0078】
【表2】

【0079】
上表の比較例3に示したように、従来にあっては、一次電気泳動において500Vの定電圧を1時間しか印加していないため、図9に示したように、全体として蛋白質の分離能が低く、特に塩基性側の領域では全く分離されていない。これに対して前記表の本発明例3に示したように、本発明方法にあっては一次電気泳動において500Vの定電圧を4時間印加しているため、図6に示したように、蛋白質の分離能が全体的に向上しており、特に塩基性側の領域において比較的良好に分離されていた。
【0080】
(実施例4)
次に、実施例3で説明した本発明方法に加えて、一次電気泳動において第1定電圧を印加した場合について説明する。
【0081】
図7は後記する本発明に係る方法で行った二次元電気泳動をレーザースキャンした結果を示す解析画像を表す写真である。本結果を本発明例4とし、その蛋白質導入工程及び一次電気泳動工程におけるストリップゲルへの印加電圧の値を次表に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
上表に示したように、本発明方法にあっては一次電気泳動において、100Vの第1定電圧を2時間印加した後、500Vの定電圧を4時間印加しているため、図7に示したように、蛋白質の分離能が飛躍的に向上しており、酸性側の領域から塩基性側の領域に亘って非常に多数の蛋白質のスポットが個々に分離されていた。
【符号の説明】
【0084】
S1 ステップ1
S2 ステップ2
S3 ステップ3
S4 ステップ4
S5 ステップ5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストリップゲル内に複数種類の蛋白質を導入する蛋白質導入工程と、各蛋白質が導入されたストリップゲルに予め定めた定電圧を印加する定電圧印加ステップを行った後に、印加電圧を漸次上昇させてストリップゲル内の各蛋白質を泳動させる一次電気泳動工程と、前記ストリップゲルを平板ゲルの所定位置に配置し、当該平板ゲル及びストリップゲルに適宜の電力を与えてストリップゲル内の各蛋白質を平板ゲル内で泳動させる二次電気泳動工程とをこの順に行う二次元電気泳動を実施して前記各蛋白質から所要の蛋白質を分離する場合、
前記一次電気泳動工程において、前記定電圧印加ステップの前に、前記定電圧より低い値の第1定電圧を印加して、前記各蛋白質の分子量より低い分子量の低分子夾雑物を前記ストリップゲルから排出させる第1電圧印加ステップを行うことを特徴とする二次元電気泳動による蛋白質の分離方法。
【請求項2】
前記第1定電圧は50V以上300V以下の適宜の値である請求項1記載の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法。
【請求項3】
前記定電圧印加ステップにおいてストリップゲルに少なくとも3時間、前記定電圧を印加して、前記低分子夾雑物の分子量より高い分子量の高分子夾雑物を前記ストリップゲルから排出させる請求項1又は2記載の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法。
【請求項4】
前記蛋白質導入工程は、複数種類の蛋白質を含む試料溶液に乾燥状態のストリップゲルを接触させて試料溶液をストリップゲルに吸収させ、次いで該ストリップゲルの周囲に適宜の緩衝液を供給した後、前記ストリップゲルに所定の定電圧を印加することによって行う
請求項1から3のいずれかに記載の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法。
【請求項5】
前記定電圧は50V以上120V以下の適宜の値である請求項4記載の二次元電気泳動による蛋白質の分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−61253(P2013−61253A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200035(P2011−200035)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)