説明

二次元電気泳動方法

【課題】一つのデバイスで、一次元ゲルと二次元ゲルとの接続操作を迅速かつ簡便に実施できる二次元電気泳動方法および二次元電気泳動用キットを提供する。
【解決手段】本発明に係る二次元電気泳動方法は1ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、膨潤した前記乾燥ゲルが、該間隔中に配置され、二次元電気泳動基板を提供する工程、2前記第1の電気泳動分離媒体にサンプルを含浸させる工程、3前記第1の電気泳動分離媒体に電場を与えて、一次分離する工程、4前記乾燥ゲルに第2の膨潤溶液を添加して、該乾燥ゲルを膨潤させる工程、5前記第1および第2の電気泳動分離媒体の双方に、前記第1の電気泳動分離媒体の長手方向に対して電場を与え、前記一次分離された成分を二次分離する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元電気泳動方法および二次元電気泳動用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次元電気泳動方法においては、一次元ゲル(一次元目の電気泳動で用いるゲルを意味する)と二次元ゲル(二次元目の電気泳動で用いるゲルを意味する)とが別々の装置において実験にかけられていた。このため、一次元目の電気泳動終了後、一次元目の電気泳動で用いたゲルを取り出し、次に取り出した一次元ゲルを二次元ゲルに接合させていた。ゲルの取り出しと接合は人手により行われるため装置の自動化が難しく、また二次元ゲルに適切に接合するには高度な熟練度が必要で、一次元目のゲルは操作時に容易に切断されたり、伸延したり、折れ曲がったりするという問題があった。
【0003】
このため、近年、一次元ゲルの取り出しと接合による弊害をなくすため、一の支持基板上に一次元ゲルと二次元ゲルとを間隔を置いて担持し(特許文献1)、一次元目の電気泳動終了後に、間隔中に第3の導電性ゲルを注入して一次元ゲルと二次元ゲルとを接触させる方法が試みられている。(特許文献2〜4)
【0004】
しかし、導電性ゲルの注入により一次元ゲルと二次元ゲルとを接続する方法では、一次元ゲルと二次元ゲルとの接続時に、接続のためのゲル化溶液の注入、固化操作が必要であり、また、固化のための温度制御や試薬の添加なども必要であるなど、煩雑な操作を必要とするという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開昭58−193446号公報
【特許文献2】特開昭61−288148号公報
【特許文献3】特開平2−151758号公報
【特許文献4】特表2004−510168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、二次元電気泳動に要する操作をトータルで簡便かつ迅速に行おうとするもので、一つのデバイスで、一次元ゲルと二次元ゲルとの接続操作を迅速かつ簡便に実施できる二次元電気泳動方法および二次元電気泳動用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究し、乾燥ゲルを予め間隔中に備えさせ、一次分離後と二次分離前に、第2の膨潤溶液を注いで乾燥ゲルを膨潤させることにより、一次元ゲルと二次元ゲルとを迅速かつ簡便に相互接続させることができることを見出した。
すなわち、本発明は下記を含む。
【0008】
〔1〕 下記工程を含む、二次元電気泳動方法:
(1)ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、膨潤して前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続しうる乾燥ゲルが、該間隔中、第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置に配置されている、二次元電気泳動基板を提供する工程、
(2)前記第1の電気泳動分離媒体にサンプルを含浸させる工程、
(3)前記第1の電気泳動分離媒体に電場を与えて、前記サンプル中の成分を一次分離する工程、
(4)一次分離を実施した後、前記乾燥ゲルに第2の膨潤溶液を添加して、第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体との間が膨潤したゲルにより接続されるまで、該乾燥ゲルを膨潤させる工程、および
(5)前記第1の電気泳動分離媒体および第2の電気泳動分離媒体の双方に、前記第1の電気泳動分離媒体の長手方向に対して実質的に垂直方向に電場を与え、前記第2の電気泳動分離媒体において、前記一次分離された成分を二次分離する工程。
〔2〕 前記乾燥ゲルが、前記間隔の基板上に配置されている〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記乾燥ゲルが、
前記工程(1)において、第1の電気泳動分離媒体および前記第2の電気泳動分離媒体のいずれとも接触しない位置に配置され、
前記工程(4)において、第1の電気泳動分離媒体方向および第2の電気泳動分離媒体方向へ膨潤するゲルである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕 前記乾燥ゲルは、原料ゲルを乾燥させて収縮したゲルであり、該原料ゲルは前記第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体間との間を接続しうる大きさを有している、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 前記乾燥ゲルが、前記原料ゲルを圧縮しながら乾燥して得られた、〔4〕に記載の方法。
〔6〕 前記乾燥ゲルが、乾燥したアクリルアミドである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 前記工程(1)の第1の電気泳動分離媒体がストリップ状の乾燥した電気泳動媒体であり、乾燥した第1の電気泳動分離媒体に第1の膨潤溶液を添加して、前記乾燥した第1の電気泳動分離媒体を飽和状態まで膨潤させる、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記第1の膨潤溶液が、水よりも極性が高い有機溶媒を含有する、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 前記乾燥ゲルが、下記(a)および(b):
(a)水酸化ナトリウム、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)コハク酸、乳酸、ホウ酸、クエン酸、リン酸、グルタル酸、酢酸、フタル酸およびマレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
のうちの少なくとも1グループの成分およびマイナスイオンを含み、
前記第(4)工程において乾燥ゲルを膨潤させたゲルがpH6.8である、〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕 前記工程(4)の第2の膨潤溶液が、pH6.8で、さらにマイナスイオンを含有する緩衝液である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕 前記工程(1)の前記間隔において、前記第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体とが、気体により隔てられている、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕 ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、
膨潤して前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続しうる乾燥ゲルが、該間隔中の第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置に配置されている、二次元電気泳動用キット。
〔13〕 前記支持手段が、さらに、サンプルの一次分離後に前記乾燥ゲルを膨潤させる第2の膨潤溶液の供給手段を有している、〔12〕に記載のキット。
【0009】
以下、各工程ごとに説明する。
【0010】
工程(1)
前記工程(1)で供給される二次元電気泳動基板において、前記第1の電気泳動分離媒体は、水又は水溶性溶液の吸収により膨潤するゲルである。該ゲルは乾燥ゲルであっても、既に膨潤したゲルであってもよく、好ましくは通常、乾燥ゲルを使用する。
このようなゲルとしては、ポリアクリルアミドゲルが挙げられる。このようなゲルは、等電点電気泳動を行うIPGゲル(固定化pH勾配ゲル)である。
【0011】
第1の電気泳動分離媒体の形状は特に限定はないが、通常、細長い薄板状であり、たとえばストリップ状である。ストリップの長手方向の両端は、一次元目の電気泳動を行うことができるよう電極を備えることができる。
第1の電気泳動分離媒体の寸法に限定はないが、本発明では、膨潤後においても、極めて細く薄い形状のものを採用できる。たとえば、飽和状態まで膨潤したものにおいて、厚さ0.1〜1.0mm、短手方向の長さ0.5〜5.0mmであるようなものを用いることもできる。長手方向の長さは、基板の大きさにより異なり限定されない。
【0012】
前記第2の電気泳動分離媒体は、スラブゲルを用いることができる。スラブゲルは公知のスラブゲルを用いることができる。スラブゲルは一般に水性ゲルであり、たとえば、ポリアクリルアミドゲル、デンプンゲル、寒天ゲルなどが挙げられる。このゲルは好ましくは均一な濃度又は濃度勾配である。
【0013】
これらの第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体とは、一つの支持手段上に、互いに間隔を置いて担持されている。第2の電気泳動分離媒体は、第1の電気泳動分離媒体と対面し、好ましくは互いに向き合った面は平行である。本発明では、第1の電気泳動分離媒体の膨潤、および一次元目の電気泳動の際、前記間隔において、前記第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体とが、空気などの気体により隔てられていればよく、液体または固体で仕切る必要はない。
【0014】
前記間隔は、二次元電気泳動の大きさにより異なり限定されないが、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは1〜3mm程度の比較的狭い隙間とすることができる。
【0015】
本発明で用いることのできるサンプルは、DNA、RNA、またはタンパク質などを含む。このうち、本発明はタンパク質の分離に特に有効である。タンパク質としては、好ましくは水溶性タンパク質である。
電気泳動に先立って、タンパク質等のサンプルは蛍光標識しておくことができる。またこのとき、同じ条件で等電点マーカーも泳動しておくことができる。
【0016】
なお、本明細書において「膨潤」とは、ゲル(乾燥ゲルを含む)が溶液を吸収して体積を増すことを意味し、「膨潤溶液」とはゲルを膨潤させる際に添加する溶液を意味し、「膨潤ゲル」とは膨潤したゲルを意味する。
【0017】
<乾燥ゲル>
前記乾燥ゲルは、第2の膨潤溶液を添加すると膨潤する。
このような乾燥ゲルとしては、第2の膨潤溶液を吸収して所望の膨潤をする性質を有していれば限定はないが、たとえば、アガロース、アクリルアミドなどを用いることができ、このうち、アクリルアミドが好ましい。
【0018】
間隔の中で乾燥ゲルを配置する場所は、前記第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置である。一次元目の電気泳動への悪影響を回避するためである。
【0019】
乾燥ゲルは、好ましくは基板上に備えられている。また、第1の電気泳動分離媒体と向き合った、前記第2の電気泳動分離媒体の面に接触する形で基板上に備えられていてもよいが、第1および第2の電気泳動分離媒体のいずれとも接触していないことが好ましい。
【0020】
前記乾燥ゲルは、膨潤溶液を添加して膨潤させ、これにより前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続するように予め設計されていることが必要である。
【0021】
このような乾燥ゲルは、原料ゲルを乾燥して得られる。このような原料ゲルは、これを乾燥させ、該乾燥ゲルを再び膨潤させると、原料ゲルとほぼ同寸法の膨潤ゲルを再生できるものであることが好ましい。このような原料ゲルを用いることにより、乾燥ゲルは、第1および第2の電気泳動分離媒体の向き合う面の方向にも膨潤し、両媒体を相互接続することができる。
したがって、原料ゲルは、第1および第2の電気泳動分離媒体とを接続して間隔をほぼ密閉する大きさであることが好ましい。具体的には、原料ゲルは、前記第1および第2の電気泳動分離媒体の向合う間隔を接続する幅および高さを有している。
【0022】
すなわち、通常、前記第1の電気泳動分離媒体および第2の電気泳動分離媒体は、好ましくは互いに向合う面が平行になるように基板上に備えられるが、原料ゲルは、下記の寸法を有していることが好ましい。
原料ゲル幅:前記第1の電気泳動分離媒体および第2の電気泳動分離媒体が向き合う面の間の平均距離(本明細書において「媒体間幅」という。)とほぼ同じ大きさの幅である。
原料ゲル高さ:少なくとも第1の電気泳動分離媒体の基板からの高さ(本明細書において「一次媒体高さ」という。)以上の高さである。
原料ゲル長さ:少なくとも第1の電気泳動分離媒体の長手方向の長さ(本明細書において「一次媒体長さ」という。)とほぼ同じ長さである。
【0023】
なお、本明細書において「原料ゲル幅」とは、原料ゲルの、前記第1の電気泳動分離媒体および第2の電気泳動分離媒体が向合う面に対応する、原料ゲルの2つの側面の間の距離である。
本明細書において「原料ゲル高さ」とは、原料ゲルを基板面上に置いたときの、原料ゲルの底面から頂面までの大きさである。
本明細書において「原料ゲル長さ」とは、第1の電気泳動分離媒体の長手方向に対応する、原料ゲルの長手方向の長さである。
【0024】
このような原料ゲルを乾燥させる際、前記原料ゲル幅方向において、膨張方向と逆方向に圧縮しながら乾燥させることが好ましい。
このように予め、原料ゲルを圧縮して乾燥ゲルを製造すると、膨潤時、圧縮方向と逆方向に迅速に膨潤させることができる。このため、圧縮して乾燥させた乾燥ゲルを、適切な方向に配置することにより、乾燥ゲルの膨潤により第1および第2の電気泳動分離媒体の相互接続を極めて迅速に行うことができる。
また、このように圧縮しておくことにより、サイズを小型化することもできる。特に、前記媒体間の幅が極めて微小である場合、原料ゲル幅方向の圧縮は有効である。
【0025】
前記圧縮率は、用いる乾燥ゲルの種類にもよるが、圧縮しないで乾燥した場合と、圧縮して乾燥した場合とを比較したときに、(圧縮した幅の大きさ)/(圧縮なしの幅の大きさ)×100(%)が、好ましくは(30)〜(80)%であることが好ましい。
【0026】
原料ゲルの乾燥は、空気中に曝露して実施すればよい。乾燥温度は原料ゲルが変質しない温度範囲であれば限定されず、たとえば室温〜50℃程度である。
【0027】
工程(2)
第1の電気泳動分離媒体の第1の膨潤溶液は公知のものを用いることができ、限定されない。
前記第1の膨潤溶液は、純水、水溶性溶液などである。水溶性溶媒としては、等電点電気泳動に悪影響のないものであればよく、たとえば塩化ナトリウム水溶液などを用いることができる。
【0028】
さらに、前記第1の膨潤溶液は、水よりも極性が高い有機溶媒を含有することが好ましい。すなわち第1の膨潤溶液は、水および水よりも極性が高い有機溶媒を含有することが好ましい。
【0029】
水よりも極性が高い有機溶媒のうち、好ましくは水よりも極性が高い有機酸、水よりも極性が高い有機塩基などが挙げられる。これらのうちでは、有機酸が好ましい。前記有機酸のうちでは、たとえば、好ましくはギ酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸などが挙げられ、さらに好ましくはギ酸、トリフルオロ酢酸であり、特に好ましくはギ酸である。
溶媒の極性は、誘電率測定などの方法により、測定することができる。
【0030】
緩衝液中の前記水よりも極性が高い有機溶媒の含有割合(有機溶媒の体積/水溶液全体の体積×100(%))は、好ましくは5体積%以上、さらに好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。含有量の上限値としては、前記第1の電気泳動分離媒体およびサンプルに悪影響を及ぼさない範囲にあればよく、特に限定されないが、たとえば、好ましくは80体積%以下、さらに好ましくは60体積%以下、より好ましくは30体積%以下である。
前記水よりも極性が高い有機溶媒の含有割合が上記の量以上であると、前記乾燥した第1の電気泳動分離媒体の膨潤溶液の膨潤時間を著しく短縮化できる。特に、ポリアクリルアミドゲルのIPGゲルの迅速な膨潤に好適である。
【0031】
前記飽和状態とは、第1の膨潤溶液が最大限にゲル中に膨潤された状態であり、膨潤溶液を添加しても溶液の含有量が一定限度にとどまりそれ以上増えない状態を意味する。
【0032】
前記第1の膨潤溶液は、さらに、尿素、チオウレアなどのタンパク質変性剤、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホン酸などの界面活性剤、ジチオスレイトールなどの還元剤、キャリアアンフォライト(バイオライト:バイオラットラボラトリーズ社製)などの両性化合物などを含有していてもよい。
【0033】
本発明では、二次元電気泳動に供するサンプルを第1の膨潤溶液に混入して、該第1の膨潤溶液とともに第1の電気泳動分離媒体に含浸させることができる。
【0034】
工程(3)
前記第1の電気泳動分離媒体を第1の膨潤溶液で膨潤させた後、該膨潤した第1の電気泳動分離媒体の長手方向の両端から電流を流し、一次元目の分離を実施する。前記第1の膨潤溶液は、そのまま一次元目の泳動媒体として機能する。
【0035】
第1の電気泳動分離媒体の温度は、一次元目のゲルやサンプルに悪影響を及ぼさない温度に制御できればよいが、たとえば、電場が供給されている間、0℃〜20℃であることが好ましい。
温度制御方法は特に限定されないが、たとえば、ペルチェ素子を第1の電気泳動分離媒体の裏側、あるいは、第1の電気泳動分離媒体の結合する支持手段の裏側に設けることができる。
【0036】
電力の供給方法は、好ましくは、電場の供給開始直後から、単位体積あたりの電力量を好ましくは1〜120mW/mm3、さらに好ましくは5〜100mW/mm3、より好ましくは10〜60mW/mm3の範囲にして電場の供給を行う。このように、一次元目の電気泳動の開始直後から、一定量以上の大電力を供給すると、一次元目の分離時間を著しく短縮できる。
【0037】
以上のようにして一次元目の分離を行うことにより、分離時間の短縮が可能となるため、第1の電気泳動分離媒体に含浸させた溶液が蒸発して第1の電気泳動分離媒体が劣化するのを抑制できる。すなわち、従来は、溶液の蒸発防止のため、一次元目の電気泳動時に一次元目のゲルをパラフィン油や非導電性の固体などで保護していた(たとえば、前記特許文献3、4など)が、上記のような電力供給方法によれば、そのような液体あるいは固体を備える必要がなく、一次元目の電気泳動工程が極めて簡便になる。
【0038】
工程(4)
一次分離を実施した後、乾燥ゲルに第2の膨潤溶液を添加し、該乾燥ゲルを、第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体との間の間隔が接続されるまで膨潤させる。これにより、第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが該乾燥ゲルが膨潤した膨潤ゲルにより相互接続される。
【0039】
乾燥ゲルを膨潤させた膨潤ゲルは、少なくとも、第1の電気泳動分離媒体の、第2の電気泳動分離媒体に向きあう面の全体と接触していることが好ましい。
【0040】
前記第2の膨潤溶液は、好ましくは、通常、緩衝液などの水溶液、水を用いる。
【0041】
緩衝液としては、たとえば、トリス−ホウ酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、トリス−トリシン緩衝液、トリス−リン酸二水素ナトリウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液等のような一般にタンパク質などの電気泳動用緩衝液として使用される緩衝液が挙げられる。前記緩衝液は、一般にタンパク質の緩衝液として使用される濃度で使用できる。
【0042】
第2の膨潤溶液のpHは、好ましくは6〜8である。液状緩衝液のpHの調整は、水酸化ナトリウム、塩酸、ホウ酸、グリシン−塩酸緩衝液、クエン酸−リン酸二ナトリウム緩衝液、β−β’ジメチルグルタル酸−水酸化ナトリウム緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、マレイン酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液等により行うことができる。
【0043】
前記第2の膨潤溶液は、さらに好ましくはpH6.8で、マイナスイオンを含有することができる。マイナスイオンとしては、たとえば、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲン原子イオンが挙げられる。これらのうちでは、好ましくは塩素イオンである。マイナスイオン濃度は、好ましくは0.1〜0.2Mである。
【0044】
なお、好ましくは、前記乾燥ゲルは、下記(a)および(b):
(a)水酸化ナトリウム、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)コハク酸、乳酸、ホウ酸、クエン酸、リン酸、グルタル酸、酢酸、フタル酸およびマレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
のうちの少なくとも1グループの成分およびマイナスイオンを含み、
前記乾燥ゲルを膨潤させたゲルがpH6.8である。
第(4)工程において乾燥ゲルを膨潤させたゲルは、上記1グループの成分及びマイナスイオンを含む。
【0045】
一次元目の電気泳動後、サンプルは前記第1の電気泳動分離媒体の長手方向に分離されるが、二次元目の電気泳動方向にブロードなスポットとして分離されることがある。上記条件の第2の膨潤溶液を用いて乾燥ゲルを膨潤させて前記第1の電気泳動分離媒体と前記第2の電気泳動分離媒体とを接続し、二次元目の電気泳動を行うと、前記膨潤したゲル中をサンプルが通過する際、ブロードに存在するサンプルを、該ゲル中の二次元目の電気泳動方向の狭い範囲内に濃縮させることが可能となる。この結果、二次元目の電気泳動の精度を向上させることができる。
【0046】
前記第2の膨潤溶液は、さらに、適当な界面活性剤:たとえばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などを含有することができる。
【0047】
工程(5)
一次元目のゲルに展開された個々の成分は、上記の膨潤した膨潤ゲルを通って、1次元目のゲルから最も近い二次元目のゲルに移動し、分子量にしたがって展開される。このとき、通常、分子量マーカーを同じ条件で電気泳動しておく。
二次元目の電気泳動は、公知の方法と同様に実施すればよく、特に限定はない。二次元目の電気泳動は、たとえば、トリス−グリシン緩衝液、トリス−ホウ酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、トリス−トリシン緩衝液、トリス−リン酸二水素ナトリウム緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液等のような一般にタンパク質などの電気泳動用緩衝液として使用される緩衝液を用いて行うことができる。前記緩衝液は、一般にタンパク質の緩衝液として使用される濃度で使用できる。
【0048】
上記緩衝液は、さらに、適当な界面活性剤:たとえばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、グリシンなどを含有することができる。
【0049】
緩衝剤のpHは、好ましくは6〜10である。緩衝液のpHの調整は、水酸化ナトリウム、塩酸、ホウ酸、グリシン−塩酸緩衝液、クエン酸−リン酸二ナトリウム緩衝液、β−β’ジメチルグルタル酸−水酸化ナトリウム緩衝液、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液、フタル酸水素カリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、マレイン酸ナトリウム−水酸化ナトリウム緩衝液、リン酸緩衝液等により行うことができる。
【0050】
二次元目の泳動は、通常、好ましくは1〜10V/mmで、5〜20分程度の時間行う。
【0051】
二次元目の泳動を終えたゲル上で、タンパク質等の各成分のスポットを確認する。電気泳動に供したタンパク質の検出法としては、例えば、光による吸収や蛍光検出、電気化学的検出、化学や生化学発光検出、質量検出、熱検出などを用いることができる。
【0052】
たとえば、タンパク質が蛍光標識されていれば、その蛍光を追跡することで個々のスポットを確認することができる。この他、CBB染色や銀染色によってタンパク質のスポットを確認することもできる。こうして分離されたタンパク質などの各成分は、同じ条件で行った二次元電気泳動の結果と比較照合することによって、座標情報に基づいて同定することができる。あるいは未知のタンパク質の解析を進めるには、更に各スポットのタンパク質の同定を進めることができる。
【0053】
<二次元電気泳動用キット、装置>
本発明に係る二次元電気泳動用キットは、ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、
膨潤して前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続しうる乾燥ゲルが、該間隔中の第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置に配置されている。
【0054】
また、前記支持手段は、さらに、サンプルの一次分離後に前記乾燥ゲルを膨潤させる第2の膨潤溶液の供給手段を有していてもよい。
【0055】
さらに、乾燥した第1の電気泳動分離媒体の膨潤用に、第1の膨潤溶液の供給手段が備えられていてもよい。
【0056】
このような二次元電気泳動用キットは、試料の汚染などの防止のため使い捨て可能なよう、低コストで簡便な構造となっている。
【0057】
第1の電気泳動分離媒体、第2の電気泳動分離媒体、第1の膨潤溶液、第2の膨潤溶液は前述のとおりである。前記支持手段とは、第1の電気泳動分離媒体、第2の電気泳動分離媒体を支持するものであればよく、たとえば、プラスチック基板、ガラス基板、表面が電気的に絶縁された金属基板、表面が電気的に絶縁された半導体基板などが挙げられる。
第2の膨潤溶液の供給手段は、前記支持手段に備えられており、これにより、膨潤溶液を簡便に乾燥ゲルに添加することができる。
【0058】
また、前記第1の膨潤溶液の供給手段は、前記支持手段に備えられており、これにより、簡便に第1の膨潤溶液を、乾燥した第1の電気泳動分離媒体に添加することができる。
【0059】
本発明に係る2次元電気泳動装置は、電極および前記二次元電気泳動キットを含む。
【0060】
以下に図を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
図1は本発明に係る二次元電気泳動用キットの断面図の一例である。
第1の電気泳動分離媒体1、および第2の電気泳動分離媒体2は、支持基板6上に隙間(ジャンクション部)7を有して備えられる。第1の電気泳動分離媒体1と、第2の電気泳動分離媒体2とは互いに平行な面で対面して配置されている。また、二次元目の電気泳動用バッファー槽3、4が設けられている。間隔7には、基板6上に乾燥ゲル5が備えられている。
【0062】
前記第1の電気泳動分離媒体1は使用前は乾燥しているが、使用直前に、第1の膨潤溶液を添加する。第1の膨潤溶液の添加は、好ましくは表面張力により第1の電気泳動分離媒体1上から流れ落ちない程度の量を添加する。膨潤後、上述の方法の工程(3)のように、前記第1の電気泳動分離媒体1の長手方向の両端から電力を供給して一次元目の電気泳動を実施する。
【0063】
一次元目の電気泳動後、乾燥ゲル5に第2の膨潤溶液を添加し、乾燥ゲル5を膨潤させる。
図2aは、乾燥ゲルが配置された二次元電気泳動用キットの断面図および上面図、図2bは、乾燥ゲルを膨潤させて間隔を相互接続させた後の状態の断面図および上面図を示す。
図2aの乾燥ゲル5は、X方向およびY方向に膨潤するように、間隔7と同サイズの原料ゲルを乾燥したもので、第2の膨潤溶液の添加により、図2bに示すように乾燥ゲル5は膨潤し、第1の電気泳動分離媒体1と第2の電気泳動分離媒体2とを膨潤ゲル8で接続することができる。ここで、原料ゲルを圧縮して乾燥すると膨潤割合を向上させるとともに乾燥ゲル5のサイズを小さくできる。特にY方向に圧縮して乾燥すると、Y方向へのサイズを小さくできるとともに、Y方向への膨潤割合を増加向上させることができる。
【0064】
次に、緩衝溶液槽3、4に電極を通し、二次元目の電気泳動を行うことができる。
【0065】
また、第1の電気泳動分離媒体1の裏側、あるいは、第1の電気泳動分離媒体1の結合する位置の支持手段1の裏側に、ペルチェ素子を設けることができる(図示せず)。
これにより、一次元目の電気泳動に際し、通電に伴って、簡便に第1の電気泳動分離媒体1の冷却を簡便かつ効率よく実施できる。
【0066】
図3に示すように、第2の膨潤溶液は、支持手段1に備えられた膨潤溶液の供給手段9を用いて行うこともできる。該膨潤溶液の供給手段9は、第2の膨潤溶液を放出する液だめなどである。
また、支持手段6には、乾燥状態にある第1の電気泳動分離媒体1を膨潤するための第1の膨潤溶液の供給手段が備えられていてもよい(図示せず)。該膨潤溶液の供給手段は、第1の膨潤溶液を放出する液だめなどである。
このような第2の膨潤溶液の供給手段9、第1の膨潤溶液の供給手段が備えられていると、操作の自動化を図ることができ、迅速で正確な電気泳動を実施できる。特に、たとえば、前記乾燥ゲル5の幅が数ミリ単位、あるいは前記間隔7も数ミリ単位となっても、正確にこれらの溶液の供給が可能となるという利点がある。
【発明の効果】
【0067】
本発明によれば、乾燥ゲルを予め間隔中に備えさせ、一次分離後と二次分離前に、膨潤溶液を注いで乾燥ゲルを膨潤させるだけで、一次元ゲルと二次元ゲルとを迅速かつ簡便に相互接続させることができる。また、好ましくは第1の電気泳動分離媒体の膨潤に特定の膨潤溶液を用いることにより膨潤時間をより短縮できるなど、極めて簡便な操作で短時間でトータルの二次元電気泳動を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
一次元目の電気泳動後の一次元目ゲルと二次元目ゲルの接続方法について実験した。
【0069】
図1、2、3に示すように、一次元目の電気泳動用ゲル1(ゲル1)として、ポリアクリルアミド乾燥pH勾配固定化ゲル(インビトロジェン社製、厚さ0.02mm×短手方向の幅0.8mm×長手方向の長さ52mm)をプラスチック製の支持基板6の所定の位置に置いた。
【0070】
二次元目の電気泳動用ゲル2(ゲル2)はポリアクリルアミドゲルであり、その緩衝液には375mMトリス塩酸バッファー(pH8.8)を用いた。
ゲル1の長手方向の横は、支持基板6の壁と接することが無いよう空間でさえぎられ、ゲル1とゲル2とは互いに接触しない用に配置され、ゲル1とゲル2とは互いに電気的に絶縁されている。
【0071】
ゲル1とゲル2の間の隙間7の大きさのポリアクリルアミドゲルを作製した。その緩衝液には125mMトリス塩酸バッファー(pH6.8)を用いた。そのゲルを、長手方向を縦にして上下を固定して乾燥させ、短手方向の幅と厚さを収縮させた。この乾燥ゲルを図1、2、3に示したゲル5として、支持基板6の隙間7に置いた。
【0072】
ゲル5に蒸留水を基板に備え付けの液だめから注入した。20分後、再び蒸留水を加えた。ゲル5は膨張し、30分後には隙間7を無くすまで膨張してゲル1とゲル2を繋いだ。図2にゲル5が膨張してゲル1とゲル2を接続したゲル8となった模式図を示した。
図4にゲル5が膨張してゲル1とゲル2を接続した写真を示した。
〔実施例2〕
実施例1で示した接続方法を用いて二次元電気泳動を行った。
【0073】
実施例1で示したのと同様の方法で一次元目ゲル(1)、二次元目ゲル(2)、乾燥ゲル(5)を支持基板6に設置した。
【0074】
次にタンパク質変性剤(尿素6M、チオウレア2M)、界面活性剤(CHAPS(同仁化学社製))2%(w/v)、還元剤(ジチオスレイトール)20mM、キャリアーアンフォライト(インビトロジェン社製)0.5%(v/v)、を含む水を溶媒とした膨潤用溶液を用意し、該膨潤用溶液に試料サンプルを添加し、サンプル入り膨潤用溶液を20μL用意した。サンプルは、二次元電気泳動用マーカータンパク質(アミログルコシダーゼ、オボアルブミン、カルボニックアンヒドラーゼ、ミオグロビン)(シグマ社製)を用いた。
【0075】
上記サンプル入りの膨潤用溶液を基板に備え付けの液だめを用いてゲル1に添加し、ゲル1を膨潤させた。添加は15分間静置後、一次元目の電気泳動用の電極10をゲル1の長手方向の端に接触させて等電点電気泳動を行った。
【0076】
電極間10に当初から60mW/mm3以内の電力(0-5000 V (リニア)で4分間、5000-6000 V (リニア)で1分間、6000 Vで5分間)をかけ、合計10分間電気を流した。この時熱の発生によるゲルの乾燥や燃焼を防ぐため、ゲル1を0〜5℃になるようにペルチェ素子で冷却した。
【0077】
実施例1と同様の方法でゲル5に蒸留水を注入してゲル5を膨張させて、ゲル1とゲル2を繋いだ。
【0078】
つぎに緩衝溶液槽3、4に二次元目の電気泳動用の緩衝溶液(0.19Mグリシン、SDS、25mMトリスアミノメタンを含む)を注入し、陰極として一次元目のゲルに近い緩衝溶液槽3に、陽極として二次元目のゲルに近い緩衝溶液槽4に電極11を接触させ、二次元目の電気泳動を行った(定電圧200V、約15分間)。
図5に一次元目の電気泳動に続いて行った二次元目の電気泳動後にサンプルが分離された二次元目ポリアクリルアミドゲルの像を示す。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、本発明に係る二次元電気泳動用キットの断面図の一例である。
【図2】図2a、2bは、本発明に係る二次元電気泳動用キットの使用態様の断面図および上面図の一例である。図2aは、乾燥ゲルが配置された二次元電気泳動用キットの断面図および上面図、図2bは、乾燥ゲルを膨潤させて間隔を相互接続させた後の状態の断面図および上面図である。
【図3】図3は、第2の膨潤溶液の注入器具を有する二次元電気泳動用キットの模式図の一例である。
【図4】図4aは、乾燥ゲルが配置されている状態の二次元電気泳動用キットの上面からの写真、図4bは乾燥ゲルを膨潤させて前記第1の電気泳動分離媒体(1D)および前記第2の電気泳動分離媒体(2D)を接続した状態の二次元電気泳動用キットの上面からの写真である。
【図5】図5は、二次元目の電気泳動により、第2の電気泳動分離媒体中で、蛍光ラベルしたタンパク質(アミログルコシダーゼ、オボアルブミン、カルボニックアンヒドラーゼ、ミオグロビン)が分離された結果を示す写真である。
【符号の説明】
【0080】
1 第1の電気泳動分離媒体
2 第2の電気泳動分離媒体
3 緩衝溶液槽
4 緩衝溶液槽
5 乾燥ゲル
6 支持基板
7 間隔(ジャンクション)
8 膨潤ゲル
9 第2の膨潤溶液の供給手段
10 電極
11 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、二次元電気泳動方法:
(1)ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、膨潤して前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続しうる乾燥ゲルが、該間隔中、第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置に配置されている、二次元電気泳動基板を提供する工程、
(2)前記第1の電気泳動分離媒体にサンプルを含浸させる工程、
(3)前記第1の電気泳動分離媒体に電場を与えて、前記サンプル中の成分を一次分離する工程、
(4)一次分離を実施した後、前記乾燥ゲルに第2の膨潤溶液を添加して、第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体との間が膨潤したゲルにより接続されるまで、該乾燥ゲルを膨潤させる工程、および
(5)前記第1の電気泳動分離媒体および第2の電気泳動分離媒体の双方に、前記第1の電気泳動分離媒体の長手方向に対して実質的に垂直方向に電場を与え、前記第2の電気泳動分離媒体において、前記一次分離された成分を二次分離する工程。
【請求項2】
前記乾燥ゲルが、前記間隔の基板上に配置されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥ゲルが、
前記工程(1)において、第1の電気泳動分離媒体および前記第2の電気泳動分離媒体のいずれとも接触しない位置に配置され、
前記工程(4)において、第1の電気泳動分離媒体方向および第2の電気泳動分離媒体方向へ膨潤するゲルである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥ゲルは、原料ゲルを乾燥させて収縮したゲルであり、該原料ゲルは前記第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体間との間を接続しうる大きさを有している、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥ゲルが、前記原料ゲルを圧縮しながら乾燥して得られた、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥ゲルが、乾燥したアクリルアミドである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(1)の第1の電気泳動分離媒体がストリップ状の乾燥した電気泳動媒体であり、乾燥した第1の電気泳動分離媒体に第1の膨潤溶液を添加して、前記乾燥した第1の電気泳動分離媒体を飽和状態まで膨潤させる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記第1の膨潤溶液が、水よりも極性が高い有機溶媒を含有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥ゲルが、下記(a)および(b):
(a)水酸化ナトリウム、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
(b)コハク酸、乳酸、ホウ酸、クエン酸、リン酸、グルタル酸、酢酸、フタル酸およびマレイン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、および、ホウ酸塩、グリシン塩、クエン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、グルタル酸塩、酢酸塩、フタル酸塩、フタル酸水素塩およびマレイン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種;
のうちの少なくとも1グループの成分およびマイナスイオンを含み、
前記第(4)工程において乾燥ゲルを膨潤させたゲルがpH6.8である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記工程(4)の第2の膨潤溶液が、pH6.8で、さらにマイナスイオンを含有する緩衝液である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記工程(1)の前記間隔において、前記第1の電気泳動分離媒体と第2の電気泳動分離媒体とが、気体により隔てられている、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ストリップ状の第1の電気泳動分離媒体と、第2の電気泳動分離媒体とが、互いに間隔をおいて一つの支持基板上に担持され、
膨潤して前記第1および前記第2の電気泳動分離媒体を接続しうる乾燥ゲルが、該間隔中の第1の電気泳動分離媒体と接触しない位置に配置されている、二次元電気泳動用キット。
【請求項13】
前記支持手段が、さらに、サンプルの一次分離後に前記乾燥ゲルを膨潤させる第2の膨潤溶液の供給手段を有している、請求項12に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−242802(P2006−242802A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60193(P2005−60193)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)