説明

二次元電気泳動法用試料注入器具及びそれを含む二次元電気泳動用装置並びに該装置を用いた二次元電気泳動法

【課題】 二次元電気泳動法において、一次元目ゲルに試料を簡便に均一に添加することができ、さらに一つの支持基板で簡単に二次元電気泳動を行うことができる二次元電気泳動用装置及びそれに用いられる試料注入器具並びにそれを用いた二次元電気泳動法を提供すること。
【解決手段】 二次元電気泳動法用試料注入器具は、平板状の注入器具本体12と、該注入器本体12に設けられたスロット状の試料注入口14であって、その内壁が親水化処理されている試料注入口14と、該注入口14の底部に配置された一次元目電気泳動用の乾燥ゲル16とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次元電気泳動法用試料注入器具及びそれを含む二次元電気泳動用装置並びに該装置を用いた二次元電気泳動法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次元電気泳動法は、化学、生化学及び分子生物学等の分野において、試料中の成分の検出や分離等のために広く用いられている手法である。多くの場合、細長い短冊状の一次元目用のゲルを媒体にして等電点電気泳動を行い、次いで、一次元目ゲルを別の装置に移動させて二次元目電気泳動を行う。近年では、一次元目用のゲルと二次元目用のゲルを一つの支持基板に離して置き、その間の空隙に新たなゲルを充填して一次元目用のゲルと二次元目用のゲルをゲルにより接続し、一次元目と垂直な方向に二次元目の電気泳動を行なうことで簡単に二次元電気泳動を行う方法が行われている(特許文献1)。しかしながら、試料を一次元目ゲル全体に均一に加え、他の部分に流出させないためにはしきりが必要であり、一次元目電気泳動の前にそのしきりを外す必要がある。
【0003】
二次元電気泳動を正確に行なう、すなわち、試料中の成分が正しい泳動位置に移動するように行なうためには、一次元目ゲルにできるだけ試料を均一に添加することが望まれる。手動で試料の添加を行なう場合、微量の試料をゲル全体に均一に添加するのは煩雑で熟練を要する。
【0004】
従来、電気泳動用のゲル等に試料を添加するための器具ないし装置としては、例えば、液溜め部の自由度を向上し、より多くの分析ができる等の利点を有する電気泳動用チップ(特許文献2)、ゲルから溶出するウレアを除去するウレア除去ユニットを具備する試料注入装置(特許文献3)、絶対試料量を確実に注入でき、試料の注入が完了したことを視覚的に確認できる微量試料注入器(特許文献4)等が知られている。しかしながら、二次元電気泳動法の一次元目ゲルに試料を均一に、簡便に添加することを目的とし、そのための構成を具備した試料注入器具ないし装置は知られていない。
【0005】
【特許文献1】特許第2701943 号公報
【特許文献2】特開2003-4700号公報
【特許文献3】特開平3-2557号公報
【特許文献4】特開2000-186985号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、二次元電気泳動法において、一次元目ゲルに試料を簡便に均一に添加することができ、さらに一つの支持基板で簡単に二次元電気泳動を行うことができる二次元電気泳動用装置及びそれに用いられる試料注入器具並びにそれを用いた二次元電気泳動法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、内壁に親水化処理を施したスロット状の試料注入口の底部を塞ぐように一次元目の乾燥ゲルを配置した試料注入器具を用い、試料注入時には、前記試料注入口から試料を注入することにより一次元目ゲルに試料を均一かつ簡便に添加することができ、しきりを外す必要なくゲルを注入して一次元目ゲルと二次元目ゲルを接続し、次いで二次元目の電気泳動を行なう方法を想到し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、平板状の注入器具本体と、該注入器本体に設けられたスロット状の試料注入口であって、その内壁が親水化処理されている試料注入口と、該注入口の底部に配置された一次元目電気泳動用の乾燥ゲルとを具備する二次元電気泳動法用試料注入器具を提供する。また、本発明は、装置本体と、該装置本体上に支持された二次元目電気泳動用ゲルと、該装置本体上に配置された上記本発明の試料注入器具とを具備し、前記一次元目電気泳動用ゲルと前記二次元目電気泳動用ゲルの間には、ジャンクション部である空隙が形成されている二次元電気泳動用装置を提供する。さらに、本発明は、上記本発明の二次元電気泳動用装置の前記試料注入器具の前記試料注入口に試料を注入する工程と、次いで一次元目の電気泳動を行なう工程と、次いでジャンクション部にゲルを充填する工程と、次いで二次元目の電気泳動を行なう工程とを含む二次元電気泳動法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、二次元電気泳動法において、一次元目ゲルに試料を簡便に均一に添加することができる、二次元電気泳動用装置及びそれに用いられる試料注入器具並びにそれを用いた二次元電気泳動法が初めて提供された。本発明の二次元電気泳動用試料注入器具では、スロット状の試料注入口の内壁に親水化処理が行なわれており、しかも、一次元目ゲルが乾燥状態で、試料注入口の底部を塞ぐように配置されているため、試料注入口に試料を注入すると、一次元目ゲル全体に速やかに試料が行き渡る。しかも、予め試料注入口の底部に一次元目ゲルが固定されているので、注入口とゲルとの位置合わせ等の操作が全く不要であり、単にスロット状の試料注入口に試料を注入するだけで一次元目ゲル全体に速やかに試料が行き渡るので操作が非常に簡便である。また、試料が一次元目ゲル以外の部分に流出することがなく、かつしきりを外すことなく一次元目ゲルと二次元目ゲルをゲルを充填することで接続できる。従って、本発明の試料注入器具を用いることにより、二次元電気泳動の作業性が向上するとともに、一次元目ゲルに試料を均一に添加することができるために二次元電気泳動の正確性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明の好ましい具体例を説明する。
【0011】
図1は、本発明の二次元電気泳動装置の好ましい1具体例を示す斜視図であり、図2には、図1に示す装置の一方の側面を除去して断面の構造を示すと共に、試料注入器具を上下反転させてその底部の構造を示す斜視図である。図1及び図2において、試料注入器具10は、平板状の注入器具本体12を含み、該注入器具本体12には、試料注入口14が設けられている。試料注入口14は、スロット状であり、すなわち、図示のような細長い貫通孔である。試料注入口14の幅(長手方向に直行する方向の長さ)は、特に限定されないが、0.3mmないし1.0mmが好ましく、さらには0.3mmないし0.7mmが好ましい。試料注入口14の長さ(長手方向の長さ)は、特に限定されず、通常、30mm〜300mm程度である。試料注入口14の底部には、一次元電気泳動用の乾燥ゲル16(図2)が配置され、試料注入口14の底部は乾燥ゲル16により塞がれている。乾燥ゲル16のサイズは、特に限定されず、注入口14の各辺からそれぞれ0.1mm〜3.0mm程度はみ出すサイズが好ましい。また、乾燥ゲル16の厚みは、特に限定されないが、通常、0.01mm〜0.1mm程度である(膨潤後の厚みが通常、0.3mm〜1mm程度)。なお、乾燥ゲル16としては、アガロースやポリアクリルアミド等、従来の二次元電気泳動の一次元目ゲルとして用いられているものをそのまま用いることができ、多くの場合、pH勾配を有する等電点電気泳動用のゲルである。試料注入口14の底部は、その全面が乾燥ゲル16により塞がれていることが好ましい。一次元目電気泳動用の乾燥ゲル16の両端には、該ゲル16に電圧を印加するための一対の電極18、18’が配置されている。また、電極18、18’は、必ずしも乾燥状態のゲル16に接触している必要はなく、操作時の膨潤した一次元目ゲル16に接触する位置に配置してもよい。図1及び図2において、参照番号20は、二次元電気泳動用装置本体であり、装置本体20の構造については後述する。
【0012】
試料注入器具10の構造を図3及び図4に基づきさらに詳細に説明する。図3の(A)、(B)、(C)は、それぞれ、試料注入器具10の平面図、底面図及び正面図である。注入器具本体12のうち、後述する電気泳動装置のジャンクション部(一次元目ゲルと二次元目ゲルの間の空隙、図2の40)を被覆する領域12a(以下、この領域を「ジャンクション部の蓋」と呼ぶことがある)には、ジャンクション部にゲル液化物を充填するための透孔であるゲル液化物充填孔19が設けられている。電極18、18’は、図示の具体例では、注入器本体12の上面から斜めに配置され、それぞれの先端部が乾燥ゲル16の両端部に接触している。なお、電極18、18’は、乾燥ゲル16又は膨潤後のゲルに接触していればよく、例えば注入器本体12の下面に固着したり、注入口14の両端部に配置したりすることも可能である。乾燥ゲル16は、図3(C)に示すように、支持体22上に支持することが好ましい。支持体は例えばプラスチック製の板やフィルム等であり、好ましくは板である。この場合、乾燥ゲル16は、例えば図示のように、支持体22を、一対の粘着テープ24、24’で注入器本体12の下面に懸架することにより、注入口14の底部に配置することができる。
【0013】
注入口14の内壁は親水化処理されている。親水化処理は、例えば、親水性のポリマーをコーティングすることにより行うことができ、この親水性コーティング層を図3(A)及び図3(B)中に参照番号26で示す。親水化処理は、注入口14の内壁の一次元目ゲルが接触する範囲に施す。親水化処理の方法は特に限定されないが、親水性コーティング層は試料を均一にゲル全体に行き渡らせるために、均一な厚みを有していることが好ましく、しかも、注入口14の幅は通常1mm以下と狭いことから、各種の周知のコーターで親水化ポリマーを塗布することは容易ではない。本願発明者らは、プラズマ重合を駆使してその場でモノマーを重合させ、さらに必要に応じて酸素プラズマ等で処理することにより、幅の狭い注入口14の内壁を、均一な層厚の薄い親水性ポリマーのコーティング層で被覆できることを見出した。プラズマ重合に用いることができるモノマーとしては、エーテルのような親水性の主鎖を有するモノマーや、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等の親水性基を主鎖又は側鎖に有するモノマーであって、プラズマ重合により重合可能なものであれば何ら限定されるものではなく、好ましいモノマーの例として、アクリル酸、プロパギルアルコールのような含酸素有機化合物、アセトニトリル、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、プロピルアミン、アリルアミン、ピリジンのような含窒素有機化合物等を例示することができるがこれらに限定されるものではない。また、ヘキサメチルジシロキサンのような疎水性層をプラズマ重合させた後にプラズマ処理で親水化を行ってもよい。また、内壁自体を酸素プラズマ等で処理することによっても親水性層を形成することができる。すなわち、親水性層は、好ましくは、
(a)水素プラズマ、酸素プラズマ及び窒素プラズマからなる群から選ばれる少なくとも一種のプラズマによる処理、
(b)ヘキサメチルジシロキサン及びヘキサジエンからなる群から選ばれる少なくとも一種をプラズマ重合して形成したコーティング層に上記(a)のプラズマ処理を施す、又は
(c)アクリル酸、プロパギルアルコール、アセトニトリル、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、プロピルアミン、アリルアミン、ピリジンからなる群から選ばれる少なくとも一種をプラズマ重合する、ことにより形成することができる。
【0014】
また、親水性層の層厚は、特に限定されないが、50nm〜200 nm程度が好ましい。プラズマ重合及びプラズマ処理の手法自体は周知であり、そのための装置も市販されているので、市販の装置を用いて容易に実施することができ、下記実施例にもプラズマ重合及びプラズマ処理の条件が具体的に記載されている。また、一次元目の電気泳動の後にジャンクション部に充填されるゲルとの親和性を高め、一次元目ゲルと二次元目ゲルが全面的に均一に接続されることを確保するために、ジャンクション部の蓋12aの下面にも親水化処理を施すことが好ましい。なお、親水化処理は、注入口14の内壁及びジャンクション部の蓋12aの下面のみに施し、他の部分には施さないことが好ましい。そのようにすることにより、試料液や膨潤液が、意図しない部分に漏出することを防止することができる。親水化処理する領域にのみ選択的に親水化処理することは、例えば、親水化処理しない領域を粘着フィルム等で被覆した後、注入器具全体にプラズマ重合処理を施すことにより行うことができる。
【0015】
図4は、注入口12部分の断面図である。図4(A)は使用前の、ゲル16が乾燥している状態を示し、図4(B)は、電気泳動実施時の、ゲル16が膨潤した後の状態を示す図である。また、図4(A)及び図4(B)のそれぞれ左側の図は注入口14近傍を側面から見た断面図であり、それぞれ右側の図は、注入器具を正面から見た断面図である。図4中のサイズは、好ましいサイズの1例であり、下記実施例で作製した試料注入器具において採用したサイズである。図4(A)に示されるように、試料液28を試料注入口に注入すると、乾燥ゲル16が試料液28と接触して膨潤し、図4(B)に示すようにその厚さが増大して膨潤後のゲル16’となる。なお、乾燥ゲル16の支持体22を懸架する粘着テープ24、24’は、乾燥ゲル16の膨潤に順応して延びることができる、伸縮性のあるものが好ましく、その材質としては、例えば、ゴム、ビニール、プラスチック等を例示することができる。あるいは、伸縮性のある市販の絆創膏のような、織物や不織布等を用いることもできる。
【0016】
次に、二次元電気泳動用装置について図1及び図2に基づいて説明する。装置本体20は、支持台30を具備し、支持台30上には二次元目ゲル32が支持されている。支持台30は、枠体34により囲包されている。なお、支持台30と枠体34は一体に形成することが好ましい。枠体34の一方向の両端部と支持体30との間には、支持台30が存在しないことにより形成される溝部から成る緩衝液槽36及び38が設けられている。また、支持台30の一方の端部領域上には、二次元目ゲル32が存在せず、ジャンクション部40と呼ばれる空隙が存在する。ジャンクション部40は、上記した試料注入器具10を装置本体20の枠体34上に載置した際に、一次元目ゲル16と二次元目ゲル32とを空間的に隔てる領域である。二次元目ゲル32も、従来から二次元電気泳動に用いられている、アガロースやポリアクリルアミド等から成る二次元目ゲルをそのまま用いることができる。二次元目ゲル32の幅(図2の左右方向)は、特に限定されず、通常、40mm〜300mm程度である。また、長さ及び厚みは、上記した一次元目ゲル16と同程度であることが好ましい。装置本体の材質は特に限定されないが、プラスチック等の絶縁材料が好ましい。なお、図1及び図2に示す装置では、装置本体20と試料注入器具10が分離しているが、これらを一体に形成してもよい。
【0017】
二次元電気泳動を行なう場合、先ず、試料注入器具10を枠体34上に、試料注入口14の開口部が上側になるように載置する。これにより、一次元目の乾燥ゲル16が、ジャンクション部40中に配置される。また、一次元目の乾燥ゲル16の長手方向の枠体側の側面は、枠体34とは空隙により隔てられて接触しておらず、また、二次元目ゲル32側の側面は、ジャンクション部40中で一次元目ゲルと接触していない。
【0018】
次に、試料注入口14に試料液を添加する。通常、試料液には膨潤液(タンパク質変性剤や界面活性剤等を含む)も含まれる。なお、膨潤液は、従来の二次元電気泳動においても常用されているものであり、下記実施例にも好ましい組成の一例が記載されている。また、試料液も、従来と同様、二次元電気泳動により検出又は分離しようとする成分を含む任意のものでよく、通常、タンパク質、糖、核酸等の生体高分子を含むものである場合が多い。試料液は、試料注入口14の中央近傍に添加することが、ゲル全体にできるだけ均一に試料を施す上で好ましい。注入口14に試料液を添加すると、注入口14の内壁は上記の通り親水化処理がされているので、注入口の幅が狭いにも関わらず、試料液は瞬時にスロット状の注入口の両端部にまで広がり、乾燥ゲル16全体に均一に施される。乾燥ゲル16は、試料液と接触すると膨潤する。ゲル16が膨潤した後、電極18、18’に電圧を印加して電気泳動を行なう。この際の電圧や泳動時間等の条件は、従来と同様である。
【0019】
上記のようにして一次元目の電気泳動を行なった後、ゲル液化物充填孔19からゲルの溶融物を注入し、固化させてジャンクション部40にゲルを充填する。ゲルは一次元目ゲルや二次元目ゲルと同様、アガロースゲルやポリアクリルアミドゲル等でよい。本発明の好ましい態様では、ゲルと接触する部分は親水化処理が行なわれており、上記のようにジャンクション部の蓋12aの下面も親水化処理が行なわれているので、ゲルは迅速かつ均一にジャンクション部40の全域に充填される。充填したゲルが固化した後、二次元目ゲルを媒体として、一次元目ゲルの長手方向に直行する方向に電気泳動を行なう。これは、緩衝液槽36及び38に、それぞれ二次元目電気泳動のための緩衝液を入れ、一対の電極(図示せず)を緩衝液槽36及び38に入れた緩衝液内に挿入した状態でこれらの電極間に電圧を印加することにより行うことができる。なお、二次元目の電気泳動の際の電圧や泳動時間等の条件も従来と同様である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0021】
図1ないし図4に示す、本発明の好ましい態様の試料注入器具を作製した。試料注入口14のサイズは、幅0.5mm、長さ52mmであった。試料注入口14の内壁及びジャンクション部の蓋の下面に親水化処理を行なった。親水化処理は、具体的に次のようにして行なった。すなわち、注入器具の親水化処理を施さない部分を熱耐性テープ(、カプトンテープ、パーマセル社製)で覆った後、注入器具をプラズマ重合装置(日本シード社製)のベルジャー内に設置した。ベルジャー内の内圧を1×10−3 Pa以下まで下げた後、最初に、親水化処理面にヘキサメチルジシロキサン(HMDS)層が成層できるように、酸素プラズマ処理を行った。処理条件は、RFパワー:150W、マスフロー:20 ml/min、処理時間:180秒間で注入器具を酸素プラズマ処理した。その後、厚み約100 nmのHMDS層を成層した。成層条件は、RFパワー:150W、マスフロー:100 ml/min、処理時間:180秒間でHMDS層を成層した。最後に、成層したポリHMDS層を酸素プラズマ処理して親水性層とした。酸素プラズマ処理条件は、150W、マスフロー:20 ml/min、処理時間:60秒間で行った。
【0022】
一次元目のゲル16として、ポリアクリルアミド乾燥pH勾配固定化ゲル(インビトロジェン社製、厚さ0.02mm×短手方向の幅0.8mm×長手方向の長さ52mm)を長手方向の両端をカプロンテープで留めることで注入器具の下面に固定した。そのとき、試料注入口の底部の全面を乾燥ゲル16で塞ぐようにした。また、乾燥ゲル16の上面が注入器具本体の下面に付くようにし、支持板22が注入器具本体12と反対方向に向くようにした。このようにして作製した注入器具10を、プラスチック製の装置本体20の枠体34上の一端部上に置いた。乾燥ゲル16の長手方向の一側面は、枠体34の壁と接することがないよう空間で遮られている。また、乾燥ゲル16の長手方向のもう一方の側面は、ジャンクション部40により二次元目ゲル32とは隔てられている。二次元目の電気泳動用ゲル32はポリアクリルアミドゲルであり、その緩衝液には375mMトリス塩酸バッファー(pH8.8)を用いた。以上の構成から明らかなように、一次元目のゲル16と二次元目のゲル32とは互いに電気的に絶縁されている。
【0023】
次にタンパク質変性剤(尿素6M、チオウレア2M)、界面活性剤(CHAPS(同仁化学社製))2%(w/v)、還元剤(ジチオスレイトール)20mM、キャリアーアンフォライト(インビトロジェン社製)0.5%(v/v)を含む膨潤用溶液を用意し、試料液に該膨潤用溶液を添加し、膨潤用溶液入り試料液を20μL用意した。試料は、二次元電気泳動用マーカータンパク質(アミログルコシダーゼ、オボアルブミン、カルボニックアンヒドラーゼ、ミオグロビン)(シグマ社製)を用いた。該タンパク質は、Cy5(アマシャムバイオサイエンス社製)で蛍光標識した。
【0024】
上記試料入りの膨潤用溶液入り試料液を、注入器具に添加し、ゲル1を膨潤させた。添加から15分間静置後、一次元目の電気泳動用の電極を用いて等電点電気泳動を行った。
【0025】
電極間に当初から60mW/mm3以内の電力(0-5000 V (リニア)で4分間、5000-6000 V (リニア)で1分間、6000 Vで5分間)をかけ、合計10分間電気を流した。この時熱の発生によるゲルの乾燥や燃焼を防ぐため、ゲル16を0〜5℃になるようにペルチェ素子で冷却した。
【0026】
注入器具本体12のジャンクション部の蓋12aに設けたゲル液化物充填孔19を介して、95℃で加温し液状化した125mMトリス塩酸緩衝溶液(pH 6.8)、0.25%アガロース混合液を注入した。5分以内でアガロースはゲル化した。つぎに緩衝溶液槽36、38に二次元目の電気泳動用の緩衝溶液(0.19Mグリシン、SDS、25mMトリスアミノメタンを含む)を注入し、陰極として緩衝溶液槽36に、陽極として緩衝溶液槽38に電極を接触させ、二次元目の電気泳動を行った(定電圧200V、約15分間)。
【0027】
図5に一次元目の電気泳動に続いて行った二次元目の電気泳動後にサンプルが分離された二次元目ポリアクリルアミドゲルの像を示す。図5に示されるように、上記二次元電気泳動装置を用いて二次元電気泳動を行なった結果、試料中の各タンパク質は良好に分離された。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の二次元電気泳動装置の好ましい一具体例の斜視図である。
【図2】図1に示す二次元電気泳動装置の、装置本体の一部を除去して示す斜視図である。
【図3】図1及び図2に示す、本発明の試料注入器具の好ましい一具体例の試料注入口近傍の平面図、底面図及び正面図である。
【図4】図1及び図2に示す、本発明の試料注入器具の好ましい一具体例の試料注入口近傍の断面図である。
【図5】本発明の実施例において行った二次元電気泳動の結果を示す電気泳動写真である。
【符号の説明】
【0029】
10 試料注入器具
12 注入器具本体
14 試料注入口
16 一次元目の乾燥ゲル
18、18’ 一次元電気泳動用の電極
19 ゲル液化物充填孔
20 二次元電気泳動用装置本体
22 支持体
24、24’ 粘着テープ
26 親水性コーティング層
28 試料液
30 支持台
32 二次元目ゲル
34 枠体
36 緩衝液槽
38 緩衝液槽
40 ジャンクション部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の注入器具本体と、該注入器本体に設けられたスロット状の試料注入口であって、その内壁が親水化処理されている試料注入口と、該試料注入口の底部に配置された一次元目電気泳動用の乾燥ゲルとを具備する二次元電気泳動法用試料注入器具。
【請求項2】
前記試料注入口の幅が0.3mmないし1.0mmであり、前記親水化処理は、前記内壁上に、親水性層をプラズマ処理により形成することにより行なわれたものである請求項1記載の試料注入器具。
【請求項3】
前記親水性層は、
(a)水素プラズマ、酸素プラズマ及び窒素プラズマからなる群から選ばれる少なくとも一種のプラズマによる処理、
(b)ヘキサメチルジシロキサン及びヘキサジエンからなる群から選ばれる少なくとも一種をプラズマ重合して形成したコーティング層に上記(a)のプラズマ処理を施す、又は
(c)アクリル酸、プロパギルアルコール、アセトニトリル、アミノアセトアルデヒドジメチルアセタール、プロピルアミン、アリルアミン、ピリジンからなる群から選ばれる少なくとも一種をプラズマ重合する、ことにより形成されたものである請求項1又は2記載の試料注入器具。
【請求項4】
前記一次元目電気泳動用の乾燥ゲルは、支持体上に支持されており、該支持体が前記注入器本体の下面に懸架されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の試料注入器具。
【請求項5】
前記注入器本体には、二次元電気泳動用装置のジャンクション部にゲルを充填するためのゲル液化物充填孔が設けられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の試料注入器具。
【請求項6】
前記一次元電気泳動用のゲルの両端部に電圧を印加する一対の電極をさらに含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載の試料注入器具。
【請求項7】
前記試料注入口の内壁及びジャンクション充填ゲルと接触する面のみを親水化処理した請求項1ないし6のいずれか1項に記載の試料注入器具。
【請求項8】
前記一次元電気泳動用の乾燥ゲルは、等電点電気泳動用のpH勾配固定化ゲルである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の試料注入器具。
【請求項9】
装置本体と、該装置本体上に支持された二次元目電気泳動用ゲルと、該装置本体上に配置された請求項1ないし8のいずれか1項に記載の試料注入器具とを具備し、前記一次元目電気泳動用ゲルと前記二次元目電気泳動用ゲルの間には、ジャンクション部である空隙が形成されている二次元電気泳動用装置。
【請求項10】
前記装置本体は、前記二次元目電気泳動用ゲルを支持する支持台と、該支持台を囲包する枠体とを具備し、前記試料注入器具は、該枠体上に載置される請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記支持台の一方向の両端部と前記枠体との間には、それぞれ緩衝液槽が設けられ、前記一次元目電気泳動用ゲルは、一方の緩衝液槽の斜め上方に位置する請求項10記載の装置。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項に記載の二次元電気泳動用装置の前記試料注入器具の前記試料注入口に試料を注入する工程と、次いで一次元目の電気泳動を行なう工程と、次いでジャンクション部にゲルを充填する工程と、次いで二次元目の電気泳動を行なう工程とを含む二次元電気泳動法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−258685(P2006−258685A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78528(P2005−78528)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)