説明

二次沈殿が抑制された精製クロロゲン酸の製法

【課題】
二次沈殿が発生せず、風味的に良好な精製クロロゲン酸の、簡便かつ工業的に有利な製造方法の提供。
【解決手段】
生または焙煎したコーヒー豆抽出物を固形分濃度として屈折糖度(20℃)Bx8°〜Bx60°に濃縮した後、酸性白土および/または活性白土と接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品、保健衛生・医薬品などの天然抗酸化剤として有用な精製クロロゲン酸の製造方法に関し、更に詳しくは、抽出物の状態において経時的に二次沈殿が実質的に発生しない精製クロロゲン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは単に嗜好品としてだけではなく多くの機能性、生理学的効果を有することが判明しつつあり、その機能性成分としてクロロゲン酸類が注目されている。クロロゲン酸類の機能としては従来より抗酸化性(特許文献1、2)、抗変異原性(非特許文献1)、発ガン抑制(非特許文献2)、活性酸素消去能(非特許文献3)などが知られている。コーヒー豆からクロロゲン酸類を抽出・精製する提案はすでに幾つかなされており、例えば、生コーヒー豆粉の水性スラリーを蛋白質分解酵素および/または繊維素分解酵素の存在下で処理し、その水性抽出物を濃縮して濃厚溶液とするか、凍結乾燥又は噴霧乾燥することからなる食用天然抗酸化物質の製造方法(特許文献3)、生コーヒー豆粉を還流下に水抽出し、生成する水性抽出液を濃縮して濃厚溶液とするか、凍結乾燥又は噴霧乾燥することを特徴とする食用天然抗酸化物質の製造法(特許文献4)、生コーヒー豆を粗粉砕し、脱脂し、次いで平均粒径100μm以下に微粉砕するか又は生コーヒー豆を直ちに平均粒径100μm以下に微粉砕し、次いで脱脂し、得られた微粉末を熱水抽出し、抽出液を必要に応じて濃縮及び/又は乾燥することからなる、食品用天然抗酸化剤の製造方法(特許文献5)などが提案されている。さらに、コーヒーにはクロロゲン酸類以外の成分として、カフェインが含まれているが、カフェインを低減させたクロロゲン酸類の製造方法としてコーヒー生豆の水性溶媒抽出物を強陽イオン交換樹脂と接触させ、カフェインを除くことを特徴とするクロロゲン酸の精製方法(特許文献6)、コーヒー生豆の水性溶媒抽出物を合成吸着剤樹脂と接触処理し、吸着部を希アルカリ水溶液で脱着することを特徴とするクロロゲン酸の精製方法(特許文献7)、生コーヒー豆、コケモモの葉などの抽出物を架橋した修飾多糖類からなるモレキュラーシーブを用いたクロマトグラフィーを行いクロロゲン酸を精製する方法(特許文献8)、コーヒー生豆を含水エタノールにて抽出し、抽出液を塩酸分解し、さらに濃縮し、濃縮液をアルカリ性として有機溶媒洗浄を行い、中和後、多孔性重合樹脂にクロロゲン酸類を吸着させエタノールにて脱着し、エタノールを濃縮除去しクロロゲン酸類を精製する方法(特許文献9)、植物から得られるクロロゲン酸類を含む水溶性抽出物を活性炭処理後、活性炭に吸着した吸着物を有機溶媒あるいはそれらを含む水溶液によって溶離させる工程を備えることを特徴とする高濃度のクロロゲン酸類を含む組成物の製造方法(特許文献10)などが提案されている。
【0003】
しかしながら特許文献3〜5に記載の先行技術によって得られる抽出物は水性溶媒に可溶な成分が全て抽出される結果、クロロゲン酸の純度が低く、且つ、異味異臭及び着色物質を含有し、抗酸化剤としては満足できるものではなかった。また、特許文献6〜10に記載の方法は、工程が長く操作が煩雑であり実用上は必ずしも満足のいく方法とはいえなかった。
【0004】
そこで、コーヒー抽出物から簡便な方法でカフェインを除去する方法として、カフェインを含有する水溶液を活性白土または酸性白土と接触させることにより、水溶液から選択的にカフェインを除去する方法(特許文献11)が提案されている。また、コーヒー抽出液を活性白土または酸性白土と接触させる方法では、その他の不純物も除去されることも知られている(特許文献12、特許文献13)。
【0005】
【非特許文献1】Nuyen V.C.,Araki Y.,Jinnouchi T.and Murai H.:ASIC,16 Colloque,Kyoto,88−93(1995)
【非特許文献2】T.Tanaka and H.Mori:Proceedings of the 16th International Scientific Colloquium on Coffeee 1995,Vol.1,pp.79−87
【非特許文献3】Araki Y.and Nguyen V.C.:ASIC,16 Colloque,Kyoto,104−108(1995)
【特許文献1】特開平4−27374号公報
【特許文献2】特開平6−38723号公報
【特許文献3】特開昭58−138347号公報
【特許文献4】特公昭61−30549号公報
【特許文献5】特開昭62−111671号公報
【特許文献6】特開平4−145048号公報
【特許文献7】特開平4−145049号公報
【特許文献8】特表昭63−502434号公報
【特許文献9】特許第2983386号公報
【特許文献10】特開2005−263632号公報
【特許文献11】特開平6−142405号公報
【特許文献12】特開2006−87306号公報
【特許文献13】特開2006−117631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記発明はいずれもクロロゲン酸の抽出効率、抽出物中の純度、不純物に着目した発明であるが、二次沈殿に着目したものではなかった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、抽出物の状態で安定で沈殿が生じず、さらに経時変化を受けた後においても二次沈殿が発生しない精製クロロゲン酸の、簡便かつ工業的に有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者などはこのような実情に鑑み、鋭意研究を行ったところ、コーヒー抽出物を固形分濃度として屈折糖度(20℃)Bx8°以上に濃縮した後に、酸性白土および/または活性白土と接触させることにより、製造直後において安定で沈殿が生じず、また、抽出物を加熱殺菌しても、さらに長期間保存しても二次沈殿が発生しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明は、生または焙煎したコーヒー豆抽出物を固形分濃度として屈折糖度(20℃)Bx8°〜Bx60°に濃縮した後、酸性白土および/または活性白土と接触させることを特徴とする、精製クロロゲン酸の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、生または焙煎したコーヒー豆抽出濃縮物と酸性白土および/または活性白土との接触処理をpH2〜7の酸性条件下で行うことを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、実質的に二次沈殿が発生しないことを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造方法を提供するものである。
さらにまた、本発明は、生または焙煎したコーヒー豆抽出物が、高濃度濃縮の後、酸性条件下でエタノール水溶液またはエタノールにて抽出されたものであることを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造方法を提供するものである。
さらにまた、本発明は前記のいずれかに記載の方法により得られた精製クロロゲン酸を高濃度濃縮後、酸性条件下、エタノール水溶液またはエタノールにて抽出することを特徴とする、精製クロロゲン酸の製造方法を提供するものである。
本発明では、さらに、生または焙煎したコーヒー豆抽出物が中性からアルカリ条件下で合成吸着樹脂処理されたものであることを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造方法も提供する。
さらにまた、本発明は、生または焙煎したコーヒー豆抽出物が陽イオン交換樹脂処理されたものであることを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造方法をも提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の精製クロロゲン酸抽出物は、製造直後において安定で沈殿が生じず、また、抽出物を加熱殺菌しても、さらに長期間保存しても二次沈殿が発生せず安定である。したがって、本発明品を工業的に製造する際には充填を均一に行うことが可能である。また、本発明品を工業的に使用する場合においては、容器の底に沈殿物が多量に付着することが無いため、容器をよく振ってから使用するという手間が省け、また、仕込み時において容器からの流出性が良いため、容器の底からスパチェラで掻き出すなどの余計な作業を行う必要が無く、作業性が極めて良好である。また、本発明の方法では、カフェインが低減されるため、子供や老人でも安心して使用することができる。さらにまた、本発明の方法では人体に有用なクロロゲン酸類やトリゴネリンは低減しない。さらにまた、本発明の方法では、有機酸組成のバランスは処理前と変わらないため、風味的に優れている。本発明では、これらの効果を併せ持つ、有用なクロロゲン酸の製造方法を、簡便な方法で、かつ、工業的に有利な方法で提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明をその実施の形態に即して詳細に説明する。
【0011】
本発明でいうクロロゲン酸としては、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソクロロゲン酸、ネオクロロゲン酸ならびにこれらの酸のナトリウム、カリウムのごとき水溶性塩類などのクロロゲン酸類を挙げることができる。
【0012】
本発明に使用するコーヒー豆は、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種などのいずれでも良く、その種類、産地を問わずいかなるコーヒー豆でも利用することができる。
【0013】
本発明におけるコーヒー豆抽出物は、コーヒー豆から抽出したものを使用しても良いが、市販のコーヒーエキスを濃縮しても良く、また、コーヒーエキス粉末、インスタントコーヒーなども使用することができる。
【0014】
コーヒー豆から抽出する場合は、クロロゲン酸の含有量を考慮した場合、生豆から抽出することが一般的であるが、焙煎したコーヒー豆でも使用することができる。特に、クロロゲン酸類が生豆に対し実質的に減少しない範囲の浅い焙煎、すなわちL値として30〜55、好ましくはL値45〜55の焙煎を行うと生豆特有の生臭みが消失するため、本発明の原料として好ましく例示できる。
【0015】
L値とはコーヒーの焙煎の程度を表す指標で、コーヒー焙煎豆の粉砕物の明度を色差計で測定した値である。黒をL値0で、白をL値100で表す。従って、コーヒー豆の焙煎が深いほど数値は低い値となり、浅いほど高い値となる。
【0016】
参考までに、通常飲用に利用される焙煎豆のL値はほぼ次に示す程度である。イタリアンロースト:16〜19、フレンチロースト:19〜21、フルシティーロースト:21〜23、シティーロースト:23〜25、ハイロースト:25〜27,ミディアムロースト:27〜29。これより浅い焙煎は通常の飲用では一般的にはあまり使用されない。
【0017】
抽出溶媒としては、水が好ましいが、含水親水性有機溶媒、例えば、含水率5重量%以上、好ましくは含水率約5〜約90重量%のメタノール、エタノール、2−メチルエチルケトン、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの含水水混和性有機溶媒を例示することができる。
【0018】
これらの水または含水親水性有機溶媒は通常コーヒー豆粉砕物1重量部に対して約2〜約50重量部を使用し、温度約20℃〜約100℃にて抽出を行う。抽出操作はバッチ式またはカラムによる連続式などの従来既知の抽出方法をそのまま採用することができる。
【0019】
コーヒー抽出液は引き続き、固形分濃度として屈折糖度(20℃)でBx8°〜Bx60°、好ましくはBx10°〜50°、さらに好ましくはBx10°〜40°に濃縮する。濃縮物の濃度がこの範囲より低い場合、酸性白土および/または活性白土と接触処理後において、二次沈殿の発生が十分抑制されない。また、濃縮物濃度がこの範囲を超えて高い場合、粘度により、酸性白土および/または活性白土と接触処理が困難となり、また、作業性上効率が悪くなり、工業的に有利な方法とはならない。濃縮物の濃度がこの範囲内においてのみ、本発明の優れた効果である、二次沈殿の発生抑制効果が得られる。かかる濃縮方法は濃縮することができればいかなる方法を用いても良く、例えば、常圧濃縮、減圧濃縮、RO膜濃縮、凍結濃縮などを例示することができる。また、カラム抽出やインスタントコーヒーの希釈などでは、濃縮工程を経なくとも、この濃度範囲内とすることも可能であり、その場合は濃縮工程は不要である。
【0020】
次いで、この濃縮物を酸性白土および/または活性白土と接触処理する。本発明に用いる活性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸などの鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土を更に、酸処理することにより比表面積が変化し、脱色能の改良および物性が変化することが知られている。通常活性白土は、油脂の脱色能、不純物吸着能を有することから主として、油脂及び石油鉱物油の精製に使用される。活性白土、酸性白土は、共に一般的な化学成分として、SiO、Al 、Fe2、CaO、MgOなどを有するが、本発明に使用する場合、SiO/Al比は、3.0〜6.0、好ましくは、4.0〜5.0のものが適する。また、比表面積は、50〜350m2 /gが好ましく、pH(5%サスペンジョン)は、5〜10の範囲のものが好ましく、特に6〜9.8が好ましい。
【0021】
濃縮物と酸性白土および/または活性白土との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理などのいかなる方法も採用することができる。一般的には粉末状酸性白土および/または活性白土を添加、攪拌し、濾過操作により酸性白土および/または活性白土を除去した濾液を得る方法、あるいは顆粒状の酸性白土および/または活性白土を充填したカラムを用いて連続処理する方法が採用される。上記接触処理の条件は、濃縮液の濃度などに応じて適宜選択することができるが、例えば、バッチ式による処理の場合、濃縮物の固形分重量に対し、粉末状の酸性白土および/または活性白土を10〜200重量部、好ましくは20〜100重量部添加し、約10℃〜約40℃にて、約30分〜約5時間攪拌操作後、濾過操作により粉末状の酸性白土および/または活性白土を除去した濾液を得る方法が例示できる。
【0022】
また、コーヒー豆抽出濃縮物と酸性白土および/または活性白土との接触処理はpH2〜7の酸性条件下で行うことが好ましい。pHが7を越えた条件、または、pHが2を下回った条件で処理を行った場合、二次沈殿の発生が十分に抑えきれない。
【0023】
コーヒー抽出濃縮物を酸性白土および/または活性白土と接触処理する前または後に、酸性条件下、エタノール水溶液またはエタノールにて抽出することによる、不純物除去工程を行っても良い。一般にコーヒー豆は焙煎することにより、焙煎香が生じる。この焙煎香は、コーヒー豆より抽出して得られるクロロゲン酸を有効成分として、飲料のフレーバー、色素などの安定性(抗酸化性)を目的として使用する場合には、香りの面でも、好ましくない為除く必要がある。また、風味劣化の原因ともなる。この焙煎香は分子量150以下のフェノール、ポリフェノール類と予想される。また、この、酸性条件下、エタノール水溶液またはエタノールにて抽出することにより、カフェイン含量についても低減させることが可能である。酸性条件下、エタノール水溶液またはエタノールによる抽出は以下に記載する方法で行う。まず、コーヒー抽出物を高濃度となるまで濃縮する。高濃度の範囲としては、水分含量が50%以下であることが好ましく、また、乾燥粉末の形態でも使用することができる。かかる濃縮または乾燥方法は高濃度まで濃縮することができればいかなる方法を用いても良く、例えば、常圧濃縮、減圧濃縮、RO膜濃縮、凍結濃縮、噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などを例示することができる。高濃度濃縮コーヒーエキスの抽出に使用するエタノール水溶液またはエタノールの水/エタノールの重量比の好ましい範囲としては30/70〜0/100、好ましくは20/80〜0/100、より好ましく10/90〜0/100を挙げることができる。水がこの範囲を超えて多い場合、劣化原因となる不純物の除去率は高くなるが、クロロゲン酸自体が抽出されてしまい、その収量が低下する。また、抽出温度としては20℃〜70℃、好ましくは25℃〜60℃を例示することができる。抽出温度がこれより低いと、劣化原因成分の除去率が下がってしまい効果が少ない。抽出温度がこれより高いと、劣化原因成分の除去率は高くなるが、クロロゲン酸自体が抽出されてしまい、その収量が低下する。エタノール水溶液またはエタノールの使用量としては高濃度濃縮コーヒーエキス1重量部に対し、約1倍量〜約10倍量を挙げることができる。この操作により飲食品に添加し保存を行った場合に、品質劣化が起こりにくく、また刺激臭が生成しない精製クロロゲン酸が得られる。
【0024】
また、コーヒー抽出濃縮物を酸性白土および/または活性白土と接触処理する前に中性からアルカリ条件下での合成吸着樹脂処理または陽イオン交換樹脂処理などの公知の脱カフェイン処理を行っても良い。アルカリ条件下での合成吸着樹脂による脱カフェイン処理方法としては以下の方法を例示することができる。コーヒー抽出液を、水抽出の場合はそのまま、また、含水親水性有機溶媒抽出液の場合は、蒸留などの手段によって該有機溶媒の含有量を、例えば、約5重量%以下とする。その後、抽出液のpHを約7〜約12の中性からアルカリ性とした後、合成吸着樹脂と接触処理することによってコーヒー豆抽出液中のカフェイン及びトリゴネリンなどの抽出成分を該合成吸着樹脂に吸着せしめる。かかるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどを挙げることができる。合成吸着樹脂としては、例えば、比表面積約300m/g〜約700m/g;細孔容積約0.7〜約1.1ml/g;細孔半径約5nm〜約130nmの範囲の物性を有するスチレン・ジビニルベンゼン系多孔性合成吸着樹脂を挙げることができる。このような合成吸着樹脂は市場で容易に入手することができ、例えば、ダイヤイオンHP10、同HP20、同HP30、同HP40、同HP50;、同SP206、同SP207、同SP−70(以上三菱化学(株));アンバーライトXAD−2、同XAD−4(以上ローム アンド ハース社);日立ゲル#3010、同#3011、同#3019(以上日立化成工業(株))などを挙げることができる。また、上記スチレン・ジビニルベンゼン系合成吸着樹脂と同程度の比表面積、細孔容積及び細孔半径を有するメタクリル酸エステル系多孔性合成吸着樹脂を例示することができ、かかる樹脂の市販品としては、例えば、ダイヤイオンHP1MG、同2MG(以上三菱化学(株));アンバーライトXAD−7、同XAD−8i(以上ローム アンド ハース社)などを挙げることができる。このような合成吸着樹脂との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理などのいかなる態様も採用することができるが、一般的には該合成吸着樹脂を充填したカラムによる連続処理が採用される。
【0025】
また、陽イオン交換樹脂処理による脱カフェイン処理方法としては以下の方法を例示することができる。コーヒー抽出液を、水抽出の場合はそのまま、また含水親水性有機溶媒抽出液の場合は、蒸留などの手段によって該有機溶媒の含有量を、例えば、約5重量%以下とした後、陽イオン交換樹脂と接触処理することによってコーヒー抽出液中のカフェインを吸着除去することができる。かかる陽イオン交換樹脂としては、例えば、SK−116、SK−1B(以上三菱化学(株));アンバーライトIR−120、同200(以上ローム アンド ハース社)などを挙げることができる。このような陽イオン交換樹脂との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理などのいかなる態様も採用することができるが、一般的には該樹脂を充填したカラムによる連続処理が採用される。かかる接触処理の条件は、コーヒー豆の種類、抽出液の濃度などに応じて適宜に選択することができるが、例えば、カラムによる連続処理の条件としては、陽イオン交換樹脂1容量に対して約1容量〜約50容量のコーヒー抽出液を、液温約10℃〜約30℃、SV約0.5〜約50程度の流速で通液するごとき条件を例示することができる。かくして得られた脱カフェインコーヒー抽出液は、陽イオン交換樹脂との接触処理により酸性となっているため、既知のアルカリ性物質を用いて中和することができる。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどを例示することができる。また、中和処理に代えて、予めOH型にしておいた陰イオン交換樹脂と接触させて、該溶液の液性を中性とすることによって中和による生成塩を含有しない、脱カフェインコーヒー抽出液とすることができる。
【0026】
本発明の、酸性白土および/または活性白土と接触処理により精製したクロロゲン酸抽出物は、先に記載した方法により得た後、さらに減圧または常圧にて濃縮し、濃縮物とすることができる。また、濃縮の途中あるいは濃縮後にグリセリン、プロピレングリコール、エタノールなどの保留剤を添加することにより、状態の安定化をはかり、また、クロロゲン酸類の含有濃度の調整を行うこともできる。また、該濃縮液はそのまま、あるいはデキストリン類、デンプン類、天然ガム類、糖類その他の賦形剤を添加して、既知の方法により乾燥して、粉末状、顆粒状その他任意の固体形態とすることもできる。
【0027】
かくして得られた精製クロロゲン酸抽出物は、安定で沈殿が生じず、また、抽出物を保存した後も二次沈殿を生じず安定である。さらにコーヒー飲料やその他の清涼飲料などに添加した後であっても沈殿を生じず安定で、また、加熱殺菌、保存、光などの影響による経時変化後においても二次沈殿が発生せず、安定である。また、本発明の方法では、カフェインが低減されるため、子供や老人でも安心して使用することができる。さらにまた、本発明の方法では人体に有用なクロロゲン酸類やトリゴネリンは低減しない。さらにまた、本発明の方法では、有機酸組成のバランスは処理前と変わらないため、風味的に優れている。本発明では、これらの効果を併せ持つ、有用な精製クロロゲン酸の製造方法を、簡便な方法で、かつ、工業的に有利な方法で提供することができる。
以下、本発明を実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0028】
実施例1
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、高さ31cm)、95℃に加温した軟水3700gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(収量2500g、Bx11.5°)を得た。得られたコーヒー抽出液を25℃に冷却後、抽出液にミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を143.8g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)濾紙(東洋濾紙(株))にケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液2450g(Bx10.0°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物490g(本発明品1)を得た。
【0029】
比較例1
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、高さ31cm)、95℃に加温した軟水3700gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(収量2500g、Bx11.5°)を得た。得られたコーヒー抽出液をNo.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液2450g(Bx11.2°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物549g(比較品1)を得た。
【0030】
比較例2
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、高さ31cm)、95℃に加温した軟水7400gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(収量6200g、Bx5.2°)を得た。得られたコーヒー抽出液を25℃に冷却後、抽出液にミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を161.2g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液6100g(Bx4.5°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物549g(比較品2)を得た。
【0031】
実施例2
本発明品1または比較品を90℃、10分間加熱殺菌した後100ml透明容器に充填し、5℃暗所6ヶ月および50℃暗所3ヶ月の2条件にて保管し、経時的な沈殿の状態を観察した。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示した通り、コーヒー豆抽出物を濃縮のみ行いそのまま添加した比較品1は製造直後は沈殿が認められないものの、保存試験開始後まもなくすぐに沈殿を発生し始めた。一方、酸性白土処理した本発明品1および比較品2は、比較品1と比べて明らかに沈殿の発生が少なかった。比較品2は抽出液のBx5.2°の濃度にて酸性白土処理したものであるが、比較品2は、保存により沈殿が発生する傾向が見られた。一方、本発明品1を添加した飲料は、5℃暗所1ヶ月および50℃暗所3週間の範囲内で沈殿の発生は全く認められず、5℃暗所6ヶ月および50℃暗所3ヶ月でも沈殿はわずかであり、保存安定性が良いことが確認された。
【0034】
実施例3
実施例1と全く同様の方法の抽出を10回繰り返し、抽出液25,000gを得た(Bx11.7°)。得られた抽出液をロータリーエバポレーターによる濃縮を行いBx50°の濃縮液5800gを得た。この濃縮液を希釈し、Bx1°の希釈液25,000g、Bx5°の希釈液5,000g、Bx10°の希釈液2,500g、Bx20°の希釈液1、250g、Bx30°の希釈液833g、Bx40°の希釈液625g(各コーヒー豆862g相当)を調製した。これらの希釈液またはBx50°濃縮液500gを温度25℃とした後、各抽出液にミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を125g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液を得た。それぞれの濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物を得た。Bx1°の希釈液からの処理品を比較品3、Bx5°希釈液からの処理品を比較品4、Bx10°希釈液からの処理品を本発明品2、Bx20°希釈液からの処理品を本発明品3、Bx30°希釈液からの処理品を本発明品4、Bx40°希釈液からの処理品を本発明品5とした。しかしながら、Bx50°からの処理は、酸性白土の濾過にきわめて時間がかかり、作業性が極めて悪く、効率的ではなかった。
それぞれの実施品の各種成分分析値を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
分析方法
クロロゲン酸の分析方法:
適当量の試料(約0.05g)を100mlメスフラスコに精秤し、イオン交換水にて100mlとする。その5mlを100mlメスフラスコにとり、イオン交換水を加えて100mlに希釈し、希釈液の波長325nmの吸光度を測定する。ここで測定した吸光度をA、試料採取量をBとしたとき、次式によりクロロゲン酸量を算出する(クロロゲン酸の325nmにおける吸光係数を52000として計算する)。
クロロゲン酸(g)={A×(100÷5)×(50÷B)}÷52000
カフェイン、トリゴネリンおよび有機酸の分析方法:HPLC法
表3に示したとおり、酸性白土処理により収量およびカフェイン含量は低減するが、その他の成分は若干増加するが、これは、カフェインおよび固形分が減少したため、相対的に増加したものと考えられる。また、有機酸類の組成は処理前とそれほど大きく変化しておらず、未処理のものとほぼ同様の組成比であった。
【0037】
実施例4(官能評価)
本発明品2〜5、比較品1、比較品3または比較品4のいずれか1品を水に0.2%添加し、10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。官能評価の結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示したとおり、酸性白土処理をBx1°で行った比較品3およびBx5°で行った比較品4は雑味が感じられたが、Bx10°〜Bx40°で行った本発明品2、3、4、5はいずれも雑味が無く、すっきりしていた。
したがって、本発明品の精製クロロゲン酸は、さまざまな飲料、食品に雑味を与えずに、クロロゲン酸の持つ有用な効果を与えることができる。
【0040】
実施例5
本発明品2〜5、比較品1、比較品3または比較品4のそれぞれを90℃、10分間加熱殺菌後100ml透明容器に充填し、5℃暗所6ヶ月および50℃暗所3ヶ月2条件にて保管し、経時的な沈殿の状態を観察した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示した通り、酸性白土処理をBx1°またはBx5°にて行った比較品3または比較品4と比べ、Bx10°、Bx20°、Bx30°、Bx40°で行った本発明品2〜5は、明らかに沈殿の発生が少なかった。したがって、コーヒー抽出物をある一定濃度以上濃縮した状態で酸性白土処理することにより、2次的に沈殿が発生せず、風味的にもすっきりとした精製クロロゲン酸が製造できることが認められた。
【0043】
実施例6
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、長さ31cm)、95℃に加温した軟水を3700gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(抽出液収量2500g、Bx11.7゜)を得た。得られたコーヒー抽出液は20℃に冷却後、ロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx72.5°の高濃度濃縮コーヒーエキスを得た(収量401.8g、固形分60.4%、pH5.74、クロロゲン酸16.7%、カフェイン5.9%)。濃縮液に4N塩酸約35.0gを加え、pHを4.5とした後、さらに水11.5gを加え、Bx66.0゜(全液量448.3g、水分含量45.0%)とした。このものを室温下で攪拌しながら、一級95%エタノール(日本アルコール販売、エタノール含量92W/W%)583.0gを30分かけて滴下し、さらに60分間攪拌を続けた(最終の水/エタノール=29.2/70.8)。その後、不溶物を、濾紙(No.2、150mm)にて吸引濾過し、濾液935.2gを得た。濾液をロータリーエバポレーターにて濃縮し、濃縮物218.6g(Bx78.0゜、固形分65%、クロロゲン酸26.8%、カフェイン5.4%)を得た。濃縮物に水を加えBx20゜に希釈し(Bx20゜希釈液量852.5g)、ミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を85.2g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液806.1g(Bx17.4°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物350.6g(本発明品6:固形分40.0%、クロロゲン酸15.7%、カフェイン2.6%)を得た。
【0044】
実施例7
本発明品3(Bx50゜)585gを調製し(コーヒー豆1000g相当)、ロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx72.5°の高濃度濃縮コーヒーエキスを得た(収量403.4g、固形分60.4%、pH5.74、クロロゲン酸16.6%、カフェイン5.9%)。濃縮液に4N塩酸約29.9gを加え、pHを4.5とした後、さらに水6.1gを加え、Bx66.0゜(全液量381.1g、水分含量45.0%)とした。このものを室温下で攪拌しながら、一級95%エタノール(日本アルコール販売、エタノール含量92W/W%)571.7gを30分かけて滴下し、さらに60分間攪拌を続けた(最終の水/エタノール=29.2/70.8)。その後、不溶物を、濾紙(No.2、150mm)にて吸引濾過し、濾液915.4gを得た。濾液をロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx50゜の濃縮物407.6g(本発明品7:固形分39.8%、クロロゲン酸14.4%、カフェイン2.8%)を得た。
【0045】
実施例8
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、長さ31cm)、95℃に加温した軟水を3700gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(抽出液収量2500g、Bx11.7゜)を得た。得られたコーヒーエキスは20℃に冷却後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液2450gを得た。この抽出液に10%水酸化ナトリウム水溶液58gを加え、pHを10に調整した。この溶液を、合成吸着樹脂(SP−70)600mlを充填したカラムにSV=2.5で通液してカフェインを吸着させた。得られた通過液はpHを酸性とするため、陽イオン交換樹脂(SK−116)200mlを充填したカラムに通液し(ナトリウムイオンも除かれる)、さらに水押して、脱カフェインコーヒー抽出液2750g(Bx7.7゜、pH4.2、クロロゲン酸2.28%、カフェイン不検出)を得た。引き続き、ロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx20゜の濃縮液1058gを得た(pH4.4、クロロゲン酸5.93%、カフェイン不検出)。引き続き、ミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を105.8g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液1015g(Bx17.4°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物353.2g(本発明品8:固形分39.6%、クロロゲン酸15.2%、カフェイン不検出、pH4.5)を得た。
【0046】
実施例9
実施例8において、陽イオン交換樹脂処理を行わない以外は実施例8と全く同様の操作を行い、Bx50゜の濃縮物362.4g(本発明品9:固形分40.0%、クロロゲン酸14.9%、カフェイン不検出、pH10.2)を得た。
【0047】
実施例10
5LカラムにL値51.5に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gを充填し(カラム内径14.5cm、長さ31cm)、95℃に加温した軟水を3700gをカラム上部から送り込み、1時間静置後抽出液を抜き取り、抽出液(抽出液収量2500g、Bx11.7゜)を得た。得られたコーヒーエキスは20℃に冷却後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液2450gを得た。この抽出液を陽イオン交換樹脂(SK−116)1500mlを充填したカラムに通液してカフェインを除き、さらに水押して、脱カフェインコーヒー抽出液2855g(Bx7.5゜、pH2.2、クロロゲン酸2.35%、カフェイン不検出)を得た。引き続き、ロータリーエバポレーターにて濃縮し、Bx20°(pH2.2、クロロゲン酸6.1%、カフェイン不検出)のコーヒーエキス1070gを得た。濃縮液に、ミズカエースNo600(水澤化学工業(株))を103.5g(Bx換算の固形分量の50%)加え、25℃にて30分間攪拌した後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液1020g(Bx17.4°)を得た。この濾液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、Bx50°の濃縮物358.6g(本発明品10:固形分40.0%、クロロゲン酸15.4%、カフェイン不検出)を得た。
【0048】
実施例11
実施例10において、陽イオン交換樹脂(SK−116)にて脱カフェインコーヒー抽出液(pH2.2)を10%水酸化ナトリウム水溶液にてpH10.0に調製した以外は実施例9と全く同様の操作を行い、Bx50゜の濃縮物370.5g(本発明品11:固形分40.0%、クロロゲン酸15.1%、カフェイン不検出、pH10.6)を得た。
【0049】
本発明品3および6〜11の固形分、クロロゲン酸およびカフェイン分析値を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
表5に示したとおり、コーヒー抽出物を高濃度濃縮の後、酸性条件下でエタノール水溶液にて抽出した後、Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品6およびコーヒー抽出物をBx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した後、高濃度濃縮し、酸性条件下でエタノール水溶液にて抽出した濃縮物である本発明品7は本発明品3と比べて、クロロゲン酸含量が高く、かつ、カフェイン含量が少なく、クロロゲン酸が精製されていた。また、コーヒー豆抽出物をアルカリ条件下で合成吸着樹脂処理し、脱カフェインした後Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品8およびコーヒー豆抽出物を陽イオン交換樹脂処理し、脱カフェインした後Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品9は本発明品3と比べて、クロロゲン酸含量が高く、かつ、カフェインに関しては全く含まれておらず、高純度のクロロゲン酸が得られていた。また、アルカリ性での合成吸着剤処理による脱カフェイン処理の後、pH調整を行わずアルカリ性にて酸性白土処理を行った本発明品9はpH調整を行い酸性で酸性白土処理を行った本発明品8と成分量はほぼ同様であった。陽イオン交換樹脂処理による脱カフェイン処理液(pH2.2)を酸性白土処理した本発明品9と、陽イオン交換樹脂処理による脱カフェイン処理液を水酸化ナトリウム水溶液でpH10に調整してから酸性白土処理を行った本発明品11についても成分量はほぼ同様であった。
【0052】
実施例12
本発明品3または本発明品6〜11のいずれか1品を水に0.2%添加し、10名の良く訓練されたパネラーにより官能評価を行った。官能評価の結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

表6に示したとおり、本発明品3、本発明品6〜11はいずれも雑味が無く、すっきりしていた。したがって、本発明品の精製クロロゲン酸は、さまざまな飲料、食品に雑味を与えずに、クロロゲン酸の持つ有用な効果を与えるものと考えられる。
【0054】
実施例13
本発明品3または本発明品6〜11のそれぞれを90℃、10分間加熱殺菌後100ml透明容器に充填し、5℃暗所6ヶ月および50℃暗所3ヶ月2条件にて保管し、経時的な沈殿の状態を観察した。結果を表7に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
表7に示した通り、コーヒー抽出物をBx20゜まで濃縮して酸性白土処理のみを行った本発明品3は、50℃、1ヶ月または5℃3ヶ月の保存でわずかに沈殿が発生した。しかしながら、酸性白土処理をコーヒー抽出物を高濃度濃縮の後、酸性条件下でエタノール水溶液にて抽出した後、Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品6、コーヒー抽出物をBx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した後、高濃度濃縮し、酸性条件下でエタノール水溶液にて抽出した濃縮物である本発明品7、コーヒー豆抽出物をアルカリ条件下で合成吸着樹脂処理し、脱カフェインした後Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品8およびコーヒー豆抽出物を陽イオン交換樹脂処理し、脱カフェインした後Bx20゜まで濃縮し、酸性白土処理した本発明品10は保存を行っても全く二次沈殿が発生せず、非常に安定であることが認められた。
【0057】
一方、酸性白土処理をpH10のアルカリ性条件下にて行った本発明品9および本発明品11は保存により二次沈殿が発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生または焙煎したコーヒー豆抽出物を固形分濃度として屈折糖度(20℃)Bx8°〜Bx60°に濃縮した後、酸性白土および/または活性白土と接触させることを特徴とする、精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項2】
生または焙煎したコーヒー豆抽出濃縮物と酸性白土および/または活性白土との接触処理をpH2〜7の酸性条件下で行うことを特徴とする、請求項1に記載の精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項3】
実質的に二次沈殿が発生しないことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項4】
生または焙煎したコーヒー豆抽出物が、高濃度濃縮の後、酸性条件下でエタノール水溶液またはエタノールにて抽出されたものであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の方法により得られた精製クロロゲン酸を高濃度濃縮後、酸性条件下、エタノール水溶液またはエタノールにて抽出することを特徴とする、精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項6】
生または焙煎したコーヒー豆抽出物が中性からアルカリ条件下で合成吸着樹脂処理されたものであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の精製クロロゲン酸の製造方法。
【請求項7】
生または焙煎したコーヒー豆抽出物が陽イオン交換樹脂処理されたものであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の精製クロロゲン酸の製造方法。

【公開番号】特開2008−266144(P2008−266144A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107026(P2007−107026)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】