説明

二次荷電粒子発生装置

【課題】陽子ビームを入射して二次荷電粒子を発生させる金属性ターゲットで、核破砕反応から発生する多量の熱量を効率よく連続して迅速に除熱する。
【解決手段】二次荷電粒子発生ターゲット1は、円板状に形成されて半径方向が縦方向に配置され、横軸3に固着されて回転される。下側の一部が、水槽6に貯留されてオーバーフローする冷却水11に直接浸漬されて、浸漬部22が水冷される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大強度加速施設の陽子ビームを利用する核破砕実験施設における二次荷電粒子発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大強度の陽子ビーム(12kW)をターゲットに衝突させて実験に使用する二次荷電粒子(π中間子,K中間子,ミューオン,ニュートリノ,反陽子など)の生成を連続的(5000時間)に供給する設備においては、ターゲットに衝突後核破砕が生じて二次荷電粒子とともに入射エネルギーに応じた熱(約10kW)が発生する。この熱を効率的に除去する方法が求められていた。
【0003】
特許文献1には核反応ターゲットとして、ターゲット材を蒸着した円筒体表面にビームを受け、消耗すると円筒体を平行移動させて、さらに円筒体内部に冷却水を流して長時間のビーム照射連続運転を可能にしていることが紹介されている。
【0004】
特許文献2にはX線管用回転ターゲットとして、高い比強度と高熱伝導度が得られる構造が示されており、ターゲットに衝突して発生した熱エネルギーを比強度と熱伝導度に優れた炭素複合材料を積層した構造が紹介されている。
【0005】
特許文献3には18F製造ターゲットとして、陽子ビームの照射エネルギーによる熱エネルギーを効率的に取り去るためにターゲット室背面に施されたターゲット室を冷却する方式が紹介されている。
【0006】
特許文献4には電子ビーム照射装置として、電子ビーム透過部の過大な熱負荷を防止するために、高原子番号及び高融点からなる円板形ターゲットを用いることが紹介されている。
【0007】
二次荷電粒子発生用ターゲットの冷却構造として1)固定ターゲット方式で中心部から発生した熱を周辺部で冷却する構造や、2)ビームが当たる箇所を変化させて発熱箇所の分散化させる構造のものが知られている。
【0008】
また、冷却水流路を設けて伝熱金属を介して間接的に二次荷電粒子発生用ターゲット冷却し、装置全体を回転させる構造などが知られている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−15500号公報
【特許文献2】特開平8−250053号公報
【特許文献3】特開平9−54196号公報
【特許文献4】特開2000−249800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
連続した入射陽子ビームをターゲットに照射して二次荷電粒子を発生しようとした場合、ターゲットの一部に集中すると材料の変形や溶融の恐れがあり、その対策として、固定ターゲットの周辺に熱伝達率のよい冷却熱浴ブロックを設けることや、ターゲットを回転させて発熱が集中するのを避ける工夫や、回転ターゲットを水に漬けて冷却する概念が考えられてきた。さらに、熱伝導のよい金属を介して冷却水を循環させて冷却(約1kW)する方法も検討されてきた。しかしながら、大強度陽子ビームの衝突により核破砕反応から発生する多量の熱量を効率よく連続除熱できる二次荷電粒子ターゲットの除熱方式は確立されていなかった。
【0011】
ターゲット円盤を水槽に入れて回転させると空気の巻き込み現象が生じてターゲット表面と冷却水との接触面積が少なくなり、その結果として冷却効率が落ちる原因となっていた。
【0012】
ターゲットに陽子ビームを照射した場合の放射化発熱は核破砕反応で生じる二次荷電粒子発生量の増加に伴い、ターゲット円盤厚さ方向で後流側ほど大きくなる。その結果、発熱量を抑えるために板厚を薄くするか、円盤径を大きくするか、回転数を上げる必要があった。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑み、核破砕反応から発生する多量の熱量を効率よく連続して迅速に除熱できる二次荷電粒子ターゲットを備えた二次荷電粒子発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、大強度加速器から陽子ビームを入射して二次荷電粒子を発生させる金属性の二次荷電粒子発生ターゲットを備えた二次荷電粒子発生装置において、
前記二次荷電粒子発生ターゲットは、円板状に形成されて半径方向が縦方向に配置され、該二次荷電粒子発生ターゲットを回転する駆動装置が設けられ、前記二次荷電粒子発生ターゲットの下側一部を貯留した冷却水に直接浸漬して水冷を行う水槽が設けられることを特徴とする二次荷電粒子発生装置を提供する。
【0015】
また、前記二次荷電粒子発生ターゲットは、円板状外周端部が三角形状もしくは円弧形状とされることを特徴とする二次荷電粒子発生装置を提供する。
【0016】
また、前記二次荷電粒子発生ターゲットは、その厚さ方向において複数のターゲット板から構成され、一体駆動されることを特徴とする二次荷電粒子発生装置を提供する。
【0017】
また、陽子ビーム入射側に配置されるターゲット板と二次荷電粒子が取り出される側に配置されるターゲット板と中間に配置されるターゲット板は、陽子ビーム入射側から順次厚さが薄くされていることを特徴とする二次荷電粒子発生装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、上述のように回転する二次荷電粒子ターゲットの一部を冷却水に直接浸漬するようにしているので、核破砕反応から発生する多量の熱量を効率よく連続して迅速に除熱できる二次荷電粒子ターゲットを備えた二次荷電粒子発生装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、実施例1の概念を説明する図である。図1において、二次荷電粒子ターゲット1は円板(円盤)状に形成され、縦方向(垂直方向)に配置され、回転する横軸3によって回転される。二次荷電粒子ターゲット1の上部には厚さ方向からエネルギー線としての陽子ビーム9が照射される。二次荷電粒子ターゲット1は、陽子ビーム9を入射し、反射エネルギー線としての陽子ビーム9、二次荷電粒子10および二次荷電粒子10を発生もしくは通過させる。この反射エネルギー線を発生させるときに、二次荷電粒子ターゲット1は発熱して発熱部21となり、上部が昇温し、下部へと伝熱される。
【0021】
二次荷電粒子ターゲット1の下側の一部は浸漬部22となり、冷却水11に直接浸漬される。これによって回転する二次荷電粒子ターゲット1の発熱部21は連続して冷却水11によって冷却されることになる。浸漬される部分を22として示してある。
【0022】
冷却効率を高めるために二次荷電粒子ターゲット1の上方端部に陽子ビーム9を照射するようにし、二次荷電粒子ターゲット1を回転させ(本例の場合、反時計回り)、連続して冷却する方式としている。
【0023】
図2および図3は、図1の構成を詳細に示す構成図である。図2は正面図、図3は側面図である。
【0024】
これらの図において、二次荷電粒子ターゲット1は横方向配置の横軸3にキー止めによって固着されて横軸3と一体に回転する。横軸3は、両端側に軸受2が取り付けられ、軸受2を介して本体90に設けたブラケット24で保持するようにされている。横軸3の1端部には一組の傘歯車4(4A,4B)が設けられ、傘歯車4Bは縦軸5によって駆動される。縦軸5は駆動源(図示せず)に接続され、回転駆動される。このようにして駆動装置(駆動手段)が構成される。従って、駆動装置によって二次荷電粒子ターゲット1は回転される。
【0025】
図3に陽子ビーム9が照射される陽子ビームスポット8を示す。陽子ビームスポット8は二次荷電粒子ターゲット1の上部であって、横部に位置している。
【0026】
図2に二次荷電粒子ターゲット1を浸漬するための水槽6を示す。二次荷電粒子ターゲット1の下方には冷却水11が貯留された水槽6が設けられ、冷却水供給配管7から冷却水が供給されるようになっている。冷却水11は水槽6からオーバーフローする。
【0027】
二次荷電粒子ターゲット1の下側の一部(浸漬部22)は冷却水11に直接浸漬される。
【0028】
回転する二次荷電粒子ターゲット1は、冷却水の近くで照射され、直ちに浸漬部22が順次冷却水によって冷却される。この冷却は連続して迅速に行われる。
【0029】
以上述べたように、本実施例によれば、二次荷電粒子ターゲット1を回転させることにより、局所に発熱が集中することを避けることができ、二次荷電粒子ターゲット1を水槽の冷却水11に浸すことにより、一層冷却効率が向上することができ、長時間にわたり、安定した二次荷電粒子を供給することができる。
【0030】
このように、二次荷電粒子ターゲット1を横軸3、軸受2、ブラケット24により保持し、縦軸5および傘歯車により回転駆動力を伝達させて回転させ、さらに、二次荷電粒子ターゲット1を直接冷却するための水槽6と連続冷却するための冷却水供給配管7を設けることにより、連続冷却ができ、その結果、ターゲットスポット8での発熱分散と発生する多量の熱量を効率よく連続除熱できる二次荷電粒子発生ターゲット1を提供することができる。
【実施例2】
【0031】
実施例2を図4および図5を用いて説明する。主要構成は実施例1と同様であり、それらの説明は実施例1の説明を採用するものとする。他の実施例についても同じである。
【0032】
図4(図4(a),図4(b)参照)に示すように、実施例1の構造のように端部が直角形状をした円板を二次荷電粒子ターゲット1として使用すると、回転速度が上昇するにつれてターゲット端部14に周辺の空気12を巻き込むおそれがある。
【0033】
巻き込まれた空気12は気泡13となって冷却水11中で二次荷電粒子ターゲット1に沿って回転し、逆側に吐き出される。
【0034】
図5は、この空気巻き込みを防止する構造を提供する。図5(a)は正面図、図5(b)は側面図を示す。図5において、二次荷電粒子ターゲット1は、円周端部が三角端ターゲット15としてある。すなわち、円板状外周端部を三角形状としている。一部にRを設けてもよい。このようにすることによってターゲット端部14での周辺の空気12の巻き込みを極めて少ないものとすることができる。従って、二次荷電粒子ターゲット1の三角端ターゲット15と共に回転する気泡13は極めて少ないものとなる。
【実施例3】
【0035】
実施例3を図6に示す。図6(a)は正面図、図6(b)は側面図である。図6に示す構成は、実施例2の三角端ターゲット15に代えて半円端ターゲット16を採用する。効果については図5に示すものと同様である。すなわち、この構成は円板状外周端部を円弧(半円径を含む)形状としている。
【0036】
このように、図5あるいは図6に示すように、二次荷電粒子ターゲット1の除熱性の向上を図るために円盤外周の構造を平坦構造から三角形、または半円形構造にすることにより、ターゲット円盤が水に入り込むときの水の跳ね上がりや空気の巻き込みを抑制することができ、冷却効率を向上させることができる二次荷電粒子発生ターゲットを供給することができる。
【実施例4】
【0037】
図7は実施例4を示す。図7(a)は正面図、図7(b)は側面図である。
【0038】
この実施例は、二次荷電粒子ターゲット1の冷却水11に対する接触面積を大幅に増やして冷却効果を向上させるために、二次荷電粒子ターゲット1を複数のターゲット板1a,1b,1c,1d,1eで構成している。すなわち分割ターゲット板1を採用し、それらの間に間隙17を設けている。この間隙17に冷却水11が流れ込むことになる。
【0039】
このように、板厚方向に分割された複数のターゲット板1a,1b,1c,1d,1eを使用して二次荷電粒子ターゲット1を構成することによって、板厚後流部の発熱分布が高くなるのを分散させることができ、冷却効果が上がる分、円盤の径や二次荷電粒子ターゲット1の回転数を抑えることができる。
【0040】
このように、複数のターゲット板1a,1b,1c,1d,1eを採用することによって、すなわち板厚方向に分割することによって、冷却面積を大きくすることができ、冷却効率を向上させることができる二次荷電粒子発生ターゲットを提供することができる。
【実施例5】
【0041】
図8,図9は実施例5を示す。図8に示すように、分割ターゲット構成を採用すると効果が大きいが、陽子ビーム9が次々にターゲット板17(17a,17b,17c)に照射されると、二次荷電粒子10の増加と共に、熱分が広がって、行き、後段にあるターゲット板ほど発生する熱量が大きくなる。
【0042】
その対策として、図9に示す例を採用する。図9の例は、陽子ビーム9の入射側(入口側)に配置される不均等板厚ターゲット板18aと二次荷電粒子10が取り出される側(出口側)に配置される不均等板厚ターゲット板18eと中間に配置される不均等板厚ターゲット板18b,18cは、陽子ビーム入射側から順次厚さを薄くしている。
【0043】
板厚を18a>18b>18c>18d>18eとしている。この構成によって、各不均等板厚ターゲット板18a,18b,18c,18d,18eの発熱量の均等化を図ることができるようになる。すなわち、この例は二次荷電粒子ターゲット1を不均等板厚分割ターゲット18を複数使用して構成している。
【0044】
以上のように、大強度加速器から陽子ビーム9を入射して二次荷電粒子10を発生させる金属性の二次荷電粒子発生ターゲットを備えた二次荷電粒子発生装置100は、二次荷電粒子発生ターゲット1は、円板状に形成されて半径方向が縦方向に配置され、該二次荷電粒子発生ターゲット1を回転する駆動装置が設けられ、二次荷電粒子発生ターゲットの下側一部を貯留した冷却水11に直接浸漬して水冷を行う水槽6が設けられて構成される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例の概念図。
【図2】本発明の実施例の詳細構造を示す正面図。
【図3】図2の側面図。
【図4】実施例1が保有する問題点を説明する図。
【図5】他の実施例の構造を示す図で、図5(a)は正面図、図5(b)は側面図。
【図6】他の実施例の構造を示す図で、図6(a)は正面図、図6(b)は側面図。
【図7】他の実施例の構造を示す図で、図7(a)は正面図、図7(b)は側面図。
【図8】実施例4が保有する問題点を説明する図。
【図9】他の実施例の構造を示す図で、図9(a)は正面図、図9(b)は側面図。
【符号の説明】
【0046】
1…二次荷電粒子ターゲット、2…軸受、3…横軸、4…傘歯車、5…縦軸、6…水槽、7…冷却水供給配管、8…陽子ビームスポット、9…陽子ビーム、10…二次荷電粒子、11…冷却水、12…空気、13…気泡、14…ターゲット端部、15…三角端ターゲット、16…半円端ターゲット、17…ターゲット板、18…不均等板厚分割ターゲット、21…発熱部、22…浸漬部、24…ブラケット、90…本体、100…二次荷電粒子発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大強度加速器から陽子ビームを入射して二次荷電粒子を発生させる金属性の二次荷電粒子発生ターゲットを備えた二次荷電粒子発生装置において、
前記二次荷電粒子発生ターゲットは、円板状に形成されて半径方向が縦方向に配置され、該二次荷電粒子発生ターゲットを回転する駆動装置が設けられ、前記二次荷電粒子発生ターゲットの下側一部を貯留した冷却水に直接浸漬して水冷を行う水槽が設けられることを特徴とする二次荷電粒子発生装置。
【請求項2】
請求項1において、前記二次荷電粒子発生ターゲットは、円板状外周端部が三角形状もしくは円弧形状とされることを特徴とする二次荷電粒子発生装置。
【請求項3】
請求項1において、前記二次荷電粒子発生ターゲットは、その厚さ方向において複数のターゲット板から構成され、一体駆動されることを特徴とする二次荷電粒子発生装置。
【請求項4】
請求項3において、陽子ビーム入射側に配置されるターゲット板と二次荷電粒子が取り出される側に配置されるターゲット板と中間に配置されるターゲット板は、陽子ビーム入射側から順次厚さが薄くされていることを特徴とする二次荷電粒子発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−284344(P2006−284344A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104063(P2005−104063)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(390023928)日立エンジニアリング株式会社 (134)
【出願人】(504151365)大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 (125)
【Fターム(参考)】