説明

二次電池の製造方法

【課題】二次電池の短絡を短時間で検知することが期待できる二次電池の製造方法を提供すること。
【解決手段】二次電池の製造方法では,初充電が完了した単電池100を昇温させ,第1の基準時間が経過するまでの間,高温環境下でのエージングを行う。この高温エージング後に,後の低温環境下でのエージングで同時に検査される複数の単電池を組み合わせ,電池電圧を均等にする。その後,それら単電池100を冷却し,各単電池100の電池電圧が揃えられた状態で,低温環境下でのエージング(短絡検査)を開始する。そして,基準時間が経過した後,各単電池100の電池電圧を測定し,その測定値に基づいて単電池100個々の良否を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,二次電池の製造方法に関する。さらに詳細には,二次電池の製造過程において,電池性能の検査を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は,携帯型PCや携帯電話を始めとする電子機器のみならず,ハイブリッド車や電気自動車の電源として注目されている。車両用の二次電池は,一般的に,複数の単電池を直列に接続した電池ユニットとして車載される。
【0003】
前記した二次電池の製造過程においては,電池性能が不適切なものを市場に流通させないようにするため,電池性能の検査を行う検査工程が含まれる。電池性能の検査を開示した文献としては,例えば特許文献1がある。この特許文献1では,被検二次電池の充放電およびエージングを行うこと,さらに被検二次電池の,充電時電圧,充電後開路時電圧,放電時電圧,放電後開路時電圧,エージング後開路時電圧の少なくとも1つについて測定し,その測定値から予測される電池性能が基準範囲内であれば良品とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−361253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来の技術には,次のような問題があった。すなわち,二次電池の短絡検査に時間がかかる。例えば,LiNiCoMnO2 微粒子および導電材を正極材料とし,黒鉛を負極材料とするリチウムイオン二次電池では,電極材料や電解液の性能維持の観点から,常用電圧が3.0V〜4.1Vに設定される。このようなリチウムイオン二次電池は,満充電の状態において,正極と負極の電位はそれぞれ水素基準電位に対し,+1.1V,−3.0V付近となっている。
【0006】
前述のリチウムイオン二次電池の製造過程においては,金属異物が混入することがある。この金属異物が電池内部で溶解あるいは析出することで微小短絡を引き起こす。具体的に,金属異物としては,鉄系および銅系の金属が考えられ,イオン化傾向はそれぞれ−0.44V,0.34Vとなっている。このことから,それらの金属異物が電池内部に混入した場合には,正極にて溶解し,負極にて金属として析出することで,電池内部に微小な短絡が発生する。このような電池内部の微小短絡は,リチウムイオン二次電池以外の電池であっても起こりえる。
【0007】
従来の二次電池の製造過程では,被検二次電池の初充電後,電池反応の安定化を目的として,その被検二次電池を高温環境下で所定時間保管する高温エージングが実施されている。そして,高温エージング後に被検二次電池を冷却し,その後に短絡検査としてさらに常温環境下で所定時間保管する低温エージングを実施している。そして,常温での保管前後の電池電圧値を測定し,その電圧変化量が許容範囲から外れた場合には不良と判定している。
【0008】
しかし,短絡による電圧低下量は,容量の大きい電池にとっては極僅かである。一方で,高温エージング後の二次電池には,電極の活物質塗布量や密度のばらつき等の要因によって,良品であっても電圧降下量にばらつきが生じている。そのため,短絡を起こしている不良電池と良品電池とを明確に切り分けるには,個々の電池に対して高温エージング直後の電圧値を測定し,その後,10日を超えるような長時間の低温エージングを行った後の電圧値を測定し,両測定値を比較して短絡の有無を判定している。
【0009】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,二次電池の短絡を短時間で検知することが期待できる二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた二次電池の製造方法は,初充電が完了した状態の単電池を第1の温度まで昇温させる昇温ステップと,前記昇温ステップ後に,前記単電池を第1の基準時間が経過するまで前記第1の温度のままエージングを行う高温エージングステップと,前記第1の基準時間が経過した後,複数の前記単電池の電池電圧を均等にする均等化ステップと,前記均等化ステップの後に,前記複数の単電池を前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する冷却ステップと,前記冷却ステップの後に,第2の基準時間が経過するまで前記複数の単電池を前記第2の温度のまま前記単電池のエージングを行う低温エージングステップと,前記第2の基準時間が経過した後,前記複数の単電池の各々の電池電圧を測定する測定ステップと,前記測定ステップの後に,その測定値に基づいて前記複数の単電池個々に良品か否かを判定する判定ステップとを含むことを特徴としている。
【0011】
本発明の二次電池の製造方法では,初充電が完了した単電池を昇温させ,第1の基準時間が経過するまでの間,高温エージングを行う。その高温エージングの後,複数の単電池を組み合わせて電池電圧の均等化を図る。その後,各単電池を冷却し,各単電池の電池電圧が揃えられた状態で,それらの単電池に対して低温エージングを開始する。そして,低温エージングが終了した後,各単電池の電池電圧を測定し,その測定値に基づいて単電池個々の良否を判定する。
【0012】
すなわち,本発明の二次電池の製造方法では,低温エージングによる短絡検査を開始する前に,高温エージングによってばらつきが生じた電池電圧を均等に揃えている。そのため,従来のように高温エージングによる電池電圧のばらつきと区別できるようになるまでの長期間のエージングが必要なく,短絡による自己放電量が少ない段階であっても,短絡が生じている単電池を区別することが期待できる。従って,短絡検査の時間短縮を図ることができる。
【0013】
また,本発明の二次電池の製造方法では,前記高温エージングステップの開始後,前記均等化ステップの開始前に,前記単電池の電池電圧を測定し,その測定値が良品としての許容範囲を超えていた場合には,前記単電池を不良品として除外する除外ステップを含むとよい。高温エージングによって顕著に電圧低下が生じた不良品を含めて電池電圧の均等化を図ると,その不良品の充電に必要な他の単電池の放電量が多くなり,電池電圧の均等化に時間がかかる。そのため,不良品を除外して均等化を図る方が好ましい。
【0014】
また,前記判定ステップは,前記測定ステップの測定値が,良品としての許容範囲内である場合に,前記単電池を良品と判定するとよい。すなわち,良否判定としては,例えば,低温エージングの開始直前の電池電圧と,低温エージングの終了直後の電池電圧との,2回の電池電圧測定によって電圧変化量を計算し,その電圧変化量が許容範囲内か否かによって判定してもよいが,本発明では,低温エージングの開始直前の電池電圧が概ね一定の電圧値に揃えられている。そのため,低温エージングの開始直前の電池電圧を取得
しなくとも,低温エージングの終了後の電池電圧から単電池の良否を判定できる。この構成のように,低温エージングの終了後の電池電圧によって,つまり1回の電池電圧測定によって単電池の良否を判定することで,計測回数を少なくすることができる。
【0015】
また,前記低温エージングステップでは,前記複数の単電池を拘束した状態でエージングを行うとよい。実使用状態と同じように複数の単電池を拘束し,各単電池の正極と負極との距離を近づけることで,短絡が生じている単電池の電圧低下をより促進させることができる。
【0016】
また,前記高温エージングステップでは,前記単電池を拘束した状態でエージングを行うとよい。実使用状態と同じように単電池を拘束することで,より実使用状態に即して電池反応を促進させることができる。
【0017】
また,前記均等化ステップでは,一方の単電池の正極と他方の単電池の正極とを第1の接続部材によって電気的に接続し,前記一方の単電池の負極と前記他方の単電池の負極とを第2の接続部材によって電気的に接続するするとよい。この構成により,各単電池が並列に接続され,電池電圧が低い単電池は他の単電池から充電され,電池電圧が高い単電池は他の単電池を充電するために放電することになる。その結果として,第1および第2の接続部材に接続された各単電池の電池電圧を均等にすることができる。
【0018】
また,前記均等化ステップでは,前記第1の接続部材と前記第2の接続部材との少なくとも一方に抵抗を接続するとよい。この構成により,隣り合う単電池の電位差に起因する放電を回避することが期待でき,検査の安全性が高まる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,二次電池の短絡を短時間で検知することが期待できる二次電池の製造方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の外観および内部構成を示す斜視透視図である。
【図2】実施の形態にかかるリチウムイオン二次電池の製造手順を示すフローチャートである。
【図3】リチウムイオン二次電池の,電圧と温度との時間変化を示すグラフである。
【図4】リチウムイオン二次電池を電圧均等化回路に装着した状態を示す図である。
【図5】図4に示した電圧均等化回路の模式図である。
【図6】リチウムイオン単電池の拘束状態を示す図である。
【図7】自己放電検査における電圧変化量と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,本発明にかかる二次電池を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。なお,以下の形態では,ハイブリッド自動車に車載されるリチウムイオン二次電池に本発明を適用する。
【0022】
[リチウムイオン二次電池の構成]
始めに,電池ユニットを構成するリチウムイオン二次電池100について,図1を参照しつつ説明する。
【0023】
本形態のリチウムイオン二次電池100は,図1に示すように,リチウムイオン単電池100の外殻を形成する角型の外装部50とを有する密閉角型の二次電池である。図1は,外装部50を透視した状態を示している。以下の説明では,説明の便宜上,外装部
50の幅方向(図1中のX方向)を「幅方向」,外装部50の高さ方向(図1中のY方向)を「高さ方向」,外装部50の奥行き方向(図1中のZ方向)を「列置方向」とする。
【0024】
外装部50は,容器となる電池ケース10と,電池ケース10の開口部を封止する封口蓋20とを有している。電池ケース10は,アルミニウム,アルミニウム合金,めっき鋼板,ステンレス鋼板等の金属材からなる。封口蓋20は,アルミニウム,めっき鋼板,ステンレス鋼板等の金属材からなる。電池ケース10や封口蓋20に利用する金属材は,成形が容易であって,剛性があるものであればよい。外装部50の内側全面には,不図示の絶縁フィルムが貼付されている。
【0025】
電池ケース10は,有底矩形の箱体,すなわち上面が開口した直方体をなしている。電池ケース10は,発電要素60を収納しており,矩形板状の封口蓋20にてその開口部を塞ぐことによって発電要素60を密封をしている。具体的に,外装部50は,電池ケース10と封口蓋20とがレーザ溶接によって一体となっている。
【0026】
封口蓋20には,封口蓋20を貫通し,封口蓋20から外装部50の外側に向けて突出する正極集電端子31および負極集電端子32が取り付けられている。正極集電端子31の封口蓋20への取り付け箇所には,樹脂製の絶縁部材33が介在し,正極集電端子31と封口蓋20とを絶縁している。同様に,負極集電端子32の封口蓋20への取り付け箇所には,樹脂製の絶縁部材34が介在し,負極集電端子32と封口蓋20とを絶縁している。また,封口蓋20には,封口蓋20を貫通する注液孔24が設けられており,その注液孔24から電解液が注入される。また,封口蓋20には,矩形板状の安全弁23も溶接されている。
【0027】
発電要素60は,帯状の正極板61と,同じく帯状の負極板62とを,ポリエチレンからなるセパレータを挟んで捲回し,扁平状にしたものである。正極板61は,アルミ箔の両面に不図示の正極活物質層を担持している。この正極活物質層には,例えば,正極活物質(例えば,LiNi1/3Mn1/3Co1/32 ),導電剤のアセチレンブラック,結着剤のポリフッ化ビニリデン(PVdF),分散剤のポリビニルピロリドン(PVP)が含まれる。また,負極板62は,銅箔の両面に不図示の負極活物質層を担持している。この負極活物質層には,例えば,グラファイトおよび結着剤が含まれる。また,不図示の電解液は,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを混合した混合有機溶媒に,溶質として6フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )を添加し,リチウムイオンを1mol/lの濃度とした有機電解液である。なお,正極板61,正極活物質層,負極板62,負極活物質層,電解液に利用される物質は一例であり,一般的にリチウムイオン電池に利用されるものを適宜選択すればよい。
【0028】
正極板61は,クランク状に屈曲した板状の正極集電端子31と接合され,負極板62は,同じくクランク状に屈曲した板状の負極集電端子32と接合されている。具体的に,正極集電端子31は,発電要素60の幅方向の一方の端部に露出する正極板61と接合している。一方,負極集電端子32は,発電要素60の幅方向の他方の端部に露出する負極板62と接合している。
【0029】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
続いて,前述したリチウムイオン二次電池100の製造方法について,単電池作製後の検査工程に着目して説明する。図2は,リチウムイオン二次電池100の製造手順を示すフローチャートである。図3は,リチウムイオン二次電池100の,電池電圧および温度の時間変化を示すグラフである。図3中,上図が電池電圧の推移を示し,下図が電池温度の推移を示している。
【0030】
リチウムイオン二次電池100の製造手順では,先ず,リチウムイオン二次電池100単体を作製する(S01)。S01では,例えば,発電要素60を電池ケース10内に収容し,封口蓋20を電池ケース10の開口部に溶接して,発電要素60を外装部50内に封止する。その後,注液孔24から外装部50内に電解液を注入し,その電解液が発電要素60内に浸透まで所定時間保管する。これにより,リチウムイオン二次電池100の単電池(以下,「リチウムイオン単電池100」とする)が作製される。作製後のリチウムイオン単電池100に対しては,外観検査が行われ,不良品が取り除かれる。
【0031】
次に,S01で作製したリチウムイオン単電池100に対して,初充電を行う(S02)。具体的にS02では,電池使用上限電圧(本形態では,例えば4.10V)まで定電流定電圧で充電を行う。なお,S02では,リチウムイオン単電池100の充電は,個々に行ってもよいし,複数個を纏めて行ってもよい。
【0032】
リチウムイオン単電池100は,初充電が完了した状態では,電極の活物質量や密度のばらつき,発電要素60を拘束する拘束力のばらつき等により,電解液の浸透度合,充電によって発生するガスの抜け具合,リチウムイオンのインターカレーション度合,SEI皮膜の形成度合等にばらつきが生じる。そのため,初充電が完了した後,高温環境下でエージングを実施することにより,拡散を主とする電池反応を促進させ,安定化を図る。
【0033】
具体的には,充電後のリチウムイオン単電池100を加熱室に収容し,第1の温度(本形態では,例えば60℃)までリチウムイオン単電池100を昇温させる(S03,昇温ステップの一例)。加熱室内には複数のリチウムイオン単電池100が収容され,それら複数のリチウムイオン単電池100が纏めて加熱される。
【0034】
第1の温度まで昇温させた後,高温環境下でのエージング試験を開始する(S04,高温エージングステップの一例)。すなわち,リチウムイオン単電池100を第1の温度に維持した状態で,第1の基準時間(本形態では,例えば10時間〜30時間)が経過するまで高温エージング室内に保管する。
【0035】
この高温エージング中,前述した各種のばらつき要因によって,安定化後の電池電圧にばらつきが生じる。ただし,図3中のサンプルX1,X2のように,互いに異なる電池電圧で安定したとしても,良品として想定される許容範囲内であれば,両単電池ともこの高温エージングの段階では良品として扱う。なお,この高温エージング中,図3中のサンプルX3のように顕著に電圧が低下したリチウムイオン単電池100については不良品として排出する。
【0036】
次に,高温エージングが完了した後,すなわち各リチウムイオン単電池100の電池電圧が安定した後,後述する短絡検査を同時に実行する複数のリチウムイオン単電池100に,電池電圧均等化回路を接続する(S05,均等化ステップの一例)。このS05によって,複数のリチウムイオン単電池100の電池電圧の均等化を図り,高温エージング中に生じた電池電圧のズレを解消する。
【0037】
具体的にS05では,上述の複数のリチウムイオン単電池100を,図4に示すように扁平面同士を対向させ,列置方向に並ぶように配置する。特に,リチウムイオン単電池100の正極集電端子31が幅方向の一方の側に揃い,負極集電端子32が他方の側に揃うように配置する。そして,同時に均等化する全リチウムイオン単電池100の正極集電端子31をバスバー91に接続する。一方,同時に均等化する全リチウムイオン単電池100の負極集電端子32をバスバー92に接続する。
【0038】
上記のようにバスバー91およびバスバー92を接続することで,図5の電圧均等化回路90の模式図に示すように,全リチウムイオン単電池100が並列に接続されることになる。このように接続することで,他のリチウムイオン単電池と比較して電池電圧が低いリチウムイオン単電池は,他のリチウムイオン単電池から充電される。一方,他のリチウムイオン単電池と比較して電池電圧が高いリチウムイオン単電池は,他のリチウムイオン単電池を充電するために放電する。これにより,電圧均等化回路90を構成する全リチウムイオン単電池100の電池電圧が均等化される。
【0039】
なお,本形態の電圧均等化回路90では,図5に示したように各リチウムイオン単電池100の正極端子に抵抗93が接続され,さらに各リチウムイオン単電池100の正極端子に接続された抵抗93が並列に接続される。この抵抗93は,隣り合うリチウムイオン単電池100,100間の電位差に基づく放電を抑制するために接続する。抵抗93の抵抗値は,小さすぎると放電抑制効果が少なくなり,大きすぎると電池電圧の均等化に時間がかかる。本形態では,各抵抗93を1kΩとする。この抵抗93は,正極側への接続に限定するものではなく,負極側に接続してもよい。また,両側ともに接続してもよい。
【0040】
また,S03〜S05では,各リチウムイオン単電池100を拘束した状態にするとよい。リチウムイオン単電池100を拘束することで,実装状態に近い環境での,電池反応の促進が可能になる。
【0041】
各リチウムイオン単電池100を拘束状態とする方法としては,例えば,図6に示すように,複数のリチウムイオン単電池100を収容する矩形ケース71と,矩形ケース71内に位置し,矩形ケース71の一方の端部から他方の端部に向けて拘束力を付与する拘束力付与プレート73とを有する拘束治具70を利用する。
【0042】
具体的には,リチウムイオン単電池100を,図6に示したように,拘束治具70の矩形ケース71内に列置する。隣り合うリチウムイオン単電池100,100間には,難燃性の樹脂スペーサ75が挿入される。この状態で,拘束力付与プレート73が,羽根やネジ締め等によってリチウムイオン単電池100側に付勢される。これにより,矩形ケース71内に配置された各リチウムイオン単電池100に均等に列置方向の拘束力が付与される。
【0043】
また,図3中のサンプルX3のように,顕著に電圧が低下したリチウムイオン単電池100については,電圧均等化回路90に接続する前に,予め不良品として除去しておく(除去ステップの一例)。顕著に電圧低下が生じた不良品を含めて電池電圧の均等化を図ると,その不良品の充電に必要な他の単電池の放電量が多くなり,電池電圧の均等化に時間がかかる。また,S07以降の短絡検査において,低温エージング前の基準電圧が下がりすぎてしまい,短絡の誤判定を生むおそれがある。そのため,不良品を除外し,無駄な充電時間を省く。
【0044】
S05にて各リチウムイオン単電池100の電池電圧を均等化した後は,バスバー91,92を取り外し,高温エージング室から各リチウムイオン単電池100を取り出す。そして,各リチウムイオン単電池100を冷却室に収容し,第2の温度(本形態では,例えば20℃)まで同時に冷却する(S06,冷却ステップの一例)。
【0045】
各リチウムイオン単電池100を冷却した後,各リチウムイオン単電池100について自己放電検査を実施し,各リチウムイオン単電池100内に短絡が生じているか否かを判定する。
【0046】
具体的に自己放電検査では,先ず,同時に検査を行う各リチウムイオン単電池100を,低温エージング室内で,冷却完了後から第2の基準時間(本形態では,例えば1日〜4日)が経過するまで保管する(S07,低温エージングステップの一例)。S07の開始時点では,電圧均等化回路90を接続した効果によって,各リチウムイオン単電池100の電池電圧は概ね均等である。
【0047】
第2の基準時間が経過した後,各リチウムイオン単電池100を電池電圧を測定する(S08,測定ステップの一例)。図7は,自己放電検査における電池電圧の変化量の推移を示している。図7に示すように,リチウムイオン単電池100は,自己放電によって微小な電圧低下が生じる。このとき,リチウムイオン単電池100内に短絡が生じていた場合には,良品と比較して電圧低下量が大きくなる。
【0048】
従来,この内部短絡による電圧低下量と良品の電圧低下量との差が,高温エージング時の電池電圧のズレよりも大きくなって,内部短絡を明確に区別できるまでに,10日を超えるような長時間の自己放電が必要であった。一方で,本形態では,高温エージング時の電池電圧のズレを電圧均等化回路90によって解消しているため,内部短絡による電圧低下量と良品の電圧低下量との差を,早期の段階で明確に区別することが期待できる。すなわち,本形態では,従来と比較して,自己放電検査におけるS08の保管時間が短縮される。
【0049】
次に,S08での測定結果から,各リチウムイオン単電池100に短絡が発生しているか否かを判定する(S09,判定ステップの一例)。例えば,S08での電圧値が閾値以下であれば短絡が発生していると判定する。あるいは同時に測定した全てのリチウムイオン単電池100から求められる正規分布から外れた場合には短絡が発生しているものと判定してもよい。
【0050】
なお,従来では,電池電圧のズレによって,高温エージング直後の各リチウムイオン単電池100の電圧にばらつきがあることを考慮し,自己放電検査開始前に,高温エージング直後の電圧をリチウムイオン電池100個々に測定し,さらに所定時間経過後に再度電圧を測定し,この2回の測定値の差から電圧変化量を求め,その電圧変化量に基づいて短絡の有無を判定していた。一方で,本形態では,高温エージング直後の各リチウムイオン単電池100の電池電圧は均等であり,均等化後の電池電圧値は概ね一定であることから,所定時間経過後に測定した電圧値だけであっても電圧変化量のばらつきを見極めることができる。すなわち,電圧測定回数を1回に減らすことができる。
【0051】
S08による判定の結果,短絡が発生しているを判定されたリチウムイオン単電池100は,不良品として取り除かれる。そして,残ったリチウムイオン単電池100が良品として出荷される。
【0052】
なお,前述したリチウムイオン二次電池100の製造方法は,あくまでも単電池を製造する方法である。製造後のリチウムイオン単電池100は,その後,同じように製造された複数のリチウムイオン単電池100と組み合わされ,直列に接続されて電池ユニットとなる。そして,市場投入時には,電池ユニットとして,電気自動車やハイブリッド車に車載される。
【0053】
以上詳細に説明したように本形態のリチウムイオン二次電池100の製造方法では,S07での低温エージングによる短絡検査を開始する前に,S04の高温エージングにて電池電圧のズレが生じていた電池電圧を,S05の電圧均等化回路90の接続によって均等に揃えている。そのため,短絡検査において,従来のように高温エージングによる電池電圧のズレと区別できるようになるまでの長期間のエージングが必要なく,短絡による自己放電量が少ない段階であっても,短絡が生じているリチウムイオン単電池100を明確に区別できる。従って,検査時間の短縮を図ることができる。
【0054】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,リチウムイオン二次電池は,車載用に限らず,家電製品やパソコンに利用されるものであってもよい。また,二次電池はリチウムイオン二次電池に限るものではない。すなわち,ニッケル水素電池やニッカド電池等の二次電池でも本発明を適用できる。
【0055】
また,実施の形態では,複数のリチウムイオン単電池100を並列に接続することで,それら複数のリチウムイオン単電池100の電池電圧の均等化を図っているが,電池電圧の均等化手段はこれに限るものではない。例えば,均等化対象の各リチウムイオン単電池100の電池電圧を測定し,各リチウムイオン単電池の電池電圧を,その中で最も低電圧のリチウムイオン単電池100に揃うように他のリチウムイオン単電池100を放電してもよい。
【0056】
また,実施の形態では,低温エージング完了時の電池電圧のみから良否判定を行っているが,これに限るものではない。すなわち,均等化完了後や低温エージング開始時の電池電圧も測定し,開始時の電池電圧と完了時の電池電圧との差から良否判定を行ってもよい。この場合であっても,開始時の電池電圧の測定は,複数あるリチウムイオン単電池100のうちの1つだけでよく,全てのリチウムイオン単電池100に対して測定する必要はない。
【0057】
また,実施の形態では,S06の冷却の際に,リチウムイオン単電池100を冷却室に移動させているが,常温の状態で冷却してもよい。また,S05の各リチウムイオン単電池100の電池電圧均等化を高温環境下で行っているが,常温環境下で行ってもよい。
【符号の説明】
【0058】
60 発電要素
90 電圧均等化回路
91,92 バスバー
93 抵抗
100 リチウムイオン単電池(二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
初充電が完了した状態の単電池を第1の温度まで昇温させる昇温ステップと,
前記昇温ステップ後に,前記単電池を第1の基準時間が経過するまで前記第1の温度のままエージングを行う高温エージングステップと,
前記第1の基準時間が経過した後,複数の前記単電池の電池電圧を均等にする均等化ステップと,
前記均等化ステップの後に,前記複数の単電池を前記第1の温度よりも低い第2の温度まで冷却する冷却ステップと,
前記冷却ステップの後に,第2の基準時間が経過するまで前記複数の単電池を前記第2の温度のまま前記単電池のエージングを行う低温エージングステップと,
前記第2の基準時間が経過した後,前記複数の単電池の各々の電池電圧を測定する測定ステップと,
前記測定ステップの後に,その測定値に基づいて前記複数の単電池個々に良品か否かを判定する判定ステップと,
を含むことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する二次電池の製造方法において,
前記高温エージングステップの開始後,前記均等化ステップの開始前に,前記単電池の電池電圧を測定し,その測定値が良品としての許容範囲を超えていた場合には,前記単電池を不良品として除外する除外ステップ
を含むことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する二次電池の製造方法において,
前記判定ステップは,前記測定ステップの測定値が,良品としての許容範囲内である場合に,前記単電池を良品と判定することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載する二次電池の製造方法において,
前記低温エージングステップでは,前記複数の単電池を拘束した状態でエージングを行うことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載する二次電池の製造方法において,
前記高温エージングステップでは,前記単電池を拘束した状態でエージングを行うことを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載する二次電池の製造方法において,
前記均等化ステップでは,一方の単電池の正極と他方の単電池の正極とを第1の接続部材によって電気的に接続し,前記一方の単電池の負極と前記他方の単電池の負極とを第2の接続部材によって電気的に接続することを特徴とする二次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載する二次電池の製造方法において,
前記均等化ステップでは,前記第1の接続部材と前記第2の接続部材との少なくとも一方に抵抗を接続することを特徴とする二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−114986(P2013−114986A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262073(P2011−262073)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】