説明

二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板

【課題】 亀裂伝播性に優れ、安全弁をコイニングで形成する二次電池ケースの封口板として好適に用いることができるアルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】 本発明の二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板は、必須成分として、Mn:0.8質量%以上1.3質量%以下、Si:0.2質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を1mm2当たり5000個以上20000個以下としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池などの二次電池は、高電流、高電圧、長寿命であり、高速充電が可能であるという優れた長所を有することから、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータ、デジタルカメラ、ポータブルAV機器などの様々な電気機器において広く用いられている。
【0003】
しかし、これらの二次電池は前記した長所を有するものの、直射日光による高温下で保管された場合や繰り返しショートさせた場合、或いは専用充電器以外の充電器で充電した場合などの一般的ではない状況下で用いられると、二次電池ケースの内部で多量のガスが発生することがある。多量にガスが発生するとケース内のガス圧が高くなり、二次電池ケースが破裂するおそれがあり非常に危険である。特に、角型の二次電池ケースは、丸型の二次電池ケースと比較すると耐圧性が低く、破裂する危険性が高い。
【0004】
そのため、角型の二次電池ケースであるか丸型の二次電池ケースであるかを問わず殆どの二次電池ケースには、安全弁と呼ばれるガス排気機構が封口板やケースの一部に設けられており、ケース内のガス圧が過度に高くなった場合に、そのガス圧によって安全弁が開裂して多量に発生したガスを排出することで二次電池ケースの破裂防止を図っている。
【0005】
安全弁を用いた二次電池ケースの封口板としては、例えば、図3に示すように、安全弁用の穴部14が設けられたアルミニウム製の平板の下面に、クラッド圧延によりアルミニウム箔12aを圧着させて安全弁12を形成した封口板11が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、このように二以上の金属板を圧着して得られる金属板をクラッド板という。
【0006】
かかる封口板11によれば、二次電池ケースの内圧が過度に上昇すると、当該安全弁12が破断して二次電池ケース内のガスを排出することにより電池の急激な温度上昇や電池内圧の上昇を効果的に防止することが可能であるものの、このようなクラッド板とするためには、真空状態下で穴部14が設けられたアルミニウム製平板とアルミニウム箔12aとを圧延する必要があるため、圧延機が大掛かりとなるだけでなく、コストが高くなるという問題があった。また、特許文献1に記載の安全弁12では、アルミニウム箔12aの圧着状態によって安全弁12が破断するために必要なガス圧(作動圧)が変動することがあり、作動圧が安定しないという問題もあった。
【0007】
また、例えば、図4に示す封口板21のように、アルミニウム合金の平板または純アルミニウム製の平板にコイニング加工を行うことによって、かかる平板の板厚よりも薄肉の弁体22aを形成するとともに、この弁体22a上にスコア23を形成した安全弁22が提案されている(例えば、特許文献2参照)。かかる構成の安全弁22は、ガスの発生によって二次電池ケース内部の圧力が過度に上昇すると、スコア23に沿って容易に開裂することができるので、速やかにガスを排出することが可能である。
また、かかる安全弁22を備えた封口板21によれば、真空状態下でクラッド圧延を行う必要がないので低コスト化を図ることが可能であり、さらに、従来の安全弁のように、アルミニウム箔の圧着状態による影響を受けることがないので、作動圧を安定化することも可能である。
【0008】
なお、特許文献2にはアルミニウム合金や純アルミニウムを用いて封口板21を作製する旨が記載されているが、二次電池ケースとして実際には、純アルミニウムの成形性、耐食性を低下させることなく、強度を増加させたJISH4000に規定される3000系のアルミニウム合金、例えば、合金番号3003のアルミニウム合金や、これを焼きなますことで軟らかく調質した合金番号3003−Oのアルミニウム合金なども多く使用されている。
【特許文献1】特開平10−241651号公報(請求項1、段落0021、図1)
【特許文献2】特開2003−187774号公報(段落0020、段落0029、図2、図4および図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来用いられてきた合金番号3003のアルミニウム合金や合金番号3003−Oのアルミニウム合金では、安全弁として用いるには亀裂伝播性が十分良好であるとはいえない場合があった。例えば、二次電池ケース内でガスが発生しても、小さな亀裂が生じただけでこれが伝播せず、ガスの排出を速やかに行うことができないことがあった。また、亀裂伝播性が十分ではないので、安全弁に十分な亀裂伝播性を付与するためには、コイニング残厚を薄くする必要があり、その制御は困難であるという欠点もあった。
【0010】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、亀裂伝播性に優れ、安全弁をコイニングで形成する二次電池ケースの封口板として好適に用いることができるアルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意研究した結果、アルミニウム合金の組成を適切な範囲に規制し、かつ、アルミニウム合金板の性状を特定することにより、前記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の発明は、必須成分として、Mn:0.8質量%以上1.3質量%以下、Si:0.2質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を1mm2当たり5000個以上20000個以下としたことを特徴とする二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板である。
【0013】
請求項2に記載の発明は、任意成分として、Cu:0.5質量%以下、または、Ti:0.1質量%以下、または、Cu:0.5質量%以下かつTi:0.1質量%以下含有したことを特徴とする請求項1に記載の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板である。
【0014】
このように、請求項1または請求項2に記載の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板は、各種成分を適切な範囲に規制したことから二次電池ケースの封口板として必要な強度と成形性を確保することができるとともに、これらの成分のうち、SiとFeを多く含有させ、さらに、特定範囲の最大長さを有する金属間化合物の単位面積当たりの個数を規制したことによって、優れた亀裂伝播性を付与することができる。すなわち、開裂性に優れた二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板を提供することができる。また、適宜CuやTiを含有させることによって、さらに所定の特性を付与させた二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、成形性や耐食性に優れるとともに亀裂伝播性に優れ、コイニングで安全弁を形成する二次電池ケースの封口板に用いることが好適な、二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明に係る二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板の最良の形態について詳細に説明する。
[二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板の構成]
本発明の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板は、必須成分として、Mn:0.8質量%以上1.3質量%以下、Si:0.2質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上1.0質量%以下を含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を1mm2当たり5000個以上20000個以下としている。また、この二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板の必須成分であるMn,Si,Feに加え、任意成分としてCu:0.5質量%以下、または、Ti:0.1質量%以下、または、Cu:0.5質量%以下かつTi:0.1質量%以下含有する二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板も好適に用いることができる。
【0017】
以下、本発明に係る二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板において、各種成分の含有量を規制した理由、およびアルミニウム合金板におけるAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さ、並びにAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を規制した理由について説明する。
【0018】
(Mnの含有量:0.8質量%以上1.3質量%以下)
Mnは、母相内に固溶して、アルミニウム合金板の強度を高める効果があると同時に、Al、Fe、Siと結び付くことによりAl−Fe−Mn系金属間化合物やAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成するので、応力が加わったときの破壊の起点となったり、亀裂伝播性を向上させる効果があることから、コイニングで形成した安全弁の開裂性を向上させる効果を有する。Mnの含有量が0.8質量%未満であると、この安全弁の開裂性を向上させる効果が小さくなる。これに対し、Mnの含有量が1.3質量%を超えると粗大な金属間化合物が生成し、成形時の割れの起点となり易いため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Mn含有量は、0.8質量%以上1.3質量%以下とする。
【0019】
(Siの含有量:0.2質量%以上0.5質量%以下)
Siは、Al、Mn、Fe等とAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、応力が加わったときの破壊の起点となったり、亀裂伝播性を向上させる効果があることから、コイニングで形成した安全弁の開裂性を向上させる効果を有する。Siの含有量が0.2質量%未満であると安全弁の開裂性を向上させる効果が小さくなる。これに対し、Siの含有量が0.5質量%を超えるとAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が粗大化するとともに個数も増大するので成形性が低下する。また、Siの含有量が0.5質量%を超えるとレーザ溶接性も低下する。したがって、Si含有量は、0.2質量%以上0.5質量%以下とする。
【0020】
(Feの含有量:0.3質量%以上1.0質量%以下)
Feは、Al−Fe−Mn系金属間化合物やAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物を形成するので、応力が加わったときの破壊の起点となったり、亀裂伝播性を向上させる効果があることから、コイニングで形成した安全弁の開裂性を向上させる効果を有する。Feの含有量が0.3質量%未満であると金属間化合物の生成量が少なくなるので、安全弁の開裂性を向上させる効果が小さくなる。これに対し、Feの含有量が1.0質量%を超えると、かかる金属間化合物が粗大化するとともに個数も増大して成形時の割れの起点となりやすいため、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Feの含有量は、0.3質量%以上1.0質量%以下とする。
【0021】
(Cuの含有量:0.5質量%以下)
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高める効果を有する。Cuの含有量が0.5質量%を超えるとアルミニウム合金板の成形性を低下させるとともに、レーザ溶接性が低下する。なお、Cuの含有量が0.01質量%未満であるとアルミニウム合金板の強度を高める効果が小さい。したがって、Cuの含有量は、0.5質量%以下が好ましく、不可避的不純物レベル以上である0.01質量%以上0.5質量%以下とするのがより好ましい。
【0022】
(Tiの含有量:0.1質量%以下)
Tiは、鋳塊製作時に凝固組織を微細化する効果を有し、鋳造割れ・熱間圧延割れを防止して生産性向上に寄与する。Tiの含有量が0.1質量%を超えると、巨大なAl−Ti金属間化合物が生成し、アルミニウム合金板の成形性が低下する。なお、Tiの含有量が0.01質量%未満であると鋳塊製作時の凝固組織を微細化する効果が小さい。したがって、Tiの含有量は、0.1質量%以下とするのが好ましく、不可避的不純物レベル以上である0.01質量%以上0.1質量%以下とするのがより好ましい。
【0023】
(不可避的不純物)
本発明の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板のアルミニウム合金中に含まれる不可避的不純物として、Cr、Zn、Zr、Bなどの元素が含まれる場合があるが、これらの不可避的不純物が0.05質量%未満の含有量で含まれていても本発明におけるアルミニウム合金板の特性には影響しない。したがって、本発明の効果を妨げない程度であれば、これらの不可避的不純物を含有することは許容される。
【0024】
(最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を1mm2当たり5000個以上20000個以下)
本発明におけるAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物には、Al−Fe−Mn系金属間化合物、Al−Fe−Mn−Si系金属間化合物、Al−Fe−Si系金属間化合物、およびAl−Mn−Si系金属間化合物などが含まれるが、これらを厳密に区別する必要はない。
このAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さが0.5μm未満であると、コイニングで形成した安全弁の開裂性を向上させる効果が小さくなり、Al(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さが3μmを超えると封口板として成形加工する際の割れの起点となりやすくなる。したがって、Al(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さは、0.5μm以上3μm以下とする。
【0025】
そして、かかる最大長さを有するAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物が1mm2当たり5000個未満であると、コイニングで形成した安全弁の開裂性を向上させる効果が小さくなる。これに対し、かかる最大長さを有するAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物が1mm2当たり20000個を超えると、封口板として成形加工する際に割れの伝播経路となり易い。したがって、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数は、5000個以上20000個以下とする。
【0026】
[アルミニウム合金板の製造方法]
次に、本発明のアルミニウム合金板の製造方法について説明する。
本発明のアルミニウム合金板の代表的な製造方法としては、本発明の請求項1または請求項2に規定する組成成分を有するアルミニウム合金の鋳塊を均質化熱処理した後、熱間圧延および冷間圧延を行って所定の板厚とし、得られた圧延板に焼鈍を施す方法が挙げられる。
【0027】
この場合において、均質化熱処理は550℃以上、熱間圧延終了温度は300℃以上で行うのが好ましく、焼鈍は、連続焼鈍であれば400℃以上で行い、バッチ焼鈍であれば300〜400℃で行うことが好ましい。また、製造方法としては前記方法に限定されるものではなく、例えば、冷間圧延の途中の板厚で中間焼鈍を行ってもよい。
このように、前記組成を有するアルミニウム合金を用いて前記した製造方法によって製造することによって、Al(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さと、単位面積当たりの所定の個数(個/mm2)とを有する本発明の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板を製造することができる。
【0028】
[二次電池ケース]
次に、本発明の請求項1または請求項2に記載する二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板で作製した封口板を備えた二次電池ケースについて説明する。
図1に示すように、この二次電池ケース4は、二次電池ケース4の本体部5と封口板1とをレーザ溶接することによって、密閉容器として構成されている。
そして、この封口板1は、本発明の二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板を所定の寸法に裁断し、コイニング加工することによって、封口板1の所定部分にスコア3を刻設して形成した安全弁2を備えている。なお、封口板1の形状は楕円形とするほか円形や矩形としてもよく、スコア3は二次電池ケースの内側に形成してもよい。
【0029】
なお、本発明は、前記で説明した最良の実施の形態、および、以下に説明する実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変更することが可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0030】
[実施例A]
次に、[実施例A]を参考に、本発明の二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板について本発明の請求項1の要件を満たす発明例と、本発明の請求項1の要件を満たさない比較例とを対比させて具体的に説明する。
すなわち、[実施例A]では、本発明の二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板の必須成分であるMn,Si,Feと、Al(Fe,Mn,Si)系金属間化合物のサイズおよび個数密度についての検討を行った。
表1は、発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板の組成成分の含有量と金属間化合物の単位面積(1mm2)当たりの個数を示す。このような性状を有する発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板は、以下のようにして作製した。
【0031】
まず、表1の発明例No.1〜4および比較例No.1〜6に示す組成を有し、残部がAlと不可避的不純物からなるそれぞれのアルミニウム合金の鋳塊を作製した。そして、これらの鋳塊に600℃の均質化熱処理を施し、熱間圧延および冷間圧延を行うことで、板厚が1.0mmの圧延板を作製した。なお、熱間圧延終了時の温度は350℃とした。その後、焼鈍として、各圧延板に350℃、3時間のバッチ焼鈍を施し、発明例No.1〜4および比較例No.1〜6に示すアルミニウム合金板を作製した。
なお、1mm2当たりのAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さと個数は、発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板の表面を5μmバフ研磨した後、EDS(Energy Dispersive Spectrometer;エネルギー分散型分光計)を備えたSEM(倍率=1000倍)により、Al(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さと数の関係を調査した。これを各アルミニウム合金板について、各々50視野行い、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物に関して、1mm2当たりの個数を求めた(表1では「最大長さが0.5μm以上3μm以下の金属間化合物の個数」と記載)。
なお、表1中の下線は、本発明で規制する範囲から外れていることを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
次に、前記のようにして作製した発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板を用いて、強度、成形性、レーザ溶接性、開裂性についての評価を行った。
【0034】
〔強度〕
発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板について、引張方向が圧延方向と平行になるようにJIS5号引張試験片を作製した。その後、JISZ2241による引張試験を実施し、引張強さ、耐力および伸びを求めた。耐力として42N/mm2以上を良好とした。
【0035】
〔成形性〕
発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板について、JISB7729、JISZ2247に規定されたエリクセン試験について、JISA法により20mmφ球頭ポンチで行い、そのエリクセン値を測定した。エリクセン値が10.8mm以上を合格とした。なお、エリクセン値とは、エリクセン試験での割れ発生までの絞り量をいう。
また、40mmφの平頭ポンチで成形試験を行い、目視にて割れ発生を観察し、割れ発生の限界絞り比、すなわちブランク径とポンチ径40mmの比を求めた。限界絞り比が2.10以上を合格とした。
これらエリクセン値または限界絞り比のいずれかが前記の基準を満足しないものを、成形性が劣ると評価し、不合格とした(成形性不良)。
【0036】
〔レーザ溶接性〕
発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板について、端部突合せによりパルスレーザ溶接を行った。溶接部に割れなどの欠陥が見られず健全で、パルス毎のビード形状が一定であるものを良好(「○」)、溶接ビード形状が乱れているものをやや良好(「△」)、割れが発生したものを不良(「×」)として評価した。
【0037】
〔開裂性〕
発明例No.1〜4および比較例No.1〜6のアルミニウム合金板について、40mm×40mmの板を用いて、図2に示すように、コイニング加工を施してハの字のスコアを形成した。なお、スコアの残厚は80μmとした。アルミニウム合金板を固定して上方向へ引き上げて、スコア引裂き時の最大荷重を測定し、開裂性を判定した。引裂き荷重が11.0N以下のものを開裂性が良好として合格とした。
これらの評価を行った結果を表2に示す。なお、表2中の下線は、本発明で規制する範囲から外れていることを示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、比較例No.1〜6は、アルミニウム合金板の組成か、或いは、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が、本発明で規制した範囲から外れているため、強度、成形性、レーザ溶接性、および開裂性のいずれかにおいて好ましくない結果となった。
【0040】
すなわち、比較例No.1は、Mnの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であり、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため、アルミニウム合金板の強度が不足し、開裂性も劣る結果となった。
また、比較例No.2は、Mnの含有量が本発明で規制した範囲の上限値を超えているため、最大長さが3μmを超えるAl−Fe−Mn系金属間化合物およびAl−Fe−Mn−Si系金属間化合物が発生し、成形性が劣る結果となった。
【0041】
比較例No.3は、Siの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であり、最大長さが0.5μm以上3μm以下の金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため、開裂性が劣る結果となった。
比較例No.4は、Siの含有量が本発明で規制した範囲の上限値を超えており、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が発明で規制した範囲の上限値を超えているため、成形性およびレーザ溶接性が劣る結果となった。
【0042】
比較例No.5は、Feの含有量が本発明で規制した範囲の下限値未満であり、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明で規制した範囲の下限値未満であるため、開裂性が劣る結果となった。
比較例No.6は、Feの含有量が本発明で規制した範囲の上限値を超えており、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明で規制した範囲の上限値を超えているため、耐力および成形性が劣る結果となった。
【0043】
これに対し、発明例No.1〜4は、アルミニウム合金板の組成、および、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明の請求項1で規制した範囲内にあるため、良好な強度、成形性、レーザ溶接性、および開裂性を示していた。
【0044】
[実施例B]
次に、本発明の二次電池ケース封口板用アルミニウム合金板に所定の特性を付与するために、Cuの含有量の検討とTiの含有量の検討を行った。
【0045】
表3は、発明例No.5〜14および比較例No.7〜10のアルミニウム合金板の組成成分の含有量と金属間化合物の単位面積(1mm2)当たりの個数を示す。
表3に示すように、発明例No.5〜14は[実施例A]で示した必須成分であるMn,Si,Feを、本発明で規制された範囲内で含有し、さらに、CuおよびTiのうち少なくとも一つを任意成分として含有させたものである。なお、比較例No.7〜10は、それぞれCuおよびTiの含有量を本発明で規制する範囲を超えて含有させたものである。
【0046】
そして、表3に示した発明例No.5〜14および比較例No.7〜10のアルミニウム合金板は、[実施例A]と同じ製造条件で作製した。また、1mm2当たりのAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の最大長さと個数は、[実施例A]と同じ方法で測定した。
なお、表3中の「−」は、含有量が0.01質量%未満であることを示し、表3中の下線は、本発明で規制する範囲から外れていることを示す。
【0047】
【表3】

【0048】
そして、前記のようにして作製した発明例No.5〜14および比較例No.7〜10のアルミニウム合金板について、強度、成形性、レーザ溶接性、開裂性についての評価を、[実施例A]に準じて行った。その結果を表4に示す。なお、表4中の下線部は、本発明で規制する範囲から外れていることを示す。
【0049】
【表4】

【0050】
表4に示すように、比較例No.7,9は、Cuの含有量が本発明で規制する好適な範囲の上限値を超えているため、成形性およびレーザ溶接性が劣る結果となった。
また、比較例No.8,10は、Tiの含有量が本発明で規制する好適な範囲の上限値を超えているため、巨大なAl−Ti系金属間化合物が発生したために、成形性が劣る結果となった。
【0051】
これに対し、発明例No.5〜14は、アルミニウム合金板の必須成分の含有量、および、最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の1mm2当たりの個数が本発明で規制した範囲内にあり、かつ、CuとTiも、本発明で規制する好適な範囲で含有していたため、良好な強度、成形性、レーザ溶接性、および開裂性を示していた。特に、発明例No.6,12,13は、Cuを比較的多く含有するため、耐力が上昇していた。また、表4には示さないが、発明例No.13は、Tiを比較的多く含有するため、製造工程において鋳造割れ・熱間圧延割れなどはみられなかったことから、歩留まり等の生産性を向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】二次電池ケースの封口板に設けられた安全弁の一例を示す要部断面図である。
【図2】開裂性の試験を行っている様子を示す図である。
【図3】従来の二次電池ケースの封口板に設けられた安全弁の一例を示す要部断面図である。
【図4】従来の二次電池ケースの封口板に設けられた安全弁の他の一例を示す要部断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 封口板
2 安全弁
3 スコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として、Mn:0.8質量%以上1.3質量%以下、Si:0.2質量%以上0.5質量%以下、Fe:0.3質量%以上1.0質量%以下含有し、残部がAlと不可避的不純物からなり、
最大長さが0.5μm以上3μm以下のAl(Fe,Mn,Si)系金属間化合物の個数を1mm2当たり5000個以上20000個以下としたことを特徴とする二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板。
【請求項2】
任意成分として、Cu:0.5質量%以下、または、Ti:0.1質量%以下、または、Cu:0.5質量%以下かつTi:0.1質量%以下含有したことを特徴とする請求項1に記載の二次電池ケースの封口板用アルミニウム合金板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−37129(P2006−37129A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−215123(P2004−215123)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】