説明

二次電池用電極材およびその製造方法

【課題】平均粒径が小さく、電池反応の効率と充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池用電極材およびその二次電池用電極を低コストで且つ高い生産性で製造することができる方法を提供する。
【解決手段】Snおよび(Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の)遷移金属の水酸化物とAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む粒子を生成させ、得られた粒子を乾燥した後、還元性ガス雰囲気下で加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電極材およびその製造方法に関し、特に、リチウムイオン二次電池などの二次電池に使用する電極材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、リチウムまたはリチウム合金またはリチウムを吸蔵し得る物質を負極活物質とする非水電解質二次電池の一種であり、電圧が高く、軽量で、エネルギー密度が高いため、小型軽量化を図り易く、携帯電話などの情報機器の二次電池として使用されている。また、近年では、ハイブリッド自動車用二次電池などの大型動力用二次電池として、リチウムイオン二次電池の需要が高まっており、さらに小型軽量化を図るため、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の向上(高容量化)について様々な検討が行われている。
【0003】
従来、リチウムイオン二次電池の負極材料として、比較的高容量で充放電サイクル特性が良好な難黒鉛化性炭素や黒鉛などの炭素質材料が広く用いられているが、近年、リチウムイオン二次電池の負極材料をさらに高容量化することが課題となっている。
【0004】
しかし、リチウムイオン二次電池を高容量化するため負極材料の容量を大きくしようとしても、黒鉛系炭素質材料では、放電容量372mAh/gという理論的な限界があることが知られており、適用限界に近づいている。一方、非黒鉛系の炭素質材料では、放電容量が大きいものの、不可逆容量が大きく、電池設計の段階で大きなロスが生じるという欠点がある。
【0005】
また、炭素質材料の代替となり得る大容量の負極材料も提案されており、炭素質材料より高容量になり得る負極材料として、ある種の金属がリチウムと電気化学的に合金化して可逆的に生成および分解する材料を使用することが研究されている。例えば、Li−Al合金やSi合金の負極材料が報告されているが、これらの合金は充放電に伴って膨張および収縮するため、充放電サイクル特性が極めて悪いという問題がある。
【0006】
この問題を解決するために、SnをCo、Fe、Ni、V、Cu、Crなどの様々な元素と組み合わせた負極材料を得る方法が提案されている。例えば、Sn化合物と遷移金属化合物と錯化剤を含有する混合液と還元剤とを混合した後に還元剤を酸化してSn合金を合成することによって、二次電池の負極材としてSn合金粉末を得る方法(例えば、特許文献1参照)、Snを含む金属原料を加熱溶融して得られた溶融金属をストリップキャスティング法(ロール急冷法)、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、回転電極法などの急冷凝固法により処理した材料を必要に応じて粉砕処理することによって負極材料粉末を得る方法(例えば、特許文献2参照)、Sn粉末とCo粉末の混合粉末をアルゴンガス中においてボールミルで25時間以上処理した後に分級することによって、合金化された75μm以下の金属材料を得る方法(例えば、特許文献3参照)、Snを含む金属原料を加熱溶融して得られた溶融金属をメルトスピニング法により薄片として熱処理した後にカップミルで粉砕することによって、平均粒径15μmの粉末を得る方法(例えば、特許文献4参照)、Snを含む金属原料をアルゴンガス中においてポットミルで1週間処理することによって、平均粒径0.5〜2.3μmの粉末を得る方法(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−332254号公報(段落番号0013、0017)
【特許文献2】特開2006−236835号公報(段落番号0010、0035)
【特許文献3】特開2001−143761号公報(段落番号0044)
【特許文献4】特開2004−111202号公報(段落番号0050)
【特許文献5】特開2010−161078号公報(段落番号0029)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法では、反応のために多くの槽を設ける必要があり、それらの槽内を不活性ガス雰囲気にして反応を行う必要がある。また、金属原料の他に錯化剤や還元剤も必要になるため、製造コストが高くなり、生産性が悪いという問題がある。また、特許文献2および4の方法では、金属を溶融して粉末を得るまでの各工程を不活性ガス雰囲気下で行って酸化を抑制する必要があり、不活性ガス雰囲気に維持できる溶融設備やアトマイズ設備などが必要になり、設備コストが高くなるという問題がある。また、特許文献3および5の方法では、ミルを用いて機械的に合金化するので、処理時間が長くなり、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
また、二次電池用電極材は、平均粒径が小さい程、比表面積が増加して、電池反応の効率を向上させることができるため、平均粒径が小さい二次電池用電極材が望まれている。また、平均粒径が小さい程、負極へのLi吸蔵時の体積膨張、すなわちSnとLiの反応に伴う体積膨張の影響を緩和して、良好な充放電サイクル特性を得ることができるので、平均粒径が小さい二次電池用電極材、好ましくは平均粒径が数十nm以下の二次電池用電極材が望まれているが、特許文献1〜5の方法では、平均粒径が数十nm以下の電極材を得ることができない。
【0010】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、平均粒径が小さく、電池反応の効率と充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池用電極材およびその二次電池用電極を低コストで且つ高い生産性で製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、Snおよび遷移金属の水酸化物とAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む粒子を生成させ、得られた粒子を乾燥した後、還元性ガス雰囲気下で加熱することによって、平均粒径が小さく、電池反応の効率と充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池用電極材を低コストで且つ高い生産性で製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明による二次電池用電極材の製造方法は、Snおよび遷移金属の水酸化物とAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む粒子を生成させ、得られた粒子を乾燥した後、還元性ガス雰囲気下で加熱することを特徴とする。
【0013】
この二次電池用電極材の製造方法において、粒子の生成は、Snおよび遷移金属が溶解した溶液とアルカリ溶液を混合した後に添加元素が溶解した溶液を混合することによって行ってもよいし、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と添加元素が溶解した溶液を混合した後にアルカリ溶液を混合することによって行ってもよいし、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と添加元素が溶解したアルカリ溶液を混合することによって行ってもよい。
【0014】
また、上記の二次電池用電極材の製造方法において、Snおよび遷移金属が溶解した溶液が、Sn塩と、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属の塩とを溶媒に溶解した溶液であるのが好ましい。また、加熱の温度が210〜600℃であるのが好ましい。
【0015】
また、本発明による二次電池用電極材は、Snと、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素と、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素との金属粉末からなり、平均粒径が10〜400nmであることを特徴とする。
【0016】
この二次電池用電極材において、金属粉末中の酸素濃度が0.1〜20質量%であるのが好ましく、金属粉末中のSnの含有量に対する遷移金属の含有量の比(遷移金属/Sn)が0.2〜3.0であるのが好ましく、金属粉末中の添加元素の含有量が0.1〜30質量%であるのが好ましい。また、金属粉末の結晶子径が50nm以下であるのが好ましい。また、平均粒径が200nm以下であるのが好ましく、100nmより小さいのがさらに好ましい。さらに、金属粉末のBET径が2〜200nmであるのが好ましく、50nm以下であるのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、平均粒径が小さく、電池反応の効率と充放電サイクル特性を向上させることができる二次電池用電極材を低コストで且つ高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例および比較例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを示す図である。
【図2】実施例2で得られたCoSn合金粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】実施例5で得られたCoSn合金粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による二次電池用電極材の製造方法の実施の形態では、Snおよび遷移金属の水酸化物とAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む粒子を生成させ、得られた粒子を乾燥した後、還元性ガス雰囲気下で加熱する。
【0020】
上記の粒子の生成は、Snおよび遷移金属が溶解した溶液とアルカリ溶液を混合した後に上記の添加元素が溶解した溶液を混合することによって行ってもよいし、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と上記の添加元素が溶解した溶液を混合した後にアルカリ溶液を混合することによって行ってもよいし、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と上記の添加元素が溶解したアルカリ溶液を混合することによって行ってもよい。
【0021】
Snおよび遷移金属が溶解した溶液は、Sn塩と、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属の塩とを溶媒に溶解させることによって得られる。Sn塩の量と遷移金属の塩の量の比率は、製造するSn合金粉末の組成に合わせて調整すればよい。溶媒は、コスト面や環境面を考慮して水を使用するのが好ましい。溶液中のSnと遷移金属の合計の金属濃度は、0.01〜10モル/Lであるのが好ましい。金属濃度が10モル/Lを超えると、生産性は優れているが、合金濃度が高過ぎて、微細な前駆体を形成し難いという不具合が生じるおそれがあり、金属濃度が0.01モル/L未満になると、生産性が悪くなる。
【0022】
アルカリ溶液は、NaOHやKOHなどの水酸化アルカリ、炭酸ナトリウムなどの炭酸塩、アンモニアなどを溶媒に溶解させることによって得られる。溶媒は、コスト面や環境面を考慮して水を使用するのが好ましい。
【0023】
Snおよび遷移金属が溶解した溶液とアルカリ溶液とを混合することにより、Snと遷移金属の水酸化物粒子を含むスラリーが得られる。この混合直後の溶液の温度を10〜60℃にするのが好ましい。この混合直後の溶液の温度が60℃を超えると、前駆体の粒子径が大きくなり過ぎて、還元後の合金粒子や結晶子径も大きくなるという不具合が生じる場合がある。また、混合直後の溶液の温度が10℃より低いと、反応温度を制御するための冷却装置が必要になり、生産性の点から好ましくない。また、混合時および混合後に溶液を攪拌するのが好ましい。
【0024】
添加元素が溶解した溶液は、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の元素の化合物を溶媒に溶解させることによって得られる。溶媒は、コスト面や環境面を考慮して水を使用するのが好ましい。この添加元素が溶解した溶液は、Snおよび遷移金属が溶解した溶液とアルカリ溶液を混合してSnと遷移金属の水酸化物粒子を生成させた後に、その水酸化物粒子を含むスラリーに混合してSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粒子を生成させてもよいし、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と混合した後に、アルカリ溶液と混合してSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粒子を生成させてもよい。あるいは、添加元素に加えてSnと遷移金属が溶解した溶液をアルカリ溶液と混合してSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粒子を生成させてもよいし、添加元素が溶解したアルカリ溶液をSnおよび遷移金属が溶解した溶液と混合してSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粒子を生成させてもよい。
【0025】
添加元素は、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の元素であり、標準酸化還元電位が−0.8V以下の元素であるのが好ましい。Snと遷移金属からなる合金粉末は、還元処理工程において金属まで還元することができるが、標準酸化還元電位が−0.8V以下の添加元素は、水素ガスや一酸化炭素ガスなどの還元性ガスによって金属まで還元しないで酸化物として存在するので、焼結防止効果を得ることができる。
【0026】
添加元素の化合物として、水溶性の化合物を使用するのが好ましく、例えば、添加元素がAlの場合には、アルミン酸ナトリウムなどのアルミン酸塩、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどの水溶性のアルミニウム塩を使用することができ、添加元素がSiの場合には、珪酸ナトリウムなどの珪酸塩を使用することができ、添加元素がY、Zrまたは希土類の場合には、硫酸イットリウム、硝酸イットリウム、硝酸ジルコニウム、硝酸ランタンなどの硫酸、硝酸塩、希土類−硫酸、硝酸塩類などを使用することができる。
【0027】
添加元素の化合物の一部は、Snと遷移金属の水酸化物粒子に取り込まれ、残りの添加元素の化合物は、スラリーの液相中に存在し、ろ液として分離される。このように水酸化物粒子に取り込まれる比率は、製造条件により変化する。また、添加元素の化合物の添加量は、目的とするSnと遷移金属の合金粉末中の添加元素の含有量に合わせて調整すればよい。
【0028】
このようにして得られたSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粒子のスラリーを固液分離することにより、Snおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含むケーキを得ることができる。この固液分離は、ブフナー漏斗などを用いたろ過や、遠心分離などの公知の方法によって行うことができる。また、得られたケーキを純水などで洗浄してもよい。その後、ケーキを乾燥させてSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粉末を得る。この乾燥は、加熱乾燥や真空乾燥などの公知の方法によって行うことができる。
【0029】
このようにして得られたSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粉末を還元性ガス雰囲気下において加熱することにより、Sn合金粉末を得ることができる。還元性ガスとしては、水素、窒素と水素の混合ガス、一酸化炭素などを使用することができる。特に、還元力と安全性を考慮して水素ガスを使用するのが好ましい。
【0030】
加熱温度は210〜600℃にするのが好ましい。加熱温度が210℃より低いと、水酸化物の粉末が十分に還元されないおそれがあり、600℃を超えると、粒子成長が進んで粒子径や結晶子径が大きくなることがあり、充放電サイクル特性が低下するおそれがある。平均粒径が小さいSn合金粉末を得るためには、加熱温度を210〜500℃にするのが好ましく、250〜300℃にするのがさらに好ましい。また、加熱時間は0.5時間以上にするのが好ましい。加熱時間が0.5時間より短いと、十分に還元せずに目的とする生成相が得られないおそれがある。
【0031】
上述した二次電池用電極材の製造方法の実施の形態によって、Snと、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素と、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む金属粉末からなり、平均粒径が10〜400nmの二次電池用電極材(負極材)を製造することができる。
【0032】
この二次電池用電極材(負極材)は、Liと合金化する元素であるSnと、Liと合金化し難いCo、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される少なくとも1種以上の遷移金属元素と、粒子径の粗大化を抑制するためのAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種類以上の添加元素とを含む金属粉末(好ましくはSn合金粉末)からなる。負極材を構成する金属元素として、Liと合金化する元素であるSnのみを用いた二次電池では、SnがLiと合金化する際に大きな体積変化を伴うので、充放電サイクル特性が悪いという問題があるが、Liと合金化し難い遷移金属元素をSnと共存させた金属材料を含有する負極材を用いた二次電池では、負極材としての体積変化が抑制され、充放電サイクル特性の悪化を防止することができる。また、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種類以上の元素を含むことにより、小さい平均粒径の粉末を得ることができる。
【0033】
このSnと遷移金属元素と添加元素を含む金属粉末(好ましくはSn合金粉末)は、組成比A/Sn(AはCo、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素)が0.2〜3.0の範囲内であるのが好ましい。この組成比A/Snが0.2未満であると、Snの比率が大き過ぎて、充放電時の負極材の体積変化を十分に抑制することができずに、そのSn合金粉末を負極材として用いた電池の充放電サイクル特性が悪化する場合がある。一方、組成比A/Snが3.0を超えると、Snの比率が小さ過ぎて、その金属粉末を負極材として用いた電池の容量が小さくなる場合がある。なお、組成比A/Snは、0.5〜2.5であるのがさらに好ましい。
【0034】
この金属粉末の遷移金属元素はCoを含むのが好ましい。Coを含むことにより、Liと合金化し難く且つ導電性が高い金属元素の負極材を得ることができる。なお、この金属粉末は、合金相を主体とするが、複数種類の合金相を含んでもよく、Snと遷移金属を単相で含んでもよい。
【0035】
この金属粉末中の添加元素の含有量は、0.1〜30質量%であるのが好ましく、2〜20質量%であるのがさらに好ましい。0.1質量%未満では、金属粉末の平均粒径が大きくなることがあり、30質量%を超えると、添加元素の割合が多過ぎて負極として寄与するSnの割合が低下するため、容量が下がる不具合が生じる場合がある。
【0036】
還元処理前の状態であるSnおよび遷移金属の水酸化物と添加元素を含む粉末では、添加元素は、Al、Zrまたは(Yを含む)希土類元素の場合には、酸素と結合した状態である水酸化物などの形態で存在していると考えられる。添加元素と結合した酸素は、還元処理により除去することができず、金属粉末中には酸素が含まれる。この酸素濃度(酸素含有量)は20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがさらに好ましい。酸素含有量が20質量%を超えると、還元が十分ではなく、Snと遷移金属との酸化物になっている可能性が高く、不可逆容量が増加したり、充放電サイクル特性が低下するおそれがある。なお、この酸素含有量を0.1質量%未満にするのは困難である。
【0037】
このSnと遷移金属元素と添加元素の金属粉末(好ましくはSn合金粉末)の平均粒径は2〜400nmであるのが好ましい。平均粒径が400nmを超えると、金属粉末を負極材として用いた場合に、電池反応の効率が低くなったり、充放電サイクル特性が低下する場合がある。一方、平均粒径が2nmより小さいと、取扱いの不便さや、金属粒子が非常に酸化し易くなるなどの不具合が生じるおそれがある。その金属粉末を負極材として用いた場合の電池反応の効率や充放電サイクル特性を考慮すると、平均粒径は100nm以下であるのが好ましく、60nm以下であるのがさらに好ましく、40nm以下であるのが最も好ましい。
【0038】
Snと遷移金属元素と添加元素の金属粉末(好ましくはSn合金粉末)の結晶子径は50nm以下であるのが好ましい。この結晶子径は小さいほど好ましい。一方、結晶子径が50nmを超えると、充放電時の負極材の体積変化を十分に抑制することができずに、その金属粉末を負極材として用いた電池の充放電サイクル特性が悪化する場合がある。
【0039】
このSnと遷移金属元素と添加元素の金属粉末(好ましくはSn合金粉末)のBET径は、2〜200nmであるのが好ましい。BET径が200nmを超えると、金属粉末を負極材として用いた場合に、電池反応の効率が低くなったり、充放電サイクル特性が低下する場合がある。一方、BET径が2nmより小さいと、取扱いの不便さや、金属粒子が非常に酸化し易くなるなどの不具合が生じるおそれがある。その金属粉末を負極材として用いた場合の電池反応の効率や充放電サイクル特性を考慮すると、BET径は50nm以下であるのが好ましく、30nm以下であるのがさらに好ましく、20nm以下であるのが最も好ましい。
【0040】
上述した金属粉末を用いて、公知の方法により、リチウムイオン二次電池用負極を製造することができる。例えば、上述した金属粉末に適当なバインダを混合し、必要に応じて導電性の向上のために適当な導電性粉末を混合する。この混合物にバインダが溶解する溶媒を加え、必要に応じて公知の攪拌機によって十分に攪拌してスラリー状にする。このスラリーをドクターブレードなどによって圧延銅箔などの電極基板(集電体)に塗布して乾燥した後、ロール圧延などによって圧密化して、非水電解質二次電池用負極を製造することができる。
【0041】
このようにして製造された負極を用いてリチウムイオン二次電池を作製するのが好ましいが、他の非水電解質二次電池を作製することもできる。なお、リチウムイオン二次電池は、基本構造として負極、正極、セパレータおよび非水系の電解質を含んでいるが、上記のように製造された負極を用いるとともに、公知の正極、セパレータおよび電解質を用いて、リチウムイオン二次電池を作製することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明による二次電池用電極材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0043】
[実施例1]
硫酸コバルト・7水和物(CoSO・7HO)28.11gと塩化スズ(IV)(SnCl・5HO)35.06gを純水400gに溶解してCoとSnを含む水溶液を作製した。また、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液54.22gを純水200gに添加してアルカリ水溶液を作製した。上記のCoとSnを含む水溶液を加熱して40℃に保持し、攪拌した状態で、上記のアルカリ水溶液を40℃に加熱してCoとSnを含む水溶液に添加し、CoとSnの水酸化物を含むスラリーを得た。
【0044】
また、アルミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製、モル比(Al/Na)=0.79)10.6gを純水130gに添加して、アルミン酸ナトリウム水溶液を作製した。このアルミン酸ナトリウム水溶液を上記のCoとSnの水酸化物を含むスラリーに添加して攪拌し、CoとSnとAlの水酸化物を含むスラリーを得た。このスラリーを濾過し、純水で洗浄して、CoとSnとAlの水酸化物のケーキを得た。このCoとSnとAlの水酸化物のケーキを大気中において140℃で3時間乾燥した後、水素雰囲気中において300℃で3時間還元して、CoSn合金粉末を得た。
【0045】
得られたCoSn合金粉末について、X線回折装置(島津製作所製のXRD−6100)によりCu線源(40kV/30mA)で20〜70°/2θの範囲を測定して、X線回折(XRD)の評価を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。
【0046】
また、X線回折パターンから得られたCoSn相の(201)面の半価幅βを用いて、Scherrerの式D=(K・λ)/(β・cosθ)から結晶子径(Dx)を算出したところ、結晶子径(Dx)は23.8nmであった。なお、Scherrerの式において、Dは結晶子径(nm)、λは測定X線波長(nm)、βは結晶子による回折幅の広がり、θは回折角のブラッグ角、KはScherrer定数を示し、この式中の測定X線波長λを1.54nm、Scherrer定数Kを0.9とした。
【0047】
また、本実施例で得られたCoSn合金粉末について、透過型電子顕微鏡(日本電子社製のJEM−100CX)によって倍率174,000倍で撮影し、得られた透過型電子顕微鏡写真(TEM像)からCoSn合金粉末の粒子50個の各々の長軸径を測定し、その平均値をCoSn合金粉末の平均粒径とした。その結果、得られたCoSn合金粉末の平均粒径は28.6nmであった。なお、「長軸径」とは、粒子像を2本の平行線で挟んだときの最小間隔を短軸径として、この短軸径に直交する2本の平行線で粒子像を挟んだときの間隔をいう。
【0048】
また、本実施例で得られたCoSn合金粉末について、比表面積測定器(カンタクロム社製のMONOSORB)を用いてBET1点法により比表面積(BET値)を求め、BET径=6/(ρs×10×BET値)×10(但し、ρsは粒子の密度=8.5g/cm)からBET径を求めた。その結果、得られたCoSn合金粉末のBET径は6.2nmであった。
【0049】
また、本実施例で得られたCoSn合金粉末を不活性ガス雰囲気中で密封容器に封入し、酸素・窒素同時分析装置(LECO社製のTC−436)を用いて、CoSn合金粉末の酸素濃度を測定したところ、4.1質量%であった。
【0050】
さらに、本実施例で得られたCoSn合金粉末を酸に溶解し、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のSPS−3520V)による測定結果からCoとSnとAlの組成比(質量比)求め、この質量比と上記の酸素濃度からCoSn合金粉末中の各元素の含有量を算出した。その結果、得られたCoSn合金粉末中のSn、CoおよびAlの含有量は、それぞれ61.5質量%、30.5質量%および3.9質量%であった。
【0051】
これらの結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例2]
還元時間を6時間にした以外は、実施例1と同様の方法により、CoSn合金粉末を製造し、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末の透過型顕微鏡写真(TEM像)を図2に示し、X線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は10.7nm、平均粒径は12.3nm、BET径は6.0nm、酸素濃度は6.6質量%であり、Sn、CoおよびAlの含有量は、それぞれ59.8質量%、29.7質量%および4.0質量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3]
硫酸コバルト・7水和物(CoSO・7HO)28.11gと塩化スズ(IV)(SnCl・5HO)35.06gを純水400gに溶解してCoとSnを含む水溶液を作製した。また、48.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液54.22gとアルミン酸ナトリウム(和光純薬工業社製、モル比(Al/Na)=0.79)8.2gを純水200gに添加してアルカリ水溶液を作製した。上記のCoとSnを含む水溶液を加熱して40℃に保持し、攪拌した状態で、上記のアルカリ水溶液を40℃に加熱してCoとSnを含む水溶液に添加し、CoとSnとAlの水酸化物を含むスラリーを得た。このスラリーを濾過し、純水で洗浄して、CoとSnとAlの水酸化物のケーキを得た。このCoとSnとAlの水酸化物のケーキを大気中において140℃で3時間乾燥した後、水素雰囲気中において400℃で3時間還元して、CoSn合金粉末を得た。
【0055】
得られたCoSn合金粉末について、実施例1と同様の方法により、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は13.4nm、平均粒径は15.0nm、BET径は5.9nm、酸素濃度は5.4質量%であり、Sn、CoおよびAlの含有量は、それぞれ59.7質量%、29.6質量%および5.3質量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
還元温度を500℃にした以外は、実施例3と同様の方法により、CoSn合金粉末を製造し、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は17.1nm、平均粒径は18.2nm、BET径は8.7nm、酸素濃度は4.8質量%であり、Sn、CoおよびAlの含有量は、それぞれ60.0質量%、29.8質量%および5.4質量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0057】
[実施例5]
アルミン酸ナトリウム10.6gを硫酸イットリウム8水和物(Y(SO・8HO)8.5gに代えるとともに、還元時間を6時間にした以外は、実施例1と同様の方法により、CoSn合金粉末を製造し、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末の透過型顕微鏡写真(TEM像)を図3に示し、X線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は19.7nm、平均粒径は26.1nm、BET径は11.8nm、酸素濃度は3.1質量%であり、Sn、CoおよびYの含有量は、それぞれ60.0質量%、29.8質量%および7.2質量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0058】
[実施例6]
アルミン酸ナトリウム10.6gを無水メタ珪酸ナトリウム(NaSiO)10.0gに代えて、CoおよびSnの水酸化物とSiを含むスラリーからCoおよびSnの水酸化物とSiのケーキを得るとともに、還元時間を6時間にした以外は、実施例1と同様の方法により、CoSn合金粉末を製造し、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は15.6nm、平均粒径は18.1nm、BET径は13.3nm、酸素濃度は3.4質量%であり、Sn、CoおよびSiの含有量は、それぞれ62.8質量%、31.2質量%および2.6質量%であった。これらの結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
アルミン酸ナトリウム水溶液を添加しなかった以外は、実施例2と同様の方法により、CoSn合金粉末を製造し、X線回折パターンによる評価、結晶子径の算出、平均粒径の算出、BET径の算出、酸素濃度の測定および各元素の含有量の算出を行った。本実施例で得られたCoSn合金粉末のX線回折パターンを図1に示す。このX線回折パターンから、本実施例で得られたCoSn合金粉末は、CoSnの相を主体とすることが確認された。また、結晶子径は22.9nm、平均粒径は116.0nm、BET径は72.7nmであり、実施例1〜6と比べて平均粒径が大きかった。また、酸素濃度は0.3質量%であり、SnおよびCoの含有量は、それぞれ66.6質量%および33.1質量%であった。これらの結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Snおよび遷移金属の水酸化物とAl、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素とを含む粒子を生成させ、得られた粒子を乾燥した後、還元性ガス雰囲気下で加熱することを特徴とする、二次電池用電極材の製造方法。
【請求項2】
前記粒子の生成が、Snおよび前記遷移金属が溶解した溶液とアルカリ溶液を混合した後に前記添加元素が溶解した溶液を混合することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極材の製造方法。
【請求項3】
前記粒子の生成が、Snおよび前記遷移金属が溶解した溶液と前記添加元素が溶解した溶液を混合した後にアルカリ溶液を混合することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極材の製造方法。
【請求項4】
前記粒子の生成が、Snおよび遷移金属が溶解した溶液と前記添加元素が溶解したアルカリ溶液を混合することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電極材の製造方法。
【請求項5】
前記Snおよび遷移金属が溶解した溶液が、Sn塩と、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属の塩とを溶媒に溶解した溶液であることを特徴とする、請求項2乃至4のいずれかに記載の二次電池用電極材の製造方法。
【請求項6】
前記加熱の温度が210〜600℃であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の二次電池用電極材の製造方法。
【請求項7】
Snと、Co、Ni、Fe、Cu、Cr、In、AgおよびTiからなる群から選択される1種以上の遷移金属元素と、Al、Si、Zrおよび(Yを含む)希土類元素からなる群から選択される1種以上の添加元素との金属粉末からなり、平均粒径が10〜400nmであることを特徴とする、二次電池用電極材。
【請求項8】
前記金属粉末中の酸素濃度が0.1〜20質量%であることを特徴とする、請求項7に記載の二次電池用電極材。
【請求項9】
前記金属粉末中のSnの含有量に対する前記遷移金属の含有量の比(遷移金属/Sn)が0.2〜3.0であることを特徴とする、請求項7または8に記載の二次電池用電極材。
【請求項10】
前記金属粉末中の前記添加元素の含有量が0.1〜30質量%であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の二次電池用電極材。
【請求項11】
前記金属粉末の結晶子径が50nm以下であることを特徴とする、請求項7乃至10のいずれかに記載の二次電池用電極材。
【請求項12】
前記平均粒径が200nm以下であることを特徴とする、請求項7乃至11のいずれかに記載の二次電池用電極材。
【請求項13】
前記平均粒径が100nmより小さいことを特徴とする、請求項7乃至11のいずれかに記載の二次電池用電極材。
【請求項14】
前記金属粉末のBET径が2〜200nmであることを特徴とする、請求項7乃至13のいずれかに記載の二次電池用電極材。
【請求項15】
前記金属粉末のBET径が50nm以下であることを特徴とする、請求項14に記載の二次電池用電極材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−4404(P2013−4404A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136298(P2011−136298)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】