二次電池
【課題】レート特性や容量の低下を招くことなく、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上できる二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池100は、リン化可能な陽イオンを含む電解液125と、放電時に電解液125中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質115とを備える。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化のバランスがとられ、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、レート特性や容量の低下を招くこともない。なお、電解液125には、水系電池または非水系電池に用いられている溶液を用いることができる。
【解決手段】二次電池100は、リン化可能な陽イオンを含む電解液125と、放電時に電解液125中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質115とを備える。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化のバランスがとられ、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、レート特性や容量の低下を招くこともない。なお、電解液125には、水系電池または非水系電池に用いられている溶液を用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化物を利用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅化合物は高容量、高電位が得られる正極活物質として注目されている(たとえば、非特許文献1参照)。しかし、銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きい。このような銅化合物の溶解を抑制については、電解質膜や特殊な電解液を利用する方法が開示されている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1記載の非水電解質電池は、遷移金属および遷移金属化合物の少なくとも一方を含む正極を備えている。そして、遷移金属や遷移金属化合物には例えば、CuやCu化合物等が挙げられている。また、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、周期律表VIB族及びVIIB族の元素のリチウム化合物が、正極、非水電解質、および負極の少なくともいずれかに含まれている。上記のリチウム化合物には、例えば、LiClまたはLiFなどのハロゲン化リチウムが挙げられている。このような構成により容量密度が高い新規な正極活物質を用いた非水電解質電池を得ようとしている。
【0004】
また、特許文献2記載の非水電解質二次電池は、CuまたはCu化合物を活物質として含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、正極または正極の活物質の表面が、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリレート、またはトリプロピレングリコールジアクリレートの重合体などのリチウムイオン伝導体で被覆されている。そして、LiFが、正極、非水電解質、および負極の少なくともいずれかに含まれていることで、正極からのCuの溶解反応を抑制し、充放電効率を向上させようとしている。
【0005】
一方、リン化物を利用した二次電池についても技術が開示されている(たとえば、特許文献3〜6参照)。特許文献3記載の電気化学素子は、リチウム電池、電気化学表示素子、電気二重層コンデンサ等の電気化学素子の電極活物質として金属リン化物を用いている。また、特許文献4記載の二次電池は、負極活物質保持体が、組成式AxMyPで表されるリン化物である。また、特許文献5記載のリチウム二次電池用負極活物質は、負極活物質粒子の合金に添加物として5%以下のホウ素またはリンなどを含有させ、合金粒子の機械的強度を高め、リチウムが吸蔵および放出される場合の微細化による電極面からの脱落を少なくしている。また、特許文献6記載の非水電解質二次電池用負極の製造方法は、負極活物質としてのリン化ガリウムを作製し、リン化ガリウムと結着剤とを含む負極合剤を負極集電体表面に塗布して負極前駆体を作製している。このように、特許文献3〜6記載の二次電池では、いずれもリン化物を負極に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−047416号公報
【特許文献2】特開2004−047405号公報
【特許文献3】特開平7−122261号公報
【特許文献4】特開平9−102312号公報
【特許文献5】特開2006−100244号公報
【特許文献6】特開2007−188648号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】古沢四郎、電池ハンドブック、電気書院、1975、p3−168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、銅化合物の溶解を抑制については様々な方法により開発が試みられており一定の成果が得られているようにもみえる。しかしながら、上記の特許文献1または2に記載されるような技術では、レート特性や容量の低下を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レート特性や容量の低下を招くことなく、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上できる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る二次電池は、リン化可能な陽イオンを含む電解液と、放電時に前記電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質とを備えることを特徴としている。
【0011】
このように、放電時に正極活物質を還元し電解液中の陽イオンをリン化することで電化のバランスがとられ、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、レート特性や容量の低下を招くこともない。
【0012】
(2)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、前記遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、放電により前記リン化された遷移金属に価数変動が生じることを特徴としている。このように、正極活物質は、放電により遷移金属に価数変動が生じることで、正極の機能を発揮することができる。
【0013】
(3)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、リン化銅であることを特徴としている。正極活物質を構成する金属として銅を用いることで負極と電位差(電池電圧)を高くすることができる。銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きいが、放電時に正極活物質を還元し電解液中の陽イオンをリン化することで電化バランスをとることができる。その結果、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができ、電池の充放電が可能となる。
【0014】
(4)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、充電時にCuP2となるリン化銅であることを特徴としている。これにより、放電により遷移金属に価数変動が生じる。
【0015】
(5)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、前記電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能であることを特徴としている。
【化1】
【0016】
このように電解液中の陽イオン(M)により充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0017】
(6)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄またはリン化チタンであることを特徴としている。このように、鉄族元素のリン化物も価数変動が可能であり、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができる。
【0018】
(7)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、または充電時にTiPとなるリン化チタンであることを特徴としている。これにより、放電により遷移金属に価数変動が生じる。
【0019】
(8)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液が、充電時に前記遷移金属とイオン結合することで前記リン化物における前記遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことを特徴としている。このように、充電時に遷移金属とイオン結合しない陰イオンを用いているため、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができる。
【0020】
(9)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液が、ハロゲン化物イオンを含まないことを特徴としている。これにより、充電時にハロゲン化物が生成し電解液に溶解することがなく、金属の価数の高いリン化物が生成され、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0021】
(10)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質とともに正極を構成し、放電時に前記正極活物質に電子を供与する正極集電体と、放電時に酸化反応を生じさせる負極と、前記正極と負極とを隔離し、かつ前記電解液を保持して前記正極と負極との間のイオン伝導性を維持するセパレータと、を更に備えることを特徴としている。これにより、充放電効率を向上させる二次電池を実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、レート特性や容量の低下を招くことなく、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】実施例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図3A】実施例1の放電曲線を示す図である。
【図3B】実施例1のサイクル特性を示す図である。
【図4A】充電時の正極のXRDを示す図である。
【図4B】放電時の正極のXRDを示す図である。
【図5A】比較例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図5B】比較例1のサイクル特性を示す図である。
【図6A】実施例2の放電曲線を示す図である。
【図6B】実施例2のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図7】実施例3のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図8】実施例4のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(二次電池の構成)
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の二次電池100の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の二次電池100は、正極110、セパレータ120および負極130を備えている。
【0025】
正極110は、正極集電体(図示せず)および正極活物質115を有している。正極集電体は、正極活物質とともに正極を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。
【0026】
正極活物質115は、放電時に電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化バランスがとられる。そして充電時には正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、特にレート特性や容量の低下を招くこともない。
【0027】
正極活物質115は、リン化銅であることが好ましく、充電時にCuP2となるリン化銅であればさらに好ましい。正極活物質115を構成する金属として銅を用いることで負極と電位差(電池電圧)を高くすることができる。銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きい。しかし、放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化バランスをとることができる。その結果、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができ、電池の充放電が可能となる。
【0028】
銅以外に、価数変動が生じるリン化物として、Ni、Co、Fe、Tiが挙げられる。正極活物質115は、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄、リン化チタン等のリン化物であってもよい。このように、鉄族元素のリン化物やリン化チタンも価数変動が可能であり、正極活物質115は十分な電池正極反応を達成することができる。また、正極活物質115は、特に、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、充電時にTiPとなるリン化チタンであることが好ましい。これにより価数変動が可能となる。
【0029】
正極活物質115は、遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、放電によりリン化された遷移金属に価数変動が生じる。正極活物質115は、放電により遷移金属に価数変動が生じることで、正極の機能を発揮することができる。
【0030】
セパレータ120は、正極と負極とを隔離し、かつ電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を維持する。セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。電解液125は、リン化可能なイオンを含んでいる。電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能である。
【化2】
このように電解液125中の陽イオン(M)により充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0031】
電解液125には、ほとんどの水系電池または非水系電池に一般に用いられている溶液を用いることができるが、特に以下に挙げるものについては実績がある。電解液125には、陽イオンとしてナトリウムイオンもしくはカリウムイオンを含み、陰イオンとして硫酸イオン、クエン酸イオンもしくは水酸化物イオンを含む水溶液を用いることができる。ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンにより充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0032】
また、陽イオンとしてマグネシウムイオンまたはリチウムイオンを含み、陰イオンとして過塩素酸イオンを含む非水系溶液を用いることができる。充電時に遷移金属とイオン結合しない硫酸イオン、クエン酸イオン等を陰イオンとして用いているため、正極活物質115は十分な電池正極反応を達成できる。そのような電解液125としては、硫酸ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液および過塩素酸リチウムγ−ブチロラクトン溶液が挙げられる。
【0033】
電解液125は、充電時に遷移金属とイオン結合することでリン化物における遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことが好ましい。そのような陰イオンとしては、たとえば、ハロゲン化物イオンがある。これにより、充電時にハロゲン化物が生成し電解液に溶解することがなく、金属の価数の高いリン化物が生成され、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0034】
負極130は、放電時に酸化反応を生じさせる。負極130には、たとえばマグネシウムを用いることができる。負極130は、正極活物質115の機能を妨げないものであれば特に限定されない。
【0035】
(二次電池の作製方法)
次に、二次電池の製造方法を説明する。まず、正極活物質115を合成する。遷移金属と赤リンを所定のモル比1:2で混合し、マイクロ波放電加熱法等により合成する。そして、さらに加熱された試料に、赤リンを加え十分酸化する。このようにして、得られた正極活物質115を所定量秤量し、これを炭素等と混合し、正極集電体に塗布し、乾燥させて正極を作製する。次に、Mg金属等を用いて負極130を用意し、電解液125として水系または非水系の溶液を用いて二次電池を作製する。
【0036】
[実施例1]
(正極活物質の合成)
次に、実施例を説明する。まず、正極活物質115を合成した。銅と赤リンをモル比1:2で混合し、2gのカーボンフェルト(3cmφ)を用いて、マイクロ波放電加熱法により合成した。マイクロ波放電加熱は、700W、60sの条件で行った。加熱された試料に、赤リンを加え、CF−MDHを行い、十分酸化した。
【0037】
(正極の作製)
得られた正極活物質115を200mg秤量し、これを80wt%としてアセチレンブラック10wt%、ポリテトラフルオロエチレン10wt%を混合した。これをグラファイト集電板(0.5×3cm)に塗布し、110℃で乾燥して正極を作製した。
【0038】
(ハーフセルの構成)
負極130としてMg金属を用い、サイクリックボルタンメトリーによる試験には電解液125には5wt%硫酸ナトリウムを用いた。また、放電試験とサイクル特性試験には、電解液125として5wt%クエン酸ナトリウム水溶液を用いた。また、正極110として作製した正極を用い、参照電極には飽和カロメル電極を用いた。このようにして、リン化銅を正極活物質115とする二次電池100のハーフセルを作製することができた。
【0039】
(電気化学測定)
サイクリックボルタンメトリーの掃引速度5mV/sとして電位掃引による電流の変化を測定した。二次電池100の電解液125には5wt%硫酸ナトリウムを用いた。図2は、実施例1のサイクリックボルタモグラム(CV)を示す図である。印加した電位を横軸、応答電流値を縦軸とするグラフを描くと、特有の形状を持った曲線であるサイクリックボルタモグラムが得られる。図2のサイクリックボルタモグラムが示すように、5wt%硫酸ナトリウムを電解液125として用いた二次電池100について、酸化還元電流が確認された。
【0040】
次に、放電試験を10mA/cm2の定電流(0.5C)で行った。二次電池100の電解液125として5wt%クエン酸ナトリウム水溶液を用いた。なお、0.5Cは、電池の全容量を0.5時間で充電もしくは放電する電流値を指す。図3Aは、実施例1の放電曲線を示す図である。図3Aに示すように、二次電池100の電圧は、約2.0Vであり、二次電池として十分な電圧が得られることが分かった。また、二次電池100の電池容量は、約180mAh/gであり、十分な電池容量が得られることが分かった。
【0041】
次に、サイクル特性として、充放電を10回繰り返して、繰り返しによる電池容量の劣化を測定した。図3Bは、実施例1のサイクル特性を示す図である。図3Bに示すように、充放電を繰り返しても、リン化銅を正極活物質115とする二次電池100は、十分な特性を有することが実証された。
【0042】
(充放電時の正極のXRD)
次に、充放電時のそれぞれについて正極110の構成をX線回折(XRD)により測定した。図4Aは、充電時の正極110のXRDを示す図である。図4AのXRDプロファイルにより、充電時の正極は、主にCuP2で構成されていることが分かった。一方、図4Bは、放電時の正極110のXRDを示す図である。図4BのXRDプロファイルにより、放電時の正極110は、Cu3Pと微量のCuで構成されていることが分かった。このように、充放電により、正極110では3CuP2⇔Cu3Pの反応が起きていることが実証された。
【0043】
[比較例1]
電解液として5wt%のMgCl2水溶液を用い、その他は実施例1と同じ条件としてサイクリックボルタンメトリーによる試験およびサイクル特性試験を行った。図5Aは、比較例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。比較例1のサイクリックボルタモグラムは、実施例1のサイクリックボルタモグラムとは形状が異なるため、異なる酸化還元反応が生じていると考えられる。
【0044】
一方、図5Bは、比較例1のサイクル特性を示す図である。図5Bに示すように、電解液125としてMgCl2水溶液を用いるとサイクル特性が著しく低下することが分かった。また、溶液が緑色となっていることからCuCl2が溶解したと考えられる。すなわち、充放電に伴い、CuP2→Cu3P→CuPCl→CuCl2という変化が生じていると考えられる。フッ素イオンを含む溶液を用いた場合も同様な変化が生じると考えられ、ハロゲン化イオンを含む溶液は、電解液125として好ましくないと推測される。
【0045】
[実施例2]
次に、非水系の電解液125を用いた二次電池100について、放電試験およびサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。電解液125には、過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用い、参照電極としてマグネシウム(Mg/Mg2+)を用いて、二次電池100を構成した。それ以外は実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0046】
図6Aは、実施例2の放電曲線を示す図である。図6Aに示すように、放電試験の結果、電解液125として過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用いた二次電池100の容量は、約70mAh/gであり、十分な容量が得られることが分かった。図6Bは、実施例2のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図6Bに示すように酸化還元サイクルが確認され、電解液125として過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用いても二次電池100を構成できることが実証された。
【0047】
[実施例3]
次に、正極活物質115としてリン化チタン(TiP)を用いた二次電池100を作製し、実施例1と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。図7は、実施例3のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図7に示すように、酸化還元サイクルが確認され、正極活物質115としてリン化チタンを用いても、二次電池100を構成できることが分かった。
【0048】
[実施例4]
次に、正極活物質115としてリン化ニッケル(NiP)を用いた二次電池100を作製し、実施例1と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。図8は、実施例4のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図8に示すように、酸化還元サイクルが確認され、正極活物質115としてリン化ニッケルを用いても二次電池100を構成できることが分かった。
【符号の説明】
【0049】
100 二次電池
110 正極
115 正極活物質
120 セパレータ
125 電解液
130 負極
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化物を利用した二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅化合物は高容量、高電位が得られる正極活物質として注目されている(たとえば、非特許文献1参照)。しかし、銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きい。このような銅化合物の溶解を抑制については、電解質膜や特殊な電解液を利用する方法が開示されている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1記載の非水電解質電池は、遷移金属および遷移金属化合物の少なくとも一方を含む正極を備えている。そして、遷移金属や遷移金属化合物には例えば、CuやCu化合物等が挙げられている。また、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、周期律表VIB族及びVIIB族の元素のリチウム化合物が、正極、非水電解質、および負極の少なくともいずれかに含まれている。上記のリチウム化合物には、例えば、LiClまたはLiFなどのハロゲン化リチウムが挙げられている。このような構成により容量密度が高い新規な正極活物質を用いた非水電解質電池を得ようとしている。
【0004】
また、特許文献2記載の非水電解質二次電池は、CuまたはCu化合物を活物質として含む正極と、非水電解質と、リチウムを吸蔵・放出する材料を含む負極とを備え、正極または正極の活物質の表面が、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリレート、またはトリプロピレングリコールジアクリレートの重合体などのリチウムイオン伝導体で被覆されている。そして、LiFが、正極、非水電解質、および負極の少なくともいずれかに含まれていることで、正極からのCuの溶解反応を抑制し、充放電効率を向上させようとしている。
【0005】
一方、リン化物を利用した二次電池についても技術が開示されている(たとえば、特許文献3〜6参照)。特許文献3記載の電気化学素子は、リチウム電池、電気化学表示素子、電気二重層コンデンサ等の電気化学素子の電極活物質として金属リン化物を用いている。また、特許文献4記載の二次電池は、負極活物質保持体が、組成式AxMyPで表されるリン化物である。また、特許文献5記載のリチウム二次電池用負極活物質は、負極活物質粒子の合金に添加物として5%以下のホウ素またはリンなどを含有させ、合金粒子の機械的強度を高め、リチウムが吸蔵および放出される場合の微細化による電極面からの脱落を少なくしている。また、特許文献6記載の非水電解質二次電池用負極の製造方法は、負極活物質としてのリン化ガリウムを作製し、リン化ガリウムと結着剤とを含む負極合剤を負極集電体表面に塗布して負極前駆体を作製している。このように、特許文献3〜6記載の二次電池では、いずれもリン化物を負極に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−047416号公報
【特許文献2】特開2004−047405号公報
【特許文献3】特開平7−122261号公報
【特許文献4】特開平9−102312号公報
【特許文献5】特開2006−100244号公報
【特許文献6】特開2007−188648号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】古沢四郎、電池ハンドブック、電気書院、1975、p3−168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、銅化合物の溶解を抑制については様々な方法により開発が試みられており一定の成果が得られているようにもみえる。しかしながら、上記の特許文献1または2に記載されるような技術では、レート特性や容量の低下を招くおそれがある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、レート特性や容量の低下を招くことなく、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上できる二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係る二次電池は、リン化可能な陽イオンを含む電解液と、放電時に前記電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質とを備えることを特徴としている。
【0011】
このように、放電時に正極活物質を還元し電解液中の陽イオンをリン化することで電化のバランスがとられ、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、レート特性や容量の低下を招くこともない。
【0012】
(2)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、前記遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、放電により前記リン化された遷移金属に価数変動が生じることを特徴としている。このように、正極活物質は、放電により遷移金属に価数変動が生じることで、正極の機能を発揮することができる。
【0013】
(3)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、リン化銅であることを特徴としている。正極活物質を構成する金属として銅を用いることで負極と電位差(電池電圧)を高くすることができる。銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きいが、放電時に正極活物質を還元し電解液中の陽イオンをリン化することで電化バランスをとることができる。その結果、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができ、電池の充放電が可能となる。
【0014】
(4)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、充電時にCuP2となるリン化銅であることを特徴としている。これにより、放電により遷移金属に価数変動が生じる。
【0015】
(5)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、前記電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能であることを特徴としている。
【化1】
【0016】
このように電解液中の陽イオン(M)により充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0017】
(6)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄またはリン化チタンであることを特徴としている。このように、鉄族元素のリン化物も価数変動が可能であり、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができる。
【0018】
(7)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質が、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、または充電時にTiPとなるリン化チタンであることを特徴としている。これにより、放電により遷移金属に価数変動が生じる。
【0019】
(8)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液が、充電時に前記遷移金属とイオン結合することで前記リン化物における前記遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことを特徴としている。このように、充電時に遷移金属とイオン結合しない陰イオンを用いているため、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができる。
【0020】
(9)また、本発明に係る二次電池は、前記電解液が、ハロゲン化物イオンを含まないことを特徴としている。これにより、充電時にハロゲン化物が生成し電解液に溶解することがなく、金属の価数の高いリン化物が生成され、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0021】
(10)また、本発明に係る二次電池は、前記正極活物質とともに正極を構成し、放電時に前記正極活物質に電子を供与する正極集電体と、放電時に酸化反応を生じさせる負極と、前記正極と負極とを隔離し、かつ前記電解液を保持して前記正極と負極との間のイオン伝導性を維持するセパレータと、を更に備えることを特徴としている。これにより、充放電効率を向上させる二次電池を実現できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、レート特性や容量の低下を招くことなく、正極活物質を構成する金属の溶解を抑制し、充放電効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の二次電池の構成を示す模式図である。
【図2】実施例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図3A】実施例1の放電曲線を示す図である。
【図3B】実施例1のサイクル特性を示す図である。
【図4A】充電時の正極のXRDを示す図である。
【図4B】放電時の正極のXRDを示す図である。
【図5A】比較例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図5B】比較例1のサイクル特性を示す図である。
【図6A】実施例2の放電曲線を示す図である。
【図6B】実施例2のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図7】実施例3のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図8】実施例4のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(二次電池の構成)
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の二次電池100の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の二次電池100は、正極110、セパレータ120および負極130を備えている。
【0025】
正極110は、正極集電体(図示せず)および正極活物質115を有している。正極集電体は、正極活物質とともに正極を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。
【0026】
正極活物質115は、放電時に電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる。放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化バランスがとられる。そして充電時には正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。その結果、充放電効率を向上させることができる。また、特にレート特性や容量の低下を招くこともない。
【0027】
正極活物質115は、リン化銅であることが好ましく、充電時にCuP2となるリン化銅であればさらに好ましい。正極活物質115を構成する金属として銅を用いることで負極と電位差(電池電圧)を高くすることができる。銅化合物は、水系および非水系のいずれの電解液に対しても溶解度が高く、自己放電が大きい。しかし、放電時に正極活物質115を還元し電解液125中の陽イオンをリン化することで電化バランスをとることができる。その結果、正極活物質は十分な電池正極反応を達成することができ、電池の充放電が可能となる。
【0028】
銅以外に、価数変動が生じるリン化物として、Ni、Co、Fe、Tiが挙げられる。正極活物質115は、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄、リン化チタン等のリン化物であってもよい。このように、鉄族元素のリン化物やリン化チタンも価数変動が可能であり、正極活物質115は十分な電池正極反応を達成することができる。また、正極活物質115は、特に、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、充電時にTiPとなるリン化チタンであることが好ましい。これにより価数変動が可能となる。
【0029】
正極活物質115は、遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、放電によりリン化された遷移金属に価数変動が生じる。正極活物質115は、放電により遷移金属に価数変動が生じることで、正極の機能を発揮することができる。
【0030】
セパレータ120は、正極と負極とを隔離し、かつ電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を維持する。セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。電解液125は、リン化可能なイオンを含んでいる。電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能である。
【化2】
このように電解液125中の陽イオン(M)により充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0031】
電解液125には、ほとんどの水系電池または非水系電池に一般に用いられている溶液を用いることができるが、特に以下に挙げるものについては実績がある。電解液125には、陽イオンとしてナトリウムイオンもしくはカリウムイオンを含み、陰イオンとして硫酸イオン、クエン酸イオンもしくは水酸化物イオンを含む水溶液を用いることができる。ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンにより充放電時の電化バランスがとられているため、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0032】
また、陽イオンとしてマグネシウムイオンまたはリチウムイオンを含み、陰イオンとして過塩素酸イオンを含む非水系溶液を用いることができる。充電時に遷移金属とイオン結合しない硫酸イオン、クエン酸イオン等を陰イオンとして用いているため、正極活物質115は十分な電池正極反応を達成できる。そのような電解液125としては、硫酸ナトリウム水溶液、クエン酸ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液および過塩素酸リチウムγ−ブチロラクトン溶液が挙げられる。
【0033】
電解液125は、充電時に遷移金属とイオン結合することでリン化物における遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことが好ましい。そのような陰イオンとしては、たとえば、ハロゲン化物イオンがある。これにより、充電時にハロゲン化物が生成し電解液に溶解することがなく、金属の価数の高いリン化物が生成され、正極活物質115を構成する金属の溶解を抑制できる。
【0034】
負極130は、放電時に酸化反応を生じさせる。負極130には、たとえばマグネシウムを用いることができる。負極130は、正極活物質115の機能を妨げないものであれば特に限定されない。
【0035】
(二次電池の作製方法)
次に、二次電池の製造方法を説明する。まず、正極活物質115を合成する。遷移金属と赤リンを所定のモル比1:2で混合し、マイクロ波放電加熱法等により合成する。そして、さらに加熱された試料に、赤リンを加え十分酸化する。このようにして、得られた正極活物質115を所定量秤量し、これを炭素等と混合し、正極集電体に塗布し、乾燥させて正極を作製する。次に、Mg金属等を用いて負極130を用意し、電解液125として水系または非水系の溶液を用いて二次電池を作製する。
【0036】
[実施例1]
(正極活物質の合成)
次に、実施例を説明する。まず、正極活物質115を合成した。銅と赤リンをモル比1:2で混合し、2gのカーボンフェルト(3cmφ)を用いて、マイクロ波放電加熱法により合成した。マイクロ波放電加熱は、700W、60sの条件で行った。加熱された試料に、赤リンを加え、CF−MDHを行い、十分酸化した。
【0037】
(正極の作製)
得られた正極活物質115を200mg秤量し、これを80wt%としてアセチレンブラック10wt%、ポリテトラフルオロエチレン10wt%を混合した。これをグラファイト集電板(0.5×3cm)に塗布し、110℃で乾燥して正極を作製した。
【0038】
(ハーフセルの構成)
負極130としてMg金属を用い、サイクリックボルタンメトリーによる試験には電解液125には5wt%硫酸ナトリウムを用いた。また、放電試験とサイクル特性試験には、電解液125として5wt%クエン酸ナトリウム水溶液を用いた。また、正極110として作製した正極を用い、参照電極には飽和カロメル電極を用いた。このようにして、リン化銅を正極活物質115とする二次電池100のハーフセルを作製することができた。
【0039】
(電気化学測定)
サイクリックボルタンメトリーの掃引速度5mV/sとして電位掃引による電流の変化を測定した。二次電池100の電解液125には5wt%硫酸ナトリウムを用いた。図2は、実施例1のサイクリックボルタモグラム(CV)を示す図である。印加した電位を横軸、応答電流値を縦軸とするグラフを描くと、特有の形状を持った曲線であるサイクリックボルタモグラムが得られる。図2のサイクリックボルタモグラムが示すように、5wt%硫酸ナトリウムを電解液125として用いた二次電池100について、酸化還元電流が確認された。
【0040】
次に、放電試験を10mA/cm2の定電流(0.5C)で行った。二次電池100の電解液125として5wt%クエン酸ナトリウム水溶液を用いた。なお、0.5Cは、電池の全容量を0.5時間で充電もしくは放電する電流値を指す。図3Aは、実施例1の放電曲線を示す図である。図3Aに示すように、二次電池100の電圧は、約2.0Vであり、二次電池として十分な電圧が得られることが分かった。また、二次電池100の電池容量は、約180mAh/gであり、十分な電池容量が得られることが分かった。
【0041】
次に、サイクル特性として、充放電を10回繰り返して、繰り返しによる電池容量の劣化を測定した。図3Bは、実施例1のサイクル特性を示す図である。図3Bに示すように、充放電を繰り返しても、リン化銅を正極活物質115とする二次電池100は、十分な特性を有することが実証された。
【0042】
(充放電時の正極のXRD)
次に、充放電時のそれぞれについて正極110の構成をX線回折(XRD)により測定した。図4Aは、充電時の正極110のXRDを示す図である。図4AのXRDプロファイルにより、充電時の正極は、主にCuP2で構成されていることが分かった。一方、図4Bは、放電時の正極110のXRDを示す図である。図4BのXRDプロファイルにより、放電時の正極110は、Cu3Pと微量のCuで構成されていることが分かった。このように、充放電により、正極110では3CuP2⇔Cu3Pの反応が起きていることが実証された。
【0043】
[比較例1]
電解液として5wt%のMgCl2水溶液を用い、その他は実施例1と同じ条件としてサイクリックボルタンメトリーによる試験およびサイクル特性試験を行った。図5Aは、比較例1のサイクリックボルタモグラムを示す図である。比較例1のサイクリックボルタモグラムは、実施例1のサイクリックボルタモグラムとは形状が異なるため、異なる酸化還元反応が生じていると考えられる。
【0044】
一方、図5Bは、比較例1のサイクル特性を示す図である。図5Bに示すように、電解液125としてMgCl2水溶液を用いるとサイクル特性が著しく低下することが分かった。また、溶液が緑色となっていることからCuCl2が溶解したと考えられる。すなわち、充放電に伴い、CuP2→Cu3P→CuPCl→CuCl2という変化が生じていると考えられる。フッ素イオンを含む溶液を用いた場合も同様な変化が生じると考えられ、ハロゲン化イオンを含む溶液は、電解液125として好ましくないと推測される。
【0045】
[実施例2]
次に、非水系の電解液125を用いた二次電池100について、放電試験およびサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。電解液125には、過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用い、参照電極としてマグネシウム(Mg/Mg2+)を用いて、二次電池100を構成した。それ以外は実施例1と同じ条件で実験を行った。
【0046】
図6Aは、実施例2の放電曲線を示す図である。図6Aに示すように、放電試験の結果、電解液125として過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用いた二次電池100の容量は、約70mAh/gであり、十分な容量が得られることが分かった。図6Bは、実施例2のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図6Bに示すように酸化還元サイクルが確認され、電解液125として過塩素酸マグネシウムプロピレンカーボネイト溶液を用いても二次電池100を構成できることが実証された。
【0047】
[実施例3]
次に、正極活物質115としてリン化チタン(TiP)を用いた二次電池100を作製し、実施例1と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。図7は、実施例3のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図7に示すように、酸化還元サイクルが確認され、正極活物質115としてリン化チタンを用いても、二次電池100を構成できることが分かった。
【0048】
[実施例4]
次に、正極活物質115としてリン化ニッケル(NiP)を用いた二次電池100を作製し、実施例1と同様の条件でサイクリックボルタンメトリーによる試験を行った。図8は、実施例4のサイクリックボルタモグラムを示す図である。図8に示すように、酸化還元サイクルが確認され、正極活物質115としてリン化ニッケルを用いても二次電池100を構成できることが分かった。
【符号の説明】
【0049】
100 二次電池
110 正極
115 正極活物質
120 セパレータ
125 電解液
130 負極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化可能な陽イオンを含む電解液と、
放電時に前記電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質とを備えることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、前記遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、
放電により前記リン化された遷移金属に価数変動が生じることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、リン化銅であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、充電時にCuP2となるリン化銅であることを特徴とする請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、前記電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能であることを特徴とする請求項4記載の二次電池。
【化1】
【請求項6】
前記正極活物質は、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄またはリン化チタンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質は、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、または充電時にTiPとなるリン化チタンであることを特徴とする請求項6記載の二次電池。
【請求項8】
前記電解液は、充電時に前記遷移金属とイオン結合することで前記リン化物における前記遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことを特徴とする請求項2記載の二次電池。
【請求項9】
前記電解液は、ハロゲン化物イオンを含まないことを特徴とする請求項8記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質とともに正極を構成し、放電時に前記正極活物質に電子を供与する正極集電体と、
放電時に酸化反応を生じさせる負極と、
前記正極と負極とを隔離し、かつ前記電解液を保持して前記正極と負極との間のイオン伝導性を維持するセパレータと、を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の二次電池。
【請求項1】
リン化可能な陽イオンを含む電解液と、
放電時に前記電解液中の陽イオンをリン化することで還元されるリン化物からなる正極活物質とを備えることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、前記遷移金属がリン化された遷移金属リン化物であり、
放電により前記リン化された遷移金属に価数変動が生じることを特徴とする請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質は、リン化銅であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質は、充電時にCuP2となるリン化銅であることを特徴とする請求項3記載の二次電池。
【請求項5】
前記電解液中の陽イオンをMと表したとき、以下の化学式により、前記電解液中で酸化還元反応が進むことにより充放電可能であることを特徴とする請求項4記載の二次電池。
【化1】
【請求項6】
前記正極活物質は、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化鉄またはリン化チタンであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極活物質は、充電時にNiPもしくはNiP2となるリン化ニッケル、充電時にCo3P4となるリン化コバルト、充電時にFeP2となるリン化鉄、または充電時にTiPとなるリン化チタンであることを特徴とする請求項6記載の二次電池。
【請求項8】
前記電解液は、充電時に前記遷移金属とイオン結合することで前記リン化物における前記遷移金属の価数の増加を妨げる陰イオンを含まないことを特徴とする請求項2記載の二次電池。
【請求項9】
前記電解液は、ハロゲン化物イオンを含まないことを特徴とする請求項8記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極活物質とともに正極を構成し、放電時に前記正極活物質に電子を供与する正極集電体と、
放電時に酸化反応を生じさせる負極と、
前記正極と負極とを隔離し、かつ前記電解液を保持して前記正極と負極との間のイオン伝導性を維持するセパレータと、を更に備えることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の二次電池。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−232148(P2010−232148A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81371(P2009−81371)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/カーボンフェルト電極マイクロ波放電を利用したマグネシウム二次電池正極活物質の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発/次世代技術開発/カーボンフェルト電極マイクロ波放電を利用したマグネシウム二次電池正極活物質の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591267855)埼玉県 (71)
【Fターム(参考)】
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