説明

二次電池

【課題】セパレータと電極との間に多孔質絶縁層を備えた二次電池において、電解液の浸透性向上を図る。
【解決手段】二次電池は、正極シートと負極シート20とがセパレータシート40を介して相互に重ね合わされてなる電極体と、電解液とを備える二次電池である。正極シート及び負極シートのうちの少なくとも一方の電極シート20と、セパレータシートとの双方の対向面には、それぞれ無機フィラー及びバインダを含む多孔質絶縁層30A、30Bが所定方向に沿って断続的に形成されており、かつ、当該対向面における両シート上に形成された多孔質絶縁層30A、30Bは、両シート20、40を相互に重ね合わせた状態において、一方のシート20の多孔質絶縁層30Aが形成されていない部分32A及び当該部分32Aに接する多孔質絶縁層30Aの端部34Aが、他方のシート40の多孔質絶縁層30Bと相互に対向し得る位置関係となるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を備える二次電池に関するものであり、特に電極シート及びセパレータシートの間に多孔質絶縁層を備えた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池(蓄電池)は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、正極と、負極と、正極と負極との間に介在する多孔質のセパレータとを備える。セパレータは、正極と負極との接触に伴う短絡を防止するとともに、該セパレータの空孔内に電解液を含浸させることにより、両電極間のイオン伝導パスを形成する役割を担っている。
【0003】
従来から、セパレータとしては、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等からなる多孔質の樹脂シートが用いられている。上記セパレータは多孔質であるため、温度が高くなると熱収縮が起こる。これを利用してシャットダウン機能が働く。しかし、熱収縮の程度が大きいと、破膜等による局所的な短絡が発生し、そこから更に短絡が拡大するおそれがある。セパレータが熱収縮した場合でも正極と負極とが直接接触するのを阻むために、セパレータと電極との間に多孔質絶縁層を形成することが提案されている。多孔質絶縁層は、無機フィラーとバインダとを含む塗料をセパレータもしくは電極の表面に塗布して乾燥することにより形成される。また、かかる多孔質絶縁層をセパレータもしくは電極の表面全体に形成する代わりに、部分的に、例えば特に内部短絡が起こりやすい箇所にのみ設けることも検討されている。この種の従来技術として、特許文献1にはセパレータと電極との間に多孔質耐熱層を部分的に形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−120604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように、セパレータと電極との間に多孔質耐熱層を部分的に形成すると、多孔質耐熱層の有るところと多孔質耐熱層の無いところとでは電解液の浸透性に差が生じる。そのため、多孔質絶縁層を部分的に配置した電池では、電極体全体に電解液が均一に浸み込まず、電解液の分布の偏りが生じてしまう。電解液の分布の偏りが生じると、電位ムラが発生し、サイクル後の容量維持率が低下するため好ましくない。本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、セパレータと電極との間に多孔質絶縁層を備えた二次電池において、電解液の浸透ムラを発生させることなく、電解液の浸透性向上を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を実現するべく、本発明により提供される非水電解液型二次電池は、正極シートと負極シートとがセパレータシートを介して相互に重ね合わされてなる電極体と、電解液とを備える二次電池である。上記正極シート及び上記負極シートのうちの少なくとも一方の電極シートと、上記セパレータシートとの双方の対向面には、それぞれ無機フィラー及びバインダを含む多孔質絶縁層が所定方向(典型的には当該シートにおける長手方向)に沿って断続的に形成されている。そして、当該対向面における両シート上に形成された多孔質絶縁層は、両シートを相互に重ね合わせた状態において、一方のシートの多孔質絶縁層が形成されていない部分及び当該部分に接する多孔質絶縁層の端部(多孔質絶縁層の所定方向における端部)が、他方のシートの多孔質絶縁層と相互に対向し得る位置関係となるように配置されている。
【0007】
かかる構成によると、電極シート及びセパレータシートを相互に重ね合わせた状態において、一方のシートの多孔質絶縁層が形成されていない部分とそれに対向する他方のシートの多孔質絶縁層との間に大きな空間(スペース)が形成される。その空間を利用して電極体の外部から内部へと電解液を流通させることができる。このことにより、電解液の浸透性が向上し、電解液の浸透時間(ひいては電池の製造時間)を短縮することができる。かかる構成によると、両シート間の全面にわたって電解液の流路(空間)が形成される構成となるため、電極体全体に電解液が均一に浸透する。そのため、電解液の浸透ムラを発生させることなく、電極体への電解液浸透性向上を図ることができ、技術的価値が高い。さらに、かかる構成の電極体では、両シートの多孔質絶縁層の端部同士が相互に重なる(ラップする)ように配置されているので、両シートの対向面に直交する方向から見たときに、両シート間の全面にわたって多孔質絶縁層が隙間なく存在する。そのため、過充電等によりセパレータシートが熱収縮した場合でも、正負極間の直接接触を多孔質絶縁層により阻むことで、内部短絡の発生を防止することができる。従って、本発明によると、内部短絡の虞がなく、かつ電解液の浸透性が向上した最適な二次電池を提供することができる。
【0008】
ここで開示される二次電池の好適な一態様では、上記対向する2つのシート上の多孔質絶縁層は、所定方向(典型的には当該シートにおける長手方向)に沿った一の多孔質絶縁層とそれに隣接する一の多孔質絶縁層との間の非形成部分の長さ(すなわち両シートの多孔質絶縁層が形成されていない部分の所定方向に沿う長さ)が、5mm〜500mmとなるように形成されている。非形成部分の長さを5mm以上とすることにより、電解液を浸透させる空間が拡大し、電解液の浸透性がさらに向上する。一方、非形成部分の長さが500mmより大きすぎると、多孔質絶縁層を断続的に形成していない従来のものと構成が近づくため、電解液浸透性向上効果が不十分になることがある。電解液浸透性向上の観点からは、通常は5mm〜500mmの範囲が適当であり、好ましくは10mm〜300mmであり、特に好ましくは10mm〜100mmである。
【0009】
ここで開示される二次電池の好適な一態様では、上記対向する2つのシート上の多孔質絶縁層の少なくとも一方の厚みが、2μm〜50μmである。多孔質絶縁層の厚みが2μm未満の場合は、塗工が難しくなってくることに加えて、電解液を浸透させる空間が縮小し、電解液浸透性向上効果が不十分になることがある。一方、多孔質絶縁層の厚みが50μmを超えると、電池の単位容積における電極活物質の量が相対的に減るので、電池容量が低下傾向になることがある。高容量化と電解液浸透性向上効果との双方を満足する観点からは、通常は2μm〜50μmの範囲であり、好ましくは2μm〜30μmであり、特に好ましくは2μm〜10μmである。
【0010】
ここで開示される二次電池の好適な一態様では、上記対向する2つのシートの対向面に直交する方向から見たときに、両シート上の多孔質絶縁層の端部同士が重なる部分の所定方向に沿う幅が、少なくとも0.1mm以上である。かかる構成によると、上記電極体が捲回電極体である場合、両シートの多孔質絶縁層を捲回電極体のR部に配置した際に、多孔質絶縁層の端部同士が重なる(ラップする)ように両シートを確実に対向させることができる。そのため、内部短絡の発生をより確実に防止することができる。重なり部分の幅の上限値は特に限定されないが、重なり部分の幅が大きすぎると、電解液を浸透させる空間(流路)の間隔が開くので、電極体全体に電解液が均一に浸み込まない場合がある。電解液の浸透ムラを防止する観点からは、概ね30mm以下が適当であり、好ましくは20mm以下であり、特に好ましくは10mm以下である。
【0011】
ここで開示される二次電池の好適な一態様では、上記電極体は、長尺な上記正極シートと長尺な上記負極シートとが長尺な上記セパレータシートを介して捲回された捲回電極体である。そして、上記多孔質絶縁層は、上記正極シートと上記セパレータシートとの間、および、上記負極シートと上記セパレータシートとの間の双方に設けられている。かかる構成によると、正極シートとセパレータシートとの間および負極シートとセパレータシートとの間のいずれか一方のみに多孔質絶縁層を形成する場合に比べて、電解液を浸透させる空間(流路)がさらに多くなる。そのため、電解液の浸透性が格段に向上し、より電池性能に優れた二次電池が得られる。
【0012】
ここに開示される何れかの二次電池は、上記のとおり、電解液の浸透性に優れ、また内部短絡の虞がないことから、例えば自動車等の車両に搭載される二次電池(典型的には駆動電源用途の二次電池)として好適である。したがって本発明によると、ここに開示される何れかの二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該二次電池を動力源として備える車両(例えば家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)等)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る二次電池の外観を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II断面を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を説明するための模式図である。
【図4】(a)は負極シートのセパレータシートと対向する対向面を模式的に示す平面図であり、(b)はセパレータシートの負極シートと対向する対向面を模式的に示す平面図である。
【図5】負極シートとセパレータシートとを相互に重ね合わせて捲回した状態において、捲回方向(長手方向)に沿う断面の要部を拡大して示す模式的断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に用いられる捲回電極体を模式的に示す正面図である。
【図7】二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。なお、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、正極活物質および負極活物質の製造方法、セパレータや電解質の構成および製法、二次電池の構築に係る一般的技術等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。
【0015】
特に限定することを意図したものではないが、以下では捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを角型の電池ケースに収容した形態のリチウム二次電池を例として本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を図1〜図3に示す。このリチウム二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20とが長尺状のセパレータシート40を介して積層されて捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、該電極体に含浸させた非水電解液90(図2)とともに、該捲回電極体80を収容し得る形状(箱型)の電池ケース50に収容された構成を有する。
【0017】
電池ケース50は、上端が開放された箱型のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。電池ケース50を構成する材質としては、アルミニウム、スチール、NiめっきSUS等の金属材料が好ましく用いられる。あるいは、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリイミド樹脂等の樹脂材料を成形してなる電池ケース50であってもよい。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極10と電気的に接続する正極端子70および捲回電極体80の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。電池ケース50の内部には、捲回電極体80が非水電解液90とともに収容される。
【0018】
<捲回電極体>
本実施形態に係る捲回電極体80は、負極シート20とセパレータシート40との間に多孔質絶縁層30を備える点を除いては通常のリチウム二次電池の捲回電極体と同様であり、図3に示すように、正極シート10と負極シート20とが2枚のセパレータシート40を介して積層されて捲回された構造を有している。
【0019】
<負極シート>
負極シート20は、長尺シート状の箔状の負極集電体22の両面に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構造を有している。ただし、負極活物質層24は負極シート20の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図3では上側の側縁部分)には付着されず、負極集電体22を一定の幅にて露出させた負極活物質層非形成部が形成されている。負極集電体22には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属酸化物(リチウムチタン酸化物等)、リチウム遷移金属窒化物等が例示される。
【0020】
負極活物質層24は、負極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、負極活物質の結着剤(バインダ)として機能し得るポリマー材料(例えばスチレンブタジエンゴム(SBR))、負極活物質層形成用ペーストの増粘剤として機能し得るポリマー材料(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等が挙げられる。
【0021】
<正極シート>
正極シート10も負極シート20と同様に、長尺シート状の箔状の正極集電体12の両面に正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構造を有している。ただし、正極活物質層は正極シート10の幅方向の端辺に沿う一方の側縁(図3では下側の側縁部分)には付着されず、正極集電体12を一定の幅にて露出させた正極活物質層非形成部が形成されている。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。ここに開示される技術の好ましい適用対象として、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等の、リチウムと一種または二種以上の遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)を主成分とする正極活物質が挙げられる。
【0022】
正極活物質層14は、正極活物質のほか、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層の構成成分として使用され得る一種または二種以上の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、導電材が挙げられる。該導電材としては、カーボン粉末(例えば、アセチレンブラック(AB))やカーボンファイバー等のカーボン材料が好ましく用いられる。あるいは、ニッケル粉末等の導電性金属粉末等を用いてもよい。その他、正極活物質層の成分として使用され得る材料としては、正極活物質の結着剤(バインダ)として機能し得る各種のポリマー材料(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF))が挙げられる。
【0023】
<セパレータシート>
正負極間に使用されるセパレータ40としては、例えば、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系の樹脂を好適に用いることができる。セパレータ40の構造は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。ここでは、セパレータ40はPE系樹脂によって構成されている。PE系樹脂としては、エチレンの単独重合体が好ましく用いられる。また、PE系樹脂は、エチレンから誘導される繰り返し単位を50質量%以上含有する樹脂であって、エチレンと共重合可能なα‐オレフィンを重合した共重合体、あるいはエチレンと共重合可能な少なくとも一種のモノマーを重合した共重合体であってもよい。α‐オレフィンとして、プロピレン等が例示される。他のモノマーとして共役ジエン(例えばブタジエン)、アクリル酸等が例示される。
【0024】
また、セパレータシート40は、シャットダウン温度が120℃〜140℃(典型的には、125℃〜135℃)程度のPEから構成されることが好ましい。上記シャットダウン温度は、電池の耐熱温度(例えば、約200℃以上)よりも十分に低い。かかるPEとしては、一般に高密度ポリエチレン、あるいは直鎖状(線状)低密度ポリエチレン等と称されるポリオレフィンが例示される。あるいは中密度、低密度の各種の分岐ポリエチレンを用いてもよい。また、必要に応じて、各種可塑剤、酸化防止剤等の添加剤を含有することもできる。
【0025】
セパレータ40として、一軸延伸または二軸延伸された多孔性樹脂シートを好適に用いることができる。中でも、長手方向(MD方向:Machine Direction)に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、適度な強度を備えつつ幅方向の熱収縮が少ないため、特に好ましい。例えば、かかる長手方向一軸延伸樹脂シートを有するセパレータを用いると、長尺シート状の正極および負極とともに捲回された態様において、長手方向の熱収縮も抑制され得る。したがって、長手方向に一軸延伸された多孔性樹脂シートは、かかる捲回電極体を構成するセパレータの一材料として特に好適である。
【0026】
セパレータ40の厚みは、10μm〜30μm程度であることが好ましく、16μm〜20μm程度であることがより好ましい。セパレータ40の厚みが大きすぎると、セパレータ40のイオン伝導性が低下するおそれがある。一方、セパレータ40の厚みが小さすぎると、破膜が生じるおそれがある。なお、セパレータ40の厚みは、SEMにより撮影した画像を画像解析することによって求めることができる。セパレータシート40の多孔度は、概ね20%〜60%程度であることが好ましく、例えば30%〜50%程度であることがより好ましい。セパレータシート40の多孔度が大きすぎると、強度が不足し、破膜が起こりやすくなるおそれがある。一方、セパレータシート40の多孔度が小さすぎると、セパレータシート40に保持可能な電解液量が少なくなり、イオン伝導性が低下する場合がある。
【0027】
なお、ここではセパレータシート40は、PE層の単層構造によって構成されているが、多層構造の樹脂シートであってもよい。例えば、PP層と、PP層上に積層されたPE層と、PE層上に積層されたPP層との3層構造により構成してもよい。この場合、多孔質絶縁層30は、セパレータシート40の表面に現れたPP層上に積層することができる。多層構造の樹脂シートの層数は3に限られず、2であってもよく、4以上であってもよい。
【0028】
<多孔質絶縁層>
本実施形態においては、図3に示すように、負極シート20及びセパレータシート40の双方の対向面には、それぞれ多孔質絶縁層30(30A、30B)が長手方向(捲回方向)に沿って断続的に形成されている。多孔質絶縁層30は、無機フィラー及びバインダを含んでおり、セパレータシート40が熱収縮した際に正極シート10と負極シート20とが直接接触するのを阻む機能を発揮する。多孔質絶縁層30は、バインダにより無機フィラーが負極シート20及びセパレータシート40の表面に固着化されるとともに、無機フィラーの粒同士が相互に結着されている。また、無機フィラーの粒間には、バインダで結着されていない部位に多数の空隙が形成されている。かかる空隙に非水電解液を含浸させることにより、正極シート10及び負極シート20間のLiイオンの移動が確保され、十分な電池出力が発揮される。
【0029】
さらに、図4及び図5を加えて、本実施形態に係る多孔質絶縁層について詳細に説明する。図4(a)は、負極シート20のセパレータシート40と対向する対向面を模式的に示す平面図であり、図4(b)は、セパレータシート40の負極シート20と対向する対向面を模式的に示す平面図である。また、図5は、負極シート20とセパレータシート40とを相互に重ね合わせて捲回した状態において、捲回方向(長手方向)に沿う断面の要部を拡大して示す模式的断面図である。
【0030】
図4(a)に示すように、負極シート20のセパレータシート40と対向する対向面には、多孔質絶縁層30Aが長手方向に沿って断続的に形成されている。この実施形態では、多孔質絶縁層30Aは負極活物質層24の表面上に設けられ、長手方向に沿った一の多孔質絶縁層30Aとそれに隣接する一の多孔質絶縁層30Aとの間の非形成部分32Aには、負極活物質層24の表面が露出している。同様に、図4(b)に示すように、セパレータシート40の負極シート20と対向する対向面には、多孔質絶縁層30Bが長手方向に沿って断続的に形成されている。この実施形態では、多孔質絶縁層30Bはセパレータシート40の主面上に設けられ、長手方向に沿った一の多孔質絶縁層30Bとそれに隣接する一の多孔質絶縁層30Bとの間の非形成部分32Bには、セパレータシート40の表面が露出している。
【0031】
そして、当該対向面における各シート20、40上に形成された多孔質絶縁層30A、30Bは、図5に示すように、両シート20、40を相互に重ね合わせて捲回した状態において、負極シート20の多孔質絶縁層30Aが形成されていない部分(非形成部分)32A及び当該部分32Aに接する多孔質絶縁層30Aの長手方向における端部34Aが、セパレータシート40上の多孔質絶縁層30Bと相互に対向し得る位置関係となるように配置されている。同様に、セパレータシート40の多孔質絶縁層30Bが形成されていない部分(非形成部分)32B及び当該部分32Bに接する多孔質絶縁層30Bの長手方向における端部34Bが、負極シート20上の多孔質絶縁層30Aと相互に対向し得る位置関係となるように配置されている。これにより、一方のシート20(40)の多孔質絶縁層30A(30B)が形成されていない部分32A(32B)とそれに対向する他方のシート40(20)の多孔質絶縁層30B(30A)との間に大きな空間(スペース)Sが形成される。
【0032】
ここで、セパレータシート40もしくは負極シート20のいずれか一方の表面に多孔質絶縁層を全面にわたって形成するという一般的な構成では、注液時に電解液の流通が多孔質絶縁層により阻害される。そのため、多孔質絶縁層を有する電池は、多孔質絶縁層を有しない電池に比べると、捲回電極体80の内部まで電解液が充分に浸透し難くなり、電解液の浸透に時間を要するという問題があった。これに対し、本実施形態の構成によると、負極シート20及びセパレータシート40を相互に重ね合わせて捲回した状態において、一方のシート20(40)の多孔質絶縁層30A(30B)が形成されていない部分32A(32B)とそれに対向する他方のシート40(20)の多孔質絶縁層30B(30A)との間に大きな空間(スペース)Sが形成される。その空間Sを利用して捲回電極体80の外部から内部へと電解液を流通させることができる。
【0033】
すなわち、捲回電極体80に電解液を含浸させると、該電解液は、捲回電極体80の捲回方向(シートの長手方向)と交差する幅方向の両端から侵入する。この侵入方向は、図5の紙面と直交する方向と略一致している。つまり、浸入してきた電解液は、捲回電極体80の捲回方向(長手方向)に交差する幅方向の両端から浸入し、その一部が両シート20、40の多孔質絶縁層30A、30B同士が対向していない部分に設けられた空間Sを経由して捲回電極体80の中央部に浸透する。このことにより、電解液の浸透性が向上し、電解液の浸透時間(ひいては電池の製造時間)を短縮することができる。かかる構成によると、両シート20、40間の全面にわたって電解液の流路(空間)Sが形成される構成となるため、捲回電極体全体に電解液が均一に浸透する。そのため、電解液の浸透ムラを発生させることなく、捲回電極体80への電解液浸透性向上を図ることができ、技術的価値が高い。
【0034】
さらに、ここで開示される捲回電極体80では、負極シート20の多孔質絶縁層30Aの端部34Aと、セパレータシート40の多孔質絶縁層30Bの端部34Bとが相互に重なる(ラップする)ように配置されているので、両シートの対向面に直交する方向から見たときに、多孔質絶縁層30A、30Bが両シート間の全面にわたって隙間なく存在する。そのため、過充電等によりセパレータシート40が熱収縮した場合でも、正負極間の直接接触を多孔質絶縁層30A、30Bにより阻むことで、内部短絡の発生を防止することができる。従って、本実施形態の構成によると、内部短絡の虞がなく、かつ電解液の浸透性が向上した最適な二次電池100を提供することができる。
【0035】
図4(a)及び(b)に示すように、対向する2つのシート20、40上の多孔質絶縁層30は、長手方向に沿った一の多孔質絶縁層30とそれに隣接する一の多孔質絶縁層30との間の非形成部分32A、32Bの長さL(すなわち多孔質絶縁層非形成部分32A、32Bの長手方向に沿う長さ)が、5mm〜500mm(より好ましくは10mm〜500mm)となるように形成されていることが望ましい。多孔質絶縁層非形成部分32A、32Bの長さLを5mm以上とすることにより、電解液を浸透させる空間Sが拡大し、電解液の浸透性がさらに向上する。その一方で、非形成部分32A、32Bの長さが500mmより大きすぎると、多孔質絶縁層を断続的に形成していない従来のものと構成が近づくため、電解液浸透性向上効果が不十分になることがある。電解液浸透性向上の観点からは、通常は5mm〜500mmの範囲が適当であり、好ましくは10mm〜300mmであり、特に好ましくは10mm〜100mmである。
【0036】
また、図5に示すように、対向する2つのシート20、40上の多孔質絶縁層30の少なくとも一方の厚みHが、2μm〜50μmである。多孔質絶縁層30の厚みHが2μm未満の場合は、塗工が難しくなってくることに加えて、電解液を浸透させる空間(スペース)Sが縮小し、電解液浸透性向上効果が不十分になることがある。一方、多孔質絶縁層30の厚みHが50μmを超えると、電池の単位容積における負極活物質の量が相対的に減るので、電池容量が低下傾向になることがある。高容量化と電解液浸透性向上効果との双方を満足する観点からは、通常は2μm〜50μmの範囲であり、好ましくは2μm〜30μmであり、特に好ましくは2μm〜10μmである。
【0037】
さらに、図4(a)及び(b)に示すように、対向する2つのシート20、40の対向面に直交する方向から見たときに、負極シート20上の多孔質絶縁層30Aの端部34Aと、セパレータシート40上の多孔質絶縁層30Bの端部34Bとが相互に重なる(ラップする)部分の長手方向に沿う幅Wが少なくとも0.1mm以上(例えば0.1mm〜30mm、好ましくは0.5mm以上、例えば0.5mm〜30mm)であることが好ましい。このことにより、両シート20、40の多孔質絶縁層30A、30Bを捲回電極体80のR部に配置した際に、多孔質絶縁層の端部34A、34B同士が重なる(ラップする)ように両シート20、40を確実に対向させることができる。そのため、内部短絡の発生をより確実に防止することができる。重なり部分の幅Wの上限値は特に限定されないが、重なり部分の幅Wが大きすぎると、電解液を浸透させる空間(流路)Sの間隔が開くので、捲回電極体全体に電解液が均一に浸み込まない場合がある。電解液の浸透ムラを防止する観点からは、概ね30mm以下が適当であり、好ましくは20mm以下であり、特に好ましくは10mm以下である。
【0038】
なお、上述した例では、負極シート20とセパレータシート40との間に多孔質絶縁層30A、30Bを配置する場合を説明したがこれに限定されない。例えば、正極シート10とセパレータシート40との間に多孔質絶縁層30を配置することもできる。また、多孔質絶縁層30は、正極シート10とセパレータシート40との間、および、負極シート20とセパレータシート40との間の双方に配置してもよい。かかる構成によると、正極シート10とセパレータシート40との間および負極シート20とセパレータシート40との間のいずれか一方のみに多孔質絶縁層を配置する場合に比べて、電解液を浸透させる空間(流路)Sがさらに多くなる(典型的には倍増する)。そのため、電解液の浸透性が格段に向上し、より電池性能に優れた二次電池が得られる。
【0039】
多孔質絶縁層30A、30Bの多孔度としては特に限定されないが、概ね40%〜70%程度であることが好ましく、例えば50%〜60%程度であることがより好ましい。多孔質絶縁層30A、30Bの多孔度が大きすぎると、機械的強度が不足し、多孔質絶縁層30A、30Bの損傷が起こりやすくなるおそれがある。一方、多孔質絶縁層30A、30Bの多孔度が小さすぎると、多孔質絶縁層30A、30Bに保持可能な電解液量が少なくなり、イオン伝導性が低下する場合がある。
【0040】
<無機フィラー>
多孔質絶縁層30A、30Bに用いられる無機フィラーを構成し得る材料としては、電気絶縁性が高く、かつセパレータシート40よりも融点が高い材料であることが好ましい。例えば、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、チタニア、シリカ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化鉄、セリア、イットリア等の無機化合物が例示される。特に好ましい無機化合物として、アルミナ、ベーマイト、マグネシア、チタニアが挙げられる。これらの無機材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。無機フィラーの形状(外形)は特に制限されない。機械的強度、製造容易性等の観点から、通常は、略球形の無機フィラー粒子を好ましく使用し得る。また、無機フィラー粒子のサイズ(平均粒径)は、セパレータシートの平均細孔径よりも大きいことが好ましい。例えば、平均粒径が凡そ0.1μm以上の無機フィラー粒子の使用が好ましく、より好ましくは凡そ0.3μm以上であり、特に好ましくは0.5μm以上である。
【0041】
<バインダ>
本実施形態に係る二次電池は、無機フィラーがバインダとともに多孔質絶縁層30A、30Bに含有されている。バインダとしては、後述する多孔質絶縁層形成用塗料が水系の溶媒(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)の場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。水系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーを1種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、アクリル系樹脂は、2種以上の上記モノマーを重合した共重合体であってもよい。さらに、上記単独重合体及び共重合体の2種類以上を混合したものであってもよい。上述したアクリル系樹脂のほかに、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を用いることができる。これらポリマーは、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、アクリル系樹脂を用いることが好ましい。バインダの形態は特に制限されず、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよく、溶液状あるいはエマルション状に調製したものを用いてもよい。二種以上のバインダを、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
【0042】
多孔質絶縁層30A、30Bは、上述した無機フィラーおよびバインダ以外の材料を必要に応じて含有することができる。そのような材料の例として、後述する多孔質絶縁層形成用塗料の増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料が挙げられる。特に水系溶媒を使用する場合、上記増粘剤として機能するポリマーを含有することが好ましい。該増粘剤として機能するポリマーとしてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)が好ましく用いられる。
【0043】
<含有割合>
特に限定するものではないが、多孔質絶縁層全体に占める無機フィラーの割合は凡そ50質量%以上(例えば50質量%〜99質量%)が適当であり、好ましくは80質量%以上(例えば80質量%〜99質量%)であり、特に好ましくは凡そ90質量%〜99質量%である。また、多孔質絶縁層30A、30B中のバインダの割合は凡そ40質量%以下が適当であり、好ましくは10質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜3質量%)である。また、無機フィラー及びバインダ以外の多孔質絶縁層形成成分、例えば増粘剤を含有する場合は、該増粘剤の含有割合を凡そ3質量%以下とすることが好ましく、凡そ2質量%以下(例えば凡そ0.5質量%〜1質量%)とすることが好ましい。上記バインダの割合が少なすぎると、多孔質絶縁層30A、30Bの投錨性や多孔質絶縁層30A、30B自体の強度(保形性)が低下して、ヒビや剥落等の不具合が生じることがある。上記バインダの割合が多すぎると、多孔質絶縁層30A、30Bの粒子間の隙間が不足し、多孔質絶縁層30のイオン透過性が低下する(ひいては該多孔質絶縁層30A、30Bを用いて構築された二次電池の抵抗が上昇する)場合がある。
【0044】
<多孔質絶縁層の形成方法>
次に、本実施形態に係る多孔質絶縁層30A、30Bの形成方法について説明する。多孔質絶縁層30A、30Bを形成するための多孔質絶縁層形成用塗料としては、無機フィラー、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状(スラリー状またはインク状を含む。以下同じ。)のものが用いられる。このペースト状の塗料を、負極シート20及びセパレータシート40の表面に長手方向に沿って間欠的に塗工しさらに乾燥することによって、多孔質絶縁層30A、30Bを断続的に形成することができる。本実施形態では、負極シート20は、該負極シート20の両面に多孔質絶縁層形成用塗料が間欠的に塗工され得る。一方、セパレータシート40は、該セパレータシート40の片面に多孔質絶縁層形成用塗料が間欠的に塗工され得る。
【0045】
多孔質絶縁層形成用塗料に用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。あるいは、N‐メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等の有機系溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせであってもよい。多孔質絶縁層形成用塗料における溶媒の含有率は特に限定されないが、塗料全体の40〜90質量%、特には50質量%程度が好ましい。
【0046】
上記無機フィラー及びバインダを溶媒に混合させる操作は、ボールミル、ホモディスパー、ディスパーミル(登録商標)、クレアミックス(登録商標)、フィルミックス(登録商標)、超音波分散機などの適当な混練機を用いて行うことができる。多孔質絶縁層形成用塗料を負極シート20及びセパレータシート40の表面に長手方向に沿って間欠塗工し乾燥させることによって、負極シート20及びセパレータシート40の表面に多孔質絶縁層30A、30Bを断続的に形成することができる。
【0047】
多孔質絶縁層形成用塗料を負極シート20及びセパレータシート40上に間欠塗工する操作は、従来の一般的な塗工手段を特に限定することなく使用することができる。例えば、適当な塗工装置(グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター等)を使用して、上記負極シート20及びセパレータシート40の表面に所定量の上記多孔質絶縁層形成用塗料を長手方向に沿って断続的にコーティングすることにより塗布され得る。その後、適当な乾燥手段で塗布物を乾燥(典型的にはセパレータシート40の融点よりも低い温度、例えば110℃以下、例えば30〜80℃)することによって、多孔質絶縁層形成用塗料中の溶媒を除去する。多孔質絶縁層形成用塗料から溶媒を除去することによって、多孔質絶縁層30A、30Bが形成され得る。
【0048】
次に、上記多孔質絶縁層30A、30Bが形成された負極シート20及びセパレータシート40を用いて捲回電極体80を作製する方法について説明する。捲回電極体80を作製するに際しては、図3に示すように、正極シート10と負極シート20と2枚のセパレータシート40とを重ね合わせ、各々のシート10、20、40にテンションをかけながら該シートの長手方向に捲回することにより捲回電極体80が作製され得る。その際、正極シート10の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータシート40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。また、負極シート20とセパレータシート40とを相互に重ね合わせて捲回した状態において、負極シート20の多孔質絶縁層30Aが形成されていない部分(非形成部分)32A及び当該部分32Aに接する多孔質絶縁層30Aの端部34Aが、セパレータシート40の多孔質絶縁層30Bと相互に対向し得る位置関係となるように配置する。同様に、セパレータシート40の多孔質絶縁層30Bが形成されていない部分(非形成部分)32B及び当該部分32Bに接する多孔質絶縁層30Bの端部34Bが、負極シート20上の多孔質絶縁層30Aと相互に対向し得る位置関係となるように配置する。
【0049】
このように正極シート10と負極シート20と2枚のセパレータシート40とを重ね合わせ、各々のシート10、20、40にテンションをかけながら該シートの長手方向に捲回することにより捲回電極体80が作製され得る。
【0050】
捲回電極体80の捲回軸方向における中央部分には、図6に示すように、捲回コア部分82(即ち正極シート10の正極活物質層14と負極シート20の負極活物質層24とセパレータ40とが密に積層された部分)が形成される。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部には、正極シート10および負極シート20の電極活物質層非形成部分がそれぞれ捲回コア部分82から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層14の非形成部分)84および負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層24の非形成部分)86には、正極集電板74および負極集電板76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0051】
<非水電解液>
そして、ケース本体52の上端開口部から該本体52内に捲回電極体80を収容するとともに、適当な非水電解液90をケース本体52内に配置(注液)する。かる非水電解液は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩を含有させた組成を有する。上記非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等を用いることができる。また、上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiAsF、LiCFSO等のリチウム塩を好ましく用いることができる。
【0052】
その後、上記開口部を蓋体54との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース50の封止プロセスや電解質の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。
【0053】
このようにして構築されたリチウム二次電池100は、電解液の浸透性に優れ、また内部短絡の虞がないことから、優れた電池性能を示すものである。例えば、サイクル特性に優れる(サイクル後の容量維持率が高い)、電池の発熱が少ない、のうちの少なくとも一方(好ましくは全部)を満たす二次電池を提供することができる。
【0054】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<実施例1>
(1)正極シートの作製
正極活物質としてのLiCoO粉末とAB(導電材)とPVDF(バインダ)とを、これらの材料の質量比が85:10:5となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用ペーストを調製した。この正極活物質層形成用ペーストを厚み15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)12の両面に帯状に塗布して乾燥することにより、正極集電体12の両面に正極活物質層14が設けられた正極シート10を作製した。正極活物質層形成用ペーストの塗布量は、両面合わせて約30mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0056】
(2)負極シートの作製
負極活物質としての天然黒鉛粉末と、SBRと、CMCとを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように水と混合して負極活物質層形成用ペーストを調製した。この負極活物質層形成用ペーストを厚み10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)22の両面に塗布して乾燥することにより、負極集電体22の両面に負極活物質層24が設けられた負極シート20を作製した。負極活物質層用ペーストの塗布量は、両面合わせて約20mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0057】
(3)多孔質絶縁層の形成
無機フィラーとしてのアルミナ粉末と、バインダとしてのアクリル系ポリマーと、増粘剤としてのCMCとを、それらの材料の質量比が固形分比で96:2:2となるように水と混合し、多孔質絶縁層形成用塗料を調製した。この多孔質絶縁層形成用塗料を、上記得られた負極シート20の両面(負極活物質層24)にグラビアロールにより間欠的に塗工して乾燥することにより、負極シート20の両面に多孔質絶縁層30Aが断続的に形成された負極シート20を得た。また、同様の手順で多孔質絶縁層形成用塗料を調製し、これをセパレータシート(厚み20μmの多孔質ポレエチレン製のものを使用した。)40の片面にグラビアロールにより間欠的に塗工して乾燥することにより、セパレータシート40の片面に多孔質絶縁層30Bが断続的に形成されたセパレータシート40を得た。図4に示されように、本例では、長手方向に沿った一の多孔質絶縁層30A、30Bとそれに隣接する一の多孔質絶縁層30A、30Bとの間の非形成部32A、32Bの長さLを40mmとした。また、長手方向に沿った一の多孔質絶縁層(多孔質絶縁層形成部)30A、30Bの長さを50mmとした。さらに、多孔質絶縁層30A、30Bの厚みは5μmとした。
【0058】
(4)リチウム二次電池の構築
上記多孔質絶縁層30A、30Bが断続的に形成された負極シート20およびセパレータシート40を用いて評価試験用のリチウム二次電池を作製した。評価試験用のリチウム二次電池は、以下のようにして作製した。
【0059】
図3に示すように、正極シート10と負極シート20と2枚のセパレータシート40とを重ね合わせ、該シートの長手方向に捲回することにより捲回体を得た。その際、負極シート20及びセパレータシート40の対向面において、両シート20、40上に形成された多孔質絶縁層30A、30Bが所定の位置関係(図5参照)となるように両シート20、40を対向配置した。得られた捲回体を側面方向から押しつぶすことによって扁平形状の捲回電極体80を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池ケース(縦75mm、幅120mm、厚さ15mm。ケース厚さ1mmのものを使用した。)に収容し、電池ケースの開口部を気密に封口した。非水電解液としては、ECとEMCとDECとを3:5:2の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させたものを使用した。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って、試験用リチウム二次電池を得た。このリチウム二次電池の理論容量は4Ahである。
【0060】
<実施例2>
多孔質絶縁層30A、30Bを、負極シート20とセパレータシート40との間ではなく、正極シート10とセパレータシート40との間に配置したこと以外は実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を得た。
【0061】
<実施例3>
多孔質絶縁層30A、30Bを、負極シート20とセパレータシート40との間に加えて、正極シート10とセパレータシート40との間にも配置したこと以外は実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を得た。
【0062】
<比較例>
セパレータシート40上には多孔質絶縁層30Bを形成せず、負極シート20の全面に亘って多孔質絶縁層を連続的に形成したこと以外は実施例1と同様にして試験用リチウム二次電池を得た。多孔質絶縁層の厚みは5μmとした。
【0063】
(5)初期容量の測定
次に、上記のように構築した試験用リチウム二次電池について、温度25℃、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、次の手順1〜4によって初期容量を測定した。
手順1:1Cの定電流で4.1Vまで充電し、5分間休止する。
手順2:1Cの定電流で3.0Vまで放電し、5分間休止する。
手順3:1Cの定電流で4.1Vまで充電し、続いて電流値が0.1Cになるまで定電圧で充電する。
手順4:手順3の後、1Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて電流値が0.1Cになるまで定電圧で放電する。
そして、手順4における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を初期容量とした。
【0064】
(6)充放電サイクル試験
上記初期容量の測定後、試験用リチウム二次電池を、50℃の恒温槽内にて、2Cの定電流で4.1Vまで充電し、次いで、2Cの定電流で3.0Vまで放電するという充放電サイクルを1000回連続して行った。そして、充放電サイクル試験の放電容量を上記初期容量の測定と同じ手順で測定し、初期容量と、充放電サイクル試験後の放電容量との比率から、1000サイクル後の容量維持率(「充放電サイクル試験後の放電容量/初期容量)」×100)を算出した。その結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から明らかなように、負極シートの全面に多孔質絶縁層を形成した比較例に係るリチウム二次電池は、電解液の浸透性が悪く、電位ムラが生じたため、充放電を1000サイクル繰り返した後の容量維持率が低下した。これに対し、負極シート及びセパレータシートの双方に多孔質絶縁層を断続的に形成し、かつそれらが所定の位置関係(図5参照)となるように対向配置した実施例1〜3に係るリチウム二次電池は、多孔質絶縁層に電解液を浸透させる空間が多く存在するため、電解液の浸透性が良好となり、比較例に比べて、充放電サイクル後の容量維持率が高かった。特に、正極シートとセパレータシートとの間、および、負極シートとセパレータシートとの間の双方に多孔質絶縁層を配置した実施例3の電池では、80%以上という極めて高い容量維持率を達成できた。容量維持率を高める観点からは、正極シートとセパレータシートとの間、および、負極シートとセパレータシートとの間の双方に多孔質絶縁層を配置することがこの好ましい。
【0067】
ここに開示されるいずれかの二次電池は、上述したように、内部短絡の虞がなく、且つ電解液の浸透性に優れるので、特に自動車等の車両に搭載されるモーター(電動機)用電源として好適に使用し得る。従って本発明は、図7に模式的に示すように、かかる二次電池100(典型的には複数直列接続してなる組電池)を電源として備える車両1(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)を提供する。
【0068】
以上、本発明を好適な実施形態および実施例により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
例えば、上記の実施形態は、二次電池の典型例としてリチウム二次電池について説明したが、この形態の二次電池に限定されない。例えば、リチウムイオン以外の金属イオン(例えばナトリウムイオン)を電荷担体とする非水電解液型二次電池や、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池であってもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 車両
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
20 負極シート
22 負極集電体
24 負極活物質層
30 多孔質絶縁層
32A、32B 非形成部分
34A、34B 端部
40 セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極集電板
76 負極集電板
80 捲回電極体
82 捲回コア部分
90 電解液
100 二次電池



【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シートと負極シートとがセパレータシートを介して相互に重ね合わされてなる電極体と、電解液とを備える二次電池であって、
前記正極シート及び前記負極シートのうちの少なくとも一方の電極シートと、前記セパレータシートとの双方の対向面には、それぞれ無機フィラー及びバインダを含む多孔質絶縁層が所定方向に沿って断続的に形成されており、かつ、
当該対向面における両シート上に形成された多孔質絶縁層は、両シートを相互に重ね合わせた状態において、一方のシートの多孔質絶縁層が形成されていない部分及び当該部分に接する多孔質絶縁層の端部が、他方のシートの多孔質絶縁層と相互に対向し得る位置関係となるように配置されている、二次電池。
【請求項2】
前記対向する2つのシート上の多孔質絶縁層は、所定方向に沿った一の多孔質絶縁層とそれに隣接する一の多孔質絶縁層との間の非形成部分の長さが、5mm〜500mmとなるように形成されている、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記対向する2つのシート上の多孔質絶縁層の少なくとも一方の厚みが、2μm〜50μmである、請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記対向する2つのシートの対向面に直交する方向から見たときに、該2つのシート上の多孔質絶縁層の端部同士が重なる部分の所定方向に沿う幅が、少なくとも0.1mm以上である、請求項1〜3の何れか一つに記載の二次電池。
【請求項5】
前記電極体は、長尺状の前記正極シートと長尺状の前記負極シートとが長尺状の前記セパレータシートを介して捲回された捲回電極体であり、
前記多孔質絶縁層は、前記正極シートと前記セパレータシートとの間、および、前記負極シートと前記セパレータシートとの間の双方に設けられている、請求項1〜4の何れか一つに記載の二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−105680(P2013−105680A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250145(P2011−250145)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】