説明

二次電池

【課題】二次電池の容量を向上するために焼結体電極を緻密化しても、電池の充放電時に生じる電極の体積変動に起因する応力を緩和し、電極や固体電解質の破損による電池容量の低下や、発電要素の破壊を抑制する二次電池を提供する。
【解決手段】固体電解質層を介して一対の電極が接合された発電要素を備え、前記一対の電極のうち少なくともいずれか一方が酸化物焼結体からなり、該酸化物焼結体は気孔率が2〜10%であるとともに、クラックを前記酸化物焼結体の内部に有し、電池の充放電時に生じる電極の体積変動に起因する応力を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は、携帯電話やノートPCだけでなく、電気自動車用バッテリーとしてもその用途を広げている。
【0003】
従来における二次電池の電解質としては、一般に非水系の電解液をセパレータと呼ばれる多孔質膜に含浸させた電解質が使用されていたが、近年、安全性の観点から固体電解質を用いた二次電池が提案されている。
【0004】
固体電解質を用いた二次電池では、活物質と電解質とが固体同士の接触により電気的に接合されるため、活物質の充放電に伴う体積変動が小さい系が好ましいと考えられており、充放電による体積変動が小さい活物質であるLiTi12を、気孔率が10〜50%の焼結体として正極または負極に用い、固体電解質と組合せることが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−340078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の二次電池では、電池容量を向上するために焼結体電極の緻密化をさらに進めると、充放電に伴う電極の体積変動に起因する応力により、電極や固体電解質が破損して電池容量が低下したり、さらには正極と固体電解質と負極とを接合した発電要素が破壊するという課題があった。
【0007】
本発明は、焼結体電極を緻密化しても、電池の充放電時に生じる電極の体積変動に起因する応力を緩和し、電極や固体電解質の破損による電池容量の低下や、発電要素の破壊を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の二次電池は、固体電解質層を介して一対の電極が接合された発電要素を備え、前記一対の電極のうち少なくともいずれか一方が酸化物焼結体からなり、該酸化物焼結体は気孔率が2〜10%であるとともに、クラックを前記酸化物焼結体の内部に有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼結体電極を緻密化しても、電池の充放電時に生じる電極の体積変動に起因する応力をクラックにより緩和し、電極や固体電解質の破損による電池容量の低下や、発電要素の破壊を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態である二次電池の概略断面図である。
【図2】クラックを導入した酸化物焼結体の表面の電子顕微鏡写真である。
【図3】クラックの最大幅の測定法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明の一実施形態である二次電池の概略断面図である。本実施形態の二次電池は、固体電解質層2の一方の主面に正極1を、固体電解質層2の他方の主面に負極3を一対の電極として形成した発電要素8が、正極側電池ケース5と負極側電池ケース7とによって形成された電池ケース内の空間に収納されている。正極側電池ケース5と負極側電池ケース7とはガスケット6を介してかしめられており、電池ケース内の空間が気密に保たれている。
【0012】
また、正極側電池ケース5と負極側電池ケース7との接触を良好に行うために正極1の正極側電池ケース5と対峙する面には正極側集電層4Pが、負極3の負極側電池ケース7と対峙する面には負極側集電層4Nがそれぞれ形成されており、電池ケースと発電要素9との接触抵抗の低減を図っている。
【0013】
本実施形態の二次電池に用いる電極は、正極1、負極3の少なくとも一方が酸化物焼結体からなり、その酸化物焼結体は、気孔率が2〜10%で、図2に示すようにクラックを酸化物焼結体の内部に有するものである。酸化物焼結体とは、実質的に酸化物系の活物質からなる焼結体である。このように電極を活物質からなる焼結体とすることで、発電に直接かかわらない導電助剤や結着材、固体電解質などを含有することによる容量低下を抑制できるだけでなく、活物質同士の接合面積を大幅に増加でき、活物質が持つ本来の電子伝導性やイオン伝導性を有効に活用することができ、高容量、高エネルギー密度で出力特性に優れた二次電池を得ることができる。また、充放電特性の向上や焼結性の向上のため、活物質の構成元素の一部を各種金属元素で置換したり、活物質に各種金属化合物を添加して焼結体を作製しても構わない。なお、実質的に酸化物系の活物質からなる焼結体とは、酸化物系の活物質以外は積極的に添加することなく作製された焼結体を意味し、原料や焼結体作製工程に起因する不純物を含んでいても構わない。
【0014】
さらに、酸化物焼結体の内部にクラックを有することにより、酸化物焼結体を気孔率2〜10%に緻密化しても、電池の充放電時に生じる電極の体積変動に起因する応力をクラックにより緩和することができ、新たなクラックの発生やクラックの進展を抑制することができる。なお、クラックは、酸化物焼結体の結晶粒子内部および結晶粒界のいずれに形成されていてもよいし、酸化物焼結体の表面に開口していても構わない。また、クラックの最大幅は、2μm以下であることが好ましい。2μmを超えると、クラック近傍の粒子が脱落したり、酸化物焼結体の強度が低下する懸念がある。なお、クラックの最大幅が0.1μmよりも小さい場合は、電池の充放電時に生じる応力を充分緩和できず、新たなクラックが発生したりクラックが進展して電極や発電要素4が破壊に至る可能性がある。クラックの最大幅は、たとえば酸化物焼結体の平均粒径が5〜20μmの場合、0.3〜1μmとすることがより好ましい。
【0015】
酸化物焼結体の気孔率は、アルキメデス法により測定された酸化物焼結体の密度と、酸化物焼結体を構成する活物質の理論密度とから算出される相対密度をもとに得られるが、酸化物焼結体の断面の顕微鏡写真等から、断面における気孔の占める面積比率を用いて、周知の方法により算出することもできる。例えば、酸化物焼結体である電極の一部を切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、任意の5ヶ所について撮影した写真の30μm×30μmの領域について、画像解析により気孔の面積比率を算出し、周知の方法により気孔率に換算すればよい。なお、酸化物焼結体中の気孔の大きさは、直径が2μm以下であることが好ましい。
【0016】
酸化物焼結体の内部に存在するクラックの最大幅は、酸化部焼結体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察することにより確認できる。たとえば酸化物焼結体である
電極の一部を切り出し、その断面の150μm×150μmの領域について、走査型電子顕微鏡(SEM)によりクラックの有無を確認する。次に、もっとも間隙が大きいクラックの間隙の幅を、例えば30μm×30μmの領域にて20ヵ所測定し、その最大値を電極内部に存在するクラックの最大幅W(図3を参照)とすればよい。なお、必要に応じて、電極の断面にイオンエッチング処理やクロスセクションポリッシング(CP)加工を施すことで、気孔やクラックの形状をより明確に観察することができる。
【0017】
電極に用いる活物質は、正極1または負極3のいずれかが酸化物焼結体であれば、特に限定されるものではない。正極1に用いる活物質としては、たとえば、リチウムチタン複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、二酸化マンガン、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムバナジウム複合酸化物、酸化バナジウムなどが挙げられる。これらの活物質は、すべて酸化物焼結体を形成することができる。特にリチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNiMn[x=0.1〜0.5、y=1.5〜1.9])は、充放電電圧が高く、充放電容量も大きいことから二次電池の高容量化、高エネルギー密度化には特に適した活物質である。一方、電子伝導性の点からはリチウムコバルト複合酸化物が優れており急速充放電を要求される用途ではリチウムコバルト複合酸化物も好適に用いることができる。
【0018】
負極3に用いる活物質としては、例えば、酸化チタン、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化バナジウム、酸化鉄等およびこれら酸化物とリチウムからなるリチウム複合酸化物を用いることができる。これらの活物質は、すべて酸化物焼結体を形成することができる。特にリチウムチタン複合酸化物であるチタン酸リチウムは、酸化物の中では充放電電位が低く、充放電容量が大きいことから負極3の活物質として用いると電圧の高い二次電池を構成できる。
【0019】
これらの活物質を気孔率2〜10%の酸化物焼結体とし、たとえば前述の処理を施して内部にクラックを形成することで、正極1または負極3の充放電に伴う体積変動による応力を緩和することができる。
【0020】
このようにクラックの導入により応力を緩和する酸化物焼結体は、チタン酸リチウムの焼結体であることが好ましい。チタン酸リチウムは充放電に伴う体積変動が小さいため、クラックの導入により効果的に応力を緩和することができる。さらに、チタン酸リチウムの結晶構造は、ラムスデライト型であることが好ましい。高温相であるラムスデライト型結晶相は、焼成温度が高く、粒成長して結晶粒子の粒径がより大きくなるため、クラックによる応力緩和効果がより顕著となる。また、ラムスデライト型チタン酸リチウムは、サイクル特性に優れており、スピネル型化合物LiTi12などに比べてリチウムイオンの拡散性が良好である。なお、ラムスデライト型チタン酸リチウムの構成元素を各種金属元素で部分置換したものを用いてもよく、また、焼結助剤として各種金属元素を含む焼結体とすることもできる。酸化物焼結体の結晶相は、X線回折法(XRD)により得られる回折パターンを同定することにより確認できる。
【0021】
負極3としてチタン酸リチウム焼結体を用いる場合、正極1には前述のような活物質を用いればよい。この場合、負極3が気孔率2〜10%の内部にクラックを有する酸化物焼結体とすることで、高容量化と充放電時の応力緩和を実現できる。なお、正極1についても、気孔率2〜10%の内部にクラックを有していることが好ましいが、気孔率が10%を超え、内部にクラックを有していないものでも構わない。
【0022】
正極1としてチタン酸リチウム焼結体を用いる場合には、負極3の活物質として、例えば、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料、LiおよびLiを挿入脱離可
能な合金等を用いることもできる。この場合においても、正極1が気孔率2〜10%の内部にクラックを有する酸化物焼結体であればよい。
【0023】
なお、正極1および負極3の厚さはそれぞれ20μm〜200μmとすることが好ましい。これにより、電池容量を得るために必要な活物質の絶対量が確保できるとともに、良好な充放電特性の二次電池が得られる。
【0024】
固体電解質層2には、イオンを通し、正負極のショートを防止することが求められる。固体電解質層2の厚さは、イオンの通り道としてその移動距離を短くするために薄ければ薄いほどよく、具体的には、固体電解質層2全体の厚さを10μm以下とすることが好ましく、さらには3μm以下、より好ましくは1μm以下とするのがよい。固体電解質層2の厚さが薄いと固体電解質層2の内部抵抗が減少し、出力特性などの電池性能が向上する。また、固体電解質層2の厚さを薄くすることができれば、同一体積の二次電池と比較して活物質をより多く詰め込めるため、高容量化が進み、結果としてエネルギー密度の向上にも寄与する。ただし、短絡を防止するために、絶縁破壊やピンホールによる短絡を起こさない必要最低限の厚さを確保する必要がある。
【0025】
固体電解質層2としては、たとえば、高分子固体電解質や無機固体電解質を用いることができる。高分子固体電解質としては、たとえばポリエチレンオキシド、シロキサンポリマー、ホスファゼンポリマーのようなドライポリマー電解質が挙げられる。高分子固体電解質を用いる場合は、たとえば、セパレータにドライポリマー電解質の前駆体溶液を含浸させた後、加熱により前駆体溶液を硬化させて使用することができる。セパレータとしては、耐熱性の高い樹脂フィルム、あるいは、ガラスフィルター、セラミックスフィルターなどを用いればよい。
【0026】
無機固体電解質としては、イオン伝導パスがランダムに存在することで電極の体積変化に伴う界面の形態変化に追従し界面抵抗の増加を抑制することができると考えられる、リチウムを含むガラス系固体電解質が好ましく、例えばLi1+xZrSi3−x12、Li1+xZr2−x/3Si3−x12−2x/3(1.5<x<2.2)、Li1+xTi2−x(PO(M=Al、Sc、Y、またはLa、0<x<2)、Li0.5−3x0.5+xTiO(M=La、Pr、Nd、またはSm、0<x<1/6)、LiSO、LiSiO、LiPO、LiGeO、LiVO、LiMoO、LiZrO、LiCO、LiO、LiPON、SiO、ZrO、V、P、B、Al、TiO、ZnGeO、LiS、SiS、LiSe、SiSe、B、P、GeS、LiI、LiW、LiNbO等が挙げられる。なかでもリン酸リチウムオキシナイトライド(以下、LIPONともいう)は室温で1×10−6S/cm程度の高いイオン伝導度を持ち、電気化学的に広い電位範囲にわたって安定であることが知られており好適である。
【0027】
無機固体電解質を用いる場合は、たとえば、正極1および負極3の表面にそれぞれ第1固体電解質層2Pおよび第2固体電解質層2Nを、液相合成法または気相合成法により形成し、2Pと2Nとが対向するように正極1と負極3とを重ね合わせ、接合することで発電要素8が得られる。
【0028】
また、第1固体電解質2Pと第2固体電解質2Nとは、同じ固体電解質材料から形成されていても、異なる固体電解質材料で形成されていてもよいが、両者を強固に接合する観点から第1固体電解質2Pと第2固体電解質2Nとは、同じ固体電解質材料にて形成されていることが好ましい。
【0029】
正極側集電層4Pおよび負極側集電層4Nには、カーボン材料をフィラーとした導電性カーボンインクや、アルミニウム、金、白金などをフィラーとした導電性金属インク、ITOガラス、酸化スズなどの酸化物をフィラーとした導電性酸化物インクなどを塗布し、乾燥させたものを用いることができる。また、白金やアルミニウム、チタンなどの金属を蒸着して形成したものを用いることもできる。
【0030】
以上、本実施形態の二次電池について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲で種々変更したものにも適用することができる。
【0031】
本実施形態の二次電池を製造する方法について説明する。
【0032】
まず、正極1および負極3を作製する。酸化物焼結体は、例えば市販の酸化物粉末や、それらを混合して仮焼した仮焼粉末を、ボールミル等の周知の粉砕方法により平均粒径0.01〜10μm程度に粉砕し、粉砕した原料粉末とブチラール等のバインダとを、必要に応じて分散剤、可塑剤を加えた水、またはトルエン等の有機溶剤を溶媒として周知の方法でそれぞれ混合し、スラリーを作製する。このスラリーをポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム等の基材フィルム上に周知の方法で塗工、乾燥して所望の厚さのグリーンシートを作製する。このとき、スラリーを乾燥造粒し、ロールプレスによりグリーンシートを作製したり、所望の形状にプレス成形してもよい。
【0033】
得られたグリーンシートを所望の形状に打ち抜き、必要に応じて脱脂処理を行った後、焼成することで、正極1および負極3となる酸化物焼結体が得られる。焼成温度は原料粉末である酸化物の焼結性に応じて適宜選択すればよく、例えばLi−Mn−O系酸化物では700〜1100℃、Li−Co−O系酸化物では700〜1200℃、Li−Ti−O系酸化物では800〜1250℃とすることで、気孔率2〜20%の酸化物焼結体を得ることができる。
【0034】
さらに、気孔率2〜10%の酸化物焼結体を得るには、平均粒径0.1〜5μmに粉砕した原料粉末を用いて、焼成温度をたとえばLi−Mn−O系酸化物では950〜1100℃、Li−Co−O系酸化物では950〜1200℃、Li−Ti−O系酸化物では1000〜1250℃とすればよい。さらに、グリーンシートや成形体に、必要に応じてたとえば0.5〜3ton/cmの圧力で加圧処理を施したり、焼成後の酸化物焼結体表面に研磨等の加工を施してもよい。
【0035】
次に、気孔率2〜10%の酸化物焼結体にクラックを導入する。例えば、酸化物焼結体の平均粒径が5〜20μmの場合、800μA/cm以下の電流値で公称容量の20%以上充電した後、放電する、低速大深度充電処理を行う。このとき、酸化物焼結体の面積に対して電流値が大きすぎたり、充電深度が大きすぎると、導入したクラックの最大幅が大きくなり、クラック近傍の粒子が脱落したり酸化物焼結体の強度が低下する懸念があり、電流値が小さすぎたり、充電深度が小さすぎると、クラックが形成されないため応力緩和効果が得られない。なお、平均粒径が大きい酸化物焼結体にクラックを導入する場合は電流値をより大きく調整し、平均粒径が小さい酸化物焼結体の場合は電流値をより小さく調整することで、所望のクラックを導入できる。このような低速大深度充電処理は、酸化物焼結体と電解液とLi金属箔とを用いて、簡易的な電池を構成して行えばよいが、二次電池形成後に行ってもよい。また、酸化物焼結体へのクラックの導入は、酸化物焼結体に例えば700℃以上の熱処理を行った後、急冷することでも可能である。
【0036】
次に、正極1および負極3の一方の表面に、例えばLiPOをターゲットとして、窒素雰囲気下で高周波マグネトロンスパッタ法により、リン酸リチウムオキシナイトライドガラスからなる第1固体電解質層2P、第2固体電解質層2Nをそれぞれ形成する。
【0037】
さらに、第1固体電解質層2P、第2固体電解質層2Nが対向するように正極1および負極3を重ね合わせ、非酸化雰囲気中にて300〜800℃で接合することで、発電要素8が得られる。なお、気孔率2〜10%の酸化物焼結体である正極1または負極3上に形成された固体電解質層2の表面に、対向電極として、例えば金属リチウムを真空蒸着法により形成し、発電要素8としても構わない。
【0038】
このようにして形成された発電要素8は、収納容器内に収容されて使用される。収納容器は、ラミネート型リチウムイオン電池や、従来のコイン電池などで使用されている外装体および集電体がいずれも適用可能である。なお、本発明のリチウム二次電池の形状は角型、円筒型、ボタン型、コイン型、扁平型などに限定されるものではなく、また、正極端子および負極端子を備える絶縁性の容器を用いてもよい。
【実施例】
【0039】
(1)電極用酸化物焼結体の作製工程
電極用活物質として、LiNi0.5Mn1.5、LiTiおよびLiTi12の粉末を準備した。LiTiおよびLiTi12の粉末は、平均粒径5μmのLiCOと平均粒径1μmのTiOを所定の比率で混合し、700℃にて仮焼した後、振動ミルにて平均粒径1μmに粉砕したものを用いた。LiNi0.5Mn1.5としては、市販の平均粒径17μmの粉末を、振動ミルにて平均粒径1μmに粉砕して用いた。これらの原料粉末を、トルエンを溶媒として、バインダであるブチラールとともにボールミルでそれぞれ混合し、スラリーを調整した。得られたスラリーをポリエリレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗工した後、乾燥させて、厚さが125μmのグリーンシートを作製した。得られたグリーンシートを、冷間静水圧プレスにて1ton/cmで加圧処理した後、直径18mmに打ち抜き、表1に示す焼成温度で焼成して、直径15mm、厚さ100μmの円板状の酸化物焼結体A〜Gを作製した。なお、LiNi0.5Mn1.5焼結体については、焼成後に700℃で10時間の熱処理を施した。
【0040】
得られた酸化物焼結体の気孔率、平均粒径を表1に示す。酸化物焼結体の気孔率は、イオンエッチング加工した断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、任意の5ヶ所について撮影した写真の30μm×30μmの領域について、画像解析により気孔の面積比率を算出し、気孔率に換算した。酸化物焼結体の平均粒径も同様に、断面写真の画像解析により算出した。
【0041】
酸化物焼結体の結晶相は、得られた酸化物焼結体を粉砕して、X線回折法(XRD)により回折パターンを測定することで確認した。特にチタン酸リチウムの焼結体については、ラムスデライト型結晶相の(110)回折ピーク強度およびスピネル型結晶相の(111)回折ピーク強度を用いて、ラムスデライト型結晶相の体積比率を算出し、表1に記載した。
【0042】
(2)酸化物焼結体へのクラック導入処理
B〜Gの酸化物焼結体にクラックを導入するため、以下の処理を行った。B〜Gの酸化物焼結体を一方の電極とし、Li金属箔を対極として、電解液を含浸したセパレータを介して対向させ、酸化物焼結体のセパレータと接している面の面積に対して、200μA/cmで180分間(条件1)の定電流充電を行った。電解液には、1mol/LのLiPFを含むエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶液を、EC:DMCの体積比率を7:3として用いた。
【0043】
クラックを導入した酸化物焼結体について、クラックの有無と、その最大幅を以下のよ
うな方法で確認した。クラック導入処理後の酸化物焼結体の断面をイオンエッチング加工し、150μm×150μmの領域について、走査型電子顕微鏡(SEM)によりクラックの有無を確認した。確認したクラックのうち、もっとも間隙の幅が大きいクラックの間隙幅を、30μm×30μmの領域にて20ヵ所測定し、その最大値を電極内部に存在するクラックの最大幅として表2に示した。
【0044】
条件1でクラック導入処理を行った場合は、クラックの最大幅は2μm以下で、組織の脱落などは観察されなかった。
【0045】
(3)電極への固体電解質層の形成工程
酸化物焼結体Aおよびクラック導入処理を行った酸化物焼結体B〜Gの一方の表面に、高周波マグネトロンスパッタ装置を用いて、厚み0.5μmの固体電解質層をそれぞれ形成した。ターゲットにはリン酸リチウム焼結体を用い、圧力5mtorrの窒素雰囲気中で、成膜時間は5時間であった。
【0046】
(4)発電要素の作製工程
固体電解質層を形成した各酸化物焼結体を、表2に示すように正極および負極として組合せ、正極側の固体電解質層と負極側の固体電解質層とが向かい合うようにホットプレス装置にセットし、0.1MPaの窒素雰囲気下、温度800℃、圧力10MPaで固体電解質同士を加熱接合して発電要素を作製した(試料No.1〜6、8)。試料No.7については、固体電解質層を形成したチタン酸リチウム焼結体の固体電解質層上に、ステンレス製マスクを用いてLi金属を蒸着して負極とし、発電要素を作製した。また、試料No.8に用いた電極は、いずれもクラック導入処理を行わなかった。
【0047】
(5)正負極集電層の形成工程
得られた発電要素の正極および負極表面に、ステンレス製マスクを用いて直径14mmの白金を蒸着し、集電層を形成した。
【0048】
(6)電池組立工程
ステンレス製の正極側電池ケースと負極側電池ケースとの間に、集電層を形成した発電要素を収納し、両電池ケースの周囲をガスケットを介してかしめ、直径20mm、厚み1.6mmのコイン型の二次電池を製作した。
【0049】
(7)二次電池の評価試験
(1)〜(6)の工程によって得られた二次電池の性能を、充放電試験により確認した。試験条件は以下の通りとした。ただし、試料No.3については、充放電電圧の上限を4.7Vとして試験を行った。
【0050】
充放電電圧範囲:上限3.7V、下限1.5V
充放電電流値:10μA(定電流充放電)
測定温度:30℃
初期充電容量と初期放電容量を表2に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
充放電試験の結果、試料No.1〜7は、充放電が繰り返し可能であることを確認した。一方、気孔率が7%でクラックのない酸化物焼結体を負極として用いた試料No.8では、初期の充放電後、起電力が得られなくなった。
【符号の説明】
【0054】
1・・・正極
2・・・固体電解質層
3・・・負極
4P・・正極側集電層
4N・・負極側集電層
5・・・正極側電池ケース
6・・・ガスケット
7・・・負極側電池ケース
8・・・発電要素
9・・・クラック
W・・・クラックの最大幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層を介して一対の電極が接合された発電要素を備え、前記一対の電極のうち少なくともいずれか一方が酸化物焼結体からなり、該酸化物焼結体は気孔率が2〜10%であるとともに、クラックを前記酸化物焼結体の内部に有することを特徴とする二次電池。
【請求項2】
前記クラックの最大幅が、2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記酸化物焼結体が、チタン酸リチウムの焼結体であることを特徴とする請求項1または2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記チタン酸リチウムの結晶構造が、ラムスデライト型であることを特徴とする請求項3に記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−93188(P2013−93188A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234068(P2011−234068)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】