説明

二次高調波発生が減少されるバルク超音波(BAW)フィルタおよびBAWフィルタにおける二次高調波発生を減少させる方法

【課題】BAW共振器を使用するフィルタ回路が高い電力レベルで駆動されるときに起こる、出力信号中の望ましくない高調波成分が発生を緩和するフィルタ構造を提供する。
【解決手段】ハーフラダー構造を有するフィルタにおいて、フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐は、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器1052/1062および第2のBAW共振器1054/1064を備えるBAW装置として構成される。第1のBAW共振器1052/1062によって発生される二次高調波放射は、第2のBAW共振器1054/1064の二次高調波放射およびフィルタの少なくとも1つの他の直列分岐または少なくとも1つの他の並列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
様々な異なる周波数帯域にわたって動作できる通信装置に対する需要は益々増えてきている。特に、複数の周波数帯域で動作できるセルラーフォンまたはモバイルフォンに対する需要は増大している。そのような装置では、それぞれの送信周波数帯域および受信周波数帯域毎に別個の送信フィルタおよび受信フィルタが一般に使用される。特に、バルク超音波(BAW)フィルタがしばしば使用される。
【0002】
実施が最も簡単なBAW共振器は、2つの金属電極間に配置される圧電材料からなる層を備える。一般的な圧電材料は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)または酸化亜鉛(ZnO)である。
【0003】
図1は、以下で圧電層12と称され且つ第1の電極、すなわち上端電極Tと第2の電極、すなわち下端電極Bとの間に配置される圧電材料からなる層を備える静電キャパシタンスCを有する典型的なBAW共振器10を示している。上端電極および下端電極なる名称は、定義目的を果たすだけであり、BAW共振器の空間的配置および位置決めに関して何ら限定を示すものではない。むしろ、上端電極および下端電極なる表記は、後述するように圧電材料の分極に関してこれらの電極の位置を規定するのに役立ち、そのため、T電極およびB電極を示す等価回路図からそれぞれのBAW共振器の分極を得ることができる。
【0004】
BAW共振器10の第1の電極Tと第2の電極Bとの間に電界が加えられると、相互圧電効果または逆圧電効果により、BAW共振器10は、前述したように、圧電材料の分極に応じた拡張または収縮の場合、機械的に拡張しまたは収縮する。このことは、T電極とB電極との間に電界が逆に加えられる場合に逆のケースが当てはまることを意味する。交番電界の場合には、圧電層12で音波が発生され、また、BAW共振器の実施に応じて、この波は、例えば電界と平行に縦波として伝搬し、或いは電界に対して垂直な横波として伝搬し、例えば圧電層12の界面で反射される。圧電層12および上端・下端電極の厚さdが音波の波長λの半分の整数倍に等しければ常に、共振状態及び/又は音響共振振動が起こる。このとき、基本共振周波数、すなわち、最も低い共振周波数FRESは、共振器の全体の厚さに反比例する。このことは、BAW共振器が外部から指定される周波数で振動することを意味する。
【0005】
BAW共振器の圧電特性、したがって共振特性も、様々な要因、例えば圧電材料、製造方法、製造中にBAW共振器に印加される分極、および結晶のサイズに依存する。前述したように、特に共振周波数は、共振器の全体の厚さによって決まる。
【0006】
前述したように、BAW共振器は電気分極を示す。BAW共振器の機械的な変形、拡張または収縮の方向は、第1の電極Tおよび第2の電極Bに対して印加される電界の方向とBAW共振器10の分極の方向とによって決まる。例えば、BAW共振器の分極および電界の方向が同じ方向を向いている場合には、BAW共振器10が収縮し、一方、BAW共振器10の分極および電界の方向が反対の方向を向いているときには、BAW共振器10が拡張する。
【0007】
BAW共振器は様々な形態を有することができる。一般に、いわゆるFBAR(薄膜バルク音響共振器)とSMR(固定実装型共振器)とが区別される。また、BAW共振器は、1つの圧電層12を有してもよく、あるいは、幾つかの圧電層12を有してもよい。
【0008】
BAW共振器は、しばしば、フィルタにおいて使用される。
【0009】
図2は、第1の直列BAW共振器48と、第2の直列BAW共振器55と、第3の直列BAW共振器52と、第4の直列BAW共振器53と、第1の分路BAW共振器54と、第2の分路BAW共振器56と、第3の分路BAW共振器58と、第4の分路BAW共振器65とを備えるフィルタ20の回路図を示している。直列BAW共振器48、55、52、53は、入力ポート44と出力ポート46との間で直列に接続される。第1の分路BAW共振器54は、入力ポート44と電気的なグランド42との間で並列に接続される。第2の分路BAW共振器56は、第1の直列BAW共振器48と第2の直列BAW共振器55との間の接続ノードと電気的なグランド42との間に接続される。第3の分路BAW共振器58は、第2の直列BAW共振器55と第3の直列BAW共振器52との間の接続ノードと電気的なグランド42との間に接続される。第4の分路BAW共振器65は、第3の直列BAW共振器52と第4の直列BAW共振器53との間の接続ノードと電気的なグランド42との間に接続される。直列および分路BAW共振器のそれぞれは上端電極Tおよび下端電極Bを備え、これらの電極は、各BAW共振器の分極を示すように図2の等価回路図に表わされている。
【0010】
フィルタ20などの1つ以上のBAW共振器を使用するフィルタ回路に伴う1つの問題は、1つ以上のBAW共振器の非線形的挙動である。この問題は、特に、BAW共振器が高い電力レベルで駆動されるときに起こり、これにより、出力信号中に望ましくない高調波成分が発生され得る。
【0011】
この問題を緩和するための1つの手法は、影響を受けるBAW共振器を「カスケード接続する」ことである。以下において、「カスケード」とは、要素のチェーンまたは直列接続を意味する。すなわち、静電キャパシタンスCを示す1つのBAW共振器は、それぞれが静電キャパシタンス2Cを示す2つのBAW共振器のカスケードと置き換えられ、それにより、直列組み合わせの全体のキャパシタンスが再びCとなる。原則的に、そのようなカスケード接続されたBAW共振器の対は、対応する個々のBAW共振器と同じインピーダンス特性を有する。静電キャパシタンス2Cを示すカスケード接続されたBAW共振器の対は、静電キャパシタンスCを示す対応する個々のBAW共振器よりも4の係数だけ大きい。前述のカスケード接続の結果として、エネルギ密度も4の係数だけ小さくなり、したがって、カスケード接続されたBAW共振器を用いると、非線形効果が6dBだけ減少される。
【0012】
しかしながら、前述したカスケード接続配置は幾つかの欠点を有する。1つのBAW共振器を等価なカスケード接続されたBAW共振器の対と置き換える主要な欠点は、前述したようにサイズの4倍の増大である。したがって、そのようなカスケード接続は、それがフィルタの全てのBAW共振器において行なわれれば、フィルタのサイズをかなり増大させる。結果として、フィルタの全ての共振器分岐においてカスケード接続を利用することは一般に非現実的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、必要なものは、アンテナまたは他の装置を複数のBAWフィルタ、SAWフィルタ及び/又はFBARフィルタに対してマッチングさせる一般的なマッチング回路網および方法であって、これらの欠点のうちの1つ以上を軽減できるマッチング回路網および方法である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態において、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタは、共通のグランドに関連する信号入力および信号出力を含み、フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐は、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置として構成される。第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射は、第2のBAW共振器の二次高調波放射およびフィルタの少なくとも1つの他の直列分岐または少なくとも1つの他の並列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする。
【0015】
他の実施形態においては、共通のグランドに関連する信号入力および信号出力を含む交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するBAWフィルタ内の高調波放射を減少させるための方法が提供される。方法は、フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐を、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置として構成し、第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、第2のBAW共振器の二次高調波放射およびフィルタの少なくとも1つの他の直列分岐または少なくとも1つの他の並列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルするように、第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を構成することを備える。
【0016】
実施形態は、以下の詳細な説明を添付図面と共に読むことにより最もよく理解される。様々な特徴が必ずしも一定の倍率で描かれているとは限らない点を強調しておく。実際に、議論を明確にするため、寸法が任意に増大され或いは減少される場合がある。適用でき且つ実用的である限り、同様の参照符号は同様の要素を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下の詳細な説明では、限定を目的とせずに説明目的で、本教示に係る実施形態の完全な理解を与えるために、特定の内容を開示する実施形態について説明する。しかしながら、本開示内容の利益を享受する当業者であれば分かるように、本明細書に開示された特定の内容から逸脱する本教示に係る他の実施形態は添付の特許請求の範囲内にある。また、周知の装置および方法の説明は、実施形態の説明を曖昧にしないように省かれる場合がある。そのような方法および装置は明らかに本教示の範囲内にある。
【0018】
図3は、逆並列に接続された第1のBAW共振器72と第2のBAW共振器74とを備えるBAW装置30を示している。第1のBAW共振器72は、圧電層72Pと、第1の電極72Tと、第2の電極72Bとを備え、また、第2のBAW共振器74は、圧電層74Pと、第1の電極74Tと、第2の電極74Bとを備える。第1のBAW共振器72は、第1の電極72Tから第2の電極72Bの方向に分極されており、また、第2のBAW共振器74も、第1の電極74Tから第2の電極74Bの方向に分極されており、第1のBAW共振器72の第1の電極72Tは、第2のBAW共振器74の第2の電極74BおよびBAW装置30の第1の電気端子76に対して電気的に接続され、一方、第1のBAW共振器72の第2の電極72Bは、第2のBAW共振器74の第1の電極74TおよびBAW装置30の第2の電気端子78に対して電気的に接続されている。矢印72Rは、第1のBAW共振器72の分極の典型的な方向を指し示し、また、矢印74Rは、第2のBAW共振器74の分極の典型的な方向を指し示している。BAW装置30及び/又はBAW共振器72、74の逆並列接続において不可欠な唯一のことは、2つのBAW共振器72、74の分極72R、74Rが第1の電極72T、74Tおよび第2の電極72B、74Bに対して同じ方向を有することである。あるいは、例えば、両方のBAW共振器72、74の分極は、第2の電極72B、74Bから第1の電極72T、74Tの方向を向いていてもよい。
【0019】
このようにして、BAW装置30は、逆並列に接続されたBAW共振器対72および74からなる。
【0020】
従来技術で前述したように、BAW共振器においては、FBAR共振器およびSMRを含む多くの様々な実施が存在し、それぞれの実施は図3のBAW装置30に適用されてもよい。また、例えば、BAW共振器72、74は、もう一つの方法として、図3が1つの圧電層72P、74Pのみを示すとはいえ、幾つかの圧電層を備えてもよい。また、BAW装置30は、2つの別個の及び/又は個々のBAW共振器72、74同士を接続することによって形成されてもよいが、例えば、共通の圧電層を共有する2つのBAW共振器72、74同士を接続することによって形成されてもよい。
【0021】
第1のBAW共振器72および第2のBAW共振器74が同じキャパシタンス、例えばC/2を有する場合、BAW装置30は、全体として、キャパシタンスCを示す通常の或いは「一般的な」BAW共振器のように作用する。しかしながら、BAW装置30は、キャパシタンスCを示す対応する一般的なBAW共振器と比べて、かなり減少された非線形特性(例えば、高調波放射)を示す。特に、BAW装置30の二次高調波放射は、同じキャパシタンスを有する一般的なBAW共振器の二次高調波放射と比べて実質的に減少される。例えば、1つの特定の実施形態において、BAW装置30の二次高調波放射は、キャパシタンスCを示す対応する一般的なBAW共振器と比べて、約30dB減少される。
【0022】
図4は、逆直列に接続された第1のBAW共振器82と第2のBAW共振器84とを備えるBAW装置40を示している。第1のBAW共振器82は、圧電層82Pと、第1の電極82Tと、第2の電極82Bとを備え、また、第2のBAW共振器84は、圧電層84Pと、第1の電極84Tと、第2の電極84Bとを備える。第1のBAW共振器82は、第1の電極82Tから第2の電極82Bの方向に分極されており、また、第2のBAW共振器84も、第1の電極84Tから第2の電極84Bの方向に分極されている。第1のBAW共振器82の第1の電極82Tは、BAW装置40の第1の電気端子86に対して電気的に接続されている。第1のBAW共振器82の第2の電極82Bは、第2のBAW共振器84の第2の電極84Bに対して電気的に接続されている。第2のBAW共振器84の第1の電極84Tは、BAW装置40の第2の電気端子88に対して電気的に接続されている。矢印82Rは、第1のBAW共振器82の分極の典型的な方向を指し示し、また、矢印84Rは、第2のBAW共振器84の分極の典型的な方向を指し示している。
【0023】
このようにして、BAW装置40は、逆直列に接続されたBAW共振器対82および84からなる。
【0024】
従来技術で前述したように、BAW共振器においては、FBAR共振器およびSMRを含む多くの様々な実施が存在し、それぞれの実施は図4のBAW装置40に適用されてもよい。また、例えば、BAW共振器82、84は、もう一つの方法として、図4が1つの圧電層82P、84Pのみを示すとはいえ、幾つかの圧電層を備えてもよい。また、BAW装置40は、2つの別個の及び/又は個々のBAW共振器82、84同士を接続することによって形成されてもよい。
【0025】
第1のBAW共振器82および第2のBAW共振器84が同じキャパシタンス、例えば2Cを有する場合、BAW装置40は、全体として、キャパシタンスCを示す通常の或いは「一般的な」BAW共振器のように作用する。しかしながら、BAW装置40は、キャパシタンスCを示す対応する一般的なBAW共振器と比べて、かなり減少された非線形特性(例えば、高調波放射)を示す。すなわち、BAW装置40の二次高調波放射は、同じキャパシタンスを有する一般的なBAW共振器の二次高調波放射と比べてかなり減少される。例えば、1つの特定の実施形態において、BAW装置40の二次高調波放射は、キャパシタンスCを示す対応する一般的なBAW共振器と比べて、約30dB減少される。
【0026】
逆並列BAW装置30および逆直列BAW装置40は、フィルタの非線形特性を向上させるため、特にフィルタ全体の二次高調波放射を減少させるために、ハーフラダー構造を有するフィルタの1つ以上の直列分岐または分路分岐で使用されてもよい。
【0027】
図5は、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタ50の1つの実施形態を示し、この場合、直列分岐および分路分岐のそれぞれは、図3に示されるように逆並列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置57として構成される。
【0028】
図6は、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有する他の実施形態のフィルタ60を示し、この場合、直列分岐および分路分岐のそれぞれは、図4に示されるように逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置67として構成される。
【0029】
前述したように、フィルタ50および60は、直列分岐および分路分岐のそれぞれにおいて同じキャパシタンス値を有する図2のフィルタ20と比べて、かなり向上された非線形性能を示すことができる。特に、フィルタ50またはフィルタ60の二次高調波放射性能は、直列分岐および分路分岐のそれぞれにおいて同じキャパシタンス値を有する図2のフィルタ20の性能よりも数十デシベルよくなる場合がある。
【0030】
しかしながら、フィルタ50および60には欠点がある。
【0031】
フィルタ50において、逆並列に接続された値C/2を有する第1のBAW共振器と値C/2を有する第2のBAW共振器とを備える各BAW装置57は、同じキャパシタンス値Cを有する等価な一般的なBAW共振器と比べて、かなり減少された品質係数(すなわち、「Q」)を示す。その結果、フィルタ50は大きく減少された品質係数を有し、このことは、フィルタ50が等価なフィルタ20よりも損失が多く且つ効率が低いことを意味する。多くの用途において、この減少された品質係数は受け入れられない。
【0032】
一方、フィルタ60において、逆直列に接続された値2Cを有する第1のBAW共振器と値2Cを有する第2のBAW共振器とを備える各BAW装置67は、同じキャパシタンス値Cを有する等価な一般的なBAW共振器と比べて、かなり増大されたサイズ(4×)を示す。その結果、フィルタ60は、等価なフィルタ20よりも大きく増大されたサイズを必要とする。多くの用途において、このサイズの増大は受け入れられない。
【0033】
したがって、高調波放射を減少させる他の解決策が求められる。
【0034】
図7は、図2のフィルタ20の出力ポート46における二次高調波放射のプロットを周波数の関数として示している。図示のように、プロットは、2つの「ピーク」、フィルタ20の分路分岐の二次高調波放射によって決定付けられる低い方の周波数における「逆相」ピークおよびフィルタ20の直列分岐の二次高調波放射によって決定付けられる高い方の周波数における「正相」ピーク、を有する。
【0035】
出力ポート46では、二次高調波放射の主要源が、BAW共振器53を含む4番目の直列分岐およびBAW共振器65を含む4番目の分路分岐、すなわち、出力ポート46に最も近い「最後の」直列分岐および分路分岐、からのものであるのが分かる。実際に、例えば、出力ポート46において、3番目の直列BAW共振器52および3番目の分路BAW共振器58からの二次高調波放射の寄与は、4番目の直列BAW共振器53および4番目の分路BAW共振器65からの二次高調波放射の寄与よりも約10dB低い。1番目および2番目の直列BAW共振器48および55並びに1番目および2番目の分路BAW共振器54および56の寄与は更に低い。
【0036】
したがって、図8は、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有する他の実施形態のフィルタ80を示し、この場合、出力ポート86に最も近い「最後の」直列分岐だけが、図3に示されるように逆並列に接続された或いは図4に示されるように逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置85として構成される。
【0037】
前述したように、逆並列構造の場合、第1のBAW共振器および第2のBAW共振器が同じキャパシタンス、例えばC/2を有する場合、BAW装置85は、全体として、高調波放射がかなり減少される、特に、BAW装置85の二次高調波放射レベルは等価な一般的なBAW共振器よりも30dB低い、ことを除き、キャパシタンスCを示す通常の或いは「一般的な」BAW共振器のように作用する。同様に、逆直列構造の場合、第1のBAW共振器および第2のBAW共振器が同じキャパシタンス、例えば2Cを有する場合、BAW装置85は、全体として、高調波放射がかなり減少される、この場合も先と同様、特に、BAW装置85の二次高調波放射は等価な一般的なBAW共振器よりも30dB低い、ことを除き、キャパシタンスCを示す通常の或いは「一般的な」BAW共振器のように作用する。
【0038】
フィルタ50および60と比較して、フィルタ80は、単一の一般的なBAW共振器を、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置85と置き換えるだけであるため、フィルタ50および60とは対照的に、サイズが僅かしか増大せず、あるいは、その品質係数が僅かしか減少されない。
【0039】
図9は、フィルタ80の出力ポート86における二次高調波放射のプロットを周波数の関数として示している。図7と比べると、フィルタ90の分路分岐の二次高調波放射によって決定付けられる低い周波数における「逆相」ピークは残存し、実際には更に低い周波数で悪化しているのが分かる。これは、出力ポート86に最も近いフィルタ80の「最後の」分路分岐を、図3に示されるように逆並列に接続された或いは図4に示されるように逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置と置き換えることよって対処することができる。しかしながら、フィルタ80の直列分岐の二次高調波放射によって決定付けられる高い周波数における「正相」ピークは、BAW装置85の二次高調波放射が、等価な一般的なBAW共振器よりも30dB低いにもかかわらず、フィルタ20と比べて約10dBしか減少されていないことも分かる。
【0040】
したがって、図10は、減少された高調波放射を示すフィルタ1000の1つの実施形態を示している。フィルタ1000は、交互する一連の直列分岐1010−iおよび分路分岐1020−iを備えるハーフラダー構造を有し、この場合、直列分岐および分路分岐のそれぞれ1010i/1020iは、「最後の」直列分岐1010−4および最後の分路分岐1020−4を除き図示の極性を有する対応するBAW共振器1030iを含む。出力ポート46に最も近い最後の直列分岐はBAW装置1050を含み、出力ポート46に最も近い最後の分路分岐はBAW装置1060を含む。図10の実施形態において、BAW装置1050は、逆並列に接続された第1のBAW共振器1052および第2のBAW共振器1054を含む。一方、BAW装置1060は、逆並列に接続された第1のBAW共振器1062および第2のBAW共振器1064を含む。
【0041】
BAW装置1050は、BAW共振器1052および第2のBAW共振器1054が互いと同じキャパシタンス(例えばC/2)を有さず且つ互いに等価とならないように構成されるのが有益である。1つの特定の典型的な実施形態において、BAW共振器1052およびBAW共振器1054は、(1)並列な組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)BAW共振器1052の二次高調波放射が、BAW共振器1054の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−3の二次高調波放射とほぼ等しいが反対の位相となるように選択される。その場合、BAW共振器1052は、BAW共振器1054および直列BAW共振器1010−3の極性とは反対の極性を有するため、BAW共振器1052の二次高調波放射は、BAW共振器1054の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−3の二次高調波放射を実質的にキャンセルする。これに関して、実質的なキャンセルは、例えばフィルタ90においてBAW共振器1052およびBAW共振器1054が互いと同じキャパシタンス(例えばC/2)を有していた場合に、合成二次高調波放射が、BAW共振器1052、BAW共振器1054、および直列BAW共振器1010−3の組み合わせによって生み出された二次高調波放射よりも約10dB低いことを意味する。
【0042】
フィルタ1000の二次高調波放射を周波数に対してプロットする場合には、フィルタ1000の直列分岐の二次高調波放射によって決定付けられる高い周波数における「正相」ピークがフィルタ20と比べて約20dB減少されるのが観察される。
【0043】
前述した様式と同様の様式で、第1のBAW共振器1062および第2のBAW共振器1064は、(1)並列な組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)BAW共振器1062の二次高調波放射が、BAW共振器1064の二次高調波放射および分路BAW共振器1020−3の二次高調波放射を実質的にキャンセルするように選択されることが有益である。
【0044】
また、他の特定の典型的な実施形態において、BAW共振器1052およびBAW共振器1054は、(1)並列な組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)BAW共振器1052の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−2の二次高調波放射が、BAW共振器1054の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−3の二次高調波放射とほぼ等しいが反対の位相となるように選択される。その場合、BAW共振器1052および直列BAW共振器1010−3は、BAW共振器1054および直列BAW共振器1016の極性とは反対の極性を有するため、BAW共振器1052の二次高調波放射は、BAW共振器1054の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−3の二次高調波放射および直列BAW共振器1010−2の二次高調波放射を実質的にキャンセルする。これに関して、実質的なキャンセルは、例えばフィルタ90においてBAW共振器1052およびBAW共振器1054が互いと同じキャパシタンス(例えばC/2)を有していた場合に、合成二次高調波放射が、BAW共振器1052、BAW共振器1054、および直列BAW共振器1010−2および1010−3の組み合わせによって生み出された高調波放射よりも約10dB低いことを意味する。
【0045】
フィルタ1000の二次高調波放射を周波数に対してプロットする場合には、フィルタ1000の直列分岐の二次高調波放射によって決定付けられる高い周波数における「正相」ピークがフィルタ20と比べて20dBより多く減少されるのが観察される。
【0046】
概念的には、一般に、(1)並列な組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)BAW共振器1052の二次高調波放射が、BAW共振器1054の二次高調波放射およびフィルタ1000における全ての直列BAW共振器1010−iの二次高調波放射を実質的にキャンセルするように、BAW共振器1052を選択することができ、BAW共振器1054が選択される。
【0047】
前述した様式と同様の様式で、一般に、(1)並列な組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)BAW共振器1052の二次高調波放射がBAW共振器1054の二次高調波放射およびフィルタ1000における全ての分路BAW共振器1020−iの二次高調波放射を実質的にキャンセルするように、BAW共振器1062および第2のBAW共振器1064を選択することができる。
【0048】
等価なキャパシタンスの一般的なBAW共振器の代わりにBAW装置1050またはBAW装置1060だけを含ませることを含む様々な組み合わせが可能である。
【0049】
また、図10は、BAW装置1050および1060のそれぞれがBAW共振器の逆並列な組み合わせを備える一実施形態を示しているが、代わりに、一方または両方のBAW装置がBAW共振器の逆直列の組み合わせを備えてもよく、その場合、(1)直列の組み合わせが所望のキャパシタンスCを生み出すとともに、(2)第1のBAW共振器の二次高調波放射が、第2のBAW共振器の二次高調波放射およびフィルタ1000における1つ以上の残りの直列または分路BAW共振器の二次高調波放射を実質的にキャンセルする。
【0050】
本明細書では典型的な実施形態が開示されているが、当業者であれば分かるように、本教示に従う多くの変形が可能であり添付の特許請求の範囲内にとどまる。例えば、前述の説明および図は、マッチング回路網がアンテナおよび複数のフィルタへの信号及びこれらからの信号を多重化する典型的な場合を示しているが、マッチング回路網はアンテナを用いる用途に限定されない。一般に、前述したマッチング回路網を使用して、広帯域増幅器またはフィルタなどの任意の適した装置を複数のフィルタと受動的に多重化することができる。したがって、添付の特許請求の範囲内を除き、実施形態が制限されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】典型的なBAW共振器を示す図である。
【図2】それぞれがBAW共振器を含む交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタの回路図である。
【図3】逆並列に接続された2つのBAW共振器を備えるBAW装置を示す図である。
【図4】逆直列に接続された2つのBAW共振器を備えるBAW装置を示す図である。
【図5】フィルタの全ての直列分岐および全ての並列分岐が逆直列または逆並列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置として構成される、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタの一実施形態を示す図である。
【図6】フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐が逆直列または逆並列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置として構成される、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタの他の実施形態を示す図である。
【図7】図2のフィルタのその出力ポートにおける二次高調波放射のプロットを周波数の関数として示す図である。
【図8】出力ポートに最も近い「最後の」直列分岐だけが逆直列または逆並列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を備えるBAW装置として構成される、交互する一連の直列分岐および分路分岐を備えるハーフラダー構造を有するフィルタ90の他の実施形態を示す図である。
【図9】図8のフィルタのその出力ポートにおける二次高調波放射のプロットを周波数の関数として示す図である。
【図10】減少された高調波を示すフィルタの一実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1000 フィルタ
1010−1〜1010−3 直列分岐
1020−1〜1020−3 分路分岐
1050 BAW装置
1052 第1のBAW共振器
1054 第2のBAW共振器
1060 BAW装置
1062 第1のBAW共振器
1064 第2のBAW共振器
T 第1の電極
B 第2の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通のグランドに関連する信号入力および信号出力を含む、交互する一連の直列分岐および分路分岐を有するハーフラダー構造を備えるフィルタであって、該フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐は、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を有するBAW装置として構成され、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射は、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の直列分岐または少なくとも1つの他の並列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、フィルタ。
【請求項2】
前記第1のBAW共振器の第1の電極が、前記第2のBAW共振器の第2の電極および前記BAW装置の第1の電気端子に対して電気的に接続されるとともに、前記第1のBAW共振器の第2の電極が、前記第2のBAW共振器の第1の電極および前記BAW装置の第2の電気端子に対して電気的に接続され、前記第1および第2のBAW共振器は、それらの第1の電極およびそれらの第2の電極に対して同じ分極を有する、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記第1のBAW共振器の共振周波数および前記第2のBAW共振器の共振周波数が実質的に同一である、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1のBAW共振器のキャパシタンスが前記第2のBAWフィルタのキャパシタンスよりも大きい、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項5】
直列分岐が前記BAW装置として構成され、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の直列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの全ての他の直列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記BAW装置が、前記信号入力に対して直接に接続された第1の直列分岐において構成される、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項8】
前記BAW装置の前記第1および第2のBAW共振器が逆直列に接続される、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記BAW装置の前記第1および第2のBAW共振器が逆並列に接続される、請求項5に記載のフィルタ。
【請求項10】
分路分岐が前記BAW装置として構成され、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の分路分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項1に記載のフィルタ。
【請求項11】
前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの全ての他の分路分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項10に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記BAW装置が、前記信号入力に対して直接に接続された第1の分路分岐において構成される、請求項10に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記BAW装置の前記第1および第2のBAW共振器が逆直列に接続される、請求項10に記載のフィルタ。
【請求項14】
前記BAW装置の前記第1および第2のBAW共振器が逆並列に接続される、請求項10に記載のフィルタ。
【請求項15】
共通のグランドに関連する信号入力および信号出力を含む交互する一連の直列分岐および分路分岐を有するハーフラダー構造を備えるBAWフィルタにおける高調波放射を減少させる方法であって、前記フィルタの少なくとも1つの直列分岐または少なくとも1つの並列分岐を、逆並列または逆直列に接続された第1のBAW共振器および第2のBAW共振器を有するBAW装置として構成するステップと、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の直列分岐または少なくとも1つの他の並列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルするように、前記第1のBAW共振器および前記第2のBAW共振器を構成するステップ、を含む方法。
【請求項16】
前記第1のBAW共振器の第1の電極を前記第2のBAW共振器の第2の電極および前記BAW装置の第1の電気端子に対して電気的に接続するステップと、前記第1のBAW共振器の第2の電極を前記第2のBAW共振器の第1の電極および前記BAW装置の第2の電気端子に対して電気的に接続するステップと、を更に含み、前記第1および第2のBAW共振器は、それらの第1の電極およびそれらの第2の電極に対して同じ分極を有する、請求項16に記載の方法。
【請求項17】
直列分岐を前記BAW装置として構成するステップを更に含み、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の直列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの全ての他の直列分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
分路分岐を前記BAW装置として構成するステップを更に含み、前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの少なくとも1つの他の分路分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のBAW共振器によって発生される二次高調波放射が、前記第2のBAW共振器の二次高調波放射および前記フィルタの全ての他の分路分岐の二次高調波放射を実質的にキャンセルする、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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