説明

二段山留め壁とその構築方法

【課題】内側山留め壁の内部掘削時に地盤アンカー等の支保工を必要としないため、掘削工事を円滑に進めることができ、工期短縮とコスト低減を図り得る二段山留め壁とその構築方法を提供する。
【解決手段】外側山留め壁1とその内側に段差掘削部3を隔てて構築された内側山留め壁2の上端部とを連結材4で連結した二段山留め壁であり、外側山留め壁1の内部地盤を内側山留め壁2の上端レベルまで掘削し、外側山留め壁1の上下方向中間部と内側山留め壁2の上端部とを連結材4で連結した後、内側山留め壁2の内部地盤を掘削することによって構築される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、建物外周部に採光用スペース等に供されるドライエリアが形成され、その内側に更に深い位置まで地下階が形成された建築物のように、地下躯体の下部深度が外周部と内部で異なる建築物の地下工事に採用される二段山留め壁とその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下躯体の下部深度が外周部と内部で異なる場合には、図7に示すように、山留め壁を二段にすることがある。1は外側山留め壁、2は外側山留め壁1の内側に段差掘削部3を隔てて構築された内側山留め壁である。地下水位Lが高い場合には、外側山留め壁1が遮水壁となるように、外側山留め壁1として、止水性能が高いソイルセメント柱列壁などが採用され、内側山留め壁としては、親杭横矢板壁などが採用される。
【0003】
外側山留め壁1の水平抵抗もしくは根入れ部分の抵抗だけでは、側圧に耐えない場合、支保工が用いられる。支保工としては、切梁を採用するよりも施工上及びコスト上有利で、且つ、敷地に余裕のある場合には、例えば、図示のように、外側山留め壁1とその外側に打設した控杭6をタイロッド7で連結する形式とされ、内側山留め壁2は地盤アンカー9で支保される。
【0004】
しかしながら、従来の二段山留め壁では、以下のような問題点がある。
(1)外側山留め壁1と内側山留め壁2の夫々を独立して設計・施工するためにオーバースペック(過剰品質)となり、不経済である。
(2)夫々の山留め壁1,2が平行してあることによる相乗効果が発揮できていない。例えば、原地盤の地下水位が高く、図示のように、外側山留め壁1を遮水壁としてタイロッド形式、内側山留め壁2を地盤アンカー形式とした場合、内側山留め壁2の地盤アンカー9の定着部が遮水壁(外側山留め壁1)を貫通してしまい、止水性が確保できない。また、地盤アンカー9の定着部と外側山留め壁1の芯材1aが干渉するため、芯材長さの設計に制約がある。しかも、内側山留め壁2の内部地盤の掘削途中で地盤アンカー9の施工が行われるので、工期が長くなり、コストが高く付く。
【0005】
尚、特許文献1には、地盤掘削に伴って構築される開水構造の山留め壁と、この山留め壁から所定距離背面側に離れた地盤内に造成された遮水壁とからなり、山留め壁と遮水壁との間の地盤の地下水位をディープウエル等により低下させて、山留め壁の内側地盤を掘削する二重の山留め構造が提案されている。この従来例は、地盤アンカーが遮水壁を貫通していないが、山留め壁と遮水壁の間の地盤が掘削されず、段差掘削部が形成された二段山留め壁(地下躯体の下部深度が外周部と内部で異なる建築物の地下工事に採用される二段山留め壁)ではない。
【0006】
【特許文献1】特開2001−107361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、外側山留め壁と内側山留め壁の上端部とを鉄筋等の水平な連結材で繋いだ二段山留め壁の地盤掘削に伴う挙動を検討し、その実測結果から、外側山留め壁の挙動は、内側山留め壁の内部掘削に伴う地盤変位の影響とつなぎ鉄筋による引張り力の影響を考慮することにより応力分布をほぼ評価でき、内側山留め壁は、二段山留め段差分の地盤を上載荷重として考慮した背面側圧設定によりほぼ評価できるという事実を知見し、この新知
見に基づいて成されたものであって、内側山留め壁の内部掘削時に地盤アンカー等の支保工を必要としないため、掘削工事を円滑に進めることができ、工期短縮とコスト低減を図り得る二段山留め壁とその構築方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明が講じた技術的手段は、次の通りである。即ち、請求項1に記載の発明による二段山留め壁は、外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結してあることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の発明による二段山留め壁の構築方法は、請求項1に記載の二段山留め壁を構築する方法であって、外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴としている。
【0010】
尚、請求項2に記載の二段山留め壁の構築方法において、外側山留め壁としては、新設される場合と、既設の山留め壁を利用する場合とがある。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前者の場合であり、請求項2に記載の二段山留め壁の構築方法であって、外側山留め壁を構築した後、外側山留め壁の内部地盤を内側山留め壁の上端レベルまで掘削し、外側山留め壁の上下方向中間部と内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、後者の場合であり、請求項2に記載の二段山留め壁の構築方法であって、既設の外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴としている。この場合、連結材として、請求項5に記載の発明のように、解体された既存建物の基礎底盤を使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1,2に記載の発明によれば、内側山留め壁の上端部が連結材によって外側山留め壁の上下方向中間部に繋がれているため、内側山留め壁の変形を抑制しつつ内側山留め壁の内部地盤を掘削でき、内側山留め壁の内部掘削時に地盤アンカー等の支保工を必要としないため、掘削工事を円滑に進めることができ、工期短縮とコスト低減を図り得る。
【0014】
また、内側山留め壁の内部掘削時に地盤アンカーが不要であるから、地盤アンカーの定着部が遮水壁としての外側山留め壁を貫通して止水性が確保できなくなったり、地盤アンカーの定着部と外側山留め壁の芯材が干渉して、芯材長さの設計が制約されるといった問題の発生を回避できる。
【0015】
連結材としては、要求される引張り力を負担し得るものであれば、鉄筋、鉄骨、鉄筋コンクリートなど様々な仕様を選定することが可能であり、例えば、鉄筋とコンクリートで内,外側山留め壁を連結し、一体化させて剛性を高め、この鉄筋コンクリート造の連結材を内,外側山留め壁間の段差掘削部に位置する鉄筋コンクリート造の通路や床面に兼用する等して、山留めの合理化を図ることができる。また、外側山留め壁と内側山留め壁を一体の山留め壁として設計・施工することにより、外側山留め壁の上下長さを低減することが可能であり、夫々を独立して設計・施工する場合のようなオーバースペック(過剰品質)となることを回避できて、経済的である。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、外側山留め壁の構築、外側山留め壁の内部地盤を内側
山留め壁の上端レベルまで掘削することによる段差掘削部の形成、連結材による外側山留め壁の上下方向中間部と内側山留め壁の上端部との連結、内側山留め壁の内部地盤の掘削といった手順により、請求項1に記載の二段山留め壁を構築できる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、外側山留め壁として既設の山留め壁を利用するので、既存建物を解体撤去して新しい建築物(地下躯体の下部深度が外周部と内部で異なる建築物)を建設する場合、外側山留め壁の構築の工程、費用が省略されることになり、非常に経済的である。
【0018】
殊に、請求項5に記載の発明によれば、外側山留め壁の上下方向中間部と新たに構築された内側山留め壁の上端部とを連結する連結材として、解体された既存建物の基礎底盤を利用するので、一層経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、二段山留め壁の一例を示す。図1において、1は外側山留め壁、2は外側山留め壁1の内側に段差掘削部3を隔てて構築された内側山留め壁である。外側山留め壁1及び内側山留め壁2としては、地中連続壁、柱列壁、親杭横矢板壁などを適宜選択できるが、図示の例では、地下水位Lが高いため、外側山留め壁1が遮水壁となるように、外側山留め壁1として、止水性能が高いソイルセメント柱列壁が採用されており、内側山留め壁2としては、親杭横矢板壁が採用されている。1aは芯材(例えばH鋼)、2aは親杭となる芯材(例えばH鋼)である。
【0020】
外側山留め壁1の上下方向中間部と内側山留め壁2の上端部とは連結材4で連結されている。連結材4としては、要求される引張り強度を負担し得るものであれば、鉄筋、鉄骨、鉄筋コンクリートなど様々な仕様を選定することが可能である。この例では、連結材4として鉄筋が使用されており、図3に示すように、鉄筋の一端部を直角に折曲加工して、その折曲部分を芯材1aのフランジ中央部に溶接し、鉄筋の他端部を芯材2aのウエブに溶接してある。連結材(鉄筋)4は、内側山留め壁2の親杭となる芯材2a毎に設けられている。5は連結材4が埋め込まれた状態に打設されたコンクリートであり、連結材4を保護している。連結材4を鉄筋コンクリート造として、内,外側山留め壁1,2間の段差掘削部3に位置する鉄筋コンクリート造の通路や床面に兼用することもできる。
【0021】
外側山留め壁1は、その外側に打設した控杭6とタイロッド7で連結することによって支保されているが、切梁形式による支保工を選択してもよく、外側山留め壁1の横抵抗が十分に大きければ、これらの支保工を省略してもよい。
【0022】
図2は、本発明の他の実施形態を示す。この二段山留め壁は、地下水位Lがさほど高くなく、湧水があっても段差掘削部3に排水溝を形成する等して湧水を排水処理できるため、外側山留め壁1として親杭横矢板壁を採用し、内側山留め壁2としてソイルセメント柱列壁を採用した点に特徴がある。その他の構成は、図1、図3の実施形態と同じであるため、同一構成部材に同一符号を付し、説明を省略する。
【0023】
上記の構成によれば、内側山留め壁2の上端部が連結材4によって外側山留め壁1の上下方向中間部に繋がれているため、内側山留め壁2の変形を抑制しつつ内側山留め壁2の内部地盤を掘削でき、内側山留め壁2の内部掘削時に地盤アンカー等の支保工を必要としないため、掘削工事を円滑に進めることができ、工期短縮とコスト低減を図り得る。
【0024】
また、内側山留め壁2の内部掘削時に地盤アンカーが不要であるから、地盤アンカーの定着部が遮水壁としての外側山留め壁1を貫通して止水性が確保できなくなったり、地盤アンカーの定着部と外側山留め壁1の芯材1aが干渉して、芯材長さの設計が制約される
といった問題の発生を回避できる。
【0025】
外側山留め壁1と内側山留め壁2を一体の山留め壁として設計・施工することにより、外側山留め壁1の上下長さを低減することが可能であり、夫々を独立して設計・施工する場合のようなオーバースペック(過剰品質)となることを回避できて、経済的である。
【0026】
図4は、図1、図2に示した二段山留め壁の構築方法を示し、図4の(A)に示すように、外側山留め壁1を構築した後、外側山留め壁1の内部地盤を内側山留め壁2の上端レベルまで掘削して、段差掘削部3を形成し、図4の(B)に示すように、外側山留め壁1の上下方向中間部と内側山留め壁2の上端部とを連結材4で連結した後、図4の(C)に示すように、内側山留め壁2の内部地盤を掘削して、図1、図2に示した二段山留め壁を構築している。内側山留め壁2は段差掘削部3の形成後、構築されるのが普通であるが、外側山留め壁1の内部地盤の掘削に先立って造成しておくことも可能である。
【0027】
図5は、図1、図2に示した二段山留め壁を構築する他の構築方法を示す。この構築方法は、外側山留め壁1として、既設の山留め壁を利用する点に特徴がある。即ち、図5の(A)に示すように、既設の山留め壁aを残置させた状態に、既存建物8を解体撤去することにより、既設の山留め壁aを外側山留め壁1として使用し、必要があれば、外側山留め壁1の内部地盤を内側山留め壁2の上端レベルまで掘削して、段差掘削部3を形成し、次に、図5の(B)に示すように、外側山留め壁1の上下方向中間部と内側山留め壁2の上端部とを連結材4で連結した後、図4の(C)に示すように、内側山留め壁2の内部地盤を掘削して、図1、図2に示した二段山留め壁を構築している。
【0028】
この構成によれば、外側山留め壁1として既設の山留め壁aを利用するので、既存建物8を解体撤去して新しい建築物(地下躯体の下部深度が外周部と内部で異なる建築物)を建設する場合、外側山留め壁1の構築の工程と費用が省略されることになり、非常に経済的である。
【0029】
図6は、図1、図2に示した二段山留め壁を構築する他の構築方法を示す。この構築方法は、外側山留め壁1として、既設の山留め壁aを利用し、連結材4として既存建物8の基礎底盤bを利用する点に特徴がある。即ち、図6の(A)に示すように、既設の山留め壁aと基礎底盤bを残置させた状態に、既存建物8を解体撤去することにより、既設の山留め壁aを外側山留め壁1として使用し、図6の(B)に示すように、基礎底盤bを貫通する状態に内側山留め壁2を構築し、基礎底盤bの補強鉄筋と内側山留め壁2の芯材2aを溶接する等して、内側山留め壁2より外側に位置する基礎底盤bを外側山留め壁1の上下方向中間部と内側山留め壁2の上端部とを連結する連結材4として利用し、しかる後、図6の(C)に示すように、内側山留め壁2の内部地盤を掘削して、図1、図2に示した二段山留め壁を構築している。
【0030】
この構成によれば、既設の山留め壁aを外側山留め壁1として利用するだけでなく、既存建物8の基礎底盤bを連結材4として利用するので、連結材4の工程が省略ないし簡略化されることになり、一層経済的である。
【0031】
以上、図1〜図6に基づいて本発明の実施形態を説明したが、本発明は図示した構成のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態を示す二段山留め壁の縦断側面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を示す二段山留め壁の縦断側面図である。
【図3】内,外側山留め壁の芯材と連結材との連結方法を例示する要部の縦断側面図である。
【図4】本発明の一実施形態を示す二段山留め壁の構築方法の説明図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す二段山留め壁の構築方法の説明図である。
【図6】本発明の他の実施形態を示す二段山留め壁の構築方法の説明図である。
【図7】従来技術の問題点を説明する二段山留め壁の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 外側山留め壁
2 内側山留め壁
3 段差掘削部
4 連結材
a 既設の山留め壁
b 既存建物の基礎底盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結してあることを特徴とする二段山留め壁。
【請求項2】
請求項1に記載の二段山留め壁を構築する方法であって、外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴とする二段山留め壁の構築方法。
【請求項3】
請求項2に記載の二段山留め壁の構築方法であって、外側山留め壁を構築した後、外側山留め壁の内部地盤を内側山留め壁の上端レベルまで掘削し、外側山留め壁の上下方向中間部と内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴とする二段山留め壁の構築方法。
【請求項4】
請求項2に記載の二段山留め壁の構築方法であって、既設の外側山留め壁の上下方向中間部とその内側に段差掘削部を隔てて構築された内側山留め壁の上端部とを連結材で連結した後、内側山留め壁の内部地盤を掘削することを特徴とする二段山留め壁の構築方法。
【請求項5】
連結材として、解体された既存建物の基礎底盤を使用することを特徴とする請求項4に記載の二段山留め壁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−162266(P2007−162266A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357607(P2005−357607)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第40回地盤工学研究発表会 平成17年度発表講演集(2冊分の2)の第1771〜1772頁:平成17年6月15日社団法人地盤工学会 編集発行
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】