説明

二段推力ロケットモータ

【課題】 射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、所定の延時時間後に主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る、携行型誘導弾システムに用いられる二段推力ロケットモータの更なる小型軽量化。
【解決手段】 射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る二段推力ロケットモータにおいて、1つのモータケース内に、燃焼面に着火延時層を被覆した内孔を持つ主ロケット用推進薬を配置し、該主ロケット用推進薬の内孔空間に射出用推進薬を配置したことを特徴とする一室型二段推力ロケットモータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、所定の延時時間後に主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る、携行型誘導弾システムに用いられる二段推力ロケットモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る方式の携行型ロケットモータは、主ロケットモータの機軸後方に射出用ロケットモータを配置した構造である。
該方式のロケットモータは、射手に対する安全性確保の観点から、射出機構から発射される際、射出ロケットは射出機構内で燃焼を完了させ、ある一定距離を慣性飛行した後、主ロケットの点火が行われ、飛翔推力を得ることが望ましい。
このため、射出ロケットの性能は高推力を発生させると共に短時間で燃焼を完了させることが要求され、且つ射出から主ロケットの点火までにはある一定の延時時間を持つことが要求される。
【0003】
また、該方式では、発射位置や飛翔経路の秘匿性を持たせるために、推進薬は煙の発生を抑制することを要求されることもある。
更に、人員が携行することを考慮すると、小型軽量であることが望まれるが、機軸方向に主ロケットモータと射出ロケットモータを直列に配置する場合、更なる小型軽量化を行うには特に機軸方向の短小化に限界があった。
なお、他の用途で使われるロケットではあるが、二段推力を持つロケットしては、例えば特許文献1には、第1段ロケットモータケース前方の開口部と第2段ロケットモータケース後方のノズルとを接合することで2つのロケットモータを機軸方向直列に接合し、1つの点火装置によってほぼ同時に点火させるロケットにおいて、第2段推進薬の表層に燃焼速度の遅い層を設け、第2段推進薬燃焼の第二段ロケットモータの内圧を上げると共に第1段推進薬の燃焼終了後に第2段の着火を行うことが開示されている。
【0004】
更に、特許文献2には、ノズルを持つ第1段燃焼室の前方に縮径部を介して第二燃焼室を機軸方向直列に接合し、第2段推進薬の内面を第1推進薬の燃焼熱では消失せずに第2段の燃焼熱で消失する隔膜で覆い、第1段推進薬燃焼後に第2段点火装置にて第2段推進薬を着火させることが開示されている。
上述のように、射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、主ロケットを点火させる方式のロケットモータは、更なる小型軽量化を行うには、特に機軸方向長さの短小化に限界があった。
その観点からすると、特許文献1及び特許文献2は、いずれも機軸方向に直列に2つのロケットモータを接合配置する構造であり、機軸方向長さの短小化には寄与しない。
【0005】
また、特許文献1にある低燃焼速度層を用いる方式では、射出位置の秘匿性を考慮して推進薬としてダブルベース系推進薬を用いる場合、燃焼室圧力が低いと燃焼が不安定になるというダブルベース推進薬の性質上、主ロケット点火延時時間を設けると燃焼室圧力が低下して、主ロケットの着火が不安定になることが考えられる。
一方、低燃焼速度層として、延時時間中も燃焼室圧力が十分に保たれる材質を選定した場合、相当量の燃焼ガスが常時ノズルから噴出することになり、射手が高温高圧の燃焼ガスに曝されることになり、射手に対する安全性が問題となる。
【0006】
また、特許文献2にある隔膜方式では、第1推進薬の燃焼温度を第2推進薬の燃焼温度よりも低く設定する必要があり、推進薬の選定に制限を受けるとともに、第2点火装置の取り付け姿勢にも制約があり、機軸方向長さの短小化に対して制約を受ける一因となる。
【特許文献1】特許第1760015号公報
【特許文献1】特許第2708103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、所定の延時時間後に主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る、携行型誘導弾システムに用いられる二段推力ロケットモータの更なる小型軽量化を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の問題点を考慮し鋭意研究した結果、内孔を持つ主ロケット用推進薬の燃焼面に必要に応じて点火層を介して延時層を形成し、その内孔内に射出ロケット用推進薬を配置することで、主軸方向の短小化を図ると同時に軽量化を図ることが可能となることを見出し、本発明を達成した。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
1.射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る二段推力ロケットモータにおいて、1つのモータケース内に、燃焼面に発火延時層を被覆した内孔を持つ主ロケット用推進薬を配置し、該主ロケット用推進薬の内孔空間に射出用推進薬を配置したことを特徴とする一室型二段推力ロケットモータ。
2.主ロケット用推進薬と発火延時層との間に、主ロケット推進薬の点火を行うための点火層を設けたことを特徴とする1.に記載の二段推力ロケットモータ。
3.ノズル入口部に多孔板を用いることで、少なくとも1つ以上の小径の推進薬を射出用推進薬として用いた射出ロケット機能を持つことを特徴とする1.又は2.に記載の二段推力ロケットモータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、所定の延時時間後に主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る、携行型誘導弾システムに用いられる二段推力ロケットモータの小型軽量化が可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、特にその好ましい態様を中心に、説明する。
本発明に用いるモータケースは、高張力鋼、高張力アルミ、高張力チタン等の高張力金属により形成されることが好ましく、ほぼ円筒状の構造体が好ましい。また、機軸後方に燃焼室で発生した燃焼ガスを排出するための少なくとも1つ以上のノズルを持つ。
小径の推進薬を燃焼室内部に接着等の固定を行わずに配置する場合には、燃焼中の推進薬がノズルより外部へ飛散することを防止するために、多孔板をモータケースのノズル側に挿入することが好ましい。多孔板は、例えば、金属製の円盤に少なくとも1つ以上の穴を開けたものである。
【0011】
ロケット燃焼室内には、例えば、発射地点及び飛翔経路の秘匿性を考慮し、高燃焼速度、高比推力を持つ内孔面及び後方端面を燃焼面とした、内孔を持つ円柱状のダブルベース系の主ロケット推進薬を配置するが、特に秘匿性を要求されない場合は、同様の特性を持つコンポジット系の主ロケット推進薬を用いることもできる。
前記推進薬の燃焼面には着火延時層が形成される。延時層は、燃焼速度の遅い材質により形成され点火信号に対して主ロケットモータの着火を遅らせるためのものであり、延時層の材質選定及び厚みの設計により主ロケットモータの着火延時時間を任意に設計することができる。延時層としては、好ましくは末端をイソシアネート化した分子量が500以上、より好ましくは分子量1000以上のゴム状のバインダ成分を用いることができる。
【0012】
また、延時層と主ロケット推進薬との間には、主ロケット推進薬の着火を円滑に行うために、例えば点火薬の成分等からなる、点火層を設けることもできる。
主推進薬の内孔空間には、例えば、発射地点の秘匿性を考慮し、且つ高推力を得ると共に短時間で燃焼を完了させるために、高燃焼速度、高比推力を持つダブルベース系の射出ロケット推進薬が配置されるが、特に秘匿性を要求されない場合は、同様の特性を持つコンポジット系の射出ロケット推進薬を用いることもできる。
射出ロケット推進薬は、延時層もしくは点火層に対して密接して、すなわち積層状態で配置することができるが、ロケットの性能設計によっては独立して棒状の推進薬を配置することもできる。
【0013】
延時層の延時時間設計と、射出ロケット推進薬のグレイン形状設計との組み合わせにより、射出ロケット推進薬の燃焼と主ロケット推進薬の燃焼との相対時間を任意に設計することが可能となり、例えば、射出ロケット推進薬燃焼終了後、一定延時時間経過後に主ロケット推進薬を着火させることも可能であり、また例えば、射出推進薬燃焼終了直前に主ロケット推進薬を着火させることも可能である。
前部鏡板が、モータケースを封止する形で機軸前方に取り付けられ、内部には点火装置が組み込まれる。前記点火装置は、例えば、鈍感型の点火スクイブにより主点火薬に着火させ、更に推進薬に着火させるものであるが、主ロケット推進薬の燃焼面には延時層が形成されているため、1つの点火信号により射出ロケット推進薬の着火後、一定延時時間をおいた後に主ロケット推進薬に着火することができる。
【0014】
本発明により、直径150mm以下、機軸長さ300mm以下、質量2kg以下の携行型誘導弾システムに用いられる小型軽量二段推力ロケットモータは言うまでもなく、直径50mm以下、機軸長さ200mm以下、質量1kg以下のさらに小型軽量の二段推力ロケットモータをも得ることができる。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
図1及び図2は本発明に基づく第1の実施例であり、図1はロケットモータの機軸方向断面図、図2は同ロケットモータの機軸に対して垂直方向断面図であり、1はロケットモータ、2はノズル部、3は点火装置である。
モータケース10は、直径40mm、長さ120mmの高張力アルミ製の筒状構造体であり、機軸後方にノズル部2を嵌合され、燃焼室15を形成し、燃焼室15の内面はインシュレータ12により被覆される。ノズル部2には、高張力鋼製のノズルブロック20の中央部後方にノズルクロージャ22で封止されたノズル21が形成されている。
【0016】
燃焼室15内には、丸孔を持つ円柱状の主推進薬11の内孔面に延時層13及び射出推進薬16を積層した3層構造の推進薬が配置される。主推進薬11及び射出推進薬16はコンポジット系推進薬を用い、延時層13としては末端をイソシアネート化したゴム状のバインダ成分を用いた。
点火装置3は、前部鏡板30の中心部に鈍感型の点火スクイブ31及び主点火薬32を配置したものであり、モータケース10の前方に、点火装置3を嵌合させ封止することにより、1つのロケットモータ1の内部に主推進薬11、延時層13及び射出推進薬16を積層した推進薬を持つ、直径40mm、長さ140mm、質量500gの二段推力ロケットモータを得ることができる。
【0017】
続いて、同図を用いて本実施例によるロケットモータの作用について説明する。
図示しない外部からの1つの点火信号及び点火電力により、点火スクイブ31が着火する。点火スクイブ31は主点火薬32に着火し、更に射出推進薬16に着火する。
ロケットモータ1は、射出推進薬16の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力によりノズルクロージャ22を開放し、ノズル21から燃焼ガスを排出することで推力を発生させ、該ロケットは図示しない射出機構から発射される。また、射出推進薬16は、燃焼を終了するとき延時層13に着火する。
【0018】
図示しない射出機構から発射された後、該ロケットが慣性飛行を継続する間、すなわち延時層13のみが燃焼している間は、延時層13は燃焼速度が遅く燃焼圧力も低いため推力はほとんど発生しない。延時層13の燃焼を終了するとき、すなわち点火信号から一定延時時間経過後、延時層13は主推進薬11に着火する。
【0019】
ロケットモータ1は、主推進薬11の燃焼により発生する燃焼ガスをノズル21から排出することで再び推力を発生させ、該ロケットは飛翔を行う。
図3は、該ロケットの性能の1つを示す時間−推力線図及び時間−モータケース内圧力線図であり、射出ロケットの射出推力を得た後、一定の延時時間経過後に主ロケットの飛翔推力が得られることが分かる。
【0020】
[実施例2]
図4及び図5は本発明に基づく別の実施例であり、4図はロケットモータの機軸方向断面図、図5は同ロケットモータの機軸に対して垂直方向断面図であり、101はロケットモータ、102はノズル部、103は点火装置である。
モータケース110は、直径40mm、長さ120mmの高張力アルミ製の筒状構造体であり、機軸後方にノズル部102を嵌合され燃焼室115を形成する。ノズル部102は、高張力鋼製のノズルブロック120の中央部後方にノズルクロージャ122で封止されたノズル121が形成されており、中央部前方、すなわちノズル131の入口側に多孔板123が嵌合されている。
【0021】
燃焼室115内には、丸孔を持つ円柱状で、外面及び前方端面にレストリクタ112を施工され、且つ燃焼面すなわち内孔面及び後方端面に点火層114を介して延時層113を施工されたダブルベース系の主推進薬111が挿入される。更に、主推進薬111の内孔空間には、短時間で高推力を得るために、丸孔を持つ棒状の全面燃焼型ダブルベース系の射出推進薬116が7本挿入される。
点火装置103は、前部鏡板130の中心部に鈍感型の点火スクイブ131及び主点火薬132を配置したものであり、モータケース110の前方に、点火装置103を嵌合させ封止することにより、1つのロケットモータ101の内部に延時層113を施工した主推進薬111及び射出推進薬116を持つ、直径40mm、長さ140mm、質量500gの二段推力ロケットモータを得ることができる。
【0022】
続いて、同図を用いて本実施例によるロケットモータの作用について説明する。
図示しない外部からの1つの点火信号及び点火電力により、点火スクイブ131が着火する。点火スクイブ131は主点火薬132に着火し、更に射出推進薬116及び延時層113に着火する。
ロケットモータ101は、射出推進薬116の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力によりノズルクロージャ122を開放し、ノズル121から燃焼ガスを排出することで推力を発生させ、該ロケットは図示しない射出機構から発射される。このとき、燃焼中に小さくなった射出推進薬116は、多孔板123があることによりノズル121から飛散することはない。
【0023】
図示しない射出機構から発射された後、該ロケットが慣性飛行を継続する間、すなわち延時層113のみが燃焼している間は、延時層113は燃焼速度が遅く燃焼圧力も低いため推力はほとんど発生しない。延時層113の燃焼完了時、すなわち点火信号から一定延時時間経過後、延時層113は点火層114に着火し、更に主推進薬111に着火する。
ロケットモータ101は、主推進薬111の燃焼により発生する燃焼ガスをノズル121から排出することで再び推力を発生させ、該ロケットは飛翔を行う。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、小型軽量の携行型誘導弾システムに用いられる二段推力ロケットモータとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施例による、二段推力ロケットモータの機軸方向断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例による、二段推力ロケットモータ胴部の機軸垂直方向断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例による、二段推力ロケットモータの性能の一つを示す時間−推力曲線である。
【図4】本発明の第2の実施例による、二段推力ロケットモータの機軸方向断面図である。
【図5】本発明の第2の実施例による、二段推力ロケットモータ胴部の機軸垂直方向断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1・・・・・・・ロケットモータ
2・・・・・・・ノズル部
3・・・・・・・点火装置
10・・・・・・モータケース
11・・・・・・主推進薬
12・・・・・・インシュレータ
13・・・・・・延時層
15・・・・・・燃焼室
16・・・・・・射出推進薬
20・・・・・・ノズルブロック
21・・・・・・ノズル
22・・・・・・ノズルクロージャ
30・・・・・・前部鏡板
31・・・・・・点火スクイブ
32・・・・・・主点火薬
101・・・・・ロケットモータ
102・・・・・ノズル部
103・・・・・点火装置
110・・・・・モータケース
111・・・・・主推進薬
112・・・・・レストリクタ
113・・・・・延時層
114・・・・・点火層
115・・・・・燃焼室
116・・・・・射出推進薬
120・・・・・ノズルブロック
121・・・・・ノズル
122・・・・・ノズルクロージャ
123・・・・・多孔板
130・・・・・前部鏡板
131・・・・・点火スクイブ
132・・・・・主点火薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出ロケットの推力にて射出機構から発射させた後、主ロケットを点火させることで飛翔推力を得る二段推力ロケットモータにおいて、1つのモータケース内に、燃焼面に着火延時層を被覆した内孔を持つ主ロケット用推進薬を配置し、該主ロケット用推進薬の内孔空間に射出用推進薬を配置したことを特徴とする一室型二段推力ロケットモータ。
【請求項2】
主ロケット用推進薬と着火延時層との間に、主ロケット推進薬の点火を行うための点火層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の二段推力ロケットモータ。
【請求項3】
ノズル入口部に多孔板を用いることで、少なくとも1つ以上の小径の推進薬を射出用推進薬として用いた射出ロケット機能を持つことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の二段推力ロケットモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−226201(P2006−226201A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41568(P2005−41568)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)