説明

二流体溶融塩原子炉

原子炉容器は、プレナムと、第一及び第二の組のチャネルを備えている炉心とを備えている。ブランケット塩は前記第一の組のチャネル内を流れ、燃料塩は前記第二の組のチャネル内を流れる。プレナムは、前記第一の組のチャネルからブランケット塩を受け取る。該ブランケット塩は、燃料塩内の核分裂反応のための増殖材を提供し且つ核分裂反応によって発生した熱を燃料塩と混ざり合わない状態で伝える。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子炉に関する。更に特定すると、本発明は二流体溶融塩原子炉に関する。
【0002】
本願は、2009年5月8日に出願された米国仮特許出願第61/176,512号に基づく優先権を主張している。該米国仮特許出願は、これに言及することにより、その全内容が本明細書に参考として組み入れられている。
【背景技術】
【0003】
以下に提供されている背景技術の説明は、概ね開示内容の背景を提供する目的のためのものであり、従来技術を構成するものではない。
【0004】
従来の軽水炉(LWR)は、比較的豊富なU−238よりも希少な同位元素U−235に富むウランを燃焼させることによって、ワンススルーサイクルで作動する。LWRは、核分裂反応の熱を取り出すための冷却材として水を使用している。しかしながら、この設備は、(1)天然ウラン内から潜在的に入手できる燃料のほんの約1%を使用し、(2)U−238上の中性子捕獲プラス2つのベータ崩壊によって生じるプルトニウム及びその他の高アクチニド(主としてPu−239)を発生し、核拡散の虞を生じ、(3)高レベルの廃棄物(これは、短寿命の放射能(30年以下)と長寿命放射能(24,000年以上)との危険な混合物であることから廃棄が困難である)を生成する。
【0005】
核分裂生成物をアクチニドから分離することによって“ウランエコノミー”から“プルトニウムエコノミー”へ転換し、廃棄を容易にし、プルトニウム及びマイナーアクチニドを燃料リサイクルしてワンススルーサイクルを置き換え、液体金属によって冷却される固体燃料高速増殖炉を使用して親物質であるU−238から核分裂性のPu−239の増殖を高める提案がなされて来た。しかしながら、これらの提案は、環境、安全性、保全に関する問題に加え高いフィナンシャルコストの問題を提示する。
【0006】
溶融塩原子炉(MSRs)は、原子核による発電方法の魅力的な選択肢を提案する。燃料並びに冷却材は、固体状態ではなく液体状態であるので、核分裂及び燃料親からの核分裂生成物の化学的な分離はオンサイトすなわち現場で行われ、ほぼ100%の燃焼を達成することができる。このことにより、一般的なリサイクル方法においては必要となる原子力発電プラントから再処理センター及び再生センターヘの核物質の多数回に亘る往復搬送が不要とされる。更に、Pu−239ではなくU−233に増殖させるための燃料親原料として、U−238の代わりにTh−232を用いることによって、高レベル核廃棄物質の廃棄問題が簡素化され、その結果、放射線がバックグラウンドレベル未満に低下するまで廃棄物処理場に貯蔵する必要があるこのような物質の量と時間との両方が大幅に減じられる。
【0007】
Th−232の中性子照射は、事実上は、プルトニウム又は更に重いアクチニドを生成せず、核拡散への特定の道を閉ざす。更に、Th−232が1年以上の期間に亘って連続的に照射される場合には、U−233と共に十分な量のU−232が発生され、これは核兵器の製造に対する強い抑止をなす。U−232は、その壊変系列の一部として強いガンマ放射を伴い、これはU−232の存在の検知を容易化する。更に、強いガンマ放射は、兵器と関連する電子機構と干渉する。
【0008】
MSRはまた、本来有する受動的な安全性を促進する特徴をも有している。これらの特徴としては、例えば、(1)核分裂反応の進行が速すぎると、原子炉の炉心からの燃料が熱膨張すること、(2)燃料塩が極端に熱くなった場合のフリーズプラグの溶融による未臨界保持タンクへ燃料が排出されること、(3)溶融塩の蒸気圧が低いことにより、漏洩する放射性ガスが外部へ吹き出す代わりに内部へ吹き出すこと、及び(4)溶融塩がそれらの一次の又は二次の原子炉格納容器又はパイプから幾分逃がされるべきである場合に、溶融塩の固化によって放射性燃料又はブランケットが動かなくなること、がある。
【0009】
しかしながら、MSRは、容器の化学的腐食の問題、及び、燃料塩及びブランケット塩内に溶解している核分裂性元素及び親物質元素からの核分裂生成物の分離の問題を生じる可能性がある。前者からの核分裂生成物の多くは、後者のトリウムと類似したふるまいをするので、一つの簡単な方法は、原子炉全体の設計の一部として、ウラン/プルトニウム燃料とトリウム増殖材とを二流体方式で別々に保持することである。
【0010】
初期の装置は、黒鉛によって減速される単一流体設計を使用していた。最近の研究では、このような設計は、Th−232によるものと比較してU―233による中性子捕獲を高める高い温度に対する予測できない大きな偏倚運動に対して不安定であることを示している。しかしながら、二流体式MSRは、“配管”に対して、単一流体設計よりも著しく大きな難しい課題を提示する。溶融塩増殖炉の建設に対する最も初期の議論以来、化学的複雑さ/簡素さと、配管の簡素さ/複雑さとの間の相互に相反するような関係が存在し続けている。
【発明の概要】
【0011】
二流体MSRにおいては、グラファイトからなる炉心は、燃料塩によって加熱されブランケット塩によって冷却されて、これら2種の塩の中間の温度とされる。適正に設計することによって、原子炉容器からの燃料塩のダンピング(一気に流れ出すこと)或いは(燃料塩を炉心から膨張させることになる)燃料塩の一部分の蒸発、を最初に誘発することなく、原子炉を停止させることになる不安定化動作が起こるほどにグラファイトが熱くならないことが確保される。
【0012】
本発明は、一つの形態においては、プレナム並びに第一及び第二のチャネルを備えた炉心を備えている原子炉容器を特徴としている。ブランケット塩は、第一の組のチャネル内を流れ、燃料塩は第二の組のチャネル内を流れる。プレナムは、第一の組のチャネルからブランケット塩を受け取る。ブランケット塩は、燃料塩内の核分裂反応のための増殖材を提供し且つ核分裂反応によって発生した熱を燃料塩と混ざり合うことなく伝達させる。
【0013】
本発明の更に別の特徴及び利点は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明に組み入れられ且つ本明細書の一部を形成している添付図面は、本発明の幾つかの特徴を示したものであり、詳細な説明と共に本発明の原理を説明する機能を果たしている。これらの図面内の構成要素は必ずしも等尺ではない。更に、これらの図面を通して、同様の参照符号は対応する部品を示している。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態による溶融塩原子炉の概略図である。
【0016】
図2は、図1の原子炉の原子炉容器の概略図である。
【0017】
図3aは、本発明の別の実施形態による溶融塩原子炉の概略図である。
【0018】
図3bは、図3bの原子炉の後面図である。
【0019】
図4は、図3a及び3bの原子炉の原子炉容器の概略図である。
【0020】
図5aは、本発明の更に別の実施形態による緊急ダンプタンクのモジュールの概略図である。
【0021】
図5bは、図5aのモジュールの底面図である。
【0022】
図6は、中性子数束の減速分布関数(明確化のために共鳴作用は省略されている)であり、xF(x)は、対数目盛での無次元エネルギxに対して直線目盛でプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の説明は、単に例示的な性質のものであり、決して、本発明、その用途、又は使用方法を限定することを意図されたものではない。方法に含まれる複数のステップは、本発明の原理を変えることなく、異なる順序で行っても良いことも理解されるべきである。
【0024】
図1及び2を参照すると、本発明の原理を実施化している二流体型溶融塩原子炉が示されており符号100として示されている(以下、原子炉100と称する)。原子炉100は、ブランケット塩の大きな流体プール102と、炉心105を備えている原子炉容器104とを備えており、これらの全てが閉鎖容器101内に含まれている。炉心105は、減速型の炉心を備えており、金属、グラファイト、炭素−炭素系複合材、又は幾つかの他の適切な物質によって作られている。内部に炭素をほとんど含まない炉心は、近高速中性子又は熱外中性子スペクトルを有している。内部にかなりの量の炭素を含んでいる炉心は、近熱中性子スペクトルを有している。ブランケット塩プール102は、炉心105を取り囲んでおり且つ該炉心中を循環している。
【0025】
以下において更に詳細に説明するように、炉心105は、ブランケット塩及び流体燃料塩が相互に混ざり合うことなくその中を流れる各々のチャネルを備えている。一組の延長管107が、炉心105内のチャネルから燃料塩プレナム内を伸長していて、ブランケット塩が該プール102から流れ出てこれらの延長管107内を通って炉心105内の各々のチャネル内へ流れ込むようになされている。これと逆に、原子炉容器104もまた、別の組の延長管109を備えており、燃料塩がその中を流れる燃料塩プレナムは、プール102に対して閉じられたままである。従って、ブランケット塩は燃料塩と混ざり合わない。幾つかの方法においては、燃料塩は、プルトニウム及びマイナーアクチニド(Pu−239燃焼器の場合)又はウラン(U−233若しくはUー235の燃焼器の場合)又はこれらの何らかの組み合わせを搬送する。
【0026】
ブランケット塩を燃料塩から隔離して保持することに加えて、炉心105とその周囲のプール102とを組み合わせることによって、燃料塩内での核分裂反応による熱がブランケット塩に伝えられることが可能になる。このようにして、ブランケット塩は、増殖材と冷却材との両方としての二重の機能を果たす。
【0027】
図2に示されている特別の構造においては、燃料塩プレナム106−1,106−2(集合的に、燃料塩プレナム106と称される)は、原子炉容器104の頂部及び底部に配置されている。燃料塩プレナム106は、燃料を、減速材、例えば金属、グラファイト、炭素−炭素系複合材、又はその他の何らかの適当な材料によって作られた炉心105のチャネル内へ分配したり、該チャネルから収集したりする。新しい燃料のための冷却材と増殖材との両方として機能するブランケット塩は、上方の燃料塩プレナム106−2を通されている一組の延長管107を介してプール102から炉心105の他のチャネル内へ流れ込む。延長管107の数は、図2に示されている延長管107の数よりも多くても少なくても良いことを注記しておく。すなわち、原子炉100の用途に応じて如何なる適当な数の延長管107をも採用することができる。
【0028】
ブランケット塩は、それ自体のブランケット塩プレナム108内に集められる。ブランケット塩プレナム108は、この溶融塩を多数の二次熱交換器110へ分配する。4つの二次熱交換器110が示されているけれども、他の如何なる適当な数の熱交換器を採用しても良い。二次熱交換器110は、熱を、入口パイプ111及び出口パイプ113を介して、発電に関連するタービンに送る。代替的に又は付加的に、二次熱交換器110は、熱を、パイプ111及び113を介して、熱を使用して種々の材料を処理するプラントへと送る。
【0029】
二次的な熱交換の後に、ブランケット塩は、パイプ115の適当な組を介してプール102の頂部へ戻る。ポンプは、燃料塩を、一組のパイプ117を介してプール102の外側に配置されている一対の中間ボウル112内へ流入させ且つ一組のパイプ127を介して中間ボウルの対112から流出させる。2つの中間ボウル112が示されているけれども、中間ボウル112の数は、原子炉100の使用方法に応じて変えても良い。
【0030】
場合によっては、燃料塩は極端に熱くなるかも知れない。危害の虞を最少化するために、原子炉100の底部に一対の凍結塩プラグ114が設けられている。燃料塩が極端に熱くなると、凍結塩プラグ114が溶け且つ緊急ダンプタンクへの代替の燃料塩経路116を開かせる。2つの代替の燃料塩経路116のみが示されているけれども、採用される代替の燃料塩経路116の実際の数は変えても良い。
【0031】
ヘリウムガスの泡が一組の入口パイプ又はライン119から該装置内に通されて揮発性の核分裂生成ガスが捕獲される。揮発性の核分裂生成ガスは、中間ボウル112の上方の包囲空間から流出ヘリウムライン121によって除去される。類似したヘリウムガス型のシステムは、炉心105が浸漬されているプール102の頂部からガスを抜き取るために、入口ライン123と出口ライン125とを備えている。燃料塩はまた、一組のパイプ120を介して排出することもできる。この一組のパイプ120は、中間ボウル112の下方から処理プラントにつながっており、処理プラントにおいては、溶融した核分裂生成物が定期的に例えば1ヶ月毎に除去される。
【0032】
プール102は、図1においては矩形の平行六面体として示されているけれども、以下に説明するように他の形状も可能である。更に、完全に包囲されているプール102の面は、溶融塩による化学的攻撃に耐えることができる。幾つかの実施例においては、原子炉格納容器全体の荷重を支える面の代わりに、面に高強度の構造部材をあてがっても良い。例えば、高強度構造部材としては、中性子吸収材が埋め込まれている補強コンクリートがある。
【0033】
特に図2を参照すると、炉心105は、燃料塩回路がプール102に対して閉じられている一方で、ブランケット塩がプールに対して開かれた構造とされている。中心のグラファイト製の制御棒118は、例示目的のために半分だけ挿入されている状態で示されている。幾つかの実施例においては、制御棒が使用されないか又は2本以上の制御棒が使用される。更に、任意であるが注入可能な中性子吸収塩を含んでいるチャネルも同様に使用される。
【0034】
合金又は炭素−炭素系複合材又は何らかの他の材料によって作られた管107が、プール102からブランケット塩内へひかれている。管107は、頂部の燃料塩プレナム106−2を通され且つ前記ブランケット塩チャネルに材料を供給する。該ブランケット塩チャネルは、中実であり且つ減速材によって作られている炉心105を穴開け加工により或いは別のやり方で形成される。これらのチャネルは、ブランケット塩プレナム108内に向かって開口している。ブランケット塩プレナム108は、ブランケット塩(すなわち、冷却材及び増殖材)を、二次熱交換器110につながっている多数のパイプ125に分配する。4つの二次熱交換器110につながっている4本のパイプが示されているけれども、あらゆる適切な数のパイプを採用することができる。
【0035】
燃料塩は、一組のパイプ127を介して底部の燃料塩プレナム106−1に入り、おそらくはレイノルズ数を増す屈曲経路に沿って且つブランケット塩プレナム108内を伸長している一組の延長管109を介して炉心105内の各々のチャネル内へ入り、頂部の燃料塩プレナム106−2へと流れ込む。燃料塩は、頂部の燃料塩プレナム106−2から一組のパイプ129を通って出て行く。
【0036】
燃料塩プレナム106は任意のものであることを注記しておく。その代わりとして、燃料塩チャネルは、燃料塩中間ボウル112に直に結合させることができる。炉心105は、幾つかの実施例においては一体のシリンダとして示されているけれども、炉心105は、モジュール型のブロックによって構成しても良い。炉心105がモジュール型のブロックによって作られている場合に、燃料塩プレナム106が設けられている場合には、該燃料塩プレナム106は、別個のブロックから個々に又は完全なブロックの組から集合的に又はこれらを組み合わせた方法で、燃料塩を供給したり抜き取ったりする。
【0037】
放射線損傷又は外部歪みによって炉心105内に亀裂が生じる場合がある。亀裂が生じた場合には、作動状態での圧力は、ブランケット塩が予め燃料塩が占めていた体積内に常に押し込まれるように調製される。このように調製することによって、炉心105内の漏れにより流出する電圧サージの発生が阻止される。
【0038】
多くの他の安全/保全構造は、炉心105とプール102との組み合わせに固有のものである。搬送塩のための多くの可能な選択肢とは独立して且つ該システムがプルトニウム/アクチニド燃焼のため使用されるかU−233/U−235燃焼のために使用されるかに関係なく、安全性構造/保全性構造の非排他的な一連のものが続く。
【0039】
ブランケット塩の大きな貯蔵容器は、例えば地震又は妨害行為のような事象によって燃料塩を炉心105からプール102内へ流出させたときに、燃料塩を希釈して未臨界状態にする。プール102の塩材料に対する中性子“反射材”及び“減速材”の役割を果たすものは、原子炉100に電力を供給するために必要とされる核分裂物質の臨界質量及び臨界残量を著しく減少させる。体積が十分大きい増殖された(フッ化物又は塩化物の形態の)U−233の溶解により、Uー233又は前駆物質であるPa−233の抽出が1年より遙かに短い単位の期間で試みられる場合の非現実性が現実化される。
【0040】
補強コンクリート又は中性子吸収元素を含浸させたその他の頑丈なビル用材料の形態の機械的構造は、適当な合金又は炭素系化合物によって作られた非構造的なプール面を補強し且つプール102内の大きな体積の腐食性溶融塩を閉じ込める。浸漬されている炉心105が(バラストが添加されていない限り)外見上は浮き上がる高密度の液状媒体は、適正に設計されている原子炉容器104及びそれに関連するパイプにかかる重力荷重及び熱応力を減少させる可能性を提示する。
【0041】
熱容量が大きい熱貯蔵器は、炉心105の異常な温度変動を緩和することができ且つ緊急事態によってグリッドからの電力が遮断されたときにバックアップ電力を発生することができる。吸収材は、炉心105からプール102内へ流れ出す中性子のほとんどがプールの壁に当り且つこれを越えるのを阻止して、ブランケット塩内の新しい燃料の増殖率を改良すると共に低レベルの構造的廃棄物の生成を最少化する。
【0042】
核分裂中性子の熱化を促進する炉心環境は、他の設計よりも核分裂のための臨界質量及び臨界残量を著しく少なくさせ且つ受動的な原子炉の安全性を付加する。二流体型MSRの炉心内に存在するU−233に対するTh−232の高い比率は、一液MSRと比較して、(Th−232による中性子捕獲をU−233に対して高める)ドップラーによる断面積の広がりによる共鳴安定性を、受動的な安定性機構としてより効率良くする。更に、該炉心環境は、出力密度及び炉心105内のグラファイト(存在する場合)に衝撃を与える中性子の平均熱エネルギを低下させて放射線による損傷に対する寿命を長くする。上記の構造並びに以下に記載の構造においては、溶融塩に触れる材料は、典型的にはハステロイN又は炭素/炭素系複合材又は溶融フッ化物塩若しくは塩化物塩による化学的腐食に耐える何らかの材料である。
【0043】
図3a及び3bを参照すると、本発明によるもう一つの別の二流体型溶融塩原子炉200(原子炉200)が示されている。原子炉200は、台202上に載置された原子炉容器201を備えている。原子炉容器200は、包囲体207内に含まれているプール203内に浸漬されている。台202は、四面体(又は、その他の三次元形状)の底部を備えていて、多孔質のフロアーマット205内へとつながっている一組のパイプ204を介してプールの底部へ供給されるヘリウムの泡が該底部に溜まるのを回避している。原子炉200はブランケット塩のプールを使用しており、原子炉容器は該プールに対して開口しており、燃料塩は該プールに対して閉じられていて2つの塩の区分けが簡素化されている。
【0044】
溶融塩による腐食に対して耐久性のあるタイルが、分厚い補強されたコンクリート製の壁、床、及び天井のための面を提供していて、プールを包囲し且つ該プールを一組の中間ボウル206及び一対の熱交換器208から隔離している。中間ボウル206の各々の本体206−2内を伸長している細長いシャフトを備えているプロペラのための一組の駆動装置206−1は、燃料塩を原子炉で循環させる。明確化のために、原子炉容器201とプール内の関連する配管とを示すために、プールの前面は図面から省かれているが、該プールは、別の場合には、放射性ガス及び放射線が逃げ出すのを防止するためにシールされる。この墓石状の構造は、原子力事故に対する閉じ込め層を付加している。
【0045】
任意のグラファイト製の制御棒が原子炉支持構造209のアーム内へ下方から挿入されており、一方、停止制御棒はスクラムの際に上方から落下せしめられる。停止制御棒の駆動装置はプールの上方のボックス内に収納されており、該ボックスは、支持構造209の一部分であり且つ原子炉容器を抑制する目的のためにも機能する。別の場合には、該原子炉容器はプール203内で浮揚性である。凍結塩プラグは、通常は、中間ボウル206の底部から出て前方の燃料塩プレナム内へとつながっている一組のパイプの各々を介して原子炉容器内へつながっている燃料塩の下向きの通路を遮断している。モジュール状に組み付けられて臨界を達成している炉心の各区分に対して4つの中間ボウル206が示されているが、この数は、所望の出力レベル及びその他の考慮すべき点に応じてより少なくすることも多くすることもできる。燃料塩が熱くなり過ぎ且つ冷蔵されているプラグを溶かす場合には、燃料塩は緊急保持タンク内へ排出される。左手側部に設けられているプールに対するドアは、必要な場合に、原子炉ヘのアクセス及び原子炉容器の交換を可能にする。
【0046】
原子炉容器201の底部に設けられている一組のプレナム210は、一組みの4本のパイプ212から燃料塩を集め且つ該燃料塩を燃料塩とブランケット塩とを混ざり合わせることなくグラファイト製の炉心250内の垂直な燃料塩チャネルへ分配する。燃料塩は、炉心250内の屈曲経路内を通過するときに加熱され、加熱された燃料塩は、原子炉容器の頂部に設けられているプレナム213から出て一組のパイプ214内を循環して4つの中間ボウル206へ戻る。燃料塩はまた、中間ボウル206の下方から処理プラントにつながっている一組のパイプ218を介して排出され、処理プラントにおいて、溶解された核分裂生成物が毎月除去される。原子炉を安全な作動温度を保って中間ボウルの頂部にある少量のヘリウムガスを移動させるために、核分裂物質が必要に応じて追加される。
【0047】
気体状の核分裂生成物(例えば、Xe−135)の燃料塩を取り除くために、高圧ヘリウムガスが、一組のパイプ220を介して中間ボウル206の底部に入り、原子炉200内で泡になり、低圧下で中間ボウル206の頂部において一組のパイプ222を通って出て行き、ガス処理ユニットヘ入り、そこで、放射性元素が貯蔵のために瓶詰めされる。出口ライン224の同様のヘリウムガス系のシステムは、原子炉容器201が浸漬されているプールの頂部からガスを追い出す。
【0048】
特に図3bを参照すると、原子炉200の背後の二次熱交換器の対208が更に詳しく示されている。二次熱交換器の各々には、例えば非放射性第三塩のような流体を循環させるための4つの入口パイプ234と4つの出口パイプ236とが設けられている。従って、図3bの左手に示されている二次熱交換器208のためのパイプ234及び236は左手方向へ続いており、図3bの右手位置に示されている第二熱交換器208のためのパイプは右手方向ヘと続いている。熱交換器208の背面に取り付けられている一組の4つのモーター240は、プール塩を原子炉容器201を介して引き出し、熱交換器208は、該熱交換器208と二次熱交換された後に、戻りつつあるブランケット塩を一組みのパイプ237を介してプールの頂部ヘと進める。同じく、パイプ及びモーターの数は単なる例示のためのものである。
【0049】
低温のプール塩は、炉心250内の水平チャネルを介してブランケット塩として炉心250内へ引き込まれる。プール内では、熱対流によってブランケット塩が混合される。ブランケット塩は、容器内の燃料塩から熱を受け取り、後方プレナム254(図4参照)内に集められた後、一組の16本のパイプによって二次熱交換器208内へ分配され、二次熱交換器208は、熱出力を第三塩に伝える。循環している第三塩は、入口パイプ234を介して二次熱交換器208内へ入り、パイプ236を通って出て行って作動ガス又は流体を加熱し、該加熱された作動ガス又は流体は、タービンを駆動して構造内で発電する。パイプの数(16個の入口パイプと出口パイプ)と熱交換器の数とは、同じく例示のために選択されたものであり、これらの数は、種々の出力要件及び用途に応じて変えることができる。
【0050】
原子炉200(並びに原子炉100)内では、原子炉からの中性子放射はプール塩内のTh−232をU−233へ変換させる。プール塩は、U−232、U−233、U−234、U−235をUFとして取り出すために規則的な時間間隔で弗素化される。他の化学的プロセス又は物理的プロセスを、増殖されたウランの抽出のために代用することができる。増殖されたU−233の中性子誘導核分裂によって、プールの上方に少量の気体が生成される。原子炉200の場合には、入口パイプ242と出口パイプ224とが、放射性の蒸気であるこの気体を追い出すためにヘリウムのラインを提供している。
【0051】
図4を参照すると、原子炉容器201が更に詳細に示されている。炉心250内のダクト又はチャネルは、一組の長穴252から入るブランケット塩を、原子炉容器201の前方から原子炉容器の後方に設けられているプレナム254まで搬送する。原子炉容器201の底部に設けられているプレナム210は、炉心250内の一組の上向きのダクト又はチャネル257に燃料塩を供給し、プレナム210に隣接している背板258は、燃料塩を炉心250内の一組の下向きのダクト又はチャネル259から炉心内の別の組の上向きのダクト又はチャネル261へ導き、背板258に隣接している別の背板260は、燃料塩を炉心250内の別の組の下向きのダクト又はチャネル263から炉心内の別の組の上向きのダクト又はチャネル265へ導く。プレナム210は、燃料塩パネルの積層体全体の第一の燃料塩ダクトに対して開口しており且つ大きな内径のパイプが前方から入るのに十分な厚みを有している。背板258及び260は、結合チャネルを除いて中実である。
【0052】
相補形の頂部プレナム213(図3a)は、燃料塩を、上向きのダクト又はチャネル257の組から下向きのダクトまたはチャネル259の組へと導き、中央に設けられたプレナム213に隣接している頂部背板は、燃料塩を、上向きのダクト又はチャネル261の組から下向きのダクト又はチャネル263の組へ導き、原子炉容器201の背面近くの更に別の頂部背板は、燃料塩を、上向きのダクト又はチャネルの組265から頂部に設けられているパイプへと導く。本明細書の別の場所に記載されているように、ダクトまたはチャネルとプレナムとの特別な数は例示目的のためのものであり、特別な用途のために他の数のダクトまたはチャネルとプレナムとを採用しても良い。
【0053】
図5aは、緊急ダンプタンクのモジュール300の頂面図であり、該モジュールは、上記した特別の実施例における原子炉において採用することができる。ダンプタンクは、該装置内の燃料塩の全てを保持するのに十分な数のモジュール300を備えている。入口プレナムは、モジュール300の頂部に設けられている。燃料塩は一組みのダクト302内に存在しており、冷却空気は水平チャネル304内を流れる。
【0054】
図5bはモジュール300の底面図である。最も下方の層は、(交差しているチャネルの数は5個より多くても少なくても良いけれども)5つの交差しているチャネルを備えており、これらのチャネルは燃料塩用ダクト302の底部同士を結合して、燃料塩がダンプタンク内で共通の液面高さまで沈降するようにさせている。チャネル状装置の下方にはプレートがあり、該プレートの下方には交差しているチャネル内及びダクト302の底部の塩を冷却するために流動空気を含んでいる別の包囲空間がある。
【0055】
幾つかの実施例においては、モジュール300を備えているダンプタンクは、空気冷却によって燃料塩内の放射性核分裂生成物から崩壊熱を取り出す。空気は同時にあらゆる場所に存在する物質なので、その全能力が余剰であるファンを駆動する緊急用の電源が利用可能である限り、投げ入れられた燃料塩は過熱することがない。ダンプタンクに対しても原子炉容器201及び二次熱交換器208の場合と同じ交差チャネルの原理が採用されて、高温の物質(垂直チャネル内で静止している燃料塩)からダンプタンク内の冷却材(互いに隣接している水平チャネル内を流れている空気)へ熱が伝えられる。燃料塩は静止しているので、装置内に全ての燃料塩を保持するのに十分なチャネルが存在し、各チャネルは、熱伝導によって容器を過熱させることなく燃料塩の体積内で発生される崩壊熱を取り出すのに十分な狭い幅を有している。ファンは、燃料塩が溶融状態に保たれて過熱も過冷却もされないように可変速度で作動し、このことによって、緊急状態が終了したときに燃料塩が原子炉に戻されるのが容易になる。ダンプタンクの幾何学的構造及び強い減速器を備えていないことにより、燃料塩はダンプタンク内で極めて未臨界状態である。
【0056】
全ての緊急冷却装置が言わば故意の妨害行為によって故障すると言う起こりそうも無い事態においては、装置は十分に低いピーク出力で作動し、その結果、ドーム及びその内部を約400℃の最大許容可能な温度まで加熱するのに必要とされる時間経過が考慮に入れられた後に、随伴する崩壊熱(最大でピーク出力の約6.5%)が二重シェルのドームの外面からの黒体熱輻射によって外部へ放出される。前記の最大許容温度より低い温度では、補強コンクリートは、1年後に元の強度の約90%を回復する。これらの算定基準は装置全体を本質的に安全にし、すなわち、故意の妨害行為の想定範囲内の事故又は作用が極めて大規模な量の放射能の周囲への拡散につながることはない。
【0057】
プールの大きさは、原子炉の作動出力に対して、Xe−135及びその他の希な核分裂ガスを除去するためにヘリウムの泡から離れて行われるブランケット塩の化学的処理及び増殖されたU−233を回収するための毎年行われる弗素化がプラントの予想寿命(約60年)の間に決してなされる必要がないような構造とすることができる。特に、該プールは、プロトアクチニウム−233すなわちTh−233による中性子捕獲によって生じるTh−233の即時ベータ崩壊生成物が該プール内でU−233ヘと崩壊する前に別の中性子を捕獲する可能性(平均で約1%未満)を低下させるのに十分な希釈濃度で出て行かせるのに十分な大きさである。ウランの抽出前の約1年間に亘ってブランケット塩を中性子照射に曝すことによって、十分なレベルのU−232の副生産が保証される。U−232は、その崩壊系列におけるガンマ線放射体であり且つ燃料リサイクルにおける核拡散に対する強い抑制を付与する。従って、二流体溶融塩原子炉におけるこれらの基準は、(例えば、核分裂生成物を除去するために毎月行われる)燃料塩の別個の化学的処理、及び(例えば、増殖されたウランを抽出するために毎年に行なわれる)ブランケット塩の化学的処理のための核拡散防止方法を提供する。このプロセスにおいては、1より大きい増殖率及び千年周期の継続的な原子核エネルギの発生を達成するための戦略がなされる。
【0058】
特別な実施例においては、原子炉容器201は、炭素−炭素系複合材によって作られ、該原子炉容器201は、およそ0.5cm×45cm×240cmの概略内寸の140個の燃料塩用のチャネルと、およそ0.7cm×45.2cm×240cmの概略内寸の280個のブランケット塩用のチャネルと備えている。この実施例においては、燃料としてUー233を含んでいる燃料塩(約2.5%のモル濃度)が約1.45m/秒の平均速度でそのチャネル内を圧送され、Th−232を(22%モル濃度で)含んでいるブランケット塩が約2.22m/秒の平均速度でそのチャネル内を圧送されて、約400MWtの熱作動出力が達成される。原子炉容器を作るために使用されている炭素−炭素系複合材の熱特性に応じた原子炉容器内の最終的な温度は、ほぼ以下の表によって与えられる。この場合には、燃料及びブランケットのための搬送塩として共晶NaF−BeFが使用されている。
【表1】

【0059】
チャネル内の圧力は、乱流溶融塩をそれらのチャネル内で駆動するのに必要とされる平均圧力勾配を考慮に入れた後に静水圧平衡すなわち地球の重力場に対する平衡によって付与されるものである。

【0060】
上の式において、fは摩擦係数であり、ρは溶融塩の密度であり、vはチャネル内での溶融塩の平均速度であり、Dは、円形パイプを基準にしたときの矩形断面を有しているチャネルの等価直径である。長辺aと短辺bとを有する矩形の場合に、Dは下の形式によって2%以内の精度で与えられる。

式中、α及びDは、各々、アスペクト比と水力直径であり、

b=0.5cm、a=45cmの場合に、D=0.6693cm≡D(燃料塩用のチャネルの等価直径)である。b=0.7cm、a=45.2cmの場合に、D=0.9384cm≡D(ブランケット塩用のチャネルの等価直径)である。
摩擦係数fは、流れのレイノルズ数から実験的に得られる。

式中、μは溶融塩の剪断粘度である。使用されているfとReとの間の(対数補間による)相関関係は、次の表によって要約される。
【表2】

【0061】
原子炉容器の天井の上方に載置されているプール塩からの十分な圧力ヘッドが存在していて、ブランケット塩の圧力がどの位置でも隣接の燃焼塩の圧力よりも高くされている。この状態により、原子炉容器内に漏れが生じると、ブランケット塩は燃料塩チャネル内へ押し込まれ、燃料塩を原子炉から移動させて核分裂反応を停止させる。反対の事象、すなわち燃料塩がブランケット用チャネル内に押し込まれることは、危険な超臨界的状態につながる。自動的に未臨界状態を得るために地球の重力場によって生じる静圧ヘッドを使用する方法は、上記した原子炉100及び200内の受動的な安全機構の別の例である。
【0062】
パイプ及びダクト内の乱流による熱移動は、実験的に判定することができる。基本的な数量は、チャネルの中心にある流体(溶融塩)からそれを取り巻いている材料の壁へとエネルギを伝える熱伝導に対する(強制的な)乱流による対流の効率を測定するヌセルト数である。ヌセルト数Nuは、流れのレイノルズ数Reと流体のプラントル数Prとに関係する。

式中、cは一定圧力Pでの流体の比熱容量であり、Kはその熱伝導率である。我々が使用するNu、Re、及びPr間の実験的な相関は次式の関係を有する(1998年Rohsenowらによる表5.11参照)。

式中、fは以前にReに関して与えられた摩擦ファクタである。ヌセルト数がわかると、流体(溶融塩)とその周囲の壁との平均温度差は次式によって計算することができる。

式中、pは、チャネルの全体積がVである場合における、問題となっている流体の全てのチャネル内で伝送されるトータルの出力であり、nhcwは、各チャネル内の熱搬送壁の有効な数である。例えば、ピーク出力において作動しつつあるときの燃料塩の場合には、p=400MWt、V=140(0.005m)(0.45m)(2.4m)、及びnhcw=2である。なぜならば、燃料塩によって発生される熱は、燃料用のチャネルの各々を周囲のブランケット塩用のチャネルにつなぎ合わせている2つの壁へと運ばれるからである。一方、ブランケット塩用のチャネルは、これらのチャネルに隣接しているただ一つの燃料塩用のチャネルを備えており、従って、“作用ファクタ”により、この数値1に対して若干の補正が存在する点を除いて、それらについてのnhcwは1である(1988年Rohsenowらによる表5.28を参照のこと)。適切な溶融塩混合物に対するρ、c、μ、Κの値は、標準データベースにおける温度のTの関数として見出すことができる。
【0063】
最後に、熱は、燃料塩用のチャネルの境界壁からブランケット塩用のチャネルへと、炭素−炭素(C/C)複合材内の熱伝導によって運ばれる。C/C複合材内の温度勾配は、次のフ−リェの法則を適用されることによって付与される。

式中、N=140は燃料塩用のチャネルの数であり、a=0.45m及びc=2.4mは燃料塩用のチャネルとブランケット塩用のチャネルとの間の面の有効寸法であり、KeffはC/C複合材の有効熱伝導率である。C/C複合材の材料特性は、温度の関数として公知なものではなく、原子炉容器、熱交換器、並びにその他の構成要素の製造のための初期基準であるC/C複合繊維を作るために使用されるカーボンファイバ及びカーボンマトリックスの特性に依存する。コスト効率の良い組み合わせは、マトリックスとしてコールタールピッチに結合されたP30カーボンファイバを使用している(2000年のPonsletらによる)。本計算の場合に、地球軌道1宇宙船内のラジエータ部分の測定から推定される実験法則の適合度は次式によって与えられる。

【0064】
二次熱交換器に適用される場合に原子炉容器について行なわれるものと類似の計算によって、第三塩が概略のモル比46.5%:11.5%:42%の(天然の)LiF−NaF−KFとなるように選択される場合に、温度について次表に示す推定がなされる。
【表3】

【0065】
上記した原子炉において生じる反応の例として、U−233燃料を燃焼させる原子炉の炉心内に臨界質量が僅かに存在するときに生じる連鎖反応を表す臨界平衡方程式は次式の通りである。

【0066】
上の式において、n233、n232、及びnは、各々、炉心内のU−233、Th−232、及びその他の全ての原子核種(燃料塩、炭素−炭素系複合材、核分裂生成物等を伴う

する平均核分裂の中性子捕獲断面積であり、D≒2.4mは、立方体状炉心の側面に関連する長さであり、Υは、炉心からプールへの平均伝達ファクタである。量νは、U233の核分裂毎に放出される中性子の補正された数であり、この数は、未処理平均値2.49ではなく、ウランの他の同位元素による寄生捕獲後のおよそ2.29に等しく、アクチニドは、Th−232及びU−233の中性子照射の副生成物として不可避的に形成されるものの原因となる。
【0067】
平均断面積は、束(フラックス)によって重み付けされた平均値として計算される。F(χ)を、エネルギεを有する中性子の無次元分布関数であると仮定し、この場合、エネルギεは、(2/3倍の)熱エネルギkTとの比による無次元形態で測定されたものである。

式中、kはボルツマン定数であり、Tは周囲の減速媒体の温度である。F(χ)は次式による中性子数密度に従って正規化されている。

【0068】
次いで、無次元の中性子束は次式による数として付与される。

上記の数は、分布関数が、熱値より大きいエネルギを有する長い列をなした(熱外)中性子を有している場合に2/√π=1.128より大きい(核共鳴を考慮しないで計算された例についての図6を参照のこと)。無次元中性子分布関数について、エネルギ依存断面積σ(ε)の平均値は次式による定義で与えられる。

【0069】

計算される。
【0070】
図6は、核共鳴がU−233を燃焼させる原子炉に対して無視され且つTh−232からの同じものに対して増殖するときの中性子分布関数の例であり、xF(χ)が対数基準のχについて直線基準でプロットされている。
【0071】
プール塩内の原子核との弾性的な衝突によって中性子は炉心内へ部分的に“反射”して戻されるので、伝達ファクタは1よりも適当に小さくなる。大きなプールについての拡散近似においては、次式が導かれる。

式中、プール内の原子核種の平均吸収断面積は、

に等しく、iについての合計はプール内の全て種類の原子核種を含んでいる。σの下付き数字Rは、次式で表される伝達手段として定義される“ロスランド”平均断面積を指している。

【0072】
共晶NaF−BeF内に22%モル濃度のTh−232を含むプール塩においては、Be−9,F−19,Na−23,及びTh−232さえも、それらの弾性散乱断面積は中性子捕獲断面積と比較して大きいので、T=0.188は1よりも適度に小さい。従って、プール塩の存在によって、連鎖反応を受けるために炉心内で必要とされる燃料の臨界質量のかなりの低減をもたらされる。冷却材の事故による損失が存在する場合、すなわちブランケット塩が何らかの予期されない理由によりプールから排出されることとなった場合には、2/√3=1.155に近い値までΥを増大させることによって、最終的な形態が未臨界状態とされ、すなわち、原子炉はオペレータの介入がない場合でさえ自動的に停止する。
【0073】
炉心内で連鎖反応を受けるのに必要とされないU−233の核分裂毎に付与される平均中性子過剰量(νc−1)=1.29は、3つのプロセス、すなわちプールへの流出、炉心内でのTh−232からU−233への壊変、及びTh−232及びU−233以外の炉心内の原子核による寄生捕獲によって分けられる。これらの3つのプロセスは、次式に示す無次元比率で起こる。

【0074】
全体の増殖ファクタが3つの個々の項目の合計が(νc−1)=1.29となるようにすることを必要とする場合に、どのくらいの量の中性子がプールに流出し且つどのくらいの量のU−233がU−233の核分裂毎に炉心内のTh−232から作られるかを計算することができる。プールが十分に大きく作られている場合には、プールに入るほとんど中性子の各々が、外側プール壁によって吸収されるのではなくプール内で捕獲され、従って、プール内の状態に対する比率

は、プールに入る中性子が如何にして分けられてTh−232からU−233へ壊変されるか、又は寄生捕獲において消費されるかを示す。次いで、炉心内プール内で形成されるU−233の数を合計することによって増殖比率がもたらされる。付加的な中性子をU−233へ崩壊する前に捕獲する安定状態にあるPa−233の数を考慮に入れ且つ排ガスであるヘリウム泡立て装置によるXe−135の不完全な除去を考慮に入れるために、若干の補正がなされる。後者の考慮は、これが極めて正しく推定できる前に実験データを必要とするが、燃料塩及びブランケット塩の質量の0.5%を占めるヘリウムの泡はXe−135の寄生捕獲を増殖率に対する作用を0.5%未満に維持することができると考えられている(1970年、Scott及びEatherlyによる)。
【0075】
U−233燃焼器/Th−232増殖器に対して最終的に得られる増殖率は約1.07である。この値は、燃料塩に対するキャリアとして共晶NaF−BeFの代わりに共晶LiF−BeF(少量の同位元素Liが0.005%レベルまで除去されている)が使用されている場合には、幾分改良される。一方、反応容器用として使用されている炭素−炭素系複合材内にホウ素のような汚染物質が存在する場合には、これらは、理論的な増殖率に食い込む。汚染物質が最大許容可能な燃料濃度での連鎖反応さえも阻止するほど機能しない限り、反応炉の作動によって該汚染物質は迅速に焼失され、中性子捕獲のためのそれらの大きな断面積によって、汚染物質は比較的良性な核種に変換される(例えば10Bプラス中性子はLiプラスアルファを付与する)。
【0076】
使用済みのLWR燃料からのPu−239が使用されるときに、少量のアクチニドが連続して生成されることは、増殖しつつあるTh−232からU−233ヘのPu−239の壊変ファクタはそれほど良好ではないことを意味する。0.92の壊変ファクタは恐らく正当に予測することができる程度の大きさであることが計算によって示されている。壊変率の正確な値は、これが消費された燃料が抽出される光−水反応炉の特性に依存すると共に消費された燃料がMSRアクチニド燃焼器内で燃焼されるように再処理される前にどの程度長く貯蔵されるかに依存する限り、正確に突き止めることは難しい。これにもかかわらず、この変換率は十分に高く、二流体溶融塩反応炉の構築が世界的規模での早期開発状態に置かれてる場合には、Th−232/U−233燃料サイクルヘの完全な移行が2050年より前になすことができると考えられる。
【0077】
乱流液体を基本とする燃料の利点は、種々の供給源(ほとんどがLWRである)からの供給原料の不均質な混合物が自動的に混合されて、ホットスポット又は過度に大きな局部的中性子束を生じることなく燃焼する均一な燃料とされる点である。従来の反応炉を超えるMSRsの更に別の優位性をもたらす中実形態で製造されなければならない燃料の場合には、このようなホットスポットを防止することは遙かに難しい。
【0078】
以下の参考文献は、これに言及することにより、それらの全体が本明細書に参考として組み入れられている。
【0079】
MacPherson,H.G.による1985年版のThe Molten Adventure, Nuclear Science and Engineering, 90(溶融塩計画、原子核科学、及びエンジニアリング、90、第374〜380頁)
【0080】
Matheiu, L.、Heuer, D.、Brissot, R.、Le Brun, C、Liatard, E.、Loiseaux, J. -M.、Meplan, O.、Merle-Lucotte、Nuttin, A.、Wilson, J.によるThe Thorium Molten Salt Reactor: Moving On from the MSBR, arXiv:nucl-ex/050600v1(トリウム溶融塩原子炉:MSBR, arXiv:nucl-ex/050600v1からの移行)
【0081】
Rosenthal, M. W.、Briggs, R. B.、Kasten, P. R.らによる1967年Semiannual Progress Report for Period Ending(期間終了時の半年間の進捗報告)1967年8月31日、ORNL-4191、Atomic Energy Commission (USA)(原子力委員会(米国))
【0082】
Ponslet, E.、Biehl, F.、Romero, E.らによる2000年版Carbon-Carbon Composite Closeout Frames for Space Qualified, Stable, High Thermal Conductivity Support Structures(空間検定された安定した高熱伝導指示構造のための炭素−炭素系複合材閉鎖フレーム)、Cytec Corp. Report 102021-0001
【0083】
Rohsenow, W.M.、Hartnett, J. P.、及びCho, Y. I.(編集者)らによる1998年版、Handbook of Heat Transfer(熱伝達ハンドブック)(ニューヨーク:マグローヒル)
【0084】
Scott, D.、Eatherly, W. P.らによる1970年版Graphite and Xenon Behavior and Their Influence on Molten Salt Reactor Design(溶融塩原子炉設計に対するグラファイト及びキセノンの振る舞い及び影響)、Nuclear Science and Technology, 8, 第179〜189頁
【0085】
本開示による広い教示は、種々の形態で実施することができる。従って、この開示は特定の実施例を含んでいるけれども、種々の改造が特許請求の範囲から明らかであるので、本開示の真の範囲は本開示内容に限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0086】
100 原子炉、 104 原子炉容器、
105 炉心、 106−1,106−2 燃料塩プレナム、
107 延長管、 108 ブランケット塩プレナム、
109 延長管、 110 二次熱交換器、
111 入口パイプ、 112 中間ボウル、
113 出口パイプ、 114 凍結塩プラグ、
115 パイプ、 116 代替の燃料塩経路、
117 パイプ、 118 制御棒、
119 入口ライン、 121 流出ヘリウムライン、
123 入口ライン、 125 出口ライン、
127 パイプ、 200 原子炉、
201 原子炉容器、 202 台、
203 プール、 204 パイプ、
205 フロアーマット、 206 中間ボウル、
206−1 駆動装置、 206−2 ボウル本体、
207 包囲体、 208 熱交換器、
209 原子炉支持構造、 210 プレナム、
212 パイプ、 213 プレナム、
214 パイプ、 218 パイプ、
220 パイプ、 222 パイプ、
224 出口ライン、 234 入口パイプ、
236 出口パイプ、 237 パイプ、
240 モーター、 242 入口パイプ、
250 炉心、 252 長穴、
254 プレナム、 257 上向きのダクト、
258 背板、 259 下向きのダクト、
260 背板、 261 上向きのダクト、
263 下向きのダクト、 265 上向きのダクト、
300 緊急ダンプタンクのモジュール、
302 ダクト、燃料塩用のダクト、
304 水平チャネル、
【図1】

【図2】

【図3a】

【図3b】

【図4】

【図5a】

【図5b】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の組のチャネルと第二の組のチャネルとを備えており、前記第一の組のチャネル内をブランケット塩が流れ、前記第二の組のチャネル内を燃料塩が流れる、炉心と、
前記第一の組のチャネルから前記ブランケット塩を受け取るプレナムと、を備えており、
前記ブランケット塩は前記燃料塩内の核分裂反応のための増殖材を提供し、前記燃料塩と混じり合うことなく、前記核分裂反応によって発生された熱を搬送するようになされている、ことを特徴とする原子炉容器。
【請求項2】
前記ブランケット塩が前記プレナムから出てブランケット塩のプール内へ入るようになされている、ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器。
【請求項3】
前記炉心から燃料塩を受け取り且つ受け取った燃料塩を該原子炉容器から導き出すための第一の燃料塩プレナムを更に備えている、ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器。
【請求項4】
前記燃料塩を受け取り且つ受け取った燃料塩を前記炉心内へ導き入れる第二の燃料塩プレナムを更に備えている、ことを特徴とする請求項3に記載の原子炉容器。
【請求項5】
前記炉心が、金属、グラファイト、又は炭素−炭素系複合材によって作られている、ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器。
【請求項6】
前記炉心が概ね筒形状である、ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器。
【請求項7】
前記炉心が概ね立方体形状である、ことを特徴とする請求項1に記載の原子炉容器。
【請求項8】
二流体溶融塩原子炉であり、
ブランケット塩のプールを備えている包囲体と、
該ブランケット塩のプール内に浸漬されている原子炉容器と、からなり、
該原子炉容器は、
第一の組のチャネル及び第二の組のチャネルを備えており、前記第一の組のチャネル内をブランケット塩が流れ、前記第二の組のチャネル内を燃料塩が流れる炉心と、
前記第一の組のチャネルから前記ブランケット塩を受け取るプレナムと、を備えており、
前記ブランケット塩は前記燃料塩内の核分裂反応のための増殖材を提供し、前記燃料塩と混じり合うことなく、前記核分裂反応によって発生された熱を搬送するようになされている、ことを特徴とする二流体溶融塩原子炉。
【請求項9】
前記ブランケット塩が、前記プレナムから出てブランケット塩のプール内へ入る、ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉。
【請求項10】
前記燃料塩を前記炉心から受け取り且つ受け取った燃料塩を前記原子炉容器から導き出すための第一の燃料塩プレナムを更に備えている、ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉。
【請求項11】
前記燃料塩を受け取り且つ受け取った燃料塩を前記炉心内へ導き入れる第二の燃料塩プレナムを更に備えている、ことを特徴とする請求項10に記載の原子炉。
【請求項12】
前記炉心が、金属、グラファイト、又は炭素−炭素系複合材によって作られている、ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉。
【請求項13】
前記原子炉容器に結合されている少なくとも1つの中間ボウルを更に備えており、該少なくとも1つの中間ボウルは、燃料塩を前記炉心内へ送るようになされている、ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉。
【請求項14】
少なくとも1つの二次熱交換器を更に備えており、該二次熱交換器は、前記原子炉容器から加熱されたブランケット塩を受け取り、該ブランケット塩からの熱を、流体に該流体が前記ブランケット塩と混じり合わない状態で伝え、前記ブランケット塩は、熱を前記流体に伝えることによって冷却され、該冷却されたブランケット塩を前記ブランケット塩のプールへと戻す、ことを特徴とする請求項8に記載の原子炉。
【請求項15】
前記流体が非放射性の第三の塩である、請求項14に記載の原子炉。
【請求項16】
炉心とプレナムとを備えた原子炉容器をブランケット塩のプール内に浸漬させるステップと、
前記ブランケット塩を前記炉心内を通っている第一の組のチャネル内で循環させるステップと、
前記ブランケット塩を前記プレナム内の前記第一の組のチャネルから受け取るステップと、
燃料塩を前記炉心内を通っている第二の組のチャネル内で循環させるステップと、
前記燃料塩内の核分裂反応によって発生された熱を、前記燃料塩と前記ブランケット塩とを混合させることなく、前記ブランケット塩に伝え、該ブランケット塩が核分裂反応のための増殖材を提供するようにさせるステップと、を含む方法。
【請求項17】
前記加熱されたブランケット塩を、少なくとも1つの二次熱交換器内で受け取るステップを更に含み、該少なくとも1つの二次熱交換器において、前記ブランケット塩からの熱を、前記ブランケット塩と流体とを混じり合わせることなく流体へ伝え、前記ブランケット塩が流体へ熱を伝えることによって冷却され、前記少なくとも1つの二次熱交換器は、冷却されたブランケット塩を前記ブランケット塩のプールへと戻すようになされている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記燃料塩を循環させるステップが、前記燃料塩を、少なくとも1つの中間ボウルによって、前記第二の組のチャネル内を通すステップを含んでいる、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
緊急事態の際に、保持タンクであって、該保持タンク内のモジュール型の細長いチャネルに当接されたダクトに空気を通すことにより当該保持タンクが崩壊熱に対して冷却される保持タンク内へ前記燃料塩を一気に流し込むステップと、ひとたび緊急事態が終わると、空気の流速を調整して、燃料塩がそれ自体の崩壊熱によって液体状態に維持されるようにするステップと、を更に含んでいる、ことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ブランケット塩を、炉心内を通っている第一の組のチャネル内で循環させるステップと、
ブランケット塩を、プレナム内の前記第一の組のチャネルから受け取るステップと、
燃料塩を、前記炉心内を通っている第二の組のチャネル内で循環させるステップと、
前記燃料塩内の核分裂反応によって発生された熱を、ブランケット塩と燃料塩とが混じり合わない状態で前記ブランケット塩に伝え、前記ブランケット塩が核分裂反応のための増殖材を提供するようにさせるステップと、を含むことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2012−526287(P2012−526287A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509995(P2012−509995)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/033979
【国際公開番号】WO2010/129836
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(596118493)アカデミア シニカ (33)
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Sec 2,Academia Road,Nankang,Taipei 11529 TW
【出願人】(312004710)