説明

二液混合型硬化性樹脂組成物

【課題】貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】下記樹脂組成物(I)と、下記樹脂組成物(II)とからなることを特徴とする二液混合型硬化性樹脂組成物を用いる。ここで、樹脂組成物(I)は、架橋性シリル基を分子内に有する硬化性シリコーン系樹脂(A)及び下記エポキシ樹脂(C)の硬化剤(B)を含有する樹脂組成物であり、樹脂組成物(II)は、オキシラン環を分子内に含有するエポキシ樹脂(C)、上記硬化性シリコーン系樹脂(A)の硬化剤であるジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)及びエポキシシラン化合物(E)を含有する樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性が高い二液混合型硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その硬化物の凝集力が大きく、溶剤を用いずに使用できることから、主に建築物等の比較的高い構造強度が求められる用途における接着剤、コーティング剤等として広く用いられている。しかし一方で、エポキシ樹脂は、硬化物にある程度の伸びや曲げ強度が必要とされる箇所への適用には適さず、また、引張りや剪断には強いものの、剥離に対して弱いという欠点を有している。
【0003】
そこで、このようなエポキシ樹脂の欠点を改良するために、エポキシ樹脂に架橋性シリル基含有樹脂(これらは一般に変成シリコーン樹脂と呼ばれる)を組み合わせた二液混合型硬化性樹脂組成物及び該樹脂組成物が従来知られている(例えば特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−31726号公報
【特許文献2】特許第4141198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、接着工程の短時間化、省力化が望まれており、これら二液混合型硬化性樹脂組成物からなる接着剤についても例外ではなく、速硬化性が求められている。さらに、地球環境のみならず作業者の使用環境に至るまで、環境に対する関心の高まりから化学物質の安全性に関する要求も強くなっている。有機錫化合物については、毒性の比較的高いトリブチルスズ誘導体が含まれているもの(例えばジブチルスズ化合物には副生成物としてトリブチルスズ化合物が含有される可能性がある)は、その使用について特に注意が必要となっている。
【0006】
従来、上記の二液混合型硬化性樹脂組成物においては、汎用的なメチルジメトキシ基を有するポリマーに対して、速硬化性に優れる高活性のジブチルスズ化合物が硬化触媒として用いられてきた。しかし、上述のような状況下、ジブチルスズ化合物の使用が制限されてきている。
【0007】
本発明者らは、ジブチルスズ化合物に代えて、比較的安全性が高いとされるオクチルスズ化合物を、架橋性シリル基含有樹脂の硬化触媒として使用することを検討した。ところが、従来用いられてきたジブチルスズ化合物を単純にオクチルスズ化合物に置き換えたのみでは良好な速硬化性を発現させるのは困難であった。
そこで、オクチルスズ化合物の配合量の増加や、その種類についても検討した。しかし、比較的安全性が高いとはいえどもスズ化合物の含有量が多くなることは好ましいものではなく、また貯蔵中に分離が起こるという問題点も浮かび上がってきた。
【0008】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い、特に接着剤、シーリング剤及び塗料に好適な二液混合型硬化性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、二液混合型硬化性樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂とジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩との相互作用により、貯蔵中の問題が発生することを突き止め、この問題を解決するためにエポキシシラン化合物の配合が有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は次の第1〜6の発明から構成される。
【0010】
すなわち、第1の発明は、下記樹脂組成物(I)と、下記樹脂組成物(II)とからなることを特徴とする二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。ここで、樹脂組成物(I)は、架橋性シリル基を分子内に有する硬化性シリコーン系樹脂(A)及び下記エポキシ樹脂(C)の硬化剤(B)を含有する樹脂組成物であり、樹脂組成物(II)は、オキシラン環を分子内に含有するエポキシ樹脂(C)、上記硬化性シリコーン系樹脂(A)の硬化剤であるジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)及びエポキシシラン化合物(E)を含有する樹脂組成物である。
エポキシ樹脂とジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩との相互作用の抑制のために、エポキシシラン化合物を配合することで、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0011】
第2の発明は、上記樹脂組成物(I)において、硬化性シリコーン系樹脂(A)が、架橋性シリル基として、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)単独又はアルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)とトリアルコキシシリル基を有するポリマー(a2)との混合物であることを特徴とする、第1の発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。
硬化性シリコーン系樹脂(A)として、異なる加水分解性シリル基を有するポリマーを併用することで、さらに良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0012】
第3の発明は、上記樹脂組成物(II)において、ジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)が、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩であることを特徴とする、第1又は第2の発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。
ジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩として、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩を用いることで、さらに良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0013】
第4の発明は、上記樹脂組成物(I)において、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)と、トリアルコキシシシリル基を有するポリマー(a2)の割合(質量比)が、(a1):(a2)=100:0〜50:50であることを特徴とする、第2又は第3の発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。
硬化性シリコーン系樹脂(A)として、異なる加水分解性シリル基を有するポリマーを、特定の配合範囲内で併用することで、さらに良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
第5の発明は、上記樹脂組成物(I)と上記樹脂組成物(II)を混合した際、(A)と(C)の配合割合が、(A):(C)=15:85〜95:5であり、(C)と(B)の配合割合が、(C):(B)=100:0.1〜100:300であることを特徴とする第1〜第4のいずれかの発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。(A)と(C)、(C)と(B)を特定の配合範囲内で併用することで、良好な初期硬化性を得ることが出来る。
【0015】
第6の発明は、上記樹脂組成物(II)において、上記エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、エポキシシラン化合物(E)が0.1〜15質量部であることを特徴とする、第1〜第5のいずれかの発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。
エポキシ樹脂に対するエポキシシラン化合物の配合割合が上記の範囲内であると、より貯蔵安定性に優れた二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0016】
第7の発明は、上記樹脂組成物(II)において、上記エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)が0.1〜7質量部であることを特徴とする、第3〜第6のいずれかの発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物に関するものである。
エポキシ樹脂に対するジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩の配合割合が上記の範囲内であると、より貯蔵安定性に優れ、且つ良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物が得られるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例示にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0019】
[二液混合型硬化性樹脂組成物について]
本発明の二液混合型硬化性樹脂組成物は、下記樹脂組成物(I)と、下記樹脂組成物(II)とからなるものである。ここで、樹脂組成物(I)は、架橋性シリル基を分子内に有する硬化性シリコーン系樹脂(A)及び下記エポキシ樹脂(C)の硬化剤(B)(以下、単に「硬化剤(B)」と記載することがある)を含有する樹脂組成物である。また、樹脂組成物(II)は、オキシラン環を分子内に含有するエポキシ樹脂(B)、上記硬化性シリコーン系樹脂(A)の硬化剤であるジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)及びエポキシシラン化合物(E)を含有する樹脂組成物である。エポキシ樹脂(C)とジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)との相互作用の抑制のために、エポキシシラン化合物(E)を配合することで、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0020】
樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)とを混合した時点で、樹脂組成物(I)に含有される硬化性シリコーン系樹脂(A)が、樹脂組成物(II)に含有されるジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)によって活性化され、雰囲気中の湿気によって硬化する。また、これと同時に、樹脂組成物(II)に含有されるエポキシ樹脂(C)が、樹脂組成物(I)に含有される硬化剤(B)と反応して硬化する。その結果、最終的な硬化物は、これらが相互に入り組んだ高次構造となっているものと推察される。
以下、各組成物及び構成成分について説明する。
【0021】
[硬化性シリコーン系樹脂(A)について]
本発明における硬化性シリコーン系樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される架橋性シリル基を分子内に有する硬化性シリコーン系樹脂である。本発明で使用される硬化性シリコーン系樹脂(A)は、作業性などの面から、室温で液状であることが好ましい。また、硬化性シリコーン系樹脂(A)は、所望の性能に合わせて、1種単独で使用してもよい
し2種以上併用してもよい。
−SiR3−a(R ・・・式(1)
(但し、Rは炭素数1〜20個の炭化水素基を、Rは加水分解性基を、aは1、2又は3を、それぞれ示す)
【0022】
上記架橋性シリル基は、上記一般式(1)で表されるように、珪素原子に対して炭化水素基(R1)が2〜0個結合すると共に、加水分解性基(R)が1〜3個結合しているものである。そして、この珪素原子には、後述する結合官能基を介して主鎖が結合している。該炭化水素基(R)としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基であることがより好ましく、メチル基、エチル基であることが特に好ましい。該加水分解性基(R)としては、ヒドロキシ基や、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、2−(ブトキシ)エチル基等に代表されるような炭素数1〜20の有機基、ハロゲン基やメルカプト基等の従来公知の加水分解性基を用いることができる。これらの中でも、取り扱いの容易さ、入手の容易さ等の観点から、アルコキシ基であることが好ましい。該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基であるのが好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であるのがより好ましい。
【0023】
該加水分解性基の数としては、硬化速度を高めたい場合は3個(a=3)が好ましく、密着性を高めたい場合は2個(a=2)又は1個(a=1)が好ましい。加水分解性基の数については、二液混合型硬化性樹脂組成物に求められる性能によって、適宜比率を調整すればよいが、特に、架橋性シリル基として、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)と、トリアルコキシシリル基を有するポリマー(a2)との混合物を用いると、さらに良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0024】
硬化性シリコーン系樹脂(A)の主鎖骨格としては、ポリオキシアルキレン、ビニル重合体(例えば、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等)、飽和炭化水素重合体、不飽和炭化水素重合体、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂及び変成シリコーン樹脂に一般的に用いられている主鎖骨格から選ばれる1種以上の骨格が採用される。特に、本質的にポリオキシアルキレン及び/又はポリ(メタ)アクリレートであることが、入手の容易さや硬化物の皮膜物性等の点から好ましい。ここで、「本質的に」とは、該構造が硬化性シリコーン系樹脂(A)の主鎖骨格である繰り返し単位の主要素であることを意味する。また、硬化性シリコーン系樹脂(A)の中に該構造が単独で含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0025】
硬化性シリコーン系樹脂(A)の分子量は特に制限されないが、1,000〜80,000が好ましく、1,500〜60,000がより好ましく、2,000〜40,000が特に好ましい。分子量が1,000を下回ると、架橋密度が高くなり過ぎることから得られる硬化物が脆い物性となる場合があり、分子量が80,000を上回ると、粘度が高くなり作業性が悪くなるため溶剤や希釈剤が多量に必要になるなど配合が制限される場合がある。
【0026】
硬化性シリコーン系樹脂(A)の架橋性シリル基と主鎖骨格とは、結合官能基を介して結合されている。結合官能基は主鎖骨格に対して架橋性シリル基を導入する際の化学反応によって生じるものであり、主鎖骨格と架橋性シリル基以外の化学構造部分を指す。結合官能基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基、フェニレン基、ウレタン結合、尿素結合、置換尿素結合、カーボネート基等、これらの複数及びこれら以外の化学構造を含む2価の化学結合が挙げられる。
【0027】
また、本発明では、硬化性シリコーン系樹脂(A)として、分子内に架橋性シリル基を有し、かつ、分子内(特に好ましくは結合官能基内)に特定の極性基を含有する硬化性樹脂を好適に用いることができる。ここで、特定の極性基とは、ウレタン結合基、チオウレタン結合基、尿素結合基、チオ尿素結合基、置換尿素結合基、置換チオ尿素結合基、アミド結合基、スルフィド結合基、ヒドロキシ基、第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基等の酸素原子、窒素原子、硫黄原子を含有する結合基又は官能基等を指す。このような極性基を加水分解性珪素基の近傍に導入すると、硬化性樹脂自体の硬化能が高まるため好ましい。
【0028】
特に、これらの特定極性基の中では、ウレタン結合基、チオウレタン結合基、尿素結合基、チオ尿素結合基、置換尿素結合基、置換チオ尿素結合基、アミド結合基、第一級アミノ基、第二級アミノ基及び第三級アミノ基等の含窒素極性基を有するものが好ましく、ウレタン結合基(−NHCOO−)、尿素結合基(−NHCONH−)、置換尿素結合基(−NHCONR−;R=有機基)を有するものであることが最も好ましい。硬化性樹脂自体の硬化能が高まる理由としては、硬化性樹脂の分子内に存在する特定極性基同士がドメインを形成し、その結果、硬化性樹脂の加水分解性珪素基同士のカップリング反応がさらに促進されるためであると考えられる。
【0029】
硬化性シリコーン系樹脂(A)の市販品としては、シリコーン樹脂又は変成シリコーン樹脂として多数販売されている。例えば、カネカ社製のサイリルシリーズ、カネカMSポリマーシリーズ、MAシリーズ、EPシリーズ、SAシリーズ、ORシリーズ、旭硝子社製のエクセスターシリーズ、Wacker Chemie AG製のGENIOSIL STP−E10、GENIOSIL STP−E30、エボニックデグサジャパン社製のシラン変性ポリアルファオレフィン、信越化学工業社製のKCシリーズ、KRシリーズ、X−40シリーズ、東亞合成社製のXPRシリーズ、綜研化学社製のアクトフローシリーズ等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0030】
また、分子内に極性基を含有する硬化性シリコーン系樹脂は、従来公知の方法で合成すればよい。例えば、イソシアネート基末端ポリマーにアミノ基含有アルコキシシラン化合物(あるいはメルカプト基含有アルコキシシラン化合物)を反応させる方法や、水酸基末端有機重合体にイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を反応させる方法等が知られている。より具体的には、特許第3030020号公報、特許第3343604号公報、特開2005−54174号公報、特表2004−518801号公報、特表2004−536957号公報、特表2005−501146号公報等に記載の方法で容易に合成することができる。
【0031】
[硬化剤(B)について]
本発明における、エポキシ樹脂(C)の硬化剤(B)(以下、単に「硬化剤(B)」ということがある)としては、エポキシ樹脂を硬化させ得る従来公知の化合物乃至物質を用いることができる。硬化剤(B)としては特に限定されないが、具体例を挙げれば、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、メタキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、イソホロンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、等のアミン類;3級アミン塩;ポリアミド樹脂;イミダゾール類;無水フタル酸等のカルボン酸無水物等の化合物が用いられ得る。
特に、本発明の硬化性樹脂組成物は、常温で使用されるため、硬化反応の速い脂肪族アミン系硬化剤を用いることが好ましい。また、活性アミンがブロックされていて、空気中の水分で活性化するケチミン等の潜在型硬化剤を用いてもよい。これらアミン類は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0032】
[エポキシ樹脂(C)について]
本発明における、エポキシ樹脂(C)としては、オキシラン環を分子内に含有する従来公知の化合物乃至物質を用いることができる。エポキシ樹脂(C)としては特に限定されないが、具体例を挙げれば、従来公知のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;テトラフェニルグリシジルエーテルエタン等の多官能性グリシジルエーテル樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等があり、種々のグレードのエポキシ樹脂が市販されているため、これらを利用することができる。作業性の点からは、分子量が300〜500程度のものが好ましく、常温で液状のビスフェノールA型液状樹脂が特に好ましい。これらのエポキシ樹脂は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0033】
[ジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)について]
本発明における、ジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)(以下、単に「硬化触媒(D)」と記載することがある)は、硬化性シリコーン系樹脂(A)を活性化し、硬化性シリコーン系樹脂(A)が有する架橋性シリル基の加水分解反応を促進し、結果として雰囲気中の湿気によって硬化性シリコーン系樹脂(A)を硬化させる役割を有するものである。
(D)以外の錫触媒を使用すると、初期硬化性が出ない、あるいは、エポキシシラン化合物(E)と併用しても、貯蔵安定性の改善効果が不十分であり、分離する傾向がある。
【0034】
硬化触媒(D)のなかでは、良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができることから、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩が好ましい。具体例としては、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸モノオクチルエステル)塩、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸モノ2−エチルヘキシルエステル)塩等が挙げられる。
【0035】
[エポキシシラン化合物(E)について]
本発明における、エポキシシラン化合物(E)としては、分子内にエポキシ基と架橋性シリル基とを有する化合物である。系内にエポキシ樹脂(B)とジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)とが共存した場合、これらの相互作用により、貯蔵中ににごり(分離)が発生する現象が見られる。しかし、この系にさらにエポキシシラン化合物(E)を配合することで、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
エポキシシラン化合物(E)としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、従来公知の化合物乃至物質を用いることができる。また、エポキシシラン化合物(E)は市販されており、これを用いることができる。市販品としては、KBM403(信越化学工業社製商品名)、KBE402(信越化学工業社製商品名)、Z−6044(東レ・ダウコーニング社製商品名)等が挙げられる。これらのエポキシシランは単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。上記エポキシシランのうち特に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0037】
[その他成分について]
本発明の二液混合型硬化性樹脂組成物は、上記(A)〜(E)の各成分を有効成分とするものであるが、本発明の効果を損なわない範囲内において、従来公知の任意の化合物乃至物質を配合することができる。例えば、有機金属系化合物、三フッ化ホウ素系化合物等の硬化促進剤、親水性又は疎水性シリカ系粉体、炭酸カルシウム粉体、クレイ粉体、アク
リル系等の有機系粉体、有機系・無機系のバルーン等の充填材、フェノール樹脂等の粘着付与剤、アマイドワックス等の揺変剤、脱水剤、希釈剤、可塑剤、難燃剤、機能性オリゴマー、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、3−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジ−4−イルオキシ)プロピルトリエトキシシラン等の老化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物等の紫外線吸収剤、顔料、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、エポキシシラン化合物(E)以外のシランカップリング剤、乾性油等を配合することができる。シランカップリング剤としては、特に分子内にアミノ基と架橋性シリル基とを有する、いわゆるアミノシラン化合物が好ましい。
【0038】
上記可塑剤としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル類、アジピン酸ジオクチル、セバチン酸ジブチル等の脂肪族カルボン酸エステル等を用いることができる。
上記溶剤としては、上記二液混合型硬化性樹脂組成物と相溶性がよく水分含有量が500ppm以下であればいずれを用いても良い。
上記脱水剤としては、生石灰、オルト珪酸エステル、無水硫酸ナトリウム、ゼオライト、メチルシリケート、エチルシリケート、各種アルキルアルコキシシラン、各種ビニルアルコキシシラン等が挙げられる。
【0039】
[配合量について]
本発明における各構成成分の配合割合について説明する。
上述したとおり、上記樹脂組成物(I)中においては、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)と、トリアルコキシシリル基を有するポリマー(a2)との混合物を用いると、さらに良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができることから好ましいが、上記アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)と、トリアルコキシシシリル基を有するポリマー(a2)を併用する場合の配合割合(質量比)は、(a1):(a2)=100:0〜50:50であることが好ましく、90:10〜60:40であることが特に好ましい。(a1):(a2)=50:50よりも(a2)が多くなると、接着性が不足する等の不具合が生じることがある。
【0040】
上述したとおり、上記樹脂組成物(II)中においては、エポキシシラン化合物(E)を配合することで、系内でエポキシ樹脂(B)とジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)とが相互作用により、貯蔵中ににごりが発生したり、増粘したりするのを抑制できるが、エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、エポキシシラン化合物(E)が0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜4質量部であることがより好ましく、0.5〜3質量部であることが特に好ましい。エポキシシラン化合物(E)の配合量が0.1質量部未満であると、貯蔵安定性向上の効果が発揮されない等の不具合が生じることがあり、5質量部を超えると二液混合型硬化性樹脂組成物の特性が発現しない等の不具合が生じることがある。
【0041】
上述したとおり、上記樹脂組成物(II)中において、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩を用いると、より貯蔵安定性に優れ、且つ良好な初期硬化性と、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物を得ることができるが、上記エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)が0.1〜7質量部であるのが好ましく、0.2〜6質量部であるのがより好ましく、0.5〜5質量部であるのが特に好ましい。ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)の配合量が7質量部を超えると、二液混合型硬化性樹脂組成物の全量に対するスズ量が1%を超えることがあり好ましくない。また、配合量が0.1質量部未満であると、架橋性シリル基末端ポリマー(A)の活性化が不十分となり、硬化不良等の不具合が生じることがある。
【0042】
上記混合物(I)中の(A)と上記混合物(II)中の(C)の配合割合が、(A):(C)=15:85〜95:5であることが好ましく、20:80〜90:10であることがより好ましく、30:70〜80:20であることが特に好ましい。(A):(C)=15:85よりも(A)の割合が少なくなると、硬く脆くなる点で不都合であり、(A):(C)=95:5よりも(A)の割合が多くなると強靭性が不足することから不都合である。
【0043】
上記混合物(II)中の(C)と上記混合物(I)中の(B)の配合割合が、(C):(B)=100:0.1〜100:300であることが好ましく、100:0.5〜100:150であることがより好ましく、100:1〜100:100であることが特に好ましい。(C):(B)=100:0.1よりも(B)の割合が少なくなると、エポキシ樹脂の硬化が不十分となることから不都合であり、(C):(B)=100:300よりも(B)の割合が多くなると(B)成分はブリードして被着材量を汚染する点で不都合である。
【0044】
本発明における二液混合型硬化性樹脂組成物は、従来の二液混合型硬化性樹脂組成物が適用されていた全ての用途に用いることができる。特に、接着剤として好適に用いられる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0046】
〔各原料の準備〕
原料として以下のものを準備した。
<硬化性シリコーン系樹脂(A)>
・SAT200:カネカ社製、分子末端にメチルジメトキシシリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(a1)
・SAX580:カネカ社製、分子末端にトリメトキシシリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(a2)
<硬化剤(B)>
・アンカミンK−54:エアープロダクト社製、トリスジメチルアミノメチルフェノール<エポキシ樹脂(C)>
・エピコートE828:ジャパンエポキシレジン社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂<硬化触媒(D)>
・NS−51:日東化成社製、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸モノオクチルエステル)塩
・U−830:日東化成社製、ジオクチルスズジバーサテート
・U−780:日東化成社製、1,1,3,3−テトラオクチル−1,3−ビス(トリエトキシシロキシ)−ジスタノキサン
・No.918:ジブチルスズオキサイド
<エポキシシラン化合物(E)>
・KBM403:信越化学工業社製、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・Z−6044:東レ・ダウコーニング社製、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
・KBE403:信越化学工業社製、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
・KBE402:信越化学工業社製、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン・KBM303:信越化学工業社製、2−(3,4−エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン
【0047】
〔実施例1〜9及び比較例1〜4、参考例〕
<樹脂組成物(I)の調製>
表1に示す割合で、硬化性シリコーン系樹脂(A)、硬化剤(B)をプラネタリーミキサーに仕込み、減圧下撹拌混合した後、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランを添加して撹拌混合し、樹脂組成物(I)を得た。
【0048】
<樹脂組成物(II)の調製>
表1に示す割合で、エポキシ樹脂(C)、硬化触媒(D)及びエポキシシラン化合物(E)をプラネタリーミキサーに仕込み、減圧下撹拌混合し、樹脂組成物(II)を得た。
【0049】
〔評価方法と評価基準〕
上記実施例1〜9及び比較例1〜4、参考例で得られた二液混合型硬化性樹脂組成物について、貯蔵安定性、初期硬化性及び安全性を評価した。表1にその結果を併せて示す。・貯蔵安定性の評価
貯蔵安定性は、樹脂組成物(II)をガラスの密閉容器入れ、50℃のオーブンに4週間投入した。
評価基準は、50℃オーブン28日(4週間)投入後、容器中の樹脂組成物(II)に分離があるかないかを観察した。分離がなかった場合は○、分離があった場合は×した。
・初期硬化性の評価
初期硬化性は、樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)とを質量比1:1で混合し、指先で軽く触れて試料が指に付かなくなるまでの時間(タックフリータイム)を測定した。
評価基準は、60分未満の場合初期硬化性良好とし、60分以上の場合初期硬化性は良好でないとした。
・安全性の評価
安全性は、錫濃度とトリブチル錫の有無で判定した。
評価基準は、錫濃度が樹脂組成物(II)中1%未満の場合○、1%以上の場合、またトリブチル錫含有の場合×とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1に示す通り、本発明に係る二液混合型硬化性樹脂組成物(実施例1〜10)は、貯蔵安定性に優れ、且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも、安全性の高い二液混合型硬化性樹脂組成物となっている。これに対して、本発明の構成要素を欠く二液混合型硬化性樹脂組成物(比較例1〜4)は、50℃オーブンに4週間投入後、分離が発生、タックフリータイムが長い、錫濃度が1%以上といった不具合が見られる。
なお、参考例は、従来の技術を使用したもので貯蔵安定性やタックフリーは良好であるが、トリブチルスズが含まれていることから、環境面、安全性の点で問題を有するものである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明における二液混合型硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れ且つ湿気により良好な初期硬化性を示しながらも安全性が高く、有用である。また、本発明の二液混合型硬化性樹脂組成物は、特に接着剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記樹脂組成物(I)と、下記樹脂組成物(II)とからなることを特徴とする二液混合型硬化性樹脂組成物。
ここで、樹脂組成物(I)は、架橋性シリル基を分子内に有する硬化性シリコーン系樹脂(A)及び下記エポキシ樹脂(C)の硬化剤(B)を含有する樹脂組成物であり、
樹脂組成物(II)は、エポキシ樹脂(C)、上記硬化性シリコーン系樹脂(A)の硬化剤であるジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)及びエポキシシラン化合物(E)を含有する樹脂組成物である。
【請求項2】
上記樹脂組成物(I)において、硬化性シリコーン系樹脂(A)が、架橋性シリル基として、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)単独又はアルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)とトリアルコキシシリル基を有するポリマー(a2)との混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
上記樹脂組成物(II)において、ジアルキルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)が、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
上記樹脂組成物(I)において、アルキルジアルコキシシリル基を有するポリマー(a1)と、トリアルコキシシシリル基を有するポリマー(a2)の割合(質量比)が、(a1):(a2)=100:0〜50:50であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
上記樹脂組成物(I)と上記樹脂組成物(II)の全体において(A)と(C)の配合割合が、(A):(C)=15:85〜95:5であり、(C)と(B)の配合割合が、(C):(B)=100:0.1〜100:300であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
上記樹脂組成物(II)において、上記エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、エポキシシラン化合物(E)が0.1〜5質量部であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
上記樹脂組成物(II)において、上記エポキシ樹脂(C)100質量部に対して、ジオクチルスズ(ビスマレイン酸アルキルエステル)塩(D)が0.1〜7質量部であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の二液混合型硬化性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−178871(P2011−178871A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43678(P2010−43678)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】