説明

二相反応媒体におけるパラ−ヒドロキシケイ皮酸の生体触媒的脱炭酸によってパラ−ヒドロキシスチレンを製造するための方法

パラ−ヒドロキシケイ皮酸からパラ−ヒドロキシスチレンを製造するための生体触媒的方法について記載する。本方法では、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を使用し、二相反応媒体においてパラ−ヒドロキシケイ皮酸の脱炭酸を触媒して、パラ−ヒドロキシスチレンを製造させ、該パラ−ヒドロキシスチレンを二相反応媒体の有機相中に抽出する。本方法では、酵素供給源の阻害産物への暴露が減少するため、高収量のパラ−ヒドロキシスチレンが生じる。産物は、抽出剤から容易に回収されるか、または回収前に、抽出剤において直接化学的に誘導体化してもよい。

【発明の詳細な説明】
【関連出願との関係】
【0001】
本出願は、2003年4月14日に出願された米国仮出願第60/462,827号明細書および2004年2月17日に出願された米国仮出願第60/ 号明細書の利益を主張し、その内容全体は参照として本明細書に援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明は、分子生物学および微生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は、二相反応媒体において、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を使用して、パラ−ヒドロキシケイ皮酸からパラ−ヒドロキシスチレンを製造させるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
パラ−ヒドロキシスチレン(pHS)は、広範な産業アプリケーションにおいて潜在的有用性を有する芳香族化合物である。例えば、pHSおよびそのアセチル化誘導体、パラ−アセトキシスチレン(pAS)は、樹脂の生成のためのモノマー、エラストマー、粘着剤、被覆剤、自動車用仕上げ剤、インクおよび電子材料、ならびにエラストマーおよび樹脂処方における添加物としてのアプリケーションを有する。
【0004】
pHSの化学合成のための多くの方法が公知である。例えば、pHSは、5工程プロセスにおいてエチルベンゼンから(特許文献1)または2工程プロセスにおいてパラ−ヒドロキシアセトフェノールから(特許文献2)製造することができる。これらの方法によって、pHSを作製することも可能であるが、それらは、典型的に、強力な酸性または塩基性反応条件、高い反応温度を要し、大量の所望されない副産物を生じる。さらに、化学的方法は、高価な出発物質を要し、pHSを製造するためのコストを引き上げる。pHSの広範な用途にもかかわらず、安価な材料供給源は開発されていない。
【0005】
グルコースなどの簡単な炭素源からのpHSの製造のための生物学的プロセスは、ベン−バサット(Ben−Bassat)ら(特許文献3)によって記載されている。該開示では、チロシンアンモニアリアーゼ(TAL)活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの遺伝子かまたはフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの遺伝子のいずれか一方と組み合わせた、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ(PDC)活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの遺伝子を発現する組換え宿主細胞を使用して、pHSを製造する。PAL活性は、P−450/P−450レダクターゼ[ケイ皮酸−4−ヒドロキシラーゼ(C4H)およびP−450レダクターゼ]系の存在下で、フェニルアラニンをパラ−ヒドロキシケイ皮酸(pHCA)に変換する。高いTAL活性を有する酵素は、中間工程をなんら伴うことなく、チロシンを直接pHCAに変換する。次いで、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ(PDC)は、pHCAをpHSに変換する。しかし、pHSの生物学的製造によって遭遇する問題は、最終産物の阻害であって、製造収量が制限される。具体的には、産物の濃度が上昇すると、微生物による産物の製造率は減少する。さらに、発酵培地において所定の臨界濃度に到達すると、産物によってPDC酵素および微生物が不活化される。
【0006】
pHSによる最終産物阻害を軽減するための1つのアプローチは、二相抽出発酵を使用することであり、ここで、同時係属中の特許文献4においてベン−バサット(Ben−Bassat)らにより記載のように、pHSが決して阻害または臨界濃度に到達することがないように、組換え製造宿主によって製造されるpHSは、発酵中に非混和性有機相に抽出される。該開示に記載の方法は、pHSの改善された収量を生じた。しかし、商業的アプリケーションでは、さらに高い収量が求められる。
【0007】
哲士(Tetsuji)ら(特許文献5)は、クレブシェラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)から単離されたPDCを使用して、pHCAから、ビニル位に重水素原子を有するpHSを製造するための方法を記載している。デカルボキシラーゼ反応は、重水素を含む水を含有する水性緩衝液中で行われる。特許文献6においてアゴ(Ago)らは、フェルラ酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を使用し、水性緩衝液において、フェルラ酸(4−ヒドロキシ−3−メトキシケイ皮酸)から4−ビニルグアイアコール(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレン)、pHSの誘導体を製造するための方法について記載している。これらの両方の方法における製造収量は、酵素の産物阻害によって制限される。さらに、産物は、基質、生体触媒、および緩衝液の塩から単離しなければならないため、産物の回収は複雑になる。
【0008】
二相反応媒体においてpHCAからpHSを製造させるための生体触媒的方法は、pHCAおよびpHSの製造を切り離し、従って、独立して、両方のプロセスの最適化を確実にする。生体触媒における、水相および水非混和性有機相よりなる二相反応媒体の使用は、動力学および熱力学的利点の両方を提供することができる(非特許文献1)。有機溶媒を適切に選択すれば、産物は水相から継続的に取り出され、従って、産物阻害が減少し、より高い製造収量が生じる。さらに、産物を有機相から容易に単離できるため、産物の回収は顕著に簡便化される。非特許文献2は、二相生体触媒プロセスを使用して、フェルラ酸デカルボキシラーゼ活性を有するバチルス・プミルス(Bacillus pumilus)の細胞を休止させることによる、フェルラ酸の脱炭酸を介する4−ビニルグアイアコール(4−ヒドロキシ−3−メトキシスチレン)、pHSの誘導体の製造について記載している。クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、エチルエーテル、石油エーテル、シクロヘキサン、およびC5〜C8アルカンを含むいくらかの溶媒が評価された。ヘキサンは好適な溶媒として選択された。しかし、二相反応媒体においてPDC活性を有する酵素供給源を使用するpHCAからのpHSの製造については、該開示には記載されていない。
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,503,271号明細書
【特許文献2】米国特許第5,523,378号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2004/0018600号明細書
【特許文献4】米国特許出願第60/462827号明細書
【特許文献5】特開平11−187870号公報
【特許文献6】米国特許第5,955,137号明細書
【非特許文献1】ブルース(Bruce)ら、Biotechnol.Prog.7:116−124(1991)
【非特許文献2】リー(Lee)ら、Enzyme Microb.Technol.23:261−266(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、高収量でpHSを製造させるための方法の必要性が存在する。生体触媒の活性が保存されるpHSを製造させるための生体触媒方法の必要性もまた存在する。商業的に実行可能であるべき方法のために、複数の反応サイクルにわたって生体触媒を再利用することが可能であることも所望される。
【0011】
本出願人らは、二相反応媒体においてパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を使用し、pHCAのpHSへの生体触媒変換を使用して、pHSを高収量で製造させるための方法を発見することによって、上記の問題を解決した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、二相反応媒体におけるパラ−ヒドロキシケイ皮酸の生体触媒的脱炭酸によって、パラ−ヒドロキシスチレンを製造させるための方法を提供する。1つの実施態様では、本発明は、
a)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなりパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を準備し;
b)水相、およびトルエン、デカン酸メチル、2−ウンデカノン、ジクロロメタン、ヘキサン、2−デカノール、4−デカノール、3−デカノン、4−デカノン、1−ノナノール、2−ノナノール、2−ヘプタノールおよびそれらの混合物よりなる群から選択される水非混和性有機溶媒である抽出剤を含んでなる二相反応媒体において、該酵素供給源と、パラ−ヒドロキシケイ皮酸とを接触させて、パラ−ヒドロキシスチレンを形成させ、該パラ−ヒドロキシスチレンを二相反応媒体の抽出剤中に抽出し;
c)水相から抽出剤を分離し;そして
d)場合により、抽出剤からパラ−ヒドロキシスチレンを回収する
ことを含んでなるパラ−ヒドロキシスチレンの製造方法を提供する。
【0013】
別の実施態様では、本発明は、
a)パラ−ヒドロキシケイ皮酸を製造する製造宿主を準備し;
b)発酵培地中で製造宿主を増殖させ、ここで、製造宿主は、発酵培地中にパラ−ヒドロキシケイ皮酸を製造し;
c)発酵培地、およびトルエン、デカン酸メチル、2−ウンデカノン、ジクロロメタン、ヘキサン、2−デカノール、4−デカノール、3−デカノン、4−デカノン、1−ノナノール、2−ノナノール、2−ヘプタノール、およびそれらの混合物よりなる群から選択される水非混和性有機溶媒である抽出剤を含んでなる二相反応媒体において、工程(b)由来の発酵培地と、配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなりパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源とを接触させて、パラ−ヒドロキシスチレンを形成させ、該パラ−ヒドロキシスチレンを二相反応媒体の抽出剤中に抽出し;
d)発酵培地から抽出剤を分離し;そして
e)場合により、抽出剤からパラ−ヒドロキシスチレンを回収する
ことを含んでなるパラ−ヒドロキシスチレンの製造方法を提供する。
【0014】
配列の説明
本発明は、本出願の一部をなす下記の詳細な説明および添付の配列の説明からさらに完全に理解することができる。
【0015】
以下の配列は、米国特許法施行規則第1.821〜1.825条(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を含む特許出願の要件−配列規則(Requirements for Patent Applications Containing Nucleotide Sequences and/or Amino Acid Sequence Disclosures − the Sequence Rules)」)に従い、そして世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998)およびEPOおよびPCTの配列表の要件(規則5.2および49.5(aの2)、ならびに実施細則(Administrative Instructions)第208号および付属書C)に一致する。ヌクレオチドおよびアミノ酸配列データに使用した記号および形式は、米国特許法施行規則第1.822に記載の規則に従う。
【0016】
配列番号1は、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)由来のパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ遺伝子(pdc1)のヌクレオチド配列である。
【0017】
配列番号2は、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)由来のパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ遺伝子(PDC1)のアミノ酸配列である。
【0018】
配列番号3は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ遺伝子(pdc2)のヌクレオチド配列である。
【0019】
配列番号4は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ遺伝子(PDC2)のアミノ酸配列である。
【0020】
配列番号5〜8は、実施例1に記載のように、pdc遺伝子を増幅するために使用されるプライマーのヌクレオチド配列である。
【0021】
配列番号9〜12は、実施例6に記載のように、大腸菌(E.coli)株WS158を構築するために使用されるプライマーのヌクレオチド配列である。
【0022】
配列番号13および14は、実施例6に記載のように、大腸菌(E.coli)株WS158の首尾よい構築物を確認するために使用されるプライマーのヌクレオチド配列である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、二相反応媒体において、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ(PDC)活性を有する酵素供給源を使用する、パラ−ヒドロキシケイ皮酸(pHCA)からのパラ−ヒドロキシスチレン(pHS)の製造のための方法を提供する。二反応媒体の有機相に抽出される酵素供給源の阻害産物への暴露の減少のため、この方法は、pHSの高い製造収量を生じる。さらに、方法は、酵素活性の優れた保存および多くの反応サイクルのための酵素供給源の再利用を提供する。pHSおよびそのアセチル化誘導体、パラ−アセトキシスチレンは、樹脂の生成のためのモノマー、エラストマー、粘着剤、被覆剤、自動車用仕上げ剤、インクおよび電子材料、ならびにエラストマーおよび樹脂処方における添加物としてのアプリケーションを有するため、該方法が使用される。
【0024】
以下の定義が本明細書において使用され、特許請求の範囲および明細書の解釈のために照会されるべきである。
【0025】
「CA」は、ケイ皮酸に使用される略語である。
【0026】
「pHCA」は、パラ−ヒドロキシケイ皮酸塩またはp−クマル酸としても公知であるパラ−ヒドロキシケイ皮酸に使用される略語である。
【0027】
「pHS」は、4−ビニルフェノールとしても公知であるパラ−ヒドロキシスチレンに使用する略語である。
【0028】
「PDC」は、pHCAデカルボキシラーゼに使用される略語である。
【0029】
「PDC1」は、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)由来のpHCAデカルボキシラーゼに使用される略語である。
【0030】
「PDC2」は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のpHCAデカルボキシラーゼに使用される略語である。
【0031】
「pdc」は、PDC活性を伴う酵素をコードする遺伝子に使用される略語である。
【0032】
「pdc1」は、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)由来のpdc遺伝子の略語である。
【0033】
「pdc2」は、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のpdc遺伝子の略語である。
【0034】
「TAL」は、チロシンアンモニアリアーゼに使用される略語である。
【0035】
「PAL」は、フェニルアラニンアンモニアリアーゼに使用される略語である。
【0036】
「PAH」は、フェニルアラニンヒドロキシラーゼに使用される略語である。
【0037】
用語「TAL活性」は、チロシンからpHCAへの直接変換を触媒するタンパク質の能力を指す。
【0038】
用語「PAL活性」は、フェニルアラニンからケイ皮酸への変換を触媒するタンパク質の能力を指す。
【0039】
「pal」は、PAL活性を伴う酵素をコードする遺伝子を表す。
【0040】
「tal」は、TAL活性を伴う酵素をコードする遺伝子を表す。
【0041】
用語「PAL/TAL活性」または「PAL/TAL酵素」は、PALおよびTAL活性の両方を含有するタンパク質を指す。そのようなタンパク質は、酵素基質として、チロシンおよびフェニルアラニンの両方に少なくともいくつかの特異性を有する。
【0042】
用語「P−450/P−450レダクターゼ系」は、ケイ皮酸のpHCAへの触媒的変換を担うタンパク質系を指す。P−450/P−450レダクターゼ系は、ケイ皮酸4−ヒドロキシラーゼ機能を実施する当該分野において既知のいくらかの酵素または酵素系の1つである。本明細書において使用する用語「ケイ皮酸4−ヒドロキシラーゼ」は、ケイ皮酸のpHCAへの変換を生じる一般的な酵素活性を指し、ここで、用語「P−450/P−450レダクターゼ系」は、ケイ皮酸4−ヒドロキシラーゼ活性を有する特定のバイナリータンパク質を指す。
【0043】
用語「二相反応媒体」は、水相および適切な量の抽出剤を含んでなる媒体を指す。
【0044】
用語「水相」は、水性緩衝液、非緩衝化水溶液、発酵培地、または発酵上清を含むがこれらに限定されない水溶液を指す。
【0045】
用語「抽出剤」は、pHSを溶解することができる溶媒を指す。本発明の典型的な抽出剤は水非混和性有機溶媒である。
【0046】
用語「有機溶媒」は、二反応媒体において抽出剤としての役割を果たす有機溶媒を指す。
【0047】
用語「増殖培地」および「発酵培地」は本明細書において交換可能に使用され、微生物を培養するための栄養物を含有する水溶液を指す。増殖培地は、さらに、微生物、微生物によって製造される産物、代謝中間体、ならびに塩、ビタミン、アミノ酸、補因子、および抗生物質などの他の成分を含有することができる。
【0048】
用語「発酵上清」は、発酵が完了した後の発酵培地を指し、ここで、製造宿主および不溶生産物は、遠心分離またはろ過を含むがこれらに限定されない既知の方法によって取り出される。
【0049】
用語「分配係数」とは、産物の有機溶媒への抽出のための平衡定数、具体的には、K=[産物]有機相/[産物]水相を指す。
【0050】
溶媒の「logP値」は、標準的なオクタノール:水混合物における溶媒の分配係数の対数を指す。logP値は、溶媒の極性の量的測定値を提供する。
【0051】
用語「発酵可能な炭素基質」は、本発明の宿主生物体により代謝されることが可能な炭素源、特に、単糖、オリゴ糖、多糖、および単炭素基質および/またはこれらの混合物よりなる群から選択される炭素源を指す。
【0052】
「核酸」は、糖、ホスフェートおよびプリンもしくはピリミジンのいずれか一方を含有するモノマー(ヌクレオチド)から構成される一本鎖または二本鎖であり得る分子を指す。細菌、下等真核生物、および高等動物および植物では、「デオキシリボ核酸」(DNA)は遺伝子材料を指す一方、「リボ核酸」(RNA)はDNAからタンパク質への情報の翻訳に関与する。
【0053】
所定の部位での化学的に等価なアミノ酸の生成を生じるが、コードされるタンパク質の機能的目的には影響を及ぼさない遺伝子の変更は一般的であることが、当該分野において周知であるため、本発明は、特定の例示的配列以上のことを包含する。本発明の目的のために、置換が、以下の5つのグループのうちの1つの交換として規定される:
1.小さな脂肪族、非極性または僅かに極性の残基:Ala、Ser、Thr(Pro、Gly);
2.極性、負に荷電した残基およびそれらのアミド:Asp、Asn、Glu、Gln;
3.極性、正に荷電した残基:His、Arg、Lys;
4.大きな脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、Val(Cys);ならびに
5.大きな芳香族残基:Phe、Tyr、Trp。
【0054】
従って、疎水性アミノ酸であるアミノ酸アラニンのコドンを、(グリシンのような)別の疎水性のより小さな残基、または(バリン、ロイシンもしくはイソロイシンのような)より疎水性の大きな残基をコードするコドンにより置換してよい。同様に、(グルタミン酸の代わりにアスパラギン酸のような)1個の負に荷電した残基の別のものへ、または(アルギニンの代わりにリジンのような)1個の正に荷電した残基の別のものへの置換をもたらす変化もまた、機能的に等価な産物を生じさせることを期待することも可能である。多くの場合、タンパク質のN末端およびC末端部分の変更をもたらすヌクレオチド変化もまた、該タンパク質の活性を変更しないことが期待される。
【0055】
「遺伝子」は、特定のタンパク質を発現する核酸フラグメントを指す。本明細書において使用する遺伝子は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)に調節配列を含んでもまたは含んでいなくてもよい。「生来の遺伝子」は、それ自体の調節配列と共に天然に見出されるような遺伝子を指す。「キメラ遺伝子」は、天然には一緒に見出されない調節およびコード配列を含んでなる、生来の遺伝子ではないあらゆる遺伝子を指す。従って、キメラ遺伝子は、異なる起源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ起源から由来するが、しかし天然に見出されるものとは異なる様式で配列される調節配列およびコード配列を含んでなることができる。「内因性遺伝子」は、生物体のゲノム内の天然の位置にある生来の遺伝子を指す。「外来」遺伝子は、宿主生物体内に通常は見出されない遺伝子を指すが、しかし、これは遺伝子導入により宿主生物体内に導入される。外来遺伝子は、非生来の生物体内に挿入された生来の遺伝子、またはキメラ遺伝子を含んでなることができる。「導入遺伝子」は、形質転換手順によりゲノム中に導入されている遺伝子である。
【0056】
「コード配列」は特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「適切な調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、内、または下流(3’非コード配列)に位置し、転写、RNAプロセシングもしくは安定、または関連するコード配列の翻訳に影響するヌクレオチド配列を指す。調節配列は、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、ポリアデニル化認識配列、RNAプロセシング部位、エフェクター結合部位およびステム−ループ構造を含んでもよい。
【0057】
「プロモーター」は、コード配列または機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。一般に、コード配列はプロモーター配列に対し3’側に配置される。プロモーターはそっくりそのまま生来の遺伝子に由来してよいか、または、天然に見出される多様なプロモーター由来の多様なエレメントから構成されてよいか、または合成DNAセグメントさえ含んでなることができる。多様なプロモーターは、多様な組織もしくは細胞型において、または発生の多様な段階で、あるいは多様な環境もしくは生理学的条件に応答して、遺伝子の発現を指令することができることが、当業者に理解される。大部分の時間で大部分の細胞型において遺伝子を発現させるプロモーターは普遍的に「構成プロモーター」と称される。ほとんどの場合、調節配列の正確な境界が完全に規定されていないため、多様な長さのDNAフラグメントが同一のプロモーター活性を有することができることがさらに認識される。
【0058】
用語「操作可能に連結している」は、一方の機能が他方により影響を受けるような単一核酸フラグメント上の核酸配列の対合(association)を指す。例えば、プロモーターがコード配列の発現を影響することができる(即ち、コード配列がプロモーターの転写制御下にある)場合、プロモーターはコード配列に操作可能に連結されている。コード配列はセンスまたはアンチセンスの配向で調節配列に操作可能に連結することができる。
【0059】
「形質転換」は、遺伝的に安定に遺伝する核酸フラグメントの宿主生物体のゲノムへの変換を指す。形質転換された核酸フラグメントを含有する宿主生物体は「トランスジェニック」または「組換え」または「形質転換された」生物体と称される。
【0060】
「野生型宿主細胞」または「生来の宿主細胞」は、生物体の本来または生来のバージョンである宿主生物体、即ち、形質転換されていない生物体を指す。
【0061】
用語「酵素供給源」は、精製されたまたは部分的に精製された酵素自体、酵素活性を有する野生型または組換え宿主細胞、当該分野において公知の手段によってそのような細胞から得られる無細胞抽出物、および酵素活性を有する処置された野生型または組換え宿主細胞を含むがこれらに限定されないPDC活性を有する供給源を指す。
【0062】
用語「処置された野生型宿主細胞」および「処置された組換え宿主細胞」は、それぞれ、野生型宿主および組換え宿主細胞を指し、洗浄、凍結乾燥、アセトンによる処置、または臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、およびトリトンX−100(TritonX−100)などの界面活性剤;トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒;ならびに抗生物質による浸透化処理を含むがこれらに限定されない手段によって処置されている。
【0063】
用語「生体触媒」は、特定の反応を触媒するために必要とされる活性を有する酵素供給源を指す。本発明では、用語「生体触媒」は、pHCAデカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を指す。
【0064】
用語「生体触媒反応」は、酵素供給源によって触媒される反応を指す。本発明では、用語「生体触媒反応」は、pHCAデカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源によって触媒されるpHSを生じるpHCAの脱炭酸を指す。
【0065】
本明細書において使用する用語「発現」とは、遺伝子産物の配列をコードする遺伝子から遺伝子産物への転写および翻訳を意味することが意図される。発現では、遺伝子産物の配列をコードするDNA鎖が、最初に、しばしばメッセンジャーRNAである相補RNAに転写され、次いで、遺伝子産物がタンパク質である場合、転写されたメッセンジャーRNAは上記の遺伝子産物に翻訳される。
【0066】
「過剰発現株」または「過剰製造株」は、野生株または非形質転換微生物における製造のレベルを超えるレベルで遺伝子産物を製造する組換え微生物を指す。
【0067】
本明細書において使用する用語「製造宿主」は、本発明の方法における使用のためにpHCAを製造する能力を有する微生物を指す。本明細書において規定するように、製造宿主は、野生型であってもまたは組換え宿主細胞であってもよい。
【0068】
用語「プラスミド」、「ベクター」および「カセット」は、しばしば細胞の中心的代謝の部分ではない遺伝子を担持する染色体外エレメントを指し、通常は、環状二本鎖DNAフラグメントの形態である。そのようなエレメントは、任意の起源から誘導される一本鎖または二本鎖DNAあるいはRNAの自律的複製配列、ゲノム組込み配列、ファージもしくはヌクレオチド配列で、線状あるいは環状であってもよく、ここで、プロモーターフラグメントおよび適切な3’非翻訳配列を伴う選択された遺伝子産物に対するDNA配列を細胞に導入することが可能である独特な構築物に、多くのヌクレオチド配列が接続または再結合されている。「形質転換カセット」は、外来遺伝子を含有し、該外来遺伝子に加えてエレメントを有し、特定の宿主細胞の形質転換を容易にする特異的ベクターを指す。「発現カセット」は、外来遺伝子を含有し、外来遺伝子に加えて、外来宿主における該遺伝子の発現の増強を可能にするエレメントを有する特異的ベクターを指す。
【0069】
「PCR」または「ポリメラーゼ連鎖反応」は、特定のDNAセグメントの複製のために使用される技術である(米国特許第4,683,195号明細書および同第4,800,159号明細書)。
【0070】
本明細書において与えられたすべての範囲は、範囲の終端、およびまた中間の範囲にあるすべての要点をも含むものとする。
【0071】
本明細書において使用した標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は当該分野において周知であり、サンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュE.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989)(以後、「マニアティス(Maniatis)」);ならびにシルハビー,T.J.(Silhavy,T.J.)、ベンナン,M.L.(Bennan,M.L.)、およびエンクイスト,L.W.(Enquist,L.W.)、Experiments with Gene Fusions、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1984);ならびにグリーン・パブリッシング・アソシエーション・アンド・ウィレイ−インターサイエンス(Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience)、ニュージャージー州ホーボーケン(Hoboken,NJ)から出版されたたアウスベル,F.M.(Ausubel,F.M.)ら、Current Protocols in Molecular Biology(1987)により記載されている。
【0072】
本発明は、二相反応媒体において、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ(PDC)活性を有する酵素供給源を使用する、パラ−ヒドロキシケイ皮酸(pHCA)からパラ−ヒドロキシスチレン(pHS)を製造させるための方法を提供する。PDC酵素に対して阻害的である、製造されるpHSは、二相反応媒体の有機相に抽出され、従って、水相において極めて低い濃度を維持する。pHSは、抽出剤から容易に回収するか、または回収前に抽出剤において化学的に誘導体化することができる。
【0073】
pHCAの供給源
本発明の方法のための出発材料、即ち、pHCA基質は、多くの方法によって得ることができる。例えば、トランス型が支配的であるpHCAは、アルドリッチ(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))およびTCIアメリカ(TCI America)(オレゴン州ポートランド(Portland,OR))などの会社から市販されている。さらに、pHCAは、当該分野において公知の任意の方法を使用して、化学合成によって製造することができる。例えば、pHCAは、米国特許第4,316,995号明細書におけるピタット(Pittet)ら、または米国特許第5,990,336号明細書におけるアレクサンドラトス(Alexandratos)によって記載のように、マロン酸とパラ−ヒドロキシベンズアルデヒドとを反応させることによって、得ることができる。あるいは、植物からpHCAを単離してもよい(R.ベンリーフ(R.Benrief)ら、Phytochemistry 47:825−832(1998)および米国特許出願公開第2002/0187207号明細書)。1つの実施態様では、pHCAの供給源は、製造宿主を使用する生物生産由来である。別の実施態様では、製造宿主は、標準的なDNA技術を使用して製造することができる組換え宿主細胞である。これらの組換えDNA技術については、本明細書において参照として援用されているサンブルック,J.(Sambrook,J.)、フリッシュE.F.(Fritsch,E.F.)およびマニアティス,T.(Maniatis,T.)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、ニューヨーク州コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor,NY)(1989)に記載されている。
【0074】
pHCAの製造のための適切な製造宿主としては、エシェリヒア(Escherichia)、メチロジーナス(Methylosinus)、メチロモナス(Methylomonas)、シュードモナス(Pseudomonas)、ストレプトミセス(Streptomyces)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、およびロドバクター(Rhodobacter)が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施態様では、pHCAの製造のための宿主細胞は、大腸菌(Escherichia colii)およびシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)である。別の実施態様では、pHCAの製造のための宿主細胞は、フェニルアラニンまたはチロシンのいずれかを過剰製造するこれらの細菌の変異株である。以下に記載のように、pHCAの製造がチロシンに関与する経路を介して行われる場合、チロシン過剰製造株が使用される一方、pHCAがフェニルアラニンに関与する経路を介して製造される場合、フェニルアラニン過剰製造株が使用される。エシェリヒア(Escherichia)およびシュードモナス(Pseudomonas)、ならびに他の細菌のチロシン過剰製造株については、当該分野において公知である(マイチ(Maiti)ら、Antibiotic Bulletin 37:51−65(1995))。使用することができるエシェリヒア(Escherichia)チロシン過剰製造株の例は、オムニジーン・バイオプロダクツ・インク(OmniGene Bioproducts, Inc.)マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge,MA)から市販されている大腸菌(E.coli)TY1である。エシェリヒア(Escherichia)およびシュードモナス(Pseudomonas)、ならびに他の細菌のフェニルアラニン過剰製造株についても、当該分野において公知である(マイチ(Maiti)ら、上掲およびボンガーテス(Bongaertes)ら、Metabolic Engineering 3:289−300(2001))。使用することができるフェニルアラニン過剰製造株の例は大腸菌(E.coli)NST74であり、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)、バージニア州マナサス(Manassas,VA)から株ATCC番号31884として利用することができる。
【0075】
1つの実施態様では、本明細書において参照として援用される米国特許出願公開第2003/0079255号明細書におけるチィ(Qi)らによる記載のように、pHCAが製造される。該開示に従えば、pHCAは、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ(PAH)活性をコードする少なくとも1つの遺伝子およびチロシンアンモニアリアーゼ(TAL)活性をコードする少なくとも1つの遺伝子を発現するように操作された組換え微生物を使用して、製造させることができる。この形質転換された微生物は、グルコースなどの発酵可能な炭素源をフェニルアラニンに代謝し、該フェニルアラニンは、PAHによってチロシンに変換される。製造されるチロシンはTAL酵素によってpHCAに変換される。TALをプロセシングする任意の適切な酵素を、使用することができる。例えば、PALおよびTAL(PAL/TAL)活性の両方を有する酵素を使用してもよい。また、米国特許第6,368,837号明細書におけるゲイテンビー(Gatenby)らによって記載されているように、増強されたTAL活性を有するための野生型酵母PAL酵素の変異を介して製造されるTAL酵素を使用してもよい。あるいは、ブリーニグ(Breinig)ら(米国特許出願公開第2004/0023357号明細書)に記載の酵母トリコスポロン・クタネウム(Trichosporon cutaneum)由来の誘導性TAL酵素またはカイント(Kyndt)ら(FEBS Lett.512:240−244(2002))もしくはホワン(Huang)ら(同時係属中の米国特許出願第60/397820号明細書、国際公開第2004/009795号パンフレット)により記載されているような細菌性TAL酵素を使用することができる。
【0076】
別の実施態様では、パラ−ヒドロキシケイ皮酸は、本明細書において参照として援用されるゲイテンビー(Gatenby)ら、上掲によって開示される方法のいずれか1つによって製造される。例えば、酵母PAL活性をコードする遺伝子および植物P−450/P−450レダクターゼ系をコードする遺伝子を発現するように操作された組換え微生物を使用して、pHCAを製造させることができる。この形質転換された微生物は、グルコースなどの発酵可能な炭素源をフェニルアラニンに代謝し、該フェニルアラニンは、PAL酵素によってケイ皮酸(CA)に変換される。続いて、CAは、P−450/P−450レダクターゼ系の作用によってpHCAに変換される。あるいは、TAL活性をコードする遺伝子を発現する組換え微生物を使用して、pHCAを発現させてもよい。TAL酵素は、チロシンを直接pHCAに変換する。上掲に記載されるように、任意の適切なTAL酵素を使用することができる。
【0077】
pHCAの生物生産のために、使用すべき微生物を、適切な増殖培地中、発酵槽において培養する。撹拌式タンク発酵槽、エアリフト発酵槽、バブル式発酵槽、またはそれらの任意の組み合わせを含む任意の適切な発酵槽を使用することができる。微生物培養の維持および増殖のための材料および方法は、微生物学または発酵科学の当業者に周知である(例えば、ベイリー(Bailey)ら、Biochemical Engineering Fundamentals、第2版は、マグロー・ヒル(McGraw Hill)ニューヨーク(New York)1986を参照のこと)。特定の遺伝子発現のための微生物の特定の要件に依存して、適切な増殖培地、pH、温度および好気的、微好気、または嫌気的条件のための要件について、考慮しなければならない。使用する増殖培地はそれほど重要ではないが、該培地は、使用する微生物の増殖を支持し、所望される産物を製造するのに必要な酵素的経路を促進しなければならない。酵母抽出物またはペプトンなどの有機性窒素および発酵可能な炭素源を含有する複合培地;無機培地;ならびに規定培地を含むがこれらに限定されない従来の増殖培地を使用することができる。適切な発酵可能な炭素源としては、グルコースまたはフルクトースなどの単糖、ラクトースまたはスクロースなどの二糖、オリゴ糖およびデンプンまたはセルロースなどの多糖、一炭素基質ならびに/あるいはそれらの混合物が挙げられるがこれらに限定されない。適切な炭素源に加えて、増殖培地は、当業者に公知のアンモニウム塩、酵母抽出物またはペプトンなどの適切な窒素源;鉱物、塩、補因子、緩衝液および他の成分を含有してもよい(ベイリー(Bailey)ら、上掲)。
【0078】
バッチまたは流加培養発酵を使用してもよい。当該分野において周知であるバッチ発酵は、培地の組成が発酵の開始時に設定され、プロセス中に人工的に変更されることはない閉鎖系である。流加培養発酵は標準的なバッチ系のバリエーションであって、ここで、栄養物、例えば、グルコースが発酵中に漸増される。栄養物の添加の量および速度は、日常的実験によって決定することができる。例えば、発酵ブロスにおける極めて重要な栄養物の濃度を発酵中にモニターしてもよい。あるいは、pH、溶存酸素、および二酸化炭素などの排出気体の分圧などのより容易に測定される因子をモニターしてもよい。これらの測定されるパラメータから、栄養物の添加速度を決定することができる。
【0079】
PDC活性を有する酵素供給源
PDC活性を有する酵素は、クレブシェラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)(ハシドコ(Hashidoko)ら、Biosci.Biotechnol.Biochem.65:2604−2612(2001))、エルビニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)(ハシドコ(Hashidoko)ら、Biosci.Biotechnol.Biochem.57:215−219(1993))、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、およびラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)などのラクトバチルス(Lactobacillus)種(ファン・ビーク(Van Beek)ら、Appl.Environ.Microbiol.66:5322−5328(2000))、エンテロバクター(Enterobacter)、クレブシェラ(Klebsiella)およびハフニア(Hafnia)の種(リンドセイ(Lindsay)ら、J.Appl.Bact.39:181−187(1975))および枯草菌(Bacillus subtilis)(キャビン(Cavin)ら、Appl.Environ.Microbiol.64:1466−1471(1998))を含む様々な細菌において見出すことができる。1つの実施態様では、PDC酵素の供給源は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)である。別の実施態様では、PDC酵素の供給源は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する枯草菌(Bacillus subtilis)(PDC2)である。
【0080】
PDC活性を有する有用な酵素供給源としては、精製されたまたは部分的に精製された酵素自体、酵素活性を有する野生型または組換え宿主細胞、および当該分野において公知の手段によってそのような細胞から得られる無細胞抽出物が挙げられる。1つの実施態様では、PDC活性を有する野生型細胞は、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)または枯草菌(Bacillus subtilis)である。
【0081】
別の実施態様では、酵素供給源は、当該分野において公知である方法(マニアティス(Maniatis)、上掲)を使用して、PDC酵素をコードする遺伝子で適切な宿主細胞を形質転換することによって、構築することができるPDC活性を有する組換え宿主細胞である。1つの実施態様では、pdc遺伝子はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)から単離され、配列番号1として付与される。別の実施態様では、pdc遺伝子は枯草菌(Bacillus subtilis)から単離され、配列番号3として付与され、使用される。pdc遺伝子および遺伝子産物は、異種宿主細胞、特に微生物宿主の細胞において製造させてもよい。
【0082】
酵素供給源としての細菌宿主細胞
細菌の発現系および外来性タンパク質の高レベルの発現を指令する調節配列を含有する発現ベクターは、当業者に周知である。これらのいずれも、pdc遺伝子の製造のためのキメラ遺伝子を構築するために使用し得る。次いで、これらのキメラ遺伝子は、酵素の高レベルの発現を提供するために、形質転換を介して、適切な微生物に導入し得る。
【0083】
従って、例えば、適切なプロモーターの制御下でのPDC酵素をコードするキメラ遺伝子の導入が、酵素の製造の増加を実証することが期待される。生来の宿主細胞ならびに異種宿主の両方においてpdc遺伝子を発現させることが有用であろうと考えられる。本発明の遺伝子の生来の宿主への導入は、PDC酵素の現存の製造のレベルを上昇させる。さらに、pdc遺伝子はまた、非生来の宿主細菌に導入してもよい。
【0084】
適切な宿主細胞の形質転換に有用なベクターまたはカセットは、当該分野において周知である。典型的にベクターまたはカセットは、関連遺伝子の転写および翻訳を指令する配列、選択マーカー、および自己複製もしくは染色体組込みを可能にする配列を含有する。適切なベクターは、転写開始の制御を有する遺伝子の5’側領域および転写の終了を制御するDNAフラグメントの3’側領域を含んでなる。両方の制御領域とも組換え宿主細胞に相同な遺伝子に由来する場合が最も好ましいが、そのような制御領域は、製造宿主として選択される特定種に生来である遺伝子に由来する必要はないことを理解すべきである。
【0085】
所望の宿主細胞において、pdcの発現を駆動するのに有用である、開始制御領域またはプロモーターは多数あり、かつ当業者に馴染みである。事実上、この遺伝子を駆動することができるいかなるプロモーターも本発明に適し、これらは、CYC1、HIS3、GAL1、GAL10、ADH1、PGK、PHO5、GAPDH、ADC1、TRP1、URA3、LEU2、ENO、TPI(サッカロミセス(Saccharomyces)での発現に有用);AOX1(ピヒア(Pichia)での発現に有用);ならびにlac、ara、tet、trp、lP、lP、T7、tac、およびtrc(大腸菌(Escherichia.coli)での発現に有用)ならびにamy、apr、nprプロモーターならびにバチルス(Bacillus)での発現に有用な多様なファージプロモーターを含むが、これらに制限されない。
【0086】
終了制御領域もまた、好適な宿主に生来の多様な遺伝子由来であり得る。場合により、終了部位は必要ではないが、しかし、含まれている場合が最も好ましい。
【0087】
1つの実施態様では、pdc遺伝子の発現のための好適な異種宿主細胞は、菌類または細菌ファミリー内において広範に見出すことができ、広範な範囲の温度、pH値、および溶媒耐性で増殖する微生物宿主である。例えば、任意の細菌、酵母、または糸状菌は、pdc遺伝子の発現に適切な宿主であろうと考えられる。細胞の供給材料にかかわらず、転写、翻訳およびタンパク質の生合成装置は同じであるため、細胞バイオマスを作製するのに使用される炭素供給材料にかかわらず、機能的遺伝子が発現される。大規模微生物増殖および機能的遺伝子発現は、広範な単純あるいは複雑な炭水化物、有機酸およびアルコール、および/またはメタンなどの飽和炭化水素あるいは光合成もしくは化学合成独立栄養宿主の場合の二酸化炭素を利用することができる。しかし機能的遺伝子は、窒素、リン、イオウ、酸素、炭素もしくは小さな無機イオンを含む任意の微量栄養物の形態および量を含み得る特定の増殖条件によって、調節、抑制または低下させることができる。さらに、機能的遺伝子の調節は、培養物に添加され、典型的に栄養またはエネルギー源とはみなされない特定の調節分子の有無によって達成することができる。増殖速度もまた、遺伝子の発現において重要な調節因子である。
【0088】
好適な宿主株の例としては、腸内細菌(例えばエシェリヒア(Escherichia)およびサルモネラ(Salmonella))ならびにバチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ストレプトミセス(Streptomyces)、メチロバクター(Methylobacter)、およびシュードモナス(Pseudomonas)などの細菌;ロドバクター(Rhodobacter)およびシネコシスチス(Synechocystis)などのシアノバクテリア;サッカロミセス(Saccharomyces)、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)、デバリオミセス(Debaryomyces)、ムコール(Mucor)、ピヒア(Pichia)およびトルロプシス(Torulopsis)などの酵母;アスペルギウス(Aspergillus)およびアーソロボトリーズ(Arthrobotrys)などの糸状菌;ならびにスピルリナ(Spirulina)、ハエモタコッカス(Haemotacoccus)、およびドゥナリエラ(Dunaliella)などの藻類が挙げられるが、これらに限定されない。1つの実施態様では、宿主株はエシェリヒア(Escherichia)、シュードモナス(Pseudomonas)、またはピヒア(Pichia)である。組換え微生物細胞は上記のように培養することができる。
【0089】
酵素供給源としての植物細胞宿主
別の実施態様では、pdc遺伝子を含有する植物細胞を使用する。pdc遺伝子を使用して、PDCの発現のための微生物遺伝子を発現する能力を有するトランスジェニック植物を作製することができる。好適な植物宿主は高製造レベルのPDCを支持するあらゆる種類である。適切な緑色植物としては:ダイズ、ナタネ(Brassica napus、B.campestris)、トウガラシ、ヒマワリ(Helianthus annus)、ワタ(Gossypium hirsutum)、トウモロコシ、タバコ(Nicotiana tabacum)、アルファルファ(Medicago sativa)、コムギ(Triticum sp)、オオムギ(Hordeum vulgare)、オートムギ(Avena sativa,L)、モロコシ(Sorghum bicolor)、イネ(Oryza sativa)、シロイヌナズナ(Arabidopsis)、アブラナ科の野菜(ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、アメリカボウフウなど)、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、グラス・シード・クロップ(grass seed crop)、サトウダイコン、サトウキビ、マメ、エンドウ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草が挙げられるが、これらに限定されない。PDC酵素の過剰製造は、最初に、発生の所望の段階で所望の組織におけるある遺伝子の発現を指令することが可能なプロモーターにコード領域が操作可能に連結されている、本発明のキメラ遺伝子を構築することにより達成することができる。便宜的理由上、キメラ遺伝子は、同一の遺伝子由来のプロモーター配列および翻訳リーダー配列を含んでなることができる。転写終了シグナルをコードする3’の非コード配列もまた提供しなければならない。キメラ遺伝子はまた、遺伝子発現を助長するために、1個もしくはそれ以上のイントロンを含んでなることもできる。
【0090】
コード領域の発現を含むことが可能ないかなるプロモーターおよびいかなるターミネーターのいかなる組み合わせも、キメラ遺伝子配列に使用することができる。プロモーターおよびターミネーターのいくつかの適切な例として、ノパリンシンターゼ(nos)、オクトピンシンターゼ(ocs)およびカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)遺伝子由来のプロモーターおよびターミネーターが挙げられる。使用することができる効率的な植物プロモーターの1つのタイプは、高レベル植物プロモーターである。本発明の遺伝子配列と操作可能に連結されているそのようなプロモーターは、本発明の遺伝子産物の発現を促進することが可能であるべきである。本発明において使用することができる高レベル植物プロモーターとして、例えば、ダイズ由来のリブロース−1,5−ビスリン酸カルボキシラーゼの小さいサブユニット(ss)のプロモーター(ベリー−ロウ(Berry−Lowe)ら、Journal of Molecular and Applied Genetics,1:483−498 1982)、およびクロロフィルa/b結合タンパク質のプロモーターが挙げられる。これらの2つのプロモーターは、植物細胞において光誘導性であることが既知である(例えばGenetic Engineering of Plants,an Agricultural Perspective、A.キャシュモア(A.Cashmore)、ニューヨーク州プレヌム(Plenum,NY)(1983)、29〜38頁;コルジ,G.(Coruzzi,G.)ら、J.Biol.Chem.,258:1399(1983)、およびダンスムイル,P.(Dunsmuir,P.)ら、Journal of Molecular and Applied Genetics,2:285(1983)を参照のこと)。
【0091】
次いで、キメラ遺伝子を含んでなるプラスミドベクターを構築することができる。プラスミドベクターの選択は、宿主植物を形質転換するのに使用されるであろう方法に依存する。当業者であれば、キメラ遺伝子を含有する宿主細胞を首尾よく形質転換し、選択し、そして増殖させるためにプラスミドベクターに存在しなければならない遺伝子エレメントを十分に知っている。また当業者であれば、異なる独立の形質転換事象が異なるレベルおよびパターンの発現をもたらすこと(ジョーンズ(Jones)ら、EMBO J.4:2411−2418(1985);デアルメイダ(De Almeida)ら、Mol.Gen.Genetics 218:78−86(1989))、そして従って、複数の事象が、所望の発現レベルおよびパターンを表す株を得るためにスクリーニングされなければならないことも認識するであろう。こうしたスクリーニングは、DNAブロットのサザン分析(サザン(Southern)、J.Mol.Biol.98,503,(1975))、mRNA発現のノーザン分析(クロックゼクJ.(Kroczek,J.)Chromatogr.Biomed.Appl.,618(1−2)133−145(1993))、タンパク質発現のウェスタン分析、または表現型分析により成し遂げられ得る。
【0092】
アプリケーションによっては、PDC酵素を異なる細胞区画に向かわせることが有用である。従って、輸送配列(キーグストラ,K(Keegstra,K)Cell 56:247−253(1989))、シグナル配列もしくは小胞体局在化をコードする配列(クリスピールズ,J.J(Chrispeels,J.J)Ann.Rev.Plant Phys.Plant Mol.Biol.42:21−53(1991))または核局在化シグナル(ライクヘル,N(Raikhel,N)Plant Phys.100:1627−1632(1992))のような適切な細胞内ターゲッティング配列が付加されおよび/または既に存在するターゲッティング配列を除去した酵素をコードするようにコード配列を改変することにより、上述されたキメラ遺伝子をさらに補うことができることが予見される。引用された参照文献はこれらのそれぞれの例を与えるが、該一覧は全てを掲載しているわけではなく、そして、本発明において有用である有用性を有するより多くのターゲッティングシグナルが将来発見されてもよい。
【0093】
植物細胞の培養は、通常、通気条件下、例えば、15℃〜40℃の間の温度で、1〜30日間、振盪培養または液内通気培養によって、行われる。
【0094】
PDC活性を有する酵素供給源のタイプ
培養の完了後、野生型または組換え宿主細胞を、任意の既知の方法、例えば、遠心分離またはろ過によって回収し、次いで、本発明の方法におけるPDC活性の酵素供給源として使用することができる。場合により、細胞を、洗浄、凍結乾燥、または使用前のアセトンによる処置によって処置してもよい。また、細胞を、浸透化剤で処置し、それらの細胞膜を、有機化学物質に対してより浸透可能にすることもできる。適切な浸透化剤は当該分野において周知であり、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、およびトリトンX−100(TritonX−100)などの界面活性剤;トルエン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)などの溶媒;ならびに抗生物質を含むが、これらに限定されない。
【0095】
別の実施態様では、宿主細胞によって細胞内または細胞外で製造されるPDC酵素は、当該分野において周知の方法によって単離および精製される。例えば、細胞内で製造されるPDC酵素の場合、単離および精製は以下の様式で行われる。細胞を、遠心分離またはろ過を含むがこれらに限定されない既知の方法を使用して、培養培地から分離する。細胞を洗浄し、次いで、フレンチ(French)プレス、超音波破砕、ホモジナイザー、ダイノ・ミル(Dyno Mill)、または当該分野において既知の他の手段を使用して破砕し、無細胞抽出物を得る。無細胞抽出物を遠心分離し、細胞破砕物を取り出す。1つの実施態様では、無細胞抽出物を、PDC酵素活性の酵素供給源として使用する。
【0096】
別の実施態様では、硫酸アンモニウム沈殿、陰イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動などを含むがこれらに限定されない当該分野において既知の方法を使用して、PDC酵素を無細胞抽出物から精製する。PDC酵素が細胞外で製造される場合、無細胞抽出物についての記載と同じ様式で培養細胞を処置し、精製された酵素を得ることができる。
【0097】
別の実施態様では、野生型もしくは組換え宿主細胞、無細胞抽出物、またはPDC活性を有する精製された酵素は、使用前に固定化される。細胞および酵素の固定化の方法については、当該分野において周知である(例えば、ウィータル(Weetal)Methods in Enzymology、第XLIV巻、K.モーズバッハ(K. Mosbach)編、アカデミック出版(Academic Press)、ニューヨーク(New York)(1976)、ビカスタッフ(Bickerstaff)、Immobilization of Enzymes and Cells, Methods in Biotechnology Series、ヒューマナ出版(Humana Press)、ニュージャージー州トトワ(Totowa,NJ)(1997)、およびテイラー(Taylor)Protein Immobilization: Fundamentals and Applications, BioProcess Technology、第14巻、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、ニューヨーク(New York)(1991)を参照のこと)。例えば、PDC活性を有する酵素供給源は、ポリマーゲルにおける包括、固体支持体上への吸着、二官能性試薬を使用する共有架橋、あるいはガラス、ポリスチレン、ナイロン、またはポリアクリル酸誘導体などの不溶性マトリックスに対する共有結合によって、固定化することができる。1つの実施態様では、無細胞抽出物または精製された酵素を、シグマ・ケミカル(Sigma Chemical)(ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))から入手可能なオキシランアクリルビーズへの共有性付着によって固定する。別の実施態様では、ビカスタッフ(Bickerstaff)、上掲に記載のように、野生型または組換え宿主細胞を、アルギン酸カルシウムビーズにおける包括によって固定化する。場合により、包括された細胞を、ポリエチレンイミンおよびグルタルアルデヒドまたは当該分野において公知の他の適切な架橋剤によって、架橋してもよい。
【0098】
抽出剤
PDC活性を有する酵素供給源を使用するpHCAからpHSへの生体触媒変換に有用な抽出剤の選択は重要である。抽出剤は、好ましくは、本発明の方法における使用のための次の要件を満たすべきである:水における低い溶解度、産物pHSに対する大きな分配係数、基質pHCAに対する低い分配係数、高い化学および熱安定性、非生分解性、低コスト、大量に利用できること、および産物の回収に対する好ましい特性。さらに、抽出剤は酵素供給源の酵素活性を阻害すべきではなく、酵素を回収し、複数回の変換サイクルで再使用できるように、酵素供給源は、水相および抽出剤よりなる二相反応媒体において安定であるべきである。抽出剤は、典型的に水非混和性有機溶媒である。生細胞を使用する抽出生体触媒のための溶媒選択ストラテジーについては、記載されている(ブルース(Bruce)ら、Biotechnol.Prog.7:116−124(1991))。該開示では、溶媒の生物学的適合性を、標準的なオクタノール:水混合物における溶媒の分配係数の対数であるそのlogP値に基づいて予測する。logP値は、溶媒の極性の量的測定値を提供する。しかし、溶媒のlogP値と本明細書において使用されるPDC活性の酵素供給源とのその生物学的適合性との間の相関関係は見出されなかった。本発明の方法における使用のための溶媒の生物学的適合性は、PDC活性を有する酵素供給源を有機溶媒に暴露し、暴露後、PDC酵素の活性を測定することによって、経験的に決定しなければならない。これらの実験では、溶媒が、阻害的であり得るいかなる不純物をも含有しないことを確実にするように配慮すべきである。適切な溶媒として、トルエン(CAS番号108−88−3、logP=2.8)、デカン酸メチル(CAS番号110−42−9、logP=4.41)、2−ウンデカノン(CAS番号112−12−9、logP=4.21)、ヘキサン(CAS番号110−54−3、logP=3.9)、ジクロロメタン(CAS番号75−09−2、LogP=1.25)、2−デカノール(CAS番号1120−06−5、logP=3.71)、4−デカノール(CAS番号2051−31−2、logP=3.71)、3−デカノン(CAS番号928−80−3、logP=3.2)、4−デカノン(CAS番号624−16−8、logP=3.2)、1−ノナノール(CAS番号143−08−8、logP=3.3)、2−ノナノール(CAS番号628−99−9、logP=3.22)、2−ヘプタノール(CAS番号543−49−7、logP=2.24)およびそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のすべての溶媒は、例えば、アルドリッチ(Aldrich)(ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee,WI))から市販されている。
【0099】
1つの実施態様では、PDC1活性を有する酵素供給源は、デカン酸メチル、トルエン、ジクロロメタン、4−デカノール、またはそれらの混合物と共に使用される。別の実施態様では、PDC2活性を有する酵素供給源は、トルエン、デカン酸メチル、2−デカノール、4−デカノン、2−ノナノール、ジクロロメタンまたはそれらの混合物と共に使用される。
【0100】
pHSおよびその誘導体を製造させるための方法
上記のようにして得られるpHCA基質は、二相反応媒体の水相としての役割を果たす適切な緩衝溶液に添加される。使用される緩衝液は、PDC酵素の活性を維持する当該分野において公知の任意の緩衝液であり得、所望のpH、典型的に、pH3.5〜8で緩衝能を提供する(キャビン(Cavin)ら、Appl.Environ.Microbiol.64:1466−1471(1998))。1つの実施態様では、ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する0.2Mリン酸緩衝液が使用される。pHSの大規模製造に関与する別の実施態様では、低濃度緩衝液または緩衝液を伴わない水溶液が水相として使用される。この場合、所望のpHは反応経過中の酸または塩基の添加によって維持される。生物生産されたpHCAの場合、水相は、生体触媒的反応に直接使用することができるpHCAを含有する発酵培地であり得る。緩衝液の添加によって、発酵培地のpHおよび緩衝能を調整する必要もあり得る。あるいは、上記のようにして、反応中の酸または塩基の添加によって、所望のpHを維持してもよい。1つの実施態様では、不溶性材料のために存在する細胞および任意の固体が発酵培地から取り出され、生体触媒的反応の水相として使用される発酵上清を与える。細胞および不溶性材料は、遠心分離またはろ過を含むがこれに限定されない当該分野において公知の任意の方法によって、取り出すことができる。典型的に、pHCAは、約30〜約200mMの濃度で水相に存在する。
【0101】
上記のPDC活性を有する酵素供給源は、典型的に、緩衝水溶液から添加される。酵素供給源は、典型的に、二相反応媒体において、水相の1ミリリットルあたり約0.01〜約100単位のPDC活性の濃度で使用される。PDC活性の量は、25mMリン酸緩衝液、pH6.0、30℃でpHCAを基質として使用して、1単位が溶液の1mLあたり1分間あたり1μmolのpHSを放出する単位で表される。
【0102】
上記の抽出剤を水性緩衝液に添加して、約5重量%〜約70重量%、さらに約20重量%〜約50重量%の抽出剤を含有する二相反応媒体を生じさせる。抽出剤は、酵素供給源の添加のまえ、同時、または後に水相に添加することができる。酵素供給源の添加の後に抽出剤を添加する場合、産物の濃度が阻害レベルに到達しないように、できるだけ直ぐに該抽出剤を添加すべきである。
【0103】
生体触媒的反応は、任意の適切なリアクターにおいて、約4℃〜約60℃、さらに、約30℃〜約45℃の範囲の温度で行われる。生体触媒的反応のための適切なリアクターは、当該分野において周知である(例えば、ピッチャー(Pitcher)、Immobilized Enzymes for Industrial Reactors、ラルフ・メッシング(Ralph A. Messing)編、アカデミック出版(Academic Press)、ニューヨーク(New York)1975、第9章、151〜156頁;チーサム(Cheetham)、Handbook of Enzyme Biotechnology、第2版、アラン・ワイズマン(Alan Wiseman)編、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、ニューヨーク(New York)1985、パートA、第3章、107〜116頁;ケント(Kent)ら、Topics in Enzyme and Fermentation Biotechnology、第2巻、アラン・ワイズマン(Alan Wiseman)編、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、ニューヨーク(New York)1978、第2章、63〜70頁;および本明細書における参照文献を参照のこと)。例として、撹拌式タンクリアクター、充填床リアクター、流動床リアクター、チューブ式リアクター、ホローファイバー型リアクターおよびバイオフィルムリアクターが挙げられる。1つの実施態様では、撹拌式タンクリアクターが使用される。リアクターは、バッチまたは連続態様で操作することができる。バッチ態様では、培地の組成が稼動開始時に設定されプロセス中に変更されない。連続態様では、基質および抽出剤が稼働中にリアクターに添加され、二相反応媒体が取り出される。反応の進行は、薄層クロマトグラフィー(TLC)、分光光度法、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)または当該分野において公知の他の方法を使用して、時間の関数としてpHSの濃度を測定することによって、追跡される。
【0104】
バッチ態様を使用した反応の完了後、重力式沈殿槽または遠心分離を含むがこれに限定されない当該分野において既知の手段によって、2つの相が分離される。場合によって、エマルジョンが形成し得る。エマルジョンは、ろ過または遠心分離などの当該分野において公知の方法を使用して破壊することができる。酵素供給源は、限外ろ過、ナノろ過などを含むが、これらに限定されない当該分野において公知の方法を使用して、水相から回収し、次いで、以後の反応において再使用する。固定化された酵素供給源を使用するか、または酵素供給源が無傷(intact)な細胞である場合、生体触媒の回収は簡素化される。この場合、固定化された酵素供給源は、ろ過、遠心分離、または当該分野において公知の他の方法を使用して、水相から回収することができる。産物pHSは、エバポレーション、蒸留、または樹脂もしくはモレキュラーシーブによる吸着を含むがこれらに限定されない当該分野において周知の方法を使用して、抽出剤から回収することができる。
【0105】
連続態様では、二相反応媒体はリアクターから連続的または定期的に取り出すことができる。2つの相は、重力式沈殿槽、遠心分離器、またはハイドロサイクロンを含むがこれらに限定されない当該分野において公知の手段によって、分離される。重力式沈殿槽の例については、本明細書において参照として援用される米国特許第4,865,973号明細書におけるコレルプ(Kollerup)らにより記載されている。遠心分離およびハイドロサイクロンの使用については、産業的プロセシングの分野において周知である(例えば、Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、第5版、エルバス(Elvers)ら編、VCHパブリッシャーズ(VCH Publishers)、ニューヨーク(New York)第B2巻、11章、1988を参照のこと)。分離後、酵素供給源を含有する水相をリアクターに再循環させることができる。あるいは、新鮮な酵素供給源をリアクターに添加してもよい。固定化された酵素供給源を使用する場合、リアクター内の酵素供給源を補充する必要はない。抽出剤を処置して、上記の手段によって産物を回収する。次いで、産物のさらなる抽出のために、抽出剤をリアクターに戻して再循環させてもよい。あるいは、新鮮な抽出剤を連続的にリアクターに添加し、取り出された抽出剤を取り換えてもよい。
【0106】
連続態様の別の実施態様では、pHCA基質および酵素供給源を含んでなる水素がリアクターに含有され、水相が連続的に取り出され、外部の抽出カラムにおいて、抽出剤、即ち、有機溶媒と接触される。上記のリアクターのいずれを使用してもよい。この態様では、二相反応媒体は、外部カラムにおいて形成される。発酵および生体触媒反応における外部抽出カラムの使用については、当該分野において周知である(例えば、イートマン(Eiteman)ら、Appl.Microbiol.Biotechnol.30:614−618(1989))。水相および抽出剤は、上記の方法のいずれかを使用して二相反応媒体から分離され、水相はリアクターに戻される。あるいは、新鮮な水相をリアクターに添加してもよい。抽出剤を処置して、上記の手段によって産物を回収する。抽出剤を再循環させてもよく、または新鮮な抽出剤を連続的に抽出カラムに添加してもよい。産物pHSがリアクターにおいて阻害レベルに到達しないように、条件を調整しなければならない。
【0107】
1つの実施態様では、pHSは、回収される前に、抽出剤において化学的に誘導体化してもよい。当該分野において公知の任意の適切な化学的誘導体化方法を使用することができる。pHSの適切な誘導体は、多様なエーテルおよびエステルを含むがこれらに限定されない。pHSから誘導されるエーテルおよびエステルの例は、以下に示す一般式を有する化合物を含むが、これらに限定されない:
【0108】
【化1】

【0109】
[式中、Rは、メチル(ハットリ(Hattori)ら、J.Amer.Chem.Soc.81:4424−4425(1959))、t−ブチル(ゲーブル(Gable)ら、J.Amer.Chem.Soc.124:3970−3979(2002))、アルキル(ハッサネイン(Hassanein)ら、J.Org.Chem.54:3106−3113(1989))、シリルエーテル(ナカハマ(Nakahama)ら、Prog.Polym.Sci.15:299−335(1990))、アリル(ウッズ(Woods)ら、米国特許第5,633,411号明細書)、t−ブトキシカルボニル(ネーダー(Nader)ら、米国特許第5,082,965号明細書)、ヒドロキシエトキシ(イノクマ(Inokuma)ら、Heterocycles 40:401−411(1995))、アセトキシ(スーニク(Sounik)ら、米国特許第5,463,108号明細書)、ホルメート(テシアー(Tessier)ら、Materials for Microlithography: Radiation−Sensitive Polymers,ACS Symposium Series 266、米国化学会(American Chemical Society)、ワシントン市(Washington,DC)、1984)、グリシジル(エリクソン(Ericsson)ら、米国特許第6,255,385号明細書)、ベンゾエート(ハットリ(Hattori)ら、J.Amer.Chem.Soc.81:4424−4425(1959))、フェニルカーボネート(ウィットコーム(Whitcombe)ら、J.Amer.Chem.Soc.117:7105−7111))、テトラヒドロピラン(メンズラー(Menzler)ら、Bioorg.Med.Chem.Lett.10:345−348(2000))、ベンジル(コーテチャ(Kotecha)ら、Synlett.1992:395)、またはポリ(エチレンオキシド)(イノクマ(Inokuma)ら、Heterocycles54:123−130(2001))である]。括弧内に記載の参照文献(これらはすべて、本明細書において参照として援用される)は、引用された誘導体を合成するために使用することができる方法を記載している。別の実施態様では、pHSは、米国特許第5,959,051号明細書および同第6,258,901号明細書(両方とも、本明細書において参照として援用される)におけるカネコ(Kaneko)らにより記載の方法を使用して、ポリ(パラ−ヒドロキシスチレン)および他のコポリマーに高分子化される。別の実施態様では、pHS誘導体はパラ−アセトキシスチレンであり、米国特許第5,463,108号明細書におけるスーニク(Sounik)らにより記載の方法を使用して、製造することができる。誘導体化後、上記の方法を使用して、誘導体化された産物を抽出剤から回収する。
【実施例】
【0110】
本発明を以下の実施例でさらに規定する。これらの実施例は、本発明の好ましい態様を示している一方で、具体的説明のみとして示されることを理解すべきである。当業者であれば、上記の考察およびこれらの実施例から本発明の不可欠の特徴を確かめることが可能であり、また、その技術思想および範囲から逸脱することなく、それを多様な用途および条件に適合させるように本発明の多様な変更および改変をなすことが可能である。
【0111】
略語の意味は次のようである:「min」は分を意味し、「h」は時間を意味し、「sec」は秒を意味し、「rpm」は1分間あたりの回転数を意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「L」はリットルを意味し、「nm」はナノメートルを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「cm」はセンチメートルを意味し、「μm」はμメートルを意味し、「mM」はミリモルを意味し、「M」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「μmol」はマイクロモルを意味し、「g」はグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「bp」は塩基対を意味し、「kbp」はキロ塩基対を意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「OD」は光学密度を意味し、「OD600」は600nmの波長での光学密度を意味し、「OD550」は550nmの波長での光学密度を意味し、「TLC」は薄層クロマトグラフィーを意味し、「R」は移動率、即ち、TLCにおいてゾーンの中心が移動した距離対同時に移動相が移動した距離の割合を意味し、「HPLC」は高性能液体クロマトグラフィーを意味し、「UV/VIS」は紫外および可視波長範囲における分光光度法を意味し、「NMR」は核磁気共鳴を意味し、「MHz」はメガヘルツを意味し、「A315」は315nmの波長で測定された吸収を意味し、「ΔA315」は315nmの波長で測定された吸収の変化を意味し、「IPTG」はイソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシドを意味し、「X−gal」は5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシドを意味し、「psi」は1平方インチあたりのポンドを意味し、「g」は重力定数を意味し、「kV」はキロボルトを意味し、「μF」はマイクロファラッドを意味し、「w/v」は溶液の重量あたりの溶質の重量を意味する。
【0112】
一般的方法
細菌培養の維持または増殖に適切な材料および方法は当該分野において周知である。以下の実施例での使用に適切な技術は、Manual of Methods for General Bacteriology(フィリップ・ゲルハルト(Phillipp Gerhardt)、R.G.E.ムレイ(R.G.E.Murray)、ラルフN.コスチロウ(Ralph N.Costilow)、ユージンW.ネスター(Eugene W.Nester)、ウィリスA.ウッド(Willis A.Wood)、ノエルR.クリーク(Noel R.Krieg)およびG.ブリッグス・フィリップス(G.Briggs Phillips)編)、アメリカン・ソサイエティ・フォア・マイクロバイオロジー(American Society for Microbiology)、ワシントン市(Washington,DC)(1994))またはトーマスD.ブロック(Thomas D.Brock)Biotechnology:A Textbook of Industrial Microbiology、第2版、シナウエル・アソシエーツ社(Sinauer Associates,Inc.)、マサチューセッツ州サンダーランド(Sunderland,MA)(1989)に記載の通りに見ることができる。すべての試薬ならびに細菌細胞の増殖および維持のために使用した材料は、他に特定しない限りアルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals)(ウィスコンシン州、ミルウォーキー(Milwaukee,WI))、BDダイアグノスティクス・システムズ(BD Diagnostics Systems)((メリーランド州スパークス(Sparks,MD))、旧ディフコ・ラボラトリーズ(DIFCO Laboratories))、インビトロゲン・ライフ・テクノロジーズ(Invitrogen Life Technologies)(カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA)、旧GIBCO/BRL)、またはシグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Company)(ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO))より入手した。
【0113】
すべての化学物質は試薬用であり、製造者または販売者から受け取ったままの状態で使用した。他に示さない限り、生化学物質はシグマ・ケミカル・カンパニー(Sigma Chemical Company)から入手し、乾燥培地はBDダイアグノスティクス・システムズ(BD Diagnostics Systems)より入手した。すべての溶媒は、アルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals)から入手した。水は、EMサイエンス(EM Science)(ニュージャージー州ギブスタウン(Gibbstown,NJ))またはアルドリッチ・ケミカルズ(Aldrich Chemicals)製の瓶入りの分光分析用の水であった。本発明者らは、多様な製造者由来の供給物を交換可能に使用した。すべてのクロマトグラフィー樹脂は、製造者によって提供された指示に従って製造および維持した。
【0114】
実施例において使用したLB培養培地は、培地1リットルあたり、以下、即ち、バクト(Bacto)−トリプトン(10g)、バクト(Bacto)−酵母抽出物(5g)およびNaCl(10g)を含有する。
【0115】
本発明において使用する非組換え生物体は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC、バージニア州マナサス(Manassas,VA))から入手した。これらの培養物を、凍結乾燥状態から、適切な培地の懸濁培養物に移し、−80℃での長期間保存のために15%グリセロール中に維持した。
【0116】
生物体の増殖に関与するすべての操作は、他に示さない限り、37℃で、ニュー・ブランスウィック・インキュベーター・シェーカー・モデルG25 3(New Brunswick incubator shaker Model G25 3)(ニュー・ブランスウィック・サイエンティフィック・コ(New Brunswick Scientific Co.)(ニュージャージー州エジソン(Edison,NJ))において実施した。無細胞抽出物は、細胞を、25mMリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液中1mLあたり35または70光学密度(OD600)単位の光学密度に再懸濁し、フレンチ・プレッシャー・プレス(French pressure press)を介する通過により細胞を溶解することによって、製造した。
【0117】
pHCAおよびpHSの分析
以下の技術、TLC、UV/VIS分光光度法、およびHPLCのうち1つもしくはそれ以上を使用して、pHCAおよびpHSの混合物の分析を実施した。固体支持体としてシリカゲル60F254(メルク(Merck)、独国ダルムシュタット(Darmstadt,Germany))および移動相として酢酸エチルを使用して、TLCを実施した。HPLCは、ダイオードアレイ検出器およびゾルバックス(Zorbax)300ステイブル・ボンド・アナライティカル(Stable Bond Analytical)SB−C18カラム(4.6×150mm、アギレント・テクノロジーズ(Agilent Technologies)、デラウェア州ウィルミントン(Wilmington,DE))を伴って実施した。HPLC分離は、2つの溶媒を組み合わせた勾配:溶媒A、HPLC用水中0.1%トリフルオロ酢酸および溶媒B、アセトニトリル中0.1%トリフルオロ酢酸を組み合わせた勾配を使用して、達成した。移動相の流速は1.0mL/分であった。使用した溶媒の勾配を表1に示す。
【0118】
【表1】

【0119】
単離されたpHSは、500MHzでのH NMR分光分析によって分析した。
【0120】
pHCAデカルボキシラーゼ活性の決定:
デカルボキシラーゼ活性は、原理について、先にFEMS Microbiol.Lett.147:291−295(1997)においてキャビン(Cavin)らによって記載されたアッセイを使用して、測定した。pHCAの変換に続いて、空気の対照ビームに対する315nmでの吸収(A315)を記録した。アッセイ緩衝液は、サーモスタットで30℃に調温した1.0cmセミマイクロキュベットにおける25mMリン酸ナトリウムpH6.0緩衝液中0.2mM pHCAよりなる。酵素抽出物を添加して、脱炭酸反応を開始した。A315の変化(ΔA315)として初速度を記録し、単位/mL(ここで、1単位は溶液の1mLあたり1分間あたり1μmolの産物を放出する)における酵素活性を、以下の変換式によって算出した。
【0121】
【数1】

【0122】
pHCAのモル吸光係数は、経験的に315nmで10cm−1mM−1と決定された。
【0123】
タンパク質濃度は、タンパク質決定のためのバイオラッド(BioRad)キット(バイオラッド・ラボラトリーズ(BioRad Laboratories)カリフォルニア州ヘラクレス(Hercules,CA))を使用して決定した。100〜800μg/mLウシ血清アルブミン(BSA)溶液の範囲の5種のタンパク質標準物質を使用してタンパク質の標準曲線を作成した。160μLのバイオラッド(BioRad)試薬に10μLのサンプルを添加することを要する、マイクロタイタープレートアッセイ形式を使用した。
【0124】
実施例1
大腸菌(E.coli)過剰発現株由来のPDC1およびPDC2酵素の無細胞抽出物の生成
本実施例の目的は、大腸菌(E.coli)過剰発現株から、パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ酵素(PDC1)(ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum))およびPDC2(枯草菌(Bacillus subtilis))の無細胞抽出物を生成することであった。それぞれ、PDC1およびPDC2酵素を過剰発現する2つのプラスミド、pET17.pdc1およびpET17.pdc2を構築した。これらのプラスミドを使用して、大腸菌(E.coli)株BL21を形質転換し、高い百分率のデカルボキシラーゼタンパク質および活性を有する2種の過剰発現株を生成した。フレンチ(French)プレスを使用して、細胞を溶解することによって、無細胞抽出物を得た。
【0125】
PDC1およびPDC2大腸菌(E.coli)過剰発現株の構築:
それぞれ、L.プランタラム(L.plantarum)および枯草菌(B.subtilis)由来のゲノムDNAをテンプレートとして使用するPCRにより、pdc遺伝子、pdc1(配列番号1)およびpdc2(配列番号3)を増幅した。DNeasy(登録商標)キット(Kit)(キアゲン(Qiagen)、カリフォルニア州バレンシア(Valencia,CA))を使用して、MRS培地上で増幅させたL.プランタラム(L.plantarum)およびLB培地上で増殖させた枯草菌(B.subtilis)からゲノムDNAを単離した。L.プランタラム(L.plantarum)由来のpdc1遺伝子、パラ−ケイ皮酸デカルボキシラーゼ(ジェンバンク(GenBank)受託番号U63827)に使用するオリゴヌクレチドプライマーは、配列番号5に示される5’−GGTAATTCATATGACAAA−3’および配列番号6に示される5’−TCACGTGAAACATTACTTATT−3’であり、NdeI(下線を付したヌクレオチド)を含んだ。枯草菌(B.subtilis)pdc2、フェノール酸デカルボキシラーゼ(ジェンバンク(GenBank)受託番号AF−17117)に使用するオリゴヌクレチドプライマーは、配列番号7に示される5’−GTGTGTCATATGGAAAACT−3’および配列番号8に示される5’−TCGCGGGAATTGTGATGGT−3’であり、これもNdeI(下線を付したヌクレオチド)を含んだ。両方のpdc1およびpdc2遺伝子の予想される550bpDNAフラグメントをキアゲン(Qiagen)PCRクリーン・アップ・キット(Clean Up Kit)を使用して精製し、インビトロゲン(Invitrogen)製のTAクローニング(Cloning)(登録商標)キット(Kit)を使用して、pCRII−TOPOクローニングベクターに連結させた。形質転換は、2×YT培地(インビトロゲン(Invitrogen))をSOCの代わりに使用したことを除いて、製造者の指示に従い、ワン・ショット(One Shot)(登録商標)ケミカリー・コンピテント(Chemically Competent)大腸菌(E.coli)(インビトロゲン(Invitrogen))を使用して、行った。形質転換された細胞を、X−galおよびIPTGを含有する50μg/mLアンピシリンプレート上に広げた。これらのプレートのそれぞれから、10個の白色コロニーを選択し、アンピシリンプレート上に再画線した。pdc1で形質転換した細胞およびpdc2遺伝子で形質転換した細胞を使用して、以下の手順を行った。
【0126】
それぞれのコロニーを、50μg/mLアンピシリンを含有するLB培地上で1晩増殖させた。キアゲン・ミニプレップ・キット(Qiagen Miniprep Kit)を使用して、細胞からプラスミドを精製した。プラスミドを、1時間、37℃、EcoRIで消化し、挿入物の存在のための試験をした。消化物を、キロベースマーカーと共に1%アガロースゲルに充填し、電気泳動を実施した。得られたゲル上で2つのバンドが観察され、一方は約550bpで挿入物に対応し、一方は3.9kbpでベクターに対応した。
【0127】
ミニプレップの1つから由来するベクターを含有する細胞を、1晩、50μg/mLアンピシリンを含有する50mL培養物中で増殖させた。製造者の指示に従い、キアゲン・ミニプレップ・QIAフィルター(Qiagen Midiprep QIAfilter)を使用して、これらの細胞からベクターを精製した。ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)pdc遺伝子から生じるプラスミドをpDC1を命名する一方、枯草菌(Bacillus subtilis)pdc遺伝子遺伝子から生じるプラスミドをpDC2と命名した。ベクター内のM13前方および後方プライマーを使用し、デュポン・シークエンシング・ファシリティー(DuPont Sequencing Facility)で挿入物を配列決定し、配列を確認した。ベクター(Vector)NTI(インフォルマックス・インク(InforMax,Inc.)メリーランド州フレデリック(Frederick,MD))ソフトウェアを使用することによって、配列のコンピュータ解析を行った。
【0128】
プラスミドpDC1を、4時間、37℃で、NdeIおよびEcoRIを使用して消化した。プラスミドpDC2を、4時間、37℃で、NdeIおよびNotIを使用して消化した。消化物を、キロベースマーカーと共に1%アガロースゲルに充填し、電気泳動を実施した。挿入物に対応する555bpのバンドおよびベクターに対応する3.9kbpのバンドが、pDC1の消化物について観察された。挿入物に対応する583bpのバンドおよびベクターに対応する3.9kbpのバンドが、pDC2の消化物について観察された。挿入物のバンドをゲルから切り出し、製造者のプロトコルに従い、キアゲン・ゲル・エクストラクション・キット(Qiagen Gel Extraction Kit)を使用して、精製した。ノバゲン・インク(Novagen,Inc.(ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))から入手したpET−17bベクターを、上記のように消化し、1%アガロースゲル上で稼動させた。切断ベクターに対応する3.3kbpでのベクターバンドをゲルから切り出し、製造者のプロトコルに従い、キアゲン・ゲル・エクストラクション・キット(Qiagen Gel Extraction Kit)を使用して、精製した。
【0129】
pDC1挿入物および切断ベクターを、T4 DNAリガーゼを使用して連結させた。同様に、pDC2挿入物および切断ベクターを連結させた。反応物を、1時間、室温でインキュベートした。得られたプラスミドは、本明細書において、pET17.pdc1およびpET17.pdc2と称される。プラスミドpET17.pdc1およびpET17.pdc2は、それぞれ、T7プロモーターの制御下で、PDC1およびPDC2酵素を過剰発現する。ストラタジーン(Stratagene)(カリフォルニア州ラ・ホーヤ(La Jolla,CA))から入手した大腸菌(E.coli)株BL21(DE3)[遺伝子型:recA1 endA1 hsdR17 supE44 thi−1 gyrA96 relA1 f80lacZ dM15 d(lacZYA−argF)U169(DE3)]を、T7 RNAポリメラーゼに基づく発現系を使用する高レベル発現のための宿主株として使用した。DPD5004と命名された株は、プラスミドpET17.pdc1をBL21(DE3)に形質転換することによって構築し;DPD5005と命名された株は、プラスミドpET17.pdc2をBL21(DE3)に形質転換することよって構築した。株DPD5004を構築するために、プラスミドpET17b.pdc1(0.1μg)を50μLのBL21(DE3)ケミカル・コンピテント・セル(chemical competent cell)(ストラタジーン(Stratagene))に添加した。この混合物を氷上で30分間インキュベートし、42℃で、45s、熱ショックにより処置し、氷上に2分間戻し、次いで、SOC培地(インビトロゲン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carslbad,CA)に再懸濁した。100μg/mLアンピシリンを含有するLB培地上にプレート化する前に、細胞を37℃で1時間、インキュベートした。同様に、株DPD5005は、pETb.pdc2をBL21(DE3)に形質転換することよって構築した。PDC酵素の発現は、酵素T7 RNAポリメラーゼの発現を開始し、次いで、T7プロモーターにより制御されるpdc1およびpdc2遺伝子の遺伝子転写を活性化するIPTGによって誘導される。
【0130】
大腸菌(E.coli)過剰発現株の増殖ならびにPDC1およびPDC2の無細胞抽出物の製造
大腸菌(E.coli)株DPD5004およびDPD5005の1晩培養物を、150μg/mLアンピシリンを含有するLBブロス(LB−amp)中−80℃グリセロールストックから増殖させた。代表的な実験では、2mLの1晩培養物を使用して、100mLのLB−ampを含有する4本の0.5Lフラスコのそれぞれに播種した。培養物を0.5のOD600まで増殖させ、0.5mMの最終濃度までのIPTGの添加によって誘導した。遠心分離(20分間、10,000×g、4℃)によって細胞を回収し、1.1gの細胞ペーストを与える前に、培養物を60分間、増殖させた。細胞ペーストは、さらなる使用まで、4℃で保存した。
【0131】
無細胞抽出物を製造するために、融解した細胞ペーストを標準的な稼動緩衝液(25mMリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液)に、70OD600/mLの密度まで再懸濁し、懸濁液をフレンチ・プレッシャー・セル(French pressure cell)(1200psi)を介して通過させることによって、溶解した。溶解物を遠心分離し、上清を保持した。全タンパク質における得られる酵素の百分率を、クマシー・ブルー(Coomassie Blue)で染色した10〜20%SDS−PAGEゲル上のタンパク質バンドの密度を測定することによって、決定した。デカルボキシラーゼ活性は、上記の一般的方法のセクションに記載のように測定した。これらの結果を表2にまとめる。
【0132】
【表2】

【0133】
実施例2
二相反応媒体におけるPDC2無細胞抽出物のデカルボキシラーゼ活性
本実施例の目的は、二相反応媒体においてpHSを製造させるために、PDC2無細胞抽出物を使用することの利点を実証することであった。PDC2酵素活性の保持を、水相/トルエン、水相/ジクロロメタン、および水相/デカン酸メチル二相反応媒体において測定した。
【0134】
小さな撹拌子を含有するガラス製シンチレーションバイアルに、以下の水非混和性有機溶媒、スペクトル分析用のトルエン、ジクロロメタン、またはデカン酸メチルのうち1つの5mLを充填した。次いで、10mLのpHCA基質溶液(1.2mg/mL BSAを伴う0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0中30〜120mM pHCA溶液)および実施例1に記載のように製造した15μLのPDC2無細胞抽出物(150μgタンパク質;15単位)を添加した。バイアルに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、激しく撹拌した。pHCAからpHSへの変換に十分な時間、反応を進行させた。反応の経過中、上記の一般的方法のセクションに記載のように、反応の進行を、TLC、UV/VIS、およびHPLCによってモニターした。pHCAおよびpHSは、TLCプレート上でそれぞれ、0.4および0.7のR値で移動した。反応が完了したら、内容物を60mL分別漏斗に移し、層を分離させた。水層を回収し、直ちに、YM−10膜(ミリポア・コープ(Millipore Corp.)マサチューセッツ州ビルリカ(Billerica,MA))を使用する限外ろ過によってろ過し、酵素を分離および回収した。この第1の水性ろ過物を保持し、HPLCによって分析して、pHCA基質の枯渇を確認した。タンパク質およびデカルボキシラーゼ含有保持物を、限外ろ過膜を使用して、0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0で2回洗浄し、2日目の洗浄物由来の保持物を、本来の反応容積まで再懸濁した。上記の一般的方法のセクションに記載のpHCAデカルボキシラーゼアッセイを使用し、50μL容積の懸濁液を使用して、残留酵素活性を決定した。
【0135】
酵素アッセイ後、サンプルを限外ろ過によって処置し、PDC2酵素を、前回の反応の終了時の水相の容積に等価な容積のpHCA含有緩衝溶液に再懸濁した。保存された酵素溶液を、直ちに、消費されていない有機溶媒の容量に添加し、懸濁液を撹拌した。pHCAからpHSへの完全な変換のための反応時間が最初の反応時間と比べて2倍になるまで、上記の工程を反復した。各サイクル後に実施した酵素アッセイの結果を表3に示す。表中のデータから認められ得るように、酵素活性の保持は、水相/トルエン系が最も高かった。さらに、酵素活性の保持は、比較例3において見られるように、単一層の水性系において得られる保持よりかなり高かった。
【0136】
【表3】

【0137】
2つのトルエン反応由来の有機層を、TLCおよびHPLCにより分析した。次いで、2つの有機層をプールし、25mLのナシ型丸底フラスコに移した。微量の高分子化阻害剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチル−フェノール(CAS98−29−3;アルドリッチ(Aldrich)12,424−9)を澄明な無色のトルエン溶液に添加した。象牙色の結晶固体(44mg)を、減圧(200mmHg)下、穏やかな加熱(45℃)を伴うロータリーエバポレーションによって回収した。単離された固体を、プロトンNMR(4mgを0.8mLの完全重水素化メタノールに溶解した)によって特徴付けた。製造されたpHSの純度は、98パーセントより大きいと決定された。産物のさらなる精製を、ヘキサンからの再結晶化によって達成し、白色結晶固体を回収した。この結果は、製造されたpHSの有機層からの単離が簡便であることを実証する。
【0138】
H−NMR(d4−MeOH):7.3ppm,2重線,2H,(芳香環の5,6−プロトン);6.78ppm,2重線,2H,(芳香環の2,3−プロトン);6.65ppm,多重線,1H(Ar−HC=CH2);5.6ppm,2重線,1H,(Ar−C=CH,シス);5.05ppm,2重線,1H(Ar−C=CH,トランス)。
【0139】
実施例3
単一相水性反応媒体におけるPDC2無細胞抽出物のデカルボキシラーゼ活性の比較例
本実施例の目的は、単一相水性反応媒体におけるPDC2無細胞の酵素活性の保持を測定し、実施例2に記載の二相反応媒体に対する比較の役割を果たすことであった。
【0140】
小さな撹拌子を含有するガラス製シンチレーションバイアルに、10mLのpHCA溶液(1.2mg/mL BSAを伴う0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0中30mM pHCA溶液)を充填した。次いで、実施例1に記載のように製造した15μLのPDC2無細胞抽出物(150μgタンパク質;15単位)を添加し、反応を開始した。バイアルに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、激しく撹拌した。pHCAからpHSへの完全な変換に十分な時間、反応を進行させた。反応の経過中、上記の一般的方法のセクションに記載のように、反応の進行を、TLC、UV/VIS、およびHPLCによってモニターした。3つの条件下で、pHCAおよびpHSのR値は、それぞれ、0.4および0.7であった。反応が完了したかまたはそれ以上進行しなくなったら、実施例2に記載のように、酵素をYM−10膜によって回収した。ろ過物を数回洗浄して、残留pHCAおよびpHSを取り出した。洗浄後、ろ過物をその最終反応容積で保存し、残留活性を、実施例2に記載のように決定し、次いで、検出可能なデカルボキシラーゼ活性が存在しなくなるまで、上記で概略した工程を反復した。各サイクル後に実施した酵素アッセイの結果を表4に示す。表中のデータから認められ得るように、酵素活性の保持は、二相反応媒体を使用した実施例2で概略した保持よりもかなり低かった。本実施例は、二相反応媒体においてpHSを製造させるためにPDC2酵素を使用することの利点を実証する。
【0141】
【表4】

【0142】
実施例4
二相反応媒体においてPDC1無細胞抽出物を使用するpHSの製造
本実施例の目的は、二相反応媒体においてPDC1無細胞抽出物を使用するpHSの製造を実証することであった。PDC1酵素活性の保持を、水相/トルエン、水相/ジクロロメタン、水相/デカン酸メチル、および水相/2−ウンデカノン二相反応媒体において測定した。
【0143】
小さな撹拌子を含有するガラス製シンチレーションバイアルに、以下の水非混和性有機溶媒、スペクトル分析用のトルエン、ジクロロメタン、デカン酸メチル、または2−ウンデカノンのうち1つの5mLを充填した。次いで、10mLのpHCA基質溶液(1mg/mL BSAを含有する0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0中30〜120mM pHCA溶液)および実施例1に記載のように製造した500μLのPDC1無細胞抽出物(2.15mgタンパク質;15単位)を添加した。バイアルに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、激しく撹拌した。反応の経過中、上記の一般的方法のセクションに記載のように、反応の進行を、TLC、UV/VIS、およびHPLCによってモニターした。反応が完了したら、内容物を60mL分別漏斗に移し、層を分離させた。水層を直ちに、限外ろ過によってろ過し、産物および反応物から酵素を分離および回収した。生体触媒反応は、実施例2に記載のものと同一の様式で数サイクル反復した。各サイクル後に実施した酵素アッセイの結果を表5に示す。表中のデータから認められ得るように、酵素活性の保持は、水相/トルエン二相媒体および水相/デカン酸メチル二相媒体の両方で高かった。
【0144】
【表5】

【0145】
実施例5
二相反応媒体においてPDC1無細胞抽出物を使用するpHSの製造
本実施例の目的は、二相反応媒体においてPDC1無細胞抽出物を使用するpHCAからのpHSの製造を実証し、有機相からのpHSの簡便な回収を実証することであった。
【0146】
0.5Lジャケット型ウィートン・セルステア(Wheaton CelStir)(登録商標)リアクター(ウィートン・サイエンス・プロダクツ(Wheaton Science Products)、ニュージャージー州ミルビル(Millville,NJ))に、0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0中0.280LのpHCA(5g/L)および15mLのウシ血清アルブミン(20mg/mL)を充填した。実施例1に記載のように製造したPDC1を含有する無細胞抽出物(2.5mL、13mgタンパク質、69.5単位)を、0.15Lのトルエンと共に添加した。リアクターに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、中等度の速度で撹拌した。反応温度を33℃に設定した。反応を30分間進行させ、その後、TLCによって完了したことが認められたため、反応を終了した。製造されたpHSを実施例4に記載のように単離した。象牙色の残渣(1.1g)を再結晶化し、バイアルに回収して、一定の乾燥状態になるまで高減圧(60mmHg)下で乾燥させ、完全重水素化メタノールにおいてH NMR分析により特徴付けた。プロトンNMRの結果は化学シフト値がpHSと一致し、純度を98%と評価した。本実施例は、二相反応媒体におけるPDC1によって触媒された反応の有機相からのpHSの簡便な回収を実証する。
【0147】
実施例6
二相反応媒体においてPDC1無細胞抽出物および生物生産されたpHCA含有発酵培地を使用するpHSの製造
本実施例の目的は、二相反応媒体を使用して、発酵培地に含有されるPDC1無細胞抽出物およびpHCAを使用するpHSの製造を実証することであった。まず、大腸菌(E.coli)の組換え株(DPD4009)を使用する発酵によって、pHCAを製造させた。次いで、PDC1無細胞抽出物を使用して、発酵上清およびトルエンよりなる二相反応媒体において、pHCAをpHSに変換させた。
【0148】
大腸菌(E.coli)株DPD4009の構築
大腸菌(E.coli)株DPD4009は、チロシン過剰発現、プラスミド欠損、フェニルアラニン栄養要求性であり、大腸菌(E.coli)TY1(DGL430)、オムニジーン・バイオプロダクツ・インク(OmniGene Bioproducts,Inc.)マサチューセッツ州ケンブリッジ(Cambridge,MA)から入手したチロシン過剰製造株から数段階で誘導された。まず、TY1からプラスミドを取り除き、TS5と呼ばれるテトラサイクリン感受性株を生じるようにした。続いて、TS5は、ドナーとして、pheA18::Tn10を担持する大腸菌(E.coli)株CAG12158を使用するP1仲介形質導入において、レシピエントであった。1つのテトラサイクリン耐性形質導入体はBNT565.2と呼ばれた。
【0149】
λ−Redリコンビナーゼ系を介する米国特許出願第60/434602号明細書(本明細書において参照として援用される)におけるサ(Suh)により記載の2種PCRフラグメント組込み方法を使用して、大腸菌(E.coli)株WS158を構築した。部位特異的リコンビナーゼ標的配列(FRT)によって隣接されるカナマイシン選択マーカーを含有する第1の線状DNAフラグメント(1581bp)を、プライマー対、T−kan(tyrA)(5’−AATTCATCAGGATCTGAACGGGCAGCTGACGGCTCGCGTGGCTTAACGTCTTGAGCGATTGTGTAG−3’)(配列番号9)(これは、aroF終止コドンおよびプライミング配列(20bp)の上流領域の配列に一致するように選択されたホモロジーアーム(下線を付した部分、46bp)を含有する)、およびB−kan(trc)(5’−AAAACATTATCCAGAACGGGAGTGCGCCTTGAGCGACACGAATATGAATATCCTCCTTAGTTCC−3’)(配列番号10)(これは、PtrcプロモーターDNAフラグメントおよびプライミング配列(22bp)の5’末端領域の配列に一致するように選択されたホモロジーアーム(下線を付した部分、42bp)を含有する)によるプラスミドpKD4(ダセンコ(Datsenko)およびバンネル(Wanner)、Proc.Natl.Acad.Sci.97:6640−6645(2000))からのPCRによって合成した。−10および−35コンセンサス配列よりなるPtrcプロモーター、lacオペレーター(lacO)、ならびにリボソーム結合部位(rbs)を含有する第2の線状DNAフラグメント(163bp)を、プライマー対、T−trc(kan)(5’−CTAAGGAGGATATTCATATTCGTGTCGCTCAAGGCGCACT−3’)(配列番号11)(これは、kanオープンリーディングフレームおよびプライミング配列(22bp)の下流領域の配列に一致するように選択されたホモロジーアーム(下線を付した部分、18bp)を含有する)、およびB−trc(tyrA)(5’−CGACTTCATCAATTTGATCGCGTAATGCGGTCAATTCAGCAACCATGGTCTGTTTCCTGTGTGAAA−3’)(配列番号12)(これは、tyrA開始コドンおよびプライミング配列(20bp)の下流領域に一致するように選択されたホモロジーアーム(下線を付した部分、46bp)を含有する)によるプラスミドpTrc99A(インビトロゲン(Invitrogen)、カリフォルニア州カールスバッド(Carlsbad,CA))からのPCRによって合成した。下線を付した配列は、それぞれのホモロジーアームを例示する一方、残りの部分は、PCR反応のためのテンプレートDNAに対する相補的ヌクレオチド配列へのハイブリダイゼーションのためのプライミング配列である。標準的なPCR条件を使用して、マスターアンプ(MasterAmp)TMエキストラ−ロング(Extra−Long)PCRキット(エピセンター(Epicentre)、ウィスコンシン州マディソン(Madison,WI))を使用し、以下のように線状DNAフラグメントを増幅した。PCR反応混合物は、1μLのプラスミドDNA、25μLの2×PCR緩衝液番号1、1μLの5’プライマー(20μM)、1μLの3’プライマー(20μM)、0.5μLのマスターアンプ(MasterAmp)TMエキストラ−ロング(Extra−Long)DNAポリメラーゼ、および21.5μLの滅菌済み、脱イオン化HOを含有した。PCR反応条件は:94℃で3分間;25サイクルの93℃で30秒間、55℃で1分間、および72℃で3分間;続いて、72℃で5分間であった。PCR反応完了後、ミニ−エリュートQIAクイック・ゲル・エクストラクション・キット(Mini−elute QIAquick Gel Extraction Kit)TM(キアゲン・インク(QIAGEN Inc.)カリフォルニア州バレンシア(Valencia,CA))を使用して、PCR産物を精製した。高速で2回、遠心分離することによって、10μLの蒸留水により、DNAを溶出させた。単離したPCR産物の濃度は約0.5〜1.0μg/μLであった。
【0150】
λ−Redリコンビナーゼ発現プラスミドを担持する大腸菌(E.coli)MC1061株を、PCRフラグメントの組換えのための宿主株として使用した。この株は、λ−Redリコンビナーゼ発現プラスミドpKD46(amp)(ダセンコ(Datsenko)およびバンネル(Wanner)、上掲)による大腸菌(E.coli)株MC1061(コリ・ジェネティクス・ストック・センター(Coli Genetics Stock Center)、エール大学(Yale University)、番号6649)への形質転換によって、構築された。pKD46のλ−Redリコンビナーゼは、アラビノース誘導性プロモーターの制御下で発現される3つの遺伝子、exo、bet、およびgamよりなる。形質転換体は、100μg/mLアンピシリンを30℃で含有するLB培地上で選択した。pKD46を担持する大腸菌(E.coli)MC1061株のエレクトロコンピテント細胞は、以下のようにして製造した。pKD46を担持する大腸菌(E.coli)MC1061細胞を、100μg/mLアンピシリンおよび1M L−アラビノースを伴うSOB培地(ハナハン(Hanahan)、DNA Cloning:A Practical Approach,D.M.グローバー(D.M.Glover)編、IRL出版(IRL Press)、ワシントン市(Washington,DC)、1985、109〜125頁)において、30℃で、0.5のOD600まで増殖させ、続いて、氷上で20分間、冷却した。細菌細胞を、4,500rpmで、ソルバル(Sorvall)(登録商標)RT7 PLUS(ケンドロ・ラボラトリー・プロダクツ(Kendro Laboratory Products)、コネチカット州ニュートン(Newton,CT))を使用し、10分間、4℃で遠心分離した。上清をデカントした後、ペレットを氷冷水に懸濁し、再度、遠心分離を行った。このプロセスを2回反復し、細胞ペレットを1/100容積の氷冷10%グリセロールに再懸濁した。
【0151】
カナマイシンマーカーPCR産物(約1μg)およびPtrcプロモーターPCR産物(約1μg)の両方を、50μLのコンピテント細胞と混合し、氷上で予め冷却しておいたエレクトロポレーションキュベット(0.1cm)にピペッティングした。200オームに設定したパルスコントローラーを備えた1.8kV、25μFに設定したジーン・パルサー・システム(Gene Pulser System)(バイオ−ラッド・ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)、カリフォルニア州ヘラクレス(Hercules,CA))を使用して、エレクトロポレーションを実施した。エレクトロポレーション後、SOC培地(1mL)を添加した。細胞を、37℃で、1時間、インキュベートした。細胞の約半分を25μg/mLカナマイシンを含有するLB培地上に拡げた。プレートを37℃で1晩、インキュベートした後、6個のカナマイシン形質転換体を選択した。
【0152】
カナマイシン選択マーカーおよびtyrA遺伝子の前のPtrcプロモーターの両方の染色体組込みを、PCR分析によって確認した。形質転換体のコロニーは、23μLのスーパーミックス(SuperMix)(インビトロゲン(Invitrogen))、5’−プライマーT−ty(テスト)(5’−CAACCGCGCAGTGAAATGAAATACGG−3’)(配列番号13)および1μLの3’−プライマーB−ty(テスト)(5’−GCGCTCCGGAACATAAATAGGCAGTC−3’)(配列番号14)を含有するPCR反応混合物25μLに再懸濁した。テストプライマーを選択して、組込み領域の付近に位置する領域を増幅させた。T−ty(テスト)およびB−ty(テスト)プライマー対によるPCR分析は、1%アガロースゲル上で、予想されるサイズのフラグメント、即ち、1,928bpを示した。得られた組換え体を、本明細書において、大腸菌(E.coli)WS158と命名する。
【0153】
次いで、上記のように製造した株BNT565.2を、Ptrc−tyrA[KanR]、tyrA発現を駆動する強力なtrcプロモーターを生じる染色体修飾を担持する大腸菌(E.coli)株WS158上で増殖させたファージによる別のP1仲介形質導入において、レシピエントとして使用した。pheAおよびtyrA遺伝子は染色体上で緊密に連結されており、そのため、テトラサイクリンおよびカナマイシンの両方に対して耐性である稀な形質導入体の選択を行った。1つのそのような形質導入体をDPD4009と呼ばれ、これは増殖に対してフェニルアラニンを要求し、チロシンを排出することが示された。
【0154】
pHCAの生物生産
pHCAの生物生産を、14Lブラウン(Braun)発酵槽、バイオスタット(BioStat)C.B.(ブラウン・バイオテック・インターナショナル(Braun Biotech International)、独国メレスンゲン(Melesungen,Germany))において行った。発酵の稼動は、上記のようにして構築された大腸菌(E.coli)株DPD4009を使用して行った。発酵培地は、表6に示すような塩、ビタミンおよびグルコースを含有する規定培地である。微量栄養素の組成を表7に示す。温度を35℃に維持し、溶存酸素は25%の設定値を標的とした。pHの設定値は6.5であり、塩基性および酸性の調整のために、それぞれ40%(w/v)水酸化アンモニウムおよび20%(w/v)リン酸の添加によって一定を維持した。細胞密度が10OD550単位に達したら、培地に、IPTGを1mMの最終濃度で添加し、プラスミド上のフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(pal)遺伝子を発現するように細胞を誘導して、チロシンからpHCAへの変換を生じさせた。流加培養態様では、一旦、濃度が5g/L未満に低下したら追加のグルコースを添加した。グルコース溶液60%(w/w)を、0.45g/分の速度で添加し、0.5g/L未満のグルコース濃度を保持した。一旦、グルコース濃度が0.5g/Lを超えたら、稼動の終了付近でより低い速度を使用した。発酵は典型的に72時間後に終了した。
【0155】
発酵培地を遠心分離して、細胞と他の不溶性産物とを分離することによって、pHSへの生体触媒変換における使用のためのpHCA豊富上清を製造した。ペレットを廃棄し、暗褐色の上清を新しい保存ビンに移し、蓋を取り付けて、PDC生体触媒反応における使用まで4℃で保存した。
【0156】
【表6】

【0157】
【表7】

【0158】
PDC1無水抽出物を使用するpHSの製造
0.5Lジャケット型ウィートン・セルステア(Wheaton CelStir)(登録商標)リアクターに、上記のpHCA発酵由来の0.1Lの発酵上清を充填した。保存中、いくつかの不溶性副産物が、発酵上清から沈殿し得る。不溶性材料を妨害しないように注意しながら、上清を目盛り付きシリンダーにデカントした。発酵上清はpHCA(3.3g/L)、ケイ皮酸(CA)、フェニルアラニン、チロシン(これらはすべて組換え大腸菌(E.coli)細胞によって製造される)および塩をpH6.8で含有した。緩衝能およびpHCA濃度は、0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液中25g/L pHCAの0.2Lを添加することによって、増加させた。水相におけるpHCAの最終濃度は約17.7g/Lであった。
【0159】
実施例1に記載のように製造したPDC1を含有する無細胞抽出物(0.5mL、1.1mgタンパク質、12単位)を、0.15Lのトルエンと共に添加した。リアクターに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、中等度の速度で撹拌した。反応温度を33℃に設定した。終了前に、反応を15時間、進行させた。水相は、本来の発酵培地の深暗褐色を保持した。残留する乳化した有機相は淡黄色であった。中等度の孔サイズのガラスフリットを備えた漏斗を介するろ過によってエマルジョンを破壊し、有機層と水層とを再度分離した。有機層を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、実施例4および5に記載のようにpHSを単離した。約2gの粗固体を単離した。固体をヘキサンから再結晶化し、小孔ガラスフリットを備えた漏斗を介してろ過し、バイアルに回収して、一定の乾燥状態になるまで高減圧(60mmHg)下で乾燥させた(1.102g)。この反応物の全収量は、無細胞抽出物の1gあたり製造された1010gのpHSであった。本実施例は、PDC1デカルボキシラーゼが、粗発酵成分および高pHCA濃度の存在下において高い生産性でpHS形成を触媒する能力を例示する。
【0160】
実施例7
二相反応媒体においてPDC2無細胞抽出物および生物生産されたpHCA含有発酵培地を使用するpHSの製造
本実施例の目的は、二相反応媒体を使用して、発酵培地に含有されるPDC2無細胞抽出物およびpHCAを使用するpHSの製造を実証することであった。まず、大腸菌(E.coli)の組換え株を使用する発酵によって、pHCAを製造させた。次いで、PDC2無細胞抽出物を使用して、発酵上清およびトルエンよりなる二相反応媒体において、pHCAをpHSに変換させた。
【0161】
pHCAの生物生産は実施例6に記載の通りに行った。1.0Lジャケット型ウィートン・セルステア(Wheaton CelStir)(登録商標)リアクターに、実施例6に記載のpHCA発酵から得られる0.4Lの発酵上清を充填した。発酵上清はpHCA(3.3g/L)、ケイ皮酸(CA)、フェニルアラニン、チロシン(これらはすべて組換え大腸菌(E.coli)細胞によって製造される)および塩をpH6.0で含有した。緩衝能およびpHCA濃度は、0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液中25g/L pHCAの0.4Lを添加することによって、増加させた。pHCAの最終濃度は約14.15g/Lであった。実施例1に記載のように製造したPDC2を含有する無細胞抽出物(0.20mL、36単位;2.02mgタンパク質)を、高分子化阻害剤として5mgのプロステイブ(ProStab)(登録商標)5415(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown,NY))を含有する0.20Lの試薬用トルエンと共に添加した。リアクターに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、中等度の速度で撹拌した。反応温度を33℃に設定した。終了前に、反応を15時間、進行させた。反応の内容物を500mL分別漏斗に移し、層を分離させた。有機層(上層)は、エマルジョンを含有し、これは、中等度の孔サイズのガラスフリットを備えたブフナー(Buchner)漏斗を介してろ過することによって破壊した。ろ過物は、2つの非混和層、無色の有機層および黄色の水層を有した。相分離セルロースフィルターペーパーを通過させることによって層を分離し、有機層を選択的に受けフラスコに通過させた。有機層を無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、ろ過し、ロータリーエバポレーションによってトルエンを回収した。pHSを、実施例6に記載のように単離して、4.5gの粗灰白色結晶残渣を生じた。固体をヘキサンで再結晶および洗浄し、一定の乾燥状態まで減圧下(60mmHg)で乾燥させたところ、pHS標準品と同一のH−NMRスペクトルを有する2.87gの細かな白色結晶生成物を得た。この反応物の全収量は、無細胞触媒の1gあたり製造された1421gのpHSであった。本実施例は、粗発酵成分および少量の高分子化阻害剤の存在下でPDC2デカルボキシラーゼによって達成される高い生産性を実証する。
【0162】
実施例8
オキシランアクリルビーズ上に固定化されたPDC2無細胞抽出物を使用する二相反応媒体におけるpHSの製造
本実施例の目的は、オキシランアクリルビーズ上に固定化されたPDC2無細胞抽出物を使用する、水性緩衝液およびトルエンよりなる二相反応媒体におけるpHSの製造を実証することであった。
【0163】
オキシランアクリルビーズを使用する無細胞抽出物の固定
ガラス製シンチレーションバイアルに、100mgのオキシランアクリルビーズ(シグマ(Sigma)、CAS番号93356−75−3;150ミクロン、マクロ多孔性;活性化800μmol/g)および8mL 50nMリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液を充填した。実施例1に記載のように製造したPDC2無細胞抽出物(0.100mL、0.59mgタンパク質、15単位)を、シェーカー上で、1晩、周囲温度で穏やかに振盪した。混合物を遠心分離し、次いで、上清をデカントした。ビーズ上の未反応のエポキシド部位を処置するために、ビーズを、0.83Mエタノールアミンを含有する10mLの50mMリン酸ナトリウム、pH6.0に、2時間、周囲温度で再懸濁した。ビーズを、50mMリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液の10mL部で3回洗浄し、使用まで、周囲温度で0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0緩衝液中に保存した。
【0164】
凍結乾燥した無細胞抽出物を使用するpHSの製造
ガラス容器(テフロン(Teflon)(登録商標)およびガラス成分を有するオーバーヘッド撹拌機を含有する)に0.2Mリン酸ナトリウム、pH6.0中30mM pHCAの5mLを充填した。PDC2−オキシランアクリルビーズ(40mg)および3mLのトルエンを容器に添加した。内容物を室温で撹拌した。脱炭酸反応の進行をTLCによってモニターし、反応の進行を評価した。8時間後、TLCプレート上の単一のスポットが認められ、このスポットはpHSに対応するR値を有した。トルエン溶液からのpHSの回収は試みなかった。本実施例は、二相反応媒体においてオキシランビーズ固定PDC2デカルボキシラーゼを使用するpHS製造を実証する。
【0165】
実施例9
PDC2無細胞抽出物を使用して二相反応媒体において製造したパラ−ヒドロキシスチレンの誘導体化の予測実施例
本予測実施例の目的は、誘導体化された化合物パラ−アセトキシスチレンを形成するための二相反応媒体由来の有機性抽出剤におけるpHSの化学的誘導体化を実証することである。pHCAは、最初に、大腸菌(E.coli)の組換え株を使用する発酵によって製造される。次いで、生物生産されるpHCAは、発酵上清およびトルエンよりなる二相反応媒体において、PDC2無細胞抽出物を使用して、pHSに変換される。トルエン層が、pHCA枯渇発酵上清から分離された後、生物生産されるpHSを無水酢酸と反応させ、パラ−アセトキシスチレンを形成させる。
【0166】
pHCAの生物生産
実施例6に記載のように、pHCAの生物生産を行う。
【0167】
生物生産されるpHCAの生体触媒によるpHSの製造
1.0Lジャケット型ウィートン・セルステア(Wheaton CelStir)(登録商標)リアクターに、実施例6に記載のpHCA発酵から得られる0.335Lの発酵上清を充填する。発酵上清はpHCA、ケイ皮酸(CA)、フェニルアラニン、チロシン(これらはすべて組換え大腸菌(E.coli)細胞によって製造される)および塩をpH6.0で含有する。pHCA含有発酵上清のpHを、酵素的脱炭酸のために、濃硫酸を使用して、pH6.0に調整する。実施例1に記載のように製造されるPDC2を含有する無細胞抽出物(0.30mL、55単位;2.2mgタンパク質)を、高分子化阻害剤として42mgのプロステイブ(ProStab)(登録商標)5415(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals)、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown,NY))を含有する0.15Lの試薬用トルエンと共に添加する。リアクターに蓋を取り付け、磁気撹拌プレート上に置き、中等度の速度で撹拌する。反応温度を40℃に設定する。終了前に、反応を2時間進行させる。反応の内容物を500mL分別漏斗に移し、層を分離させる。有機層がエマルジョンを含有する場合、これを中等度の孔サイズのガラスフリットを備えたブフナー(Buchner)漏斗を介してろ過することによって破壊する。ろ過物は、2つの非混和層、無色の有機層および黄色の水層を有する。相分離セルロースフィルターペーパーを通過させることによって層を分離し、有機層を選択的に受けフラスコに通過させる。有機層を回収し、直ちに、撹拌子を含有する250mL丸底フラスコに移す。フラスコに、ピリジン(CAS110−86−1、0.300mL、3.71mmol)および無水酢酸(CAS108−24−7、4.0mL、42.4mmol)を充填する。アセチル化反応の進行は、すべてのpHSが変換され、ただ単一のスポットがTLCプレート上に出現するまでTLCによってモニターする。減圧(13.3kPa)下、穏やかな加熱(30℃)を伴うロータリーエバポレーションによって、黄色オイルを回収する。単離されるオイル(1.41g)を、ガスクロマトグラフィーによって特徴付ける。アセトキシスチレン産物のさらなる精製は、既知の方法(例えば、チョスネック(Chosnek)ら、米国特許第5,136,083号明細書を参照のこと)によって、達成することができる。本予測実施例は、二相反応混合物の有機媒体に抽出されるpHSが如何にして誘導体化され、パラ−アセトキシスチレンなどの誘導体化された産物を付与するかを実証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなりパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源を準備し;
b)水相、およびトルエン、デカン酸メチル、2−ウンデカノン、ジクロロメタン、ヘキサン、2−デカノール、4−デカノール、3−デカノン、4−デカノン、1−ノナノール、2−ノナノール、2−ヘプタノールおよびそれらの混合物よりなる群から選択される水非混和性有機溶媒である抽出剤を含んでなる二相反応媒体において、該酵素供給源と、パラ−ヒドロキシケイ皮酸とを接触させて、パラ−ヒドロキシスチレンを形成させ、該パラ−ヒドロキシスチレンを二相反応媒体の抽出剤中に抽出し;
c)水相から抽出剤を分離し;そして
d)場合により、抽出剤からパラ−ヒドロキシスチレンを回収する
ことを含んでなるパラ−ヒドロキシスチレンの製造方法。
【請求項2】
パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源が、精製された酵素、無細胞抽出物、野生型宿主細胞、組換え宿主細胞、処置された野生型宿主細胞、および処置された組換え宿主細胞よりなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
野生型宿主細胞が、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)および枯草菌(Bacillus subtilis)よりなる群から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
組換え宿主細胞が、細菌、酵母、植物細胞、および藻類よりなる群から選択される請求項2に記載の方法。
【請求項5】
組換え宿主細胞が、エシェリヒア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ストレプトミセス(Streptomyces)、メチロバクター(Methylobacter)、ロドコッカス(Rhodococcus)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドバクター(Rhodobacter)、シネコシスチス(Synechocystis)、アスペルギウス(Aspergillus)およびアーソロボトリーズ(Arthrobotrys)よりなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
組換え宿主細胞が、サッカロミセス(Saccharomyces)、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)、デバリオミセス(Debaryomyces)、ピヒア(Pichia)、ムコール(Mucor)、およびトルロプシス(Torulopsis)よりなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項7】
組換え宿主細胞が、ダイズ、ナタネ、トウガラシ、ヒマワリ、ワタ、トウモロコシ、タバコ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、オートムギ、モロコシ、イネ、シロイヌナズナ(Arabidopsis)、アブラナ科の野菜、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、グラス・シード・クロップ(grass seed crop)、サトウダイコン、サトウキビ、マメ、エンドウ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草よりなる群から選択される請求項4に記載の方法。
【請求項8】
酵素供給源が固定化される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
抽出剤が、約5容量%〜約70容量%の量で二相反応媒体中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
抽出剤が、約20容量%〜約50容量%の量で二相反応媒体中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項11】
抽出剤が、重力式沈殿槽、遠心分離器、またはハイドロサイクロンの使用によって、水相から分離される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)の分離の後、酵素供給源が、再利用のため、二相反応媒体の水相から回収される請求項1に記載の方法。
【請求項13】
酵素供給源が、ろ過、限外ろ過、ナノろ過、および遠心分離よりなる群から選択される方法を使用して水相から回収される請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(d)の回収は、エバポレーション、蒸留、樹脂による吸着、およびモレキュラーシーブによる吸着よりなる群から選択される手段によって達成される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
工程(d)後、抽出剤が、場合により、二相反応媒体に戻されて添加される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
工程(c)後の水相が、場合により、二相反応媒体に戻されて添加される請求項1に記載の方法。
【請求項17】
パラ−ヒドロキシスチレンが、抽出剤中で化学的に誘導体化され、誘導体化された化合物を形成する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
誘導体化された化合物が、一般式:
【化1】


[式中、R4が、メチル、t−ブチル、アルキル、シリルエーテル、アリル、t−ブトキシカルボニル、ヒドロキシエトキシ、アセトキシ、ホルメート、グリシジル、ベンゾエート、フェニルカーボネート、テトラヒドロピラン、ベンジル、およびポリ(エチレンオキシド)よりなる群から選択される]
によって規定される請求項17に記載の方法。
【請求項19】
誘導体化された化合物がパラ−アセトキシスチレンである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
a)パラ−ヒドロキシケイ皮酸を製造する製造宿主を準備し;
b)発酵培地中で製造宿主を増殖させ、ここで、製造宿主は、発酵培地中にパラ−ヒドロキシケイ皮酸を製造し;
c)発酵培地、およびトルエン、デカン酸メチル、2−ウンデカノン、ジクロロメタン、ヘキサン、2−デカノール、4−デカノール、3−デカノン、4−デカノン、1−ノナノール、2−ノナノール、2−ヘプタノール、およびそれらの混合物よりなる群から選択される水非混和性有機溶媒である抽出剤を含んでなる二相反応媒体において、工程(b)由来の発酵培地と、配列番号2または配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなりパラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源とを接触させて、パラ−ヒドロキシスチレンを形成させ、該パラ−ヒドロキシスチレンを二相反応媒体の抽出剤中に抽出し;
d)発酵培地から抽出剤を分離し;そして
e)場合により、抽出剤からパラ−ヒドロキシスチレンを回収する
ことを含んでなるパラ−ヒドロキシスチレンの製造方法。
【請求項21】
製造宿主および不溶性材料が、工程(c)の接触の前に、発酵培地から取り出される請求項20に記載の方法。
【請求項22】
製造宿主および不溶性材料が、ろ過または遠心分離によって発酵培地から取り出される請求項21に記載の方法。
【請求項23】
製造宿主が、エシェリヒア(Escherichia)、メチロジーナス(Methylosinus)、メチロモナス(Methylomonas)、シュードモナス(Pseudomonas)、ストレプトミセス(Streptomyces)、コリネバクテリウム(Corynebacterium)、およびロドバクター(Rhodobacter)よりなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項24】
パラ−ヒドロキシケイ皮酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素供給源が、精製された酵素、無細胞抽出物、野生型宿主細胞、組換え宿主細胞、処置された野生型宿主細胞、および処置された組換え宿主細胞よりなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項25】
野生型宿主細胞が、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)および枯草菌(Bacillus subtilis)よりなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
組換え宿主細胞が、細菌、酵母、植物細胞、および藻類よりなる群から選択される請求項20に記載の方法。
【請求項27】
組換え宿主細胞が、エシェリヒア(Escherichia)、サルモネラ(Salmonella)、バチルス(Bacillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ストレプトミセス(Streptomyces)、メチロバクター(Methylobacter)、ロドコッカス(Rhodococcus)、シュードモナス(Pseudomonas)、ロドバクター(Rhodobacter)、シネコシスチス(Synechocystis)、アスペルギウス(Aspergillus)およびアーソロボトリーズ(Arthrobotrys)よりなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項29】
組換え宿主細胞が、サッカロミセス(Saccharomyces)、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、クリヴェロミセス(Kluyveromyces)、カンジダ(Candida)、ハンゼヌラ(Hansenula)、デバリオミセス(Debaryomyces)、ピヒア(Pichia)、ムコール(Mucor)、およびトルロプシス(Torulopsis)よりなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項30】
組換え宿主細胞が、ダイズ、ナタネ、トウガラシ、ヒマワリ、ワタ、トウモロコシ、タバコ、アルファルファ、コムギ、オオムギ、オートムギ、モロコシ、イネ、シロイヌナズナ(Arabidopsis)、アブラナ科の野菜、メロン、ニンジン、セロリ、パセリ、トマト、ジャガイモ、イチゴ、ピーナツ、ブドウ、グラス・シード・クロップ(grass seed crop)、サトウダイコン、サトウキビ、マメ、エンドウ、ライムギ、アマ、広葉樹木、針葉樹木、および飼草よりなる群から選択される請求項26に記載の方法。
【請求項31】
酵素供給源が固定化される請求項20に記載の方法。
【請求項32】
抽出剤が、約5容量%〜約70容量%の量で二相反応媒体中に存在する請求項20に記載の方法。
【請求項33】
抽出剤が、約20容量%〜約50容量%の量で二相反応媒体中に存在する請求項20に記載の方法。
【請求項34】
抽出剤が、重力式沈殿槽、遠心分離器、またはハイドロサイクロンの使用によって、発酵培地から分離される請求項20に記載の方法。
【請求項35】
工程(d)の分離の後、酵素供給源が、再利用のため、発酵培地から回収される請求項20に記載の方法。
【請求項36】
酵素供給源が、ろ過、限外ろ過、ナノろ過、および遠心分離よりなる群から選択される方法を使用して発酵培地から回収される請求項35に記載の方法。
【請求項37】
工程(e)の回収が、エバポレーション、蒸留、樹脂による吸着、およびモレキュラーシーブによる吸着よりなる群から選択される手段によって達成される請求項20に記載の方法。
【請求項38】
工程(e)後、抽出剤が、場合により、二相反応媒体に戻されて添加される請求項20に記載の方法。
【請求項39】
工程(c)後の発酵培地が、場合により、二相反応媒体に戻されて添加される請求項20に記載の方法。
【請求項40】
パラ−ヒドロキシスチレンが、抽出剤中で化学的に誘導体化され、誘導体化された化合物を形成する請求項20に記載の方法。
【請求項41】
誘導体化された化合物がパラ−アセトキシスチレンである請求項40に記載の方法。

【公表番号】特表2007−525942(P2007−525942A)
【公表日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510033(P2006−510033)
【出願日】平成16年4月14日(2004.4.14)
【国際出願番号】PCT/US2004/011510
【国際公開番号】WO2004/092344
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】